X線源
【課題】 電子線のスポット径を精密に制御可能なX線源を提供することを目的とする。
【解決手段】 このX線源は、カソードからの収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段とを備えたX線源において、収束電極とターゲット体との間の主管電圧VTとし、カソードと収束電極との間のフォーカス電圧Vk、偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、電子線の電流Ikを制御する。この制御装置はフォーカス電圧Vkと偏向パラメータIcを連動させて制御する。
【解決手段】 このX線源は、カソードからの収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段とを備えたX線源において、収束電極とターゲット体との間の主管電圧VTとし、カソードと収束電極との間のフォーカス電圧Vk、偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、電子線の電流Ikを制御する。この制御装置はフォーカス電圧Vkと偏向パラメータIcを連動させて制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を出射するX線源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルトコンベア等により搬送される被検物を対象としたインライン方式のX線検査装置が知られている(例えば特許文献1)。このX線検査装置は、検査用のシールドボックス内に搬送された被検物にX線源から順次X線を照射し、被検物を透過したX線をX線検出器により順次検出することで被検物の拡大透視画像を得るように構成されている。
【0003】
また、この種のX線検査装置に使用されるX線源用のX線管としては、X線の出射ポイントを被検物側に近づけることにより、X線出射ポイントから被検物までの距離を短縮して被検物の拡大透視画像の拡大率をより大きくできるようにした、いわゆるマイクロフォーカス機能を発揮するX線管が知られている(例えば特許文献2)。また、引用文献3には、電子線の偏向信号の電圧をX線管の管電圧に対応して調整するX線管が開示されている。
【特許文献1】特許第3011360号公報
【特許文献2】特許第2713860号公報
【特許文献3】特開2000−48748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、管電圧に対応して電子線の偏向量を単純に制御した場合、偏向量に対してX線発生ターゲット体上における電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御することができず、偏向の前後で透視画像の鮮鋭度等の画質が等しくならない場合があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御可能なX線源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るX線源は、 カソードから収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段を備え、前記収束電極と前記ターゲット体との間に主管電圧VTが印加されるX線源において、前記カソードと前記収束電極との間のフォーカス電圧Vk、前記偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、前記電子線の電流Ikを制御する制御装置を備え、前記制御装置は、偏向パラメータIcとフォーカス電圧Vkを連動させて制御することを特徴とする。
【0007】
管電圧よりも微少制御が可能なフォーカス電圧と偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icを連動させて制御することにより、電子線偏向時の電子線スポット径を精密に制御することができる。
【0008】
また、制御装置は、以下の条件式のいずれかを満たすように各パラメータを設定することが好ましい。
(1)第1条件
【0009】
VT=A×Vt
【0010】
Vk=B×Vt×(1+β)
但し、
A>B
Vt:電圧指示パラメータ
β:主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータ。
【0011】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動することができるので、偏向時においてもフォーカス電圧Vkに応じてスポット径を一定とすることが可能となる。
(2)第2条件
【0012】
VT=A×Vt、
【0013】
Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)、
但し、
IK:電子線の電流Ikの指示パラメータ、
M:係数。
【0014】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動し、IKを介して電流Ikに連動することができるので、偏向時においても、電子線の電流変化時においても、フォーカス電圧Vkに応じてスポット径を一定とすることが可能となる。
(3)第3条件
【0015】
VT=A×Vt、
【0016】
Vk=B×Vt×(1+α+β)、
但し、
α:電子線のスポット径に対応する変数。
【0017】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動し、電子線スポット径に対応するαに連動することができるので、偏向時においても、スポット径変更時においても、フォーカス電圧Vkに応じて変更されたスポット径を所望の径とすることが可能となる。
(4)第4条件
【0018】
Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL、
【0019】
β=γ×ΔL、
δ:係数、
ΔL:電子線の焦点変位量の指示パラメータ
γ:係数。
【0020】
この場合、第1〜第3条件の場合に、電圧指示パラメータVtと偏向量(変位量)ΔLに連動して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icを決定し、また、変位量ΔLを介してβとIcを連動させてフォーカス電圧B×Vt×(1+β)またはB×Vt×(1+β+M×IK)、またはB×Vt×(1+α+β)を制御できるので、電圧指示パラメータ及び変位量の変更時においてもスポット径を一定とすることが可能となる。なお、偏向手段が電磁コイルの場合には、偏向パラメータIcは電磁コイルに供給される偏向電流であるが、偏向手段が偏向電極の場合には、偏向パラメータは、偏向電極に与えられる電圧となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るX線源によれば、電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係るX線源の実施の形態を説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、実施の形態に係るX線源の模式図である。
【0024】
このX線源は、X線管2と各種電源からなる。
【0025】
X線管2を構成するガラスの真空容器2’内は真空状態に保持されており、カソードKとアノード(ターゲット板T1)とが配置されている。カソードKは、その近傍に配置されたヒータHによって加熱され、この加熱によってカソードから熱電子が放出される。カソードKとターゲット板T1との間には、筒状の収束電極FG、グリッド電極Gが配置されている。カソードKとターゲット板T1の略中心同士を結ぶ線上に収束電極FGの軸と、グリッド電極Gの開口中心が位置しており、カソードKから出射された電子はグリッド電極G及び収束電極Gを介してターゲット板T1に到達する。ターゲット板T1の表面はX線出射面T4を構成している。X線出射面T4から出射されたX線は真空容器2’のX線透過部分を介して外部に出射する。
【0026】
カソードKから出射される電子の加速電圧は、カソードKとターゲット板T1との間の管電圧VTKに依存する。
【0027】
管電圧VTKは、収束電極FGとターゲット板T1との間の主管電圧VTと、カソードKと収束電極FGとの間のフォーカス電圧Vkの和で与えられる。なお、主管電圧VTの絶対値はフォーカス電圧Vkの絶対値よりも大きく、電子の加速は、ほぼ主管電圧VTの大きさに左右される。
【0028】
カソードKから出射した電子は、カソードに対して正の電位が与えられるフォーカス電圧Vk、主管電圧VTによって形成された電界に引かれてターゲット板T1に到達し、かかる電子線のターゲット板T1への衝突時に、X線が発生する。カソードKとグリッド電極Gとの間の電位差はVGに設定され、可変電源VG1を調整することで、電圧VGを制御し、電子線の電流を制御することができる。ターゲット板T1はターゲット支持体T2によって支持されており、ターゲット板T1を流れる電子線の電流Ikは電流計Aによって検出される。なお、カソードKにも電流計Aが接続されている。
【0029】
X線管2の外側には、電子線偏向用の電磁コイル3が設けられており、電磁コイル3には直流電源DCからスイッチ回路4を介して偏向電流Icが供給される。なお、電子線を偏向するため、電磁コイル3に代えて、X線管2内のグリッド電極Gと収束電極FGとの間に、偏向電極5を配置してもよい。なお、偏向手段が電磁コイル3の場合には、偏向パラメータIcは電磁コイルに供給される偏向電流であるが、偏向手段が偏向電極5の場合には、偏向パラメータIcは、偏向電極に与えられる電圧となる。
【0030】
図2は、X線管の制御装置のブロック図である。
【0031】
制御装置CTには、電圧指示パラメータVt、電子線のスポット径α、電子線の変位量ΔL、管電流指示パラメータIK、実際の管電流Ikが入力され、制御装置CTからは、主管電圧VT、フォーカス電圧Vk、グリッド電圧VG、偏向電流Icが出力される。このX線源は、カソードKから収束電極FGを経てX線発生用のターゲット体Tに至る電子線を偏向する偏向手段3を備えており、制御装置CTは、収束電極FGとターゲット体Tとの間の主管電圧VT、カソードKと収束電極FGとの間のフォーカス電圧Vk、偏向手段3による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、電子線の電流Ikを決定するグリッド電圧VGを制御するに当たり、少なくとも偏向パラメータIcに連動させてフォーカス電圧Vkを制御している。
ビームスポットは好ましくは円形状であるが、楕円形状であってもよい。この場合、スポット径値は“楕円の長軸長さ(X)と短軸の長さ(Y)の中間値((X+Y)/2)”とし、偏向した場合にはその値が偏向前と同じになるように設定することができる。また、ビームスポットは略四角形状(多角形状)であってもよく、その場合も同様の制御を行うことができる。
【0032】
この制御装置CTは、主管電圧VTの制御に加え、これよりも微少制御が可能なフォーカス電圧Vkに関しては偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動して制御することにより、電子線偏向時の電子線スポット径を精密に制御している。これらは、以下に説明する条件式のいずれかを満たすように各パラメータを設定することが好ましい。
【0033】
図3は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0034】
同図に示す条件は以下の通りである。適当な係数A、Bの関係はA>Bとし、βは主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータとする。入力情報=Vt、α、ΔL、IK、Ik、出力情報=VT、Vk、VG、Icであるが、ここでは、αは用いないこととし、また、一例として、A=105、B=103、βの係数γ=(1/10)であるとする。また、関数FB(IK−Ik)は、実電流Ikが指示値IKに一致するようにフィードバックがかかる電圧のことであり、abs(ΔL)は、ΔLの絶対値を示す。ΔLは電子線の焦点変位量の指示パラメータである。
(1)・・・VT=A×Vt
(2)・・・Vk=B×Vt×(1+β)
(3)・・・VG=FB(IK−Ik)
(4)・・・Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL
(5)・・・β=γ×abs(ΔL)
【0035】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動することができるので、偏向時においてもフォーカス電圧Vkが調整されることによってスポット径を一定とすることが可能となる。より詳細には、数式(4)、(5)が設定されているので、変位量ΔLを介してβとIcを連動させてフォーカス電圧を制御できるので、スポット径を一定とすることが可能となる。グリッド電圧VGは、モニタされる実電流Ikが設定値IKに一致するように調整される。
【0036】
削除
【0037】
図4は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0038】
図4に示した制御装置CTの図3に示した制御装置CTとの相違点は、数式(2)に代えて、以下の数式(2*)を採用したものである。但し、Mは係数である。
(2*)・・・Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)
【0039】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動し、管電流指示パラメータIKを介して電流Ikに連動することができるので、偏向時においても、電流変化時においても、フォーカス電圧Vkが調整されることによってスポット径を一定とすることが可能となる。
【0040】
図5は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0041】
図5に示した制御装置CTの図3に示した制御装置CTとの相違点は、数式(2)に代えて、以下の数式(2**)を採用したものである。但し、αは電子線のターゲット体(本実施形態においてはターゲット板T1)上のスポット径に対応する変数である。
(2**)・・・Vk=B×Vt×(1+α+β)
【0042】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動し、電子線スポット径に対応するαに連動することができるので、偏向時においても、スポット径変更時においても、フォーカス電圧Vkが調整されることによって変更されたスポット径を所望の径とすることが可能となる。αの値としては、例えば、0、0.1、0.15を採用することができ、αの値が大きいほどスポット径が大きくなる。
【0043】
図6は、フォーカス電圧(V)に対するスポット径(μm)の関係を示すグラフである。
【0044】
電子線のターゲット板T1上のスポット径(μm)は、電子線の偏向が無い場合(実線)には、フォーカス電圧Vkが−500V近傍において極小値(〜10μm)をとる。一方、スポット径(μm)は、電子線の偏向がある場合(点線)には、フォーカス電圧Vkが−610V近傍において極小値(〜10μm)をとる。偏向の有無によって同じスポット径となるフォーカス電圧は異なるものであり、例えば、スポット径が30μmとなるフォーカス電圧Vkは、偏向無しの場合には−600Vであり、偏向有りの場合には−700V近傍である。
【0045】
図7は、電子線の変位量(μm)とスポット径(μm)との関係を示すグラフである。
【0046】
電子線の偏向がフォーカス電圧Vkと連動しない場合(実線)、電子線のターゲット板T1上の照射位置を変位させると、スポット径が変位に伴って小さくなる。この場合、透過画像の画質が変化するだけでなく、照射位置のターゲット体の損傷も問題となる。一方、電子線の偏向がフォーカス電圧Vkと連動する場合(点線)、スポット径を一定に保持することができる。また、スポット径の保持は、電子線の偏向に伴うスポットの移動と同期させて行ってもよいし、所望の部位に移動後にスポット径を保持するように制御しても良い。後者の場合、電子線の偏向に伴うスポットの移動中はスポット径が大きくなるようにフォーカス電圧を調整し、移動後に所望のスポット径になるようにフォーカス電圧を制御すると好ましい。この場合、移動時のスポット径が大きいために、ターゲット体の損傷も抑制することができる。
【0047】
次に、偏向電流Icと電子線の実際の電流Ikの連動制御を行う制御装置の一例について説明する。
【0048】
図8は、この制御装置の一例を示すブロック図である。
【0049】
図1に示した収束電極FGの中心軸(Z軸)とターゲット体T1の交点を基準位置(0,0)とし、この基準位置からターゲット体表面に沿ってxy座標系を設定すると、電子線照射位置の変位量ΔLを与える座標(x,y)が決定する。なお、変位量ΔL=(x2+y2)1/2である。なお、基準位置(0,0)を通るターゲット体表面の法線をz軸とすると、z軸とZ軸とは例示的には30〜60°の角度をなしており、また、x軸、y軸及びz軸は三次元直交座標系を構成している。x軸を基準軸とすれば、電子線照射位置は極座標(角度φと距離ΔL)によって与えることもでき、角度φが固定である場合には、距離ΔLだけが入力情報となる。
【0050】
制御装置は、パソコン50に接続されたX線管コントローラ100及びX線管ヘッド基板200を備えている。パソコン50は、RS232Cポートを介して、偏向位置である変位量ΔLを指示するデジタル値(例えば、座標(x,y))を、X線管コントローラ100へ指令する。このときの通信手段はRS232C以外でも可能である。
【0051】
次に、X線管コントローラ100に内蔵された電圧変換器101は、入力されたデジタル値を、変位量ΔLを指示するデジタル値VΔLに電圧変換する。ここでは、±12Vのデジタル信号を0Vと5Vのデジタル信号に変換する。この変換されたデジタル信号はデジタル入力部102を通して中央演算処理部(CPU)103に入力される。
【0052】
中央演算処理部103では、入力されたデジタル値VΔLに演算処理を施す。まず、中央演算処理部103は、デジタル値VΔLを不揮発性メモリ(ROM)105に記録する。更に、中央演算処理部103は、ROM105内に記憶されたプログラムを読み出し、プログラム内で規定されている数式に基づいて、デジタル値VΔLから変位量ΔLを達成するための電圧値(例えば基準管電圧時の電子線偏向電圧)V’ΔLを演算する。なお、中央演算処理部103は、規定の数式を用いる演算を行うが、これはテーブルに入力値を入力し、これに対応する出力値を出力することで、演算を行っても良い。例えば、εを係数として、V’ΔL=εVΔLとする。
【0053】
中央演算処理部103は、変位量ΔLを与える電圧値V’ΔLをデジタル出力部104とDA変換器106を通して電圧値をアナログ値に変換し、X線管ヘッド基板200に伝送する。X線管ヘッド基板200に内蔵された中央演算処理部(CPU)204は、アナログ電圧値V’ΔLをAD変換器201を通してデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力する。
【0054】
中央演算処理部204は、一例としてのアナログ値のパラメータVt、実際の管電流IkをAD変換器203に入力させてデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力する。なお、パソコン50からは、管電流Ikの指示パラメータIKが例えばアナログ値として出力され、電圧変換器101、デジタル入力部102を介して中央演算処理部103に入力される。この管電流の指示パラメータIKは、デジタル出力部104、DA変換器106、AD変換器201、デジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力される。
すなわち、中央演算処理部204には、実際の管電流Ik、管電流Ikの指示パラメータIK、フォーカス電圧Vkの指示パラメータVt、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLが入力される。
【0055】
中央演算処理部204は、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLと、パラメータVtに基づいて、偏向コイル3(磁界発生用コイル)に供給する電流Ic、フォーカス電圧Vkを演算する。Icの演算は、図3の式(4)に示したΔLを電圧値V’ΔLに読み替えることで行われる。Vkの演算は、図3〜図5の式(2)、又は(2*)、又は(2**)で行われる。これらの演算式は、ヘッド基板200内に予め記憶されている。
【0056】
このIc、Vkの演算には、入力値に対応する出力値を、テーブルに入力して求めるルックアップテーブル方式を採用することもできる。また、グリッド電圧VGも、パラメータIKと管電流Ikの差分を求め、上述の演算式によって求めることができる。
【0057】
中央演算処理部204は、ヘッド基板200内に予め記憶されたプログラムに従って、偏向コイル3に流す電流Icに対応する電圧を算出し、これをDA変換器206によってアナログ値に変換し、コイル電流制御回路207に伝送する。コイル電流制御回路207は、受け取ったアナログ電圧を基に、偏向コイルに電流Icを流すことにより、X線管の電子線軌道を偏向する。
中央演算処理部204は、ヘッド基板200内に予め記憶されたプログラムに従って、カソードと収束電極FGの間に与えるフォーカス電圧Vk、グリッド電圧VGに対応する電圧を算出し、これらをDA変換器501によってアナログ値に変換し、電圧制御回路502に伝送する。電圧制御回路502は、受け取ったアナログ電圧を基に、各電圧Vk,VGを出力する。
【0058】
図9は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0059】
制御装置は、パソコン50に接続されたX線管コントローラ100を備えている。パソコン50は、RS232Cポートを介して、偏向位置である変位量ΔLを指示するデジタル値(例えば、座標(x、y))を、X線管コントローラ100へ指令する。このときの通信手段はRS232C以外でも可能である。
【0060】
次に、X線管コントローラ100に内蔵された電圧変換器101は、入力されたデジタル値を、変位量ΔLを指示するデジタル値VΔLに電圧変換する。ここでは、±12Vのデジタル信号を0Vと5Vのデジタル信号に変換する。この変換されたデジタル信号はデジタル入力部102を介して中央演算処理部(CPU)103に入力される。
【0061】
中央演算処理部103では、入力されたデジタル値VΔLに演算処理を施す。まず、中央演算処理部103は、デジタル値VΔLをデータ用の不揮発性メモリ(ROM)105bに記録する。更に、中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に記憶されたプログラムを読み出し、プログラム内で規定されている数式に基づいて、デジタル値VΔLから変位量ΔLを達成するための電圧値(例えば基準管電圧時の電子線偏向電圧)V’ΔLを演算する。なお、中央演算処理部103は、規定の数式を用いる演算を行うが、これはテーブルに入力値を入力し、これに対応する出力値を出力することで、演算を行っても良い。
【0062】
中央演算処理部103は、アナログ値のパラメータVt、管電流IkをAD変換器203に入力させてデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部103に入力する。すなわち、中央演算処理部103には、実際の管電流Ik、パラメータVt、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLが入力される。
【0063】
中央演算処理部103は、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLと、パラメータVtに基づいて、偏向コイル3(磁界発生用コイル)に供給する電流Icを演算する。この演算は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従う。この演算には、入力値に対応する出力値を、テーブルに入力して求めるルックアップテーブル方式を採用することもできる。演算方法は、上述の通りである。また、パソコン50から、電圧変換器101、デジタル入力部102を介して中央演算処理部103に入力される指示パラメータIKと、管電流Ikの差分から、上述の演算式に従ってVGが求められる。
【0064】
中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従って、偏向コイル3に流す電流Icに対応する電圧を算出し、これをデジタル出力部104’を介してDA変換器206に入力し、DA変換器206によってアナログ値に変換し、コイル電流制御回路207に伝送する。コイル電流制御回路207は、受け取ったアナログ電圧を基に、偏向コイル3に電流Icを流すことにより、X線管の電子線軌道偏向を行う。
中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従って、フォーカス電圧Vkとグリッド電圧VGに対応する電圧を算出し、これらをデジタル出力部104’を介してDA変換器501に入力し、DA変換器501によってアナログ値に変換し、電圧制御回路502に伝送する。電圧制御回路502は、受け取ったアナログ電圧を基に、各電圧Vk,VGを出力する。
【0065】
図10は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0066】
この制御装置は、上述の演算機能を全てパソコン50内に取り込んだものであり、入力されるパラメータVtに基づき、上述の式に従ってIcを演算し、コイル電流制御回路207が偏向コイル3に電流Icを供給する。また、パソコン50には、ΔL、IK、Ikも入力されており、上述の式に従ってフォーカス電圧Vk、グリッド電圧VGを演算し、電圧制御回路502は、これらの値を出力する。
【0067】
図11は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0068】
電流Icの制御についてのみ示す。数値入力装置301から、偏向量(変位量)ΔLに対応する数値Nが、不揮発性メモリ302に入力される。不揮発性メモリ302は、数値Nを記憶するが、これはDA変換器303を介してアナログ信号に変換され、コイル電流制御アナログ回路304に入力される。コイル電流制御アナログ回路304は、入力された数値N×係数Cを変位量ΔLとし、これにパラメータVtの平方根を乗じて電流Icを求める。すなわち、以下の式の通りである。
【0069】
Ic=(Vt)1/2×ΔL
なお、この場合も、VtとVkは上述の関係、Vk=B×Vt×(1+β)、又はVk=B×Vt×(1+β+M×IK)、又はVk=B×Vt×(1+α+β)を満たすこととする。IcはVtを介してVkに連動することとなる。なお、数値Nを変位量ΔLとして取り扱い、係数C=δとしてIcを求めてもよい。
【0070】
次に、X線源の機械的構造について説明する。
【0071】
図12はX線源の外観を示す正面図、図13は図12に示したX線管の構造を示す縦断面図、図14は図13のIII−III線断面図である。
【0072】
このX線源は、電源ボックス1の上部に配置されたX線管2を備えている。このX線管2は、図13および図14に示すように、電子線を出射する電子銃部EGを容器2A内に収容した電子銃収容部2Bと、電子線の入射を受けてX線を発生するターゲット体Tを容器2C内に収容したターゲット体収容部2Dとを備えている。
【0073】
電子銃部EGを収容した容器2Aとターゲット体Tを収容した容器2Cとの間には、電子銃部EGから出射された電子線を棒状のターゲット体Tの先端部に向けて通過させる電子線通過窓2Eが形成されている。また、容器2Cには、ターゲット体Tの先端部からその軸線方向に出射されるX線を取り出すためのX線透過窓2Fが設けられている。そして、この容器2A,2Cは、内部が真空にされることで真空容器を構成している。
【0074】
電子銃部EGは、給電用のステムピンPを介して供給される電力により発熱するヒータHと、このヒータHにより加熱されることで熱電子を放出するカソードKと、カソードKから放出された熱電子による電子線の電流量を制御するグリッド電極Gと、電子線をターゲット体Tの先端部(ターゲット板T1)に向け加速して集束させる収束電極FGとを備えて構成されている。なお、電子銃部EGは、少なくとも電子発生源(本実施形態においてはヒータHおよびカソードK)を有する電子放出部であれば、冷陰極を用いる等、どのような構成によるものでもよい。
【0075】
一方、ターゲット体Tは、電子線の衝突によってX線を発生するターゲット板T1と、このターゲット板T1に高電圧を供給する棒状のターゲット支持体T2と、電子線の集束のためにターゲット板T1を囲む筒状のフード電極Fとを備えて構成されている。なお、フード電極Fは省略することもできる。
【0076】
ここで、ターゲット体Tの先端部となるターゲット支持体T2の先端部には、その軸線に斜交する斜面T3が電子線通過窓2Eに対面する向きで形成されている。このターゲット支持体T2の斜面T3にはターゲット板T1が埋め込まれており、その表面のX線出射面T4は、斜面T3と同一面をなしている。なお、ターゲット板T1は、ターゲット支持体T2の先端部の斜面T3上に載せた状態で固定されていても良い。また、ターゲット板T1とターゲット支持体T2とは、ターゲット板T1用の材質により一体に形成してターゲット体Tとしてもよい。
【0077】
フード電極Fは、ターゲット支持体T2の先端部に嵌合固定される筒状に形成されており、電子線通過窓2Eに対面し、かつ、ターゲット板T1のX線出射面T4に対面する部位には電子線通過孔F1が形成されている。また、電子線通過孔F1よりX線出射方向に寄ったフード電極Fの先端部には、収束電極FGとの間の等電位面を収束電極FGに近づけるための突起F2が形成されている。この突起F2の存在により、電子線通過孔F1を通してターゲット板T1のX線出射面T4に入射される電子線の焦点位置はX線出射方向に変位し、X線管2はいわゆるマイクロフォーカス機能を発揮するようになる。なお、フード電極Fとターゲット支持体T2の先端部との間に電界的な影響の出ない範囲で隙間が設けられていると、フード電極Fからターゲット板T1への熱的影響が低減されるので好ましい。
【0078】
ここで、図13に示すように、X線管2の電子銃収容部2Bには、ターゲット体収容部2D側のターゲット板T1のX線出射面T4へ向けて出射された電子線の進路を変更させることができる偏向用電磁コイル3が電子線偏向手段として付設されている。この偏向用電磁コイル3は、図15に示すように、門形(コの字形)の芯材3Aの両極部3B,3Cを除く中間部分3Dにコイル3Eが巻装されたものであり、芯材3Aは、飽和磁束密度が大きく、透磁率が高く、しかも保持力の小さい材料として、例えばFeC材で構成されている。また、コイル3Eはエナメル線を500ターン巻きして構成されている。
【0079】
図15に示した偏向用電磁コイル3は、図13に示すように、ターゲット支持体T2の軸線と平行な線上に両極部3B,3Cが位置する向きで電子銃収容部2Bの容器2Aの外周に装着されている。そして、この偏向用電磁コイル3のコイル3Eは、図1に示すように、スイッチ回路4を介して直流電源DCに接続されている。
【0080】
本発明に係るパルスX線源は、前述した一実施形態に限定されるものではなく、一部の構成部分を変更しても一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
例えば、図13に示した偏向用電磁コイル3は、真空容器2Aの外周に沿って90度回転させた状態、すなわち、図16に示すような向きで真空容器2Aの外周に装着してもよい。
【0082】
さらに、図13に示したフード電極Fは、ターゲット板T1が付設されたターゲット支持体T2と一体に形成してもよく、あるいは、ターゲット板T1用の材質により斜面T3がX線出射面として構成されたターゲット体Tと一体に形成してもよい。
【0083】
また、電子線偏向手段としての偏向用電磁コイル3は、図1に示すようにスイッチ回路4および直流電源DCに接続される偏向電極5に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、X線を出射するX線源に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係るX線源の模式図である。
【図2】X線管の制御装置のブロック図である。
【図3】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図4】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図5】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図6】フォーカス電圧(V)に対するスポット径(μm)の関係を示すグラフである。
【図7】電子線の変位量(μm)とスポット径(μm)との関係を示すグラフである。
【図8】この制御装置の一例を示すブロック図である。
【図9】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図10】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図11】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図12】X線源の外観を示す正面図である。
【図13】図12に示したX線管の構造を示す縦断面図である。
【図14】図13のIII−III線断面図である。
【図15】偏向用電磁コイル3の斜視図である。
【図16】変形したX線管の構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・電源ボックス、2D・・・ターゲット体収容部、2・・・真空容器、2C・・・真空容器、2F・・・X線透過窓、2E・・・電子線通過窓、2B・・・電子銃収容部、3・・・偏向コイル(電磁コイル)、3A・・・芯材、3B,3C・・・両極部、3D・・・中間部分、3E・・・コイル、4・・・スイッチ回路、5・・・偏向電極、50・・・パソコン、100・・・X線管コントローラ、101・・・電圧変換器、102・・・デジタル入力部、103・・・中央演算処理部、104・・・デジタル出力部、106・・・DA変換器、200・・・X線管ヘッド基板、201・・・AD変換器、202・・・デジタル入力部、203・・・AD変換器、204・・・中央演算処理部、206・・・DA変換器、207・・・コイル電流制御回路、301・・・数値入力装置、302・・・不揮発性メモリ、303・・・DA変換器、304・・・コイル電流制御アナログ回路、CT・・・制御装置、DC・・・直流電源、EG・・・電子銃部、A・・・電流計、F・・・フード電極、F1・・・電子線通過孔、F2・・・突起、FG・・・収束電極、G・・・グリッド電極、H・・・ヒータ、P・・・ステムピン、T・・・ターゲット体、T1・・・ターゲット板、T2・・・ターゲット支持体、T3・・・斜面、T4・・・X線出射面、Ic・・・偏向パラメータ、VTK・・・管電圧、Ik・・・管電流、IK・・・管電流指示パラメータ、Vt・・・電圧指示パラメータ、VT・・・主管電圧、Vk・・・フォーカス電圧。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を出射するX線源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルトコンベア等により搬送される被検物を対象としたインライン方式のX線検査装置が知られている(例えば特許文献1)。このX線検査装置は、検査用のシールドボックス内に搬送された被検物にX線源から順次X線を照射し、被検物を透過したX線をX線検出器により順次検出することで被検物の拡大透視画像を得るように構成されている。
【0003】
また、この種のX線検査装置に使用されるX線源用のX線管としては、X線の出射ポイントを被検物側に近づけることにより、X線出射ポイントから被検物までの距離を短縮して被検物の拡大透視画像の拡大率をより大きくできるようにした、いわゆるマイクロフォーカス機能を発揮するX線管が知られている(例えば特許文献2)。また、引用文献3には、電子線の偏向信号の電圧をX線管の管電圧に対応して調整するX線管が開示されている。
【特許文献1】特許第3011360号公報
【特許文献2】特許第2713860号公報
【特許文献3】特開2000−48748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、管電圧に対応して電子線の偏向量を単純に制御した場合、偏向量に対してX線発生ターゲット体上における電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御することができず、偏向の前後で透視画像の鮮鋭度等の画質が等しくならない場合があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御可能なX線源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るX線源は、 カソードから収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段を備え、前記収束電極と前記ターゲット体との間に主管電圧VTが印加されるX線源において、前記カソードと前記収束電極との間のフォーカス電圧Vk、前記偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、前記電子線の電流Ikを制御する制御装置を備え、前記制御装置は、偏向パラメータIcとフォーカス電圧Vkを連動させて制御することを特徴とする。
【0007】
管電圧よりも微少制御が可能なフォーカス電圧と偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icを連動させて制御することにより、電子線偏向時の電子線スポット径を精密に制御することができる。
【0008】
また、制御装置は、以下の条件式のいずれかを満たすように各パラメータを設定することが好ましい。
(1)第1条件
【0009】
VT=A×Vt
【0010】
Vk=B×Vt×(1+β)
但し、
A>B
Vt:電圧指示パラメータ
β:主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータ。
【0011】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動することができるので、偏向時においてもフォーカス電圧Vkに応じてスポット径を一定とすることが可能となる。
(2)第2条件
【0012】
VT=A×Vt、
【0013】
Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)、
但し、
IK:電子線の電流Ikの指示パラメータ、
M:係数。
【0014】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動し、IKを介して電流Ikに連動することができるので、偏向時においても、電子線の電流変化時においても、フォーカス電圧Vkに応じてスポット径を一定とすることが可能となる。
(3)第3条件
【0015】
VT=A×Vt、
【0016】
Vk=B×Vt×(1+α+β)、
但し、
α:電子線のスポット径に対応する変数。
【0017】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icに連動し、電子線スポット径に対応するαに連動することができるので、偏向時においても、スポット径変更時においても、フォーカス電圧Vkに応じて変更されたスポット径を所望の径とすることが可能となる。
(4)第4条件
【0018】
Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL、
【0019】
β=γ×ΔL、
δ:係数、
ΔL:電子線の焦点変位量の指示パラメータ
γ:係数。
【0020】
この場合、第1〜第3条件の場合に、電圧指示パラメータVtと偏向量(変位量)ΔLに連動して偏向パラメータ(例えば偏向電流)Icを決定し、また、変位量ΔLを介してβとIcを連動させてフォーカス電圧B×Vt×(1+β)またはB×Vt×(1+β+M×IK)、またはB×Vt×(1+α+β)を制御できるので、電圧指示パラメータ及び変位量の変更時においてもスポット径を一定とすることが可能となる。なお、偏向手段が電磁コイルの場合には、偏向パラメータIcは電磁コイルに供給される偏向電流であるが、偏向手段が偏向電極の場合には、偏向パラメータは、偏向電極に与えられる電圧となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るX線源によれば、電子線のスポット径(焦点径)を精密に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係るX線源の実施の形態を説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、実施の形態に係るX線源の模式図である。
【0024】
このX線源は、X線管2と各種電源からなる。
【0025】
X線管2を構成するガラスの真空容器2’内は真空状態に保持されており、カソードKとアノード(ターゲット板T1)とが配置されている。カソードKは、その近傍に配置されたヒータHによって加熱され、この加熱によってカソードから熱電子が放出される。カソードKとターゲット板T1との間には、筒状の収束電極FG、グリッド電極Gが配置されている。カソードKとターゲット板T1の略中心同士を結ぶ線上に収束電極FGの軸と、グリッド電極Gの開口中心が位置しており、カソードKから出射された電子はグリッド電極G及び収束電極Gを介してターゲット板T1に到達する。ターゲット板T1の表面はX線出射面T4を構成している。X線出射面T4から出射されたX線は真空容器2’のX線透過部分を介して外部に出射する。
【0026】
カソードKから出射される電子の加速電圧は、カソードKとターゲット板T1との間の管電圧VTKに依存する。
【0027】
管電圧VTKは、収束電極FGとターゲット板T1との間の主管電圧VTと、カソードKと収束電極FGとの間のフォーカス電圧Vkの和で与えられる。なお、主管電圧VTの絶対値はフォーカス電圧Vkの絶対値よりも大きく、電子の加速は、ほぼ主管電圧VTの大きさに左右される。
【0028】
カソードKから出射した電子は、カソードに対して正の電位が与えられるフォーカス電圧Vk、主管電圧VTによって形成された電界に引かれてターゲット板T1に到達し、かかる電子線のターゲット板T1への衝突時に、X線が発生する。カソードKとグリッド電極Gとの間の電位差はVGに設定され、可変電源VG1を調整することで、電圧VGを制御し、電子線の電流を制御することができる。ターゲット板T1はターゲット支持体T2によって支持されており、ターゲット板T1を流れる電子線の電流Ikは電流計Aによって検出される。なお、カソードKにも電流計Aが接続されている。
【0029】
X線管2の外側には、電子線偏向用の電磁コイル3が設けられており、電磁コイル3には直流電源DCからスイッチ回路4を介して偏向電流Icが供給される。なお、電子線を偏向するため、電磁コイル3に代えて、X線管2内のグリッド電極Gと収束電極FGとの間に、偏向電極5を配置してもよい。なお、偏向手段が電磁コイル3の場合には、偏向パラメータIcは電磁コイルに供給される偏向電流であるが、偏向手段が偏向電極5の場合には、偏向パラメータIcは、偏向電極に与えられる電圧となる。
【0030】
図2は、X線管の制御装置のブロック図である。
【0031】
制御装置CTには、電圧指示パラメータVt、電子線のスポット径α、電子線の変位量ΔL、管電流指示パラメータIK、実際の管電流Ikが入力され、制御装置CTからは、主管電圧VT、フォーカス電圧Vk、グリッド電圧VG、偏向電流Icが出力される。このX線源は、カソードKから収束電極FGを経てX線発生用のターゲット体Tに至る電子線を偏向する偏向手段3を備えており、制御装置CTは、収束電極FGとターゲット体Tとの間の主管電圧VT、カソードKと収束電極FGとの間のフォーカス電圧Vk、偏向手段3による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、電子線の電流Ikを決定するグリッド電圧VGを制御するに当たり、少なくとも偏向パラメータIcに連動させてフォーカス電圧Vkを制御している。
ビームスポットは好ましくは円形状であるが、楕円形状であってもよい。この場合、スポット径値は“楕円の長軸長さ(X)と短軸の長さ(Y)の中間値((X+Y)/2)”とし、偏向した場合にはその値が偏向前と同じになるように設定することができる。また、ビームスポットは略四角形状(多角形状)であってもよく、その場合も同様の制御を行うことができる。
【0032】
この制御装置CTは、主管電圧VTの制御に加え、これよりも微少制御が可能なフォーカス電圧Vkに関しては偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動して制御することにより、電子線偏向時の電子線スポット径を精密に制御している。これらは、以下に説明する条件式のいずれかを満たすように各パラメータを設定することが好ましい。
【0033】
図3は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0034】
同図に示す条件は以下の通りである。適当な係数A、Bの関係はA>Bとし、βは主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータとする。入力情報=Vt、α、ΔL、IK、Ik、出力情報=VT、Vk、VG、Icであるが、ここでは、αは用いないこととし、また、一例として、A=105、B=103、βの係数γ=(1/10)であるとする。また、関数FB(IK−Ik)は、実電流Ikが指示値IKに一致するようにフィードバックがかかる電圧のことであり、abs(ΔL)は、ΔLの絶対値を示す。ΔLは電子線の焦点変位量の指示パラメータである。
(1)・・・VT=A×Vt
(2)・・・Vk=B×Vt×(1+β)
(3)・・・VG=FB(IK−Ik)
(4)・・・Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL
(5)・・・β=γ×abs(ΔL)
【0035】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動することができるので、偏向時においてもフォーカス電圧Vkが調整されることによってスポット径を一定とすることが可能となる。より詳細には、数式(4)、(5)が設定されているので、変位量ΔLを介してβとIcを連動させてフォーカス電圧を制御できるので、スポット径を一定とすることが可能となる。グリッド電圧VGは、モニタされる実電流Ikが設定値IKに一致するように調整される。
【0036】
削除
【0037】
図4は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0038】
図4に示した制御装置CTの図3に示した制御装置CTとの相違点は、数式(2)に代えて、以下の数式(2*)を採用したものである。但し、Mは係数である。
(2*)・・・Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)
【0039】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動し、管電流指示パラメータIKを介して電流Ikに連動することができるので、偏向時においても、電流変化時においても、フォーカス電圧Vkが調整されることによってスポット径を一定とすることが可能となる。
【0040】
図5は、制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【0041】
図5に示した制御装置CTの図3に示した制御装置CTとの相違点は、数式(2)に代えて、以下の数式(2**)を採用したものである。但し、αは電子線のターゲット体(本実施形態においてはターゲット板T1)上のスポット径に対応する変数である。
(2**)・・・Vk=B×Vt×(1+α+β)
【0042】
この場合、主管電圧VTよりも小さなフォーカス電圧Vkが、βを介して偏向パラメータ(偏向電流)Icに連動し、電子線スポット径に対応するαに連動することができるので、偏向時においても、スポット径変更時においても、フォーカス電圧Vkが調整されることによって変更されたスポット径を所望の径とすることが可能となる。αの値としては、例えば、0、0.1、0.15を採用することができ、αの値が大きいほどスポット径が大きくなる。
【0043】
図6は、フォーカス電圧(V)に対するスポット径(μm)の関係を示すグラフである。
【0044】
電子線のターゲット板T1上のスポット径(μm)は、電子線の偏向が無い場合(実線)には、フォーカス電圧Vkが−500V近傍において極小値(〜10μm)をとる。一方、スポット径(μm)は、電子線の偏向がある場合(点線)には、フォーカス電圧Vkが−610V近傍において極小値(〜10μm)をとる。偏向の有無によって同じスポット径となるフォーカス電圧は異なるものであり、例えば、スポット径が30μmとなるフォーカス電圧Vkは、偏向無しの場合には−600Vであり、偏向有りの場合には−700V近傍である。
【0045】
図7は、電子線の変位量(μm)とスポット径(μm)との関係を示すグラフである。
【0046】
電子線の偏向がフォーカス電圧Vkと連動しない場合(実線)、電子線のターゲット板T1上の照射位置を変位させると、スポット径が変位に伴って小さくなる。この場合、透過画像の画質が変化するだけでなく、照射位置のターゲット体の損傷も問題となる。一方、電子線の偏向がフォーカス電圧Vkと連動する場合(点線)、スポット径を一定に保持することができる。また、スポット径の保持は、電子線の偏向に伴うスポットの移動と同期させて行ってもよいし、所望の部位に移動後にスポット径を保持するように制御しても良い。後者の場合、電子線の偏向に伴うスポットの移動中はスポット径が大きくなるようにフォーカス電圧を調整し、移動後に所望のスポット径になるようにフォーカス電圧を制御すると好ましい。この場合、移動時のスポット径が大きいために、ターゲット体の損傷も抑制することができる。
【0047】
次に、偏向電流Icと電子線の実際の電流Ikの連動制御を行う制御装置の一例について説明する。
【0048】
図8は、この制御装置の一例を示すブロック図である。
【0049】
図1に示した収束電極FGの中心軸(Z軸)とターゲット体T1の交点を基準位置(0,0)とし、この基準位置からターゲット体表面に沿ってxy座標系を設定すると、電子線照射位置の変位量ΔLを与える座標(x,y)が決定する。なお、変位量ΔL=(x2+y2)1/2である。なお、基準位置(0,0)を通るターゲット体表面の法線をz軸とすると、z軸とZ軸とは例示的には30〜60°の角度をなしており、また、x軸、y軸及びz軸は三次元直交座標系を構成している。x軸を基準軸とすれば、電子線照射位置は極座標(角度φと距離ΔL)によって与えることもでき、角度φが固定である場合には、距離ΔLだけが入力情報となる。
【0050】
制御装置は、パソコン50に接続されたX線管コントローラ100及びX線管ヘッド基板200を備えている。パソコン50は、RS232Cポートを介して、偏向位置である変位量ΔLを指示するデジタル値(例えば、座標(x,y))を、X線管コントローラ100へ指令する。このときの通信手段はRS232C以外でも可能である。
【0051】
次に、X線管コントローラ100に内蔵された電圧変換器101は、入力されたデジタル値を、変位量ΔLを指示するデジタル値VΔLに電圧変換する。ここでは、±12Vのデジタル信号を0Vと5Vのデジタル信号に変換する。この変換されたデジタル信号はデジタル入力部102を通して中央演算処理部(CPU)103に入力される。
【0052】
中央演算処理部103では、入力されたデジタル値VΔLに演算処理を施す。まず、中央演算処理部103は、デジタル値VΔLを不揮発性メモリ(ROM)105に記録する。更に、中央演算処理部103は、ROM105内に記憶されたプログラムを読み出し、プログラム内で規定されている数式に基づいて、デジタル値VΔLから変位量ΔLを達成するための電圧値(例えば基準管電圧時の電子線偏向電圧)V’ΔLを演算する。なお、中央演算処理部103は、規定の数式を用いる演算を行うが、これはテーブルに入力値を入力し、これに対応する出力値を出力することで、演算を行っても良い。例えば、εを係数として、V’ΔL=εVΔLとする。
【0053】
中央演算処理部103は、変位量ΔLを与える電圧値V’ΔLをデジタル出力部104とDA変換器106を通して電圧値をアナログ値に変換し、X線管ヘッド基板200に伝送する。X線管ヘッド基板200に内蔵された中央演算処理部(CPU)204は、アナログ電圧値V’ΔLをAD変換器201を通してデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力する。
【0054】
中央演算処理部204は、一例としてのアナログ値のパラメータVt、実際の管電流IkをAD変換器203に入力させてデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力する。なお、パソコン50からは、管電流Ikの指示パラメータIKが例えばアナログ値として出力され、電圧変換器101、デジタル入力部102を介して中央演算処理部103に入力される。この管電流の指示パラメータIKは、デジタル出力部104、DA変換器106、AD変換器201、デジタル入力部202を介して中央演算処理部204に入力される。
すなわち、中央演算処理部204には、実際の管電流Ik、管電流Ikの指示パラメータIK、フォーカス電圧Vkの指示パラメータVt、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLが入力される。
【0055】
中央演算処理部204は、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLと、パラメータVtに基づいて、偏向コイル3(磁界発生用コイル)に供給する電流Ic、フォーカス電圧Vkを演算する。Icの演算は、図3の式(4)に示したΔLを電圧値V’ΔLに読み替えることで行われる。Vkの演算は、図3〜図5の式(2)、又は(2*)、又は(2**)で行われる。これらの演算式は、ヘッド基板200内に予め記憶されている。
【0056】
このIc、Vkの演算には、入力値に対応する出力値を、テーブルに入力して求めるルックアップテーブル方式を採用することもできる。また、グリッド電圧VGも、パラメータIKと管電流Ikの差分を求め、上述の演算式によって求めることができる。
【0057】
中央演算処理部204は、ヘッド基板200内に予め記憶されたプログラムに従って、偏向コイル3に流す電流Icに対応する電圧を算出し、これをDA変換器206によってアナログ値に変換し、コイル電流制御回路207に伝送する。コイル電流制御回路207は、受け取ったアナログ電圧を基に、偏向コイルに電流Icを流すことにより、X線管の電子線軌道を偏向する。
中央演算処理部204は、ヘッド基板200内に予め記憶されたプログラムに従って、カソードと収束電極FGの間に与えるフォーカス電圧Vk、グリッド電圧VGに対応する電圧を算出し、これらをDA変換器501によってアナログ値に変換し、電圧制御回路502に伝送する。電圧制御回路502は、受け取ったアナログ電圧を基に、各電圧Vk,VGを出力する。
【0058】
図9は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0059】
制御装置は、パソコン50に接続されたX線管コントローラ100を備えている。パソコン50は、RS232Cポートを介して、偏向位置である変位量ΔLを指示するデジタル値(例えば、座標(x、y))を、X線管コントローラ100へ指令する。このときの通信手段はRS232C以外でも可能である。
【0060】
次に、X線管コントローラ100に内蔵された電圧変換器101は、入力されたデジタル値を、変位量ΔLを指示するデジタル値VΔLに電圧変換する。ここでは、±12Vのデジタル信号を0Vと5Vのデジタル信号に変換する。この変換されたデジタル信号はデジタル入力部102を介して中央演算処理部(CPU)103に入力される。
【0061】
中央演算処理部103では、入力されたデジタル値VΔLに演算処理を施す。まず、中央演算処理部103は、デジタル値VΔLをデータ用の不揮発性メモリ(ROM)105bに記録する。更に、中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に記憶されたプログラムを読み出し、プログラム内で規定されている数式に基づいて、デジタル値VΔLから変位量ΔLを達成するための電圧値(例えば基準管電圧時の電子線偏向電圧)V’ΔLを演算する。なお、中央演算処理部103は、規定の数式を用いる演算を行うが、これはテーブルに入力値を入力し、これに対応する出力値を出力することで、演算を行っても良い。
【0062】
中央演算処理部103は、アナログ値のパラメータVt、管電流IkをAD変換器203に入力させてデジタル値に変換し、これをデジタル入力部202を介して中央演算処理部103に入力する。すなわち、中央演算処理部103には、実際の管電流Ik、パラメータVt、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLが入力される。
【0063】
中央演算処理部103は、電子線偏向制御用の電圧値V’ΔLと、パラメータVtに基づいて、偏向コイル3(磁界発生用コイル)に供給する電流Icを演算する。この演算は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従う。この演算には、入力値に対応する出力値を、テーブルに入力して求めるルックアップテーブル方式を採用することもできる。演算方法は、上述の通りである。また、パソコン50から、電圧変換器101、デジタル入力部102を介して中央演算処理部103に入力される指示パラメータIKと、管電流Ikの差分から、上述の演算式に従ってVGが求められる。
【0064】
中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従って、偏向コイル3に流す電流Icに対応する電圧を算出し、これをデジタル出力部104’を介してDA変換器206に入力し、DA変換器206によってアナログ値に変換し、コイル電流制御回路207に伝送する。コイル電流制御回路207は、受け取ったアナログ電圧を基に、偏向コイル3に電流Icを流すことにより、X線管の電子線軌道偏向を行う。
中央演算処理部103は、プログラム用のROM105a内に予め記憶されたプログラムに従って、フォーカス電圧Vkとグリッド電圧VGに対応する電圧を算出し、これらをデジタル出力部104’を介してDA変換器501に入力し、DA変換器501によってアナログ値に変換し、電圧制御回路502に伝送する。電圧制御回路502は、受け取ったアナログ電圧を基に、各電圧Vk,VGを出力する。
【0065】
図10は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0066】
この制御装置は、上述の演算機能を全てパソコン50内に取り込んだものであり、入力されるパラメータVtに基づき、上述の式に従ってIcを演算し、コイル電流制御回路207が偏向コイル3に電流Icを供給する。また、パソコン50には、ΔL、IK、Ikも入力されており、上述の式に従ってフォーカス電圧Vk、グリッド電圧VGを演算し、電圧制御回路502は、これらの値を出力する。
【0067】
図11は、制御装置の一例を示すブロック図である。
【0068】
電流Icの制御についてのみ示す。数値入力装置301から、偏向量(変位量)ΔLに対応する数値Nが、不揮発性メモリ302に入力される。不揮発性メモリ302は、数値Nを記憶するが、これはDA変換器303を介してアナログ信号に変換され、コイル電流制御アナログ回路304に入力される。コイル電流制御アナログ回路304は、入力された数値N×係数Cを変位量ΔLとし、これにパラメータVtの平方根を乗じて電流Icを求める。すなわち、以下の式の通りである。
【0069】
Ic=(Vt)1/2×ΔL
なお、この場合も、VtとVkは上述の関係、Vk=B×Vt×(1+β)、又はVk=B×Vt×(1+β+M×IK)、又はVk=B×Vt×(1+α+β)を満たすこととする。IcはVtを介してVkに連動することとなる。なお、数値Nを変位量ΔLとして取り扱い、係数C=δとしてIcを求めてもよい。
【0070】
次に、X線源の機械的構造について説明する。
【0071】
図12はX線源の外観を示す正面図、図13は図12に示したX線管の構造を示す縦断面図、図14は図13のIII−III線断面図である。
【0072】
このX線源は、電源ボックス1の上部に配置されたX線管2を備えている。このX線管2は、図13および図14に示すように、電子線を出射する電子銃部EGを容器2A内に収容した電子銃収容部2Bと、電子線の入射を受けてX線を発生するターゲット体Tを容器2C内に収容したターゲット体収容部2Dとを備えている。
【0073】
電子銃部EGを収容した容器2Aとターゲット体Tを収容した容器2Cとの間には、電子銃部EGから出射された電子線を棒状のターゲット体Tの先端部に向けて通過させる電子線通過窓2Eが形成されている。また、容器2Cには、ターゲット体Tの先端部からその軸線方向に出射されるX線を取り出すためのX線透過窓2Fが設けられている。そして、この容器2A,2Cは、内部が真空にされることで真空容器を構成している。
【0074】
電子銃部EGは、給電用のステムピンPを介して供給される電力により発熱するヒータHと、このヒータHにより加熱されることで熱電子を放出するカソードKと、カソードKから放出された熱電子による電子線の電流量を制御するグリッド電極Gと、電子線をターゲット体Tの先端部(ターゲット板T1)に向け加速して集束させる収束電極FGとを備えて構成されている。なお、電子銃部EGは、少なくとも電子発生源(本実施形態においてはヒータHおよびカソードK)を有する電子放出部であれば、冷陰極を用いる等、どのような構成によるものでもよい。
【0075】
一方、ターゲット体Tは、電子線の衝突によってX線を発生するターゲット板T1と、このターゲット板T1に高電圧を供給する棒状のターゲット支持体T2と、電子線の集束のためにターゲット板T1を囲む筒状のフード電極Fとを備えて構成されている。なお、フード電極Fは省略することもできる。
【0076】
ここで、ターゲット体Tの先端部となるターゲット支持体T2の先端部には、その軸線に斜交する斜面T3が電子線通過窓2Eに対面する向きで形成されている。このターゲット支持体T2の斜面T3にはターゲット板T1が埋め込まれており、その表面のX線出射面T4は、斜面T3と同一面をなしている。なお、ターゲット板T1は、ターゲット支持体T2の先端部の斜面T3上に載せた状態で固定されていても良い。また、ターゲット板T1とターゲット支持体T2とは、ターゲット板T1用の材質により一体に形成してターゲット体Tとしてもよい。
【0077】
フード電極Fは、ターゲット支持体T2の先端部に嵌合固定される筒状に形成されており、電子線通過窓2Eに対面し、かつ、ターゲット板T1のX線出射面T4に対面する部位には電子線通過孔F1が形成されている。また、電子線通過孔F1よりX線出射方向に寄ったフード電極Fの先端部には、収束電極FGとの間の等電位面を収束電極FGに近づけるための突起F2が形成されている。この突起F2の存在により、電子線通過孔F1を通してターゲット板T1のX線出射面T4に入射される電子線の焦点位置はX線出射方向に変位し、X線管2はいわゆるマイクロフォーカス機能を発揮するようになる。なお、フード電極Fとターゲット支持体T2の先端部との間に電界的な影響の出ない範囲で隙間が設けられていると、フード電極Fからターゲット板T1への熱的影響が低減されるので好ましい。
【0078】
ここで、図13に示すように、X線管2の電子銃収容部2Bには、ターゲット体収容部2D側のターゲット板T1のX線出射面T4へ向けて出射された電子線の進路を変更させることができる偏向用電磁コイル3が電子線偏向手段として付設されている。この偏向用電磁コイル3は、図15に示すように、門形(コの字形)の芯材3Aの両極部3B,3Cを除く中間部分3Dにコイル3Eが巻装されたものであり、芯材3Aは、飽和磁束密度が大きく、透磁率が高く、しかも保持力の小さい材料として、例えばFeC材で構成されている。また、コイル3Eはエナメル線を500ターン巻きして構成されている。
【0079】
図15に示した偏向用電磁コイル3は、図13に示すように、ターゲット支持体T2の軸線と平行な線上に両極部3B,3Cが位置する向きで電子銃収容部2Bの容器2Aの外周に装着されている。そして、この偏向用電磁コイル3のコイル3Eは、図1に示すように、スイッチ回路4を介して直流電源DCに接続されている。
【0080】
本発明に係るパルスX線源は、前述した一実施形態に限定されるものではなく、一部の構成部分を変更しても一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
例えば、図13に示した偏向用電磁コイル3は、真空容器2Aの外周に沿って90度回転させた状態、すなわち、図16に示すような向きで真空容器2Aの外周に装着してもよい。
【0082】
さらに、図13に示したフード電極Fは、ターゲット板T1が付設されたターゲット支持体T2と一体に形成してもよく、あるいは、ターゲット板T1用の材質により斜面T3がX線出射面として構成されたターゲット体Tと一体に形成してもよい。
【0083】
また、電子線偏向手段としての偏向用電磁コイル3は、図1に示すようにスイッチ回路4および直流電源DCに接続される偏向電極5に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、X線を出射するX線源に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係るX線源の模式図である。
【図2】X線管の制御装置のブロック図である。
【図3】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図4】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図5】制御装置CTにおいて行われる演算を示すブロック図である。
【図6】フォーカス電圧(V)に対するスポット径(μm)の関係を示すグラフである。
【図7】電子線の変位量(μm)とスポット径(μm)との関係を示すグラフである。
【図8】この制御装置の一例を示すブロック図である。
【図9】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図10】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図11】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図12】X線源の外観を示す正面図である。
【図13】図12に示したX線管の構造を示す縦断面図である。
【図14】図13のIII−III線断面図である。
【図15】偏向用電磁コイル3の斜視図である。
【図16】変形したX線管の構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・電源ボックス、2D・・・ターゲット体収容部、2・・・真空容器、2C・・・真空容器、2F・・・X線透過窓、2E・・・電子線通過窓、2B・・・電子銃収容部、3・・・偏向コイル(電磁コイル)、3A・・・芯材、3B,3C・・・両極部、3D・・・中間部分、3E・・・コイル、4・・・スイッチ回路、5・・・偏向電極、50・・・パソコン、100・・・X線管コントローラ、101・・・電圧変換器、102・・・デジタル入力部、103・・・中央演算処理部、104・・・デジタル出力部、106・・・DA変換器、200・・・X線管ヘッド基板、201・・・AD変換器、202・・・デジタル入力部、203・・・AD変換器、204・・・中央演算処理部、206・・・DA変換器、207・・・コイル電流制御回路、301・・・数値入力装置、302・・・不揮発性メモリ、303・・・DA変換器、304・・・コイル電流制御アナログ回路、CT・・・制御装置、DC・・・直流電源、EG・・・電子銃部、A・・・電流計、F・・・フード電極、F1・・・電子線通過孔、F2・・・突起、FG・・・収束電極、G・・・グリッド電極、H・・・ヒータ、P・・・ステムピン、T・・・ターゲット体、T1・・・ターゲット板、T2・・・ターゲット支持体、T3・・・斜面、T4・・・X線出射面、Ic・・・偏向パラメータ、VTK・・・管電圧、Ik・・・管電流、IK・・・管電流指示パラメータ、Vt・・・電圧指示パラメータ、VT・・・主管電圧、Vk・・・フォーカス電圧。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードから収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段を備え、前記収束電極と前記ターゲット体との間に主管電圧VTが印加されるX線源において、
前記カソードと前記収束電極との間のフォーカス電圧Vk、
前記偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、
前記電子線の電流Ik、
を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
偏向パラメータIcとフォーカス電圧Vkを連動させて制御することを特徴とするX線源。
【請求項2】
前記制御装置は、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
とした場合、
A>B、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+β)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記制御装置は、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
電子線の電流Ikの指示パラメータをIK、
係数をM、
とした場合、
A>B、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項4】
前記制御装置は、
A>B、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
電子線のスポット径に対応する変数をα、
とした場合、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+α+β)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項5】
前記制御装置は、
係数をγ、
前記電子線の焦点変位量の指示パラメータをΔL、
係数をδとした場合、
Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL、
β=γ×ΔL、
に設定することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のX線源。
【請求項1】
カソードから収束電極を経てX線発生用のターゲット体に至る電子線を偏向する偏向手段を備え、前記収束電極と前記ターゲット体との間に主管電圧VTが印加されるX線源において、
前記カソードと前記収束電極との間のフォーカス電圧Vk、
前記偏向手段による電子線偏向量を決定する偏向パラメータIc、及び、
前記電子線の電流Ik、
を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
偏向パラメータIcとフォーカス電圧Vkを連動させて制御することを特徴とするX線源。
【請求項2】
前記制御装置は、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
とした場合、
A>B、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+β)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記制御装置は、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
電子線の電流Ikの指示パラメータをIK、
係数をM、
とした場合、
A>B、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+β+M×IK)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項4】
前記制御装置は、
A>B、
電圧指示パラメータをVt、
主管電圧VTとは独立でIcに連動するパラメータをβ、
電子線のスポット径に対応する変数をα、
とした場合、
VT=A×Vt、
Vk=B×Vt×(1+α+β)、
に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線源。
【請求項5】
前記制御装置は、
係数をγ、
前記電子線の焦点変位量の指示パラメータをΔL、
係数をδとした場合、
Ic=δ×(Vt)1/2×ΔL、
β=γ×ΔL、
に設定することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のX線源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−185866(P2006−185866A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381141(P2004−381141)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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