説明

蓄冷型空調装置

【課題】異なる複数の空間に快適な空調を提供する。
【解決手段】蓄冷型空調装置1は、いわゆるデュアルエアコンである。冷凍サイクル装置2は、主室である前席空間を空調する蓄冷蒸発器16と、副室である後席空間を空調する通常の蒸発器19とを備える。圧縮装置11がアイドルストップ制御のために停止しているとき、主室には蓄冷蒸発器16によって冷却された空気が供給される。このとき、冷媒は、冷凍サイクル装置2の高圧側から蒸発器19を通って蓄冷蒸発器16に流れ込む。したがって、副室には蒸発器19を通過する冷媒によって冷却された空気が供給される。このとき、蒸発器19を通る風量が抑制され、吹出温度の急上昇が抑制される。やがて蓄冷蒸発器16の冷却能力が低下すると、主室への吹出温度が上昇する。この上昇に応答して、圧縮装置11が再起動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調対象となる複数の空間に対応して複数の蒸発器を有し、それら蒸発器の少なくともひとつに蓄冷機能をもつ蓄冷型空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸発器に蓄冷材を設けることにより、冷凍サイクル装置を運転しているときに得られる低温を蓄え、冷凍サイクル装置が停止しているときには、この蓄えられた低温を利用する蓄冷型空調装置が知られている。例えば、特許文献1ないし特許文献6のような蓄冷型空調装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184478号公報
【特許文献2】特開2009−229014号公報
【特許文献3】特開2009−298390号公報
【特許文献4】特開2010−91250号公報
【特許文献5】特許4043776号
【特許文献6】特開平10−157449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、特許文献2、および特許文献3は、蓄冷熱交換器と蒸発器とを備える蓄冷型熱交換器を開示している。しかし、デュアルエアコンと呼ばれるような複数の空間を空調する空調装置への適用は開示されていない。また、これら特許文献1ないし特許文献3に記載の構成では、複数の空間のそれぞれに対応して蓄冷熱交換器と蒸発器との両方を設けることとなる。このため、安価な蓄冷型空調装置を提供することが困難であった。
【0005】
特許文献4は、蓄冷熱交換器によって複数の空間を空調する構成を開示している。しかし、この構成では、両方の空間に対応して、それぞれに蓄冷熱交換器を備えている。この構成では、2つ分の蓄冷熱交換器が必要となるという問題点があった。
【0006】
特許文献5は、通常の蒸発器と、蓄冷できる蒸発器とをもつ空調装置を開示している。しかし、これら2つの蒸発器は、ひとつの空気案内ダクト内に並列に配置されている。このため、複数の空間を空調することができない。
【0007】
特許文献6は、通常の蒸発器と、蓄冷できる蒸発器とをもつ空調装置を開示している。しかも、通常の蒸発器は運転室に対応して配置され、蓄冷できる蒸発器は仮眠室に対応して配置されている。しかし、特許文献4が開示する装置では、冷凍サイクル装置が停止している期間に、蓄冷できる蒸発器によって仮眠室を空調するだけである。そして、蓄冷できる蒸発器の低温がなくなっても、冷凍サイクル装置を再起動することはない。このため、室温を低下させることができなくなり、快適性が損なわれるという問題点があった。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる複数の空間に快適な空調を提供することができる蓄冷型空調装置を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、比較的簡単で安価な構成によって複数の空間に快適な空調を提供することができる蓄冷型空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、一時的に停止される圧縮装置(11)と、低温を蓄える蓄冷材(17)を備え、圧縮装置が運転されているときに冷媒によって空気を冷却するとともに蓄冷材に蓄冷し、圧縮装置が停止されているときに蓄冷材によって冷媒および空気を冷却する第1の蒸発器(16、316)と、圧縮装置が運転されているときに冷媒によって空気を冷却する第2の蒸発器(19、319)と、圧縮装置が停止されているときに、第2の蒸発器(19、319)を経由して、第1の蒸発器(16、316)に冷媒を流す放冷通路を形成する通路形成手段(21)と、第1の蒸発器または第2の蒸発器によって冷却され、主たる空調対象である主室に供給される空気の吹出温度(TF)に関連する指標を検出する温度センサ(25、26)と、温度センサにより検出された指標に基づいて、吹出温度が上限温度を超えることが判定されると圧縮装置を再起動する再起動手段(27a)とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、圧縮装置が一時的に停止されているときでも、第1の蒸発器は蓄冷材によって空気を冷却し、空調を継続する。また、圧縮装置が一時的に停止されているときには、蓄冷材によって第1の蒸発器内の冷媒が冷却される。これにより、第2の蒸発器を経由して第1の蒸発器へ冷媒が流れる。このため、圧縮装置が一時的に停止されているときでも、第2の蒸発器は空気を冷却し、空調を継続することができる。さらに、主室に供給される空気の吹出温度に関連する指標が検出され、この吹出温度に関連する指標に基づいて、吹出温度が上限温度を超えることが判定されると圧縮装置が再起動される。これにより、主室への吹出温度が過剰に上昇して、快適性が損なわれることを回避することができる。また、副室への吹出温度の上昇に応答して圧縮装置が再起動されることが回避される。したがって、過剰な頻度で圧縮装置が再起動されることが抑制される。この結果、一時的な圧縮装置の停止による利点を十分に引き出すことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、第2の蒸発器は、蓄冷材を持たない通常の蒸発器であることを特徴とする。この構成によると、第2の蒸発器に蓄冷材を設けることなく、圧縮装置が一時的に停止されているときでも、第2の蒸発器によって空気を冷却できる。したがって、簡単な安価な構成により複数の空間に快適な空調を提供することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、圧縮装置が停止されているときに、第2の蒸発器を通過する風量を抑制する風量抑制手段(27b、327b)を備えることを特徴とする。この構成によると、圧縮装置が一時的に停止されているときでも、第2の蒸発器によって冷却された空気の吹出温度の上昇を抑制することができる。第2の蒸発器は蓄冷材をもたない。しかし、第2の蒸発器を通過する風量を抑制することにより、第2の蒸発器によって冷却された空気の吹出温度を、蓄冷材をもつ第1の蒸発器によって冷却された空気の吹出温度に近づけることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、風量抑制手段(27b、327b)は、第2の蒸発器を通過する風量を、第1の蒸発器を通過する風量より小さくなるように抑制することを特徴とする。この構成によると、蓄冷材をもたない第2の蒸発器を通過する風量が、蓄冷材をもつ第1の蒸発器を通過する風量より小さくなるように抑制される。よって、第2の蒸発器によって冷却された空気の吹出温度を、第1の蒸発器によって冷却された空気の吹出温度に近づけることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、第1の蒸発器と第2の蒸発器とは、圧縮装置に対して並列に接続されており、第2の蒸発器の上流側に設けられた膨張弁(20)と並列に通路形成手段としてのバイパス通路(21)が設けられていることを特徴とする。この構成によると、圧縮装置が停止されているときに、第2の蒸発器の上流側に設けられた膨張弁が閉じても、バイパス通路によって、放冷通路を形成することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、第1の蒸発器は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、第2の蒸発器は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置されていることを特徴とする。この構成によると、前席空間を蓄冷材をもつ第1の蒸発器によって空調することができる。この結果、車両の前席空間に快適な空調を提供できる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、第1の蒸発器は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、第2の蒸発器は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置されていることを特徴とする。この構成によると、後席空間を蓄冷材をもつ第1の蒸発器によって空調することができる。この結果、車両の後席空間に快適な空調を提供できる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、第1の蒸発器によって空調される空間と、第2の蒸発器によって空調される空間とを選択的に主室に設定する切換手段(527c)を備えることを特徴とする。この構成によると、利用者の指示に応じて主室を選択することができる。この結果、利用者の利便性を向上することができる。
【0020】
請求項9に記載の発明は、圧縮装置は、車両の走行用の動力源でもあるエンジンによって駆動され、車両が一時停車したときにエンジンのアイドルストップのために一時的に停止されることを特徴とする。この構成によると、エンジンの燃料消費を節減するためにエンジンを一時的に停止することがあっても、車両の室内の空調を継続することができる。さらに、主室の快適性を損なうことなく、アイドルストップによる燃料消費の節減効果を引き出すことができる。
【0021】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の多室空調の運転状態を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の放冷運転状態を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の吹出温度の変化を示すグラフであって、4Aは圧縮装置の作動状態を示し、4Bは主室の吹出温度を示し、4Cは副室の吹出温度を示す。
【図5】本発明を適用した第2実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。
【図6】本発明を適用した第3実施形態に係る蓄冷型空調装置の多室空調の運転状態を示すブロック図である。
【図7】第3実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。
【図8】第3実施形態に係る蓄冷型空調装置の放冷運転状態を示すブロック図である。
【図9】第3実施形態に係る蓄冷型空調装置の吹出温度の変化を示すグラフであって、4Aは圧縮装置の作動状態を示し、4Bは主室の吹出温度を示し、4Cは副室の吹出温度を示す。
【図10】本発明を適用した第4実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。
【図11】本発明を適用した第5実施形態に係る蓄冷型空調装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明を適用した第1実施形態に係る蓄冷型空調装置1の多室空調の運転状態を示すブロック図である。蓄冷型空調装置1は、乗員室を空調する車両用空調装置である。蓄冷型空調装置1は、乗員室内に設定された異なる複数の空間を異なる温度に空調することができるデュアルエアコンと呼ばれる空調装置である。
【0025】
蓄冷型空調装置1は、空調対象となる空間に供給される空気を少なくとも冷却する冷凍サイクル装置2を備える。冷凍サイクル装置2は、複数の機器と配管とによって冷媒が循環する冷凍サイクルを構成している。冷凍サイクル装置2は、冷媒を吸引し、圧縮し、吐出する圧縮装置11を備える。圧縮装置11は、圧縮機12と、逆止弁13と、エンジン(ENG)14とを備える。圧縮機12は、冷凍サイクルの低圧側から冷媒を吸引し、圧縮して、高圧側に吐出する。逆止弁13は、圧縮機12の吸入部に設けられている。逆止弁13は、圧縮機12が停止しているときに高圧側から低圧側への冷媒の逆流を阻止する。
【0026】
エンジン14は、圧縮装置11の動力源である。エンジン14は、ベルト機構のような動力伝達機構を通して圧縮機12を駆動する。エンジン14は、車両の走行用の動力源でもある。圧縮装置11は、車両が一時停車したときにエンジン14のアイドルストップのために一時的に停止されることがある。
【0027】
冷凍サイクル装置2は、圧縮装置11から吐出された高圧冷媒から放熱させ、冷媒を冷却する放熱器15を備える。冷媒として凝縮性の冷媒が用いられる場合、放熱器15は凝縮器とも呼ばれる。
【0028】
冷凍サイクル装置2が提供する冷媒の通路は、圧縮機12と放熱器15とが配置された共通通路部分と、この共通通路部分に対して並列に設けられた複数の並列通路とを有している。冷凍サイクル装置2が提供する冷媒の通路は、放熱器15の下流において複数の並列通路に分岐している。複数の並列通路のそれぞれには、蒸発器が設けられている。複数の並列通路は、蒸発器の下流において合流している。合流した通路は、圧縮装置11に連通している。
【0029】
第1の並列通路には、蓄冷蒸発器16が設けられている。蓄冷蒸発器16は、第1の蒸発器とも呼ばれる。蓄冷蒸発器16は、冷媒の通路と、空気の通路とを備える。蓄冷蒸発器16は、冷媒と空気との間での熱交換を提供する。さらに、蓄冷蒸発器16は、低温を蓄える蓄冷材17を備える。蓄冷材17は、通路を流れる冷媒と直接的に、および/または間接的に熱交換可能に設けられている。蓄冷材17は、通路を流れる空気と直接的に、および/または間接的に熱交換可能に設けられている。蓄冷材17は、冷媒と熱交換することによって冷却されるように設けられている。蓄冷材17は、冷媒と空気との両方と直接的に、および/または間接的に熱交換することによって、その低温によって冷媒と空気との両方を冷却するように設けられている。蓄冷蒸発器16は、圧縮装置11が運転されているときに冷媒によって空気を冷却するとともに蓄冷材17に蓄冷する。蓄冷蒸発器16は、圧縮装置11が停止されているときに蓄冷材17によって冷媒および空気を冷却する。蓄冷蒸発器16の構造に関しては、特許文献4(特開2010−91250号)に開示された構成を採用することができ、その記載を参照により導入することができる。
【0030】
蓄冷蒸発器16は、乗員室のうちの主たる空調空間、すなわち主室に向けて供給される空気と熱交換するように配置されている。主室は、乗員室内における運転席空間、または客席空間である。この実施形態では、主室は、運転席空間、すなわち前席空間である。よって、蓄冷蒸発器16は、主室である前席空間を空調する主室用蒸発器でもある。
【0031】
冷凍サイクル装置2は、蓄冷蒸発器16と放熱器15との間に膨張弁18を備える。膨張弁18は、蓄冷蒸発器16の出口部位における冷媒過熱度を適正値に維持するように冷媒流量を調節する。膨張弁18は、温度感応型の膨張弁によって提供することができる。圧縮機12が停止すると圧縮機12の吸い込み側の圧力が上昇する。このため、圧縮機12が停止すると、膨張弁18は自動的に閉弁する。
【0032】
第2の並列通路には、通常の蒸発器19が設けられている。蒸発器19は、第2の蒸発器とも呼ばれる。蒸発器19は、蓄冷材を持たない。蒸発器19は、圧縮装置11が運転されるときに冷媒によって空気を冷却する。蓄冷蒸発器16は、蓄冷材17を備えるために、専用設計されたものである。しかし、蒸発器19は、広く多くの車両に搭載される他の形式の空調装置にも利用されているものである。この構成は、安価な冷凍サイクル装置2を提供するために貢献する。
【0033】
蒸発器19は、乗員室のうちの予備的な空調空間、すなわち副室に向けて供給される空気と熱交換するように配置されている。副室は、乗員室内における助手席空間、または後席空間、および/または飲料などの貯蔵空間でもよい。この実施形態では、副室は、後席空間である。よって、蒸発器19は、副室である後席空間を空調する副室用蒸発器でもある。
【0034】
冷凍サイクル装置2は、蒸発器19と放熱器15との間に膨張弁20を備える。膨張弁20は、蒸発器19の出口部位における冷媒過熱度を適正値に維持するように冷媒流量を調節する。膨張弁20は、温度感応型の膨張弁によって提供することができる。冷凍サイクル装置2は、膨張弁20と並列に設けられ、膨張弁20が閉じているときでも冷媒を流すことができるバイパス通路21を備える。バイパス通路21は、膨張弁20の弁部の上流と下流とを連通するブリードポートによって提供することができる。
【0035】
バイパス通路21とそれを区画する部材は、圧縮装置11が停止されているときに、蒸発器19を経由して、蓄冷蒸発器16に冷媒を流す放冷通路を形成する通路形成手段である。蓄冷蒸発器16と通常の蒸発器19とは、圧縮装置11に対して並列に接続されている。通常の蒸発器19だけに直列になるように、蒸発器19の上流側に膨張弁20が設けられている。この膨張弁20には、並列に通路形成手段としてのバイパス通路21が設けられている。この構成によると、圧縮装置11が停止されているときに、蒸発器19の上流側に設けられた膨張弁20が閉じても、バイパス通路21によって、放冷通路を形成することができる。
【0036】
冷凍サイクル装置2は、第2の並列通路に電磁弁22を備える。電磁弁22は、第2の並列通路における冷媒の流通を断続することができる。したがって、電磁弁22が開いているときには、第2の並列通路、およびそこに設けられた蒸発器19に冷媒が流れる。一方、電磁弁22が閉じているときには、第2の並列通路、およびそこに設けられた蒸発器19には冷媒が流れない。
【0037】
蓄冷型空調装置1は、主室に向けて、蓄冷蒸発器16を通して送風する送風機23を備える。蓄冷型空調装置1は、副室に向けて、蒸発器19を通して送風する送風機24を備える。蓄冷空調装置1は、蓄冷蒸発器16の下流に設けられた温度センサ25を備える。温度センサ25は、蓄冷蒸発器16によって冷却された空気の温度を検出する手段である。また、蓄冷蒸発器16によって冷却された空気の温度は、主室への吹出温度にも影響を与える。特に冷房時には、吹出温度は、蓄冷蒸発器16によって冷却された空気の温度にほぼ比例する。よって、温度センサ25は、主室への吹出温度に関連する指標を検出する手段でもある。蓄冷空調装置1は、蒸発器19の下流に設けられた温度センサ26を備える。温度センサ26は、蒸発器19によって冷却された空気の温度を検出する手段である。また、蒸発器19によって冷却された空気の温度は、副室への吹出温度にも影響を与える。特に冷房時には、吹出温度は、蒸発器19によって冷却された空気の温度にほぼ比例する。よって、温度センサ26は、副室への吹出温度に関連する指標を検出する手段でもある。
【0038】
蓄冷型空調装置1は、空調制御装置(ACU)27を備える。空調制御装置27は、蓄冷型空調装置1における複数のセンサ、スイッチなどの検出手段から信号を入力し、複数の電気機器などの駆動手段に制御信号を出力することにより蓄冷型空調装置1を制御する。空調制御装置27は、温度センサ25、26から吹出温度を示す信号を入力する。ここで、温度センサ25は、蓄冷蒸発器16によって冷却され、主たる空調対象である主室に供給される空気の吹出温度TFを検出する。空調制御装置27は、圧縮装置11から圧縮機12の運転、および停止を示す信号を入力する。空調制御装置27は、少なくとも、圧縮装置11、電磁弁22、および送風機24に制御信号を出力する。さらに、空調制御装置27は、送風機23、図示されない主室用の温水加熱装置、および副室用の温水加熱装置を制御する。
【0039】
空調制御装置27は、温度センサ25によって検出される主室への吹出温度TFに応答して、圧縮装置11の再起動を圧縮装置11に指令する再起動手段(RSM)27aを備える。再起動手段27aにより、吹出温度TFに関連する指標に基づいて、吹出温度TFが上限温度を超えることが判定されると圧縮装置11が再起動される。具体的には、吹出温度TFが所定の閾値温度を超えると圧縮装置11が再起動される。圧縮装置11の再起動は、エンジン14の再始動によって実行される。これに代えて、圧縮装置11の再起動は、エンジン14と圧縮機12との間の動力伝達機構の再接続によって実行されてもよい。この実施形態では、空調制御装置27は、温度センサ26によって検出される副室への吹出温度TRに応答して圧縮装置11の再起動を指令することはない。
【0040】
さらに、空調制御装置27は、放冷運転の期間中において蒸発器19を通る風量を抑制する風量抑制手段(VRM)27bを備える。風量抑制手段27bは、圧縮機12が停止している期間中の風量を通常時の風量より小さい量に抑制するように送風機24を制御する。通常時の風量は、例えば、副室の空調熱負荷に応じて設定される風量である。風量抑制手段27bは、圧縮機12が停止している期間中の風量(図3の運転状態における風量)を、通常時の風量(図1の運転状態における風量)より小さい量に抑制するように送風機24を制御することができる。風量抑制手段27bは、多室空調が選択されているときに、アイドルストップ制御のために圧縮機12が停止されると、蒸発器19を通過する風量が、蓄冷蒸発器16を通過する風量より小さくなるように送風機23、24を制御する。この構成によると、蓄冷材17をもたない蒸発器19を通過する風量が、蓄冷材17をもつ蓄冷蒸発器16を通過する風量より小さくなるように抑制される。よって、蒸発器19によって冷却された空気の吹出温度を、蓄冷蒸発器16によって冷却された空気の吹出温度に近づけることができる。
【0041】
エンジン14は、燃料の消費を抑制するために、自動的に停止され、自動的に再始動される。例えば、車両が交通信号において停車した場合に、エンジン14は自動的に停止され、運転者の所定の操作によって自動的に再始動される。このようなエンジン制御は、例えば、アイドルストップ制御、アイドリングストップアンドスタート制御とも呼ばれる。このようなエンジン2の自動停止再始動制御は、エンジン制御装置(ECU)28によって実行される。したがって、エンジン制御装置28は、圧縮装置11を自動的に停止させる停止手段を提供する。また、再起動手段27aからの指令に応答してエンジン14を再始動する場合、エンジン制御装置28は、再起動手段27aの一部として機能する。
【0042】
制御装置27、28は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置によって実行されることによって、制御装置をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置を機能させる。制御装置が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0043】
図1には、圧縮装置11を運転することによって、主室と副室との両方を空調するときの冷媒の流れと、空気の流れとが矢印によって図示されている。このとき、冷媒は、膨張弁18によって減圧され、蓄冷蒸発器16において蒸発する。この結果、冷媒は、運転席空間に供給される空気を冷却するとともに、蓄冷材17を冷却する。これにより、主室が空調されるとともに、蓄冷材17には冷温が蓄えられる。一方、開かれた電磁弁22を通過した冷媒は、膨張弁20によって減圧され、蒸発器19において蒸発する。この結果、冷媒は、後席空間に供給される空気を冷却する。これにより、副室が空調される。図示される運転状態は、主室および副室の両方を空調しながら蓄冷材17に蓄冷する第1の蓄冷運転状態と呼ばれる。
【0044】
蓄冷蒸発器16は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、通常の蒸発器19は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置されている。この構成によると、前席空間を蓄冷材をもつ蓄冷蒸発器16によって空調することができる。この結果、車両の前席空間に快適な空調を提供できる。
【0045】
図2は、第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。図中には、圧縮装置11を運転することによって、主室だけを空調するときの冷媒の流れと、空気の流れとが矢印によって図示されている。このとき、冷媒は、膨張弁18によって減圧され、蓄冷蒸発器16において蒸発する。この結果、冷媒は、運転席空間に供給される空気を冷却するとともに、蓄冷材17を冷却する。これにより、主室が空調されるとともに、蓄冷材17には冷温が蓄えられる。一方、電磁弁22は閉じられている。また、送風機24は停止している。この結果、蒸発器19には、冷媒も空気も流れない。図示される運転状態は、主室だけを空調しながら蓄冷材17に蓄冷する第2の蓄冷運転状態と呼ばれる。主室は運転席空間である。このため、冷凍サイクル装置2は、主室を空調するために運転される機会が多い。この実施形態では、蓄冷蒸発器16を主室に対応して設けているから、蓄冷材17に蓄冷される機会が多い。
【0046】
図3は、第1実施形態に係る蓄冷型空調装置の放冷運転状態を示すブロック図である。このとき、圧縮装置11は停止している。空調制御装置27は、エンジン制御装置28によってエンジン14が一時的に自動停止され、圧縮機12が停止している期間において、図示の運転状態を提供する。このとき、蓄冷蒸発器16においては、蓄冷材17に蓄えられた冷温によってそこを通過する空気が冷却される。この結果、蓄冷材17は、運転席空間に供給される空気を冷却する。これにより、主室が空調される。
【0047】
一方、蓄冷材17は、蓄冷蒸発器16を低温に維持しようとするから、蓄冷蒸発器16内に冷媒が凝縮してゆく。この結果、蓄冷蒸発器16の内部が低圧化され、冷凍サイクル装置2内の冷媒が蓄冷蒸発器16に吸入される。冷媒は、冷凍サイクル装置2の高圧部分から、電磁弁22、バイパス通路21、および蒸発器19を経由して、蓄冷蒸発器16に流入する。このとき、蒸発器19を流れる冷媒は、蒸発し、蒸発器19を低温に維持する。圧縮装置11が停止している状態であっても、蒸発器19は蓄冷材17の蓄冷量に応じた時間だけ副室に供給される空気を冷却する。図示される運転状態は、蓄冷材17の放冷によって主室および副室の両方を空調する放冷運転状態と呼ばれる。
【0048】
図4は、第1実施形態に係る蓄冷型空調装置1の吹出温度の変化を示すグラフである。図4Aは圧縮装置11の作動状態を示す。図4Bは主室の吹出温度TFを示す。図4Cは副室の吹出温度TRを示す。横軸は、時間である。圧縮機12が運転されているON状態では、吹出温度TF、TRは、低い温度に維持されている。
【0049】
時刻t1において車両が一時停車すると、エンジン制御装置28は、アイドルストップ制御のためにエンジン14を自動的に停止させる。これにより、圧縮機12も停止し、OFF状態となる。OFF状態においては、空調制御装置27は、図3の放冷運転状態によって蓄冷空調装置1を運転する。このとき、膨張弁18は、圧縮機12の停止による低圧圧力の上昇に応答して通路を閉じる。この結果、膨張弁18は、放熱器15の下流から蓄冷蒸発器16への直接的な連通を遮断する遮断手段を提供する。この結果、蓄冷材17が徐々に放冷する。時刻t1から、吹出温度TFは、実線で図示されるように、徐々に上昇する。しかし、蓄冷材17による冷却効果があるため、破線で図示されるように急激に上昇することがない。この結果、車両が一時停車している期間のうちの長い期間において吹出温度TFを所定の閾値温度として設定された上限温度TH以下に維持することができる。
【0050】
上限温度THは、冷房運転時において、車両の乗員が皮膚の温度感覚によって、温度の上昇を明確に感じ取り、不快感を訴える温度である。例えば、冷房時の上限温度は+15°C程度に設定することができる。
【0051】
一方、時刻t1から、副室の吹出温度TRも徐々に上昇する。このとき、冷媒は、冷凍サイクル装置2の高圧側から蒸発器19を通って蓄冷蒸発器16に流れ込む。したがって、蒸発器19にも冷媒が流れ、わずかに蒸発する。このため、吹出温度TRは、破線で示されるように急激に上昇することがない。風量抑制手段27bは、圧縮機12が停止している期間中の風量を通常時の風量より小さい量に抑制するように送風機24を制御する。圧縮機12が停止しているときに通常の風量を供給すると、吹出温度TRは、一点鎖線のように速く上昇する。しかし、風量を抑制することにより、吹出温度TRの上昇は、実線で図示されるように、さらにゆっくりになる。この結果、車両が一時停車している期間のうちの長い期間において吹出温度TRを所定の上限温度TH以下に維持することができる。
【0052】
ここで、空調制御装置27は、蒸発器19を通過する風量を所定の風量にするように送風機24を制御する風量抑制手段を備えることができる。抑制された所定の風量は、固定とすることができる。また、抑制された所定の風量は、可変とすることができる。例えば、通常時の風量の数十パーセントとすることができる。また、空調制御装置27は、吹出温度TRの上昇を、吹出温度TFの上昇と同程度に抑制するように、送風機24を制御する風量制御手段を備えることができる。
【0053】
やがて、時刻t2において、主室の吹出温度TFが上限温度THに到達する。空調制御装置27の再起動手段27aは、主室の吹出温度TFが上限温度THに到達したことを検出する検出手段を構成する。さらに、再起動手段27aは、吹出温度TFが上限温度THに到達すると、圧縮装置11を再起動する。ここでは、エンジン14を再始動させることにより、圧縮機12を再起動する。これにより、再び、圧縮機12が運転されているON状態となる。この結果、蓄冷蒸発器16と蒸発器19には、十分な量の冷媒が供給され、吹出温度TF、TRは、低い温度に向けて低下してゆく。
【0054】
この実施形態によると、主室に対応して蓄冷蒸発器16を設けた。これにより、圧縮装置11が一時的に停止されているときでも、蓄冷蒸発器16は蓄冷材17によって空気を冷却し、空調を継続する。また、副室に対応して蒸発器19を設けた。さらに、蓄冷蒸発器16における放冷運転時に、蒸発器19にも冷媒が流れるように冷凍サイクル装置2を構成した。具体的には、圧縮機12が停止されている時に、冷凍サイクル装置2の高圧側から蒸発器19を経由して蓄冷蒸発器16に到達できる冷媒の放冷通路を形成した。この通路には、バイパス通路21が含まれている。圧縮装置11が一時的に停止されているときには、蓄冷材17によって蓄冷蒸発器16内の冷媒が冷却される。これにより、蒸発器19を経由して蓄冷蒸発器16へ冷媒が流れる。このため、圧縮装置11が一時的に停止されているときでも、蒸発器19は空気を冷却し、空調を継続することができる。このような構成は、比較的安価な構成によって複数の空間に快適な空調を提供することを可能とする。
【0055】
さらに、主室の吹出温度TFに応答して圧縮装置11が再起動される。つまり、蒸発器19に起因する吹出温度TRの上昇に応答して圧縮装置11が再起動されない。このため、圧縮装置11の過剰な再起動を抑制することができる。しかも、吹出温度TFが上限温度THに到達すると圧縮装置11が再起動される。したがって、主室に快適な空調を提供することができる。エンジン14の燃料消費を節減するためにエンジン14を一時的に停止することがあっても、車両の室内の空調を継続することができる。さらに、主室の快適性を損なうことなく、アイドルストップによる燃料消費の節減効果を引き出すことができる。
【0056】
さらに、放冷運転においては、副室に送風する風量を抑制することによって、副室への吹出温度TRの上昇を抑制している。このため、副室を空調するために通常の蒸発器19を用いていても、吹出温度TRの急速な上昇を回避できる。この結果、副室においても急激な温度感覚の悪化を抑制することができる。
【0057】
(第2実施形態)
図5は、本発明を適用した第2実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。先行する実施形態においては、主室単独のための運転状態においては、電磁弁22を閉じて蒸発器19への冷媒供給を遮断した。これに代えて、電磁弁22を備えない構成を採用してもよい。この実施形態では、主室単独のための運転状態においては、空調制御装置27は送風機24を停止させる。このため、副室は空調されない。ただし、電磁弁22を備えないため、この運転状態においても、蒸発器19に冷媒が流れる。
【0058】
(第3実施形態)
図6は、本発明を適用した第3実施形態に係る蓄冷型空調装置1の多室空調の運転状態を示すブロック図である。図7は、第3実施形態に係る蓄冷型空調装置1の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。図8は、第3実施形態に係る蓄冷型空調装置1の放冷運転状態を示すブロック図である。図9は、第3実施形態に係る蓄冷型空調装置の吹出温度の変化を示すグラフである。図9Aは圧縮装置11の作動状態を示す。図9Bは主室の吹出温度TFを示す。図9Cは副室の吹出温度TRを示す。
【0059】
先行する実施形態では、主室に対応して蓄冷蒸発器16を設けた。これに代えて、この実施形態では、冷凍サイクル装置2は、主室に対応して通常の蒸発器319を備える。また、冷凍サイクル装置2は、副室に対応して蓄冷蒸発器316を備える。蓄冷蒸発器316は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、通常の蒸発器319は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置されている。この構成によると、後席空間を蓄冷材をもつ蓄冷蒸発器316によって空調することができる。この結果、車両の後席空間に快適な空調を提供できる。
【0060】
この実施形態でも、空調制御装置27は、主室への吹出温度TFに応答して圧縮装置11を再起動する再起動手段27aを備える。空調制御装置27は、放冷運転の期間中において蒸発器319を通る風量を抑制する風量抑制手段327bを備える。この実施形態によると、圧縮装置11の再起動は、主室に対応して設けられた通常の蒸発器319により冷却された空気の吹出温度TFに応答して実行される。具体的には、吹出温度TFが所定の上限温度を超えると圧縮装置11が再起動される。この実施形態でも、風量抑制手段327bによって主室へ送られる風量が抑制されるように送風機23が制御される。このため、主室への吹出温度TFの上昇がゆっくりに抑制される。吹出温度TFの上昇がゆっくりになるから、主室の乗員は、吹出温度の上昇を感じ取りにくい。言い換えると、主室の乗員が、温度感覚の悪化、すなわち冷房感の悪化を感じ取りにくくなる。この結果、主室に快適な空調を提供することができる。一方、副室においては、蓄冷蒸発器316によって空気が十分に冷却される。よって、副室にも快適な空調を提供することができる。
【0061】
この実施形態によると、副室に対応して蓄冷蒸発器316を設け、主室に対応して蒸発器319を設けた。さらに、蓄冷蒸発器316における放冷運転時に、蒸発器319にも冷媒が流れるように冷凍サイクル装置2を構成した。具体的には、圧縮機12の停止時に、高圧側から蒸発器319を経由して蓄冷蒸発器316に到達できる冷媒の放冷通路を形成した。この通路には、バイパス通路21が含まれている。このような構成は、比較的安価な構成によって複数の空間に快適な空調を提供することを可能とする。
【0062】
さらに、主室の吹出温度TFに応答して圧縮装置11が再起動される。つまり、副室の蓄冷蒸発器316に起因する吹出温度TRの上昇に応答して圧縮装置11が再起動されない。このため、圧縮装置11の過剰な再起動を抑制し、省エネルギーの効果を十分に引き出すことができる。しかも、吹出温度TFが上限温度THに到達すると圧縮装置11が再起動される。したがって、主室に快適な空調を提供することができる。
【0063】
さらに、放冷運転においては、主室に送風する風量を抑制することによって、主室への吹出温度TFの上昇を抑制している。このため、主室を空調するために通常の蒸発器319を用いていても、吹出温度TFの急速な上昇を回避できる。この結果、主室においても急激な温度感覚の悪化を抑制することができる。
【0064】
(第4実施形態)
図10は、本発明を適用した第4実施形態に係る蓄冷型空調装置の主室単独空調の運転状態を示すブロック図である。前の実施形態においては、主室単独のための運転状態においては、電磁弁22を閉じて蓄冷蒸発器316への冷媒供給を遮断した。これに代えて、電磁弁22を備えない構成を採用してもよい。この実施形態では、主室単独のための運転状態においては、空調制御装置27は送風機24を停止させる。このため、副室は空調されない。ただし、電磁弁22を備えないため、この運転状態においても、蓄冷蒸発器316に冷媒が流れる。よって、このときには、副室を空調することなく、蓄冷材17と冷媒とが熱交換し、蓄冷材17に低温が蓄えられる。
【0065】
(第5実施形態)
図11は、本発明を適用した第5実施形態に係る蓄冷型空調装置を示すブロック図である。先行する実施形態においては、乗員室の前席空間を主室とした。これに代えて、蓄冷蒸発器16によって空調される空間と、蒸発器19によって空調される空間とを選択的に主室に設定するように切換えてもよい。
【0066】
図示の例においては、切換スイッチ527cが設けられている。切換スイッチ527cは、再起動手段27aに入力される信号を、温度センサ25と、温度センサ26との間で切換えている。これにより、再起動手段27は、切換スイッチ527cによって選択された温度センサ25または温度センサ26のいずれかに応答して圧縮装置11を再起動する。例えば、再起動手段27は、切換スイッチ527cによって温度センサ25が選択されるときには、前席空間を主室に設定し、そこへの吹出温度TFが上限温度THに到達すると圧縮装置11を再起動する。このとき、風量抑制手段27bは、通常の蒸発器19を通過する風量を抑制する。また、再起動手段27は、切換スイッチ527cによって温度センサ26が選択されるときには、後席空間を主室に設定し、そこへの吹出温度TRが上限温度THに到達すると圧縮装置11を再起動する。このとき、温度センサ26は、蒸発器19によって冷却され、主たる空調対象である主室に供給される空気の吹出温度TRを検出する。このときも、風量抑制手段27bは、通常の蒸発器19を通過する風量を抑制する。
【0067】
切換スイッチ527cは、空調による快適性の維持を優先すべき空間を指定する優先スイッチとも呼ぶことができる。再起動手段27は、指定された空調空間への吹出温度が上限温度TH以下に維持されるように圧縮装置11を再起動する。切換スイッチ527cは、蓄冷蒸発器16によって空調される空間と、通常の蒸発器19によって空調される空間とを選択的に主室に設定する切換手段を提供している。この構成によると、利用者の指示に応じて主室を選択することができる。この結果、利用者の利便性を向上することができる。
【0068】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0069】
例えば、上記実施形態では、蓄冷蒸発器と通常蒸発器とを冷凍サイクルにおいて並列に配置した。これに代えて、蓄冷蒸発器と通常蒸発器とを冷凍サイクルにおいて直列に配置してもよい。また、上記実施形態では、動力源として、エンジン14を用いたが、電動機を用いてもよい。また、上記実施形態では、冷凍サイクル装置2は、冷凍運転のみを提供した。これに代えて、冷凍運転とヒートポンプ運転との両方が可能な冷凍サイクル装置を採用してもよい。また、冷凍サイクル装置2は、冷媒を貯留するレシーバ、および/またはアキュムレータを備えることができる。
【0070】
また、第3実施形態において、風量抑制手段327bを備えない構成を採用してもよい。この場合、吹出温度TF、TRは、図9に一点鎖線で示すように変化する。この構成では、蒸発器319を通過する風量が抑制されない。したがって、吹出温度TFは吹出温度TRより速く上昇する。やがて時刻t12において吹出温度TFが上限温度THを超えると、圧縮装置11が再起動される。この構成においても、主室の吹出温度TFの過剰な上昇を抑制しながら、主室の吹出温度TFと副室の吹出温度TRとの両方を上限温度THより低く維持することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、吹出温度に関連する指標として、蒸発器による冷却状態を示す指標でもある蒸発器の直後における空気の温度を採用した。これに代えて、吹出温度が上限温度を超えることを判定することができる種々の指標を採用することができる。例えば、吹出温度に関連する指標として、蓄冷蒸発器または通常の蒸発器の表面の温度を採用してもよい。この場合、熱交換用フィンの表面に設けた温度センサ、または冷媒チューブの表面に設けた温度センサにより蒸発器の表面温度を検出することができる。また、吹出温度に関連する指標として、蒸発器の内部における冷媒の低圧圧力を採用してもよい。この場合、蒸発器の内部、または蒸発器の下流における低圧配管内の冷媒圧力を検出する圧力センサにより低圧圧力を検出することができる。また、吹出温度に関連する指標として、蒸発器の内部における冷媒の温度、または蓄冷材の温度を採用してもよい。この場合、蒸発器の内部の代表的な位置における冷媒温度を検出する温度センサにより冷媒温度を検出することができる。また、蓄冷材の温度を検出する温度センサにより蓄冷材の温度を検出することができる。
【0072】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 蓄冷型空調装置
2 冷凍サイクル装置
11 圧縮装置
12 圧縮機
13 逆止弁
14 エンジン
15 放熱器
16 蓄冷蒸発器
17 蓄冷材
18 膨張弁
19 蒸発器
20 膨張弁
21 バイパス通路
22 電磁弁
23 送風機
24 送風機
25 温度センサ
26 温度センサ
27 空調制御装置
27a 再起動手段
27b 風量抑制手段
28 エンジン制御装置
316 蓄冷蒸発器
319 蒸発器
327b 風量抑制手段
527c 切換スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一時的に停止される圧縮装置(11)と、
低温を蓄える蓄冷材(17)を備え、前記圧縮装置が運転されているときに冷媒によって空気を冷却するとともに前記蓄冷材に蓄冷し、前記圧縮装置が停止されているときに前記蓄冷材によって冷媒および空気を冷却する第1の蒸発器(16、316)と、
前記圧縮装置が運転されているときに冷媒によって空気を冷却する第2の蒸発器(19、319)と、
前記圧縮装置が停止されているときに、前記第2の蒸発器(19、319)を経由して、前記第1の蒸発器(16、316)に冷媒を流す放冷通路を形成する通路形成手段(21)と、
前記第1の蒸発器または前記第2の蒸発器によって冷却され、主たる空調対象である主室に供給される空気の吹出温度(TF)に関連する指標を検出するセンサ(25、26)と、
前記センサにより検出された指標に基づいて、吹出温度が上限温度を超えることが判定されると前記圧縮装置を再起動する再起動手段(27a)とを備えることを特徴とする蓄冷型空調装置。
【請求項2】
前記第2の蒸発器は、前記蓄冷材を持たない通常の蒸発器であることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷型空調装置。
【請求項3】
前記圧縮装置が停止されているときに、前記第2の蒸発器を通過する風量を抑制する風量抑制手段(27b、327b)を備えることを特徴とする請求項2に記載の蓄冷型空調装置。
【請求項4】
前記風量抑制手段(27b、327b)は、前記第2の蒸発器を通過する風量を、前記第1の蒸発器を通過する風量より小さくなるように抑制することを特徴とする請求項3に記載の蓄冷型空調装置。
【請求項5】
前記第1の蒸発器と前記第2の蒸発器とは、前記圧縮装置に対して並列に接続されており、前記第2の蒸発器の上流側に設けられた膨張弁(20)と並列に前記通路形成手段としてのバイパス通路(21)が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の蓄冷型空調装置。
【請求項6】
前記第1の蒸発器は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、
前記第2の蒸発器は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の蓄冷型空調装置。
【請求項7】
前記第1の蒸発器は、車両の後席空間に吹出される空気を冷却するように配置され、
前記第2の蒸発器は、車両の前席空間に吹出される空気を冷却するように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の蓄冷型空調装置。
【請求項8】
前記第1の蒸発器によって空調される空間と、前記第2の蒸発器によって空調される空間とを選択的に前記主室に設定する切換手段(527c)を備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の蓄冷型空調装置。
【請求項9】
前記圧縮装置は、車両の走行用の動力源でもあるエンジンによって駆動され、前記車両が一時停車したときに前記エンジンのアイドルストップのために一時的に停止されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の蓄冷型空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−201249(P2012−201249A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68288(P2011−68288)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】