説明

X線透視撮影装置

【課題】 注目領域がX線画像中から退出することを自動的に防止することが可能なX線透視撮影装置を提供する。
【解決手段】 X線透視撮影装置は、X線管1と、コリメータ10と、X線検出器2と、X線管1とX線検出器2とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アームと、このC型アームをスライド可能に支持する支持部と、この支持部を介してC型アームを旋回させる旋回部と、この旋回部を天井から釣支するための釣支部と、この釣支部を水平移動させるための水平移動部8と、制御部9とを備える。制御部9は、X線検出器2により検出したX線画像中から診断または治療に使用する注目領域を抽出する注目領域抽出部91と、この注目領域がX線画像中から退出することを防止するためにX線照射野Eを移動させるX線照射野移動制御部92とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線透視またはX線撮影により診断または治療を行う医療用のX線透視撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線透視やX線を利用した連続撮影を行う医療用のX線撮影装置においては、例えば、カテーテルを使用した治療が行われる。この場合には、カテーテルにマーカが付設され、X線検出器により検出され表示部に表示されたX線撮影画像に映し出されるマーカの位置を認識することにより、カテーテルの位置が確認される(特許緒文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−115429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のX線透視撮影装置においては、カテーテルを用いた手技において、オペレータがカテーテルを移動させて治療を行う場合には、カテーテルの移動に伴ってマーカの位置が移動する。そして、このマーカが表示部に表示されたX線画像の画像領域外に移動するときには、X線照射野を移動させてマーカがX線画像の画像領域内に配置されるようにする必要がある。このため、オペレータが一旦治療を中断させて、X線照射野を移動させるための動作を実行せざるを得ないという問題がある。このため、治療に長い時間を要し、被検者の負担が大きなものとなってしまう。
【0005】
同様に、被検者に造影剤を注射し、その造影剤の画像を観察して診断を行う場合においても、造影剤の先端の領域が表示部に表示されたX線画像の画像領域外に移動するときに、X線照射野を移動させてマーカがX線画像の画像領域内に配置されるようにする必要がある。このような場合においても、オペレータが一旦診断を中断して、X線照射野を移動させ、造影剤がX線画像の画像領域内に配置されるようにする必要がある。この場合も同様に、治療に長い時間を要し、被検者の負担が大きなものとなってしまう。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、被検者の血管中を流れる造影剤の先端領域や被検者の体内に挿入されるカテーテルに付設されたマーカに対応する領域等の注目領域がX線画像中から退出することを自動的に防止することが可能なX線透視撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、X線透視またはX線撮影により診断または治療を行うX線透視撮影装置において、X線管と、前記X線管から照射され被検者を通過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管からのX線の照射領域に移動可能に配設された複数のコリメータリーフを備え、前記X線管から照射されたX線の被検者に対するX線照射野を形成するコリメータと、前記X線検出器により検出したX線画像を表示する表示部と、前記X線画像中から、診断または治療に使用する注目領域を抽出する注目領域抽出部と、前記注目領域抽出部がX線画像中から退出することを防止するために、前記X線照射野を移動させるX線照射野移動手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記注目領域は、被検者の血管中を流れる造影剤の先端領域、または、被検者の体内に挿入されるカテーテルに付設されたマーカに対応する領域である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記X線照射野移動手段は、前記コリメータにおけるコリメータリーフを移動させることにより前記X線照射野を移動させる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記X線照射野移動手段は、前記X線管および前記X線検出器を移動させることにより前記X線照射野を移動させる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の発明において、前記X線照射野移動手段は、前記注目領域が前記X線画像における端縁付近に配置されたときに、前記X線照射野を移動させる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の発明において、前記X線照射野移動手段は、前記注目領域が前記X線画像の中央付近に常に配置されるように、前記X線照射野を移動させる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、注目領域がX線画像中から退出することを自動的に防止することが可能となる。このため、オペレータが作業を中断してX線照射野を移動させる必要が無く、効率的に治療や診断を実行することが可能となる。従って、診断または治療に要する時間を短縮して、被検者の負担を小さなものとすることが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、被検者の血管中を流れる造影剤の先端領域や、被検者の体内に挿入されるカテーテルに付設されたマーカに対応する領域等の注目領域を、X線画像中に配置することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、コリメータにおけるコリメータリーフを移動させることによりX線照射野を移動させて、注目領域をX線画像中に配置することができる。このため、X線管やX線検出器を移動させることなく、X線照射野を容易に移動させることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、X線管およびX線検出器を移動させることによりX線照射野を移動させて、注目領域をX線画像中に配置することができる。このため、X線照射野を広い範囲で移動させることが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、注目領域が前記X線画像における端縁付近に配置されたときにX線照射野を移動させることから、診断または治療に必要な場合にのみX線照射野を移動させることが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、注目領域を常にX線画像の中心に配置することができる。このため、注目領域をその周囲の画像とともに広い範囲で観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係るX線透視撮影装置の概要図である。
【図2】コリメータ10の概要図である。
【図3】この発明に係るX線透視撮影装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【図4】この発明に係る透視撮影装置による透視または連続撮影の第1実施形態を示す説明図である。
【図5】この発明に係る透視撮影装置による透視または連続撮影の第2実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るX線透視撮影装置の概要図である。
【0021】
このX線透視撮影装置は、図示を省略したテーブル上に仰臥位で載置された被検者に対して透視または連続撮影を行って診断または治療を実行するためのものであり、X線管1と、X線管1の前面に配設されたコリメータ10と、このX線管1から照射され被検者を通過したX線を検出するフラットパネルディテクタやイメージインテンシファイア(I.I.)等のX線検出器2と、X線管1とX線検出器2とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アーム3と、このC型アーム3をスライド可能に支持する支持部4と、この支持部4を介してC型アーム3を旋回させる旋回部5と、この旋回部5を天井6から釣支するための釣支部7と、この釣支部7を互いに直交する2方向に移動させるための水平移動部8とを備える。
【0022】
C型アーム3の側壁には円弧状の案内部が形成されており、支持部4は、この案内部と係合することにより、C型アーム3をスライド可能に支持している。そして、C型アーム3は、X線管1とX線検出器2とを、X線管1からX線検出器2に至るX線の軸線が、C型アーム3を形成する円弧の直径と一致する状態で支持している。また、旋回部5は、支持部4をC型アーム3等とともに、X線管1からX線検出器2に至るX線の軸線と直交する軸を中心に旋回させる。
【0023】
図2は、上述したコリメータ10の概要図である。
【0024】
このコリメータ10は、4枚のコリメータリーフ11を備える。X線管1からのX線はこれら4枚のコリメータリーフ11により遮蔽され、矩形状のX線照射野Eが形成される。
【0025】
図3は、この発明に係るX線透視撮影装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
このX線透視撮影装置は、装置全体を制御する制御部9を備える。この制御部9は、X線検出器2により検出したX線画像中から、診断または治療に使用する注目領域を抽出する注目領域抽出部91と、この注目領域抽出部91により抽出した注目領域がX線画像中から退出することを防止するためにX線照射野Eを移動させるX線照射野移動制御部92とを備える。この制御部9は、上述したX線管1、コリメータ10、X線検出器2および水平移動部8と接続されている。また、この制御部9は、X線検出器2により検出したX線画像や、その他の情報を表示するための表示部93や、各種の情報を入力する入力部94とも接続されている。
【0027】
次に、このX線透視撮影装置により透視または連続撮影を実行するときの動作について説明する。図4は、この発明に係る透視撮影装置による透視または連続撮影の第1実施形態を示す説明図である。この図は、表示部93に表示されたX線画像を示している。なお、この第1実施形態は、造影剤102を使用して透視または連続撮影を実行する場合についてのものである。この実施形態においては、被検者の血管101中を流れる造影剤102の先端領域を注目領域としている。
【0028】
図4(a)に示すように、透視または連続撮影で得たX線画像中には、被検者の血管101と、この血管101中を流れる造影剤102とが映し出されている。時間の経過とともに、造影剤102は血管101中を順次移動する。制御部9における注目領域抽出部91は、このX線画像を画像処理することにより、X線画像中から診断または治療に使用する注目領域としての造影剤102の先端領域を抽出する。
【0029】
そして、造影剤102が血管101中を進行し、造影剤102の先端領域がX線画像における端縁付近に配置されたとき、より具体的には、図4(b)に示すように、造影剤102の先端領域がX線画像の端縁付近に設定された限界領域103に到達したことを注目領域抽出部91が検出した場合には、制御部9におけるX線照射野移動制御部92がX線照射野Eを移動させる。
【0030】
すなわち、X線照射野移動制御部92は、まず、コリメータ10における各コリメータリーフ11を移動させることにより、X線照射野Eを移動させ、図4(c)に示すように、造影剤102の先端領域がX線画像の中央付近に配置されるようにする。このときには、図4(c)に示すX線画像中に重畳表示された標線104の中央部と造影剤102の先端領域とが一致することになる。
【0031】
このとき、造影剤102の先端領域の移動量が大きい場合や、コリメータリーフ10の移動によるX線照射野Eの移動を繰り返し実行した場合など、コリメータリーフ10の移動のみでは造影剤102の先端領域をX線画像の中央部付近に配置できない場合には、X線照射野移動制御部92は、図1および図3に示す水平移動部8を制御して、釣支部7をX線管1およびX線検出器2とともに水平方向に移動させることにより、X線照射野Eを移動させ、図4(c)に示すように、造影剤102の先端領域がX線画像の中央付近に配置されるようにする。
【0032】
なお、この実施形態においては、図4(b)に示すように、造影剤102の先端領域がX線画像の端縁付近に設定された限界領域103に到達したことを注目領域抽出部91が検出した場合に、X線照射野移動制御部92がX線照射野Eを移動させている。しかしながら、他の実施形態として、X線照射野移動制御部92が、図4(c)に示すように、造影剤102の先端領域がX線画像の中央付近に常に配置されるように、X線照射野Eを移動させてもよい。この場合においては、造影剤102の先端領域の移動に伴って、X線照射野Eが常に移動することになる。
【0033】
次に、このX線透視撮影装置により透視または連続撮影を実行するときの第2実施形態の動作について説明する。図5は、この発明に係る透視撮影装置による透視または連続撮影の第2実施形態を示す説明図である。この図も、図4と同様、表示部93に表示されたX線画像を示している。なお、この第2実施形態は、カテーテルを使用して透視または連続撮影を実行する場合についてのものである。この実施形態においては、被検者の体内に挿入されたカテーテルに付設された一対のマーカ105に対応する領域を注目領域としている。
【0034】
図5(a)に示すように、透視または連続撮影で得たX線画像中には、被検者の血管101と、この血管101中を進行するカテーテルに付設された一対のマーカ105とが映し出されている。時間の経過とともに、一対のマーカ105は血管101中を順次移動する。制御部9における注目領域抽出部91は、このX線画像を画像処理することにより、X線画像中から診断または治療に使用する注目領域としてのマーカ105に対応する領域を抽出する。
【0035】
そして、カテーテルに付設された一対のマーカ105が血管101中を進行し、一方のマーカ105がX線画像における端縁付近に配置されたとき、より具体的には、図5(b)に示すように、一方のマーカ105がX線画像の端縁付近に設定された限界領域103に到達したことを注目領域抽出部91が検出した場合には、制御部9におけるX線照射野移動制御部92がX線照射野Eを移動させる。
【0036】
すなわち、X線照射野移動制御部92は、まず、コリメータ10における各コリメータリーフ11を移動させることにより、X線照射野Eを移動させ、図5(c)に示すように、一対のマーカ105の中央部付近がX線画像の中央付近に配置されるようにする。このときには、図5(c)に示すX線画像中に重畳表示された標線104の中央部と一対のマーカ105の中央部とが一致することになる。
【0037】
このとき、造影剤102の先端領域の移動量が大きい場合や、コリメータリーフ10の移動によるX線照射野Eの移動を繰り返し実行した場合など、コリメータリーフ10の移動のみでは一対のマーカ105の中央部付近をX線画像の中央部付近に配置できない場合には、X線照射野移動制御部92は、水平移動部8を制御して、釣支部7をX線管1およびX線検出器2とともに水平方向に移動させることにより、X線照射野Eを移動させ、図5(c)に示すように、一対のマーカ105の中央部付近がX線画像の中央付近に配置されるようにする。
【0038】
なお、この実施形態においても、図5(b)に示すように、一方のマーカ105に対応する領域がX線画像の端縁付近に設定された限界領域103に到達したことを注目領域抽出部91が検出した場合に、X線照射野移動制御部92がX線照射野Eを移動させている。しかしながら、他の実施形態として、X線照射野移動制御部92が、図5(c)に示すように、一対のマーカ105の中央部付近がX線画像の中央付近に常に配置されるように、X線照射野Eを移動させてもよい。この場合においても、一対のマーカ105の移動に伴って、X線照射野Eが常に移動することになる。
【0039】
なお、上述した実施形態は、いずれも、X線管1とX線検出器2とを互いに対向する状態で支持する略C字状のC型アーム3を使用してX線管1とX線検出器2とを移動させているが、X線管1とX線検出器2とを個別の移動機構を使用して、互いに同期して移動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 X線管
2 X線検出器
3 C型アーム
4 支持部
5 旋回部
6 天井
7 釣支部
8 水平移動部
9 制御部
10 コリメータ
11 コリメータリーフ
91 注目領域抽出部
92 X線照射野移動制御部
93 表示部
94 入力部
101 血管
102 造影剤
103 限界領域
104 標線
105 マーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線透視またはX線撮影により診断または治療を行うX線透視撮影装置において、
X線管と、
前記X線管から照射され被検者を通過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線管からのX線の照射領域に移動可能に配設された複数のコリメータリーフを備え、前記X線管から照射されたX線の被検者に対するX線照射野を形成するコリメータと、
前記X線検出器により検出したX線画像を表示する表示部と、
前記X線画像中から、診断または治療に使用する注目領域を抽出する注目領域抽出部と、
前記注目領域抽出部により抽出した注目領域がX線画像中から退出することを防止するために、前記X線照射野を移動させるX線照射野移動手段と、
を備えたことを特徴とするX線透視撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線透視撮影装置において、
前記注目領域は、被検者の血管中を流れる造影剤の先端領域、または、被検者の体内に挿入されるカテーテルに付設されたマーカに対応する領域であるX線透視撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線透視撮影装置において、
前記X線照射野移動手段は、前記コリメータにおけるコリメータリーフを移動させることにより前記X線照射野を移動させるX線透視撮影装置。
【請求項4】
請求項2に記載のX線透視撮影装置において、
前記X線照射野移動手段は、前記X線管および前記X線検出器を移動させることにより前記X線照射野を移動させるX線透視撮影装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のX線透視撮影装置において、
前記X線照射野移動手段は、前記注目領域が前記X線画像における端縁付近に配置されたときに、前記X線照射野を移動させるX線透視撮影装置。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載のX線透視撮影装置において、
前記X線照射野移動手段は、前記注目領域が前記X線画像の中央付近に常に配置されるように、前記X線照射野を移動させるX線透視撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170761(P2012−170761A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38054(P2011−38054)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】