説明

YAG単結晶、それを用いた光学部品およびその関連機器

【課題】真空紫外域において高屈折率を有する単結晶、それを用いたレンズなどの光学部品およびその関連機器を提供する。
【解決手段】組成式YAl12で表されるYAG単結晶であって、真空紫外域(波長200nm以下)における屈折率が2.05以上である。また、前記YAG単結晶はフッ素を含有することができる。フッ素は単結晶中の酸素原子と置換するかまたは酸素欠損を埋めるかのいずれか一方または両方を行うので、YAG単結晶の真空紫外域における透過率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成式YAl12で表されるYAG単結晶、それを用いた光学部品およびその関連機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの高集積化および動作速度の高速化が要求されており、これらの要求に応えるためにパターンの微細化技術の発展が目覚しいものとなっている。パターンの微細化技術として液浸露光技術が知られている。液浸露光技術とは、投影レンズとレジストとの間の空気を屈折率の高い液体で満たすことにより光学系の開口数(NA)を大きくできる技術である。現在、液浸露光装置の光源の短波長化(波長193nmのArFエキシマレーザおよび波長157nmのFレーザ)および高屈折率を有する液体(屈折率1.6〜1.66のデカリン(C1018))の開発が進み、解像度は30nm〜32nmに迫ろうとしている。
【0003】
上記解像度を達成するためには、液浸露光装置における投影レンズとして、少なくとも屈折率1.7以上を有するレンズ材料の開発が必要とされている。このようなレンズ材料には、YAl12、LuAl12、CaAlSi12、KNaAlF、KNaScF、KLiAlF、NaAlLi12、(Mg,Zn)Al、CaAl、CaB、LiAl、BaZrOおよび/またはCaCeOからなる群から選択される材料が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1には、波長193nmにおけるLuAl12(以下、LuAG)の屈折率は2.04であると記載され、実用性が有効であることを示唆されているにとどまっている。また、特許文献1の記載では他の材料の屈折率などについては不明であり、実用性の調査は十分とは言えない。しかも、LuAGは、原料のコストが高いため、極めて高価である。
【0005】
また、LuAGが高屈折率を有するレンズ材料であり、液浸露光装置に有効であることを示す報告がある(非特許文献1)。非特許文献1には、波長193nmにおけるLuAGの屈折率が2.1435であると記載され、LuAGの有効性が示唆されている。また、非特許文献1には、他の候補材料としてYAl(以下、YAG)の屈折率が2.0であると記載されてもいる。このような技術的背景により、液浸露光装置におけるレンズ材料として専らLuAGが有力視されている。しかしながら、液浸露光装置の設計の観点からすると、LuAG以外にも実用可能なレンズ材料があることが望ましく、その開発が望まれている。したがって、LuAGの屈折率と同等またはそれ以上の高い屈折率を有し、かつ、LuAGよりも安価に提供される材料およびその用途があれば、より一層技術的に貢献することになると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−251805号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】John H. Burnettら, Proc. of SPIE Vol. 6154 615418−1〜615418−12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、真空紫外域において高屈折率を有する単結晶、それを用いたレンズなどの光学部品およびその関連機器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0010】
第1の発明は、組成式YAl12で表されるYAG単結晶であって、真空紫外域における屈折率が2.05以上であることを特徴としている。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、波長193nmにおける屈折率が2.144〜2.145であることを特徴としている。
【0012】
第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明の特徴において、フッ素を含有することを特徴としている。
【0013】
第4の発明は、光学部品であって、上記第1の発明から第3の発明のいずれか一つの特徴を有するYAG単結晶から形成されていることを特徴としている。
【0014】
第5の発明は、光学部品を有する半導体関連機器であって、前記光学部品が上記第4の発明の特徴を有する光学部品であることを特徴としている。
【0015】
第6の発明は、光学部品を有する光学関連機器であって、前記光学部品が上記第4の発明の特徴を有する光学部品であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のYAG単結晶は、真空紫外域において2.05以上の屈折率を有し、従来知られているLuAG単結晶よりも屈折率が大きいため、LuAGに代替可能であり、レンズなどの光学部品として利用することができる。特に、YAG単結晶から形成されている光学部品を半導体関連機器としての液浸露光装置の投影レンズなどに適用することにより、高屈折率に基づき高解像が実現される。また、YAG単結晶から形成されているレンズを光学関連機器の一つであるデジタルカメラなどの撮像装置の非球面レンズなどとして適用することにより、高屈折率に基づきレンズ厚を薄くすることができ、撮像装置の小型化が可能となる。本発明のYAG単結晶は、光学部品としてレンズ以外にもプリズムおよび窓材などに適用可能である。このような光学部品を、半導体関連機器としての干渉計や光学関連機器としての顕微鏡などに採用してもよい。さらに、YAG単結晶は、原料を安価に入手できるので、LuAGに比べてコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のYAG単結晶から形成されたレンズを用いた液浸露光装置の模式図である。
【図2】実施例1で作製したYAG単結晶の屈折率の波長依存性を示した図である。
【図3】実施例2で作製したフッ素を含有するYAG単結晶の外観を示した写真である。
【図4】実施例2で作製したフッ素を含有するYAG単結晶の屈折率の波長依存性を示した図である。
【図5】実施例1および実施例2で作製したYAG単結晶の透過スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のYAG単結晶、それを用いた光学部品およびその関連機器について、図面を参照しながら説明する。本発明者らは、既知の材料であるYAl12の結晶構造を有する単結晶(以下、YAG単結晶)について実験研究を行った結果、特定の性質およびその好適な用途を見出した。
【0019】
本発明のYAG単結晶は、真空紫外域における屈折率が2.05以上であるものである。真空紫外域とは、10nm〜200nmの波長の領域を意味する。特に、本発明のYAG単結晶は、波長193nmにおける屈折率が2.144〜2.145である。本発明者らは、YAG単結晶の屈折率の値が、非特許文献1に示されるように、従来から知られていた屈折率の値(2.0)とは大きく異なり、常識を超える大きな値であることを見出した。
【0020】
このように真空紫外域における屈折率が2.05以上という値は、液浸露光装置の投影レンズの要件(少なくとも屈折率1.7以上)を満たしているため、液浸露光装置用の投影レンズに好適である。また、本発明のYAG単結晶は、既存のLuAGの屈折率と同等の屈折率、特に、波長193nmにおける屈折率はLuAG以上の屈折率であるため、LuAGに代替可能であり、液浸露光装置の解像度をさらに向上させることができる。
【0021】
本発明のYAG単結晶は、その組成にフッ素を含有することができる。フッ素は単結晶中の酸素原子と置換するかまたは酸素欠損を埋めるかのいずれか一方または両方を行うので、YAG単結晶の真空紫外域における透過率を向上させることができる。また、本発明のYAG単結晶は、1価の元素、2価の元素および3価の元素からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ電気陰性度が1.35以下である元素を含有することもできる。上記選択元素は、単結晶中のYまたはAlのいずれか一方または両方と置換するか、または、Y欠陥またはAl欠陥のいずれか一方または両方を埋めるかのいずれか一方または両方を行うので、YAG単結晶の真空紫外域における透過率を向上させることができる。これらの元素の添加量は、0%以上5%以下とするのが好ましい。5%を超えると、YAG単結晶が結晶構造を維持することができなくなる恐れがある。
【0022】
本発明のYAG単結晶は、その製造方法に特に制限はなく、チョクラルスキーなどの公知の結晶育成方法を適用することができる。なお、LuAGと異なり、YAG単結晶の原料は安価に入手することができるので、コスト削減を図ることができる。
【0023】
本発明のYAG単結晶を光学部品としてレンズに適用した例について以下に説明する。
【0024】
図1は、本発明のYAG単結晶から形成されたレンズを用いた液浸露光装置の模式図である。
【0025】
液浸露光装置100は、照明光学系111と、レチクル(マスク)112と、投影光学系113と、投影レンズ114と、液体供給装置115と、液体回収装置116と、液体117と、露光基板119が配置されるステージ118とを備えている。
【0026】
露光基板119にはレジスト120が塗布されている。レジスト120には、公知の液浸用レジストを採用することができ、たとえば、市販のメタクリル樹脂ベースのArF用レジストを用いることができる。
【0027】
照明光学系111は、光源を含み、光源からの光がレチクル112を照射するように機能する。光源には、たとえば、波長193nmのArFエキシマレーザを用いることができる。照明光学系110は、必要に応じて、ミラー、レンズなどの種々の光学要素が組み合わされて構成される。レチクル112は、露光基板119に露光させる原版である。
【0028】
投影光学系113の先端には投影レンズ114が設けられており、投影光学系113と投影レンズ114とは、レチクル112を通った光を縮小し、露光基板119を照射するように機能する。投影光学系113は、必要に応じて、ミラー、レンズなどの種々の光学要素が組み合わされて構成される。ここで、投影レンズ114は、上記のYAG単結晶から形成されている。
【0029】
また、液浸露光装置100は、投影レンズ114とレジスト120との間の空間を液体117で満たすことができるように、液体供給装置115および液体回収装置116を備えている。液体117は、公知の高屈折率液体が採用されている。
【0030】
このような液浸露光装置100は次のように動作する。
【0031】
照明光学系111における光源からの光がレチクル112を照射する。レチクル112を通った光は、投影光学系113、投影レンズ114を順次通過する。その際、レチクル112のパターンが縮小される。液体供給装置115および液体回収装置116は、レチクル112のパターンを投影中は、投影レンズ114とレジスト120との間を液体117で満たすように機能する。縮小されたパターンの光は、液体117によって屈折し、レジスト120を露光する。このとき、レジスト120に屈折率1.75のArF用レジストを用い、液体117に屈折率1.6の高屈折率流体を用い、投影レンズ114に上記のYAG単結晶から形成されたものを用いた場合、30nmを切る解像度が実現され得る。
【0032】
本発明のYAG単結晶は、真空紫外域における屈折率が2.05以上の高屈折率を有するものであるので、上記の液浸露光装置の投影レンズ以外にも、デジタルカメラなどの撮像装置の非球面レンズなどに適用することができる。高屈折率であるため、従来の非球面レンズよりも薄くでき、撮像装置全体を小型化することができる。このような理由により、本発明のYAG単結晶が適用可能な光学部品は、液浸露光装置および撮像装置のみならず、干渉計などの他の半導体関連機器や顕微鏡などの他の光学関連機器に広範囲にわたって採用することができる。
【0033】
次に、実施例を示し、本発明のYAG単結晶についてさらに説明する。もちろん、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
純度4NのY粉末と、Al粉末とをモル比で3:5となるように秤量・混合し、プレス成形した。プレス成形した原料混合粉末をIrるつぼに充填し、セラミック製保温材に配置した。高周波誘導加熱により、Irるつぼを原料混合粉末の融点近傍である20×10℃まで加熱し、原料混合粉末を溶解させた。
【0035】
次に、あらかじめ成型され、シードホルダーに固定されたYAG種結晶を、融液に接触させ、融液に馴染ませるとともに温度調整を行った。その後、引き上げ速度1mm/hおよび結晶回転数10rpmで回転引き上げを行い、YAG単結晶を育成した。
【0036】
このようにして得られたYAG単結晶の屈折率の波長依存性を測定した。測定用の試料としてYAG単結晶をカット・研磨し、プリズムを作製した。測定には最小偏角法を採用した。測定結果を図2に示した。また、YAG単結晶をカット・研磨し、透過スペクトルを測定した。測定用の試料の厚さは1mmであった。測定結果を図5に示した。性能の評価は後述の通りである。
【実施例2】
【0037】
フッ素を含有するYAG単結晶をチョクラルスキー法により製造した。原料粉末にYF粉末を加え、Y粉末と、Al粉末と、YF粉末とをモル比で2.9:5:0.2とした以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。なお、融液内のFは、0.2mol%であった。
【0038】
得られたフッ素を含有するYAG単結晶を観察した。観察結果を図3に示した。また、得られたYAG単結晶を、実施例1と同様に、カット・研磨し、屈折率の波長依存性および透過スペクトルを測定した。測定用の試料の厚さは1mmであった。測定結果を図4および図5に併せて示し、性能の評価は後述の通りである。
【0039】
図2は、実施例1で作製したYAG単結晶の屈折率の波長依存性を示した図である。
【0040】
図2から明らかなように、真空紫外域(波長200nm以下)における屈折率は2.05以上であり、より詳細には、波長193nmにおいて屈折率は2.145であった。この値は、LuAGのそれよりも大きく、YAGをLuAGに替えて液浸露光装置の投影レンズに好適であることが示唆される。
【0041】
図3は、実施例2で作製したフッ素を含有するYAG単結晶の外観を示した写真である。
【0042】
図3から明らかなように、フッ素を添加しても、均質かつ無色透明のYAG単結晶が得られる。
【0043】
図4は、実施例2のフッ素を含有するYAG単結晶の屈折率の波長依存性を示した図である。
【0044】
図4から明らかなように、真空紫外域(波長200nm以下)における屈折率は2.05以上であり、より詳細には、波長193nmにおいて屈折率は2.144であった。この値は、LuAGのそれよりも大きく、YAGをLuAGに替えて液浸露光装置の投影レンズに好適であることが示唆される。また、フッ素を含有してもYAG単結晶の屈折率への影響がないことが確認された。
【0045】
図5は、実施例1および実施例2で示したYAG単結晶の透過スペクトルを示した図である。
【0046】
図5から明らかなように、フッ素を含有させることによって、透過スペクトルの吸収端は短波長側にシフトしている。さらに詳細には、実施例2のフッ素を含有するYAG単結晶の真空紫外域(特に波長193nm)における透過率(50%)は、実施例1の無添加YAGの透過率(25%)の2倍に向上している。
【0047】
なお、原料の純度を4Nから6Nに高純度化するなど行うことにより、透過率のさらなる向上が期待される。
【符号の説明】
【0048】
100 液浸露光装置
111 照明光学系
112 レチクル(マスク)
113 投影光学系
114 投影レンズ
115 液体供給装置
116 液体回収装置
117 液体
118 ステージ
119 露光基板
120 レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式YAl12で表されるYAG単結晶であって、真空紫外域における屈折率が2.05以上であることを特徴とするYAG単結晶。
【請求項2】
波長193nmにおける屈折率が2.144〜2.145であることを特徴とする請求項1に記載のYAG単結晶。
【請求項3】
フッ素を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のYAG単結晶。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のYAG単結晶から形成されていることを特徴とする光学部品。
【請求項5】
光学部品を有する半導体関連機器であって、前記光学部品が請求項4に記載の光学部品であることを特徴とする半導体関連機器。
【請求項6】
光学部品を有する光学関連機器であって、前記光学部品が請求項4に記載の光学部品であることを特徴とする光学関連機器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−47468(P2010−47468A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173431(P2009−173431)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000208857)第一電通株式会社 (5)
【Fターム(参考)】