説明

Vリブドベルト及びそれを用いた自動車の補機駆動用ベルト伝動装置

【課題】回転変動の大きい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置で使用され且つ負荷される張力が低くても、自動車が長期走行した後のスティックスリップ異音の発生が抑制されるVリブドベルトを提供する。
【解決手段】VリブドベルトBは、各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブ13がベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設され、それらの複数のVリブ13が接触するようにプーリに巻き掛けられて動力を伝達する。複数のVリブ13は、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対して融点110℃以上の熱可塑性樹脂15が5〜50質量部混入されたゴム組成物で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々がベルト長さ方向に延びる複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設され、それらの複数のVリブが接触するようにプーリに巻き掛けられて動力を伝達するVリブドベルト及びそれを用いた自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機を駆動する摩擦伝動ベルトとしてVリブドベルトが広く用いられている。
【0003】
ところで、自動車のエンジンでは、一定周期で爆発燃焼が生じ、それがクランク軸の角速度に微少な影響を与えるため、エンジンの回転数に回転変動が生じる。そして、そのような回転変動が生じると、クランクシャフトプーリに巻き掛けられたVリブドベルトが回転変動に追随できずにプーリ上でスティックスリップを起こしてしまう。そして、Vリブドベルトがプーリ上でスティックスリップを起こすと、異音としてそのスティックスリップ異音が発生する。そのため、一般に、Vリブドベルトでは、そのようなスティックスリップ異音の発生を防止すべく、ベルト内周側の圧縮ゴム層にベルト幅方向に配向するように短繊維を混入させると共に、ベルト表面からその短繊維を突出させ、それによってベルト表面の摩擦係数を低減するということが行われている。また、その他にも、Vリブドベルトの走行時の騒音を低減する種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、対面摩擦駆動面を圧縮層部に設けたVリブドベルトにおいて、圧縮層の先端部寄りの先端構成部内にはフィブリル化しやすいアラミド短繊維を主体に、また圧縮層の残余部たる基礎構成部内にはフィブリル化しにくいアラミド短繊維を主体に、それぞれベルト幅方向への配向性を保って埋設したものが開示されている。そして、これによれば、V形圧縮層を有する動力伝動用ベルトにあって、圧縮層に耐摩耗性、耐側圧性を求めて混入せしめたアラミド短繊維中に材質変化を付与せしめて、ベルト圧縮層部に耐摩耗性、耐側圧性を確保しつつ、併せてこの種のベルトをプーリに掛装走行せしめる折、発生する擦過音(こすれ音)を抑止することができる、と記載されている。
【0005】
特許文献2には、ベルト長さ方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層と、ベルト長さ方向に沿って延びるリブ部を複数有する圧縮ゴム層とからなるVリブドベルトであり、リブ部の先端部には、2重結合が80%以上水素添加された水素化ニトリルゴムに、そのゴムと同質もしくは類似した水素化ニトリルゴムと繊維径1.0μm以下のポリアミド繊維とがグラフト結合した微小繊維強化ゴムを添加したゴム組成物を配し、更にリブ部の他の領域に水素化ニトリルゴムにポリアミド繊維より繊維径の大きい短繊維を含有させたゴム組成物を用いた構成としたものが開示されている。そして、これによれば、耐亀裂性、耐熱性、耐側圧性とともに耐屈曲性にも優れ、ベルト寿命が大きく延長し、騒音性を軽減することができる、と記載されている。
【0006】
特許文献3には、接着ゴム層内に抗張体を埋設した抗張体層の下面に、ベルト長手方向に延びる複数のV形リブを並列せしめた圧縮ゴム層を有するVリブドベルトにおいて、圧縮ゴム層はクロロプレンポリマーを主体としたゴム100重量部に対し、融点が40〜80℃のワックスを0.75〜1.50重量部混入配合したゴム配合物であるものが開示されている。そして、これによれば、V形リブを形成する圧縮ゴム層のゴム配合物を改善して走行初期の過張力での粘着による発音、走行と共に張力が低下した状態で急激な負荷がかかったときのベルトスリップ音を防止することができる、と記載されている。
【特許文献1】実開平5−59012号公報
【特許文献2】特開平7−35201号公報
【特許文献3】特開平7−293641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の従来技術のVリブドベルトでは、新品のものによる使用開始当初の期間であれば、異音の発生を防止する効果を期待することができる。ところが、自動車が2万〜4万km走行した後では、その効果が維持されず、スティックスリップ異音が発生するという問題がある。
【0008】
例えば、特許文献1に開示された技術の場合、新品のVリブドベルトでは、プーリ接触面であるVリブ表面が多数の短繊維で覆われているので、短繊維がローラのような機能を果たすためにVリブ表面の摩擦係数が低く、それによってスティックスリップの発生を防止できる。しかしながら、自動車が長期走行した後では、Vリブ表面の短繊維がプーリとの間の摩擦によって摩耗し、そのためにVリブ表面におけるゴムの露出割合が多くなるに従ってその摩擦係数が上昇し、スティックスリップ異音が発生してしまう。
【0009】
特許文献2に開示された技術の場合、微小繊維強化ゴムによりゴムの耐亀裂性や耐屈曲性は確かに優れるものとなるが、これも、自動車が長期走行した後では、プーリ接触面であるVリブ表面におけるゴムの露出割合が多くなるに従ってその摩擦係数が上昇し、スティックスリップ異音が発生してしまう。
【0010】
特許文献3に開示された技術の場合、新品のVリブドベルトでは、融点40〜80℃のワックスが混入されたゴム組成物が用いられていることにより、その潤滑効果によりプーリ接触面であるVリブ表面の摩擦係数が低く、それによってスティックスリップの発生を防止できる。しかしながら、自動車が長期走行した後では、ベルト温度が80〜110℃に上昇するような履歴を受けることもあるため、ワックスが溶けて飛散してVリブ表面にほとんど残らずにその摩擦係数が上昇し、スティックスリップ異音が発生してしまう。
【0011】
上記のような自動車が長期走行した後に発生するスティックスリップ異音は、特に、ヘッドライトを点けたときやエアコンをつけたときのように補機の駆動負荷が大きく、しかも、Dレンジでフル加速(WOT:Wide Open Throttle)したときのように回転変動が大きい場合に、Vリブドベルトへの張力変動が大きくなるためより発生しやすい。
【0012】
また、回転変動に伴うスティックスリップ異音は、Vリブドベルトに負荷される張力が低いほど発生し易いという特徴がある。Vリブドベルトは、負荷される張力が低くて補機の駆動負荷が大きいと、動力伝達できずにスライディングスリップを起こす。そして、Vリブドベルトが通常の動力伝達領域である弾性スリップからスライディングスリップに移行する領域は、プーリをグリップして動力伝達するか、或いは、グリップできずにスリップするかの微妙な領域である。そのため、Vリブドベルトは、その領域で負荷の変動があるとそれに伴って負荷の高いときにはスリップして、逆に、負荷の低いときにはグリップし、回転変動の周期でスリップとグリップとを交互に繰り返すので、スリップした瞬間に「キャッ」という異音が断続的に繰り返されて、「キャッキャッ」という不快な断続音、つまり、スティックスリップ異音を発する。特に、ベルト組み付け方式がVリブドベルトに所定の張力を与えてプーリを固定する固定張力方式の場合、自動車の長期走行により経時的にその張力が低下していくので、上記のスティックスリップ異音が発生し易い。
【0013】
これに対し、本発明者らは、自動車が長期走行した後でもスティックスリップ異音を発生しないベルト仕様として、原料ゴムであるエチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム(EPDM)に対して繊維径28μmのナイロン短繊維が25質量部混入されたゴム組成物で形成したVリブドベルトを開発して量産を行った。その当時、このベルト仕様であれば、摩擦係数が低く且つ太径のナイロン短繊維が原料ゴム100質量部に対して25質量部と多量に混入されているので、自動車が長期走行した後でも、プーリ接触面であるVリブ表面における短繊維の露出割合が多いために低摩擦係数を維持でき、それによってスティックスリップ異音の発生を防止することができた。実際に、市場でのスティックスリップ異音による不具合は激減した。なお、スティックスリップ異音を低減するという観点からは、より太径のナイロン短繊維をより多く混入させることが好ましいと考えられたが、そうすると耐屈曲疲労性が悪化することとなるため、繊維径が28μm及び原料ゴム100質量部に対する混入量を25質量部とするのが限度であった。
【0014】
本発明者らは、これによってスティックスリップ異音の問題は解決したと考えていた。ところが、近年、状況は一変した。
【0015】
具体的には、自動車の燃費向上の必要性から、エンジンの直噴化や希薄燃焼化が進んだ。これらのいずれもがエンジンの回転変動を著しく増大させるものであり、そのため、スティックスリップ異音の発生原因であるVリブドベルトへの張力変動も増大することとなった。
【0016】
また、Vリブドベルトに負荷される張力が自動車の燃費に大きく影響するという新たな事実が見出された。つまり、Vリブドベルトに負荷される張力が大きくなると、各補機及びクランクシャフトに負荷される軸荷重が高くなり、そのためにフリクションロスが大きくなって燃費が悪くなるというのである。従って、Vリブドベルトに負荷される張力を低くすることによって燃費向上を図ることができる、ということとなる。従来、Vリブドベルトは、組み付け時に1Vリブ当たり150〜200Nの張力が負荷されて、それによって自動車の長期走行後の安定張力が1Vリブ当たり80〜120N(平均100N)となるようにされていた。ところが、燃費の大幅な改善を図るためには、初期組み付け張力を1Vリブ当たり80〜120Nとして、安定張力を1Vリブ当たり平均60N(平均40〜80N)にしなければならないということが分かった。Vリブドベルトに負荷される張力が低いとスティックスリップ異音が発生し易くなるというのは上述したとおりであり、安定張力が1Vリブ当たり平均60Nであるというのは、Vリブドベルトがスライディングスリップする領域に極めて近いものである。
【0017】
このように、Vリブドベルトに対し、回転変動の非常に大きいエンジンで使用され且つ負荷される張力が低くても、自動車が長期走行した後に、スティックスリップ異音が発生しないこと、という新たな要求が出てきた。上記の原料ゴムであるEPDM100質量部に対して繊維径28μmのナイロン短繊維が25質量部混入されたゴム組成物で形成したVリブドベルトを100時間モータリング走行させた後(自動車2万km走行に相当と予想)、回転変動の大きいエンジンの補機駆動用ベルト伝動装置に1リブ当たり60Nの張力を負荷して取り付けて走行させたところ、スティックスリップ異音が観測された。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、回転変動の大きい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置で使用され且つ負荷される張力が低くても、自動車が長期走行した後のスティックスリップ異音の発生が抑制されるVリブドベルト及びそれを備えた自動車の補機駆動用ベルト伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成する本発明は、各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設され、該複数のVリブが接触するようにプーリに巻き掛けられて動力を伝達するVリブドベルトであって、
上記複数のVリブは、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対して融点110℃以上の熱可塑性樹脂が5〜50質量部混入されたゴム組成物で形成されていることを特徴とする。
【0020】
Vリブがクロロプレンゴム(CR)を原料ゴムとするゴム組成物で形成されていると、プーリ接触面であるVリブ表面が摩擦による発熱により硬化劣化して鏡面化し、その摩擦係数が極端に上昇することから、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置での使用において、エンジンの回転変動による張力変動時に限界までプーリをグリップして一気にスリップするので、スティックスリップ異音を発生し易い。しかしながら、上記の構成によれば、Vリブがエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムを原料ゴムとするゴム組成物で形成されているために耐熱性が高いので、Vリブ表面が摩擦による発熱により硬化劣化して鏡面化することはなく、スティックスリップ異音を発生しにくい。ここで、エチレン−α−オレフィンエラストマーゴムとは、例えば、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPM)やエチレン・プロピレン・ジエンモノマー三元共重合体ゴム(EPDM)、或いは、それらの混合物である。
【0021】
Vリブを形成するゴム組成物に熱可塑性樹脂が混入されているので、Vリブが摩耗しても、プーリ接触面であるVリブ表面に露出した熱可塑性樹脂によってその摩擦係数が低く抑えられ、また、弾性スリップからスライディングスリップに移行する極限で、プーリへのグリップ状態からスリップ状態への移行時に、熱可塑性樹脂が適度に弾性変形してスムーズにその移行が行われるため、スティックスリップ異音が発生しにくい。しかも、熱可塑性樹脂の融点が110℃以上であるので、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置での使用時のようにベルト温度が80〜100℃になっても、熱可塑性樹脂が溶融して消失することがなく、その効果が長期間持続する。
【0022】
従って、上記の構成によれば、回転変動の大きい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置で使用され且つ負荷される張力が低くても、自動車が長期走行した後のスティックスリップ異音の発生が抑制される。
【0023】
ここで、熱可塑性樹脂の原料ゴムに対する混入量を5質量部以上50質量部以下とするのは、5質量部未満だと、熱可塑性樹脂による上記効果が十分に得られず、50質量部より多いと、ベルト全体に熱可塑性樹脂を核とした欠陥が多く含まれることとなり、耐屈曲疲労性が悪いものとなるからである。
【0024】
また、融点110℃以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、融点110〜140℃のポリエチレン樹脂、融点176℃のポリプロピレン樹脂、融点265℃の6,6−ナイロン樹脂、融点264℃のポリエチレンテレフタレート樹脂、及び、融点327℃の四フッ化エチレン樹脂を挙げることができる。
【0025】
本発明のVリブドベルトは、上記熱可塑性樹脂の熱変形温度が80℃以下であるものであってもよい。
【0026】
上記の構成によれば、熱可塑性樹脂の熱変形温度が80℃以下であって、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置での使用時におけるベルト温度(80〜100℃)以下であるので、グリップ状態からスリップ状態への移行時には、軟化した熱可塑性樹脂が円滑に弾性変形する。
【0027】
ここで、熱変形温度は、ASTM D−648において荷重18.6kg/cm2とした条件での測定値である。
【0028】
また、熱変形温度が80℃以下の熱可塑性樹脂としては、熱変形温度32〜52℃のポリエチレン樹脂、熱変形温度60〜70℃のポリプロピレン樹脂、及び、熱変形温度60〜65℃の6,6−ナイロン樹脂を挙げることができる。
【0029】
本発明のVリブドベルトは、上記熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂であるのが最もよい。
【0030】
上記の構成によれば、ポリエチレン樹脂は、摩擦係数が低く且つ熱変形温度が32〜52℃であるので、他の樹脂に比べて自動車の補機駆動用ベルト伝動装置での使用において、ベルト温度80〜100℃での弾性変形が大きく、グリップ状態からスリップ状態へのスムーズな移行が営まれる。また、ポリエチレン樹脂は、ポリエチレン成分を含むエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムとの親和性が高いので、良好な分散状態が得られる。
【0031】
本発明のVリブドベルトは、上記熱可塑性樹脂のポリエチレン樹脂が粘度平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂であるのがより好適である。
【0032】
上記の構成によれば、粘度平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂は、摩擦係数が低いことに加えて耐摩耗性が非常に優れるので、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に使用され、その長期走行した後でも、プーリ接触面であるVリブ表面に保持される。ここで、粘度平均分子量は粘度法により計測されるものである。
【0033】
本発明のVリブドベルトは、上記熱可塑性樹脂が粉状乃至粒状であるものであってもよい。
【0034】
上記の構成によれば、熱可塑性樹脂が粉状乃至粒状であるので、Vリブを形成するゴム組成物の伸び変形を阻害して耐屈曲疲労性に悪影響が及ぶのが抑制される。
【0035】
この場合、本発明のVリブドベルトは、上記粉状乃至粒状の熱可塑性樹脂の粒径が25〜300μmであることが好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂の粒径が20μm未満だと、経時的にプーリ接触面であるVリブ表面が摩耗粉で覆われやすくなり、熱可塑性樹脂による効果が希薄となり、粒径が300μmより大きいと、Vリブを形成するゴム組成物が均一に変形せずに熱可塑性樹脂の周りに応力集中するので、耐屈曲疲労性が低いものとなってしまう。
【0037】
本発明のVリブドベルトは、上記複数のVリブを形成するゴム組成物が、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対してベルト幅方向に配向した短繊維が3〜30質量部混入されているものであってもよい。
【0038】
Vリブを形成するゴム組成物に熱可塑性樹脂を混入させるだけでもスティックスリップ異音の発生抑制効果を奏するが、短繊維の混入との併用でさらに大きな効果が得られる。Vリブのプーリ溝への出入りがスティックスリップ異音の発生源である。つまり、Vリブがプーリ溝に噛み込む際に、Vリブが側圧を受けて変形してプーリ溝に食い込んで高い楔効果が奏されると、それとは逆に、Vリブがプーリ溝から噛み離れする際に、スティックスリップ異音が発生する。従って、Vリブは可能な限り側圧により変形しないことがスティックスリップ異音を防止する観点からは好ましい。これに対し、Vリブが側圧によって変形しないようにするためには、カーボンブラックや樹脂系の補強材を添加するという手段があるが、それではVリブが硬くなって耐屈曲疲労性が低くなってしまう。しかしながら、上記の構成によれば、Vリブにベルト幅方向に配向した短繊維が混入されているので、Vリブの側圧に対しては高い剛性を示すものの、長さ方向の屈曲性はほとんど損なわれず、そのために、Vリブのプーリ溝への過大な楔効果が奏されることはなく、結果としてスティックスリップ異音が発生しにくくなる。
【0039】
ここで、短繊維の混入量が原料ゴム100質量部に対して3質量部未満だと、Vリブのベルト幅方向の剛性を十分に高くすることができず、30質量部より多いと短繊維が均一に分散されず、そのために耐屈曲疲労性が低いものとなってしまう。
【0040】
短繊維としては、ナイロン短繊維、メタ系アラミド短繊維、パラ系アラミド短繊維、綿短繊維等を挙げることができる。
【0041】
この場合、本発明のVリブドベルトは、上記短繊維がナイロン短繊維であるものが最もよい。
【0042】
ナイロン短繊維は、Vリブのベルト幅方向の剛性を高めるのに加えて、それ自体の摩擦係数が低いので、摩耗した後でもプーリ接触面であるVリブ表面に残って摩擦係数を低める効果があるからである。
【0043】
本発明のVリブドベルトは、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するようにポリエチレンナフタレート繊維製の心線が埋設されているものであってもよい。
【0044】
上記の構成によれば、Vリブがエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムに熱可塑性樹脂が混入されたゴム組成物で形成された構成との組み合わせでスティックスリップ異音の発生防止に対して極めて大きい効果を発揮する。つまり、例えば、回転変動の大きい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に低張力が負荷されて取り付けられたような場合、弾性スリップからスライディングスリップに移行する臨界状態に近い状態で動力伝達が行われることとなるが、ポリエチレンナフタレート繊維製の心線の方がポチエチレンテレフタレート製の心線に比べてベルト弾性率が高くなるので、張力変動時であっても、弾性スリップからスライディングスリップへの移行が簡単には進まず、結果としてスティックスリップ異音の発生が抑制される。
【0045】
本発明の自動車の補機駆動用ベルト伝動装置は、各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設されたVリブドベルトと、該Vリブドベルトが固定張力方式で巻き掛けられた複数のプーリと、を備えたものであって、
上記Vリブドベルトの上記複数のVリブは、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対して融点110℃以上の熱可塑性樹脂が5〜50質量部混入されたゴム組成物で形成されており、
ベルト未走行時に、上記Vリブドベルトに負荷される張力が1Vリブ当たり50〜80Nであることを特徴とする。
【0046】
上記の構成によれば、自動車の長期走行後でも、スティックスリップ異音の発生が抑制され、Vリブドベルトに負荷される張力が低いので、各プーリに負荷される軸荷重が小さく、その結果としてエンジンの低燃費が実現される。
【発明の効果】
【0047】
以上の通り、本発明によれば、Vリブがエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムを原料ゴムとするゴム組成物で形成されており、また、Vリブを形成するゴム組成物に融点110℃以上の熱可塑性樹脂が混入されているので、回転変動の大きい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置で使用され且つ負荷される張力が低くても、自動車が長期走行した後に、スティックスリップ異音が発生するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0049】
図1は、本発明の実施形態に係るVリブドベルトBを示す。
【0050】
このVリブドベルトBは、Vリブドベルト本体10と、Vリブドベルト本体10にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線16と、Vリブドベルト本体10の背面側を被覆するように設けられた背面補強布17と、を備えている。
【0051】
Vリブドベルト本体10は、エチレン−α−オレフィンエラストマーゴムを原料ゴムとし、それにカーボンブラックなどの充填材や可塑剤などのゴム配合薬品等が混入され、加熱及び加圧されて、そのうちの原料ゴム成分が有機過酸化物や硫黄によって架橋されたゴム組成物で形成されている。エチレン−α−オレフィンエラストマーゴムは、例えば、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPM)やエチレン・プロピレン・ジエンモノマー三元共重合体ゴム(EPDM)、或いは、それらの混合物である。Vリブドベルト本体10は、心線16が埋設された接着ゴム層11と、接着ゴム層11の下側に設けられた圧縮ゴム層12と、が積層されて一体となった構成となっている。
【0052】
接着ゴム層11は、心線16が埋設されて張力に抗する部分であって、帯状に形成されている。
【0053】
圧縮ゴム層12は、ベルト内側のプーリに接触して直接的に動力を伝達する部分であって、プーリとの接触面積が広く確保されるように、ベルト長さ方向に延びる突条のVリブ13がベルト幅方向に並列して形成されている。
【0054】
圧縮ゴム層12を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムを原料ゴムとしたゴム組成物には、カーボンブラック等に加えて、融点が110℃以下で且つ熱変形温度80℃以下(ASTM D−648において荷重18.6kg/cm2とした条件)である熱可塑性樹脂15が分散するように混入されている。この熱可塑性樹脂15は、原料ゴム100質量部に対して5〜50質量部混入されている。また、この熱可塑性樹脂15は、粘度平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂である。さらに、この熱可塑性樹脂15は、粒径が25〜300μmである粉状乃至粒状である。
【0055】
圧縮ゴム層12を形成するゴム組成物には、ベルト幅方向に配向した短繊維14も分散するように混入されている。この短繊維14は、原料ゴム100質量部に対して3〜30質量部混入されている。また、この短繊維14は、ナイロン短繊維である。Vリブ13表面に露出した短繊維14は、Vリブ13表面から突出している。さらに、この短繊維14は、繊維長が0.2〜3.0mmである。
【0056】
心線16は、ポリエチレンナフタレート繊維(以下「PEN」という。)の撚り糸で構成されている。心線16には、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下「RFL水溶液」という)に浸漬した後に延伸して加熱する延伸熱固定処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されている。心線16を構成するPEN繊維の撚り糸は、モノフィラメント径が10〜40μmで、トータル4000〜8000dtexの構成であって、例えば、撚り係数が700である1100dtex/2×3のような諸撚り構成を有する(撚り係数は10cm長さ当たりの撚り数にデニール数の平方根を乗じたものである。)。また、PEN繊維の撚り糸は、延伸熱固定処理及びゴム糊による処理前のJIS L1017「化学繊維タイヤコード試験方法」に基づく乾熱時収縮応力が0.2〜0.5cN/dtexであり、延伸熱固定処理及びゴム糊による処理後の乾熱時収縮応力が0.3〜0.7cN/dtexである。
【0057】
背面補強布17は、経糸及び緯糸からなる平織り等の織布で構成されている。背面補強布17には、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する処理及びVリブドベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる処理が施されている。
【0058】
以上の構成のVリブドベルトBでは、Vリブ13がエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムを原料ゴムとするゴム組成物で形成されているために耐熱性が高いので、Vリブ13表面が摩擦による発熱により硬化劣化して鏡面化することはなく、スティックスリップ異音を発生しにくい。
【0059】
本VリブドベルトBでは、Vリブ13を形成するゴム組成物に熱可塑性樹脂15が混入されているので、Vリブ13が摩耗しても、プーリ接触面であるVリブ13表面に露出した熱可塑性樹脂15によってその摩擦係数が低く抑えられ、しかも、弾性スリップからスライディングスリップに移行する極限で、プーリへのグリップ状態からスリップ状態への移行時に、熱可塑性樹脂15が適度に弾性変形してスムーズにその移行が行われ、その結果スティックスリップ異音の発生を抑制することができる。しかも、熱可塑性樹脂15は、摩擦係数が低く且つ熱変形温度が32〜52℃のポリエチレン樹脂であるので、他の樹脂に比べて自動車の補機駆動用ベルト伝動装置での使用において、ベルト温度80〜100℃での弾性変形し易く、グリップ状態からスリップ状態へのスムーズな移行が営まれる。また、その熱可塑性樹脂15が粘度平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂であるので、摩擦係数が低いことに加えて耐摩耗性が非常に優れ、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に使用され、自動車が長期走行した後でも、超高分子量ポリエチレン樹脂がプーリ接触面であるVリブ13表面に保持される。さらに、熱可塑性樹脂15の超高分子量ポリエチレン樹脂が粉状乃至粒状であるので、Vリブ13を形成するゴム組成物の伸び変形を阻害して耐屈曲疲労性に悪影響が及ぶのが抑制される。また、そこポリエチレン樹脂は、ポリエチレン成分を含むエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムとの親和性が高いので、良好な分散状態が得られる。
【0060】
本VリブドベルトBでは、熱可塑性樹脂15の融点が110℃以上であるので、自動車の補機駆動用ベルト伝動装置で使用された場合のようにベルト温度が80〜100℃になっても、熱可塑性樹脂15が溶融して消失することがなく、その効果を長期間持続させることができる。
【0061】
本VリブドベルトBでは、圧縮ゴム層12にベルト幅方向に配向した短繊維14が混入されているので、Vリブ13の側圧に対しては高い剛性を示すものの、長さ方向の屈曲性はほとんど損なわれず、そのために、Vリブ13のプーリ溝への過大な楔効果が奏されることはなく、結果としてスティックスリップ異音を発生しにくすることができる。しかも、その短繊維14がナイロン短繊維であるので、Vリブ13のベルト幅方向の剛性を高めるのに加えて、それ自体の摩擦係数が低く、摩耗した後でもプーリ接触面であるVリブ13表面に残って摩擦係数を低める効果が得られる。
【0062】
本VリブドベルトBでは、PEN製の心線16を用いた構成と圧縮ゴム層12がエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムに熱可塑性樹脂15が混入されたゴム組成物で形成された構成との組み合わせでスティックスリップ異音の発生防止に対して極めて大きい効果を得ることができる。つまり、回転変動の小さい自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に低張力が負荷されて取り付けられたような場合、弾性スリップからスライディングスリップに移行する臨界状態に近い状態で動力伝達が行われることとなるが、PEN製の心線16の方がポリエチレンテレフタレート(PET)製のものに比べてベルト弾性率が高くなるので、張力変動時であっても、弾性スリップからスライディングスリップへの移行が簡単には進まず、結果としてスティックスリップ異音の発生を抑制することができる。
【0063】
なお、上記構成では、熱可塑性樹脂15としてポリエチレン樹脂を用いたが、特にこれに限定されるものではなく、耐摩耗性の優れるナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等であってもよい。また、上記構成では、短繊維14としてナイロン短繊維を用いたが、特にこれに限定されるものではなく、高強度のパラ系アラミド短繊維、耐摩耗性の優れるメタ系アラミド短繊維、綿短繊維等であってもよい。
【0064】
次に、上記のように構成されたVリブドベルトBの製造方法について簡単に説明する。
【0065】
VリブドベルトBの製造では、外周に、ベルト背面を所定形状に形成する成形面を有する内金型と、内周に、ベルト内面を所定形状に形成する成形面を有するゴムスリーブとが用いられる。
【0066】
まず、内金型の外周を、接着剤を付着させる処理を施した織布の背面補強布17で被覆した後、その上に、接着ゴム層11の背面側部分を形成するための未架橋ゴムシートを巻き付ける。
【0067】
次いで、その上に、接着剤を付着させる処理を施したPEN製の撚り糸の心線16をスパイラル状に巻き付けた後、その上に、接着ゴム層11の内面側部分を形成するための未架橋ゴムシートを巻き付け、さらにその上に、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシートを巻き付ける。このとき、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシートとして、原料ゴムのエチレン−α−オレフィンエラストマーゴムにカーボンブラックなどの充填材や可塑剤などのゴム配合薬品の他、熱可塑性樹脂15及び巻き付け周方向に配向した短繊維14を混入したものを用いる。なお、各未架橋ゴムシートを巻き付ける際には、それぞれ、巻付方向両端部同士は、重ね合わせないで突付けとする。
【0068】
しかる後、内金型上の成形体にゴムスリーブを套嵌してそれを成形釜にセットし、内金型を高熱の水蒸気などにより加熱すると共に、高圧をかけてゴムスリーブを半径方向内方に押圧する。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、心線16及び背面補強布17のゴムへの接着反応も進行する。そして、これによって、筒状のベルトスラブが成形される。
【0069】
そして、内金型からベルトスラブを取り外し、それを長さ方向に数個に分割した後、それぞれの外周を研磨してVリブ13を形成する。
【0070】
最後に、分割されて外周にVリブ13が形成されたベルトスラブを所定幅に幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【0071】
図2は、VリブドベルトBを用いた自動車エンジンにおける固定レイアウト方式の補機駆動用ベルト伝動装置20のレイアウトを示す。
【0072】
この補機駆動用ベルト伝動装置20のレイアウトは、最上位置のオルタネータプーリ21と、オルタネータプーリ21の左斜め下方に配置されたクランクシャフトプーリ22と、クランクシャフトプーリ22の右方に配置されたエアコンプーリ23と、エアコンプーリ23の左斜め上方及びオルタネータプーリ21の左斜め下方に配置されたウォーターポンププーリ24と、により構成されている。これらのうち、平プーリであるウォーターポンププーリ24以外は全てVリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、Vリブ13側が接触するようにオルタネータプーリ21に巻き掛けられ、次いで、Vリブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ22及びエアコンプーリ23に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ24に巻き掛けられ、最後にオルタネータプーリ21に戻るように設けられている。VリブドベルトBのベルト未走行時に負荷される張力は、組み付け時から経時的に低下した後(例えば、自動車で2万〜4万km走行後)には一定値を推移する。このときの張力を安定張力とすると、この補機駆動用ベルト伝動装置の安定張力は1Vリブ当たり50〜80Nである。
【0073】
この補機駆動用ベルト伝動装置によれば、自動車の長期走行後でも、スティックスリップ異音の発生がなく、VリブドベルトBに負荷される張力が低いので、各プーリに負荷される軸荷重が小さく、その結果としてエンジンの低燃費が実現される。
【実施例】
【0074】
Vリブドベルトについて行った試験評価について説明する。
【0075】
(試験評価用ベルト)
以下の例1〜8のVリブドベルトを作成した。
【0076】
<例1>
ゴム成分である原料ゴムとしてEPDMを用い、このEPDM100質量部に対し、カーボンブラック50質量部、パラフィン系オイルの軟化剤14質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、老化防止剤3質量部、架橋剤としての硫黄1.5質量部、加硫促進剤4質量部及びナイロン短繊維20質量部を配合してなるゴム組成物により圧縮ゴム層を形成した上記実施形態と同様の構成のVリブドベルトを例1とした。
【0077】
<例2>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して2質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例2とした。
【0078】
<例3>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して5質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例3とした。
【0079】
<例4>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して10質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例4とした。
【0080】
<例5>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して20質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例5とした。
【0081】
<例6>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して40質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例6とした。
【0082】
<例7>
ポリエチレン樹脂粉をEPDM100質量部に対して60質量部配合したゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例7とした。
【0083】
<例8>
ゴム成分である原料ゴムとしてクロロプレンゴムを用い、このクロロプレンゴム100質量部に対し、カーボンブラック50質量部、可塑剤5質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、老化防止剤3質量部、酸化マグネシウム4質量部及びナイロン短繊維20質量部を配合してなるゴム組成物により圧縮ゴム層を形成したことを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例8とした。
【0084】
なお、例1〜8の各ゴム組成物の配合は表1にも示す。
【0085】
(試験評価方法)
<実機試験>
図3は、Vリブドベルトの劣化を促進させるために用いられる劣化促進用ベルト走行試験機30のプーリレイアウトを示す。
【0086】
この劣化促進用ベルト走行試験機30は、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のVリブプーリ(上側が従動プーリ、下側が駆動プーリ)31と、それらの上下方向中間に設けられたプーリ径70mmのアイドラプーリ32と、その右方に配されたプーリ径45mmの小径のVリブプーリ31とからなる。アイドラプーリ32及び小径のVリブプーリ31は、ベルト巻き付け角度が90°となるように位置付けられている。
【0087】
まず、例1〜8のそれぞれのVリブドベルト(6Vリブ仕様でベルト周長1210mm:6PK1210)Bについて、Vリブ側が接触するように3つのVリブプーリ31に巻き掛けると共にベルト背面が接触するようにアイドラプーリ32に巻き掛け、且つ、1117Nのセットウェイトが負荷されるように小径のVリブプーリ31を右側方に引っ張ると共に、大径のVリブプーリ31に8.826kWの負荷をかけた状態で、雰囲気温度85±5℃の下、駆動プーリである下側のVリブプーリ31を4900rpmの回転速度で回転させてVリブドベルトBを100時間走行させた。
【0088】
次に、走行させた各VリブドベルトBを、図2に示すのと同様のレイアウトの直列3気筒エンジンの補機駆動用ベルト伝動装置に所定張力を負荷するように取り付け、且つ、オルタネータプーリ21に60Aの電流が発生するような負荷をかけると共に、エアコンプーリ23が吐出能力2000rpm当たり1.47MPaであるコンプレッサーを取り付けた状態で、WOT(Wide Open Throttle)状態の運転を実行し(クランクシャフトの回転数800rpm)、そのときの音特性を0:音無、1:微少、2:小、3:中、4:大及び5:過大として主観評価を行った。評価は、VリブドベルトBに負荷される張力を1Vリブ当たり60N、45N及び30Nのそれぞれとした場合について行った。
【0089】
<台上試験>
図4は、Vリブドベルトの屈曲疲労性を試験評価するために用いられる多軸屈曲ベルト走行試験機40のプーリレイアウトを示す。
【0090】
この多軸屈曲ベルト走行試験機40は、上下に配設されたプーリ径45mmのVリブプーリ(上側が従動プーリ、下側が駆動プーリ)41と、それらの上下方向中間の右側に上下に配設されたプーリ径50mmのアイドラプーリ42と、それらの上下方向中間の右方に設けられたプーリ径45mmのVリブプーリ41とからなる。
【0091】
例1〜8のそれぞれのVリブドベルト(3Vリブ仕様でベルト周長1210mm:3PK1210)Bについて、Vリブ側が接触するように3つのVリブプーリ41に巻き掛けると共にベルト背面が接触するように2つのアイドラプーリ42に巻き掛け、且つ、588.4Nのデッドウェイトが負荷されるように最上位置のVリブプーリ41を上方に引っ張った状態で、駆動プーリである最下位置のVリブプーリ41を5100rpmの回転速度で回転させてVリブドベルトBをVリブにクラックが発生するまで走行させ、それまでのベルト走行時間を計測した。
【0092】
(試験評価結果)
試験結果を表1、図5及び6に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1及び図5によれば、Vリブドベルトに負荷される張力を1Vリブ当たり60N、45N及び30Nのいずれにした場合であっても、圧縮ゴム層にポリエチレン樹脂粉を混入した例2〜7は、圧縮ゴム層にポリエチレン樹脂粉を混入していない例1及びCR仕様の例8に比較して、異音の発生抑制効果が高いことが分かる。
【0095】
また、例2〜7の間で比較すると、ポリエチレン樹脂粉の混入量がEPDM100質量部に対して5〜60質量部である例3〜7は、混入量が2質量部である例2に比較して、異音の発生抑制効果が著しく高いことが分かる。
【0096】
表1及び図6によれば、圧縮ゴム層にポリエチレン樹脂粉を混入させた例2〜7は、ポリエチレン樹脂粉の混入量が多くなるに従って耐屈曲疲労性能が低くなっているのが分かる。ポリエチレン樹脂粉の混入量がEPDM100質量部に対して2質量部である例2は、ポリエチレン樹脂粉を混入していない例1と同等の耐屈曲疲労性能を有する。ポリエチレン樹脂粉の混入量がEPDM100質量部に対して40質量部である例6は、CR仕様の例8と同等の耐屈曲疲労性能を有する。ポリエチレン樹脂粉の混入量がEPDM100質量部に対して60質量部である例7は、他のものに比較して著しく耐屈曲疲労性能が低い。
【0097】
以上のことから、異音の発生抑制効果と耐屈曲疲労性とのバランスを考慮すれば、ポリエチレン樹脂粉の混入量をEPDM100質量部に対して2質量部よりも多く且つ60質量部よりも少なくするのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設され、それら複数のVリブが接触するようにプーリに巻き掛けられて動力を伝達するVリブドベルト、及び、それを用いた自動車の補機駆動用ベルト伝動装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施形態に係るVリブドベルトの斜視図である。
【図2】補機駆動用ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図3】劣化促進用ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図4】多軸屈曲試験用ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図5】例1〜8のVリブドベルトの音特性を示す棒グラフである。
【図6】例1〜8のVリブドベルトの屈曲耐久寿命を示す棒グラフである。
【符号の説明】
【0100】
B Vリブドベルト
10 Vリブドベルト本体
11 接着ゴム層
12 圧縮ゴム層
13 Vリブ
14 短繊維
15 熱可塑性樹脂
16 心線
17 背面補強布
20 補機駆動用ベルト伝動装置
21 オルタネータプーリ
22 クランクシャフトプーリ
23 エアコンプーリ
24 ウォーターポンププーリ
30 劣化促進用ベルト走行試験機
31,41 Vリブプーリ
32,42 アイドラプーリ
40 多軸屈曲ベルト走行試験機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設され、該複数のVリブが接触するようにプーリに巻き掛けられて動力を伝達するVリブドベルトであって、
上記複数のVリブは、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対して融点110℃以上の熱可塑性樹脂が5〜50質量部混入されたゴム組成物で形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記熱可塑性樹脂は、その熱変形温度が80℃以下であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項3】
請求項2に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記熱可塑性樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項4】
請求項3に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記熱可塑性樹脂のポリエチレン樹脂が粘度平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項5】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記熱可塑性樹脂が粉状乃至粒状であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項6】
請求項5に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記粉状乃至粒状の熱可塑性樹脂は、その粒径が25〜300μmであることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項7】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記複数のVリブを形成するゴム組成物は、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対してベルト幅方向に配向した短繊維が3〜30質量部混入されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項8】
請求項7に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記短繊維がナイロン短繊維であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項9】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するようにポリエチレンナフタレート繊維製の心線が埋設されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項10】
各々がベルト長さ方向に延びるように形成された複数のVリブがベルト幅方向に並ぶようにベルト内側に配設されたVリブドベルトと、該Vリブドベルトが固定張力方式で巻き掛けられた複数のプーリと、を備えた自動車の補機駆動用ベルト伝動装置であって、
上記Vリブドベルトの上記複数のVリブは、原料ゴムであるエチレン−α−オレフィンエラストマーゴム100質量部に対して融点110℃以上の熱可塑性樹脂が5〜50質量部混入されたゴム組成物で形成されており、
ベルト未走行時に、上記Vリブドベルトに負荷される張力が1Vリブ当たり50〜80Nであることを特徴とする自動車の補機駆動用ベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−144988(P2006−144988A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338415(P2004−338415)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】