説明

α1−アンチトリプシン溶液の製造方法

以下の工程:
(a)A1AT含有溶液をイオン交換クロマトグラフィーに付す工程;
(b)洗浄剤、及び任意に脂質エンベロープで被覆されたウイルスを不活化するための溶液を加える工程;
(c)続いて、塩濃度を上げて洗浄剤を塩析する工程
を含む、A1AT含有溶液からのA1ATの製造方法。
純度が90%超であり、活性形態における活性が0.8PEU/mg以上であるA1AT。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α1−アンチトリプシン(A1AT)を含有する溶液の製造方法、及びA1ATに関する。
【0002】
A1ATは、分子量が約55,000ダルトンの糖タンパクであり、セリンプロテアーゼインヒビター群に属する。A1ATは、例えばトリプシン等の多数のプロテアーゼの活性を阻害することができ、阻害剤の名前は歴史的理由によりプロテアーゼに基づいている。エラスターゼは生理学的に標的プロテアーゼであり、特に組織及びマトリックスの再構築、及び分解工程の両者に関係し、顆粒球等の細胞によって放出され、故に炎症過程に関係する。エラスターゼの活性期間は、時間及び空間的に限定され、阻害剤A1ATによって本質的に制御される。このような活性の調節異常によって、組織の迅速な分解が起き、病態生理学的結果に帰する可能性がある。加えて、炎症工程が開始され、及び/または促進される。エラスターゼの制御が減損または欠損する例として、炎症状態を伴う肺の局所組織分解が進展することが知られており、それは次第に肺気腫となり、従って、幾分注目すべきことに、肺機能が制限される。最終段階では、患者が死亡する可能性があり、これは結局のところ、肺移植によってのみ阻止することができる。
【0003】
このような患者は、A1ATの欠損またはその機能が制限されたA1ATを患う。阻害剤は、通常、肝臓で比較的多量に製造されて分泌され、血漿中で比較的高濃度で循環する(典型的濃度は1.3mg/mlである)。加えて、A1ATの生理学的に有効かつ充分な濃度は、健常人の器官、特に肺液(肺胞上皮粘液)中に認められる。このA1AT濃度が有意に低下する場合、または存在するA1ATがその機能を制限されるか不活性である(不活化される)場合、上述の結果を伴って、肺組織の変性が制御されない。
【0004】
A1ATの欠損またはA1ATの阻害機能が減じられる原因は、主として遺伝的欠陥である。特にホモ接合型(PiZZ)の個体において、いわゆる「Z」突然変異によって、A1AT分子を合成する細胞で、A1AT分子が既に重合している。従って、A1ATはもはや循環系に到達することはできず、または極少量のみしか到達できない。一方では、このことから阻害活性が欠損し、これは特に肺において長時間にわたり見られるが、他方では、肝細胞においてポリマーが濃縮し、それによって対応する機能障害が生じる。ヘテロ接合型のPiZ個体は、相応して阻害力が減じられている。同様の欠陥を有するさらなる突然変異が知られている。
【0005】
現在の評価によれば、米国においてPiZZ突然変異の有病率は人口の約1/1600であり、従って、突然変異のキャリアーの数は、それより極めて多いが、推定上、その10%だけが確認されている。
【0006】
A1AT欠損またはA1AT機能減損に基づく肺の機能障害(進行性肺気腫)を罹患する患者のうち、現在、全ての患者は治療できないが、これは治療及び/または予防のためのA1ATが、認可された薬物として充分に利用できないためである。確立された治療は、ドナーの血漿から調製されるA1AT含有溶液の静脈内投与に基づいている。確立され、現在推奨される投与量は、1週間当たり、A1AT60mg/体重1kgであり、この量は、1ヶ月につき患者一人当たりのA1ATの平均消費量である16〜20gに相当する。これは言い換えると平均で血漿15リットルに含まれる量に相当する。出発材料である血漿に含有される阻害剤の一部のみが製剤として純粋な形態で得られることを考えると、健常人血漿15リットルの何倍かが、1ヶ月につき患者一人のための原料として必要である。A1ATを回収するため、従って患者の維持療法のための原料として必要とされる血漿の総容量は、相応して多量である。
【0007】
A1AT製剤を製造するための確立された製造方法は、出発物質としていわゆるコーンのIV1ペーストを使用する。後者は、コーン・オンクレイ(Cohn-Oncley)の方法で製造されるが、この方法は当業者にはよく知られており、または、この方法の変更法によって製造される、この変更法は、本質的に、添加されるエタノールの濃度、調整されるpH値、及び溶液の温度を変化させて、血漿タンパク質を部分分離することに基づく。A1ATに加えて、いわゆるIV1分画は通常、一部、先の沈殿工程によって既に減じられた量の、広範な種類の他の血漿タンパク質を含有する。この方法の変形はキストラー・ニッチマン(Kistler-Nitschmann)法である。従って、いわゆる上澄I+II+III等の、他のA1AT含有分画に加え、コーンのIV1分画に類似の分画もまた、出発物質として使用され得る。
【0008】
おおよそ純粋なA1AT製剤を製造する種々の方法が記載されている。A1ATの濃縮のために、特に陰イオン交換体による、イオン交換クロマトグラフィーを使用することが度々報告されている(グレイ(Gray)ら、1960年;クローフォード(Crawford)ら、1973年;チャン(Chan)ら、1973年;等)。しかしながら、この製造工程単独では、最先端技術に相当する純度のA1AT製剤が得られない。従って、他の製造工程が用いられ、一部はイオン交換体と組み合わせる。例えば、ポリエチレングリコールとインキュベートする方法(米国特許A-4,379,087号)、亜鉛キレート化合物またはヘパリン吸着体とインキュベートする方法(米国特許A-4,629,567号)、その他等の、吸着または沈澱法が用いられる。これらの方法はA1ATの(さらなる)精製に使用されるが、それぞれの方法において、製品の収率のおおよそ大きな損失に目をつぶらなければならない。原理上は、製品の損失は、製造工程数が増えるに従って増加する。加えて、製造工程数の増加に伴い、しばしば製造時間が延長され、両者によってA1ATの完全性及び活性が損われる可能性があり、かつ製品のコストが増加する。
【0009】
タンパク質製造工程に加えて、いわゆるウイルス不活化工程または除去工程は、血漿から調製されるタンパク質製品の製造方法の本質的な部分である。ウイルスを保護している脂質エンベロープを損傷することによって対応するウイルスを不活化する、いわゆるSD(溶媒/洗浄剤)法に加えて、熱による不活化方法、例えば低温殺菌(60℃で10時間の熱処理)が、ウイルスからの安全性を高めるために適用される。ウイルスが脂質エンベロープで被覆されていても、脂質がなくても、「ナノフィルター」による濾過は、通常ウイルスの大きさによってウイルスを保持する。最先端技術では、ウイルス安全性を最大にするため、それぞれが自身有効で異なる法則に基づく二つの製造工程を一つの製造方法に統合する。
【0010】
タンパク質によって、安定剤、例えばアミノ酸または糖類が、タンパク質を安定化するこれらの方法中に添加される。従って、後にこれらの安定剤を、A1AT含有溶液から除去しなければならない。SD法において、洗浄剤はウイルス不活化のための有効成分として添加され、好適な方法によって、製造方法のさらなる過程で除去しなければならない。この目的のため、固定化されたC18鎖を用いるクロマトグラフィー等の、疎水性マトリックスへの吸着が確立された。そのようなクロマトグラフィーでは、再度製品の収率が損なわれ、方法中のそれぞれの(さらなる)クロマトグラフィー工程に上述した欠点がある。加えて、これらのマトリックスは、通例繰り返し使用され、即ち、コスト及び時間のかかるマトリックス再生工程が必要である。
【0011】
従って、クロマトグラフィー工程を省く、洗浄剤の質的除去のための、代替の有効かつ迅速な方法が記載されている(国際特許WO 94/26287号、米国特許A-5,817,765号)。このように、洗浄剤含有タンパク質溶液は、塩、例えばクエン酸ナトリウムを超生理学的(superphysiological)濃度(0.5M以上)とし、例えば、単なる濾過によって分離することができる、洗浄剤含有粒子を形成させる。以下、この方法を「洗浄剤/塩析」法と言う。
【0012】
国際特許WO94/26287号の実施例では、「洗浄剤/塩析」法が、溶液中の3種の単離されたタンパク質である、トランスフェリン、アンチトロンビンIII及びアルブミンに適用されている。実施例では、この方法によって、それぞれ、95%のタンパク質活性が回収され、洗浄剤濃度が低下する。この方法を、標的タンパク質の収率があまり影響されないような条件下で適用する場合、しばしば製品中のトリトン濃度はなおも高い。国際特許WO94/26287号の実施例4では、発明者らはアルブミン活性の95%を回収することができるが、250ppmのトリトンX−100及び35ppmのTNBPを含む製品が得られる。特に医薬製剤を生産する場合、50ppm以上のトリトンX−100濃度、好ましくは10ppm以上は避けるべきであり、洗浄剤含量をできるだけ少なくすることが一般に望ましい。
【0013】
本発明の目的は、可能な限り効果的かつ迅速に、高純度で安全な製品となるA1AT製剤を製造する方法を提供することであった。好ましくは、この方法の間、A1ATの活性及び/または品質は、負の影響を受けるべきではなく、また、洗浄剤は医薬製剤として許容されるレベルまで除去されるべきである。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、A1ATを含む溶液の精製方法を提供することであったが、この方法の間、他のタンパク成分が除去される。好ましくは、A1AT溶液は、脂質またはウイルス等の他の成分も除去されるべきである。
【0015】
この目的は、
(a)A1AT含有溶液をイオン交換クロマトグラフィーに付す工程;
(b)洗浄剤、及び任意に脂質エンベロープで被覆されたウイルスを不活化するための溶媒を加える工程;
(c)その後、塩濃度を上げて洗浄剤を塩析する工程
を含む、A1AT含有溶液からのA1ATの製造方法によって達成される。
【0016】
さらには、本発明の問題点は、請求項1〜19によって定義される通りの具体例によって解決される。A1AT含有溶液、例えば再構築された血漿分画IV1(コーン)からの、A1ATの製造方法は、原理上、A1ATの濃縮に関して、2つの非常に効果的な方法工程のみからなる:即ち、アニオン交換基によるクロマトグラフィー、及びトリトンX−100及びTnBPを用いたSDウイルス不活化処理であり、その後、ウイルス不活化剤を塩析する。
【0017】
最後に記した工程は、A1AT含有溶液においても、非常に効果的に使用することができることがわかった。
【0018】
本発明の方法は、A1AT含有溶液がA1ATと異なる多量のタンパク質を含む場合に特に有用である。驚くべきことには、この方法の条件下では、この方法工程は、ウイルス不活化のための洗浄剤を除去するために使用することができるだけではなく、加えて、A1ATの収率に悪影響を及ぼすことなく存在する、あらゆるタンパク質、リポタンパク及び脂質不純物の分離に有意な精製効果を有する。上述の陰イオン交換クロマトグラフィーとの組み合わせにおいて、本質的に、純度が90%超、好ましくは95%超で、活性形態のA1ATを含有するA1AT製品が得られる。溶媒洗浄剤処理及び塩析の方法工程によって、活性A1ATが収率80%以上で回収される。例えば、再構築されたペーストIV1を出発物質として使用する場合、本発明の方法により、A1ATを含む溶液から、α−2−マクログロブリン、ハプトグロビン、α−1酸性糖タンパク質、IgG、IgA及びIgMを除去することによって、A1ATが精製される。本発明特有の具体例において、例えば、先の陰イオン交換クロマトグラフィーの溶離液である溶媒/洗浄剤処理前のA1AT溶液を参照すると、A1ATを含む溶液は、塩析工程後、10%未満のα−2−マクログロブリン、40%未満のハプトグロビン、10%未満のα−1酸性糖タンパク質、10%未満のIgG、10%未満のIgA及び/または10%未満のIgMを回収する。本発明の好ましい具体例において、最初のA1ATを含む溶液は、他のタンパク質を50%以下、20%以下、または10%(w/w)以下含む。最初の溶液は、好ましくは、他のタンパク質を少なくとも1、2または5%(w/w)含む。
【0019】
さらには、驚くべきことに、本発明の方法が、ウイルス不活化及び/または除去工程としても有用であることも認められた。A1ATは高収率で回収されるが、製品は他のタンパク質成分だけではなく、ウイルスをも除去または低減される。脂質で被覆されたウイルスは洗浄剤処理によって既に不活化されているはずなので、ウイルスが除去または低減されることは、脂質で被覆されていないウイルスに対して特に有用である。このように、本発明の方法は、A1ATを含む溶液中のウイルス、特に脂質で被覆されていないウイルスを不活化する方法でもある。
【0020】
国際特許WO 94/26287号に記載されたような「洗浄剤/塩析」法が目下の場合において適用可能であり、この方法により医薬製剤において許容されるレベルまで洗浄剤が除去され、さらに、A1ATが非常に特異的に濃縮されるという発見は、驚くべきである。国際特許WO 94/26287号の方法によって、洗浄剤濃度が低減された製品が得られるであろうが、それでも医薬品にはなお高すぎる可能性があり、この方法において洗浄剤以外の全てのタンパク質及び他の成分は、同等の比率で回収される。従って、国際特許WO 94/26287号の方法が、あるタンパク質を他のタンパク質から精製するために有用であるとは推測されないであろう。
【0021】
例えば、フェニル−セファロース(R)を用いる疎水性(相互作用)クロマトグラフィー(HIC)の使用は、さらに高程度の純度を有するA1AT製品を得ることができるのであれば望ましい。この工程の性能によって、特に、後の洗浄剤/塩析処理が考えられるが、それは疎水性マトリックスまたはリガンドに結合するタンパク質が、通常、超生理的塩濃度の存在下に介在するからである。次に、結合したタンパク質の溶離は、例えば、塩濃度を低下させることによって達成される。相応して、塩濃度の合理的な減少の後に、直接「塩析された」洗浄剤を除去した後(希釈または限外濾過/透析濾過(diafiltration);UF/DFによる)、A1AT含有溶液を疎水性マトリックスと接触させることができ、クロマトグラフィーは当業者によく知られた方法で実施される。
【0022】
A1AT含有溶液のSD処理に加えて、ウイルス不活化、ウイルス除去及び/またはプリオン除去のための少なくとも1つのさらなる工程を、本方法、例えば、A1AT含有溶液の熱ウイルス不活化に統合することができる。これらの工程は、溶液に含有される塩、特にクエン酸ナトリウムが、熱処理の間、安定剤として働くので、特に、塩析の方法工程の直後の溶液において実施することができる。別の可能性として、凍結乾燥品の熱処理が考えられる。代替として、または付加的に、ウイルスまたはプリオンの除去に好適なあらゆる濾過方法を含んでいてもよい。特に、ナノ濾過は当業者によく知られており、好ましくは15〜20nmの範囲内の細孔サイズの市販のフィルター、またはウイルス及び/またはプリオンを除去するためのあらゆる好適な濾過を用いた方法を統合してもよい。ウイルスの除去は、アミノ酸の添加、好ましくは各アミノ酸0.1Mの濃度でのアミノ酸の添加によって向上すると考えられる。好ましい具体例では、グリシンを0.2M以上の濃度で添加する。好ましい方法は、横山らによって記載されている(2004,ヴォックス・サンギニス(Vox Sanguinis)86, 225-229)。
【0023】
本発明によるA1AT含有製剤は、原理上は、以下の工程の組み合わせを特徴とする方法によって得られる:
(a)A1AT含有溶液を陰イオン交換クロマトグラフィーに付す工程;
(b)任意に、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー及び/または疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)工程;
(c)洗浄剤、及び、任意に脂質エンベロープで被覆されたウイルスを不活化するための溶媒を添加する工程;
(d)続いて、これらの化学物質及びタンパク不純物を塩析する工程;
(e)少なくとも1つ以上のウイルス不活化及び/または除去工程に付す工程。
【0024】
一般的に好適なものは、血漿から得られるA1AT含有溶液及びその分画、または組み換えまたは遺伝子移植的に発現したA1ATである。
【0025】
本方法の好ましい具体例において、ペーストIV1(コーン)は、水または緩衝液、より好ましくは20mMトリス緩衝液で再構築し、溶液対ペーストの割合を3以上:1(好ましくは10以上:1)にし、続いて、イオン交換ゲル、好ましくは陰イオン交換ゲル、好ましい具体例においてDEAE-セファロース(R)(アマルシャム)、より好ましくはDEAE-セファロース(R)ファースト・フローと接触させ、ゲルを洗浄し、そしてA1ATをイオン強度を上げることによって溶出する。ウイルス不活化は、例えば欧州特許EP-A-0131740号の方法によって達成される。安定剤の任意の添加の後、ウイルス不活化剤、好ましくはトリトンX−100、ポリソルベート80(ツイーン80)、TnBP及び/またはカプリル酸/カプリレートを添加し、好ましくは、最終濃度をトリトン及びツイーン80で0.1%(w/w)以上、TnBPで0.03%(w/w)以上、カプリル酸/カプリレートで0.1mM以上とする。4℃以上、好ましくは15℃以上での適当なインキュベーション時間、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは1時間以上のインキュベーション後、特にクエン酸塩によって、塩濃度を上昇させ、特に0.5M以上の濃度とする。それによって形成される粒子は、特に濾過によって除去する。フィルターまたは分離した粒子を再洗浄することによって、A1AT収率を上げることができる。この後、さらなるウイルス不活化工程、好ましくは、0.5M以上のクエン酸ナトリウム、アミノ酸、糖類またはこれらの物質の混合物の存在下での低温殺菌を行ってもよい。続いて、限外濾過/ダイアフィルトレーションによって、添加した物質の濃度を低下させるのが好ましい。より好ましくは、その後のウイルス粒子の分離は、ナノフィルター、好ましくは細孔サイズ15〜20nmのフィルターを用いて達成される。このようにして得られるA1ATは、液体または凍結製剤として保存することができ、または当業者によく知られた方法によって、凍結乾燥することができる。
【0026】
請求項12〜17で定義される通りの本発明のA1ATは、最先端の製剤とは異なる。欧州特許EP436086号及び独国特許DE4407837号の製剤は、本発明の製剤である高純度のものではなく、IgA含量が1mg/ml以下ではない。
【0027】
このようにして得られるA1AT製品は、液剤として皮下、筋肉内、局所投与することができ、またはエアロゾルとして投与することができ、好ましくは静脈内投与することができる。乾燥材料として、パウダー形態の吸入に用いてもよい。例えば静脈内適用のため、他の液剤との混合調剤として適用することも可能である。可能な投与量は、例えば、一週間当り60mg/体重1kg、または一ヶ月当り250mg/kgである。
【0028】
別の好ましい方法は、上記の方法工程に加えてHICを含み、上述のように、好ましくは、SD処理、及び殺ウイルス剤及び他の不純物を塩析した後、好ましくはフェニルマトリックスを用いたHICを含む。好ましくは、負の精製が実施され、即ち、有益な物質であるA1ATがクロマトグラフィーのマトリックスに結合せずに通過し、望ましくない物質が結合して、従って本方法の溶液から除去される。
【0029】
上記のHICを含んでいてもよい別の好ましい方法において、固定化したヘパリン、好ましくはヘパリン・セファロースまたはヘパリン・フラクトゲルを用いたクロマトグラフィーを実施する。従って、A1AT含有溶液は、カラムまたは回分操作においてヘパリンゲルと接触する。濃縮されたA1ATは、カラムに結合せずに通過し、またはゲル分離の後、上澄中に認められる。この方法工程は、好ましくは上述のイオン交換クロマトグラフィーの前または後に実施されるか、または洗浄剤の塩析、及び、例えば透析によって、溶液のイオン強度を低下させた後に実施される。
【0030】
また、本発明のA1ATを、単独の有効成分として、または抗炎症剤、好ましくは、ステロイド、NSAIDと組み合わせて含有する医薬、及び、A1AT欠損、肺線維症及び肺気腫等の肺における変性現象の治療用の医薬を製造するための、本発明のA1ATの使用も、本発明で特許請求される。
【0031】
A1AT含有医薬の好適な適用形態は、それ自体当業者に公知である。特に、タンパク質の全ての適用形態、例えば、非経口 経皮的適用、静脈内または吸入投与が好適である。
【実施例】
【0032】
以下の実施例によって、本発明の方法をさらに説明する。
【0033】
実施例1:
再構築のため、凍結コーンIV1ペーストを20mMトリス溶液中、重量比1:9で、アルカリ性のpHで3時間攪拌しながら溶解する。
【0034】
陰イオン交換クロマトグラフィー
この方法工程に好ましいクロマトグラフィー材料は、DEAE-セファロースFF(ファースト・フロー(Fast Flow))であるが、各陰イオン交換材料について、当業者が条件も適合することが可能である。充填したDEDA-セファロースFFクロマトグラフィーカラムは、20mMトリス溶液(pH8.0)で平衡化する。その後、溶解したコーンIV1ペーストをpH8.0で適用する。平衡緩衝液で洗浄し、その後、緩衝溶液での洗浄工程を行う。次に、マトリックスに結合したA1ATは、20mMトリス、0.075M NaCl、pH8.0でカラムを洗浄することによって溶出することができる。このようにして得られたA1AT溶液の比活性は、約0.5PEU/mgタンパク質(PEU:血漿等価単位(plasma equivalent unit);ヒト血漿1ml中に見られる平均A1AT量または活性に相当)である。カラムは高塩緩衝液(例えば、2M NaCl)で溶出し、クロマトグラフィー用ゲルは、その後、それ自体公知の方法によって再生することができる。
【0035】
溶媒/洗浄剤処理
このようにして得られた溶離液を限外濾過で濃縮する。その後、医薬品(WFI)として用いるために、トリトンX−100、TnBP及び水を予め混合した溶液を加え、最終濃度をトリトンX−100で1%(w/w)、TnBPで0.3%(w/w)とする。SD処理を、緩やかに攪拌しながら、20℃で4時間実施する。
【0036】
塩析
SD試薬を除去し、望ましくない共存するタンパク質を沈殿させるため、A1AT含有溶液を、1.5Mクエン酸ナトリウム及び20mMトリスを含有するpH7.0の溶液で希釈する。クエン酸塩濃度が1Mになるまで、攪拌下、少なくとも15分にわたって添加する。続いて、本方法の溶液を、緩やかに攪拌しながら、少なくとも1時間インキュベーションする。その後、形成された白色沈殿を濾過によって分離する。これによって、SD試薬の濃度が10ppm未満に低下し、かつ、望ましくない共存するタンパク質及び変性A1ATも分離される。
【0037】
この製造工程の後、A1ATの非活性は少なくとも0.8PEU/mg(PEU:血漿等価単位(plasma equivalent unit);ヒト血漿1ml中に見られる平均A1AT量または活性に相当)である。
【0038】
ナノ濾過
A1AT製品のウイルス安全性をさらに高めるために、UF/DFによって低分子物質を除去した後、このようにして得られた溶液を、ポール社のDV20フィルター等の、名目除外サイズ(nominal exclusion size)が15〜20nmのフィルターで濾過する。
【0039】
結果:
濾過後の製品中のトリトンX−100及びTNBPの濃度は5ppm未満であった。製品中のA1AT及び他のタンパク質成分の量を定量し、溶媒/洗浄剤処理前に定量した量と比較した。以下の回収率を算出した。
【0040】
A1AT > 80%
(-2-マクログロブリン < 10%
ハプトグロビン < 40%
(-1酸性糖タンパク質 < 10%
IgG < 10%
IgA < 10%
IgM < 10%
【0041】
この結果は、製品中、特異的にA1ATが多量に回収され、一方で製品から他のタンパク質成分が有意に除去されたことを示す。このことは図1によってさらに説明されるが、図1は、溶媒/洗浄剤処理前の溶液のSDS−PAGEの結果(2レーン)及び塩析工程後の結果(3レーン)を示す。A1ATは、50kDよりわずかに上の幅広のバンドに相当する(1レーンの分子量マーカーとの比較)。出発溶液中に明らかに検出される種々の他のタンパク質成分は、有意に低減される。
【0042】
実施例2
実施例1に記載した方法を一部変更し、イオン交換クロマトグラフィーからのA1AT含有溶出液をヘパリン・セファロースに接触させる。A1ATは、ヘパリン・セファロースカラムに結合せずに通過する。回分操作を用いる場合、A1ATは上澄中に残る。カラム溶出液または回分変形型からの上澄のさらなる処理は、実施例1に記載した通りに実施する。このようにして得られた製品は、純度が上がっていることが特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、還元条件下、勾配4〜20%、クームス染色、5μgタンパク質/レーンでの、SDS−PAGEの結果を示す。1レーン:分子量マーカー;2レーン:溶媒/洗浄剤処理前の実施例1の溶液の試験;3レーン:塩析工程後の実施例1の溶液の試験。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)A1AT含有溶液をイオン交換クロマトグラフィーに付す工程;
(b)洗浄剤、及び任意に脂質エンベロープで被覆されたウイルスを不活化する溶媒を加える工程;
(c)その後、塩濃度を上げて洗浄剤を塩析する工程
を含む、A1AT含有溶液からのA1ATの製造方法。
【請求項2】
前記A1AT含有溶液が、血漿またはその分画、好ましくは再構築された血漿分画IV1(コーン)より得られたものであるか、または組み換えまたは遺伝子移植的に発現したA1AT調製品または培養上清に由来するものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イオン交換クロマトグラフィーを、アニオン交換ゲル、好ましくはDEAE−セファロース(R)またはDEAE−セファロース(R)ファースト・フローで実施することを特徴とする、請求項1及び/または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)による前記ウイルス不活化が、トリトンX−100、ポリソルベート80(ツイーン80)、TnBP及び/またはカプリル酸またはカプリレート 、好ましくは最終濃度0.1%(w/w)以上のトリトン及びツイーン80、0.03%(w/w)以上のTnBP、0.1mM以上のカプリル酸またはカプリレートを用い、インキュベーション時間0.1時間以上、好ましくは1時間以上、4℃以上、特に15℃以上で達成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(c)において該溶液の塩濃度を0.5M以上とし、好ましくはそれによって形成される粒子を濾過によって除去することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
クロマトグラフィーを疎水性クロマトグラフィー物質で実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該A1AT含有分画の処理を固定化形態のヘパリン(ヘパリンゲル)を含む材料を用いて実施することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
後にさらなるウイルス不活化工程、好ましくは0.5M以上のクエン酸ナトリウム、アミノ酸、糖またはそれらの混合物の存在下での低温殺菌を実施することを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
該溶液のイオン強度を好ましくは限外濾過/透析濾過によって減じることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ウイルス粒子の分離を、好ましくはナノ濾過で、好ましくは15〜20nmの細孔サイズのフィルターを用いたナノ濾過で実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
得られたA1AT分画を、液体、凍結または凍結乾燥製剤として保存することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
A1ATの全量に基づいて、純度が90%超であり、活性形態における活性が0.8PEU/mg以上であり、IgA含量が1mg/ml以下であり、残存洗浄剤含量が50ppm未満、特に10ppm未満であり、かつモノマー含量が90%超である、A1AT。
【請求項13】
以下の工程:
−血漿IV1分画(コーン)の再構築;
−DEAE−セファロース(R)ファースト・フローでのアニオン交換クロマトグラフィー;
−任意に、固定化形態のヘパリンを含む固相でのクロマトグラフィー(ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー);
−任意に、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC);
−トリトン0.1%(w/w)以上/TnBP0.03%(w/w)以上を用い、インキュベーション時間1時間以上、15℃以上でのウイルス不活化;
−該溶液のイオン強度を上げるための塩の添加;及び
−それによって形成された粒子の濾過による除去;
を含む方法によって得られ得る、請求項12に記載のA1AT。
【請求項14】
後に、さらなるウイルス不活化工程、好ましくは0.5M以上のクエン酸ナトリウム、アミノ酸、糖またはそれらの混合物の存在下での低温殺菌を実施することを特徴とする、請求項13に記載のA1AT。
【請求項15】
好ましくは該溶液のイオン強度を限外濾過/透析濾過によって減じることを特徴とする、請求項13に記載のA1AT。
【請求項16】
ウイルス及び/またはプリオン除去または不活化工程が、好ましくはナノ濾過、好ましくは15〜20nmの細孔サイズのフィルターを用いたナノ濾過によるウイルス粒子の分離から構成されることを特徴とする、請求項13に記載のA1AT。
【請求項17】
得られたA1AT分画を、液体、凍結または凍結乾燥製剤として保存することを特徴とする、請求項13に記載のA1AT。
【請求項18】
単独の有効成分として、または、抗炎症剤、好ましくはステロイド、NSAIDとの組み合わせで、請求項12〜17のいずれかに記載のA1ATを含有する医薬。
【請求項19】
A1AT欠損症、肺線維症及び肺気腫等の肺の変性現象の治療用の医薬を製造するための、請求項12〜17のいずれかに記載のA1ATの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−523883(P2007−523883A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522987(P2006−522987)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009043
【国際公開番号】WO2005/014648
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(500050402)オクタファルマ アクチェン ゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】