説明

X線CT装置

【課題】X線CT装置において、再構成画像の画質劣化を抑制しつつ、X線利用効率を向上させる。
【解決手段】X線検出部を、チャネル方向に互いに隣接する第1および第2のX線検出素子241a,241bにおいて、これらのX線検出素子の外側の両端にはコリメータ板を設けず、これらのX線検出素子の境界にのみコリメータ板271aを設けて成る構造部分を有するものとし、X線源のチャネル方向におけるX線焦点の移動、すなわちX線81の照射角度θの変化が反映される、第1および第2のX線検出素子241a,241bの出力のバランスに基づいて、X線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正する。スキュー(検出器をX線源に対して意図的にわずかに傾ける)が不要になり、X線検出素子の検出面における照射野を広く確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置に関し、詳しくは、再構成画像の画質劣化を抑制しつつ、X線利用効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置のデータ(data)収集系は、主に、X線源と、X線検出部とにより構成されている。X線検出部は、さらに、X線検出器とコリメータ(collimator)とにより構成されている。コリメータは、X線検出器を構成するX線検出素子を、その検出面側で区分するように設けられた複数のコリメータ板により構成されている(例えば特許文献1,図16等参照)。
【0003】
コリメータは、散乱線を除去して散乱線によるX線検出素子の出力の劣化を防ぎ、鮮明な再構成画像を得るために必要不可欠な部品である。しかし、コリメータ板によって仕切られたセグメント(segment)のすべてが、正しくX線源の方向を向いていなければ、むしろ再構成画像の劣化を引き起こす要因となる。そのため、コリメータ板は、非常に高い設置精度が要求される部品である。
【0004】
コリメータ板が完全に理想的な状態でセグメントを形成するならば問題ないが、X線CT装置に使われるコリメータは、例えば約1000枚のコリメータ板によって構成されるため、実際には、幾らかの微小なバラツキが発生する。
【0005】
また、X線を放射するX線源も理想的には点源であるが、実際には、幾らかの幅を持ち、またその位置も環境によって微小に変化する。例えば、X線源がX線管である場合、ターゲットはその温度変化によって微小に変形し、X線焦点の位置や大きさが変化する。
【0006】
コリメータ板が形成するセグメントのバラツキと、X線源のX線焦点の位置のバラツキ(焦点移動)により、X線検出器がX線を受け取る能力を有する領域に対する、実際にX線が当たる領域の割合において、X線検出素子のセグメントごとのバラツキを発生させる。このバラツキは、X線検出器に流入する直接的なノイズ(noise)として寄与し、再構成画像の画質を劣化させる。たとえコリメータが十分に管理された環境で作成されたとしても、要求される精度が圧倒的に高いために、X線CT装置においてそのバラツキは、再構成画像に要求される精度を満たせなくさせてしまうほど大きい。
【0007】
X線検出器の列方向(ガントリの回転軸方向)におけるX線焦点の移動によるX線投影データの補正は、X線検出器の端部のX線検出素子による出力を用いて従来より行われてきた(例えば、特許文献2,3、要約等参照)。この方法を利用するには、X線検出器において、撮影中に被検体を通過しないX線の検出領域を列方向の広い範囲にわたって確保する必要がある。しかし、チャネル方向の場合、撮影中に被検体を通過しないX線検出領域をチャネル方向の広い範囲にわたって確保するのは困難である。そのため、チャネル方向に、列方向と同じ方法を適用することができなかった。
【0008】
そこで、従来のX線CT装置では、意図的にX線検出器をX線源に対してわずかに傾けて、X線検出素子の検出面にX線が入射しない一定量の影を落とすようにし、その検出面に対するX線の照射野の割合を各X線検出素子間において均一化させている。これを、スキュー(skew)と呼ぶ。
【0009】
この方法により、X線検出素子間での出力のバラツキを抑えることができ、その結果、環境や部品のバラツキなどの影響を受けることなく、鮮明な再構成画像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−005015号公報
【特許文献2】特開2002−320607号公報
【特許文献3】特許第3527381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のスキューと呼ばれる方法では、被検体を通過してきたX線の一部の情報を常に捨てることになるため、X線利用効率の面で課題が残っている。
【0012】
このような事情により、再構成画像の画質劣化を抑制しつつ、X線利用効率を向上させることが可能なX線CT装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の観点の発明は、X線源と、前記X線源と対向して配置されており、少なくともチャネル(channel)方向に配列された複数のX線検出素子と、前記X線検出素子をチャネル方向に区分するよう設けられた複数のコリメータ板とを有するX線検出部と、前記X線源およびX線検出部を用いて撮影対象のX線投影データを収集するデータ収集手段とを備えたX線CT装置であって、前記X線検出部が、チャネル方向に互いに隣接する第1および第2のX線検出素子において、該第1および第2のX線検出素子の境界と、前記第1のX線検出素子のチャネル方向における該境界とは反対側の一端と、前記第2のX線検出素子のチャネル方向における該境界とは反対側の一端とのうち該境界にのみコリメータ板が設けられた構造部分を有しており、前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線源のチャネル方向におけるX線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正する補正手段を備えたX線CT装置を提供する。
【0014】
第2の観点の発明は、前記X線検出部が、該X線検出部のチャネル方向の端部に前記構造部分を有しており、該X線検出部の前記構造部分とは異なる部分に、X線検出素子をチャネル方向に1つずつ区分するようコリメータ板が設けられている上記第1の観点のX線CT装置を提供する。
【0015】
第3の観点の発明は、前記X線検出部が、該X線検出部のチャネル方向における互いに異なる複数の位置に前記構造部分をそれぞれ有しており、前記補正手段が、前記構造部分の各々における前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線投影データを補正する上記第2の観点のX線CT装置を提供する。
【0016】
第4の観点の発明は、X線源と、前記X線源と対向して配置されており、チャネル方向および列方向に配列された複数のX線検出素子と、前記X線検出素子を列方向に区分するよう設けられた複数のコリメータ板と有するX線検出部と、前記X線源およびX線検出部を用いて撮影対象のX線投影データを収集するデータ収集手段とを備えたX線CT装置であって、前記X線検出部が、列方向に互いに隣接する第1および第2のX線検出素子において、該第1および第2のX線検出素子の境界と、前記第1のX線検出素子の列方向における該境界とは反対側の一端と、前記第2のX線検出素子の列方向における該境界とは反対側の一端とのうち該境界にのみコリメータ板が設けられた構造部分を有しており、前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線源の列方向におけるX線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正する補正手段を備えたX線CT装置を提供する。
【0017】
第5の観点の発明は、前記X線検出部が、該X線検出部のチャネル方向の端部に前記構造部分を有しており、該X線検出部の前記構造部分とは異なる部分に、X線検出素子を列方向に1つずつ区分するようコリメータ板が設けられている上記第4の観点のX線CT装置を提供する。
【0018】
第6の観点の発明は、前記X線検出部が、該X線検出部の列方向における互いに異なる複数の位置に前記構造部分をそれぞれ有しており、前記補正手段が、前記構造部分の各々における前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線投影データを補正する上記第5の観点のX線CT装置を提供する。
【0019】
第7の観点の発明は、前記X線検出部の前記構造部分とは異なる部分におけるX線検出素子ごとに、前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて特定される前記X線源のX線焦点の位置と、該X線検出素子の検出データに適用する補正係数との対応関係を表す情報を記憶する記憶手段をさらに備えており、前記補正手段が、X線検出素子の検出データを、該X線検出素子の前記対応関係において前記特定される前記X線源のX線焦点の位置に対応する補正係数を用いて補正する上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0020】
第8の観点の発明は、前記補正手段が、前記第1のX線検出素子の出力と前記第2のX線検出素子の出力とのバランス(balance)を表す特徴量に基づいて、前記X線投影データを補正する上記第1の観点から第7の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【発明の効果】
【0021】
上記観点の発明によれば、X線焦点の位置やその移動が反映される、上記の構造部分のX線検出素子の出力に基づいて、X線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正するので、X線検出素子の検出面に照射野の影を意図的に落とすような構成をとることなく、X線源のX線焦点の位置やコリメータ板の設置精度のバラツキによる影響が抑えられた、精度の高い安定したX線投影データを得ることができ、再構成画像の画質劣化を抑えつつ、X線利用効率を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発明の実施形態に係るX線CT装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】X線検出器およびコリメータの構成例を示す図である。
【図3】X線焦点の位置を検出する原理を説明するための図である。
【図4】第1および第2のX線検出素子で受けるX線量を示すグラフ(graph)である。
【図5】第1および第2のX線検出素子で受けるX線量の比とX線照射角度との関係を示すグラフである。
【図6】本X線CT装置における処理の流れを示すフロー(flow)図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置の構成を概略的に示す図である。
【0025】
X線CT装置100は、操作コンソール(console)1と、撮影テーブル(table)10と、走査ガントリ(gantry)20とを具備している。
【0026】
操作コンソール1は、操作者からの入力を受け付ける入力装置2と、被検体の撮影を行うための各部の制御や画像を生成するためのデータ処理などを行う中央処理装置3と、走査ガントリ20で取得したデータを収集するデータ収集バッファ(buffer)5と、画像を表示するモニタ(monitor)6と、プログラム(program)やデータなどを記憶する記憶装置7とを具備している。
【0027】
撮影テーブル10は、被検体40を載せて走査ガントリ20の開口部Bに入れ出しするクレードル(cradle)12を具備している。クレードル12は、撮影テーブル10に内蔵するモータ(motor)で昇降および水平直線移動される。なお、ここでは、被検体40の体軸方向すなわちクレードル12の水平直線移動方向をz方向、鉛直方向をy方向、z方向およびy方向に垂直な水平方向をx方向とする。
【0028】
走査ガントリ20は、回転部15と、回転部15を回転可能に支持する本体部20aとを有する。回転部15には、X線管21と、X線管21を制御するX線コントローラ(controller)22と、X線管21から発生したX線81をファンビーム(fan
beam)或いはコーンビーム(cone beam)に整形するアパーチャ23と、被検体40を透過したX線81を検出するX線検出器24と、散乱X線を除去するコリメータ27と、X線検出器24の出力をX線投影データに変換して収集するDAS(Data Acquisition System)(データ収集装置ともいう)25と、X線コントローラ22,コリメータ23,DAS25の制御を行う回転部コントローラ26とが搭載されている。本体部20aは、制御信号などを操作コンソール1や撮影テーブル10と通信する制御コントローラ29を具備する。回転部15と本体部20aとは、スリップリング(slip ring)30を介して電気的に接続されている。
【0029】
X線管21およびX線検出器24は、被検体40が載置される撮影空間、すなわち走査ガントリ20の空洞部Bを挟んで互いに対向して配置されている。回転部15が回転すると、X線管21およびX線検出器24は、その位置関係を維持したまま、被検体40の周りを回転する。X線管21から放射されアパーチャ23で整形されたファンビーム或いはコーンビームのX線81は、被検体40を透過し、X線検出器24の検出面に照射される。このファンビーム或いはコーンビームのX線81のxy平面における広がり方向をチャネル方向、z方向における広がり方向もしくはz方向そのものを列方向という。
【0030】
なお、X線検出器24およびコリメータ27は、発明におけるX線検出部の一例である。
【0031】
ここで、X線検出器24およびコリメータ27の構成について詳しく説明する。
【0032】
図2に、X線検出器24およびコリメータ27の構成例を示す。図2(a)は、X線管21側から見たときの図(正面図)、図2(b)は、z方向に見たときの図(側面図)である。
【0033】
図2に示すように、X線検出器24は、X線検出素子241が、チャネル方向および列方向にマトリクス(matrix)状に配列された構成である。各X線検出素子241は、その検出面がX線管21のX線焦点21fを向くように緩やかな曲面に沿って載置されている。X線検出器24は、X線検出素子241が、例えば1000チャネル×128列で配列されている。また、X線検出素子241の検出面は、幅が約1.025mmの略正方形状である。なお、図2では、便宜上、X線検出素子241の数を実際より少なくして描いてある。
【0034】
コリメータ27は、X線検出器24の検出面側に設けられており、複数のコリメータ板271により構成されている。複数のコリメータ板271は、X線検出器24のX線検出素子241をチャネル方向に区分するように設けられている。また、各コリメータ板271は、その板面がX線管21からのX線の放射方向と平行になるように設けられている。
【0035】
図2に示すように、X線検出器24には、メイン(main)領域Mとレファレンス(reference)領域Rとがある。レファレンス領域Rは、X線検出器24のチャネル方向における少なくとも一方の端部にあり、通常、被検体40を透過しないX線が照射される領域である。メイン領域Mは、このレファレンス領域以外の領域である。メイン領域MのX線検出素子241による検出データは、画像再構成に用いられる。レファレンス領域RのX線検出素子241による検出データは、メイン領域Mの検出データの補正に用いられる。
【0036】
図2に示すように、メイン領域Mでは、コリメータ板271は、X線検出素子241をチャネル方向に1個ずつ、本例では1ライン(line)ずつ区分するように、X線検出素子241間の境界に設けられている。一方、レファレンス領域Rでは、コリメータ板271は、X線検出素子241をチャネル方向に2個ずつ、本例では2ラインずつ区分するように、X線検出素子241間の境界に設けられている。すなわち、チャネル方向におけるX線検出素子間の境界のうち、外側から1番目と3番目の境界にはコリメータ板271が設けられているが、外側から2番目と4番目以降の境界にはコリメータ板271が設けられていない。
【0037】
つまり、チャネル方向に互いに隣接する第1のX線検出素子241aおよび第2のX線検出素子241bにおいて、第1および第2のX線検出素子の境界Babと、第1のX線検出素子241aのチャネル方向における境界Babとは反対側の一端Baと、第2のX線検出素子241aのチャネル方向における境界Babとは反対側の一端Bbの3つの位置のうち、境界Babにのみ第1のコリメータ板271aが設けられて成る特殊構造部分35が形成されている。
【0038】
この特殊構造部分35では、第1および第2のX線検出素子241a,241bのチャネル方向外側の両端位置にはコリメータ板271が存在しないため、これらのX線検出素子の検出面に作られる照射野の影は、その境界に設けられた第1のコリメータ板271aによるものだけになる。つまり、X線焦点21fのチャネル方向における位置またはX線照射角度θを、第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出面におけるそれぞれの照射野の大きさに反映させることができる。その結果、X線焦点21fのチャネル方向における位置またはX線照射角度θを、第1および第2のX線検出素子241a,241bの出力から高い分解能で検出することができる。
【0039】
ここで、X線焦点移動の検出およびX線投影データの補正の方法について詳しく説明する。
【0040】
図3は、X線焦点の位置を検出する原理を説明するための図である。
【0041】
いま、特殊構造部分35における第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出面に、角度を変えながらX線を照射することを考える。
【0042】
まず、図3(a)に示すように、X線照射角度θを−αとしてX線を照射した場合、第1のX線検出素子241aの検出面では、すべての領域でX線を受けることができるが、第2のX線検出素子241bの検出面では、第1のコリメータ板271aの影ができるため、照射野Waが小さくなる。X線照射角度θをゼロ(zero)に近づく方向に徐々に変えてゆくと、第2のX線検出素子241bの検出面では、照射野Wbが徐々に大きくなる。X線照射角度θが、その照射方向と第1のコリメータ板271aの板面とが平行になるような角度に達したとき、すなわちX線照射角度θ=0のときに、第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出面の照射野Wa,Wbは共に最大となる。そして、X線照射角度θが、図3(b)に示すように+βとなるよう、さらに変化させてゆくと、第1のX線検出素子241aの検出面の照射野Waが徐々に減ってゆく。
【0043】
つまり、第1および第2のX線検出素子241a,241bのそれぞれの検出面で受けるX線量Qa,QbをX線照射角度θごとにプロット(plot)すると、図4に示すようなグラフが得られる。このグラフから分かるように、X線焦点21fの位置変動すなわちX線照射角度θの変動は、第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出面で受けるX線量Qa,Qbに反映される。したがって、第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出面で受けるX線量Qa,Qbのバランス、例えば第1のX線検出素子241aで受けるX線量Qaに対する第2のX線検出素子241bで受けるX線量Qbの比rは、図5に示すように、単調増加関数となり、このX線量比rとX線照射角度θとが、一対一で対応することとなる。
【0044】
この図5で示す関係を、X線検出器24全体の関数テーブルT1として予め取得しておき、同時にX線検出器24の個々のX線検出素子241について、X線照射角度θに対する出力応答を固有のテーブルT2iとして求めておく。このようにすれば、撮影時にX線焦点21fの位置が変動したとしても、その位置すなわちX線照射角度θを第1および第2のX線検出素子241a,241bの出力と関数テーブルT1とを用いて求めることができる。そして、その求めたX線照射角度θをテーブルT2iに適用することによって、すべてのX線検出素子241の補正係数を個別にかつリアルタイム(real time)に提供することができる。
【0045】
この計算は、X線焦点21fの位置変動に対する各X線検出素子241の敏感性には影響されないため、X線焦点21fの位置変動の影響を最も受けやすい、X線管21に対して正対した位置にX線検出器24を設置したとしても、安定した出力が得られる。
【0046】
本例では、上記の原理に基づき、予め、メイン領域Mにおける各チャネル位置iのX線検出素子241iごとに、X線照射角度θが変化したときの検出データの変化を調べる。その結果から、X線照射角度θの変動による検出データの影響をキャンセルするための補正係数kiを、X線照射角度θの関数ki(θ)として求め、これを記憶させておく。また、上記の関数テーブルT1も記憶させておく。
【0047】
そして、収集された各ビュー(view)vのX線投影データPvごとに、特殊構造部分35における第1および第2のX線検出素子241a,241bの出力からX線量比rvを求め、これを関数テーブルT1に適用して、ビューvに対応するX線焦点21fの位置すなわちX線照射角度θvを求める。処理対象となるビューvのX線投影データPvを構成する各X線検出素子241iによる検出データpviを、補正係数ki(θv)を用いて補正する。
【0048】
これより、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れについて説明する。
【0049】
図6は、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れを示すフロー図である。
【0050】
ステップ(step)S1では、被検体のスキャン(scan)を行って、複数ビューvのX線投影データPvを収集する。
【0051】
ステップS2では、処理対象とするX線投影データのビューvaを選択する。
【0052】
ステップS3では、選択されたビューvaのX線投影データPvaにおける第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出信号値比からX線量比rvaを求める。
【0053】
ステップS4では、X線量比rvaを関数テーブルT1に適用して、ビューvaに対応するX線照射角度θ(va)を求める。
【0054】
ステップS5では、処理対象とする検出データのチャネル位置icを選択する。
【0055】
ステップS6では、選択されたビューvaおよびチャネル位置icの検出データp(va,ic)を、補正係数k(ic,θ(va))を用いて補正する。
【0056】
ステップS7では、次に選択するチャネル位置があるかを判定する。ある場合にはステップS4に戻り、新たなチャネル位置を選択する。ない場合には、次のステップS7に進む。
【0057】
ステップS8では、次に選択するビューがあるかを判定する。ある場合には、ステップS2に戻り、新たなビューを選択する。ない場合には、次のステップS8に進む。
【0058】
ステップS9では、補正された複数ビューのX線投影データに基づいて画像再構成を行う。
【0059】
ステップS10では、再構成画像を表示する。
【0060】
このように、本実施形態によれば、X線焦点21fの位置やその移動が反映される、特殊構造部分35のX線検出素子の出力に基づいて、X線焦点21fの移動によるX線投影データの変動を補正するので、X線検出素子241の検出面に照射野の影を意図的に落とすような構成をとることなく、X線源のX線焦点の位置やコリメータ板の設置精度のバラツキによる影響が抑えられた精度の高い安定したX線投影データを得ることができ、再構成画像の画質劣化を抑えつつ、X線利用効率を向上させることが可能になる。
【0061】
また、本実施形態によれば、従来と比較してハード(hard)的に追加するものがないので、部品コストの増加もなく、製造難易度の増大もない。
【0062】
また、本実施形態によれば、上記のような補正アルゴリズム(algorithm)の追加により、コリメータ板の設置精度のバラツキによる影響が抑えられるので、コリメータ板の設置精度に係る仕様の緩和が可能となり、いわゆるスクラップコスト(scrap cost)の削減も期待できる。
【0063】
なお、発明は、本実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0064】
例えば、本実施形態では、特殊構造部分35は、チャネル方向における一つの位置だけに形成されているが、チャネル方向における互いに異なる複数の位置に形成されるようにしてもよい。この場合、それぞれの特殊構造部分において、隣接するX線検出素子の検出信号値の比を求め、それらの平均値を取る。そして、この比の平均値からX線量比rを求め、X線量比rとX線照射角度θとの対応関係を表す関数テーブルT1を参照して、チャネル方向におけるX線焦点21fからのX線照射角度θを求める。このようにすると、X線検出素子の検出データに含まれるノイズ成分を低減したり、コリメータ板の設置精度のバラツキによる影響を低減したりすることができる。なお、複数の特殊構造部分35は、X線検出器24のチャネル方向における一方の端部に形成されるようにしてもよいし、両方の端部に分けて形成されるようにしてもよい。
【0065】
また例えば、本実施形態では、特殊構造部分における第1および第2のX線検出素子のX線量比rとX線照射角度θとの対応関係を表す関数テーブルT1を求めておき、実測した検出信号値比からX線量比rを求め、関数テーブルT1を参照して、X線照射角度θを求めているが、もちろん別の方法で求めてもよい。例えば、第1および第2のX線検出素子の検出信号値のバランスを表す何らかの特徴量からX線照射角度θを直接的または間接的に求める方法を用いてもよい。
【0066】
また例えば、本実施形態では、コリメータ板271をチャネル方向に配列し、特殊構造部分35におけるチャネル方向に隣接するX線検出素子241a,241bの検出信号値を基にX線管21のチャネル方向におけるX線焦点の移動を検出し、この焦点移動によるX線投影データの変動を補正しているが、これと同様の構成を、列方向に対して適用することもできる。あるいは、チャネル方向および列方向に対して同時に適用することもできる。
【0067】
また例えば、本実施形態では、特殊構造部分35における第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出データを、被検体の本スキャンにより得られたX線投影データから得、これを用いてX線焦点の移動を検出しているが、本スキャンとは異なるスキャン、例えば本スキャン前のエア・キャリブレーションのためのスキャンを行う際に、特殊構造部分35における第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出データを取得しておき、これを用いてX線焦点の移動を検出してもよい。X線焦点は、概して時間的に緩やかに移動する場合が多いので、補正に用いる第1および第2のX線検出素子241a,241bの検出データを取得するタイミングと、画像再構成に用いるX線投影データを取得するタイミングとが多少ずれていても、X線投影データの補正は十分可能である。また、エア・キャリブレーションのためのスキャンの場合、撮影空間に被検体が載置されていないので、散乱線による検出データへの影響を防ぐことができるという利点もある。
【0068】
また例えば、本実施形態は、X線CT装置であるが、発明は、X線CT装置とPETまたはSPECTとを組み合わせたPET−CT装置やSPECT−CT装置などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 操作コンソール
2 入力装置
3 中央処理装置
5 データ収集バッファ
6 モニタ
7 記憶装置
10 撮影テーブル
12 クレードル
15 回転部
20 走査ガントリ
21 X線管
22 X線コントローラ
23 アパーチャ
24 X線検出器
241 X線検出素子
241a 第1のX線検出素子
241b 第2のX線検出素子
25 DAS
26 回転部コントローラ
27 コリメータ
271 コリメータ板
271a 第1のコリメータ板
29 制御コントローラ
30 スリップリング
35 特殊構造部分
40 被検体
81 X線
100 X線CT装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、前記X線源と対向して配置されており、少なくともチャネル方向に配列された複数のX線検出素子と、前記X線検出素子をチャネル方向に区分するよう設けられた複数のコリメータ板とを有するX線検出部と、前記X線源およびX線検出部を用いて撮影対象のX線投影データを収集するデータ収集手段とを備えたX線CT装置であって、
前記X線検出部は、チャネル方向に互いに隣接する第1および第2のX線検出素子において、該第1および第2のX線検出素子の境界と、前記第1のX線検出素子のチャネル方向における該境界とは反対側の一端と、前記第2のX線検出素子のチャネル方向における該境界とは反対側の一端とのうち該境界にのみコリメータ板が設けられた構造部分を有しており、
前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線源のチャネル方向におけるX線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正する補正手段を備えたX線CT装置。
【請求項2】
前記X線検出部は、該X線検出部のチャネル方向の端部に前記構造部分を有しており、該X線検出部の前記構造部分とは異なる部分に、X線検出素子をチャネル方向に1つずつ区分するようコリメータ板が設けられている請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記X線検出部は、該X線検出部のチャネル方向における互いに異なる複数の位置に前記構造部分をそれぞれ有しており、
前記補正手段は、前記構造部分の各々における前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線投影データを補正する請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
X線源と、前記X線源と対向して配置されており、チャネル方向および列方向に配列された複数のX線検出素子と、前記X線検出素子を列方向に区分するよう設けられた複数のコリメータ板と有するX線検出部と、前記X線源およびX線検出部を用いて撮影対象のX線投影データを収集するデータ収集手段とを備えたX線CT装置であって、
前記X線検出部は、列方向に互いに隣接する第1および第2のX線検出素子において、該第1および第2のX線検出素子の境界と、前記第1のX線検出素子の列方向における該境界とは反対側の一端と、前記第2のX線検出素子の列方向における該境界とは反対側の一端とのうち該境界にのみコリメータ板が設けられた構造部分を有しており、
前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線源の列方向におけるX線焦点の移動によるX線投影データの変動を補正する補正手段を備えたX線CT装置。
【請求項5】
前記X線検出部は、該X線検出部のチャネル方向の端部に前記構造部分を有しており、該X線検出部の前記構造部分とは異なる部分に、X線検出素子を列方向に1つずつ区分するようコリメータ板が設けられている請求項4に記載のX線CT装置。
【請求項6】
前記X線検出部は、該X線検出部の列方向における互いに異なる複数の位置に前記構造部分をそれぞれ有しており、
前記補正手段は、前記構造部分の各々における前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて、前記X線投影データを補正する請求項5に記載のX線CT装置。
【請求項7】
前記X線検出部の前記構造部分とは異なる部分におけるX線検出素子ごとに、前記第1および第2のX線検出素子の出力に基づいて特定される前記X線源のX線焦点の位置と、該X線検出素子の検出データに適用する補正係数との対応関係を表す情報を記憶する記憶手段をさらに備えており、
前記補正手段は、X線検出素子の検出データを、該X線検出素子の前記対応関係において前記特定される前記X線源のX線焦点の位置に対応する補正係数を用いて補正する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記第1のX線検出素子の出力と前記第2のX線検出素子の出力とのバランスを表す特徴量に基づいて、前記X線投影データを補正する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−9874(P2013−9874A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145051(P2011−145051)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】