説明

X線撮影方法、サブトラクション撮影用データ作成方法、X線撮影装置およびサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体

【課題】 X線における連続スペクトルを考慮してより鮮明なサブトラクション画像を得ることが可能なX線撮影方法等を提供する。
【解決手段】 X線撮影装置は、被検者1を載置するテーブル2と、X線管3と、フラットパネルディテクタ4と、制御部5と、X線管制御部6と、表示部7とを備える。また、制御部5は、高電圧撮影時に使用される高電圧画像メモリ11、LOG変換部12および重みづけ部13と、低電圧撮影時に使用される低電圧画像メモリ14、LOG変換部15および重みづけ部16と、サブトラクション処理を実行するサブトラクション部17と、参照テーブル18と、画像処理部19とを備える。参照テーブル18には、X線管3に高電圧と低電圧とを付与したときのフラットパネルディテクタ4の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータが記録されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線撮影方法、サブトラクション撮影用データ作成方法、X線撮影装置およびサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体に関し、特に、デュアルエナジーサブトラクションを利用したX線撮影方法、サブトラクション撮影用データ作成方法、X線撮影装置およびサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなデュアルエネルギーサブトラクション撮影を行うためのX線撮影装置においては、X線管に高電圧値が付与されたときのX線の測定値とX線管に低電圧値が付与されたときのX線の測定値とに対してサブトラクション処理を行うことにより、X線吸収係数が異なる組織を抽出している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−160100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のX線撮影装置においては、X線としてスペクトル幅が極めて狭い単色X線を使用することが前提となっている。しかしながら、実際のX線は連続スペクトルを有していることから、それらを考慮しない場合には、より高精度のX線画像が得られない場合がある。例えば、被検者の胸部を撮影した場合に、肋骨の画像は高精度に得られたとしても、背骨の画像が不鮮明になる等の問題が生ずる場合がある。
【0005】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、X線における連続スペクトルを考慮してより鮮明なサブトラクション画像を得ることが可能なX線撮影方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することによりX線画像を撮影するX線撮影方法において、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程と、前記X線管に高電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する高電圧撮影工程と、前記X線管に低電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する低電圧撮影工程と、前記記憶工程で記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータと、前記高電圧撮影工程で検出したX線の検出値と、前記低電圧撮影工程で検出したX線の検出値とから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理工程と、前記画像処理工程において作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、X線管に高電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOH、X線管に低電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOL、X線管に高電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管に低電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数をμ、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数をμ、X線エネルギーをEとしたときに、前記演算工程においては、下記の式に基づいて演算を実行する。
【0008】




【0009】

【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記演算工程において演算したX線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織と骨部との厚さとの関係を補完処理することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを正規化する正規化工程をさらに備える。
【0011】
請求項4に記載の発明は、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することによりX線画像を撮影するX線撮影方法において、前記X線管に高電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する高電圧撮影工程と、前記X線管に低電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する低電圧撮影工程と、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すテーブルと、前記高電圧撮影工程で検出したX線の検出値と、前記低電圧撮影工程で検出したX線の検出値とから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理工程と、前記画像処理工程において作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すテーブルは、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程とにより作成される。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、X線管に高電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOH、X線管に低電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOL、X線管に高電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管に低電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数をμ、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数をμ、X線エネルギーをEとしたときに、前記演算工程においては、下記の式に基づいて演算を実行する。
【0014】




【0015】

【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の発明において、前記演算工程において演算したX線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織と骨部との厚さとの関係を補完処理することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを正規化する正規化工程をさらに備える。
【0017】
請求項8に記載の発明は、X線管に高電圧と低電圧を付与したときに、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することにより、サブトラクションX線画像を撮影するX線撮影方法に使用するサブトラクション撮影用データ作成方法において、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程とを備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、被検体に向けてX線を照射するX線管と、前記X線管に付与する管電圧を制御するX線管制御部と、前記X線管から照射され被検体を通過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを記録したテーブルを記憶する記憶部と、前記X線管に高電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記X線管に低電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記記憶部に記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータとから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理部と、前記画像処理部により作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、被検体に向けてX線を照射するX線管と、前記X線管に付与する管電圧を制御するX線管制御部と、前記X線管から照射され被検体を通過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを記憶する記憶部と、前記X線管に高電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記X線管に低電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記記憶部に記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータとから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理部と、前記画像処理部により作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータは、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算することにより作成したテーブルから成る。
【0021】
請求項12に記載の発明は、X線管に高電圧と低電圧を付与したときに、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することにより、サブトラクションX線画像を撮影するX線撮影方法に使用するサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体であって、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算し、この演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1乃至請求項12に記載の発明によれば、X線が連続スペクトルをなしている場合においても、それを考慮した上で、より鮮明なサブトラクション画像を得ることが可能となる。
【0023】
請求項3および請求項7に記載の発明によれば、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織と骨部との厚さとの関係のデータが少ない場合においても、想定される管電圧に対応した正規化されたデータを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係るX線撮影装置の概要図である。
【図2】軟部組織と骨部とに対して、高電圧のX線と低電圧のX線を照射した状態を模式的に示す説明図である。
【図3】この発明に係るX線撮影方法のフローチャートである。
【図4】X線管3に120kVの管電圧を付与した場合と、60kVの管電圧を付与した場合の、X線エネルギーと相対光子数の関係を示すグラフである。
【図5】軟部組織に相当する水と、骨部に相当する皮質骨の、質量減弱係数と光子エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図6】IとLおよびLとの関係、および、IとLおよびLとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るX線撮影装置の概要図である。
【0026】
このX線撮影装置は、デュアルエネルギーサブトラクション処理を利用してX線吸収係数が異なる組織を抽出することにより、例えば、軟部組織や骨部のX線画像を表示するためのものであり、被検体である被検者1を載置するテーブル2と、X線管3と、X線検出器としてのフラットパネルディテクタ4と、制御部5と、X線管3に付与する管電圧等を制御するX線管制御部6と、CRT等の表示部7とを備える。
【0027】
また、制御部5は、高電圧撮影時に使用される高電圧画像メモリ11、LOG変換部12および重みづけ部13と、低電圧撮影時に使用される低電圧画像メモリ14、LOG変換部15および重みづけ部16と、サブトラクション処理を実行するサブトラクション部17と、後述する参照テーブル18と、画像処理部19とを備える。このX線撮影装置において、従来同様の一般的なデュアルエネルギーサブトラクション撮影を実行するときには、サブトラクション部17が使用される。また、この発明に係るデュアルエネルギーサブトラクション撮影を実行するときには、参照テーブル18が使用される。
【0028】
最初に、一般的なデュアルエネルギーサブトラクション撮影を実行するときの動作について説明する。このX線撮影装置においては、X線管3に高電圧値が付与された場合には、フラットパネルディテクタ4により測定された高電圧画像が高電圧画像メモリ11に記憶される。高電圧画像メモリ11に記憶された高電圧画像は、LOG変換部12において対数処理が行われて画像信号に変換された後、重み付け部13にて体厚情報等に応じた重み係数が乗算される。同様に、X線管3に低電圧値が付与された場合には、フラットパネルディテクタ4により測定された低電圧画像が低電圧画像メモリ14に記憶される。低電圧画像メモリ14に記憶された低電圧画像は、LOG変換部15において対数処理が行われた後、重みづけ部16にて体厚情報等に応じた重み係数が乗算される。
【0029】
対数処理および重みづけ処理された高電圧画像と低電圧画像に対しては、サブトラクション部17において、減算処理であるサブトラクション処理がなされる。サブトラクション処理されたサブトラクション像は、画像処理部19において画像処理され、表示部7において軟質組織または骨部のサブトラクション画像が表示される。
【0030】
図2は、軟部組織と骨部とに対して、高電圧のX線と低電圧のX線を照射した状態を模式的に示す説明図である。
【0031】
ここで、IOHはX線管3に高電圧を付与してX線管3からフラットパネルディテクタ4に直接X線を照射したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値を、IOLはX線管3に低電圧を付与してX線管3からフラットパネルディテクタ4に直接X線を照射したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値を、IはX線管3に高電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値を、IはX線管3に低電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値を、μSHはX線管3に高電圧を付与したときにX線管3から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数を、μSLはX線管3に低電圧を付与したときにX線管3から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数を、μBHはX線管3に高電圧を付与したときにX線管3から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数を、μBLはX線管3に低電圧を付与したときにX線管3から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数を、各々示している。
【0032】
高電圧メモリ11には、下記の数式1により演算される画素値Iに基づいて得られた高電圧画像が記憶され、低電圧メモリ14には、下記の数式2により演算される画素値Iに基づいて得られた高電圧画像が記憶される。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
LOG変換部12、15においてこれらの式に対するLOGをとることにより下記の数式3および数式4が導かれる。
【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
重みづけ部13において上記数式3に[μSL/μSH]を乗算し、サブトラクション部17においてこの乗算結果より数式4を減算することで、軟部組織の質量減弱係数部分がなくなり、骨部の画像を得ることができる。同様に、重みづけ部16において上記数式に[μBL/μBH]を乗算し、サブトラクション部17においてこの乗算結果より数式4を減算することで、骨部の質量減弱係数部分がなくなり、軟部組織の画像を得ることができる。そして、これらの減算結果を、画像処理部19を介して表示部7に送信し、表示部7に軟部組織または骨部のサブトラクション画像を表示する。また、そのときの画像データは、必要に応じ、図示しない記憶部に記憶される。
【0039】
次に、この発明に係るデュアルエネルギーサブトラクション撮影を実行するときの動作について説明する。図3は、この発明に係るX線撮影方法のフローチャートである。
【0040】
また、図4は、X線管3に120kV(キロボルト)の管電圧を付与した場合と、60kVの管電圧を付与した場合の、X線エネルギーと相対光子数の関係を示すグラフである。ここで、図4における横軸はX線エネルギーを示し、その単位はkeV(キロエレクトロンボルト)である。また、図4における縦軸は相対光子数を示し、その単位は無単位である。さらに、図5は、軟部組織に相当する水と、骨部に相当する皮質骨の、質量減弱係数と光子エネルギーとの関係を示すグラフである。ここで、図5における横軸は光子エネルギーを示し、その単位はkeVである。また、図5における縦軸は質量減弱係数を示し、その単位は[cm/g]である。
【0041】
スペクトル幅が極めて狭い単色X線を使用した場合には、被検者1を通過する前の高圧X線および低圧X線と被検者1を通過した後の被検者1を通過する前の高圧X線および低圧X線との関係、すなわち、IおよびIとIOHおよびIOLとの関係は、上述した数式1および数式2で計算できる。しかしながら、図4に示すように、X線管3に一定の管電圧を付与した場合であっても、X線エネルギーは連続スペクトルとして広い範囲に分布する。そして、軟部組織や骨部の減弱係数も、図5に示すように、X線エネルギーに相当する光子エネルギーに依存する。このため、この発明に係るX線撮影方法においては、上述した数式1および数式2に代えて、上述した数式1および数式2に対する積分値に相当する下記の数式5および数式6を使用している。
【0042】
ここで、下記の数式5および数式6におけるμは、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数を示し、μは、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数を示している。またEは、上述したX線エネルギーを示している。
【0043】
従って、IOH(E)は、X線管3に高電圧を付与してX線管3からフラットパネルディテクタ4に直接X線を照射したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値であるIOHについて、連続スペクトルをなすX線をエネルギーにより積分した値を示し、より具体的には、連続スペクトルをなすX線に対して各エネルギー毎に積算値をとった値を示している。同様に、IOL(E)は、X線管3に低電圧を付与してX線管3からフラットパネルディテクタ4に直接X線を照射したときのフラットパネルディテクタ4によるX線の検出値であるIOLについて、連続スペクトルをなすX線をエネルギーにより積分した値を示し、より具体的には、連続スペクトルをなすX線に対して各エネルギー毎に積算値をとった値を示している。
【0044】
また、μ(E)は、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数であるμについて、連続スペクトルをなすX線をエネルギーにより積分した値を示し、より具体的には、連続スペクトルをなすX線に対して各エネルギー毎に積算値をとった値を示している。同様に、μ(E)は、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数であるμについて、連続スペクトルをなすX線をエネルギーにより積分した値を示し、より具体的には、連続スペクトルをなすX線に対して各エネルギー毎に積算値をとった値を示している。
【0045】
【数5】

【0046】
【数6】

【0047】
すなわち、この発明に係るX線撮影方法においては、最初に、上記数式5および数式6において、軟部組織の厚さ(距離)Lと骨部の厚さ(距離)Lを変化させることにより、X線管3に高電圧および低電圧を付与したときに検出されるべき画素値IとIとの関係を、厚さLおよびLの組み合わせを何度も変化させて多数演算する(ステップS1)。そして、必要なデータ数が得られたら(ステップS2)、X線管3に高電圧と低電圧とを付与したときのフラットパネルディテクタ4の検出値である画素値IとIと軟部組織および骨部の厚さLおよびLとの関係を示すデータを図1に示す参照テーブル18として記憶する(ステップS3)。
【0048】
図6は、IとLおよびLとの関係、および、IとLおよびLとの関係を示すグラフである。ここで、図6(a)におけるZ軸はIを、X軸はLを、Y軸はLを示している。また、図6(b)におけるZ軸はIを、X軸はLを、Y軸はLを示している。なお、この図においては、Lを0mmから160mmの範囲で、また、Lを0mmから10mmの範囲で変化させた状態を示している。また、この図におけるIおよびIは、IOHおよびIOLとの比で表現している。 このグラフは、上述したように、上記数式5および数式6において、軟部組織の厚さ(距離)Lと骨部の厚さ(距離)Lを変化させることにより、X線管3に高電圧および低電圧を付与したときに検出されるべき画素値IとIとの関係を、厚さLおよびLの組み合わせを何度も変化させて多数演算する演算工程により得られるものである。そして、このグラフを作成するときには、演算工程において演算したX線管3に高電圧と低電圧とを付与したときのフラットパネルディテクタ4の検出値IとIと軟部組織と骨部との厚さLおよびLとの関係を補完処理することにより、X線管3に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値IとIと軟部組織と骨部との厚さLおよびLとの関係を示すデータを正規化する。正規化後のデータは、上述した参照テーブル18として記憶される。
【0049】
次に、X線管3に高電圧を付与したときの被検者1を通過したX線をフラットパネルディテクタ4により検出するとともに(ステップS4)と、X線管3に低電圧を付与したときの被検者1を通過したX線をフラットパネルディテクタ4により検出する(ステップS5)。そして、これらの工程における各管電圧値と、フラットパネルディテクタ4の検出値である画素値IとIの組み合わせに基づいて、参照テーブル18を参照することにより、軟部組織の厚さLおよび骨部の厚さLを呼びだして認定することができる(ステップS6)。
【0050】
この場合においては、図6に示すグラフにおいて、フラットパネルディテクタ4の検出値である画素値IとIの組み合わせに基づいて、それらの画素値IとIに対する共通する軟部組織の厚さLおよび骨部の厚さLの組を見いだす。より具体的には、例えば、I=0.3であり、I=0.5であった場合には、図6(a)においてI=0.3を示すXY平面に平行な平面とIとLおよびLとの関係を示す曲面との交点からXY平面へ下ろした垂線の位置が示すLおよびLの組み合わせと、図6(b)においてI=0.5を示すXY平面に平行な平面とIとLおよびLとの関係を示す曲面との交点からXY平面へ下ろした垂線の位置が示すLおよびLの組み合わせのうち、互いに一致するLおよびLの組み合わせを見いだし、これを軟部組織の厚さLおよび骨部の厚さLとして認定する。
【0051】
次に、画像処理部19が、認定された軟部組織の厚さLおよび骨部の厚さLを元に画像処理を実行し(ステップS7)、表示部7に軟部組織または骨部のサブトラクション画像を表示する(ステップS8)。
【0052】
以上のように、この発明に係るX線撮影方法およびX線撮影装置によれば、サブトラクション部17を使用して実際にサブトラクション処理を実行することなく、参照テーブル18に記憶したフラットパネルディテクタ4の検出値である画素値IとIの組み合わせに基づいて軟部組織の厚さLと骨部の厚さLを特定し、これに基づいてサブトラクション画像を得ることが可能となる。このとき、X線における連続スペクトルを考慮することから、より鮮明なサブトラクション画像を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 被検者
2 テーブル
3 X線管
4 フラットパネルディテクタ
5 制御部
6 X線管制御部
7 表示部
11 高電圧メモリ
12 LOG変換部
13 重みづけ部
14 高電圧メモリ
15 LOG変換部
16 重みづけ部
17 サブトラクション部
18 参照テーブル
19 画像処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することによりX線画像を撮影するX線撮影方法において、
X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、
前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程と、
前記X線管に高電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する高電圧撮影工程と、
前記X線管に低電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する低電圧撮影工程と、
前記記憶工程で記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータと、前記高電圧撮影工程で検出したX線の検出値と、前記低電圧撮影工程で検出したX線の検出値とから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理工程と、
前記画像処理工程において作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示工程と、
を備えたことを特徴とするX線撮影方法。
【請求項2】
請求項1に記載のX線撮影方法において、
X線管に高電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOH、X線管に低電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOL、X線管に高電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管に低電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数をμ、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数をμ、X線エネルギーをEとしたときに、前記演算工程においては、下記の式に基づいて演算を実行するX線撮影方法。





【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のX線撮影方法において、
前記演算工程において演算したX線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織と骨部との厚さとの関係を補完処理することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを正規化する正規化工程をさらに備えるX線撮影方法。
【請求項4】
X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することによりX線画像を撮影するX線撮影方法において、
前記X線管に高電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する高電圧撮影工程と、
前記X線管に低電圧を付与したときの被検者を通過したX線を前記X線検出器により検出する低電圧撮影工程と、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すテーブルと、前記高電圧撮影工程で検出したX線の検出値と、前記低電圧撮影工程で検出したX線の検出値とから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理工程と、
前記画像処理工程において作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示工程と、
を備えたことを特徴とするX線撮影方法。
【請求項5】
請求項4に記載のX線撮影方法において、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すテーブルは、
X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、
前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程と、
により作成されるX線撮影方法。
【請求項6】
請求項5に記載のX線撮影方法において、
X線管に高電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOH、X線管に低電圧を付与してX線管からX線検出器に直接X線を照射したときのX線検出器によるX線の検出値をIOL、X線管に高電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管に低電圧を付与して軟部組織を厚さL、骨部を厚さLだけ通過したときのX線検出器によるX線の検出値をI、X線管から照射されるX線が軟部組織を通過するときの質量減弱係数をμ、X線管から照射されるX線が骨部を通過するときの質量減弱係数をμ、X線エネルギーをEとしたときに、前記演算工程においては、下記の式に基づいて演算を実行するX線撮影方法。





【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のX線撮影方法において、
前記演算工程において演算したX線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織と骨部との厚さとの関係を補完処理することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを正規化する正規化工程をさらに備えるX線撮影方法。
【請求項8】
X線管に高電圧と低電圧を付与したときに、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することにより、サブトラクションX線画像を撮影するX線撮影方法に使用するサブトラクション撮影用データ作成方法において、
X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算する演算工程と、
前記演算工程における演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶する記憶工程と、
を備えたことを特徴とするサブトラクション撮影用データ作成方法。
【請求項9】
被検体に向けてX線を照射するX線管と、
前記X線管に付与する管電圧を制御するX線管制御部と、
前記X線管から照射され被検体を通過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算することにより、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを記録したテーブルを記憶する記憶部と、
前記X線管に高電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記X線管に低電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記記憶部に記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータとから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理部と、
前記画像処理部により作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示部と、
を備えたことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項10】
被検体に向けてX線を照射するX線管と、
前記X線管に付与する管電圧を制御するX線管制御部と、
前記X線管から照射され被検体を通過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータを記憶する記憶部と、
前記X線管に高電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記X線管に低電圧値が付与されたときの前記X線検出器によるX線の測定値と、前記記憶部に記憶した前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータとから、軟部組織および骨部の画像を作成する画像処理部と、
前記画像処理部により作成された軟部組織および骨部の画像を表示する表示部と、
を備えたことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項11】
請求項10に記載のX線撮影装置において、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さの関係を示すデータは、
前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算することにより作成したテーブルから成るX線撮影装置。
【請求項12】
X線管に高電圧と低電圧を付与したときに、X線管から照射され被検者を通過したX線をX線検出器により検出することにより、サブトラクションX線画像を撮影するX線撮影方法に使用するサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体であって、
X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線エネルギーの分布と、このX線エネルギーに対応する質量減衰係数とに基づいて、X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値を、軟部組織と骨部との厚さを変更して複数回演算し、
この演算結果に基づいて、前記X線管に高電圧と低電圧とを付与したときのX線検出器の検出値と軟部組織および骨部の厚さとの関係を示すデータをテーブルとして記憶したことを特徴とするサブトラクション撮影用データを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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