説明

α―スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法

【課題】流下薄膜式反応器を用いて、色調に優れたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下である脂肪酸アルキルエステルを、着色抑制剤が存在しない条件下にて、流下薄膜式反応器を使用してスルホン化するスルホン化工程と、前記スルホン化工程で得られる生成物と、当該生成物の0.1〜10質量%の量の、前記脂肪酸アルキルエステルに難溶性の着色抑制剤とを、前記生成物が前記流下薄膜式反応器から排出されてから30分以内に接触させ、熟成処理を行う熟成工程と、前記熟成工程で得られる生成物に対して、炭素数1〜6のアルコールを用いてエステル化処理を行うエステル化工程と、前記エステル化工程で得られる生成物に対して中和処理を行う中和工程と、前記中和工程で得られる生成物を漂白する漂白工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α―スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルのスルホン化物の中和塩は、一般にα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩とも呼ばれ、耐硬水性、生分解性が良好であるうえ、洗浄力に優れ、皮膚にマイルドな界面活性剤であり、資源面からも再生可能な天然原料系でコスト的にも有利であり、地球環境保護の面からも重要視されている。
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法としては、脂肪酸アルキルエステルを、SOガス等を用いてスルホン化してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルを得、該α−スルホ脂肪酸アルキルエステルをアルカリによって中和する方法が一般的である。
脂肪酸アルキルエステルのスルホン化のメカニズムは、以下の反応スキームによって説明されている。まず脂肪酸アルキルエステルのアルコキシ基部分にSOが挿入され、SO一分子付加体が生成し、さらに、SO一分子付加体のα位にSOが導入されてSO二分子付加体が生成する。最後に、SO二分子付加体のアルコキシ基部分に挿入されたSOが脱離してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルが生成する。
上記スルホン化の反応スキームにおいては、SO二分子付加体の生成段階までは反応が速やかに進行するが、SO二分子付加体からのα−スルホ脂肪酸アルキルエステルの生成段階は反応速度が非常に遅い。そのため、現在、スルホン化を行った後に熟成工程を設けて、SO二分子付加体からのSOの脱離を促進することが行われている。
そして、生成したα−スルホ脂肪酸アルキルエステルをアルカリで中和することによって、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が製造されている。
【0003】
しかし、上述のようにして得られたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩には、通常、顕著な着色がある。着色は、洗浄剤としての用途においては、不都合である。
そこで、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の色調を改善するために、アルカリ中和工程の前または後に漂白処理を行うことが一般的に行われている。
また、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の色調を改善するために、着色抑制剤の存在下でスルホン化工程および/または熟成工程を行う方法も提案されている(たとえば特許文献1〜3参照)。着色抑制剤は、着色抑制効果に優れること、手間がかからないこと等の理由から、通常、スルホン化反応の初期段階から原料液中に添加されている。
【0004】
ところで、脂肪酸アルキルエステルのスルホン化方式としては、流下薄膜式反応器、いわゆるフィルムリアクターを用いる方式と、槽型の反応器を用いるバッチ式とがある。これらのうち、流下薄膜式反応器を用いる方式は、生産効率がよく、現在、世界で主流となっている。
【特許文献1】特開平9−216863号公報
【特許文献2】特開2001−2633号公報
【特許文献3】特開2001−64248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、流下薄膜式反応器を用いる場合、着色抑制剤を用いても、優れた色調のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を得ることは困難である。その原因としては、以下が挙げられる。すなわち、流下薄膜式反応器を用いる場合、通常、原料(脂肪酸アルキルエステル)を含有する原料液を流下させて薄膜を形成し、該薄膜とSOガス等とを接触させることによりスルホン化が行われる。着色抑制剤は、通常、原料液にほとんど溶解しないため、粒子状態で原料液中に分散する。そのため、スルホン化の前に着色抑制剤を原料液に添加すると、薄膜を形成するために細い隙間から原料を供給する際に、隙間部分で着色抑制剤粒子が詰まり閉塞する恐れがある。薄膜においても着色抑制剤の偏在により不均質な膜となり、十分な着色抑制効果が得られなくなる。
また、従来、スルホン化工程を行った後、熟成工程で着色抑制剤を添加しても、通常、充分な着色抑制効果は得られない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、流下薄膜式反応器を用いて、色調に優れたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料として、グリセリンおよびその含有量が所定量以下の脂肪酸アルキルエステルを用い、該脂肪酸アルキルエステルを、流下薄膜式反応器を用いてスルホン化した後、所定時間内に所定量の着色抑制剤と接触させて熟成を行うことにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下である脂肪酸アルキルエステルを、着色抑制剤が存在しない条件下にて、流下薄膜式反応器を使用してスルホン化するスルホン化工程と、
前記スルホン化工程で得られる生成物と、当該生成物の0.1〜10質量%の量の、前記脂肪酸アルキルエステルに難溶性の着色抑制剤とを、前記生成物が前記流下薄膜式反応器から排出されてから30分以内に接触させ、熟成処理を行う熟成工程と、
前記熟成工程で得られる生成物に対して、炭素数1〜6のアルコールを用いてエステル化処理を行うエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られる生成物に対して中和処理を行う中和工程と、
前記中和工程で得られる生成物を漂白する漂白工程とを有することを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法によれば、流下薄膜式反応器を用いて、色調に優れたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をより詳細に説明する。
<スルホン化工程>
まず、原料である脂肪酸アルキルエステルをスルホン化するスルホン化工程を行う。
本発明において、脂肪酸アルキルエステルとしては、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下のものを使用する必要がある。該含有量が0.5質量%以下であることにより、スルホン化工程における着色を効果的に抑制することができ、得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の色調が良好となる。脂肪酸アルキルエステル中のグリセリンおよびその誘導体の含有量は、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
グリセリンおよびその誘導体の含有量とは、脂肪酸アルキルエステル中の、グリセリンおよびその誘導体の合計量の割合(質量%)である。
グリセリンの誘導体としては、脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ジグリセリンエステル、脂肪酸トリグリセリンエステル等が挙げられる。
グリセリンおよびその誘導体の含有量は、たとえば、ガスクロマトグラフィーを用いて、「脂質分析法入門」学会出版センター、第226−228頁に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0009】
脂肪酸アルキルエステルとしては、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下のものであれば、市販のものを用いてもよく、合成したものを用いてもよい。また、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%超の脂肪酸アルキルエステルを、水等の、グリセリンおよびその誘導体を溶解する溶媒を用いて洗浄する等により、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下として用いてもよい。
【0010】
脂肪酸アルキルエステルとしては、ヨウ素価が0.5以下のものが好ましく、0.2以下のものがより好ましい。ヨウ素価が低いほど、スルホン化工程における着色を効果的に低減することができ、得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の色調が良好となる。また、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の臭気も抑制される。特にヨウ素価が0.2以下のものは、0.2を越えるものと比較して色調が特に良好となる。
【0011】
脂肪酸アルキルエステルとして、より具体的には、たとえば、下記一般式(I)で表される脂肪酸アルキルエステル(以下、脂肪酸アルキルエステル(I)ということがある。)が挙げられる。
【0012】
【化1】

[式中、Rは炭素数6〜24の直鎖または分岐鎖状のアルキル基またはアルケニル基を表し、Rは炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0013】
のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数8〜22であることが好ましく、炭素数10〜18であることがより好ましい。
のアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数8〜22であることが好ましく、炭素数10〜18であることがより好ましい。
としては、アルキル基が好ましい。すなわち、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、α−スルホ飽和脂肪酸アルキルエステル塩であることが好ましい。
のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数1〜3であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0014】
脂肪酸アルキルエステルの具体例としては、牛脂、魚油ラノリンなどから誘導される動物系油脂;ヤシ油、パーム油、大豆油などから誘導される植物系油脂;α−オレフィンのオキソ法から誘導される合成脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。より具体的には、ラウリン酸メチル、エチルまたはプロピル;ミリスチン酸メチル、エチルまたはプロピル;パルミチン酸メチル、エチルまたはプロピル;ステアリン酸メチル、エチルまたはプロピル;硬化牛脂脂肪酸メチル、エチルまたはプロピル;硬化魚油脂肪酸メチル、エチルまたはプロピル;ヤシ油脂肪酸メチル、エチルまたはプロピル;パーム油脂肪酸メチル、エチルまたはプロピル;パーム核油脂肪酸メチル、エチルまたはプロピルなどを例示することができる。
これらの脂肪酸アルキルエステルは、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
脂肪酸アルキルエステルのスルホン化は、着色抑制剤が存在しない条件下にて、流下薄膜式反応器を使用して行う。
流下薄膜式反応器としては、一般的にスルホン化反応に用いられているものが使用でき、たとえば2重円管型流下薄膜式反応器(ライオン(株)社製TOリアクターなど)、多管型流下薄膜式反応器(バレストラ社製など)等が挙げられる。
【0016】
脂肪酸アルキルエステルのスルホン化は、流下薄膜式反応器内において、脂肪酸アルキルエステルを含有する原料液と、SOを含有するSOガスとを接触させることにより行うことができる。
脂肪酸アルキルエステルをSOガスと接触させると、まず、脂肪酸アルキルエステルのアルコキシ基部分にSOが挿入されたSO一分子付加体が生成する。次に、SO一分子付加体のα位にSOが挿入され、SO二分子付加体が生成する。その後、SO二分子付加体のアルコキシ基部分からSOが脱離してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルが生成する。
前記脂肪酸アルキルエステル(I)を例に挙げてより具体的に説明すると、以下に示すように、脂肪酸アルキルエステル(I)から下記一般式(I’)で表されるSO一分子付加体(I’)が生成し、該SO一分子付加体(I’)から下記一般式(I”)で表されるSO二分子付加体(I”)が生成し、該SO二分子付加体(I”)から下記一般式(II)で表されるα−スルホ脂肪酸アルキルエステルが生成する。
【0017】
【化2】

[式中、RおよびRは、それぞれ、上記式(I)中のRおよびRと同じである。]
【0018】
このスルホン化の反応スキームにおいては、SO二分子付加体の生成段階までは反応が速やかに進行する。SO二分子付加体からのα−スルホ脂肪酸アルキルエステルの生成段階は反応速度が非常に遅く、この後、熟成工程を行うことにより、SO二分子付加体からのSOの脱離が促進される。
【0019】
SOガスとしては、脱湿空気または窒素などの不活性ガスにより、SO濃度1〜30容量%に希釈したSOガスが好適に用いられる。SO濃度が1容量%以上であると、SOガスの体積が適度な範囲内となり、容量の比較的小さい反応器を使用することができる。30容量%以下であると、スルホン化反応が過剰になりにくく、副生物の生成を抑制でき、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル等のスルホン化物の色調の劣化も防止できる。
SOガスの使用量は、当該SOガス中のSOの量が、脂肪酸アルキルエステルの1.0〜2.0倍モルとなる量が好ましく、1.1〜1.3倍モルとなる量がより好ましく、1.15〜1.25倍モルとなる量がさらに好ましい。1.0倍モル以上であると、スルホン化反応が充分に進行し、2.0倍モル以下であると、過剰なスルホン化反応を抑制でき、反応生成物の、局部熱に起因する着色を抑制できる。
【0020】
スルホン化反応における反応温度は、脂肪酸アルキルエステルが流動性を有する温度であればよく、一般に、脂肪酸アルキルエステルの融点から、該融点+70℃の範囲内の温度が適用される。たとえば上述した脂肪酸アルキルエステル(I)の場合は、反応温度は、通常、50〜120℃であることが好ましく、60〜90℃であることがより好ましい。反応圧は、大気圧〜50kPa(ゲージ)である。
反応時間は、5〜180秒が好ましく、5〜60秒がより好ましい。
【0021】
スルホン化反応後、生成物は、流下薄膜式反応器の出口(取り出し口)から排出される。
このとき、生成物は、通常、流下薄膜式反応器内のガスとともに排出されるため、排出後、サイクロン等の集塵装置により気液分離を行うことが好ましい。
気液分離により分離されたガス(排ガス)中には、通常、SOガスや反応ミストが含まれている。これらは、電気集塵機やフィルター等により捕集・除去することが好ましい。また、排ガス中に残存するSOを、必要に応じて、アルカリスクラバーを通して除去してもよい。アルカリスクラバーとは、湿式の酸性ガス吸収装置の1種であり、気体中に含まれる酸性気体を、アルカリ水溶液中を通過させることにより中和・捕集する装置である。
【0022】
本発明においては、スルホン化工程で得られる生成物の、流下薄膜式反応器の出口におけるスルホン化反応率が70モル%以下であることが好ましい。これにより、スルホン化工程後に当該生成物と接触させる着色抑制剤の効果が充分に発揮され、優れた色調のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が得られる。
ここで、スルホン化反応率とは、流下薄膜式反応器の出口から排出された時点における生成物中の、C−S結合を有する化合物の割合(%)を意味する。
C−S結合を有する化合物には、目的の化合物であるα−スルホ脂肪酸アルキルエステルのほか、上述したSO二分子付加体や、副生物(メチルサルフェート等)等の、C−S結合を有するもの全てが含まれる。
スルホン化反応率は、流下薄膜式反応器の出口から回収した生成物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、該生成物中の未反応の原料(脂肪酸アルキルエステル)の濃度を求め、その濃度から算出できる。
スルホン化反応率は、たとえば、脂肪酸アルキルエステルと反応させるSOの量を調節することにより調節でき、たとえばSOの量が多いほどスルホン化反応率が高くなる。具体的には、SOを、脂肪酸アルキルエステルの1.2モル倍量使用すると、スルホン化反応率は、反応温度、反応時間等の反応条件によっても異なるが、通常、55〜60モル%となり、1.4モル倍量使用すると、通常、70%弱になる。
【0023】
<熟成工程>
次に、前記スルホン化工程で得られる生成物の熟成処理を行う。スルホン化工程で得られた生成物中には、通常、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルそのものの他、副生物であるSO二分子付加体等の中間体や、微量の未反応物等が含まれる。熟成工程を行うことにより、SO二分子付加体からのSOの脱離が促進され、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルの収率が向上し、また、副生物の生成を抑制できる。
ここで、「熟成処理」とは、当該生成物を、所定の熟成温度で所定の熟成時間保持することである。
熟成温度は、70〜100℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。熟成温度が70℃以上であると反応が速やかに進行し、100℃以下であると着色が生じにくい。
熟成時間は20〜240分が好ましく、30〜120分がより好ましく、40〜100分がさらに好ましい。
熟成処理は、一般的な撹拌槽または流通管を用いて行うことができる。
「流通管」とは、一定温度の管内において一定の流速をもって通過させることにより、所定の温度で一定時間維持する機能を有する配管である。
熟成処理は、特に、熟成処理のむらを少なくすることが好ましいことから、2個以上の仕切られた混合スペースを有する連続式多段撹拌槽を用いて行うことが好ましい。かかる連続式多段撹拌槽においては、生成物が、各混合スペースである程度の時間滞留した後次の混合スペースに供給されるため、連続式多段撹拌槽全体としてみた場合の滞留時間、すなわち熟成時間のむらが少なくなる。
【0024】
熟成は、当該生成物の0.1〜10質量%の量の、前記脂肪酸アルキルエステルに難溶性の着色抑制剤の存在下で行う。
ここで、本発明において、「脂肪酸アルキルエステルに難溶性の着色抑制剤」とは、25℃において、使用する脂肪酸アルキルエステル(原料)100gに対する溶解度が1g以下であるものを意味する。
着色抑制剤としては、一価の金属イオンを有する無機硫酸塩および/または有機酸塩を使用することが好ましい。特に、無機硫酸塩は、着色抑制効果が高く、安価なものが多く、さらに洗浄剤に配合される成分なので、洗浄剤用途のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩製造の場合は、無機硫酸塩をα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩から除去する必要がないので好ましい。
一価の金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
無機硫酸塩としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム等が挙げられる。無機硫酸塩としては、特に、無水塩が好ましく、なかでも無水の硫酸ナトリウム(芒硝)が好ましい。
有機酸塩としては、例えば蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
着色抑制剤としては、粉末状であることが好ましい。特に、平均粒径が250μm以下のものが好ましく、100μm以下がより好ましい。かかる着色抑制剤は、表面積が大きく、原料液との接触面積が大きくなり、また、原料液中での分散性の向上し、着色抑制効果が充分に発揮される。平均粒径の下限は、取り扱いやすさ、入手しやすさ等を考慮すると、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
着色抑制剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
着色抑制剤の添加量は、原料の脂肪酸アルキルエステルの使用量に対して0.1〜10質量%の範囲内である必要がある。0.1質量%未満の場合は、着色抑制効果が得られない。10質量%を越えると、生成物中の着色抑制剤の含有量が多くなり、相対的に、生成物中のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の含有量(純度)が低下する。着色抑制剤の添加量は、脂肪酸アルキルエステルの使用量に対して1〜10質量%が好ましく、3〜7質量%がより好ましい。
【0025】
スルホン化工程で得られる生成物と前記着色抑制剤とは、前記生成物が前記流下薄膜式反応器から排出されてから30分以内に接触させる。接触させるときの着色抑制剤の状態は、粉体状でもよいが、より均一に接触させるために少量の原料に分散させて液状で供給することが好ましい。接触させるまでの時間が30分よりも長いと、着色抑制剤の効果が充分に発揮されず、生成物に顕著な着色が見られる。これは、流下薄膜式反応器から排出されてから30分より長い時間、着色抑制剤と接触しないままであると、顕著な着色を引き起こす何らかの反応が進むためではないかと推測される。
生成物の排出から着色抑制剤との接触までの時間は、短いほど好ましく、25分以内が好ましく、20分以内がより好ましく、10分以内が特に好ましい。該時間が短いほど、本発明の効果に優れるため好ましい。
【0026】
<エステル化工程>
次に、前記熟成工程で得られる生成物に対して、炭素数1〜6のアルコールを用いてエステル化処理を行う。これにより、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルの収率が向上し、副生物の生成も抑制される。
このエステル化工程においては、熟成工程後の生成物中に、中間体であるSO二分子付加体が残留している場合に、下記のように、該SO二分子付加体のアルコキシ基部分のエステル化が進行する。すなわち、アルコール(R−OH)により、SO二分子付加体(I”)のアルコキシ基部分に挿入されていたSOの脱離とエステル交換とが進行し、下記一般式(II’)で表されるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル(II’)が生成する。したがって、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルの収率が向上する。
【0027】
【化3】

[式中、RおよびRは、それぞれ、上記式(I)中のRおよびRと同じであり、Rは炭素数1〜6のアルキル基である。]
【0028】
また、熟成工程後の生成物中にSO二分子付加体が残存している場合、該生成物を、エステル化工程を行わずにそのまま中和すると、下記一般式(III)に示すようなα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩が生成しやすい。該α−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩は、界面活性剤としての機能は有しているものの、その性能はα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩に比べて低く、最終生成物(製品)中に多量に存在すると、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の洗浄力、水溶性等を低下させ、ひいては、当該製品が用いられる洗浄剤等の性能の低下を引き起こすおそれがある。
本発明においては、エステル化工程を行うことにより、副生物の一つであるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩の生成を抑制することができる。
このように、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルの収率が向上し、また副生物の生成が抑制されることにより、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の収率が向上する。
【0029】
【化4】

[式中、Rは、上記式(I)中のRと同じである。]
【0030】
エステル化処理は、たとえば、熟成工程後の生成物に炭素数1〜6のアルコールを添加し、これを、所定の反応温度で所定の反応時間保持することにより行うことができる。
反応温度は50〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましい。
反応時間は5〜180分が好ましく、10〜60分がより好ましい。
エステル化処理は、前記熟成工程と同様、一般的な撹拌槽あるいは流通管を用いて行うことができ、滞留時間分布を狭くするために、2個以上の仕切られた混合スペースを有する連続式多段撹拌槽を用いることが好ましい。
アルコールは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、1価アルコールが好ましい。特に、原料の脂肪酸アルキルエステルのアルコール残基の炭素数(たとえば式(I)中のRの炭素数)と等しい炭素数のアルコールが好ましく、該アルコール残基におけるアルキル基と同じアルキル基を有するアルコールがより好ましい。
アルコールの添加量は、熟成後の生成物100質量%に対して1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。アルコールの添加量が1質量%以上であると、エステル化処理の効果が充分に得られ、10質量%以下であると、過剰分の低級アルコールを回収する工程を行う必要がなく、効率的である。
【0031】
<中和工程>
次に、前記エステル化工程で得られる生成物に対して中和処理を行う。これにより、生成物中のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルから、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が生成する。たとえば原料として上記脂肪酸アルキルエステル(I)を用いた場合は、主に、下記一般式(IV)で表されるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩(IV)が生成する。
【0032】
【化5】

[式中、RおよびRは、それぞれ、上記式(I)中のRおよびRと同じであり、Mは対イオンを示す。]
【0033】
Mの対イオンとしては、R−CH(CO−O−R)−SOとともに水溶性の塩を形成するものであればよい。該水溶性の塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;エタノールアミン塩等が挙げられる。
【0034】
中和は、たとえば、エステル化工程後の生成物と、アルカリ水溶液とを接触させることにより実施できる。
アルカリ水溶液としては、目的とする塩を形成することができるもの、たとえば上述した一般式(I)中のMを形成するものであればよく、たとえば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、エタノールアミン等が挙げられる。
アルカリ水溶液の濃度は、下記中和物のAI濃度となるように調整する。
ここで、「AI」とは、生成物中に含まれる、界面活性剤としての機能を有する化合物である。本発明の製造方法により得られる生成物中には、通常、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩のほか、副生物としてα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩が含まれる。α−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩も、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩と同様、界面活性剤としての機能を有している。したがって、本発明において、AI濃度は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩と、副生物の1つであるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩との合計の濃度として求められる。
中和物中のAI濃度は、10〜80質量%が好ましい。10質量%以上であると製造効率が向上し、80質量%以下であるとハンドリング性に優れる。特に、粘度が適度に低く、製造効率、ハンドリング性ともに優れることから、AI濃度は、60〜80質量%がより好ましく、62〜75質量%がさらに好ましい。
【0035】
中和温度は、30〜140℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、30〜80℃がさらに好ましい。
中和時間は、5〜60分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
中和時のpHは、生成したα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の加水分解を防止するために、酸性あるいは弱いアルカリ性の範囲(pH4〜9)が好ましい。この範囲外では、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩のエステル結合が切断されやすくなる可能性がある。
【0036】
また、中和工程においては、生成したα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の加水分解とそれに伴う副生物の生成を防止するために、過激な中和操作を避け、極力マイルドな中和処理を行うことが好ましい。
かかる中和処理としては、ループ中和方式が挙げられる。この方式は、ループ状の配管(リサイクルループ)内で、中和処理した中和物の一部(リサイクル中和物)を循環させ、該リサイクル中和物を、エステル化工程後の未中和の生成物に添加して中和を行う方式である。
ループ中和方式において、中和は、たとえばリサイクル中和物と未中和の生成物との混合物に対してアルカリ水溶液を接触させて行ってもよく、また、前記リサイクル中和物と、未中和の生成物と、アルカリ水溶液とを、強力なせん断力の元で瞬時に混合して行ってもよい。
リサイクル中和物の添加量は、未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計量の5〜25質量倍が好ましく、10〜20質量倍がより好ましい。未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計量に対するリサイクル中和物の添加量の比、すなわちリサイクル比が5以上であると副生物の生成抑制効果に優れ、25以下であると製造効率が向上する。
【0037】
中和工程は、アルカリ水溶液を用いる以外に、固体の金属炭酸塩または炭酸水素塩を用いることによっても行うことができる。特に固体の金属炭酸塩(濃厚ソーダ灰)による中和は、濃厚ソーダ灰が他のアルカリよりも安価であるため好ましい。また、固体の金属炭酸塩で中和を行うと、生成物と混合した際に、その混合物に含まれる水分量が少なく強アルカリ性になりにくく、また、中和時の中和熱が金属水酸化物の場合よりも低いため、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の加水分解を抑制でき、有利である。
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどの無水塩、水和塩、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0038】
<漂白工程>
次に、前記中和工程で得られる生成物(中和物)を漂白する。
漂白工程は、常法により行うことができ、たとえば中和物と漂白剤を混合し、該混合物を、所定の漂白温度で、所定の漂白時間維持する方法により行われる。
漂白剤としては、例えば過酸化水素、次亜塩素酸塩などの水溶液が好ましく用いられる。
漂白剤の使用量は、AIに対して純分で0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
漂白温度は、使用する漂白剤に適した温度とすればよい。たとえば過酸化水素を用いる場合は50〜140℃が好ましく、80〜140℃がより好ましい。また、次亜塩素塩酸を用いる場合は30〜80℃が好ましい。
漂白時間は、所望の色調に漂白されるまで行えばよく、実用上は30分〜7日程度が実用的である。
漂白工程は、pHは4〜9の条件下で行うことが好ましい。これにより、優れた漂白効果が発揮され、良好な色調のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が得られる。
【0039】
以下、図面を用いて本発明の製造方法の好ましい態様を説明する。
図1は、本態様において好適に用いられる製造装置1の概略構成図である。
図1に示す製造装置は、流下薄膜式反応器2と、該流下薄膜式反応器2の出口2aにライン21を介して接続されたサイクロン3と、該サイクロン3に流通管22を介して接続された熟成反応槽4と、該熟成反応槽4にライン23を介して接続されたエステル化反応槽5と、該エステル化反応槽5にライン24を介して接続されたリサイクルループ6と、該リサイクルループ6に、ライン25を介して接続された撹拌槽7と、該撹拌槽7に、ライン26を介して接続された漂白管8とから概略構成される。
【0040】
流下薄膜式反応器2の上部には、ガス供給ライン31と、原料液供給ライン32とが接続されており、それぞれを通じて、SOガスと、脂肪酸アルキルエステルを含有する原料液とを流下薄膜式反応器2に供給できるようになっている。
熟成反応槽4は、3つの混合スペースを有する第1の連続式多段撹拌槽4aと、3つの混合スペースを有する第2の連続式多段撹拌槽4bとから構成されている。流通管22が接続された第1の連続式多段撹拌槽4aには、着色抑制剤を貯留するための貯槽10が接続されており、該貯槽10から着色抑制剤を粉体状で供給できるようになっている。ここで必要に応じて着色抑制剤を原料に分散させた液状での供給もできる装置となっている。
エステル化反応槽5は、3つの混合スペースを有する連続式多段撹拌槽5aと、撹拌槽5bとから構成されている。連続式多段撹拌槽5aには、アルコール供給ライン33が接続されており、連続式多段撹拌槽5aに炭素数1〜6のアルコールを供給できるようになっている。
リサイクルループ6は、ライン24およびライン25にその端部が連結された中和ライン6aと、中和ライン6aの両端から分岐する循環ライン6bとから構成されている。中和ライン上には、2つのミキサー6c、6dが設けられており、中和ライン6aの、ミキサー6cとミキサー6dとの間の部分には、アルカリ水溶液供給ライン34が接続されており、中和ライン6a内にアルカリ水溶液を供給できるようになっている。また、循環ライン6b上には熱交換器6eが設けられており、中和物を冷却できるようになっている。
ライン26上にはミキサー26aが設けられており、ライン26の、撹拌槽7とミキサー26aとの間の部分には、漂白剤供給ライン35が接続されている。
【0041】
図1に示す製造装置を用いたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造は、たとえば以下のようにして行うことができる。
まず、流下薄膜式反応器2上部から、SOガスと、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下である脂肪酸アルキルエステルを含有する原料液とを供給すると、流下薄膜式反応器2上部から下部にかけて、SOガスと、原料液の薄膜とが接触してスルホン化反応が進行する。
その反応生成物(スルホン化物)を、流下薄膜式反応器2の出口2aから排出し、サイクロン3で気液分離した後、出口2aで排出されてから30分以内に第1の連続式多段撹拌槽4aに導入して着色抑制剤と接触させ、第1の連続式多段撹拌槽4aおよび第2の連続式多段撹拌槽4bで熟成する。
次に、熟成後の生成物(熟成物)を連続式多段撹拌槽5aに導入するとともに、アルコール供給ライン33から炭素数1〜6のアルコールを供給し、それらを混合する。得られた混合物を、所定の温度で、所定の時間、連続式多段撹拌槽5aおよび撹拌槽5bにおいて保持した後、得られた生成物(エステル化物)を、ライン24を通じてリサイクルループ6に供給する。
このエステル化物を、アルカリ供給ライン34からアルカリ水溶液を供給して中和し、得られた中和物の一部を、循環ライン6bを通して循環させ、熱交換器6eで冷却した後、中和ライン6a内の未中和のエステル化物に添加する。これを、ミキサー6cで混合した後、上記と同様にして中和する。
中和後、得られた中和物を、ライン25、撹拌槽7を介してライン26に供給し、漂白剤供給ライン35から供給された漂白剤とミキサー26aで混合した後、該混合物を漂白管8に供給し、所定の漂白温度として漂白反応を進行させる。これにより、目的とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩(漂白品)が得られる。
【0042】
<他の任意の工程>
本発明においては、上記中和工程後、漂白工程を行う前に、中和物を加熱処理する加熱工程を行ってもよい。該加熱工程を行うと、さらに、得られる製品の色調が向上する。
加熱処理は、中和物を所定の温度に加熱し、該温度を所定時間保持することによって行うことができ、加熱温度は、70℃以上が好ましく、70〜120℃がより好ましい。また、加熱時間は、0.5時間〜7日間が好ましく、1時間〜5日間がより好ましく、2〜24時間がさらに好ましい。
【0043】
上述のようにして製造されたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、そのまま製品としてもよく、液体洗浄剤組成物等の調製に用いてもよい。また、粉状、粒状、フレーク状、ヌードル状等の形状に成形し、粉末洗浄剤組成物、固体洗浄剤等の調製に用いてもよい。
【0044】
上記本発明の製造方法によれば、着色が少なく、色調の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる。
また、本発明の製造方法によれば、スルホン化反応を安定に行うこともできる。
したがって、本発明の製造方法により製造されるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、色調に優れるだけでなく、品質の安定性にも優れており、洗浄剤組成物等に用いられる原料として有用である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について、実施例を示してさらに具体的に説明する。
以下の実施例および比較例において用いた測定方法は下記のとおりである。
<原料中のグリセリンおよびその誘導体の含有量の測定方法>
原料中のグリセリン及びその誘導体の含有量は、学会出版センター 脂質分析法入門 p226−228に基づき、3%OV−1(日本クロマト工業(株)製),50→300℃、12℃/minの条件でガスクロマトグラフィーを行い、面積比により算出する。
【0046】
<生成物中のスルホン化反応率の測定方法>
使用する原料(脂肪酸メチルエステル)の標準品0.02,0.1,0.2gを50mlのメスフラスコに正確に量りとり、メタノールを標線まで加え超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、これを標準液とする。この標準液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、下記測定条件の高速液体クロマトグラフィーを行い、ピーク面積から検量線を作成する。
(高速液体クロマトグラフィー測定条件)
・装置:LC−10AT(島津製作所製).
・カラム:Inertsil ODS−2(ジーエルサイエンス社製).
・カラム温度:40℃.
・検出器:示差屈折率検出器RID−6A(島津製作所製).
・移動相:HO/CHOH=5/95(体積比)混合溶液.
・流量:1.0mL/min.
・注入量:100μL.
【0047】
試料(反応器出口の生成物またはエステル化後の生成物)5.0gを50mlのメスフラスコに正確に量りとり、メタノールを標線まで加え超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、これを試験溶液とする。この試験溶液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、上記と同じ測定条件の高速液体クロマトグラフィーで分析し、上記で作成した検量線を用いて、試料溶液中の未反応の原料の濃度を求める。この未反応の原料の濃度から、反応した原料の濃度を求め、その値から、使用した原料中の、反応した原料の割合(スルホン化反応率(質量%))を算出する。
【0048】
<色調の測定方法>
色調は、試料の、純分(AI)濃度が5質量%の水溶液を40mm光路長、No42ブルーフィルターを用いてクレット光電光度計で測定する。
【0049】
<漂白品組成の測定方法>
[AI濃度(α−スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム塩とα−スルホ脂肪酸ジナトリウム塩(di−Na塩)との合計濃度)]
漂白品0.3gを200mlメスフラスコに正確に量り取り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加えて超音波で溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、この中から5mlをホールピペットで滴定瓶にとり、MB指示薬(メチレンブルー)25mlとクロロホルム15mlを加え、更に0.004mol/l塩化ベンゼトニウム溶液を5ml加えた後、0.002ml/lアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液で滴定する。滴定は、その都度滴定瓶に栓をして激しく振とうした後静置し、白色板を背景として両層が同一色調になった点を終点とする。同様に空試験(漂白品を使用しない以外は上記と同じ試験)を行い、滴定量の差から濃度を算出する。
【0050】
[AI中のdi−Na塩の割合]
di−Na塩の標準品 0.02,0.05,0.1gを200mlメスフラスコに正確に量りとり、水約50mlとエタノール約50mlを加えて超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、メタノールを標線まで正確に加え、これを標準液とする。この標準液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、下記測定条件の高速液体クロマトグラフィーを行い、ピーク面積から検量線を作成する。
(高速液体クロマトグラフィー測定条件)
・装置:LC−6A(島津製作所製).
・カラム:nucleosil 5SB(ジーエルサイエンス社製).
・カラム温度:40℃.
・検出器:示差屈折率検出器RID−6A(島津製作所製).
・移動相:0.7%過塩素酸ナトリウムのHO/CHOH=1/4(体積比)溶液.
・流量:1.0mL/min.
・注入量:100μL.
【0051】
次に、漂白品1.5gを200mlメスフラスコに正確に量りとり、水約50mlとエタノール約50mlを加えて超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、メタノールを標線まで正確に加え、これを試験溶液とする。
試験溶液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、上記と同じ測定条件の高速液体クロマトグラフィーで分析し、上記で作成した検量線を用いて、試料溶液中のdi−Na塩濃度を求める。
算出したdi−Na塩濃度と、上記で求めたAI濃度とから、AI中のdi−Na塩の割合(質量%)を算出する。
【0052】
[芒硝濃度およびメチルサルフェート濃度(質量%)]
メチルサルフェート及び芒硝の標準品をそれぞれ0.02,0.04,0.1,0.2gずつ、200mlメスフラスコに正確に量りとり、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加え、超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、これを標準液とする。この標準液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、下記測定条件のイオンクロマトグラフィーを行い、メチルサルフェート及び芒硝標準液のピーク面積から検量線を作成する。
(イオンクロマトグラフィー測定条件)
・装置:DX−500(日本ダイオネックス社製).
・検出器:電気伝導度検出器CD−20(日本ダイオネックス社製).
・ポンプ:IP−25(日本ダイオネックス社製).
・オーブン:LC−25(日本ダイオネックス社製).
・インテグレータ:C−R6A(島津製作所製).
・分離カラム:AS−12A(日本ダイオネックス社製).
・ガードカラム:AG−12A(日本ダイオネックス社製).
・溶離液:2.5mM NaCO/2.5mM NaOH/5体積%アセトニトリル水溶液.
・溶離液流量:1.3mL/min.
・再生液:純水.
・カラム温度:30℃.
・ループ容量:25μL.
【0053】
次に、漂白品0.3gを200mlメスフラスコに正確に量り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加え、超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、これを試験溶液とする。
試験溶液約2mlを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、上記と同じ測定条件のイオンクロマトグラフィーで分析し、上記で作成した検量線を用いて、試料溶液中のメチルサルフェート濃度及び芒硝濃度を求め、試料中のメチルサルフェート濃度及び芒硝濃度(質量%)を算出する。
算出したメチルサルフェート濃度及び芒硝濃度と、上記で求めたAI濃度とから、AI濃度に対するメチルサルフェート濃度及び芒硝濃度の割合(%対AI)を算出する。
【0054】
<実施例1〜4、比較例1〜2(α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの調製)>
(原料(脂肪酸メチルエステル)の調製)
原料として、下記の手順で調製した脂肪酸メチルエステルを用いた。
RBDパームステアリンを、メタノール(35%対RBDパームステアリン)を用いて苛性ソーダ(0.21%対RBDパームステアリン)を触媒として80℃、60分撹拌することによりエステル化して粗エステル化物を得た。
この粗エステル化物を水洗して当該粗エステル化物中に残存するグリセリン及びその誘導体の含有量を減少させた後、蒸留し、これを下記の手順で水添処理することによりヨウ素価を低減し、原料として使用する脂肪酸メチルエステル(以下、原料という。)を得た。
なお、RBDパームステアリンとは、パーム油をウインターリング(特定温度にて結晶化し固液分離)した後の固体分(パームステアリン)をRBD処理(精製:refine、漂白:bleach、脱臭:deodar)した油である。
得られた原料は、脂肪酸のアルキル基の炭素鎖長比率が、C14/C16/C18=1/60/39(質量比)であった。
また、上記水洗時においては、使用する水の量と洗浄時間を変えることにより、減少させるグリセリン及びその誘導体の含有量を調整した。水添後の脂肪酸メチルエステル中のグリセリン及びその誘導体の含有量を表1に示す。
上記水添処理は、常法に従い、水添触媒として商品名SO−850(堺化学(株)製)を、脂肪酸メチルエステルに対して0.1質量%添加し、170℃、1時間、水素圧0.64MPa(ゲージ圧)の条件で行った。水添処理の後、濾過により触媒を除去した。各原料のヨウ素価を表1に示す。
【0055】
得られた脂肪酸メチルエステルを原料として用いて、図1に示す製造装置と同様の構成の製造装置を用いて下記の手順でα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造した。
(スルホン化工程)
流下薄膜型反応器2としては、表1に示す流下薄膜型反応器(以下、単に反応器2ということがある。)を使用した。SOガスとしては、乾燥空気(露点−55℃)を用いてSOを触媒酸化してSOとしたものを用いた。
原料、及び乾燥空気によりSO濃度が8%となるように希釈されたSOガスを、反応器2の上部から下部にかけて並流で接触するように供給した。このとき、SOガスは、SOの量が、原料の1.2モル倍量となるように供給した。反応器2内における反応温度は80℃、反応時間は15秒、反応圧力は10kPa(ゲージ)であった。
反応生成物は、反応器2下部の出口2aから排出した。排出された反応生成物についてスルホン化反応率を測定した。その結果を表1に示す。
また、このとき、反応生成物とともに排出された排ガスは、サイクロン3で反応生成物と気液分離された後、電気集塵機(図示せず)でミスト捕集され、さらにアルカリスクラバー(図示せず)によりSOが除去された後、大気に放出された。
【0056】
(熟成工程)
次に、反応器2の出口2aから排出された反応生成物を、80℃のサイクロン3内および流通管22内で表1に示す時間保持した後、表1に示す着色抑制剤と共に連続式多段撹拌槽4aに供給し、連続式多段撹拌槽4aおよび連続式多段撹拌槽4bに、温度80℃、平均90分間滞留させ熟成した。このとき、反応生成物のサイクロン3内での平均滞留時間は7分間であった。
【0057】
(エステル化工程)
次に、連続式多段撹拌槽5aに、熟成後の反応生成物を供給し、それと同時に、当該反応生成物に対して4質量%のメタノールを連続的に供給し、温度80℃、平均滞留時間30分の条件にて保持することによりエステル化処理を行った。ここで、メタノールは、工業グレード(水分1000ppm以下)のものを使用した。
このとき得られた反応生成物について、スルホン化反応率(エステル化後のスルホン化率)および色調(エステル化後のカラー)を測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
(中和工程)
次に、エステル化終了後の反応生成物(エステル化物)をリサイクルループ6に供給して中和を行った。
中和には、工業グレードの48質量%の苛性ソーダを上水で希釈したアルカリ水溶液を使用した。このとき、苛性ソーダの希釈は、アルカリ水溶液中の苛性ソーダ濃度が、当該アルカリ水溶液を用いて中和された中和物中のAI濃度が66〜70質量%となるように行った。
中和物の一部を、リサイクルループ6を循環させ、エステル化物と混合して再度中和を行った。このとき中和は、リサイクル中和物のpHを5〜7に維持しつつ、リサイクル比20で行った。中和温度は75〜80℃であり、リサイクルループ6の管内圧力は0.4MPaであった。
【0059】
(漂白工程)
次に、中和に引き続き、純分35質量%の工業グレードの過酸化水素水を使用して漂白を行った。
漂白は、中和物と過酸化水素水をミキサー7中で混合した後、温度80℃で熟成管8に導入し、これを同温度で3時間滞留させた後、熟成管8から排出した。
過酸化水素添加量は、中和物100質量%に対して過酸化水素純分1.0質量%で行った。
熟成管8から排出した後、80℃、12時間保持した後のペースト状の生成物(漂白品)について、その色調(漂白品カラー)を測定した。
また、漂白品の組成として、漂白品中のAI濃度、AI中のdi−Na塩の割合、漂白品中の芒硝濃度およびメチルサルフェート濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1中、*1〜*4は以下の意味を有する。
*1:グリセリン、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリドの総量。
*2:Aは多管型流下薄膜式のスルホン化反応器であり、Bは2重円管型流下薄膜式のスルホン化反応器である。
*3:Cは微粉硫酸ソーダ(平均粒径40〜50μm)であり、Dは酢酸ナトリウム(平均粒径100〜200μm)である。
*4:添加量は、スルホン化工程により得られた反応生成物100質量部に対する割合(質量%)である。
【0062】
上記結果から明らかなように、実施例1〜5で製造された漂白品は、着色が少なく、色調に優れたものであった。また、その中間生成物であるエステル化物の色調(エステル化後のカラー)も、比較例に比べて着色が抑制されていた。
一方、グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%超の原料を用いた比較例1、ならびに反応器出口を排出されてから着色抑制剤と接触するまでの時間が30分であった比較例2、3(3は薄膜式反応器の出口におけるスルホン化反応率が70モル%以上)は、エステル化物、漂白品ともに顕著に着色していた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に用いられる製造装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0064】
2…流下薄膜式反応器、2a…流下薄膜式反応器の出口、3…サイクロン、4…熟成反応槽、5…エステル化反応槽、6…リサイクルループ、7…撹拌槽、8…漂白管、9…撹拌槽、10…貯槽、21…ライン、22…流通管、23〜26…ライン、31…ガス供給ライン、32…原料液供給ライン、33…アルコール供給ライン、34…アルカリ供給ライン、35…漂白剤供給ライン。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンおよびその誘導体の含有量が0.5質量%以下である脂肪酸アルキルエステルを、着色抑制剤が存在しない条件下にて、流下薄膜式反応器を使用してスルホン化するスルホン化工程と、
前記スルホン化工程で得られる生成物と、当該生成物の0.1〜10質量%の量の、前記脂肪酸アルキルエステルに難溶性の着色抑制剤とを、前記生成物が前記流下薄膜式反応器から排出されてから30分以内に接触させ、熟成処理を行う熟成工程と、
前記熟成工程で得られる生成物に対して、炭素数1〜6のアルコールを用いてエステル化処理を行うエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られる生成物に対して中和処理を行う中和工程と、
前記中和工程で得られる生成物を漂白する漂白工程とを有することを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。
【請求項2】
前記スルホン化工程で得られる生成物の、前記流下薄膜式反応器の出口におけるスルホン化反応率が70モル%以下である請求項1に記載のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。
【請求項3】
前記着色抑制剤として、一価の金属イオンを有する無機硫酸塩および/または有機酸塩を使用する請求項1に記載のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−24672(P2008−24672A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201072(P2006−201072)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】