説明

Y−ゼオライト含有複合材料及びその製造方法

in situ結晶化によりカオリンを含む材料から作製されるY−ゼオライト含有複合材料。前記複合材料はネスト様構造を含む。複合材料中のY−ゼオライトの含量は、30〜85重量%の範囲内である。ネスト様構造は、本質的にロッド様の結晶から成り、さらに鱗状の結晶又は塊状の結晶を含む。複合材料中のY−ゼオライトは、HY、REY、又はREHYであってもよい。前記複合材料は、重油又は残油の接触分解のための触媒として使用するのに好適である。本発明は、さらに、複合材料を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カオリンを含む原料からin situ結晶化(in situ crystallization)により作製されるY−ゼオライト含有複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料としてのカオリンによるゼオライトの合成は、米国特許第3,119,659号が1964年にそのような方法を開示して以来、続いている。初期の研究は主として純粋なゼオライトの合成に焦点が当てられ、たとえば、米国特許第3,574,538号は、カオリンからゼオライトを合成する方法を開示し、それには、カオリンを焼成して非晶性のメタカオリンを形成すること、特定量のケイ酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを加えてシリカ/アルミナのモル比を合成されるゼオライトのそれに近づけること、次いで、0.1〜10重量%のガイド剤を加えること、並びに60〜110℃にて結晶化を行ない、4.5〜5.95のシリカ/アルミナのモル比を持つ高純度のY−ゼオライトを得ることが含まれていた。
【0003】
欧州特許第0209332A2号は、カオリン原料を結晶化し、攪拌しながらY−ゼオライトを調製する方法を開示したが、それには、550〜925℃でカオリンを焼成してメタカオリンを得ること、次いでナトリウム化合物及び水を加えること、シリカ/アルミナのモル比を2.1〜15:1及び水/酸化ナトリウムのモル比を15〜70:1に調製すること、反応物を結晶化して攪拌しながらY−ゼオライトを形成すること、適宜、供給原料にガイド剤を加えることが含まれていた。合成されたY−ゼオライトは、平均直径3μm及びNaY純度97%の分散性の粉末である。
【0004】
Y−ゼオライトは、相対的に低い温度、たとえば、640〜660℃でカオリンをメタカオリンに焼成し、次いで、水酸化ナトリウム、ガイド剤及び水ガラスを加え、50〜60℃にて1時間熟成し、98〜100℃にて2〜24時間結晶化することによってカオリンから調製される(Gao Dawei et al., Petroleum Refining, 7:12-16, 1983)。乾燥後、80%を超える結晶化度及び4.5を超えるシリカ/アルミナのモル比を持つNaYゼオライトが得られる。このゼオライトは、希土類により置換された後、高い熱水安定性を示す。
【0005】
中国公開特許第1334142A号は、カオリン原料の一部を940〜1000℃にてスピネル含有カオリンに焼成し、別の部分を700〜900℃にてメタカオリンに焼成し、焼成した2種類のカオリンを特定の比率で混合し、次いで、ケイ酸ナトリウム、ガイド剤、水酸化ナトリウム及び水を加え、90〜95℃にて16〜36時間結晶化して、乾燥後、40〜90%のNaYを含有する分子篩を得る。この方法で分子篩を調製する際のカオリンの焼成温度は700℃を超え、エネルギー消費が高く、得られる分子篩はナノメータレベルの生成物ではない。
【0006】
Y−ゼオライトは、流動床での接触分解触媒の有効成分なので、研究者らは、カオリンを直接、細粒にし、次いでin situ結晶化によりY−ゼオライトにすることを期待していた。米国特許第4,493,902号は、カオリン微粒子を焼成し、カオリンと混合してスラリーを形成し、噴霧乾燥して細粒を形成し、再び焼成してカオリンをメタカオリンに変換し、ゼオライト合成用の原料及びガイド剤を加え、攪拌し、加熱しながら結晶化させることによって、少なくとも40%のNaYを含有する細粒ゼオライトを開示している。このゼオライトは高温でカオリンを焼成することによって得られるスピネルを含有してもよく、スピネルの存在は、ゼオライトの成長に安定な「枠組み」を提供する。従って、高い活性、選択性、熱水安定性、磨耗耐性及び高い脱金属能を持つゼオライトを得ることができる。
【0007】
中国公開特許第1334318A号は、カオリンと結合剤を混合し、混合物を噴霧乾燥して20〜111μmの直径を有する細粒を形成し、細粒の一部を940〜1000℃で焼成し、別の部分を700〜900℃にてメタカオリンに焼成し、940〜1000℃で焼成したカオリンとメタカオリンを混合し、ケイ酸ナトリウム、ガイド剤、水酸化ナトリウム及び水を加え、98〜100℃にて16〜36時間結晶化することにより得られた25〜35%にすぎない低含量のNaYを有し、4.0〜5.5のシリカ/アルミナのモル比を有するゼオライトを開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、石油化学産業製品の構造及び原油価格の変動によって、深遠な加工の方向に向けた石油精製産業の開発が求められており、重油の接触分解の技術は経済的利益を高めるための重要な経路となっている。従来のY−ゼオライトの結晶サイズは、一般に0.8〜1.2μmの範囲にあり、それでは、1.0nmを超える直径を持つ残油の大きな分子が約0.8nmにすぎない直径を持つゼオライトの孔に入ることができず、これらの分子は、ゼオライトの外面に吸着し、小分子に分解した後でしか、孔に入ることができない。従って、ゼオライトの外表面積の大きさは、残油の大きな分子の分解に影響を及ぼす重要な因子となるが、ゼオライトの表面積の増大は、小さな結晶を持つゼオライトの調製を意味する。従って、小さな結晶を持つゼオライトを調製して結晶内での拡散率を高めることが、徐々に研究のホットスポットになってきている。
【0009】
Rajagopal(Appl. Catal., 23:69, 1986)は、原油を分解するのに60nmの結晶サイズを持つ合成ゼオライトから作られた細粒触媒を用い、結果は、小さな結晶サイズを持つゼオライトは、さらに多くのガソリンと軽ディーゼル油を生じ、さらに少ない乾性ガスとコークス沈殿物を生じることを示している。しかしながら、ゼオライトの結晶サイズが小さければ小さいほど、熱水安定性は乏しくなり、ろ過が難しくなり、表面エネルギーが高くなり、それによって結晶が凝集する傾向が強くなる。従って、小さな結晶サイズを持つNaYの合成におけるゲル化法の欠点が、その工業的応用への最大の障害となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、Y−ゼオライト含有複合材料及びその調製方法を提供することである。複合材料は、in situ結晶化(そのままの状態・自然状態での結晶化、in situ crystallization)によってカオリンを含む原料から作製される。本複合材料は、高い熱水安定性、コークスの沈殿を抑える高い能力の利点を持ち、調製手順において得られる複合材料は、ろ過を容易にする。
【0011】
特に、本発明は、Y−ゼオライトを含有する複合材料を提供し、前記複合材料は、ネスト様構造(nest-like structure)を含む。
【0012】
好ましい実施態様では、前記複合材料は、30〜85重量%の含量でのY−ゼオライト及びカオリンを含む材料のin situ結晶化後、形成されるマトリクスを含む。さらに好ましくは、Y−ゼオライトの含量は、複合材料の30〜70重量%の範囲内である。
【0013】
別の実施態様では、ネスト様構造は、少なくとも70%のロッド様の結晶から成り、前記ロッド様の結晶は、50〜200nmの直径及び100〜600nmの長さを有する。前記ネスト様構造は鱗状の結晶及び塊状の結晶をさらに含むことができ、その際、塊状の結晶は、約50〜500nmの等しい直径を有し、鱗状の結晶は約50〜200nmの厚さを有する。前記ロッド様の結晶、鱗状の結晶及び塊状の結晶は、カオリンを含む材料のin situ結晶化の後、形成されるマトリクス及び前記マトリクス表面上のY−ゼオライトから成っている。
【0014】
本発明は、Y−ゼオライトを含有する複合材料を調製する方法をさらに提供し、該方法は、カオリンを含む原料粉末を低温にてメタカオリンに焼成し、攪拌しながらin situでの結晶化を行なうことを含む。複合材料の調製において、低温でのカオリンの焼成は、エネルギーを有効に節約してもよい。得られた複合材料の粒子は主としてロッド様の結晶であり、Y−ゼオライト結晶は、小さなサイズで分散の高い粒子の表面で成長するので、このY−ゼオライト結晶から作製される触媒の有効成分は有効に利用されてもよい。また、本発明の複合材料は、ネスト様構造を含み、マクロ細孔を提供してもよく、調製手順の間でろ過を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る複合材料は、カオリンを含む原料を低温にて焼成してメタカオリンに変換し、次いで、ケイ酸ナトリウム、ガイド剤、水酸化ナトリウム溶液及び水とメタカオリンを混合し、低温にて攪拌しながらメタカオリンのin situ結晶化を行なうことによって調製される。メタカオリンのin situ結晶化の後、残っている物質が非晶性のシリコン/アルミナのマトリクスを形成し、メタカオリンのin situ結晶化の後、生成されたY−ゼオライトが前記マトリクスの表面上で成長する。前記Y−ゼオライトの結晶の直径は、約10〜400nmの範囲内であり、好ましくは10〜100nmの範囲内である。そして、前記カオリンは、硬質カオリン又は軟質カオリンから選択される。
【0016】
上記複合材料は、ネスト様構造(nest-like structure)、特にネスト様球体、すなわち、ロッド状、鱗状及び塊状の結晶が交差するように積み重なった外見上、鳥の巣に似た幾何学的構造を含む。ネスト様構造の内部では、ネストの通路と同様に、多数の隙間及び孔がある。約200〜1000nmである直径を持つ前記孔は、ネスト様構造の表面又は内側に局在する。そして、約50〜500nmである直径を持つネストの通路は構造の内部に局在する。前記ネスト様構造の等しい直径は、1000〜3000nmの範囲内である。
【0017】
本発明によって提供される複合材料の特定の構造のために、それは、0.50〜0.75g/cmにすぎない低い見かけの嵩密度を有し、さらに多いメソ細孔及びマクロ細孔を有する。そして、BET法により測定される17〜3000Åのメソ細孔の孔体積は、0.03〜0.076mL/gであり、孔の全体積の10〜35%の割合を占める。
【0018】
本発明の複合材料は、さらに多くのメソ細孔及びマクロ細孔を含有するが、依然としてさらに大きな表面積を有し、BET法により、それは280〜800m/g、好ましくは400〜750m/gであると測定される。複合材料に含有されるY−ゼオライトのシリカ/アルミナのモル比は4.0〜5.5である。
【0019】
上記複合材料におけるY−ゼオライトは、NaY、HY、REY又はREHYから成る群から選択される。前記ゼオライトがREY又はREHYである場合、希土類(RE)の含量は、酸化物を基にして0.1〜15重量%、好ましくは8.0〜12.0重量%である。REY又はREHYゼオライトを含有する複合材料におけるナトリウムの含量は、0.3重量%未満、好ましくは0.2重量%未満である。
【0020】
本発明は、以下の工程を含む複合材料を調製する方法を提供する:
(1)カオリンを含む原料を500〜690℃にて焼成し、脱水して、メタカオリンに変換し、次いで230μm未満の直径を持つ粉末に変換すること;
(2)メタカオリン粉末に、ケイ酸ナトリウム、ガイド剤、水酸化ナトリウム溶液、及び水を加え、(1〜2.5)NaO:Al:(4〜9)SiO:(40〜100)HOの比を持つ反応原材料を作製し、その際、ガイド剤のメタカオリンに対する重量比が0.1〜1.0であること;
(3)攪拌しながら、88〜98℃にて工程(2)で作製した反応原材料を結晶化し、次いでろ過し、乾燥すること。
【0021】
本方法は、カオリンを含む原料粉末を低温にて焼成してメタカオリンを調製するが、前記カオリンは好ましくは4μm未満の直径を持つ硬質カオリン又は軟質カオリンから選択されるので、成形処理に供されていない未加工の土類である。前記カオリンを焼成する温度は好ましくは600〜690℃、さらに好ましくは640〜680℃であり、焼成時間は1〜10時間である。選択されたカオリンにおける結晶の含量は、好ましくは75重量%より高く、さらに好ましくは85重量%より高くすべきである。
【0022】
焼成したメタカオリンを粉砕してすべての粒子が230μm未満の直径を持つようにしなければならず、さもなければ、焼成したメタカオリンを粉砕せずに直接合成される生成物にさらに大きなサイズの極めて硬い固形粒子が存在することになり、それは触媒法における該生成物の適用に不都合である。
【0023】
上記工程(2)で使用されるガイド剤は、米国特許第3,574,538号、同第3,639,099号、同第3,671,191号及び同第4,166,099号に開示されたもののような従来の方法に従って合成してもよい。前記ガイド剤の組成は、(10〜17)SiO;(0.7〜1.3)Al;(11〜18)NaO;(200〜350)HOであり、合成では、原料を4〜35℃、好ましくは4〜20℃熟成することによってガイド剤が得られる。
【0024】
合成用の上記原料では、ケイ酸ナトリウムは工業用の水ガラス又はシリカを含むそのほかの原料であってもよく、アルミン酸ナトリウムは、メタアルミン酸ナトリウムである。水酸化ナトリウムの濃度は、1〜10重量%、好ましくは4〜6重量%である。工程(2)では、反応性原料(反応物)全体の0.1〜2.5重量%の割合を占める補助剤を添加してもよく、補助剤は、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルトリメチル臭化アンモニウム、ポリエチレングリコール、シュウ酸、クエン酸、酒石酸ナトリウム又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)から成る群から選択される。補助剤は好ましくは、ガイド剤を添加した後、合成原材料に添加する。
【0025】
本発明に係る複合材料は、攪拌しながら結晶化することによって得られる生成物である。工程(3)の結晶化における攪拌速度は、200〜1000rpm、好ましくは400〜600rpmであり、時間は16〜48時間、好ましくは24〜32時間である。結晶化の後、複合材料を乾燥する温度は、100〜120℃である。
【0026】
前記複合材料を重油の接触分解反応に適用するために、その中のNaYゼオライトをH型又は希土類(RE)イオンに置換したゼオライトに変換すべきである。HYゼオライトを調製する方法は、可溶性アンモニウム塩の溶液でNaYのイオン交換を行ない、次いで乾燥し、焼成することである。可溶性アンモニウム塩の溶液は、塩化アンモニウム又は硝酸アンモニウムの溶液から選択され、濃度は4〜10%である。乾燥後の焼成温度は500〜600℃である。
【0027】
REYを調製するための本発明の方法は、アンモニウム置換によって作ったHYゼオライトを可溶性RE化合物で一回置換し、乾燥し、500〜600℃で焼成し、次いでアンモニウム置換を1〜3回行ない、乾燥することである。可溶性RE化合物は好ましくは、混合REの塩化物、或いはそのほかのRE元素の塩化物又は硝酸塩である。RE元素は好ましくは、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、ユーロピウム、又はイッテルビウムから選択される。イットリウムの特性はREに近いので、イオン交換に使用することもできる。
【0028】
本発明に係る複合材料は、固体酸により触媒される種々の反応に好適であり、特に、重油又は残油の流動床接触分解のための触媒の有効成分として使用することができる。複合材料中のゼオライトは、REで置換した後、さらに高い熱水安定性及びコークス化防止能を有する。触媒として本発明の複合材料を用いて重油又は残油を分解する好適な条件は、460〜520℃、触媒/油の重量比1.0〜5.0及び原材料の質量空間速度16〜45h−1である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明がそれらによって限定されることはない。
【0030】
実施例の複合材料におけるNaYの含量及び単位格子定数aはそれぞれ、ASTM D−3906及びD−3942に従って測定し、REの含量は、X線蛍光分光光度測定の方法を用いて測定する。
【0031】
ゼオライトにおけるシリカ/アルミナの比は、先ず、単位格子定数aを測定し、次いで以下の式に基づいて計算することによって得られる。
SiO/Al(モル比)=2x(25.858−a)/(a−24.191)
【0032】
比表面積及び孔体積はそれぞれ、ASTM D−3663及びD−4365に従って、低温窒素吸収法(BET)を用いることによって測定し、ゼオライトの崩壊温度は、示差熱分析法(DTA)に従って測定する。
【0033】
(実施例1)
本発明のY−ゼオライト含有複合材料の調製
(1)ガイド剤の調製:迅速に攪拌しながら30℃にて、メタ−アルミン酸ナトリウム(3.15重量%のAl、21.1重量%のNaOを含有する)の溶液120gをケイ酸ナトリウム(20.05重量%のSiO及び6.41%重量%のNaOを含有する)の溶液250gにゆっくりと加え、混合物を1時間攪拌し、次いで20℃にて48時間熟成し、16NaO:Al:15SiO:32HOの組成を有するガイド剤を得た。
【0034】
(2)複合材料の調製:平均粒径4μmのカオリン(Suzhou Yangshan 商品名、中国カオリン会社、80重量%の結晶を含有する)を660℃で3時間焼成してメタカオリン粉末を得、それを230μm未満の粒径を持つメタカオリン粉末に粉砕した。
【0035】
攪拌しながら、粉砕したメタカオリン粉末500gに、ケイ酸ナトリウムの溶液(20.05重量%のSiO及び6.41%重量%のNaOを含有する)2000g、工程(1)で調製したガイド剤300g、5重量%の濃度の水酸化ナトリウム溶液500gを加え、1.39NaO:Al:5.38SiO:54.7HOの組成を持つ混合物を得た。この混合物を90℃まで加熱し、攪拌しながら温度を一定に維持して28時間結晶化したが、供給中及び結晶化中の攪拌速度は1000rpmである。結晶化の後、結晶化槽を急冷し、ろ過し、洗浄液のpH値が10未満になるまで洗浄し、次いで120℃で2時間乾燥させて複合材料Y−1を得た。X線回折測定は、Y−1中のNaY含量が35.4重量%、単位格子定数が24.67、シリカ/アルミナ比が4.96であったことを示す。
【0036】
(実施例2)
カオリンを680℃にて4時間焼成し、反応原材料の結晶化における攪拌速度が600rpmであったことを除いて、実施例1の方法に従って複合材料Y−2を調製した。Y−2におけるNaYの含量は、X線回折により52.4重量%であると測定され、物理化学的特性を表1に示す。X線回折のパターンを図1に示し、電界放射走査電子顕微鏡(SEM)の様々な拡大因子を持つ画像を図2〜5に示す。
【0037】
図1におけるX線回折パターンから、本発明の複合材料がNaYに特徴的なピークを有することを見ることができ、それがNaYを含有し、NaYの含量が特徴的なピークの面積から計算できることを示している。
【0038】
図2における5000倍拡大のY−2のSEM画像から、本発明の複合材料が、3000nm未満の等しい直径を持つネスト様構造から成ることは明らかである。図3における20000倍拡大のSEM画像は、ネスト様構造は少なくとも70%のロッド様の結晶を含有し、残りは鱗状の結晶及び塊状の結晶であり、ロッド様の結晶の直径は約50〜200nm、その長さは約100〜600nmであり、鱗状の結晶の厚さは約50〜200nm未満であり、塊状の結晶の等しい直径は約100〜500nmであることを示している。図4の30000倍拡大のSEM画像は、直径が約100nm未満のロッド様の結晶の上には多数のNaY結晶があり、鱗状の結晶も多数の直径約40〜100nmのNaY結晶を含有することを示している。図5の20000倍拡大のSEM画像は、Y−2の断面図であり、ネスト様構造の断面は、岩屋に似ており、ネスト様構造におけるロッド様の結晶とロッド様の結晶、ロッド様の結晶と鱗状の結晶、及びロッド様の結晶と塊状の結晶の連鎖が結合形成によって実現することを示している。図4及び図5は、本発明の複合材料に多数の孔、穴及びネストの通路が存在することを明らかに示している。
【0039】
(実施例3)
ケイ酸ナトリウムの添加量を4000gにして、原料の組成を2.2NaO:Al:8.4SiO:80HOとした以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−3を作製した。得られたY−3は、NaY含量32.8重量%、単位格子定数24.68、シリカ/アルミナ比4.82を有する。
【0040】
(実施例4)
メタカオリン粉末5g、ケイ酸ナトリウムの溶液20g、ガイド剤2g、10重量%濃度の水酸化ナトリウム溶液20g、次いでEDTA0.8gを加え、原材料の組成を2.29NaO:Al:5.33SiO:87.1HOとし、次いで、29時間結晶化した以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−4を作製した。Y−4中のNaY含量は79.6重量%、単位格子定数は24.68であった。Y−4の物理化学的な特性を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
反応原材料に酒石酸ナトリウム1.1gを加え、温度を90℃に上げ、攪拌しながら30時間結晶化した以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−5を作製した。得られたY−3は、NaY含量66.2重量%、単位格子定数24.73、シリカ/アルミナ比5.26を有する。Y−5の物理化学的な特性を表1に示す。
【0042】
(実施例6)
メタカオリン粉末5g、ケイ酸ナトリウムの溶液20g、ガイド剤4g、水酸化ナトリウム溶液15g、及びドデシルスルホン酸ナトリウム0.15gを加え、原材料の組成を1.77NaO:Al:5.44SiO:80.4HOとした以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−6を作製した。Y−6中のNaY含量は82.5重量%、単位格子定数は24.71であった。Y−6の物理化学的な特性を表1に示す。
【0043】
(実施例7)
メタカオリン粉末5g、ケイ酸ナトリウムの溶液15g、ガイド剤1.7g、水酸化ナトリウム溶液15gを加え、原材料の組成を1.32NaO:Al:4.55SiO:67.7HOとした以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−7を作製した。得られたY−7は、NaY含量63.3重量%、単位格子定数24.65、シリカ/アルミナ比5.26を有する。
【0044】
(実施例8)
メタカオリン粉末5g、ケイ酸ナトリウムの溶液15g、ガイド剤3.0g、水酸化ナトリウム溶液15gを加え、原材料の組成を1.44NaO:Al:4.63SiO:71.1HOとした以外は、実施例1の方法に従って複合材料Y−8を作製した。得られたY−8は、NaY含量75.0重量%、単位格子定数24.68、シリカ/アルミナ比4.82を有する。
【0045】
(比較例)
中国公開特許第1334142A号の方法に従ってカオリンを870℃で2時間焼成し、次いで実施例1に従ってY−9を作製した。Y−9中のNaYの含量は80重量%、シリカ/アルミナの比は4.72であった。Y−9のSEM画像を図6に示すが、それは、Y−9がネスト様構造を有さないことを示している。
【0046】
(実施例9〜13)
本発明のREY−含有複合材料の調製
NHCl、100g及び脱イオン水1000gを、本発明に従って調製したNaYゼオライトを含有する複合材料100gに加え、混合物を90℃にて2時間攪拌し、次いで、洗浄し、ろ過し、次いで120℃にて2時間乾燥してNHYゼオライトを含有する複合材料を得た。
【0047】
NHY:RE:HOの比、1:0.1:10にて、NHYゼオライトを含有する複合材料100gに水を加え、希塩酸でpH値を4.5に調整した。次いで、混合したRE塩化物の溶液を加え、攪拌しながら90℃にて2時間、イオン交換を進行させた。洗浄し、ろ過した後、回収した固形物を560℃にて2時間焼成した。REY:NHCl:HO=1:0.3:10の比を持つ焼成したストックを供給し、攪拌しながら90℃にて1時間、アンモニウム交換に供した。次いで、ろ過し、洗浄し、120℃にて2時間乾燥した。同じ条件下でアンモニウム交換を1回繰り返し、酸化ナトリウムの含量0.3重量%未満のREY−ゼオライトを含有する複合材料を得た。各実施例で調製された複合材料におけるREY含量、その相当する番号、及び調製方法で使用された原材料番号を表2に示す。
【0048】
(実施例14)
100%水蒸気にて810℃でそれぞれ8時間及び17時間、本発明のREY−含有複合材料を熟成し、次いで乾燥して、微量反応器にて、239〜351℃の沸点幅を有する軽油と共にその触媒性能について評価した。結果を表3に示す。
【0049】
表3から、本発明に係る複合体は、厳しい熟成処理後、依然として好ましい熱水安定性を有することを見ることができる。微量反応器における高い活性によってこのことが反映される。これは、本発明の複合材料がネスト様構造を有し、種々の結晶が完全に積み重ねられるわけではなく、多数の隙間や空間が存在し、それが熱の分散や移動に好都合であり、一方、カオリンの結晶変換後、形成されるシリカ/アルミナの非晶性マトリクスの表面でゼオライト結晶が成長し、マトリクスがゼオライト結晶上の熱を分散できるだけでなく、結晶上の酸化ナトリウムの濃度を希釈することもでき、それによって熱安定性が高められるためである。
【0050】
(実施例15)
本実施例は、微量反応器における重油の分解に関する本発明の複合材料の触媒性能を説明する。
【0051】
触媒として用いるREY−1、REY−3及びREY−5を100%水蒸気にて810℃で17時間熟成し、次いで重油の微量反応器装置にて熟成した触媒の触媒性能について評価した。触媒の負荷は2gとした。使用した原材料油の特性を表4に示す。反応温度500℃、触媒/油の比1.18及び質量空間速度43.71h−1にて得られた結果を表5に示すが、その際、ガソリンの蒸留終点温度は220℃であり、ディーゼル油のそれは330℃であった。
【0052】
表5におけるデータは、比較用の触媒、REY−5に比べて、極めて厳しい熟成処理に供した後でさえ、本発明に係る複合材料は、さらに高い変換、軽油の高い収率、乾性ガス及びコークスの低い収率を示し、このことは、本発明に係る複合材料が高い熱水安定性及び重油を分解する強い能力を有することを示している。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の複合材料のX線回折パターンである。
【図2】5000倍に拡大した、本発明の複合材料のSEM画像である。
【図3】20000倍に拡大した、本発明の複合材料のSEM画像である。
【図4】30000倍に拡大した、本発明の複合材料のSEM画像である。
【図5】20000倍に拡大した、本発明の複合材料のSEM画像である。
【図6】高温で焼成したカオリンから作製した複合材料の15000倍に拡大したSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y−ゼオライトを含有する複合材料であって、前記複合材料がネスト様構造を含むことを特徴とした複合材料。
【請求項2】
前記複合材料が、カオリンを含む材料からin situ結晶化によって作製されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記複合材料が、30〜85重量%の含量のY−ゼオライトと、カオリンを含む材料in situ結晶化の後に形成されるマトリクスとを含むことを特徴とする請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
Y−ゼオライトの含量が、30〜70重量%の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記ネスト様構造が、少なくとも70%のロッド様の結晶から構成され、前記ロッド様の結晶は50〜200nmの直径及び100〜600nmの長さであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記ネスト様構造が、さらに鱗状の結晶及び塊状の結晶を含み、塊状の結晶が50〜500nmの等しい直径を有し、鱗状の結晶が50〜200nmの厚さを有する請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
前記Y−ゼオライトの結晶の直径が10〜400nmの範囲内であり、前記ネスト様構造の等しい直径が1000〜3000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記ロッド様の結晶、鱗状の結晶及び塊状の結晶が、カオリンを含む材料のin situ結晶変換の後に形成されるマトリクス及び前記マトリクス表面上のY−ゼオライトから形成されることを特徴とする請求項5又は6に記載の複合材料。
【請求項9】
前記材料に含まれるカオリンが、硬質カオリン又は軟質カオリンから選択されることを特徴とする請求項2に記載の複合材料。
【請求項10】
複合材料の見かけのかさ密度が0.50〜0.75g/cm及び表面積が280〜800m/gであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
BET法で測定される17〜3000Åのメソ細孔の孔体積が、0.03〜0.076mL/gであり、孔の全体積の10〜35%の割合を占めることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
Y−ゼオライトにおけるSiO/Alのモル比が4.0〜5.5であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項13】
前記Y−ゼオライトが、NaY、HY,REY及びREHYから成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項1に記載の複合材料を製造する方法であって、工程:
(1)カオリンを含む原料を500〜690℃にて焼成及び脱水して、メタカオリンに変換し、次いで230μm未満の粒径を持つ粉末にすること;
(2)メタカオリン粉末に、ケイ酸ナトリウム、ガイド剤、水酸化ナトリウム溶液、及び水を加え、(1〜2.5)NaO:Al:(4〜9)SiO:(40〜100)HOの比となる反応原材料を作製し、その際、ガイド剤のメタカオリンに対する重量比が0.1〜1.0であること;
(3)工程(2)で作製した前記反応原材料を攪拌しながら、88〜98℃にて結晶化し、次いでろ過し、乾燥すること、を含む方法。
【請求項15】
工程(2)における前記ガイド剤の組成が、(10〜17)SiO;(0.7〜1.3)Al;(11〜18)NaO;(200〜350)HOの比であり、ガイド剤は4〜20℃でエージングすることによって作製されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(1)において原料を焼成する温度が600〜690℃の範囲内であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
工程(3)における結晶化のための攪拌速度が200〜1000rpmであり、結晶化時間が16〜48時間であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
工程(2)において添加される水酸化ナトリウム溶液の濃度が1〜10重量%であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
工程(1)における前記カオリンが、75重量%を超える結晶を含有する硬質カオリン又は軟質カオリンから選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
反応原材料全体の0.1〜2.5重量%の割合を占める補助剤を工程(2)における原材料にさらに加え、前記補助剤が、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルトリメチル臭化アンモニウム、ポリエチレングリコール、シュウ酸、クエン酸、酒石酸ナトリウム又はエチレンジアミン四酢酸から成る群から選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−521266(P2006−521266A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504202(P2006−504202)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/CN2004/000261
【国際公開番号】WO2004/085057
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(501329404)中國石油化工股▲分▼有限公司 (13)
【出願人】(504427813)中国石油化工股▲分▼有限公司石油化工科学研究院 (10)
【Fターム(参考)】