説明

βアミロイド生成抑制剤

【課題】 これまでにβアミロイド生成抑制作用を有することが報告されている化合物とはまったく骨格を異にする化合物を有効成分とするβアミロイド生成抑制剤を提供する。
【解決手段】 次式(I):
【化1】


(式中、Rは水素原子、C2−6−アルケニル基、カルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基を表し;R、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C1−6−アルコキシ基、C2−6−アルケニルオキシ基又はカルボキシル基を表す。)
で示される化合物、そのプロドラッグ又はそれらの薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防・治療剤等として有用なβアミロイド生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老人人口の増加に伴い、老人性痴呆症の治療に有効な医薬品の開発が強く望まれている。老人性痴呆症の代表的疾患であるアルツハイマー病は、脳の萎縮、老人斑の沈着及び神経原線維変化を特徴とする神経変性疾患で、神経細胞の脱落が痴呆症状を引き起こす。アルツハイマー病患者では、病理組織学的研究により、老人斑が沈着しそれにより神経細胞が脱落し脳の萎縮が生じる。
【0003】
老人斑の主成分であるβアミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー病における神経細胞死を引き起こしている一因である(非特許文献1〜4)。
【0004】
βアミロイドは39〜43残基のアミノ酸からなる凝集しやすいペプチドであり、その前駆体であるアミロイド前駆体蛋白質がプロセシングされることにより、生成される(非特許文献5及び6)。
【0005】
アミロイド前駆体蛋白質は膜貫通部位を持つ蛋白質(非特許文献7)で、βアミロイドの17残基目付近α部位で切断を受け、N末端を含む分子量約120kDaの断片が細胞外に分泌される(非特許文献8)。一方、βアミロイドはアミロイド前駆体蛋白質のC末端領域に存在し、βアミロイドの両端で切断を受け産生したβアミロイドが細胞外に分泌される。
【0006】
βアミロイドの産生を抑制する薬剤はアルツハイマー病の治療剤又は進行を抑制する薬剤として期待されている。
【0007】
したがって、βアミロイドの生成を抑制する薬剤の研究も進められており、例えば、ロダニン誘導体(特許文献1)、ベンズイミダゾール誘導体(特許文献2)、ビンポセチン誘導体(特許文献3)、芳香族アミド誘導体(特許文献4)が知られている。
【0008】
一方、ビフェニルオール誘導体の一種であるホーノキオールは、抗炎症作用、抗不安作用及び活性酸素消去作用を有することが知られているが(特許文献5〜7)、ビフェニルオール又はその誘導体とβアミロイド生成抑制作用との関係については何ら報告されていない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−192091号公報
【特許文献2】米国特許第5552426号明細書
【特許文献3】国際公開第96/25161号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/014843号パンフレット
【特許文献5】特開平10−109941号公報
【特許文献6】特開平10−338631号公報
【特許文献7】特許第2599118号公報
【非特許文献1】Yankner, B. et al., Science, 245, 417-420 (1989)
【非特許文献2】Cai, X., Gold, T. & Younkin, S., Science, 259, 514-516 (1993)
【非特許文献3】Rose,A., Nature Med. 2, 267-269 (1996)
【非特許文献4】Scheuner, D. et al., Nature Med., 2, 864-869 (1996)
【非特許文献5】Haass, C. & Selkoe, D., Cell, 75, 1039-1042 (1993)
【非特許文献6】Roher, A.E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 10836-10840 (1993)
【非特許文献7】Kang, J. et al., Nature, 325, 733-736 (1987)
【非特許文献8】Seubert, P. et al., Nature, 361, 260-262 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これまでにβアミロイド生成抑制作用を有することが報告されている化合物とはまったく骨格を異にする化合物を有効成分とするβアミロイド生成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子、C2−6−アルケニル基、カルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基を表し;R、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C1−6−アルコキシ基、C2−6−アルケニルオキシ基又はカルボキシル基を表す。)
で示される化合物、そのプロドラッグ又はそれらの薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【0012】
(2)前記式(I)において、Rが水素原子であり、Rが水酸基又はC1−6−アルコキシ基である前記(1)に記載のβアミロイド生成抑制剤。
【0013】
(3)次式(I’):
【化2】

(式中、R’はアシル基又は置換もしくは非置換のカルバモイル基を表し;R’、R’、R’、R’、R’、R’、R’、R’及びR10’は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、置換もしくは非置換のカルバモイルオキシ基、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C1−6−アルコキシ基、C2−6−アルケニルオキシ基又はカルボキシル基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【0014】
(4)前記式(I’)において、R’がジ−C1−6−アルキルカルバモイル基であり、R’がC1−6−アルコキシ基である前記(3)に記載のβアミロイド生成抑制剤。
(5)アルツハイマー病の予防・治療剤である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のβアミロイド生成抑制剤。
【0015】
(6)次式(I−a):
【化3】

(式中、Rはカルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基を表し;RはC1−6−アルコキシ基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【0016】
(7)次式(I’−a):
【化4】

(式中、R’はC1−6−飽和脂肪族アシル基、アセトキシベンゾイル基、モルホリノメチルベンゾイル基、ジ−C1−6−アルキルカルバモイル基又はモルホリノカルボニル基を表し;R’はC1−6−アルコキシ基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ビフェニルオール骨格を有する化合物を有効成分とする新しいタイプのβアミロイド生成抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、C1−6−アルキル基、及び各置換基中の「C1−6−アルキル」は、直鎖状、分岐状及び環状(C3−6−シクロアルキル)のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0019】
2−6−アルケニル基、及び各置換基中の「C2−6−アルケニル」としては、例えばビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。
【0020】
1−6−アルコキシ基、及び各置換基中の「C1−6−アルコキシ」としては、前記のC1−6−アルキル基から誘導される全てのアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0021】
1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基としては、前記のC1−6−アルコキシ基から誘導される全てのアルコキシカルボニルメチル基、例えばメトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、イソプロポキシカルボニルメチル基、ブトキシカルボニルメチル基が挙げられる。
【0022】
2−6−アルケニルオキシ基としては、前記のC2−6−アルケニル基から誘導される全てのアルケニルオキシ基、例えばビニルオキシ基、1−プロペニルオキシ基、アリルオキシ基、1−ブテニルオキシ基、2−ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基、ヘキセニルオキシ基が挙げられる。
【0023】
ジ−C1−6−アルキルカルバモイル基とは、カルバモイル基の窒素原子に結合する2個の水素原子が前記のC1−6−アルキル基でジ置換されたジアルキルカルバモイル基をいい、例えばジメチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、ジプロピルカルバモイル基、ジイソプロピルカルバモイル基、ジブチルカルバモイル基、メチルエチルカルバモイル基が挙げられる。
【0024】
置換もしくは非置換のカルバモイル基、及び置換もしくは非置換のカルバモイルオキシ基における「置換されたカルバモイル」とは、カルバモイル基の窒素原子に結合する1個又は2個の水素原子が前記のC1−6−アルキル基で置換されたモノ−又はジアルキルカルバモイル基、及びカルバモイル基の窒素原子に結合する2個の水素原子が置換されて3〜8員、好ましくは5又は6員の含窒素環式基を形成した基、例えばモルホリノカルボニル基、1−ピロリジニルカルボニル基、ピペリジノカルボニル基及び4−メチル−1−ピペラジニルカルボニル基が挙げられる。
【0025】
アシル基、及びアシルオキシ基における「アシル」としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、ピバロイル基、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等のC1−6−脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)が挙げられる。これらのアシル基は、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C2−6−アルキニル基、芳香族基、アシル基、アシルオキシ基(例えばアセトキシ基)、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、C1−6−アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0026】
1−6−飽和脂肪族アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、ピバロイル基、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基が挙げられる。
【0027】
アセトキシベンゾイル基及びモルホリノメチルベンゾイル基の置換形式はオルト、メタ、パラのいずれでもよい。
【0028】
前記式(I)において、Rが水素原子であり、Rが水酸基又はC1−6−アルコキシ基であることが好ましい。
【0029】
前記式(I’)及び式(I’−a)において、R’はジ−C1−6−アルキルカルバモイル基が好ましく、ジメチルカルバモイル基が更に好ましい。
【0030】
前記式(I)で示される化合物のプロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により化合物(I)に変換する化合物、即ち酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こして化合物(I)に変化する化合物、胃酸等により加水分解等を起こして化合物(I)に変化する化合物をいう。化合物(I)のプロドラッグとしては、化合物(I)の水酸基がアシル化、アルキル化、リン酸化、ホウ酸化された化合物(例えば、化合物(I)の水酸基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、スクシニル化、フマリル化、アラニル化、カルバモイル化、ジメチルアミノメチルカルボニル化された化合物等)等が挙げられる。また、化合物(I)のプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計第163〜198頁に記載されているような生理的条件で化合物(I)に変化するものであってもよい。化合物(I)のプロドラッグの具体例としては、前記式(I’)で示される化合物が挙げられる。これらの化合物は自体公知の方法によって化合物(I)から製造することができる。
【0031】
前記式(I)、(I’)、(I−a)又は(I’−a)で示される化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。化合物によっては、水和物を形成する場合もあるが、それらの使用が本発明の範囲に属することはいうまでもない。
【0032】
前記式(I)で示される化合物のうち、Rがカルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物、例えば前記式(I−a)で示される化合物、及び前記式(I’)で示される化合物のうち、R’がC1−6−飽和脂肪族アシル基、アセトキシベンゾイル基、モルホリノメチルベンゾイル基、ジ−C1−6−アルキルカルバモイル基又はモルホリノカルボニル基でありR’がC1−6−アルコキシ基である化合物、例えば前記式(I’−a)で示される化合物は、新規化合物であり、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0033】
即ち、前記式(I)において、Rが水素原子であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を、DMF等の適当な溶媒中、炭酸カリウム等の塩基の存在下、クロロ酢酸C1−6−アルキルと反応させることにより、前記式(I)において、RがC1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を製造することができ、更に加水分解することにより、Rがカルボキシメチル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を製造することができる。
【0034】
また、前記式(I)において、Rが水素原子であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を、DMF等の適当な溶媒中、炭酸カリウム等の塩基及びヨウ化ナトリウムの存在下、N−(2−クロロエチル)モルホリン塩酸塩と反応させることにより、前記式(I)において、Rが2−モルホリノエチル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を製造することができる。
【0035】
更に、前記式(I)において、Rが水素原子であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を、ピリジン等の適当な溶媒中、C1−6−飽和脂肪族アシルクロリド、ジ−C1−6−アルキルカルバモイルクロリド、アセトキシベンゾイルクロリド又はモルホリノカルボニルクロリドと反応させることにより、前記式(I)において、それぞれRがC1−6−飽和脂肪族アシル基、ジ−C1−6−アルキルカルバモイル基、アセトキシベンゾイル基又はモルホリノカルボニル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を製造することができる。
【0036】
また、前記式(I)において、Rが水素原子であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を、ピリジン等の適当な溶媒中、クロロメチルベンゾイルクロリドと反応させて、前記式(I)において、Rがクロロメチルベンゾイル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を得た後、モルホリンと反応させることにより、前記式(I)において、Rがモルホリノメチルベンゾイル基であり、RがC1−6−アルコキシ基である化合物を製造することができる。
【0037】
生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーや酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、クロロホルム、メタノール、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0038】
本発明のβアミロイド生成抑制剤は、前記式(I)又は(I’)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩(以下「ビフェニルオール化合物」という。)を有効成分として含有するものであり、アルツハイマー病の治療剤、予防剤、進行の抑制剤、老人斑の生成抑止剤、老人斑の沈着による神経細胞の脱落抑制剤として有用である。
【0039】
以下、ビフェニルオール化合物を含有する本発明のβアミロイド生成抑制剤の投与量及び製剤化について説明する。
【0040】
ビフェニルオール化合物はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及び人に投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0041】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人でビフェニルオール化合物の重量として0.1mg〜2gを、1日数回に分けての服用が適当である。
【0042】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0043】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。それぞれの具体例は以下に示すごとくである。
【0044】
[結合剤]
デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール。
【0045】
[崩壊剤]
デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース。
【0046】
[界面活性剤]
ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80。
【0047】
[滑沢剤]
タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール。
【0048】
[流動性促進剤]
軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム。
【0049】
また、ビフェニルオール化合物は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0050】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人でビフェニルオール化合物の重量として1日0.01〜600mgまでの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0051】
この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0052】
その他の非経口剤としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]4,4’−ビス(アリルオキシ)ビフェニル(化合物番号2)の合成
アルゴン雰囲気下、4,4’−ビフェニルジオール(東京化成工業株式会社製)(化合物番号1)1.88g(10mmol)をDMF20mLに溶かし、炭酸カリウム4.74g(34mmol)及び臭化アリル2.07mL(24mmol)を加え、室温で25時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、残留物を酢酸エチルで再結晶し、4,4’−ビス(アリルオキシ)ビフェニル1.75g(66%)を無色結晶として得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.43−7.50(4H,m),6.93−7.00(4H,m),5.99−6.18(2H,m),5.26−5.49(4H,m),4.55−4.59(4H,m)
【0055】
[実施例2]3−アリル−4’−(アリルオキシ)ビフェニル−4−オール(化合物番号3)の合成
アルゴン雰囲気下、4,4’−ビス(アリルオキシ)ビフェニル750mg(2.8mmol)及びN,N−ジメチルアニリン3mLの混合物を180℃で7時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え、希塩酸、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、残留物を酢酸エチル/ヘキサンで再結晶し、未反応の4,4’−ビス(アリルオキシ)ビフェニル(無色結晶)をろ去した。回収したろ液を減圧下に濃縮し、残渣を分取薄層クロマトグラフィー(2×200×200(mm),ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製した後、酢酸エチル−ヘキサンより再結晶し、3−アリル−4’−(アリルオキシ)ビフェニル−4−オール113mg(15%)を淡桃色結晶として得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.26−7.49(4H,m),6.84−6.99(3H,m),5.96−6.16(2H,m),5.15−5.49(4H,m),4.93(1H,s),4.55−4.59(2H,m),3.46(2H,d,J=6.4Hz)
【0056】
[実施例3]4−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)−4’−メトキシビフェニル(化合物番号5)の合成
アルゴン雰囲気下、4’−メトキシビフェニル−4−オール(東京化成工業株式会社製)(化合物番号4)0.51g(2.42mmol)をピリジン10mLに溶かし、N,N−ジメチルカルバモイルクロリド0.75mL(7.89mmol)を加え、80℃で9.5時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え、2M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、残留物を酢酸エチル−ヘキサンより再結晶し、4−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)−4’−メトキシビフェニル0.46g(71%)を微青色結晶として得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.45−7.55(4H,m),7.12−7.19(2H,m),6.93−7.00(2H,m),3.85(3H,s),3.12(3H,s),3.03(3H,s)
【0057】
[実施例4]4−メトキシ−4’−(モルホリノカルボニルオキシ)ビフェニル(化合物番号6)の合成
N,N−ジメチルカルバモイルクロリドの代わりにモルホリノカルボニルクロリドを用いる以外は、実施例3と同様にして、4−メトキシ−4’−(モルホリノカルボニルオキシ)ビフェニルを得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.46−7.56(4H,m),7.12−7.20(2H,m),6.93−7.00(2H,m),3.85(3H,s),3.62−3.79(8H,m)
【0058】
[実施例5]4−メトキシ−4’−ピバロイルオキシビフェニル(化合物番号7)の合成
アルゴン雰囲気下、4’−メトキシビフェニル−4−オール0.50g(2.37mmol)をトリエチルアミン(0.66mL)/塩化メチレン(11mL)に溶かし、ピバロイルクロリド0.58mL(4.72mmol)を氷冷下加え、室温で3時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、ヘキサンで洗い、4−メトキシ−4’−ピバロイルオキシビフェニル0.47g(70%)を白色固体として得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.47−7.55(4H,m),6.95−7.12(4H,m),3.95(3H,s),1.37(9H,s)
【0059】
[実施例6]4−(2−アセトキシベンゾイルオキシ)−4’−メトキシビフェニル(化合物番号8)の合成
ピバロイルクロリドの代わりに2−アセトキシベンゾイルクロリドを用いる以外は、実施例5と同様にして、4−(2−アセトキシベンゾイルオキシ)−4’−メトキシビフェニルを得た。
H−NMR(CDCl)δ:8.25(1H,dd,J=7.8,1.7Hz),7.36−7.70(6H,m),7.16−7.28(3H,m),6.94−7.02(2H,m),3.86(3H,s),2.32(3H,s)
【0060】
[実施例7]4−メトキシ−4’−(メトキシカルボニルメトキシ)ビフェニル(化合物番号9)の合成
アルゴン雰囲気下、4’−メトキシビフェニル−4−オール0.50g(2.37mmol)をDMF10mLに溶かし、炭酸カリウム1.48g(10.73mmol)及びクロロ酢酸エチル0.46mL(4.22mmol)を加え、室温で24時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去し、4−メトキシ−4’−(メトキシカルボニルメトキシ)ビフェニル0.67g(99%)を白色固体として得た。
H−NMR(CDCl)δ:7.43−7.49(4H,m),6.92−7.00(4H,m),4.65(2H,s),4.23−4.34(2H,q,J=7.1Hz),3.84(3H,s),1.27−1.35(3H,t,J=7.1Hz)
【0061】
[実施例8]4−(カルボキシメトキシ)−4’−メトキシビフェニル(化合物番号10)の合成
4−メトキシ−4’−(メトキシカルボニルメトキシ)ビフェニル0.77g(2.37mmol)をエタノール(20mL)/アセトン(25mL)に溶かし、水3.6mL及び2M水酸化ナトリウム水溶液4.8mL(9.6mmol)を加え、90℃で15分間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮後、氷冷攪拌下に希塩酸を加えpH3とし、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル相を水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、残留物を酢酸エチルより再結晶し、4−(カルボキシメトキシ)−4’−メトキシビフェニル0.48g(79%)を無色結晶として得た。
H−NMR(DMSO−d)δ:7.49−7.56(4H,m),6.92−7.03(4H,m),4.69(2H,s),3.78(3H,s)
【0062】
[実施例9]4−メトキシ−4’−(2−モルホリノエトキシ)ビフェニル・フマル酸塩(化合物番号11)の合成
アルゴン雰囲気下、4’−メトキシビフェニル−4−オール0.50g(2.37mmol)をDMF10mLに溶かし、炭酸カリウム0.98g(7.11mmol)、ヨウ化ナトリウム70mg及びN−(2−クロロエチル)モルホリン・塩酸塩0.54g(2.84mmol)を加え、室温で18時間、60℃で7時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチルを加え水洗後、酢酸エチル相を1M塩酸で抽出した。塩酸相に氷冷攪拌下に水酸化ナトリウム水溶液を加えpH8とし、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル相を水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、得られた白色固体0.57gを2−プロパノール20mLに溶かし、フマル酸0.21g(1.82mmol)を加え加熱溶解し、室温で放置した。4−メトキシ−4’−(2−モルホリノエトキシ)ビフェニル・フマル酸塩0.64g(63%)を無色結晶として得た。
H−NMR(DMSO−d)δ:7.50−7.55(4H,m),6.96−7.02(4H,m),6.62(2H,s),4.12(2H,t,J=5.8Hz),3.78(3H,s),3.59(4H,m),2.72(2H,t,J=5.8Hz),2.50(4H,m)
【0063】
[実施例10]4−メトキシ−4’−(3−モルホリノメチルベンゾイルオキシ)ビフェニル・フマル酸塩(化合物番号12)の合成
(1)アルゴン雰囲気下、4’−メトキシビフェニル−4−オール0.50g(2.37mmol)をピリジン(0.33mL)/塩化メチレン(30mL)に溶かし、3−クロロメチルベンゾイルクロリド0.52mL(3.58mmol)を加え、室温で24時間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮後、残渣に酢酸エチルを加え、2M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、残留物を酢酸エチル−ヘキサンより再結晶し、4−メトキシ−4’−(3−クロロメチルベンゾイルオキシ)ビフェニル0.52g(63%)を無色結晶として得た。
【0064】
(2)4−メトキシ−4’−(3−クロロメチルベンゾイルオキシ)ビフェニル0.51g(1.44mmol)をアセトン(30mL)/塩化メチレン(20mL)に溶かし、ヨウ化ナトリウム15mg及びモルホリン0.63mL(7.2mmol)を加え、室温で3日間攪拌した。反応混合物内の固形物を濾去し、濾液を減圧下に濃縮、残渣に酢酸エチルを加え、水及び飽和食塩水で順次洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去後、得られた黄色油状物0.75gを2−プロパノール20mLに溶かし、フマル酸0.17g(1.44mmol)を加え加熱溶解し、室温で放置した。4−メトキシ−4’−(3−モルホリノメチルベンゾイルオキシ)ビフェニル・フマル酸塩0.56g(76%)を白色粉末として得た。
H−NMR(DMSO−d)δ:8.03−8.08(2H,m),7.54−7.73(6H,m),7.32−7.38(2H,m),7.02−7.07(2H,m),6.62(2H,s),3.81(3H,s),3.57−3.62(6H,m),2.38−2.42(4H,m)
【0065】
[実施例11]βアミロイド生成抑制作用の検討
アルツハイマー病アミロイド前駆体蛋白質を過剰発現するヒト神経系培養細胞として、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子の一つであるスウェーデン型変異前駆体蛋白質(APP695NL)を遺伝子導入したグリア系の細胞株変異H4を用いた。
被検化合物はジメチルスルホキシドに溶解し、添加時に培養液で希釈した。
【0066】
H4−1NLを10%牛胎児血清+150μg/mlヒグロマイシンB含有Dulbecco's Modified Eagle Meduimにて6wellプレートに均等に蒔き、COインキュベーター内で一晩培養し、培地交換後に被検化合物を添加し48時間培養した。
【0067】
培養後に各wellの上清を採取し、上清中のβアミロイド(Aβ40及びAβ42)をHuman Amyloid β(1−40)測定キット(L)−IBL及びHuman Amyloid β(1−42)測定キット(L)−IBLを用いて定量した。
結果(阻害率)を表1に示す。
【0068】
【表1】

化合物13:東京化成工業株式会社製
化合物14:東京化成工業株式会社製
化合物15:Aldrich社製
【0069】
[実施例12]血漿中濃度の測定
(1)SD系雄性ラットに、4’−メトキシビフェニル−4−オールを5mg/kg(0.03mmol/kg)静脈内投与もしくは100mg/kg(0.50mmol/kg)経口投与、又は4’−メトキシビフェニル−4−オールのプロドラッグ体である4−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)−4’−メトキシビフェニルを100mg/kg(0.50mmol/kg)経口投与し、5分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後及び6時間後に採血し、血漿試料を得た。
【0070】
(2)血漿試料、検量線試料及びQC試料100μLにメタノール100μLを添加した後、攪拌・遠心分離した。その上清50μLをHPLC分析に用いた。
【0071】
以下のHPLC分析条件にしたがって血漿中の4’−メトキシビフェニル−4−オール濃度を測定した。
【0072】
(HPLC分析条件)
移動相:A 10mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.8)、B メタノール
0〜15分:B濃度55%
15〜20分:B濃度90%
20〜28分:B濃度55%
カラム:Inertsil ODS−3V(3.5μm、4.6mm×150mm)ジーエルサイエンス社製
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
注入量:50μL
検出波長:280nm
結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】血漿中濃度の測定結果を示す。
【符号の説明】
【0074】
◆ 4’−メトキシビフェニル−4−オール静脈内投与
■ 4’−メトキシビフェニル−4−オール経口投与
▲ 4−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)−4’−メトキシビフェニル経口投与

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子、C2−6−アルケニル基、カルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基を表し;R、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C1−6−アルコキシ基、C2−6−アルケニルオキシ基又はカルボキシル基を表す。)
で示される化合物、そのプロドラッグ又はそれらの薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【請求項2】
前記式(I)において、Rが水素原子であり、Rが水酸基又はC1−6−アルコキシ基である請求項1記載のβアミロイド生成抑制剤。
【請求項3】
次式(I’):
【化2】

(式中、R’はアシル基又は置換もしくは非置換のカルバモイル基を表し;R’、R’、R’、R’、R’、R’、R’、R’及びR10’は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、置換もしくは非置換のカルバモイルオキシ基、C1−6−アルキル基、C2−6−アルケニル基、C1−6−アルコキシ基、C2−6−アルケニルオキシ基又はカルボキシル基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するβアミロイド生成抑制剤。
【請求項4】
前記式(I’)において、R’がジ−C1−6−アルキルカルバモイル基であり、R’がC1−6−アルコキシ基である請求項3記載のβアミロイド生成抑制剤。
【請求項5】
アルツハイマー病の予防・治療剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載のβアミロイド生成抑制剤。
【請求項6】
次式(I−a):
【化3】

(式中、Rはカルボキシメチル基、C1−6−アルコキシ−カルボニルメチル基又は2−モルホリノエチル基を表し;RはC1−6−アルコキシ基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
次式(I’−a):
【化4】

(式中、R’はC1−6−飽和脂肪族アシル基、アセトキシベンゾイル基、モルホリノメチルベンゾイル基、ジ−C1−6−アルキルカルバモイル基又はモルホリノカルボニル基を表し;R’はC1−6−アルコキシ基を表す。)
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。

【図1】
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【公開番号】特開2006−347940(P2006−347940A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175327(P2005−175327)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003665)株式会社ツムラ (43)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】