説明

β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の精製方法

【課題】本発明は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の高コストな精製方法に依ることなく、工業的に安価に精製する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、β−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物との反応混合物から、環状エーテルを含む溶媒によって溶媒抽出する第一工程と、炭素数4以下のアルコールを用いて再結晶する工程により、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を工業的に安価に精製することができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要なβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−D−グルコピラノシルアミンのアミノ基に長鎖飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は界面活性剤として(非特許文献1)、また、長鎖不飽和脂肪酸をアミド結合させた誘導体は中空繊維状有機ナノチューブの構成単位として(特許文献1および2)の開発が進められている。このように、β−D−グルコピラノシルアミンは医薬、農薬、化粧品、機能性材料等の分野で重要な化合物であるが、報告されている精製方法には工業上の解決すべき課題があった。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例2ではβ−D−グルコピラノシルアミンに対して6当量のオレイン酸クロリドを反応させて得られた粗生成物を、また、比較例1ではβ−D−グルコピラノシルアミンに対して8当量のステアリン酸クロリドを反応させて得られた粗生成物を、いずれもシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1では、一つの方法として、β−D−グルコピラノシルアミンに対して4当量の長鎖飽和脂肪酸クロリドを反応させて得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することが開示されている。これらの精製方法は、高コストで時間のかかるシリカゲルカラムクロマトグラフィーの使用を前提とするものであり、工業的に安価な製造方法とはいえないものであった。
【0005】
一方、非特許文献1では、もう一つの方法として、β−D−グルコピラノシルアミンに対して0.4当量の長鎖飽和脂肪酸クロリドを反応させた場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いることなく、目的のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体を再結晶により精製できることが開示されている。その方法は、当該反応混合物を酢酸エチルと水とで溶媒抽出した後、有機層を回収、濃縮し、得られた残渣を煮沸したアセトンで洗浄後、不溶物を回収し、エタノールから再結晶することで、精製された目的物を得ることができることが開示されている。
【0006】
上記の精製方法は、工業的に高コストなシリカゲルカラムクロマトグラフィーの使用を回避できるという点で優れた方法である。しかし、上記の方法はβ−D−グルコピラノシルアミンを長鎖脂肪酸クロリドに対して過剰量使用した場合に限定される方法であり、β−D−グルコピラノシルアミンを大過剰に用いるという点でコスト上の問題があった。また、抽出溶媒として使用した酢酸エチルは、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体に対する溶解度の低い貧溶媒であり、かかる貧溶媒を用いる場合、溶媒の使用量が大量となり、その入手および廃液処理のコストがかかることや、濃縮工程が長時間化するなどの問題があり、さらには水との抽出分離工程が必須であるので、溶媒や不純物を含んだ水が発生し、その排水処理が必要となるという問題もあった。
【0007】
以上のように、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体の精製方法には、工業上の解決すべき課題があり、それゆえβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖脂肪酸誘導体を工業的に安価に製造する方法はこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−224717号公報
【特許文献2】特開2008− 30185号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Carbohydrate Research, 266 211−219 (1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の高コストな精製方法に依ることなく、工業的に安価に精製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、β−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物との反応混合物から、 第一工程(A):β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程と、第二工程(B):上記(A)の工程で得られる溶媒抽出物を炭素数4以下のアルコールを用いて再結晶する工程、とを含む方法により、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を工業的に安価に効率よく精製することができることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の精製方法は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を、工業的に精製する際、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の高コストな精製工程を回避することができる。その結果、産業上有用なβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を安価に提供できるという効果を有しており、利用価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、β−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物とを反応させた混合物から、式(1)で示されるグルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を精製する方法である。
【化1】

[式(1)中のRは炭素数11〜21の炭化水素基を示す。]
【0014】
本発明で使用する長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物は、総炭素数が12〜22で飽和および/または不飽和の長鎖脂肪酸のハロゲン化物であり、飽和および/または不飽和の長鎖脂肪酸のカルボキシル基を酸ハロゲン化物に誘導したものである。ハロゲンとして好ましいのは反応性が高い臭素、塩素であり、さらに好ましいのは安価な塩素である。
【0015】
長鎖飽和脂肪酸のハロゲン化物の具体例としては、ラウリン酸塩化物、トリデカン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、テトラデカン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、ベヘニル酸塩化物、2−メチルオクタデカン酸塩化物などが例示される。長鎖不飽和脂肪酸のハロゲン化物の具体例としてはミリストレイン酸塩化物、パルミトレイン酸塩化物、オレイン酸塩化物、エライジン酸塩化物、リノール酸塩化物、γ−リノレン酸塩化物、アラキドン酸塩化物などが例示される。原料入手の容易性と化合物の安定性を考慮すると、これらの内で好ましいのはラウリン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、オレイン酸塩化物であり、さらに好ましいのはオレイン酸塩化物である。
【0016】
これらの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物は、複数の異種のものを併用することもできる。また、天然油脂を出発原料とする場合が多いため数種の飽和および不飽和の脂肪酸ハロゲン化物の混合物が市販されている場合もある。このような混合物も本発明の目的を損なわない限り、好適に使用することができる。
【0017】
β−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物との反応条件は、特に限定されるものではなく、公知の方法で反応させたものを用いることができるが、収率とコストを勘案すると、β−D−グルコピラノシルアミンに対して、長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物を化学両論量付近から小過剰となる量の範囲で反応させることがコスト的に好ましい。具体的にはβ−D−グルコピラノシルアミンの1モルに対して0.5から2.5モル、さらに好ましくは1.0〜2.0モルの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物を反応させた混合物に対して本精製方法を適用した場合、トータルのコストを最小限にすることができるので好ましい。
【0018】
上記の反応は、反応用媒中で実施することができ、反応溶媒としては極性溶媒が好ましく用いられる。極性溶媒として好ましいのはメタノール、エタノール、2−プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などであり、さらに好ましいのはメタノールである。極性溶媒中には50重量%以下、好ましくは30重量%以下の水が含まれていても反応を実施することができ、副生する塩酸を捕捉するための塩基性物質を含んでいてもよい。反応生成物に対して本精製方法を適用することができる。反応溶媒を用いた場合は、反応後の反応液には、反応生成物であるβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体、未反応のβ−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物、反応溶媒、副生する塩酸およびその塩などが含まれる混合物となる。
【0019】
本発明の第一工程(A)は、上記の反応混合物から、反応生成物であるβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程を含む。この際、上記反応溶媒は反応混合物に残存していても良く、また、予め減圧濃縮等の操作によって除去されていても良い。しかし、抽出の際の分離効率を高めるためには、予め除去しておくのが好ましい。
【0020】
溶媒抽出に使用する抽出溶媒は、炭素数4〜8の環状エーテルであり、ジオキサン類、テトラヒドロフラン(THFと略す)、テトラヒドロピランなどが例示される。このうち好ましいのは、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の溶解度が高く、揮発し易いために除去が容易なTHFと1−4−ジオキサンであり、さらに好ましくはTHFである。
【0021】
溶媒抽出に使用する抽出溶媒の量は、反応に使用したβ−D−グルコピラノシルアミンの重量に対して3〜30倍、より好適には5〜20倍重量の溶媒を使用するのが好ましい。使用量が少なすぎる場合は抽出効率が低く、また使用量が多すぎる場合は後処理での溶媒の回収に労力が必要となる。反応混合物に反応溶媒が残存する場合には、上記の好ましい使用量の範囲に加えて、反応溶媒に対して体積比で4倍以上が好ましく、5倍以上がより好適となる。
【0022】
抽出温度は溶媒の使用量にもよるが5℃から還流温度の範囲で実施することができ、15〜60℃で実施するのが好適である。抽出温度が低すぎる場合は目的物の抽出量が低下し、また、温度が高すぎる場合は不純物の抽出量が増加する。
【0023】
本抽出操作では、前記式(1)で示されるグルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の他に、分解物である長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸、副反応生成物である長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸メチルエステル等の脂溶性成分が溶媒に抽出溶解され、未反応のβ−D−グルコピラノシルアミン、グルコース、トリエチルアミン塩酸塩等の非脂溶性成分は不溶物となる。これらの非脂溶性成分は濾過によって取り除くことができ、また、溶媒層と分離可能な水溶液、例えば飽和食塩水等によって洗浄除去することも可能である。工業排水の処理を考慮すると、水溶液を使用せず、濾過によって非脂溶性成分を除去することが好適である。
【0024】
また、本発明の第一工程(A)は、上記の反応混合物からβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程の他に、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体以外の不純物を溶媒抽出する工程を含んでもよい。この工程は、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程の前に行なってもよいが、好ましくは後に行なうことである。この際、上記反応溶媒の他に、先の溶媒抽出に用いた溶媒が残存していても良く、また、予め減圧濃縮等の操作によって除去されていても良い。しかし、抽出の際の分離効率を高めるためには、予め除去しておくのが好ましい。
【0025】
不純物である長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸、長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸メチルエステル等の脂溶性成分の溶媒抽出による除去は、これらの不純物に対して良溶媒であり、かつ、前記式(1)で示されるグルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体に対して貧溶媒である溶媒を用いて、前記溶媒抽出物から溶媒を除去した濃縮物、を洗浄することで達成することができる。
【0026】
本工程で使用可能な溶媒は、目的を損なうものでなければ特に限定されるものではなく、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン等の芳香族化合物、ペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素類等を用いることができ、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好適である。
【0027】
上記溶媒の使用量は、濃縮物の純度にもよるが、濃縮物重量に対して0.5〜10倍重量を用いるのが良く、1〜5倍重量の使用が好適である。使用量が少なすぎると洗浄効果が低く、また、多すぎる場合には目的物の流出量が増加する。
【0028】
洗浄温度は基本的には室温であるが、溶媒の使用量、濃縮物の純度等によって、5〜40℃の範囲で実施することができる。
【0029】
本発明の第一工程(A)において、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程および、好ましくはβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体以外の不純物を溶媒抽出して除去する工程を経た抽出物は、好ましくは抽出溶媒を除去した後、第二工程(B)において、炭素数4以下のアルコールから再結晶することで、精製されたβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を得ることができる。
【0030】
第一工程(A)の溶媒抽出物は抽出溶媒を含んでいるが、抽出溶媒の種類によっては、第二工程の再結晶の妨げになる場合があるので、第二工程(B)に入る前に抽出溶媒を除去するほうが好ましい。抽出溶媒の除去方法は公知の方法が使えるが、好ましくは減圧濃縮であり、ロータリーエバポレーターや薄膜蒸留器などの公知の装置を応用することができる。第二工程(B)に入る前の溶媒抽出物中の抽出溶媒は10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下である。
【0031】
本発明の第二工程(B)は、上記の第一工程(A)によって得られた溶媒抽出物から、好ましくは抽出溶媒を除去した後、残渣を炭素数4以下のアルコールから再結晶することによって、前記式(1)で示されるグルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を得る工程である。
【0032】
再結晶の方法は、同業者に周知の方法をいずれも用いることができるが、炭素数4以下のアルコールに加熱溶解後、温度を降下させて析出する方法が好適である。また、炭素数4以下のアルコールに溶解後、溶解度以下に濃縮する方法や、炭素数4以下のアルコールに溶解後、使用した上記のアルコールに溶解し、かつ、グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体に対する貧溶媒を加えて結晶化を促進する方法等も用いることができる。貧溶媒とは、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶解し難い溶媒のことであり、好ましいものとして、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が例示される。さらに好ましいのは結晶化促進効果の大きいメチルエチルケトンである。
【0033】
再結晶に使用するのは炭素数4以下のアルコール類であり、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−ブタノールを使用するのが好ましく、メタノール、エタノール、2−プロパノールの使用がより好適である。
【0034】
第一工程(A)によって得られた溶媒抽出物から、好ましくは抽出溶媒を除去した後の残渣を、加温して炭素数4以下のアルコール類に溶解するときの温度に限定はなく、雰囲気の圧力を上げることによってアルコール類の沸点以上で溶解することも可能であるが、好ましくは40℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上85℃以下である。アルコール溶液には活性炭やゼオライト、シリカゲルなどの吸着剤を接触させて不純分を吸着させることもできる。
【0035】
アルコール溶液の温度を下げてグルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を再結晶させるときは、溶媒が凍結しない範囲で低い温度まで下げることが好ましいが、工業的には25℃〜−30℃まで下げるのが好ましい。この時のアルコール溶液の温度の下降速度は遅い方が均一な結晶を得られるが、あまり遅いと時間がかかるので、好ましくは降温速度が毎時2℃以上50℃以下である。再結晶を促進するために、種となるβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の固体を接触させたり、気体や固体片を接触させたり、上記の貧溶媒を添加したりすることもできる。
【0036】
再結晶によって、溶液中にβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の結晶が析出したら、ろ過や遠心分離など、公知の固液分離方法によってβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の固体を回収することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の製造方法の実施例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、Nは当業者にとっての慣用単位である規定度を意味し、1価イオンであるアンモニウムイオンを生成するアンモニア溶液の場合はモル/リットル濃度と同じである。
[合成例1]
β−D−グルコピラノシルアミンの調製
和光純薬(株)製のD−(+)−グルコース(13.0 g, 72.2 mmol)と7Nアンモニア/メタノール(24.0ml)および回転子を肉厚ガラス容器に入れ、密栓後、反応容器を40℃に加温しマグネチックスターラーによる攪拌を行った。24時間後、開封し、内容物をナス型フラスコに移した。つぎに、20℃の水浴上で真空ポンプに連結し、減圧下でアンモニア/メタノールを除去することで、β−D−グルコピラノシルアミンの粗生成物(14.7 g)を得た。1H−NMR分析により、本粗生成物はモル分率でβ−D−グルコピラノシルアミン62%、α−グルコース11%、β−グルコース17%、および、ジ−β−D−グルコピラノシルアミン11%からなる混合物であることを確認した。
【0038】
[合成例2]
[合成例1]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミン(40.4mmol)を含む混合物にメタノール(70ml)を加え、25℃で攪拌して溶解した。つぎに、氷冷したところ、溶液から一部結晶性化合物が析出した。同温で和光純薬(株)製のオレイン酸クロリド(6.80ml、20.6mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(6.00ml、43.0mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温で、オレイン酸クロリド(6.80ml、20.6mmol)を5分間にわたって滴下した後、25℃に昇温した。3時間攪拌を継続した後、減圧下でメタノールを留去することでβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物を得た。
【0039】
<実施例1>
[合成例2]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物の全量に、テトラヒドロフラン(60ml)を加えて、50℃で30分間攪拌した。同温で、不溶物を吸引濾過により濾別し、テトラヒドロフランで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
【0040】
つぎに、得られた残渣に2−プロパノール(50ml)を加え、75℃で溶解した。同温で、活性炭(1g)を加え、30分間攪拌した。不溶物をセライトを用いた吸引濾過により濾別し、2−プロパノールで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
得られた残渣を40mlの2−プロパノールに80℃で溶解後、2時間かけて20℃まで冷却し、18時間静置した後、再結晶した固体をろ別することで、β−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(6.36g)を得た。
【0041】
[試験例1]
<実施例1>で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体を特許文献2記載の方法で処理した後、電子顕微鏡で観察することにより、中空繊維状の有機ナノチューブが製造できることを確認した。
【0042】
[合成例3]
[合成例1]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミン(40.4mmol)を含む混合物にメタノール(70ml)を加え、25℃で攪拌して溶解した。つぎに、氷冷したところ、溶液から一部結晶性化合物が析出した。同温で和光純薬(株)製のオレイン酸クロリド(8.60ml、26.0mmol)を5分間にわたって滴下した後、トリエチルアミン(7.60ml、54.5mmol)を5分間にわたって滴下した。さらに同温で、オレイン酸クロリド(8.60ml、26.0mmol)を5分間にわたって滴下した後、25℃に昇温した。3時間攪拌を継続した後、減圧下でメタノールを留去することでβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物を得た。
【0043】
<実施例2>
[合成例3]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物の全量に、テトラヒドロフラン(60ml)を加えて、50℃で30分間攪拌した。同温で、不溶物を吸引濾過により濾別し、テトラヒドロフランで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
【0044】
つぎに、得られた残渣にメチルエチルケトン(30ml)を加え、25℃で、スパーテルで約2分間よく混合した。不溶物を吸引濾過により回収し、メチルエチルケトン(20ml)で洗浄した。
【0045】
つぎに、得られた固体状の残渣に2−プロパノール(50ml)を加え、75℃で溶解した。同温で、活性炭(1g)を加え、30分間攪拌した。不溶物をセライトを用いた吸引濾過により濾別し、2−プロパノールで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
【0046】
得られた残渣を40mlの2−プロパノールに80℃で溶解後、2時間かけて20℃まで冷却し、18時間静置した後、再結晶した固体をろ別することで、β−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(8.49 g)を得た。
【0047】
[合成例4]
[合成例1]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミン(40.4mmol)を含む混合物に、窒素雰囲気下でN,N−ジメチルホルムアミド(50ml)を加えて溶解した。氷冷下で攪拌しながら、トリエチルアミン(6.00ml,43.0mmol)を滴下した。つぎに、同温で滴下ロートから、和光純薬製のオレイン酸クロリド(14.0ml,42.3mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(20ml)溶液を5分間かけて滴下した。氷浴をはずし、25℃で3時間攪拌を継続した後、減圧下でN,N−ジメチルホルムアミドを留去することでβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物を得た。
【0048】
<実施例3>
[合成例4]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物の全量に、テトラヒドロフラン(60ml)、50%クエン酸水溶液(5g)、飽和食塩水(25ml)を加えて、分配後、水層を廃棄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。
【0049】
得られた残渣にアセトン(30ml)を加え、25℃で、マグネチックスターらーによる攪拌を30分間行った。不溶物を吸引濾過で回収し、アセトンで洗浄した。
つぎに、得られた残渣を30mlのメタノールに60℃で溶解後、1.5時間かけて20℃まで冷却し、20時間静置した後、再結晶した固体をろ別することでβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体(5.50g)を得た。
【0050】
[試験例2]
<実施例3>で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンのオレイン酸誘導体を、電子顕微鏡で観察したところ、中空繊維状の有機ナノチューブが存在することを確認した。
【0051】
<比較例1>
[合成例2]で得られたβ−D−グルコピラノシルアミンとオレイン酸クロリドとの反応混合物の全量に、酢酸エチル(100ml)を加えて、60℃で2時間攪拌した。同温で、不溶物を吸引濾過により濾別し、酢酸エチルで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
【0052】
つぎに、得られた残渣に2−プロパノール(50ml)を加え、75℃で溶解した。同温で、活性炭(1g)を加え、30分間攪拌した。不溶物をセライトを用いた吸引濾過により濾別し、2−プロパノールで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて回収し、減圧濃縮した。
残渣に40mlの2−プロパノールを加えて80℃にしたところ、透明になったので、2時間かけて20℃まで冷却し、18時間静置したが、何も析出してこなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の生成方法は、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の安価な製造方法として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一工程(A):β−D−グルコピラノシルアミンと長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸ハロゲン化物との反応混合物から、炭素数4〜8の環状エーテルを含む溶媒によって、β−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体を溶媒抽出する工程。
第二工程(B):上記(A)の工程で得られる溶媒抽出物を炭素数4以下のアルコールを用いて再結晶する工程。
を含むβ−D−グルコピラノシルアミン長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の精製方法。

【化1】


式(1)中のRは、炭素数11〜21の炭化水素基を示す。
【請求項2】
第一工程(A)の環状エーテルがテトラヒドロフランである、請求項1のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の精製方法。
【請求項3】
第一工程(A)が、テトラヒドロフランを含む溶媒で溶媒抽出する工程と、β−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体に対する貧溶媒を用いて洗浄抽出する工程との両方を含む、請求項1または2のβ−D−グルコピラノシルアミンの長鎖(飽和/不飽和)脂肪酸誘導体の精製方法。

【公開番号】特開2010−285372(P2010−285372A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139712(P2009−139712)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】