説明

X線撮影装置

【課題】X線管から2次元X線検出器に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑える。
【解決手段】この発明の装置は、被検体Mの透過X線像検出用のFPD2の信号補正用データ検出領域の前方に配設されている不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器により計測されたX線量が、予め定められた所定量以上となるとコリメータ調整部9がコリメータ6を調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に入射する直接線が迅速にカットされるので、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域に直接線が入射する場合でも、信号補正用データ検出領域で検出される信号補正用データは直ちに直線線の影響を受けていない適正なデータとなり、X線画像用データには適正な信号補正用データを用いて補正がかけられる。よって、アーティファクトの発生を速やかに抑止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体にX線を照射するX線管と、被検体の透過X線像を検出する2次元X線検出器とを備え、X線管による被検体へのX線照射に伴って2次元X線検出器から出力されるX線画像用データに基づいて被検体の透過X線像に対応するX線画像を取得するX線撮影装置に係り、特にX線管から2次元X線検出器に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病院等の医療機関で診断・治療に用いられているX線撮影装置は、図9に示すように、被検体MにX線を照射するX線管61と、被検体Mの透過X線像を検出する2次元X線検出器であるフラットパネル型X線検出器(以下、適宜「FPD」と略記)62とが被検体Mを挟んで対向配置されていて、X線管61による被検体MへのX線照射に伴ってFPD62から出力されるX線画像用データに基づいて被検体Mの透過X線像に対応するX線画像を取得する。
【0003】
また、X線撮影装置のFPD62の場合、通常、X線検出面にはX線画像用データを検出するX線画像用データ検出領域が設けられているのに加え、X線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する信号補正用データ検出領域がX線画像用データ検出領域の周辺に設けられている。
【0004】
そして、X線画像用データ検出領域に入射するX線量を計測すると共に、計測されるX線量に基づいてX線管61の照射X線量を制御して、常にFPD62のX線画像用データ検出領域に適当なX線量でX線を入射させながら、X線画像用データ検出領域ではX線画像用データの検出が行なわれる(例えば特許文献1を参照。)。
【0005】
一方、X線画像用データの検出と並行して、X線画像用データ検出領域の周辺の信号補正用データ検出領域では、X線画像用データの補正に用いられる信号補正用データの検出が行なわれると共に、検出された信号補正用データに基づいてX線画像用データの補正を実行する時に適用する補正用パラメータが求められる。更に求められた補正用パラメータを適用してX線画像用データに対する補正が実行される結果、良好な画質のX線画像が取得できる。なお、X線画像用データの補正としては、信号ベース分除去処理,ノイズ除去処理,AD変換の際の信号増幅処理などが挙げられる。補正用パラメータとしては、信号ベースの除去量,ノイズ除去フィルタの係数,AD変換の際の信号増幅率などが挙げられる。
【特許文献1】特開2001−195563号公報(9頁、図9,図11,図13)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のX線撮影装置は、往々にしてX線画像中にアーティファクトが生じて画質を低下させるという問題がある。
【0007】
通常、X線管61からのX線はFPD62のX線検出面における信号補正用データ検出領域には被検体Mを通過した間接線として入射するのであるが、撮影時の状況によっては、X線管61から信号補正用データ検出領域に直接線が入射する状態になることがある。X線管61から信号補正用データ検出領域に直接線が入射するようになると、時として検出対象のX線の線量が適当な範囲を越えてしまう。そうなると、X線画像用データの補正に用いられる信号補正用データが正しく検出されず、信号補正用データを用いてもX線画像用データに的確な補正がかけられないので、X線画像中にアーティファクトが生じるのである。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、X線管から2次元X線検出器に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができるX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明に係るX線撮影装置は、被検体にX線を照射するX線管と、被検体の透過X線像を検出する2次元X線検出器とを備え、X線管による被検体へのX線照射に伴って2次元X線検出器から出力されるX線画像用データに基づいて被検体の透過X線像に対応するX線画像を取得するX線撮影装置において、X線管がX線の照射範囲を定めるコリメータを有していて、2次元X線検出器がX線画像用データを検出するX線画像用データ検出領域の周辺にX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する信号補正用データ検出領域を有しているのに加え、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されていると共に信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測するX線量測定手段と、X線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータを調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に直接線が入射するのを阻止するコリメータ調整手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
[作用・効果]請求項1の発明のX線撮影装置によるX線撮影の実行中、X線管によってコリメータで定められた照射範囲で被検体へX線が照射されるのに伴って2次元X線検出器のX線画像用データ検出領域ではX線画像用データが検出されると共に信号補正用データ検出領域ではX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データが検出される。さらに2次元X線検出器の後段において、信号補正用データを用いてX線画像用データに補正をかけてから補正済のX線画像用データにしたがって被検体の透過X線像に対応するX線画像が取得される。
【0012】
また、請求項1の発明のX線撮影装置によるX線撮影の実行中、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段により信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量が計測されると共に、信号補正用データ検出領域に直接線が入射してX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整手段がコリメータを調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に直接線が入射するのを迅速に阻止する。したがって、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域に直接線が入射することがあった場合でも、信号補正用データ検出領域で検出される信号補正用データは直ちに直線線の影響を受けていない適正なデータとなり、X線画像用データには適正な信号補正用データを用いて補正がかけられる結果、X線管から2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑止できる。
【0013】
さらに、請求項2の発明は、上記の目的を達成するために、次のような構成をとる。
【0014】
すなわち、請求項2に記載の発明に係るX線撮影装置は、被検体にX線を照射するX線管と、被検体の透過X線像を検出する2次元X線検出器とを備え、X線管による被検体へのX線照射に伴って2次元X線検出器から出力されるX線画像用データに基づいて被検体の透過X線像に対応するX線画像を取得するX線撮影装置において、2次元X線検出器がX線画像用データを検出するX線画像用データ検出領域の周辺にX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する信号補正用データ検出領域を有しているのに加え、X線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータを予め登録しておくパラメータ登録手段と、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されていると共に信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測するX線量測定手段と、X線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータ登録手段に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの標準的補正が実行されることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]請求項2の発明のX線撮影装置によるX線撮影の実行中、X線管によってコリメータで定められた照射範囲で被検体へX線が照射されるのに伴って2次元X線検出器のX線画像用データ検出領域ではX線画像用データが検出されると共に信号補正用データ検出領域ではX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データが検出される。さらに2次元X線検出器の後段において、信号補正用データを用いてX線画像用データに補正をかけてから補正済のX線画像用データにしたがって被検体の透過X線像に対応するX線画像が取得される。
【0016】
また、請求項2の発明のX線撮影装置の場合、パラメータ登録手段にX線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータが予め登録されている。そして、X線撮影の実行中、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段により信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量が計測される。
【0017】
そして、信号補正用データ検出領域に直接線が入射せずX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量未満であれば、信号補正用データからX線画像用データに対して補正をかける時に適用する補正用パラメータが求められてからX線画像用データの補正が行なわれる。
【0018】
逆に、信号補正用データ検出領域に直接線が入射してX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータ登録手段に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの標準的補正が実行される。
【0019】
したがって、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域に直接線が入射することがあった場合は、信号補正用データ検出領域で検出された為に直接線の影響を受けてしまった不適正な信号補正用データは用いられず、パラメータ登録手段に登録されている適正度の高い標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データに補正がかけられる結果、X線管から2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑止できる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のX線撮影装置において、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段が、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器であるものである。
【0021】
[作用・効果]請求項3の発明のX線撮影装置の場合、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器は応答速度が早くて、信号補正用データ検出領域に直接線が入射してX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上となったことが素早く感知されるので、X線画像中にアーティファクトが生じることを、より速やかに抑止することができる。
【0022】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のX線撮影装置において、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器が、信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測する補正用データ検出領域用チャンバーに加えてX線画像用データ検出領域に入射するX線量を計測する画像用データ検出領域用チャンバーを別に有していて、画像用データ検出領域用チャンバーにより計測されたX線量に基づいてX線管の照射X線量の制御が行なわれるものである。
【0023】
[作用・効果]請求項4の発明のX線撮影装置の場合、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器が、補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測する補正用データ検出領域用チャンバーの他に、画像用データ検出領域に入射するX線の線量を計測する画像用データ検出領域用チャンバーを別に有していて、画像用データ検出領域用チャンバーにより計測されたX線量に基づいてX線管の照射X線量の制御が行なわれるので、画像用データ検出領域に入射するX線の線量の適正化が図られる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のX線撮影装置において、2次元X線検出器がフラットパネル型X線検出器であるものである。
【0025】
[作用・効果]請求項5の発明のX線撮影装置の場合、2次元X線検出器が軽量・薄型のフラットパネル型X線検出器であるので、X線透過像検出用の2次元X線検出器まわりの構成の簡素化が図れる。
【0026】
また、フラットパネル型X線検出器は大面積化適正を有する2次元X線検出器であるが、大面積化に伴って信号補正用データ検出領域に直接線が入射し易くなるので、X線画像中にアーティファクトが生じる可能性が高くなるけれども、この発明のX線撮影装置の場合は、X線管から2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えられるので、X線画像中にアーティファクトが生じる懸念なくフラットパネル型X線検出器の大面積化が図れる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明のX線撮影装置の場合、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段により信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量が計測されると共に、信号補正用データ検出領域に直接線が入射してX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整手段がコリメータを調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に直接線が入射するのを迅速に阻止する構成となっていて、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域に直接線が入射することがあった場合でも、信号補正用データ検出領域で検出される信号補正用データは直ちに直線線の影響を受けていない適正なデータとなり、X線画像用データには適正な信号補正用データを用いて補正がかけられる。
【0028】
よって、請求項1の発明のX線撮影装置によれば、X線管から2次元X線検出器に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができる。
【0029】
さらに、請求項2の発明のX線撮影装置の場合、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段により信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量が計測されると共に、信号補正用データ検出領域に直接線が入射してX線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータ登録手段に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの補正が実行される構成となっていて、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域に直接線が入射することがあった場合でも、信号補正用データ検出領域で検出された為に直接線の影響を受けてしまった不適正な信号補正用データは用いられず、パラメータ登録手段に登録されている適正度の高い標準補正用パラメータを適用してX線画像用データに標準的補正がかけられる。
【0030】
よって、請求項2の発明のX線撮影装置によれば、X線管から2次元X線検出器に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができる。
【実施例1】
【0031】
この発明のX線撮影装置の実施例1について図面を参照しながら詳しく説明する。図1は実施例1に係る医用のX線撮影装置の全体構成を示すブロック図である。
【0032】
実施例1のX線撮影装置は、図1に示すように、被検体MにX線を照射するX線管1と、被検体Mの透過X線像を検出する2次元X線検出器である直接変換タイプのフラットパネル型X線検出器(以下、適宜「FPD」と略記)2を備えているのに加え、X線管1より被検体MへのX線照射に伴ってFPD2から出力されるX線画像用データに基づいて被検体Mの透過X線像に対応するX線画像を取得するデータ処理部3と、データ処理部3で取得されたX線画像を記憶するX線画像メモリ4と、データ処理部3で取得されたX線画像やX線撮影に必要な操作メニュー等を表示する表示モニタ5を備えている。
【0033】
実施例1の装置が装備しているX線管1はX線の照射範囲を定めるコリメータ6を前面側に有している。コリメータ6は、図2に示すように、X方向(横方向)のX線の照射範囲を定めるX線遮蔽機能を有する2枚の可動リーフ6A,6Bと、Y方向(縦方向)のX線の照射範囲を定めるX線遮蔽機能を有する2枚の可動リーフ6C,6Dを有していて、可動リーフ6A,6Bが矢印で示す向きに移動するのに伴ってX方向に対するX線の照射範囲が変化し、可動リーフ6C,6Dが矢印で示す向きに移動するのに伴ってY方向のX線の照射範囲が変化する。これら4枚の可動リーフ6A〜6Dは個別に独立して移動させられる構成となっている。
【0034】
また、X線撮影が行なわれる際は、前段に配備されているX線照射制御部7の制御にしたがってX線管1からX線撮影条件に合ったX線が被検体Mに照射される。
【0035】
透過X線像検出用のFPD2は、図3に示すように、正方形のX線検出面2Aを有しており、X線検出面2Aには多数のX線検出素子2aが、X線画像の画素配列に対応する配列でX方向(横方向)とY方向(縦方向)に配置されている。具体的には、例えばX方向とY方向にそれぞれ4000個程度のX線検出素子2aが並ぶ約4000×約4000のマトリックスの配列でX線検出素子2aが配置されている。
【0036】
さらに、FPD2のX線検出面2Aは、図4に示すように、X線画像の取得に直接用いられるX線画像用データを検出する正方形のX線画像用データ検出領域2Bと、X線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する長方形の4個の信号補正用データ検出領域2C1〜2C4とに区画されている。X線画像用データ検出領域2Bの方に配置されているX線検出素子2aがX線画像の画素と対応することになる。例えばX線検出素子2aが並ぶ約4000×約4000のマトリックスの配列の場合、X方向とY方向の各X線検出素子ラインのうち両端の100〜200個程度のX線検出素子の配置エリアが信号補正用データ検出領域2C1〜2C4となる。
【0037】
したがって、FPD2では、X線画像用データ検出領域2BでのX線画像用データの検出と並行して、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4では、X線画像用データの補正に用いられる信号補正用データの検出が行なわれる。そして、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4で検出された信号補正用データに基づいてX線画像用データの補正を実行する時に適用する補正用パラメータが求められる。更に求められた補正用パラメータを適用してX線画像用データに対する補正が実行される結果、良好な画質のX線画像が取得される。
【0038】
X線画像用データにかけられる補正としては、信号ベース分除去処理,ノイズ除去処理,AD変換の際の信号増幅処理などといったリアルタイムでかけられる補正が挙げられ、これに応じて、補正用パラメータとしては、信号ベースの除去量,ノイズ除去フィルタの係数,AD変換の際の信号増幅率などが挙げられる。これらのX線画像用データに対する補正の実行や、補正用パラメータの求出は、補正の内容やパラメータの種類に応じてFPD2や、さらにはデータ処理部3など適当な処で行なわれる。
【0039】
そして、実施例1のX線撮影装置の場合、図5および図6に示すように、FPD2の前方に不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器(以下、適宜「X線量測定器」と略記)8を備えている。このX線量測定器8は、X線画像用データ検出領域2Bに入射するX線量を計測する画像用データ検出領域用のチャンバー8Aと、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に入射するX線の線量を計測する補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4を有している。
【0040】
チャンバー8Aは、X線画像用データ検出領域2Bにおける円形の採光野2bと略同一の円形に整形されていて、X線画像用データ検出領域2Bにおける採光野2bの前面に配置されている。チャンバー8B1〜8B4は、長方形の信号補正用データ検出領域2C1〜2C4と略同一の長方形に整形されていて、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4の前面に配置されている。
【0041】
X線量測定器8は、例えばチャンバー8A,8B1〜8B4用の空間を切り抜き形成した薄手のアクリル樹脂プレートの両面に薄手のアクリル樹脂プレートをそれぞれ貼り合わせ、各チャンバー8A,8B1〜8B4に不活性ガスとしてXe(キセノン)ガスを封入すると共に、検出用ワイヤを配置した構成のものが用いられる。なお、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4は、互いに独立していて、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に入射するX線の線量が個別に計測される構成とされている。
【0042】
そして、実施例1の装置の場合、画像用データ検出領域用のチャンバー8Aにより計測されたX線量に基づいてX線管1の照射X線量の制御が行なわれる構成とされている。即ち、図1に示すように、X線量測定器8から(厳密にはチャンバー8A)から出力された検出信号は、増幅回路(図示省略)で増幅される等した後、X線照射制御部7に送り込まれ、X線管1の照射X線量の制御がなされて画像用データ検出領域2Bに入射するX線の線量の適正化が図られる。
【0043】
さらに、実施例1のX線撮影装置は、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4により計測された信号補正用データ検出領域2C1〜2C4のX線量が予め定められた所定量以上であれば、図1に示すように、コリメータ6を調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射するのを阻止するコリメータ調整部9を備えている。即ち、コリメータ調整部9は電動モータ等による可動リーフ移動機構(図示省略)を有していて、各チャンバー8B1〜8B4から出力された検出信号は、増幅回路(図示省略)で増幅される等した後、コリメータ調整部9に送り込まれる。そして、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4のX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整部9がコリメータ6の可動リーフを移動させて信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に入射する直接線をカットする。
【0044】
チャンバー8B1により計測されたX線の線量が予め定められた所定量以上であれば、図7に示すように、コリメータ調整部9はコリメータ6の可動リーフ6AをX線の照射範囲を狭める方向に移動させて信号補正用データ検出領域2C1に入射する直接線をカットする。つまり、X線管1から照射されるX線のうち、図7に一点鎖線と点線によって挟まれる領域のX線が可動リーフ6Aにより遮断されるのである。
【0045】
同様に、チャンバー8B2により計測されたX線の線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整部9はコリメータ6の可動リーフ6BをX線の照射範囲を狭める方向に移動させて信号補正用データ検出領域2C2に入射する直接線をカットする。
【0046】
同様に、チャンバー8B3により計測されたX線の線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整部9はコリメータ6の可動リーフ6CをX線の照射範囲を狭める方向に移動させて信号補正用データ検出領域2C3に入射する直接線をカットする。
【0047】
チャンバー8B4により計測されたX線の線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整部9はコリメータ6の可動リーフ6DをX線の照射範囲を狭める方向に移動させて信号補正用データ検出領域2C4に入射する直接線をカットする。
【0048】
チャンバー8B1〜8B4のうち二つ以上のチャンバーが同時に予め定められた所定量以上のX線の線量を計測する場合もあるが、この場合、予め定められた所定量以上のX線の線量を計測した全てのチャンバーに対応する信号補正用データ検出領域に入射する直接線がカットされることになる。
【0049】
なお、操作部10はX線撮影の撮影条件の設定や、X線撮影の実行に必要な指令・データの入力を行なう入力機器である。また、主制御部11は、コンピュータ(CPU)と動作プログラムを中心に構成されていて、操作部10等による各種の指令入力、あるいは、X線撮影の進行状況などに応じて適当な命令信号やデータを必要な処へ適時に送出し、装置全体を常に適切に動作させる統括制御機能を果たす。
【0050】
以上に述べたように、実施例1のX線撮影装置の場合、FPD2のX線検出面2Aにおける信号補正用データ検出領域2C1〜2C4の前方に配設されている補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4により信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に入射するX線の線量が計測されると共に、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射してチャンバー8B1〜8B4により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータ調整部9がコリメータ6を調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に直接線が入射するのを迅速に阻止する構成となっていて、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射することがあった場合でも、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4で検出される信号補正用データは直ちに直接線の影響を受けていない適正なデータとなり、X線画像用データには適正な信号補正用データを用いて補正がかけられる。
【0051】
よって、実施例1のX線撮影装置によれば、X線管1からFPD2に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができる。
【0052】
また、実施例1の装置の場合、チャンバー8B1〜8B4が応答速度の早い不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器8であるので、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射してチャンバー8B1〜8B4により計測されたX線量が予め定められた所定量以上となったことが素早く感知されるので、X線画像中にアーティファクトが生じることを、より速やかに抑えることができる。
【0053】
さらに、FPD2は大面積化適正を有する2次元X線検出器であるが、大面積化に伴って信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射し易くなるので、X線画像中にアーティファクトが生じる可能性が高くなるけれども、実施例1の装置はX線管1から信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができるので、X線画像中にアーティファクトが生じる懸念なくFPD2の大面積化が図れる。
【実施例2】
【0054】
この発明のX線撮影装置の実施例2について図面を参照しながら詳しく説明する。図8は実施例2に係る医用のX線撮影装置の全体構成を示すブロック図である。
【0055】
実施例2のX線撮影装置は、図8に示すように、X線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータを予め登録しておくパラメータメモリ12を備えていて、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータメモリ12に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの標準的補正が実行される他は、実施例1の装置と実質的に同じであるので、共通する点の説明は省略し、相違する点についてのみ説明する。
【0056】
即ち、実施例2の装置の場合、X線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータを先に求めておいて、求めた標準補正用パラメータをパラメータメモリ12に予め登録しておく。X線画像用データにかけられる標準的補正としては、実施例1の装置と同様、信号ベース分除去処理,ノイズ除去処理,AD変換の際の信号増幅処理などといったリアルタイムで行なわれる補正が挙げられ、これに応じて、補正用パラメータとしては、信号ベースの除去量,ノイズ除去フィルタの係数,AD変換の際の信号増幅率などが挙げられる。これらの標準補正用パラメータにしたがって行なうX線画像用データに対する標準的補正は、FPD2や、さらにはデータ処理部3など適当な処で実行される。
【0057】
一方、各チャンバー8B1〜8B4から出力された検出信号は、増幅回路(図示省略)で増幅される等した後、主制御部11に送り込まれる。そして、主制御部11は、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4のうちの計測されたX線量が予め定められた所定量以上であるチャンバーがあった時は、計測されたX線量が予め定められた所定量以上であるチャンバーに対応する信号補正用データ検出領域については、検出した信号補正用データを用いずに、パラメータメモリ12から標準補正用パラメータを読み出すと共に、読み出した標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データに対する補正を実行する。
【0058】
なお、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4の中の少なくとも一つのチャンバーが予め定められた所定量以上のX線の線量を計測した時は、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4で検出された信号補正用データを全く用いずに、全てパラメータメモリ12から読み出した標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データに対する標準的補正を実行する構成としてもよい。
【0059】
他方、実施例2の装置の場合、補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4により計測されたX線量が予め定められた所定量未満であれば、実施例1の装置と同様にして、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4で検出された信号補正用データを用いてX線画像用データの補正が実行される。
【0060】
以上に述べたように、実施例2のX線撮影装置の場合、FPD2のX線検出面2Aにおける信号補正用データ検出領域2C1〜2C4の前方に配設されている補正用データ検出領域用のチャンバー8B1〜8B4により信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に入射するX線の線量が計測されると共に、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射してチャンバー8B1〜8B4により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータメモリ12に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの標準的補正が実行される構成となっていて、X線撮影の実行中に信号補正用データ検出領域2C1〜2C4に直接線が入射することがあった場合でも、信号補正用データ検出領域2C1〜2C4で検出された為に直接線の影響を受けてしまった不適正な信号補正用データは用いられず、パラメータメモリ12に登録されている適正度の高い標準補正用パラメータを適用してX線画像用データに補正がかけられる。
【0061】
よって、実施例2のX線撮影装置によれば、X線管1からFPD2に直接線が入射することでX線画像中にアーティファクトが生じることを速やかに抑えることができる。
【0062】
この発明は、上記の実施例に限られるものではなく、以下のように変形実施することも可能である。
【0063】
(1)実施例1のX線撮影装置において、さらに、実施例2と同様、X線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータを予め登録しておくパラメータメモリ12を備えていて、コリメータ調整部9によるコリメータ6の調整によって直接線がカットされた信号補正用データ検出領域については、例えば信号補正用データが不十分(例えば小さ過ぎる)という事態が生じた時には、信号補正用データを用いずに、パラメータメモリ12から読み出した標準補正用パラメータを適用してX線画像用データに標準的補正をかける構成とした装置を変形例として、挙げることができる。
【0064】
(2)実施例1,2の装置の場合、FPD2は直接変換タイプのFPDであったが、FPD2は間接変換タイプのものを用いるようにしてもよい。また、透過X線像検出用の2次元検出器は、FPDに限らず、FPD以外のX線検出器を用いるようにしてもよい。
【0065】
(3)実施例の装置は、医用の装置であったが、この発明の装置は、医用に限らず、例えば工業用や原子力用の装置などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1のX線撮影装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1の装置のX線管のコリメータの要部構成を示す斜視図である。
【図3】実施例1の装置のFPDのX線検出素子の配列状況を模式的に示す平面図である。
【図4】実施例1の装置のFPDのX線検出面におけるX線画像用データ検出領域と信号補正用データ検出領域の区画状況を示す模式図である。
【図5】実施例1の装置のFPDとX線量測定器の配置状況を示す正面図である。
【図6】実施例1の装置のFPDとX線量測定器の配置状況を示す平面図である。
【図7】実施例1の装置のFPDの信号補正用データ検出領域に入射する直接線のカットする際の状況を示す模式図である。
【図8】実施例2のX線撮影装置の全体構成を示すブロック図である。
【図9】従来のX線撮影装置の撮像系の要部構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 … X線管
2 … FPD(2次元X線検出器)
2B … X線画像用データ検出領域
2C1〜2C4 … 信号補正用データ検出領域
6 … コリメータ
8 … 不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器
8A … 画像用データ検出領域用のチャンバー
8B1〜8B4 … 補正用データ検出領域用のチャンバー(X線量測定手段)
9 … コリメータ調整部(コリメータ調整手段)
12 … パラメータメモリ(パラメータ登録手段)
M … 被検体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線管と、被検体の透過X線像を検出する2次元X線検出器とを備え、X線管による被検体へのX線照射に伴って2次元X線検出器から出力されるX線画像用データに基づいて被検体の透過X線像に対応するX線画像を取得するX線撮影装置において、X線管がX線の照射範囲を定めるコリメータを有していて、2次元X線検出器がX線画像用データを検出するX線画像用データ検出領域の周辺にX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する信号補正用データ検出領域を有しているのに加え、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されていると共に信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測するX線量測定手段と、X線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、コリメータを調整してX線の照射範囲を狭めて信号補正用データ検出領域に直接線が入射するのを阻止するコリメータ調整手段とを備えていることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
被検体にX線を照射するX線管と、被検体の透過X線像を検出する2次元X線検出器とを備え、X線管による被検体へのX線照射に伴って2次元X線検出器から出力されるX線画像用データに基づいて被検体の透過X線像に対応するX線画像を取得するX線撮影装置において、2次元X線検出器がX線画像用データを検出するX線画像用データ検出領域の周辺にX線画像用データの補正に用いられる信号補正用データを検出する信号補正用データ検出領域を有しているのに加え、X線画像用データに対して標準的補正をかける時に適用する標準補正用パラメータを予め登録しておくパラメータ登録手段と、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されていると共に信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測するX線量測定手段と、X線量測定手段により計測されたX線量が予め定められた所定量以上であれば、パラメータ登録手段に登録されている標準補正用パラメータにしたがってX線画像用データの標準的補正が実行されることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線撮影装置において、2次元X線検出器の信号補正用データ検出領域の前方に配設されているX線量測定手段が、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器であるX線撮影装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線撮影装置において、不活性ガス封入チャンバー式X線量測定器が、信号補正用データ検出領域に入射するX線の線量を計測する補正用データ検出領域用チャンバーに加えてX線画像用データ検出領域に入射するX線量を計測する画像用データ検出領域用チャンバーを別に有していて、画像用データ検出領域用チャンバーにより計測されたX線量に基づいてX線管の照射X線量の制御が行なわれるX線撮影装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のX線撮影装置において、2次元X線検出器がフラットパネル型X線検出器であるX線撮影装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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