説明

X線分析装置

【課題】X線吸収部に対し試料部を相対的に移動することのできる明瞭なイメージ画像を得る。
【解決手段】干渉性X線が発せられるX線源と、X線源からのX線をコリメートするコリメータと、X線を吸収又は反射する材料により形成されており、X線の可干渉となる位置に設けられた参照穴及び透過窓とを有し、コリメートされたX線が照射されるX線吸収部と、透過窓を透過したX線が照射される位置の支持膜に試料が設置された試料部と、試料により生じる散乱X線と、参照穴を通過したX線との干渉により生じたホログラムを検出する検出器と、検出器により得られたホログラムに基づき試料の内部構造のイメージ画像を得るためフーリエ変換を行う処理部と、を有し、試料部は、X線吸収部に対し相対的に移動させることができるものであって、試料部とX線吸収部とが接触、または、試料部とX線吸収部との間隔が40μm以下となるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子やスピン等を用いたナノデバイスの開発においては、動作している状態の電子デバイスを、数十nm程度の分解能を有する分析装置及び分析方法により観察することが必要となる。このような電子デバイスの多くは、薄膜を積層した構造を有しており、このため、電子デバイスが動作している内部の領域を非破壊で観察することが望まれている。
【0003】
一方、近年において、干渉性X線を試料に照射し、試料により散乱された散乱X線より、試料の内部構造や試料の動作等についてイメージングする技術が進んでいる。特に、フーリエホログラフィー法は、試料の近傍に参照穴を設け、参照X線と試料により生じる散乱X線とを干渉させホログラムを形成し、形成されたホログラム画像をフーリエ変換することにより、試料の内部構造のイメージ画像を得ることのできる方法である。これにより試料を破壊することなく、試料の内部構造のイメージ画像を容易に得ることができ、また、試料に照射されるX線を走査することなく、迅速に試料のイメージ画像を得ることができるという利点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Eisebitt et.al., Nature, v432, (2004), p.885-888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、干渉性X線を用いたフーリエホログラフィー法では、得られるイメージ画像の分解能は、参照穴の大きさに依存するため、所望の分解能を得ようとする場合には、数十nm程度の非常に小さい穴を形成する必要がある。このような参照穴を試料ごとに形成することは容易ではない。また、参照穴は測定対象となる試料の近傍、即ち、試料と参照穴はX線の可干渉距離内に設ける必要があり、加工等に時間を要する。更に、試料の測定領域はX線の可干渉距離内の領域に制限されるため、大きな試料等のイメージ画像を得ることは極めて困難である。
【0006】
このため、マスク部と試料部とを分離する方法が考えられるが、この場合、マスク部から試料部までの距離が長いと、マスク部から検出器までの距離と試料部から検出器までの距離とが異なってしまい、位相差を補正する必要が生じてしまう。また、マスク部から試料部までの距離が長いと、X線進行方向の可干渉長の関係により、試料部からの回折X線と参照X線との干渉性が低下し、干渉により生成されるホログラフィーパターンの強度が弱くなり、形成されるイメージが不明瞭なものとなってしまう。更に、マスク部と試料部とが分離されている場合には、各々独立して振動を受けやすくなるため、形成されるイメージが、相互の振動によりぼけてしまう。
【0007】
従って、干渉性X線を用いたフーリエホログラフィー法において、試料における内部構造の明瞭なイメージ画像を容易に、かつ、短時間で得ることができるものであって、更には、大きな試料におけるイメージ画像を得ることが可能なX線分析装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施の形態の一観点によれば、干渉性X線が発せられるX線源と、前記X線源からのX線をコリメートするX線コリメータと、X線を吸収又は反射する材料により形成されており、前記X線の可干渉となる位置に設けられた参照穴及びX線透過窓とを有し、前記コリメートされたX線が照射されるX線吸収部と、前記X線透過窓を透過したX線が照射される位置の支持膜に試料が設置された試料部と、前記試料により生じる散乱X線と、前記参照穴を通過したX線との干渉により生じたホログラムを検出する検出器と、前記検出器により得られた前記ホログラムに基づき前記試料の内部構造のイメージ画像を得るためフーリエ変換を行う処理部と、を有し、前記試料部は、前記X線吸収部に対し相対的に移動させることができるものであって、前記試料部と前記X線吸収部とが接触、または、前記試料部と前記X線吸収部との間隔が40μm以下となるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
開示のX線分析装置によれば、試料における内部構造の明瞭なイメージ画像を容易に、かつ、短時間で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】X線フーリエホログラフィー法に用いる装置の構造図
【図2】X線フーリエホログラフィー法に用いる観察用試料部の構造図(1)
【図3】X線フーリエホログラフィー法に用いる観察用試料部の構造図(2)
【図4】第1の実施の形態におけるX線分析装置の構造図(1)
【図5】第1の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の説明図
【図6】第1の実施の形態におけるX線吸収部の正面図
【図7】第1の実施の形態におけるX線分析装置の構造図(2)
【図8】X線吸収部と観察用試料部との間隔Gと位相差との相関図
【図9】第1の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の他の配置の説明図(1)
【図10】第1の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の他の配置の説明図(2)
【図11】第1の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の他の配置の説明図(3)
【図12】第1の実施の形態におけるX線吸収部と他の観察用試料部の配置の説明図(1)
【図13】第1の実施の形態におけるX線吸収部と他の観察用試料部の配置の説明図(2)
【図14】第1の実施の形態におけるX線吸収部と他の観察用試料部の配置の説明図(3)
【図15】第1の実施の形態におけるX線吸収部と他の観察用試料部の配置の説明図(4)
【図16】第2の実施の形態におけるX線分析装置の構造図
【図17】第2の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の説明図
【図18】第2の実施の形態におけるX線吸収部と他の観察用試料部の配置の説明図
【図19】第3の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の説明図
【図20】第4の実施の形態におけるX線分析装置の要部説明図
【図21】第4の実施の形態におけるX線吸収部と観察用試料部の配置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
〔第1の実施の形態〕
(X線フーリエホログラフィー法)
最初に、X線フーリエホログラフィー法について説明する。図1はX線フーリエホログラフィー装置の構造図であり、図2はX線フーリエホログラフィー装置において観察される試料の構造図である。
【0013】
X線フーリエホログラフィー装置は、干渉性X線を発するX線源401と、X線コリメータ402と、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージングデバイスからなる検出器403を有している。X線源401より発せられた干渉性X線は、X線コリメータ402によりコリメートされ、観察対象となる観察用試料部410に照射される。
【0014】
図2に観察用試料部410を示す。図2(a)は、観察用試料部410の側面図であり、図2(b)は正面図、図2(c)は、図2(b)における破線2A−2Bにおいて切断した断面図である。観察用試料部410は、支持膜412にX線を吸収するX線吸収体411が形成されており、支持膜412上に、観察対象となる試料413が形成されている。X線吸収層411は、金(Au)または白金(Pt)等からなるX線を吸収する金属材料により形成されている。また、支持膜412は、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、有機材料等からなるX線を透過する材料により形成されている。観察対象となる試料413は、X線吸収層411が形成されている面とは反対側の面の支持膜412上に形成されている。
【0015】
観察用試料部410では、試料413の形成されている領域の支持膜412の裏面には、X線透過窓となる試料測定領域414が形成されており、試料測定領域414においては、X線吸収層411が除去されているため、試料413にX線が照射される。また、観察用試料部410は、参照X線を生じさせるための参照穴415が設けられている。この参照穴415は、参照穴415となる領域のX線吸収層411と支持膜412を除去することにより形成される。これにより試料413における散乱X線と参照穴415からのX線とが干渉し、検出器403の面上にホログラムを形成し、検出器403により検出することができる。このホログラムに基づいてフーリエ変換を行うことにより、試料のイメージ画像を得ることができる。
【0016】
次に、図3に基づき、観察用試料部410について、より詳細に説明する。図3(a)は、試料膜423の測定を行う観察用試料部を示すものであり、支持膜412上に試料膜423が形成されているものである。また、図3(b)は、構造体である試料413を測定するための観察用試料部を示すものであり、支持膜412上に試料413が形成されているものである。これらの観察用試料部の製造方法は、シリコン等により形成されるフレーム420において、厚さが200nmのSiNからなる支持膜412が形成されているものを用い、フレーム420の形成されている側に、X線吸収層411を形成する。X線吸収層411は、スパッタリングにより金を1.5μm成膜することにより形成する。この後、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)により、試料測定領域414となる領域におけるX線吸収層411を除去し、試料測定領域414を形成する。また、参照穴415についても、参照穴415となる領域におけるX線吸収層411及び支持膜412をFIBにより除去することにより形成する。尚、図3(a)に示すように測定対象が試料膜423である場合には、参照穴415は試料膜423にも設けられる。このようにして形成される試料測定領域414は、一辺が約2μmの略正方形の形状のものであり、参照穴415は直径が約0.05μmの略円形の形状のものであり、参照穴415は試料測定領域414の中心より約5μmの位置に形成されている。
【0017】
(X線分析装置)
次に、第1の実施の形態におけるX線分析装置について説明する。図4は、本実施の形態におけるX線分析装置の構造の概略図である。本実施の形態におけるX線分析装置は、X線フーリエホログラフィー法を利用するものであり、干渉性X線を発するX線源11と、X線コリメータ12と、2次元のCCD(Charge Coupled Device)等のイメージングデバイスからなる検出器13を有している。X線源11より発せられた干渉性X線は、X線コリメータ12によりコリメートされ、X線吸収部20及び観察対象となる観察用試料部30の所定の領域に照射される。
【0018】
図5に示すように、本実施の形態におけるX線分析装置は、マスク部となるX線吸収部20と試料部となる観察用試料部30とが分離して形成されている。X線吸収部20は、シリコン等からなるフレーム21に、X線を透過するSiN、SiC、有機材料等により形成される支持膜22及びX線を透過しないAu、Pt等により形成される金属膜23が積層されている。フレーム21には、開口部24が設けられており、支持膜22及び金属膜23には、一辺が約2μmの略正方形状のX線透過窓25と、直径が約0.05μmの略円形の形状の参照穴26が形成されている。尚、図6は、X線吸収部20の一部を金属膜23側からみた平面図である。X線透過窓25と参照穴26との相対的な位置は、X線源11より照射されるX線可干渉距離を考慮した最適な位置に設けられている。
【0019】
また、観察用試料部30は、シリコン等からなるフレーム31に、X線を透過するSiN、SiC、有機材料等により形成される支持膜32及びX線を透過しないAu、Pt等により形成される金属膜33が積層されている。フレーム31には、開口部34が設けられており、フレーム31の開口部34における支持膜32上に観察対象となる試料35が設置されている。また、X線吸収部20に設けられたX線透過窓25及び参照穴26からのX線が観察用試料部30に設置された試料35に照射されるように、金属膜33には開口穴36が設けられている。
【0020】
X線吸収部20と観察用試料部30とは、X線吸収部20における金属膜23と観察用試料部30における金属膜33とが対向するように配置されている。更に、X線吸収部20と観察用試料部30との間隔G、即ち、金属膜23と金属膜33との間隔Gが、後述するように、40μm以下となるように設置されている。
【0021】
尚、X線吸収部20は、大きさや形状を異なる複数の参照穴を設けてもよい。例えば、2つの参照穴を設け、2つの参照穴の大きさや形状を異なるものとすることにより、条件の異なるホログラムを同時に得ることができる。
【0022】
本実施の形態におけるX線分析装置では、X線吸収部20と観察用試料部30とは分離しているため、観察用試料部30は、X線吸収部20に対し相対的に移動させることが可能である。従って、X線透過窓25の大きさよりも大きな試料35であっても、X線透過窓25に対し試料35の位置を相対的に移動させることにより、試料35のイメージ画像を得ることができる。また、試料35を交換する際も観察用試料部30を移動させるだけで交換することができるため、容易に、かつ、短時間で交換することができる。これにより、観察等を行う際のスループットを向上させることができる。尚、X線分析装置の内部雰囲気は、大気のほか、X線の吸収と散乱を避けるために、真空及びHe(ヘリウム)置換することができるものである。
【0023】
次に、図7に基づき、より詳細に本実施の形態におけるX線分析装置について説明する。本実施の形態におけるX線分析装置は、X線源11、モノクロメータ14、シャッター15、X線コリメータ12、X線吸収部20、観察用試料部30、検出器13を有している。尚、X線吸収部20及び観察用試料部30は図5に示すものである。
【0024】
X線源11は、X線管球、ローター型X線光源、放射光源、軟X線レーザ、自由電子レーザ(Free Electron Laser;FEL)等のX線を発生するものである。
【0025】
モノクロメータ14は、X線の波長を略均一にするためのものであり、X線源11からのX線を単色化するものである。
【0026】
シャッター15は、X線を透過しない金属材料等により形成されており、開閉することにより、検出器13による計測時以外におけるX線を遮断することができる。
【0027】
X線コリメータ12は、試料領域以外のX線を遮蔽するためのものである。
【0028】
検出器13は、CCD等の2次元の撮像デバイスにより形成されており、試料35により生じた散乱X線と参照穴26から入射したX線との干渉により形成されるホログラム画像を検出することができるものである。尚、検出器13は2次元のイメージングデバイス以外でも、1次元の撮像デバイスを走査させるものであってもよい。
【0029】
X線吸収部20は、第1ステージ29に設置されており、X線吸収部20をX軸方向、Y軸方向の2次元に移動させることが可能である。尚、第1ステージ29は、ピエゾ素子と光学式エンコーダを用いたものであり、10nm程度の位置調整を高精度に行うことが可能である。
【0030】
観察用試料部30は、第2ステージ39に設置されており、観察用試料部30をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3次元に移動させることが可能である。尚、第2ステージ39は、ピエゾ素子と光学式エンコーダを用いたものであり、10nm程度の位置調整を高精度に行うことが可能である。
【0031】
また、X線源11、シャッター15、X線コリメータ12、第1ステージ29及び第2ステージ39はコントローラ16を介し、コンピュータ17に接続されており、コントローラ16を介し各々の制御が行われる。検出器13は、検出器コントローラ18を介しコンピュータ17に接続されており、検出器13において得られたホログラムに基づき、コンピュータ17においてフーリエ変換を行う。これにより試料35における内部構造のイメージ画像を得ることができ、コンピュータ17の表示部19において試料35における内部構造のイメージ画像を表示することができる。
【0032】
(X線吸収部及び観察用試料部の製造方法)
次に、図5に示されるX線吸収部20及び観察用試料部30の製造方法について説明する。
【0033】
X線吸収部20は、大きさが7mm角で、厚さ0.6mmのシリコン(Si)基板に、スパッタリング等によりSiN膜が厚さ約200nm形成されているものを加工することにより形成する。このシリコン基板の一部において一辺が約1mmの略正方形状の領域をKOH等によりエッチングすることにより開口部24を形成し、シリコンからなるフレーム21とSiN膜からなる支持膜22とを形成する。尚、開口部24を有するシリコンからなるフレーム21にSiN膜等からなる支持膜22を形成することができる方法であれば、上記以外の方法であってもよい。
【0034】
次に、フレーム21の形成されていない側の面の支持膜22上に金属膜23として金(Au)を厚さ約1.5μmスパッタリング等により成膜する。この後、開口部24の領域内の支持膜22及び金属膜23に、FIBにより、一辺が約2μmの略正方形状のX線透過窓25と、直径が0.05μmの略円形の形状の参照穴26を形成する。尚、X線透過窓25と参照穴26とは約4μm離れた位置に形成する。
【0035】
観察用試料部30は、上記と同様の方法により、開口部34を有するシリコンからなるフレーム31の表面にSiN膜等からなる支持膜32を形成し、この開口部34の領域内に試料35を形成する。フレーム31は、大きさが7mm角で、厚さ0.6mmのシリコンに、一辺が約1mmの略正方形状の開口部34が形成されており、フレーム31の表面に形成される支持膜32の厚さは約200nmである。また、試料35は、例えば、開口部34の形成されている側の支持膜32上に成膜等を行なうことにより形成する。
【0036】
次に、試料35が形成されている面と反対側の面の支持膜32上に、金属膜33として金(Au)等を厚さ約1.5μmスパッタリング等により形成する。この際、開口穴36が形成される領域に、一辺が100μmの略正方形又は直径が100μmの円形のカバーを載置し、この状態で金属膜33を成膜する。この後、カバーを除去することにより、カバーが載置されていた領域に開口穴36を有する金属膜33を形成する。
【0037】
尚、金属膜23及び金属膜33は、金、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)のうち、いずれか1つ、または2以上の元素を含むものにより形成されている。例えば、金、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)のいずれか、またはこれらの元素からなる合金或いは積層膜、これらの元素を含む合金或いは積層膜等により形成されている。これらの元素は、X線を効果的に吸収することができるため好ましい。また、金は、比較的軟らかいことから、金属膜23及び金属膜33を金により形成した場合、金属膜23と金属膜33を接触させても、金属膜23と金属膜33の一部が変形等し、試料35等に破損等が生じることがないため、特に好ましい。
【0038】
本実施の形態では、このように形成されたX線吸収部20と観察用試料部30とは、金属膜23と金属膜33が対向するように配置される。この際、上述のとおり、X線吸収部20と観察用試料部30との間隔Gは、40μm以下であることが好ましい。
【0039】
図8は、用いられるX線の波長が2.25Å(0.225nm:5.5keV)、検出器13となるCCDの大きさを20mm角とした場合、検出器13の受光面の中心部と中心部より10mm離れた位置の位相差を示すものである。図に示されるように、間隔Gが広がることにより位相差が大きくなり、位相差が大きくなると得られるイメージ画像はぼける傾向にある。本実施の形態は、X線の干渉を用いたX線分析装置であることから、位相差が2π以下であれば、得られるイメージ画像に及ぼす影響は、少ないものと考えられる。よって、間隔Gは位相差が2π以下となる40μm以下であることが好ましい。尚、間隔Gが0の場合、即ち、X線吸収部20と観察用試料部30とが接触している場合は、位相差が0となるため、より好ましい。
【0040】
尚、図9に示すように、X線吸収部20と観察用試料部30との配置は、図5の場合とは逆となるように、X線源11側に、観察用試料部30が設置されるようにしても、同様のイメージ画像を得ることができる。
【0041】
また、X線吸収部20と観察用試料部30との間隔Gは、40μm以下であればよく、間隔Gが0μm、即ち、X線吸収部20と観察用試料部30とが接触していてもよい。具体的には、図10に示すように、X線吸収部20における金属膜23と観察用試料部30における金属膜33とを接触させる。この際、金属膜23及び金属膜33同士が接触するため、支持膜22、支持膜32及び試料35が破損等することはない。このように、X線吸収部20と観察用試料部30とを接触させることにより、X線吸収部20と観察用試料部30とが各々独立して振動を受けることがなくなるため、より明瞭なイメージ画像を得ることができる。尚、この場合においても、図9の場合と同様に、X線源11に対し、X線吸収部20と観察用試料部30との位置関係が逆となるように、即ち、X線源11側に、観察用試料部30が配置されるようにしてもよい。
【0042】
更に、上述した本実施の形態における説明では、観察用試料部30に金属膜33が形成されているものについて説明したが、図11に示すように、金属膜が設けられていない観察用試料部40を用いてもよい。即ち、観察用試料部40は、観察用試料部30における金属膜33を有しない構造のものである。具体的には、観察用試料部40は、シリコン等からなるフレーム31に支持膜32が設けられており、支持膜32においてX線吸収部20と対向する面とは反対側の面に試料35が形成されているものである。この際、X線吸収部20と観察用試料部40との間隔G、即ち、X線吸収部20における金属膜23と観察用試料部40における支持膜32との間隔Gは、上述した場合と同様に、40μm以下であることが好ましい。
【0043】
(他の観察用試料部)
次に、図12に基づき、本実施の形態における他の構造の(別の)観察用試料部について説明する。尚、支持膜32となるメンブレンに窒化膜を用いる場合、厚さは、200nmから500nmが好ましい。以下では標準値として厚さが約200nmのものを用いている。他の構造の観察用試料である観察用試料部50は、試料を異なる方向から観察を行なうためのものであり、他の部材より観察対象となる試料51を切り出し、支持膜32上に試料51を設置し、接着剤52により接着したものである。試料51は、大きさ1mm以下、厚さが約10μmとなるようにFIBにより加工された後、支持膜32においてX線吸収部20と対向する面とは反対側の面上に設置され、接着剤52により固定される。接着剤52は、支持膜32上に試料51を固定することができるものであればよく、例えば、エポキシ系の接着剤等が用いられる。尚、接着剤52による影響を防ぐため、試料51は開口部34において支持膜32を介し金属膜33が形成されている領域において、接着剤52により接着されていることが好ましい。言い換えれば、支持膜32を介し金属膜33が形成されていない領域に接着剤52がはみ出すことなく、試料51が接着されていることが好ましい。尚、支持膜32として窒化膜を用いる場合には、強度の観点からは約500nmの膜厚が好ましい。
【0044】
また、観察用試料部30の場合と同様に、図13に示すように、X線吸収部20と観察用試料部50との配置は、図12の場合とは逆となるように、X線源11側に、観察用試料部50が設置されるようにしても、同様のイメージ画像を得ることができる。
【0045】
また、図14に示すように、X線吸収部20と観察用試料部50とを接触、即ち、X線吸収部20における金属膜23と観察用試料部50における金属膜33とを接触させてもよい。この場合においても、図15に示すように、X線吸収部20と観察用試料部50とに配置は、図14の場合とは逆の配置となるように、X線源11側に、観察用試料部50が配置されるようにしてもよい。更には、観察用試料部は、図11に示す観察用試料部40と同様に、金属膜33を設けていない構造のものであってもよい。
【0046】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるX線分析装置は、観察用試料部に開口窓を設けたものである。具体的には、図16及び図17に示されるように、本実施の形態における観察用試料部130には、支持膜132及び試料135の所定の領域に開口窓137を設けた構造のものである。
【0047】
SiN等の支持膜132は、X線を透過する材料により形成されているが、X線を完全に透過する材料ではない場合や、真空中又は大気中とは異なる屈折率を有する場合がある。また、試料によりX線吸収部20における参照穴26を通過したX線が減衰してしまう場合がある。
【0048】
従って、X線吸収部20における参照穴26を通過したX線が、観察用試料部130において支持膜132及び試料135を通ることなく通過するように、支持膜132及び試料135に開口窓137を設けた構造のものである。このように、参照穴26を通過したX線が通る領域において、支持膜132及び試料135に開口窓137を設けることにより、より鮮明な試料132のイメージ画像を得ることができる。
【0049】
また、本実施の形態においては、図18に示すように、観察用試料部150は、支持膜132に試料151が接着剤52により固定されている場合であって、X線吸収部20における参照穴26を通過したX線が通る領域の支持膜132及び試料151に開口窓157を設けた構造のものでもよい。
【0050】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0051】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるX線分析装置は、第1の実施の形態とは異なる構造のX線吸収部を有するものである。
【0052】
本実施の形態について、図19に基づき説明する。本実施の形態におけるX線吸収部220は、シリコン等からなるフレーム21に、X線を透過するSiN、SiC、有機材料等により形成される支持膜22及びX線を透過しないAu、Pt等により形成される金属膜23が積層して形成されている。フレーム21には、開口部24が設けられており、開口部24が設けられている領域の支持膜22上、即ち、支持膜22において金属膜23が設けられている面と反対側の面には、金属膜227が設けられている。具体的には、支持膜22を介した両面に金属膜23及び金属膜227が設けられている。金属膜227は、例えば、金属膜23と同一の材料をスパッタリング等により約1.5μm成膜することにより形成する。支持膜22、金属膜23及び金属膜227には、一辺が約2μmの略正方形状のX線透過窓225と、直径が約0.05μmの略円形の形状の参照穴226がFIBにより形成されている。尚、X線透過窓225と参照穴226との相対的な位置は、X線源11より照射されるX線可干渉距離を考慮した最適な位置に設けられている。
【0053】
このように、支持膜22の両面に金属膜23及び金属膜227を形成することにより、X線の吸収をより一層高めることができ、より鮮明なイメージ画像を得ることができる。また、X線吸収部220における構造的な強度をより高めることができるため、X線吸収部220と観察用試料部30とを接触させた場合において、X線吸収部220の破損等をより一層防ぐことができる。
【0054】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態は、第2の実施の形態におけるX線分析装置にも適用可能である。
【0055】
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、X線吸収部と観察用試料部とを同時に傾けることのできるX線分析装置である。例えば、図12に示すように、観察対象となる試料51が、他の部材等より切り出されたものである場合、所定の角度で正確に設置されていないと、試料51を所望の角度で観察することができない場合がある。即ち、試料51が所望の角度となるように、観察用試料部50のみを傾けようとすると、X線吸収部20とぶつかるため、観察用試料部50のみを傾けることはできない場合がある。本実施の形態では、このような場合、試料を所望の角度で観察することができるように、X線吸収部と観察用試料部とを同時に傾けることのできるX線分析装置である。
【0056】
本実施の形態の一例として、図20に基づき説明する。図20は、X線吸収部20と観察用試料部50とを接触させた状態で、X線吸収部20を移動させるための第1ステージ329により、X線吸収部20と観察用試料部50とを同時に傾けることができるものである。X線源11からのX線はZ軸方向に沿って進行するものとする。第1ステージ329は、XY方向に移動させるためのステージ本体部360と、ステージ本体部360上に設置された枠部361と、枠部361に設置された3個のピエゾ362、363、364を有している。3個のピエゾ362、363、364は、X線吸収部20の4隅のうち3箇所で接触しており、各々のピエゾ362、363、364を駆動することにより、Z軸に垂直なXY面に対しX軸方向に傾斜、また、Y軸方向に傾斜させることが可能である。X線吸収部20と観察用試料部50とが接触している場合には、X線吸収部20を傾斜させることにより接触している観察用試料部50も傾斜するため、X線吸収部20と観察用試料部50とを同時に傾斜させることができる。また、X線吸収部20と観察用試料部50との間に不図示のスペーサ等を設けることにより、X線吸収部20と観察用試料部50とが所定の間隔Gで配置されている場合においても、同様に、X線吸収部20と観察用試料部50とを同時に傾斜させることができる。
【0057】
また、本実施の形態においては、X線透過窓25及び参照穴26は、FIBにより形成されたものである。通常、このような狭い領域をFIBにより形成した場合、図21(b)に示すように、X線透過窓25及び参照穴26における開口部は、一方の面から他方の面に向かってテーパー形状となるテーパー部23aを有する形状により形成される。このため、第1ステージ329におけるピエゾ362、363、364により、X線吸収部20を傾斜させる角度は、FIBによる加工により形成されるテーパー部23aにおけるテーパー角θ以下であることが好ましい。更に、テーパー部23aにおける散乱を考慮すると、X線源11からのX線は、X線透過窓25及び参照穴26において、テーパー部23aが狭く形成されている側より入射させることが好ましい。尚、図21(a)は、X線吸収部20と観察用試料部50とが接触している状態の配置を示すものであり、図21(b)は、X線吸収部20における要部拡大図である。
【0058】
上記における説明では、観察用試料部50の場合について説明したが、他の観察用試料部、例えば、観察用試料部30を用いた場合についても同様である。また、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0059】
以上、実施の形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 筐体
11 X線源
12 X線コリメータ
13 検出器
14 モノクロメータ
15 シャッター
16 コントローラ
17 コンピュータ
18 検出器コントローラ
19 表示部
20 X線吸収部
21 フレーム
22 支持膜
23 金属膜
24 開口部
25 X線透過窓
26 参照穴
30 観察用試料部
31 フレーム
32 支持膜
33 金属膜
34 開口部
35 試料
36 開口穴
G 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉性X線が発せられるX線源と、
前記X線源からのX線をコリメートするX線コリメータと、
X線を吸収又は反射する材料により形成されており、前記X線の可干渉となる位置に設けられた参照穴及びX線透過窓とを有し、前記コリメートされたX線が照射されるX線吸収部と、
前記X線透過窓を透過したX線が照射される位置の支持膜に試料が設置された試料部と、
前記試料により生じる散乱X線と、前記参照穴を通過したX線との干渉により生じたホログラムを検出する検出器と、
前記検出器により得られた前記ホログラムに基づき前記試料の内部構造のイメージ画像を得るためフーリエ変換を行う処理部と、
を有し、
前記試料部は、前記X線吸収部に対し相対的に移動させることができるものであって、
前記試料部と前記X線吸収部とが接触、または、前記試料部と前記X線吸収部との間隔が40μm以下となるように配置されていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記試料部において、前記試料が設置されている面と反対側の面の前記支持膜上には、金属膜が形成されており、
前記X線吸収部は支持膜に金属膜が形成されたものであって、
前記試料部における前記金属膜と前記X線吸収部における前記金属膜とが対向するように接触または配置されていることを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記X線吸収部における前記支持膜の両面には、金属膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記X線吸収部における前記金属膜及び前記試料部における前記金属膜のうちいずれか1つ、または、双方が、Au、Pt、Pd、Ir及びCrのうち、いずれか1つ、または2以上の元素を含むものにより形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記試料部において、前記X線吸収部における前記参照穴に対応する領域には、前記支持膜及び前記試料が除去された開口窓が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−257318(P2011−257318A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133376(P2010−133376)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】