説明

Z形鋼矢板の断面形状設定方法

【課題】経済性と施工性共に最適化されたZ形鋼矢板の断面形状設定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法は、ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするものである。
2.65×10−4×I+22≦θ≦80 (30,000≦I<180,000)
70≦θ≦80 (180,000≦I<200,000)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下土留め、河川護岸等に使用されるZ形鋼矢板の断面形状設定方法に関する。
本明細書において、Z形鋼矢板とは、斜めに配置されたウェブの両端に該ウェブに連続してフランジが形成され、全体形状が略Z形になった鋼矢板をいう。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板の継手を嵌合させて築造した、鋼矢板壁の性能の指標の一つとして、壁の剛性を表す断面二次モーメント(I)がある。一般に、断面二次モーメント(I)が大きければ、土圧や水圧などの荷重が作用したときの壁体の変形量は小さくなる。
断面二次モーメント(I)は、鋼矢板の板厚(t)や高さ(H)を増やすことなどで大きくすることが可能であるが、経済性の観点からはなるべく断面積(A)を小さくし鋼重(W)を減らすのが望ましい。
【0003】
一方で、鋼矢板の大型化は、鋼矢板の貫入抵抗(R)の増大につながる。貫入抵抗(R)は、鋼矢板の施工性(貫入性)を左右する主要な指標であり、なるべく小さくするのが望ましい。すなわち、貫入抵抗が小さければ、鋼矢板の施工速度、施工能率が向上することにつながる。
鋼矢板の貫入抵抗(R)は、主に地盤抵抗による支持力と継手抵抗とからなる。このうち、地盤抵抗による支持力(先端+周面摩擦)については、ウォータージェット工法などの補助工法を用いて地盤の強度を一時的に低下させることにより、支持力もある程度人為的に低下させることが可能である。
【0004】
一方、継手抵抗は、継手同士あるいは継手と継手内の土砂との摩擦抵抗が要因である。通常、継手間には数mm以下の隙間が設けられているため、先行して打設された鋼矢板と完全に並行を保って打設される場合には、理論上は、継手同士の摩擦はほとんど発生しないはずである。
しかし、実際には鋼矢板は剛体ではないため、地盤抵抗による支持力で次第にその断面が変形し、たわみが生じる。その結果、継手同士が接触し摩擦が生じる。
なお、摩擦抵抗を低減するために継手に潤滑剤を塗布するという方法があるが、継手や土砂との摩擦により剥離するため、効果が限定されてしまう。
継手抵抗が生じると、鋼矢板が傾き、さらに摩擦が増加するという悪循環が発生する。一度こうした悪循環に陥ると修正することは困難であるため、鋼矢板の打設時になるべく傾きが生じないように導枠を使用し、倒れやずれが生じた場合は、鋼矢板を引抜いて再度打ち直すといったことが行われている。
【0005】
このような鋼矢板の倒れやずれに対し、施工管理の基準を厳しくして継手抵抗を抑えるというやり方もあるが、同時に施工能率の低下を招く。
また、鋼矢板の断面の変形により摩擦抵抗が増加するという原因を取り除いたわけではなく、鋼矢板を引抜いて再度打ち直しても修正されないということが起こるという問題があった。
【0006】
以上のように鋼矢板の断面形状設定に関しては、経済性と施工性の観点からの考察が必要であるが、この点、ハット型鋼矢板の断面形状の設定方法について、例えば下記に示す特許文献1〜5において考察がなされている。
【0007】
特許文献1および2は、新たに定義した、フランジ幅(Bf)と有効幅(B)との関係式と、断面二次モーメント(I)と高さ(H)とBとの関係式をともに満足することで、従来のU型鋼矢板や広幅型鋼矢板より優れた断面性能を得られる形状設定方法およびハット型鋼矢板が示されている。
【0008】
一方、特許文献3では、断面二次モーメント(I)の関係式でウェブ角度θの範囲を限定し、貫入抵抗(R)を最小化したハット型鋼矢板が示されている。なお、特許文献5も同様に、IとBおよび単位重量(W)の関係式を満足するよう設定し、貫入性を確保したハット型鋼矢板が示されている。
また、特許文献4は、既往のU型鋼矢板の単位重量(W)と断面二次モーメント(I)との線形関係を上回るように設定したハット型鋼矢板のIとWの関係式と、有効幅(B)とフランジ幅(Bf)の関係式をともに満足することにより、経済性を高めたハット型鋼矢板が示されている。
【0009】
これらは、いずれもハット型鋼矢板を前提としたものであり、有効幅(B)は700〜1200mm、高さ(H)は200〜350mm程度、断面二次モーメント(I)は10,000〜20,000cm4/m前後を対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-069631号公報
【特許文献2】特許第4069030号公報
【特許文献3】特許第3488233号公報
【特許文献4】特許第3458109号公報
【特許文献5】特開2005-213895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1〜5では、ハット型鋼矢板の断面形状の設定において経済性あるいは貫入性(施工性)のいずれか1つに着目して、それに特化した考察がなされている。
しかし、これらのものは経済性と施工性をともに最適化するといった明確なコンセプトでの鋼矢板の断面形状設定方法ではない。発明者が知る限り、経済性と施工性をともに最適化したZ形鋼矢板の断面形状設定方法について開示した文献はない。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、経済性と施工性共に最適化されたZ形鋼矢板の断面形状設定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、壁幅1mあたりの断面積(A)もしくは単位壁面積あたりの重量(W)を、壁幅1mあたりの断面二次モーメント(I)で割った、A/IやW/Iを、経済性指標と定義することを考えた。経済性としては、指標が小さいほど望ましくなる。すなわち、ある断面二次モーメント(I)を発揮するために必要な断面積(A)や単位重量(W)は、製造コストなどを考慮すると小さい方がより経済的であるということである。
ちなみに、従来の400mm幅のU型鋼矢板のIII型ではW/I=150/16,800=8.9×10-3であるのに対し、大型化した600mm幅の広幅型鋼矢板のIIIw型ではW/I=136/32,400=4.2×10-3と、経済性が倍以上に向上している。
【0014】
上記の通り、鋼矢板壁の断面性能(断面二次モーメント(I)または断面係数(Z))が同じならば、単位壁面積あたりの重量(W)は小さい方が経済的である(同一断面性能に対する鋼材重量の低減)。すなわち、単位重量あたりの製造コストが同じであれば、断面性能あたりの重量(W/I)が小さい方が経済的である。
一方で、断面性能あたりの重量(W/I)が小さくなれば、鋼矢板の断面寸法(有効幅(B)、高さ(H))は増大し、板厚(t)は減少する。その結果、施工時における鋼矢板の変形量が増大し、打設が困難になる。そのため、W/Iが大きい方が施工性は良い、つまり貫入抵抗(R)が小さいといえる。
したがって、W/I(≒製造コスト)が減少すると、貫入抵抗(R)(≒施工コスト)は増加する。逆に、W/Iが増加すると、貫入抵抗(R)は減少すると考えられる。つまり、W/IとRとは二律背反の関係にあると言える。
そのため、経済性指標であるW/Iと施工性指標であるRをどのようにバランスさせるかが、経済性と施工性の両方を最適化させることにとって重要となる。
【0015】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0016】
(1)本発明に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法は、ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするものである。
2.65×10−4×I+22≦θ≦80 (30,000≦I<180,000)
70≦θ≦80 (180,000≦I<200,000)
【0017】
(2)また、ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするものである。
2.65×10−4×I+22≦θ≦2.80×10−4×I+48 (30,000≦I<80,000)
2.65×10−4×I+22≦θ≦70 (80,000≦I<180,000)
【0018】
(3)また、ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするものである。
2.80×10−4×I+48<θ≦80 (30,000≦I<80,000)
70<θ≦80 (80,000≦I<200,000)
【発明の効果】
【0019】
本発明のZ形鋼矢板の断面形状設定方法においては、所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定するようにしたので、経済性と施工性の両方を満たし、かつより施工性を高めるように最適化されたZ形鋼矢板の断面形状を設定することができる。
2.65×10−4×I+22≦θ≦80 (30,000≦I<180,000)
70≦θ≦80 (180,000≦I<200,000)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるZ形鋼矢板の断面形状設定方法によって設定するZ形鋼矢板の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態において最適断面を導き出す過程の説明図であって、B=700mm、tf=16mm、tw=8.5mmで一定として、高さ(H)、ウェブ角度(θ)を変化させたときの壁幅1mあたりの断面二次モーメントと単位壁面積あたりの重量の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施の形態において最適断面を導き出す過程の説明図であって、B=700mm、H=600mmで一定とし、フランジ板厚(tf)とウェブ板厚(tw)を変化させたときの壁幅1mあたりの断面二次モーメントと単位壁面積あたりの重量の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施の形態において最適断面を導き出す過程の説明図であって、I=100,000の場合において、経済性指標とウェブ角度との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態において最適断面を導き出す過程の説明図であって、I=100,000の場合において、施工性指標とウェブ角度との関係を示したグラフである。
【図6】本発明の一実施の形態において最適断面を導き出す過程の説明図であって、I=100,000の場合において、施工性及び経済性を加味した指標とウェブ角度との関係を示したグラフである。
【図7】本発明の一実施の形態に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法によって設定された断面を有するZ形鋼矢板を連結して鋼矢板壁としたときの、壁幅1mあたりの断面二次モーメントとウェブ角度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施の形態に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法を説明するフローチャートである。
【図9】本発明の一実施の形態に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法によって設定された断面を有するZ形鋼矢板を連結して鋼矢板壁としたときの、壁幅1mあたりの断面二次モーメントとウェブ角度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施の形態の他の態様に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法によって設定された断面を有するZ形鋼矢板を連結して鋼矢板壁としたときの、壁幅1mあたりの断面二次モーメントとウェブ角度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すZ形鋼矢板について、本発明の一実施の形態に係るZ形鋼矢板の断面形状設定方法を説明する。
Z形鋼矢板の断面形状を規定するパラメーターとしては、有効幅(B)、高さ(H)、ウェブ角度(θ)、フランジ幅(Bf)、フランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)がある。
これらを決めれば、単位壁面積あたりの重量(W)および壁幅1mあたりの断面二次モーメント(I)が、下式により一義的に決まる。
I=I0+ΣA×y2
W=γ×A
(I0:断面二次モーメント、A:断面積、y:図心軸からの距離、γ:単位体積重量)
【0022】
通常、鋼矢板の断面二次モーメント(I)は、鋼矢板断面のCADデータを用いて、継手部を含めた厳密解を上式にて算出している。
しかし、本実施形態のような断面形状の検討、パラメトリックスタディーに当たっては、毎回CADデータを作成してからIを算出するのは非常に煩雑である。
そこで、鋼矢板壁の断面二次モーメント(I)の算定において、次のような方法を考えた。なお、この方法は、Z形のみならずハット型についても応用できる。
【0023】
図1に示すように、Z形鋼矢板断面を、上下フランジとウェブの3つの部分に分割し、概算ではあるが、Iを簡便に算出できる方法を用いた。ただし、この方法は継手部を考慮していないため、その分Iの値が小さく算出される。試算によると、厳密解の約80〜90%の値となるが、この点は、後述する形状を規定する直線をフィッティングによって求める際に考慮されるので問題ない。
【0024】
上述のとおり、一般に断面二次モーメント(I)は、下記の式で表される。
I=I0+ΣA×y2
ここで、図1のようにZ形鋼矢板を3つの長方形((i)(ii)(iii))に分割し、それぞれのIを導式すると、以下のようになる。
【数1】

【0025】
これより、Z形鋼矢板1枚あたりのI’は、下式となる。
I’=Bf×tf/2×(tf2/3+h2)+tw×h3/12×1/sinθ
したがって、壁幅1mあたりの断面二次モーメント(I)は、下式(1)となる。
I={Bf×tf/2×(tf2/3+h2)+tw×h3/12×1/sinθ}×1000/B ・・・・(1)
この(1)式によれば、Z形鋼矢板の断面形状を規定するパラメーターである、有効幅(B)、高さ(H=h+tf)、ウェブ角度(θ)、フランジ幅(Bf)、フランジ板厚(tf)およびウェブ板厚(tw)から、容易に断面二次モーメント(I)が算出できる。
【0026】
また同様に、単位壁面積あたりの重量(W)も、(2)式により算定できる。
W=(2×Bf×tf+h×tw/sinθ)×γ×1000/B ・・・(2)
なお、フランジ幅(Bf)は、下式で表される。
Bf=B/2−h/(2×tanθ)
【0027】
(1)式および(2)式を用いて、IおよびWを試算した例を図2に示す。図2においては、縦軸が壁幅1mあたりの断面二次モーメントI(cm4/m)、横軸が単位壁面積あたりの重量W(kg/m2)を示している。
この例では、B=700mm、tf=16mm、tw=8.5mmで一定として、高さ(H)、ウェブ角度(θ)を変化させたものである。
図2に示されるように、高さ(H)およびウェブ角度(θ)の増加に伴い、断面二次モーメント(I)が増加することが分かる。特に、高さ(H)はIの増加に大きく寄与するため、製造可能かつ施工性が許す限りHを大きくすることが経済性を高めるには効果的である。
【0028】
また、(1)式および(2)式を用いて、IおよびWを試算した例であって、B=700mm、H=600mmで一定とし、フランジ板厚(tf)とウェブ板厚(tw)を変化させたものを図3に示す。
図3では、twを、8.5mm、9mm、10mm、12mm、14mmと変化させ、tfを、tf≧twの条件の下に、8.5mm、9mm、10mm、12mm、14mm、16mm、19mm、22mmと変化させており、図3のグラフ中、各twから延びる右上りの曲線の束における各曲線が当該twのときに取りうるtfを示している。
図3では、Iに対するフランジ板厚(tf)とウェブ板厚(tw)の影響を読み取ることができる。つまり、B=700mm、H=600mmで一定としているが、断面二次モーメントの式における図心軸からの距離yの2乗の項により、図心軸から遠いフランジ板厚(tf)の増加による効果が大きい。
例えば、tw=8.5mmでθ=90°について着目すると、tf=8.5mmの場合には、I=95000(cm4/m)であるが、tf=16mmでは、155000(cm4/m)になっている。他方、図3から明らかなようにtwを変化させてもIは大きくは変化していない。
したがって、Iの増加には、tfを大きくし、twを小さくすることが効果的である。
なお、図2および図3において、ウェブ角度(θ)は40〜90°の範囲で5°ピッチで変化させている。
【0029】
ここで、特筆すべきは、図2および図3の縦軸のあるI(例えば、I=100,000cm4/m)で横軸を見ると、複数の線と交わることから、高さ(H)、ウェブ角度(θ)、フランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)によって、同じ断面二次モーメント(I)を発現可能な、様々なZ形鋼矢板の仕様が存在することが分かる。
そこで、Z形鋼矢板の製品構成として、
I=20,000、40,000、60,000、80,000、100,000、120,000、140,000、160,000、180,000の9タイプを想定し、下記の表1に示すパラメーターにより、これらの各Iを発現可能な仕様を導き出した。なお、ここでは簡略化のために、有効幅(B)を700で一定と置いたが、もちろん製造可能な範囲で有効幅(B)もパラメーターとした検討を行うこともできる。
【0030】
【表1】

【0031】
導き出した多数のZ形鋼矢板の仕様について、先に述べたとおり、経済性および施工性の両者を最適化したZ形鋼矢板の断面形状を設定するべく、以下のように検討を行った。
図4は、I=100,000(cm4/m)のZ形鋼矢板を例に、経済性指標(W/I)とウェブ角度(θ)との関係を、高さ(H=600、550、500、450)毎に示したグラフであり、縦軸が経済性指標(W/I)を横軸がウェブ角度(θ)を示している。
図4に示すグラフは、表1の各フランジ板厚(tf)毎に、ウェブ角度(θ)を次第に大きくしつつウェブ板厚(tw)を薄くし、I=100,000(cm4/m)を確保しつつ重量を低減していった。そして、I=100,000(cm4/m)が満足できなくなったら、次のtfにランクダウンすると共にtwをランクアップすることを繰り返した。そのため、図4のグラフでは、のこぎり状に右下がりのグラフとなっている。
図4のグラフによれば、各tfごとの直線を見ると、ウェブ角度(θ)が増加するとともに、経済性指標(W/I)は減少する傾向にあり、経済性は向上していくことが分かる。
このように、ウェブ角度(θ)と経済性指標(W/I)は密接な関連性が認められる。
【0032】
一方、施工性指標(貫入抵抗(R))を、下式の(3)式で定義する。この式は、鋼矢板模型の室内打設実験より得られた貫入抵抗を表す式の一例であり、先に示した特許文献3でも同様の式が示されている。
R=tanθ×H×1/Bf ・・・(3)
この式の意味するところは、
・ウェブ角度(θ)が大きくなると、ウェブが立ち上がり、鋼矢板の溝内に土圧が集中して鋼矢板が変形しやすくなり貫入性が低下する
・高さ(H)が大きくなると、地盤抵抗が大きくなり貫入性が低下する
・フランジ幅(Bf)が大きくなると、上記の溝内の土圧を開放しやすくなるため、貫入性は向上するといった現象を反映している。
実際には、さらにフランジ板厚(tf)およびウェブ板厚(tw)のパラメーターも考えられるが、先の打設実験からは板厚による影響は明確に現れておらず、本実施形態では上記の(3)式を仮定したものである。
【0033】
貫入抵抗(R)を規定するパラメーターとして、(3)式に示されるように、ウェブ角度(θ)、高さ(H)およびフランジ幅(Bf)がある。
図5は、図4の場合と同じようにI=100,000(cm4/m)のZ形鋼矢板を例に、施工性指標(貫入抵抗(R))とウェブ角度θ(°)の関係を、各高さ(H=600、550、500、450)毎に示したものである。なおこの図から、貫入抵抗(R)が最小となるウェブ角度θ(°)があることが分かる。
【0034】
上述のように、経済性指標(W/I)および施工性指標(R)共にウェブ角度θ(°)に密接に関連していることから、これら2つの指標を組み合わせて一つの指標にすることができ、またそうすることによって一つの指標で経済性と施工性の両方を評価することができる。
経済性指標(W/I)および施工性指標(R)を組み合わせる方法として、両指標を掛け合わせる方法を採用した。
(経済性指標)×(施工性指標)=α×(W/I)×β×(R)
とする。
ここで、αおよびβはそれぞれ経済性および施工性指標の重み係数である。なお、ここでは、両指標を掛け合わせる方法を採用し、α=β=1としている。
経済性指標(W/I)と施工性指標(R)はいずれも各値が小さくなる方がそれぞれ経済性に優れ、施工性に優れるというものであるから、これらを乗算したものにおいても、乗算値が小さくなることで、経済性及び施工性の両方に優れると評価することができる。
図6は、I=100,000(cm4/m)の場合について、経済性指標(W/I)および施工性指標(R)を掛け合わせた(W/I)×Rとウェブ角度θ(°)の関係を、各高さ(H=600、550、500、450)毎に示したものである。
【0035】
前記のとおり、図6のグラフにおいて、縦軸の値が小さいほど経済性・施工性に優れることになるが、その上限値(閾値)をどのように設定するかが問題となる。そこで、この点について検討したところ、先に述べた鋼矢板模型実験などにより同様に調査すると(W/I)×Rの値は0.004〜0.006程度であったため、ここでは上限値(閾値)が0.006程度以下となるウェブ角度θ(°)を、経済性および施工性をともに確保できる仕様として定義した。
ちなみに、既往のハット型鋼矢板では、両指標を掛け合わせた値は10Hで0.0081、25Hで0.0097程度となり、必ずしも経済性と施工性をともに最適化した鋼矢板断面形状とはなっていないことが分かる。
【0036】
上記定義に基づいて、図6において、縦軸を0.006以下とした場合の横軸の範囲を求めることによって、ウェブ角度θ(°)の範囲を求めたところ、I=100,000(cm4/m)では、経済性と施工性(貫入性)をともに最適化するためには、ウェブ角度θ(°)は52〜76°程度とするのが望ましいことが判明した(図6参照)。
このような検討方法を、目標とするIのレベルを変えて行うことにより、経済性および施工性をバランスさせ、かつ要求されるそれぞれのIを満足できる最適な断面形状を規定することが可能となる。
同様の検討を行って、上記と同様の手順によって、各Iについてウェブ角度(θ)の好適範囲を求めたものを、以下の表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果について、縦軸をウェブ角度θ(°)とし、横軸をI(cm4/m)としたグラフを図7に示す。
図7においては、表2に示した上下限値をプロットし、直線でフィッティングしたものである。
なお、先に述べたように、ここで用いた断面二次モーメントIの簡便算定方法は、厳密解の約80〜90%になっており、そのため図6に示した(W/I)×Rは厳密解よりも大きくなっている。そして、図6のグラフが下に凸のグラフであることを考慮すると、簡便算定方法を採用したことにより厳密解の場合よりも最適範囲を狭く判定したことになっている。したがって、図7に示したように、簡便算定方法によるプロットを直線でフィッティングしたときに多少のずれが生ずるとしても、厳密解により近くなるだけであり、問題はない。
【0039】
図7に示す直線を定式化すると、以下のようになる。
2.65×10−4×I+22≦θ≦80 (30,000≦I<180,000)
70≦θ≦80 (180,000≦I<200,000) ・・・(4)
【0040】
上述のとおり、(4)式は経済性および施工性をともに考慮して設定したものであり、(4)式の範囲を満たすように断面形状設定されたZ形鋼矢板は、経済性及び施工性の両方を満たすものである。
逆に言えば、経済性及び施工性の両方を満たすためには、(4)式を満たすようにZ形鋼矢板の断面形状設定をすればよい。以下においては、(4)式を用いた具体的な断面形状設定方法を図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0041】
まず、要求される断面二次モーメントIを設定する(S1)。次に、圧延制約条件に基づいて高さH、幅Bを設定する(S3)。圧延制約条件としては、例えば現行の鋼矢板製造ライン上の圧延機の圧延限界サイズは、幅1000mm程度、高さ400mm程度であり、これが制約条件となり、この範囲内でZ形鋼矢板の高さHおよび幅Bを設定する必要がある。
なお、ここでは板厚(tf、tw)までは考慮していない。
【0042】
次に、(4)式によって定まるθの範囲内からθの値を選択する(S5)。このとき、選択するθの値は、(4)式の範囲の任意の値でもよいが、(W/I)×Rが最小となるθの値が好ましい。(W/I)×Rが最小となるθは、図6のグラフが下に凸の曲線であることに鑑みて、(4)式の範囲の中間の値を選択することで、(W/I)×Rが最小となるθに近い値を選択できる。
θの値を選択して設定すると、設定されたθ、断面二次モーメントI、幅B、高さHの値を用いて、下式によって、フランジ幅(Bf)、フランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)を求める。
I={Bf×tf/2×(tf2/3+h2)+tw×h3/12×1/sinθ}×1000/B ・・・・(1)
H=h+tf
W=(2×Bf×tf+h×tw/sinθ)×γ×1000/B ・・・(2)
Bf=B/2−h/(2×tanθ)
R=tanθ×H×1/Bf ・・・(3)
【0043】
なお、上記の式によってその都度計算する代わりに、高さH、幅B、ウェブ角度θ等の組合せごとに上記の式に基づいて予めフランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)を設定した形状設定リストを作成しておき、これに基づいて断面形状設定を行うようにしてもよい。
なお、各パラメータである、高さ(H)、フランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)の範囲としては以下の範囲とする(表1参照)。
250mm≦H≦600mm
8.5mm≦tf≦22.0mm
8.5mm≦tw≦14.0mm
tw≦tf
【0044】
上記によって求まった、高さH、幅B、ウェブ角度θ、フランジ幅Bf、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twによってZ形鋼矢板の断面形状を設定する(S9)。設定した形状について、製造上、あるいは施工上の問題がないかどうかを検討する(S11)。検討の結果、問題がなければ処理を終了する。他方、S11の検討において問題がある場合には、例えばフランジ板厚tfがウェブ板厚twよりも極端に大きく両者のバランスが悪く、製造時にそりなどの変形が生じたり、施工時に座屈したりする可能性があるような場合には、再びS5に戻ってウェブ角度θの値を選択して、同様の処理を行う。
【0045】
もっとも、Z形鋼矢板を打設する地盤の条件(N値などを指標とした硬さ)によっては、その中でもより施工性を重視したり、逆に経済性を重視したりする場合も考えられる。すなわち、地盤が硬質な場合には、打設可能性を最大限にするために貫入抵抗(R)を小さくし、多少の重量(W)の増加はやむを得ないとする判断もあり得る。一方、地盤が軟弱なケースでは、貫入抵抗(R)が多少大きくなっても重量(W)を低減する方がメリットがあると判断されることもある。
そこで、以下においては、施工性をより重視した場合の最適な断面形状設定方法と、経済性をより重視した場合の最適な断面形状設定方法について説明する。
【0046】
<施工性重視>
上記(4)式で規定される範囲内において、施工性をより重視するということは、施工性を定義した(3)式(R=tanθ×H×1/Bf)を参照すれば理解されるように、θの値を小さくすることである。一方、施工性・経済性とウェブ角度θとの関係を示した図6を参照すると、θの値を小さくすることは、すなわち閾値を下げることと等価であることが分かる。そこで、施工性を重視した断面形状設定方法として、(W/I)×Rの閾値を0.004以下として、上記と同様の検討を行った結果、下記の(5)式として定義した。
(W/I)×R≦0.004であり、かつ
2.65×10−4×I+22≦θ≦2.80×10−4×I+48 (30,000≦I<80,000) ・・・(5)
2.65×10−4×I+22≦θ≦70 (80,000≦I<180,000)
【0047】
(5)式をグラフ化して示したものが図9である。
なお、施工性を重視した上記(5)式を用いた具体的な断面形状設定方法としては、上述した(4)式を用いた断面形状設定方法と同様に行うようにすればよい。
【0048】
<経済性重視>
経済性をより重視するということは、経済性指標(W/I)を小さくすることである。そこで、図4を参照すると理解されるように、経済性指標(W/I)を小さくするには、ウェブ角度(θ)を大きくすればよい。一方、施工性・経済性とウェブ角度θとの関係を示した図6を参照すると、θの値を大きくすることは、すなわち閾値を上げることと等価であることが分かる。そこで、経済性を重視した断面形状設定方法として、(W/I)×Rの閾値を0.004超0.006以下として、上記と同様の検討を行った結果、下記の(6)式として定義した。
0.004<(W/I)×R≦0.006であり、かつ
2.80×10−4×I+48<θ≦80 (30,000≦I<80,000)
70<θ≦80 (80,000≦I<200,000) ・・・(6)
【0049】
(6)式をグラフ化したものが図10である。
なお、経済性を重視した上記(6)式を用いた具体的な断面形状設定方法としては、上述した(4)式を用いた断面形状設定方法と同様に行うようにすればよい。
【0050】
以上のように、Z形鋼矢板の断面形状設定方法(特にウェブ角度(θ))において、基本的に経済性および施工性を両立させる((4)式)とともに、より施工性を重視((5)式)するか、経済性を重視((6)式)するかによって、θの領域を使い分けることができる。
そして、(4)式の範囲を満たすように断面形状設定されたZ形鋼矢板は、経済性及び施工性の両方を満たすものであり、(5)式の範囲を満たすように断面形状設定されたZ形鋼矢板は経済性及び施工性の両方を満たしつつ、さらにより施工性に優れたものであり、(6)式の範囲を満たすように断面形状設定されたZ形鋼矢板は、経済性及び施工性の両方を満たしつつ、さらにより経済性に優れたものである。
【実施例1】
【0051】
本発明の実施例として、本発明の断面形状設定方法を用いて具体的な断面形状の設定例を、図11に基づいて説明する。
まず、所望の断面二次モーメントIとして、I=100,000cm4/mを設定する(S1)。
次に、圧延制約条件に基づいて高さH=550mm、幅B=700mmを設定する(S3)。
次に、(4)式によって定まるθの範囲、すなわち48.5°≦θ≦80°の範囲でθの値を選択して設定する(S5)。この例では、θ=58°に設定している。
θの値を選択して設定すると、設定されたθ=58°、断面二次モーメントI=100,000cm4/m、幅B=700mm、高さH=550mmの値を用いて、下式によって、フランジ幅(Bf)、フランジ板厚(tf)、ウェブ板厚(tw)を求める。
I={Bf×tf/2×(tf2/3+h2)+tw×h3/12×1/sinθ}×1000/B ・・・・(1)
H=h+tf
W=(2×Bf×tf+h×tw/sinθ)×γ×1000/B ・・・(2)
Bf=B/2−h/(2×tanθ)
R=tanθ×H×1/Bf ・・・(3)
【0052】
Bf=185mm、tf=22mm、tw=9mmとして求まる。求まった値は、全て下記の範囲内である。
250mm≦H≦600mm
8.5mm≦tf≦22.0mm
8.5mm≦tw≦14.0mm
tw≦tf
【0053】
上記によって求まった、高さH、幅B、ウェブ角度θ、フランジ幅Bf、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twによってZ形鋼矢板の断面形状を設定する(S9)。設定した形状について、製造上、あるいは施工上の問題がないかどうかを検討する(S11)。検討の結果、ウェブ板厚twが薄く製造時にそりなどの変形が生じたり、施工時に座屈したりする可能性があると判断されるので、ウェブ板厚twを厚くするために、ウェブ角度θの値を58°から57°に変更して、(S7)の処理を行う。その結果、Bf=179mm、tf=22mm、tw=10mmとして求まる。再計算によって求まった、高さH、幅B、ウェブ角度θ、フランジ幅Bf、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twによってZ形鋼矢板の断面形状を設定する(S9)。設定した形状について、製造上、あるいは施工上の問題がないかどうかを検討する(S11)。検討の結果、とくに問題がないと判断されるので、処理を終了する。
【0054】
なお、上記の説明では、経済性指標と施工性指標を乗算することとしたが、両指標を足し合わせて指標として用いることも可能である。
その場合、足し合わせに当たっては、両指標の重みを考慮するため、
(経済性指標)+(施工性指標)=α×(W/I)+β×(R)
とするようにしてもよい。
【0055】
また、製造コストと壁重量あたりの断面性能(I/W)、および施工コストと貫入抵抗の逆数(1/R)はそれぞれ相反する関係であるため、I/Wと1/Rを経済性、施工性の指標とすることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするZ形鋼矢板の断面形状設定方法。
2.65×10−4×I+22≦θ≦80 (30,000≦I<180,000)
70≦θ≦80 (180,000≦I<200,000)
【請求項2】
ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするZ形鋼矢板の断面形状設定方法。
2.65×10−4×I+22≦θ≦2.80×10−4×I+48 (30,000≦I<80,000)
2.65×10−4×I+22≦θ≦70 (80,000≦I<180,000)
【請求項3】
ウェブと、その両端に形成されたフランジと、該フランジの端部に継手を備えてなるZ形鋼矢板の断面形状設定方法であって、
所望の断面二次モーメントI(cm4/m)、高さH(mm)および幅B(mm)を設定し、フランジ板厚tf、ウェブ板厚twを、ウェブ角度θが下式を満たす範囲で調整して断面形状を設定することを特徴とするZ形鋼矢板の断面形状設定方法。
2.80×10−4×I+48<θ≦80 (30,000≦I<80,000)
70<θ≦80 (80,000≦I<200,000)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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