説明

α線・β線同時測定式体表面モニタ

【課題】α線とβ線の2種類の測定線種を同時に検出し、被測定者(作業者)の衣服類を一度に測定できるようにする。
【解決手段】α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器10Aならびに湾曲面型検出器10Bを複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置した体表面装置と、それら平面型検出器ならびに湾曲面型検出器と被測定者が身に付けている衣服類とがα線の飛程内まで近接しているか否かを判定するための位置センサ群とを具備しているα線・β線同時測定式体表面モニタである。位置センサ群により前記近接条件が満たされているときに、各平面型検出器及び湾曲面型検出器によって衣服類のα線とβ線を同時に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器ならびに湾曲面型検出器を複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置し、身体に近接(密着)させて測定するα線・β線同時測定式体表面モニタに関するものである。この技術は、原子力関連施設等の管理区域から退出する際の身体表面汚染検査に有用である。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設等において、作業者が放射線作業、点検等のために管理区域に進入した後、該管理区域から退出する際は、衣服類に放射性物質等が付着していないことを確認するための汚染検査を行う必要がある。このことは法令で定められている。この汚染検査に使用しているのが体表面モニタであり、従来、一般的にはβ線を測定し表面汚染の有無を検査している。この種の体表面モニタについては、例えば特許文献1などに開示されている。
【0003】
しかし、再処理施設や核燃料使用施設等においては、取り扱っている放射性物質がプルトニウムやウランなど多岐にわたるため、β線の測定の他にα線についても測定を行う必要がある。そのため、現状では、α線を測定する検査装置をβ線を測定する検査装置とは別に設置し、α線用とβ線用との合計2台の検査装置を用いて汚染管理を実施している。そのため、広い設置スペースを必要とし、測定回数が多くなるなど、検査効率が悪い問題があった。
【0004】
また、α線の測定に関しては、被測定者(作業者)が身に付けている衣服類を、そのまま一度に測定できる体表面モニタが無い状況でもある。
【0005】
【特許文献1】特開平5−19059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、被測定者(作業者)が身に付けている衣服類について身に付けたままの状態で、α線とβ線の2種類の測定線種を同時に、しかも一度に測定でき、表面汚染検査を効率よく実施できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器ならびに湾曲面型検出器を複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置した体表面装置と、それら平面型検出器及び湾曲面型検出器と被測定者が身に付けている衣服類とがα線の飛程内まで近接しているか否かを判定するための位置センサ群とを具備し、該位置センサ群により前記近接条件が満たされているときに、各平面型検出器及び湾曲面型検出器によって衣服類のα線とβ線を同時に測定するようにしたことを特徴とするα線・β線同時測定式体表面モニタである。ここで「衣服類」とは、衣服の他、靴や手袋など身に付けるものも含まれる。
【0008】
例えば体表面装置は、肩部用の平面型検出器、胸部用の湾曲面型検出器、腹部用の湾曲面型検出器、太股部用の平面型検出器、脚部用の左右2個の湾曲面型検出器、及び足裏用の左右2個の平面型検出器の組み合わせを有する。なお、当然のことながら、足裏用の平面検出器は、被測定者(作業者)が靴などを履いている場合には、靴底のα線とβ線を検出することになる。また、位置センサ群は、人検知センサの他、何れも近接条件を判定する肩部センサ、胸部センサ、腹部センサ、太股部センサ、左足位置検知センサ、右足位置検知センサを有している。ここで、脚部用の左右2個の湾曲面型検出器は、正面から見て垂直で、側面から見たときは垂直方向に対して20度の傾きを持ち、且つバネにより10〜20度の独立可変機能を持たせて左右の脚部に密着可能とするのが好ましい。
【0009】
平面型検出器及び湾曲面型検出器は、例えば共にZnS(Ag)シンチレータをプラスチックシンチレータに貼り付けた構造とする。
【0010】
これらのα線・β線同時測定式体表面モニタを使用し、各検出器と被測定者との正面での密着状態を確認した後に正面測定を行うステップと、各検出器と被測定者との背面での密着状態を確認した後に背面測定を行うステップとの2段階で、被測定者の全身のα線とβ線を同時に測定し表面汚染を検査することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の体表面モニタでは、α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器ならびに湾曲面型検出器を複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置しているので、被測定者(作業者)が身に付けている衣服類を、そのまま各検出器の表面に密着させることができ、従って、管理区域から退出する際に、α線及びβ線による身体汚染検査を一度に実施することができる。このように、α線及びβ線による身体汚染検査を単一の測定装置で実施できるため、省スペース化でき、しかも身体表面汚染検査の測定時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係る体表面モニタの概略構成を示す説明図であり、測定部位と各検出器の関係を示している。ここで、(A)は被測定者の体型と測定部位を示し、(B)は正面から見た各検出器の位置を、(C)は側面から見た状態を表している。
【0013】
この体表面モニタは、α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器ならびに湾曲面型検出器とを複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置されている体表面装置を具備している。ここで体表面装置は、肩部用の平面型検出器10A1、胴体部用として胸部用の湾曲面型検出器10B1及び腹部用の湾曲面型検出器10B2、太股部用の平面型検出器10A2、脚部用の左右2個の湾曲面型検出器10B3、及び足裏用の左右2個の平面型検出器10A3の組み合わせである。従って、4個の平面型検出器と10個の湾曲面型検出器の合計14個の放射線検出器を用いている。以下、配置されている位置にかかわらず平面型検出器を符号10Aで、湾曲面型検出器を符号10Bで、それぞれ表す。
【0014】
前述のように、管理区域から退出するときには汚染検査を行うが、その際、α線は空気中の飛程が短いため(約3cm)、作業者の衣服類(身体等)を測定するには、該衣服類を各検出器に近づけなければならない。そこで本発明では、人の体型に沿うように複数の平面型検出器と湾曲面型検出器を組み合わせて体表面装置を構成し、それによって身に付けたままの衣服類全体を容易に一度で測定できるように工夫しており、この点に特徴がある。
【0015】
また、図1には示していないが、平面型検出器及び湾曲面型検出器と衣服類との間の必要な測定距離(α線の飛程内まで近接していること)を担保できるように、位置センサ群を組み込んでいる。この位置センサ群は、光電センサなどからなり、それによる近接条件の確認機能をα線・β線の同時測定機能に連動させている。なお、平面型検出器及び湾曲面型検出器には、既存の技術であるZnS(Ag)シンチレータをプラスチックシンチレータに貼り付けた構造のα線・β線同時測定用検出器を採用している。
【0016】
図2は、本発明に係る体表面モニタのブロック図である。前述した4個の平面型検出器10Aと10個の湾曲面型検出器10Bからのα線及びβ線の検出出力は、カウンタボード12を経てPC(パーソナルコンピュータ)14に入力し、α線・β線の測定と表示が行われる。他方、人検知センサの他、何れも密着性を判定する肩部センサ、胸部センサ、腹部センサ、太股部センサ、左足位置検知センサ、右足位置検知センサからなる位置センサ群16により得られる測定位置情報は、I/Oボード18を経て前記PC14に送られ、各平面型検出器及び各湾曲面型検出器と被測定者が身に付けている衣服類とが十分に(α線の飛程内まで)近接しているか否かを判定し表示する。このような構成で、各検出器と衣服類との近接条件が満たされていることが確認されたときに、α線とβ線の測定結果を取り込み、処理して表示する。
【実施例】
【0017】
図3は、本発明に係る体表面モニタの一実施例の説明図である。(A)は側面から見た測定中の状態を、(B)は正面から見た測定中の状態を、また(C)は正面から見た各検出器の配置状況を、それぞれ示している。人の体型に沿うように平面型検出器と湾曲面型検出器を複数組み合わせて体表面装置20を構成する。それら各検出器は、α線とβ線を同時に検出可能な形式であり、できるだけ衣服類に近づけることができるように、肩部用の平面型検出器、胴体部用の湾曲面型検出器、太股部用の平面型検出器、脚部用の左右2個の湾曲面型検出器、及び足裏用の左右2個の平面型検出器とし、互いに密に配列する。ここでも、平面型検出器を符号10Aで、湾曲面型検出器を符号10Bで示す。
【0018】
一般男性の標準体型から、胴体部用の湾曲面型検出器は曲面をR275mm、左右の脚部用の湾曲面型検出器は曲面をR100mmとすることで、身長約160cmから185cmの高低範囲の人の胴体部及び脚部の密着測定が可能であることが確認できた。
【0019】
脚部用の湾曲面型検出器は、脚の形状に合わせて左右2個の配置とし、正面から見て垂直に配置するだけでなく、図4に示すように、側面から見て(前後方向は)それぞれ垂直方向に対して20度の傾きで、且つバネにより10〜20度の独立可変機能を持たせている。つまり、湾曲面型検出器10B3の上端部をピン22によって回動自在に支持し、下方側面と支柱24との間にアーム26を取り付けて支え、押し出し可能とし、バネ28を介装して、該バネ28の弾撥力により前記湾曲面型検出器10B3を垂直方向に対して20度傾かせている。該湾曲面型検出器10B3の下端部を押し込めば、10度まで傾きが戻る。これによって、両方の湾曲面型検出器を脚部に密着させることができる。なお、図4は、図3において一点鎖線で囲んだ部分(符号Lで示す)の詳細を示している。
【0020】
前述の例と同様に、実際には、胴体部用の湾曲面型検出器は、胸部用の左右上下の4個の湾曲面型検出器10B1及び腹部用の左右上下の湾曲面型検出器10B2からなる。更に、人検知センサの他、肩部センサ、胸部センサ、腹部センサ、太股部センサ、左足位置検知センサ、右足位置検知センサからなる位置センサ群が付設されており、衣服類と各検出器との間隔が3cm(α線の空気中での飛程)以下(密着状態も含む)となっていることを確認しつつ、その時のα線とβ線を同時に測定することになる。人検知センサは、被測定者(作業者)が足裏用の平面型検出器10A3に乗っていることを感知するようなセンサであってよい。
【0021】
図5は、本発明に係る体表面モニタの一実施例の測定フロー図である。電源を投入し、自然計数率を測定する。なお、自然計数率の測定は定期的に実施する。この段階で、測定待機状態となる。被測定者が体表面モニタに進入したならば、まず正面で被測定者が全ての平面型検出器及び全ての湾曲面型検出器に密着していることを確認する。体表面モニタに進入したか否かは人検知センサで判定でき、被測定者の衣服類が各検出器に密着しているか否かは位置センサ群で確認できる。密着が確認できたならば、正面測定を開始し、汚染判定を行う。ここでは全ての平面型検出器及び湾曲面型検出器でα線・β線の測定を行う。汚染がなければ、正面から背面へ測定体位を変更し、背面で被測定者が全ての平面型検出器及び全ての湾曲面型検出器に密着していることを位置センサ群で確認する。密着が確認できたならば、背面測定を開始し、汚染判定を行う。ここでも全ての平面型検出器及び湾曲面型検出器でα線・β線の測定を行う。汚染がなければ、体表面モニタから退出する。従って、本実施例では、正面と背面の2度の測定で、被測定者の全身にわたってα線とβ線の両方についての測定を実施できる。
【0022】
なお、上記のいずれかの汚染判定で汚染ありとの結果が出た時は、再測定して汚染判定を行う。正面測定で汚染が認められなければ背面測定へ進み、背面測定で汚染が認められなければ体表面モニタから退出する。再測定でも汚染が認められれば、汚染有りとして体表面モニタから退出する。そのとき、機器等はリセットされ、測定待機状態へ戻る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る体表面モニタの概略構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る体表面モニタのブロック図。
【図3】本発明に係る体表面モニタの一実施例の説明図。
【図4】その脚部用の湾曲面型検出器の一例を示す詳細図。
【図5】本発明に係る体表面モニタの一実施例の測定フロー図。
【符号の説明】
【0024】
10A 平面型検出器
10B 湾曲面型検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α線とβ線を同時に検出可能な平面型検出器ならびに湾曲面型検出器を複数組み合わせて人の体型に沿うように密に配置した体表面装置と、それら平面型検出器及び湾曲面型検出器と被測定者が身に付けている衣服類とがα線の飛程内まで近接しているか否かを判定するための位置センサ群とを具備し、該位置センサ群により前記近接条件が満たされているときに、各平面型検出器及び湾曲面型検出器によって衣服類のα線とβ線を同時に測定するようにしたことを特徴とするα線・β線同時測定式体表面モニタ。
【請求項2】
体表面装置は、肩部用の平面型検出器、胸部用の湾曲面型検出器、腹部用の湾曲面型検出器、太股部用の平面型検出器、脚部用の左右2個の湾曲面型検出器、及び足裏用の左右2個の平面型検出器の組み合わせを有し、他方、位置センサ群は、人検知センサの他、何れも近接条件を判定する肩部センサ、胸部センサ、腹部センサ、太股部センサ、左足位置検知センサ、右足位置検知センサを有している請求項1記載のα線・β線同時測定式体表面モニタ。
【請求項3】
脚部用の左右2個の湾曲面型検出器は、正面から見て垂直で、側面から見たときは垂直方向に対して20度の傾きを持ち、且つバネにより10〜20度の独立可変機能を持たせて左右の脚部に密着可能とした請求項2記載のα線・β線同時測定式体表面モニタ。
【請求項4】
平面型検出器及び湾曲面型検出器は、共にZnS(Ag)シンチレータをプラスチックシンチレータに貼り付けた構造である請求項1乃至3のいずれかに記載のα線・β線同時測定式体表面モニタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のα線・β線同時測定式体表面モニタを使用し、各検出器と被測定者との正面での密着状態を確認した後に正面測定を行うステップと、各検出器と被測定者との背面での密着状態を確認した後に背面測定を行うステップとの2段階で被測定者の全身にわたりα線とβ線を同時に測定する表面汚染検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−127862(P2010−127862A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305402(P2008−305402)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(391017528)日本放射線エンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】