説明

排ガス計測装置

【課題】排ガス中のN2Oの排出質量の計測をより高精度に行なうことが可能な排ガス計測装置を提供する。
【解決手段】本実施の形態に係る排ガス計測装置10は、大気中の空気11Aを取り込んで精製した精製空気12を希釈空気として送風する空気精製機13を有する排ガス計測装置であって、空気精製機13は、取り込んだ空気11Aを加熱する加熱部16と、加熱された空気11C中の計測対象成分を除去する触媒17が備えられている触媒部18と、加熱された空気11Cの冷却又は加温を行なう温度調整可能な温調部19と、冷却された空気11D中の少なくともN2Oを吸着し、除去する吸着材20が設けられている吸着部21と、取り込まれた空気11Aと加熱部16で加熱された空気11とを熱交換する熱交換部22と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの計測対象成分の排出質量を求める排ガス計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両では、排ガス計測装置を用いて、エンジンから放出される排ガスの排出質量を計測して評価することが行なわれている。自動車の排ガス中に含まれる各種の成分の排出質量を計測する場合、その信頼性、安定性からCVS(Constant Volume Sampler)と呼ばれる方法を採用した定容量採取装置(以下「CVS装置」という。)が排ガス計測装置として使用されている。CVS装置は、大気又は精製空気を希釈空気として用い、希釈した排ガスから排出質量を計測するため、希釈空気中の計測対象成分(バックグラウンド:B.G)を別途計測し、計測対象成分との差で排ガスの計測対象成分の排出質量を求める。
【0003】
また、空気精製機を備えたCVS装置として、前記空気精製機より排出される精製空気を取り込むラインと、大気中の空気を取り込むラインとを設け、精製空気又は空気のどちらか一方を選択して希釈空気として用い、排ガスの排出質量を求める方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
更に、空気精製機を備えたCVS装置において前記空気精製機内に設けている触媒部の設定温度を調整可能とし、前記触媒を活性化させて空気の浄化効率を向上させたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−19744号公報
【特許文献2】特開2001−41916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、温暖化規制等に伴い、計測対象成分として一酸化二窒素(N2O)の排出質量を計測する必要がある。取り込んだ大気を希釈空気として用いる場合、希釈空気中にはバックグラウンドとしてN2Oが約0.4ppm程度存在している。このため、N2Oの排出質量をCVS装置を用いて計測する場合、図5に示すように、車両から排出される排ガス中のN2O濃度(排ガス起因N2O濃度)Xを約0.1ppm程度とした時、差量法により希釈排ガス中のN2O濃度Aから希釈空気中のN2O濃度Bである0.4ppm程度を減質することにより、排ガス起因N2O濃度Xが0.1ppm程度と求められることから、希釈排ガス中のN2O濃度Aは約0.5ppm程度となる。
【0007】
しかしながら、排出質量を計測する際、分析誤差が生じるため、図5に示すように、分析誤差が絶対値で1%の読取り値比率(RS:Reading Scale)とすると、希釈排ガス中のN2O濃度Aには0.005ppm程度、希釈空気中のN2O濃度Bには0.004ppm程度の誤差の濃度が絶対値として各々に含まれることになる。この希釈排ガス中のN2O濃度Aと、希釈空気中のN2O濃度Bとの統計的に加算された誤差が、排ガス起因N2O濃度Xの値0.1ppm程度に含まれることになる。このとき、排ガス起因N2O濃度Xの誤差を含めた上限値及び下限値は、排ガス起因N2O濃度Xの値と、希釈排ガス中のN2O濃度Aと希釈空気中のN2O濃度Bとの各々の分析誤差の上限値及び下限値により得られる正規分布に基づき、例えば、下記式のように算出される。
排ガス起因N2O濃度Xの上限値:0.1+(0.0052+0.00421/2・・・(1)
排ガス起因N2O濃度Xの下限値:0.1−(0.0052+0.00421/2・・・(2)
【0008】
この排ガス起因N2O濃度Xの0.1ppmに統計的に加算されることで含まれる誤差は、0.0064ppm程度となり、希釈排ガス中のN2O濃度Aと、希釈空気中のN2O濃度Bでの各々の分析値の誤差の約6.4倍程度に相当し、絶対値で6.4%程度の分析誤差となる。一方、希釈空気中のバックグラウンド濃度が0ppmであれば、分析誤差を絶対値で1%のRSとして計測することができる。
【0009】
そのため、CVS装置を用いて排出質量を計測する場合、希釈空気中にはバックグラウンドとしてN2Oが約0.4ppm程度存在しているため、希釈排ガス中のN2O濃度の分析誤差が大きく、信頼性が低い、という問題がある。
【0010】
また、空気精製機を備えたCVS装置を用いても、従来の空気精製機では、希釈空気中の全炭化水素(THC)、一酸化炭素(CO)、窒素化合物(NOx)を除去し、空気を精製することはできるが、N2Oの低減効果が殆ど得られない。このため、精製空気中にはN2Oが残存してしまうため、希釈排ガス中のN2O濃度の測定の信頼性が低い、という問題がある。
【0011】
このように、排ガス中のN2Oの排出質量をCVS装置を用いて計測する際、分析誤差が少なく、より高精度に分析することが可能な排ガス計測装置が求められている。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、排ガス中のN2Oの排出質量の計測をより高精度に行なうことが可能な排ガス計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するための本発明は、大気中の空気を取り込んで精製した精製空気を希釈空気として送風する空気精製機を有し、検査対象から排出される排ガスを前記精製空気と混合、希釈した希釈排ガスの排出質量を計測し、前記排ガスから排出される計測対象成分の排出質量を求める排ガス計測装置において、前記空気精製機が、取り込んだ空気を加熱する加熱部と、加熱された空気中の計測対象成分を除去する触媒が備えられている触媒部と、加熱された空気の冷却又は加温を行なう温調部と、冷却された空気中の少なくとも一酸化二窒素を吸着し、除去する吸着材が備えられている吸着部と、を有することを特徴とする排ガス計測装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る排ガス計測装置によれば、空気精製機に送給される希釈空気中のN2Oを排ガスに混合する前に予め吸着材でN2Oを吸着し、N2Oが除去された精製空気を排ガスに供給することができるため、排ガス中のN2Oの排出質量を計測する際、排ガス中のN2Oの排出質量の分析誤差を小さくし、より高精度に、排ガス中のN2Oの排出質量の分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る排ガス計測装置の構成を簡略に示す図である。
【図2】図2は、精製空気中のN2Oの濃度が所定濃度を超えた場合の時間と計測対象成分の濃度変化との関係を示す図である。
【図3】図3は、精製空気中のN2Oの濃度が所定濃度を越えていない場合の時間と計測対象成分の濃度変化との関係を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る排ガス計測装置を用いた時の希釈排ガス、精製空気、排ガスの各々のN2O濃度の測定結果の一例を示す図である。
【図5】図5は、従来の排ガス計測装置を用いた時の希釈排ガス、希釈空気、排ガスの各々のN2O濃度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る排ガス計測装置について図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る排ガス計測装置の構成を簡略に示す図である。
【0018】
本実施の形態に係る排ガス計測装置10は、大気中の空気11Aを取り込んで精製した精製空気12を希釈空気として送風する空気精製機13を有し、車両(検査対象)から排出される排ガス14を精製空気12と混合、希釈した希釈排ガス15の排出質量を計測し、排ガス14から排出される計測対象成分の排出質量を求める排ガス計測装置である。排ガス計測装置10は、空気精製機13と、空気精製機13で精製された精製空気12を流通させる主通路(メインダクト)31とからなるものである。
【0019】
空気精製機13は、取り込んだ空気11Aを加熱する加熱部16と、加熱された空気11C中の計測対象成分を除去する触媒17が備えられている触媒部18と、加熱された空気11Cの冷却又は加温を行なう温調部19と、冷却された空気11E中の少なくとも一酸化二窒素(N2O)を吸着し、除去する吸着材20が設けられている吸着部21と、取り込まれた空気11Aと加熱部16で加熱され、浄化された空気11Dとを熱交換する熱交換部22と、を有する。
【0020】
空気精製機13において大気中の空気11Aを取り込んで精製された精製空気12を希釈空気として用いている。空気精製機13の通路23には、大気に開放する空気取入口24と空気出口25とが設けられている。空気11Aは、空気取入口24側から空気出口25側に向かって、熱交換部22、加熱部16、触媒部18、熱交換部22、温調部19、吸着部21の順に通路23内を通過する。
【0021】
通路23内には、送風機が設けられ、前記送風機により空気取入口24側から大気中の空気11Aを取り入れ、空気出口25側へ送風される。また、空気11Aとしては、大気中から取り入れた空気を用いているが、予め除湿された空気などを用いるようにしてもよい。送風機として例えば、送風能力が可変可能なブロワなどが用いられる。また、空気精製機13は、適正な流量の空気11Aを送風するように流量制御を行なっている。
【0022】
空気取入口24より通路23内に取り込まれた空気11Aは、加熱部16で加熱され、浄化された空気11Cと熱交換部22において間接的に熱交換することで、加熱される。この熱交換部22で加熱された空気を空気11Bとする。また、熱交換部22で空気11Aを空気11Cと間接的に熱交換し加熱するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、熱交換部22を設けず、空気11Aと空気11Cとを熱交換しないようにしてもよい。
【0023】
空気11Bは通路23内を通過して加熱部16に送給される。空気11Bは加熱部16において更に加熱され、この加熱された空気11Cは触媒部18に送給される。加熱部16は、加熱部16内に流入してきた空気11Bを加熱できるものであればよく、例えば通路23の外周に加熱用ヒータを設け、空気11Bを加熱するようにしてもよい。この加熱部16において空気11Bを更に加熱した後、この加熱された空気11Cが触媒部18に供給されることで、触媒部18内に設けられている触媒17の活性を向上させることができる。このため、触媒17に加熱部16を通過した後の空気11Cが接触することで、空気11C中の計測対象成分の除去効率を向上させることができる。
【0024】
また、空気11C中に含まれる計測対象成分としては、例えば、全炭化水素(THC)、CO、NO、NO2などのNOx等が例示される。また、全炭化水素とは、大気中の炭化水素(HC)の測定により得られるメタン(CH4)の濃度と、非メタン炭化水素(NMHC)の濃度の両方の和である。
【0025】
また、触媒部18では、空気11C中の計測対象成分の除去を行なっている。触媒部18には触媒17が設けられている。触媒17は、触媒成分を担体に担持されて構成されている。触媒成分として、例えば、Ag、Pd、Pt、Mn及びRhなどの少なくとも1種類以上の金属、これらの金属を含有する合金若しくはこれらの金属の酸化物、又はこれらの2種類以上の混合物などが用いられる。触媒成分の担体としては、例えば、アルミナ(Al23)、酸化セリウム(CeO)、ジルコニア、シリカ(SiO2)及びゼオライト等から選ばれた1種類以上の金属酸化物又は該金属酸化物と金属の複合酸化物との混合物などが用いられる。また、触媒17としては、触媒成分を担体に担持させたものの他、触媒成分のみを金属等の基材に担持させたものを用いるようにしてもよい。
【0026】
触媒部18において計測対象成分が除去された空気11Dは、熱交換部22で空気取入口24から通路23内に取り込まれた空気11Aと間接的に熱交換し、冷却された後、温調部19に送給される。
【0027】
温調部19は温調部19から排出される空気11Eの温度を調整可能とする。温調部19において温調部21から排出される空気11Eの温度を調整可能とすることで、吸着部21には任意の温度に調整された空気11Eを送給することができる。排ガス14中のN2Oの排出質量を計測する際には空気11Dを冷却して温調部19から排出される空気11Eの温度を低温又は常温とする。このとき、温調部19から排出される空気11Eの温度は、例えば20℃以上、30℃以下、好ましくは23℃以上、27℃以下、更に好ましくは25℃前後とする。これにより、吸着部21において吸着材20のN2Oの吸着性能を向上させ、空気11E中のN2Oを吸着材20に吸着させることができる。また、吸着材20に吸着されているN2Oを脱離する時には、空気11Dを加温して温調部19から排出される空気11Eを昇温させる。このとき、温調部19から排出される空気11Eの温度として、例えば70℃以上、90℃以下、好ましくは75℃以上、85℃以下、更に好ましくは80℃程度とする。これにより、吸着部21の吸着材20に吸着されたN2Oを脱離することができ、精製空気12中に同伴させて排出することができる。
【0028】
温調部19において温度調整された空気11Eは、吸着部21に送給される。吸着部21に送給された空気11Eは吸着材20により少なくとも空気11E中のN2Oが吸着、除去される。また、吸着材20は、空気11E中に残留しているN2Oの他に、空気11E中に残留又は生成するNOx、THC、アンモニア(NH3)などの計測対象成分も吸着可能なものを用いるようにしてもよい。
【0029】
吸着部21に設けられる吸着材20として、少なくとも金属イオンとイオン交換してゼオライトに該金属を担持させたゼオライト(金属イオン交換ゼオライト)が用いられる。ゼオライトに担持する金属としては、例えば、Co、Cu、Na、K及びFe等の少なくとも1種類以上の金属、これらの金属を含有する合金などを用いることができる。また、用いられるゼオライトの種類としては、特に限定されるものではなく、細孔径が比較的小さく、表面積を増大させるフェリエライト、ZSM‐5、モルデナイト、β型ゼオライトなどを用いることが好ましい。特に、Feイオンをイオン交換して担持したゼオライトはコストを抑えることができるため、吸着材として用いるのに好ましく、例えば、Fe−ZSM5、Fe−βモルデナイト等を用いるのが好ましい。
【0030】
また、吸着部21には同一の吸着材20のみを配置するようにしているが、吸着部21の構成としてはこれに限定されるものではなく、吸着部21内に複数の異なる吸着材20を設けてもよい。また、吸着部21は、例えば、吸着材20を前段部と後段部とに分けて異なる吸着材20を設けるようにしてもよい。前記前段部には、シリカ/アルミナモル比(SiO2/Al23モル比)が小さいゼオライトを配置することが好ましい。SiO2/Al23モル比が小さい程、イオン交換サイトの量が多くなり、N2Oの吸着性能を向上させることができる。よって、前記前段部にSiO2/Al23モル比が小さいゼオライトを配置することで、効率良く空気11E中のN2Oを吸着することができる。前記前段部に配置するSiO2/Al23モル比が小さいゼオライトとして、例えばY型ゼオライト、A型ゼオライトなどを用いることができる。
【0031】
吸着材20を前段部と後段部とに分けて配置する場合、前段部には、例えば、Naイオンをイオン交換して担持したゼオライトとしてNa−Y型ゼオライト、Kイオンをイオン交換して担持したゼオライトとしてK−A型ゼオライトなどを配置し、後段部には、Feイオンをイオン交換して担持したゼオライトとしてFe−ZSM5を配置するのが好ましい。
【0032】
また、吸着材20としては、金属イオン交換ゼオライトを用いる他に、触媒成分が担体に担持されて構成されてなるものを用いるようにしてもよい。触媒成分として、例えば、Au、Ag、Pt、Pd、Rhなどの貴金属、Mnなどの少なくとも1種類以上の金属、これらの金属を含有する合金若しくはこれらの金属の酸化物、又はこれらの2種類以上の混合物などを用いてもよい。触媒成分を担持する担体として、活性炭、酸化セリウム、ジルコニア、アルミナ、シリカ等から選ばれる1種類以上の金属酸化物又は該金属酸化物と金属の複合酸化物との混合物などを用いてもよい。また、吸着部21は、金属イオン交換ゼオライトと上記触媒成分が担持された担体からなる吸着材とを併用してもよい。
【0033】
このように、空気精製機13が、空気取入口24から通路23内に取り込まれた空気11A中のN2Oを吸着部21において除去し、空気出口25からN2Oが除去された精製空気12を希釈空気として排出することができる。よって、予めN2Oが除去された精製空気12を希釈空気として用い、排ガス14に混合することができるため、排ガス14中のN2Oの排出質量を計測する際、分析誤差を小さくし、より高精度に、排ガス14中のN2Oの排出質量を分析することができる。
【0034】
空気出口25は、主通路31に接続され、空気精製機13で精製された精製空気12を希釈空気として主通路31へ導入している。主通路31は、精製空気12を取り入れる取入口32と大気に開放する排出口33とを有し、取入口32と排出口33とを連通するように設けられている。取入口32は、空気精製機13の空気出口25から送風される精製空気12を取り込めるようにしている。また、空気精製機13は、精製空気12を、直接、主通路31に送風するようにしているが、空気精製機13と主通路31との間に接続通路等を介して主通路31に精製空気12を送風するようにしてもよい。
【0035】
主通路31の下流側には、精製空気12を下流側へ吸引するためのブロア34(CVS吸引装置)が配設され、取入口32から精製空気12を下流側へ吸引している。また、主通路31の上流側には、ゴミ除去のためのフィルター、サイクロン等を配設するようにしてもよい。
【0036】
主通路31は、排気接続管35と連結され、排気接続管35は車両に搭載されているエンジンからの排ガス14を大気に放出する排気管に着脱自在に接続されている。排ガス14中の計測対象成分の排出質量を測定している間、前記車両の前記エンジンから放出された排ガス14は排気接続管35を介して主通路31内の精製空気12と混合、希釈され、希釈排ガス15となる。
【0037】
またブロア34の上流側には、ベンチュリ41が設けられ、車両から排出される排ガスの計測対象成分の排出質量の測定を行う際、排ガス14と精製空気12とを適正な希釈率としている。ベンチュリ41は一定の流量で排ガス14と精製空気12とを混合した希釈排ガス15が主通路31内を流れるようにしている。
【0038】
また、CVS装置としては、定容量ポンプ方式(PDP方式)と臨界流量ベンチュリ方式(CFV方式)との二方式が採用されている。本実施の形態に係る排ガス計測装置10においては、ベンチュリ41を用いたCFV方式のCVS装置を採用しているが、CFV方式に代えて正置換型ポンプ(PDP)式のCVS装置を用いるようにしてもよい。
【0039】
また、ベンチュリ41の上流側には、サンプリングベンチュリ42が設けられ、主通路31の外部に配設した吸引ポンプ43の吸込力により、サンプリングベンチュリ42から希釈排ガス15を一定の流量で採集し、サンプルバッグ44に蓄えるようにしている。排ガス14中の計測対象成分の排出質量の測定を行っている間、排ガス14を精製空気12で希釈した希釈排ガス15をサンプルバッグ44内に蓄えて、希釈排ガス15中の測定対象成分の平均濃度を得るようにしている。
【0040】
また、主通路31の取入口32の下流側には、吸引ポンプ45で精製空気12だけを分岐通路46を通じ採集して希釈空気バッグ47に蓄えるようにしている。排ガス14中の計測対象成分の排出質量の計測を行っている間、精製空気12に残留しているCH4などのTHC、CO、NOx、N2Oなどの計測対象成分を蓄える。
【0041】
サンプルバッグ44、希釈空気バッグ47内の気体は、分析器48において分析されて、排ガス14中の測定対象成分の濃度が求められる。具体的には、分析器48において、サンプルバッグ44により採集された希釈排ガス15中のN2Oから、希釈空気バッグ47により採集された精製空気12中のN2Oを差し引いて、車両から排出された排ガス14中のN2Oの排出質量を求めることができる。
【0042】
また、サンプリングベンチュリ42の上流側には、排ガス14を供給していない場合に、主通路31内の精製空気12を一部抜出す精製空気採取通路49が設けられ、精製空気採取通路49より主通路31の外部に抜出した精製空気12を分析器48に送給する。分析器48には、精製空気12中のN2O濃度を測定するN2O分析計、THCなど他の計測対象成分に応じて各々の濃度を測定する分析計が設けられ、これらの分析計により精製空気12中のN2O濃度、他の計測対象成分の濃度を測定する。
【0043】
また、分析器48には、分析に用いられた精製空気12、希釈排ガス15をベンチュリ41より後流側の主通路31内に排出する排気通路が設けられている。分析器48で分析に用いられた精製空気12又は希釈排ガス15は、前記排気通路を介してベンチュリ41より後流側の主通路31内に送給される。
【0044】
(吸着材20の再生)
吸着材20は、吸着部21に供給される空気11Eの温度に応じて、空気11E中のN2Oの吸着と、吸着したN2Oの脱離との両方の機能を有している。温調部19は温調部19から排出される空気11Eの温度を調整可能としているため、上述のように、空気11Eの温度を低温又は常温にまで低下させて吸着部21に供給すると、吸着材20は空気11E中のN2Oを吸着することができる。吸着材20にN2Oが吸着されると、吸着材20のN2Oの吸着性能は徐々に低下するが、空気11Eの温度を上昇させて吸着部21に供給すると、吸着材20に吸着されているN2Oを脱離し、吸着材20を再生することができる。吸着材20から脱離したN2Oは吸着部21に供給される空気11Eに取り込まれ、吸着部21の外部に精製空気12に同伴させて排出することができる。
【0045】
吸着材20を再生する際、温調部19において温度設定を高温に設定し、吸着部21に供給される空気11Eを昇温させる。温調部19から排出される空気11Eの温度は、例えば、70℃以上、90℃以下、好ましくは75℃以上、85℃以下、更に好ましくは80℃前後とする。高温に加熱された空気11Eは、吸着部21において吸着材20に吸着されているN2Oを脱離して、吸着部21から精製空気12に同伴させて排出される。脱離したN2Oを同伴する希釈空気12は精製空気採取通路49から抜出され、分析器48において抜き出した精製空気12中の計測対象成分の濃度を連続分析する。
【0046】
分析器48において、精製空気12中のN2Oを含む全計測対象成分が、所定の濃度条件を満たしたら、吸着材20に吸着されているN2Oを脱離し、吸着材20を再生する操作を終了とする。
【0047】
吸着材20の再生を行う操作の終了は、以下のようにして行なわれる。まず、吸着材20に吸着されているN2Oの脱離を開始してから分析器48により所定時間(例えば、5分)以内に、精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度(例えば、0.6ppm)を越えているか否か判定する。精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度を超えた場合と、超えていない場合とに分けて吸着材20の再生の終了判定を行う。
【0048】
図2、3は、排ガス14中に含まれる計測対象成分として、N2Oの他に、THC、NOx、CO、CO2が含まれている場合の時間と濃度変化との関係を示す図であり、図2は、精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度を超えた場合の時間と計測対象成分の濃度変化との関係を示す図である。図2に示すように、吸着材20に吸着されているN2Oの脱離を開始してから分析器48により所定時間(例えば、5分)以内に、精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度(例えば、0.6ppm)を越えた場合、精製空気12中のN2Oの濃度が下がり再び所定濃度(例えば、0.6ppm)以下となる時点を測定する。次に、精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度(例えば、0.6ppm)以下となった時点から所定時間(例えば、5分)経過後に精製空気12中のTHC、NOx、CO2の濃度を測定する。次に、所定時間(例えば、5分)経過以降に、THC、NOxの濃度が0.2ppmC以下であり、COの濃度が0.5ppm以下であり、CO2の濃度が0.1%以下となった時、吸着材20に吸着されているN2Oの脱離を行なう操作を完了し、吸着材20の再生を終了する。尚、THC及びNOxの濃度はメタン換算ppm濃度(ppmC)により表示されるものである。
【0049】
また、図3は、精製空気12中のN2Oの濃度が所定濃度を越えていない場合の時間と計測対象成分の濃度変化との関係を示す図である。図3に示すように、吸着材20の再生を開始してから分析器48により所定時間(例えば、5分)以内に、精製空気12のN2Oの濃度が所定濃度(例えば、0.6ppm)を越えていない場合、更に所定時間(例えば、5分)経過後に精製空気12中のTHC、NOx、CO2の濃度を測定する。所定時間(例えば、5分)経過後以降に、THC及びNOxの濃度が0.2ppmC以下であり、COの濃度が0.5ppm以下であり、CO2が0.1%以下となった時、吸着材20に吸着されているN2Oの脱離を行なう操作を完了し、吸着材20の再生を終了する。
【0050】
吸着材20の再生を行なうことで、吸着材20のN2Oの吸着性能を維持することができ、吸着部21において空気11E中のN2Oを高い吸着率で繰り返し吸着することができる。これにより、排ガス14中のN2Oの排出質量の測定を行なう際、排ガス14には常時N2Oの低減された精製空気12を安定して混合し、排ガス14を希釈することができるため、精製空気12中のN2Oの影響を常時低減し、排ガス14中のN2Oの排出質量の測定を安定して行なうことができる。このため、排ガス14中のN2Oの排出質量の計測の誤差を常時小さくし、信頼性の高い分析結果を得ることができる。
【0051】
(試験例)
車両から排出される排ガス14中のN2Oの濃度を測定した時の試験結果の一例を以下に示す。図4は、本発明の実施の形態に係る排ガス計測装置を用いた時の希釈排ガス、精製空気、排ガスの各々のN2O濃度の測定結果の一例を示す図である。また、吸着部21には吸着材20を前段部と後段部とに分けて配置した。前記前段部には、SiO2/Al23モル比が小さいゼオライトを配置し、前記後段部には、前記前段部に配置したゼオライトよりもSiO2/Al23モル比が大きいゼオライトを配置した。
【0052】
図4に示すように、サンプルバッグ44で回収された希釈排ガス15のN2O濃度Aが0.15ppm程度であり、希釈空気バッグ47で回収された精製空気12のN2O濃度Bが0.05ppm程度であり、排ガス14中のN2O濃度(排ガス起因N2O濃度)Xが0.1ppm程度と求められた。
【0053】
希釈排ガス15と精製空気12とのN2O濃度の分析誤差が、絶対値で1%のRSであるとき、希釈排ガス15中のN2O濃度Aの分析誤差は0.0015ppm程度であり、精製空気12中のN2O濃度Bの分析誤差は0.0005ppm程度となった。このとき、排ガス起因N2O濃度Xにおける誤差の上限値及び下限値は、排ガス起因N2O濃度Xの値と、希釈排ガス15中のN2O濃度Aと精製空気12中のN2O濃度Bとの各々の分析誤差の上限値及び下限値により得られる正規分布に基づき、例えば、下記式のように算出された。
排ガス起因N2O濃度Xの上限値:0.1+(0.00152+0.000521/2・・・(1)
排ガス起因N2O濃度Xの下限値:0.1−(0.00152+0.000521/2・・・(2)
【0054】
このため、希釈排ガス15中のN2O濃度Aと精製空気12中のN2O濃度Bとの各々の分析誤差によるN2O濃度を統計的に加算すると、排ガス起因N2O濃度Xには0.0016ppm程度の分析誤差が生じ、排ガス起因N2O濃度Xの0.1ppmに含まれる誤差は、絶対値で1.6%程度の誤差となった。よって、図5に示すような従来の排ガス計測装置を用いて計測した場合に比べて約1/4程度にまで排ガス起因N2O濃度Xの測定誤差を低減することができた。
【0055】
このように、本実施の形態に係る排ガス計測装置10によれば、温調部19において吸着部21に送給される空気11Eの温度を調整可能とし、吸着部21において精製空気12中のN2Oを吸着材20で吸着すると共に、吸着材20に吸着したN2Oを脱離し再生することができる。このため、空気11A中のN2Oを排ガス14に混合する前に予め吸着材20で吸着し、排ガス14にはN2Oを除去した精製空気12を供給することができると共に、吸着材20を再生することで、吸着材20はN2Oの吸着性能を維持することができるので、吸着部21は精製空気12中のN2Oを高い吸着率で繰り返し吸着することができる。
【0056】
よって、排ガス14中のN2Oの排出質量を計測する際、排ガス14には常時N2Oの低減された精製空気12を安定して供給することで、精製空気12中のN2Oによる影響を低減し、排ガス14中のN2Oの排出質量の測定を安定して行なうことができるため、排ガス14中のN2Oの排出質量の計測の誤差を常時小さくすることができる。従って、排ガス14中のN2Oの排出質量の分析誤差を小さくし、より高精度に排ガス14中のN2Oの排出質量の分析を行うことが可能となり、信頼性の高い分析結果を得ることができる。
【0057】
本実施の形態に係る排ガス計測装置10においては、検査対象として車両からの排ガス中の計測対象成分の重量を求める排ガス計測装置を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両以外から排出される排ガス中の成分の重量を求める計測装置についても同様に用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明に係る排ガス計測装置は、予めN2Oを除去した精製空気を用いて排ガスを希釈するので、排ガス中のN2Oの排出質量の計測を行う排ガス計測装置に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0059】
10 排ガス計測装置
11A〜11E 空気
12 精製空気
13 空気精製機
14 排ガス
15 希釈排ガス
16 加熱部
17 触媒
18 触媒部
19 温調部
20 吸着材
21 吸着部
22 熱交換部
23 通路
24 空気取入口
25 空気出口
31 主通路
32 取入口
33 排出口
34 ブロア(CVS吸引装置)
35 排気接続管
41 ベンチュリ
42 サンプリングベンチュリ
43、45 吸引ポンプ
44 サンプルバッグ
46 分岐通路
47 希釈空気バッグ
48 分析器
49 精製空気採取通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の空気を取り込んで精製した精製空気を希釈空気として送風する空気精製機を有し、検査対象から排出される排ガスを前記精製空気と混合、希釈した希釈排ガスの排出質量を計測し、前記排ガスから排出される計測対象成分の排出質量を求める排ガス計測装置において、
前記空気精製機が、
取り込んだ空気を加熱する加熱部と、
加熱された空気中の計測対象成分を除去する触媒が備えられている触媒部と、
加熱された空気の冷却又は加温を行なう温調部と、
冷却された空気中の少なくとも一酸化二窒素を吸着し、除去する吸着材が備えられている吸着部と、
を有することを特徴とする排ガス計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−243238(P2010−243238A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90040(P2009−90040)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】