説明

X線発生装置、X線コンピュータ断層撮影装置及びX線診断装置

【課題】X線発生装置のメンテナンス時間を短縮することを可能とするX線発生装置、X線コンピュータ断層撮影装置及びX線診断装置の提供。
【解決手段】X線を発生するX線管8と、X線管8に印加する管電圧を発生する管電圧発生部35と、X線管8にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部39と、当該管電圧のもとフィラメント電流に応じてX線管8に流れる管電流を測定する管電流測定部41と、管電流測定部41にて測定された複数の管電流の値と複数の管電流のそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する制御装置記憶部43と、複数の管電流の値と複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法によって推定するエミッション特性推定部47と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメント電流調整を行うX線発生装置、X線コンピュータ断層撮影装置及びX線診断装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置では、フィラメントに電流を流してフィラメントを加熱し、それにより放出される熱電子が管電圧により陽極のターゲットに衝突され、X線が発生する。管電流は、フィラメント電流を増減することにより制御される。
【0003】
X線発生装置は、管電流とフィラメント電流との対応を示すエミッション特性のデータを記憶している。例えば、エミッション特性は、管電圧80kVの下で管電流を500mAにするためにはどれだけの値のフィラメント電流を流せばよいかを示す。X線発生装置は、所望の値の管電流をX線管に流すために、このエミッション特性に従ってフィラメント電流を供給する。しかし、X線管の経年変化等により、実際のエミッション特性とX線発生装置に記憶されているエミッション特性とにずれが生じてしまう。そのため、度々X線発生装置のメンテナンスを行い新たなエミッション特性を生成する必要がある。
【0004】
X線発生装置のメンテナンスは、以下のようにして行なわれる。まず、基準の管電圧及びフィラメント焦点サイズ(以下、単に焦点サイズと呼ぶ)の下、複数の管電流値にてその複数の管電流値を実現する複数のフィラメント電流の値を測定する。この作業をフィラメント電流調整と呼ぶ。また、フィラメント電流調整が行われる管電流の値を、調整ポイント呼ぶ。複数の管電流値は、例えば、数10mA単位で設定される。フィラメント電流調整は全ての管電圧及び焦点サイズの組み合わせにおいて全ての調整ポイントにて行なわれるため、調整ポイントは、膨大な数になる。
【0005】
次に、未調整ポイントにおけるフィラメント電流値をその管電流の前後にある2つの調整ポイントにおけるフィラメント電流値の一次補間によって補間する。こうして新たなエミッション特性が生成される。しかし、この新たなエミッション特性における未調整ポイントのフィラメント電流値は、一次補間によって算出されるので実測値に比して精度が悪い。
【0006】
近年のX線コンピュータ断層撮影装置は、架台の高速化に伴う管電流時間積(mAs)不足を補うため管電流の高出力化傾向にある。従って現行のメンテナンス方式の場合、管電流の高出力化に伴って調整ポイントが増加してしまう。そのため、メンテナンスに費やす時間は、大幅に増加する。
【特許文献1】特開平7−57639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、X線発生装置のメンテナンス時間を短縮することを可能とする、X線発生装置、X線コンピュータ断層撮影装置及びX線診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係わるX線発生装置は、第1の局面において、X線を発生するX線管と、前記X線管に印加する管電圧を発生する管電圧発生部と、前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、前記管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、前記管電流測定部にて測定された複数の管電流の値と前記複数の管電流のそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する記憶部と、前記複数の管電流の値と前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法によって推定するエミッション特性推定部と、を具備する。
【0009】
本発明に係わるX線発生装置は、第2の局面において、X線を発生するX線管と、前記X線管に印加する基準の管電圧を発生する管電圧発生部と、前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、前記基準の管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、前記基準の管電圧における複数の管電流の値にそれぞれ対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶するフィラメント電流値記憶部と、過去に生成された複数の管電圧における複数の過去のエミッション特性を記憶する過去エミッション特性記憶部と、前記基準の管電圧における前記複数の管電流の値と前記基準の管電圧における前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法で推定するエミッション特性推定部と、前記複数の過去のエミッション特性のうち、前記基準の管電圧における過去のエミッション特性と、前記基準の管電圧とは異なる管電圧における過去のエミッション特性との間の間隔を特定する間隔特定部と、前記間隔を前記推定したエミッション特性に加算し、前記基準の管電圧とは異なる管電圧におけるエミッション特性を推定する間隔加算部と、を具備する。
【0010】
本発明に係わるX線コンピュータ断層撮影装置又はX線診断装置は、ある局面において、X線を発生するX線発生装置と、前記X線発生装置から発生し被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力に基づいて画像データを発生するデータ処理装置とを有し、前記X線発生装置は、X線管と、前記X線管に印加する管電圧を発生する管電圧発生部と、前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、前記管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、前記管電流測定部にて測定された複数の管電流の値と前記複数の管電流のそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する記憶部と、前記複数の管電流の値と前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法によって推定するエミッション特性推定部と、を具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、X線発生装置のメンテナンス時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明における第1実施形態を図面を参照しながら説明する。本実施形態に係わるX線発生装置は、所望の複数の管電流の値のそれぞれを実現する複数のフィラメント電流の値を自動的に測定するフィラメント電流調整が可能である。本X線発生装置は、医用分野、非破壊検査分野等の様々な分野で適用可能である。さらに、本X線発生装置は、医用分野の中でも、X線診断装置やX線コンピュータ断層撮影装置等様々な装置に装備可能である。ここでは、本X線発生装置は、医用分野の特にX線コンピュータ断層撮影装置への適用を例に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係わるX線コンピュータ断層撮影装置1の構成を示す図である。図1に示すようにX線コンピュータ断層撮影装置1は、架台(ガントリ)2を有する。架台2は、円環又は円板状の回転フレーム4を回転可能に支持する。回転フレーム4は、撮影領域中に天板6に載置された被検体Pを挟んで対向するようにX線管8とX線検出器10とを有する。スキャン制御部12は、回転フレーム4を一定の角速度で連続回転させる。また、スキャン制御部12は、寝台を所望の方向に移動させる。
【0014】
X線管8は、X線制御装置14の制御のもと高電圧装置16からの高電圧(以下、管電圧と呼ぶ)の印加及びフィラメント電流の供給を受けてX線を発生する。管電流は、フィラメント電流を増減することにより制御される。X線制御装置14は、管電流とフィラメント電流との対応を示すIp/Ifのエミッション特性を記憶している。X線制御装置14は、Ip/Ifのエミッション特性に基づいて高電圧装置16を制御する。また、X線管8、高電圧装置16及びX線制御装置14をまとめてX線発生装置30と呼ぶことにする。
【0015】
X線検出器10には、データ収集部(DAS;Data Acquisition System)18が接続される。データ収集部18は、スキャン制御部12の制御のもと、X線検出器10の各チャンネルの電流信号を収集する。データ収集部18は、収集した電流信号をデジタル信号に変換し、前処理を行う。前処理されたデジタル信号は、投影データと呼ばれる。投影データは、データ収集部18によって光や磁気を使った非接触型又はスリップリング型のデータ伝送部(図示せず)を経由してデータ処理装置20に供給される。
【0016】
データ処理装置20は、投影データに基づいてX線画像データを発生する。また、データ処理装置20は、X線コンピュータ断層撮影装置1の構成要素全体を制御する。システム記憶部22は、データ処理装置20によって発生されたX線画像データやX線コンピュータ断層撮影装置1としての機能を実現するための各種プログラムを記憶する。システムコントローラ24は、操作者からの各種指示をデータ処理装置20に入力する。具体的には、システムコントローラ24は所望の管電流の値や所望の管電圧の値を入力するためのダイヤルスイッチや数値キー等の入力デバイス、及びメンテナンスの開始ボタンを有する。表示部26は、データ処理装置20により発生されたX線画像等を表示する。表示部26としては、液晶表示器等の表示デバイスが利用可能である。
【0017】
図2は、X線発生装置30の構成を示す図である。図2に示すように、X線発生装置30は、X線管8を有する。X線管8は、内部が高真空に保持されたガラスバルブ31を有する。ガラスバルブ31には、陽極32と陰極とが保持されている。陽極32は、典型的には高速に回転する回転陽極である。陰極は、フィラメント33からなり、典型的には、図示はしないが焦点サイズが小さい小焦点フィラメントと焦点サイズが大きい大焦点フィラメントとからなる。
【0018】
高電圧装置16は、管電圧発生部35、管電圧測定部37、フィラメント電流供給部39及び管電流測定部41を有する。管電圧発生部35は、陽極32と陰極との間に印加するための管電圧を発生する。管電圧測定部37は、陽極32と陰極との間に配置される分圧抵抗からなり、陽極32と陰極との間に印加された管電圧を測定する。フィラメント電流供給部39は、フィラメント33を加熱するためにフィラメント33にフィラメント電流を供給する。管電流測定部41は、陽極32に衝突する電子ビームによって流れる管電流の値を測定する。管電流はフィラメント33の温度により決定される。従ってフィラメント電流を変化させることにより管電流の値を変化させることができる。
【0019】
X線制御装置14は、制御装置記憶部43、入力部45、エミッション特性推定部47及びX線制御部49を有する。制御装置記憶部43は、フィラメント電流調整時に管電圧測定部37によって測定された複数の管電圧の値、管電流測定部41によって測定された複数の管電流の値及び複数の管電流の値にそれぞれ対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する。また、制御装置記憶部14は、Ip/Ifのエミッション特性を記憶する。
【0020】
入力部45は、操作者からの各種指示をX線制御部49に入力する。具体的には、入力部45は、X線条件として、所望の管電圧の値や所望の管電流の値を入力するためのダイヤルスイッチや数値キー等の入力デバイス、及びメンテナンスの開始ボタンを有する。
【0021】
エミッション特性推定部47は、制御装置記憶部43に記憶されている複数の管電流の値とそのそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を推定する。以下、管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を、Ip/Ifのエミッション特性と呼ぶ。具体的には、エミッション特性推定部47は、複数の管電流の値と複数のフィラメント電流の値とを高次の補間法における高次の多項式に代入して計算する。計算が終わると高次の多項式に含まれる複数の係数が算出されるので、エミッション特性推定部47は、算出した複数の係数を高次の多項式に代入し、Ip/Ifのエミッション特性としての式を生成する。生成された式は、全ての管電流の値についてフィラメント電流調整を行った場合に得られる真のIp/Ifのエミッション特性に近似するので、近似式と呼ぶことにする。補間法としては、ラグランジュ補間法やスプライン補間法が適用可能である。ラグランジュ補間法の場合、高次の多項式は、ラグランジュの補間多項式と呼ばれる一般に良く知られている多項式である。スプライン補間法の場合、高次の多項式は、典型的には、3次の区分多項式と呼ばれる一般に良く知られている多項式である。従ってこれら高次の多項式の説明は、省略する。
【0022】
X線制御部49は、エミッション特性推定部47によって生成された近似式から所望の管電流に対応するフィラメント電流(以下、所望のフィラメント電流と呼ぶ)の値を算出する。次に、X線制御部49は、所望のフィラメント電流の値に応じたフィラメント電流制御信号をフィラメント電流供給部39に供給する。フィラメント電流供給信号に応じたフィラメント電流がフィラメント33に供給される。
【0023】
フィラメント電流調整時においてX線制御部49は、管電流の測定値と供給するフィラメント電流の値とに基づいて、管電流の測定値を入力された所望の管電流の値に近づけるようにフィラメント電流制御信号をフィラメント電流供給部39に供給する。また、フィラメント電流調整時においてX線制御部49は、予め設定された順番に従って管電流を切替える。
【0024】
X線制御部49は、操作者により入力部45又はシステムコントローラ24を介して入力された所望の管電圧に応じた管電圧制御信号を管電圧発生部35に供給する。管電圧制御信号に応じた管電圧が陽極32と陰極との間に印加される。また、フィラメント電流調整時においてX線制御部49は、予め設定された順番に従って管電圧やフィラメントの焦点サイズを切替える。
【0025】
以下、第1実施形態における処理の1例を説明する。図3は、第1実施形態における処理の流れを示す図である。図3に示すように、X線制御部37は、操作者からのメンテナンス開始要求を受信するために待機している(ステップSA1)。操作者は、入力部45又はシステムコントローラ24に設けられたメンテナンス開始要求ボタンを押すことを契機として、メンテナンス作業を開始する。
【0026】
メンテナンス開始要求がされたならX線制御部49は、フィラメント電流調整を開始するように管電圧発生部35、フィラメント電流供給部39及びフィラメント電流測定部41の動作を開始させる。
【0027】
図4は、フィラメント電流調整における調整ポイントの一例を示す図である。ここで、X線管8の出力可能な管電流値の範囲は10mA〜600mAとする。図4に示すように調整ポイントは、小さい方から順に、最小値10mA、中間値300mA、別の中間値500mA、最大値600mAである。管電圧の設定ポイントは、80kV、100kV、120kV及び135kV、焦点サイズは小焦点及び大焦点である。以下、図3の処理は、これらの条件のもとで行なわれるとする。まずは、初めの(基準の)管電圧は80kV、基準の焦点サイズは大焦点であるとする。なお、管電圧、焦点サイズ及び調整ポイントは、X線制御部8によって自動的に設定される。
【0028】
フィラメント電流調整において、基準管電圧及び焦点サイズのもとX線管8が出力可能な管電流値のうちの最小管電流値、最大管電流値及び中間の2点における管電流値とそれを実現するフィラメント電流値とが測定される(ステップSA2)。このようなルールで調整ポイントが設定されるので調整ポイントの数は、X線管8の出力の大きさに依らず一定となる。ステップSA2において、基準の管電圧及び焦点サイズのもとフィラメント電流調整が行なわれ、管電流最小値10mA、中間値300mA、別の中間値500mA、最大値600mAにそれぞれ対応するフィラメント電流の値が測定される。
【0029】
フィラメント電流調整が終了すると、X線制御部49は、エミッション特性推定部47にエミッション特性推定処理を開始させる。エミッション特性推定処理においてエミッション特性推定部47は、ステップSA2にて測定された4つの管電流値とそのそれぞれに対応する4つのフィラメント電流値との4点を通るIp/Ifのエミッション特性を推定する(ステップSA3)。
【0030】
図5は、ステップSA3で推定したエミッション特性を示す図である。図5に示すように縦軸はフィラメント電流(A:アンペア)、横軸は管電流(mA:ミリアンペア)である。ステップSA2にて測定された4つの管電流値及び4つのフィラメント電流値は、(管電流、フィラメント電流)という形式で書くと、(10mA、4.1A)、(300mA、4.6A)、(500mA、4.8A)、(600mA、4.9A)であるとする。エミッション特性推定部47は、得られた4点をラグランジュ補間法又はスプライン補間法における高次の多項式に代入して計算し、複数の係数を算出する。そしてエミッション特性推定部47は、算出された係数を高次の多項式に代入することによってIp/Ifのエミッション特性としての近似式を生成する。
【0031】
図5に示すように、ステップSA3にて生成した近似式が示す曲線(図5の実線)は、ラグランジュ補間法やスプライン補間法を用いて生成されたため、4点全てを通過する。また、近似式が示す曲線は、従来のような一次補間ではなく、高次の補間法を用いて生成されているので4点を雲形定規で結んだように滑らかな曲線になる。従って生成された近似式は真のIp/Ifのエミッション特性に近似する。すなわち、近似式を生成することにより、真のIp/Ifのエミッション特性を生成せずともIp/Ifのエミッション特性が推定されたことになる。
【0032】
ステップSA3にてIp/Ifのエミッション特性(近似式)が推定されると、推定されたIp/Ifのエミッション特性(近似式)は、制御装置記憶部43に記憶される(ステップSA4)。
【0033】
次に、X線制御部49は、管電圧を変更するか否かを判断する(ステップSA5)。変更すると判断した場合X線制御部49は、ステップSA2に進み、ステップSA2〜ステップSA4における処理を行う。このようにステップSA2〜ステップSA5が繰り返されることで、さらに大焦点での管電圧100kV、120kV及び135kVにおけるIp/Ifのエミッション特性が推定される。
【0034】
ステップSA5にて管電圧を変更しないと判断した場合X線制御部49は、焦点サイズを変更するか否かを判断する(ステップSA6)。変更すると判断した場合X線制御部49は、ステップSA2に進み、ステップSA2〜ステップSAにおける処理を行う。このようにステップSA2〜ステップSA6が繰り返されることで、小焦点においても管電圧80kV、100kV、120kV及び135kVにおけるIp/Ifのエミッション特性が推定される。
【0035】
ステップSA6にて焦点サイズを変更しないと判断した場合X線制御部49は、メンテナンスを終了する(ステップSA7)。この図3の処理により、8つのIp/Ifのエミッション特性が制御装置記憶部43に記憶される。
【0036】
以上で、図3の処理は終了する。
【0037】
次に、記憶されたエミッション特性(近似式)の利用場面の一例を説明を簡単にする。X線診断を行なう場面において、操作者は、X線条件として所望の管電圧及び所望の管電流の値を、入力部45又はシステムコントローラ24を介して入力する。X線制御部49は、入力された所望の管電圧におけるIp/Ifのエミッション特性(近似式)を制御装置記憶部45から読み出す。そしてX線制御部49は、読み出したIp/Ifのエミッション特性(近似式)に、入力された所望の管電流の値を代入し計算することにより、所望の管電圧における所望のフィラメント電流の値を算出する。そしてX線制御部49は、算出した所望のフィラメント電流の値に応じたフィラメント電流制御信号をフィラメント電流供給部39に供給し、所望のフィラメント電流に対応する管電流の値に応じた強度のX線がX線管8から発生される。
【0038】
また、操作者等の必要に応じてエミッション特性推定部47は、Ip/Ifのエミッション特性(近似式)を用いて、複数の未調整ポイントにおける複数のフィラメント電流の値を算出し、フィラメント電流と管電流との対応テーブルを生成する。フィラメント電流の値は、例えば、管電流10mA単位で算出される。生成された対応テーブルは、制御装置記憶部43に記憶される。X線診断を行なう場合、X線制御部49は,生成された対応テーブルに基づいて、フィラメント電流供給部39を制御して、X線管8からX線を発生させる。
【0039】
また、制御記憶部43はOLP(Over Load Protection)情報と相関係数とを記憶し、X線制御部49はフィラメント電流調整によって得られたフィラメント電流の値をOLP状況に応じて補正する。その結果、フィラメント33のメインヒートを最適値にすることが可能となり、フィードバック切替時に発生するフィラメント電流の段つきを抑えることができる。
【0040】
上記構成を有するX線コンピュータ断層撮影装置1は、4又は5つの調整ポイントにおいてフィラメント電流調整を行い、その結果得られた複数の管電流の値と複数のフィラメント電流の値との複数の点を通るエミッション特性を推定する。従って、調整ポイントを数10mA単位で設定していた従来に比して、本実施形態は少ない調整ポイントでフィラメント電流調整を済ますことができる。その結果、X線発生装置30及びX線コンピュータ断層撮影装置1は、従来に比して、大幅にメンテナンスの時間を短縮することが可能である。
【0041】
また従来は、2つの調整ポイントの間のフィラメント電流の値は、2つの調整ポイントにおけるフィラメント電流の値の1次補間によって算出されていた。しかしながら本実施形態は、2つの調整ポイントの間のフィラメント電流の値は高次の補間法によって算出されるので、従来の1次補間に比してより実測値に近似する値となる。
【0042】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第1実施形態よりも、メンテナンスに費やす時間を削減できるX線発生装置及びX線コンピュータ断層撮影装置を説明する。なお以下の説明において、第1実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0043】
第2実施形態における制御装置記憶部43´は、管電圧測定部37によって測定された複数の管電圧の値、管電流測定部41によって測定された複数の管電流の値及び複数の管電流の値にそれぞれ対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する。また、制御装置記憶部43´は、過去に生成された複数の管電圧における複数のIp/Ifのエミッション特性(近似式)を記憶する。以下、過去に生成された複数の管電圧における複数のIp/Ifのエミッション特性を、過去のIp/Ifのエミッション特性と呼ぶ。
【0044】
エミッション特性推定部47´は、エミッション特性推定機能、間隔特定機能及び間隔加算機能を有する。エミッション特性推定機能によりエミッション特性推定部47´は、
制御装置記憶部43´に記憶されている複数の管電流の値とそのそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値との複数の点を通るIp/Ifのエミッション特性を推定する。
【0045】
間隔特定機能によりエミッション特性推定部47´は、制御装置記憶部43´に記憶されている複数の管電圧における複数の過去のIp/Ifのエミッション特性のうち、基準の管電圧における過去のIp/Ifのエミッション特性と、基準の管電圧とは異なる複数の管電圧における複数の過去のIp/Ifのエミッション特性との間の複数の間隔を特定する。
【0046】
間隔加算機能によりエミッション特性推定部47´は、特定された複数の間隔それぞれを生成したIp/Ifのエミッション特性(近似式)に加算し、複数の管電圧における複数のIp/Ifのエミッション特性(近似式)を生成する。
【0047】
以下、第2実施形態の1動作例を説明する、図6は、第2実施形態の処理の流れを示す図である。図6に示すように、以下、第1実施形態の1動作例を説明する。図6は、第1実施形態の処理の流れを示す図である。図6に示すように、X線制御部37は、操作者からのメンテナンス開始要求を受信するために待機している(ステップSB1)。操作者は、入力部45又はシステムコントローラ24に設けられたメンテナンス開始要求ボタンを押すことを契機として、メンテナンス作業を開始する。
【0048】
メンテナンス開始要求がされたならX線制御部49は、フィラメント電流調整を開始するように管電圧発生部35、フィラメント電流供給部39及びフィラメント電流測定部41の動作を開始させる。
【0049】
図6は、第2実施形態におけるフィラメント電流調整における調整ポイントの一例を示す図である。図6に示すように、第2実施形態におけるフィラメント電流調整処理では、予め設定された又は操作者により任意に決定された1つの値の管電圧(基準の管電圧)においてのみフィラメント電流調整が行われる。
【0050】
フィラメント電流調整において、基準管電圧及び焦点サイズのもとX線管8が出力可能な管電流値のうちの最小管電流値、最大管電流値及び中間の2点における管電流値とそれを実現するフィラメント電流値とを測定する(ステップSB2)。ステップSB2において基準の管電圧及び焦点サイズのもとフィラメント電流調整が行なわれ、管電流最小値10mA、中間値300mA、別の中間値500mA、最大値600mAにそれぞれ対応するフィラメント電流の値が測定される。
【0051】
次にエミッション特性推定部47´は、ステップSB2にて測定された4つの管電流値とそのそれぞれに対応する4つのフィラメント電流値との4点を通るIp/Ifのエミッション特性を推定する(ステップSB3)。ステップSB3にて、基準管電圧及び焦点サイズでのIp/Ifのエミッション特性(近似式)がエミッション特性推定部47´により生成される。
【0052】
次に、エミッション特性推定部47´は、制御装置記憶部43´に記憶されている複数の管電圧における複数の過去のIp/Ifのエミッション特性(近似式)を読み出す(ステップSB4)。
【0053】
エミッション特性推定部47´は、ステップSB4にて読み出した複数の過去のIp/Ifのエミッション特性(近似式)のうち、基準管電圧における過去のIp/Ifのエミッション特性(近似式)と、基準管電圧とは異なる複数の管電圧の複数の過去のIp/Ifのエミッション特性(近似式)との間の複数の間隔を特定する(ステップSB5)。
【0054】
エミッション特性推定部47´は、ステップSB5にて特定した複数の間隔をステップSB3にて推定した基準管電圧におけるIp/Ifのエミッション特性(近似式)にそれぞれ加算して、基準管電圧とは異なる複数のエミッション特性を推定する(ステップSB6)。
【0055】
以下、ステップSB4〜ステップSB6の処理を具体的に説明する。図7は、ステップSB4〜ステップSB6の処理を説明するための図であり、複数の管電圧における複数の過去のIp/Ifのエミッション特性を示した図である。図7に示すように、縦軸はフィラメント電流(A:アンペア)で、横軸は管電流(mA:ミリアンペア)である。
【0056】
まずエミッション特性推定部47´は、図7に示すような複数の管電圧(管電圧80kV、100kV、120、135kV)における過去のIp/Ifのエミッション特性(近似式)を読み出す。次にエミッション特性推定部47´は、基準管電圧80kVにおける過去のIp/Ifのエミッション特性の管電流10mAでのフィラメント電流の値V1と管電圧100kVにおける管電流10mAでのフィラメント電流の値V2との間隔(d1=V1−V2)を特定する。同様にエミッション特性推定部47´は、フィラメント電流の値V1と管電圧120kVにおける管電流10mAでのフィラメント電流の値V3との間隔(d2=V1−V3)及びフィラメント電流の値V1と管電圧135kVにおける管電流10mAでのフィラメント電流の値V4との間隔(d3=V1−V4)を特定する。なお、管電流10mAでのフィラメント電流の値の差を特定するとしたが、20mAでのフィラメント電流の値の差であっても100mAでのフィラメント電流の値の差であっても、どの値でもよい。
【0057】
次にエミッション特性推定部47´は、ステップSB3にて推定した基準管電圧80kVにおけるIp/Ifのエミッション特性(近似式)にステップSB5にて特定した複数の間隔d、2d及び3dをそれぞれ加算する。つまり、加算されたIp/Ifのエミッション特性(近似式)は、加算される前の近似式を縦軸に間隔d、2d及び3dだけシフトされたものである。加算された3つのIp/Ifのエミッション特性(近似式)は、それぞれ管電圧100kV、120kV及び135kVにおけるIp/Ifのエミッション特性(近似式)となる。
【0058】
ステップSB3及びステップSB6にて推定された4つのIp/Ifのエミッション特性は、制御装置記憶部43´に記憶される(ステップSB7)。
【0059】
X線制御部49は、焦点サイズを変更するか否かを判断する(ステップSB8)。変更すると判断した場合X線制御部49は、ステップSB2に進み、ステップSB2〜ステップSB7における処理を行う。このようにステップSB2〜ステップSB8が繰り返されることで、小焦点での管電圧80kV、100kV、120kV及び135kVにおけるIp/Ifのエミッション特性が推定される。
【0060】
ステップSA8にて焦点サイズを変更しないと判断した場合X線制御部49は、メンテナンスを終了する(ステップSB8)。この図6の処理により、8つのエミッション特性が制御装置記憶部43に記憶される。
【0061】
上記構成を有するX線発生装置30及びX線コンピュータ断層撮影装置1は、基準の管電圧及び焦点サイズにおいてのみフィラメント電流調整を行い、それ以外の管電圧及び焦点サイズにおけるIp/Ifのエミッション特性は、過去のIp/Ifのエミッション特性に基づいて生成される。その結果、X線発生装置30のメンテナンスに要する時間が大幅に短縮される。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図。
【図2】図1のX線発生装置の構成を示す図。
【図3】第1実施形態における処理の流れを示す図。
【図4】図3の処理におけるフィラメント電流調整の調整ポイントを示す図である。
【図5】図3のステップSA3にて推定されるIp/Ifのエミッション特性(近似式)を示す図である。
【図6】第2実施形態における処理の流れを示す図。
【図7】図6の処理におけるフィラメント電流調整の調整ポイントを示す図である。
【図8】図6のステップSB4〜ステップSB6の処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1…X線コンピュータ断層撮影装置、2…架台、4…回転フレーム、6…天板、8…X線管、10…X線検出器、12…スキャン制御部、14…X線制御装置、16…高電圧装置、18…データ収集部、20…データ処理装置、22…システム記憶部、24…システムコントローラ、26…表示部、30…X線発生装置、31…ガラスバルブ、32…陽極、33…フィラメント、35…管電圧発生部、37…管電圧測定部、39…フィラメント電流供給部、41…管電流測定部、43…制御装置記憶部、45…入力部、47…エミッション特性推定部、49…X線制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生するX線管と、
前記X線管に印加する管電圧を発生する管電圧発生部と、
前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、
前記管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、
前記管電流測定部にて測定された複数の管電流の値と前記複数の管電流のそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する記憶部と、
前記複数の管電流の値と前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法によって推定するエミッション特性推定部と、
を具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記エミッション特性推定部は、前記高次の補間法における高次の多項式に前記複数の管電流の値と前記複数のフィラメント電流の値とを代入して計算し、前記高次の多項式に含まれる複数の係数を算出し、前記算出した係数を前記高次の多項式に代入することによりエミッション特性に近似する式を生成することを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記複数の管電流の値は、前記X線管が出力可能な管電流の最小値、最大値、及び前記最小値と前記最大値との間の2又は3つの値であることを特徴とする請求項2記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記高次の補間法は、ラグランジュ補間法又はスプライン補間法であることを特徴とする請求項3記載のX線発生装置。
【請求項5】
所望の管電圧における所望の管電流の値を入力する入力部と、
前記推定したエミッション特性と前記所望の管電圧における所望の管電流の値とに基づいて前記所望の管電圧における所望の管電流に対応するフィラメント電流を前記フィラメント電流供給部に供給させるX線制御部と、
をさらに具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項6】
X線を発生するX線管と、
前記X線管に印加する基準の管電圧を発生する管電圧発生部と、
前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、
前記基準の管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、
前記基準の管電圧における複数の管電流の値にそれぞれ対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶するフィラメント電流値記憶部と、
過去に生成された複数の管電圧における複数の過去のエミッション特性を記憶する過去エミッション特性記憶部と、
前記基準の管電圧における前記複数の管電流の値と前記基準の管電圧における前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法で推定するエミッション特性推定部と、
前記複数の過去のエミッション特性のうち、前記基準の管電圧における過去のエミッション特性と、前記基準の管電圧とは異なる管電圧における過去のエミッション特性との間の間隔を特定する間隔特定部と、
前記間隔を前記推定したエミッション特性に加算し、前記基準の管電圧とは異なる管電圧におけるエミッション特性を推定する間隔加算部と、
を具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項7】
X線を発生するX線発生装置と、前記X線発生装置から発生し被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力に基づいて画像データを発生するデータ処理装置とを有し、
前記X線発生装置は、
X線管と、
前記X線管に印加する管電圧を発生する管電圧発生部と、
前記X線管にフィラメント電流を供給するフィラメント電流供給部と、
前記管電圧のもと前記フィラメント電流に応じて前記X線管に流れる管電流を測定する管電流測定部と、
前記管電流測定部にて測定された複数の管電流の値と前記複数の管電流のそれぞれに対応する複数のフィラメント電流の値のデータを記憶する記憶部と、
前記複数の管電流の値と前記複数のフィラメント電流の値との複数の点を通る管電流とフィラメント電流とのエミッション特性を高次の補間法によって推定するエミッション特性推定部と、
を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置又はX線診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−218338(P2008−218338A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57521(P2007−57521)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】