説明

コンタクトレンズ用液剤及びコンタクトレンズの処理方法

【課題】コンタクトレンズに吸着すると眼の傷害の原因となりうるような抗菌剤や薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制すると共に、高い洗浄力と良好な使用感を得ることにより、安全で快適なコンタクトレンズ用液剤及びコンタクトレンズの処理方法を提供することにある。
【解決手段】(a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と、(b)セルロース系高分子、ビニル系高分子、マクロゴール、ペプチド系高分子、無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤とを含有させ、泡状態として密閉せしめると、起泡安定性が向上し、これにコンタクトレンズを保存することにより、抗菌剤や薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着が抑制されると共に、高い洗浄力が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡状態で使用するためのコンタクトレンズ用液剤であって、起泡安定性に優れ、コンタクトレンズ用液剤中に含まれる抗菌剤などの薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制し、高い洗浄力と良好な使用感を有するコンタクトレンズ用液剤及び、それを用いてコンタクトレンズの保存、殺菌、洗浄などのケアを泡を利用して行うコンタクトレンズの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズはソフトコンタクトレンズ及びハード系コンタクトレンズに大別される。ソフトコンタクトレンズは、異物感が少なく、装用感が優れている反面、コンタクトレンズに水分を多量に含むため、装用に伴う涙液成分による汚れが原因で細菌などが繁殖する可能性があり、毎日の洗浄及び消毒が必須である。最近はソフトコンタクトレンズの中でも、より酸素透過性が高いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズも好んで使用されるようになってきたが、シリコーンハイドロゲルレンズは疎水性の高いシリコーンを含むことから脂質などの汚れや疎水基を有する成分が吸着しやすいといった欠点を有しており、しかも含水性レンズであることには変わりはなく、シリコーンハイドロゲルレンズにおいても、洗浄、保存、消毒は必須であり、ケアにはより高い洗浄力と安全性が求められているのである。また、ハード系コンタクトレンズは酸素透過性が高くコンタクトレンズ内部に汚れが侵入する可能性は低いが、コンタクトレンズ表面に疎水性の薬剤成分が吸着し、規格に悪影響を与えたり、使用によって汚れが付着することに変わりはなく、快適に装用を継続するためには、使用後の洗浄やはずしたコンタクトレンズの保存は必須なのである。
【0003】
コンタクトレンズの手入れ方法としては、界面活性剤を含有する液剤を用いて、手指で擦り洗浄したり、液剤に浸漬することによって洗浄、保存乃至は消毒を行う方法が一般的である。しかしながら、最近ではコンタクトレンズの使用者が、擦り洗浄を怠るなど、定められた取り扱い方法に従わずに眼障害を引き起こすケースが増えている。特に浸漬する前又は後に行われる擦り洗浄はコンタクトレンズに付着した汚れや微生物などの異物を物理的に除去するため、重要性がいっそう叫ばれているのである。
【0004】
ケア用品としては、従来、目的に応じた洗浄剤や保存剤を用いて処理をすることが行われてきたが、近年ではソフトコンタクトレンズの場合は、洗浄、保存、消毒を一液で行える多目的タイプの液剤が主流となってきている。この液剤にはコンタクトレンズから汚れを除去するための界面活性剤や、消毒効果又は防腐効果を持たせるための抗菌剤が配合されており、コンタクトレンズを保存、消毒した後には、別の液で濯ぐことなくそのまま装用されるか、浸漬後に同じ液剤で擦り洗浄及びすすぎを行って装用するといった、使い方がなされている。これは、ソフトコンタクトレンズは、無菌性の保証の他に浸透圧やpHの影響を受けやすく、直径やベースカーブなどのパラメータに影響を及ぼしたり、装用時に刺激やコンタクトレンズが吸着したりして安全性に問題が起こり得るためである。従って、特にソフトコンタクトレンズの液剤の場合には、浸透圧やpHを生理的に許容される範囲に設定し、抗菌剤などの成分が吸着しないよう工夫して製剤設計をする必要があるのである。
【0005】
ハード系コンタクトレンズの場合も、保存中にコンタクトレンズへ付着した細菌などの繁殖を防ぐ必要があり、このため抗菌剤は必要とされている。しかしながら、ソフトコンタクトレンズの場合と異なり、保存後に水道水などですすぎ流すことが可能である。一方ではハード系コンタクトレンズの方が、疎水性の高い薬剤成分や脂質などの汚れが付着しやすいという特性がある。
【0006】
脂質汚れを除去するための界面活性剤としては陰イオン性界面活性剤と非イオン系界面活性剤などがあり、陰イオン性界面活性剤は洗浄力が高い反面、眼に直接入ると刺激性が比較的強いため、ハード系コンタクトレンズに用いられることが多い。一方、非イオン系界面活性剤は、洗浄力が比較的低い反面、刺激性が比較的弱いため、ソフトコンタクトレンズやハード系コンタクトレンズにも用いられているのである。
【0007】
さらに最近は通常の洗浄や消毒目的以外に、アレルギーや炎症を抑えるために、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤や消炎収斂剤を配合したり、充血や眼精疲労の回復によいとされる血管収縮剤やビタミン類などを配合する試みも多数提案されている。例えば、特許文献1には消炎剤、調節機能改善剤、充血除去剤、抗アレルギー剤、角膜保護剤、及び清涼化剤から選ばれた成分と非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とするコンタクトコンタクトレンズ用洗浄・保存液剤が開示されている。しかしこれらの薬剤成分の多くはコンタクトレンズに吸着し眼の中で放出されて安全性に問題を生じる可能性があった。
【0008】
このため、薬剤のコンタクトレンズへの吸着を抑制するための成分の組み合わせが種々工夫され提案されている。特許文献2には、塩基性薬物の吸着抑制のためにアミノ酸、酸性ムコ多糖及びその塩、ならびにシクロデキストリンから選ばれる成分とを含有し、pH3.5〜4.8であるソフトコンタクトコンタクトレンズ用組成物が提案されている。特許文献3には、抗アレルギー剤であるケトチフェン又はその塩と共に多価アルコール及びメントール類を配合することにより、ケトチフェン又はその塩のコンタクトレンズへの吸着抑制方法が提案されている。特許文献4には、カチオン性ポリサッカライドによりカチオン性抗菌剤のコンタクトレンズへの吸着を抑制する方法及び溶液が開示されている。特許文献5には、コンタクトレンズを浸漬した状態下において、60℃以上の温度に加熱されて用いられるコンタクトレンズ用液剤であった、カチオン基を有するポリマー及び/又はポリビニルアルコールを殺菌剤付着防止剤として含有するコンタクトレンズ用液剤が開示されている。しかし、これらは、いずれも特定の成分を限定的に組み合わせて用いられるものであって、溶液状態でコンタクトレンズを浸漬等して用いられるものである。
【0009】
一方、手指による擦り洗浄方法は、物理的に汚れを除去する効果が高いため、一般に良く行われる洗浄方法であるが、コンタクトレンズの表面と手指が直接接触するため、コンタクトレンズに傷がつきやすく、洗浄感も得られにくいという欠点があった。そこで、洗浄成分をムース状に発泡して使用する組成物が提案されている(特許文献6)。この組成物によれば、コンタクトレンズにムース状の洗浄組成物が塗布される結果、手指とコンタクトレンズの間に泡のクッションが形成され、コンタクトレンズ表面の傷発生を抑えることが出来る。しかし、ムース状にするために、高濃度の界面活性剤とエタノールやイソプロピルアルコールという有機溶媒を用いるため安全性やコンタクトレンズへのダメージが懸念されるのである。
【0010】
また、特許文献7には、界面活性剤及び/または粘稠剤を含む液剤を発泡状態で噴射してコンタクトレンズを一定時間洗浄した後、泡が消失することによって、使用者が洗浄完了を認識できる洗浄方法が提案されている。この方法では、泡の消失までの時間は5〜50秒の範囲とされ、粘稠剤には水溶性セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アラビアゴム、コンドロイチン硫酸などが開示されている。しかし、これらの提案においても発泡させた状態で泡内にコンタクトレンズを保存する方法は示唆すらされていないのである。
【0011】
起泡力を利用して、浸漬中に泡を発生させる洗浄方法としては、特許文献8や特許文献9がある。前者では重炭酸ナトリウム、酵素、及び界面活性剤を用いたコンタクトレンズ洗浄方法が、後者では過炭酸塩及び界面活性剤を同時に用いた洗浄方法が開示されている。これらによれば、重炭酸又は過炭酸塩が水と反応したときに発生する炭酸ガスや酸素ガスの泡による物理的な作用と界面活性剤の化学的な洗浄作用を利用して洗浄しようとするものであるが、錠剤や粉末などの固体の重炭酸塩又は過炭酸塩を含む洗浄剤を、使用の度に水に投入して溶解させる必要があり、操作が煩雑であるといった欠点を有するのである。また、前記方法においてもコンタクトレンズは溶液中に浸漬された状態であって、泡の中にコンタクトレンズを保存するといった発想は全くなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−347142号公報
【特許文献2】再表2007−077783号公報
【特許文献3】特開2005−104970号公報
【特許文献4】特表2004−515813号公報
【特許文献5】特開平2009−175543号公報
【特許文献6】特開平4−110825号公報
【特許文献7】特開2006−154092号公報
【特許文献8】特開昭57−48712号公報
【特許文献9】特開平1−179123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、発泡錠などを必要とせず、泡状態で使用するためのコンタクトレンズ用液剤であって、起泡安定性に優れ、コンタクトレンズ用液剤中に含まれる抗菌剤などの薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制し、同時に高い洗浄力と良好な使用感を有するコンタクトレンズ用液剤を提供することを目的とする。また、それを用いたコンタクトレンズの保存、殺菌、洗浄などのコンタクトレンズのケアに係わる新しい処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、(a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と、(b)セルロース系高分子、ビニル系高分子、マクロゴール、ペプチド系高分子、無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤とを含有させると発泡状態が相乗的に向上し、容積が溶液状態の4倍以上となる泡状態として密閉せしめると、泡の安定性が格段に向上し溶液状態で保存した場合に比べて洗浄効果も格段に向上するという、驚くべき知見を得た。また、前記成分を発泡させた状態で擦り洗浄を行うと、きわめて良好な使用感が得られるという驚きべき効果を見出した。更に、前記の成分を含むコンタクトレンズ用液剤を発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを保存することによって、コンタクトレンズに吸着しやすい抗菌剤などの種々の薬剤成分の吸着が抑制されるという全く意外な知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいて完成に至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は下記に掲げるコンタクトレンズ用液剤である;
項1. (a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と、(b)高分子多糖類、セルロース系高分子、ビニル系高分子、マクロゴール、ペプチド系高分子からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤とを含有し、容積が溶液状態の4倍以上となる泡状態として密閉せしめた時、25℃における2時間放置後の泡の量が、発泡直後の50%以上であることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤。
項2−1.陰イオン性界面活性剤が、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硬化ヤシ油グリセリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルタウリン塩、ラウリルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジオクチル塩から選択される項1に記載のコンタクトレンズ用液剤。
項2−2.非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、脂肪酸アルカノールアミドから選択される、項1記載のコンタクトレンズ用液剤。
項3. 起泡安定化剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、デキストリン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キサンタンガム、カチオン化デキストリン、ペクチン酸、アルギン酸、カラギーナン、ガラクタン、フラクタン、ムコ多糖及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる高分子多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カチオン化ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれるビニル系高分子、及び平均分子量が約400〜約20000のマクロゴール、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンからなる群より選ばれるペプチド系高分子、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、及び前記各共重合体の開環生成物またはその塩から選ばれる無水マレイン酸共重合体、からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤である項1乃至2記載のコンタクトレンズ溶液剤。
項4. さらに抗菌剤、消炎収斂剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、血管収縮剤、清涼化剤、香料、ビタミン類より選ばれた少なくとも一種の薬剤成分を含む、項1乃至3記載のコンタクトレンズ用液剤。
【0016】
更に、本発明は、下記に掲げるコンタクトレンズの処理方法である;
項5. 項1乃至4記載のコンタクトレンズ用液剤を、発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して、洗浄、保存及び/または消毒することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
項6. 項5記載のコンタクトレンズの処理方法において、泡内にコンタクトレンズを静置して、保存及び/または消毒する前、及び/または後に、発泡状態でコンタクトレンズを擦り洗浄することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
項7. 項1乃至4記載のコンタクトレンズ用液剤中にコンタクトレンズを溶液状態で浸漬して保存及び/または消毒する前、及び/または後に、発泡状態でコンタクトレンズを擦り洗浄することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
項8. 項4記載のコンタクトレンズ用液剤を、発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して保存することにより、前記薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコンタクトレンズ用液剤は、一種の界面活性剤と起泡安定化剤とを含有するコンタクトレンズ用液剤を十分に発泡させた状態で実質的に密閉せしめると、泡の安定性が格段に向上し、その泡の中でコンタクトレンズを保存すると、溶液中に保存した場合に比較して洗浄効果が格段に向上する。このため、コンタクトレンズへの汚れの蓄積をいっそう防止することが出来る。また、発泡させた状態で擦り洗浄をすることによって、良好な洗浄感が得られるため、使用者に擦り洗浄の遵守を促し、間違った使用方法による眼障害を減少せしめるのである。また、泡の中にコンタクトレンズを保存することによりコンタクトレンズ用液剤の使用量を少量に出来るため、使用者への経済的負担を軽減し、あるいはボトルを小容量化することができるため、携帯にも便利となり得るのである。
【0018】
さらに、コンタクトレンズ用液剤に含まれる、抗菌剤などのコンタクトレンズへ吸着する薬剤成分の吸着を抑制することにより、眼に装用したときの安全性を一層高めることが出来るのである。更に、物理的な状態によって薬剤成分の吸着抑制を達成し得たため、薬剤の種類ごとに処方される吸着抑制成分との組み合わせが限定的でなくなり、従来より配合が困難であった種々の薬効成分を同時に配合することも可能となったのである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記のとおり、本発明に用いられるコンタクトレンズ用液剤は、(a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と、(b)高分子多糖類、ビニル系高分子、マクロゴール、ペプチド系高分子、無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤とを含有し、容積が溶液状態の4倍以上となる泡状態として密閉せしめた時、25℃における2時間放置後の泡の量が、発泡直後の50%以上であることを特徴とする。さらに、抗菌剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、消炎収斂剤、清涼化剤、香料、ビタミン類より選ばれた少なくとも一種の薬剤成分を含有することをも特徴とする。
【0020】
本発明に用いられるコンタクトレンズ用液剤は、ハード系コンタクトレンズや、シリコーンハイドロゲルレンズを含むソフトコンタクトレンズなど、あらゆるコンタクトレンズに用いることが出来る。本発明に用いられる、アニオン性界面活性剤は脂質汚れに対して非常に優れた洗浄力を示すが、眼に直接入ると刺激性が比較的強いため、本発明においてはハード系コンタクトレンズに用いられることが好ましい。一方、非イオン性界面活性剤は洗浄力が比較的低い反面、刺激性が比較的弱いため、ソフトコンタクトレンズにもハード系コンタクトレンズにも用いることが出来る。本発明に用いる起泡安定化剤は、気泡安定性を高め、泡をきめ細かくして、発泡状態での擦り洗浄の洗浄感を高めるために用いられ、ソフトコンタクトレンズにもハード系コンタクトレンズにも用いることが出来る。
【0021】
本発明の(a)成分に用いられる陰イオン性界面活性剤は、眼に対する安全性が高く、洗浄力及び起泡性が良好なもが用いられる。好ましくは、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硬化ヤシ油グリセリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルタウリン塩、ラウリルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジオクチル塩、等が挙げられる。これらは単独でも、また二種以上を組み合わせて用いることも出来る。これらの陰イオン性界面活性剤の中でも、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硬化ヤシ油グリセリル硫酸塩、等が好ましく用いられ、それぞれ具体的には、日光ケミカルズ(株)製「ニッコールOS−14」、ライオン(株)製「ライポン LS−250」、日光ケミカルズ(株)製「ニッコールSGC−80N」、などがある。
【0022】
また、用いられる陰イオン性界面活性剤の使用濃度は、0.005〜2.0w/v%の範囲が好ましく、0.05〜1.0w/v%がより好ましい。前記濃度が0.005w/v%より低いと、所望の洗浄効果を発揮しえず、また2.0w/v%より高いと、洗浄効果として充分な上にすすぎ残りなどによる界面活性剤に起因する眼刺激が生じやすくなる恐れがあるのである。
【0023】
本発明の(a)成分に用いられる非イオン性界面活性剤は、眼に対する安全性が高く、洗浄力や起泡性が良好なものが用いられる。好ましくは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、脂肪酸アルカノールアミド、等をあげることが出来る。これらは単独でも、また二種以上を組み合わせて用いることも出来る。これらの非イオン性界面活性剤の中でも、好ましくはポリオキシエチレン鎖構造を有しているものやポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを用いることが出来る。より具体的には、日光ケミカルズ(株)製「ニッコールBC−40TX」、「ニッコールHCO−60」、「ニッコールHCO−100」、BASF Co.社製「ルトロールF127」「ポロクサマー188」「ポロクサマー237」「ポロクサマー407」「テトロニック908」「テトロニック1304」「テトロニック1107」などがある。
【0024】
本発明における非イオン性界面活性剤はソフトコンタクトレンズ用液剤にも、ハード系コンタクトレンズ用液剤にも使用することが出来、その使用濃度は、0.0005〜2.0w/v%の範囲が好ましく、0.005〜1.0w/v%がより好ましい。前記濃度が0.0005w/v%より低いと、所望の起泡性や洗浄効果を発揮しえず、また2.0w/v%より高いと、洗浄効果として充分な上に必要以上の界面活性剤による眼刺激が生じる恐れがあるのである。
【0025】
本発明の(b)成分に用いられる起泡安定化剤は、界面活性剤による泡のきめを細かくして、使用感を向上させると共に、泡の安定性を向上させるために用いられ、眼に対する安全性が高く、水溶性のものが用いられ得る。好ましくは、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、デキストリン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キサンタンガム、カチオン化デキストリン、ペクチン酸、アルギン酸、カラギーナン、ガラクタン、フラクタン、ムコ多糖及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる高分子多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カチオン化ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれるビニル系高分子、及び平均分子量が約400〜約20000のマクロゴール、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンからなる群より選ばれるペプチド系高分子、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、及び前記各共重合体の開環生成物またはその塩から選ばれる無水マレイン酸共重合体、からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤等を挙げることが出来る。これらは単独でも、また二種以上を組み合わせて用いることも出来る。これらの起泡安定化剤の中でも、好ましくはヒプロメロース、ヒドキシプロピルセルロースやポリビニルアルコールなどを用いることが出来る。より具体的には、信越化学工業(株)製「メトローズ60SH−50」、「メトローズ60SH−4000」、「メトローズ65SH−40000」、日本曹達(株)製「NISSO HPC」、日本合成化学工業(株)製「ゴーセノールEG−40」「ゴーセノールEG−05」などがある。
【0026】
本発明で用いる起泡安定化剤はソフトコンタクトレンズ用液剤にも、ハード系コンタクトレンズ用液剤にも使用することが出来、その使用濃度は対象レンズの種類に係わらず、0.001〜2.0w/v%の範囲が好ましく、0.01〜1.0w/v%がより好ましく、0.05〜0.5w/v%が更に好ましい。前記濃度が0.001w/v%より低いと、所望の起泡安定性が得られず、また使用濃度が高すぎると、べたつきなどで使用感がかえって悪くなったり、粘度が高すぎて取り扱いがし難くなる問題が生じ得る。
【0027】
発泡性の洗浄剤は泡の安定性を増すために、しばしば高濃度の界面活性剤や増粘剤が用いられる。しかし本発明における界面活性剤や起泡安定化剤の使用濃度は、比較的低濃度に設定でき、液剤の粘度も比較的低く設定し得るのである。具体的には、粘度は25℃において1〜20mPa・sの範囲で設定される。好ましくは1.2〜10mPa・s、より好ましくは1.5〜6mPa・sに設定される。粘度が使用範囲より高くなると使用感が低下したり取り扱いがしにくくなるといった問題が生じる。
【0028】
ところで、本発明においては、前記の成分を含むコンタクトレンズ用液剤を、容積が溶液状態の4倍以上となる泡状態として密閉せしめた時、25℃における2時間放置後の泡の量が、発泡直後の50%以上であることを特徴としている。本発明者は、例えば泡の安定性試験(実施例5〜8、比較例4〜7)に示した様に、内径17mm×高さ55mm、容量10mLの円筒形のガラスバイアル(ねじ口瓶S−3;日電理化硝子(株)製)に0.8mLの本液剤を入れて、蓋をして上下に30秒間激しく振り、充分に発泡させた後、泡の高さを測定したところ、20mmであった(容積増加率約5.7倍)。これを一方(Aとする)は蓋を閉めて密閉状態とし、他方(Bとする)は蓋を開放した状態で、25℃において2時間放置した後に、泡の高さを測定したところ、Bは、泡の高さが5〜8mm(発泡直後の25〜40%)になっていたのに対し、Aの泡の高さは17〜19mm(発泡直後の85〜95%)であった。5時間後にはAは13〜18mm(発泡直後の65〜90%)、Bは2〜5mm(発泡直後の10〜25%)になっていた。
【0029】
すなわち、本発明において、(a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と、(b)一種の起泡安定化剤とを含有し、泡状態とすると、容積が溶液状態の4倍以上となり、これを密閉せしめて放置すると、起泡安定性が格段に向上することが明らかとなったのである。起泡安定性は、保存中に泡が消失してしまわないことが望ましく、具体的には発泡直後の泡の容積を100%とすると、25℃における2時間放置後の泡の容積が、発泡直後の50%以上であること、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上が必要である。これは前記のように例えば、内径17mm×高さ55mm、容量10mLの円筒形のガラスバイアルに本液剤を入れて、振とうさせたり、市販の泡噴出容器を用いて評価することが出来る。例えば、発泡直後の泡高さが20mmであった場合、25℃における2時間放置後の泡の容積が、それぞれ10mm、好ましくは14mm以上、より好ましくは17mm以上の泡の高さに相当する。
【0030】
また、溶液状態でコンタクトレンズを浸漬するためには1mL以上、通常4mL〜6mL程度の溶液が必要であるが、発泡させることにより、容積が4倍以上に増えるため、泡内に保存するための使用量を格段に減らすことが出来るのである。本発明では発泡させたときの容積は溶液状態の4倍以上であり、好ましくは5倍以上である。
【0031】
さらに、洗浄効果試験(実施例17〜18)に示した、本液剤を発砲させた泡の中に汚れたハードコンタクトレンズを浸漬し、蓋をして密閉せしめて放置した後、コンタクトレンズを取り出し、レンズの汚れを観察したところ、液中に浸漬した場合に比較して、著しく洗浄効果が高いことが明らかとなった。すなわち、本発明においては、密閉状態にすることによって起泡安定性が格段に向上し、洗浄効果も溶液に浸漬した場合に比べて高いことが明らかになったのである。
【0032】
本発明のコンタクトレンズ用液剤においては、さらに、抗菌剤、消炎収斂剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、血管収縮剤、清涼化剤、香料、ビタミン類より選ばれた少なくとも一種の薬剤成分を含有することをも特徴とする。本発明のコンタクトレンズ用液剤においては、通常マルチドーズの容器に充填して供給するため、開封後に容器内に細菌などの微生物が増殖しないようにするための防腐剤が必要である。また、コンタクトレンズを消毒するための消毒剤が液剤中に含まれることになる。これらコンタクトレンズ用液剤中に含まれる防腐剤や消毒剤といった抗菌剤は、コンタクトレンズの保存、消毒中にコンタクトレンズへ吸着して眼の中で放出されて、障害などを引き起こす可能性があり、抗菌剤がコンタクトレンズへできるだけ吸着しないようにすることが求められている。
【0033】
本発明で用いられる抗菌剤は、従来より使用されている抗菌剤をいずれも使用することが可能である。使用できる抗菌剤としては、カチオン系の抗菌剤としては、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、アレキシジン、及びこれらの塩からなるビグアニド系抗菌剤、ベンザルコニウム、ポリクオタニウム−1、ポリクオタニウム−6、ポリクオタニウム−7、ポリクオタニウム−10、ポリクオタニウム−16、ポリクオタニウム−22、及びこれらの塩からなる四級アンモニウム系抗菌剤が挙げられる。また、ソルビン酸、安息香酸、デヒドロ酢酸、及びこれらの塩からなる酸性抗菌剤、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、シクロペンタン1,2−ジオールまたは1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、メチルシクロヘキサン−1,2,4−トリオール、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトロール等の炭素数5〜6のポリオール、5,5−ジメチルヒダントイン・ホルムアルデヒド縮合物、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、ピロクトンオラミン、アルキルジアミノエチルグリシン、及びこれらの塩、等が挙げられ、いずれの抗菌剤も本発明に用いることが出来る。
【0034】
これらの抗菌剤の使用濃度は、使用目的と抗菌活性を考慮して、抗菌剤ごとに適宜決定されるが、例えばカチオン系抗菌剤の場合は0.00001〜0.5w/v%の範囲で、好ましくは0.0001〜0.01w/v%の範囲で用ることが出来る。酸性抗菌剤を用いる場合は0.01〜0.5w/v%の範囲で用いられる。炭素数5〜6のポリオールの場合は0.1〜5.0w/v%の範囲が好ましく、1.0〜4.0w/v%がより好ましい。
【0035】
また、本発明においては、下記に示す、薬剤成分を添加することが出来る。これらの成分は、コンタクトレンズに吸着しやすいが、本発明においてはレンズへの吸着を抑制する効果を有するためである。本発明においては、物理的な状態を変化させて吸着抑制を図っているため、薬剤成分は下記の具体例には限定されることはなく、本コンタクトレンズ用液剤に溶解することが出来るものであれば、いずれも使用することができるのである。
【0036】
ストレスやコンタクトレンズの装用等に起因する眼内の炎症を抑えるために用いられる消炎収斂剤としては、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸及びその塩、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、プラノプロフェンナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロモフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、アズレンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。更に抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤としては、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、トラニラスト、塩酸レボカバスチン、クロモグリク酸ナトリウム、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等が挙げられる。加えて、角膜中の強膜血管に作用し、眼の充血を解消すると共に、眼精疲労の回復に効果があるとされる血管収縮剤として、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸テトラヒドロゾリン等が挙げられる。
【0037】
これらの消炎収斂剤、抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤、及び血管収縮剤の使用濃度としては、薬剤毎に適宜決定されるが、いずれの薬剤においても0.001〜1.0w/v%の範囲、好ましくは0.01〜0.5w/v%の範囲、より好ましくは0.02〜0.25w/v%の範囲で用いられる。
【0038】
また、香料又は清涼化剤としては、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、メントール、リュウノウ、ウイキョウ油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等が挙げられる。なお、これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。これらの香料又は清涼化剤の使用濃度としては、0.0001〜0.1w/v%の範囲、好ましくは0.001〜0.03w/v%の範囲で用いられる。
【0039】
ビタミン類としては、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール等が挙げられる。これらのビタミン類の使用濃度としては、0.001〜1.0w/v%の範囲、好ましくは0.01〜0.5w/v%の範囲で用いられる。
【0040】
本発明には、上記成分のほかに一般にコンタクトレンズ用液剤で使用されている各種機能を有する成分を添加することができる。例えば、金属イオン封鎖剤を添加すると、レンズ素材に対して涙液成分中のカルシウムイオンなどが複合して不溶性塩として沈着した汚れを除去することができる。金属イオン封鎖剤としては、眼科的に許容される化合物であれば特に制限はなく、例えばエチレンジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸等の多価カルボン酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩等の塩などを挙げることができる。中でも、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、酒石酸等の多価カルボン酸およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。金属イオン封鎖剤の使用濃度は、0.001〜1.0w/v%の範囲が好ましく、0.01〜0.1w/v%がより好ましい。金属イオン封鎖剤濃度が0.001w/v%より少ないと、多価金属イオンを除去する効果が不十分となって添加する意味が希薄となり、1.0w/v%より多くても必要充分以上であるからである。
【0041】
さらに、本発明の液剤には、安定したpHを維持するために従来から用いられている緩衝剤を含ませることもできる。製造されてから使用されるまで、または使用期間内に外気との接触等によるpH変化を抑えることができる。緩衝剤の具体例としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、クエン酸などの有機酸を用いる緩衝剤、などが挙げられる。また、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ビス(トリス〔ヒドロキシメチル〕メチルアミノ)プロパンといったアミノアルコールや、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリンなどのアミノ酸を緩衝剤として用いることも出来る。このような緩衝剤の濃度は、一般に0.05〜3.0w/v%とされ、好ましくは0.1〜1.5w/v%、特に好ましくは0.3〜1.0w/v%とされる。緩衝剤の濃度が、0.05w/v%より低い場合には、コンタクトレンズ用液剤のpHを一定に保つ効果が低くなって添加する意味が希薄になり、また3.0w/v%より高くても、pHの安定性がより向上せしめられるというわけではないからである。なお、液剤のpHは、ソフトコンタクトレンズ用液剤の場合は、生理的に許容される範囲に設定される。具体的には、pH6〜8の範囲が好ましく、pH6.5〜7.5の範囲がより好ましい。ハード系コンタクトレンズ用液剤の場合は、直接眼に触れないものであれば、前記のpHに限定はされないが、手指洗浄時の手あれなどを考慮して、pH3〜9が好ましく、pH4〜8がより好ましい。このpHは、前記緩衝剤により容易に維持されることとなり、保存、使用期間を通じて品質の安定した状態を保つことができるのである。
【0042】
また、浸透圧についても、ソフトコンタクトレンズ用液剤の場合は、生理的に許容される浸透圧に調整される。具体的には、浸透圧は200〜600mOsmが好ましく、250〜450mOsmの範囲に調整されることがより好ましい。ハード系コンタクトレンズ用液剤の場合は、水道水ですすぎ流される場合は、前記の浸透圧に限定されるものではないが、通常200〜1000mOsmの範囲に調整される。そのような等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩やグリセリン、ソルビトール、プロピレングリコールなどの多価アルコールを用いることができる。
【0043】
また、本発明の前記液剤には、コンタクトレンズに付着する蛋白質汚れを効果的に除去するために、タンパク分解酵素を配合することができる。本発明に使用されるタンパク分解酵素としては、パパイン、ブロメライン、フィシン等の植物由来のプロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン等の動物由来のプロテアーゼ、バチルス属等の細菌が生産する細菌プロテアーゼ等の微生物由来のプロテアーゼ等、何れも使用することができる。液剤として初めから配合する場合のタンパク分解酵素濃度は、得ようとする洗浄効果や使用時間等に応じて適宜決定されるが、少なすぎると、洗浄効果が不充分となり、長期間の保存によるある程度の酵素活性の低下も起きて、酵素を添加する意味がなくなる。また、多すぎても汚れに作用する酵素量が限られているので必要充分量以上となる。従って、前記液剤中に、0.01〜5w/v%が適当である。
【0044】
さて、本発明は前記のコンタクトレンズを用いた液剤を用いたコンタクトレンズの処理方法をも含むものである。まず、前記コンタクトレンズ用液剤を発泡させた状態で、実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して保存する処理方法を説明する。前記コンタクトレンズ用液剤を発泡状態とするためには、振とうすることで発泡状態としても良いが、公知の泡噴出容器を用いることがより好適に採用される。泡噴出容器にはいわゆるトリガー式、スクイズ式、ポンプ式、エアゾール容器などのタイプがあるがそのいずれを用いてもよい。これらの泡噴出容器には、例えば特開2000−246154号公報や特開2008−155986号公報のように、泡と液を切り替えることが出来る容器も提案されており、これらを用いることができる。
【0045】
コンタクトレンズの保存には公知の通常用いられるコンタクトレンズ用保存容器を用いることが出来る。通常ホルダーがキャップに付いたハード系コンタクトレンズ用(例えば実開平1−90419号公報)と平型のソフトコンタクトレンズ用(例えば特開2011−15836号公報)があり、いずれを用いることも出来るが、キャップ等が付随していて、実質的に密閉状態を作ることが可能な容器に限られる。
【0046】
コンタクトレンズを発泡させた状態で泡内に保存する場合は、泡噴出容器から保存容器内に泡が満たされる程度に泡で満たし、眼から外したコンタクトレンズをそのまま容器内に挿入するか、ホルダーにセットして泡で満たされた容器に挿入し、蓋を閉めて室温で静置して保存すれば泡内にコンタクトレンズが保存されることになる。保存容器内に満たす泡の量はコンタクトレンズが泡の中に充分覆われる量であれば限定はされないが、通常レンズ1枚に対して0.1mL〜1.2mL、好ましくは、0.2mL〜1.0mL、より好ましくは0.3mL〜0.8mL程度を用いればよい。保存時間は、特に限定されないが、通常約5分〜約24時間、好ましくは約30分〜約16時間、より好ましくは約2時間〜約8時間保存される。5分より短いと保存中に洗浄効果が充分に発現されず、24時間以上保存すると、泡が消えてコンタクトレンズの一部が露出してコンタクトレンズ表面が乾燥して一時的に変形したり、液剤の成分が吸着する可能性がある。また、泡の中に静置することにより、保存中に、洗浄もなされてコンタクトレンズが溶液状態で浸漬した場合よりも、より綺麗になるのである。保存後のコンタクトレンズはそのまま眼に装用したり、ハード系コンタクトレンズの場合は水道水ですすいで装用したりすることもできる。あるいは、後記のように、擦り洗浄をしてもよい。保存温度についても、通常の生活環境の温度範囲であれば特に限定されることはなく、通常は0℃付近〜40℃付近の範囲で使用できる。
【0047】
ところで、発泡させた状態で実質的に密閉せしめて泡内にコンタクトレンズを保存する場合においても、コンタクトレンズの消毒又は液剤の防腐は必要とされることから、本液剤には好適には前記のような抗菌成分が含まれる。そして、保存中にコンタクトレンズの消毒を行うことが出来る。この場合においても、発泡状態で保存することにより、抗菌剤の吸着が抑制されることが明らかとなり、本発明が安全性の面でもより優れているといえるのである。
【0048】
また、抗菌成分以外にも、これまで配合が難しかったコンタクトレンズに吸着しやすい成分も配合することが出来る。これまで溶液中に保存する場合には吸着を抑制する成分との組み合わせを工夫する必要があったが、本発明においては、発泡状態という、特定の物理的な状態の中にコンタクトレンズを置くことによって発揮される効果であるため、組成成分の制限が実質的にほとんどないと言える。このため、消炎収斂剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、血管収縮剤、清涼化剤、香料、ビタミン類といった、これまで配合が難しかった薬剤成分を含有することも可能となったのである。
【0049】
本液剤の使用方法においては、発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して保存及び/または消毒するだけでなく、レンズを保存する前、及び/または後に、泡状態で擦り洗浄を行うこともできる。保存する前に擦り洗浄を行う場合は、目から外したレンズを指先に持つか、手のひらに置き、本コンタクトレンズ用液剤を泡噴出容器から泡を噴出させて、指先又は、手のひらで軽く擦り洗浄すればよい。擦り洗浄の洗浄時間は2秒〜40秒程度、好ましくは10秒〜30秒程度擦り洗浄すればよい。保存後に擦り洗浄する場合も、保存容器からコンタクトレンズを取り出した後に、前記同様、指先か手のひらで軽く擦り洗浄を行えばよい。洗浄後に本コンタクトレンズ用液剤や別の保存液等ですすいで装用したり、ハード系レンズの場合は、洗浄後に水道水ですすいで装用することが出来る。発泡状態で擦り洗浄することによって、物理的な力と化学的な力により、レンズに傷が付きにくく高い洗浄力をだすことが出来、また使用者に心地よい洗浄感を得ることができる。このため、使用者がきちんと洗浄を行うという啓蒙効果もあり、より安全性を高めることにもなるのである。
【0050】
ところで、発泡状態で擦り洗浄をする場合は泡噴出容器が好適に用いられるが、前記の泡と液を切り替えできる容器を用いて、保存を溶液状態で行っても差し支えない。この場合は、本液剤による泡保存中の効果は期待できないが、擦り洗浄時の泡による洗浄力と洗浄感を発揮させることが出来る。特に、長時間保存する場合は、泡が消失する可能性があるため、この場合は溶液状態で保存する方がむしろ好ましい。このような使い分けは、使用者の装用サイクルに合わせて、選択することが出来るのである。また、保存液として、例えば市販の過酸化水素消毒液などの別の公知の消毒液を用いてもよい。この場合であっても、本液剤は洗浄剤として、前記のような洗浄効果と洗浄感を発揮することができるのである。
【0051】
なお、本液剤の供給容器の材質は特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのプラスチック材料やガラス等を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお表中の成分の商品名は下記に示すものであり、各成分は(w/v%)で示す。
ニッコールBC−40TX(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、日光ケミカルズ(株)製)
ニッコールOS−14(α−オレフィンスルホン酸塩、日光ケミカルズ(株)製)
メトローズ60SH−4000(ヒプロメロース、信越化学工業(株)製)
ルトロールF−127(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、BASF Co.社製)
テトロニック1107(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、BASF Co.社製)
ライポンLS−250(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ライオン(株)製)
クレワットN(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ナガセケムテックス(株)社製)
NISSO HPC(グレードM)(ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達(株)製)
ゴーセノールEG−40(ポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)
【0053】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
−起泡性試験−
まず、表1に示す試験液1〜3及び比較液1〜3を調製した。次に内径17mm×高さ55mmの円筒形のガラスバイアル(ねじ口瓶S−3;日電理化硝子(株)製)に各試験液0.8mLを入れて、液面の高さを測定したところ、3.5mmであった。次に、蓋をして上下に30秒間激しく振り、泡の上までの高さを測定し、次の式から容積変化倍率を算出した。
容積変化倍率(倍)={泡の高さ(mm)+液面の高さ(mm)}÷3.5
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜4は容器内が泡で満たされたが、比較例1〜3では泡立ちが充分ではなかった。
【0056】
[実施例5〜8、比較例4〜7]
−泡の安定性試験1−
試験液1〜4を各2本について前記同様に上下に激しく振り泡を発生させ、一方の試験液は蓋をしたままの状態とし、もう一方は比較試験として、蓋を開いて25℃の室温に放置した。2時間及び5時間後に泡の高さ(mm)を測定して、発泡直後の泡の高さに対する泡の残存率(%)を算出した。
【0057】
【表2】

【0058】
試験液1〜4で密閉状態で放置した場合、2時間後でも初期の泡の85%以上が残存していたが、開放状態で放置した場合は初期の泡の40%以下になっていた。
【0059】
[実施例9〜12、比較例8〜11]
−泡の安定性試験2−
表3に示す試験液5〜8を調製し、市販の泡噴出容器(商品名「ポンプフォーマー」吉野工業所(株)製)に充填した。次に、酸素透過性ハードコンタクトレンズ(商品名「メニコンZ」:(株)メニコン製)(HCL)及び、ソフトコンタクトレンズ(商品名「メニコン2WEEKプレミオ」:(株)メニコン製)(SCL)を準備し、ソフトコンタクトレンズ用レンズケース(商品名「エピカコールド」付属品:(株)メニコン製)に各1枚挿入した。これに前記泡噴出容器から泡を噴出させて、容器内を泡で満たした。これに蓋をして25℃の室温で2時間放置し、2時間後に泡の残量を目視で確認し下記のように評価した。また比較例として、一方は蓋を開放して泡の残量を同様に評価した。結果を表4に記載した。
◎;収納部の70%以上が泡で満たされている。
○;収納部の50%以上が泡で満たされている。
△;収納部の30%程度に泡が残っている。
×;泡がほとんど残っていない。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
試験液5〜8を泡噴出容器でレンズケースに噴出し、密閉状態で放置した場合、2時間後でも初期の泡の50%以上が残存していたが、開放状態で放置した場合は泡がほとんど残存しなかった。
【0063】
[実施例13〜16]
−洗浄感試験−
表3に示す、試験液5、6を前記の泡噴出容器、及び市販の液吐出容器(商品名「メニボトル100ml」(株)メニコン製)に充填した。次に酸素透過性ハードコンタクトレンズ(商品名「メニコンZ」:(株)メニコン製)(HCL1)を用いて、5名のパネラーに泡又は液をレンズにつけて3本の指の腹で20回こすり洗浄をしてもらい、洗浄感が良い方を選択してもらった。また、洗浄後のレンズを指先にもち、水道水ですすいでもらい、すすぎ性がよい方を選択してもらった。泡洗浄を好む人数、泡状態のすすぎ性が良いと回答した人数を表5にまとめた。
【0064】
また、同様に表3に示す、試験液7、8を前記の泡噴出容器及び液吐出容器に充填した。次に、ソフトコンタクトレンズ(商品名「メニコン2WEEKプレミオ」:(株)メニコン製)(SCL1)を用いて、5名のパネラーに20回手のひら洗浄してもらい、洗浄感が良い方を選択してもらった。その結果を合わせて表5に示した。
【0065】
【表5】

【0066】
上記の結果から、泡状態で洗浄を行った方が、洗浄感が良好であり、また、洗浄後のすすぎ性も良好であることがわかった。
【0067】
[実施例17〜18、比較例12〜13]
−洗浄効果試験−
試験液5、6を用いて、以下のようにして洗浄効果試験を行った。先ず、かかる洗浄効果試験に用いるために、ミリスチン酸:3g、オレイン酸:3g、トリオレイン:3g、トリステアリン:3g、パラフィン:2g、スクアレン:2g、コレステロール:1.6g、ステアリン酸コレステロール:0.4gを加熱して溶解、混合して人工脂質溶液を調製した。
【0068】
酸素透過性ハードコンタクトレンズ(商品名「メニコンスーパーEX」:(株)メニコン製)を供試レンズとして用意し、その表面に前記人工脂質溶液を5μLずつ、レンズ両面に均一に付着させて、人工脂質汚れ付着レンズを得た。これを、ハードコンタクトレンズ用レンズケース(商品名「SPケース」:(株)メニコン製)に各1枚挿入し、これに前記泡噴出容器から泡を噴出させて、容器内を泡で満たし、蓋をした。25℃の室温で30分間浸漬後に蓋を開け、レンズを取り出し、水道水で軽くすすいで浮き上がった汚れを除去した後、外観を観察し、次の様に5段階で洗浄効果を評価した。
◎;汚れがほとんど除去されていた。
○;汚れが70%以上除去されていた。
△;汚れが50%程度残っていた。
▲;汚れが70%以上残っていた。
●;汚れが全面に付着していた。
【0069】
また、比較例として、泡噴出容器の代わりに、前記の液吐出容器に前記試験液5又は6を充填し、前記と同様にハードコンタクトレンズ用レンズケースに脂質汚れレンズ1枚と試験液を満たし、30分間浸漬後にレンズを取り出し、前記同様に洗浄効果を評価した。
【0070】
【表6】

【0071】
上記の試験から、泡状態で浸漬した方が洗浄効果が著しく高いことが明らかとなった。
【0072】
[実施例19〜20、比較例14〜15]
−傷つきやすさ試験−
試験液5、6を前記泡噴出容器又は液吐出容器に充填して、以下のようにしてレンズの傷つきやすさを評価した。酸素透過性ハードコンタクトレンズ(商品名「メニコンスーパーEX」:(株)メニコン製)を供試レンズとして用意し、試験前に傷がないことを確認した。次に、傷つきやすいように天然ゴム製手袋(商品名「クアラテック手袋」アズワン(株)製)をした上で、泡をレンズが覆われる程度、レンズにつけて3本の指の腹で20回こすり洗浄を行った。洗浄後、レンズケースのホルダーに挟み、水道水でかるくすすいだ。洗浄−すすぎ操作を1サイクルとして30サイクル繰り返した。比較例として、泡の代わりに液をレンズにつけて同様に30サイクル繰り返した。試験後に、実体顕微鏡で観察し、傷の有無を観察し、表7に示した。
【0073】
【表7】

【0074】
上記の試験の結果から、泡状態で洗浄を行う方が明らかに傷がつきにくいことがわかった。
【0075】
[実施例21、比較例16]
−抗菌剤の吸着抑制試験1−
試験液7に抗菌剤としてポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩(商品名「コスモシルCQ」:アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製)を有効成分濃度として0.001w/v%添加して試験液9を調製し前記の泡噴出容器に充填した。
【0076】
次に、ソフトコンタクトレンズ(商品名「フォーカス」:チバビジョン(株)製)を準備し、各レンズをISO生理食塩液(塩化ナトリウム0.83w/v%、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.0528w/v%、リン酸水素二ナトリウム十二水和物0.5993w/v%)で充分にすすいだ。次に、ソフトコンタクトレンズ用レンズケース(商品名「エピカコールド」付属品:(株)メニコン製)を用意し、前記のソフトコンタクトレンズを1枚挿入し、前記泡噴出容器から試験液9を泡状態で約0.3mL噴出させ、レンズケース内を泡で満たし蓋をした。対照として、一方にはレンズ1枚と共に試験液10を液状態で3mL入れて蓋をした。
【0077】
これを、各3サンプル準備し、25℃の室温で16時間放置した。次に、レンズを取り出し、余分な水分を拭き取り、ポリプロピレン製試験管に泡状の試験液9に浸漬したレンズ3枚を入れ、ISO生理食塩液を5mL加えた。溶液に浸漬した対照レンズも同様に操作した。これを、時々振り混ぜながら24時間浸漬し、吸着した抗菌剤を溶出させた。溶出させた生理食塩液を分光光度計(型番UV2450;(株)島津製作所製)を用いて、237nmの吸収を測定し、別に作成した検量線からレンズ1枚あたりの吸着量を求めた。また、下記の式から、液状態で浸漬した場合の吸着量に対する、液状態で浸漬した場合の吸着量を吸着率(%)として算出し結果を表8にまとめた。
吸着率(%)=(泡浸漬吸着量÷液浸漬吸着量)×100
【0078】
【表8】

【0079】
その結果、泡状態で浸漬すると、抗菌剤(ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩)のレンズへの吸着率は、液状態で浸漬した場合の59.3%であった。
【0080】
[実施例22、比較例17]
−抗菌剤の吸着抑制試験2−
試験液9の抗菌剤をポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩の替わりに、塩化ベンザルコニウム(東海製薬(株)製)0.5w/v%を用いて試験液10を調製した。これを実施例21と同様に操作し、溶出した抗菌剤を262nmの吸収を測定して、別に作成した検量線からレンズ1枚あたりの吸着量を求めた。また、前記同様に吸着率(%)を算出し結果を表9にまとめた。
【0081】
【表9】

【0082】
その結果、泡状態で浸漬すると、抗菌剤(塩化ベンザルコニウム)のレンズへの吸着率は、液状態で浸漬した場合の51.5%であった。
【0083】
[実施例23〜25]
−薬剤成分の吸着抑制試験−
先ず、表10に示す試験液11〜13を調製し、前記の泡噴出容器に充填した。次にソフトコンタクトレンズ(商品名「ワンデー・アキュビュー」;ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)製)を準備し、各レンズを前記のISO生理食塩液で充分にすすいだ。次に、前記のソフトコンタクトレンズ用レンズケースを用意し、前記のソフトコンタクトレンズを2枚挿入し、前記泡噴出容器から各試験液を約0.3mL噴出させ、レンズケース内を泡で満たし蓋をした。対照として、一方にはレンズ2枚と共に各試験液を液状態で3.0mL入れて蓋をした。
【0084】
これを、25℃の室温で6時間放置した。放置後、レンズを取り出し、残った液を0.1mLづつ取り、適宜希釈して、薬剤成分の吸収波長の吸光度(Aλ)を分光光度計を用いて測定した。ブランクとして、処理をしていない液について同様に希釈して吸光度を測定し、次の式から吸着率(%)を算出し、結果を表11に示した。
吸着率(%)={(ブランクAλ−泡浸漬Aλ)÷(ブランクAλ−液浸漬Aλ)}×100
【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

【0087】
その結果、泡状態で浸漬した試験レンズへの薬剤の吸着率は液状態で浸漬した場合に比較して、それぞれ、マレイン酸クロルフェニラミンが38.4%、アズレンスルホン酸ナトリウムが18.2%、グリチルリチン酸二カリウムが15.0%であった。これらのことから、泡状態で浸漬すると液状態で浸漬した場合に比べて薬剤成分や抗菌剤のコンタクトレンズへの吸着が著しく抑制できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明のコンタクトレンズ用液剤及びその処理方法は、起泡安定性に優れ、コンタクトレンズ用液剤中に含まれる抗菌剤や薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制すると共に、高い洗浄力と良好な洗浄感を得ることができるので、コンタクトレンズ使用者にとって安心してかつ簡便にコンタクトレンズをケアすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡状態で使用するためのコンタクトレンズ用液剤であって、
(a)陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも一種の界面活性剤と
(b)高分子多糖類、ビニル系高分子、マクロゴール、ペプチド系高分子、無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤とを含有し、
容積が溶液状態の4倍以上となる泡状態として密閉せしめた時、25℃における2時間放置後の泡の量が、発泡直後の50%以上であることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤。
【請求項2】
前記界面活性剤が、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硬化ヤシ油グリセリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルタウリン塩、ラウリルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジオクチル塩からなる群より選ばれる陰イオン性界面活性剤及び/又は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、脂肪酸アルカノールアミドからなる群より選ばれた非イオン性界面活性剤から選択される請求項1記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項3】
前記起泡安定化剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、アラビアゴム、デキストリン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キサンタンガム、カチオン化デキストリン、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン酸、アルギン酸、カラギーナン、ガラクタン、フラクタン、ムコ多糖及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる高分子多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カチオン化ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれるビニル系高分子、及び平均分子量が約400〜約20000のマクロゴール、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンからなる群より選ばれるペプチド系高分子、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、及び前記各共重合体の開環生成物またはその塩から選ばれる無水マレイン酸共重合体、からなる群より選ばれた少なくとも一種の起泡安定化剤である請求項1乃至2記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項4】
さらに、抗菌剤、消炎収斂剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、血管収縮剤、清涼化剤、香料、ビタミン類より選ばれた少なくとも一種の薬剤成分を含有する、請求項1乃至3記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項5】
前記請求項1乃至4記載のコンタクトレンズ用液剤を、発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して、洗浄、保存及び/または消毒することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
【請求項6】
前記請求項5記載のコンタクトレンズの処理方法において、泡内にコンタクトレンズを静置して、保存及び/または消毒する前、及び/または後に、発泡状態でコンタクトレンズを擦り洗浄することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
【請求項7】
前記請求項1乃至4記載のコンタクトレンズ用液剤中にコンタクトレンズを溶液状態で浸漬して保存及び/または消毒する前、及び/または後に、発泡状態でコンタクトレンズを擦り洗浄することを特徴とするコンタクトレンズの処理方法。
【請求項8】
前記請求項4記載のコンタクトレンズ用液剤を、発泡させた状態で実質的に密閉せしめた泡内にコンタクトレンズを静置して保存することにより、薬剤成分のコンタクトレンズへの吸着を抑制する方法。

【公開番号】特開2013−19926(P2013−19926A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150564(P2011−150564)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000222473)株式会社メニコンネクト (20)
【Fターム(参考)】