Vベルト式自動変速装置
【課題】 Vベルト式自動変速装置を備えた自動二輪車の急発進,急増速等の急加速時において、駆動側プーリは、Vベルトとの滑りを防止し、該Vベルトの追従を極めて良好なVベルト式自動変速装置とすること。
【解決手段】駆動軸1と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体2と、ドライブベースプーリ半体Aaとからなる駆動側プーリAと、従動軸11と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体12と、ドリブンベースプーリ半体Baとからなる従動側プーリBと、前記駆動側プーリAと従動側プーリBとの間に掛けられるVベルト10とからなること。前記ドライブベースプーリ半体Aaは、前記駆動軸1の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体2側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記Vベルト10の急加速回転時にも対応して前記ドリブン可動プーリ半体12側に向かって微動すること。
【解決手段】駆動軸1と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体2と、ドライブベースプーリ半体Aaとからなる駆動側プーリAと、従動軸11と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体12と、ドリブンベースプーリ半体Baとからなる従動側プーリBと、前記駆動側プーリAと従動側プーリBとの間に掛けられるVベルト10とからなること。前記ドライブベースプーリ半体Aaは、前記駆動軸1の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体2側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記Vベルト10の急加速回転時にも対応して前記ドリブン可動プーリ半体12側に向かって微動すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルト式自動変速装置を備えた自動二輪車の急発進,急増速等の急加速時において、駆動側プーリは、Vベルトとの滑りを防止し、該Vベルトの追従を極めて良好なものとすると共に、初動作時にプーリ幅を僅かに狭くなるように可変させ、エンジントルクに適合する側面荷重とし、Vベルトとのスリップを防止し、従動側プーリへの回転伝達効率の向上を図ることができ、また、従動側プーリにおいても駆動側プーリの回転伝達に対応してプーリ幅を僅かに狭くなるように可変させて駆動軸から従動軸への回転伝達を極めて良好なものとしたVベルト式自動変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の自動変速装置におけるエンジンの出力軸(駆動軸)によって回転する駆動側プーリは、固定プーリと可動プーリとを組み合わせて構成されたものであり、該可動プーリは、フライウエイトによって、前記駆動軸の軸方向に沿って固定プーリ側に近接するように移動させる構成とした装置が、特許文献1(特開昭56−35853号)に開示されている。
【0003】
また、従動側プーリにおける従来技術としては、エンジン等の動力発生源の発生トルクを駆動側の可変プーリから従動側の可変プーリへ、両プーリ間に巻き掛けられたVベルトにより伝え、そのトルクを伝える際には駆動側の可変プーリに設けられたウェイトローラに作用する遠心力と、従動側の可変プーリに設けたトルク検出機構とによりVベルトのプーリとの巻掛径を適宜変化させるVベルト式自動変速装置が存在する。そして、このようなVベルト式自動変速装置において、回転軸に一体固定される固定プーリと負荷トルクに応じて可動プーリを固定プーリへ近づける方向に付勢するカム機構が設けられているものも特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献2に開示されているものは、駆動側プーリの構成に駆動側カム機構が設けられており、また、従動側プーリの構成にも従動側カム機構が設けられ、それらのカム機構は、固定カムと可動カムから構成されている。そして、駆動側カム機構を構成する固定カムは、駆動軸に一体固定され、可動カムは可動プーリに一体固定されており、動力伝達時に常時当接しあうカム斜面を有している。その従動側カム機構を構成する固定カムは、従動軸に固定されるサイドプレートに一体固定され、可動カムは可動プーリに固定されて固定カムの斜面と当接する斜面を有している。
【0005】
上記のカム機構は、軸部材側に固定されている固定カムと可動プーリ側に固定されている可動カムとから構成されるものである。そして、そのカム機構を介して可動プーリを固定プーリに向けて移動させる。また、ベルト伝達力の大きさに応じて固定カム及び可動カムの互いに当接しあっている斜面によるカム力でプーリ溝を幅狭にする状態、つまりベルト巻掛径を大きくする方向へ移動する大きさを適宜調整するものである。
【0006】
次に、特許文献3には、固定プーリ半体を備えた固定プーリ軸と、可動プーリ半体を備えた可動プーリ軸とにカム溝をそれぞれ形成し、プーリガイドカラーのトルクカムピンをそれぞれカム溝に係合させたトルクカム機構が設けられていることが開示されている。このトルクカム機構が設けられた固定プーリは、可動プーリのように軸方向に移動可能にすることなく回動可能にしつつ、可動プーリ半体を備えた可動プーリ軸を回動可能且つ軸方向に移動可能にすることでVプーリの振れを防止してVベルトの耐久性を向上させるものである。
【特許文献1】特開昭56−35853号
【特許文献2】特開平4−151052号
【特許文献3】特開昭61−270548号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、固定プーリに対して可動プーリのみを移動させるカム機構であり、軸方向に可動プーリのみを押圧して、前記カム機構のカム力と、フライウエイト等の押圧力との合成力により、固定プーリに対する可動プーリとの間隔を適宜変化させながらベルト伝達力を駆動側プーリから従動側プーリに伝えている。さらに、前記駆動側プーリでは、ベルト伝達力を従動側プーリに伝達する際に、ベルト伝達摩擦力がプーリとベルト間に生じている。
【0008】
そして、Vベルト式自動変速装置において、急発進や、急増速における急激な加速回転時、たとえば急激にアクセルを開いたときの瞬間的な過大回転力(急激な過大トルク)に対して、Vベルトと、該Vベルトを挟持する固定プーリと可動プーリとの間に滑りを生じることがある。これは、急加速回転時では、固定プーリと可動プーリとによるVベルトへの挟持力が小さく、そのために滑りが生じるものである。これに対して、可動プーリは、駆動軸の回転速度が上昇するにしたがい、フライウエイトが作用して、固定プーリ側に移動するものであるが、急加速回転時には、フライウエイトが即座に反応することができず、その結果、可動プーリも急発進、急増速時には固定プーリ側への移動を開始することができない。
【0009】
このようなことによって、駆動軸の急加速回転時には、Vベルトによる回転動力を従動側プーリへ円滑且つ効率良く伝達することが困難になり、駆動側プーリから従動側プーリへのトルクの追従性が遅くなることになる。さらに、Vベルトと該Vベルトを挟持する可動プーリと固定プーリとの間に滑りが生じると、Vベルトとプーリフェイスとの間にこすれによる騒音が発生したり、或いは摩擦熱による異臭が発生し、またVベルトの寿命も極端に縮めることになる。
【0010】
特許文献2では、固定プーリに対して可動プーリのみを移動させるカム機構であり、従動側プーリではフライウェイトによって軸方向に可動プーリのみを押圧して、先のカム機構のカム力とフライウェイトの押圧力との合成力によりベルト伝達力を受けて回転軸に伝えている。また、駆動側プーリでは、バネによって軸方向に可動プーリのみを押圧して、先のカム機構のカム力とスプリング力との合成力によって駆動軸の回転力をベルトに伝達している。なお、従動側プーリにおいてカム機構のカム力とスプリング力との合成力によってベルト伝達力を受けて回転軸に伝えているものもある。
【0011】
特許文献1,2においてベルト伝達力を受ける際、ベルト伝達摩擦力がプーリとベルト間に生じている。このベルト伝達摩擦力は、ベルト伝達力に対してプーリを押す力が大きくなる場合、摩擦抵抗要素として作用して伝達効率に影響するものである。プーリを押す力におけるスプリング力は、プーリを押す力を特に大きく必要とする最大減速比時に対応させて設定されるので、プーリを押す力が小さくてもかまわない最小減速比時では、必要以上に大きくなり、摩擦抵抗要素として作用してしまい、伝達効率を低下させてしまうという課題がある。
【0012】
さらに、補足すると、最大減速比時(従動側プーリにおけるベルト巻掛径が最大時)は、可動プーリが固定プーリから離間しないように抵抗する力をカム力とスプリング力の合力で設定し、それに対して、最小減速比時(従動側プーリにおけるベルト巻掛径が最小時)では可動プーリが固定プーリから離間しやすいようにするという上記最大減速比時とは相反するような力を同じカムとスプリングにより設定して、最大減速比時及び最小減速比時の両方を満足させることは極めて困難なことである。
【0013】
特許文献3では、固定プーリと可動プーリにそれぞれ形成されたカム機構がプーリガイドカラーのトルクピンを軸方向に1箇所又は2箇所に設けられているので、構成部品が径方向又は軸長方向に大きくなり、装置が大型化するという問題点も存在する。本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的)は、急加速回転時における過大回転力の動力伝達に対して、プーリとVベルトとの間に滑りを生じることなく、安定して動力を従動側プーリへ円滑且つ効率良く伝達すると共に、プーリとベルト間のベルト伝達摩擦力を最適な状態とし、Vベルト伝達の高効率化を図ることにある。また、従動側プーリにおいて、Vベルト伝達の高効率化を狙って、よりエンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができるVベルト式自動変速装置を提供することを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなる駆動側プーリと、従動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体と、ドリブンベースプーリ半体とからなる従動側プーリと、前記駆動側プーリと従動側プーリとの間に掛けられるVベルトとからなり、前記ドライブベースプーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体は、前記Vベルトの急加速回転時に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動してなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0015】
請求項2の発明を、前述の構成において、前記駆動側プーリの前記ドライブベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成されてなり、前記ボス部材は、前記ボス孔部に挿通されると共に前記ドライブベースプーリ半体が摺動自在に支持されるボス軸部と,該ボス軸部の周囲に形成された固定カムとからなり、且つ前記ボス部材は前記駆動軸に固定され、前記可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドライブベースプーリ半体と前記ドライブ可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0016】
請求項3の発明を、前述の構成において、前記従動側プーリの前記ドリブンベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成され、前記ボス部材に前記ボス孔部が挿通され摺動自在に支持され、前記ボス部材の軸端部に固着されるカムリングの環状基部に固定カムが形成され前記可動カムと前記固定カムとは常時接合状態に弾性付勢され、前記可動カムが前記固定カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドリブンベースプーリ半体と前記ドリブン可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によって、駆動側プーリは、駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなり、前記ドライブ可動プーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動する。また前記従動側プーリは、前記ドリブンベースプーリ半体が前記Vベルトの急加速回転時に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動するようにしたものである。そして、自動2輪車が急発進や増速等の急加速回転時に過大回転力となった場合、前記ドライブベースプーリ半体が前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動し、プーリ幅(間隔)が僅かに狭くなり、Vベルトの幅方向両側への挟持力を増加させるものである。これによって、急発進,急加速時等の急加速回転において、前記プーリからVベルトに滑りがほとんど無い状態で、回転伝達を与え、従動側プーリに回転を伝達することができる。
【0018】
さらに、従動側プーリでは、前記駆動側プーリからの急加速回転によるVベルトの回転が前記ドリブンベースプーリ半体に伝達され、該ドリブンベースプーリ半体が回転すると共に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動し、プーリ幅(間隔)が僅かに狭くなり、Vベルトの幅方向両側への挟持力を増加させるものである。このように従動側プーリにおいてもVベルトの幅方向両側への挟持力が増加し、Vベルトから従動側プーリへ、より一層確実に回転伝達が行われる。そして、増速に対して次第に軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体及びドリブン可動プーリ半体とは異なり、前記ドライブベースプーリ半体及びドリブンベースプーリ半体はそれぞれ急加速回転のときのみに即座に反応して軸方向に沿って僅かに移動(微動)することができるので、自動2輪車の急発進や急加速時において、駆動側プーリ及び従動側プーリのそれぞれのプーリ幅が僅かに狭くなり、前記駆動側プーリ及び従動側プーリの両方共が、急加速回転でのプーリとVベルトとの滑りがほとんど無く、良好な回転伝達にすることができる。
【0019】
請求項2の発明によって、駆動側プーリにおいては、急激にアクセルを開いた時の回転力で特に過大回転力となった場合等、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間するようにしたので、前記可動カムと共に可動プーリ半体が前記駆動側プーリ方向に沿って移動することができる。これによって、急発進や急増速時にはベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を瞬時に狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。そして、駆動側プーリから従動側プーリへの動力伝達を安定させることができ、円滑かつ効率良く伝達することができる。さらに、プーリとVベルト間のベルト伝達摩擦力を最適にし、Vベルト伝達の高効率化を図ることができ、エンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができる。
【0020】
また、可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記可動カムと前記固定カムの当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させるカム面としたことによって、可動カム部と固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間されているので、低速発進時には、前記ベースプーリ半体は、軸方向に対して不動であり、通常の発進は滑らかに行われる。また、前記固定カムの少なくともいずれか一方の当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させるカム面としているので、急発進或いは急増速時の場合のみ前記固定カムが前記可動カムに当接して、ベースプーリ半体が軸方向に対して移動することとなり、急発進や急増速時にはベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を瞬時に狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。
【0021】
前記可動カムと前記固定カムの両当接部は共に面接触する傾斜面とすることにより、可動カムと固定カムとは、傾斜面同士で接合することによって、可動カムが固定カムの傾斜面を安定した状態で移動することができ、ベースプーリ半体の可動プーリ半体側への移動も極めて円滑に行われるものである。また、前記可動カムと前記固定カムの両当接部の間には弾性部材として圧縮コイルスプリングが装着され、前記可動カム及び前記固定カムには、両当接部から内部に向かって窪み部が形成され、前記圧縮コイルスプリングの長手方向両端箇所が前記窪み部に収納されることにより、可動カムと固定カムとの限られたスペースにおいて適宜全長の圧縮コイルスプリングを設けることができ、可動カムと固定カムとの間に圧縮コイルスプリングを安定して装着することができる。また、圧縮コイルスプリングによって容易に可動カムと、固定カムとの間を弾性的に離間した状態にすることができると共に、可動カムと固定カムの両当接部である傾斜面同士を密着状に当接させることができ、可動カムは固定カムの傾斜面に対して安定した移動を行うことができる。
【0022】
さらに、前記ボス部材の固定カムの当接部側には適宜の間隔をおいて規制突起が形成されることにより、前記可動カムは、固定カムと規制突起との間に収められた状態となり、弾性部材によって可動カムが固定カムから離れすぎないように位置を規制し、駆動軸の急加速回転時以外では、可動カムを常時安定した状態に維持することができるものである。さらにまた、前記可動カム部は、前記ボス孔部の周囲に円周方向に沿って等間隔に複数形成されると共に前記側固定カム部は前記可動カムと同数で且つ等間隔に形成されることにより、駆動軸の急加速回転に対してベースプーリ半体は、複数の可動カムと、同数の固定カムとの当接によって、急激な衝撃を複数の可動カムと固定カムが分散するようになり、可動カム及び固定カムの耐久性を向上させることができるものである。
【0023】
請求項3の発明によって、Vベルトを介して前記ベースプーリ半体の可動カムが固定カムに当接されると共に、前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間するようにしたので、前記可動カムと共に可動プーリ半体が前記駆動側プーリ方向に沿って移動することができる。これによって、駆動側プーリによるVベルトの張力によりベースプーリ半体が前記可動プーリ半体側に移動し、Vベルトの幅方向両側に押圧力を発生させてVベルトとプーリとを接触させ、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。そして、駆動側プーリから従動側プーリへの動力伝達を安定させることができ、円滑かつ効率良く伝達することができる。さらに、プーリとVベルト間のベルト伝達摩擦力を最適にし、Vベルト伝達の高効率化を図ることができ、エンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができる。
【0024】
また、プーリを押す力におけるスプリング力を適宜軽減することができ、ベースプーリ半体と可動プーリ半体は、Vベルトに対して過大な側面荷重をかけることなく、Vベルトの磨耗を防ぎ、長寿命化が図れる。さらに、最初に設定されるスプリング力が従来構造に使用されるスプリング力より適切に低くすることができるので、低いエンジントルク域でのスプリング力による余分な力が小さくなり、フリクションロスを低減することができ、変速全域における伝達効率を向上させることができる。また、可動プーリ半体の作動を安定させることができる。また、軸方向又は径方向に大きくなるような構造を設ける必要が無く、装置の大型化が防げる。
【0025】
また、前記固定カムの少なくともいずれか一方の当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させる傾斜面とすることにより、前記固定カムが前記可動カムに当接して、ベースプーリ半体が軸方向に対して移動することとなり、ベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。
【0026】
また、固定カムの駆動軸の回転方向に、可動カムを駆動軸の軸方向に離間させる傾斜面のカムを設けたことで、ベースプーリ半体にカム力を安定して作用させることができ、エンジントルクに適宜対応したベルト伝達力に対してベースプーリ半体と可動プーリ半体とを良好に作動させることができる。更に、傾斜面を適宜変更することで種々のカムを容易に設けることができ、可動プーリ半体のカム力やスプリング力に対して傾斜面を設定し、カム力を適宜設定することができる。その他の効果は、請求項1の効果と略同等である。
【0027】
さらに、前記ベースプーリ半体と前記カムリングとは常時接合状態に弾性付勢されることにより、Vベルトからの回転伝達に対して、前記ベースプーリ半体は、前記可動プーリ半体との間隔を狭くすることができ、Vベルトとの滑りを防止することができる。また、弾性付勢することで、固定カムに対して可動カムが駆動軸の軸方向に離間した場合、離間前の元の位置への復帰を容易にさせることができ、ベースプーリ半体の作動を安定させることができる。
【0028】
さらに、前記ベースプーリ半体と前記カムリングとは、弾性を有する軸状ピンを介して接合されることにより、ベースプーリ半体とカムリングとの接合構造と離間時の復帰構造とを極めて簡単な構造にすることができる。また、前記ベースプーリ半体の可動カムの当接部側には適宜の間隔をおいて規制部が形成されたことにより、前記固定カムは、可動カムと規制部との間に収められた状態となり、可動カムが固定カムから離れすぎないように位置を規制し、可動カムを常時安定した状態に維持することができるものである。
【0029】
また、前記可動カム部は、前記ボス孔部の周囲に円周方向に沿って等間隔に複数形成されると共に前記側固定カム部は前記可動カムと同数で且つ等間隔に形成されることにより、ベースプーリ半体は、複数の可動カムと、同数の固定カムとの当接によって、複数の可動カムと固定カムが分散するようになり、可動カム及び固定カムの耐久性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、本発明のVベルト式自動変速装置は、図1に示すように、主に、駆動軸1,駆動側プーリA,従動側プーリB,Vベルト10及び従動軸11等から構成されている。前記駆動側プーリAは、主にドライブ可動プーリ半体2と、ドライブベースプーリ半体Aaと、ボス部材Abとから構成される。前記従動側プーリBは、主に、ドリブン可動プーリ半体12とドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとから構成される。
【0031】
まず、駆動側プーリAについて図2乃至図8に基づいて説明する。前記駆動軸1は、エンジンの出力軸である。前記ドライブ可動プーリ半体2は、ウエイトローラ2e,ローラ支持プレートプ2fが構成部材として装着されている。ドライブ可動プーリ半体2は、可動プーリフェイス2aと、可動ボス部2dとから構成されたものである。そして、前記可動プーリフェイス2aは、扁平円錐面状の部分が表面側2bであり、該表面側2bの反対側面が背面側2cである。背面側2cには、複数のウエイトローラ2eが配置され、さらにローラ支持プレートプ2fによって、前記ウエイトローラ2eが支持されている〔図2(A)参照〕。前記ローラ支持プレートプ2fは、前記駆動軸1に軸方向に不動となるように固着されており、駆動軸1が回転することにより、遠心力にて前記ウエイトローラ2eが可動プーリフェイス2aの可動ボス部2d側から外周側に移動し、前記ドライブ可動プーリ半体2を後述するドライブベースプーリ半体Aa側に移動させる。
【0032】
ドライブベースプーリ半体Aaは、図3に示すように、ベースプーリフェイス3と可動カム4とから構成されている。前記ベースプーリフェイス3は中心にボス孔部3aが形成されている。該ボス孔部3aには、後述するボス部材Abのボス軸部5が挿入される。また前記ベースプーリフェイス3には、表面側3cと背面側3dとが存在する。前記表面側3cと背面側3dとは表裏の関係にある。該背面側3dで且つボス孔部3aの周囲には、複数の可動カム4が一体成形されている。具体的には、3個の可動カム4が等間隔に形成されている。
【0033】
さらに隣接する可動カム4,4の間には、前記ボス部材Abの固定カム7と規制突起9が形成配置されている〔図2(B)参照〕。前記可動カム4は、前記ボス部材Abの固定カム7と当接する部位を当接部4aと称する。さらに、可動カム4の頂部4bは、平坦状に形成されている。また可動カム4の外周側部4cは、円弧状に形成されている。内周側は前記ボス孔部3aの周囲のベースボス部3bに一体成形されている。さらに、後面部4dは、平坦面状に形成されたものである。また、前記当接部4aと頂部4bに亘って窪み部4eが形成されている。該窪み部4eは、前記当接部4aと頂部4bが開口された窪み又はへこみ形状の部位であり、後述する圧縮コイルスプリング8aの長手方向の一端が収納される。
【0034】
前記当接部4aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部4aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部4aの付根箇所よりも前記頂部4b 側が可動カム4の正回転方向に沿って、先行するように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図5(B),(C)に示すように、後述するボス部材Abの正回転方向における固定カム7の当接部7aの右下り方向の傾斜面に対して、前記当接部4aの傾斜方向は、左上がり方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは、前進する方向に駆動軸1,ドライブベースプーリ半体Aa及びボス部材Abが回転する方向のことである(図5参照)。
【0035】
次に、ボス部材Abは、図4に示すように、ボス軸部5、鍔状部6及び固定カム7から構成されている。前記ボス軸部5は、略円筒形状に形成され、軸部5aの中心部に係止溝付きの固定用孔5bが形成されている。前記固定用孔5bに形成された係止溝は具体的にはスプラインであり、前記駆動軸1の軸端部箇所にナット等の固着具にて固着される。前記鍔状部6は、円板形状に形成されたものであり、該鍔状部6には前記軸部5aの周囲に複数の固定カム7が形成されている。前記固定カム7において、前述の可動カム4の当接部4aと当接する部位を当接部7aと称する。さらに、固定カム7の頂部7bは、平坦状に形成されている。また固定カム7の外周側部7c及び内周側部7dは円弧状に形成されている。
【0036】
さらに、後面部7eは、平坦面状に形成されたものである。さらに、前記当接部7aと頂部7bに亘って窪み部7fが形成されている。該窪み部7fは、前記当接部7aと頂部7bが開口された窪み又はへこみ形状の部位であり、後述する圧縮コイルスプリング8aの長手方向の他端が収納される。前記当接部7aは、傾斜面状に形成されている。前記当接部7aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部7aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部7aの付根箇所よりも前記頂部7b側がボス部材Abの正回転方向に沿って、後方となるように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図5(B),(C)に示すように、前記ドライブベースプーリ半体Aaの正回転方向における可動カム4の当接部4aの左上がり方向の傾斜面に対して、前記当接部7aの傾斜方向は、右下がり方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは前述した通りの方向である(図5参照)。
【0037】
次に、前記駆動側プーリAの構成について説明する。まず、図2に示すように前記駆動軸1の軸本体部1aの主軸部1bに円筒状カラー部材1eが装着される。このとき、前記円筒状カラー部材1eの軸端部と大径軸部1cとの段部箇所との間に前記ローラ支持プレートプ2fが挟持固定され、複数のウエイトローラ2eが所定位置に配列された状態で、前記ドライブ可動プーリ半体2が前記円筒状カラー部材1eに摺動自在に装着される。次に、前記ドライブベースプーリ半体Aaのボス孔部3aに、前記ボス部材Abの軸部5aが挿入される。前記ドライブベースプーリ半体Aaは、前記ボス部材Abの軸部5aの軸方向に対して僅かの範囲で摺動自在となっている。また前記ドライブベースプーリ半体Aのボス孔部3aと、前記ボス部材Abの軸部5aとの間には軸受1gが設けられている〔図2(A),図7(C)参照〕。
【0038】
そして、前記可動カム4の当接部4aと、固定カム7の当接部7aとが対向するようにして配置され、前記窪み部4e及び窪み部7fに前記圧縮コイルスプリング8aの長手方向両端が収納され、前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構成とされる〔図2(B),図5(C)参照〕。そして、前記ボス部材Abの軸部5aに形成された固定用孔5bが前記駆動軸1の軸端部付近に形成された軸スプライン等の係合部1dに固定され、駆動軸1の軸端部に形成された螺子軸部にナット等の固着具にてボス部材Abが駆動軸1に固定される。
【0039】
また、前記ボス部材Abの軸部5aの軸端部と前記円筒状カラー部材1eの軸方向端部との間には、図2(A),図7(C)に示すように、ワッシャ1fが挟持状態で装着されている。該ワッシャ1fは、前記ドライブベースプーリ半体Aaの軸方向への移動範囲を規制する役目をなすものである。前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構造の別の実施形態として、図8に示すように、弾性部材として、引張コイルスプリング8bが使用されることもある。この実施形態では、前記可動カム4の後面部4dと、前記規制突起9との間に引張コイルスプリング8bが連結されるものである。該引張コイルスプリング8bによって、前記可動カム4の後面部4dと、前記規制突起9とが弾性的に吸引され、前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構造となる。
【0040】
次に、駆動側プーリAにおける作動を説明する。まず、ボス部材Abの固定カム7の当接部7aは、ボス部材Abの固定カム7と前記のドライブベースプーリ半体Aaの背面の可動カム4とは、圧縮コイルスプリング8aにより常時非接触状態で弾性的に離間している〔図6(A),(B)及び図7(A)参照〕。そして、駆動軸1に過大な回転力によって急加速回転となると、前記圧縮コイルスプリング8aの弾性反発力(荷重)に抗して、前記圧縮コイルスプリング8aが縮められ、可動カム4の当接部4aと、固定カム7の当接部7aとが離間した非接触状態から当接した接触状態となる〔図6(C),(D)参照〕。
【0041】
さらに、急加速回転が続くと、前記可動カム4の当接部4aと、前記固定カム7の当接部7a同士の当接において、相互の押圧力が増加し、その押圧力の一部が回転方向から軸方向に変換され、前記可動カム4が前記固定カム7に対して軸方向へ(僅かに)移動(微動)することになる〔図6(E),(F)及び図7(B)参照〕。そして、前記可動カム4の軸方向への移動(微動)と共に、前記ドライブベースプーリ半体Aaを(遠心ローラを有する)ドライブ可動プーリ半体2側へ軸方向に沿って僅かな距離ΔLaだけ移動(微動)させることができる〔図7(C)参照〕。これによって、急発進時等の急加速回転では、前記ドライブベースプーリ半体Aaが前記ドライブ可動プーリ半体2側に僅かな距離ΔLaだけ移動(微動)して近接することになり、Vベルト10を幅方向より瞬間的に強い圧力を有して挟持することになり、Vベルト10は前記ドライブベースプーリ半体Aa及びドライブ可動プーリ半体2との滑りを防止することができる。
【0042】
通常時の回転力では、ドライブベースプーリ半体Aaの可動カム4と、ボス部材Abの固定カム7とが非接触となるように弾発している圧縮コイルスプリング8aの弾性力によって、可動カム4と固定カム7とが非接触状態のままでドライブベースプーリ半体Aaが回転してVベルト10に回転力を伝えることができる。そのために、ボス部材Abの固定カム7と、ドライブベースプーリ半体Aaの可動カム4との間に装着された圧縮コイルスプリング8aの弾性力(荷重)は、駆動軸1の通常時の回転力よりも大きく、且つ急激にアクセルを開いたような急加速回転力〔非常時の回転力(過大回転力)〕よりも小さく設定される。
【0043】
次に、従動側プーリBについて図9乃至図14に基づいて説明する。該従動側プーリBは、図9(A)に示すように従動軸11と、ドリブン可動プーリ半体12と、ボス部材15と、ドリブンベースプーリ半体Baと、カムリングBbとから構成される。前記ボス部材15は、図13(C)に示すように、円筒軸部15aと鍔状部15bとから形成されている。該鍔状部15bは、図13(D)に示すように、円板状に形成され、等間隔に係合凹部15cが形成されている。該係合凹部15cは、後述するカムリングBbの係合突起部16aと係合して、前記カムリングBbをボス部材15に固定する役目をなす。該ボス部材15は、前記従動軸11に対して遠心クラッチ20を介して接合され、ボス部材15と従動軸11とが共に回転する。
【0044】
前記ドリブン可動プーリ半体12は、図9(A)に示すように、可動プーリフェイス12aと、可動ボス部12dとから構成されたものである。そして、前記可動プーリフェイス12aは、扁平円錐面状の部分が表面側12bであり、該表面側12bの反対側面が背面側12cである。背面側12cには、弾発スプリングが配置され、後述するドリブンベースプーリ半体Ba側に向かって弾性的に付勢され、Vベルト10の回転が上昇するにしたがって、前記ドリブンベースプーリ半体Ba側に移動させる。
【0045】
ドリブンベースプーリ半体Baは、図9,図10(A),図13(A)等に示すように、ベースプーリフェイス13と可動カム14とから構成されている。前記ベースプーリフェイス13は、中心にボス孔部13aが形成されている。該ボス孔部13aには、前記ボス部材15の円筒軸部15aが挿入される〔図9(A)参照〕。また、ベースプーリフェイス13には、表面側13bと背面側13cとが存在する。前記表面側13bと背面側13cとは、表裏の関係にある。該背面側13cで且つボス孔部13aの周囲には、図10(A),(B)に示すように円周状の溝状部13dが形成され、該溝状部13d内に複数の可動カム14が設けられている。具体的には、3個の可動カム14が等間隔に形成されている。該可動カム14は、前記ベースプーリフェイス13と一体成形としたり、又は別部材として形成されている。
【0046】
さらに隣接する可動カム14,14の間には規制部19が形成されている。前記可動カム14は、後述する固定カム17と当接する部位を当接部14aと称する。さらに、可動カム14の頂部14bは、平坦状に形成されている。前記当接部14aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部14aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部14aの付根箇所よりも前記頂部14b側が可動カム14の正回転方向に沿って、先行するように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図12(B),(C)及び図14(A)に示すように、後述するボス部材15の正回転方向における固定カム17の当接部17aの左下り方向の傾斜状面に対して、前記当接部14aの傾斜方向は、右上り方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは、前進する方向に従動軸11,ドリブンベースプーリ半体Ba及びカムリングBbが回転する方向のことである(図12参照)。
【0047】
さらに隣接する可動カム14,14の間には、軸状ピン18用の係止部13eが形成されている。該係止部13eは、2つの貫通孔13f,13gが形成され、前記2つの貫通孔13f,13gの間の係止肉部13hによって、後述する軸状ピン18の軸方向両端が係止される。該係止部13eは、前記可動カム14と共に前記溝状部13d内に形成されている〔図10(B),(C)参照〕。前記規制部19は、前記可動カム14とは反対方向となる傾斜面を有している。
【0048】
そして、ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとが接合された状態で、可動カム14と規制部19との間にカムリングBbの固定カム17が収められた状態となる〔図12(B),(C)参照〕。このようにして、前記規制部19は、前記可動カム14と前記固定カム17との相対的な移動範囲を規制する役目をなしている。次に、カムリングBbは、図11(A),(B)に示すように、環状基部16に固定カム17が形成されたもので、合成樹脂製又は金属製により一体成形されたものである。前記固定カム17は、前記環状基部16から軸方向に膨出形成されたものである。そして、固定カム17において、前記可動カム14の当接部14aと当接する部位を当接部17aと称する〔図11(E),(F)参照〕。
【0049】
さらに、固定カム17の頂部17bは、平坦状に形成されている。また固定カム17の外周側部17c及び内周側部17dは円弧状に形成されている。また、後面部17eは、傾斜状に形成されたものである。また、前記環状基部16には、被係合窪み部16bが形成されている。該被係合窪み部16bは、隣接する固定カム17,17の間に形成されたものであり、後述するカムリングBbが前記ドリブンベースプーリ半体Baのボス孔部13aの周囲に接合されるための軸状ピン18が係合する部位となる。
【0050】
まず、前記従動軸11にボス部材15の円筒軸部15aが装着される。そして、ドリブンベースプーリ半体Baのベースプーリフェイス13の背面側13cで且つボス孔部13aの周囲の箇所にカムリングBbが軸状ピン18を介して接合される〔図12(B),(C)参照〕。また、前記環状基部16の内周側の適宜の箇所に係合突起部16aが形成されている。該係合突起部16aは、前記ボス部材15の鍔状部15bに形成された係合凹部15cと係合するものであり、カムリングBbが前記ボス部材15の鍔状部15bと係合させて、ボス部材15の軸周方向に不動となるように固定され、前記カムリングBbから前記ボス部材15に回転が伝達されるようになっている〔図9(B)参照〕。
【0051】
そして、前記カムリングBbの固定カム17は、前記ドリブンベースプーリ半体Baの可動カム14と規制部19との間に遊挿される。このとき、前記固定カム17は、ドリブンベースプーリ半体Baの溝状部13d内に遊挿されることになる。したがって、該溝状部13dと前記固定カム17とが相互に案内部としての役目をなし、前記可動カム14が適正方向に移動することができるようになっている。さらに前記可動カム14の当接部14aと、固定カム17の当接部17aとが対向するようにして配置され、前記軸状ピン18の弾性力によって、前記可動カム14と固定カム17とが弾性的に押圧当接するように設定される。前記軸状ピン18は、図12(B),(C)に示すように、略「ヘ」字形状に屈曲形成された弾性を有する軸部材である。該軸状ピン18は、長手方向において略中央箇所から一方側が取付部18aであって、他方側が嵌合軸部18dである。前記取付軸部18aは、円弧状部18bと係止先端部18cとから構成されている。
【0052】
前記取付部18aの係止先端部18cが前記貫通孔13fから係止肉部13hの内面側を通過してもう一つの貫通孔13gから突出するようにして、ベースプーリフェイス13の背面側13cに前記係止先端部18cが係止されるものである。この状態で前記係止先端部18cは、ベースプーリフェイス13の背面側13cから外方に突出するように設置される。その突出した係止先端部18cは、弾性を有しており、常時背面側13cに向かって弾性付勢されている。一方、前記カムリングBbの環状基部16には、被係合窪み部16bが形成されている。
【0053】
該被係合窪み部16bには、前記軸状ピン18の嵌合軸部18dが遊挿すると共に、前記被係合窪み部16b内に形成された被係合突起片16cに係合し、前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbとが接合する。前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbは、前述したように、軸状ピン18によって接合されており、前記固定カム17が、ドリブンベースプーリ半体Ba側の当接部14aと前記規制部19との間に挿入されている。さらに、前記軸状ピン18の嵌合軸部18dによる弾性によって、前記可動カム14の当接部14aと、前記固定カム17の当接部17aとが常時当接状態となるように押圧されている〔図12(B),(C)参照〕。
【0054】
そして、前記軸状ピン18によって、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとが弾性付勢された状態で接合されることで、前記固定カム17に対して前記可動カム14が従動軸11の軸方向に微動離間(僅かに移動して離間)した場合、その微動離間前の元位置への復帰を容易にさせることができ、前記ドリブンベースプーリ半体Baの作動を安定させることができる。さらに、前記ボス部材15にドリブン可動プーリ半体12が装着され弾発スプリング12eにて前記ドリブンベースプーリ半体Baに向かって弾性的に付勢される。
【0055】
また、前記従動軸11とボス部材15とは、遠心クラッチ20によって連結可能な構成である。該遠心クラッチ20は、クラッチプレート20a,クラッチウエイト20b及びクラッチアウタ20dから構成されたものであり、前記クラッチプレート20aにクラッチウエイト20bが枢支連結されている。そして、遠心クラッチ20は、遠心力にて前記クラッチウエイト20bと共に該クラッチウエイト20bに装着されたライニング20cが前記クラッチアウタ20dの内周面に接触し、前記Vベルト10から前記ドリブンベースプーリ半体Ba及びドリブン可動プーリ半体12等を介して前記従動軸11に回転力の伝達を行うものである。
【0056】
次に従動側プーリBにおける作動を説明する。前記カムリングBbは、前記従動軸11の同軸心上に配置されたボス部材15の円筒軸部15aの軸方向端部箇所に係合固定され、前記カムリングBbとボス部材15とが共に回転するものである。前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記ボス部材15の円筒軸部15aの軸方向端部に装着され、前記カムリングBbの固定カム17の当接部17aと、前記ドリブンベースプーリ半体Baの背面側13cに設けられた可動カム14とが対向して当接されている〔図12(B),(C)及び図14(A)参照〕。次に、前記従動側プーリBのドリブン可動プーリ半体12は、従動軸11の同軸心上に配置されたボス部材15の円筒軸部15aの軸方向に摺動可能に装着されている。
【0057】
前記ドリブンベースプーリ半体Baは、ドリブン可動プーリ半体12の作動によって、前記カムリングBbに対して前記可動カム14が固定カム17の傾斜面とした当接部17aに沿って移動することにより、前記可動カム14は軸方向の変位jaと、軸周方向の変位jbとが同時に行われ、当接部14aの傾斜面に沿った方向への変位jとすることができる。この変位jによって、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbと軸方向に沿って僅かに移動して離間(微動)し〔図14(A)参照〕、前記ドリブンベースプーリ半体Baがドリブン可動プーリ半体12側へΔLbの量だけ僅かに移動(微動)することになる〔図14(B)参照〕。このΔLbの量だけ僅かに移動することによって、Vベルト10は前記ドリブンベースプーリ半体Baと、ドリブン可動プーリ半体12とによって、両側から押圧され、Vベルト10を挟みつけるようにしている。
【0058】
また、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbと軸状ピン18によって接合されており、該軸状ピン18の嵌合軸部18dが被係合窪み部16bの被係合突起片16cに係合しているので、前記嵌合軸部18dの弾性力によって、前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbとは所定距離以上は離間しないようになっており、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとは、常時適正な離間距離を維持するものであり〔図14(B)参照〕、非駆動状態では、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとは、前記軸状ピン18の弾性力によって最も近接した接合状態となる。
【0059】
上述したように、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbに対して軸方向に微動離間し、前記ドリブンベースプーリ半体Baがドリブン可動プーリ半体12側へ僅かに移動する構造である。これによって、Vベルト10は前記ドリブンベースプーリ半体Baと、ドリブン可動プーリ半体12とによって、両側から押圧され、Vベルト10を挟みつけることができる、ドリブン可動プーリ半体12をドリブンベースプーリ半体Ba側に押す弾性力を適宜軽減することができる。そして、ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12とは、Vベルト10に対して過大な側面荷重をかけることなく、Vベルトの磨耗を防ぎ、長寿命化が図れる。さらに、最初に設定される弾発スプリング12eの弾性力が従来構造に使用される弾性力により適切に低くすることができるので、低いエンジントルク域での弾性力による余分な力が小さくなり、フリクションロスを低減することができ、変速全域における伝達効率を向上させることができる。
【0060】
また、ドリブン可動プーリ半体12の作動を安定させることができる。さらに前記可動カム14の当接部14aを傾斜面とし、前記固定カム17の当接部17aとの当接によって、軸方向に微動離間させるようにしたことで、前記ドリブンベースプーリ半体Baにカム力を安定して作用させることができ、エンジントルクに適宜対応したベルト伝達力に対して前記ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12とを良好に作動させることができる。このようにドリブンベースプーリ半体Baを設けることで、前記ドリブン可動プーリ半体12側においては、弾発スプリング12eの力(荷重)を低減することができるので、ベルト伝達摩擦力を最適にすることができる。そして、弾発スプリング12eの弾性力が低減できることで、最大減速比時のドリブン可動プーリ半体12がドリブンベースプーリ半体Baから離間しないように抵抗する力を、前記ドリブンベースプーリ半体Baの可動カム14と、カムリングBbの固定カム17との当接による押圧力と、前記可動カム14側の弾発スプリング12eのスプリング力との合力で設定することができる。
【0061】
また、最小減速比時では最大減速比時に合わせて、前記弾発スプリング12eは、低減されているので、ドリブン可動プーリ半体12とドリブンベースプーリ半体Baとは離間し易いようにできる。このように、総合的なスプリングの力(荷重)をドリブン可動プーリ半体12側の弾発スプリング12e及びカム力と、ドリブンベースプーリ半体Ba側のカム力との相対的な合力によって低減することができ、最大減速比時及び最小減速比時の両方を満足させることができる。即ち、これまで単にスプリング力の大きさを低減することが難しかったことをドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBb及びドリブン可動プーリ半体12のカムとの2つのカム力にて達成することができる。
【0062】
本発明では、前記駆動側プーリAのドライブベースプーリ半体Aa及び前記従動側プーリBのドリブンベースプーリ半体Baは、増速に対して次第に軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体2及びドリブン可動プーリ半体12とは異なり、前記ドライブベースプーリ半体Aa及びドリブンベースプーリ半体Baはそれぞれ急加速回転のときのみに即座に反応して軸方向に沿って僅かに移動(微動)することができる。したがって、自動2輪車の急発進や急加速時において、駆動側プーリA及び従動側プーリBのそれぞれのプーリ幅が即座に僅かな量だけ狭くなり、前記ドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2及びドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12がVベルトを挟持する力が増加し滑りがほとんど無い、良好な回転伝達にすることができる。
【0063】
次に、本発明におけるVベルト式自動変速装置の急加速回転における動作を図15及び図16によって説明する。駆動側プーリAと従動側プーリBとの間には、Vベルト10が巻き掛けされている。前記駆動軸1が急発進や、急加速等を行うとき等の急加速回転が生じたときには、前記ドライブベースプーリ半体Aaはボス部材Abとのカム動作によって前記ドライブ可動プーリ半体2に向かって僅かな範囲(ΔLa)を移動(微動)する。この移動によって、前記ドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2との間隔が僅かに狭くなり、前記Vベルト10の幅方向両側を瞬時に押圧することができ、該Vベルト10とドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2との間に滑りが生じ難いようにすることができる。
【0064】
さらに、前記従動側プーリB側では、前記Vベルト10の回転がドリブンベースプーリ半体Baに伝達されて、該ドリブンベースプーリ半体Baが即座に反応して回転する。このドリブンベースプーリ半体Baは、カムリングBbとのカム動作によって、前記ドリブン可動プーリ半体12側に僅かな範囲(ΔLb)を移動(微動)する。この移動によって、前記ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12との間隔が僅かに狭くなり、前記Vベルト10の幅方向両側を瞬時に押圧することができる。これによって、駆動軸1の急加速回転における前記Vベルト10による前記駆動側プーリAから前記従動側プーリBへ、プーリとVベルトとの滑りが極めて少ない状態の回転伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明における駆動側プーリと従動側変速プーリとVベルトとの略示構成図である。
【図2】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)のXa-Xa矢視断面図である。
【図3】(A)はベースプーリ半体の斜視図、(B)は(A)の正面図である。
【図4】(A)はボス部材の斜視図、(B)はボス部材の背面図、(C)はボス部材の縦断側面図である。
【図5】(A)はベースプーリ半体とボス部材が接合された状態の正面図、(B)はベースプーリ半体とボス部材の要部分解側面図、(C)はベースプーリ半体とボス部材を接合した状態の要部側面図である。
【図6】(A)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが離間した状態図、(B)は(A)の可動カムと固定カムとの縦断側面図、(C)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが当接した状態図、(D)は(C)の可動カムと固定カムとの縦断側面図、(E)はベースプーリ半体の可動カムがボス部材の固定カムに当接して軸方向に微動離間した態図、(F)は(E)の可動カムと固定カムとの縦断側面図である。
【図7】(A)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが軸周方向において離間した状態の要部側面図、(B)はベースプーリ半体の可動カムがボス部材の固定カムに対して軸方向に微動離間した状態の要部側面図、(C)はベースプーリ半体が可動プーリ半体側に僅かに移動(微動)した状態図である。
【図8】(A)は別の実施形態として弾性部材を引張コイルスプリングとした本発明の一部断面とした要部拡大図、(B)は(A)の要部の縦断側面図である。
【図9】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)のXb-Xb矢視図である。
【図10】(A)はベースプーリ半体の斜視図、(B)は(A)の要部拡大図、(C)は(B)のXc-Xc矢視断面図、(D)は(C)の要部拡大図である。
【図11】(A)はカムリングの斜視図、(B)はカムリングの背面図、(C)はカムリングの縦断側面図、(D)はカムリングの正面図、(E)は(B)のXd-Xd矢視断面図、(F)は(E)の要部拡大図である。
【図12】(A)はベースプーリ半体とカムリングとが接合された状態の縦断側面図、(B)はベースプーリ半体とカムリングが軸状ピンによって接合された拡大断面図、(C)は(B)の要部拡大図である。
【図13】(A)はベースプーリ半体とカムリングとの分解した縦断側面図、(B)はカムリングの正面図、(C)はボス部材の縦断側面図、(D)は(C)のXe-Xe矢視図である。
【図14】(A)は本発明のベースプーリ半体とカムリングの作用図、(B)はベースプーリ半体が可動プーリ半体側に僅かに移動した状態の作用図である。
【図15】(A)は駆動軸が急加速回転を開始した状態の略示状態図、(B)は駆動軸の急加速回転によってドライブベースプーリ半体がドライブ可動プーリ半体側に向かって微動しようとする略示状態図である。
【図16】(A)はドライブ可動プーリ半体と微動したドライブベースプーリ半体との間隔が僅かに狭くなってVベルトに回転を伝達した略示状態図、(B)は駆動側プーリから急加速回転を伝達されたVベルトによってドリブンベースプーリ半体がドライブ可動プーリ半体側に向かって微動し従動軸に回転を伝達した略示状態図である。
【符号の説明】
【0066】
A…駆動側プーリ、Aa…ドライブベースプーリ半体、Ab…ボス部材、1…駆動軸、2…ドライブ可動プーリ半体、3…ベースプーリフェイス、3a…ボス孔部、
3d…背面側、4…可動カム、5…ボス軸部、6…環状基部、7…固定カム、
10…Vベルト、B…従動側プーリ、Ba…ドリブンベースプーリ半体、
Bb…カムリング、11…従動軸、12…ドリブン可動プーリ半体、13a…ボス孔部、13c…背面側、14…可動カム、15…ボス部材、17…固定カム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルト式自動変速装置を備えた自動二輪車の急発進,急増速等の急加速時において、駆動側プーリは、Vベルトとの滑りを防止し、該Vベルトの追従を極めて良好なものとすると共に、初動作時にプーリ幅を僅かに狭くなるように可変させ、エンジントルクに適合する側面荷重とし、Vベルトとのスリップを防止し、従動側プーリへの回転伝達効率の向上を図ることができ、また、従動側プーリにおいても駆動側プーリの回転伝達に対応してプーリ幅を僅かに狭くなるように可変させて駆動軸から従動軸への回転伝達を極めて良好なものとしたVベルト式自動変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の自動変速装置におけるエンジンの出力軸(駆動軸)によって回転する駆動側プーリは、固定プーリと可動プーリとを組み合わせて構成されたものであり、該可動プーリは、フライウエイトによって、前記駆動軸の軸方向に沿って固定プーリ側に近接するように移動させる構成とした装置が、特許文献1(特開昭56−35853号)に開示されている。
【0003】
また、従動側プーリにおける従来技術としては、エンジン等の動力発生源の発生トルクを駆動側の可変プーリから従動側の可変プーリへ、両プーリ間に巻き掛けられたVベルトにより伝え、そのトルクを伝える際には駆動側の可変プーリに設けられたウェイトローラに作用する遠心力と、従動側の可変プーリに設けたトルク検出機構とによりVベルトのプーリとの巻掛径を適宜変化させるVベルト式自動変速装置が存在する。そして、このようなVベルト式自動変速装置において、回転軸に一体固定される固定プーリと負荷トルクに応じて可動プーリを固定プーリへ近づける方向に付勢するカム機構が設けられているものも特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献2に開示されているものは、駆動側プーリの構成に駆動側カム機構が設けられており、また、従動側プーリの構成にも従動側カム機構が設けられ、それらのカム機構は、固定カムと可動カムから構成されている。そして、駆動側カム機構を構成する固定カムは、駆動軸に一体固定され、可動カムは可動プーリに一体固定されており、動力伝達時に常時当接しあうカム斜面を有している。その従動側カム機構を構成する固定カムは、従動軸に固定されるサイドプレートに一体固定され、可動カムは可動プーリに固定されて固定カムの斜面と当接する斜面を有している。
【0005】
上記のカム機構は、軸部材側に固定されている固定カムと可動プーリ側に固定されている可動カムとから構成されるものである。そして、そのカム機構を介して可動プーリを固定プーリに向けて移動させる。また、ベルト伝達力の大きさに応じて固定カム及び可動カムの互いに当接しあっている斜面によるカム力でプーリ溝を幅狭にする状態、つまりベルト巻掛径を大きくする方向へ移動する大きさを適宜調整するものである。
【0006】
次に、特許文献3には、固定プーリ半体を備えた固定プーリ軸と、可動プーリ半体を備えた可動プーリ軸とにカム溝をそれぞれ形成し、プーリガイドカラーのトルクカムピンをそれぞれカム溝に係合させたトルクカム機構が設けられていることが開示されている。このトルクカム機構が設けられた固定プーリは、可動プーリのように軸方向に移動可能にすることなく回動可能にしつつ、可動プーリ半体を備えた可動プーリ軸を回動可能且つ軸方向に移動可能にすることでVプーリの振れを防止してVベルトの耐久性を向上させるものである。
【特許文献1】特開昭56−35853号
【特許文献2】特開平4−151052号
【特許文献3】特開昭61−270548号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、固定プーリに対して可動プーリのみを移動させるカム機構であり、軸方向に可動プーリのみを押圧して、前記カム機構のカム力と、フライウエイト等の押圧力との合成力により、固定プーリに対する可動プーリとの間隔を適宜変化させながらベルト伝達力を駆動側プーリから従動側プーリに伝えている。さらに、前記駆動側プーリでは、ベルト伝達力を従動側プーリに伝達する際に、ベルト伝達摩擦力がプーリとベルト間に生じている。
【0008】
そして、Vベルト式自動変速装置において、急発進や、急増速における急激な加速回転時、たとえば急激にアクセルを開いたときの瞬間的な過大回転力(急激な過大トルク)に対して、Vベルトと、該Vベルトを挟持する固定プーリと可動プーリとの間に滑りを生じることがある。これは、急加速回転時では、固定プーリと可動プーリとによるVベルトへの挟持力が小さく、そのために滑りが生じるものである。これに対して、可動プーリは、駆動軸の回転速度が上昇するにしたがい、フライウエイトが作用して、固定プーリ側に移動するものであるが、急加速回転時には、フライウエイトが即座に反応することができず、その結果、可動プーリも急発進、急増速時には固定プーリ側への移動を開始することができない。
【0009】
このようなことによって、駆動軸の急加速回転時には、Vベルトによる回転動力を従動側プーリへ円滑且つ効率良く伝達することが困難になり、駆動側プーリから従動側プーリへのトルクの追従性が遅くなることになる。さらに、Vベルトと該Vベルトを挟持する可動プーリと固定プーリとの間に滑りが生じると、Vベルトとプーリフェイスとの間にこすれによる騒音が発生したり、或いは摩擦熱による異臭が発生し、またVベルトの寿命も極端に縮めることになる。
【0010】
特許文献2では、固定プーリに対して可動プーリのみを移動させるカム機構であり、従動側プーリではフライウェイトによって軸方向に可動プーリのみを押圧して、先のカム機構のカム力とフライウェイトの押圧力との合成力によりベルト伝達力を受けて回転軸に伝えている。また、駆動側プーリでは、バネによって軸方向に可動プーリのみを押圧して、先のカム機構のカム力とスプリング力との合成力によって駆動軸の回転力をベルトに伝達している。なお、従動側プーリにおいてカム機構のカム力とスプリング力との合成力によってベルト伝達力を受けて回転軸に伝えているものもある。
【0011】
特許文献1,2においてベルト伝達力を受ける際、ベルト伝達摩擦力がプーリとベルト間に生じている。このベルト伝達摩擦力は、ベルト伝達力に対してプーリを押す力が大きくなる場合、摩擦抵抗要素として作用して伝達効率に影響するものである。プーリを押す力におけるスプリング力は、プーリを押す力を特に大きく必要とする最大減速比時に対応させて設定されるので、プーリを押す力が小さくてもかまわない最小減速比時では、必要以上に大きくなり、摩擦抵抗要素として作用してしまい、伝達効率を低下させてしまうという課題がある。
【0012】
さらに、補足すると、最大減速比時(従動側プーリにおけるベルト巻掛径が最大時)は、可動プーリが固定プーリから離間しないように抵抗する力をカム力とスプリング力の合力で設定し、それに対して、最小減速比時(従動側プーリにおけるベルト巻掛径が最小時)では可動プーリが固定プーリから離間しやすいようにするという上記最大減速比時とは相反するような力を同じカムとスプリングにより設定して、最大減速比時及び最小減速比時の両方を満足させることは極めて困難なことである。
【0013】
特許文献3では、固定プーリと可動プーリにそれぞれ形成されたカム機構がプーリガイドカラーのトルクピンを軸方向に1箇所又は2箇所に設けられているので、構成部品が径方向又は軸長方向に大きくなり、装置が大型化するという問題点も存在する。本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的)は、急加速回転時における過大回転力の動力伝達に対して、プーリとVベルトとの間に滑りを生じることなく、安定して動力を従動側プーリへ円滑且つ効率良く伝達すると共に、プーリとベルト間のベルト伝達摩擦力を最適な状態とし、Vベルト伝達の高効率化を図ることにある。また、従動側プーリにおいて、Vベルト伝達の高効率化を狙って、よりエンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができるVベルト式自動変速装置を提供することを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなる駆動側プーリと、従動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体と、ドリブンベースプーリ半体とからなる従動側プーリと、前記駆動側プーリと従動側プーリとの間に掛けられるVベルトとからなり、前記ドライブベースプーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体は、前記Vベルトの急加速回転時に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動してなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0015】
請求項2の発明を、前述の構成において、前記駆動側プーリの前記ドライブベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成されてなり、前記ボス部材は、前記ボス孔部に挿通されると共に前記ドライブベースプーリ半体が摺動自在に支持されるボス軸部と,該ボス軸部の周囲に形成された固定カムとからなり、且つ前記ボス部材は前記駆動軸に固定され、前記可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドライブベースプーリ半体と前記ドライブ可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0016】
請求項3の発明を、前述の構成において、前記従動側プーリの前記ドリブンベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成され、前記ボス部材に前記ボス孔部が挿通され摺動自在に支持され、前記ボス部材の軸端部に固着されるカムリングの環状基部に固定カムが形成され前記可動カムと前記固定カムとは常時接合状態に弾性付勢され、前記可動カムが前記固定カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドリブンベースプーリ半体と前記ドリブン可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなるVベルト式自動変速装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によって、駆動側プーリは、駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなり、前記ドライブ可動プーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動する。また前記従動側プーリは、前記ドリブンベースプーリ半体が前記Vベルトの急加速回転時に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動するようにしたものである。そして、自動2輪車が急発進や増速等の急加速回転時に過大回転力となった場合、前記ドライブベースプーリ半体が前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動し、プーリ幅(間隔)が僅かに狭くなり、Vベルトの幅方向両側への挟持力を増加させるものである。これによって、急発進,急加速時等の急加速回転において、前記プーリからVベルトに滑りがほとんど無い状態で、回転伝達を与え、従動側プーリに回転を伝達することができる。
【0018】
さらに、従動側プーリでは、前記駆動側プーリからの急加速回転によるVベルトの回転が前記ドリブンベースプーリ半体に伝達され、該ドリブンベースプーリ半体が回転すると共に前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動し、プーリ幅(間隔)が僅かに狭くなり、Vベルトの幅方向両側への挟持力を増加させるものである。このように従動側プーリにおいてもVベルトの幅方向両側への挟持力が増加し、Vベルトから従動側プーリへ、より一層確実に回転伝達が行われる。そして、増速に対して次第に軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体及びドリブン可動プーリ半体とは異なり、前記ドライブベースプーリ半体及びドリブンベースプーリ半体はそれぞれ急加速回転のときのみに即座に反応して軸方向に沿って僅かに移動(微動)することができるので、自動2輪車の急発進や急加速時において、駆動側プーリ及び従動側プーリのそれぞれのプーリ幅が僅かに狭くなり、前記駆動側プーリ及び従動側プーリの両方共が、急加速回転でのプーリとVベルトとの滑りがほとんど無く、良好な回転伝達にすることができる。
【0019】
請求項2の発明によって、駆動側プーリにおいては、急激にアクセルを開いた時の回転力で特に過大回転力となった場合等、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間するようにしたので、前記可動カムと共に可動プーリ半体が前記駆動側プーリ方向に沿って移動することができる。これによって、急発進や急増速時にはベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を瞬時に狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。そして、駆動側プーリから従動側プーリへの動力伝達を安定させることができ、円滑かつ効率良く伝達することができる。さらに、プーリとVベルト間のベルト伝達摩擦力を最適にし、Vベルト伝達の高効率化を図ることができ、エンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができる。
【0020】
また、可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記可動カムと前記固定カムの当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させるカム面としたことによって、可動カム部と固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間されているので、低速発進時には、前記ベースプーリ半体は、軸方向に対して不動であり、通常の発進は滑らかに行われる。また、前記固定カムの少なくともいずれか一方の当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させるカム面としているので、急発進或いは急増速時の場合のみ前記固定カムが前記可動カムに当接して、ベースプーリ半体が軸方向に対して移動することとなり、急発進や急増速時にはベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を瞬時に狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。
【0021】
前記可動カムと前記固定カムの両当接部は共に面接触する傾斜面とすることにより、可動カムと固定カムとは、傾斜面同士で接合することによって、可動カムが固定カムの傾斜面を安定した状態で移動することができ、ベースプーリ半体の可動プーリ半体側への移動も極めて円滑に行われるものである。また、前記可動カムと前記固定カムの両当接部の間には弾性部材として圧縮コイルスプリングが装着され、前記可動カム及び前記固定カムには、両当接部から内部に向かって窪み部が形成され、前記圧縮コイルスプリングの長手方向両端箇所が前記窪み部に収納されることにより、可動カムと固定カムとの限られたスペースにおいて適宜全長の圧縮コイルスプリングを設けることができ、可動カムと固定カムとの間に圧縮コイルスプリングを安定して装着することができる。また、圧縮コイルスプリングによって容易に可動カムと、固定カムとの間を弾性的に離間した状態にすることができると共に、可動カムと固定カムの両当接部である傾斜面同士を密着状に当接させることができ、可動カムは固定カムの傾斜面に対して安定した移動を行うことができる。
【0022】
さらに、前記ボス部材の固定カムの当接部側には適宜の間隔をおいて規制突起が形成されることにより、前記可動カムは、固定カムと規制突起との間に収められた状態となり、弾性部材によって可動カムが固定カムから離れすぎないように位置を規制し、駆動軸の急加速回転時以外では、可動カムを常時安定した状態に維持することができるものである。さらにまた、前記可動カム部は、前記ボス孔部の周囲に円周方向に沿って等間隔に複数形成されると共に前記側固定カム部は前記可動カムと同数で且つ等間隔に形成されることにより、駆動軸の急加速回転に対してベースプーリ半体は、複数の可動カムと、同数の固定カムとの当接によって、急激な衝撃を複数の可動カムと固定カムが分散するようになり、可動カム及び固定カムの耐久性を向上させることができるものである。
【0023】
請求項3の発明によって、Vベルトを介して前記ベースプーリ半体の可動カムが固定カムに当接されると共に、前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間するようにしたので、前記可動カムと共に可動プーリ半体が前記駆動側プーリ方向に沿って移動することができる。これによって、駆動側プーリによるVベルトの張力によりベースプーリ半体が前記可動プーリ半体側に移動し、Vベルトの幅方向両側に押圧力を発生させてVベルトとプーリとを接触させ、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。そして、駆動側プーリから従動側プーリへの動力伝達を安定させることができ、円滑かつ効率良く伝達することができる。さらに、プーリとVベルト間のベルト伝達摩擦力を最適にし、Vベルト伝達の高効率化を図ることができ、エンジントルクに合った適正な側面荷重を発生させることができる。
【0024】
また、プーリを押す力におけるスプリング力を適宜軽減することができ、ベースプーリ半体と可動プーリ半体は、Vベルトに対して過大な側面荷重をかけることなく、Vベルトの磨耗を防ぎ、長寿命化が図れる。さらに、最初に設定されるスプリング力が従来構造に使用されるスプリング力より適切に低くすることができるので、低いエンジントルク域でのスプリング力による余分な力が小さくなり、フリクションロスを低減することができ、変速全域における伝達効率を向上させることができる。また、可動プーリ半体の作動を安定させることができる。また、軸方向又は径方向に大きくなるような構造を設ける必要が無く、装置の大型化が防げる。
【0025】
また、前記固定カムの少なくともいずれか一方の当接部位は、前記固定カムの駆動軸の回転方向に伴って前記可動カムを前記駆動軸の軸方向に離間させる傾斜面とすることにより、前記固定カムが前記可動カムに当接して、ベースプーリ半体が軸方向に対して移動することとなり、ベースプーリ半体が瞬時に応答して前記可動プーリ半体側に移動し、プーリ幅を狭くしてVベルトの幅方向両側に押圧力をもって接触し、Vベルトとプーリとの間に生じる滑りを防止することができる。
【0026】
また、固定カムの駆動軸の回転方向に、可動カムを駆動軸の軸方向に離間させる傾斜面のカムを設けたことで、ベースプーリ半体にカム力を安定して作用させることができ、エンジントルクに適宜対応したベルト伝達力に対してベースプーリ半体と可動プーリ半体とを良好に作動させることができる。更に、傾斜面を適宜変更することで種々のカムを容易に設けることができ、可動プーリ半体のカム力やスプリング力に対して傾斜面を設定し、カム力を適宜設定することができる。その他の効果は、請求項1の効果と略同等である。
【0027】
さらに、前記ベースプーリ半体と前記カムリングとは常時接合状態に弾性付勢されることにより、Vベルトからの回転伝達に対して、前記ベースプーリ半体は、前記可動プーリ半体との間隔を狭くすることができ、Vベルトとの滑りを防止することができる。また、弾性付勢することで、固定カムに対して可動カムが駆動軸の軸方向に離間した場合、離間前の元の位置への復帰を容易にさせることができ、ベースプーリ半体の作動を安定させることができる。
【0028】
さらに、前記ベースプーリ半体と前記カムリングとは、弾性を有する軸状ピンを介して接合されることにより、ベースプーリ半体とカムリングとの接合構造と離間時の復帰構造とを極めて簡単な構造にすることができる。また、前記ベースプーリ半体の可動カムの当接部側には適宜の間隔をおいて規制部が形成されたことにより、前記固定カムは、可動カムと規制部との間に収められた状態となり、可動カムが固定カムから離れすぎないように位置を規制し、可動カムを常時安定した状態に維持することができるものである。
【0029】
また、前記可動カム部は、前記ボス孔部の周囲に円周方向に沿って等間隔に複数形成されると共に前記側固定カム部は前記可動カムと同数で且つ等間隔に形成されることにより、ベースプーリ半体は、複数の可動カムと、同数の固定カムとの当接によって、複数の可動カムと固定カムが分散するようになり、可動カム及び固定カムの耐久性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、本発明のVベルト式自動変速装置は、図1に示すように、主に、駆動軸1,駆動側プーリA,従動側プーリB,Vベルト10及び従動軸11等から構成されている。前記駆動側プーリAは、主にドライブ可動プーリ半体2と、ドライブベースプーリ半体Aaと、ボス部材Abとから構成される。前記従動側プーリBは、主に、ドリブン可動プーリ半体12とドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとから構成される。
【0031】
まず、駆動側プーリAについて図2乃至図8に基づいて説明する。前記駆動軸1は、エンジンの出力軸である。前記ドライブ可動プーリ半体2は、ウエイトローラ2e,ローラ支持プレートプ2fが構成部材として装着されている。ドライブ可動プーリ半体2は、可動プーリフェイス2aと、可動ボス部2dとから構成されたものである。そして、前記可動プーリフェイス2aは、扁平円錐面状の部分が表面側2bであり、該表面側2bの反対側面が背面側2cである。背面側2cには、複数のウエイトローラ2eが配置され、さらにローラ支持プレートプ2fによって、前記ウエイトローラ2eが支持されている〔図2(A)参照〕。前記ローラ支持プレートプ2fは、前記駆動軸1に軸方向に不動となるように固着されており、駆動軸1が回転することにより、遠心力にて前記ウエイトローラ2eが可動プーリフェイス2aの可動ボス部2d側から外周側に移動し、前記ドライブ可動プーリ半体2を後述するドライブベースプーリ半体Aa側に移動させる。
【0032】
ドライブベースプーリ半体Aaは、図3に示すように、ベースプーリフェイス3と可動カム4とから構成されている。前記ベースプーリフェイス3は中心にボス孔部3aが形成されている。該ボス孔部3aには、後述するボス部材Abのボス軸部5が挿入される。また前記ベースプーリフェイス3には、表面側3cと背面側3dとが存在する。前記表面側3cと背面側3dとは表裏の関係にある。該背面側3dで且つボス孔部3aの周囲には、複数の可動カム4が一体成形されている。具体的には、3個の可動カム4が等間隔に形成されている。
【0033】
さらに隣接する可動カム4,4の間には、前記ボス部材Abの固定カム7と規制突起9が形成配置されている〔図2(B)参照〕。前記可動カム4は、前記ボス部材Abの固定カム7と当接する部位を当接部4aと称する。さらに、可動カム4の頂部4bは、平坦状に形成されている。また可動カム4の外周側部4cは、円弧状に形成されている。内周側は前記ボス孔部3aの周囲のベースボス部3bに一体成形されている。さらに、後面部4dは、平坦面状に形成されたものである。また、前記当接部4aと頂部4bに亘って窪み部4eが形成されている。該窪み部4eは、前記当接部4aと頂部4bが開口された窪み又はへこみ形状の部位であり、後述する圧縮コイルスプリング8aの長手方向の一端が収納される。
【0034】
前記当接部4aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部4aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部4aの付根箇所よりも前記頂部4b 側が可動カム4の正回転方向に沿って、先行するように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図5(B),(C)に示すように、後述するボス部材Abの正回転方向における固定カム7の当接部7aの右下り方向の傾斜面に対して、前記当接部4aの傾斜方向は、左上がり方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは、前進する方向に駆動軸1,ドライブベースプーリ半体Aa及びボス部材Abが回転する方向のことである(図5参照)。
【0035】
次に、ボス部材Abは、図4に示すように、ボス軸部5、鍔状部6及び固定カム7から構成されている。前記ボス軸部5は、略円筒形状に形成され、軸部5aの中心部に係止溝付きの固定用孔5bが形成されている。前記固定用孔5bに形成された係止溝は具体的にはスプラインであり、前記駆動軸1の軸端部箇所にナット等の固着具にて固着される。前記鍔状部6は、円板形状に形成されたものであり、該鍔状部6には前記軸部5aの周囲に複数の固定カム7が形成されている。前記固定カム7において、前述の可動カム4の当接部4aと当接する部位を当接部7aと称する。さらに、固定カム7の頂部7bは、平坦状に形成されている。また固定カム7の外周側部7c及び内周側部7dは円弧状に形成されている。
【0036】
さらに、後面部7eは、平坦面状に形成されたものである。さらに、前記当接部7aと頂部7bに亘って窪み部7fが形成されている。該窪み部7fは、前記当接部7aと頂部7bが開口された窪み又はへこみ形状の部位であり、後述する圧縮コイルスプリング8aの長手方向の他端が収納される。前記当接部7aは、傾斜面状に形成されている。前記当接部7aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部7aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部7aの付根箇所よりも前記頂部7b側がボス部材Abの正回転方向に沿って、後方となるように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図5(B),(C)に示すように、前記ドライブベースプーリ半体Aaの正回転方向における可動カム4の当接部4aの左上がり方向の傾斜面に対して、前記当接部7aの傾斜方向は、右下がり方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは前述した通りの方向である(図5参照)。
【0037】
次に、前記駆動側プーリAの構成について説明する。まず、図2に示すように前記駆動軸1の軸本体部1aの主軸部1bに円筒状カラー部材1eが装着される。このとき、前記円筒状カラー部材1eの軸端部と大径軸部1cとの段部箇所との間に前記ローラ支持プレートプ2fが挟持固定され、複数のウエイトローラ2eが所定位置に配列された状態で、前記ドライブ可動プーリ半体2が前記円筒状カラー部材1eに摺動自在に装着される。次に、前記ドライブベースプーリ半体Aaのボス孔部3aに、前記ボス部材Abの軸部5aが挿入される。前記ドライブベースプーリ半体Aaは、前記ボス部材Abの軸部5aの軸方向に対して僅かの範囲で摺動自在となっている。また前記ドライブベースプーリ半体Aのボス孔部3aと、前記ボス部材Abの軸部5aとの間には軸受1gが設けられている〔図2(A),図7(C)参照〕。
【0038】
そして、前記可動カム4の当接部4aと、固定カム7の当接部7aとが対向するようにして配置され、前記窪み部4e及び窪み部7fに前記圧縮コイルスプリング8aの長手方向両端が収納され、前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構成とされる〔図2(B),図5(C)参照〕。そして、前記ボス部材Abの軸部5aに形成された固定用孔5bが前記駆動軸1の軸端部付近に形成された軸スプライン等の係合部1dに固定され、駆動軸1の軸端部に形成された螺子軸部にナット等の固着具にてボス部材Abが駆動軸1に固定される。
【0039】
また、前記ボス部材Abの軸部5aの軸端部と前記円筒状カラー部材1eの軸方向端部との間には、図2(A),図7(C)に示すように、ワッシャ1fが挟持状態で装着されている。該ワッシャ1fは、前記ドライブベースプーリ半体Aaの軸方向への移動範囲を規制する役目をなすものである。前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構造の別の実施形態として、図8に示すように、弾性部材として、引張コイルスプリング8bが使用されることもある。この実施形態では、前記可動カム4の後面部4dと、前記規制突起9との間に引張コイルスプリング8bが連結されるものである。該引張コイルスプリング8bによって、前記可動カム4の後面部4dと、前記規制突起9とが弾性的に吸引され、前記可動カム4と前記固定カム7とが弾性的に離間する構造となる。
【0040】
次に、駆動側プーリAにおける作動を説明する。まず、ボス部材Abの固定カム7の当接部7aは、ボス部材Abの固定カム7と前記のドライブベースプーリ半体Aaの背面の可動カム4とは、圧縮コイルスプリング8aにより常時非接触状態で弾性的に離間している〔図6(A),(B)及び図7(A)参照〕。そして、駆動軸1に過大な回転力によって急加速回転となると、前記圧縮コイルスプリング8aの弾性反発力(荷重)に抗して、前記圧縮コイルスプリング8aが縮められ、可動カム4の当接部4aと、固定カム7の当接部7aとが離間した非接触状態から当接した接触状態となる〔図6(C),(D)参照〕。
【0041】
さらに、急加速回転が続くと、前記可動カム4の当接部4aと、前記固定カム7の当接部7a同士の当接において、相互の押圧力が増加し、その押圧力の一部が回転方向から軸方向に変換され、前記可動カム4が前記固定カム7に対して軸方向へ(僅かに)移動(微動)することになる〔図6(E),(F)及び図7(B)参照〕。そして、前記可動カム4の軸方向への移動(微動)と共に、前記ドライブベースプーリ半体Aaを(遠心ローラを有する)ドライブ可動プーリ半体2側へ軸方向に沿って僅かな距離ΔLaだけ移動(微動)させることができる〔図7(C)参照〕。これによって、急発進時等の急加速回転では、前記ドライブベースプーリ半体Aaが前記ドライブ可動プーリ半体2側に僅かな距離ΔLaだけ移動(微動)して近接することになり、Vベルト10を幅方向より瞬間的に強い圧力を有して挟持することになり、Vベルト10は前記ドライブベースプーリ半体Aa及びドライブ可動プーリ半体2との滑りを防止することができる。
【0042】
通常時の回転力では、ドライブベースプーリ半体Aaの可動カム4と、ボス部材Abの固定カム7とが非接触となるように弾発している圧縮コイルスプリング8aの弾性力によって、可動カム4と固定カム7とが非接触状態のままでドライブベースプーリ半体Aaが回転してVベルト10に回転力を伝えることができる。そのために、ボス部材Abの固定カム7と、ドライブベースプーリ半体Aaの可動カム4との間に装着された圧縮コイルスプリング8aの弾性力(荷重)は、駆動軸1の通常時の回転力よりも大きく、且つ急激にアクセルを開いたような急加速回転力〔非常時の回転力(過大回転力)〕よりも小さく設定される。
【0043】
次に、従動側プーリBについて図9乃至図14に基づいて説明する。該従動側プーリBは、図9(A)に示すように従動軸11と、ドリブン可動プーリ半体12と、ボス部材15と、ドリブンベースプーリ半体Baと、カムリングBbとから構成される。前記ボス部材15は、図13(C)に示すように、円筒軸部15aと鍔状部15bとから形成されている。該鍔状部15bは、図13(D)に示すように、円板状に形成され、等間隔に係合凹部15cが形成されている。該係合凹部15cは、後述するカムリングBbの係合突起部16aと係合して、前記カムリングBbをボス部材15に固定する役目をなす。該ボス部材15は、前記従動軸11に対して遠心クラッチ20を介して接合され、ボス部材15と従動軸11とが共に回転する。
【0044】
前記ドリブン可動プーリ半体12は、図9(A)に示すように、可動プーリフェイス12aと、可動ボス部12dとから構成されたものである。そして、前記可動プーリフェイス12aは、扁平円錐面状の部分が表面側12bであり、該表面側12bの反対側面が背面側12cである。背面側12cには、弾発スプリングが配置され、後述するドリブンベースプーリ半体Ba側に向かって弾性的に付勢され、Vベルト10の回転が上昇するにしたがって、前記ドリブンベースプーリ半体Ba側に移動させる。
【0045】
ドリブンベースプーリ半体Baは、図9,図10(A),図13(A)等に示すように、ベースプーリフェイス13と可動カム14とから構成されている。前記ベースプーリフェイス13は、中心にボス孔部13aが形成されている。該ボス孔部13aには、前記ボス部材15の円筒軸部15aが挿入される〔図9(A)参照〕。また、ベースプーリフェイス13には、表面側13bと背面側13cとが存在する。前記表面側13bと背面側13cとは、表裏の関係にある。該背面側13cで且つボス孔部13aの周囲には、図10(A),(B)に示すように円周状の溝状部13dが形成され、該溝状部13d内に複数の可動カム14が設けられている。具体的には、3個の可動カム14が等間隔に形成されている。該可動カム14は、前記ベースプーリフェイス13と一体成形としたり、又は別部材として形成されている。
【0046】
さらに隣接する可動カム14,14の間には規制部19が形成されている。前記可動カム14は、後述する固定カム17と当接する部位を当接部14aと称する。さらに、可動カム14の頂部14bは、平坦状に形成されている。前記当接部14aは、カム面としての役目をなす傾斜面として形成されている。その当接部14aの傾斜面の傾斜方向は、該当接部14aの付根箇所よりも前記頂部14b側が可動カム14の正回転方向に沿って、先行するように形成された傾斜面となっている。さらに具体的には、図12(B),(C)及び図14(A)に示すように、後述するボス部材15の正回転方向における固定カム17の当接部17aの左下り方向の傾斜状面に対して、前記当接部14aの傾斜方向は、右上り方向に傾斜する面となっている。ここで、正回転方向とは、前進する方向に従動軸11,ドリブンベースプーリ半体Ba及びカムリングBbが回転する方向のことである(図12参照)。
【0047】
さらに隣接する可動カム14,14の間には、軸状ピン18用の係止部13eが形成されている。該係止部13eは、2つの貫通孔13f,13gが形成され、前記2つの貫通孔13f,13gの間の係止肉部13hによって、後述する軸状ピン18の軸方向両端が係止される。該係止部13eは、前記可動カム14と共に前記溝状部13d内に形成されている〔図10(B),(C)参照〕。前記規制部19は、前記可動カム14とは反対方向となる傾斜面を有している。
【0048】
そして、ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとが接合された状態で、可動カム14と規制部19との間にカムリングBbの固定カム17が収められた状態となる〔図12(B),(C)参照〕。このようにして、前記規制部19は、前記可動カム14と前記固定カム17との相対的な移動範囲を規制する役目をなしている。次に、カムリングBbは、図11(A),(B)に示すように、環状基部16に固定カム17が形成されたもので、合成樹脂製又は金属製により一体成形されたものである。前記固定カム17は、前記環状基部16から軸方向に膨出形成されたものである。そして、固定カム17において、前記可動カム14の当接部14aと当接する部位を当接部17aと称する〔図11(E),(F)参照〕。
【0049】
さらに、固定カム17の頂部17bは、平坦状に形成されている。また固定カム17の外周側部17c及び内周側部17dは円弧状に形成されている。また、後面部17eは、傾斜状に形成されたものである。また、前記環状基部16には、被係合窪み部16bが形成されている。該被係合窪み部16bは、隣接する固定カム17,17の間に形成されたものであり、後述するカムリングBbが前記ドリブンベースプーリ半体Baのボス孔部13aの周囲に接合されるための軸状ピン18が係合する部位となる。
【0050】
まず、前記従動軸11にボス部材15の円筒軸部15aが装着される。そして、ドリブンベースプーリ半体Baのベースプーリフェイス13の背面側13cで且つボス孔部13aの周囲の箇所にカムリングBbが軸状ピン18を介して接合される〔図12(B),(C)参照〕。また、前記環状基部16の内周側の適宜の箇所に係合突起部16aが形成されている。該係合突起部16aは、前記ボス部材15の鍔状部15bに形成された係合凹部15cと係合するものであり、カムリングBbが前記ボス部材15の鍔状部15bと係合させて、ボス部材15の軸周方向に不動となるように固定され、前記カムリングBbから前記ボス部材15に回転が伝達されるようになっている〔図9(B)参照〕。
【0051】
そして、前記カムリングBbの固定カム17は、前記ドリブンベースプーリ半体Baの可動カム14と規制部19との間に遊挿される。このとき、前記固定カム17は、ドリブンベースプーリ半体Baの溝状部13d内に遊挿されることになる。したがって、該溝状部13dと前記固定カム17とが相互に案内部としての役目をなし、前記可動カム14が適正方向に移動することができるようになっている。さらに前記可動カム14の当接部14aと、固定カム17の当接部17aとが対向するようにして配置され、前記軸状ピン18の弾性力によって、前記可動カム14と固定カム17とが弾性的に押圧当接するように設定される。前記軸状ピン18は、図12(B),(C)に示すように、略「ヘ」字形状に屈曲形成された弾性を有する軸部材である。該軸状ピン18は、長手方向において略中央箇所から一方側が取付部18aであって、他方側が嵌合軸部18dである。前記取付軸部18aは、円弧状部18bと係止先端部18cとから構成されている。
【0052】
前記取付部18aの係止先端部18cが前記貫通孔13fから係止肉部13hの内面側を通過してもう一つの貫通孔13gから突出するようにして、ベースプーリフェイス13の背面側13cに前記係止先端部18cが係止されるものである。この状態で前記係止先端部18cは、ベースプーリフェイス13の背面側13cから外方に突出するように設置される。その突出した係止先端部18cは、弾性を有しており、常時背面側13cに向かって弾性付勢されている。一方、前記カムリングBbの環状基部16には、被係合窪み部16bが形成されている。
【0053】
該被係合窪み部16bには、前記軸状ピン18の嵌合軸部18dが遊挿すると共に、前記被係合窪み部16b内に形成された被係合突起片16cに係合し、前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbとが接合する。前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbは、前述したように、軸状ピン18によって接合されており、前記固定カム17が、ドリブンベースプーリ半体Ba側の当接部14aと前記規制部19との間に挿入されている。さらに、前記軸状ピン18の嵌合軸部18dによる弾性によって、前記可動カム14の当接部14aと、前記固定カム17の当接部17aとが常時当接状態となるように押圧されている〔図12(B),(C)参照〕。
【0054】
そして、前記軸状ピン18によって、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとが弾性付勢された状態で接合されることで、前記固定カム17に対して前記可動カム14が従動軸11の軸方向に微動離間(僅かに移動して離間)した場合、その微動離間前の元位置への復帰を容易にさせることができ、前記ドリブンベースプーリ半体Baの作動を安定させることができる。さらに、前記ボス部材15にドリブン可動プーリ半体12が装着され弾発スプリング12eにて前記ドリブンベースプーリ半体Baに向かって弾性的に付勢される。
【0055】
また、前記従動軸11とボス部材15とは、遠心クラッチ20によって連結可能な構成である。該遠心クラッチ20は、クラッチプレート20a,クラッチウエイト20b及びクラッチアウタ20dから構成されたものであり、前記クラッチプレート20aにクラッチウエイト20bが枢支連結されている。そして、遠心クラッチ20は、遠心力にて前記クラッチウエイト20bと共に該クラッチウエイト20bに装着されたライニング20cが前記クラッチアウタ20dの内周面に接触し、前記Vベルト10から前記ドリブンベースプーリ半体Ba及びドリブン可動プーリ半体12等を介して前記従動軸11に回転力の伝達を行うものである。
【0056】
次に従動側プーリBにおける作動を説明する。前記カムリングBbは、前記従動軸11の同軸心上に配置されたボス部材15の円筒軸部15aの軸方向端部箇所に係合固定され、前記カムリングBbとボス部材15とが共に回転するものである。前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記ボス部材15の円筒軸部15aの軸方向端部に装着され、前記カムリングBbの固定カム17の当接部17aと、前記ドリブンベースプーリ半体Baの背面側13cに設けられた可動カム14とが対向して当接されている〔図12(B),(C)及び図14(A)参照〕。次に、前記従動側プーリBのドリブン可動プーリ半体12は、従動軸11の同軸心上に配置されたボス部材15の円筒軸部15aの軸方向に摺動可能に装着されている。
【0057】
前記ドリブンベースプーリ半体Baは、ドリブン可動プーリ半体12の作動によって、前記カムリングBbに対して前記可動カム14が固定カム17の傾斜面とした当接部17aに沿って移動することにより、前記可動カム14は軸方向の変位jaと、軸周方向の変位jbとが同時に行われ、当接部14aの傾斜面に沿った方向への変位jとすることができる。この変位jによって、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbと軸方向に沿って僅かに移動して離間(微動)し〔図14(A)参照〕、前記ドリブンベースプーリ半体Baがドリブン可動プーリ半体12側へΔLbの量だけ僅かに移動(微動)することになる〔図14(B)参照〕。このΔLbの量だけ僅かに移動することによって、Vベルト10は前記ドリブンベースプーリ半体Baと、ドリブン可動プーリ半体12とによって、両側から押圧され、Vベルト10を挟みつけるようにしている。
【0058】
また、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbと軸状ピン18によって接合されており、該軸状ピン18の嵌合軸部18dが被係合窪み部16bの被係合突起片16cに係合しているので、前記嵌合軸部18dの弾性力によって、前記ドリブンベースプーリ半体Baと前記カムリングBbとは所定距離以上は離間しないようになっており、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとは、常時適正な離間距離を維持するものであり〔図14(B)参照〕、非駆動状態では、前記ドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBbとは、前記軸状ピン18の弾性力によって最も近接した接合状態となる。
【0059】
上述したように、前記ドリブンベースプーリ半体Baは、前記カムリングBbに対して軸方向に微動離間し、前記ドリブンベースプーリ半体Baがドリブン可動プーリ半体12側へ僅かに移動する構造である。これによって、Vベルト10は前記ドリブンベースプーリ半体Baと、ドリブン可動プーリ半体12とによって、両側から押圧され、Vベルト10を挟みつけることができる、ドリブン可動プーリ半体12をドリブンベースプーリ半体Ba側に押す弾性力を適宜軽減することができる。そして、ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12とは、Vベルト10に対して過大な側面荷重をかけることなく、Vベルトの磨耗を防ぎ、長寿命化が図れる。さらに、最初に設定される弾発スプリング12eの弾性力が従来構造に使用される弾性力により適切に低くすることができるので、低いエンジントルク域での弾性力による余分な力が小さくなり、フリクションロスを低減することができ、変速全域における伝達効率を向上させることができる。
【0060】
また、ドリブン可動プーリ半体12の作動を安定させることができる。さらに前記可動カム14の当接部14aを傾斜面とし、前記固定カム17の当接部17aとの当接によって、軸方向に微動離間させるようにしたことで、前記ドリブンベースプーリ半体Baにカム力を安定して作用させることができ、エンジントルクに適宜対応したベルト伝達力に対して前記ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12とを良好に作動させることができる。このようにドリブンベースプーリ半体Baを設けることで、前記ドリブン可動プーリ半体12側においては、弾発スプリング12eの力(荷重)を低減することができるので、ベルト伝達摩擦力を最適にすることができる。そして、弾発スプリング12eの弾性力が低減できることで、最大減速比時のドリブン可動プーリ半体12がドリブンベースプーリ半体Baから離間しないように抵抗する力を、前記ドリブンベースプーリ半体Baの可動カム14と、カムリングBbの固定カム17との当接による押圧力と、前記可動カム14側の弾発スプリング12eのスプリング力との合力で設定することができる。
【0061】
また、最小減速比時では最大減速比時に合わせて、前記弾発スプリング12eは、低減されているので、ドリブン可動プーリ半体12とドリブンベースプーリ半体Baとは離間し易いようにできる。このように、総合的なスプリングの力(荷重)をドリブン可動プーリ半体12側の弾発スプリング12e及びカム力と、ドリブンベースプーリ半体Ba側のカム力との相対的な合力によって低減することができ、最大減速比時及び最小減速比時の両方を満足させることができる。即ち、これまで単にスプリング力の大きさを低減することが難しかったことをドリブンベースプーリ半体BaとカムリングBb及びドリブン可動プーリ半体12のカムとの2つのカム力にて達成することができる。
【0062】
本発明では、前記駆動側プーリAのドライブベースプーリ半体Aa及び前記従動側プーリBのドリブンベースプーリ半体Baは、増速に対して次第に軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体2及びドリブン可動プーリ半体12とは異なり、前記ドライブベースプーリ半体Aa及びドリブンベースプーリ半体Baはそれぞれ急加速回転のときのみに即座に反応して軸方向に沿って僅かに移動(微動)することができる。したがって、自動2輪車の急発進や急加速時において、駆動側プーリA及び従動側プーリBのそれぞれのプーリ幅が即座に僅かな量だけ狭くなり、前記ドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2及びドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12がVベルトを挟持する力が増加し滑りがほとんど無い、良好な回転伝達にすることができる。
【0063】
次に、本発明におけるVベルト式自動変速装置の急加速回転における動作を図15及び図16によって説明する。駆動側プーリAと従動側プーリBとの間には、Vベルト10が巻き掛けされている。前記駆動軸1が急発進や、急加速等を行うとき等の急加速回転が生じたときには、前記ドライブベースプーリ半体Aaはボス部材Abとのカム動作によって前記ドライブ可動プーリ半体2に向かって僅かな範囲(ΔLa)を移動(微動)する。この移動によって、前記ドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2との間隔が僅かに狭くなり、前記Vベルト10の幅方向両側を瞬時に押圧することができ、該Vベルト10とドライブベースプーリ半体Aaとドライブ可動プーリ半体2との間に滑りが生じ難いようにすることができる。
【0064】
さらに、前記従動側プーリB側では、前記Vベルト10の回転がドリブンベースプーリ半体Baに伝達されて、該ドリブンベースプーリ半体Baが即座に反応して回転する。このドリブンベースプーリ半体Baは、カムリングBbとのカム動作によって、前記ドリブン可動プーリ半体12側に僅かな範囲(ΔLb)を移動(微動)する。この移動によって、前記ドリブンベースプーリ半体Baとドリブン可動プーリ半体12との間隔が僅かに狭くなり、前記Vベルト10の幅方向両側を瞬時に押圧することができる。これによって、駆動軸1の急加速回転における前記Vベルト10による前記駆動側プーリAから前記従動側プーリBへ、プーリとVベルトとの滑りが極めて少ない状態の回転伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明における駆動側プーリと従動側変速プーリとVベルトとの略示構成図である。
【図2】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)のXa-Xa矢視断面図である。
【図3】(A)はベースプーリ半体の斜視図、(B)は(A)の正面図である。
【図4】(A)はボス部材の斜視図、(B)はボス部材の背面図、(C)はボス部材の縦断側面図である。
【図5】(A)はベースプーリ半体とボス部材が接合された状態の正面図、(B)はベースプーリ半体とボス部材の要部分解側面図、(C)はベースプーリ半体とボス部材を接合した状態の要部側面図である。
【図6】(A)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが離間した状態図、(B)は(A)の可動カムと固定カムとの縦断側面図、(C)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが当接した状態図、(D)は(C)の可動カムと固定カムとの縦断側面図、(E)はベースプーリ半体の可動カムがボス部材の固定カムに当接して軸方向に微動離間した態図、(F)は(E)の可動カムと固定カムとの縦断側面図である。
【図7】(A)はベースプーリ半体の可動カムとボス部材の固定カムとが軸周方向において離間した状態の要部側面図、(B)はベースプーリ半体の可動カムがボス部材の固定カムに対して軸方向に微動離間した状態の要部側面図、(C)はベースプーリ半体が可動プーリ半体側に僅かに移動(微動)した状態図である。
【図8】(A)は別の実施形態として弾性部材を引張コイルスプリングとした本発明の一部断面とした要部拡大図、(B)は(A)の要部の縦断側面図である。
【図9】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)のXb-Xb矢視図である。
【図10】(A)はベースプーリ半体の斜視図、(B)は(A)の要部拡大図、(C)は(B)のXc-Xc矢視断面図、(D)は(C)の要部拡大図である。
【図11】(A)はカムリングの斜視図、(B)はカムリングの背面図、(C)はカムリングの縦断側面図、(D)はカムリングの正面図、(E)は(B)のXd-Xd矢視断面図、(F)は(E)の要部拡大図である。
【図12】(A)はベースプーリ半体とカムリングとが接合された状態の縦断側面図、(B)はベースプーリ半体とカムリングが軸状ピンによって接合された拡大断面図、(C)は(B)の要部拡大図である。
【図13】(A)はベースプーリ半体とカムリングとの分解した縦断側面図、(B)はカムリングの正面図、(C)はボス部材の縦断側面図、(D)は(C)のXe-Xe矢視図である。
【図14】(A)は本発明のベースプーリ半体とカムリングの作用図、(B)はベースプーリ半体が可動プーリ半体側に僅かに移動した状態の作用図である。
【図15】(A)は駆動軸が急加速回転を開始した状態の略示状態図、(B)は駆動軸の急加速回転によってドライブベースプーリ半体がドライブ可動プーリ半体側に向かって微動しようとする略示状態図である。
【図16】(A)はドライブ可動プーリ半体と微動したドライブベースプーリ半体との間隔が僅かに狭くなってVベルトに回転を伝達した略示状態図、(B)は駆動側プーリから急加速回転を伝達されたVベルトによってドリブンベースプーリ半体がドライブ可動プーリ半体側に向かって微動し従動軸に回転を伝達した略示状態図である。
【符号の説明】
【0066】
A…駆動側プーリ、Aa…ドライブベースプーリ半体、Ab…ボス部材、1…駆動軸、2…ドライブ可動プーリ半体、3…ベースプーリフェイス、3a…ボス孔部、
3d…背面側、4…可動カム、5…ボス軸部、6…環状基部、7…固定カム、
10…Vベルト、B…従動側プーリ、Ba…ドリブンベースプーリ半体、
Bb…カムリング、11…従動軸、12…ドリブン可動プーリ半体、13a…ボス孔部、13c…背面側、14…可動カム、15…ボス部材、17…固定カム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなる駆動側プーリと、従動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体と、ドリブンベースプーリ半体とからなる従動側プーリと、前記駆動側プーリと従動側プーリとの間に掛けられるVベルトとからなり、前記ドライブベースプーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体は、前記Vベルトの急加速回転時にも対応して前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動してなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【請求項2】
請求項1において、前記駆動側プーリの前記ドライブベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成されてなり、前記ボス部材は、前記ボス孔部に挿通されると共に前記ドライブベースプーリ半体が摺動自在に支持されるボス軸部と,該ボス軸部の周囲に形成された固定カムとからなり、且つ前記ボス部材は前記駆動軸に固定され、前記可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドライブベースプーリ半体と前記ドライブ可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【請求項3】
請求項1において、前記従動側プーリの前記ドリブンベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成され、前記ボス部材に前記ボス孔部が挿通され摺動自在に支持され、前記ボス部材の軸端部に固着されるカムリングの環状基部に固定カムが形成され前記可動カムと前記固定カムとは常時接合状態に弾性付勢され、前記可動カムが前記固定カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドリブンベースプーリ半体と前記ドリブン可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【請求項1】
駆動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドライブ可動プーリ半体と、ドライブベースプーリ半体とからなる駆動側プーリと、従動軸と共に回転しつつ軸方向に移動するドリブン可動プーリ半体と、ドリブンベースプーリ半体とからなる従動側プーリと、前記駆動側プーリと従動側プーリとの間に掛けられるVベルトとからなり、前記ドライブベースプーリ半体は、前記駆動軸の急加速回転時に前記ドライブ可動プーリ半体側に向かって微動すると共に、前記ドリブンベースプーリ半体は、前記Vベルトの急加速回転時にも対応して前記ドリブン可動プーリ半体側に向かって微動してなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【請求項2】
請求項1において、前記駆動側プーリの前記ドライブベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成されてなり、前記ボス部材は、前記ボス孔部に挿通されると共に前記ドライブベースプーリ半体が摺動自在に支持されるボス軸部と,該ボス軸部の周囲に形成された固定カムとからなり、且つ前記ボス部材は前記駆動軸に固定され、前記可動カムと前記固定カムとは当接可能にされると共に常時は弾発状に離間され、前記駆動軸の急加速回転時には、前記固定カムは前記可動カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドライブベースプーリ半体と前記ドライブ可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【請求項3】
請求項1において、前記従動側プーリの前記ドリブンベースプーリ半体は、ベースプーリフェイスの背面側で且つボス孔部の周囲に可動カムが形成され、前記ボス部材に前記ボス孔部が挿通され摺動自在に支持され、前記ボス部材の軸端部に固着されるカムリングの環状基部に固定カムが形成され前記可動カムと前記固定カムとは常時接合状態に弾性付勢され、前記可動カムが前記固定カムに当接されると共に前記可動カムは前記固定カムに対して軸方向に離間され、前記ドリブンベースプーリ半体と前記ドリブン可動プーリ半体とを対向する方向に移動させてなることを特徴とするVベルト式自動変速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−144856(P2008−144856A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332442(P2006−332442)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】
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