説明

樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法

【課題】樹脂被覆金属部材における被覆層の厚さなどの被覆状態を、簡易に且つ正確に測定することが可能な樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法を提供する。
【解決手段】樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法は、次の工程を備える。金属粉末を含有する金属ペーストを用意する準備工程。樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布する塗布工程。樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布した状態で、X線CT装置により樹脂被覆金属部材の断層像を得る撮影工程。断層像から、基材の表面の基材輪郭線、及び金属ペーストの表面のペースト輪郭線をそれぞれ抽出し、基材輪郭線とペースト輪郭線とに挟まれる領域を被覆層と仮定して、被覆層の被覆状態を計測する測定工程。ただし、基材を構成する金属、及び金属粉末の金属はいずれも、遷移金属及び卑金属の群(但し、Alを除く)から選択される少なくとも一種の金属である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属からなる基材の表面に樹脂からなる被覆層を有する樹脂被覆金属部材における被覆層の被覆状態を測定する方法に関する。特に、X線CT装置を用いて、被覆層の厚さなどの被覆状態を簡易に且つ正確に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種部品の検査に、産業用のX線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)装置が利用されている(例えば、特許文献1、2参照)。X線CT装置を用いることで、得られた断層像から、各種部品の内部欠陥などを非破壊で高精度に検査することができる。
【0003】
一方、金属導体の表面に絶縁樹脂からなる被覆層を有する樹脂被覆金属導体(例、エナメル線)が知られている。このような樹脂被覆金属導体は、モータや変圧器などの巻線(コイル)として広く使用されている。
【0004】
樹脂被覆金属導体では、被覆層の厚さが不均一な場合、所定の電気絶縁性が得られない虞があり、被覆層の厚さなどの被覆状態を測定することは重要である。そこで、従来、樹脂被覆金属導体を切断・研磨して断面試料を作製し、光学顕微鏡を用いた断面観察により、被覆層の厚さを測定・評価することが行われている。
【0005】
また、例えば特許文献3には、被覆金属線の被覆厚測定装置が開示されている。この文献には、被覆金属線の周囲に渦電流式変位センサを配置し、被覆金属線の表面から被覆金属線の芯線までの距離を測定することで、被覆金属線の被覆厚を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001‐153818号公報
【特許文献2】特開2007‐285973号公報
【特許文献3】特開2010‐101833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線CT装置を用いることで、部品の内部状態を非破壊で観察することができ、簡易にかつ正確に検査・測定することができる。しかし、従来、金属からなる基材の表面に樹脂からなる被覆層を有する部材において、X線CT装置を用いて、被覆層の被覆状態を測定することは、提案されていない。また、上述したような光学顕微鏡を用いた断面観察により被覆層の被覆状態を測定する方法は、研磨作業が必要であるため、前処理が煩雑であり、作業に時間がかかる。
【0008】
特許文献3に記載された技術では、渦電流式変位センサを用いることから、被覆金属線の芯線(基材)の材質が制約される。また、複数の渦電流式変位センサを用いる必要があり、これら変位センサによって測定された芯線までの距離に基づいて、被覆厚を算出する演算が煩雑である。さらに、被覆の任意の複数箇所を高精度に測定することが難しく、渦電流式変位センサと被覆金属線との距離によって精度に影響を及ぼすなど、正確性に欠ける。その他、芯線、及び被覆金属線の断面形状が円形状であることが前提である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、樹脂被覆金属部材における被覆層の厚さなどの被覆状態を、X線CT装置を用いて、簡易に且つ正確に測定することが可能な樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、以下の知見を見出した。
【0011】
本発明者らは、X線CT装置を用いて、銅線の表面に絶縁樹脂(ポリアミドイミド樹脂)を被覆した樹脂被覆金属導体(所謂エナメル線)を撮影し、その断層像を観察した。その結果、銅線の表面の輪郭線は明確であったが、被覆層の表面の輪郭線は明確ではなく、被覆層が不鮮明であった(図4参照)。したがって、樹脂被覆金属導体における被覆層の厚さなどの被覆状態を測定することは、極めて困難又は不可能であった。特に、金属導体(基材)の断面形状が矩形状の樹脂被覆金属導体(樹脂被覆金属部材)の場合、金属導体の角部近傍における被覆層の輪郭を認識することが難しい。
【0012】
これは、金属(Cu)と樹脂(ポリアミドイミド樹脂)では、X線吸収量が大きく異なり、その関係が相対的に金属≫樹脂>空気となるため、銅線に合わせてコントラストを調整したことで、X線吸収量が相対的に近い被覆層と空気とのコントラストの差が小さい。そのため、被覆層が不鮮明であり、被覆層の表面の輪郭線、即ち被覆層と空気との境界面の輪郭線がはっきりしないことが原因と考えられる。
【0013】
一方、被覆層に合わせてコントラストを調整した場合は、金属部分でハレーションを起こし、銅線の表面の輪郭線、即ち銅線と被覆層との境界面の輪郭線が不明確になることから、やはり被覆層の被覆状態を測定することは難しい。
【0014】
さらに、得られた断層像に対し、例えばBHC(Beam Hardening Correction:ビームハードニング補正)による画像処理を施したとしても、被覆層が不鮮明になる原因はコントラストの問題であるので、効果はない(図5参照)。また、この場合では、被覆層のコントラストも低減することから、却って被覆層がより不鮮明になる。
【0015】
本発明者らは、以上の知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法は、金属からなる基材の表面に樹脂からなる被覆層を有する樹脂被覆金属部材における被覆層の被覆状態を測定する樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法であって、次の工程を備えることを特徴とする。
金属粉末を含有する金属ペーストを用意する準備工程。
樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布する塗布工程。
樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布した状態で、X線CT装置により樹脂被覆金属部材の断層像を得る撮影工程。
断層像から、基材の表面の基材輪郭線、及び金属ペーストの表面のペースト輪郭線をそれぞれ抽出し、基材輪郭線とペースト輪郭線とに挟まれる領域を被覆層と仮定して、被覆層の被覆状態を計測する測定工程。
ただし、基材を構成する金属、及び金属粉末の金属はいずれも、遷移金属及び卑金属の群(但し、Alを除く)から選択される少なくとも一種の金属である。
【0017】
樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布することで、金属ペーストが樹脂被覆金属部材の表面に密着した状態、即ち被覆層の輪郭に沿って密着した状態となる。そして、樹脂被覆金属部材の表面に金属ペーストを塗布した状態で、X線CT装置により断層像を撮影することで、得られた断層像において、金属からなる基材、及び金属ペーストが鮮明に表示される。つまり、基材の表面の基材輪郭線、及び金属ペーストの表面のペースト輪郭線がそれぞれ明確であり、断層像から抽出することができる。また、金属ペーストが被覆層の輪郭に沿って密着していることから、金属ペーストの表面のペースト輪郭線は、被覆層に密着している部分において、金属ペーストと被覆層との境界面の輪郭線であり、被覆層の表面の輪郭線の一部ということもできる。よって、基材輪郭線とペースト輪郭線とに挟まれる領域を被覆層と仮定すれば、被覆層が不鮮明であっても、被覆層の被覆状態を簡易に且つ正確に測定することができる。
【0018】
本発明によれば、次の効果が期待できる。従来の光学顕微鏡を用いた断面観察を行う場合に比較して、研磨などの前処理の必要がなく、作業時間を短縮できる。X線CT装置による断層像を用いることから、従来の渦電流式変位センサを用いる場合に比較して、基材の材質や、基材及び樹脂被覆金属部材(被覆層)の断面形状に制約されることが少ない。また、被覆層の被覆状態の測定は、断層像から容易に計測することができる。さらに、断層像を用いているため、被覆層の任意の複数箇所を高精度に測定することが容易であり、正確性も高い。ここで、基材及び樹脂被覆金属部材の断面形状としては、例えば、円形状、楕円形状、矩形状、多角形状、環形状や、星形、十字形、歯車形といった複雑多角形状などが挙げられる。
【0019】
本発明において、基材を構成する金属、及び金属粉末の金属はいずれも、遷移金属及び卑金属の群(但し、Alを除く)から選択される少なくとも一種の金属である。なお、本発明では、遷移金属とは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hgの群から選択される金属のことを指す。卑金属には、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、Biの7種の金属が含まれ、本発明でいう卑金属とは、Alを除く、Ga、In、Sn、Tl、Pb、Biの6種の金属のことを指す。また、これら金属を主として含有する合金やセラミックスであってもよい。これら金属の中でも、比重が4以上、特に5以上、さらには7以上の金属が好ましい。一般的に比重が重い金属ほど、X線吸収量が大きいため、基材がこのような金属からなる場合、本発明の効果を顕著に得ることができる。基材を構成する金属のより具体的な例としては、Fe、Cu、Ni、Pd、Ag、Sn、W、Au、Pbが挙げられる。
【0020】
被覆層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、液晶ポリマーなどが挙げられる。
【0021】
金属ペーストは、金属粉末を含有するペースト状のものであり、ペースト状であることで、樹脂被覆金属部材(被覆層)の断面形状にほぼ関係なく、樹脂被覆金属部材の表面に密着させることができる。金属ペーストは、例えば、金属粉末とバインダーとを混合し、その混合物を溶剤でペースト状にすることで得ることができる。このような金属ペーストは、樹脂被覆金属部材の表面に塗布した後、大気中で溶剤を揮発させることで、表面に固着することができ、加熱などの必要がないので、樹脂被覆金属部材に影響を与えることも少ない。この金属ペーストのバインダーとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂など、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンなどがそれぞれ挙げられる。金属ペーストは市販のもの(例えば、銀ペーストなどの導電性接着剤)を使用してもよい。
【0022】
金属粉末の金属のより具体的な例としては、Fe、Cu、Ni、Pd、Ag、Sn、W、Au、Pbが挙げられる。また、金属粉末の粒径や形状は、特に限定されるものではなく、代表的な形状としては、例えば、球状、フレーク状などが挙げられる。金属粉末の粒径は、樹脂被覆金属部材(被覆層)の輪郭に沿って密着させ易いように、ある程度小さい方が好ましく、適宜選択すればよい。好ましくは、金属粉末の金属には、基材を構成する金属とX線透過量(吸収量)の近似する金属を選択する。このような金属を選択することで、断層像のコントラストを調整して、基材及び金属ペーストを鮮明に表示させることができるので、被覆層の輪郭(基材と被覆層との境界面、及び金属ペーストと被覆層との境界面)を認識し易くなる。金属粉末の金属としては、適度なX線透過量(吸収量)を有するAgが好適である。
【0023】
樹脂被覆金属部材の表面に塗布する金属ペーストの厚さは、10μm以上とすることが好ましい。金属ペーストを厚さ10μm以上塗布することで、金属ペーストを樹脂被覆金属部材(被覆層)の表面に確実に塗布し易く、金属ペーストの表面のペースト輪郭線(金属ペーストと被覆層との境界面の輪郭線)をより抽出し易い。特に、金属ペーストの厚さは、金属粉末の金属の種類に応じて適宜設定することが好ましく、X線吸収量が大きい(即ち比重が重い)ほど薄く、X線吸収量が小さい(即ち比重が軽い)ほどある程度厚くすることが好ましい。また、金属ペーストの厚さを0.5mm以上に厚くしても特段の効果は期待できず、厚くし過ぎると樹脂被覆金属部材の内部までX線が透過しない虞がある。したがって、金属ペーストの厚さの上限は、0.5mm程度とすることが挙げられる。
【0024】
金属ペーストの塗布は、塗り付け、吹き付け、噴霧、浸漬などの適宜な手段を用いることができる。また、金属ペーストを塗布する際、塗布した金属ペースト内に気泡が残存しないように、減圧雰囲気で行ってもよい。
【0025】
本発明における被覆層の被覆状態とは、被覆層の幾何学的な情報のことであり、より具体的には、被覆層の厚さ、輪郭、表面粗さ、面積などを挙げることができる。
【0026】
本発明の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法のより具体的な態様としては、基材が金属導体であり、樹脂被覆金属部材が金属導体の表面に絶縁樹脂からなる被覆層を有する絶縁被覆金属導体(例えば、エナメル線)であることが挙げられる。このような樹脂被覆金属導体の場合、金属導体としては、例えば、銅線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、錫めっき銅線、金線、銀線、ニッケル線、ステンレス鋼線など、絶縁樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂などがそれぞれ挙げられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法は、X線CT装置を用いて、樹脂被覆金属部材における被覆層の被覆状態を簡易に且つ正確に測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施例1のX線CT断層像の写真である。
【図2】比較例1のX線CT断層像の写真である。
【図3】比較例2のX線CT断層像の写真である。
【図4】比較例3のX線CT断層像の写真である。
【図5】比較例4のX線CT断層像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法の実施形態を説明する。
【0030】
[実施形態1]
ここでは、断面矩形状の銅線の表面にポリイミド樹脂を被覆したエナメル線における被覆層の被覆状態を測定する場合を例に説明する。
【0031】
(実施例1)
Agの金属粉末とアクリル樹脂のバインダーとを混合し、その混合物をトルエンの溶剤でペースト状にした銀ペースト(藤倉化成株式会社製 導電性ペースト ドータイト(登録商標))を用意した。そして、上記したエナメル線を長さ約5cmに切り出した試料の表面にこの銀ペーストを塗布し、その後、大気中に放置して溶剤を揮発させ、塗布した銀ペーストを試料表面に固着させた。この例では、銀ペーストの塗布は、適宜な棒を用いて銀ペーストを試料表面に塗り付けることで行った。なお、試料表面に塗布(固着)した銀ペーストは、溶剤により溶解させることで回収することができる。
【0032】
次に、X線CT装置(株式会社島津製作所製 inpeXio SMX-225CT)を用いて、表面に銀ペーストが塗布された試料を撮影し、実施例1の断層像を得た。実施例1のX線CTによる断層像を図1に示す。この例では、X線CT装置の撮影条件は、X線管電圧:160kV、X線管電流:40μA、スライス厚:0.020mm、スライスピッチ:0.009mmとした。なお、実施例1の断層像では、銀ペーストに合わせてコントラストを調整しており、また、BHCによる画像処理を施していない。
【0033】
(比較例1)
厚さ約50μmの銅箔を用意し、実施例1と同じ試料の表面にこの銅箔を巻き付けた。そして、X線CT装置を用いて、表面に銅箔が巻き付けられた試料を撮影し、比較例1の断層像を得た。撮影に用いたX線CT装置、及び撮影条件は、実施例1と同様である。比較例1のX線CTによる断層像を図2に示す。なお、比較例1の断層像では、銅線に合わせてコントラストを調整している。
【0034】
(比較例2)
厚さ約10μmのアルミ箔を用意し、銅箔をアルミ箔に変更した以外は、比較例1と同様にして、X線CT装置により試料を撮影し、比較例2の断層像を得た。比較例2のX線CTによる断層像を図3に示す。
【0035】
(比較例3,4)
試料の表面に銀ペーストを塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、X線CT装置により試料を撮影し、比較例3の断層像を得た。比較例3のX線CTによる断層像を図4に示す。また、比較例3の断層像に対し、BHCによる画像処理を施した比較例4の断層像を図5に示す。なお、比較例3,4の断層像では、銅線に合わせてコントラストを調整している。
【0036】
<実施例1及び比較例1〜4の各評価>
図1に示す実施例1の断層像では、銅線(基材)、及び金属ペーストが鮮明であり、基材の表面の基材輪郭線、及び金属ペースト表面のペースト輪郭線が明確である。また、金属ペーストがエナメル線の表面に密着し、被覆層の輪郭に沿って密着している。したがって、実施例1の断層像から、基材輪郭線、及びペースト輪郭線をそれぞれ抽出し、両輪郭線に挟まれる領域を被覆層と仮定することで、被覆層が不鮮明であっても、被覆層の被覆状態を簡易に且つ正確に測定することができる。例えば、金属ペーストの表面(金属ペーストと被覆層との境界面)の輪郭線上の任意の点から、基材の表面(基材と被覆層との境界面)の輪郭線までの最短距離を計測することで、被覆層の厚さを測定することができる。その他、被覆層の輪郭や表面粗さを測定したり、被覆層の面積を測定することも可能である。
【0037】
これに対し、図2に示す比較例1の断層像では、銅箔が鮮明であるとはいうものの、銅箔がエナメル線の表面に密着せず、被覆層の輪郭に沿って密着していない。したがって、被覆層の被覆状態を正確に測定することができない。
【0038】
また、図3に示す比較例2の断層像では、比較例1と同様にアルミ箔がエナメル線の表面に密着せず、被覆層の輪郭に沿って密着していない。また、アルミ箔自体も不鮮明である。したがって、被覆層の被覆状態を正確に測定することができない。
【0039】
一方、図4に示す比較例3の断層像では、被覆層が不鮮明であり、被覆層の表面の輪郭線、即ち被覆層と空気との境界面の輪郭線が不明確であるので、被覆層の被覆状態を測定することが極めて困難である。また、図5に示す比較例4の断層像から、BHCによる画像処理を施しても、被覆層が不鮮明であり、被覆層自体のコントラストも低減していることが分かる。
【0040】
以上の結果から、本発明方法によれば、X線CT装置を用いて、金属からなる基材の表面に樹脂からなる被覆層を有する樹脂被覆金属部材における被覆層の被覆状態を簡易に且つ正確に測定することができる他、次の効果が期待できる。
【0041】
(1)従来の光学顕微鏡を用いた断面観察を行う場合に比較して、研磨などの前処理の必要がなく、作業時間を短縮できる。
(2)X線CT装置による断層像を用いることから、従来の渦電流式変位センサを用いる場合に比較して、基材の材質に制約されることが少なく、基材及び樹脂被覆金属部材(被覆層)の断面形状に制約されることもない。
(3)被覆層の被覆状態の測定は、断層像から容易に計測することができ、また、断層像を用いているため、被覆層の任意の複数箇所を高精度に測定することが容易であり、正確性も高い。
【0042】
また、本発明において、被覆層の被覆状態の測定は、断層像から作業者が被覆層の被覆状態を計測する他、断層像から画像処理により自動的に被覆層の被覆状態を計測してもよい。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、樹脂被覆金属部材の基材及び被覆層の材質や形状、並びに、金属ペーストに含有する金属粉末などの材質を適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法は、樹脂被覆金属部材おける被覆層の被覆状態を測定するのに利用することができ、例えば、エナメル線の製造工程の最終段階において、エナメル線の品質検査に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基材の表面に樹脂からなる被覆層を有する樹脂被覆金属部材における被覆層の被覆状態を測定する樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法であって、
金属粉末を含有する金属ペーストを用意する準備工程と、
前記樹脂被覆金属部材の表面に前記金属ペーストを塗布する塗布工程と、
前記樹脂被覆金属部材の表面に前記金属ペーストを塗布した状態で、X線CT装置により前記樹脂被覆金属部材の断層像を得る撮影工程と、
前記断層像から、前記基材の表面の基材輪郭線、及び前記金属ペーストの表面のペースト輪郭線をそれぞれ抽出し、前記基材輪郭線と前記ペースト輪郭線とに挟まれる領域を前記被覆層と仮定して、前記被覆層の被覆状態を計測する測定工程と、
を備えることを特徴とする樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法。
ただし、前記基材を構成する金属、及び前記金属粉末の金属はいずれも、遷移金属及び卑金属の群(但し、Alを除く)から選択される少なくとも一種の金属である。
【請求項2】
前記被覆層の厚さを測定することを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法。
【請求項3】
前記金属ペーストを前記樹脂被覆金属部材の表面に厚さ10μm以上塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法。
【請求項4】
前記金属ペーストを構成する前記金属粉末の金属が、Agであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法。
【請求項5】
前記基材が金属導体であり、
前記樹脂被覆金属部材が、前記金属導体の表面に絶縁樹脂からなる被覆層を有する絶縁被覆金属導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂被覆金属部材の被覆状態測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154906(P2012−154906A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16937(P2011−16937)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】