X線画像検査装置
【課題】X線吸収の少ない材質で構成される試料を、高分解能で撮影可能としたX線画像検査装置を提供する。
【解決手段】X線画像検査装置100は、10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲット5を有する特性X線発生器10と、ペルチエ素子22により冷却される直接入射型冷却X線CCD検出器20と、を備える。特性X線発生器10とX線CCD検出器との間に配置された試料40を回転させ、試料40を透過したX線を検出することにより撮像する。X線ターゲット5は、原子番号が20から30までの金属で形成することができる。さらにクロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つを選択することができる。
【解決手段】X線画像検査装置100は、10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲット5を有する特性X線発生器10と、ペルチエ素子22により冷却される直接入射型冷却X線CCD検出器20と、を備える。特性X線発生器10とX線CCD検出器との間に配置された試料40を回転させ、試料40を透過したX線を検出することにより撮像する。X線ターゲット5は、原子番号が20から30までの金属で形成することができる。さらにクロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つを選択することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線画像検査装置に関し、特に、特性X線を用いて検査対象を撮像するX線画像検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の透過力が高いX線を使ったイメージングは、医療診断のほか、工業材料、電子部品等の非破壊検査の分野で幅広く使われている。特に、非破壊検査の分野では、焦点サイズがミクロンオーダーのマイクロフォーカスX線発生器の開発が進み、空間分解能が大幅に向上してきた。マイクロフォーカスX線発生器は、加速した電子線をターゲット金属上に収束させ、ターゲット金属上のX線焦点のサイズをミクロンオーダーとすることによって、X線透過像の高分解能化を図るものである。
【0003】
従来、工業用非破壊検査の分野で広く使われているX線検査装置の測定対象は、金属部材や電子部品、半導体基板などで、厚みのある金属やX線減衰の大きな金、スズ、鉛など原子番号の大きい材質からなるものが多かった。このようなX線検査装置は、透過力の大きな高エネルギーX線発生器と、高エネルギーX線を効率よく捕集して可視光に変換するシンチレータ付きの検出器で構成されるものが一般的であり、空間分解能の追求が行われてきた。
【0004】
今日、測定対象が従来の金属部品から錠剤、生体、高分子、繊維、ファインセラミックスなどに移行し、バイオ医薬、化粧品、食品関連での応用が広がっている。これらの柔らかい物質は原子番号の低い元素、すなわちX線吸収の少ない材質で構成されることが多い。X線画像での分解能はX線吸収差にも依存するため、空間分解能の評価に加え、X線吸収のわずかな差異を識別するための、濃度またはコントラスト分解能を同時に向上させることが必要となる。
【0005】
しかし、現在の高分解能のX線画像検査装置では、タングステンをターゲットとした白色スペクトルのX線発生器を使用している(下記特許文献1参照)。タングステンは融点も高く(3660K)、温度拡散率も比較的高い(銅の約46%)ので、電子線収束による局所的な温度上昇に対して損傷することが少ない。したがって、診断用X線発生器としても、工業用非破壊検査のX線発生器のターゲットとしても、広く一般的に用いられている。
【0006】
図1は、タングステンターゲットのX線管スペクトルを示す図である。図1から分かるように、タングステンターゲットから発生するスペクトルは、加速電子の印加電圧の範囲で広く分布する制動放射による連続X線と、元素外殻電子の遷移による単一波長の特性X線(Kα1=59.3KeV、Kβ1=67.2KeV)が合成されたスペクトルとなっている。したがって、通常のX線検査装置では、X線発生器からのX線は白色スペクトルのX線となり、様々な波長のX線成分が交じり合ったX線となって被写体を透過し、検出面に透過画像を形成する。
【0007】
一方、ある物質のX線吸収率は、X線フォトンのエネルギーによって異なる。このため、画像の輝度変化すなわちコントラストが、物質の密度ないし成分を反映したものとはならず、同じ物質であってもX線エネルギーによって画像の輝度が変化してしまう。X線スペクトルが通常のX線管のように異なるエネルギー成分の総和である場合、結果として検出器に記録される輝度は、これらの透過成分の積分値となる。検出されるX線強度はエネルギーに依存するため、異なるエネルギーの積分値で決まる輝度は、被写体の成分や透過距離に一意の輝度値ではなくなり、被写体のコントラスト分解能が低下することとなる。
【0008】
従来のように測定対象が電子部品や金属部品である場合、構成成分はX線減衰の大きな原子番号の大きな元素であることが多く、多少のコントラストの誤差は検査結果に影響を及ぼすことは少なかった。しかし、測定対象が生体材料や高分子、医薬品の場合、構成元素は炭素、酸素、水素、窒素など原子番号の小さい材料からなる場合が多く、高いコントラスト分解能が必要となる。
【0009】
コントラストを高める方法として、単色X線を発生する放射光施設で行われている単色X線イメージングがある(下記非特許文献1参照)。放射光施設では、連続スペクトルのX線からモノクロメーターにより単一波長のX線を取り出す事が可能であり、X線管の103〜106倍もの高輝度なX線が得られる。また、Bragg反射角度を適切に設定することで、任意の波長のX線を取り出すことができる。しかしながら、実験設備を放射光施設内に持ち込んで設置することや、限られた機会のマシンタイム内にデータを取得する必要性のため、単色X線によるイメージングには多くの制約が課される。
【0010】
実験室での単色X線を利用したイメージングの試みは、レーザープラズマX線源を用いたX線顕微鏡の分野で開発が進んでいる(下記非特許文献2参照)。全反射を利用したウォルター型や、多層膜反射鏡を用いたシュバルツシルト型、ゾーンプレート型のX線顕微鏡があり、1keV以下の低エネルギーX線で、ユスリカの染色体やHeLa細胞のイメージングが行われている。これらのX線顕微鏡の空間分解能は0.1μmのオーダーで、X線光学デバイスを用いて拡大撮影することにより、高い空間分解能を実現している。
【0011】
図2は、質量減衰係数のX線エネルギー依存性を示す図で、図3は、空気中のX線の透過距離とX線強度の減衰との関係を示す図である。図2に示すように、X線吸収係数は、X線エネルギーの減少とともに大きく増加するため、1keV以下のX線は、単一の細胞が識別できる程度の高いコントラスト分解能となっている。一方、図3に示すように、1keV以下のX線は空気中で容易に減衰し、空気中に置かれる体積の大きな被写体の撮影には適していない。また、X線発生源となる高輝度レーザーや、X線波長オーダーの高精度の光学デバイスのコストが大きな負担となり、産業的に普及することが難しい。
【0012】
なお、マイクロフォーカスX線と直接入射型X線CCD検出器の構成が公知であるが、タングステンターゲットのマイクロフォーカスX線発生器で空間伝播の位相コントラスト撮影を目的としたものである(下記非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−42516号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】兵藤一行、安藤正海, 放射光単色X線を用いた冠動脈診断システムの開発, Photon Factory News, 2001 Vol.18, No.3, 2001
【非特許文献2】W. Chao, B.D. Harteneck, J.A. Liddle, E.H. Anderson and D.T. Attwood, "Soft X-ray Microscopy at a Spatial Resolution better than 15 nm," Nature, 435, 1210-1213 (2005).
【非特許文献3】Uchida H., Torii K., Tsunemi H., “Quantitative Method of Measuring Spot Size of Microfocus X-ray Generator”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.5A, 2006, pp.5277-5283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題に鑑み、原子番号の低い元素、すなわちX線吸収の少ない材質で構成される試料を、高分解能で撮影可能としたX線画像検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のX線画像検査装置は、上記目的を達成するために、10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲットを有する特性X線発生器と、直接入射型冷却X線CCD検出器と、を備え、前記Kα特性X線発生器と前記直接入射型冷却X線CCD検出器との間に配置された試料を透過したX線を検出することにより撮像することを特徴とする。
【0017】
前記X線ターゲットは、原子番号が20から30までの金属から形成されることができ、さらに、クロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つとすることができる。
【0018】
前記X線ターゲットのX線焦点サイズは、1μm以上で50μm以下とすることができる。
【0019】
前記特性X線発生器と直接入射型冷却X線CCD検出器との間のX線経路中に、両端にX線透過膜を備えた、真空の密閉容器またはヘリウムガスを充填した密閉容器を配置することもできる。
【発明の効果】
【0020】
10keV以下の特性X線を強く発生するターゲット材を有するX線発生器と、直接入力CCD検出器とを組み合わせることにより、X線発生器では単色X線に近い準単色X線を発生させ、検出器側では特性X線より高いスペクトル成分を除去して単色性を高めることができ、数mmオーダーの被写体をミクロンオーダーの空間分解能で撮影が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】タングステンターゲットのX線スペクトルを示す図である。
【図2】質量減衰係数のX線エネルギー依存性を示す図である。
【図3】空気中のX線透過距離とX線強度の減衰を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態であるX線画像検査装置を示す図である。
【図5】10keV以下の特性X線を発生する元素の伝熱特性の表を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に使用される透過型X線発生装置を示す図である。
【図7】X線CCD検出器の受光感度を示す図である。
【図8】直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較した表を示す図である。
【図9】X線の真空透過経路である密閉容器を付加した本発明の一実施形態の特性X線画像検査装置を示す図である。
【図10】(a)(b)は、空気減衰によるクロムターゲットX線発生器スペクトルの変化を示す図である。
【図11】クロムターゲットのマイクロフォーカスX線発生器による空間分解能の確認を示す図である。
【図12】クロムターゲットの特性X線スペクトルを示す図である。
【図13】銅ターゲットの特性X線スペクトルを示す図である。
【図14】10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度の比較を示す図である。
【図15】シンチレータ付フラットパネル検出器と直接入射型X線CCD検出器の画像比較(銅ターゲットX線発生器使用)を示す図である。
【図16】タングステンターゲットとクロムターゲットX線発生器による画像比較(直接入射型X線CCDカメラ使用)を示す図である。
【図17】ポリ塩化ビニリデンフィルムステップによるコントラスト感度比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図4は、本発明の一実施形態であるX線画像検査装置を示す図である。X線画像検査装置100は、特性X線を発生するX線発生器10と、試料40を透過したX線を検出するX線検出器20とからなる。
【0023】
X線発生器10は、内部を真空に排気した後密封して形成された密封管9を有する。密封管9内の一端には、電子線4を発生するカソード1、電子線4を制御するグリッド2、加速された電子線4を収束する静電レンズ3が備えられる。さらに、密封管9内には、収束した電子線4が衝突するアノードとなるターゲット5、ターゲット5を支持するとともに冷却を行うターゲット支持部材6が配置されている。ターゲット支持部材6は、冷却水8が流れる冷却通路7を備える。密封管9は、ターゲット5から発生するX線を管外に取り出すためのX線窓91を備える。
【0024】
なお、電子線4を発生するカソード1は、電子を放出するカソードとカソードを加熱するコイルとに代えることもできる。また、グリッドは複数個用いてもよい。さらに、ターゲット支持部材は、図4に示すものに限定されず、無酸素銅ロッドを用い、無酸素銅ロッドの傾斜した端面にターゲット材を埋め込むようなものでもよい。
【0025】
電源(図示せず)に接続されて加熱されたカソード1から発生した電子線4は、アノードであるターゲット5に向かって、高圧電界で加速される。加速された電子線4は静電レンズ3により、ターゲット5上の一点に収束する。収束電子線4が衝突するターゲット5上の一点からX線が発生し、X線窓91から外部へ照射される。
【0026】
X線発生装置10から照射されたX線は、試料台30にセットされた試料40を透過してX線検出器20に入射する。試料台30は試料40を回転可能に構成され、試料40を回転させることにより試料を透過したX線のCT画像を得ることができる。本実施形態では、X線検出器20は、直接入射型X線CCD検出器を使用する。このX線CCD検出器は、ペルチエ素子22により冷却される。
【0027】
従来から使用されているタングステンターゲットのKα特性X線は57keV以上にあるため、57keV以下では連続X線の白色スペクトルが発生し、低エネルギー領域でのコントラストの向上は期待できない。本実施形態のターゲット5は、10KeV以下の単一波長の特性X線を発生させ、被写体となる生体材料や高分子材料の厚さ数mmを透過する強度を有し、かつ高コントラストの画像を得ることができるようなターゲット材料を用いる。
【0028】
ところで、X線発生用ターゲットに衝突する加速電子の運動エネルギーのうち、X線フォトンに伝えられるのはわずか1%未満であり、残りのエネルギーは熱としてターゲットに蓄積される。タングステンターゲットは、X線融点が高く、伝熱特性に優れているので、従来の画像形成用のX線発生装置用に用いられている。しかし、特性X線に着目すると、タングステンのような原子番号が大きい元素では、発生する特性X線のエネルギーも高い(タングステンのKα1=59.3KeV、Kβ1=67.2KeV、図1参照)。
【0029】
本実施形態が測定対象とする生体材料や高分子化合物の減衰係数は、X線のエネルギーが高くなるほど減少する(図2参照)。そのため、タングステンから発生するX線でのイメージングでは、X線エネルギーが高く、コントラストがつきにくい。
【0030】
図5は、10keV以下の特性X線を発生する元素の伝熱特性の評価の表を示す図である。10keV以下の特性X線を発生するターゲット材質として原子番号が20〜30番の材質が挙げられる。図5では、原子番号が20〜30番の元素のうち、チタン(原子番号22)、クロム(原子番号24)、鉄(原子番号26)、ニッケル(原子番号28)、銅(原子番号29)、亜鉛(原子番号30)の伝熱特性が評価されている。表の最下段には、参考のためにタングステン(原子番号72)の特性が記載されている。
【0031】
なお、原子番号20〜30番の間には、図5に挙げた元素以外に、カルシウム(原子番号20)、スカンジウム(原子番号21)、バナジウム(原子番号23)、マンガン(原子番号25)、コバルト(原子番号27)がある。しかしながら、特に加工性に優れ、バルク材として安価に市販されているのは、図5の表に示した金属群である。
【0032】
ターゲット上に収束する電子線のサイズがX線の発生点、すなわちX線焦点であるが、これが小さいほど、ピンポイントの光源となり、投影像は鮮鋭になる。ちなみに、今日、タングステンターゲットのマイクロフォーカスX線発生器の焦点サイズは、数10μm以下が一般的で、1μm以下の装置も市販されている。
【0033】
しかしながら、鮮鋭な画像を得る目的で、焦点サイズを小さくしていくと、局所的にターゲット材に蓄積する熱量が増加する。局所的に温度が上昇して融点をこえると、ターゲット材の融解と損傷がおきる。そこで、ターゲット材の伝熱性能を考慮して、実用的な範囲で焦点サイズを決定し、ターゲット材の許容熱容量の範囲内で、管電圧と管電流を決定する必要がある。
【0034】
10keV以下の特性X線を使ったイメージングの場合、ターゲット材の熱的制限の目安となるのが、図5に示す伝熱係数と融点係数の積である。図5の表では、温度拡散率の最も高い銅との比を基準として伝熱係数を定義し、融点の最も高いタングステン(3660K)との比を基準として融点係数を定義した。これらの積を比較することにより、熱伝導と融点の観点からX線ターゲット材として優位な金属の順位付けが可能となる。参考に記載したタングステンを除き、最も熱的な特性に優れているのが銅で、クロム、ニッケル、亜鉛、チタン、鉄の順となる。
【0035】
具体的に伝熱係数と融点係数の積をみると、タングステンの場合に比べ、銅では約1/2の出力、クロム、ニッケル、亜鉛では1/8の出力となる。一方、鉄やチタンは1/16から1/20の出力に制限される。この場合、主としてX線の管電流が制限されることとなり、X線フラックスが減少し、X線透過像の画質の低下につながる。
【0036】
しかし、銅、クロム、ニッケル、亜鉛などの金属ターゲットからのX線を、直接入射型X線CCDで検出する場合は、X線フラックスが低下しても、検出器側で比較的長い露光時間を設定することで画質の低下を防ぎつつ、10keV以下の特性X線でのコントラスト分解能の高い透過像を得ることが可能となる。本実施形態においては、X線焦点のサイズは、50μm以下で、1μm以上とするのが好適である。
【0037】
クロムおよび銅にはKα特性X線よりエネルギーは高いが強度の低いKβ特性X線のピークがある。X線スペクトルの単色化を図るには、これらの成分を除去し、できるだけ単一ピークのX線スペクトルを利用することが望ましい。しかし、X線イメージングの場合はコントラスト造影に寄与するフォトン数が減少するので、フォトン数を確保しつつ、フィルターを最適化していく必要がある。これはX線回折に用いられるX線発生器の最適化と異なる点である。
【0038】
一方で、図2に示されるように、イメージングに適した強度の強い特性X線(Kα1)を見ると、銅は8.1keVと、他の金属よりエネルギーが高く、クロムは5.4keV、最も低いのがチタンの4.5keVとなる。数mmのバルク被写体を透過するためには、エネルギーが高い方が望ましいが、一方でコントラスト分解能を高めるには、エネルギーが低いほうが望ましい。
【0039】
したがって、ターゲット材質としては、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、チタン、鉄を採用するのが好ましく、その中でも銅、クロムが望ましい。銅とクロムは、測定対象に応じて選択するのがよい。例えば、比較的大きなX線強度の必要な、例えば薄い骨などは銅のターゲットを使用するのが有利である。これに対して、やわらかいスポンジ、コラーゲンなどにはクロムのターゲットを使用するのが有利である。
【0040】
生体材料や高分子材料は、ミクロンオーダーの微細構造が配向性を持っていたり、分散材や結晶構造が方向性を持っていたり、多孔質構造であったりするので、コントラスト分解能に加えて、高い空間分解能も必要となる。本実施形態では、10keV以下のKα特性X線を発生するクロム、銅などのターゲットによるマイクロフォーカス化を実現した。これによって、特性X線の準単色化によるコントラスト分解能向上させるとともに、ミクロンオーダーの空間分解能を達成することが可能となった。
【0041】
X線発生器には、本実施形態で採用した密封管と、真空ポンプを備え、真空引きして使用する開放管があるが、開放管であっても本発明を適用することができる。また、X線発生器は、ターゲット構造により分類され、本実施形態で採用した反射型ターゲットを有する反射型X線発生器と、透過型ターゲットを有する透過型X線発生装置がある。透過型X線発生装置であっても本発明を適用することができる。
【0042】
図6は、透過型X線発生装置を示す図で、図4の反射型X線発生装置と同様の参照番号を付してある。
【0043】
透過型X線発生装置では、電子線が照射されるターゲット55を薄く形成し、X線透過窓を兼用する。ターゲット5の電子が衝突する面とは反対の面からX線を発生させる。すなわちX線をターゲットを透過させて発生させる。透過型X線発生装置は、測定物あるいは検査物をX線発生点の極近傍めで近づけることができるので、大きな拡大が可能である。ただし、X線の出力は小さい。これに対して、本実施形態の反射型ターゲットは、厚く形成することができ、大容量の電子線を照射できるので大出力のX線を発生することができる。
【0044】
本発明は、反射型ターゲットを有する密封管、透過型ターゲットを有する密封管、反射型ターゲットを有する開放管、透過型ターゲットを有する開放管、のいずれにも適用できる。
【0045】
以下、本実施形態で採用した直接入射型のCCD検出器について説明する。直接入射型のCCD検出器は常温で動作させると熱雑音を発生し、蓄積した画素の輝度値を乱すので、熱雑音を下げるために、−20℃以下に冷却して使用する。
【0046】
従来使用されているX線画像検出器としては、X線フィルムのほかに、イメージインテンシファイア(CCD型)、フラットパネル(CMOS型)などがあり、これらの検出器には、シンチレータとしてCsI:Tl、GOS(Gd2O2S:Tb)、CdWO4等が用いられている。シンチレータは固有のX線エネルギー感度曲線をもち、高エネルギーX線に対する応答は良いが、低エネルギーX線に対しては感度が低い特性をもつ。したがって、生体材料や高分子材料のコントラストを高めるために、低エネルギーの特性X線を使用すると、これらのシンチレータでは発光強度が弱く、暗い画像となってしまう。
【0047】
また、シンチレータを介したX線イメージング装置では、X線が一旦可視光に変換され、その可視光を可視領域のCMOSまたはCCDカメラで画像化する。しかし、X線から輝度値までの2段階の信号変換は、入射X線エネルギーに対して、非線形な応答を示す。そのため、入射X線フォトンエネルギーに比例したコントラストが得られない。
【0048】
これに対して、直接入射型のCCD検出器は、各画素において、入射X線フォトンエネルギーに比例した電荷を発生し、これを直接検出できる。これによりコントラスト分解能を高めることができる。
【0049】
図7は、直接入射型X線CCD検出器の受光感度を示す図である。CCDの受感部となる空乏層は厚さ数μmのシリコンであるため、入射X線エネルギーが大きいと、貫通してしまい、X線を検出できない。また、X線エネルギーが小さすぎると受感部に到達するフォトン数が減少し、電荷発生量が低下する。
【0050】
図7に示す直接入射型CCD検出器の受光感度すなわち検出効率の特性は、本実施形態のコントラスト分解能を高める上で大きな役割を果たす。直接入射型X線CCDの場合、約3〜4keVに検出効率のピークがある。したがって、検出効率からみると、クロム(Kα1:5.4keV)、チタン(Kα1:4.5keV)が好ましい。これより大きなX線エネルギーでは、検出効率は低下し、例えば銅のKα1(=8.1keV)では、5〜6%の検出効率となる。つまり、直接入射型X線CCDでは、10keV以上のX線を透過させてしまう、高エネルギーX線透過フィルターの役割を果たす。
【0051】
10keV以上のX線を透過するというのは、従来のX線フィルターにはない直接入射型X線CCDの特徴である。従来、X線スペクトルの帯域通過フィルターとして用いられてきたのは、X線回折等に用いられてきた金属元素のK殻吸収端を利用したフィルターであるが、これらは白色X線スペクトルの高エネルギー成分を十分に低下させることができなかった。
【0052】
ところが、10keV以下の特性X線を強く発生させる金属をターゲットとした特性X線発生器と、10keV以上の高エネルギーX線を透過させる直接入射型X線CCDで構成される特性X線検査装置は、X線発生器側と検出器側での2段階の単色化によって、準単色特性X線イメージングが実現できる。この構成は、原子番号の低い元素で構成される生体材料や高分子を透過し、かつ、コントラスト分解能を高めるのに適している。
【0053】
図8は、直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較した表を示す図である。
【0054】
図8の表により、直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較すると、シンチレータ型フラットパネル検出器が、透過画像露光のために、より高強度のX線を必要とすることがわかる。フラットパネル検出器は、画素サイズがCCDに比べて10倍以上大きく受光面積も大きいものではあるが、シンチレータから可視光への変換、可視光からCCD電荷発生への信号変換を行うために、10倍以上の高い管電流を必要とする。すなわち、フラットパネル検出器は、高出力のX線(CCD検出器0.32ワット、フラットパネル検出器6ワット)を必要とする。これは、X線発生器に大きな負荷を与え、発生器寿命を短縮させる可能性があるとともに、検出機器のX線損傷確率も高くなる。これは、特性X線画像検査装置の検出器として、直接入射型X線CCD検出器との組み合わせが適していることを示している。
【0055】
なお、X線回折では、元素ごとの蛍光X線検出を高精度化するために、Kα特性X線の強度を低下させても、金属フィルターによる単色化を行う場合がある。これはバランストフィルターと呼ばれ、KαX線のみを取り出す方法として知られている。しかし、画像化を目的としたX線イメージングでは、厚みの大きいフィルターによる特性X線の粒子束低下は、検出素子の露光時間の延伸や画素値の変動をもたらす。本実施形態では、高コントラスト化に寄与するKα特性X線成分の強度を維持しつつ、コントラストの低下をもたらす高エネルギー成分のみを、直接入射型X線CCDの検出特性を利用して排除する。従来のシンチレータ型検出器は、特性X線とともに高エネルギーX線も捕獲して可視光に変換してしまうため、このような高エネルギー成分のみのフィルタリングはできなかった。
【0056】
ところで、図3に示されているように、10keV以下の特性X線は空気によって大きく減衰する。X線焦点と検出面までの距離が30cmを超えると、10keVでは透過率が約90%だが、8keVでは約80%、5keVでは約30%、2keVではほとんど検出器にX線は到達しない。したがって、特性X線発生器と検出器までの距離を30cm以下とすれば、特性X線の空気による減衰を抑制することができる。しかし、点光源から投影するX線透視画像では、X線焦点から被写体までの距離L1とX線焦点から検出器までの距離L2で幾何学的倍率Mがきまる(M=L2/L1)ので、高分解能撮影のために拡大撮影する際に、X線発生器と検出器の距離をできるだけ離して設置することが必要となる。
【0057】
X線発生器と検出器の距離が大きい場合、特に低エネルギーの特性X線成分の減衰が顕著となる。空気は窒素78%、酸素21%を含むので、クロムターゲットを使用した場合、画像化に必要な5.4keVの特性X線成分の減衰が相対的に大きくなる。したがって、X線スペクトルが変化し、単色化の効果が妨げられ、コントラスト分解能が低下する。
【0058】
図9は、空気中のX線通過経路を短くするために、X線焦点と検出器の間に配置された密閉容器を有する特性X線画像検査装置を示す図である。低エネルギーの特性X線成分の減衰を防ぐためには、X線焦点と検出器の間の距離を小さくするようにしてもよいが、拡大撮影の場合には、図9に示すように、空気中のX線通過経路を短くするために、試料40とCCD検出器20の間に、両端にX線透過窓61、62を備え、内部を真空に排気した密閉容器60を配置する。
【0059】
試料40から出射したX線は、密閉容器60の一端のX線透過窓61から密閉容器60に入り、密閉容器60の他端のX線透過窓62を通って、CCD検出器20に入る。X線透過窓61、62は、X線が透過しやすいポリイミド等からなる膜で外気と容器内部を隔てている。X線透過窓61、62は、矩形の開口を有する2枚の枠体によりポリイミド膜を挟むことにより作成することができる。ポリイミドは窒素、炭素、酸素等で構成される強度の高いフィルムなので、50−100μm厚さの膜で真空を維持しながら、低エネルギーX線を透過させることができる。
【0060】
密閉容器60は、真空ポンプ(図示せず)に接続される真空排気弁63とヘリウムガス導入弁65を備えている。密閉容器60は、真空排気することにより0.1Pa〜104Paの範囲の気圧に調整可能である。密閉容器60を配置することにより、X線の経路は、X線がX線発生器10から試料40を透過するまでの空気経路45と、その後の密閉容器60を通る真空経路47となる。空気経路45では空気によるX線の減衰があるが、空気経路45は短いので、X線の減衰はほとんどなく、したがってコントラスト分解能の低下を抑えることができる。密閉容器60には、ヘリウムガス導入弁65によりヘリウムガスを導入してもよい。
【0061】
以上のように、ポリイミド膜で両端を外気と隔てた密閉容器をX線通路に配置することにより、特性X線成分を低減させることなく、検出器に到達させることができる。この効果は、X線減衰の少ない原子番号の小さいヘリウムガス等を充填しても、等価的な効果を実現できる。
【0062】
図10(a)(b)は、空気減衰によるクロムターゲットX線発生器スペクトルの変化を示す図である。具体的には、クロムターゲットX線発生器の焦点からの距離を変えた場合のスペクトル変化を、空気中で測定したものである。図10(a)は、クロムターゲットX線発生器の焦点から30cmに検出器を配置して測定したものであり、図10(b)は、クロムターゲットX線発生器の焦点から100cmに検出器を配置して測定したものである。
【0063】
空気による減衰が大きいのは、X線スペクトル成分のうち、低エネルギー成分なので、空気中の透過距離が大きくなると、X線スペクトルが変化する。図10(a)(b)を比較すると、空気層の影響を受けにくい高エネルギーの連続X線成分が相対的に増加していることがわかる。この連続X線成分の増加は特性X線画像のコントラストを低下させる要因と成る。したがって、図9に示す密閉容器を用いることにより、連続X線成分の相対的な増加を抑え、低エネルギーの特性X線による解像度を維持することができる。
【実施例】
【0064】
(特性X線マイクロフォーカス管球)
10keV以下のKα特性X線を高強度で出力するクロムターゲットのマイクロフォーカスX線発生器と銅ターゲットのマイクロフォーカスX線発生器を作成した。アノードは、真空中で高電圧に印加されるとともに、X線に変換されない電子の運動エネルギーを蓄積するので、熱伝導のよい無酸素銅ロッドで構成し、放射窓方向に傾斜した端面にターゲット材を埋め込んだ。ターゲット上のX線焦点サイズは、10μmであり、照射角は30度である。クロムターゲットを埋め込んだアノードは、6×6mm角、厚さ2mmに成形したクロム(99.95%)片がアノードの傾斜端面に埋め込まれ、厚さ0.1mmのBe窓を通して放射状にX線が放出される。焦点から窓までの焦点窓距離は、14.5mmとした。
【0065】
なお、管球容器外形は、90×277×138.5mmであり、最大管電圧は40kV、最大管電流は400μA、焦点熱容量は10Wである。
【0066】
図11は、日本検査機器工業会(JIMA)のマイクロフォーカスX線用試験片RRC−2を、直接入射型X線CCD検出器と、実施例として作成したクロムターゲットのマイクロフォーカス特性X線発生器で透視撮影し、3〜4μmのスリットパターンが識別できた例である。撮影条件は、管電圧20kV、管電流50μA、X線焦点と検出器までの距離SD=20cm、拡大率2.0倍、検出器の蓄積時間5.0秒であった。この画像では、拡大率20倍で、検出器画素サイズが8μmであることから、1画素は約4μmに相当する。したがって、3−4μmのチャートパターンが撮影できたことから、実施例のクロムターゲットの焦点サイズは数ミクロン程度であり、高い空間分解能を持ったマイクロフォーカス特性X線発生器であることが確認できた。
【0067】
(クロムと銅のX線スペクトルの計測)
図12、図13は、X線焦点から30cmの位置にスペクトル計測用の検出器を設置し、電子の加速電圧を変化させたときのX線スペクトルを計測した例を示す。図12は、クロムターゲットによるものであり、図13は、銅ターゲットによるものである。
【0068】
クロムターゲットX線管の管電圧は10kVから30kVまで、銅ターゲットX線管の管電圧は10kVから40kVまで変化させた。検出器には入射フォトン数を調節するため、それぞれ1.0mと0.3mmのコリメータを設置した。スペクトル検出器として、低エネルギーX線のスペクトル測定に適したシリコン検出器を用いた。この検出器は、ベリリウム窓厚さ25μm、有効受光面積、5mm2、受感部厚さ0.5mm、エネルギー分解能185eV(FWHM)、適用エネルギー範囲1〜30keV、という仕様のもので、10keV以下のX線スペクトル計測に適している。
【0069】
クロムのKα1X線(=5.4keV)、銅のKαX線(=5.4keV)とKβ1X線(=6.0keV)のピークが他の連続X線スペクトルに比べて顕著であることがわかる。これは、図1のタングステンX線発生器のスペクトルと比べて、単色性が著しく向上していることを示している。
【0070】
なお、原子番号20〜30の元素の特性X線ほど強度は大きくないが、原子番号の大きい元素の特性X線Lα1、Lβ1が10keVとなる元素も、本発明のターゲット材料として利用可能である。例えば、タングステン(原子番号74)ではLα1=8.40keV、Lβ1=9.67KeV、タンタル(原子番号73)ではLα1=8.14keV、Lβ1=9.34KeV、レニウム(原子番号75)ではLα1=8.65keV、Lβ1=10.0KeVである。
【0071】
図14は、10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度の比較を示す図である。図14には、銅のKα1とKβ1X線のピークと、タングステンのLα1X線とLβ1X線のピーク(Lα=8.4keV、Lβ=9.7keV)が示されている。図14によると、10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度は、銅の方が数倍高く、フォトン粒子束が必要なX線イメージングには、銅やクロムのKαX線を用いるほうが強度と単色性の点で適していることが分かる。
【0072】
(X線CCD画像検出器)
直接入射型のX線CCD画像検出器は、1)高エネルギーX線に感度がないためX線スペクトルの単色性が高まる(図7参照)、2)X線フォトンを直接電荷に変換できるため、フォトンエネルギーに比例した電荷発生によって、10keV以下のX線でコントラスト分解能が高い、という特徴がある。
【0073】
従来のシンチレータ検出器は、シンチレータ材が低エネルギーX線のみならず、10keV以上の連続X線も捕獲してしまうため、特性X線の単色性が損なわれ、コントラストが低下する。また、X線エネルギー、フォトン数、シンチレータで変換される可視光量、CCD素子の応答の間に、非線形的な関係があり、被写体の構成成分を反映した輝度値が出にくいため、コントラスト分解能をあげることが難しい。
【0074】
また、実施例で使用したCCD検出器の画素サイズは8μmなので、マイクロフォーカスX線発生器との組み合わせることにより、少なくとも8μm以下の空間分解能を達成することが可能である。なお、CCD検出器では、露光時間の設定が数ミリ秒〜10秒の範囲で設定可能なので、入射するX線強度に合わせて、最適な撮影条件を選択することができる。
【0075】
(X線画像)
本実施例の装置の特徴を示すため、10keV以下のKα特性X線を発生する銅およびクロムターゲットと従来のタングステンターゲット、シンチレータ付きフラットパネル検出器と直接入射型X線CCD検出器による画像の比較を行った。組み合わせたシステムとして、以下の4種類の透過X線撮像装置を準備した。実施例の装置は装置構成2および装置構成4である。
【0076】
装置構成1(比較例):銅ターゲットのX線発生器とシンチレータ付きフラットパネル検出器
装置構成2(実施例):銅ターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
装置構成3(比較例):タングステンターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
装置構成4(実施例):クロムターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
【0077】
測定試料として、厚さ10μmのポリ塩化ビニリデンを1mmづつずらして重ねたフィルムステップ(以下、PCVフィルムステップ)、および、体長7mmのアリ(クロヤマアリ、学名:Formica (Serviformica) japonica Motschulsky、以下、アリ)を準備した。
【0078】
図15(a)〜(d)は、PCVフィルムステップとアリを、装置構成1(比較例)と装置構成2(実施例)で撮影し、同じ銅ターゲットのX線発生器を用いて、検出器の違いを比較した図である。図15(a)は、直接入射型X線検出器を用いて撮影されたPCVフィルムステップであり、図15(b)は、直接入射型X線検出器を用いて撮影されたアリである。これに対して、図15(c)は、シンチレータ付きフラットパネル検出器を用いて撮影されたPCVフィルムステップであり、図15(d)は、シンチレータ付フラットパネル検出器を用いて撮影されたアリである。なお、撮影条件は、図8に示す表のとおりである。
【0079】
PCVフィルムでは、図15(a)(c)ともに、厚みの増加に対応して輝度値が領域ごとに低下する画像が得られているが、図15(a)の直接入射型X線CCDカメラに比べて、図15(c)のシンチレータ付きフラットパネルは、厚みの変化に対する輝度の変化が小さくコントラストが低いこと、領域の境界が滲んでいて空間分解能が低いことがわかる。空間分解能に関しては、CCD検出器の画素サイズ8μmに対しフラットパネルは100μmであるため、CCD検出器の方が空間分解能は高い。
【0080】
また、図15(b)(d)のアリの投影画像を比較することで、銅ターゲットX線発生器のX線エネルギー範囲においては、空間分解能とコントラスト分解能とも、直接入射型X線CCD検出器が優れていることが分かる。
【0081】
なお、これらの画像を取得するにあたり、直接入射型X線CCDでは管電圧20kV管電流16μA(出力0.32W)の条件に対し、シンチレータ型フラットパネルでは管電圧30kV管電流300μA(出力9W)が必要であった。これは、X線CCDがフォトンエネルギーを直接的に電荷に変換するのに対し、シンチレータ型フラットパネルでは、シンチレータを発光させるために高いX線強度が必要であることによる。したがって、X線CCD検出器の使用により、X線発生器の負荷を大幅に軽減できる効果がある。
【0082】
図16(a)〜(d)は、タングステンターゲットとクロムターゲットX線発生器による画像比較(直接入射型X線CCDカメラ使用)を示す図である。すなわち、図16(a)(b)は、装置構成3(比較例:タングステンターゲット)による画像であり、図16(c)(d)は、装置構成4(実施例:クロムターゲット)による画像である。
【0083】
図16(a)〜(d)に示すように、同じ直接入射型X線CCD検出器を使った場合、特性X線のエネルギーが異なるタングステンターゲットとクロムターゲットでは、クロムターゲットを使用した図16(c)(d)の方が、コントラスト分解能が高い。すなわち、PCVフィルムステップとアリの透過画像双方において、クロムターゲットを使用した図16(c)(d)に見られるように、濃淡の明瞭な画像が獲られている。
【0084】
30kV以下の加速電圧でもタングステンターゲットからLαの特性X線が発生するが、その強度は、図14にあるように、クロムのKαX線(=5.4keV)よりもかなり低く、また、LαX線(=8.4keV)自体のX線CCD検出器に対する感度が低いので、クロムターゲットX線発生器の画像のほうが、高画質になっている。
【0085】
図17(a)〜(c)は、PCVフィルムステップの厚さに対する輝度の変化率、すなわちコントラスト感度を示すグラフである。図17(a)がタングステンターゲットによるものであり、図17(b)が銅ターゲットによるものであり、図17(c)がクロムターゲットによるものである。
【0086】
試料が投影された透過画像を、試料がない場合のバックグランド画像で画素ごとに割り算をし、そのLogを求め、それぞれの厚さの画像領域における平均値を示した。エラーバーは分散を示す。グラフの横軸は、フィルム厚さであり、Logを計算することで、各画素での線吸収係数が算出される。
【0087】
このプロットの傾きは、厚みに対する検出器の輝度の変化率を表している。この傾きが大きいほど、厚みの変化に対する輝度の感度、すなわちコントラスト分解能が高いということを示す。図17(a)のタングステンターゲットの傾きは0.6/70μmであるのに対し、図17(b)(c)の銅およびクロムターゲットでは、それぞれ、0.7/70μm、1.3/70μmとなっている。特に図17(c)のクロムターゲットのコントラスト分解能が高いことがわかる。
【0088】
このように、実施例である装置構成2および装置構成4によって、炭素、窒素、酸素、水素等の元素で構成される生体試料や高分子材料が、従来のX線検査装置に比べて、より明瞭に判別できることが示された。これまでの高エネルギーX線検査装置では、このような低コントラスト試料を識別することは難しかった。これらの例から、1)10keV以下の特性X線を放出するターゲット材質の伝熱特性を考慮したマイクロフォーカス化、2)Kα特性X線の放出と直接入射型X線CCD検出器の高エネルギー連続X線成分の排除効果による準単色化、によって、生体材料や高分子材料に対して、従来の装置では得られなかった高いコントラスト化と高空間分解能化が実現できることが示された。
【符号の説明】
【0089】
100 X線画像検査装置
10 X線発生器
1 カソード
2 グリッド
3 静電レンズ
4 電子線
9 密封管9
5、55 ターゲット
6 ターゲット支持部材
7 冷却通路
8 冷却水
9 密封管
91 X線窓
20 X線検出器
22 ペルチエ素子
30 試料台
40 試料
45 空気経路
47 真空経路
60 密閉容器
61、62 X線透過窓
63 真空排気弁
65 空気導入弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線画像検査装置に関し、特に、特性X線を用いて検査対象を撮像するX線画像検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の透過力が高いX線を使ったイメージングは、医療診断のほか、工業材料、電子部品等の非破壊検査の分野で幅広く使われている。特に、非破壊検査の分野では、焦点サイズがミクロンオーダーのマイクロフォーカスX線発生器の開発が進み、空間分解能が大幅に向上してきた。マイクロフォーカスX線発生器は、加速した電子線をターゲット金属上に収束させ、ターゲット金属上のX線焦点のサイズをミクロンオーダーとすることによって、X線透過像の高分解能化を図るものである。
【0003】
従来、工業用非破壊検査の分野で広く使われているX線検査装置の測定対象は、金属部材や電子部品、半導体基板などで、厚みのある金属やX線減衰の大きな金、スズ、鉛など原子番号の大きい材質からなるものが多かった。このようなX線検査装置は、透過力の大きな高エネルギーX線発生器と、高エネルギーX線を効率よく捕集して可視光に変換するシンチレータ付きの検出器で構成されるものが一般的であり、空間分解能の追求が行われてきた。
【0004】
今日、測定対象が従来の金属部品から錠剤、生体、高分子、繊維、ファインセラミックスなどに移行し、バイオ医薬、化粧品、食品関連での応用が広がっている。これらの柔らかい物質は原子番号の低い元素、すなわちX線吸収の少ない材質で構成されることが多い。X線画像での分解能はX線吸収差にも依存するため、空間分解能の評価に加え、X線吸収のわずかな差異を識別するための、濃度またはコントラスト分解能を同時に向上させることが必要となる。
【0005】
しかし、現在の高分解能のX線画像検査装置では、タングステンをターゲットとした白色スペクトルのX線発生器を使用している(下記特許文献1参照)。タングステンは融点も高く(3660K)、温度拡散率も比較的高い(銅の約46%)ので、電子線収束による局所的な温度上昇に対して損傷することが少ない。したがって、診断用X線発生器としても、工業用非破壊検査のX線発生器のターゲットとしても、広く一般的に用いられている。
【0006】
図1は、タングステンターゲットのX線管スペクトルを示す図である。図1から分かるように、タングステンターゲットから発生するスペクトルは、加速電子の印加電圧の範囲で広く分布する制動放射による連続X線と、元素外殻電子の遷移による単一波長の特性X線(Kα1=59.3KeV、Kβ1=67.2KeV)が合成されたスペクトルとなっている。したがって、通常のX線検査装置では、X線発生器からのX線は白色スペクトルのX線となり、様々な波長のX線成分が交じり合ったX線となって被写体を透過し、検出面に透過画像を形成する。
【0007】
一方、ある物質のX線吸収率は、X線フォトンのエネルギーによって異なる。このため、画像の輝度変化すなわちコントラストが、物質の密度ないし成分を反映したものとはならず、同じ物質であってもX線エネルギーによって画像の輝度が変化してしまう。X線スペクトルが通常のX線管のように異なるエネルギー成分の総和である場合、結果として検出器に記録される輝度は、これらの透過成分の積分値となる。検出されるX線強度はエネルギーに依存するため、異なるエネルギーの積分値で決まる輝度は、被写体の成分や透過距離に一意の輝度値ではなくなり、被写体のコントラスト分解能が低下することとなる。
【0008】
従来のように測定対象が電子部品や金属部品である場合、構成成分はX線減衰の大きな原子番号の大きな元素であることが多く、多少のコントラストの誤差は検査結果に影響を及ぼすことは少なかった。しかし、測定対象が生体材料や高分子、医薬品の場合、構成元素は炭素、酸素、水素、窒素など原子番号の小さい材料からなる場合が多く、高いコントラスト分解能が必要となる。
【0009】
コントラストを高める方法として、単色X線を発生する放射光施設で行われている単色X線イメージングがある(下記非特許文献1参照)。放射光施設では、連続スペクトルのX線からモノクロメーターにより単一波長のX線を取り出す事が可能であり、X線管の103〜106倍もの高輝度なX線が得られる。また、Bragg反射角度を適切に設定することで、任意の波長のX線を取り出すことができる。しかしながら、実験設備を放射光施設内に持ち込んで設置することや、限られた機会のマシンタイム内にデータを取得する必要性のため、単色X線によるイメージングには多くの制約が課される。
【0010】
実験室での単色X線を利用したイメージングの試みは、レーザープラズマX線源を用いたX線顕微鏡の分野で開発が進んでいる(下記非特許文献2参照)。全反射を利用したウォルター型や、多層膜反射鏡を用いたシュバルツシルト型、ゾーンプレート型のX線顕微鏡があり、1keV以下の低エネルギーX線で、ユスリカの染色体やHeLa細胞のイメージングが行われている。これらのX線顕微鏡の空間分解能は0.1μmのオーダーで、X線光学デバイスを用いて拡大撮影することにより、高い空間分解能を実現している。
【0011】
図2は、質量減衰係数のX線エネルギー依存性を示す図で、図3は、空気中のX線の透過距離とX線強度の減衰との関係を示す図である。図2に示すように、X線吸収係数は、X線エネルギーの減少とともに大きく増加するため、1keV以下のX線は、単一の細胞が識別できる程度の高いコントラスト分解能となっている。一方、図3に示すように、1keV以下のX線は空気中で容易に減衰し、空気中に置かれる体積の大きな被写体の撮影には適していない。また、X線発生源となる高輝度レーザーや、X線波長オーダーの高精度の光学デバイスのコストが大きな負担となり、産業的に普及することが難しい。
【0012】
なお、マイクロフォーカスX線と直接入射型X線CCD検出器の構成が公知であるが、タングステンターゲットのマイクロフォーカスX線発生器で空間伝播の位相コントラスト撮影を目的としたものである(下記非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−42516号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】兵藤一行、安藤正海, 放射光単色X線を用いた冠動脈診断システムの開発, Photon Factory News, 2001 Vol.18, No.3, 2001
【非特許文献2】W. Chao, B.D. Harteneck, J.A. Liddle, E.H. Anderson and D.T. Attwood, "Soft X-ray Microscopy at a Spatial Resolution better than 15 nm," Nature, 435, 1210-1213 (2005).
【非特許文献3】Uchida H., Torii K., Tsunemi H., “Quantitative Method of Measuring Spot Size of Microfocus X-ray Generator”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.5A, 2006, pp.5277-5283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題に鑑み、原子番号の低い元素、すなわちX線吸収の少ない材質で構成される試料を、高分解能で撮影可能としたX線画像検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のX線画像検査装置は、上記目的を達成するために、10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲットを有する特性X線発生器と、直接入射型冷却X線CCD検出器と、を備え、前記Kα特性X線発生器と前記直接入射型冷却X線CCD検出器との間に配置された試料を透過したX線を検出することにより撮像することを特徴とする。
【0017】
前記X線ターゲットは、原子番号が20から30までの金属から形成されることができ、さらに、クロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つとすることができる。
【0018】
前記X線ターゲットのX線焦点サイズは、1μm以上で50μm以下とすることができる。
【0019】
前記特性X線発生器と直接入射型冷却X線CCD検出器との間のX線経路中に、両端にX線透過膜を備えた、真空の密閉容器またはヘリウムガスを充填した密閉容器を配置することもできる。
【発明の効果】
【0020】
10keV以下の特性X線を強く発生するターゲット材を有するX線発生器と、直接入力CCD検出器とを組み合わせることにより、X線発生器では単色X線に近い準単色X線を発生させ、検出器側では特性X線より高いスペクトル成分を除去して単色性を高めることができ、数mmオーダーの被写体をミクロンオーダーの空間分解能で撮影が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】タングステンターゲットのX線スペクトルを示す図である。
【図2】質量減衰係数のX線エネルギー依存性を示す図である。
【図3】空気中のX線透過距離とX線強度の減衰を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態であるX線画像検査装置を示す図である。
【図5】10keV以下の特性X線を発生する元素の伝熱特性の表を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に使用される透過型X線発生装置を示す図である。
【図7】X線CCD検出器の受光感度を示す図である。
【図8】直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較した表を示す図である。
【図9】X線の真空透過経路である密閉容器を付加した本発明の一実施形態の特性X線画像検査装置を示す図である。
【図10】(a)(b)は、空気減衰によるクロムターゲットX線発生器スペクトルの変化を示す図である。
【図11】クロムターゲットのマイクロフォーカスX線発生器による空間分解能の確認を示す図である。
【図12】クロムターゲットの特性X線スペクトルを示す図である。
【図13】銅ターゲットの特性X線スペクトルを示す図である。
【図14】10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度の比較を示す図である。
【図15】シンチレータ付フラットパネル検出器と直接入射型X線CCD検出器の画像比較(銅ターゲットX線発生器使用)を示す図である。
【図16】タングステンターゲットとクロムターゲットX線発生器による画像比較(直接入射型X線CCDカメラ使用)を示す図である。
【図17】ポリ塩化ビニリデンフィルムステップによるコントラスト感度比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図4は、本発明の一実施形態であるX線画像検査装置を示す図である。X線画像検査装置100は、特性X線を発生するX線発生器10と、試料40を透過したX線を検出するX線検出器20とからなる。
【0023】
X線発生器10は、内部を真空に排気した後密封して形成された密封管9を有する。密封管9内の一端には、電子線4を発生するカソード1、電子線4を制御するグリッド2、加速された電子線4を収束する静電レンズ3が備えられる。さらに、密封管9内には、収束した電子線4が衝突するアノードとなるターゲット5、ターゲット5を支持するとともに冷却を行うターゲット支持部材6が配置されている。ターゲット支持部材6は、冷却水8が流れる冷却通路7を備える。密封管9は、ターゲット5から発生するX線を管外に取り出すためのX線窓91を備える。
【0024】
なお、電子線4を発生するカソード1は、電子を放出するカソードとカソードを加熱するコイルとに代えることもできる。また、グリッドは複数個用いてもよい。さらに、ターゲット支持部材は、図4に示すものに限定されず、無酸素銅ロッドを用い、無酸素銅ロッドの傾斜した端面にターゲット材を埋め込むようなものでもよい。
【0025】
電源(図示せず)に接続されて加熱されたカソード1から発生した電子線4は、アノードであるターゲット5に向かって、高圧電界で加速される。加速された電子線4は静電レンズ3により、ターゲット5上の一点に収束する。収束電子線4が衝突するターゲット5上の一点からX線が発生し、X線窓91から外部へ照射される。
【0026】
X線発生装置10から照射されたX線は、試料台30にセットされた試料40を透過してX線検出器20に入射する。試料台30は試料40を回転可能に構成され、試料40を回転させることにより試料を透過したX線のCT画像を得ることができる。本実施形態では、X線検出器20は、直接入射型X線CCD検出器を使用する。このX線CCD検出器は、ペルチエ素子22により冷却される。
【0027】
従来から使用されているタングステンターゲットのKα特性X線は57keV以上にあるため、57keV以下では連続X線の白色スペクトルが発生し、低エネルギー領域でのコントラストの向上は期待できない。本実施形態のターゲット5は、10KeV以下の単一波長の特性X線を発生させ、被写体となる生体材料や高分子材料の厚さ数mmを透過する強度を有し、かつ高コントラストの画像を得ることができるようなターゲット材料を用いる。
【0028】
ところで、X線発生用ターゲットに衝突する加速電子の運動エネルギーのうち、X線フォトンに伝えられるのはわずか1%未満であり、残りのエネルギーは熱としてターゲットに蓄積される。タングステンターゲットは、X線融点が高く、伝熱特性に優れているので、従来の画像形成用のX線発生装置用に用いられている。しかし、特性X線に着目すると、タングステンのような原子番号が大きい元素では、発生する特性X線のエネルギーも高い(タングステンのKα1=59.3KeV、Kβ1=67.2KeV、図1参照)。
【0029】
本実施形態が測定対象とする生体材料や高分子化合物の減衰係数は、X線のエネルギーが高くなるほど減少する(図2参照)。そのため、タングステンから発生するX線でのイメージングでは、X線エネルギーが高く、コントラストがつきにくい。
【0030】
図5は、10keV以下の特性X線を発生する元素の伝熱特性の評価の表を示す図である。10keV以下の特性X線を発生するターゲット材質として原子番号が20〜30番の材質が挙げられる。図5では、原子番号が20〜30番の元素のうち、チタン(原子番号22)、クロム(原子番号24)、鉄(原子番号26)、ニッケル(原子番号28)、銅(原子番号29)、亜鉛(原子番号30)の伝熱特性が評価されている。表の最下段には、参考のためにタングステン(原子番号72)の特性が記載されている。
【0031】
なお、原子番号20〜30番の間には、図5に挙げた元素以外に、カルシウム(原子番号20)、スカンジウム(原子番号21)、バナジウム(原子番号23)、マンガン(原子番号25)、コバルト(原子番号27)がある。しかしながら、特に加工性に優れ、バルク材として安価に市販されているのは、図5の表に示した金属群である。
【0032】
ターゲット上に収束する電子線のサイズがX線の発生点、すなわちX線焦点であるが、これが小さいほど、ピンポイントの光源となり、投影像は鮮鋭になる。ちなみに、今日、タングステンターゲットのマイクロフォーカスX線発生器の焦点サイズは、数10μm以下が一般的で、1μm以下の装置も市販されている。
【0033】
しかしながら、鮮鋭な画像を得る目的で、焦点サイズを小さくしていくと、局所的にターゲット材に蓄積する熱量が増加する。局所的に温度が上昇して融点をこえると、ターゲット材の融解と損傷がおきる。そこで、ターゲット材の伝熱性能を考慮して、実用的な範囲で焦点サイズを決定し、ターゲット材の許容熱容量の範囲内で、管電圧と管電流を決定する必要がある。
【0034】
10keV以下の特性X線を使ったイメージングの場合、ターゲット材の熱的制限の目安となるのが、図5に示す伝熱係数と融点係数の積である。図5の表では、温度拡散率の最も高い銅との比を基準として伝熱係数を定義し、融点の最も高いタングステン(3660K)との比を基準として融点係数を定義した。これらの積を比較することにより、熱伝導と融点の観点からX線ターゲット材として優位な金属の順位付けが可能となる。参考に記載したタングステンを除き、最も熱的な特性に優れているのが銅で、クロム、ニッケル、亜鉛、チタン、鉄の順となる。
【0035】
具体的に伝熱係数と融点係数の積をみると、タングステンの場合に比べ、銅では約1/2の出力、クロム、ニッケル、亜鉛では1/8の出力となる。一方、鉄やチタンは1/16から1/20の出力に制限される。この場合、主としてX線の管電流が制限されることとなり、X線フラックスが減少し、X線透過像の画質の低下につながる。
【0036】
しかし、銅、クロム、ニッケル、亜鉛などの金属ターゲットからのX線を、直接入射型X線CCDで検出する場合は、X線フラックスが低下しても、検出器側で比較的長い露光時間を設定することで画質の低下を防ぎつつ、10keV以下の特性X線でのコントラスト分解能の高い透過像を得ることが可能となる。本実施形態においては、X線焦点のサイズは、50μm以下で、1μm以上とするのが好適である。
【0037】
クロムおよび銅にはKα特性X線よりエネルギーは高いが強度の低いKβ特性X線のピークがある。X線スペクトルの単色化を図るには、これらの成分を除去し、できるだけ単一ピークのX線スペクトルを利用することが望ましい。しかし、X線イメージングの場合はコントラスト造影に寄与するフォトン数が減少するので、フォトン数を確保しつつ、フィルターを最適化していく必要がある。これはX線回折に用いられるX線発生器の最適化と異なる点である。
【0038】
一方で、図2に示されるように、イメージングに適した強度の強い特性X線(Kα1)を見ると、銅は8.1keVと、他の金属よりエネルギーが高く、クロムは5.4keV、最も低いのがチタンの4.5keVとなる。数mmのバルク被写体を透過するためには、エネルギーが高い方が望ましいが、一方でコントラスト分解能を高めるには、エネルギーが低いほうが望ましい。
【0039】
したがって、ターゲット材質としては、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、チタン、鉄を採用するのが好ましく、その中でも銅、クロムが望ましい。銅とクロムは、測定対象に応じて選択するのがよい。例えば、比較的大きなX線強度の必要な、例えば薄い骨などは銅のターゲットを使用するのが有利である。これに対して、やわらかいスポンジ、コラーゲンなどにはクロムのターゲットを使用するのが有利である。
【0040】
生体材料や高分子材料は、ミクロンオーダーの微細構造が配向性を持っていたり、分散材や結晶構造が方向性を持っていたり、多孔質構造であったりするので、コントラスト分解能に加えて、高い空間分解能も必要となる。本実施形態では、10keV以下のKα特性X線を発生するクロム、銅などのターゲットによるマイクロフォーカス化を実現した。これによって、特性X線の準単色化によるコントラスト分解能向上させるとともに、ミクロンオーダーの空間分解能を達成することが可能となった。
【0041】
X線発生器には、本実施形態で採用した密封管と、真空ポンプを備え、真空引きして使用する開放管があるが、開放管であっても本発明を適用することができる。また、X線発生器は、ターゲット構造により分類され、本実施形態で採用した反射型ターゲットを有する反射型X線発生器と、透過型ターゲットを有する透過型X線発生装置がある。透過型X線発生装置であっても本発明を適用することができる。
【0042】
図6は、透過型X線発生装置を示す図で、図4の反射型X線発生装置と同様の参照番号を付してある。
【0043】
透過型X線発生装置では、電子線が照射されるターゲット55を薄く形成し、X線透過窓を兼用する。ターゲット5の電子が衝突する面とは反対の面からX線を発生させる。すなわちX線をターゲットを透過させて発生させる。透過型X線発生装置は、測定物あるいは検査物をX線発生点の極近傍めで近づけることができるので、大きな拡大が可能である。ただし、X線の出力は小さい。これに対して、本実施形態の反射型ターゲットは、厚く形成することができ、大容量の電子線を照射できるので大出力のX線を発生することができる。
【0044】
本発明は、反射型ターゲットを有する密封管、透過型ターゲットを有する密封管、反射型ターゲットを有する開放管、透過型ターゲットを有する開放管、のいずれにも適用できる。
【0045】
以下、本実施形態で採用した直接入射型のCCD検出器について説明する。直接入射型のCCD検出器は常温で動作させると熱雑音を発生し、蓄積した画素の輝度値を乱すので、熱雑音を下げるために、−20℃以下に冷却して使用する。
【0046】
従来使用されているX線画像検出器としては、X線フィルムのほかに、イメージインテンシファイア(CCD型)、フラットパネル(CMOS型)などがあり、これらの検出器には、シンチレータとしてCsI:Tl、GOS(Gd2O2S:Tb)、CdWO4等が用いられている。シンチレータは固有のX線エネルギー感度曲線をもち、高エネルギーX線に対する応答は良いが、低エネルギーX線に対しては感度が低い特性をもつ。したがって、生体材料や高分子材料のコントラストを高めるために、低エネルギーの特性X線を使用すると、これらのシンチレータでは発光強度が弱く、暗い画像となってしまう。
【0047】
また、シンチレータを介したX線イメージング装置では、X線が一旦可視光に変換され、その可視光を可視領域のCMOSまたはCCDカメラで画像化する。しかし、X線から輝度値までの2段階の信号変換は、入射X線エネルギーに対して、非線形な応答を示す。そのため、入射X線フォトンエネルギーに比例したコントラストが得られない。
【0048】
これに対して、直接入射型のCCD検出器は、各画素において、入射X線フォトンエネルギーに比例した電荷を発生し、これを直接検出できる。これによりコントラスト分解能を高めることができる。
【0049】
図7は、直接入射型X線CCD検出器の受光感度を示す図である。CCDの受感部となる空乏層は厚さ数μmのシリコンであるため、入射X線エネルギーが大きいと、貫通してしまい、X線を検出できない。また、X線エネルギーが小さすぎると受感部に到達するフォトン数が減少し、電荷発生量が低下する。
【0050】
図7に示す直接入射型CCD検出器の受光感度すなわち検出効率の特性は、本実施形態のコントラスト分解能を高める上で大きな役割を果たす。直接入射型X線CCDの場合、約3〜4keVに検出効率のピークがある。したがって、検出効率からみると、クロム(Kα1:5.4keV)、チタン(Kα1:4.5keV)が好ましい。これより大きなX線エネルギーでは、検出効率は低下し、例えば銅のKα1(=8.1keV)では、5〜6%の検出効率となる。つまり、直接入射型X線CCDでは、10keV以上のX線を透過させてしまう、高エネルギーX線透過フィルターの役割を果たす。
【0051】
10keV以上のX線を透過するというのは、従来のX線フィルターにはない直接入射型X線CCDの特徴である。従来、X線スペクトルの帯域通過フィルターとして用いられてきたのは、X線回折等に用いられてきた金属元素のK殻吸収端を利用したフィルターであるが、これらは白色X線スペクトルの高エネルギー成分を十分に低下させることができなかった。
【0052】
ところが、10keV以下の特性X線を強く発生させる金属をターゲットとした特性X線発生器と、10keV以上の高エネルギーX線を透過させる直接入射型X線CCDで構成される特性X線検査装置は、X線発生器側と検出器側での2段階の単色化によって、準単色特性X線イメージングが実現できる。この構成は、原子番号の低い元素で構成される生体材料や高分子を透過し、かつ、コントラスト分解能を高めるのに適している。
【0053】
図8は、直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較した表を示す図である。
【0054】
図8の表により、直接入射型X線CCD検出器とシンチレータ型フラットパネル検出器の撮影条件を比較すると、シンチレータ型フラットパネル検出器が、透過画像露光のために、より高強度のX線を必要とすることがわかる。フラットパネル検出器は、画素サイズがCCDに比べて10倍以上大きく受光面積も大きいものではあるが、シンチレータから可視光への変換、可視光からCCD電荷発生への信号変換を行うために、10倍以上の高い管電流を必要とする。すなわち、フラットパネル検出器は、高出力のX線(CCD検出器0.32ワット、フラットパネル検出器6ワット)を必要とする。これは、X線発生器に大きな負荷を与え、発生器寿命を短縮させる可能性があるとともに、検出機器のX線損傷確率も高くなる。これは、特性X線画像検査装置の検出器として、直接入射型X線CCD検出器との組み合わせが適していることを示している。
【0055】
なお、X線回折では、元素ごとの蛍光X線検出を高精度化するために、Kα特性X線の強度を低下させても、金属フィルターによる単色化を行う場合がある。これはバランストフィルターと呼ばれ、KαX線のみを取り出す方法として知られている。しかし、画像化を目的としたX線イメージングでは、厚みの大きいフィルターによる特性X線の粒子束低下は、検出素子の露光時間の延伸や画素値の変動をもたらす。本実施形態では、高コントラスト化に寄与するKα特性X線成分の強度を維持しつつ、コントラストの低下をもたらす高エネルギー成分のみを、直接入射型X線CCDの検出特性を利用して排除する。従来のシンチレータ型検出器は、特性X線とともに高エネルギーX線も捕獲して可視光に変換してしまうため、このような高エネルギー成分のみのフィルタリングはできなかった。
【0056】
ところで、図3に示されているように、10keV以下の特性X線は空気によって大きく減衰する。X線焦点と検出面までの距離が30cmを超えると、10keVでは透過率が約90%だが、8keVでは約80%、5keVでは約30%、2keVではほとんど検出器にX線は到達しない。したがって、特性X線発生器と検出器までの距離を30cm以下とすれば、特性X線の空気による減衰を抑制することができる。しかし、点光源から投影するX線透視画像では、X線焦点から被写体までの距離L1とX線焦点から検出器までの距離L2で幾何学的倍率Mがきまる(M=L2/L1)ので、高分解能撮影のために拡大撮影する際に、X線発生器と検出器の距離をできるだけ離して設置することが必要となる。
【0057】
X線発生器と検出器の距離が大きい場合、特に低エネルギーの特性X線成分の減衰が顕著となる。空気は窒素78%、酸素21%を含むので、クロムターゲットを使用した場合、画像化に必要な5.4keVの特性X線成分の減衰が相対的に大きくなる。したがって、X線スペクトルが変化し、単色化の効果が妨げられ、コントラスト分解能が低下する。
【0058】
図9は、空気中のX線通過経路を短くするために、X線焦点と検出器の間に配置された密閉容器を有する特性X線画像検査装置を示す図である。低エネルギーの特性X線成分の減衰を防ぐためには、X線焦点と検出器の間の距離を小さくするようにしてもよいが、拡大撮影の場合には、図9に示すように、空気中のX線通過経路を短くするために、試料40とCCD検出器20の間に、両端にX線透過窓61、62を備え、内部を真空に排気した密閉容器60を配置する。
【0059】
試料40から出射したX線は、密閉容器60の一端のX線透過窓61から密閉容器60に入り、密閉容器60の他端のX線透過窓62を通って、CCD検出器20に入る。X線透過窓61、62は、X線が透過しやすいポリイミド等からなる膜で外気と容器内部を隔てている。X線透過窓61、62は、矩形の開口を有する2枚の枠体によりポリイミド膜を挟むことにより作成することができる。ポリイミドは窒素、炭素、酸素等で構成される強度の高いフィルムなので、50−100μm厚さの膜で真空を維持しながら、低エネルギーX線を透過させることができる。
【0060】
密閉容器60は、真空ポンプ(図示せず)に接続される真空排気弁63とヘリウムガス導入弁65を備えている。密閉容器60は、真空排気することにより0.1Pa〜104Paの範囲の気圧に調整可能である。密閉容器60を配置することにより、X線の経路は、X線がX線発生器10から試料40を透過するまでの空気経路45と、その後の密閉容器60を通る真空経路47となる。空気経路45では空気によるX線の減衰があるが、空気経路45は短いので、X線の減衰はほとんどなく、したがってコントラスト分解能の低下を抑えることができる。密閉容器60には、ヘリウムガス導入弁65によりヘリウムガスを導入してもよい。
【0061】
以上のように、ポリイミド膜で両端を外気と隔てた密閉容器をX線通路に配置することにより、特性X線成分を低減させることなく、検出器に到達させることができる。この効果は、X線減衰の少ない原子番号の小さいヘリウムガス等を充填しても、等価的な効果を実現できる。
【0062】
図10(a)(b)は、空気減衰によるクロムターゲットX線発生器スペクトルの変化を示す図である。具体的には、クロムターゲットX線発生器の焦点からの距離を変えた場合のスペクトル変化を、空気中で測定したものである。図10(a)は、クロムターゲットX線発生器の焦点から30cmに検出器を配置して測定したものであり、図10(b)は、クロムターゲットX線発生器の焦点から100cmに検出器を配置して測定したものである。
【0063】
空気による減衰が大きいのは、X線スペクトル成分のうち、低エネルギー成分なので、空気中の透過距離が大きくなると、X線スペクトルが変化する。図10(a)(b)を比較すると、空気層の影響を受けにくい高エネルギーの連続X線成分が相対的に増加していることがわかる。この連続X線成分の増加は特性X線画像のコントラストを低下させる要因と成る。したがって、図9に示す密閉容器を用いることにより、連続X線成分の相対的な増加を抑え、低エネルギーの特性X線による解像度を維持することができる。
【実施例】
【0064】
(特性X線マイクロフォーカス管球)
10keV以下のKα特性X線を高強度で出力するクロムターゲットのマイクロフォーカスX線発生器と銅ターゲットのマイクロフォーカスX線発生器を作成した。アノードは、真空中で高電圧に印加されるとともに、X線に変換されない電子の運動エネルギーを蓄積するので、熱伝導のよい無酸素銅ロッドで構成し、放射窓方向に傾斜した端面にターゲット材を埋め込んだ。ターゲット上のX線焦点サイズは、10μmであり、照射角は30度である。クロムターゲットを埋め込んだアノードは、6×6mm角、厚さ2mmに成形したクロム(99.95%)片がアノードの傾斜端面に埋め込まれ、厚さ0.1mmのBe窓を通して放射状にX線が放出される。焦点から窓までの焦点窓距離は、14.5mmとした。
【0065】
なお、管球容器外形は、90×277×138.5mmであり、最大管電圧は40kV、最大管電流は400μA、焦点熱容量は10Wである。
【0066】
図11は、日本検査機器工業会(JIMA)のマイクロフォーカスX線用試験片RRC−2を、直接入射型X線CCD検出器と、実施例として作成したクロムターゲットのマイクロフォーカス特性X線発生器で透視撮影し、3〜4μmのスリットパターンが識別できた例である。撮影条件は、管電圧20kV、管電流50μA、X線焦点と検出器までの距離SD=20cm、拡大率2.0倍、検出器の蓄積時間5.0秒であった。この画像では、拡大率20倍で、検出器画素サイズが8μmであることから、1画素は約4μmに相当する。したがって、3−4μmのチャートパターンが撮影できたことから、実施例のクロムターゲットの焦点サイズは数ミクロン程度であり、高い空間分解能を持ったマイクロフォーカス特性X線発生器であることが確認できた。
【0067】
(クロムと銅のX線スペクトルの計測)
図12、図13は、X線焦点から30cmの位置にスペクトル計測用の検出器を設置し、電子の加速電圧を変化させたときのX線スペクトルを計測した例を示す。図12は、クロムターゲットによるものであり、図13は、銅ターゲットによるものである。
【0068】
クロムターゲットX線管の管電圧は10kVから30kVまで、銅ターゲットX線管の管電圧は10kVから40kVまで変化させた。検出器には入射フォトン数を調節するため、それぞれ1.0mと0.3mmのコリメータを設置した。スペクトル検出器として、低エネルギーX線のスペクトル測定に適したシリコン検出器を用いた。この検出器は、ベリリウム窓厚さ25μm、有効受光面積、5mm2、受感部厚さ0.5mm、エネルギー分解能185eV(FWHM)、適用エネルギー範囲1〜30keV、という仕様のもので、10keV以下のX線スペクトル計測に適している。
【0069】
クロムのKα1X線(=5.4keV)、銅のKαX線(=5.4keV)とKβ1X線(=6.0keV)のピークが他の連続X線スペクトルに比べて顕著であることがわかる。これは、図1のタングステンX線発生器のスペクトルと比べて、単色性が著しく向上していることを示している。
【0070】
なお、原子番号20〜30の元素の特性X線ほど強度は大きくないが、原子番号の大きい元素の特性X線Lα1、Lβ1が10keVとなる元素も、本発明のターゲット材料として利用可能である。例えば、タングステン(原子番号74)ではLα1=8.40keV、Lβ1=9.67KeV、タンタル(原子番号73)ではLα1=8.14keV、Lβ1=9.34KeV、レニウム(原子番号75)ではLα1=8.65keV、Lβ1=10.0KeVである。
【0071】
図14は、10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度の比較を示す図である。図14には、銅のKα1とKβ1X線のピークと、タングステンのLα1X線とLβ1X線のピーク(Lα=8.4keV、Lβ=9.7keV)が示されている。図14によると、10keV以下における銅とタングステンターゲットの特性X線スペクトル強度は、銅の方が数倍高く、フォトン粒子束が必要なX線イメージングには、銅やクロムのKαX線を用いるほうが強度と単色性の点で適していることが分かる。
【0072】
(X線CCD画像検出器)
直接入射型のX線CCD画像検出器は、1)高エネルギーX線に感度がないためX線スペクトルの単色性が高まる(図7参照)、2)X線フォトンを直接電荷に変換できるため、フォトンエネルギーに比例した電荷発生によって、10keV以下のX線でコントラスト分解能が高い、という特徴がある。
【0073】
従来のシンチレータ検出器は、シンチレータ材が低エネルギーX線のみならず、10keV以上の連続X線も捕獲してしまうため、特性X線の単色性が損なわれ、コントラストが低下する。また、X線エネルギー、フォトン数、シンチレータで変換される可視光量、CCD素子の応答の間に、非線形的な関係があり、被写体の構成成分を反映した輝度値が出にくいため、コントラスト分解能をあげることが難しい。
【0074】
また、実施例で使用したCCD検出器の画素サイズは8μmなので、マイクロフォーカスX線発生器との組み合わせることにより、少なくとも8μm以下の空間分解能を達成することが可能である。なお、CCD検出器では、露光時間の設定が数ミリ秒〜10秒の範囲で設定可能なので、入射するX線強度に合わせて、最適な撮影条件を選択することができる。
【0075】
(X線画像)
本実施例の装置の特徴を示すため、10keV以下のKα特性X線を発生する銅およびクロムターゲットと従来のタングステンターゲット、シンチレータ付きフラットパネル検出器と直接入射型X線CCD検出器による画像の比較を行った。組み合わせたシステムとして、以下の4種類の透過X線撮像装置を準備した。実施例の装置は装置構成2および装置構成4である。
【0076】
装置構成1(比較例):銅ターゲットのX線発生器とシンチレータ付きフラットパネル検出器
装置構成2(実施例):銅ターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
装置構成3(比較例):タングステンターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
装置構成4(実施例):クロムターゲットのX線発生器と直接入射型X線CCD検出器
【0077】
測定試料として、厚さ10μmのポリ塩化ビニリデンを1mmづつずらして重ねたフィルムステップ(以下、PCVフィルムステップ)、および、体長7mmのアリ(クロヤマアリ、学名:Formica (Serviformica) japonica Motschulsky、以下、アリ)を準備した。
【0078】
図15(a)〜(d)は、PCVフィルムステップとアリを、装置構成1(比較例)と装置構成2(実施例)で撮影し、同じ銅ターゲットのX線発生器を用いて、検出器の違いを比較した図である。図15(a)は、直接入射型X線検出器を用いて撮影されたPCVフィルムステップであり、図15(b)は、直接入射型X線検出器を用いて撮影されたアリである。これに対して、図15(c)は、シンチレータ付きフラットパネル検出器を用いて撮影されたPCVフィルムステップであり、図15(d)は、シンチレータ付フラットパネル検出器を用いて撮影されたアリである。なお、撮影条件は、図8に示す表のとおりである。
【0079】
PCVフィルムでは、図15(a)(c)ともに、厚みの増加に対応して輝度値が領域ごとに低下する画像が得られているが、図15(a)の直接入射型X線CCDカメラに比べて、図15(c)のシンチレータ付きフラットパネルは、厚みの変化に対する輝度の変化が小さくコントラストが低いこと、領域の境界が滲んでいて空間分解能が低いことがわかる。空間分解能に関しては、CCD検出器の画素サイズ8μmに対しフラットパネルは100μmであるため、CCD検出器の方が空間分解能は高い。
【0080】
また、図15(b)(d)のアリの投影画像を比較することで、銅ターゲットX線発生器のX線エネルギー範囲においては、空間分解能とコントラスト分解能とも、直接入射型X線CCD検出器が優れていることが分かる。
【0081】
なお、これらの画像を取得するにあたり、直接入射型X線CCDでは管電圧20kV管電流16μA(出力0.32W)の条件に対し、シンチレータ型フラットパネルでは管電圧30kV管電流300μA(出力9W)が必要であった。これは、X線CCDがフォトンエネルギーを直接的に電荷に変換するのに対し、シンチレータ型フラットパネルでは、シンチレータを発光させるために高いX線強度が必要であることによる。したがって、X線CCD検出器の使用により、X線発生器の負荷を大幅に軽減できる効果がある。
【0082】
図16(a)〜(d)は、タングステンターゲットとクロムターゲットX線発生器による画像比較(直接入射型X線CCDカメラ使用)を示す図である。すなわち、図16(a)(b)は、装置構成3(比較例:タングステンターゲット)による画像であり、図16(c)(d)は、装置構成4(実施例:クロムターゲット)による画像である。
【0083】
図16(a)〜(d)に示すように、同じ直接入射型X線CCD検出器を使った場合、特性X線のエネルギーが異なるタングステンターゲットとクロムターゲットでは、クロムターゲットを使用した図16(c)(d)の方が、コントラスト分解能が高い。すなわち、PCVフィルムステップとアリの透過画像双方において、クロムターゲットを使用した図16(c)(d)に見られるように、濃淡の明瞭な画像が獲られている。
【0084】
30kV以下の加速電圧でもタングステンターゲットからLαの特性X線が発生するが、その強度は、図14にあるように、クロムのKαX線(=5.4keV)よりもかなり低く、また、LαX線(=8.4keV)自体のX線CCD検出器に対する感度が低いので、クロムターゲットX線発生器の画像のほうが、高画質になっている。
【0085】
図17(a)〜(c)は、PCVフィルムステップの厚さに対する輝度の変化率、すなわちコントラスト感度を示すグラフである。図17(a)がタングステンターゲットによるものであり、図17(b)が銅ターゲットによるものであり、図17(c)がクロムターゲットによるものである。
【0086】
試料が投影された透過画像を、試料がない場合のバックグランド画像で画素ごとに割り算をし、そのLogを求め、それぞれの厚さの画像領域における平均値を示した。エラーバーは分散を示す。グラフの横軸は、フィルム厚さであり、Logを計算することで、各画素での線吸収係数が算出される。
【0087】
このプロットの傾きは、厚みに対する検出器の輝度の変化率を表している。この傾きが大きいほど、厚みの変化に対する輝度の感度、すなわちコントラスト分解能が高いということを示す。図17(a)のタングステンターゲットの傾きは0.6/70μmであるのに対し、図17(b)(c)の銅およびクロムターゲットでは、それぞれ、0.7/70μm、1.3/70μmとなっている。特に図17(c)のクロムターゲットのコントラスト分解能が高いことがわかる。
【0088】
このように、実施例である装置構成2および装置構成4によって、炭素、窒素、酸素、水素等の元素で構成される生体試料や高分子材料が、従来のX線検査装置に比べて、より明瞭に判別できることが示された。これまでの高エネルギーX線検査装置では、このような低コントラスト試料を識別することは難しかった。これらの例から、1)10keV以下の特性X線を放出するターゲット材質の伝熱特性を考慮したマイクロフォーカス化、2)Kα特性X線の放出と直接入射型X線CCD検出器の高エネルギー連続X線成分の排除効果による準単色化、によって、生体材料や高分子材料に対して、従来の装置では得られなかった高いコントラスト化と高空間分解能化が実現できることが示された。
【符号の説明】
【0089】
100 X線画像検査装置
10 X線発生器
1 カソード
2 グリッド
3 静電レンズ
4 電子線
9 密封管9
5、55 ターゲット
6 ターゲット支持部材
7 冷却通路
8 冷却水
9 密封管
91 X線窓
20 X線検出器
22 ペルチエ素子
30 試料台
40 試料
45 空気経路
47 真空経路
60 密閉容器
61、62 X線透過窓
63 真空排気弁
65 空気導入弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲットを有する特性X線発生器と、
直接入射型冷却X線CCD検出器と、を備え、
前記Kα特性X線発生器と前記直接入射型冷却X線CCD検出器との間に配置された試料を透過したX線を検出することにより撮像することを特徴とするX線画像検査装置。
【請求項2】
前記X線ターゲットは、原子番号が20から30までの金属から形成されることを特徴とする請求項1に記載のX線画像検査装置。
【請求項3】
前記X線ターゲットは、クロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つであることを特徴とする請求項2に記載のX線画像検査装置。
【請求項4】
前記X線ターゲットのX線焦点サイズは、1μm以上で50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載されたX線画像検査装置。
【請求項5】
前記特性X線発生器と直接入射型冷却X線CCD検出器との間のX線経路中に、両端にX線透過膜を備えた、真空の密閉容器またはヘリウムガスを充填した密閉容器を配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載されたX線画像検査装置。
【請求項1】
10keV以下のKα特性X線を発生するX線ターゲットを有する特性X線発生器と、
直接入射型冷却X線CCD検出器と、を備え、
前記Kα特性X線発生器と前記直接入射型冷却X線CCD検出器との間に配置された試料を透過したX線を検出することにより撮像することを特徴とするX線画像検査装置。
【請求項2】
前記X線ターゲットは、原子番号が20から30までの金属から形成されることを特徴とする請求項1に記載のX線画像検査装置。
【請求項3】
前記X線ターゲットは、クロム、銅、ニッケル、鉄のいずれか1つであることを特徴とする請求項2に記載のX線画像検査装置。
【請求項4】
前記X線ターゲットのX線焦点サイズは、1μm以上で50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載されたX線画像検査装置。
【請求項5】
前記特性X線発生器と直接入射型冷却X線CCD検出器との間のX線経路中に、両端にX線透過膜を備えた、真空の密閉容器またはヘリウムガスを充填した密閉容器を配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載されたX線画像検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図11】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図11】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−217098(P2010−217098A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66584(P2009−66584)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省「中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業(「産業技術研究開発事業(中小企業支援型)」)、生体材料構造評価装置の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591146790)ソフテックス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省「中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業(「産業技術研究開発事業(中小企業支援型)」)、生体材料構造評価装置の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591146790)ソフテックス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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