説明

W/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法及び水分比率測定装置

【課題】密度差に影響されない広い範囲の水分量測定を行うことのできるW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、静電容量センサーを用いてW/O型エマルジョン液体の水分量測定を行う際に、水粒子の静電分極及びブラウン運動による電極部分の凝集を防止する液体流速以上で計測するので、水分量に応じて直線性と再現性に優れた静電容量値が得られ、5%以上の水分量においても精度の良い水分量測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/O型エマルジョン液体中の水分量を静電容量の変化に基づき測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
〔静電容量センサー〕
静電容量センサーとは、2つの電極間に生じる静電容量値を計測することで、電極間の距離や、電極間に存在する液体や固体の有無或いは物質の誘電率の違いから物質の特定等を行う為のセンサーである。
静電容量センサーとして用いる場合には、一般的にpFのオーダーである為、その計測は、コンデンサー等の容量計測と同様に、値の決まったリアクトルとの共発振周波数を計測することで、連続的な電気信号に変換できる。
(誘電率)
誘電率は物質内で電荷とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。電媒定数ともいう。各物質は固有の誘電率をもち、この値は外部から電場を与えたとき物質中の原子(あるいは分子)がどのように応答するか(誘電分極の仕方)によって定まる。真空の誘電率(真空は誘電体では無いが)は、
ε0 = 8.85418782×10−12(F/m)
である。
(比誘電率)
比誘電率(ひゆうでんりつ、relative permittivity、dielectric constant)とは媒質の誘電率と真空の誘電率の比(ε/ε0 = εγ)のことである。比誘電率は無次元量であり、用いる単位系によらず、一定の値をとる。代表的なものは、真空=1、空気=1.000586、灯油=1.8、大豆油=2.9〜3.5、エチルアルコール=23、水=80。水は真空の80倍の比誘電率を持つ。
【0003】
〔W/O型エマルジョン〕
油中水滴型と呼ばれるエマルジョンの形態の流体を指し、非極性の液体中に、極性を持つ液体が分散されている。身近なものでは、バターやドレッシング等の他、燃料中に水を分散させ、NOxや煤塵量を低減させる燃焼技術に用いられる水エマルジョン燃料も、これらの形態を持っている。
〔ブラウン運動〕
溶質中に浮遊している微粒子が、熱運動する溶質の分子の不規則な衝突により、不規則に動く現象のことである。W/O型エマルジョン液体においては、水粒子径が小さく、油層の粘度が低く、温度が高くなる程、活発な運動を行う。
【0004】
〔静電誘導〕
導体に帯電物質を近づけると、導体と帯電物質間に逆の電荷を生じ、導体の帯電物質の反対側には逆電荷を生じる現象を静電誘導と言う。図8(A)の導体(62)を参照。導体内部では電子が移動できる為、帯電物質間の電位差は導体内部では生じないので導体内を貫通するB線の電位は図8(B)のBの様な特性となる。
〔静電分極〕
誘電体(絶縁体)に帯電物質を近づけると、絶縁体表面には帯電物質と逆の電荷を生じる現象を静電分極と言う。静電誘導との違いは、誘電体内を電子が移動出来る訳では無く、分子内で電気的な偏りが生じることである。図8(A)の誘電体(63)を参照。誘電体内部でのC線の電位は図8(B)のCの様な特性となり、誘電体内部にも電位差が生じる。
【0005】
〔W/O型エマルジョン液体中の水分比率〕
(容積含水率)
容積含水率とは、W/O型エマルジョン液体の容積100の中に占める水の容積を油の容積で割った100分率である。
(質量含水率)
質量含水率とは、W/O型エマルジョン液体の質量100の中に占める水の質量を油の質量で割った100分率である。
(容積加水率)
容積加水率とは、W/O型エマルジョン液体の中に含まれる水分容積を残った油分容積で割った100分率である。
(質量加水率)
質量加水率とは、W/O型エマルジョン液体の中に含まれる水分質量を残った油分質量で割った100分率である。
(計算例)
W/O型エマルジョン液体100ccの中に、50ccの油と50ccの水が含まれている場合、容積含水率は50%、容積加水率は100%となる。
加水率と含水率は次の式により互いに変更可能である。
含水率=加水率/(100+加水率)
加水率=含水率/(100−含水率)
(水分比率)
前記の4つの比率表現は、溶質及び分散質の密度が判れば互いに変換可能である。
【0006】
〔水分比率の連続測定の目的〕
(水エマルジョン燃料)
水エマルジョン燃料は、ボイラの様な外燃機関や、ディーゼルエンジンの様な内燃機関においても、低公害対策として有効な技術であるが、その際に課題となることは、単位容積当たりの発熱量が含まれる水分量により異なると言う点である。つまり、仮に燃料100に対して水20が含まれるエマルジョン燃料で、水を含まない燃料と同一の出力を得ようとした場合には、燃焼機関へは120の容積でエマルジョン燃料を供給する必要が生じるが、仮に何らかの原因で水を含まない燃料が供給された場合、出力が120%になる恐れがあり、最悪の場合には対象機関を破損する恐れが生じる。この様に、水が含まれなくなったり、或いは水が規定量含まれていると言うことを確認することができれば、過負荷や出力不足によるトラブルを防止することが出来、水エマルジョン燃料をより安全に利用することが出来る。
(品質管理)
W/O型エマルジョン液体の水分量が連続的に判れば、エマルジョン液を連続的に製造する際の品質管理を行う上で有効な手段である。
〔水分比率の測定方法〕
W/O型エマルジョン燃料中の水分量の測定方法は、JIS等でも定められているカールフィッシャー法等により分析する方法が一般的であり、連続測定法としては油層と水層に密度差がある場合には密度計を用いる方法等が一般的である。
尚、例えば、特開平8−136492号公報(特許文献1)には、静電容量センサーを用いた水分比率の測定方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−136492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
〔静電容量式油中水分量測定法の課題〕
水と油では夫々比誘電率が80と2〜3と物性が大きく異なるので、静電容量センサーを用いて油中の水分量測定を行うことは従来より行われていた。
しかし、この方法では3%以下の水分量であれば、ほぼ直線的な水分量と静電容量値の変化を検出することができるが、5%を超えてしまうと静電容量の変化や再現性が共に低下して、センサーとして使用することが出来なかった。
〔密度測定法の課題〕
一方で、油と水の密度の差を利用した密度計を用いた水分量測定法は、広い混合比に対応できる測定方法であるが、油と水の密度差が少ない場合には誤差が大きくなったり、測定が出来ない等の問題点があった。
【0009】
〔解決しようとする課題〕
本発明は、前記2点の課題を解決し、密度差に影響されない広い範囲の水分量測定を行うことのできるW/O型エマルジョンの水分比率測定方法及び水分比率測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1にかかる水分比率測定方法は、電極間に存在する誘電性物質の誘電率の違いを計測できる静電容量センサーにおいて、その有効電極面に存在するW/O型エマルジョン液体と、有効電極面の表面の平均相対速度が、もっとも遅い部分でも、分散粒子の静電作用とブラウン運動による電極表面凝集効果を打ち消す速度以上の状態で計測することを特徴とする。
又、本発明の請求項7にかかる水分比率測定装置も、前記請求項1にかかる水分比率測定方法と同様の構成を特徴とする。
本発明の請求項1及び請求項7の発明によれば、電極表面付近に、静電作用とブラウン運動による分散粒子の凝集が無くなり、W/O型エマルジョン液体中の水分比率に応じた再現性の高い出力が得られる。
更に、電極付近の流速が上がることで、水分比率が変化した場合の応答性や再現性に優れた出力を得ることができる。又、本発明は使用実績の多い静電容量計測技術を応用したものなので、信頼性や耐久性に優れ、高温域でも使用可能であり、且つコスト的にも安価に提供することができる。
【0011】
本発明の請求項2にかかる水分比率測定方法は、請求項1の静電容量センサー(以下場合により「水分量測定用静電容量センサー」と称す)を用いて、水分比率を計算する際に予め登録してある水を含まない連続層の静電容量値から、測定対象のW/O型エマルジョン液体の水分量を演算することのできる「ゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段」を備えて、W/O型エマルジョン液体の静電容量を計測し、該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力することを特徴とする。
本発明の請求項2の発明によれば、W/O型エマルジョン液体を構成する液体が一定で、温度条件も一定である場合、予め登録してある液体の誘電率のパラメーターを利用して、出力信号が0%の時には水分比率0%、出力信号が100%の時には加水率50%等の様に、判り易い物理単位に変換した水分比率出力を提供することが出来る。
【0012】
本発明の請求項3にかかる水分比率測定方法は、請求項1の「水分量測定用静電容量センサー」と同等の静電容量特性を持つ「ゼロ点測定用静電容量測定手段」を備え、該ゼロ点測定用静電容量測定手段のゼロ点測定用静電容量センサーは、測定するW/O型エマルジョン液体の連続層のみが満たされる管路に設置され、該ゼロ点測定用静電容量測定手段の静電容量値を水分量0の基準信号として、請求項1と同一の方法で計測された「水分量測定用静電容量センサー」のW/O型エマルジョン液体の静電容量値から水分量を補正計算する「ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段」を備え、W/O型エマルジョン液体を構成する連続層と、W/O型エマルジョン液体の静電容量を計測し、W/O型エマルジョン液体の水分量を出力することを特徴とする。
本発明の請求項3の発明によれば、W/O型エマルジョン液体を構成する連続層の液体の誘電率が、液体の種類が変わる等の原因で変化した場合、水を含まない連続層の実測値に基づき、ゼロ点を補正するので、誤差の少ない水分比率出力を得ることができる。
【0013】
本発明の請求項4にかかる水分比率測定方法は、「水分量測定用静電容量センサー」内に流れる流体の温度を計測する水分量測定用温度計測手段を備え、該温度計測手段からの信号により、「ゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段」若しくは「ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段」のゼロ点値及びスパン量を予め登録されている誘電率の温度依存係数に従って調整する「ゼロ点静電容量記憶型水分比率温度補正型演算手段」若しくは「ゼロ点静電容量自動補正型水分比率温度補正型演算手段」とした水分比率演算手段を備え、W/O型エマルジョン液体中の静電容量と温度を計測し、該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力することを特徴とする。
本発明の請求項4の発明によれば、計測対象のW/O型エマルジョン液体の温度が変化しても、水分量測定用静電容量センサーを通過した液体の温度を計測し、予め登録してある構成液体の誘電率の温度依存係数によって温度補正するので、誤差の少ない水分比率出力を得ることができる。
【0014】
本発明の請求項5にかかる水分比率測定方法は、ゼロ点測定用静電容量センサー内に流れる流体の温度を計測するゼロ点測定用温度計測手段を備え、該温度計測手段からの信号により、「ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段」若しくは「ゼロ点静電容量自動補正型水分比率温度補正型演算手段」のゼロ点静電容量値を、予め登録してあるW/O型エマルジョン液体の連続層の誘電率の温度依存係数に従い補正する「ゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率演算手段」若しくは「ゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率温度補正型演算手段」とした水分比率演算手段を備え、ゼロ点の静電容量と温度を計測し、W/O型エマルジョン液体中の静電容量、若しくは、静電容量及び温度を計測し、該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力することを特徴とする。
本発明の請求項5の発明によれば、ゼロ点測定用静電容量センサー内を流れる流体の温度や種類が変化しても、予め登録してある連続層を構成する液体の誘電率の温度依存係数によってゼロ点の静電容量を計算するので、液体種や温度が変化しても誤差の少ない水分比率出力を得ることができる。
【0015】
本発明の請求項6に係わる水分比率測定方法は、ゼロ点測定用静電容量センサーに代えて、連続層のみが満たされる管路に密度測定手段と温度測定手段を備え、該密度信号と温度信号から基準密度を求め、該基準密度信号から前記水分比率測定手段のゼロ点補正用信号を演算するゼロ点密度換算型の水分比率演算手段とすることを特徴とする。
本発明の請求項6の発明によれば、ゼロ点測定用ラインの流量が少ない状態で、少量の水が混入しても、水粒子による影響が少ないので、誤差の少ない水分比率出力を得ることができる。
【0016】
〔ブラウン運動及び静電作用による電極表面への凝集効果〕
W/O型エマルジョン液体は、連続層である油の中に水が分散している状態である。
この様な液体の静電容量を計測する場合、水粒子が受ける特異的な作用としては、ブラウン運動と呼ばれる連続層分子の衝突によるランダムな動きと、油層と水粒子に加わる静電作用である。電極間と連続層は連続層の静電分極作用に基づく誘電体を持つマクロ的なコンデンサーとなっているが、水粒子は静電誘導に基づくミクロ的な電荷量の多い誘電体となっている。
静電容量を計測するには、交流電圧を電極間に加え、その静電容量値の変化を計測するものであるが、電導性の無い連続層のみを計測する場合には、連続層は静電分極作用を受け、夫々の分子内で電子の偏りを生じ、誘電作用により静電容量を真空に比べて上昇させる作用を持つ。この場合には、液体がどの様に流動してもあるいは静止しても連続層分子内で静電分極するだけであるので、静電容量の変化は生じない。
ところが、その連続層に極性を持つ水粒子が分散された場合には、水粒子は電極の電位と逆向きに電荷が溜まる静電誘導の状態になり、連続層よりも多くの電荷が溜まる状態になる。
この様な状態でバランスしている時に、ブラウン運動により水粒子が動かされた場合を想定すると、水粒子が電極に近づくことは電荷の蓄積量が増加するので、電極に溜まる電荷が増えることになるが、その状態から引き離すと言うことは溜まった電荷が失われることになるので、その失われたエネルギーに相当するエネルギーを与える必要があり、結果的に水粒子は電極部分に接近することになる。
しかし、測定電位が交流的であることと水粒子が電極に近接したり、水粒子同士が近接すると、間に挟まれた連続層分子の電気的反発力が強くなり、電極と水粒子や水粒子同士が結合するには至らず、電極付近に凝集した状態になるものと推定される。
【0017】
〔静電容量センサーの誘電体との距離効果〕
静電容量センサーは、電極表面付近に電荷が集中することから、電極表面近傍に、誘電率が高い物質が集まると、電極間に均一に分散している場合に比べて静電容量が上がることが判っている。
この為、従来方法の油中水分量測定では、水分が電極表面付近に集まることで、微量の水分でも検出感度の良い測定が出来るものの、5%以上の水分量になると電極付近に集まる水粒子が飽和してしまい、それ以上の水分量となっても変化が殆ど現れないことが判った。
【0018】
〔有効電極面〕
静電容量センサーにおける有効電極面とは、静電容量センサーの電極間に存在する物質の誘電率が全て均質なものであれば、特に意識する必要の無い概念である。しかし、電極間に誘電率の異なる物質が不均質に存在する場合には、有効電極面の範囲を特定し、この部分に測定したい誘電性物質を存在させる必要がある。静電容量は、電極が2平面の場合に次式の様な関係にある。
C=εS/d
C:静電容量(F)
ε:誘電率
S:面積(m
d:間隔(m)
この為、静電容量センサーにおいては、電極間距離が2倍になると同一の誘電物質を介している場合に、静電容量値は1/2になる。
有効電極面とは、有効電極面以外電極表面の誘電物質の誘電率が変化しても、有効電極面で計測した静電容量値が許容誤差範囲に収まる範囲である電極面の範囲を言う。
【0019】
〔ゼロ点用静電容量センサー〕
ゼロ点を検出する為のゼロ点用静電容量センサーは、W/O型エマルジョン液体の連続層を構成する流体の誘電率の変化による静電容量値の出力特性が、W/O型エマルジョン液計測用のセンサー電極と同等であれば、センサー形状や測定方法等に制限は無く、一般的な静電容量センサーを用いることが出来る。
しかし、連続計測時においては、その計測液体がW/O型エマルジョン液体を構成する連続層液体と同等で無ければ、計測精度を上げることが出来ないことや、連続液体中に僅かでも水が含まれてしまうと、前出の静電分極とブラウン運動による凝集効果や誘電体の電極表面効果等によりゼロ点が大幅に狂うこと等があるので注意が必要である。
尚、ゼロ点検出用の連続層液体に水分が微量でも含まれる可能性がある場合には、ゼロ点用静電容量センサーの計測方法を、本発明による水分量測定用静電容量センサーと同等にすることで誤差を少なくすることができる。
【0020】
〔水分比率演算手段〕
一般的にはマイクロコンピューター等でコントロールされて、アナログ入力された静電容量値を、予め記憶されている計算式やパラメーターに従い水分量のアナログ出力を行う制御装置のことを示すが、入出力をデジタルや通信等の伝達手段で行ったり、内部演算をオペアンプ等のアナログ処理回路のみで行ったりする場合もある。
【0021】
〔ゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段〕
ゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段とは、予め測定対象の水分量がゼロである連続層液体のみの静電容量値を計測した値若しくはその液体用のパラメーターをゼロ点として記憶して置き、実際にW/O型エマルジョン液体を計測した際に、計測時の静電容量値とゼロ点の静電容量値の差分を水分量計算の有効データとして利用する演算手段である。分散層が水である場合には、スパン側は常に一定でも計測誤差は少ない。
【0022】
〔ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段〕
ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段とは、W/O型エマルジョン液体を構成する連続層側の誘電率が変化する系において適用される水分比率演算手段であり、「ゼロ点用静電容量センサー」を備えた「ゼロ点測定用静電容量測定手段」からのゼロ点静電容量値により、動的にゼロ点を決定し、W/O型エマルジョン液体の計測値との差分を水分量計算の有効データとして利用する演算手段である。
【0023】
〔ゼロ点静電容量記憶型水分比率温度補正型演算手段〕及び
〔ゼロ点静電容量自動補正型水分比率温度補正型演算手段〕
ゼロ点静電容量記憶型若しくはゼロ点静電容量自動補正型の水分比率演算手段において、「水分量測定用静電容量センサー」内液体の温度を計測する「水分量測定用温度計測手段」を備え、該温度信号によって、水分比率測定用センサーからの静電容量値から水分比率を求める際に、ゼロ点については、W/O型エマルジョン液体の連続層の誘電率の温度依存係数に従った補正を行い、スパン量については、スパン量における水分比率に応じて、W/O型エマルジョン液体の連続層と分散層夫々の誘電率の温度依存係数に従った補正を行うことの出来る水分比率演算手段である。誘電率の温度依存係数については、予め演算手段等に組み込まれたパラメーター等を利用する。
【0024】
〔ゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率演算手段〕及び
〔ゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率温度補正型演算手段〕
ゼロ点静電容量自動補正型の水分比率演算手段において、「ゼロ点測定用静電容量測定手段」のゼロ点測定用センサー内の液体温度を計測する「ゼロ点測定用温度計測手段」を備え、該温度信号によって、ゼロ点測定用静電容量センサーからの静電容量値に、W/O型エマルジョン液体の連続層の誘電率の温度依存係数に従った補正を行うことの出来る水分比率演算手段である。
【0025】
〔ゼロ点密度換算型の水分比率演算手段〕
前記のゼロ点静電容量自動補正型の水分比率演算装置で用いるゼロ点測定用センサーに代えて、密度測定手段と温度測定手段からの信号から基準温度における液体の密度、若しくは密度信号のみから、基準静電容量値を求めその値を利用して水分量測定用静電容量センサーの値から水分比率を演算することのできる演算手段であり、水分量測定用静電容量センサーの値の補正を行わないゼロ点密度換算型水分比率演算手段と、補正を行うゼロ点密度換算型水分比率温度補正型演算手段の2通りの演算手段がある。
【0026】
〔分散粒子の静電作用とブラウン運動による電極表面凝集効果を打ち消す速度〕
分散粒子の静電分極とブラウン運動による電極表面凝集効果を打ち消す速度は、分散粒子径、連続層の温度や平均分子数、粘度等が特定できれば熱力学的に求めることも不可能では無いが、分散粒子径等は実際には特定が困難な場合が多く、実際には次の様な実験的手法にて速度を求める。
(実験的手法による速度)
対象とする静電容量センサーにおいて、水分比率が一定のW/O型エマルジョン液体を循環させながら静電容量の計測を行う。
センサーに流れる流速を十分速くした(概ね1m/S程度)状態で静電容量を計測しその値が維持できるまで流速を遅くしてゆく。
凝集が始まると、静電容量値が上昇しはじめるので、その上昇しはじめる直前の流速が、そのセンサーにおける下限速度となる。
実際には、温度や粒子径の変化等に対応できる様に、その2倍程度の安全率を見込んで流速設定を行うことが望ましい。
【0027】
〔W/O型エマルジョン液体の比誘電率変化特性〕
本発明において、静電分極とブラウン運動による凝集効果を打ち消した測定を行えば、含水率(水/(水+燃料)×100)に応じたリニアな出力が得られることが期待される。即ち、燃料の比誘電率2〜3の液体の静電容量値と、水の比誘電率80の液体の静電容量値を直線で結んだ線上に含水率に応じた静電容量がプロットできると期待される。
しかしながら、W/O型エマルジョン液体の場合には水は一定の大きさを持つ粒子として存在し、さらに電極面には油膜が存在することなどから、本方式で計測される水の比誘電率は、本来水の持つ比誘電率のおよそ10〜14分の1程度となる。又、その様に油層の影響が支配的である為、油層を一定とした中での水の存在比に応じた静電容量の変化率となると推定され、加水率50%程度(含水率33%)までは、加水率に対してリニアな特性となることが判り(図6a及び図6c参照)、加水率100%程度(含水率50%)程度までは同等に加水率とリニアな計測が可能であることが推定される。
即ち立方体(正6面体)と該立方体の1辺と同一の直径を持つ球の体積は最大52.35%であり、これ以下の含水率の場合には、粒子は自由に流動することが出来る立方格子的な配列を取るが、これを超えた場合には、水粒子の格子状の配列の間に水の粒子が入り込む形状となる為である。この時の静電容量計測用アンプの周波数は10KHzであるが、通常は1K〜1MHz程度までで、周囲のノイズ環境や電極とアンプ間の距離、電極の静電容量値等により適宜決定する方法で良い。
【0028】
〔密度と静電容量値の相関〕
酸素や硫黄等の極性基を形成する元素の量が相対的に少ない炭化水素液体(石油製品等)においては、その液体に水を含まない場合、密度と静電容量の関係が正の相関を示すと同時に、液体の膨張係数と静電容量の変化も正の相関を示すことが判った(図9a、図9b参照)。
即ち、炭化水素系液体においては、静電分極により誘電性を持つ成分構成は、密度によって殆ど変化しない為、密度の高い液体程比誘電率が高くなり、温度の変化による膨張係数と静電容量の変化率も正の相関を示すので、両者は相互に変換が可能である。
この様な特性により、本発明におけるゼロ点測定用静電容量測定手段の代わりに、密度測定手段により液体の基準密度を求め、基準密度に応じた水分測定電極のゼロ点値を求めることで、W/Oエマルジョン液体中の水分量を計測することが出来る。
この方法では、ゼロ点測定用電極側のラインに少量の水が混入しても、密度測定は流速には依存しないので、ゼロ点測定用電極側の流速が変化する使用条件であっても、密度の変化は少なく水分測定電極のゼロ値を安定させることができる。
特にこの方法は、C重油と水の様に密度が殆ど同じ液体の場合、水の混合比の違いで密度が殆ど変化しない為、精度よく加水率を測定することが可能になり、流速の変化や水混入、逆流等も考慮しなければ成らない実用用途において有利である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ディーゼルエンジン用水分比率測定装置を示すフロー図。
【図2】水分量測定用静電容量センサーの例1を示す説明図。
【図3】水分量測定用静電容量センサーの例2を示す説明図。
【図4】水分量測定には望ましくない形状のセンサーの例を示す説明図。
【図5】バイパスライン設置静電容量センサーを示すフロー図。
【図6a】静電容量と実際の水分量(加水率)の散布図。
【図6b】温度補正を行った場合の静電容量と実際の水分量の散布図。
【図6c】静電容量と実際の水分量(含水率)の散布図。
【図7】バッチプロセス用W/O型エマルジョン液体のタンク型センサーを示す説明図。
【図8】静電誘導と静電分極を示す説明図。
【図9a】密度と静電容量の散布図。
【図9b】密度及び静電容量の温度変化値を示す説明図。
【図10a】タンク用センサーの形態例1を示す説明図。
【図10b】タンク用センサーの形態例2を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
(全体構成)
図1は、本実施形態に係わる舶用ディーゼルエンジン用水エマルジョン装置における水分量検出を行うフロー図である。
図2及び図3は、本実施形態に係わる水分量測定用静電容量センサー及びゼロ点測定用静電容量センサーの正面図(A)と横側面図(B)を示している。
図1において、まず燃料に水を加えてエマルジョン化しディーゼルエンジンに供給する流れを説明する。
ディーゼルエンジン(50)には、軽質油タンク(22)に貯留されている軽質油か重質油タンク(24)に貯留されている重質油のどちらかが、運用状況に応じて供給される。
燃料の切替は切替弁(29)で行われる。タンクから供給された燃料油は燃料ポンプ(27)で加圧され質量流量計(28)を経由して、エマルジョン燃料循環ポンプ(35)に供給され、ミキサー(34)に供給される。
水は、燃料流量計を通過する燃料流量を水エマルジョン装置コントローラー(33)で受信し、コントローラー内で設定された加水率に応じて、水ポンプ(32)の流量コントロールを行い、ミキサーに供給される。
ミキサーでは、燃料と水を混合しエマルジョン化し、水エマルジョン燃料としてディーゼルエンジンに供給される。
ディーゼルエンジンで使われなかった水エマルジョン燃料は、再びエマルジョン燃料循環ポンプに戻り、ミキサーにて再混合される。
この様な構成が、ディーゼルエンジンにおける水エマルジョン燃料の基本的な構成である。説明を簡便化する為に、本発明を説明する上で付随的な機能については省いてある。
【0031】
(管路用静電容量センサーの種類)
(形状1)
図2は、一般型センサーであるL字型管路センサーの正面図(A)と横側面図(B)を示している。
このセンサーは、金属製管路をターゲット電極(1)とし、内部にプローブ電極(5)を挿入して静電容量センサーとしての機能を実現している。ターゲット電極(1)は、外部に引き出されているターゲット電極用リード線(2)と接続されている。
尚、この形状の場合プローブ電極全面は、プローブ電極有効面(7)となる。
プローブ電極は、絶縁体(10)によりターゲット電極と絶縁されており、外部に引き出されているプローブ電極用リード線(6)と接続されている。
ターゲット電極は金属製管路の全てであるが、ターゲット電極有効面(3)はプローブ電極付近に限られる。これはプローブ電極から距離が離れるに従い、誘電体の誘電率が変化しても、電極全体としての静電容量値に与える影響が僅かになる為である。
この様な形状のセンサーの場合には、ターゲット電極とプローブ電極間の最も近接した位置から、4倍以内の範囲をターゲット電極の有効面とすることが一般的である。
一方で、プローブ電極は全ての位置でターゲット電極との最も近接した位置から4倍以上離れている部分が無いので、全てが有効面であると考える。
W/O型エマルジョン液体は、流体入口(20)側から入り、ターゲット電極とプローブ電極の間を流れて、流体出口に向かうが、この様な形状のセンサーの場合には、最低でも流速を13cm/S以上、望ましくは26cm/S以上に設定することで、静電分極とブラウン運動による分散粒子の凝集を防止することができる。
【0032】
(形状2)
図3は、低流速対応のセンサーの管路正面からの図(A)と管路の横からの側面図(B)を示している。
このセンサーは、ターゲット電極(1)が管路(11)とは絶縁され、プローブ電極(5)と平行に向き合った対称的な形状をしている。このセンサーの特徴は、両方のセンサー共に細い針状のセンサーになっていて、管路の中心部付近に設置される点である。
針状にすることで、粘度の上昇に伴う流体の固体表面のずり速度の低下を防止できるので、形状1のセンサーに比べて液体流速を低下させても、静電分極とブラウン運動による水粒子の凝集を防止することが出来る。
更に、センサー間の距離が最も近くなる部分が、円形管路の中心部となるので、流速が早く分散状態が安定した領域で計測が行える。
センサー電極の直径を1.6mmに設定した場合、管路内の平均流速を最低で4cm/S以上、望ましくは8cm/S以上に設定することで、静電分極とブラウン運動による分散粒子の凝集を防止することができる。
この様な形状のセンサーは、管路内の流速が遅くても、精度良く計測できるので、配管の口径を上げることが出来、圧力損失の増加を防止することができる。
【0033】
(形状3)
図4は、一般型センサーであるL字型管路センサーの正面図(A)と横側面図(B)を示している。
このセンサーは、(形状1)のセンサーの構成と同一であるが、プローブ電極(5)の中間付近で、上部に分岐されているので、ターゲット電極有効面(3)に低流速ターゲット電極有効面(3a)部分が形成されてしまう。同時にプローブ電極の有効面にも低流速プローブ電極有効面(7a)が形成される。
この部分では、流体入口(20)から流体出口(21)の流速を上げても、直接の流路になっておらず、流速が上がらないので、静電分極とブラウン運動により分散粒子の凝集が生じやすくなる。
従って、この形状のセンサーは、水分量測定には適していないが、ゼロ点測定用としては用いることができる。
【0034】
(ゼロ点測定用センサーの構成)
本発明のゼロ点測定用センサーは、燃料ライン(26)の経路上に、ゼロ点測定用静電容量センサー(9)とゼロ点測定用温度センサー(13)を配置し、ゼロ点測定用静電容量計(41)とは、信号線(14)で接続されている。
同時に、燃料流量計の流量信号もゼロ点測定用静電容量計と接続されている。
ここで、用いるゼロ点測定用静電容量センサーは、図4の様にターゲット有効電極面(3)の一部が流速の遅い形状になったものでも使用できる。
しかし、水分が混入する恐れがある場合には、図2若しくは図3の様に有効電極面の流速が一定であるタイプの電極とすることで、誤差を少なくすることができる。
この実施例の温度センサーは、この温度領域で精度の良い計測が可能な白金測温体を用いるが、熱電対やサーミスタ及びバイメタル式等を含めた接触式でも、赤外線式サーモグラフィーの等の非接触の計測を行うセンサーを用いても問題は無い
【0035】
(水分量測定用センサーの構成)
本発明の水分量測定センサーは、ミキサーを経由した後の水エマルジョンライン(31)の経路上に、水分量測定用静電容量センサー(8)と水分量測定用温度センサー(12)を配置し、水分比率演算装置(40)とは信号線(14)で接続されている。
更に、ゼロ点測定用静電容量計からのゼロ点信号を入力すると同時に、エマルジョン燃料循環ポンプ(35)の運転監視を行っている。
即ち、ディーゼルエンジンの水エマルジョンライン(31)は、エンジンの負荷に係わらずほぼ一定であるので、予めその循環流量で水分量測定を行うのに必要な流速になる様にセンサーの設計を行っておけば、エマルジョン燃料循環ポンプが運転していることを確認するだけで、正確な静電容量値が得られる為である。
【0036】
(ゼロ点測定法)
舶用ディーゼルエンジンの場合には、エンジン起動停止前後及び特定海域では、軽質燃料を用い、一般外洋運航時には重質油を用いる。
外航船の場合には積み込む燃料油の組成が、寄港地により様々であるので、ゼロ点の自動補正を行わないと、水分比率演算の誤差が大きくなる。
【0037】
(ゼロ点測定の静電容量と温度検出によるゼロ点値の変更)
軽質油であるか重質油であるかは、燃料ライン(26)を通過する静電容量値と燃料油温を検出することで判断できる。
ここの静電容量値と温度信号により、それに基づく誘電率の温度係数から基準温度(例えば0℃)における静電容量値とすることで、基準温度における静電容量値によって、通過している燃料が軽質油であるか重質油であるかを判断することができる。
又、この基準温度における静電容量値が判れば、水分測定センサーにおける水分量0の基準静電容量(ゼロ点値)に変換することができる。
【0038】
(ゼロ点測定の計測流量確保と流量減少によるホールド)
ゼロ点測定用静電容量センサーは、水の混入リスクが無ければ、流速が遅くなっても静電分極とブラウン運動による凝集の心配が無いので、計測流量確保に配慮する必要は無いが、舶用ディーゼルエンジンの場合には、エンジンに供給されたエマルジョン燃料の一部が潤滑の為に外部に排出されるので、この排出されたエマルジョン燃料の一部が軽質油タンク若しくは重質油タンクに混入するリスクがゼロとは言えない。
タンクへの水分量混入は、最大でも1%未満と微量であると推定されるが、燃料流速が遅くなり、静電分極とブラウン運動によりセンサー部に凝集してしまうと、静電容量が大きく変化し、結果的に水分比率測定に大きな誤差を生じさせるリスクを生じる。
燃料流量はディーゼルエンジンの出力に応じて、増減するが本フローの様に質量流量計(28)と同一ライン上にゼロ点測定用静電容量センサー(9)を設置した場合には、エンジン負荷が低下し燃料流量が低下した場合には、流量が正常範囲であった場合の値にホールドする等の方法で誤差を防止できる。若しくは、ゼロ点測定用静電容量センサーを、ポンプ出口部燃料ライン(26a)に設置することで、エンジンの負荷変動に関係無く燃料ポンプが運転していれば一定の流量が流れるので、燃料ポンプの運転状態を監視し運転している場合には、誤差の少ない値として水分比率演算装置への信号とすることも可能である。
又、燃料流量測定手段を、本システムの様に質量流量計(28)とした場合、当該質量流量計から密度の信号を得ることが可能である。この場合には流量が低下してゼロ点測定用センサーの精度が低下する恐れがある時、質量流量計の密度と温度測定手段の温度から、基準密度を求めた上で、基準静電容量値に変換し、水分量測定用静電容量センサーのゼロ点値を求めることで、負荷低下時にも正確なゼロ点値を求めることが可能となる。
尚、密度計測法によるゼロ点値を求める方法において、専ら常温付近でのみ用いる場合や、温度条件が一定である場合には、誤差が少ない為密度信号のみで基準静電容量に変換することも可能である。
質量流量計とは、流体の流量計測手段の一種であり、コリオリの力と言う慣性力を計測することで、流体の質量流量を計測するものであるが、流量計測と同時に流体の密度も計測できる特徴を持つ。
【0039】
(水分量測定用静電容量の測定)
水分量測定用静電容量センサー(8)には、エマルジョン燃料循環ポンプ(35)の吐出量全量と、水ライン(36)を経由した水エマルジョンの設定比率に応じた水の合計量が通過する。
エマルジョン燃料循環ポンプの吐出量が、水分量測定用静電容量センサーの形式に応じて、センサーの有効電極面の最低流速以上になる様にセンサー形状を決定しておけば、精度良く水分量の計測が実施できる。
図1では吐出量全量が流れるフローを示しているが、図5の様に水エマルジョンライン(31)にオリフィス(39)を設置し、水エマルジョンバイパスライン(31b)に水分量測定用静電容量センサーを設置することも可能である。
この場合には、バイパスラインへの流量が水分量測定用静電容量センサーの下限測定流量以上になる様にオリフィスのサイズを選定する必要があるがこの様にすると、ディーゼルエンジンの出力(燃料循環量)に関係なく、同一形状のセンサーを用いることができるので、パラメーターの設定が容易となる。
【0040】
(水分量測定用静電容量からの水分量の演算)
図6aは、図1の水分量測定用静電容量センサーの静電容量値と、水エマルジョン装置コントローラーで、実際に循環系に供給された燃料量と水の量から、系内の水分量を演算した値を散布図としてプロットしたものである。
水分量としては質量の加水率(水/燃料油)を示している。
水分量がゼロの時に144pFの値を示しているが、これは電極間距離と燃料油の誘電率により示されたこのセンサーにおけるゼロ点値である。
水分量の増加と伴にほぼ直線的に静電容量値も上昇するので、概ね次の式によって水分量を求めることができる。
水分量[重量加水率]=0.3×(静電容量値−ゼロ点値)
又、より正確に求める場合には、測定点の水分量と静電容量値をプロットして置き、中間点の静電容量値が入力された場合に、その区間を比例法によって求める方法や、測定静電容量値からゼロ値を引いた値をYとした場合の多項式(水分量=αY2+βY−γ)で近似する方法がある。
【0041】
(水分量測定用静電容量の温度と成分補正)
舶用ディーゼルエンジンにおいては、前述の様に燃料の種類が寄航地毎に異なったり、軽質油や重質油の使い分け等を行うので、水分量測定用静電容量センサーを通過する燃料や温度が異なる場合が多い。
燃料の温度上昇は、前述のゼロ点値が減少し、燃料が重質燃料に代わり密度が上昇した場合にはゼロ点値は上昇する。従って、前述のゼロ点値をこの様な条件に従って、ゼロ点測定用静電容量センサー若しくは純燃料ラインの密度信号から求めて調整することで、燃料条件の変更に対応できる。
一般的にゼロ点値を求める方法としては、ゼロ点測定用センサーの静電容量値とそのセンサーの液体温度から、基準温度(例えば0℃)の静電容量値を求め、その値を水分量測定用静電容量センサーの基準温度におけるゼロ点値に変換し、さらに水分量測定用センサーの計測温度におけるゼロ点値に変換する方法や、ゼロ点測定用センサーの容量値と夫々のセンサーの温度をデータベースとして、水分量測定用センサーのゼロ点値を求める方法がある他、前述の様に密度信号と温度信号によりゼロ点値を求める方法がある。
何れにしても、水分測定用センサーの測定温度における水を含まない燃料の静電容量がゼロ点測定用静電容量センサー或いは密度信号から推定できれば、測定値との差が水分量とほぼ比例するので水分量を測定することができる
【0042】
(水分量信号の出力)
水分比率演算器からの出力である水分量信号(17)は、主に次の様な水分量の表現方法となる。
加水率(燃料を100とした場合の水分量の比率)
含水率(燃料と水の混合液中の水分量の比率)
上記は、夫々重量%及び容積%で表すことができる。
尚、加水率と含水率は、
含水率=加水率/(加水率+100)×100
加水率=含水率/(100−含水率)×100
で相互に変換可能である。
本発明によるセンサーでは、図6aの様に加水率に対してリニアに近い特性が得られるので、一般的にはまず加水率を求めた上で、含水率に変更する方法が有利である。
【0043】
(循環ポンプ停止によるホールド)
一般的にエマルジョン循環ポンプが停止した場合にはディーゼルエンジンも停止するので、水分量を正確に出力する意味は少ないが、停止した場合には停止前の水分量測定値をホールドして置くことで、水分量を利用した制御機器の誤作動を防止することができる。
【0044】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
(機器構成)
図7は、本実施形態に係わるW/O型エマルジョン液体のバッチ式製造プロセスのタンクの上面図(A)及び横側面図(B)を示している。
バッチプロセスとは、タンク(1)内に原料である油と水及び界面活性剤等を投入し、攪拌機(37)により乳化させたものを製品として利用する処理設備であり、一回毎に製造量を決定し、タンク内の全量を取り出すことが特徴である。
【0045】
(センサー構造の特徴)
本発明では、ステンレスで構成されたタンクと絶縁されたプローブ電極と、タンク内の一部をターゲット電極(1)の有効面(3)として構成された静電容量計となっている。
この電極は、円柱状の電極でも良いが、静電分極とブラウン運動を防止する程度の流速を与えた場合に強度が不足すると電極が振れて正しく測定出来なかったり、太くすると下流側に停滞部分が出来るなどの不具合を生じやすいので、流れ方向に対して抵抗の少ない流線型の様な形状が望ましい。
尚、円盤状のプローブ電極と、それと同等の形状のターゲット電極を流れに対して平行に設置してタンク内の水分量を計測するセンサー形状(図10a参照)や棒状のプローブ電極とターゲット電極を流れに対して平行に設置したセンサー形状(図10b参照)等は、タンクが絶縁物で製作されていたり、コーティング等により電気的特性が変化する場合にも使用ができる。
【0046】
(特徴)
この形状のセンサーと攪拌機を用いると、攪拌機の運転によりセンサー付近の流速が上がり、静電分極とブラウン運動による凝集を防止できるので、水分比率に応じた正しい静電容量値を得ることが出来る。
一般的にこの様なバッチ処理で用いる原料や製造条件(温度)については、構成される物質や製造条件が一定であることが前提となるので、一般的に補正は不要である場合が多いが、原料の静電容量値が異なる場合や製造条件が異なる場合には、その条件に応じた補助電極や温度センサー等と併用することで対応が可能である。
(効果)
この様に製造タンク内でW/O型エマルジョン液体の水分計測を可能とすることで、製造中に水分量を特定することが可能になり、品質管理が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
W/O型エマルジョン液体は、W/O型エマルジョン燃料として、ボイラ等の外燃機関には30年程前より普及しているが、近年舶用ディーゼル機関のNOx規制が施行されることにより、水エマルジョン燃料の普及が期待される。
ディーゼル機関においては、水エマルジョン燃料を用いて運用を行う場合、出力を維持する為には、水エマルジョン燃料を加水率分多く噴射しなければならない。ところが、万が一その水エマルジョン燃料中の水分量が予定したものより少ない場合、水が規定量混合されたものと同量を噴射してしまうと、エンジンの重大な故障に繋がることが近年の運用研究の過程で明らかになった。
本発明は、その様なディーゼル機関用水エマルジョン装置の水分比率測定装置として活用が期待される。
その他に、W/O型エマルジョン液体は、食品や医療、塗装、機械加工の切削油等、動植物油や鉱物油の応用製品の製造工程や品質管理等に応用できる。
【符号の説明】
【0048】
1…ターゲット電極
2…ターゲット電極用リード線
3…ターゲット電極有効面
3a…低流速ターゲット電極有効面
5…プローブ電極
6…プローブ電極用リード線
7…プローブ電極有効面
7a…低流速プローブ電極有効面
8…水分量測定用静電容量センサー
9…ゼロ点測定用静電容量センサー
10…絶縁体
11…管路
12…水分量測定用温度センサー
13…ゼロ点測定用温度センサー
14…信号線
15…動力線
16…補正後ゼロ点信号
17…水分量信号
20…流体入口
21…流体出口
22…軽質油タンク
23…軽質油ライン
24…重質油タンク
25…重質油ライン
26…燃料ライン
26a…ポンプ出口部燃料ライン
26b…圧力調整燃料ライン
27…燃料ポンプ
28…質量流量計(密度計付き)
29…切替弁
31…水エマルジョンライン
31a…水エマルジョンライン戻り側
31b…水エマルジョンバイパスライン
32…水ポンプ
33…水エマルジョン装置コントローラー
34…ミキサー
35…エマルジョン燃料循環ポンプ
36…水ライン
37…攪拌機
38…圧力調整弁
39…オリフィス
40…水分比率演算装置
41…ゼロ点測定用静電容量計
43…エンジンガバナーコントローラー
50…ディーゼルエンジン
60…正電荷帯電体
61…負電荷帯電体
62…導体
63…誘電体(絶縁体)
65…タンク壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に存在する誘電性物質の誘電率の違いを計測できる静電容量センサーにおいて、
流体の流路を構成する電気的導体部若しくは流体の流路中に配置された電気的導体をターゲット電極とし、該ターゲット電極と流体誘電体により静電容量的に結合し、且つ電気的に絶縁された位置に配置されたプローブ電極から構成される静電容量センサー電極において測定液である流体誘電体としてW/O型エマルジョン液を使用する場合、
静電容量センサー電極の有効電極面の表面において、該W/O型エマルジョン液体と該表面との平均相対速度の最も遅い部分が、分散粒子の静電作用とブラウン運動による電極表面凝集効果を打ち消す速度以上の状態で計測する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法において、
前記静電容量センサーと、
該センサーからの静電容量値を受信し、予め登録してある水を含まない連続層の静電容量値から、測定対象のW/O型エマルジョン液体の水分量を演算することのできるゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段とを備え、
W/O型エマルジョン液体の静電容量を計測し、該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法において、
前記静電容量センサーと同等の静電容量特性を持つゼロ点測定用静電容量測定手段を備え、
該ゼロ点測定用静電容量測定手段のゼロ点測定用静電容量センサーは、測定するW/O型エマルジョン液体の連続層のみが満たされる管路に設置され、該ゼロ点測定用静電容量測定手段の静電容量値を水分量0の基準信号として、前記水分比率測定方法で計測された前記静電容量センサーのW/O型エマルジョン液体の静電容量値から水分量を補正計算するゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段を備え、
W/O型エマルジョン液体を構成する連続層と、W/O型エマルジョン液体の静電容量を計測し、W/O型エマルジョン液体の水分量を出力する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法において、
前記静電容量センサー内に流れる流体の温度を計測する水分量測定用温度計測手段を備え、
該温度計測手段からの信号により、前記ゼロ点静電容量記憶型水分比率演算手段若しくは前記ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段のゼロ点値及びスパン量を予め登録されている誘電率の温度依存係数に従って調整する、ゼロ点静電容量記憶型水分比率温度補正型演算手段若しくはゼロ点静電容量自動補正型水分比率温度補正型演算手段とした水分比率演算手段を備え、
W/O型エマルジョン液体中の静電容量と温度を計測し、該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法において、
前記ゼロ点測定用静電容量センサー内に流れる流体の温度を計測するゼロ点測定用温度計測手段を備え、
該温度計測手段からの信号により、ゼロ点静電容量自動補正型水分比率演算手段若しくはゼロ点静電容量自動補正型水分比率温度補正型演算手段のゼロ点静電容量値を、予め登録してあるW/O型エマルジョン液体の連続層の誘電率の温度依存係数に従い補正する、ゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率演算手段若しくはゼロ点静電容量温度自動補正型水分比率温度補正型演算手段とした水分比率演算手段を備え、
ゼロ点の静電容量と温度を計測し、W/O型エマルジョン液体中の静電容量、若しくは、静電容量及び温度を計測し、該ゼロ点値と該静電容量値からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法において、
前記ゼロ点測定用静電容量センサーに代えて、連続層のみが満たされる管路に密度測定手段と温度測定手段を備え、該密度信号と温度信号から基準密度を求め、該基準密度信号から前記水分比率測定手段のゼロ点補正用信号を演算するゼロ点密度換算型の水分比率演算手段を備え、
ゼロ点の密度と温度を計測し、W/O型エマルジョン液体の静電容量、若しくは、静電容量及び温度を計測し、該密度換算のゼロ点値と該静電容量からW/O型エマルジョン液体の水分量を出力する
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定方法。
【請求項7】
電極間に存在する誘電性物質の誘電率の違いを計測できる静電容量センサーにおいて、
流体の流路を構成する電気的導体部若しくは流体の流路中に配置された電気的導体をターゲット電極とし、該ターゲット電極と流体誘電体により静電容量的に結合し、且つ電気的に絶縁された位置に配置されたプローブ電極から構成される静電容量センサー電極において測定液である流体誘電体としてW/O型エマルジョン液を使用する場合、
静電容量センサー電極の有効電極面の表面において、該W/O型エマルジョン液体と該表面との平均相対速度の最も遅い部分が、分散粒子の静電作用とブラウン運動による電極表面凝集効果を打ち消す速度以上の状態で計測する計測手段を備える
ことを特徴とするW/O型エマルジョン液体の水分比率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【公開番号】特開2012−145438(P2012−145438A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3918(P2011−3918)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(592029289)株式会社関口 (4)
【出願人】(591258635)山本電機工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】