説明

Yersiniapestisの免疫療法におけるフラジェリンの使用

本発明は、フラジェリンアジュバントおよびYersinia pestis抗原を含む融合タンパク質を提供する。また、フラジェリンアジュバントおよびYersinia pestis抗原を含む組成物も提供される。本発明はまたフラジェリンアジュバントおよびYersinia pestis抗原を含む融合タンパク質を作製する方法を開示する。本発明はさらに、Yersinia pestisに対する免疫応答を誘導するための薬学的処方物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の情報]
本出願は、2004年12月16日出願の米国仮出願第60/636,635号、および2005年8月19日出願の米国仮出願第60/709,609号の利点を主張するものであり、その開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府支援の声明]
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)から、認可番号P01−AI060642として政府の支持を得ている。米国政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0003】
[発明の分野]
本発明は、Y.pestisに対する免疫応答を生成するためのフラジェリンアジュバント、Yersinia pestis(エルシニア・ペスチス)由来の抗原およびその融合タンパク質の(例えば、Y.pestis感染の予防的な治療における)使用に関する。
【背景技術】
【0004】
ワクチン開発における完全な病原体から個々の抗原へのシフトは、より安全なワクチンをもたらすが、有効性が顕著に減少されている。ワクチンアジュバントは、可溶性の組換えタンパク質抗原に対する強力な適応性応答を促進する。グラム陰性LPSおよび細菌のCpG DNAのようなトール様レセプター(TLR)アゴニストの炎症誘発効果によって、樹状細胞に対するそのアジュバント特性および影響の評価がもたらされている(Jaeger et al.(2002)Curr.Opin.Immunol.14:178−182;Ko et al.(2003)Clin.Cancer res.9:3222−3234;Medzhitov(2001)Nat.Immunol.1:135−145)。ほとんどのTLRアゴニストは、サイトカインの産生および樹状細胞の成長を刺激することによってアジュバントとして機能し、これによって先天性および適応性の免疫が連関する。
【0005】
疫病の原因因子であるYersinia pestisは、3回の主要な流行の間で約2億例の死亡の原因となったグラム陰性の生物体である。ヒトでは、疫病は、感染の性質によって指定された3つの形態(横痃の形態、肺炎の形態および敗血症の形態)を有する。横痃の疫病は、感染したノミの咬傷を介して伝播するが、肺炎の形態は、人と人の間で伝達され得る。医学的な治療なしでは、肺炎の疫病は急速に進行する疾患であって、死亡率はほぼ100%である(McSorley et al.(2002)J.Immunol.169:3914−3919;Means et al.(2003)J.Immunol.170:5165−5175)。
【0006】
疫病のための全細胞ワクチンの使用は、安全性の懸念が大きくなっている。Y.pestisのF1抗原および適切なアジュバントでの免疫は、抗F1 IgG抗体の力価と相関する防御的応答を惹起する(Davila and Celis(2000)J.Immunol.165:539−547;Brunner et al.(2000)J.Immunol.165:6278−6286)。相乗的な防御効果は、動物をF1抗原およびV抗原の両方、または組換えのF1/V融合タンパク質で免疫する場合に得られる(Ciacci−Woolwine et al.(1998)Infect.Immun.66:1127−1134;Moors et al.(2001)Infect.Immun.69:4424−4429;Gewirtz et al.(2001)J.Clin.Invest.107:99−109;Steiner et al.(2000)J.Clin.Invest.105:1769−1777)。高度に可変の応答が観察されたが、第1相臨床試験によって、F1およびVを含有するワクチンでの筋肉内免疫は、ヒトで免疫原性であることが実証された(Eaves−Pyles et al.(2001)J.Immunol.1666:1248−1260)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Y.pestisのような病原体に対する免疫応答を生成するための改善された試薬、薬学的処方物および方法を提供することが所望される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、融合タンパク質であり、この融合タンパク質は、以下を含むか、以下からなるか、または本質的に以下からなる。(a)(i)フラジェリンN末端定常領域と(ii)フラジェリンC末端定常領域とを含むか、それからなるか、もしくは本質的にそれからなる、フラジェリンアジュバントと、(b)このN末端定常領域とこのC末端定常領域との間のYersinia pestis抗原(例えば、フラジェリン超可変領域に挿入されるか、またはその一部もしくは全部と置き換えられ、この超可変領域は必要に応じて部分的にまたは全体的に欠失される)。
【0009】
本発明のさらなる態様は、上記のような融合タンパク質をコードする核酸である。いくつかの実施形態では、この核酸は、プロモーターと必要に応じて連結される。
【0010】
本発明のさらなる態様は、上記のような核酸を含むベクターである。
【0011】
本発明のさらなる態様は、上記のような核酸またはベクターを含む宿主細胞である。いくつかの実施形態では、この宿主細胞は、コードされた融合タンパク質を発現する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、上記のような融合タンパク質を作成する方法であって、本方法は、この融合タンパク質が生成されるのに十分な条件下で適切な培養培地中において上記の融合タンパク質をコードする核酸を含む宿主細胞を培養するステップを含む。必要に応じて、この融合タンパク質は、宿主細胞から、または培養培地から収集される。
【0013】
本発明のさらなる態様は、組成物(例えば粘膜送達のため)であって、(a)フラジェリンアジュバントと、(b)Yersinia pestis抗原とを含むか、それからなるか、または本質的にそれからなる(このY.pestis抗原およびフラジェリンアジュバントは、別々であるか互いにカップリングされ、すなわち、融合タンパク質、例えば、本明細書において記載されるような融合タンパク質の形態である)組成物である。
【0014】
本発明のさらなる態様は、薬学的に受容可能な担体中に上記のような融合タンパク質または組成物を含む薬学的処方物である。
【0015】
本発明のさらなる態様は、被験体においてY.pestis抗原に対する免疫応答を誘導する(例えば、抗体を生成するか、および/または細胞媒介性免疫応答を誘導する)方法であり、この方法は、上記のような、融合タンパク質、組成物または薬学的処方物を、この被験体においてY.pestis抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量でこの被験体に投与するステップを含む。
【0016】
本発明のなおさらなる態様は、被験体をY.pestis感染について治療する方法(例えば、Y.pestis感染に対して患者をワクチン接種する)であって、この方法は、上記のような、融合タンパク質、組成物または薬学的処方物を、この被験体に対して、Y.pestis感染を治療するのに有効な量で投与するステップを含む(例えば、被験体において、予防的な防御免疫応答を生成するか、および/またはY.pestis感染に対する防御的な免疫応答を生成する)。
【0017】
本発明の方法の特定の実施形態では、この被験体は、哺乳動物被験体、霊長類被験体、またはヒト被験体である。
【0018】
本発明のさらなる態様は、本明細書において記載されるような治療の方法を行うための医薬の調製のための、本明細書に記載のような融合タンパク質または組成物の使用である。
【0019】
本発明のこれらの態様および他の態様は、下の本発明の説明に示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、フラジェリンおよびその断片が、粘膜アジュバントを含むアジュバントとして機能して、被験体において惹起されたYersinia pestisに対する免疫応答を増強し得るという発見に一部基づく。
【0021】
他に規定しない限り、本明細書に用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書における本発明の説明で用いられる専門用語は、特定の実施形態を描写する目的のためだけであって、本発明を限定する意図ではない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の引用文献は、その全体が参照によって組み込まれる。
【0022】
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、単数形「1つの、(a)、(an)」、および「この、その(the)」とは、文脈が明らかに他を示すのでない限り、複数形を同様に含むものとする。
【0023】
本明細書において用いられる場合「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」とは、示されるペプチド、タンパク質、融合タンパク質、核、化合物、組成物などがいかなる他の物質的要素(すなわち、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、核酸、化合物または組成物の構造および/または機能に実質的に影響する要素)も含まないということを意味する。
【0024】
本発明の代表的な実施形態では、本発明のペプチド、タンパク質、融合タンパク質、核酸および/または細胞が「単離される(isolated)」。「単離される」とは、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、核酸および/または細胞が、他の成分から離れて少なくとも部分的に精製されることを意味する。
【0025】
1.Yersinia pestis抗原
「免疫原(immunogen)」および「抗原(antigen)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、任意の化合物(ペプチドおよびタンパク質を含む)であって、それに対して細胞性免疫応答および/または体液性免疫応答が指向され得る化合物を意味する。
【0026】
本発明は、任意の適切なY.pestis抗原で実施され得る。本発明を行うために用いられ得る、Y.pestisから得られる抗原は、公知であって、例えば、米国特許第6,706,522号;同第6,638,510号;および同第5,985,285号に記載されている。特定の実施形態では、この抗原は、米国特許第5,985,285号に記載されるようなY.pestisのV抗原および/またはY.pestisのF1抗原(これらの用語は、このタンパク質全体およびその断片を含み、これは、少なくとも約10、15、20、30、または50連続するアミノ酸長であり得る);またはY.pestisのV抗原およびF1抗原(ここでも、これらの用語は、このタンパク質全体およびその断片を含み、これは、少なくとも約10、15、20、30、または50連続するアミノ酸長であり得る)の融合物である。いくつかの実施形態では、この抗原は、成熟Y.pestisのVタンパク質および/またはF1タンパク質の全てまたは1つの断片を含み、あるいは、Y.pestisのVおよび/またはF1前駆体の全てまたは1つの断片を含んでもよい。適切な断片は、免疫応答を誘導し、必要に応じてタンパク質を供与する1つ以上のエピトープを含む。代表的な実施形態では、この断片は、このタンパク質の細胞外部分の全てまたは一部を含む。さらに、本明細書において用いる場合、「Y.pestis抗原(Y.pestis antigen)」または「Y.pestis由来の抗原(antigen from Y.pestis)」などの用語は、限定はしないが、被験体において免疫応答を、必要に応じて防御免疫応答を誘導する、天然に存在するY.pestis抗原およびその改変型を含む。例えば、天然の抗原は、安全性および/または免疫原性を増大するように改変され得る。
【0027】
Y.pestis抗原は、融合ペプチド、例えば、F1/V融合ペプチドまたはV/F1融合ペプチドの形態であってもよく、これには、限定はしないが、Titball et al.の米国特許第5,985,285号およびS.Leary et al.,(1997)Microbial Pathogenesis 23:167−179に記載される融合ペプチドが挙げられる。2つの抗原が融合ペプチドとして結合される場合、それらは、互いに対して直接結合されてもよいし、またはペプチド結合もしくは「ヒンジ(hinge)」セグメント(例えば、2、3、4、6、8、10、15、20、30、50以上のアミノ酸のセグメント)によって結合されてもよい。
【0028】
2.フラジェリン
本発明者は、フラジェリンが、Y.pestis抗原に対して宿主によって惹起される能動的な免疫応答を増強するための、粘膜アジュバントとして作用することを含む、アジュバントとして機能し得ることを確認した。本明細書において用いる場合、「アジュバント」という用語は、当業者によって理解されるその通常の意味を有する。例えば、アジュバントとは、被験体において抗原に対する免疫応答を刺激するその抗原の能力を増大する物質として規定され得る。特定の実施形態では、このアジュバントは、抗原に対する免疫応答を少なくとも約2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、60、75、100、150、500、1000倍以上増大する。他の実施形態では、このアジュバントは、特定のレベルの免疫応答(細胞性および/または体液性および/または粘膜の)を達成するのに必要な抗原の量、例えば、少なくとも約15%、25%、35%、50%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、98%以上を減少させる。あるアジュバントはさらに、免疫応答、必要に応じて防御的免疫応答が維持される時間を延長する物質であってもよい(例えば、少なくとも約2倍、3倍、5倍、10倍、20倍以上の時間)。ある場合には、アジュバントの非存在では、宿主において有意な免疫応答は惹起されないかもしれない。
【0029】
フラジェリンタンパク質は、公知であって、例えば、米国特許第6,585,980号、同第6130,082号;同第5,888,810号;同第5,618,533号;同第4,886,748号および米国特許出願第US2003/0044429号A1;ならびにDonnelly et al.,(2002)J.Biol.Chem.43:40456に記載されている。ほとんどのグラム陰性の細菌は、運動性をもたらす表面構造である鞭毛を発現する。この鞭毛は、基底小体、フィラメントおよびこの2つをつなぐフックから形成される。このフィラメントは、単一のタンパク質フラジェリンの長いポリマーから形成され、末端に小型のキャップタンパク質を有する。フラジェリンの重合化は、N末端およびC末端の保存領域によって媒介されるが、このフラジェリンタンパク質の介在領域は種の間で極めて多様である。
【0030】
本発明の例示的な実施形態では、フラジェリンアジュバントおよび1つ以上のY.pestis抗原を含む融合タンパク質が提供される。一般には本発明の融合タンパク質は、以下を含むか、以下からなるか、または本質的に以下からなる。(a)(i)フラジェリンN末端定常領域および(ii)フラジェリンC末端定常領域を含むフラジェリンアジュバントと、(b)このN末端定常領域とこのC末端定常領域との間にあるY.pestis抗原。いくつかの実施形態では、この定常領域の間のフラジェリン超可変領域は、(全体または一部が)欠失され、他の実施形態では、超可変領域が存在する。この超可変領域の(全体または一部)が存在する場合、この抗原は、(i)超可変領域内に挿入されても、(ii)フラジェリンN末端定常領域と超可変領域との間に挿入されても、または(iii)フラジェリンC末端定常領域と超可変領域との間に挿入されてもよい。
【0031】
さらに、N末端定常領域およびC末端定常領域は、ヒンジ領域によって連結され得る。この超可変領域またはY.pestis抗原は、ヒンジ領域として機能し得る。さらに、あるいは、約2、3、4、6、8、10、15、20、30、50以上のアミノ酸のセグメントがヒンジ領域として機能し得る。
【0032】
フラジェリンの保存領域は、当分野で周知であり、そして例えば、Mimori−Kiyosue et al.,(1997)J.Mol.Virol.270:222−237;Iino et al.,(1977)Ann.Rev.Genet.11:161−182;およびSchoenhals et al,(1993)J.Bacteriol.175:5395−5402に記載されている。当業者によって理解されるとおり、定常領域のサイズは、フラジェリンタンパク質の供給源に依存していくらか変化するだろう。一般には、N末端定常ドメインは、タンパク質の約170または180のN末端アミノ酸を含むが、C末端定常ドメインは代表的には、約85〜100のC末端アミノ酸にまたがる。中央の超可変領域は、細菌ごとにサイズおよび配列がかなり変化し、分子量の相違のほとんどを占める。種々の細菌由来のフラジェリンタンパク質のN末端およびC末端定常領域は公知であって、他は、公知のアラインメント技術を用いて当業者によって容易に同定され得、この技術は、フラジェリン単量体の結晶構造の解明によって容易になる(Samatey et al.,(2001)Nature 41:331)。
【0033】
「フラジェリンN末端定常領域(flagellin N−terminal constant region)」および「フラジェリンC末端定常領域(flagellin C−terminal constant region)」という用語は、本明細書において用いる場合、活性な断片(例えば、少なくとも約50、100または120のアミノ酸長の断片)およびY.pestis抗原に対する免疫応答を増強する(例えば、TLR5経路を活性化することによる)任意の前述の改変を含む。例えば、天然のフラジェリン領域は、安全性および/または免疫応答を増大するために改変され得る。いくつかの実施形態では、フラジェリンのN末端および/またはC末端の定常領域は、全長領域を含み、あるいは、1つの領域の断片のみまたは両方の領域の断片を含んでもよい。
【0034】
特定の実施形態では、N末端および/またはC末端の定常領域は、TLR5認識部位を含み、そしてTLR5経路を活性化できる。
【0035】
代表的な実施形態では、N末端定常領域はEaves−Pyles et al.(2001)J.Immunology 167:7009−7016に記載されるようにN末端RINSAドメイン(S.dublinのフラジェリンのアミノ酸31〜52)、またはY.pestis抗原の免疫原性を増強するその相同体もしくは改変型を含む。他の実施形態では、N末端定常領域はD1およびD2ドメインを含み、そしてC末端定常領域は、D1およびD2ドメイン(Eaves−Pyles et al.(2001)J.Immunology 167:7009−7016)またはY.pestis抗原の免疫原性を増強するその改変型を含む。
【0036】
他の実施形態では、フラジェリンのN末端および/またはC末端の定常領域は、Alderem et al.の米国特許公開第US2003/0044429号A1によって記載されるような、ペプチドGAVQNRFNSAIT(配列番号4)、またはY.pestis抗原の免疫原性を増強するその相同体もしくは改変型を含むか、それらからなるか、または本質的にそれらからなる。
【0037】
さらに他の実施形態では、このN末端定常ドメインは、「モチーフN(motif N)」(例えば、S.muenchenのフラジェリンのアミノ酸98〜108)を含み、そして/あるいはC末端定常ドメインは、Kanneganti et al.,(2004)J.Biol.Chem.279:5667−5676によって同定される「モチーフC(motif C)」(例えば、S.muenchenのフラジェリンのアミノ酸441〜449)またはY.pestis抗原の免疫応答を増強するその相同体もしくは改変型を含む。
【0038】
他の例示的な実施形態では、N末端定常ドメインは、P.aeruginosaのフラジェリンのアミノ酸88〜97(例えば、Verma et al.,(2005)Infect.Immun.73:8237−8246を参照のこと)またはY.pestis抗原の免疫応答を増強するその相同体もしくは改変型を含む。
【0039】
TLR5シグナル伝達に関与するフラジェリンタンパク質の領域は、Smith et al.(2003)Nat.Immunol.4:1247−1253によって同定されている(例えば、S.typhimuriumのフラジェリンのアミノ酸78〜129、135〜173および394〜444、またはその相同体もしくは改変型)。
【0040】
フラジェリンのN末端定常領域、C末端定常領域および超可変領域は、任意の適切な供給源由来のフラジェリン由来であってもよく、これらの領域のいくつかまたは全ては、同じ生物体由来または異なる生物体由来である。多数のフラジェリン遺伝子がクローニングされて配列決定されている(例えば、Kuwajima et al.,(1986)J.Bact.168:1479;Wei et al.,(1985)J.Mol.Biol.186:791−803;およびGill et al.,(1983)J.Biol.Chem.258:7395−7401を参照のこと)。フラジェリンの非限定的な供給源としては、限定はしないが、S.enteritidis、S.typhimurium、S.dublin、H.pylori、V.cholera、S.marcesens、S.flexneri、S.enterica、T.pallidum、L.pneumophila、B.burgdorferei、C.difficile、A.tumefaciens、R.meliloti、B.clarridgeiae、R.lupine、P.mirabilis、B.subtilis、P.aeruginosa、および大腸菌が挙げられる。
【0041】
本発明の融合タンパク質の非限定的な例は、本明細書の実施例に提供される。
【0042】
必要に応じて、融合タンパク質は、任意の他のペプチドまたはタンパク質を含んでもよい。例えば、この融合タンパク質は、他の生物体由来の1つ以上の抗原をさらに含み得る。代表的な実施形態では、この融合タンパク質はさらに、免疫調節性化合物を含む。例えば、免疫応答は、免疫調節性サイトカインまたはケモカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロン、ω−インターフェロン、τ−インターフェロン、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン12、インターロイキン−13、インターロイキン−14、インターロイキン−18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、単球化学誘引物質タンパク質−1、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシン、CCL25[MECK]、およびCCL28[TECH])によって増強され得ることが当分野で公知である。
【0043】
本発明はまた、フラジェリンアジュバントおよびY.pestis抗原を含む組成物を提供する。この実施形態によれば、フラジェリンアジュバントは、全長フラジェリンであってもよいし、または上記により詳細に記載されるようなN末端定常領域および/またはC末端定常領域を含むフラジェリンペプチドであってもよい。さらに、これも上記のように、フラジェリンアジュバントをY.pestis抗原に対してカップリング(すなわち融合)して融合タンパク質を形成してもよい。例示的な実施形態では、このY.pestis抗原は、Y.pestisのF1タンパク質、Y.pestisのVタンパク質またはその融合物である。この組成物は、フラジェリンアジュバントに融合された1つ以上のY.pestis抗原を含んでもよく、そして必要に応じて、この組成物中に存在する1つ以上のY.pestis抗原は、フラジェリンアジュバントには融合されない。他の実施形態では、このフラジェリンアジュバントは、Y.pestis抗原には結合されない。
【0044】
他に示されない限り、融合タンパク質は、タンパク質(またはこのタンパク質をコードする核酸)それ自体として投与され、生きているか、不活化されているか、または組み換えられている細菌またはウイルスのベクターによって誘導されるワクチンの一部としてではない。
【0045】
4.組換え核酸および融合タンパク質の生成
他を示す場合を除いて、当業者に公知の標準的な方法が、遺伝子をクローニングするため、核酸を増幅して検出するため、融合構築物を生成するため、宿主の細胞または生物体においてペプチドを発現するためなどに用いられ得る。このような技術は、当業者に公知である。例えば、Sambrook et al.,「Molecular Cloning」A Laboratory Manual 2nd Ed.(Cold Spring Harbor,NY,1989);F.M.Ausubel et al.Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley & Sons,Inc.,New York)を参照のこと。
【0046】
本明細書において用いる場合、「核酸(nucleic acid)」とは、RNAおよびDNAの両方を包含し、これには、cDNA、ゲノムDNA、合成(例えば、化学的合成)DNA、ならびにRNAおよびDNAのキメラが挙げられる。核酸は、二本鎖であってもまたは一本鎖であってもよい。核酸は、オリゴヌクレオチドアナログまたは誘導体(例えば、イノシンまたはホスホロチオエートヌクレオチド)を用いて合成されてもよい。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、変更された塩基対形成力またはヌクレアーゼに対する耐性を増大させた核酸を調製するために用いられ得る。
【0047】
本発明の融合タンパク質は、種々の目的のための(例えば、診断または研究の試薬などとして、免疫原性組成物を生成するために)融合タンパク質をコードする異種核酸を発現する、培養された細胞または生物体中で生成されて、必要に応じてそれから精製され得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、この融合タンパク質は、収集されてもよく、そして必要に応じて精製されてもよい。例えば、融合タンパク質は、馴化培地から収集され得る。本実施形態によれば、分泌シグナル配列と作動可能に連結された融合タンパク質を発現することが有利であり得る。あるいは、融合タンパク質は、宿主細胞から単離されてもよい(例えば、宿主細胞を溶解し、それから融合タンパク質が単離されてもよい)。
【0049】
他の実施形態では、宿主細胞は収集され、そして融合タンパク質はそれから単離されない。
【0050】
一般には、異種核酸は、発現ベクター(ウイルスまたは非ウイルス)中に組み込まれる。適切な発現ベクターとしては限定はしないが、プラスミド、バクテリオファージ、細菌の人工染色体(bacs)、酵母人工染色体(yacs)、コスミド、ウイルスベクターなどが挙げられる。種々の宿主細胞と適合する発現ベクターは当分野で周知であって、核酸の転写および翻訳のために適切な要素を含む。代表的には、発現ベクターは、「発現カセット(expression cassette)」を含有し、これは、5’から3’の方向へ、プロモーター、このプロモーターと作動可能に連結された融合タンパク質をコードするコード配列、および必要に応じて、末端配列を含み、これには、RNAポリメラーゼの終止シグナル、およびポリアデニラーゼのポリアデニル化シグナルを含む。
【0051】
発現ベクターは、原核生物細胞または真核生物細胞におけるポリペプチドの発現のために設計され得る。例えば、ポリペプチドは、例えば大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(例えばバキュロウイルス発現系)、酵母細胞、哺乳動物細胞、または植物細胞中で発現され得る。酵母S.cerevisiae中での発現のためのベクターの例としては、pYepSecl(Baldari et al.,(1987)EMBO J.6:229−234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,(1982)Cell 30:933−943)、pJRY88(Schultz et al.,(1987)Gene 54:113−123)、およびpYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)が挙げられる。培養された昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)中でタンパク質を産生するための核酸の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smith et al.,(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156−2165)およびpVLシリーズ(Lucklow,V.A.,およびSummers,M.d.(1989)Virology 170:31−39)が挙げられる。
【0052】
さらに、発現ベクターは一般に、発現制御配列(例えば、転写/翻訳制御シグナル、およびポリアデニル化シグナル)を含み、これが、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列と作動可能に連結される。所望のレベルおよび組織特異的な発現に依存して、種々のプロモーター/エンハンサーエレメントが用いられてもよいことが理解される。プロモーターは、所望の発現のパターンに依存して、構成的であっても誘導性であってもよい(例えば、メタロチオネインプロモーターまたはホルモン誘導性プロモーター)。プロモーターは、天然であってもまたは外来であってもよく、そして天然の配列であっても合成の配列であってもよい。外来とは、そのプロモーターが野性型宿主では見出されず、そこへそのプロモーターが導入されているということを意図する。このプロモーターは、目的の標的細胞において機能するように選択される。さらに、特異的な開始シグナルが一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために提供される。これらの翻訳制御配列は、ATG開始コドンおよび隣接配列を含んでもよく、天然および合成の両方の種々の起源のものであってもよい。発現ベクターが転写されるべき2つのオープンリーディングフレームを含む本発明の実施形態では、このオープンリーディングフレームは、別のプロモーターと、または単一の上流のプロモーターおよび1つ以上の下流の内部リボソーム侵入部位(IRES)配列(例えば、ピコルナウイルスEMC IRES配列)と作動可能に連結されてもよい。
【0053】
哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,(1987)Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman et al.(1987),EMBO J.6:187−195)が挙げられる。哺乳動物細胞で用いられる場合、発現ベクターの制御機能はしばしば、ウイルスの調節性エレメントによって提供される。例えば、一般に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス(Simian Virus)40由来である。
【0054】
本発明はさらに、本発明の融合タンパク質をコードする核酸を(一過性にまたは安定的に)含む宿主細胞を提供する。適切な宿主細胞は、当分野で周知であって、これには原核生物細胞および真核生物細胞が挙げられる。例えば、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)を参照のこと。タンパク質は、例えば大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(例えばバキュロウイルス発現系)、酵母細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞(例えば、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、サルなど)において発現され得る。宿主細胞は、培養された細胞、例えば、初代細胞または不死化細胞株であってもよい。宿主細胞は、本質的にバイオリアクターとして用いられている、微生物、動物または植物における細胞であってもよい。本発明の特定の実施形態では、宿主細胞は、発現ベクターの複製を可能にする昆虫細胞である。例えば、宿主細胞は、Spodoptera frugiperda由来、例えば、Sf9またはSf21細胞株、ショウジョウバエ細胞株、または蚊の細胞株、例えば、Aedes albopictus由来細胞株であってもよい。異種タンパク質の発現のための昆虫細胞の使用は十分証明され、このような細胞中に核酸、例えば、ベクター、例えば、昆虫細胞適合性ベクター(例えば、バキュロウイルスベクター)を導入する方法、および培養物中でこのような細胞を維持する方法も同様である。例えば、Methods in Molecular Biology,ed.Richard,Humana Press,NJ(1995);O’Reilly et al.,Baculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,Oxford Univ.Press(1994);Samulski et al.,J.Vir.63:3822−8(1989);Kajigaya et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 88:4646−50(1991);Ruffing et al.,J.Vir.66:6922−30(1992);Kimbauer et al.,Vir.219:37−44(1996);Zhao et al.,Vir.272:382−93(2000);ならびにSamulski et al.の米国特許第6,204,059号を参照のこと。本発明の特定の実施形態では、昆虫細胞はSf9細胞である。
【0055】
ベクターは、従来の形質転換またはトランスフェクション技術を介して原核生物細胞または真核生物細胞に導入され得る。本明細書において用いる場合、「形質転換(transformation)」および「トランスフェクション(transfection)」という用語は、宿主細胞に外来の核酸(例えば、DNA)を導入するための当分野で認識される種々の技術を指し、これには、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、DNAをロードされた(DNA−loaded)リポソーム、リポフェクタミン−DNA複合体、細胞超音波処理、高速マイクロプロジェクタイルを用いる高速遺伝子微粒子銃(gene bombardment using high velocity microprojectiles)およびウイルス媒介性トランスフェクションが挙げられる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトする適切な方法は、Sambrook et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory press(1989))および他の実験室マニュアルに見出され得る。
【0056】
本発明のさらなる実施形態では、宿主細胞は、融合タンパク質をコードする異種核酸配列で安定に形質転換され得る。「安定な形質転換(stable transformation)」とは、本明細書において用いる場合一般には、宿主細胞に導入された異種核酸配列が、宿主細胞のゲノムに組み込んでいない「一過性の形質転換(transient transformation)」と対照的に、宿主細胞のゲノムへの異種核酸配列の組み込みをいう。「安定な形質転換体(stable transformant)」という用語はさらに、細胞におけるエピソーム(例えば、エプスタイン・バー・ウイルス(Epstein−Barr Virus)(EBV))の安定な維持を指してもよい。
【0057】
安定に形質転換された細胞が生成される場合、しばしば細胞(詳細には哺乳動物細胞)のうち、わずかな画分しかそのゲノムに外来核酸を組み込まない。これらの構成要素を同定して選択するためには、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする核酸を、目的の核酸とともに宿主細胞に導入してもよい。好ましい選択マーカーとしては、薬物、例えば、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するマーカーが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸は、目的の核酸を含むのと同じベクター上で宿主細胞に導入されてもよいし、または別々のベクター上に導入されてもよい。導入された核酸で安定に形質転換された細胞は、薬物選択によって同定され得る(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込んでいる細胞は生存するが、他の細胞は死ぬ)。
【0058】
融合タンパク質はまた、トランスジェニック植物において生成され得、ここではこの融合タンパク質をコードする単離された核酸は、核または色素体ゲノムに挿入される。植物の形質転換は、当分野で公知である。一般的には、Methods in Enzymology Vol.153(「Recombinant DNA Part D」)1987,ed.Wu and Grossman,Academic Press、および欧州特許出願第EP693554号を参照のこと。
【0059】
外来核酸は、いくつかの方法によって植物細胞またはプロトプラストに導入され得る。例えば、核酸は、マイクロピペットの使用による植物細胞への直接マイクロインジェクションによって機械的に移入されてもよい。外来核酸はまた、細胞によって採取される遺伝的物質との沈殿複合体を形成するポリエチレングリコールを用いることによって植物細胞中に移入されてもよい(Paszkowski et al.(1984)EMBO J.3:2712−22)。外来核酸は、エレクトロポレーションによって植物細胞中に導入されてもよい(Fromm et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5824)。この技術では、植物プロトプラストは、関連の遺伝子構築物を含有するプラスミドまたは核酸の存在下でエレクトロポレーションされる。高電界強度の電気インパルスは、生体膜に可逆性に透過して、プラスミドの導入を可能にする。エレクトロポレーションされた植物のプロトプラストは、細胞壁を再生し、分裂して、植物カルスを形成する。外来核酸を含む形質転換された植物細胞の選択は、表現型マーカーを用いて達成され得る。
【0060】
カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)は、植物細胞へ外来核酸を導入するためのベクターとして用いられ得る(Hohn et al.(1982)「Molecular Biology of Plant Tumors」Academic Press,New York,pp.549−560;Howell,米国特許第4,407,956号)。CaMVウイルスDNAゲノムは、細菌中で増殖され得る組換えDNA分子を作製する親の細菌プラスミドに挿入される。組換えプラスミドは、所望のDNA配列の導入によってさらに改変され得る。次いで、組換えプラスミドの改変されたウイルス部分を、親の細菌プラスミドから切り出して、これを用いて植物細胞または植物に接種する。
【0061】
小粒子による高速弾道論的浸透(high velocity ballistic penetration)が、植物細胞へ外来核酸を導入するために用いられてもよい。核酸は、小型のビーズまたは粒子のマトリックス内で、または表面上で処分される(Klein et al.(1987)Nature 327:70−73)。代表的には新規な核酸セグメントの単一の導入しか必要としないが、本方法ではまた、複数の導入を提供する。
【0062】
核酸は、この核酸で形質転換されたAgrobacterium tumefaciensを用いる植物細胞、外植体、成長点または種子の感染によって植物細胞に導入されてもよい。適切な条件下では、形質転換された植物細胞が成長して、苗条、根が形成され、そしてさらに植物に発達する。この核酸は、例えば、Agrobacterium tumefaciensのTiプラスミドによって植物細胞に導入され得る。Tiプラスミドは、Agrobacterium tumefaciensによる感染の際に植物細胞に伝達され、そして植物ゲノムに安定に組み込まれる(Horsch et al.(1987)Science 227:1229−1231;Fraley et al.(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:4803)。
【0063】
融合タンパク質は、他のペプチドまたはタンパク質と作動可能に連結された、例えば、精製シグナル(例えば、ポリHis)と作動可能に連結された核酸から発現されてもよいし、または他のタンパク質(例えば、サイトカイン)とのキメラとして発現されてもよい。
【0064】
5.本発明の融合タンパク質、フラジェリンアジュバントおよび組成物を投与する方法
本発明は、公知の技術に従って、治療目的および予防目的のために行われ得る(例えば、Pizzo et al.のPCT出願第WO2004/101737号を参照のこと)。
【0065】
一般には、本発明は、Y.pestisによる感染を予防するために、ならびに/またはY.pestisによる感染の影響を軽減および/もしくは寛解させるために予防的に行われる。しかし、他の実施形態では、本発明の方法は、既にY.pestisによって感染されている被験体を治療するために行われる。本発明の方法における使用のための免疫原性組成物は、下に記載される。追加免疫投与はさらに、数週、数ヶ月または数年の時間経過にまたがって投与され得る。慢性の感染においては、最初の高用量に続く追加免疫用量が有利であり得る。
【0066】
「治療する(treat)」、「治療すること、治療するステップ(treating)」または「〜の治療(treatment of)」という用語(または文法的に等価な用語)とは、被験体の状態の重篤度が、軽減されるか、または少なくとも部分的に改善もしくは緩和されること、ならびに/あるいは少なくとも1つの臨床的な症状のある程度の軽減、緩和または減少が達成されるか、そして/または状態の進行の遅延および/もしくは疾患もしくは障害の発現の予防もしくは遅延が存在するということを意味する。「治療する(treat)」、「治療する(treats)」、「治療すること、治療するステップ(treating)」または「〜の治療(treatment of)」などという用語はまた、被験体の予防的治療(例えば、感染または癌の発現を予防する)を含む。本明細書において用いる場合、「予防する(prevent)」、「予防する(prevents)」または「予防、防止(prevention)」という用語(およびその文法的な等価物)は、疾患の完全な阻止を意味するのではなく、状態の頻度を軽減し、状態の発現および/もしくは進行を遅らせ、そして/または状態に伴う症状を軽減する、任意のタイプの予防的治療を包含する。従って、「治療する」、「治療すること、治療するステップ」または「〜の治療」という用語(または文法的に等価な用語)とは、予防的処方および治療的処方の両方をいう。
【0067】
「ワクチン接種(vaccination)」または「免疫(immunization)」という用語は、当分野で周知であり、そして他に示さない限り、本明細書において交換可能に用いられる。例えば、ワクチン接種または免疫という用語は、抗原に対する生物体の免疫応答を増大して、それによって感染に抵抗するかまたは感染を克服するプロセスであることが理解され得る。本発明の場合には、Y.pestisに対するワクチン接種または免疫は、生物体のY.pestisに対する免疫応答および耐性を増大する。
【0068】
本明細書において用いる場合、「治療有効量(treatment effective amount)」とは、被験体を(本明細書において規定されるように)治療するのに十分な量である。
【0069】
「能動的な免疫応答(active immune response)」または「能動免疫(active immunity)」とは、免疫原との遭遇後の宿主の組織および細胞の関与によって特徴付けられる。これは、抗体の合成、もしくは細胞媒介性反応の発生、またはその両方をもたらす、リンパ細網組織における免疫適格性細胞の分化および増殖に関与する。Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti ed.,1985)。別の言い方をすれば、能動免疫応答は、感染による、またはワクチン接種による、免疫原に対する曝露後に宿主によって惹起される。能動免疫は、「能動的に免疫された宿主から免疫されていない宿主への事前形成された物質(抗体、伝達因子、胸腺移植、インターロイキン2)の移動」(同書)を通じて達成される、受動免疫と対比され得る。
【0070】
「防御的、予防的(protective)」免疫応答、または「防御的、予防的(protective)」免疫とは、本明細書において用いる場合、この免疫応答が、疾患の頻度および/または重篤度を予防または軽減するという点で被験体に対していくつかの利点を付与するということを示す。あるいは、防御的免疫応答または防御的免疫は、既存の疾患の治療的な治療において有用であり得る。
【0071】
本発明は、医学的目的および獣医の目的の両方のために行われ得る。本発明の方法によって治療されるべき被験体としては、鳥類および哺乳動物の被験体の両方が挙げられ、哺乳動物被験体としては、限定はしないが、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、類人猿、ヒヒ、およびチンパンジー)、イヌ、ネコ、ウサギ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジなど(これには、雄性および雌性の両方の被験体、ならびに、幼年、若年、青年および成体の被験体を含む全ての年齢の被験体を含む)が挙げられる。被験体は、任意の目的のために、例えば、防御免疫応答を惹起するために;その被験体(代表的には動物被験体)における抗体の産生を惹起するために治療され得、その抗体は、診断目的、または他の被験体において受動免疫を生じるためにその被験体に対して投与するなどのような他の目的のために収集されて用いられ得る。特定の実施形態では、この被験体はY.pestis感染のリスクを有するかまたはリスクがあるとみなされる。
【0072】
ある実施形態では、この被験体は、高齢の被験体、例えば、50または60歳齢以上のヒト被験体であって、ここでは、例えばミョウバンなどの他のアジュバントは一般に有効性が低い。
【0073】
従って、特定の実施形態では、本発明は、被験体(例えば、哺乳動物被験体、例えば、ヒトまたは霊長類)においてY.pestis抗原に対する免疫応答を誘導する方法を提供し、本方法は、本発明の融合タンパク質またはその薬学的組成物を被験体に対して免疫学的に有効な量で投与するステップを含む。代表的な実施形態では、本方法は、被験体(例えば、哺乳動物被験体、例えば、ヒトまたは霊長類)をYersinia pestis感染の影響から防御するために行われ、本方法は、本発明の融合タンパク質またはその薬学的組成物を、Yersinia pestis感染の影響からこの被験体を防御するのに有効な量でその被験体に対して投与するステップを含む。必要に応じてこれらの方法は、融合タンパク質または薬学的組成物を粘膜表面に対して(例えば、鼻腔内投与または吸入投与によって)送達することによって行われる。
【0074】
本発明はさらに、被験体(例えば、哺乳動物被験体、例えば、ヒトまたは霊長類)においてY.pestisに対する免疫応答を誘導する方法を提供し、本方法は、フラジェリンアジュバントおよびY.pestis抗原、またはその薬学的組成物を被験体に対して免疫学的に有効な量で投与するステップを含む。代表的な実施形態では、本方法は、被験体(例えば、哺乳動物被験体、例えば、ヒトまたは霊長類)をY.pestis感染の影響から防御するために行われ、本方法は、フラジェリンアジュバントおよびY.pestis抗原、またはその薬学的組成物を被験体に対して、Y.pestis感染の影響からこの被験体を防御するのに有効な量で投与するステップを含む。必要に応じて本方法は、この融合タンパク質または薬学的組成物を粘膜表面に対して(例えば、鼻腔内投与または吸入投与によって)送達することによって行われる。このフラジェリンアジュバントおよびY.pestis抗原は、同じ組成物または別の組成物として投与されてもよい。別々の組成物として投与される場合、それらは必要に応じて同時に投与されてもよい。本明細書において用いる場合、「同時に(concurrently)」という用語は、併用効果を生じるために時間内で十分に近接していることを意味する(すなわち、同時に(concurrently)とは、同時に(simultaneously)であってもよいし、またはそれは、互いの前後の短時間[例えば、数分または数時間]内に生じる2つ以上の事象であってもよい)。
【0075】
投与は、当分野で公知の任意の経路によるものであってもよい。非限定的な例として、投与の経路は、吸入(例えば、経口および/または経鼻の吸入)、経口、口腔内(例えば、舌下)、直腸、膣、局所(気道への投与を含む)、眼内、経皮、非経口的(例えば、筋肉内[骨格筋、心筋および/または横隔膜筋への投与を含む]、静脈内、皮下、皮内、胸膜内、脳内および動脈内、およびくも膜下腔内)経路、ならびに直接の組織または器官注射によっても、または中枢神経系への投与(例えば、脳への定位的な投与)によってもよい。
【0076】
特定の実施形態では、投与は、例えば、鼻腔内、吸入、気管内、経口、直腸、または膣の投与などによる、粘膜表面に対してである。一般には、粘膜投与は、気道、胃腸管、尿路、生殖器官などの表面のような粘膜表面に対する送達をいう。
【0077】
気道への投与の方法としては限定はしないが、経粘膜、鼻腔内、吸入または気管内の投与または肺への投与が挙げられる。粘膜投与の他の方法としては、経口、口腔内(例えば、舌下)、気管内、直腸、膣および眼内の投与が挙げられる。
【0078】
本発明のタンパク質は、Felgner et al.の米国特許第5,589,466号に記載されるように、それ自体で送達されてもよいし、またはそのタンパク質をコードする核酸中間体を送達し、これが被験体で発現されてこのタンパク質を産生することによって送達されてもよい。
【0079】
免疫調節性化合物、例えば、免疫調節性ケモカインおよびサイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)が被験体に同時投与されてもよい。サイトカインは、当分野で公知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが被験体に投与されてもよいし、あるいは、サイトカインをコードするヌクレオチド配列が、適切なベクターを用いて被験体に送達されて、そのサイトカインがインビボで産生されてもよい。特定の実施形態では、サイトカインは、フラジェリンアジュバントおよび/またはY.pestis抗原を有する融合タンパク質として提供される。例えば、フラジェリンアジュバント、Y.pestis抗原、および免疫調節性サイトカイン(例えば、インターフェロン−γ)を含む融合タンパク質が投与されてもよい。あるいは、サイトカインおよびY.pestis抗原またはフラジェリンアジュバントを含む融合タンパク質が投与されてもよい。
【0080】
予防または治療目的のためのその用途に加えて、本発明の融合タンパク質および組成物は、Y.pestis抗原に対する抗体であって、次にヒトおよび動物の被験体における診断または治療/予防の目的のために有用である抗体を産生する目的のために被験体に投与されてもよい。
【0081】
6.薬学的組成物
本発明はさらに、薬学的に受容可能な担体中に本発明の融合タンパク質を含む薬学的組成物(例えば、免疫原性組成物)を提供する。特定の実施形態では、この薬学的組成物は、粘膜送達のために処方される。「薬学的に受容可能な(pharmaceutically acceptable)」とは、毒性のない物質か、あるいは好ましくない物質ではないものを意味する。
【0082】
代表的な実施形態では、融合タンパク質は、「免疫学的に有効な(immunogenically effective)」量で薬学的組成物中に存在する。「免疫学的に有効な量(immunogenically effective amount)」とは、この薬学的組成物が投与される被験体において能動的な免疫応答(すなわち細胞性および/または体液性)を誘発するのに十分である量である。必要に応じて、この用量は、防御的免疫応答(感染の発生後の予防的または治療的免疫応答)を生じるのに十分である。付与される防御の程度は、この薬学的組成物を投与する利点がそのなんらかの不利益を上回るのであれば、完全である必要も永続的である必要もない。免疫学的に有効な量は、タンパク質、投与の様式、治療される疾患の段階および重篤度、被験体の体重および全身健康状態、ならびに処方する医師の判断に依存する。
【0083】
薬学的に活性な化合物の投与量は、当分野で公知の方法によって決定され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co.,Easton,Pa)を参照のこと。特定の実施形態では、本発明の融合タンパク質の投与量は、代表的な(例えば、70kgの)被験体について、約0.1、0.5、1、10、25、250、100、150または250μgから、約300、500、1000、2500、5000または10,000μgまでの融合タンパク質に及ぶ。特定の実施形態では、投薬量は、代表的な被験体について約50〜2000μg、約100〜1500μg、または約250〜1000μgの範囲である。最初の用量の後に、その最初の用量に対する被験体の応答に依存して約1μg〜250、500または1000μgの数週、数ヶ月または数年に及ぶ追加投与が続けられてもよい。
【0084】
本発明はまた、(a)フラジェリンアジュバントと(b)Yersinia pestis抗原とを含む薬学的組成物を提供する。特定の実施形態では、この薬学的組成物は、粘膜投与のために処方される。本明細書においてさらに詳細に記載されるとおり、Y.pestis抗原は、Y.pestisのF1抗原、Y.pestisのV抗原、またはその融合ペプチドであってもよい。必要に応じて、Y.pestis抗原は、フラジェリンアジュバントに結合され、すなわち、フラジェリン抗原を有する融合タンパク質の形態である。この実施形態によれば、この組成物はさらに、フラジェリンアジュバントに結合されていない(すなわち、フラジェリンアジュバントを有する融合タンパク質の一部ではない)1つ以上のさらなるY.pestis抗原を含んでもよい。
【0085】
必要に応じて、このY.pestis抗原は、本明細書に規定されるように、免疫学的に有効な量で存在する。さらに、ある実施形態では、このフラジェリンアジュバントは、「アジュバント有効量(adjuvant effective amount)」で存在する。「アジュバント有効量」とは、Y.pestis抗原に対して宿主によって惹起された能動的な免疫応答(細胞性および/または体液性)、必要に応じて能動的な粘膜免疫応答を増強または刺激するのに十分なフラジェリンアジュバントの量である。特定の実施形態では、この宿主による能動的な免疫応答(例えば、粘膜の免疫応答)は、少なくとも約2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、60、75、100、150、500、1000倍以上まで増強される。他の実施形態では、「アジュバント有効量」とは、特定のレベルの免疫(細胞性および/または体液性)、必要に応じて粘膜免疫を達成するのに必要である抗原の量を、例えば、少なくとも約15%、25%、35%、50%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、98%以上減少させるフラジェリンアジュバントの量である。さらなる選択肢として、「アジュバント有効量」とは、宿主における免疫応答の誘導を加速するか、および/または防御を達成するためのブースター免疫の必要性を減少させるフラジェリンアジュバントの量を指してもよい。さらに別の代替として、「アジュバント有効量」とは、免疫応答、必要に応じて防御免疫応答が維持される期間を(例えば、少なくとも約2倍、3倍、5倍、10倍、20倍以上長い期間まで)延長する量であってもよい。
【0086】
フラジェリンアジュバントおよびY.pestis抗原の投与量(融合タンパク質の形態でない場合)は、当業者によって決定され得る。特定の実施形態では、フラジェリンアジュバントの投与量は、代表的な(例えば、70kg)の被験体について約0.1、0.5、1、10、25、50、100または150μgから約200、250、300、500、1000、または2500μgという範囲である。特定の実施形態では、投薬量は、代表的な被験体について約10〜1000μg、または約50〜500μg、または約150〜300μgである。Y.pestis抗原の適切な投薬量は、代表的な(例えば、70kg)の被験体について、約0.1、0.5、1、10、25、50、100または150μgから約200、300、500、1000、1500、2000、2500、または5000μgの範囲にわたってもよい。特定の実施形態では、Y.pestis抗原の投薬量は、代表的な被験体について、約50〜2000μg、約150〜約1500μg、または約300〜約1000μgである。この最初の用量の後に、最初の投与量に対する被験体の応答に依存して、約1μg〜約1000μgの、数週、数ヶ月または数年にわたる追加投与量が続いてもよい。
【0087】
本発明の薬学的組成物は、必要に応じて、他の医薬、薬剤、安定化剤、緩衝液、担体、希釈剤、塩、張度調節剤、保湿剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含んでもよい。
【0088】
注射のためには、担体は代表的には液体である。投与の他の方法のためには、この担体は固体であっても液体であってもよい。吸入投与のためには、この担体は呼吸に適し、そして代表的には、固体または液体の粒子型である。
【0089】
フラジェリンを超えるアジュバントは一般には必要ではないが、この組成物は必要に応じて、さらなるアジュバント、例えば、完全または不完全なフロイントアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、サイトカイン、TLRリガンドなどを含んでもよい。
【0090】
薬学的組成物中のタンパク質の濃度は、広範に、例えば、約0.01重量%未満または0.1重量%から、最大で少なくとも約2重量%〜20重量%程度の量〜50重量%以上まで変化し得、そして選択される投与の特定の様式に従って、液体の容積、粘度などによって主に選択される。
【0091】
タンパク質は、公知の技術に従って薬学的な担体中における投与のために処方され得る。例えば、Remington,The Science And Practice of Pharmacy(9th Ed.1995)を参照のこと。本発明による薬学的組成物の製造では、タンパク質(その生理学的に受容可能な塩を含む)が代表的には、特に、受容可能な担体とともに混合される。この担体は、固体であっても、または液体であっても、またはその両方であってもよく、そして必要に応じて、単位用量の処方物、例えば、錠剤として化合物とともに処方される。種々の薬学的に受容可能な水性の担体、例えば、水、緩衝化水、0.9%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸、パイロジェンフリー水、パイロジェンフリーのリン酸緩衝化生理食塩水、静菌性水、またはCremophor EL[R](BASF,Parsippany,N.J.)などが用いられてもよい。これらの組成物は、従来の技術によって滅菌され得る。1つ以上のタンパク質が本発明の処方物に組み込まれてもよく、これは、薬学の任意の周知の技術によって調製され得る。
【0092】
薬学的組成物は、使用のために、そのまま、または凍結乾燥された状態でパッケージされることができ、凍結乾燥調製物は一般的には投与の前に滅菌水溶液と組み合わされる。この組成物はさらに、単位/用量または複数用量の容器に、例えば、密閉アンプルおよびバイアル中にパッケージされてもよい。
【0093】
この薬学的組成物は、薬学の従来の技術に従う当分野で公知の任意の方法での投与のために処方され得る。例えば、この組成物は、鼻腔内に、吸入(例えば経口吸入)によって、経口的に、口腔内(例えば舌下)に、直腸に、膣に、局所に、くも膜下腔内に、眼内に、経皮的に、非経口(例えば、筋肉内[骨格筋、心筋および/または横隔膜筋への投与を含む]、静脈内、皮下、皮内、胸膜内、脳内および動脈内、くも膜下腔内)投与によって、局所的に(例えば、気道表面を含む、皮膚および粘膜表面の両方に対して)、ならびに直接の組織または器官注射によって、そして中枢神経系への投与(例えば、脳への定位的な投与)によって、投与されるように処方されてもよい。
【0094】
特定の実施形態では、この薬学的組成物は、粘膜表面に対して、例えば、鼻腔内、吸入、気管内、経口、直腸または膣の投与などによって投与される。
【0095】
鼻腔内または吸入投与のために、この薬学的組成物は、エアロゾル(この用語は、液体および乾燥粉末エアロゾルの両方を含む)として処方されてもよい。例えば、この薬学的組成物は、微細に分割された形態で界面活性剤および噴霧剤とともに提供されてもよい。組成物の代表的な割合は、0.01〜20重量%、好ましくは1〜10%である。この界面活性剤は一般には、毒性でなく、噴霧剤中で可溶性である。このような因子のうち代表的なのは、6〜22個の炭素原子を含有する、脂肪酸のエステルまたは部分的エステル、例えば、カプロン酸、オクタン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン酸(olesteric)およびオレイン酸と脂肪族多価アルコールまたはその環状無水物とのエステルである。混合されたエステル、例えば、混合または天然のグリセリドが使用され得る。この界面活性剤は、組成物の0.1〜20重量%、好ましくは0.25〜5%を構成し得る。この組成物のバランスは通常は噴霧剤である。担体も、必要に応じて、鼻腔内送達のためのレシチンと同様に含まれてもよい。液体粒子のエアロゾルは、当業者に公知であるように、任意の適切な手段によって、例えば、圧力駆動エアロゾルネブライザーまたは超音波ネブライザーによって生成されてもよい。米国特許第4,501,729号も参照のこと。固体粒子のエアロゾルは同様に、薬学の分野で公知の技術によって、任意の固体の微粒子性の医薬エアロゾル発生器で生成され得る。鼻腔内投与はまた、鼻の表面に対する点滴投与によってもよい。
【0096】
注射可能な処方物は、従来の形態で、液体溶液もしくは懸濁物として、注射前の液体中での溶液もしくは懸濁物に適切な固体型で、またはエマルジョンとして調製され得る。あるいは、当業者は、例えば、持続性または徐放性処方物として、全身的な様式ではなく、局所の薬学的組成物を投与し得る。
【0097】
用時調製の注射溶液および懸濁液は、前に記載された種類の滅菌の粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。例えば、本発明の注射可能な、安定な、滅菌の組成物は、単位剤形で、密閉容器中に提供され得る。この組成物は、凍結乾燥の形態で提供されてもよく、これは、薬学的に受容可能な適切な担体と再構成されて、被験体への注射に適切な液体組成物を形成し得る。この単位剤形は、本発明の組成物の約1μg〜約10gであり得る。この組成物が実質的に水不溶性である場合、薬学的に受容可能である十分な量の乳化剤が、水性担体中でこの組成物を乳化するために十分な量で含まれてもよい。このような有用な乳化剤の1つはホスファチジルコリンである。
【0098】
経口投与のために適切な薬学的組成物は、別個の単位で、例えば、カプセル、カシェ剤、トローチ剤もしくは錠剤中に、粉末もしくは顆粒として、水性もしくは非水性の液体中に溶液もしくは懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型のエマルジョンとして存在してもよい。経口送達は、動物の腸における消化酵素による分解に抵抗し得る担体に対して本発明の化合物を複合体化することによって行われ得る。このような担体の例としては、当分野で公知のように、プラスチックのカプセルまたは錠剤が挙げられる。このような処方物は、薬学の任意の適切な方法によって調製され、この方法は、この化合物と適切な担体(上で注記されるような1つ以上の補助成分を含み得る)とを連結させるステップを含む。一般には、この薬学的組成物は、まず最初にこの化合物と液体もしくは微細に分割された固体担体、またはその両方とを均一に混合すること、次いで、必要に応じてこの得られた混合物を成形することによって調製される。例えば、錠剤は、この化合物を含む粉末または顆粒を、必要に応じて1つ以上の補助成分とともに圧縮または成型することによって調製され得る。圧縮錠剤は、適切な機械中で、この組成物を自由流動型で、例えば、粉末または顆粒を、必要に応じて結合剤、潤滑剤、不活性な希釈剤、および/または界面活性/分散剤とともに圧縮することによって調製される。成型された錠剤は、適切な機械中で、不活性な液体の結合剤で湿された粉末化合物を成型することによって作成される。
【0099】
口腔内(舌下)投与に適切な薬学的組成物としては、香味の基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に化合物を含むトローチ剤(lozenge)、ならびに不活性な基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシア中に化合物を含むトローチ(pastille)が挙げられる。
【0100】
非経口投与に適切な本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物の無菌の水性および非水性の注射溶液を含んでもよく、この調製物は好ましくは、意図されるレシピエントの血液と等張性である。これらの調製物は、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤および溶質を含有してもよく、これによって意図されるレシピエントの血液と等張の組成物にされる。水性および非水性の無菌の懸濁液、溶液およびエマルジョンは、懸濁剤および増粘剤を含んでもよい。非水性の溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブオイル、および注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルである。水性の担体としては、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられ、これには生理食塩水および緩衝化媒体が含まれる。非経口的な媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルまたは不揮発性油が挙げられる。静脈内媒体としては、液体および栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンゲルデキストロースに基づく補充液)などが挙げられる。防腐剤および他の添加物、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなども存在してもよい。
【0101】
直腸投与のために適切な薬学的組成物は好ましくは、単位用量坐剤として存在する。これらは、この化合物と1つ以上の従来の固体担体、例えば、ココアバターなどと混合すること、次いで得られた混合物を成形することによって調製され得る。
【0102】
皮膚への局所適用に適切な本発明の薬学的組成物は好ましくは、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾルまたはオイルの形態をとってもよい。用いられ得る担体としては、限定はしないが、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮エンハンサーおよびそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、例えば、局所送達は、本発明の薬学的組成物と皮膚に通過し得る親油性試薬(例えば、DMSO)とを混合することによって行われ得る。
【0103】
経皮投与のために適切な薬学的組成物は、長期間にわたって被験体の表皮と密接に接触したままであるように適合された別個のパッチの形態であってもよい。経皮投与に適切な組成物はまた、イオン泳動によって送達され得(例えば、Pharmaceutical Research 3:318(1986)を参照のこと)、そして代表的には、化合物の必要に応じて緩衝化された水溶液の形態をとり得る。適切な処方物は、クエン酸塩またはbis/tris緩衝液(pH6)またはエタノール/水を含んでもよく、そして0.1〜0.2Mの活性成分を含有してもよい。
【0104】
さらに、この化合物は、リポソーム処方物として処方されてもよい。リポソーム懸濁物を形成するための技術は当分野で周知である。この化合物またはその塩が水溶性の塩である場合、従来のリポソーム技術を用いて、これらを脂質小胞に組み込んでもよい。このような場合、この化合物または塩の水溶性に起因して、この化合物または塩は実質的に、リポソームの親水性の中心またはコア内に捕捉される。使用される脂質層は、任意の従来の組成物であってもよく、そしてコレステロールを含んでもよいし、またはコレステロールを含まなくてもよい。目的の化合物または塩が水不溶性である場合、ここでも従来のリポソーム形成技術を使用して、この塩は実質的に、リポソームの構造を形成する疎水性脂質二重層内に捕捉され得る。いずれの場合でも、生成されるリポソームは、標準的な超音波および均一化技術の使用によって、サイズを小さくできる。
【0105】
リポソーム処方物は、リポソーム懸濁物を再生するために、水のような薬学的に受容可能な担体で再構成され得る凍結乾燥物が凍結乾燥されて生成されてもよい。
【0106】
本発明を記載してきたが、これは以下の実施例にさらに詳細に説明され、この実施例は、例示的な目的のためにのみ本明細書に含まれ、そして本発明を限定することは意図しない。本明細書に用いられる略号は、以下のとおりである。GM−CSF、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子;IL、インターロイキン;i.n.,鼻腔内;i.t.気管内;NK、ナチュラルキラー細胞;NO、一酸化窒素;s.c.皮下;TLR、トール様受容体;TGF−β、トランスフォーミング成長因子β。
【実施例1】
【0107】
がん抗原およびそのワクチン
マウスの肺における先天性免疫に対するフラジェリンの効果。1μgのフラジェリンの非外科的な気管内(i.t.)滴下は、約4時間後にTNFαの最大産生を誘導するのに十分である(図1)。12〜24時間までに、気管支肺胞浸出液のサイトカインレベルは、ベースラインレベルに戻る。TLR5に結合せず、従ってシグナル伝達活性を欠く変異フラジェリンは、サイトカイン産生を誘導しないことに留意のこと。TNFαに加えて、IL−6、G−CSFを含むいくつかの他のサイトカイン、ならびにケモカイン、MIP−2およびKCは、比較的高レベルに誘導された。サイトカイン発現の増大の後に、好中球の一過性の浸潤(最大12〜24時間)が続く。フラジェリンによって開始される先天的な免疫応答は、重篤な組織障害性の炎症を生じないということを強調することが重要である。誘導された炎症性応答は、実際には比較的中度でかつ急性である。これらの知見を、他の研究者らの知見と組み合わせて、先天性免疫の活性化因子としてのフラジェリンのインビボの力価が確立される。
【0108】
マウスの肺におけるフラジェリンのアジュバント効果。フラジェリンによって誘発される先天性の応答を分析することに加えて、抗体応答に対するフラジェリンの効果を検討した。BALB/cマウスを、10μgのF1抗原と1μgのフラジェリン、または不活性なフラジェリン変異体タンパク質を用いて、非外科的な気管内(i.t.)または鼻腔内(i.n.)滴下によって免疫した。4週後、マウスを同じ処方で追加免疫し、次いで抗F1 IgGの血清レベルを2週後に確認した。フラジェリンは、血清抗F1 IgGレベルによって測定した場合、異常に強力なアジュバント活性を示したが、フラジェリンの不活性な変異体はアジュバント活性を示さなかった。i.t.で免疫した動物では、抗体の力価は、20,000〜100,000より多くに、そしてi.n.で免疫した動物の場合は90,000〜300,000より多くに及んだ。i.n.での免疫の結果は表1に示す。ノックアウトマウスを用いるこの応答についてのサイトカイン要件の分析によって、IL−6もIL−12もTNF−αもフラジェリンのアジュバント効果には必要がないことが示される(図5)。さらに、フラジェリンの最大アジュバント効果は、マウスの気道における先天性免疫応答の最大誘導に必要であるよりも5〜10倍低いフラジェリンの用量(1μg)で達成される。従って最大のアジュバント活性は、限られた炎症を生じるフラジェリンの用量で達成される。
【0109】
【表1】

【実施例2】
【0110】
抗原特異的な乳がん応答を生成するためのアジュバントとしてのフラジェリン
インビボでの乳房腫瘍の治療。BALB/cマウスを、多くの乳房腫瘍によって過剰発現される抗原であるFra−1抗原、そしてフラジェリンまたはフラジェリンの不活性型のいずれかで免疫した。このマウスは、乳がん腫瘍であるD2F2細胞の皮下注射の前に1回追加免疫した。マウスを腫瘍の増殖についてモニターして、腫瘍容積を決定した。データを図2に示す。白抜きの丸は、Fra−1抗原およびフラジェリンの不活性型を与えられたマウスを示す。黒塗りの丸は、Fra−1抗原およびフラジェリンの活性型を与えられたマウスを示す。容易に理解されるとおり、フラジェリン+Fra−1抗原は、腫瘍の増殖に有意な影響を有した。
【0111】
フラジェリンがマウスモデルにおいてD2F2乳がん細胞に対する防御免疫応答を促進し得るか否かの評価。フラジェリンがD2F2乳がん細胞に対する免疫の防御状態を促進する能力は、抗原として、これらのがん細胞によって過剰発現されるタンパク質であるFra−1を用いて評価される。これらの実験は、免疫と、次いでD2F2細胞でのチャレンジと、ならびにチャレンジ後の免疫を含む。さらに、誘導されたエフェクター−抗体、対細胞溶解性T細胞および/またはNK細胞の性質を決定する。
【0112】
A.精製された組換えFra−1抗原の調製。マウスFra−1をコードするcDNAをコードするpET22発現ベクター(The Scripps Research InstituteのRong Xiang博士によって寄贈される)を用いて、Rosetta−gami−pLysS細菌においてFra−1タンパク質を発現する。このタンパク質は、Talon親和性樹脂を用いて(Fra−1上のHis−tagの認識を介する)精製し、そして混入する内毒素を、Detoxi−ゲルカラムを通じた精製タンパク質の通過によって除去する(McDermott et al.(2000)Infect.Immun.68:5525−5529)。この手順を用いて、いくつかのタンパク質(例えば、フラジェリン、F1抗原、およびIRAK−4[真核生物のタンパク質])のmg量が事前に得られている。
【0113】
B.Fra−1抗原およびフラジェリンで免疫されたBALB/cマウスにおけるD2F2乳がん細胞に対してフラジェリンが防御的な免疫を促進するか否かの評価。7匹のマウスの群を、10μgのFra−1タンパク質を用いて、1μgのフラジェリンまたは変異体フラジェリン229の有無において、腹腔内(i.p.)または筋肉内(i.m.)で免疫する。2週後には、マウスを追加免疫し、次いで1×106個のD2F2細胞でチャレンジする(皮下的に(s.c.)与える)。腫瘍量およびマウスの生存は、約3ヶ月の期間にわたって追跡する。免疫の非存在下では、マウスのうち約50%がチャレンジ後4週間内に死んだ。s.c.腫瘍は、腫瘍容積が算出できるように、幅および長さについて測定する。フラジェリンの有意な効果が観察される場合、最大応答を生じるフラジェリンの用量を決定する。フラジェリンの最適用量が一旦確立されれば、フラジェリンが既存の腫瘍の排除を促進し得るか否かが決定される。7匹のマウスの群にD2F2細胞をs.c.注射によってチャレンジし、次いで、チャレンジの時点または1、3、7および21日後に、フラジェリンの有無においてFra−1を用いて免疫する。各々の場合に、マウスは2週後に追加免疫する。腫瘍量およびマウスの生存を決定する。
【0114】
C.Fra−1発現D2F2細胞に対するフラジェリン促進応答における潜在的なエフェクターの同定。フラジェリン促進応答において誘導されたエフェクターを同定するために、循環している抗Fra−1抗体のレベルならびにCD8+細胞傷害性T細胞(CTL)およびNK細胞の相対的な数を決定する。BALB/cマウスを、上に示したプロトコルに従って、Fra−1およびフラジェリンまたは変異体フラジェリンで免疫する。
【0115】
1.抗Fra−1抗体。D2F2細胞でのチャレンジの2週後、マウスを安楽死させて、血清サンプルを、ELISAによる循環している抗Fra−1抗体の分析のために採取する。適切な抗アイソタイプの抗体を用いて、循環している総IgGおよびIgMのレベル、ならびにIgG1およびIgG2aサブ−アイソタイプを評価する。
【0116】
2.抗−Fra−1特異的なCD8+CTL。抗Fra−1特異的なCD8+CTLを、脾細胞を単離し、それらの細胞傷害性活性を標準的な51Cr放出アッセイで評価することによって測定する。CD8+CTLによって媒介される溶解は、抗MHCクラスI抗体によってブロックされるはずである。従って、細胞サンプルを、この抗体の有無において分析する。エフェクター対標的の比を変化させることによって、Fra−1およびフラジェリンまたは変異体フラジェリンで免疫したマウスにおけるCD8+CTLの増大の相対的な評価が得られる。活性化されたCD8+CTLの数はまた、インターフェロンγ(IFN−γ)産生のELISPOTアッセイを用いて決定され得る。抗CD8 MACS MicroBeads(Miltenyl Biotech)を用いて、免疫されたマウス由来のCD8+脾細胞を単離し、その細胞を、放射線照射されたD2F2細胞とともに24時間インキュベートする。その細胞をIFN−γ産生についてELISPOTアッセイによって分析する。十分な数の細胞が存在する場合、細胞内サイトカイン染色(ICS)を第二の方法として用いる。
【0117】
3.NK細胞。標的としてYAC−1細胞を用いた51Cr放出アッセイにより、活性化されたNK細胞の相対的な数を評価する。免疫してD2F2チャレンジしたマウスから脾細胞を得て、YAC−1細胞に対する細胞溶解活性について評価する。DX5の発現はNK細胞と関連するので、市販のPE標識抗体を用いて、このマーカーの発現をフローサイトメトリーにより測定する。NK細胞の増殖に対するフラジェリンの刺激効果は、DX5発現の増大と相関しているはずである。
【0118】
D2F2乳がん細胞に対する防御的応答における、Fra−1エピトープを含有する組換えフラジェリンタンパク質の有効性。フラジェリンがワクチンベクターおよびアジュバントとして機能し得るか否かをさらに決定する。この場合には、種々の腫瘍抗原由来の多数のエピトープをコードする組換えフラジェリンタンパク質が生成される。
【0119】
ヒト乳がんは、それらが発現する腫瘍特異的抗原において実質的な異質性を示すことが、有効な証拠により示される。例えば、MAGE−3は、乳がんのうちほぼ14%で発現されるが、Her2/neuは40%で、NY−BR−62は60%で、そしてNY−BR−85は約90%で発現される(Scanlan and Jaeger(2001)Breast Cancer Res.3:95−98)。全長Fra−1抗原を含む組換えフラジェリンタンパク質が、2つのタンパク質として機能し得るか否かを決定する。この場合には、防御的応答の誘導に関与するFra−1内のエピトープをマッピングする。他の主要な乳がん抗原標的に対して同じことを行うのは正攻法の試みであろう。様々な標的抗原由来のエピトープを発現するフラジェリンタンパク質が生成され得る。あるいは、標的エピトープのサブセットを発現する各フラジェリンには、フラジェリンタンパク質のカクテルが用いられ得る。さらに、導入することによって、外来エピトープがこのタンパク質の超可変領域(フラジェリンとTLR5との相互作用に関与しない領域)に導入され(DonnellyおよびSteiner(2002)J.Biol.Chem.277:40456−40461;Smith et al.(2003)Nat.Immunol.4:1247−1253;Murthy et al.(2004)J.Biol.Chem.279:5667−5675)、フラジェリンの生物学的活性はいかなる有意な方法によっても影響される可能性は低い。
【0120】
フラジェリン/Fra−1キメラの生成。Fra−1の全長配列を、フラジェリンの超可変領域に挿入して、その得られた構築物をpET22a発現ベクターにクローニングして、そのタンパク質をRosetta−gami−pLysS細菌中で発現する。内毒素をDetoxi−ゲルカラムを用いて除去する。このキメラタンパク質の生物学的活性は、RAW264.7細胞によるTNFα産生を用いて評価する。このキメラの力価を判定し、その力価を野性型フラジェリンと比較する。
【0121】
D2F2細胞に対する防御に必要なFra−1エピトープのマッピング。D2F2細胞でのチャレンジに対し、このキメラがBALB/cマウスを防御する能力を評価する。このキメラが防御免疫を誘導した場合には、Fra−1配列から重複短縮物を生成し、フラジェリンとしての有効性について試験される。構築物の数を減少させるために、Fra−1の全配列をカバーするように重複する3つの断片を調製する。これらの短縮物のうちの1つが活性である場合、さらなる短縮物を生成して、防御に必要な最小配列を規定する。この3つの短縮物の中にそれ自体が機能的であるものがない場合、それらを対で試験して、必要な配列がこのタンパク質の異なる部分にあるか否かを決定する。このアプローチを用いて、必要な最小配列を規定し得る。
【実施例3】
【0122】
フラジェリンは、Yersinia pestisによる致死性の呼吸器チャレンジに対する免疫のための有効な粘膜アジュバントである
方法
プラスミドおよび細胞培養。Yersinia pestisのF1抗原caf1のコード配列(cafオペロン全体を含有するプラスミドは、State University of New York,Stony BrookのJ.B.Bliska博士によって寄贈された)を、Novagen(EMD Biosciences,Inc.,Madison,WI)のpET29a発現ベクターのNdeIおよびXhoI部位にサブクローニングした。組換えのF1/V融合構築物(Heat et al.(1998)Vaccine 16:1131−1137)(G.Andrews博士およびP.Worsham博士,USAMRIIDが提供)を配列決定して、pET16bにサブクローニングした。配列決定によって、F1のシグナル配列に相当する21個のアミノ酸の非存在が明らかになった。
【0123】
試薬および抗体。Salmonella enteritidis由来の精製された組換えHisタグ化フラジェリンは以前に記載されたように調製された(Honko and Mizel(2004)Infect.Immun.72:6676−6679;McDermott et al.(2000)Infect.Immun.68:5525−5529)。229変異フラジェリン、ならびにF1およびF1/V抗原を、同一の様式で精製した。内毒素のレベルは、Cambrex Corporation(East Rutherford,NJ)のQCL−1000(登録商標)Chromogenic LAL Test Kitによって測定した場合1pg/μg以下であった。TNF−αは、製造業者(BD Biosciences)の指示に従って、BD OptEIA ELISAキット(モノ/モノ)を用いて検出した。Research Diagnostics,Inc.(Flanders,NJ)から入手した抗F1マウスモノクローナルIgG1(クローンYPF19)を、抗F1のELISAにおいてコントロールとして用いた。ヤギ抗マウスIgG−HRPは、SouthernBiotech(Birmingham,AL)から購入した。ヤギ抗サルIgG−HRPは、Research Diagnostics,Inc.(Flanders,NJ)から購入した。
【0124】
マウス。雌性BALB/cAnNCrマウスは、Frederick Cancer Research and Development Center(Frederick,MD)から購入した。雌性IL−6−/−マウス(B6;129S2−Il6/J)、TNFR1マウス(tm1Kopf−/−B6;129S−Tnfrsf1a Tnfrsf1b/J)、IFNγ(tm1Imx tm1Imx−/−B6.129S7−Ifngtm1Ts/J)およびコントロールのマウス(C57BL/6J,B6;129SF2/Jおよび129/SvJ)は、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から購入した。IFNα/βR−/−マウスは、C.Schindler博士,Columbia University,New York(Mueller et al.(1994)Science 264:1918−1921)から提供された。マウスは、特別な病原体のない施設で飼育して、全ての研究は、連邦のガイドラインおよびWake Forest University Animal Care and Use Committeeによって示される施設のガイドラインに従った。
【0125】
マウスの非外科的な気管内および鼻腔内免疫。気管内免疫のために、マウスを、アベルチン(Avertin)(2,2,2−トリブロモエタノール、Sigma;tert−アミルアルコール,Fisher)を用いて、腹腔内注射によって麻酔し、門歯によってワイヤで吊るした。気管に穏やかに挿入された滅菌のゲルローディングチップを用いて、10μgのF1抗原および示した量のフラジェリンまたはフラジェリン変異体229を、全部で50μLの発熱物質なしのPBSにより投与した。鼻腔内免疫のために、抗原およびアジュバントをPBSに含有する小容積(全部で9〜12μL)を、麻酔されたマウスの鼻孔に投与した。マウスを4週で追加免疫して、追加免疫の2〜3週後に抗体力価の分析のために血漿を収集した。
【0126】
サルの免疫。15例の健常な成体雌性カニクイザル(Macaca fascicularis)を、連邦のガイドラインおよびWake Forest University Animal Care and Use Committeeによって示される施設のガイドラインに従って維持した。動物は、免疫および血液採取のために7〜10mg/kgのケタミンを用いて筋肉内に麻酔した。鼻腔内免疫のために、150μgのF1/V融合タンパク質および50μgのフラジェリンを、横臥位の動物に滴下して与えた(鼻孔あたり100μL)。筋肉内免疫を四頭筋に対して1mLの容積で投与した。コントロールの動物には鼻腔内および筋肉内にPBSを与えた。
【0127】
酵素結合免疫吸着アッセイ(enzyme−linked immunosorbant assay)(ELISA)による血漿抗体力価の分析。ヘパリン処理した試験管(StatSpin;Fisher Scientific)またはBD Vacutainer PST試験管を、血漿の採取に用いた。次いで、血漿をアリコートにして、分析するまで−70℃で凍結させた。ELISAプレートは、100μLの抗原が10μg/mLで含まれる滅菌PBSを用いて4℃で一晩コーティングして、10%FCSを含むPBSでブロックした。二倍または三倍の血漿希釈物を添加して、そのプレートを4℃で一晩インキュベートし、その後に二次抗Ig抗体と室温で2時間インキュベートした。ペルオキシダーゼ活性は、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)Liquid Substrate System(Sigma−Aldrich)を用いて検出し、そして2MのH2SO4で停止させた。終点希釈の力価は、未感作の血漿の吸光度よりも0.1より大きい吸光値(OD450)を生じる、最大希釈の逆数として規定した。
【0128】
Yersinia pestis CO92での呼吸器のチャレンジ。Centers for Disease Control(CDC)のDivision of Vector−Borne Infectious Diseases(Fort Collins,CO)によって、ヒト初代肺ペスト(pneumonic plague)の死亡例から単離した株である、Yersinia pestis CO92 biovar orientalisのストック培養物が提供された(Doll et al.(1994)Am.J.Trop.Med.Hyg.51:109−114)。心臓注入ブロス(heart infusion broth)に、継代培養プレートからの単一のコロニーを接種して、28℃で、1×109のコロニー形成単位(cfu)/mLという適切な密度まで増殖させた。マウスにPBS中で約1.8×107cfu/mLに希釈した10μLの培養物を鼻腔内にチャレンジし、これは1.2×104cfuという50%致死用量(LD50)の150倍に等しい用量である(データ示さず)。実際のcfu/mLの値は、トリプトース血液寒天プレート上に連続希釈をプレートすることによって測定した。生存は、チャレンジ後14〜30日間モニターした。全ての実験は、Virginia TechのInfectious Disease Unit(CDC承認#C20031120−0016)のBSL3およびABSL3の施設について、CDCの承認した標準操作手順に従って行った。
【0129】
統計学的分析。データは、個々の値に平均および標準誤差をつけて示す。分散の均等についてのF検定およびスチューデントの片側t検定を用いてp<0.05またはp<0.01で統計学的有意差を割り当てた。SigmaStat3.1(Systat Software,Inc.,Richmond,CA)を用いて、非線形回帰によってLD50値を決定した。
【0130】
結果
フラジェリンでの免疫は、Yersinia pestisのF1抗原に対して強力な適応性の応答を促進する。フラジェリンがY.pestisのF1抗原に対する体液性免疫応答を促進する能力を決定するために、BALB/cマウスを、10μgのF1抗原および1μgの組換えフラジェリン(FliC)を用いて、気管内(i.t.)または鼻腔内(i.n.)で免疫した。コントロールの動物を、PBSに含まれるF1抗原、またはF1および229と命名されるフラジェリンの変異型で免疫した。4週後、マウスを同一の方式で追加免疫して、追加免疫後種々の時点での循環している抗体力価の分析のために血漿を収集した。コントロールのマウスの群ではF1特異的なIgGは検出されなかった。しかし、F1およびフラジェリンを含有するワクチンは、総IgG力価の劇的な増大を刺激し(図3、パネルa)、高レベルのF1特異的IgG1およびIgG2aをともなった。フラジェリンおよびF1がi.t.で投与された場合、IgG1対IgG2aの平均の比(バーの中に示される)は、30〜170に及び、i.n.で与えられた場合は約3であった。i.n.およびi.t.での免疫は、混合Th応答を生じたが、気管内免疫後は、Th2応答への偏りが明確であった。フラジェリンは有意なF1特異的IgE産生を促進しなかったことに注意することが重要である。F1およびフラジェリンで免疫したマウスが示す抗F1IgGの力価は、2回の免疫後、維持されていた(図3、パネルb)。16週での3回の免疫によって、最初の力価が低かった2匹のマウスでの抗体応答は改善された。
【0131】
以前の研究では、肺におけるフラジェリンに対する先天性の応答は、5〜15μgの範囲のフラジェリンの用量で最大であることが実証された(HonkoおよびMizel(2004)Infect.Immun.72:6676−6679)。フラジェリンによって促進されるサイトカイン応答と抗体応答との大きさの間に線形の関係が存在するか否かを決定するために、BALB/cマウスをF1抗原、および1μg、5μgおよび15μgのフラジェリンで免疫した(図3、パネルc)。抗F1IgG力価は、これらの用量では有意に異なることはなく、これによって、このアジュバント効果が、1μgのフラジェリンで最大であることが示される。しかし、本発明者らは、フラジェリンの用量が増大するにつれてより大きいIgG1/IgG2a比に向かう傾向であることに注目した。従って、最大の適応性応答は、最大の先天性応答を要する必要はないと考えられる。
【0132】
フラジェリンに対する既存の免疫は、アジュバントとしてのその使用を考慮した場合に明らかな懸念である。従って、本発明者らは、高力価の抗フラジェリン抗体の存在下でフラジェリンおよびF1を用いる免疫の有効性を評価した。雌性BALB/cマウスを、5μgのフラジェリンをi.n.で用いて免疫して、追加免疫し、そして抗フラジェリン抗体の力価を決定した。フラジェリン特異的なIgG力価は、免疫の前の検出のレベルより低く、そして8.5×105という平均の抗FliC IgG力価で有意に増大した。次いで、これらのマウスを、10μgのF1および1μgのFliCを用いてi.n.で免疫して追加免疫した。追加免疫の2週後、抗F1 IgG力価は、未感作のマウスとFliC−免疫マウスとの間で同様であり(図3、パネルd)、このことは、循環している抗フラジェリン抗体が、フラジェリンに対する応答を正にも負にも変更しないことを示した。本発明者らの結果によって、フラジェリンが、フラジェリンに対する前の免疫の存在下で有効なアジュバントであるという結論が支持される。
【0133】
フラジェリンのアジュバント効果は、抗原特異的な応答を刺激し、そしてそれはTリンパ球に依存性である。免疫学的記憶の発達は、有効なワクチンの本質的な特徴であり、これによって感染の間、抗原に対する引き続く曝露に対して迅速に応答するための免疫系が準備される。二次免疫におけるフラジェリンの刺激についての要件を評価するために、4つの群のBALB/cマウスをF1抗原およびフラジェリンで免疫して、引き続き、PBS、フラジェリン単独、F1抗原単独、またはフラジェリンおよびF1で追加免疫した(図4、パネルa)。PBSまたはフラジェリン単独で追加免疫されたマウスでのF1特異的IgGの力価は500〜1100の間にとどまり、これは一次応答後に代表的な値である。しかし、二次免疫でF1抗原のみを投与されたマウスは、抗F1 IgG力価が劇的に増大していた。フラジェリンは追加免疫には必要でなかったが、フラジェリンが存在する場合、抗F1抗体の有意な増大が存在した。これらの知見は、アジュバントとしてLPSを用いて、Pasare and Medzhitov(2004)Immunity 21:733−741に報告された知見と同様である。この著者らは、一旦CD4+の記憶がアジュバントとしてLPSを用いて確立されれば、TLR刺激は、これらのリンパ球の活性化にはもはや必要ではないということを示唆した。本発明者らの系における記憶応答は、完全に特徴づけられたままであるが、フラジェリンおよびF1で免疫した無胸腺ヌードマウス(BALB/cAnNCr−nu/nu)におけるF1特異的IgG応答の欠失(図4、パネルb)は、このワクチンに対する体液性応答でのT細胞の必要性を実証している。
【0134】
TNF−α、IL−6およびインターフェロンは、フラジェリンのアジュバント効果には必要ない。以前に、フラジェリンは、肺で高レベルのTNF−αおよびIL−6を誘導するということが確認された(実施例1;Honko and Mizel(2004)Infect.Immun.72,6676−6679)。従って、フラジェリンのアジュバント活性におけるこれらのサイトカインの役割を評価した。TNF−αは、樹状細胞成熟を促進する多面的なサイトカインである(Banchereau et al.(2000)Annu.Rev.Immunol.18,767−811)。図5、パネルaに示されるとおり、抗F1抗体応答は、これらのマウスでは極めて高く維持され、これによって、TNF−αは、フラジェリンのアジュバント効果には必要ないということが示される。しかし、フラジェリン刺激されたTNF−α産生は、F1抗原に対する抗体応答を増強すると考えられる。なぜならTNFR-/-マウスでの力価は、野性型B6;129マウスに対して約2分の一に低下していたからである。フラジェリンのアジュバント活性において、B細胞増殖および分化を促進するサイトカインである(Kaminura et al.(2003)Rev.Physiol Biochem.Pharmacol.149:1−38)IL−6の役割は、IL−6-/-マウスを用いて評価された。これらのマウスでは、F1およびFliCでの免疫後に抗F1 IgGの産生の欠失があり(図5、パネルb)、このことは、このサイトカインも、フラジェリンのアジュバント効果には必須でないことを示している。
【0135】
インビトロでは、フラジェリンは、機能的なTLR5/4ヘテロマー複合体を通じたシグナル伝達を介して一酸化窒素およびインターフェロンβ(IFN−β)の産生を刺激する(Mizel et al.(2003)J.Immunol.170:6217−6223)。非機能的な変異体TLR4を保有するC3H/HeJマウス(Poltorak et al.(1998)Science 282:2085−2088)によってインビボにおけるTLR5/4ヘテロマーおよびTLR5/5ホモマーのシグナル伝達の影響を分けるモデルが得られる。肺では、TNF−α、IL−6、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、ケラチノサイト由来ケモカイン(KC)、マクロファージ炎症性タンパク質2(MIP−2)およびMIP−1αのフラジェリン刺激産生は、C3H/HeJマウスでは崩壊されなかった(実施例1;HonkoおよびMizel(2004)Infect.Immun.72:6676−6679)が、一方、インターフェロン産生は評価されなかった。I型のIFNは、抗原提示細胞上でのMHCおよび同時刺激分子の上方制御を刺激することによって先天性および適応性の免疫応答と関連すると提示される(Le Bon and Tough(2002)Curr.Opin.Immunol.14:432−436)。フラジェリンのアジュバント効果に対するTLR5/4のシグナル伝達の役割を決定するために、C3H/HeJマウスでの抗F1抗体の力価を、その野性型の対応物であるC3H/HeNマウスと、F1抗原およびフラジェリンでの免疫後に比較した(図5、パネルc)。抗体産生の欠損がなかったので、TLR5/4複合体を介するシグナル伝達は、フラジェリンのアジュバント効果には必要ない。フラジェリンのアジュバント活性におけるインターフェロンの役割は、I型インターフェロンシグナル伝達(IFNα/βR-/-)またはインターフェロン−γを産生する能力(IFNγ-/-)のいずれかを欠くマウスにおける抗体応答を決定することによって直接評価された(図5、パネルdおよびe)。両方のマウスの株とも、F1抗原およびフラジェリンで免疫された野性型のマウスと類似の方式で応答したので、インターフェロンも、フラジェリンのアジュバント効果には必要でない。
【0136】
フラジェリンは、Yersinia pestis CO92による鼻腔内チャレンジの防御応答を促進する。ワクチンの基礎的な試験は、病原体でのチャレンジに対する防御を提供する能力である。呼吸器感染のモデルとして、免疫されたマウスおよびコントロールのマウスを病原性のY.pestis CO92を用いて鼻腔内にチャレンジした。ワクチン接種が適切な防御を誘発することを確実にするために、Y.pestisでのi.n.感染についての50%致死用量(LD50)の約150倍のチャレンジ用量を、NIAIDおよびFDAによって支援される近年のPlague Vaccine Workshop(2004年、10月13日〜14日)からの推奨に基づいて選択した。フラジェリンおよびF1を用いてi.n.で免疫されて追加免疫されたBALB/cマウスは、100×LD50に等しい用量でのチャレンジ後に、コントロール群でのわずか7%に対して、93%の生存率を有した(図6、パネルb)。B細胞欠損IgH-/-マウスを用いて、防御的な応答のB細胞/抗体依存性を評価した(図6、パネルb)。約150×LD50の用量のY.pestis感染で全てのコントロールのマウスおよび免疫されたマウスは死亡し、このことにより、このチャレンジ用量での防御は、B細胞媒介性であって、従っておそらく抗体媒介性であることが示された。以前には、Elvin et al.は、IL−12およびIFN−γ−媒介性免疫応答を欠くStat4-/-動物を用いるY.pestis感染からの防御における1型エフェクターの機能の役割を検討した(Elvin and Williamson(2004)Microb.Patho.37:177−184)。免疫されたStat4-/-マウスは、その野性型対応物と同様のレベルの抗F1および抗VのIgGを産生するが、これらの動物は、高用量のチャレンジからは保護が劣った。本発明者らの系において鼻腔内チャレンジ後のIFN−γ媒介性防御の役割に取り組むため、IFN−γ-/-および野性型のC57BL/6マウスの群を、F1抗原およびフラジェリンを用いて150×LD50のY.pestisを用いるチャレンジの前に免疫して、追加免疫した。野性型C57BL/6マウスは、コントロールのわずか10%に対して、フラジェリンおよびF1を用いるi.n.免疫によって完全に防御された(図6、パネルc)。免疫されたIFN−γ-/-マウスは、チャレンジ後に80%の生存を有し(図6、パネルd)、このことは、IFN−γ媒介性の応答が防御には必要ないことを示す。これらの動物は高い力価の抗F1 IgGを有するので、これらの結果によって、Y.pestis感染からの防御におけるF1特異的抗体の重要性が確認され、そして循環中のIgG力価の有用性が防御効率の相関として支持される。2匹のIFNγ-/-マウスが感染に対して死んだという観察によって、IFN−γは、おそらく食細胞における呼吸バーストの促進を通じて、Y.pestisからの抗体媒介性防御を増強し得るということが示唆される。
【0137】
フラジェリンは非ヒト霊長類における有効なアジュバントである。マウスモデルにおいて防御的な適応性免疫応答を促進するフラジェリンの能力に照らして、本発明者らは次に、非ヒト霊長類におけるアジュバントとしてフラジェリンの有効性を評価した。Y.pestisのF1抗原およびV抗原からなる組換え融合タンパク質を、雌性カニクイザルの免疫に用いた。6匹のマウスの群は、150μgのF1/V融合および50μgのフラジェリンを用いて、i.n.または筋肉内(i.m.)で免疫した。さらなるコントロール動物(n=3)は、両方の経路によってPBSを投与された。免疫の前に、サルは、約9.8×104という抗フラジェリン抗体力価を示した。フラジェリンで免疫されたサルは、免疫後の最初の24時間の間に体温または血漿のTNF−αレベルで変化を示さず、そして注射の部位で観察可能な炎症は生じなかった。動物には、4週で同一の様式で追加免疫して、血漿の抗F1/V IgG力価を2週後に測定した(図7)。免疫されたサルは、F1/V−特異的抗体力価の顕著な増大を示した。抗原特異的なIgEは検出されなかった。これらの結果によって、フラジェリンは、循環している抗フラジェリン抗体の存在下でさえ、非ヒト霊長類における抗体応答の発達のための有効なアジュバントであることが明確に確認された。
【実施例4】
【0138】
Yersinia pestisの抗原およびワクチン
Yersinia pestisに対する免疫応答を誘導する融合タンパク質は、Y.pestis V抗原、Y.pestis F1抗原、またはその融合ペプチドを用いて、実施例2に記載されるのと同様の様式で生成する。このような融合タンパク質を用いて、免疫応答を、必要に応じて防御免疫応答を、本明細書に記載されるように誘導し得る。必要に応じて、この応答は、粘膜の免疫応答である。適切な融合タンパク質の特異的な非限定的な例は以下である。
【0139】
実施例A:FliC/F1/Vのアミノ酸配列(配列番号1)
【化1】

【0140】
実施例B:FliC/F1のアミノ酸配列(配列番号2)
【化2】

【0141】
実施例C:FliC/Vのアミノ酸配列(配列番号3)
【化3】

注:S.enteritidisから得たFliC。これらの融合タンパク質の各々では、FliC末端のN末端定常領域はアミノ酸残基198で、そしてC末端定常領域(その最初の7つのアミノ酸は太字で下線で示される)は、実施例A(配列番号1)ではアミノ酸残基679で、実施例B(配列番号2)ではアミノ酸残基348で、そして実施例C(配列番号3)ではアミノ酸残基524で開始する。
【実施例5】
【0142】
フラジェリンならびにYersinia pestisのF1およびV抗原を含有する融合ペプチドの生物学的活性
フラジェリンならびにYersinia pestisのF1およびV抗原を単独のタンパク質としてコードする発現プラスミドを調製するために、S.enteritidisのフラジェリンの超可変領域をコードするヌクレオチド配列のほとんどを、6アミノ酸をコードする18のヌクレオチドブリッジによって分けられるF1およびV配列を連続して置換して取り替えた(上記の実施例A、配列番号1を参照のこと)。組換えタンパク質をBL21細胞で生成して、金属親和性樹脂上でのアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。内毒素および混入する核酸を、Acrodiscクロマトグラフィーフィルターを用いて除去した。得られたタンパク質がフラジェリンの生物活性を保持するか否かを決定するために、TLR5−陰性およびTLR5−陽性のRAW264.7細胞を、三融合タンパク質とともにインキュベートして、腫瘍壊死因子a産生の程度を決定した。TLR5−陰性のRAW細胞を用いて、このアッセイにおける影響を有し得る任意の混入する因子を制御した。図8に示されるとおり、フラジェリンならびにYersinia pestisのF1およびVタンパク質を含有する融合タンパク質は、TLR5−陽性細胞においてフラジェリンの生物学的活性を保持する。このタンパク質は、TLR5−陰性のRAW264.7細胞においてはシグナル伝達しなかった。
【0143】
トール様受容体5(TLR5)陰性RAW264.7細胞またはTLR5陽性RAW264.7細胞(TLR5強化黄色蛍光タンパク質をコードする構築物を用いてRAW264.7細胞を安定にトランスフェクトすることによって作成された細胞株)を、フラジェリンならびにY.pestisのF1およびVタンパク質をコードする融合タンパク質の漸増濃度とともに、4時間インキュベートし、次いで培養培地を、TNF−αの含量についてELISAによってアッセイした。
【0144】
フラジェリン+F1+Vまたは3つの全てを含有する単一のタンパク質が、Y.pestis CO92での致死チャレンジに対して防御するか否かを決定するために、C3H/HeJマウスを、リン酸緩衝化生理食塩水のみ(PBS)または3つのタンパク質を含むワクチン(1mgのフラジェリン+各々5mgのF1およびV、またはフラジェリン、F1およびV(フラジェリン/F1/V;10mg)を含有する単一のタンパク質を含有するワクチン)を用いて免疫して、追加免疫した。同じ処方で4週後にマウスを追加免疫し、次いで、Y.pestis CO92のほぼ150のLD50を用いてチャレンジした。このマウスを、チャレンジの前に採血して、抗−F1 IgG力価をELISAによって決定した。表2に示されるように、フラジェリン+Yersinia pestisのF1およびV抗原、またはフラジェリンならびにYersinia pestisのF1およびV抗原を含有する融合タンパク質は、Yersinia pestisでの致死の呼吸器チャレンジに対して完全な防御を与える。
【0145】
【表2】

【0146】
前述は本発明の例示であって、その限定と解釈されるべきではない。本発明は、特許請求の範囲によって規定され、これはそこに含まれる特許請求の範囲と等価である。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】i.t.での滴下によってフラジェリンまたは変異フラジェリン229を投与されたBALB/cマウスの肺におけるTNFα発現を示す。
【図2】腫瘍増殖に対するフラジェリンの効果を示す。白抜きの丸はFra−1抗原およびフラジェリンの不活性型を与えられたマウスを示す。黒塗りの丸は、Fra−1抗原およびフラジェリンの活性型を与えられたマウスを示す。
【図3】フラジェリンおよびYersinia pestisのF1抗原での免疫が、かなりの抗F1抗体生成を生じることを示す。(パネルA)雌性BALB/cマウスに、10μgのF1+1μgのフラジェリン(FliC)を用いて気管内に(i.t.)または鼻腔内に(i.n.)免疫した。コントロールの動物には、i.t.で10μgのF1単独を用いて、または1μgの229変異体断片を用いて免疫した。マウスには、4週で同一の方式で追加免疫して、血漿を2週後にELISAによる分析のために収集した。バーの中の数は、IgG1/IgG2aアイソタイプの比を示す。*は、コントロールに対する統計的な有意差を示し、そして**は、i.n.の力価がi.t.よりも統計的に大きい(p<0.007)ことを示す。(パネルb)10μgのF1+1μgのフラジェリンを用いてi.n.で免疫したマウス由来の抗F1抗体の力価。各々のラインは、1つのマウスを示し、そして矢印は、ブースター(追加)免疫を示す。(パネルc)雌性BALB/cマウスを、10μgのF1および漸増量のFliCまたは5μgの229を用いてi.t.で免疫して、4週で追加免疫した。血漿抗F1 IgG力価は、追加免疫後2週で測定した。(パネルd)雌性BALB/cマウスの群を、5μgのフラジェリン単独を用いてi.n.で免疫して、同一の方式で4週で追加免疫した。抗FliC抗体の力価は、2週後に測定し(平均の抗FliC力価=8.5×105)、次いでフラジェリン免疫マウスを10μgのF1+1μgのFliCを用いてi.n.で免疫して追加免疫した。追加免疫の2週後、抗F1力価を測定して、10μgのF1+1μgのFliCまたは229を用いて免疫したフラジェリンに未感作の動物の力価と比較した。バーは、平均抗体力価±s.e.m.を示す。1つの免疫群あたり7匹の雌性BALB/cマウスを用いた。
【図4】フラジェリンが抗原特異的応答を刺激して、T細胞を要することを示す。(パネルa)7匹の雌性BALB/cマウスの群を、10μgのF1抗原+1μgのフラジェリン(FliC)で免疫して、PBS、1μgのFliC単独、10μgのF1単独、または10μgのF1+1μgのFliCを用いて4週で追加免疫した。血漿を、ELISAによる分析のために追加免疫後3週で収集した。*は、PBSまたはFliC単独で追加免疫した動物に対する統計的な有意差を示し、そして**は、F1+FliCを用いる追加免疫が、F1抗原単独よりも統計学的に大きい抗体力価を生じることを示す(p<0.01)。バーは、平均抗体力価±s.e.m.を示す。(パネルb)7匹の無胸腺ヌードマウス(BALB/cAnNCr−nu/nu)の群を、10μgのF1+1μgのFliCを用いてi.n.で免疫して、追加免疫した。血漿は、ELISAによる抗F1 IgG力価の分析のために、追加免疫の2週後に収集した。*は、同一の方式で免疫した正常なBALB/cマウスに比較して統計的な有意差を示す(p<0.001)。
【図5】フラジェリンのアジュバント効果の必要性を示す。TNFR-/-(パネルa)またはIL6-/-(パネルb)および野性型B6;129コントロールマウスを、10μgのF1抗原+1μgのフラジェリン(FliC)または変異体フラジェリン(229)を用いてi.t.で免疫した。*は、TNFR-/-の力価が、B6;129コントロールよりも統計学的に小さい(p<0.001)ことを示す。C3H/HeJ(Tlr4P712H変異体)および野性型C3H/HeNマウスを10μgのF1+1μgのFliCまたは229で免疫した(パネルc)。IFNα/βR-/-(パネルd)およびIFNγ-/-(パネルe)のマウスおよび対応する野性型コントロールを10μgのF1+1μgのFliCまたは229で免疫した。各々の免疫群で7匹の雌性マウスを用いた。マウスは、4週で同じ様式で追加免疫して、血漿をELISAによる抗F1 IgG力価の分析のために、2週後に収集した。バーは、平均抗体力価±s.e.m.を示す。
【図6】フラジェリンが、Yersinia pestis CO92による鼻腔内感染の防御応答を促進することを示す。15匹の雌性BALB/cマウスの群(パネルa)を、10μgのF1抗原+1μgのフラジェリン(FliC)またはPBS単独を用いてi.n.で免疫して、同一の方式で4週で追加免疫した。血漿はELISAによる抗体力価の分析のために、追加免疫2週後に収集した(平均抗F1力価=9.4×105)。1週後にマウスに、100×LD50に匹敵する用量のY.pestis CO92を用いてi.n.でチャレンジした。マウスはチャレンジ後の30日間モニターした。10匹の抗体欠損IgH-/-マウスの群(パネルb)を、10μgのF1+1μgのFliCまたはPBS単独を用いてi.n.で免疫して、同一の方式で4週で追加免疫した。マウスを、155×LD50に匹敵する用量のY.pestisを用いて2週後にi.n.でチャレンジした。10匹の野性型C57BL/6マウス(パネルc)および雌性IFNγ-/-マウス(パネルd)の群を、10μgのF1+1μgのFliCを用いてi.n.で免疫して、追加免疫した。血漿はELISAによる抗体力価の分析のために、追加免疫2週後に収集した(抗F1力価≧1×106)。1週後にマウスに、150×LD50に匹敵する用量のY.pestisを用いてi.n.でチャレンジして、チャレンジ後16日間モニターした。
【図7】フラジェリンが非ヒト霊長類における有効なアジュバントであることを示す。雌性カニクイザル(Macaca fascicularis)を、150μgのF1/V融合タンパク質+50μgのフラジェリンを用いて鼻腔内に(n=6)または筋肉内に(n=6)免疫した。コントロールの動物(n=3)を、PBS単独を用いてi.n.およびi.m.免疫した。12時間にわたって体温に有意な変化は生じず、そしてTNF−αは、免疫後4時間、12時間および24時間で収集した血漿では検出されなかった。動物を同一の方式で4週で追加免疫して、血漿は、ELISAによる分析のために、2週後に収集した。バーは、平均抗F1/V抗体力価±s.e.m.を示し、そして*は、鼻腔内免疫に対する統計学的な有意差を示す(p<0.006)。
【図8】フラジェリンおよびYersinia pestisのF1およびVタンパク質を含む融合タンパク質が、フラジェリンの生物学的活性を保持することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)フラジェリンN末端定常領域と
(ii)フラジェリンC末端定常領域と
を含むフラジェリンアジュバントと、
(b)前記N末端定常領域と前記C末端定常領域との間のYersinia pestis抗原と
を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
前記フラジェリンアジュバントが削られたフラジェリン超可変領域を含むか、または前記フラジェリンアジュバントから前記フラジェリン超可変領域が欠失している、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記Y.pestis抗原が、(i)前記超可変領域内か、(ii)前記フラジェリンN末端定常領域と超可変領域との間か、または(iii)前記フラジェリンC末端定常領域と前記超可変領域との間か、に挿入される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記Yersinia pestis抗原が、Y.pestisのF1抗原、Y.pestisのV抗原、およびその融合ペプチドからなる群より選択される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸を含むベクター。
【請求項7】
請求項5に記載の核酸または請求項6に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項8】
請求項1に記載の融合タンパク質を作製する方法であって、前記融合タンパク質が生成されるのに十分な条件下で培養培地中において請求項7に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、方法。
【請求項9】
前記融合タンパク質が、宿主細胞から、または培養培地から収集される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
薬学的に受容可能な担体中に請求項1に記載の融合タンパク質を含む免疫原性組成物。
【請求項11】
哺乳動物被験体においてYersinia pestisに対する免疫応答を生じる方法であって、請求項1に記載の融合タンパク質または請求項10に記載の免疫原性組成物を、前記哺乳動物被験体においてYersinia pestisに対する免疫応答を生じるのに有効な量で前記被験体に対して投与するステップを含む、方法。
【請求項12】
Yersinia pestis感染の影響から哺乳動物被験体を防御する方法であって、請求項1に記載の融合タンパク質または請求項10に記載の免疫原性組成物を、Yersinia pestis感染の影響に対して前記哺乳動物被験体を防御するのに有効な量で前記哺乳動物被験体に対して投与するステップを含む、方法。
【請求項13】
前記投与ステップが粘膜表面に対して融合タンパク質または免疫原性組成物を送達することによって行われる、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記投与ステップが鼻腔内投与または吸入投与によって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記被験体が少なくとも50歳齢のヒト被験体である、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項16】
薬学的に受容可能な担体中に、
(a)フラジェリンアジュバントと、
(b)Yersinia pestis抗原と
を含む、粘膜投与のための免疫原性組成物。
【請求項17】
前記Yersinia pestis抗原が、Y.pestisのF1抗原、Y.pestisのV抗原、およびその融合ペプチドからなる群より選択される、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記Yersinia pestis抗原が、フラジェリンアジュバントに結合される、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
フラジェリンアジュバントに結合されていない第二のYersinia pestis抗原をさらに含む、請求項18に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
ヒト被験体においてYersinia pestisに対する免疫応答を生じる方法であって、請求項16に記載の組成物を、前記ヒト被験体においてYersinia pestisに対する免疫応答を生じるのに有効な量で前記ヒト被験体に対して粘膜的に投与するステップを含む、方法。
【請求項21】
Yersinia pestis感染の影響からヒト被験体を防御する方法であって、請求項16に記載の組成物を、Yersinia pestis感染の影響に対して前記ヒト被験体を防御するのに有効な量で前記ヒト被験体に対して粘膜的に投与するステップを含む、方法。
【請求項22】
前記投与ステップが鼻腔内投与または吸入投与によって行われる、請求項20または請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被験体が少なくとも50歳齢のヒト被験体である、請求項20または請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−523819(P2008−523819A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547004(P2007−547004)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045954
【国際公開番号】WO2006/066214
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】