説明

WT1遺伝子トランスジェニック動物

【課題】T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニングに有効なトランスジェニックマウスを提供する。
【解決手段】17AA+/KTS-スプライス型のWT1タンパク質をコードするDNAの導入により、T細胞系列の分化または発生の抑制が誘導されている、またはT細胞系列の分化または発生の抑制を誘導することができる、白血病の症状を呈するトランスジェニックマウス、該マウスから樹立された細胞、およびT細胞系列の分化または発生を制御する化合物並びに該化合物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物、および該動物から樹立された細胞に関する。また、本発明は、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物、並びに、該化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルムス腫瘍遺伝子WT1は、小児腎腫瘍であるウィルムス腫瘍の原因となる遺伝子として単離された[特許文献1、非特許文献1、2]。この遺伝子はジンクフィンガー転写因子をコードし、組織発生、細胞の増殖および分化、ならびにアポトーシスに重要な役割を果たす[非特許文献3]。WT1遺伝子が破壊されたマウスは泌尿生殖器系に欠陥があり、胎生13.5日の時点で死亡することが示されており、これは心不全のためと考えられている[非特許文献4]。
【0003】
野生型WT1遺伝子は、病型を問わないほぼすべての白血病[非特許文献5〜10]、骨髄異形成症候群(MDS)[非特許文献11]および発作性夜間血色素尿症[非特許文献12]において高発現される。MDSにおけるWT1遺伝子の発現は、疾患が不応性貧血(RA)から芽球増加を伴うRA(RAEB)を経て移行期RAEB(RAEB-t)へと進行するに伴って増加する。さらに、野生型WT1遺伝子は、肺癌および乳癌[特許文献5、非特許文献13〜27]をはじめとする、さまざまな種類の固形腫瘍でも過剰発現されている。これらの所見から、本発明者らはWT1遺伝子に発癌作用があると考えるに至った。
【0004】
WT1遺伝子は当初、癌抑制遺伝子に分類されていた[非特許文献3]。しかし、WT1アンチセンスオリゴマーの投与によって白血病細胞および固形腫瘍細胞の増殖は阻害された[特許文献2、3、非特許文献23、28、29]。また、WT1タンパク質が癌ワクチンとして利用しうることが判明している[特許文献4]。一方、野生型WT1遺伝子の構成的発現によって骨髄球系前駆細胞の分化は妨げられ、その代わりに顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)に対する細胞増殖が誘導された[非特許文献30、31]。これらの結果は、WT1遺伝子が癌抑制遺伝子としての作用ではなく、発癌作用を発揮することを強く示すものである。
【0005】
赤芽球系白血病細胞株K562および骨髄球系細胞株HL-60はいずれも、その分化に伴ってWT1を発現しなくなる[非特許文献32、33]。ヒトのCD34骨髄球系または赤芽球系前駆細胞はWT1を発現するが、CD34細胞は発現しなくなる[非特許文献10、34]。これらの結果から、WT1遺伝子が骨髄球系および赤芽球系の前駆細胞の分化に関与することが示唆されている。さらに、野生型WT1遺伝子は急性リンパ球性白血病の大半で発現されている。しかし、WT1遺伝子がリンパ球系前駆細胞の発生および分化に関与することを示す直接的な証拠は得られていない。
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-503014
【特許文献2】特開平9-104629
【特許文献3】特開平11-35484
【特許文献4】WO 00/06602
【特許文献5】WO 98/39354
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Call KM et al., Cell. 1990; 60: 509
【非特許文献2】Gessler M et al., Nature. 1990; 343: 774
【非特許文献3】Menke AL et al., Int.Rev.Cytol. 1998; 181: 151
【非特許文献4】Moore AW et al., Development. 1999; 126: 1845
【非特許文献5】Miwa H et al., Leukemia. 1992; 6: 405
【非特許文献6】Miyagi T et al., Leukemia. 1993; 7: 970
【非特許文献7】Inoue K et al., Blood. 1994; 84: 3071
【非特許文献8】Brieger J et al., Leukemia. 1994; 8: 2138
【非特許文献9】Menssen HD et al., Leukemia. 1995; 9: 1060
【非特許文献10】Inoue K et al., Blood. 1997; 89: 1405
【非特許文献11】Tamaki H et al., Leukemia. 1999; 13: 393
【非特許文献12】Shichishima T et al., Blood. 2002; 100: 22
【非特許文献13】Park S et al., Nature Genet. 1993; 4: 415
【非特許文献14】Bruening W et al.,Cancer Invest. 1993; 11: 393
【非特許文献15】Viel A et al., Int.J.Cancer. 1994; 57: 515
【非特許文献16】Walker C et al., Cancer Res. 1994; 54: 3101
【非特許文献17】Rodeck U et al., Int.J.Cancer. 1994; 59: 78
【非特許文献18】Ladanyi M and Gerald W., Cancer Res. 1994; 54: 2837
【非特許文献19】Amin KM et al., Am.J. Pathol. 1995; 146: 344
【非特許文献20】Langerak AW et al., Genes Chromosomes Cancer. 1995; 12: 87
【非特許文献21】Silberstein GB et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 1997; 94: 8132
【非特許文献22】Campbell CE et al., Int.J.Cancer. 1998; 78: 182
【非特許文献23】Oji Y et al., Jpn.J.Cancer Res. 1999; 90: 194
【非特許文献24】Harada Y et al., Mol.Urol. 1999; 3: 357
【非特許文献25】Menssen HD et al., J.Cancer.Res.Clin. Oncol. 2000; 126: 226
【非特許文献26】Miyoshi Y et al., J. Clin. Cancer Res. 2002; 8:1167
【非特許文献27】Oji Y et al., Int. J. Cancer Res. 2002; 100: 304
【非特許文献28】Yamagami T et al., Blood. 1996; 87: 2878
【非特許文献29】Algar EM et al., Oncogene. 1996; 12: 1005
【非特許文献30】Inoue K et al., Blood. 1998; 91: 2969
【非特許文献31】Tsuboi A et al., Leuk.Res. 1999; 23: 499
【非特許文献32】Phelan SA et al., Cell Growth Diff. 1994; 5: 677
【非特許文献33】Sekiya M et al., Blood. 1994; 83:1876
【非特許文献34】Hosen N et al., Brit. J. Haematol. 2002; 116: 409
【発明の概要】
【0008】
本発明は、WT1タンパク質の機能を生体レベルにおいて明らかにすることを目的とする。さらに本発明は、得られた知見を基に、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法を提供することを課題とする。より具体的には、本発明は、WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物、該動物から樹立された細胞、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物、並びに、該化合物のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【0009】
本発明者らは、WT1タンパク質の機能を生体レベルにおいて明らかにするため、17AA+/KTS-スプライス型のWT1 cDNAを含むlck-hGHベクターが導入されたWT1トランスジェニック(Tg)マウスを作出した。WT1-Tgマウスの胸腺においてT細胞系列が正常に発生したか否かを検討するために、6週齡または12週齡の#21および#35 WT1-Tgマウスならびに正常同腹仔の胸腺細胞を、FACSにより、HSA、CD4およびCD8の発現に関して分析した。その結果、CD4CD8ダブルネガティブ(DN)細胞は、WT1-Tgマウスの2系統のいずれの胸腺においても正常同腹仔より多かった。さらに、胸腺細胞の4つのDNサブセット(DN1、CD44CD25;DN2、CD44CD25;DN3、CD44CD25;DN4、CD44CD25)のうちどのサブセットが増加したかを明らかにするために、CD4CD8 DN胸腺細胞をCD44およびCD25の発現に関してFACS分析した。その結果、4つのDNサブセットのうちCD44CD25であるDN1は、#21 WT1-Tgマウスの胸腺の方が同腹仔の場合よりも有意に多かったが(74.2%対18.7%)、DN2(1.5%対24.8%)およびDN3(2.0%対37.3%)は有意に少なかった。#35 WT1-Tgマウスでは、正常同腹仔との比較で4つのDNサブセットの割合に有意差は認められなかったが、12週齡のWT1-TgマウスではDN胸腺細胞が有意に多かった。WT1-TgマウスにおけるDN胸腺細胞の増加とは対照的に、CD4CD8ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞は、WT1-Tgマウスのいずれの系統ともに正常同腹仔よりも少なかった。
【0010】
さらに、本発明のWT1-Tgマウスでは、胸腺の腫大が起こり、急性リンパ性白血病が起こることが判明した。
【0011】
以上の結果は、lckプロモーターによって駆動されるWT1遺伝子の発現により、T細胞系列の胸腺内分化がブロックされ、その後リンパ性白血病が発症することを示すものである。従って、WT1遺伝子がT細胞系列の発生および分化に関与することが初めて判明した。
【0012】
即ち、本発明は、WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物、該動物から樹立された細胞、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物、並びに、該化合物のスクリーニング方法に関し、以下の〔1〕〜〔14〕を提供するものである。
〔1〕WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
〔2〕WT1タンパク質をコードするDNAの導入により、T細胞系列の分化または発生の抑制が誘導されている、または、T細胞系列の分化または発生の抑制を誘導することができる、トランスジェニック非ヒト動物。
〔3〕非ヒト動物がげっ歯類である、〔1〕または〔2〕に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
〔4〕げっ歯類がマウスである、〔3〕に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
〔5〕WT1タンパク質が17AA+/KTS−スプライス型 WT1タンパク質である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
〔6〕白血病の症状を呈する〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物から樹立された細胞。
〔8〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1タンパク質に被検化合物を接触させる工程
(b)該WT1タンパク質と被検化合物との結合を検出する工程
(c)該WT1タンパク質と結合する被検化合物を選択する工程
〔9〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物を〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物に投与する工程
(b)該トランスジェニック非ヒト動物のT細胞系列の分化または発生を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、T細胞系列の分化または発生を促進または抑制する化合物を選択する工程
〔10〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物をWT1タンパク質に接触させる工程
(b)該WT1タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、該WT1タンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する工程
〔11〕以下の(a)〜(d)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
〔12〕以下の(a)〜(d)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1タンパク質が結合するプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
〔13〕WT1タンパク質の発現または活性を制御する化合物を有効成分として含有する、T細胞系列の分化または発生を制御するための薬剤。
〔14〕化合物がヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体である、〔13〕に記載の薬剤。
【0013】
本発明は、WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物を提供する。本発明におけるトランスジェニック非ヒト動物の態様として、例えば、WT1タンパク質をコードするDNAの導入により、T細胞系列の分化または発生の抑制が誘導されている、または、T細胞系列の分化または発生の抑制を誘導することができる、トランスジェニック非ヒト動物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は白血病のモデル動物としての用途を有する。本発明は、このような本発明のトランスジェニック非ヒト動物の用途もまた提供する。本発明における白血病の種類は、特に制限はないが、例えば、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病などが挙げられる。
【0015】
WT1タンパク質をコードするDNA(Nakagama H et al., Mol. Cell. Biol. 1995; 15: 1489)は、小児腎腫瘍であるウィルムス腫瘍の原因となるDNAとして単離された[Call KM et al., Cell. 1990; 60: 509、Gessler M et al., Nature. 1990; 343: 774、特開平4-503014]。WT1タンパク質は、ジンクフィンガー転写因子であり、組織発生、細胞の増殖および分化、ならびにアポトーシスに重要な役割を果たす[Menke AL et al., Int.Rev.Cytol. 1998; 181: 151]。WT1タンパク質をコードするDNAは2つのスプライス部位で選択的スプライシングを受けるため、4つの異なるスプライス形態(17AA+/KTS+、17AA−/KTS−、17AA+/KTS−、および、17AA−/KTS+)が生じることが判明している[Herwitt SM et al., J. Biol. Chem. 1996; 271: 8588、Davies R et al., Cancer Res. 1999; (Suppl) 59: 1747s]。本発明におけるWT1タンパク質のスプライス形態としては、17AA+/KTS−スプライス型であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明において、「T細胞系列の分化または発生の抑制が誘導されているトランスジェニック非ヒト動物」とは、T細胞系列の分化または発生が抑制されている状態のトランスジェニック非ヒト動物を意味する。また、「T細胞系列の分化または発生の抑制を誘導することができるトランスジェニック非ヒト動物」とは、WT1タンパク質の発現を誘導することにより、T細胞系列の分化または発生を抑制しうる状態のトランスジェニック非ヒト動物を意味する。
【0017】
本発明における「非ヒト動物」とは、ヒトを含まない脊椎動物や無脊椎動物を意味する。遺伝子改変技術を用いて遺伝子の発現を人為的に改変するのに適した非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物や昆虫等が挙げられるが、より好適には、非ヒト哺乳動物(例えば、マウスやラットなどのげっ歯類)であり、最も好ましくはマウスである。
【0018】
トランスジェニック動物の作製方法は公知である。例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:7380-7384(1980)に記載の方法により、トランスジェニック動物を得ることができる。具体的には、WT1をコードするDNAを動物の全能細胞に導入し、この細胞を個体へと発生させる。得られた個体のうち、体細胞および生殖細胞中に導入遺伝子が組み込まれた個体を選別することによって、目的とするトランスジェニックマウスを作製することができる。遺伝子を導入する全能細胞としては、受精卵や初期胚のほか、多分化能を有するES細胞のような培養細胞などが挙げられる。より詳細には、後述の実施例に記載の方法により、トランスジェニック動物の作製を行うことができる。当業者においては、上記の方法を適宜改変して、所望の遺伝子の発現が改変されたトランスジェニック動物を作製することが可能である。
【0019】
上記の「WT1をコードするDNA」は、該DNAを導入すべき動物の細胞において発現可能なプロモーターに連結した組み換え遺伝子コンストラクト(発現ベクター)とするのが一般的である。本発明の組み換え遺伝子コンストラクトは、適当な宿主を利用してクローニング可能なベクターに、前記WT1をコードするDNAと、その上流にプロモーターとを挿入し、クローニングすることによって構築することができる。
【0020】
本発明に利用することができるプロモーターとしては、動物細胞で発現可能なプロモーターであれば特に制限されないが、リンパ球で選択的に遺伝子発現が可能なプロモーターを使用することもできる。このようなプロモーターとしてはlckプロモーターが知られている。lckプロモーターを有する遺伝子コンストラクトを使用することで、リンパ球に選択的にWT1タンパク質が発現したトランスジェニック動物を作出することが可能である。本発明に利用することができるその他のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーターを挙げることができる。例えば、SV40のプロモーターを使用する場合は、Mulliganらの方法(Nature (1990) 277, 108)に従って、上記コンストラクトを作製することができる。
【0021】
また、本発明に使用可能なベクターとしては、導入遺伝子を動物の生体内で広範囲に発現誘導でき得るものであればよく、当業者において周知の発現ベクターを利用することができる。例えば、lck-hGHベクターなどを挙げることができる。
【0022】
適当な制限酵素によって前記ベクターから切り出した組み換え遺伝子コンストラクトは、十分に精製されトランスジェニック動物の作製に用いられる。通常、トランスジェニック動物は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに、前記コンストラクトを導入することによって作製される。コンストラクトを導入する細胞としては、通常、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階、より具体的には単細胞あるいは受精卵細胞の段階で、通常8細胞期以前のものが利用される。上記コンストラクトの導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等が公知である。さらに、こうして得られた形質転換細胞を上述の胚芽細胞と融合させることによりトランスジェニック動物を作製することも可能である。
【0023】
上記コンストラクトを導入する細胞は、トランスジェニック動物の作製が可能なあらゆる非ヒト動物に由来する細胞であることができる。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イヌ、あるいはネコ等の細胞を利用することができる。マウスの場合、例えば、排卵誘発剤を投与したメスのマウスに正常なオスのマウスを交配させることにより、コンストラクトの導入が可能な受精卵を回収することができる。マウス受精卵では、一般に雄性前核へのマイクロインジェクションによりコンストラクトが導入される。コンストラクトを導入した細胞は、体外での培養の後、導入に成功したと思われる細胞が代理母の卵管に移植され、トランスジェニックキメラ動物が誕生する。代理母には、通常、精管を切断したオスと交配させて偽妊娠状態としたメスが利用される。
【0024】
生まれたトランスジェニックキメラ動物は、WT1をコードするDNAが組み込まれていることを確認した上で、F1動物の誕生のために正常な動物と交配させる。一般にコンストラクトとして導入した外来DNAは、ゲノムの同一の部分に複数コピーが直列に組み込まれる。通常はこの組み込みコピー数が多いほど、多量の遺伝子発現につながり、より明瞭な表現型が期待できるためである。体細胞ゲノムにおいて、WT1をコードするDNAが正しい方向で組み込まれていることは、コンストラクトに特異的なプライマーを用いたPCRや特異的なプローブを用いたサザンブロット法によって確認することができる。
【0025】
この交配の結果誕生するF1動物の中で、体細胞に外来遺伝子(WT1をコードするDNA)を有するもの(ヘテロザイゴート)は、生殖細胞に外来遺伝子(WT1をコードするDNA)を伝えることができるトランスジェニック動物である。F1動物の中から体細胞に外来遺伝子(WT1をコードするDNA)を保持するものを選び、これらを両親とすることによって、F2動物であるホモザイゴートを得ることができる。
【0026】
本発明のWT1トランスジェニック動物は、WT1の発現が改変されたものであれば、上記のトランスジェニック動物のいずれの世代の動物であってもよい。例えば、WT1の外来DNAをヘテロで保持するトランスジェニック動物であっても、この外来性のWT1が発現しているものであれば、本発明のWT1トランスジェニック動物として利用可能である。
【0027】
また、本発明は、本発明のトランスジェニック非ヒト動物から樹立された細胞を提供する。本発明のトランスジェニック非ヒト動物由来の細胞株を樹立する方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、げっ歯類においては、胎仔細胞の初代培養の方法(新生化学実験講座、18巻、125頁〜129頁東京化学同人、およびマウス胚の操作マニュアル、262頁〜264頁、近代出版)に従って細胞株を樹立することが可能である。
【0028】
また、本発明は、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法を提供する。該スクリーニング方法によって単離されるT細胞系列の分化または発生を促進する化合物は、免疫賦活剤、抗癌剤、感染症治療剤として利用でき、T細胞系列の分化または発生を抑制する化合物は、免疫抑制剤、急性及び慢性リンパ性白血病の治療薬として利用することができる。
【0029】
以下に本発明のスクリーニング方法の態様を例示するが、本発明のスクリーニング方法は、これらに限定されるものではない。本発明のスクリーニング方法の第一の態様においては、まず、WT1タンパク質に被検化合物を接触させる。本発明のスクリーニング方法に用いる被検化合物としては、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を挙げることができる。
【0030】
第一の態様においては、次いで、該WT1タンパク質と被検化合物との結合を検出する。次いで、該WT1タンパク質と結合する被検化合物を選択する。この方法によって、単離された化合物は、T細胞系列の分化または発生を制御する可能性があり、後述する他のスクリーニング方法の被検化合物として使用することができる。
【0031】
WT1タンパク質を用いて、これに結合するポリペプチドをスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。WT1タンパク質をコードするDNAを、pSV2neo, pcDNA I, pCD8 などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしては SV40 early promoter (Rigby In Williamson (ed.), Genetic Engineering, Vol.3. Academic Press, London, p.83-141(1982)), EF-1 α promoter (Kimら Gene 91, p.217-223 (1990)), CAG promoter (Niwa et al. Gene 108, p.193-200 (1991)), RSV LTR promoter (Cullen Methods in Enzymology 152, p.684-704 (1987), SR α promoter (Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988)), CMV immediate early promoter (Seed and Aruffo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, p.3365-3369 (1987)), SV40 late promoter (Gheysen and Fiers J. Mol. Appl. Genet. 1, p.385-394 (1982)), Adenovirus late promoter (Kaufman et al. Mol. Cell. Biol. 9, p. 946 (1989)), HSV TK promoter 等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。
【0032】
動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法 (Chu, G. et al. Nucl. Acid Res. 15, 1311-1326 (1987))、リン酸カルシウム法 (Chen, C and Okayama, H. Mol. Cell. Biol. 7, 2745-2752 (1987))、DEAEデキストラン法 (Lopata, M. A. et al. Nucl. Acids Res. 12, 5707-5717 (1984); Sussman, D. J. and Milman, G. Mol. Cell. Biol. 4, 1642-1643 (1985))、リポフェクチン法 (Derijard, B. Cell 7, 1025-1037 (1994); Lamb, B. T. et al. Nature Genetics 5, 22-30 (1993); Rabindran, S. K. et al. Science 259, 230-234 (1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。
【0033】
特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をWT1タンパク質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合ポリペプチドとしてWT1タンパク質を発現させることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13, 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合ポリペプチドを発現することができるベクターが市販されている。また、融合ポリペプチドにすることによりWT1タンパク質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合ポリペプチドを調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His-tag)、インフルエンザ凝集素 HA、ヒトc-myc、FLAG、Vesicular stomatitis ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7 gene10 タンパク質(T7-tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV-tag)、E-tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、WT1タンパク質に結合するポリペプチドのスクリーニングのためのエピトープ−抗体系として利用できる(実験医学 13, 85-90 (1995))。
【0034】
免疫沈降においては、これらの抗体を、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体はWT1タンパク質、それと結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、WT1タンパク質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。WT1タンパク質に対する抗体は、例えば、WT1タンパク質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させたポリペプチドを精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成したWT1タンパク質の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
【0035】
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG 抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、WT1タンパク質を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合ポリペプチドとして調製した場合には、グルタチオン-Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、WT1タンパク質の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
【0036】
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E. and Lane, D.: Antibodies, pp.511-552, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988) )記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
【0037】
免疫沈降されたポリペプチドの解析にはSDS-PAGEが一般的であり、適当な濃度のゲルを用いることでポリペプチドの分子量により結合していたポリペプチドを解析することができる。また、この際、一般的にはWT1タンパク質に結合したポリペプチドは、クマシー染色や銀染色といったポリペプチドの通常の染色法では検出することは困難であるので、放射性同位元素である35S-メチオニンや35S-システインを含んだ培養液で細胞を培養し、該細胞内のポリペプチドを標識して、これを検出することで検出感度を向上させることができる。ポリペプチドの分子量が判明すれば直接SDS-ポリアクリルアミドゲルから目的のポリペプチドを精製し、その配列を決定することもできる。
【0038】
また、WT1タンパク質を用いて、該WT1タンパク質に結合するポリペプチドを単離する方法としては、例えば、Skolnikらの方法(Skolnik, E. Y. et al.,Cell (1991) 65, 83-90)を用いて行うことができる。すなわち、WT1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される細胞、組織よりファージベクター(λgt11, ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB-アガロース上で発現させフィルターに発現させたポリペプチドを固定し、精製して標識したWT1タンパク質と上記フィルターとを反応させ、WT1タンパク質と結合したポリペプチドを発現するプラークを標識により検出すればよい。WT1タンパク質を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、WT1タンパク質又はWT1タンパク質に融合したポリペプチド(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
【0039】
また、本発明のスクリーニング方法の第一の態様としては、細胞を用いた2-ハイブリッドシステム(Fields, S., and Sternglanz, R.,Trends. Genet. (1994) 10, 286-292、Dalton S, and Treisman R (1992) Characterization of SAP-1, a protein recruited by serum response factor to the c-fos serum response element. Cell 68, 597-612、「MATCHMARKER Two-Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One-Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(ストラタジーン社製))を用いて行う方法が挙げられる。
【0040】
2-ハイブリッドシステムにおいては、WT1タンパク質またはその部分ペプチドをSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、WT1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する(酵母細胞内でWT1タンパク質と結合するポリペプチドが発現すると、両者の結合によりレポーター遺伝子が活性化され、陽性のクローンが確認できる)。単離したcDNAを大腸菌に導入して発現させることにより、該cDNAがコードするポリペプチドを得ることができる。これによりWT1タンパク質に結合するポリペプチドまたはその遺伝子を調製することが可能である。
【0041】
2-ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI-1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。2ハイブリッド法によるスクリーニングは、酵母の他、哺乳動物細胞などを使って行うこともできる。
【0042】
WT1タンパク質と結合する化合物のスクリーニングは、アフィニティクロマトグラフィーを用いて行うこともできる。例えば、WT1タンパク質をアフィニティーカラムの担体に固定し、ここにWT1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される被検化合物を適用する。この場合の被検化合物としては、例えば細胞抽出物、細胞溶解物等が挙げられる。被検化合物を適用した後、カラムを洗浄し、WT1タンパク質に結合したポリペプチドを調製することができる。
【0043】
得られたポリペプチドは、そのアミノ酸配列を分析し、それを基にオリゴDNAを合成し、該DNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、該ポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0044】
また、ポリペプチドに限らず、WT1タンパク質に結合する化合物を単離する方法としては、例えば、固定したWT1タンパク質に、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、WT1タンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC; Farrell FX; Chang R; Kashyap AK; Barbone FP; Mulcahy LS;Johnson DL; Barrett RW; Jolliffe LK; Dower WJ., Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin, Science (UNITED STATES) Jul 26 1996, 273 p458-64、Verdine GL., The combinatorial chemistry of nature. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p11-13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p17-9)が当業者に公知である。
【0045】
本発明において、結合した化合物を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、WT1タンパク質と被検化合物との間の相互作用を微量のポリペプチドを用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。
【0046】
また、本発明におけるスクリーニング方法の第二の態様としては、まず、被検化合物を本発明のトランスジェニック非ヒト動物に投与する。本発明のトランスジェニック非ヒト動物への被検化合物の投与は、例えば、経口的に、また注射等により行うことができるが、それらに限定されない。被検化合物がタンパク質である場合には、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子を有するウイルスベクターを構築し、その感染力を利用して、本発明のトランスジェニック非ヒト動物に該遺伝子を導入することも可能である。
【0047】
本発明におけるスクリーニング方法の別の態様としては、次いで、該トランスジェニック非ヒト動物のT細胞系列の分化または発生を測定する。トランスジェニック非ヒト動物からのT細胞系列の調製や調製したT細胞系列の分化または発生の測定は、実施例に記載の方法のように、当業者に周知の方法によって行うことができる。
【0048】
第二の態様としては、次いで、被検化合物を投与していない場合と比較して、T細胞系列の分化または発生を促進または抑制する化合物を選択する。
【0049】
本発明におけるスクリーニング方法の第三の態様としては、まず、被検化合物をWT1タンパク質に接触させる。第三の態様に用いられるWT1タンパク質の状態としては、特に制限はなく、例えば、精製された状態、細胞内に発現した状態、細胞抽出液内に発現した状態などであってもよい。
【0050】
また、WT1タンパク質が発現している細胞としては、内在性のWT1タンパク質を発現している細胞、または外来性のWT1タンパク質を発現している細胞が挙げられる。上記内在性のWT1タンパク質を発現している細胞としては、培養細胞などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0051】
また、上記外来性のWT1タンパク質を発現している細胞は、例えば、WT1タンパク質をコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで作製できる。ベクターの細胞への導入は、当業者に一般的な方法によって実施することができる。また、上記外来性のWT1タンパク質を有する細胞は、例えば、WT1タンパク質をコードするDNAを、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により、染色体へ挿入することで作製することができる。このような外来性のWT1タンパク質が導入される細胞が由来する生物種としては、特に限定されず、外来タンパク質を細胞内に発現させる技術が確立されている生物種であればよい。
【0052】
また、WT1タンパク質が発現している細胞抽出液は、例えば、試験管内転写翻訳系に含まれる細胞抽出液に、WT1タンパク質をコードするDNAを含むベクターを添加したものを挙げることができる。該試験管内転写翻訳系としては、特に制限はなく、市販の試験管内転写翻訳キットなどを使用することが可能である。
【0053】
また、本発明において「接触」は、WT1タンパク質の状態に応じて行う。例えば、WT1タンパク質が精製された状態であれば、精製標品に被検化合物を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、WT1タンパク質が発現している細胞へ導入する、または該ベクターをWT1タンパク質が発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0054】
第三の態様では、次いで、上記WT1タンパク質の活性を測定する。WT1タンパク質の活性としては、血小板由来成長因子(PDGF)-α鎖遺伝子(Gashler AL, et al.,Proc Natl Acad Sci U S A. 1992; 89: 10984-10988)、コロニー刺激因子(CSF)-1遺伝子(Harrington MA, et al., J Biol Chem. 1993; 268: 21271-21275)、インシュリン様成長因子(IGF)-II遺伝子(Drummond IA, et al., Science. 1992; 257: 674-678)、IGF-I受容体(IGF-IR)遺伝子(Werner H, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1993; 9: 5828-5832)、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子(Englert C, et al., EMBO J. 1995; 14: 4662-4675)、RAR-α遺伝子(Goodyer P, et al., Oncogene. 1995; 10: 1125-1129)、c-myb遺伝子(McCann S, et al., J Biol Chem. 1995; 270: 23785-23789)、c-myc遺伝子(Hewitt SM, et al., Cancer Res. 1995; 55: 5386-5389)、bcl-2遺伝子(Hewitt SM, et al., Cancer Res. 1995; 55: 5386-5389)、オルニチン脱炭酸酵素遺伝子(Li RS, et al., Exp Cell Res. 1999; 247: 257-266)、N-myc遺伝子(Zhang X, et al., Anti-cancer Res. 1999; 19: 1641-1648)などの転写抑制活性、および、プロテイン46結合網膜芽細胞腫抑制因子(RbAp46)遺伝子(Guan LS, et al., J Biol Chem. 1998; 273: 27047-27050)、Dax-1遺伝子(Kim J, et al., Mol Cell Biol. 1999; 19: 2289-2299)、bcl-2遺伝子(Mayo NW, et al., EMBO J. 1999; 18: 3990-4003)などの転写活性が挙げられる。
【0055】
第三の態様においては、次いで、被検化合物を投与していない場合と比較して、該WT1タンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する。
【0056】
本発明におけるスクリーニング方法の第四の態様としては、まず、WT1遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。ここで、「機能的に結合した」とは、WT1遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、WT1遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、WT1遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0057】
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、WT1タンパク質をコードするDNAもまた含まれる。
【0058】
第四の態様においては、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被検化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0059】
また、WT1遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
【0060】
また、WT1遺伝子からコードされるWT1タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該WT1タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、WT1タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法などを実施し、該WT1タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0061】
第四の態様においては、次いで、被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する。
【0062】
本発明におけるスクリーニング方法の第五の態様としては、まず、WT1タンパク質が結合するプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。WT1タンパク質が結合するプロモーター領域としては、血小板由来成長因子(PDGF)-α鎖遺伝子(Gashler AL, et al.,Proc Natl Acad Sci U S A. 1992; 89: 10984-10988)、コロニー刺激因子(CSF)-1遺伝子(Harrington MA, et al., J Biol Chem. 1993; 268: 21271-21275)、インシュリン様成長因子(IGF)-II遺伝子(Drummond IA, et al., Science. 1992; 257: 674-678)、IGF-I受容体(IGF-IR)遺伝子(Werner H, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1993; 9: 5828-5832)、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子(Englert C, et al., EMBO J. 1995; 14: 4662-4675)、RAR-α遺伝子(Goodyer P, et al., Oncogene. 1995; 10: 1125-1129)、c-myb遺伝子(McCann S, et al., J Biol Chem. 1995; 270: 23785-23789)、c-myc遺伝子(Hewitt SM, et al., Cancer Res. 1995; 55: 5386-5389)、bcl-2遺伝子(Hewitt SM, et al., Cancer Res. 1995; 55: 5386-5389)、オルニチン脱炭酸酵素遺伝子(Li RS, et al., Exp Cell Res. 1999; 247: 257-266)、N-myc遺伝子(Zhang X, et al., Anti-cancer Res. 1999; 19: 1641-1648)、プロテイン46結合網膜芽細胞腫抑制因子(RbAp46)遺伝子(Guan LS, et al., J Biol Chem. 1998; 273: 27047-27050)、Dax-1遺伝子(Kim J, et al., Mol Cell Biol. 1999; 19: 2289-2299)、bcl-2遺伝子(Mayo NW, et al., EMBO J. 1999; 18: 3990-4003)のプロモーター領域などを使用することができる。
【0063】
第五の態様においては、次いで、上記細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。次いで、被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する。
【0064】
また、本発明は、WT1タンパク質の発現または活性を制御する化合物を有効成分として含有する、T細胞系列の分化または発生を制御するための薬剤を提供する。T細胞系列の分化または発生を抑制するための薬剤としては、WT1タンパク質の発現を抑制するためのヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する薬剤、本発明のスクリーニング方法によって単離される化合物等が例示できる。
【0065】
上記ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体としては、特に制限はなく、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその誘導体が挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、特開平9-104629や特開平11-35484に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド等を使用することができる。
【0066】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、WT1タンパク質をコードするDNA配列中のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくはWT1タンパク質DNA配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0067】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。修飾体として、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
【0068】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、DNAまたはmRNAとオリゴヌクレオチドとがDNA配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1 又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在しているものも含まれる。
【0069】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、WT1タンパク質の産生細胞に作用して、該WT1タンパク質をコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害したり、mRNAの分解を促進したりして、WT1タンパク質の発現を抑制することにより、結果的にWT1タンパク質の作用を抑制する効果を有する。
【0070】
本発明の化合物をヒトや他の動物のための薬剤として使用する場合には、本発明の化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0071】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0072】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0073】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0074】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0075】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドやその誘導体は患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ-L-リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0076】
化合物の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。
【0077】
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、胸腺の全細胞数を示したグラフである。6週齡または12週齡のWT1-Tgマウス(closed bar)ならびに正常同腹仔(open bar)の全胸腺細胞数を測定した。示した結果はマウス7〜8匹から得た結果の平均である。エラーバーは標準偏差を表す。
【図2】図2は、WT1-トランスジェニックマウスにおけるHSACD4CD8ダブルネガティブ胸腺細胞の増加を示す図およびグラフである。(A)胸腺細胞を抗CD4-PE抗体、抗CD8-PE抗体、抗HSA-FITC抗体、抗CD3-PE抗体、抗B220ビオチン、抗Gr-1ビオチン、抗CD11bビオチンおよびストレプトアビジン-PEで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。ゲートはHSACD4CD8CD3B220Gr-1CD11b細胞(DN T担当胸腺細胞)に対して設定し、数値は胸腺細胞全体に占めるHSACD4CD8CD3B220Gr-1CD11b細胞の比率を指す。TgはWT1-トランスジェニックマウス、LMは正常同腹仔を示す。(B)および(C)6週齡および12週齡のWT1-Tgマウス(closed bar)および正常同腹仔(open bar)のHSACD4CD8CD3B220Gr-1CD11b胸腺細胞の割合の平均(B)および全細胞数(C)を示している。示した結果はマウス6〜7匹から得た結果の平均である。エラーバーは標準偏差を表す。
【図3】図3は、WT1トランスジェニックマウスのDN胸腺細胞におけるCD44CD25のDN1サブセットの増加を示す図およびグラフである。(A)12週齡の#21 WT1-Tgマウスのゲート処理後のHSACD4CD8DN胸腺細胞をCD44およびCD25の発現に関して分析した。(B)および(C)12週齡の#21 WT1-Tgマウス(closed bar)および正常同腹仔(open bar)におけるHSACD4CD8DN胸腺細胞の割合の平均(B)および全細胞数(C)を示している。示した結果はマウス7匹から得た結果の平均である。
【図4】図4は、WT1トランスジェニックマウス(Tg)と正常同腹仔(LM)との、6週齡と1年齡での胸腺を示した写真である。WT1トランスジェニックマウスの1年齡の胸腺は腫大し、急性リンパ性白血病が発症したことを示している。
【図5】図5は、WT1トランスジェニックマウスの脾臓におけるCD4CD8TCRβ細胞の増加を示す図およびグラフである。(A)12週齡の#21 WT1-Tgマウスおよび正常同腹仔の脾細胞をCD4およびCD8の発現に関して分析した。数値は4群の各々に該当する細胞の比率を指す。(B)CD4CD8T細胞をさらにTCRβの発現に関して分析した。(C)および(D)6週齡または12週齡の#21および#35 WT1-Tgマウス(closed bar)ならびに正常同腹仔(open bar)におけるCD4CD8TCRβ細胞の割合の平均(C)および全細胞数(D)を示している。示した結果はマウス7〜8匹から得た結果の平均である。
【図6】図6は、WT1-トランスジェニックマウスの脾臓において増加したCD4CD8TCRβ細胞集団はCD4CD8TCRγδT細胞を含むことを示すグラフである。WT1-Tgマウスおよび正常同腹仔の脾細胞を、抗CD4 Cy-ChromeTM、抗CD8-APC、抗TCRβ-FITCおよび抗TCRγδ-PE抗体で染色した。(A)12週齡の#21 WT1-Tgマウスおよび正常同腹仔の脾細胞全体に占めるCD4CD8TCRβ-TCRγδ細胞(dotted bar)およびCD4CD8TCRβTCRγδ細胞(solid bar)の比率を示している。(B)および(C)6週齢または12週齢の#21および#35 WT1-Tgマウス(closed bar)ならびに正常同腹仔(open bar)におけるCD4CD8TCRγδ細胞の割合の平均(B)および全細胞数(C)を示している。示した結果はマウス7〜8匹から得た結果の平均である。
【図7】図7は、CD8TCRγδ細胞のCD8分子はCD8αβであることを示す図である。CD8TCRγδ細胞の比率が高い12週齡の#21 WT1-Tgマウスの脾細胞を、抗TCRγδ-FITC抗体および抗CD8α-PE抗体または抗CD8β-PE抗体で二重染色し、FACS分析を行った。
【0079】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0080】
(1)lckpr-WT1の構築
この構築物は、17AA+/KTS-スプライス型[Nakagama H et al., Mol. Cell. Biol. 1995; 15: 1489]のマウスWT1 cDNAを含む1.5kbのSau 3AI断片(国立がんセンター研究所(日本)のH. Nakagama博士から寄贈)をlck-hGHベクター[Chaffin KE et al., EMBO J. 1990; 9: 3821]中に挿入することによって作製した。
【0081】
(2)トランスジェニックマウス
17AA+/KTS-スプライス型のWT1 cDNAを含むlck-hGHベクターをC57BL/6Jマウスの受精卵に微量注入した。続いて、注入後の卵を偽妊娠させた代理母に移植し[Shimizu C et al., Int. Immunol. 2001; 13: 105]、2つの異なるトランスジェニックマウス(#21および#35)をファウンダーとして樹立した。これらの系統からの子孫を、PCRによる尾部DNAの分析によってWT1導入遺伝子の存在に関してスクリーニングし、WT1導入遺伝子を有する雄の子孫をC57BL/6Jの雌と交配させた。トランスジェニックマウスの胸腺から単離したWT1導入遺伝子の配列解析により、WT1導入遺伝子に変異がないことを確認した。
【0082】
(3)逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
TRIzolTM(Gibco-BRL, Gaithersburg, MD)を製造者のプロトコールに従って用いて、胸腺細胞から全RNAを調製した。cDNAへの変換にはオリゴdTプライマーおよびMMLV逆転写酵素を用い、総容積を30μlとした[Tamaki H et al., Leukemia. 1999; 13: 393]。
WT1の発現レベルはTaqmanリアルタイムPCRによって定量化した。PCR反応は、500nMの各プライマーおよび100nMのプローブを最終容量5μlとして含む、Taqman Universal PCR Master Mixを用いて行った。cDNAの増幅にはABI Prism-7700 Sequence Detection System(PE Applied Biosystems)を用い、40サイクル(変性は95℃で15秒間/アニーリングおよび伸長は59℃で1分間)の増幅を行った。以下のプライマーおよびプローブを用いた。マウスWT1、順方向プライマー:5'-ATGCATAGCCGGAAGCACA-3'(配列番号:1);逆方向プライマー:5'-CTTTTTGAGCTGGTCTGAGCGA-3'(配列番号:2)、プローブ:5-FAM-AACCTTCTCTCGCAGTCCTTGAAGTCACAC-TAMRA3'(配列番号:3)。β-グルクロニダーゼ、順方向プライマー:5'-CGAGTATGGAGCAGACGCAATC-3'(配列番号:4);逆方向プライマー;5'-CCGACCACGTATTCTTTACGTTTC-3'(配列番号:5)、プローブ:5'-FAM-TTCTGGTACTCCTCACTGAACATGCGAGGC-TAMRA3'(配列番号:6)。RT-PCRに関するRNAのローディング量および個々の試料に関するRNA分解の差異を標準化するために、WT1遺伝子の発現をβ-グルクロニダーゼ遺伝子の発現で割った値を相対的なWT1発現レベルとして用い、マウスWT1をトランスフェクトしたC1498細胞[Tsuboi A et al., J.Clin.Immunol. 2000; 20: 195]におけるWT1遺伝子の発現を1.0と定義した。
【0083】
(4)フローサイトメトリー分析
新たに調製した胸腺細胞、脾細胞または末梢血単核細胞を、2%ウシ胎仔血清(FCS)および0.1%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に懸濁させた。細胞の染色は以前の記載の通りに行った[Inoue K et al., Blood. 1997; 89: 1405]。直接染色に関しては、非特異的な結合を少なくするために細胞をまず抗マウスFcγIII/II受容体モノクローン抗体(mAb)とともに4℃で20分間インキュベートし[Shimizu C et al., Int. Immunol. 2001; 13: 105]、続いて適切な濃度のmAbを4℃で30分間用いて3色または4色による細胞表面染色を行った。用いた抗体は以下の通りである:抗マウスHSA-FITC(Immunotech, Marseille, France)、抗マウスCD4-PE、抗マウスCD4 Cy-ChromeTM、抗マウスCD8-PE、抗マウスCD8-FITC、抗マウスCD8-APC、抗マウスCD44-Cy-ChromeTM、抗マウスCD25-APC、抗マウスTCRβ-FITC、抗マウスTCRβ-APC、抗マウスTCRγδ-PE。抗マウスHSA-FITC抗体を除き、抗体はすべてPharMingen社(San Diego, CA)から購入した。0.5%FCSを含む100μlのPBS中で細胞を3回洗浄し、0.5%FCSを含む100μlのPBS中に再懸濁させた上で、FACS Caliburフローサイトメーターにより分析した。
【0084】
(5)統計分析
統計学的有意性はスチューデントのt検定によって分析した。
【0085】
[実施例1] WT1トランスジェニックマウスの胸腺におけるCD4CD8ダブルネガティブのCD44+CD25(DN1)細胞の増加
WT1トランスジェニック(Tg)マウスおよび正常同腹仔の胸腺細胞におけるWT1導入遺伝子の発現をRT-PCRによって検討した。#21および#35 WT1-Tgマウスの胸腺細胞はいずれもWT1導入遺伝子を発現したが、正常同腹仔の胸腺細胞は発現しなかった(非提示データ)。WT1-Tgマウスならびに正常同腹仔の全胸腺細胞数を測定した結果、図1に示すとおり、6週齡または12週齡の#21および#35 WT1-Tgマウスの胸腺細胞の絶対数は、正常同腹仔の胸腺細胞数よりも有意に少なく、WT1-Tgマウスの胸腺の成長抑制が示された。WT1-Tgマウスの胸腺においてT細胞系列が正常に発生したか否かを検討するために、6週齡または12週齡の#21および#35 WT1-Tgマウスならびに正常同腹仔の胸腺細胞を、FACSにより、HSA、CD4、CD8、CD3、B220、Gr-1およびCD11bの発現に関して分析した。図2A、Bに示す通り、CD4CD8ダブルネガティブ(DN)細胞は、WT1-Tgマウスの2系統のいずれの胸腺においても正常同腹仔より多かった。一方、図2Cに示す通り、CD4CD8DN細胞の総数は、6週齡のWT1-Tgマウスの2系統のいずれの胸腺においても正常同腹仔より少なく、WT1-Tgマウスの全胸腺細胞数が減少したためと考えられる。胸腺細胞の4つのDNサブセット(DN1、CD44CD25;DN2、CD44CD25;DN3、CD44CD25;DN4、CD44CD25)のうちどのサブセットが増加したかを明らかにするために、CD4CD8 DN胸腺細胞をCD44およびCD25の発現に関してFACS分析した。図3に示す通り、4つのDNサブセットのうちCD44CD25DN1の比率および全細胞数は、#21 WT1-Tgマウスの胸腺の方が同腹仔の場合よりも有意に多かったが(74.2%対18.7%)、DN2(1.5%対24.8%)およびDN3(2.0%対37.3%)は有意に少なかった。#35 WT1-Tgマウスでは、正常同腹仔との比較で4つのDNサブセットの割合に有意差は認められなかったが(非提示データ)、12週齡のWT1-TgマウスではDN胸腺細胞が有意に多かった。WT1-TgマウスにおけるDN胸腺細胞の増加とは対照的に、CD4CD8ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞は、WT1-Tgマウスのいずれの系統ともに正常同腹仔よりも少なかった(非提示データ)。
【0086】
胸腺細胞におけるWT1遺伝子のlckプロモーター駆動性発現により、T細胞系列の分化が妨げられた。CD44CD25のDN1サブセットはWT1-Tgマウスの胸腺の方が正常同腹仔よりも有意に多く、一方、CD44CD25のDN2サブセットおよびCD44CD25のDN3サブセットはWT1-Tgマウスの胸腺の方が有意に少なかった。CD4CD8DN細胞の胸腺内分化は、CD44CD25のDN1からCD44CD25のDN2およびCD44CD25のDN3細胞を経てCD44CD25のDN4細胞へと進行することがよく知られているため[Godfrey DI et al., J. Immunol. 1993; 150: 4244、Hoffman ES et al., Genes Develop. 1996; 10: 948、Voll RE et al., Immunity. 2000; 13: 677]、これらの結果から、WT1遺伝子のlckプロモーター駆動性発現によってCD44CD25のDN1サブセットからCD44CD25のDN2サブセットへの分化がブロックされることが示された。lckプロモーターによって駆動されるWT1遺伝子の発現がDN胸腺細胞の分化をブロックしたという本発明者らの今回の結果は、胸腺細胞においてlckプロモーター活性があるという事実と一致する[Marth JD et al., Cell. 1985; 43: 393、Wildin RS et al., J. Exp. Med. 1991; 173: 383]。赤芽球系細胞または骨髄球系細胞ではWT1発現と分化との間に明瞭な相関があることがよく知られている。赤芽球系白血病細胞株K562および骨髄球系白血病細胞株HL-60はいずれも、それぞれジメチルスルホキシド(DMSO)またはレチノイン酸、およびレチノイン酸によって誘導した分化に伴ってWT1を発現しなくなる[Phelan SA et al., Cell Growth Diff. 1994; 5: 677、Sekiya M et al., Blood. 1994; 83:1876]。その反対に、WT1遺伝子の構成的発現により、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)に反応して起こる骨髄球系前駆細胞32D cl3およびマウス正常骨髄球系前駆細胞(CFU-GM、CFU-GおよびCFU-M)の分化が妨げられる[Inoue K et al., Blood. 1998; 91: 2969、Tsuboi A et al., Leuk.Res. 1999; 23: 499]。しかし、構成的なWT1発現によってリンパ球の分化が妨げられるか否かという問題は本実施例を行う前は不明なままであった。したがって、本発明者らの今回の発明により、T細胞系列の発生および分化に対するWT1遺伝子の関与を初めて報告することができた。なお、本発明のWT1-Tgマウスでは、胸腺の腫大が起こり、急性リンパ性白血病が起こることが判明した(図4)。
【0087】
[実施例2] WT1-Tg マウスにおけるCD4CD8TCRβ細胞の増加
WT1-Tgマウスにおける末梢T細胞系列の変化を調べるために、12週齡のWT1-Tgマウスおよび正常同腹仔の脾細胞を抗CD4抗体、抗CD8抗体および抗TCRβ抗体で三重染色し、FACS分析を行った。図5Aに示す通り、CD4CD8細胞はWT1-Tgマウスの脾臓の方が正常同腹仔の場合よりも多かったため、以降の分析には脾細胞をCD8およびTCRβの発現に関して提示させた。図5Bに示す通り、WT1-Tgマウスと正常同腹仔との間にはCD8およびTCRβの発現に関して明らかに異なる像が認められた。CD8TCRβ細胞集団はWT1-Tgマウスの方が正常同腹仔よりも有意に多かった。末梢血単核細胞に関する同じ分析でも上記のものと同じ結果が得られた(非提示データ)。図5C、Dに示す通り、CD4CD8TCRβ細胞の比率および絶対数の増加は、#21系統および#35系統のいずれのWT1-Tgマウスの脾臓においても観察された。また、6週齡または12週齡のWT1-Tgマウスの胸腺ではいずれの系統とも正常同腹仔に比べてCD8TCRβ細胞のわずかな増加が観察された(非提示データ)。
【0088】
[実施例3] 増加したCD4CD8TCRβ細胞集団はTCRγδT細胞を含む
WT1-Tgマウスの両系統の脾臓および末梢血で増加したCD4CD8TCRβ細胞集団を、抗TCRδγ抗体を用いてさらに分析した。図6Aに示す通り、CD4CD8TCRβ細胞集団の約49%はTCRδγT細胞であった。CD4CD8TCRβ細胞集団の残りの51%の細胞系列を明らかにすることはできなかった。図6B、Cに示す通り、TCRδγT細胞の比率および絶対数の増加は6週齡のWT1-Tgマウスの脾臓でも既に観察された。末梢血のFACS分析でも同様の結果が得られた(非提示データ)。
【0089】
CD4CD8TCRγδT細胞は、WT1-Tgマウスの脾臓および末梢血において有意に増加した。この所見に関して考えられる説明は以下の通りである。すなわち、TCRγδT細胞はCD44CD25のDN3サブセットから生じることが報告されている[Capone M et al., Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 1998; 95: 12522、Livak F et al., J. Immunol. 1999; 162: 2575、Shortman K and Wu L, Annu. Rev. Immunol. 1996; 14: 29]。DN1段階からDN2段階への分化経路がWT1-Tgマウスではブロックされており、TCRαβT細胞の生成に至る胸腺細胞の主な分化経路が制限されるため、DN3からTCRγδT細胞への分化経路が進行しやすくなり、このためにTCRγδT細胞が多く生じたと考えられる。また、これらの結果は、DN1胸腺細胞からTCRγδT細胞に至る分化経路の存在を示唆する可能性もある。
【0090】
WT1遺伝子は2つのスプライス部位で選択的スプライシングを受けるため、4つの異なるスプライス形態(17AA+/KTS+、17AA−/KTS−、17AA+/KTS−、および、17AA−/KTS+)が生じる[Herwitt SM et al., J. Biol. Chem. 1996; 271: 8588、Davies R et al., Cancer Res. 1999; (Suppl) 59: 1747s]。4つのスプライス形態のそれぞれの機能については現在も議論がある[Davies R et al., Cancer Res. 1999; (Suppl) 59: 1747s]。本発明者らの以前の研究では、17AA+/KTS+非スプライス型の構成的発現により、骨髄球系前駆細胞株32D cl3およびマウス正常骨髄球系前駆細胞の分化がいずれも妨げられることを示した[Inoue K et al., Blood. 1998; 91: 2969、Tsuboi A et al., Leuk.Res. 1999; 23: 499]。本実施例では、17AA+/KTS−スプライス型のlckプロモーター駆動性発現によって胸腺におけるT細胞系列の初期分化が阻げられることを初めて記載した。
【0091】
[実施例4] CD8TCRγδT細胞は胸腺由来である
CD8TCRγδT細胞が、胸腺由来、あるいは胸腺外由来か否かを調べるため、抗CD8α抗体および抗CD8β抗体を用いたFACS分析を行った。図7に示す通り、多数のCD8TCRγδT細胞がCD8αβであった。この結果からCD8TCRγδT細胞は胸腺由来であることがわかった。
【0092】
[実施例5]
4匹のWT1-Tgマウスから発生した白血病細胞にWT1アンチセンスオリゴマーを投与したところ、増殖が抑制された。このことは、導入したWT1遺伝子が発癌に関与していることを示している。また、4匹のWT1-Tgマウス由来の白血病細胞について、TCRのVβレセプターを解析したところ、2匹からの細胞についてはオリゴクローナルであり、残り2匹からの細胞についてはモノクローナルであった。このことは、4匹のWT1-Tgマウスから発症した白血病細胞の形質が多様であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明により、WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物、該動物から樹立された細胞、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物、並びに、該化合物のスクリーニング方法が提供される。本発明のトランスジェニック非ヒト動物は急性リンパ性白血病を起こすことから、本非ヒト動物を用いることにより優れた白血病治療薬のスクリーニングを容易に行うことができるといった利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WT1タンパク質をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
WT1タンパク質をコードするDNAの導入により、T細胞系列の分化または発生の抑制が誘導されている、または、T細胞系列の分化または発生の抑制を誘導することができる、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
非ヒト動物がげっ歯類である、請求項1または2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
げっ歯類がマウスである、請求項3に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
WT1タンパク質が17AA+/KTS−スプライス型 WT1タンパク質である、請求項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
白血病の症状を呈する請求項1〜5のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物から樹立された細胞。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1タンパク質に被検化合物を接触させる工程
(b)該WT1タンパク質と被検化合物との結合を検出する工程
(c)該WT1タンパク質と結合する被検化合物を選択する工程
【請求項9】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物を請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物に投与する工程
(b)該トランスジェニック非ヒト動物のT細胞系列の分化または発生を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、T細胞系列の分化または発生を促進または抑制する化合物を選択する工程
【請求項10】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)被検化合物をWT1タンパク質に接触させる工程
(b)該WT1タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、該WT1タンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する工程
【請求項11】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
【請求項12】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、T細胞系列の分化または発生を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)WT1タンパク質が結合するプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
【請求項13】
WT1タンパク質の発現または活性を制御する化合物を有効成分として含有する、T細胞系列の分化または発生を制御するための薬剤。
【請求項14】
化合物がヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体である、請求項13に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−4742(P2011−4742A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144518(P2010−144518)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【分割の表示】特願2004−564543(P2004−564543)の分割
【原出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【出願人】(595090392)
【Fターム(参考)】