説明

X線撮像装置

【課題】吸収格子を用いないでX線位相コントラスト像を取得することが可能となるX線撮像装置を提供する。
【解決手段】X線源からのX線を用い、タルボ効果によってX線位相コントラスト像を撮像するX線撮像装置であって、
前記X線源からのX線が入射する位置に配置される被検体の前方または後方にあって、透過するX線のタルボ効果により自己像を形成するための第一の回折格子と、
前記第一の回折格子によって自己像が形成される位置に配置される第二の回折格子と、
前記第二の回折格子を透過したX線の強度分布を検出するための画素を備えたX線検出器と、を有し、
前記第二の回折格子がプリズム格子で構成され、該プリズム格子によって前記自己像の特定の部分を前記X線検出器における特定の画素に反映させることが可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルボ効果によってX線位相コントラスト像を撮像するX線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は高い物質透過性を持ち、かつ高空間分解能イメージングが可能であることから、工業的利用として物体の非破壊検査、医療的利用としてレントゲン撮影、等に用いられている。
これらは、物体や生体内の構成元素や密度差によりX線透過時の吸収の違いを利用してコントラスト画像を形成するものであり、X線吸収コントラスト法と言われる。
しかしながら、軽元素ではX線吸収が非常に小さいため、生体の構成元素である炭素、水素、酸素などからなる生体軟組織、あるいはソフトマテリアルをX線吸収コントラスト法により画像化することは困難である。
これに対して、1990年代より、X線の位相差を用いた位相コントラスト法の研究が、放射光施設を中心に行なわれてきた。
また、実験室でのX線管を用いた位相イメージングについても研究が行なわれ、以下に記述する伝播法やタルボ干渉法、等が原理的に可能となっている。
伝播法とは、微焦点X線光源からでるX線を被写体に照射し、被検体での屈折されたX線を、被検体より十分に距離を離した検出器により検出する方法である。この手法は、従来の吸収コントラスト画像の輪郭を強調することで、より鮮明で見やすい画像を取得することが可能であるが、被検体内部の軟組織を画像化することは困難である。
【0003】
一方、タルボ干渉法とは、特許文献1に記載されているように、透過型の回折格子を用いて、ある干渉条件で発現する干渉縞から位相像を回復する方法である。このようなタルボ干渉法の代表的な構成例を、図8に示す。
図8において、81はX線源、82は被検体、83は位相格子、84は吸収格子、85はX線検出器である。
タルボ干渉法による撮像のためには、空間的に可干渉なX線源81、X線の位相を周期的に変調するための位相型回折格子(以下、位相格子と記す)83、X線検出器85が少なくとも必要である。
十分な空間的可干渉性を有するためには、λ×(R/s)が、位相格子のピッチdに対して十分大きい条件を満たすことが必要である。
ここで、λはX線の波長、RはX線源と位相格子との距離、sは線源のサイズである。
なお、この明細書において位相格子のピッチとは、格子が並んでいる周期を指している。
【0004】
タルボ干渉は、位相格子から特定の距離において位相格子の形状を反映した干渉縞が出現する。これを自己像という。
この干渉縞が生じる位置は、X線源と位相格子との距離を十分大きいとした場合には、位相格子から(d2/λ)×Nの距離離れたX線検出器側になる。ここでNは位相格子の種類によって異なるが、例えば1次元のπ変調位相格子の場合にはN=n/4−1/8となる。ここでnは自然数である。この位置をタルボ位置という。ここで、位相格子の前に被検体を配置すると、照射されたX線は被検体により屈折する。
被検体を透過したX線による位相格子の自己像を検出すれば、被検体の位相像を得ることができる。
但し、十分なコントラストで発生された自己像を検出するためには、空間分解能の高いX線検出器が必要となるが、一般的に使用可能なX線検出器では分解能が不十分である場合が多い。そのため、直接自己像を検出する方法ではなく、X線を吸収する材料で作製され十分な厚さを持つ回折格子である吸収格子を通して撮像することが行なわれている。
【0005】
非特許文献1や特許文献2に見られるように、吸収格子は使用するX線を部分的に遮断出来る様に、厚い金属のスリット配列で構成されている。
例えば、その間隔は2μm、幅が約1μm、厚みが26μmの高アスペクト比を有する金で作製されている。この格子作製には一般的にMEMS技術が用いられている。
この位相格子を透過したX線が自己像を形成する位置であるタルボ位置に吸収格子を配置すれば位相シフトの情報はモアレ縞の変形として検出することができることから、このモアレ縞をX線検出器で検出すれば、被検体を撮像することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許5812629号明細書
【特許文献2】米国特許7180979号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Proc.SPIE 6318−6328,2006(Weitkamp)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来例の方法では、吸収格子の作製が困難であるという課題を有している。また、金の様な貴金属を用いることは装置コスト上も問題である。
使用するX線のエネルギーが高くなると、この吸収格子は更に厚くする必要があり、例えば30KeV以上のエネルギーを有するX線では厚みが50μm以上必要になってくる。
また、吸収格子を用いることにより、本来情報を有するX線強度分布の一部を遮断して捨てることになる。例えば、特許文献2で示した方法では、遮断する割合は50%に達している。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、吸収格子を用いないでX線位相コントラスト像を取得することが可能となるX線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次のように構成したX線撮像装置を提供するものである。
本発明のX線撮像装置は、X線源からのX線を用い、タルボ効果によってX線位相コントラスト像を撮像するX線撮像装置であって、
前記X線源からのX線が入射する位置に配置される被検体の前方または後方にあって、透過するX線のタルボ効果により自己像を形成するための第一の回折格子と、
前記第一の回折格子によって自己像が形成される位置に配置される第二の回折格子と、
前記第二の回折格子を透過したX線の強度分布を検出するための画素を備えたX線検出器と、を有し、
前記第二の回折格子がプリズム格子で構成され、該プリズム格子によって前記自己像の特定の部分を前記X線検出器における特定の画素に反映させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸収格子を用いないでX線位相コントラスト像を取得することが可能となるX線撮像装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるビームスプリッターを用いる場合のX線撮像装置の構成例を説明する図。
【図2】本発明の実施形態におけるプリズム格子の作用を示す図。
【図3】本発明の実施形態におけるプリズム格子によるパターン分離を示す図。
【図4】本発明の実施形態における周期的に半周期ずらしたプリズム格子を用いた場合のX線位相像の撮像方法を説明する図。
【図5】本発明の実施形態におけるレンズアレーを用いた構成例を説明する図。
【図6】本発明の実施形態におけるプリズム格子の構成例を説明する図。
【図7】本発明の実施例1、2におけるX線分離の計算結果を示す図。
【図8】従来例である特許文献1のX線撮像装置の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態におけるX線撮像装置について説明する。
本実施形態では、X線源からのX線を用い、タルボ効果によってX線位相コントラスト像を撮像するX線撮像装置において、ビームスプリッターを用いる場合の構成例について説明する。
本実施形態では、図1に示すように、入射X線1側からビームスプリッター2、位相格子(第一の回折格子)3、プリズム格子(第二の回折格子)4、第二の回折格子を透過したX線の強度分布を検出するX線検出器5を備えている。
各々は概ねX線入射方向に対して垂直に、またお互いに平行に配置されている。本実施形態では、前記X線源からのX線が入射する位置に配置される被検体の前方または後方にあって、透過するX線のタルボ効果により自己像を形成するための第一の回折格子は位相格子3で構成されるが、位相格子でなくても吸収格子であってもよい。但し、X線利用効率の観点から見れば、位相格子であることが好ましい。
【0014】
この位相格子の周期は入射X線がタルボ干渉を発生させる必要があることから、一般的には15μm以下の周期構造であることが好ましい。
この位相格子によりタルボ距離れたX線下流側に自己像6が形成される。自己像の周期はX線照射系の拡大率と位相格子の形状に依存するが、概ね1〜15μmの周期構造となる。
X線検出器としてX線検出エリアセンサーを用いた場合には一般的に画素サイズが数十μm以上であるため、直接この自己像を撮像することは出来ない。
従来技術では吸収格子により自己像の一部、例えば明部のみを遮蔽し暗部のみを検出素子に導くことにより撮像を可能としている。
自己像の周期構造は位相格子の形状に対応して1次元、もしくは2次元の明暗のパターンとなる。ここでは簡単のため、1次元について説明するが、当然2次元にも拡張可能である。
【0015】
本実施形態では、プリズム格子によって自己像の特定の部分をX線検出器における特定の画素に反映させることが可能に構成される。
このプリズム格子を配置する位置は自己像のできる位置が好ましく、本実施形態ではこの位置に配置される。
ここで、タルボ干渉では自己像が形成される位置が周期的に表れるが、一番距離が短い位置に配置することが全体の装置長からは好ましい。
ここで、位相格子3で形成される自己像の周期とプリズム格子の周期は同じ場合を説明するが、モアレの形成が可能な範囲で同程度の周期としてもよい。例えば、若干周期や傾きを変えることによりモアレを形成させて位相情報を取得することも可能である。
【0016】
図1では被検体が挿入されていない初期の状態を示している。
ここでは自己像に歪みは無く、図2に示されているように自己像の明暗に対応した位置にプリズムの凹凸周期が重なる様に配置されている。
X線の屈折率は物質中で1.0より若干小さいので、プリズムに入射したX線の明暗領域は、プリズムにより図2にあるように屈折X線A24と屈折X線B25に分離される。
プリズムによる屈折の角度とプリズム格子4とX線検出器5の距離を適切にすると、自己像の暗部と明部が図1に示す様に検出器に別々の一部を投影することが可能となる。
投影後にはプリズムによりX線が広がるので、ビームスプリッター2を挿入することにより、投影された暗部と明部を分けて撮像することが可能となる。
【0017】
図3にはX線入射方向から見たX線の分離の様子を示す。
図3(a)、(b)は1次元の場合の例であり、図3(a)は自己像のパターンであり、水平に干渉縞が現れる。
図3(b)はプリズム格子を抜けて検出器面での分離像の一部であり、細かく分かれていた干渉縞の明部と暗部が大きく上限に分離されている。
【0018】
図3(c)、(d)は2次元の場合の一例であり、図3(b)は市松格子状の自己像のパターンが現れる。
これに1次元で用いたプリズム格子を縦と横方向に設置すると市松模様の4つの領域が拡大される。
図3(d)にプリズム格子を抜けて検出器面での分離像の一部を示すが、細かく分かれていた干渉縞の明部と暗部が2次元でも大きく上限に分離されている。
光線追跡と屈折による解析では、上記のプリズムによる明部、暗部の分離は完全であるが、実際に光を波面として計算すると分離は完全ではない。
分離を良くするにはビーム領域にあるプリズムの数を多くすることが好ましく、実質的には4以上あることが好ましい。
【0019】
本実施形態のX線検出器はX線エリアセンサーを用いる方法が一般的であるが、フィルムを用いて撮像することも可能である。
その場合にはフィルムを現像後にデジタル画像にして処理する事が必要となる。また、X線エリアセンサーにはシンチレータを介する間接変換型でもアモルファスセレンなどを用いた直接変換型のセンサーを用いても構わない。
図1の構成ではビームスプリッターが必要となるが、プリズム格子に周期ずれを形成することによりビームスプリッターを不要にすることができる。
以下に、一定間隔で半周期ずれるようにした構成について、図4を用いて説明する。
図4ではプリズム格子4において、一定周期、ここでは4つの凸部毎に半周期だけプリズム周期をプリズムずらし部41によりずらしている。
これによる屈折の作用を図4では暗部に対応するX線だけを示す。半周期ずらすことにより、暗部の情報のみX線検出器5の特定のエリア、例えば図1中の画素A7に集光させることが可能となる。
この場合図示はしていないが、明部は画素B8に集光される。X線検出素子では周期的に明部と暗部が集光されることになる。
【0020】
実際の撮像方法には1回のみ撮像して明視野像、暗視野像を取得する方法がある。
この場合には図1、図4に示したプリズム格子配置において、被検体を位相格子の前方、もしくは後方に設置すれば良い。
また、プリズム格子のピッチを自己像と若干変えたり、もしくは自己像の向きと若干変化させることによりモアレを形成したのち画像処理、例えばFFT法により画像を形成可能である。
いずれの場合もX線検出器の明部に対応する強度情報と暗部に対応する強度情報を別々に扱うことにより達成出来る。
情報処理は従来のタルボ法と同等に出来る。但し、従来の吸収格子を用いる撮像装置では明視野像と暗視野像を得るには最低2回の撮像が必要であったが、本発明では1回の撮像で可能となる。
【0021】
上記の撮像装置による方法以外にも、縞走査法と呼ばれる方法も可能である。縞走査法とは一般的に第一の回折格子と第二の回折格子の入射X線に対する位置関係を複数回変化させて撮像する方法が採られる。
1次元タルボ法においては、例えば吸収格子である第二の回折格子を格子とは垂直方向に回折格子のピッチ以下の距離を移動させて最低3回以上撮像する。これにより各画素での位相変化量を計算することができる。
本発明でも縞走査法の適用が可能であり、第一の回折格子と第二の回折格子、すなわちプリズム格子のX線に対する位置関係を若干変化させて撮像することが可能である。
例えば、プリズム格子4をプリズムの凹凸とは垂直方向に凹凸周期の数分の1ずつ移動させて撮像することにより同等の撮像が可能である。
本実施形態では前述した様に自己像の明部と暗部を同時に測定可能であるので、基本的には2回の撮像で位相情報が取得可能である。
【0022】
上記したように、実際にX線を波面として計算するとプリズムによる分離は完全ではない。
分離を良くするにはビーム領域にあるプリズムの数を多くする方法以外にレンズアレーを用いる方法が可能である。
図5にX線レンズアレー9をプリズム格子4の前方に配置した例を示す。
レンズアレーはプリズムよりピッチが広く、X線検出器での画素の2倍のピッチに拡大率で割ったピッチが有効である。
このレンズにより各画素への自己像の暗部と明部の投影が絞れることになる。X線レンズアレー9をプリズム格子4の後方に配置した場合にも同様な効果が得られる。
【0023】
本実施形態のプリズム格子の具体的な構造を図6を用いて説明する。
本実施形態では、プリズム格子を、断面の形状が三角形である部位、あるいは傾いた四角形である部位を複数有した構成とすることができる。
図6(a)、(b)はずらし部が無いプリズム格子の構造例である。図6(a)ではプリズム格子の凸部分の1つ1つの断面形状が2等辺三角形をしており、図中左側から右側へX線が入射される場合には、プリズム上下へX線は回折される。
プリズム格子を形成する材料には特に限定は無く、シリコンでも有機物でも金属や半導体、セラミックでも良い。
但し、X線が高エネルギーになると屈折角が小さくなり、分離を発生する為に必要なプリズム格子とX線検出器の距離が大きくなる。
このような場合にはプリズム格子の凸部アスペクト比を大きくする必要が出てきて、例えばプリズム凸の幅が数μm、高さが数十μm以上必要になる。
このような高アスペクト比の微細構造を一般的には作製が困難である。この場合には、図6(b)に示すように平行スリットを作製して若干傾ける方法が有効である。
傾き角は図中矢印で示す様に入射X線に対してがスリット幅分ずれるようにする。このようなスリット構造はSiウェハーに対してMEMS技術で作製可能であり、Siにマスクをストライプ状に形成した後に、深堀のエッチングを施す事により達成出来る。
【0024】
図4で示した様な半ピッチずれを有するプリズム格子を作製するには、図5(c)、(d)、(e)、(f)に示すような構造が可能である。
図6(c)はプリズム凹凸の片側だけ存在させることによりずらし部62を形成する例である。また、図6(d)はプリズム凹凸の半周期分プリズムを無くしてずらし部63を形成する例であり、図6(e)はプリズム凹凸の半周期分プリズムではなくX線遮断部分を形成してずらし部64を形成する例である。
先ほど同様に三角の形状を作製するのが困難な場合には、図6(f)に示すように、ずらし部の部分のみスリットの幅を太く、もしくは狭くして、上記同様に傾けることによりプリズム格子が作製可能である。
以上のようなプリズムを例えばSiで形成するのであれば、プリズム周期を4μmとしたとき、17.7keVのX線に対しては45μm、あるいは35keVであれば90μmあればプリズム半周期での位相差が2πとなる。
これにより、プリズム格子から検出器までの距離を1m程度にすることができることになる。
また、このようなプリズム格子を備えたX線位相撮像装置を実現することができる。
以上の本実施形態の構成によれば、金などの高アスペクト比金属スリットも用いることなく、X線位相コントラスト像を撮像することが可能となる。
また、吸収格子によって遮断破棄されてきたX線も情報として取り出すことが可能になる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、ビームスプリッターを用いた1次元タルボ法を適用したX線撮像装置の構成例について説明する。
本実施例においては、図1の構成の数値計算を行った。ここでX線は平行光であり、エネルギーを17.5KeVとした。また、第一の回折格子には位相格子を利用し、ピッチ8μmで位相差を4μmおきにπだけ形成する。
第二の回折格子にはプリズム格子を用い、ピッチ4μmで高さを位相差で2π分とした。ビームスプリッターの開口幅は64μmであり、プリズムの凹凸が16ケ入る様にした。
この条件では位相格子から下流側に11.29cmの位置に自己像が形成されるので、その位置にプリズム格子を配置した。X線検出器はプリズム格子から下流側に90.32cmとすることにより最適な位置となる。
【0026】
図7(a)、(b)、(c)に計算結果を示す。
図7(a)は、図1の構成における画素A7、画素B8でのX線の縦方向の強度分布である。
プリズム位置は自己像の明暗の位置に合致するように配置してある。各画素での合計のX線の強度比は画素A:画素B=20:80であり明暗の分離が得られていることがわかる。
この結果から、明部の画素情報をX線検出器全体から抽出してFFT画像処理することにより、明視野微分位相像を抽出できることがわかる。
また逆に暗部の画素情報をX線検出器全体から抽出してFFT画像処理することにより、暗視野微分位相像を抽出できる。
【0027】
次にプリズム格子を1/4、1/2周期だけ縦方向に移動させた場合の計算結果を図7(b)、(c)にそれぞれ示す。
プリズム格子を1/4周期ずらした場合では、各画素での合計のX線の強度比は32:68となり、プリズム格子を1/2周期だけ移動させた場合、つまり明部と暗部が同じ割合でプリズムの片面に入射した場合では49:51となる。これらにより、プリズム移動量にしたがって明部と暗部が分離されていることが理解できる。このことから縞走査法が出来ていることがわかる。
【0028】
[実施例2]
実施例2においては、実施例1にレンズアレーを追加した1次元タルボ法を適用したX線撮像装置の構成例について説明する。
本実施例では図1の構成に、図5で示したレンズアレーを追加した計算を行った。ここでX線レンズアレーはプリズム格子4の前方に配置した。
この計算でもプリズム内での最大位相変化量を2πとし、レンズアレー内での位相変化量、すなわち傾きはプリズムの半分としている。レンズアレーのピッチは64μmである。
【0029】
図7(d)に計算した結果を示す。
図7(d)は、図1の構成における画素A7、画素B8でのX線の強度分布である。
レンズアレーが無い場合の図7(a)と比較すると、コントラストが明確になっているのが分かる。各画素での合計のX線の強度比は画素A:画素B=9:91であり、X線レンズアレー9が無い場合と比較して分離度の向上がみられる。
また、X線レンズアレー9をプリズム格子4の後方に配置した場合にも同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0030】
1:入射X線
2:ビームスプリッター
3:位相格子
4:プリズム格子
5:X線検出器
6:自己像
7:画素A
8:画素B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からのX線を用い、タルボ効果によってX線位相コントラスト像を撮像するX線撮像装置であって、
前記X線源からのX線が入射する位置に配置される被検体の前方または後方にあって、透過するX線のタルボ効果により自己像を形成するための第一の回折格子と、
前記第一の回折格子によって自己像が形成される位置に配置される第二の回折格子と、
前記第二の回折格子を透過したX線の強度分布を検出するための画素を備えたX線検出器と、を有し、
前記第二の回折格子がプリズム格子で構成され、該プリズム格子によって前記自己像の特定の部分を前記X線検出器における特定の画素に反映させることが可能に構成されていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記プリズム格子は、該プリズム格子の周期が前記第一の回折格子が形成する自己像の周期と同じ周期であり、またはモアレの形成が可能な範囲で同程度の周期であることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記第一の回折格子の位置、前記プリズム格子の位置、前記入射するX線の位置のうち、少なくともいずれか一つの位置を複数回変化させることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記プリズム格子は、断面の形状が三角形である部位を複数有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記プリズム格子は、断面の形状が傾いた四角形である部位を複数有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記第一の回折格子の前記X線が入射する側に、ビームスプリッターが配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記プリズム格子の周期が、一定間隔で半周期ずれていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記プリズム格子の前方もしくは後方に、X線レンズアレーが配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187288(P2012−187288A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53903(P2011−53903)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】