説明

ΔΣ変調器および信号処理システム

【課題】消費電力や回路規模の増加を伴うことなくΔΣ型変調器を提供する。
【解決手段】アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器INT11〜INT14と、積分器INT11の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器Quan11と、少なくとも初段の積分器INT14の入力側に量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用DA変換器DAC11と、最終段の積分器の入力段側に配置され前段の積分器の出力と少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器ADD11と、を有し、最終段の積分器は、積分容量と、第2の係数を持つ第2の抵抗とを含み、開ループ伝達関数の各次数の係数が、第1の抵抗の第1の係数と第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信における受信機をはじめとし、オーディオ機器や医療計測器等に応用される連続時間系ΔΣ変調器および信号処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1(A)および(B)は、一般的な連続時間系4次低域通過型ΔΣ変調器の概念図である。図1(A)がフィードバック(Feedback)型ΔΣ変調器を示し、図1(B)がフィードフォワード(Feed-forward)型ΔΣ変調器を示している。
【0003】
図1(A)のΔΣ変調器1Aは、積分器INT1,INT2,INT3,INT4、量子化器Quan、加算器ADD1,ADD2,ADD3,ADD4、およびデジタルアナログ(DA)変換器DAC1,DAC2,DAC3,DAC4により構成される。
図1(B)のΔΣ変調器1Bは、積分器INT1,INT2,INT3,INT4、量子化器Quan、加算器ADD1,ADD2、およびDA変換器DAC1により構成される。
【0004】
そして、図1において、uはアナログ入力信号を表し、vはデジタル出力信号を表している。a,a,aはそれぞれ帰還利得、またはフィードフォワード経路の利得を表し、Qは量子化器の実効利得を表している。積分器INT4へ帰還をかけているDA変換器DAC4、DAC1の利得は1としている。
このとき量子化器Quanにおいて発生する量子化雑音のデジタル出力信号vへの雑音伝達関数(NTF)は図1(A),(B)ともに、次の式(1)で表され、高域通過型の周波数特性を示す。
【0005】
【数1】

【0006】
つまり、ΔΣ変調器において帰還の効果により量子化器で発生する量子化雑音はノイズシェイピングを受け高周波数領域に移されることにより信号帯域内では高いSN比が得られる。
【0007】
図2は、ΔΣ変調器の要素ブロックである積分器の構成例を示す回路図である。
図3は、ΔΣ変調器の要素ブロックである加算器の構成例を示す回路図である。
【0008】
図2の積分器INTは、演算増幅器OTA(Operational Transconductance Amplifier)1、抵抗素子R、および容量Cを有する。
図3の加算器ADDは、演算増幅器OTA2、および抵抗素子R1,R2を有する。
【0009】
積分器INTの入出力間伝達特性は抵抗(R)と容量(C)を用いて、式(2)のように表される。
【0010】
【数2】

【0011】
同様に、加算器ADDの入出力間伝達特性は2つの抵抗R1,R2を用いて、式(3)のように表される。
【0012】
【数3】

【0013】
そして、図2および図3に示すように、積分器INTと加算器ADDはそれぞれ増幅器OTAを1つ用いて構成可能である。
また、積分器INTの直前に加算器ADDが存在する場合に限っては増幅器1つで積分器と加算器を合わせて実現することができる。
【0014】
図4は、2入力1出力の加算器と積分器を合わせた回路を示す図である。
この回路の出力電圧voutは、式(4)のように表すことができ、加算器と積分器を合わせた動作になることがわかる。
【0015】
【数4】

【0016】
図1のΔΣ変調器に着目すると、図1(A)のフィードバック型では全ての加算器が積分器の直前に置かれているため増幅器4つで変調器が構成できることがわかる。
一方で、図1(B)のフィードフォワード型では量子化器Quanの直前に置かれている加算器は積分器と合わせた回路にすることができないため増幅器が5つ必要になり消費電力および回路規模の増大に繋がる。
【0017】
増幅器が1つ余分に必要になることを避けるために量子化器直前の加算器を用いないフィードフォワード型のΔΣ変調器の構成が考えられる。
【0018】
図5は、図1(B)の変形として量子化器直前の加算器を用いないΔΣ変調器の構成を示す図である。
【0019】
図5のΔΣ変調器1Cにおいて、最終段の積分器INT1の手前で加算を行うので全ての帰還信号は2つの積分器を通ることになる。
積分器を2つ通ると次数が2次上がってしまうのでa1を含むフィードフォワード経路は定数ではなくsa1とし、微分特性を持たせることにより1次の係数を実現している。
【0020】
図6は、図5中の破線部分を実現する回路を示す図である。
【0021】
積分器INT4の出力から積分器INT1の入力へのフィードフォワード経路は対応する積分器を構成する増幅器OTAの入出力間を容量で結合することで実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】"A 100mW 10MHz-BW CT ΔΣ Modulator with 87dB DR and 91dBc IMD,"ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 498-499, Feb. 2008.。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、この回路2ではフィードフォワード容量Cffを追加したため積分器INT1に容量性の負荷が生じてしまい帯域を制限するため消費電力の増加を招く。
さらに、積分器INT4についても、積分器INT1の出力電圧がCffというアドミタンスにより変換された周波数の高い電流を入力できなければいけないため消費電力が増加する。
【0024】
上記の問題を避けるために、フィードフォワードとフィードバックを併用する技術が提案されている(非特許文献1参照)。
図7は、フィードバックとフィードフォワードを併用したΔΣ変調器を示す図である。
【0025】
図7のΔΣ変調器1Dでは、フィードフォワード型において必要となる量子化器直前の加算器をはずすことはできている代わりに、DA変換器が2つ必要になっているためやはり消費電力と回路規模が増大する。
【0026】
本発明は、消費電力や回路規模の増加を伴うことなくΔΣ型変調器および信号処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の観点のΔΣ変調器は、アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用DA変換器と、上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、上記最終段の積分器は、演算増幅器と、積分容量と、第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、上記演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される。
【0028】
本発明の第2の観点の信号処理システムは、アナログ信号処理系からのアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル(AD)変換機能を有するΔΣ変調器を有し、上記ΔΣ変調器は、アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用DA変換器と、上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、上記最終段の積分器は、演算増幅器と、積分容量と、第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、上記演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、消費電力や回路規模の増加を伴うことなくΔΣ型変調器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一般的な連続時間系4次低域通過型ΔΣ変調器の概念図である。
【図2】ΔΣ変調器の要素ブロックである積分器の構成例を示す回路図である。
【図3】ΔΣ変調器の要素ブロックである加算器の構成例を示す回路図である。
【図4】2入力1出力の加算器と積分器を合わせた回路を示す図である。
【図5】図1(B)の変形として量子化器直前の加算器を用いないΔΣ変調器の構成を示す図である。
【図6】図5中の破線部分を実現する回路を示す図である。
【図7】フィードバックとフィードフォワードを併用したΔΣ変調器を示す図である。
【図8】本第1の実施形態に係るΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
【図9】図8における第1の積分器の構成例を示す回路図である。
【図10】本第2の実施形態に係る遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
【図11】比較例である遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器を示す図である。
【図12】本第2の実施形態に係る遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の具体的な構成例を示す図である。
【図13】本第2の実施形態に係るNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
【図14】比較例であるNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器を示す図である。
【図15】本第3の実施形態に係るNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の具体的な構成例を示す図である。
【図16】本第4の実施形態に係る信号処理システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施形態を図面に関連付けて説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施形態
2.第2の実施形態
3.第3の実施形態
4.第4の実施形態
【0032】
<1.第1の実施形態>
[ΔΣ変調器の第1の概略構成]
図8は、本第1の実施形態に係るΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
【0033】
本第1の実施形態に係るΔΣ変調器10は、図8に示すように、第1の積分器INT11、第2の積分器INT12、第3の積分器INT13、第4の積分器14、および量子化器Quan11を有する。
ΔΣ変調器10は、第1の加算器ADD11、第2の加算器ADD12、およびフィードバックループに配置されるデジタルアナログ(DA)変換器DAC11を有する。
また、本第1の実施形態に係るΔΣ変調器10では、第4の積分器INT14の出力に係数a’が掛けられた後、経路信号として第1の加算器ADD11に入力されるようにフィードフォワード経路FFW11が形成されている。
同様に、本第1の実施形態に係るΔΣ変調器10では、第3の積分器INT13の出力に係数a’が掛けられた後、経路信号として第1の加算器ADD11に入力されるようにフィードフォワード経路FFW12が形成されている。
本第1の実施形態に係るΔΣ変調器10は、量子化器Quan11の出力を第1の加算器ADD11にフィードバックさせるDA変換器は配置されていない。
【0034】
図8において、uはアナログ入力信号を表し、Tuはアナログ信号の入力端子を表し、vはデジタル出力信号を表し、TVはデジタル信号の出力端子を表している。a’は第2の係数に相当し第1の積分器INT11の処理に適用される係数を表し、Qは量子化器Quan11の実効利得を表している。
DA変換器DAC11の利得は1に設定されている。
【0035】
ΔΣ変調器10において、第2の加算器ADD12の第1入力端子がアナログ信号の入力端子Tuに接続され、第2入力端子がDA変換器DAC11の出力に接続されている。
第2の加算器ADD12の出力が第4の積分器INT14の入力に接続されている。
第4の積分器INT14の出力が第3の積分器INT13の入力に接続され、かつ、係数a’のフィードフォワード経路FFW11を介して第1の加算器ADD11の第1の入力端子に接続されている。
第3の積分器INT13の出力が第2の積分器INT12の入力に接続され、かつ、係数a’のフィードフォワード経路FFW12を介して第1の加算器ADD11の第1の入力端子に接続されている。
第2の積分器INT12の出力が第1の加算器ADD11の第2の入力端子に接続され、第2の加算器ADD11の出力が第1の積分器INT11の入力に接続され、第1の積分器INT11の出力が量子化器Quan11の入力に接続されている。
量子化器Quan11の出力がデジタル信号の出力端子Tvに接続され、このデジタル信号はDA変換器DAC11に帰還(フィードバック)されている。
係数a’および数a’が第1の係数に相当する。
【0036】
表1は、本第1の実施形態に係る図8のΔΣ変調器10と比較例としての図7のΔΣ変調器1Dの開ループ伝達関数の各次数の係数を示している。
【0037】
【表1】

【0038】
本第1の実施形態に係るΔΣ変調器10では、図7のΔΣ変調器1Dと比較すると第1の積分器INT11の伝達特性として周波数に依存しない係数a’を用いている。
さらに図7中のa,aで表されるフィードフォワード係数をそれぞれ第1の係数a’,a’とし、図7のDAC1を不要として取り外している。
上述したように、表1は、図7に示すΔΣ変調器と本第1の実施形態に係る図8のΔΣ変調器それぞれの開ループ伝達関数の各次数の係数を示している。
図7のΔΣ変調器1Dと図8のΔΣ変調器10の各次数の係数が同じであれば両者は等価であると言える。
そこで、図8において各経路の係数を求めるためには図7(もしくは図5もしくは図1(B))の係数を元にして、次の式(5)で表される連立方程式の解を用いればよい。
【0039】
【数5】

【0040】
連立方程式を解くと各係数(a’a’a’)は3次方程式の解となる。
3次方程式の解は2つの共役な複素解と1つの実数解となるがこのうちの実数解を用いれば抵抗だけで実現可能である。抵抗は小さい面積で実現でき、電力も消費しないため図7の変調器と比べて低消費電力化と小面積化が達成できる。
【0041】
図9は、図8における第1の積分器の構成例を示す回路図である。
【0042】
図9の回路は、演算増幅器OTA11、抵抗Ra’,Ra’,Ra’,R4、および容量Cにより構成されている。
ここで抵抗Ra’が第2の抵抗に相当し、抵抗Ra’およびRa’が第1の抵抗に相当する。
演算増幅器OTA11の正側入力端子が抵抗Ra’を介して第4の積分器INT14の出力電圧Vint4の供給ラインに接続され、抵抗Ra’を介して第3の積分器INT13の出力電圧Vint3の供給ラインに接続されている。
さらに、演算増幅器OTA11の正側入力端子は抵抗R4を介して第2の積分器INT12の出力電圧Vint2の供給ラインに接続されている。
演算増幅器OTA11の正側入力端子と各Ra’,Ra’,R4との接続部により第1の加算器ADD11が形成されている。
演算増幅器OTA11の正側入力端子と出力端子間に抵抗Ra’と容量Cが直列に接続されている。
演算増幅器OTA11の負側入力端子は接地されている。
【0043】
図9において、抵抗Ra’とRa’は、回路構成上に通常配置されるもとから存在する抵抗の値を変更するだけであり、第1の積分器INT11を構成するには追加する素子はRa’だけでよい。
このとき式(5)の係数a’が正の数でないと負の抵抗が必要となり図9の回路が実現できないことになるが、係数a’が必ず正の数であることを以下のように示すことができる。
式(5)をa’について解くと、次のようになる。
【0044】
【数6】

【0045】
一方、3次方程式は2つの共役な複素解と1つの実数解なので解をそれぞれα±βiとγとおくと式(6)は、次の式(7)のように表せる。
【0046】
【数7】

【0047】
式(7)を展開して定数項(x)を求めると、次のようになる。
【0048】
【数8】

【0049】
ここで式(8)と式(6)の定数項と比較すると、次のようになる。
【0050】
【数9】

【0051】
は元にしたΔΣ変調器の1次の係数であり正の数である。また、αの2乗とβの2乗が正の数であることは自明である。これによりγは必ず正の数となり、抵抗を用いて図9の回路が実現可能である。
【0052】
<2.第2の実施形態>
[ΔΣ変調器の第2の概略構成]
図10は、本第2の実施形態に係る遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
図11は、比較例である遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器を示す図である。
【0053】
本第2の実施形態に係るΔΣ変調器10Aが第1の実施形態に係るΔΣ変調器10と異なる点は、以下の通りである。
ΔΣ変調器10Aは、第2のDA変換器DAC12を有し、量子化器Quan11の出力がDA変換器DAC12に帰還(フィードバック)され、DA変換器12の出力が第1の積分器INT11の入力側に接続されている。
DA変換器DAC12の利得はkに設定されている。
【0054】
[図10のΔΣ変調器の具体的構成]
図12は、本第2の実施形態に係る遅延補償のための帰還経路を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の具体的な構成例を示す図である。
【0055】
図12のΔΣ変調器10Aは、連続時間系4次ΔΣ変調器として形成されている。
【0056】
図12のΔΣ変調器10Aは、差動の入力信号を受信する回路として構成されている。
図12において、+uは正側アナログ入力信号を、−uは負側アナログ信号を、Voutはデジタル出力信号をそれぞれ表している。
【0057】
ΔΣ変調器10Aは、図12に示すように、第1のアナログ信号入力端子Tup、第2のアナログ信号入力端子Tum、入力抵抗R11,R12、デジタル信号の出力端子TVoutを有する。
ΔΣ変調器10Aは、第2のDA変換器DAC12の第1の出力端子TVDAC1に対して直列に接続された抵抗Ra01および容量Ca01、並びに、第2の出力端子TVDAC2に対して直列に接続された抵抗Ra02および容量Ca02を有する。
抵抗Ra01および抵抗Ra02が第3の抵抗に相当する。
ΔΣ変調器10Aは、第1のDA変換器DAC11の第1の出力端子TVDAC3に対し接続された抵抗RDAC1、並びに、第2の出力端子TVDAC4に対して接続された抵抗RDAC2を有する。
【0058】
ΔΣ変調器10Aは、第2の積分器INT12の出力部に、第1の加算器ADD11および、第2のDA変換器DAC12側の容量Ca01、並びに、容量Ca02に接続された抵抗R41,R42を有する。
ΔΣ変調器10Aは、第3の積分器INT13の出力部に、第2の積分器INT12の入力に接続された抵抗R31,R32を有し、かつ、フィードフォワード経路FFW12Aが接続されている。フィードフォワード経路FFW12Aには抵抗Ra’が接続されている。
ΔΣ変調器10Aは、第4の積分器INT14の出力部に、第4の積分器INT12の入力に接続された抵抗R21,R22を有し、かつ、フィードフォワード経路FFW11Aが接続されている。フィードフォワード経路FFW11Aには抵抗Ra’が接続されている。
【0059】
第1の加算器ADD11は、抵抗R41、抵抗Ra’、 抵抗Ra’、および容量Ca01の接続点により第1端子TADD1が形成され、抵抗R42、抵抗Ra’、 抵抗Ra’、および容量Ca02の接続点により第2端子TADD2が形成されている。
第2の加算器ADD12は、抵抗R11、抵抗RDAC1の接続点により第3端子TADD3が形成され、抵抗R12、抵抗RDAC2の接続点により第4端子TADD4が形成されている。
【0060】
第1の積分器INT11は、差動入出力の演算増幅器OTA11、および容量C41、C42、抵抗Ra’,Ra’を有する。
演算増幅器OTA11は、正負側入力端子(非反転入力端子+)が第1の加算器ADD11の第1端子TADD1に接続され、負側入力端子(反転入力端子−)が第1の加算器ADD11Aの第2端子TADD2に接続されている。
演算増幅器OTA11の正側出力端子が量子化器Quan11の正側入力端子に接続され、負側出力端子が量子化器Quan11の負側入力端子に接続されている。
そして、演算増幅器OTA11の負側出力端子と正側入力端子間に容量C41と抵抗Ra’が直列に接続されている。
演算増幅器OTA11の正出力端子と負側出力端子間に容量C42と抵抗Ra’が直列に接続されている。
【0061】
第2の積分器INT12は、差動入出力の演算増幅器OTA12、および容量C31、C32を有する。
演算増幅器OTA12は、正負側入力端子(非反転入力端子+)が抵抗R31に接続され、負側入力端子(反転入力端子−)が抵抗R32に接続されている。
演算増幅器OTA12の正側出力端子が抵抗R41に接続され、負側出力端子が抵抗R42に接続されている。
そして、演算増幅器OTA12の負側出力端子と正側入力端子間に容量C31が接続されている。
演算増幅器OTA12の正出力端子と負側出力端子間に容量C32が接続されている。
【0062】
第3の積分器INT13は、差動入出力の演算増幅器OTA13、および容量C21、C22を有する。
演算増幅器OTA13は、正負側入力端子(非反転入力端子+)が抵抗R21に接続され、負側入力端子(反転入力端子−)が抵抗R22に接続されている。
演算増幅器OTA13の正側出力端子が抵抗R31に接続され、負側出力端子が抵抗R32に接続されている。
そして、演算増幅器OTA13の負側出力端子と正側入力端子間に容量C21が接続されている。
演算増幅器OTA13の正出力端子と負側出力端子間に容量C22が接続されている。
【0063】
第4の積分器INT14は、差動入出力の演算増幅器OTA14、および容量C11、C12を有する。
演算増幅器OTA14は、正負側入力端子(非反転入力端子+)が第3端子TADD3に接続され、負側入力端子(反転入力端子−)が第4端子TADD4に接続されている。
演算増幅器OTA14の正側出力端子が抵抗R21に接続され、負側出力端子が抵抗R22に接続されている。
そして、演算増幅器OTA14の負側出力端子と正側入力端子間に容量C11が接続されている。
演算増幅器OTA14の正出力端子と負側出力端子間に容量C12が接続されている。
【0064】
このような構成を有する図12のΔΣ変調器10Aは、上述したように、連続時間系4次1ビットフィードフォワード型ΔΣ変調器として形成され、第2のDA変換器DAC12が最終段目の帰還DA変換器とループ遅延補償の役割を兼ねている。
【0065】
ところで、連続時間系のΔΣ変調器では量子化器出力からDA変換器の出力までの信号遅延が安定性を劣化させる。
これを補うために遅延補償のための0次(周波数特性に依存しない)の帰還経路を持たせる技術が知られている。
図11中のDA変換器DAC12Aが遅延補償のために追加した回路となっており量子化器Quan11の直前(入力段)の加算器を省略するためにDA変換器DAC12Aの利得をsa0とし微分特性をもたせている。
DA変換器DAC12Aの出力は第1の積分器INT11を通過し積分されるため結果的に量子化器Quan11の入力では周波数に依存しない帰還信号が得られる。
【0066】
図10および図12は、図11のΔΣ変調器に対して本技術を適用した概念図および具体的な回路図である。
図10および図12中の各次数の係数a’,a’とa’の導出は図8の場合と全く同じである。また、遅延補償のためのDA変換器DAC12の利得kは第1の積分器INT11の伝達関数の変更に伴って以下のようにする必要がある。
【0067】
【数10】

【0068】
これは、第1の積分器INT11に関する変更と同様に容量と直列に抵抗を追加するだけで簡単に行える。そのうえ、図5の変調器において問題であった容量により電圧電流変換された周波数成分の高い信号を低減させる効果もあるため第1の積分器INT11の要求仕様を緩和させることができる。
【0069】
<3.第3の実施形態>
[ΔΣ変調器の第3の概略構成]
図13は、本第2の実施形態に係るNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の概略構成を示す図である。
図14は、比較例であるNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器を示す図である。
【0070】
本第3の実施形態に係るΔΣ変調器10Bが第2の実施形態に係るΔΣ変調器10Aと異なる点は、以下の通りである。
ΔΣ変調器10Bは、遅延補償経路の第2のDA変換器をなくし、第3の積分器INT13と第2の積分器INT12との間の第3の加算器ADD13が配置されている。
そして、ΔΣ変調器10Bは、第3の積分器INT13の出力を利得a4をもって第4の積分器INT14の入力側に帰還させるフィードバック経路FDB11が形成されている。
さらに、ΔΣ変調器10Bは、第1の積分器INT11の出力を利得a5をもって第2の積分器INT12の入力側(第3の加算器ADD13)に帰還させるフィードバック経路FDB12が形成されている。
【0071】
[図13のΔΣ変調器の具体的構成]
図15は、本第3の実施形態に係るNTFに伝送零点を有する連続時間系4次ΔΣ変調器の具体的な構成例を示す図である。
【0072】
図15のΔΣ変調器10Bは、図12の回路の第2のDA変換器DAC12、抵抗Ra01および容量Ca01、並びに、抵抗Ra02および容量Ca02が配置されていない。
そして、図12の回路構成に、フィードバック経路FDB11およびFDB12が追加されている。
フィードバック経路FDB11には抵抗Raが接続され、フィードバック経路FDB12には抵抗Raが接続されている。
【0073】
図14はNTFに伝送零点を追加した連続時間系ΔΣ変調器を示している。
図14のΔΣ変調器は、第1の積分器INT11の出力から第2の積分器INT12の入力へ、同様に第3の積分器INT13の出力から第4の積分器INT14の入力へそれぞれ帰還をかけることにより共振器を作り全体として2つの伝送零点をつくっている。
これによりノイズシェイピング効果を高めることが可能となり、上記の遅延補償と合わせてΔΣ変調器の設計においては一般的な技術となっている。
【0074】
図13と図15はそれぞれ図14のΔΣ変調器に対して本技術を適用した概念図と回路図を示している。
図13中の各次数の係数a’,a’とa’の導出も図8の場合と全く同じである。
NTFに伝送零点を持たせた場合は本技術を適用する際に、第1の積分器INT11の出力から第2の積分器INT12の入力へ帰還をかけると次のようになる。
第1の積分器INT11に追加した抵抗Raの影響により共振器(図13中点線部)のクオリティファクターが低下し、ノイズシェイピング効果が薄れてしまう。
共振器のクオリティファクターを低下させないためには,図15に示す通り第1の積分器INT11中の容量C41と抵抗Ra’、並びに、容量C42とRa’の間の接続部(接続点)から第2の積分器INT12の入力部へ帰還をかける回路とすればよい。
【0075】
本実施形態によれば、無線通信における受信機をはじめとし、オーディオ機器や医療計測器等に応用される連続時間系ΔΣ型AD変換器において開ループ利得の1次の係数を与えるDA変換器を抵抗の追加、および値の変更により省略可能としている。
この技術を用いることで、消費電力や回路規模の増加などを全く伴わずにΔΣ変調器を構成することが可能である。
【0076】
<4.第4の実施形態>
図16は、本第4の実施形態に係る信号処理システムの構成例を示すブロック図である。
【0077】
本信号処理システム100は、第1から第3の実施形態に係るAD変換器として機能するΔΣ変調器10〜10Bが適用可能な信号処理システムとして形成されている。信号処理システム100としては、通信機の受信装置の信号処理システム等が例示される。
【0078】
本信号処理システム100は、アナログ信号処理回路110、AD変換器130、およびデジタル信号処理回路130を含んで構成されている。
信号処理システム100において、AD変換器130として、第1から第3の実施形態に係るAD変換器として機能するΔΣ変調器10〜10Bのいずれかが適用可能である。
【0079】
図16の信号処理システム100では、信号処理をできるだけデジタル信号処理回路130で行い、アナログ信号処理回路110の規模を小さくすることで、小型化・高効率化が見込める。
ここで、上記のようなシステムを実現する、すなわちアナログ信号処理回路110で行っていた信号処理をデジタル信号処理回路130で行うためには、できるだけ元の信号の情報を損なわずにAD変換することが必要になる。このため、高いSN比を持つAD変換器が必要となる。
【0080】
なお、上述した実施形態においては、概略構成としてシングル動作を例に説明したが、本技術は、シングル動作、差動動作のどちらでも適用可能である。
【0081】
本技術は、以下のような構成もとることができる。
(1)アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、
上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、
少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用DA変換器と、
上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、
上記最終段の積分器は、
演算増幅器と、
積分容量と、
第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、
演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、
開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される
ΔΣ変調器。
(2)上記最終段の積分器の入力側には抵抗を介して縦続接続される少なくとも2段の積分器と、
少なくとも初段の積分器の出力を上記第1の抵抗を介して上記最終段の積分器の入力側の上記加算器にフィードフォワードするフィードフォワード経路と、を含む
上記(1)記載のΔΣ変調器。
(3)上記最終段の積分器の入力側の上記加算器に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用の第2のDA変換器をさらに有する
上記(1)または(2)に記載のΔΣ変調器。
(4)上記第2のDA変換器の出力と上記最終段の積分器とを結合する容量と、
上記容量と直列に接続された第3の抵抗と、を有する
上記(3)記載のΔΣ変調器。
(5)上記最終段の積分器が共振器を形成し、
上記直列接続された積分容量と第2の抵抗の接続部が、上記量子化器の2段前の積分器の入力側にフィードバックされている
上記(1)または(2)記載のΔΣ変調器。
(6)アナログ信号処理系からのアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル(AD)変換機能を有するΔΣ変調器を有し、
上記ΔΣ変調器は、
アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、
上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、
少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用DA変換器と、
上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、
上記最終段の積分器は、
演算増幅器と、
積分容量と、
第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、
演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、
開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される
信号処理システム。
【符号の説明】
【0082】
10,10A,10B・・・ΔΣ変調器、DAC11,DAC12・・・DA変換器、INT11〜INT14・・・積分器、Quan11・・・量子化器、ADD11、ADD12,ADD13・・・加算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、
上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、
少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用デジタルアナログ(DA)変換器と、
上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、
上記最終段の積分器は、
演算増幅器と、
積分容量と、
第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、
上記演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、
開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される
ΔΣ変調器。
【請求項2】
上記最終段の積分器の入力側には抵抗を介して縦続接続される少なくとも2段の積分器と、
少なくとも初段の積分器の出力を上記第1の抵抗を介して上記最終段の積分器の入力側の上記加算器にフィードフォワードするフィードフォワード経路と、を含む
請求項1記載のΔΣ変調器。
【請求項3】
上記最終段の積分器の入力側の上記加算器に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用の第2のDA変換器をさらに有する
請求項2記載のΔΣ変調器。
【請求項4】
上記第2のDA変換器の出力と上記最終段の積分器とを結合する容量と、
上記容量と直列に接続された第3の抵抗と、を有する
請求項3記載のΔΣ変調器。
【請求項5】
上記最終段の積分器が共振器を形成し、
上記直列接続された積分容量と第2の抵抗の接続部が、上記量子化器の2段前の積分器の入力側にフィードバックされている
請求項2記載のΔΣ変調器。
【請求項6】
アナログ信号処理系からのアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル(AD)変換機能を有するΔΣ変調器を有し、
上記ΔΣ変調器は、
アナログ信号の入力に対して縦続接続された複数の積分器と、
上記最終段の積分器の出力信号を量子化してデジタル信号を出力する量子化器と、
少なくとも初段の上記積分器の入力側に、上記量子化器によるデジタル信号をアナログ信号に変換して供給するフィードバック用デジタルアナログ(DA)変換器と、
上記最終段の積分器の入力段側に配置され、当該最終段の積分器の前段の積分器の出力と、少なくとも他の経路から少なくとも一つの第1の係数を持つ第1の抵抗を介しての供給される少なくとも一つの経路信号とを加算する加算器と、を有し、
上記最終段の積分器は、
演算増幅器と、
積分容量と、
第2の係数を持つ第2の抵抗と、を含み、
上記演算増幅器の一入力端子と出力端子間に直列に上記積分容量と上記第2の抵抗が接続され、
開ループ伝達関数の各次数の係数が、上記第1の抵抗の第1の係数と上記第2の抵抗の第2の係数に応じて決定される
信号処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−160816(P2012−160816A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17648(P2011−17648)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】