X線管電子源
【課題】比較的安価でかつ長寿命のX線管電子源の提供。
【解決手段】X線管は抑制器(14、16)内に収容される放出器ワイヤ(18)を備える。抽出グリッドが、放出器ワイヤに対して垂直に延在する複数の平行なワイヤ(20)を備え、集束グリッドが、グリッドワイヤ(20)に対して平行であり、かつグリッドワイヤ(20)から等間隔で離間して配置される複数のワイヤ(22)を備える。グリッドワイヤはスイッチによって正の抽出電位または負の阻止電位に接続され、いつでも一対の隣接するグリッドワイヤ(22)が共に接続され、抽出対を形成し、それが電子ビームを生成するように、それらのスイッチが制御される。ビームの位置は、種々のグリッドワイヤ対を抽出電位に切り替えることにより移動される。
【解決手段】X線管は抑制器(14、16)内に収容される放出器ワイヤ(18)を備える。抽出グリッドが、放出器ワイヤに対して垂直に延在する複数の平行なワイヤ(20)を備え、集束グリッドが、グリッドワイヤ(20)に対して平行であり、かつグリッドワイヤ(20)から等間隔で離間して配置される複数のワイヤ(22)を備える。グリッドワイヤはスイッチによって正の抽出電位または負の阻止電位に接続され、いつでも一対の隣接するグリッドワイヤ(22)が共に接続され、抽出対を形成し、それが電子ビームを生成するように、それらのスイッチが制御される。ビームの位置は、種々のグリッドワイヤ対を抽出電位に切り替えることにより移動される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管、X線管のための電子源およびX線イメージングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、熱電子放出器または冷陰極源を用いることができる電子源と、抽出電位と阻止電位とを切り替えて放出器からの電子の抽出を制御することができる、グリッドのような或る形態の抽出デバイスと、電子によって衝撃を与えられるときにX線を生成する陽極とを備える。そのようなシステムの例が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【特許文献1】米国特許第4,274,005号明細書
【特許文献2】米国特許第5,259,014号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
たとえば、医療用およびセキュリティ用として、X線スキャナを利用する機会が増えると、比較的安価で、かつ寿命が長いX線管を製造することが益々望まれるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明は、複数の電子源領域を画定する電子放出手段と、それぞれが電子源領域の少なくとも1つに関連付けられる複数のグリッド領域を画定する抽出グリッドと、各グリッド領域と個々の電子源領域との間の相対的な電位を制御し、電子が放出手段から抽出される位置を上記電子源領域間で動かすことができるように構成される制御手段と、を備えるX線スキャナ用電子源を提供する。
【0005】
抽出グリッドは、放出手段に沿って間隔を置いて配置される複数のグリッド素子を含むことができる。この場合、各グリッド領域が、それらのグリッド素子のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0006】
放出手段は細長い放出器部材を含み、グリッド素子は、電子源領域がそれぞれ放出器部材に沿った個々の位置に存在するように、放出器部材に沿って離隔して配置される。
【0007】
制御手段は、各グリッド素子を、放出手段に対して正の電位を有する抽出電位か、放出手段に対して負の電位を有する阻止電位かのいずれかに接続するように構成されることが好ましい。制御手段は、グリッド素子を、隣接する対毎に次々に抽出電位に接続して、グリッド素子の各対間に電子ビームを誘導するように構成されることがさらに好ましい。各グリッド素子は、隣接するいずれかのグリッド素子と同じ電位に接続することができ、2つの異なるグリッド対の一部を構成できるようにすることがさらに好ましい。
【0008】
制御手段は、隣接するグリッド対がそれぞれ抽出電位に接続されている間に、そのグリッド対のいずれかの側にあるグリッド素子、さらにはその対にはない全てのグリッド素子を阻止電位に接続するように構成することができる。
【0009】
グリッド素子は平行で細長い部材を備えることが好ましく、同じく細長い部材である放出部材は、グリッド素子に対して概ね垂直に延在することが好ましい。
【0010】
グリッド素子はワイヤを含むことができ、より好ましくは平面的であり、放出器部材に対して概ね垂直な平面内に延在して、放出器部材を陽極からの逆方向のイオン衝撃から保護する。グリッド素子は、隣接するグリッド素子間の距離に概ね等しい距離だけ、放出手段から離隔して配置されることが好ましい。
【0011】
電子源はさらに複数の集束素子を含むことが好ましく、それらの集束素子も細長く、グリッド素子に対して平行であり、電子ビームがグリッド素子を通過した後に、そのビームを集束するように構成されることが好ましい。集束素子は、任意のグリッド素子対の間を通り抜けた電子が、対応する一対の集束素子の間を通り抜けるように、グリッド素子と位置合わせることがさらに好ましい。
【0012】
集束素子は、放出器に対して負の電位を有する電位に接続されるように構成されることが好ましい。集束素子は、グリッド素子に対して正の電位を有する電位に接続されるように構成されることが好ましい。
【0013】
制御手段は集束素子にかけられる電位を制御し、それにより電子ビームの集束を制御するように構成されることが好ましい。
【0014】
集束素子はワイヤを含み、平面的であり、放出器部材に対して概ね垂直な平面内に延在して、放出器部材を陽極からの逆方向のイオン衝撃から保護することができる。
【0015】
1つまたは複数の隣接するグリッド素子のグループが抽出電位に切り替えられる場合には、電子がそのグリッド素子の上記グループの幅よりも長い放出器部材の長さから抽出されることになるように、グリッド素子は放出器から離隔して配置されることが好ましい。たとえば、グリッド素子は、隣接するグリッド素子間の距離に少なくとも概ね等しい距離だけ放出器部材から離隔して配置することができ、その距離は約5mmにすることができる。
【0016】
グリッド素子は抽出された電子を少なくとも部分的に集束してビームにするように構成されることが好ましい。
【0017】
本発明は、本発明による電子源および少なくとも1つの陽極を含むX線管システムをさらに提供する。少なくとも1つの陽極は、異なるグリッド素子によって生成される電子ビームが陽極の異なる部分に衝突することになるように構成される細長い陽極を含むことが好ましい。
【0018】
本発明は、本発明によるX線管と、X線検出手段とを備えるX線スキャナをさらに提供し、制御手段は、個々のX線源点から上記少なくとも1つの陽極上にX線を生成し、且つ検出手段から個々のデータセットを収集するように構成される。検出手段は複数の検出器を備えることが好ましい。制御手段は、電子源領域又はグリッド領域の電位を制御するように構成されて、電子源領域から成り、それぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループから電子を抽出し、且つ照明毎に検出手段の読み値を記録することがさらに好ましい。制御手段は、記録された読み値に数学的な変換を適用して、X線管と検出器との間に置かれる物体の特徴を再構成するようにさらに構成されることがさらに好ましい。
【0019】
本発明は、複数のX線源点を有するX線源と、X線検出手段と、X線源を制御するように構成されて、X線源点から成り、それぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループからX線を生成し、且つ照明毎に検出手段の読み値を記録する制御手段とを備えるX線スキャナをさらに提供する。X線源点は直線状のアレイに配列されることが好ましい。検出手段はX線源点の直線状のアレイに対して概ね垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイを含むことが好ましい。制御手段は照明毎に各検出器からの読み値を記録するように構成されることがさらに好ましい。これによって、制御手段は各検出器からの読み値を用いて、物体の個々の層の特徴を再構成することができる。制御手段は、読み値を用いて、物体の3次元再構成物を形成するように構成されることが好ましい。
【0020】
本発明は、X線源点の直線状のアレイを備えるX線源と、検出器の直線状のアレイを備えるX線検出手段と、制御手段とを備えるX線スキャナをさらに備え、直線状のアレイは互いに対して概ね垂直に配列され、制御手段はX線源点又は検出器のいずれかを制御して、それぞれが異なる数のX線源点又は検出器から成るグループを含む複数の連続したグループにおいて動作させるように、且つ数学的な変換を用いて検出器からの読み値を解析して物体の3次元画像を生成するように構成される。制御手段は、上記複数のグループにおいてX線源点を動作させるように構成され、上記グループ毎に各検出器から同時に読み値が得られることが好ましい。別法では、制御手段は、上記複数のグループにおいて検出器を動作させて、グループ毎に、各X線源点を次々に起動して、個々の読み値を生成するように構成されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
例示にすぎないが、ここで、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1を参照すると、電子源が、2つの側板14、16を有する導電性金属抑制器12と、抑制器側板14と16との間に抑制器に沿って延在する放出器素子18とを備える。グリッドワイヤ20の形をとる複数のグリッド素子が抑制器12の上方において支持され、その2つの側板14と16との間の隙間を越えて、放出器素子18に対して垂直な平面内に延在する。この例では、グリッドワイヤは0.5mmの直径を有し、5mmの距離だけ離隔して配置される。またグリッドワイヤは放出器素子18からも約5mm離隔して配置される。集束ワイヤ22の形をとる複数の集束素子が、放出器素子に対してグリッドワイヤの反対側にある別の平面内に支持される。集束ワイヤ22はグリッドワイヤ20に対して平行であり、グリッドワイヤと同じ間隔、すなわち5mmだけ互いから離隔して配置され、各集束ワイヤ22はそれぞれ1つのグリッドワイヤ20と位置合わせされる。集束ワイヤ22はグリッドワイヤ20から約8mm離隔して配置される。
【0023】
図2で示すように、電子源10が放出器ユニット25のハウジング24に収容され、抑制器12はハウジング24の底面24a上に支持される。集束ワイヤ22は、放出器素子18に対して平行に延在する2本の支持レール26a、26b上に支持され、抑制器12から離隔して配置され、支持レールはハウジング24の底面24a上に取り付けられる。支持レール26a、26bは導電性であり、集束ワイヤ22は全て互いに電気的に接続されるようになる。支持レールのうちの一方26aは、ハウジング24の底面24aを貫通して突出するコネクタ28に接続され、集束ワイヤ22のための電気的な接続を与える。グリッドワイヤ20はそれぞれ抑制器12の一方の側板16に沿って延在し、グリッドワイヤ20毎に個別の電気的な接続を与える個々の電気コネクタ30に接続される。
【0024】
陽極32はハウジング24の側壁24bと24cとの間に支持される。陽極32は通常タングステンまたは銀めっきされた銅の柱状体として形成され、放出器素子18に対して平行に延在する。それゆえ、グリッドワイヤ20および集束ワイヤ22は、放出器素子18と陽極32との間に延在する。陽極32への電気コネクタ34が、ハウジング24の側壁24bを貫通して延在する。
【0025】
放出器素子18は抑制器12の端部12a、12bにおいて支持されるが、抑制器12から電気的には分離され、ハウジング24内のさらに別のコネクタ36、38を介して供給される電流によって加熱される。この実施の形態では、放出器18は、ヒータとしての役割を果たすタングステンワイヤコア、コアを覆うニッケルコーティング、およびニッケルを覆う、低仕事関数を有する希土類酸化物の層から形成される。しかしながら、簡単なタングステンワイヤのような、他のタイプの放出器を用いることもできる。
【0026】
図3を参照すると、電子ビーム40を生成するために、放出器素子18は電気的に接地され、加熱され、電子を放出するようになる。抑制器は、通常3〜5Vの一定の電圧に保持されて、外部からの電界が電子を望ましくない方向に加速するのを防ぐ。一対の隣接するグリッドワイヤ20a、20bが、放出器よりも高い1〜4kVの電位に接続される。他のグリッドワイヤは−100Vの電位に接続される。全ての集束ワイヤ22がグリッドワイヤよりも高い1〜4kVの正の電位に保持される。
【0027】
抽出するグリッドワイヤ対内のグリッドワイヤ20a、20bから離隔した全てのグリッドワイヤ20は、放出器素子18の長さの大部分にわたって、陽極に向かって電子が放出されるのを抑制し、さらに概ね防ぐ。これは、それらのグリッドワイヤが放出器18に対して負の電位を有するためであり、それゆえ、結果としてグリッドワイヤ20と放出器18との間の電界の方向によって、放出された電子が放出器18に向かって強制的に戻される傾向がある。しかしながら、抽出するグリッドワイヤ対20a、20bは、放出器18に対して正の電位にあり、放出器18から放出された電子を引き寄せて、それにより抽出するワイヤ20a、20bの間を通過し、かつ陽極32に向かって進む電子ビーム40が生成される。放出器素子18からグリッドワイヤ20が離隔して配置されることに起因して、2つのグリッドワイヤ20aと20bとの間の間隔よりもかなり長い、放出器素子18の長さxから放出される電子が一緒に引き寄せられて、一対のワイヤ20aと20bとの間を通過するビームになる。それゆえ、グリッドワイヤ20は、電子を抽出するための役割を果たすだけでなく、それらの電子をまとめて集束してビーム40にするための役割も果たす。電子が抽出されることになる放出器18の長さは、グリッドワイヤ20の間隔、および抽出するグリッドワイヤ対20a、20bと残りのグリッドワイヤ20との間の電位差による。
【0028】
2つの抽出するグリッドワイヤ20a、20b間を通過した後に、ビーム40は、対応する一対の集束ワイヤ22a、22bに向かって引き寄せられて、その間を通過する。ビームは、集束ワイヤ22と陽極32との間にある焦線f1に向かって収束し、その後、陽極32に向かって再び発散する。集束ワイヤ22の正の電位を変更して、焦線f1の位置を変更し、それによりビームが陽極32に衝突するときのビーム幅を変更することができる。
【0029】
放出器18および陽極32が縦方向において示される図4を参照すると、電子ビーム40は再び集束ワイヤ22と陽極32との間にある焦線f2に向かって収束し、その焦線f2の位置は主に放出器18と陽極32との間に生成される電界強度による。
【0030】
図2に戻ると、移動する電子ビームを生成するために、一連の隣接するグリッドワイヤ20の対が迅速に次々と抽出電位に接続され、それによりX線が生成されることになる陽極32の位置を変更することができる。
【0031】
電子が抽出される放出器18の長さxがグリッドワイヤ20間の間隔よりも著しく長いという事実はいくつかの利点を有する。所与の最小ビーム間隔、すなわち電子ビームの2つの隣接する位置の間の最小距離の場合に、ビーム毎に電子を抽出することができる放出器18の長さは、その最小ビーム間隔よりもはるかに長い。これは、放出器18の各部分から放出される電子を、複数の異なる位置に引き寄せてビームを形成することができるためである。これにより、放出器18を、従来の電子源に比べて相対的に低い温度で作動させて、同等のビーム流を与えることができる。別法では、従来の電子源と同じ温度を用いる場合には、はるかに大きく、たとえば7倍までのビーム流を生成することができる。また放出器18の長さにわたる電子源の輝度の偏差も平滑化され、結果として、放出器18の種々の部分から抽出されるビーム強度の偏差が大幅に低減される。
【0032】
図5を参照すると、X線スキャナ50が従来の配列で構成されており、中央のスキャナZ軸の周囲に円弧状に配列され、かつスキャナZ軸に向かってX線を放射するように向けられる放射器ユニット25のアレイを備える。センサ52のリングが、放射器の内側に配置され、スキャナZ軸に向かって内側に向けられる。放射器ユニットから放射されるX線が、放射器ユニットの最も近くにあるセンサの傍を通り過ぎて、さらにZ軸を通って、放射器ユニットから最も遠くにあるセンサによって検出されるように、センサ52および放射器ユニット25はZ軸に沿って互いからオフセットされる。スキャナは、図5の機能ブロックによって表される複数の機能を操作する制御システムによって制御される。システム制御ブロック54が、画像表示ユニット56、X線管制御ブロック58および画像再構成ブロック60を制御し、それらのユニットおよびブロックからデータを受信する。X線管制御ブロック58は、各放射器ユニット25内の集束ワイヤ22の電位を制御する集束制御ブロック62と、各放射器ユニット25内の個々のグリッドワイヤ20の電位を制御するグリッド制御ブロック64と、各放射器ブロックの陽極32に電源を供給し、かつ放出器素子18に電源を供給する高電圧源68とを制御する。画像再構成ブロック60は、センサ制御ブロック70を制御し、センサ制御ブロック70からデータを受信し、センサ制御ブロック70はさらに、センサ52を制御し、かつセンサ52からデータを受信する。
【0033】
動作時に、走査されることになる物体がZ軸に沿って動かされ、さらに物体の周囲を回転するようにX線ビームが各放射器ユニットに沿って掃引されて、各ユニット内の各X線源位置から物体の中を通過するX線がセンサ52によって検出される。走査時のX線源位置毎のセンサ52からのデータが個々のデータセットとして記録される。X線源位置が回転する度に得られるデータセットを解析して、物体を貫通する平面の画像を生成することができる。物体がZ軸に沿って動くのに応じて、ビームは繰返し回転して、物体全体の3次元の断層X線撮影画像を構成する。
【0034】
図6を参照すると、本発明の第2の実施の形態では、グリッド素子120および集束素子122が平坦な帯状片として形成される。素子120、122は第1の実施の形態と同様に配置されるが、帯状片の平面は放出器素子118および陽極132に対して垂直に、かつ放出器素子118が電子を放出するように構成される方向に対して平行に存在する。この構成の1つの利点は、陽極132に衝突し、放出器に向かって戻される電子ビーム140によって生成されるイオン170が、放出器に達する前に、素子120、122によって概ね阻止されることである。電子ビーム140の経路に沿って真直ぐに戻される少数のイオン172は放出器に達することになるが、逆方向のイオン衝撃に起因する放出器への全損傷は大幅に低減される。場合によっては、グリッド素子120だけ、または集束素子122だけを平坦にすれば十分であるかもしれない。
【0035】
図6の実施の形態では、帯状片120、122の幅は、それらが離隔する距離、すなわち約5mmに概ね等しい。しかしながら、それらの幅をかなり広くできることは理解されよう。
【0036】
図7を参照すると、本発明の第3の実施の形態では、グリッド素子220および集束素子222が第1の実施の形態の場合よりも近接して配置される。これにより、グリッド素子のうちの3つ以上、図示される例では220a、220b、220cの3つのグループが抽出電位に切り替えられて、抽出グリッド内に抽出窓を形成することができる。この場合、抽出窓の幅は3つの素子220のグループの幅に概ね等しい。放出器218からのグリッド素子220の間隔は抽出窓の幅に概ね等しい。集束素子も、各集束素子を正の電位または負の電位のいずれかに接続することができるような個々のスイッチによって正の電位に接続される。電子ビームを集束するのに最も適している2つの集束素子222a、222bが正の集束電位に接続される。残りの集束素子222は負の電位に接続される。この場合、集束するために必要とされる2つの集束素子の間に1つの集束素子222cが存在するので、その集束素子も正の集束電位に接続される。
【0037】
図8および図9を参照すると、本発明の第4の実施の形態による電子源が、図には1つしか示されないが、複数の放出器素子318を備え、それぞれその中に電流を流すことによって加熱されるタングステン金属帯状片から形成される。帯状片の中央にある領域318aは、その表面から電子を熱放射するための仕事関数を低減するためにトリウムを含有する。抑制器312が、その下側314に沿って延在する溝313を有する金属ブロックを含み、その溝の中に放出器素子318が配置される。開口部315の列が抑制器312に沿って設けられ、それぞれ個々の放出器素子318のトリウム含有領域318aと位置合わせされる。1つしか示されないが、一連のグリッド素子320が抑制器312内の開口部315上に、すなわち放出器素子318に対して開口部315の反対側に延在する。各グリッド素子320も、その中を貫通する開口部321を有し、その開口部は個々の抑制器開口部315と位置合わせされ、放出器素子318を離れる電子が開口部315、320を通ってビームとして進行することができるようにする。放出器素子318は電気コネクタ319に接続され、グリッド素子320は電気コネクタ330に接続され、コネクタ320、330は、図8には示されないが、底面部材324から突出し、放出器素子318の中に電流を流し、かつグリッド素子20の電位を制御できるようにする。
【0038】
動作時に、通常10V未満である、放出器素子318とその周囲を取り巻く抑制器電極312との間の電位差に起因して、放出器素子318のトリウム含有領域318aから電子が抽出される。抑制器312上に配置され、個別に制御することができる個々のグリッド素子320の電位に応じて、これらの電子はグリッド素子320に向かって抽出されることになるか、または放出点に隣接する場所に留まるであろう。
【0039】
グリッド素子320が放出器素子318に対して正の電位(たとえば+300V)に保持される場合には、抽出された電子はグリッド素子318に向かって加速することになり、その大部分が、抑制器312内の開口部315の上方にある、グリッド素子320内に配置される開口部321を通過するであろう。これは電子ビームを形成し、その電子ビームはグリッド320上の外部電界の中を通り抜ける。
【0040】
グリッド素子320が放出器318に対して負の電位(たとえば−300V)に保持されるとき、抽出された電子はグリッドから押し戻されることになり、放出点に隣接する場所に留まるであろう。これは、電子源からの外部への電子放出をゼロまで減らす。
【0041】
この電子源は、図5に示すのに類似のスキャナシステムの一部を形成するように構成することができ、各グリッド素子330の電位は個別に制御される。これは、グリッド制御式電子源を含むスキャナを提供し、電子源の実効的な放出源位置は、図5を参照して先に説明されたのと同じようにして、電子制御によって空間内で変更することができる。
【0042】
図10を参照すると、本発明の第5の実施の形態では、電子源が図8および図9の電子源に類似であり、対応する部品は同じ参照番号に100を加えた数によって示される。この実施の形態では、放出器素子318は、抑制器ボックス412内に配置される一本の加熱されるワイヤフィラメント418によって置き換えられる。一連のグリッド素子420を用いて、外部の電子ビーム440を得るための実効的な放出源の位置が決定される。ワイヤ318の中に電流が流れることによってワイヤ318の長さに沿って受ける電位差に起因して、電子抽出の効率は場所とともに変化するであろう。
【0043】
これらの変化を小さくするために、図11に示すような補助的な酸化物放出器500を用いることができる。この放出器500は、導電性チューブ、好ましくはニッケルをストロンチウム−バリウム酸化物でコーティングした材料のような低仕事関数の放出器材料502を含む。タングステンワイヤ506がガラスまたはセラミック粒子508でコーティングされ、その後、チューブ504の中に通される。図10の放出源において用いられるとき、ニッケルチューブ504は抑制器412に対して適当な電位に保持され、タングステンワイヤ506の中に電流が流される。ワイヤ506が加熱されるとき、放射される熱エネルギーがニッケルチューブ504を加熱する。これによりさらに、放出器材料502が加熱され、電子を放出し始める。この場合、放出器電位は抑制器電極412に対して固定されるので、放出器500の長さに沿って一様な抽出効率が確保される。さらに、ニッケルの良好な熱伝導率に起因して、たとえば、製造中の厚み変動によって、または経年変化によって引き起こされる、タングステンワイヤ506の温度の変動が平均化されて、結果として放出器500の全ての領域において電子抽出がより均一になる。
【0044】
図12を参照すると、本発明の第6の実施の形態では、グリッド制御式電子放出器が、一方の側601(たとえば10×3mm)においてストロンチウムバリウム酸化物のような低仕事関数の酸化物材料602によってコーティングされた、小さな、通常10×3×3mmのニッケルブロック600を含む。ニッケルブロック600は、電気的なフィードスルー606上に取り付けることにより、周囲を取り巻く抑制器電極604に対して、たとえば+60V〜+300Vの電位に保持される。1つまたは複数のタングステンワイヤ608が、ニッケルブロック600内の絶縁された穴610の中に通される。通常、これは、ニッケルブロック600内の穴610の中にタングステンワイヤを通す前に、タングステンワイヤをガラスまたはセラミック粒子612でコーティングすることにより達成される。ワイヤメッシュ614が抑制器604に電気的に接続され、ニッケルブロック600のコーティングされた表面601の上方に延在し、表面601の上方で抑制器604と同じ電位が確立されるようにする。
【0045】
タングステンワイヤ608の中に電流が流されるとき、そのワイヤは加熱され、周囲を取り巻くニッケルブロック600に熱エネルギーを放射する。ニッケルブロック600が加熱されるので、酸化物コーティング602が暖められる。約900℃において、酸化物コーティング602は実効的な電子放出器になる。
【0046】
絶縁されたフィードスルー606を用いて、ニッケルブロック600が抑制器電極604に対して負(たとえば−60V)の電位に保持される場合には、酸化物602からの電子が、抑制器604と一体に構成されるワイヤメッシュ614を通って、外部の真空に抽出されるであろう。ニッケルブロック600が抑制器電極604に対して正(たとえば+60V)の電位に保持される場合には、メッシュ614による電子放出は遮断されるであろう。ニッケルブロック600およびタングステンワイヤ608の電位が絶縁性粒子612によって互いから絶縁される場合には、タングステンワイヤ608は、通常抑制器電極604の電位に近い電位に固定することができる。
【0047】
1つまたは複数のタングステンワイヤ608を備えて、放出器ブロック600を加熱する、酸化物コーティングされた複数の放出器ブロック600を用いて、複数の放出器電子源を作り出すことができ、各放出器を個別にオンおよびオフすることができる。これにより、その電子源は、たとえば図5のシステムに類似のスキャナシステムにおいて用いることができるようになる。
【0048】
図12a、図12bおよび図12cを参照すると、本発明の第7の実施の形態では、複数の放出器電子源が、それぞれ酸化物602aをコーティングされた複数のニッケル放出器パッド603aを支持する絶縁性アルミナブロック600a、600b、600cのアセンブリを含む。そのブロックは、長い長方形の上側ブロック600aと、対応する形状の下側ブロック600cと、上側ブロックと下側ブロックとの間に狭持され、その間に、そのアセンブリに沿って延在する溝605aを形成する隙間を有する2つの中間ブロック600bとを含む。タングステンヒータコイル608aが、ブロック600a、600b、600cの全長にわたって溝605aに沿って延在する。ニッケルパッド603aは長方形であり、上側ブロック600aの長さに沿って、間隔を置いて上側ブロック600aの上側表面601aにわたって延在する。ニッケルパッド603aは、互いから絶縁されるように離隔して配置される。
【0049】
抑制器604aが、ブロック600a、600b、600cの両側に沿って延在し、ニッケル放出器パッド603aの上方でワイヤメッシュ614aを支持する。抑制器は、メッシュ614aの直ぐ上に配置され、かつ放出源にわたって、ニッケルパッド603aに対して平行に延在する複数の集束ワイヤ616aも支持し、各ワイヤは2つの隣接するニッケルパッド603a間に配置される。集束ワイヤ616aおよびメッシュ614aは抑制器604aに電気的に接続され、それゆえ同じ電位にある。
【0050】
図12の実施の形態と同様に、ヒータコイル608aは放出器パッド603aを加熱し、酸化物層が電子を放出できるようにする。パッド603aは、抑制器604aに対して、たとえば+60Vの正の電位に保持されるが、パッドが放出するように、抑制器604aに対して、たとえば−60Vの負の電位に個別に接続される。図12aに最も分かりやすく示すように、パッド603aのうちの任意のパッドが電子を放出しているとき、これらの電子は、パッド603aのそれぞれの側にある2つの集束ワイヤ616aによって集束されてビーム607aになる。これは、放出器パッド603aと陽極との間にある電界線が、集束ワイヤ616a間を通過する場所においてわずかに内側に押し込まれるためである。
【0051】
図13を参照すると、本発明の第8の実施の形態では、X線源700が、一連のX線源点702からそれぞれX線を生成するように構成される。これらは、1つまたは複数の陽極、および上記の実施の形態のうちの任意の実施の形態による複数の電子源から構成することができる。X線源点702は個別にオンおよびオフすることができる。単一のX線検出器704が配設され、結像されることになる物体706がX線源と検出器との間に置かれる。その後、物体706の画像が、以下に説明されるようなアダマール変換を用いて作成される。
【0052】
図14a〜図14cを参照すると、X線源点702が等しい数の隣接する点702に分割される。たとえば、図14aに示すグループ分けでは、各グループが1つのX線源点702から成る。その際、交互に配置されるグループ内のX線源点702が同時に起動されるので、図14aのグループ分けでは、交互に配置されるX線源点702aは起動される一方、起動されたX線源点702aの間にある各X線源点702bは起動されない。これは、2つのX線源点702a、702bの幅に等しい波長を有する方形波照明パターンを生成する。この照明パターンの場合に、検出器704によって測定されるX線照明の量が記録される。その後、図14bに示すような別の照明パターンが用いられ、X線源点702の各グループが2つの隣接するX線源点を含み、交互に配置されるグループ702cが再び起動され、間にあるグループ702dは起動されない。これは、図14bに示すような方形波照明パターンを生成し、その波長はX線源点702の4つの幅に等しい。再び、検出器704におけるX線照明の量が記録される。その後、この過程が、図14cに示すように、4つのX線源点702のグループで繰り返され、さらに大きな数の他のグループサイズで繰り返される。全てのグループサイズが用いられ、種々の方形波照明波長に関連付けられる個々の測定が行われたとき、その結果を用いて、X線源点702の線と検出器704との間に存在する物体706の2D層の完全な画像プロファイルを、アダマール変換を用いて再構成することができる。この構成の利点は、X線源点を個別に起動する代わりに、いつでもX線源点702の半分が起動され、残りの半分が起動されないことである。それゆえ、この方法の信号対雑音比は、X線源点アレイに沿って走査するためにX線源点702が個別に起動される方法よりも著しく高くなる。
【0053】
物体の一方の側にある単一のX線源と、物体の他方の側にある検出器の直線状のアレイとを用いて、アダマール変換解析を実行することもできる。この場合、異なるサイズのグループ内にあるX線源を起動する代わりに、単一のX線源が連続して起動され、上記のX線源点702のグループに対応する、異なるサイズのグループにおいて検出器からの読み値が得られる。物体の解析およびその画像の再構成は、図13の構成の場合に用いられたものに類似である。
【0054】
図15を参照すると、この構成に対する変更形態では、図13の単一の検出器が、X線源点802の直線状のアレイに対して垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイ804によって置き換えられる。X線源点802および検出器804のアレイは、X線源点アレイの両端にあるX線源点802a、802bと検出器アレイの両端にある検出器804a、804bとを結ぶ線807によって画定される3次元体積805を画定する。このシステムは図13に示すシステムと全く同じように操作されるが、照明されたX線源点の方形波グループ毎に、各検出器804におけるX線照明が記録されることが異なる。検出器毎に、体積805内の物体806の1つの層の2次元画像を再構成することができ、その後、合成して、物体806の完全な3次元画像を形成することができる。
【0055】
図16aおよび図16b、図17および図18を参照すると、さらに別の実施の形態では、放出器素子916が、その上に低仕事関数の放出器918を形成されたAlN放出器層917と、窒化アルミニウム(AlN)基板920および白金(Pt)ヒータ素子922から構成されるヒータ層919とを備え、それらの層は相互接続パッド924を介して接続される。その後、導電性ばね926がAlN基板920を回路基板928に接続する。窒化アルミニウムは熱伝導率が高く、丈夫なセラミック材料であり、AlNの熱膨張率は白金(Pt)の熱膨張率に厳密に一致する。これらの特性によって、X線管の応用形態において用いるための、図16aおよび図16bに示すような一体型ヒータ−電子放出器916を設計できるようになる。
【0056】
通常、Pt金属は、1〜3mmの幅のトラック内に10〜100ミクロンの厚みで形成され、室温において5〜50オームの範囲のトラック抵抗を与える。トラック内に電流を流すことにより、そのトラックは加熱され始めて、この熱エネルギーがAlN基板内に直に放散される。AlNの優れた熱伝導率に起因して、AlNの加熱は基板にわたって概ね一様であり、通常10〜20°の範囲内にある。電流の流れおよび周囲環境によっては、1100℃を超える安定した基板温度を達成することができる。AlNおよびPtはいずれも酸素による侵蝕に耐性があるので、空気中でも、その基板でそのような温度を達成することができる。しかしながら、X線管への応用形態の場合、基板は通常、真空中で加熱される。
【0057】
図17を参照すると、熱反射板930がAlN基板920の加熱される側の近くに配置され、ヒータ効率を改善し、放射による熱伝達を通して熱が失われるのを少なくする。この実施の形態では、熱遮蔽板930は、薄い金層をコーティングされたマイカシートから形成される。金の下にチタン層を加えると、マイカへの接着性が改善される。
【0058】
電子を生成するために、一連のPt帯状片932が、AlN基板のヒータ922とは反対側においてAlN基板920上に堆積され、その両端は基板の側面を取り巻いて延在して、基板の下側において終端し、そこでパッド924を形成する。通常、これらの帯状片932は、Ptインクおよび後続の加熱乾燥を用いて堆積されるであろう。その後、Pt帯状片932は、その中央領域において、Sr;Ba;Ca炭酸塩混合物918をコーティングされる。炭酸塩材料が通常700℃を超える温度まで加熱されるとき、それはSr:Ba:Ca酸化物に分解するであろう。その酸化物は、低仕事関数の材料であり、それは通常700〜900℃の温度において非常に効率的な電子源である。
【0059】
電子ビームを生成するために、Pt帯状片932は、Sr;Ba;Ca酸化物から真空中に抽出されるビーム流の生成源を得るために電源に接続される。この実施の形態では、これは、図17に示すようなアセンブリを用いることにより達成される。ここでは、1組のばね926が、パッド924への電気的な接続と、AlN基板への機械的な接続とを与える。これらのばねは、タングステンから形成されることが好ましいが、モリブデンまたは他の材料を用いることもできる。これらのばね926は、電子放出器アセンブリ916の熱膨張に応じて収縮し、信頼性のある相互接続方法を提供する。
【0060】
ばねの底部は、熱伝導率は低いが、導電率は良好であり、下にあるセラミック回路基板928への電気的な接続を与える薄肉のチューブ934の中に配置されることが好ましい。通常、この下にある回路基板928は、放出器毎に個別に制御される制御/電源信号のための真空フィードトラス(feedthrus)を与えるであろう。その回路基板は、アルミナセラミックのような低いガス放出特性を有する材料から形成されることが最も好ましい。
【0061】
別の構成は、図18に示すように、薄肉のチューブ934とばねアセンブリ926とを入れ替えて、チューブ934が高温で使用され、ばね926が低温で使用されるようにする。これにより、低温においてばねに生じるクリープが小さくなるので、より多くのばね材料を選択できる余地がある。
【0062】
この設計では、図16aおよび図16bに示すような、上側放出表面と下側相互接続点924との間に、AlN基板920上にあるラップアラウンドまたはスルーホールPt相互接続924を用いることが好都合である。別法では、クリップ配列を用いて、電源をAlN基板の上側表面に接続することができる。
【0063】
溶接アセンブリ、高温半田付けアセンブリ、ならびにスナップおよびループばねのような他の機械的な接続を含む、別のアセンブリ方法を用いることができることは明らかである。
【0064】
AlNはバンドギャップが広い半導体材料であり、PtとAlNとの間に、半導体注入コンタクトが形成される。高い動作温度で生じる可能性がある注入電流を小さくするために、注入コンタクトをブロッキングコンタクトに変換することが好都合である。これは、たとえば、Ptメタライゼーションを形成する前に、AlN基板920の表面上に酸化アルミニウム層を成長させることにより達成することができる。
【0065】
別法では、Ptの代わりに、タングステンまたはニッケルのような複数の他の材料を用いることができる。通常、そのような金属は、その焼成過程においてセラミック内に焼結され、強度のあるハイブリッドデバイスをもたらすことができる。
【0066】
場合によっては、AlN基板上の金属をNiのような第2の金属でコーティングすることが好都合である。これにより、たとえば、酸化物放出器の寿命を延ばすのを、またはヒータの抵抗を制御するのを助けることができる。
【0067】
さらに別の実施の形態では、ヒータ素子922は、放出器ブロック917の背面に形成され、図16aの放出器ブロック917の下側が図16bに示すようにする。その際、図16aおよび図16bに示す導電性パッド924は同じ部品であり、コネクタ素子926への電気的な接触を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による電子源を示す図である。
【図2】図1の電子源を含むX線放出器ユニットを示す図である。
【図3】ユニット内の電子の経路を示す、図2のユニットの横断面図である。
【図4】ユニット内の電子の経路を示す、図2のユニットの縦断面図である。
【図5】本発明による複数の放出器ユニットを含むX線イメージングシステムの図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるX線管の図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態によるX線管の図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態によるX線管の斜視図である。
【図9】図8のX線管の断面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態によるX線管の断面図である。
【図11】図10のX線管の一部を形成する放出器素子を示す図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態によるX線管の断面図である。
【図12a】本発明の第7の実施の形態によるX線管の縦断面図である。
【図12b】図12aのX線管の横断面図である。
【図12c】図12aのX線管の一部の斜視図である。
【図13】本発明の第8の実施の形態によるX線走査システムの概略図である。
【図14a】図13のシステムの動作を示す図である。
【図14b】図13のシステムの動作を示す図である。
【図14c】図13のシステムの動作を示す図である。
【図15】本発明の第9の実施の形態によるX線走査システムの概略図である。
【図16a】本発明の第10の実施の形態による放出器の放出器層を示す図である。
【図16b】本発明の第10の実施の形態による放出器のヒータ層を示す図である。
【図17】図16aおよび図16bの放出器層およびヒータ層を含む放出器素子を示す図である。
【図18】図17に示す放出器素子の別の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10・・・電子源、 12・・・導電性金属抑制器、 14・・・抑制器側板、 16・・・側板、 18・・・放出器素子、 20・・・グリッドワイヤ、 22・・・集束ワイヤ、 24・・・ハウジング、 25・・・放射器ユニット、 26a・・・支持レール、 28・・・コネクタ、 30・・・電気コネクタ、 32・・・陽極、 34・・・電気コネクタ、 36・・・コネクタ、 40・・・電子ビーム、 50・・・線スキャナ、 52・・・センサ、 54・・・システム制御ブロック、 56・・・画像表示ユニット、 58・・・線管制御ブロック、 60・・・画像再構成ブロック、 62・・・集束制御ブロック、 64・・・グリッド制御ブロック、 68・・・高電圧源、 70・・・センサ制御ブロック、 118・・・放出器素子、 120・・・グリッド素子、 122・・・集束素子、 132・・・陽極、 140・・・電子ビーム、 170,172・・・イオン、 218・・・放出器、 220・・・グリッド素子、 222・・・集束素子、 312・・・抑制器電極、 313・・・溝、 314・・・下側、 315・・・抑制器開口部、 318・・・放出器素子、 319・・・電気コネクタ、 320・・・グリッド素子、 321・・・開口部、 324・・・底面部材、 330・・・グリッド素子、 412・・・抑制器、 418・・・ワイヤフィラメント、 420・・・グリッド素子、 440・・・電子ビーム、 500・・・酸化物放出器、 502・・・放出器材料、 504・・・ニッケルチューブ、 506・・・タングステンワイヤ、 508・・・セラミック粒子、 600・・・放出器ブロック、 601・・・表面、 602・・・酸化物、 603a・・・ニッケル放出器パッド、 604・・・抑制器電極、 605a・・・溝、 606・・・フィードスルー、 607a・・・ビーム、 608・・・タングステンワイヤ、 610・・・穴、 612・・・セラミック粒子、 614・・・ワイヤメッシュ、 616a・・・集束ワイヤ、 700・・・線源、 702・・・線源点、 704・・・検出器、 706・・・物体、 802・・・線源点、 804・・・検出器、 805・・・体積、 806・・・物体、 807・・・線、 916・・・電子放出器、 917・・・放出器ブロック、 918・・・放出器、 919・・・ヒータ層、 920・・・基板、 922・・・ヒータ素子、 924・・・導電性パッド、 926・・・コネクタ素子、 928・・・セラミック回路基板、 930・・・熱遮蔽板、 932・・・帯状片、 934・・・チューブ。
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管、X線管のための電子源およびX線イメージングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、熱電子放出器または冷陰極源を用いることができる電子源と、抽出電位と阻止電位とを切り替えて放出器からの電子の抽出を制御することができる、グリッドのような或る形態の抽出デバイスと、電子によって衝撃を与えられるときにX線を生成する陽極とを備える。そのようなシステムの例が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【特許文献1】米国特許第4,274,005号明細書
【特許文献2】米国特許第5,259,014号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
たとえば、医療用およびセキュリティ用として、X線スキャナを利用する機会が増えると、比較的安価で、かつ寿命が長いX線管を製造することが益々望まれるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明は、複数の電子源領域を画定する電子放出手段と、それぞれが電子源領域の少なくとも1つに関連付けられる複数のグリッド領域を画定する抽出グリッドと、各グリッド領域と個々の電子源領域との間の相対的な電位を制御し、電子が放出手段から抽出される位置を上記電子源領域間で動かすことができるように構成される制御手段と、を備えるX線スキャナ用電子源を提供する。
【0005】
抽出グリッドは、放出手段に沿って間隔を置いて配置される複数のグリッド素子を含むことができる。この場合、各グリッド領域が、それらのグリッド素子のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0006】
放出手段は細長い放出器部材を含み、グリッド素子は、電子源領域がそれぞれ放出器部材に沿った個々の位置に存在するように、放出器部材に沿って離隔して配置される。
【0007】
制御手段は、各グリッド素子を、放出手段に対して正の電位を有する抽出電位か、放出手段に対して負の電位を有する阻止電位かのいずれかに接続するように構成されることが好ましい。制御手段は、グリッド素子を、隣接する対毎に次々に抽出電位に接続して、グリッド素子の各対間に電子ビームを誘導するように構成されることがさらに好ましい。各グリッド素子は、隣接するいずれかのグリッド素子と同じ電位に接続することができ、2つの異なるグリッド対の一部を構成できるようにすることがさらに好ましい。
【0008】
制御手段は、隣接するグリッド対がそれぞれ抽出電位に接続されている間に、そのグリッド対のいずれかの側にあるグリッド素子、さらにはその対にはない全てのグリッド素子を阻止電位に接続するように構成することができる。
【0009】
グリッド素子は平行で細長い部材を備えることが好ましく、同じく細長い部材である放出部材は、グリッド素子に対して概ね垂直に延在することが好ましい。
【0010】
グリッド素子はワイヤを含むことができ、より好ましくは平面的であり、放出器部材に対して概ね垂直な平面内に延在して、放出器部材を陽極からの逆方向のイオン衝撃から保護する。グリッド素子は、隣接するグリッド素子間の距離に概ね等しい距離だけ、放出手段から離隔して配置されることが好ましい。
【0011】
電子源はさらに複数の集束素子を含むことが好ましく、それらの集束素子も細長く、グリッド素子に対して平行であり、電子ビームがグリッド素子を通過した後に、そのビームを集束するように構成されることが好ましい。集束素子は、任意のグリッド素子対の間を通り抜けた電子が、対応する一対の集束素子の間を通り抜けるように、グリッド素子と位置合わせることがさらに好ましい。
【0012】
集束素子は、放出器に対して負の電位を有する電位に接続されるように構成されることが好ましい。集束素子は、グリッド素子に対して正の電位を有する電位に接続されるように構成されることが好ましい。
【0013】
制御手段は集束素子にかけられる電位を制御し、それにより電子ビームの集束を制御するように構成されることが好ましい。
【0014】
集束素子はワイヤを含み、平面的であり、放出器部材に対して概ね垂直な平面内に延在して、放出器部材を陽極からの逆方向のイオン衝撃から保護することができる。
【0015】
1つまたは複数の隣接するグリッド素子のグループが抽出電位に切り替えられる場合には、電子がそのグリッド素子の上記グループの幅よりも長い放出器部材の長さから抽出されることになるように、グリッド素子は放出器から離隔して配置されることが好ましい。たとえば、グリッド素子は、隣接するグリッド素子間の距離に少なくとも概ね等しい距離だけ放出器部材から離隔して配置することができ、その距離は約5mmにすることができる。
【0016】
グリッド素子は抽出された電子を少なくとも部分的に集束してビームにするように構成されることが好ましい。
【0017】
本発明は、本発明による電子源および少なくとも1つの陽極を含むX線管システムをさらに提供する。少なくとも1つの陽極は、異なるグリッド素子によって生成される電子ビームが陽極の異なる部分に衝突することになるように構成される細長い陽極を含むことが好ましい。
【0018】
本発明は、本発明によるX線管と、X線検出手段とを備えるX線スキャナをさらに提供し、制御手段は、個々のX線源点から上記少なくとも1つの陽極上にX線を生成し、且つ検出手段から個々のデータセットを収集するように構成される。検出手段は複数の検出器を備えることが好ましい。制御手段は、電子源領域又はグリッド領域の電位を制御するように構成されて、電子源領域から成り、それぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループから電子を抽出し、且つ照明毎に検出手段の読み値を記録することがさらに好ましい。制御手段は、記録された読み値に数学的な変換を適用して、X線管と検出器との間に置かれる物体の特徴を再構成するようにさらに構成されることがさらに好ましい。
【0019】
本発明は、複数のX線源点を有するX線源と、X線検出手段と、X線源を制御するように構成されて、X線源点から成り、それぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループからX線を生成し、且つ照明毎に検出手段の読み値を記録する制御手段とを備えるX線スキャナをさらに提供する。X線源点は直線状のアレイに配列されることが好ましい。検出手段はX線源点の直線状のアレイに対して概ね垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイを含むことが好ましい。制御手段は照明毎に各検出器からの読み値を記録するように構成されることがさらに好ましい。これによって、制御手段は各検出器からの読み値を用いて、物体の個々の層の特徴を再構成することができる。制御手段は、読み値を用いて、物体の3次元再構成物を形成するように構成されることが好ましい。
【0020】
本発明は、X線源点の直線状のアレイを備えるX線源と、検出器の直線状のアレイを備えるX線検出手段と、制御手段とを備えるX線スキャナをさらに備え、直線状のアレイは互いに対して概ね垂直に配列され、制御手段はX線源点又は検出器のいずれかを制御して、それぞれが異なる数のX線源点又は検出器から成るグループを含む複数の連続したグループにおいて動作させるように、且つ数学的な変換を用いて検出器からの読み値を解析して物体の3次元画像を生成するように構成される。制御手段は、上記複数のグループにおいてX線源点を動作させるように構成され、上記グループ毎に各検出器から同時に読み値が得られることが好ましい。別法では、制御手段は、上記複数のグループにおいて検出器を動作させて、グループ毎に、各X線源点を次々に起動して、個々の読み値を生成するように構成されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
例示にすぎないが、ここで、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1を参照すると、電子源が、2つの側板14、16を有する導電性金属抑制器12と、抑制器側板14と16との間に抑制器に沿って延在する放出器素子18とを備える。グリッドワイヤ20の形をとる複数のグリッド素子が抑制器12の上方において支持され、その2つの側板14と16との間の隙間を越えて、放出器素子18に対して垂直な平面内に延在する。この例では、グリッドワイヤは0.5mmの直径を有し、5mmの距離だけ離隔して配置される。またグリッドワイヤは放出器素子18からも約5mm離隔して配置される。集束ワイヤ22の形をとる複数の集束素子が、放出器素子に対してグリッドワイヤの反対側にある別の平面内に支持される。集束ワイヤ22はグリッドワイヤ20に対して平行であり、グリッドワイヤと同じ間隔、すなわち5mmだけ互いから離隔して配置され、各集束ワイヤ22はそれぞれ1つのグリッドワイヤ20と位置合わせされる。集束ワイヤ22はグリッドワイヤ20から約8mm離隔して配置される。
【0023】
図2で示すように、電子源10が放出器ユニット25のハウジング24に収容され、抑制器12はハウジング24の底面24a上に支持される。集束ワイヤ22は、放出器素子18に対して平行に延在する2本の支持レール26a、26b上に支持され、抑制器12から離隔して配置され、支持レールはハウジング24の底面24a上に取り付けられる。支持レール26a、26bは導電性であり、集束ワイヤ22は全て互いに電気的に接続されるようになる。支持レールのうちの一方26aは、ハウジング24の底面24aを貫通して突出するコネクタ28に接続され、集束ワイヤ22のための電気的な接続を与える。グリッドワイヤ20はそれぞれ抑制器12の一方の側板16に沿って延在し、グリッドワイヤ20毎に個別の電気的な接続を与える個々の電気コネクタ30に接続される。
【0024】
陽極32はハウジング24の側壁24bと24cとの間に支持される。陽極32は通常タングステンまたは銀めっきされた銅の柱状体として形成され、放出器素子18に対して平行に延在する。それゆえ、グリッドワイヤ20および集束ワイヤ22は、放出器素子18と陽極32との間に延在する。陽極32への電気コネクタ34が、ハウジング24の側壁24bを貫通して延在する。
【0025】
放出器素子18は抑制器12の端部12a、12bにおいて支持されるが、抑制器12から電気的には分離され、ハウジング24内のさらに別のコネクタ36、38を介して供給される電流によって加熱される。この実施の形態では、放出器18は、ヒータとしての役割を果たすタングステンワイヤコア、コアを覆うニッケルコーティング、およびニッケルを覆う、低仕事関数を有する希土類酸化物の層から形成される。しかしながら、簡単なタングステンワイヤのような、他のタイプの放出器を用いることもできる。
【0026】
図3を参照すると、電子ビーム40を生成するために、放出器素子18は電気的に接地され、加熱され、電子を放出するようになる。抑制器は、通常3〜5Vの一定の電圧に保持されて、外部からの電界が電子を望ましくない方向に加速するのを防ぐ。一対の隣接するグリッドワイヤ20a、20bが、放出器よりも高い1〜4kVの電位に接続される。他のグリッドワイヤは−100Vの電位に接続される。全ての集束ワイヤ22がグリッドワイヤよりも高い1〜4kVの正の電位に保持される。
【0027】
抽出するグリッドワイヤ対内のグリッドワイヤ20a、20bから離隔した全てのグリッドワイヤ20は、放出器素子18の長さの大部分にわたって、陽極に向かって電子が放出されるのを抑制し、さらに概ね防ぐ。これは、それらのグリッドワイヤが放出器18に対して負の電位を有するためであり、それゆえ、結果としてグリッドワイヤ20と放出器18との間の電界の方向によって、放出された電子が放出器18に向かって強制的に戻される傾向がある。しかしながら、抽出するグリッドワイヤ対20a、20bは、放出器18に対して正の電位にあり、放出器18から放出された電子を引き寄せて、それにより抽出するワイヤ20a、20bの間を通過し、かつ陽極32に向かって進む電子ビーム40が生成される。放出器素子18からグリッドワイヤ20が離隔して配置されることに起因して、2つのグリッドワイヤ20aと20bとの間の間隔よりもかなり長い、放出器素子18の長さxから放出される電子が一緒に引き寄せられて、一対のワイヤ20aと20bとの間を通過するビームになる。それゆえ、グリッドワイヤ20は、電子を抽出するための役割を果たすだけでなく、それらの電子をまとめて集束してビーム40にするための役割も果たす。電子が抽出されることになる放出器18の長さは、グリッドワイヤ20の間隔、および抽出するグリッドワイヤ対20a、20bと残りのグリッドワイヤ20との間の電位差による。
【0028】
2つの抽出するグリッドワイヤ20a、20b間を通過した後に、ビーム40は、対応する一対の集束ワイヤ22a、22bに向かって引き寄せられて、その間を通過する。ビームは、集束ワイヤ22と陽極32との間にある焦線f1に向かって収束し、その後、陽極32に向かって再び発散する。集束ワイヤ22の正の電位を変更して、焦線f1の位置を変更し、それによりビームが陽極32に衝突するときのビーム幅を変更することができる。
【0029】
放出器18および陽極32が縦方向において示される図4を参照すると、電子ビーム40は再び集束ワイヤ22と陽極32との間にある焦線f2に向かって収束し、その焦線f2の位置は主に放出器18と陽極32との間に生成される電界強度による。
【0030】
図2に戻ると、移動する電子ビームを生成するために、一連の隣接するグリッドワイヤ20の対が迅速に次々と抽出電位に接続され、それによりX線が生成されることになる陽極32の位置を変更することができる。
【0031】
電子が抽出される放出器18の長さxがグリッドワイヤ20間の間隔よりも著しく長いという事実はいくつかの利点を有する。所与の最小ビーム間隔、すなわち電子ビームの2つの隣接する位置の間の最小距離の場合に、ビーム毎に電子を抽出することができる放出器18の長さは、その最小ビーム間隔よりもはるかに長い。これは、放出器18の各部分から放出される電子を、複数の異なる位置に引き寄せてビームを形成することができるためである。これにより、放出器18を、従来の電子源に比べて相対的に低い温度で作動させて、同等のビーム流を与えることができる。別法では、従来の電子源と同じ温度を用いる場合には、はるかに大きく、たとえば7倍までのビーム流を生成することができる。また放出器18の長さにわたる電子源の輝度の偏差も平滑化され、結果として、放出器18の種々の部分から抽出されるビーム強度の偏差が大幅に低減される。
【0032】
図5を参照すると、X線スキャナ50が従来の配列で構成されており、中央のスキャナZ軸の周囲に円弧状に配列され、かつスキャナZ軸に向かってX線を放射するように向けられる放射器ユニット25のアレイを備える。センサ52のリングが、放射器の内側に配置され、スキャナZ軸に向かって内側に向けられる。放射器ユニットから放射されるX線が、放射器ユニットの最も近くにあるセンサの傍を通り過ぎて、さらにZ軸を通って、放射器ユニットから最も遠くにあるセンサによって検出されるように、センサ52および放射器ユニット25はZ軸に沿って互いからオフセットされる。スキャナは、図5の機能ブロックによって表される複数の機能を操作する制御システムによって制御される。システム制御ブロック54が、画像表示ユニット56、X線管制御ブロック58および画像再構成ブロック60を制御し、それらのユニットおよびブロックからデータを受信する。X線管制御ブロック58は、各放射器ユニット25内の集束ワイヤ22の電位を制御する集束制御ブロック62と、各放射器ユニット25内の個々のグリッドワイヤ20の電位を制御するグリッド制御ブロック64と、各放射器ブロックの陽極32に電源を供給し、かつ放出器素子18に電源を供給する高電圧源68とを制御する。画像再構成ブロック60は、センサ制御ブロック70を制御し、センサ制御ブロック70からデータを受信し、センサ制御ブロック70はさらに、センサ52を制御し、かつセンサ52からデータを受信する。
【0033】
動作時に、走査されることになる物体がZ軸に沿って動かされ、さらに物体の周囲を回転するようにX線ビームが各放射器ユニットに沿って掃引されて、各ユニット内の各X線源位置から物体の中を通過するX線がセンサ52によって検出される。走査時のX線源位置毎のセンサ52からのデータが個々のデータセットとして記録される。X線源位置が回転する度に得られるデータセットを解析して、物体を貫通する平面の画像を生成することができる。物体がZ軸に沿って動くのに応じて、ビームは繰返し回転して、物体全体の3次元の断層X線撮影画像を構成する。
【0034】
図6を参照すると、本発明の第2の実施の形態では、グリッド素子120および集束素子122が平坦な帯状片として形成される。素子120、122は第1の実施の形態と同様に配置されるが、帯状片の平面は放出器素子118および陽極132に対して垂直に、かつ放出器素子118が電子を放出するように構成される方向に対して平行に存在する。この構成の1つの利点は、陽極132に衝突し、放出器に向かって戻される電子ビーム140によって生成されるイオン170が、放出器に達する前に、素子120、122によって概ね阻止されることである。電子ビーム140の経路に沿って真直ぐに戻される少数のイオン172は放出器に達することになるが、逆方向のイオン衝撃に起因する放出器への全損傷は大幅に低減される。場合によっては、グリッド素子120だけ、または集束素子122だけを平坦にすれば十分であるかもしれない。
【0035】
図6の実施の形態では、帯状片120、122の幅は、それらが離隔する距離、すなわち約5mmに概ね等しい。しかしながら、それらの幅をかなり広くできることは理解されよう。
【0036】
図7を参照すると、本発明の第3の実施の形態では、グリッド素子220および集束素子222が第1の実施の形態の場合よりも近接して配置される。これにより、グリッド素子のうちの3つ以上、図示される例では220a、220b、220cの3つのグループが抽出電位に切り替えられて、抽出グリッド内に抽出窓を形成することができる。この場合、抽出窓の幅は3つの素子220のグループの幅に概ね等しい。放出器218からのグリッド素子220の間隔は抽出窓の幅に概ね等しい。集束素子も、各集束素子を正の電位または負の電位のいずれかに接続することができるような個々のスイッチによって正の電位に接続される。電子ビームを集束するのに最も適している2つの集束素子222a、222bが正の集束電位に接続される。残りの集束素子222は負の電位に接続される。この場合、集束するために必要とされる2つの集束素子の間に1つの集束素子222cが存在するので、その集束素子も正の集束電位に接続される。
【0037】
図8および図9を参照すると、本発明の第4の実施の形態による電子源が、図には1つしか示されないが、複数の放出器素子318を備え、それぞれその中に電流を流すことによって加熱されるタングステン金属帯状片から形成される。帯状片の中央にある領域318aは、その表面から電子を熱放射するための仕事関数を低減するためにトリウムを含有する。抑制器312が、その下側314に沿って延在する溝313を有する金属ブロックを含み、その溝の中に放出器素子318が配置される。開口部315の列が抑制器312に沿って設けられ、それぞれ個々の放出器素子318のトリウム含有領域318aと位置合わせされる。1つしか示されないが、一連のグリッド素子320が抑制器312内の開口部315上に、すなわち放出器素子318に対して開口部315の反対側に延在する。各グリッド素子320も、その中を貫通する開口部321を有し、その開口部は個々の抑制器開口部315と位置合わせされ、放出器素子318を離れる電子が開口部315、320を通ってビームとして進行することができるようにする。放出器素子318は電気コネクタ319に接続され、グリッド素子320は電気コネクタ330に接続され、コネクタ320、330は、図8には示されないが、底面部材324から突出し、放出器素子318の中に電流を流し、かつグリッド素子20の電位を制御できるようにする。
【0038】
動作時に、通常10V未満である、放出器素子318とその周囲を取り巻く抑制器電極312との間の電位差に起因して、放出器素子318のトリウム含有領域318aから電子が抽出される。抑制器312上に配置され、個別に制御することができる個々のグリッド素子320の電位に応じて、これらの電子はグリッド素子320に向かって抽出されることになるか、または放出点に隣接する場所に留まるであろう。
【0039】
グリッド素子320が放出器素子318に対して正の電位(たとえば+300V)に保持される場合には、抽出された電子はグリッド素子318に向かって加速することになり、その大部分が、抑制器312内の開口部315の上方にある、グリッド素子320内に配置される開口部321を通過するであろう。これは電子ビームを形成し、その電子ビームはグリッド320上の外部電界の中を通り抜ける。
【0040】
グリッド素子320が放出器318に対して負の電位(たとえば−300V)に保持されるとき、抽出された電子はグリッドから押し戻されることになり、放出点に隣接する場所に留まるであろう。これは、電子源からの外部への電子放出をゼロまで減らす。
【0041】
この電子源は、図5に示すのに類似のスキャナシステムの一部を形成するように構成することができ、各グリッド素子330の電位は個別に制御される。これは、グリッド制御式電子源を含むスキャナを提供し、電子源の実効的な放出源位置は、図5を参照して先に説明されたのと同じようにして、電子制御によって空間内で変更することができる。
【0042】
図10を参照すると、本発明の第5の実施の形態では、電子源が図8および図9の電子源に類似であり、対応する部品は同じ参照番号に100を加えた数によって示される。この実施の形態では、放出器素子318は、抑制器ボックス412内に配置される一本の加熱されるワイヤフィラメント418によって置き換えられる。一連のグリッド素子420を用いて、外部の電子ビーム440を得るための実効的な放出源の位置が決定される。ワイヤ318の中に電流が流れることによってワイヤ318の長さに沿って受ける電位差に起因して、電子抽出の効率は場所とともに変化するであろう。
【0043】
これらの変化を小さくするために、図11に示すような補助的な酸化物放出器500を用いることができる。この放出器500は、導電性チューブ、好ましくはニッケルをストロンチウム−バリウム酸化物でコーティングした材料のような低仕事関数の放出器材料502を含む。タングステンワイヤ506がガラスまたはセラミック粒子508でコーティングされ、その後、チューブ504の中に通される。図10の放出源において用いられるとき、ニッケルチューブ504は抑制器412に対して適当な電位に保持され、タングステンワイヤ506の中に電流が流される。ワイヤ506が加熱されるとき、放射される熱エネルギーがニッケルチューブ504を加熱する。これによりさらに、放出器材料502が加熱され、電子を放出し始める。この場合、放出器電位は抑制器電極412に対して固定されるので、放出器500の長さに沿って一様な抽出効率が確保される。さらに、ニッケルの良好な熱伝導率に起因して、たとえば、製造中の厚み変動によって、または経年変化によって引き起こされる、タングステンワイヤ506の温度の変動が平均化されて、結果として放出器500の全ての領域において電子抽出がより均一になる。
【0044】
図12を参照すると、本発明の第6の実施の形態では、グリッド制御式電子放出器が、一方の側601(たとえば10×3mm)においてストロンチウムバリウム酸化物のような低仕事関数の酸化物材料602によってコーティングされた、小さな、通常10×3×3mmのニッケルブロック600を含む。ニッケルブロック600は、電気的なフィードスルー606上に取り付けることにより、周囲を取り巻く抑制器電極604に対して、たとえば+60V〜+300Vの電位に保持される。1つまたは複数のタングステンワイヤ608が、ニッケルブロック600内の絶縁された穴610の中に通される。通常、これは、ニッケルブロック600内の穴610の中にタングステンワイヤを通す前に、タングステンワイヤをガラスまたはセラミック粒子612でコーティングすることにより達成される。ワイヤメッシュ614が抑制器604に電気的に接続され、ニッケルブロック600のコーティングされた表面601の上方に延在し、表面601の上方で抑制器604と同じ電位が確立されるようにする。
【0045】
タングステンワイヤ608の中に電流が流されるとき、そのワイヤは加熱され、周囲を取り巻くニッケルブロック600に熱エネルギーを放射する。ニッケルブロック600が加熱されるので、酸化物コーティング602が暖められる。約900℃において、酸化物コーティング602は実効的な電子放出器になる。
【0046】
絶縁されたフィードスルー606を用いて、ニッケルブロック600が抑制器電極604に対して負(たとえば−60V)の電位に保持される場合には、酸化物602からの電子が、抑制器604と一体に構成されるワイヤメッシュ614を通って、外部の真空に抽出されるであろう。ニッケルブロック600が抑制器電極604に対して正(たとえば+60V)の電位に保持される場合には、メッシュ614による電子放出は遮断されるであろう。ニッケルブロック600およびタングステンワイヤ608の電位が絶縁性粒子612によって互いから絶縁される場合には、タングステンワイヤ608は、通常抑制器電極604の電位に近い電位に固定することができる。
【0047】
1つまたは複数のタングステンワイヤ608を備えて、放出器ブロック600を加熱する、酸化物コーティングされた複数の放出器ブロック600を用いて、複数の放出器電子源を作り出すことができ、各放出器を個別にオンおよびオフすることができる。これにより、その電子源は、たとえば図5のシステムに類似のスキャナシステムにおいて用いることができるようになる。
【0048】
図12a、図12bおよび図12cを参照すると、本発明の第7の実施の形態では、複数の放出器電子源が、それぞれ酸化物602aをコーティングされた複数のニッケル放出器パッド603aを支持する絶縁性アルミナブロック600a、600b、600cのアセンブリを含む。そのブロックは、長い長方形の上側ブロック600aと、対応する形状の下側ブロック600cと、上側ブロックと下側ブロックとの間に狭持され、その間に、そのアセンブリに沿って延在する溝605aを形成する隙間を有する2つの中間ブロック600bとを含む。タングステンヒータコイル608aが、ブロック600a、600b、600cの全長にわたって溝605aに沿って延在する。ニッケルパッド603aは長方形であり、上側ブロック600aの長さに沿って、間隔を置いて上側ブロック600aの上側表面601aにわたって延在する。ニッケルパッド603aは、互いから絶縁されるように離隔して配置される。
【0049】
抑制器604aが、ブロック600a、600b、600cの両側に沿って延在し、ニッケル放出器パッド603aの上方でワイヤメッシュ614aを支持する。抑制器は、メッシュ614aの直ぐ上に配置され、かつ放出源にわたって、ニッケルパッド603aに対して平行に延在する複数の集束ワイヤ616aも支持し、各ワイヤは2つの隣接するニッケルパッド603a間に配置される。集束ワイヤ616aおよびメッシュ614aは抑制器604aに電気的に接続され、それゆえ同じ電位にある。
【0050】
図12の実施の形態と同様に、ヒータコイル608aは放出器パッド603aを加熱し、酸化物層が電子を放出できるようにする。パッド603aは、抑制器604aに対して、たとえば+60Vの正の電位に保持されるが、パッドが放出するように、抑制器604aに対して、たとえば−60Vの負の電位に個別に接続される。図12aに最も分かりやすく示すように、パッド603aのうちの任意のパッドが電子を放出しているとき、これらの電子は、パッド603aのそれぞれの側にある2つの集束ワイヤ616aによって集束されてビーム607aになる。これは、放出器パッド603aと陽極との間にある電界線が、集束ワイヤ616a間を通過する場所においてわずかに内側に押し込まれるためである。
【0051】
図13を参照すると、本発明の第8の実施の形態では、X線源700が、一連のX線源点702からそれぞれX線を生成するように構成される。これらは、1つまたは複数の陽極、および上記の実施の形態のうちの任意の実施の形態による複数の電子源から構成することができる。X線源点702は個別にオンおよびオフすることができる。単一のX線検出器704が配設され、結像されることになる物体706がX線源と検出器との間に置かれる。その後、物体706の画像が、以下に説明されるようなアダマール変換を用いて作成される。
【0052】
図14a〜図14cを参照すると、X線源点702が等しい数の隣接する点702に分割される。たとえば、図14aに示すグループ分けでは、各グループが1つのX線源点702から成る。その際、交互に配置されるグループ内のX線源点702が同時に起動されるので、図14aのグループ分けでは、交互に配置されるX線源点702aは起動される一方、起動されたX線源点702aの間にある各X線源点702bは起動されない。これは、2つのX線源点702a、702bの幅に等しい波長を有する方形波照明パターンを生成する。この照明パターンの場合に、検出器704によって測定されるX線照明の量が記録される。その後、図14bに示すような別の照明パターンが用いられ、X線源点702の各グループが2つの隣接するX線源点を含み、交互に配置されるグループ702cが再び起動され、間にあるグループ702dは起動されない。これは、図14bに示すような方形波照明パターンを生成し、その波長はX線源点702の4つの幅に等しい。再び、検出器704におけるX線照明の量が記録される。その後、この過程が、図14cに示すように、4つのX線源点702のグループで繰り返され、さらに大きな数の他のグループサイズで繰り返される。全てのグループサイズが用いられ、種々の方形波照明波長に関連付けられる個々の測定が行われたとき、その結果を用いて、X線源点702の線と検出器704との間に存在する物体706の2D層の完全な画像プロファイルを、アダマール変換を用いて再構成することができる。この構成の利点は、X線源点を個別に起動する代わりに、いつでもX線源点702の半分が起動され、残りの半分が起動されないことである。それゆえ、この方法の信号対雑音比は、X線源点アレイに沿って走査するためにX線源点702が個別に起動される方法よりも著しく高くなる。
【0053】
物体の一方の側にある単一のX線源と、物体の他方の側にある検出器の直線状のアレイとを用いて、アダマール変換解析を実行することもできる。この場合、異なるサイズのグループ内にあるX線源を起動する代わりに、単一のX線源が連続して起動され、上記のX線源点702のグループに対応する、異なるサイズのグループにおいて検出器からの読み値が得られる。物体の解析およびその画像の再構成は、図13の構成の場合に用いられたものに類似である。
【0054】
図15を参照すると、この構成に対する変更形態では、図13の単一の検出器が、X線源点802の直線状のアレイに対して垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイ804によって置き換えられる。X線源点802および検出器804のアレイは、X線源点アレイの両端にあるX線源点802a、802bと検出器アレイの両端にある検出器804a、804bとを結ぶ線807によって画定される3次元体積805を画定する。このシステムは図13に示すシステムと全く同じように操作されるが、照明されたX線源点の方形波グループ毎に、各検出器804におけるX線照明が記録されることが異なる。検出器毎に、体積805内の物体806の1つの層の2次元画像を再構成することができ、その後、合成して、物体806の完全な3次元画像を形成することができる。
【0055】
図16aおよび図16b、図17および図18を参照すると、さらに別の実施の形態では、放出器素子916が、その上に低仕事関数の放出器918を形成されたAlN放出器層917と、窒化アルミニウム(AlN)基板920および白金(Pt)ヒータ素子922から構成されるヒータ層919とを備え、それらの層は相互接続パッド924を介して接続される。その後、導電性ばね926がAlN基板920を回路基板928に接続する。窒化アルミニウムは熱伝導率が高く、丈夫なセラミック材料であり、AlNの熱膨張率は白金(Pt)の熱膨張率に厳密に一致する。これらの特性によって、X線管の応用形態において用いるための、図16aおよび図16bに示すような一体型ヒータ−電子放出器916を設計できるようになる。
【0056】
通常、Pt金属は、1〜3mmの幅のトラック内に10〜100ミクロンの厚みで形成され、室温において5〜50オームの範囲のトラック抵抗を与える。トラック内に電流を流すことにより、そのトラックは加熱され始めて、この熱エネルギーがAlN基板内に直に放散される。AlNの優れた熱伝導率に起因して、AlNの加熱は基板にわたって概ね一様であり、通常10〜20°の範囲内にある。電流の流れおよび周囲環境によっては、1100℃を超える安定した基板温度を達成することができる。AlNおよびPtはいずれも酸素による侵蝕に耐性があるので、空気中でも、その基板でそのような温度を達成することができる。しかしながら、X線管への応用形態の場合、基板は通常、真空中で加熱される。
【0057】
図17を参照すると、熱反射板930がAlN基板920の加熱される側の近くに配置され、ヒータ効率を改善し、放射による熱伝達を通して熱が失われるのを少なくする。この実施の形態では、熱遮蔽板930は、薄い金層をコーティングされたマイカシートから形成される。金の下にチタン層を加えると、マイカへの接着性が改善される。
【0058】
電子を生成するために、一連のPt帯状片932が、AlN基板のヒータ922とは反対側においてAlN基板920上に堆積され、その両端は基板の側面を取り巻いて延在して、基板の下側において終端し、そこでパッド924を形成する。通常、これらの帯状片932は、Ptインクおよび後続の加熱乾燥を用いて堆積されるであろう。その後、Pt帯状片932は、その中央領域において、Sr;Ba;Ca炭酸塩混合物918をコーティングされる。炭酸塩材料が通常700℃を超える温度まで加熱されるとき、それはSr:Ba:Ca酸化物に分解するであろう。その酸化物は、低仕事関数の材料であり、それは通常700〜900℃の温度において非常に効率的な電子源である。
【0059】
電子ビームを生成するために、Pt帯状片932は、Sr;Ba;Ca酸化物から真空中に抽出されるビーム流の生成源を得るために電源に接続される。この実施の形態では、これは、図17に示すようなアセンブリを用いることにより達成される。ここでは、1組のばね926が、パッド924への電気的な接続と、AlN基板への機械的な接続とを与える。これらのばねは、タングステンから形成されることが好ましいが、モリブデンまたは他の材料を用いることもできる。これらのばね926は、電子放出器アセンブリ916の熱膨張に応じて収縮し、信頼性のある相互接続方法を提供する。
【0060】
ばねの底部は、熱伝導率は低いが、導電率は良好であり、下にあるセラミック回路基板928への電気的な接続を与える薄肉のチューブ934の中に配置されることが好ましい。通常、この下にある回路基板928は、放出器毎に個別に制御される制御/電源信号のための真空フィードトラス(feedthrus)を与えるであろう。その回路基板は、アルミナセラミックのような低いガス放出特性を有する材料から形成されることが最も好ましい。
【0061】
別の構成は、図18に示すように、薄肉のチューブ934とばねアセンブリ926とを入れ替えて、チューブ934が高温で使用され、ばね926が低温で使用されるようにする。これにより、低温においてばねに生じるクリープが小さくなるので、より多くのばね材料を選択できる余地がある。
【0062】
この設計では、図16aおよび図16bに示すような、上側放出表面と下側相互接続点924との間に、AlN基板920上にあるラップアラウンドまたはスルーホールPt相互接続924を用いることが好都合である。別法では、クリップ配列を用いて、電源をAlN基板の上側表面に接続することができる。
【0063】
溶接アセンブリ、高温半田付けアセンブリ、ならびにスナップおよびループばねのような他の機械的な接続を含む、別のアセンブリ方法を用いることができることは明らかである。
【0064】
AlNはバンドギャップが広い半導体材料であり、PtとAlNとの間に、半導体注入コンタクトが形成される。高い動作温度で生じる可能性がある注入電流を小さくするために、注入コンタクトをブロッキングコンタクトに変換することが好都合である。これは、たとえば、Ptメタライゼーションを形成する前に、AlN基板920の表面上に酸化アルミニウム層を成長させることにより達成することができる。
【0065】
別法では、Ptの代わりに、タングステンまたはニッケルのような複数の他の材料を用いることができる。通常、そのような金属は、その焼成過程においてセラミック内に焼結され、強度のあるハイブリッドデバイスをもたらすことができる。
【0066】
場合によっては、AlN基板上の金属をNiのような第2の金属でコーティングすることが好都合である。これにより、たとえば、酸化物放出器の寿命を延ばすのを、またはヒータの抵抗を制御するのを助けることができる。
【0067】
さらに別の実施の形態では、ヒータ素子922は、放出器ブロック917の背面に形成され、図16aの放出器ブロック917の下側が図16bに示すようにする。その際、図16aおよび図16bに示す導電性パッド924は同じ部品であり、コネクタ素子926への電気的な接触を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による電子源を示す図である。
【図2】図1の電子源を含むX線放出器ユニットを示す図である。
【図3】ユニット内の電子の経路を示す、図2のユニットの横断面図である。
【図4】ユニット内の電子の経路を示す、図2のユニットの縦断面図である。
【図5】本発明による複数の放出器ユニットを含むX線イメージングシステムの図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるX線管の図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態によるX線管の図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態によるX線管の斜視図である。
【図9】図8のX線管の断面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態によるX線管の断面図である。
【図11】図10のX線管の一部を形成する放出器素子を示す図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態によるX線管の断面図である。
【図12a】本発明の第7の実施の形態によるX線管の縦断面図である。
【図12b】図12aのX線管の横断面図である。
【図12c】図12aのX線管の一部の斜視図である。
【図13】本発明の第8の実施の形態によるX線走査システムの概略図である。
【図14a】図13のシステムの動作を示す図である。
【図14b】図13のシステムの動作を示す図である。
【図14c】図13のシステムの動作を示す図である。
【図15】本発明の第9の実施の形態によるX線走査システムの概略図である。
【図16a】本発明の第10の実施の形態による放出器の放出器層を示す図である。
【図16b】本発明の第10の実施の形態による放出器のヒータ層を示す図である。
【図17】図16aおよび図16bの放出器層およびヒータ層を含む放出器素子を示す図である。
【図18】図17に示す放出器素子の別の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10・・・電子源、 12・・・導電性金属抑制器、 14・・・抑制器側板、 16・・・側板、 18・・・放出器素子、 20・・・グリッドワイヤ、 22・・・集束ワイヤ、 24・・・ハウジング、 25・・・放射器ユニット、 26a・・・支持レール、 28・・・コネクタ、 30・・・電気コネクタ、 32・・・陽極、 34・・・電気コネクタ、 36・・・コネクタ、 40・・・電子ビーム、 50・・・線スキャナ、 52・・・センサ、 54・・・システム制御ブロック、 56・・・画像表示ユニット、 58・・・線管制御ブロック、 60・・・画像再構成ブロック、 62・・・集束制御ブロック、 64・・・グリッド制御ブロック、 68・・・高電圧源、 70・・・センサ制御ブロック、 118・・・放出器素子、 120・・・グリッド素子、 122・・・集束素子、 132・・・陽極、 140・・・電子ビーム、 170,172・・・イオン、 218・・・放出器、 220・・・グリッド素子、 222・・・集束素子、 312・・・抑制器電極、 313・・・溝、 314・・・下側、 315・・・抑制器開口部、 318・・・放出器素子、 319・・・電気コネクタ、 320・・・グリッド素子、 321・・・開口部、 324・・・底面部材、 330・・・グリッド素子、 412・・・抑制器、 418・・・ワイヤフィラメント、 420・・・グリッド素子、 440・・・電子ビーム、 500・・・酸化物放出器、 502・・・放出器材料、 504・・・ニッケルチューブ、 506・・・タングステンワイヤ、 508・・・セラミック粒子、 600・・・放出器ブロック、 601・・・表面、 602・・・酸化物、 603a・・・ニッケル放出器パッド、 604・・・抑制器電極、 605a・・・溝、 606・・・フィードスルー、 607a・・・ビーム、 608・・・タングステンワイヤ、 610・・・穴、 612・・・セラミック粒子、 614・・・ワイヤメッシュ、 616a・・・集束ワイヤ、 700・・・線源、 702・・・線源点、 704・・・検出器、 706・・・物体、 802・・・線源点、 804・・・検出器、 805・・・体積、 806・・・物体、 807・・・線、 916・・・電子放出器、 917・・・放出器ブロック、 918・・・放出器、 919・・・ヒータ層、 920・・・基板、 922・・・ヒータ素子、 924・・・導電性パッド、 926・・・コネクタ素子、 928・・・セラミック回路基板、 930・・・熱遮蔽板、 932・・・帯状片、 934・・・チューブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源領域を画定する複数の電子放出手段と、
それぞれが該電子源領域の少なくとも1つに関連付けられる複数のグリッド領域を画定する抽出グリッドと、
各グリッド領域と対応する該電子源領域との間の相対的な電位を制御し、電子が該放出手段から抽出される位置を該電子源領域間で移動させることができるように構成される制御手段と、
抽出された電子を該グリッドから押し戻されるように構成された抑制器とを備えることを特徴とするX線スキャナ用電子源。
【請求項2】
該抑制器は該電子放出手段を取り囲んでいることを特徴とする請求項1に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項3】
該抑制器は複数の開口部を有し、それぞれの開口部はそれぞれの該電子放出手段に位置合わせされていることを特徴とする請求項2に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項4】
該抽出グリッドは該抑制器の上側に位置し、該抽出グリッドは該放出手段に沿って離間して配置される複数のグリッド素子を備えることを特徴とする請求項3に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項5】
それぞれの該グリッド素子は開口部を有し、該開口部はそれぞれの抑制器の開口部に位置合わせされていることを特徴とする請求項4に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項6】
該電子放出手段と該抑制器との間の電位差により電子が該電子源領域から抽出されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項7】
該制御手段は、各グリッド素子を、該放出手段に対して正の電位を有する抽出電位あるいは該放出手段に対して負の電位を有する阻止電位のいずれかに接続するように構成されることを特徴とする請求項4に従属する請求項6に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項8】
該グリッド素子は該抽出電位に保持され、該電子は該グリッド素子に向かって加速されることを特徴とする請求項7に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項9】
該グリッド素子は阻止電位に保持され、該電子は放出点に隣接する場所に留まることを特徴とする請求項7又は8に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項10】
該電子放出手段は、複数の放出器素子を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項11】
該電子放出手段は、一本のフィラメントを有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項12】
該制御手段は該各電子源領域を次々に起動するように構成されることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項13】
該制御手段は、該電子源領域又は該グリッド領域の電位を制御して、該電子源領域の複数の連続したグループから電子を抽出するように構成され、該グループはそれぞれ異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成することを特徴とする請求項1乃至12の何れか一記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか一記載の電子源と、少なくとも1つの陽極とを備えるX線管。
【請求項15】
該少なくとも1つの陽極は、異なるグリッド素子によって生成される電子ビームが該陽極の異なる部分に衝突することになるように構成される長尺状の陽極を含むことを特徴とする請求項14記載のX線管。
【請求項16】
請求項14又は15記載のX線管と、X線検出手段とを備えるX線スキャナであって、該制御手段は、個々のX線源点から該少なくとも1つの陽極上にX線を生成し、且つ該検出手段から個々のデータセットを収集するように構成されることを特徴とするX線スキャナ。
【請求項17】
該検出手段は複数の検出器を備えることを特徴とする請求項16記載のX線スキャナ。
【請求項18】
該制御手段は、該電子源領域又は該グリッド領域の電位を制御して、該電子源領域から成るグループであってそれぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループから電子を抽出し、該照明毎に該検出手段の読み値を記録するように構成されることを特徴とする請求項16又は17記載のX線スキャナ。
【請求項19】
該制御手段は、該記録された読み値に数学的な変換を適用して、該X線管と該検出器との間に置かれる物体の特徴を再構成するようにさらに構成されることを特徴とする請求項18記載のX線スキャナ。
【請求項20】
該X線源点は直線状のアレイに配列されることを特徴とする請求項16乃至19の何れか一記載のX線スキャナ。
【請求項21】
該検出手段は、該X線源点の該直線状のアレイに対して略垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイを含むことを特徴とする請求項20記載のX線スキャナ。
【請求項22】
該制御手段は照明毎に該各検出器からの読み値を記録するように構成されることを特徴とする請求項21記載のX線スキャナ。
【請求項23】
該制御手段は該各検出器からの該読み値を用いて、該物体の個々の層の特徴を再構成するように構成されることを特徴とする請求項22記載のX線スキャナ。
【請求項24】
該制御手段は、該読み値を用いて、該物体の3次元再構成物を形成するように構成されることを特徴とする請求項23記載のX線スキャナ。
【請求項25】
該制御手段は、該複数のグループにおいて該X線源点を動作させるように構成され、該グループ毎に該各検出器から同時に読み値が得られることを特徴とする請求項21乃至24のいずれか一記載のX線スキャナ。
【請求項26】
該制御手段は、該複数のグループにおいて該検出器を動作させて、該グループ毎に、該各X線源点を次々に起動して、個々の読み値を生成するように構成されることを特徴とする請求項21乃至24のいずれか一記載のX線スキャナ。
【請求項1】
電子源領域を画定する複数の電子放出手段と、
それぞれが該電子源領域の少なくとも1つに関連付けられる複数のグリッド領域を画定する抽出グリッドと、
各グリッド領域と対応する該電子源領域との間の相対的な電位を制御し、電子が該放出手段から抽出される位置を該電子源領域間で移動させることができるように構成される制御手段と、
抽出された電子を該グリッドから押し戻されるように構成された抑制器とを備えることを特徴とするX線スキャナ用電子源。
【請求項2】
該抑制器は該電子放出手段を取り囲んでいることを特徴とする請求項1に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項3】
該抑制器は複数の開口部を有し、それぞれの開口部はそれぞれの該電子放出手段に位置合わせされていることを特徴とする請求項2に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項4】
該抽出グリッドは該抑制器の上側に位置し、該抽出グリッドは該放出手段に沿って離間して配置される複数のグリッド素子を備えることを特徴とする請求項3に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項5】
それぞれの該グリッド素子は開口部を有し、該開口部はそれぞれの抑制器の開口部に位置合わせされていることを特徴とする請求項4に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項6】
該電子放出手段と該抑制器との間の電位差により電子が該電子源領域から抽出されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項7】
該制御手段は、各グリッド素子を、該放出手段に対して正の電位を有する抽出電位あるいは該放出手段に対して負の電位を有する阻止電位のいずれかに接続するように構成されることを特徴とする請求項4に従属する請求項6に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項8】
該グリッド素子は該抽出電位に保持され、該電子は該グリッド素子に向かって加速されることを特徴とする請求項7に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項9】
該グリッド素子は阻止電位に保持され、該電子は放出点に隣接する場所に留まることを特徴とする請求項7又は8に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項10】
該電子放出手段は、複数の放出器素子を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項11】
該電子放出手段は、一本のフィラメントを有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一に記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項12】
該制御手段は該各電子源領域を次々に起動するように構成されることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項13】
該制御手段は、該電子源領域又は該グリッド領域の電位を制御して、該電子源領域の複数の連続したグループから電子を抽出するように構成され、該グループはそれぞれ異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成することを特徴とする請求項1乃至12の何れか一記載のX線スキャナ用電子源。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか一記載の電子源と、少なくとも1つの陽極とを備えるX線管。
【請求項15】
該少なくとも1つの陽極は、異なるグリッド素子によって生成される電子ビームが該陽極の異なる部分に衝突することになるように構成される長尺状の陽極を含むことを特徴とする請求項14記載のX線管。
【請求項16】
請求項14又は15記載のX線管と、X線検出手段とを備えるX線スキャナであって、該制御手段は、個々のX線源点から該少なくとも1つの陽極上にX線を生成し、且つ該検出手段から個々のデータセットを収集するように構成されることを特徴とするX線スキャナ。
【請求項17】
該検出手段は複数の検出器を備えることを特徴とする請求項16記載のX線スキャナ。
【請求項18】
該制御手段は、該電子源領域又は該グリッド領域の電位を制御して、該電子源領域から成るグループであってそれぞれが異なる波長の方形波パターンを有する照明を生成する複数の連続したグループから電子を抽出し、該照明毎に該検出手段の読み値を記録するように構成されることを特徴とする請求項16又は17記載のX線スキャナ。
【請求項19】
該制御手段は、該記録された読み値に数学的な変換を適用して、該X線管と該検出器との間に置かれる物体の特徴を再構成するようにさらに構成されることを特徴とする請求項18記載のX線スキャナ。
【請求項20】
該X線源点は直線状のアレイに配列されることを特徴とする請求項16乃至19の何れか一記載のX線スキャナ。
【請求項21】
該検出手段は、該X線源点の該直線状のアレイに対して略垂直な方向に延在する検出器の直線状のアレイを含むことを特徴とする請求項20記載のX線スキャナ。
【請求項22】
該制御手段は照明毎に該各検出器からの読み値を記録するように構成されることを特徴とする請求項21記載のX線スキャナ。
【請求項23】
該制御手段は該各検出器からの該読み値を用いて、該物体の個々の層の特徴を再構成するように構成されることを特徴とする請求項22記載のX線スキャナ。
【請求項24】
該制御手段は、該読み値を用いて、該物体の3次元再構成物を形成するように構成されることを特徴とする請求項23記載のX線スキャナ。
【請求項25】
該制御手段は、該複数のグループにおいて該X線源点を動作させるように構成され、該グループ毎に該各検出器から同時に読み値が得られることを特徴とする請求項21乃至24のいずれか一記載のX線スキャナ。
【請求項26】
該制御手段は、該複数のグループにおいて該検出器を動作させて、該グループ毎に、該各X線源点を次々に起動して、個々の読み値を生成するように構成されることを特徴とする請求項21乃至24のいずれか一記載のX線スキャナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−251142(P2011−251142A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−164600(P2011−164600)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2006−506169(P2006−506169)の分割
【原出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(505396110)シーエックスアール リミテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164600(P2011−164600)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2006−506169(P2006−506169)の分割
【原出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(505396110)シーエックスアール リミテッド (16)
【Fターム(参考)】
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