説明

γ−アミノ酪酸含有組成物

【課題】使用する賦形剤の量が少量であっても乾燥性、吸湿性、保存安定性に優れ、かつ、長期間保存した場合や、高温下で保存した場合でも褐変やγ−アミノ酪酸含量の低下が抑えられた、粉末状のγ−アミノ酪酸を高含有する組成物およびその製造方法を提供する。
【解決方法】γ−アミノ酪酸と、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を含有することを特徴とするγ−アミノ酪酸含有組成物を要旨とするものであり、好ましくは、組成物が、乾燥及び粉末化されているものであり、また好ましくは、γ−アミノ酪酸の含有量が1〜90質量%であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸含有組成物及びその製造方法並びにそれを含有する医薬品、飲食品及び飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(γ−aminobutyric acid、以下、GABAと略す。)は生物界に微量ながら広く存在する非タンパク質構成アミノ酸であり、ヒトにおいては脳内で神経伝達物質として働くことが知られている。食品素材としてのGABAは血圧降下作用、精神安定作用、脳機能改善作用、更年期障害症状緩和作用、中性脂肪増加抑制作用等の健康維持意識の高い現代人にとって有効な生理作用を有している。その上、GABAはヒトが多量に摂取しても副作用が無いので、安全性の面でも有利であり、食事療法が効果的な生活習慣病、特に高血圧症を予防する成分として食品に付加させる開発が多くなされている。
【0003】
そのようなものとして、米胚芽、米糠、小麦胚芽などの中に元来含まれる酵素の作用を利用してGABA富化穀物を製造する技術(例えば、特許文献1及び2参照)、トマト、カボチャ等の野菜などの中に含まれる酵素の作用を利用してGABA富化組成物を製造する技術(例えば、特許文献3〜5参照)、茶葉を嫌気処理することによってGABA含量の高い茶葉を製造する技術(例えば、特許文献6参照)などが報告されている。
【0004】
また、一部の微生物がグルタミン酸からGABAを生産する能力に優れていることが知られており、GABAを乳酸菌で製造する技術(例えば、特許文献7、8)や麹菌で製造する技術(例えば、特許文献9参照)、などが報告されている。これらの中でも乳酸菌はGABAの生産効率が良く、例えばラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ヒルガルディー(L.hilgardii)、ラクトバチルス プランタラム(L.plantarum)(特許2704493号公報)、ラクトバチルス ラクティス(L.lactis)などが開示されている。
【0005】
このような技術で製造された液状のGABA含有組成物を粉末化する場合は、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空(減圧)乾燥、加熱乾燥等の方法が用いられるが、乾燥性、保存安定性の向上、吸湿性の低下のために粉末化基材を添加することがほとんどで、粉末化基材としてはデキストリン類が広く一般的に用いられている。
【特許文献1】特許第2590423号公報
【特許文献2】特開2004−159617号公報
【特許文献3】特公平7−12296号公報
【特許文献4】特公平7−14333号公報
【特許文献5】特開2001−252091号公報
【特許文献6】特許第3038373号公報
【特許文献7】特開2001−352940号公報
【特許文献8】特開2003−70462号公報
【特許文献9】特開平11−103825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、デキストリン類を賦形剤として用いた場合、得られた粉末が長期間保存した場合や、高温下で保存した場合に褐変する、GABA含量が低下する等の問題があった。褐変反応の原因にはいくつか考えられるが、メイラード反応が主要因であると考えられる。メイラード反応とは、還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質)を加熱したときなどに見られる、褐色物質を生み出す代表的な非酵素的反応である。そのため、賦形剤に還元基を有さない糖類を用いればよいが、糖アルコール類、スクロース、トレハロースなどの該当する糖類を用いた場合、乾燥性が悪く粉末が得られないか、得られても粉末の吸湿性が高く潮解しやすい等保存安定性に欠け、それを防ぐために多量の賦形剤が必要となり、結果GABAを高含有する粉末組成物を得ることが困難であった。このような背景から、使用する賦形剤の量が少量であっても乾燥性、吸湿性、保存安定性に優れ、かつ、長期間保存した場合や、高温下で保存した場合でも褐変やGABA含量の低下が抑えられた、粉末状のGABAを高含有する組成物およびその製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、還元基を有しない糖類として環状デキストリン及び/又は一定の糖組成を有する還元澱粉分解物を粉末化基材として用いれば、上記課題を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一は、GABAと、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を含有することを特徴とするGABA含有組成物を要旨とするものであり、好ましくは、組成物が、乾燥及び粉末化されているものであり、また好ましくは、GABAの含有量が1〜90質量%であるものである。
【0009】
本発明の第二は、GABAを含有する醗酵液又は酵素反応液に、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を加え、溶解させた後、乾燥することを特徴とする前記のGABA含有組成物の製造方法を要旨とするものである。
【0010】
本発明の第三は、前記した組成物を含有することを特徴とする医薬品、飲食品又は飼料を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着色やGABA含量の観点で保存安定性や熱安定性に優れ、また、乾燥性、吸湿性の低さに優れた粉末のGABA高含有組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いられるGABAは、経口摂取可能であるならいかなるものでもよいが、食品に使用しやすいという点で化学合成品よりも発酵法や酵素法、天然物からの抽出により得られるものが好ましい。これらは純品でもよいし、GABA含有組成物でもよいが、本発明の効果が大きく現れるという点で、GABA含有組成物のほうが好ましい。また、これらは自家調整でもよいし、市販品を用いてもよい。自家調整する場合、天然物からGABAを含む組成物を得る方法、食品中に含まれる酵素やGABA産生能を有する微生物による発酵を利用したGABA含量の高い組成物を得る方法が挙げられる。これらの方法のうち好ましいのは、GABA含有率が高い点で微生物による発酵法であり、さらには微生物として、GABA産生能に優れている点で乳酸菌を使用する方法がより好ましい。
【0014】
これらは公知の方法に基づいて調整すればよいが、以下に乳酸菌による発酵法についてさらに説明する。
【0015】
乳酸菌の増殖や発酵に用いられる培地は従来公知の乳酸菌用培地を使用することができる。かかる培地としては、GYP培地(D−グルコース1%、ペプトン0.5%、酵母エキス1%、酢酸ナトリウム3水和物0.2%、ツイン80 0.05%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、硫酸マンガン4水和物10ppm、硫酸鉄7水和物10ppm、塩化ナトリウム10ppm)、市販のGAM培地(日水製薬)、MRS培地(Difco)等を使用することもできるし、糖、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、魚肉エキス、大豆分解物、ペプトン、ポリペプトン、ポテト浸出液等の培地成分を単独で又は2種以上を水に溶解させた培地を使用することもできる。また、食用可能な植物の破砕物、磨砕物、粉砕物、搾汁、抽出物、酵素処理物等の処理物を単独で又は前記培地成分と組み合せて使用することも可能である。このような植物としては、我々が特願2006−122399号で示したように、アスパラガスが乳酸菌のGABA産生能を高めるという点で好ましい。
【0016】
本発明において用いられる乳酸菌は、食品に用いても安全であり、GABA生産能を持つものであれば特に限定されないが、そのような乳酸菌としては、Lactbacillus brevis、L.hilgardii、L.plantaram、L.casei、L.paracasei、L.helveticus、L.bulgaricus、L.acidophilus、L.sp.、Streptococcus lactis、S.thermophilus、Enterococcus casseliflavus等に属する乳酸菌が挙げられる。これらに属する乳酸菌株のうち、GABA産生能に優れるL.brevisに属する乳酸菌が好ましい。中でも、L.brevis UAS−4(FERM P−20710)、L.brevis UAS−6(FERM P−20711)、L.brevis IFO3345、L.brevis IFO12005はGABA生産能が高く、より好ましい。
【0017】
次に、発酵の際の方法、条件について述べる。
【0018】
微生物の添加方法は、上記のように調製された培地に直接少量の菌体を接種することで増殖させることができるが、短期間で菌体濃度を上昇させる為には、前培養した菌液を接種することが好ましい。前培養液としては、本培養と同じ組成物またはそれを含有する培地でもよいし、前記した公知のあらゆる培地を使用することもできる。前培養した菌液を接種する量としては、本培養の培地量の100000分の1〜2分の1であり、1000分の1〜10分の1が好ましく、200分の1〜30分の1がさらに好ましい。この範囲より接種量が少なければ、菌体濃度の増加に時間がかかる問題があり、この範囲より多ければもはや前培養の時点で大きなスケールになっており、本培養を行う必要性がないということである。
【0019】
また、GABAは主にグルタミン酸の脱炭酸によって生成されるので、グルタミン酸又は/及びその塩又は/及びそれらの含有物を培地に添加してもよい。用いられるグルタミン酸又は/及びその塩又は/及びそれらの含有物のうち、グルタミン酸塩としてはいかなるものも使えるが、食品添加物となっており、水への溶解性に優れるグルタミン酸ナトリウムが好ましい。また、グルタミン酸及び/又はその塩の含有物としてはいかなる物も使えるが、食品に添加可能な酵母エキス等のような調味料が好ましい。これらの内、水への溶解性に優れるグルタミン酸ナトリウムと、GABA産生に伴うpHの上昇を抑えられるという点でグルタミン酸が望ましく、さらに好ましくはそれらの併用である。
【0020】
グルタミン酸又は/及びその塩又は/及びそれらの含有物の量は、グルタミン酸の終濃度として0.1〜40質量%となる量が好ましく、0.2〜25質量%がより好ましく、0.5〜20%が最も好ましい。この範囲より少なければ得られるGABAの量が少なくなり、この範囲より多ければグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩が残存してしまうか、全量GABAに変換されたとしても長時間かかる問題がある。また、グルタミン酸及び/又はその塩及び/又はそれらの含有物添加する場合は1回で全量添加しても良いし、発酵中に複数回に分けて添加しても良い。また、添加時期は特に限定されず、菌添加の前でも同時でも後でもよい。作業性の面では1回で全量添加することが好ましいが、急激なpHの変動を引き起こすため、少量ずつ添加することが好ましく、培養開始時は溶解性に優れたグルタミン酸ナトリウムを、培養後期、特にGABA産生中はpHが上昇するためグルタミン酸を複数回添加するのが好ましい。
【0021】
発酵時の培養温度は用いる菌株にもよるが、5℃〜45℃であり、好ましくは15℃〜40℃であり、さらに好ましくは20℃〜35℃である。培養温度がこの温度範囲より高くても低くても著しく増殖速度が劣る問題がある。
【0022】
発酵中の培養液のpHは用いる菌株にもよるが、3.5〜8.0に調整することが好ましく、4.0〜6.5に調整することがより好ましく、4.5〜5.5に調整するのが最も好ましい。pHがこの範囲を外れると、グルタミン酸脱炭酸酵素の活性が低下し、GABAの産生速度が低下する問題がある。pH調整に用いる薬品はいかなる物も使用でき、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、グルタミン酸、酢酸、酪酸、乳酸、蟻酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。本発明ではGABAの産生に応じてpHは上昇する傾向になり調整は主に酸を添加して行うため、これらの中で好ましくは、塩酸、リン酸、グルタミン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸であり、さらに好ましくは塩酸、グルタミン酸、乳酸、酢酸であり、グルタミン酸がGABAの基質としても用いられるため最も好ましい。
【0023】
醗酵時の酸素条件は用いる菌株にもよるが、嫌気条件下でも好気条件下でも増殖させることができる。ただし、好気条件下では増殖は可能でもGABA生産能が低下する菌株が存在するので、嫌気条件か緩やかに攪拌する程度の好気条件にする方が好ましく、例えばバブリングや速い攪拌等を行う必要は無い。
【0024】
発酵の培養時間は特に限定されないが、2時間〜10日間が好ましく、5時間〜5日間がより好ましく、8時間から〜3日間が最も好ましい。発酵時間がこの範囲を下回るとグルタミン酸からGABAへの変換が不十分になり、この範囲を上回っても、更なる効果は望めず、雑菌の混入や増殖の可能性も高くなる。
【0025】
本発明の組成物は、上記した方法で得られた液状又はペースト状又はスラリー状の天然物からの抽出物、酵素反応物、発酵物に、以下で説明する粉末化基材を加え乾燥することによって作製される。天然物からの抽出物、酵素反応物、発酵物はあらかじめ、濃縮、希釈、濾過や遠心による固液分離等を行っても構わない。
【0026】
本発明で用いられる粉末化基材は、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉分解物であることが必要である。
【0027】
環状デキストリンとは、単糖が環状に結合した構造を分子内に有するデキストリンであり、食品への使用可能であって工業的に供給されているものとしてはα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、分岐シクロデキストリンが挙げられる。
【0028】
還元澱粉分解物とは、還元水飴、還元澱粉糖化物、還元デキストリンとも呼ばれ、精製澱粉を酸、酵素、熱で加水分解後精製して得られる糖化物(デキストリンまたは水飴とも呼ぶ)を水素添加して精製したもので、濃縮した液状、またはさらに乾燥した粉末の状態のものがあり、これらのうち、本発明においては、還元澱粉分解物の糖組成として、重合度3以上の糖を70%以上含有したものを用いることが必要であり、好ましくは、重合度4以上の糖を90%以上含有するものである。糖組成に占める単糖や二糖や重合度の低い糖の割合が高いような前記の範囲を外れる還元澱粉分解物を用いた場合には、乾燥性が悪く、得られる粉末の吸湿性も高いものとなる。また、澱粉を焙焼した後酵素分解し分解されなかった成分を精製ものを難消化性デキストリンといい、この難消化性デキストリンを水素添加して精製したものを還元難消化性デキストリンというが、本発明における還元澱粉分解物は、還元難消化性デキストリンを含むものである。
【0029】
乾燥方法は従来公知のいかなる乾燥方法でも良く、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、加熱乾燥等が例示される。
【0030】
本発明のGABA含有組成物における、GABA含有率および環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉分解物の含有率は、特に限定されるものではないが、GABAを1%〜90質量%が好ましく、さらに好ましくは5%〜80%、最も好ましくは10%〜50%であり、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉分解物を10〜90質量%が好ましく、さらに好ましくは20%〜85%、最も好ましくは40%〜80%である。GABA含有率がこの範囲を下回ると、GABAの機能を期待できるだけの量を摂取しようとすると摂取量が多くなり、継続的な使用が困難となる。また、GABA含有率がこの範囲を上回ると、もはや本発明の効果が見込め無くなる。
【0031】
環状デキストリンと、重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉分解物との両者を含ませる場合には、それらの組成物に占める割合は特に限定されるものではないが、両者の含有率の合計が10〜90質量%になるように配合するのが好ましく、さらに好ましくは20%〜85%、最も好ましくは40%〜80%である。また、両者の比率は全く限定されることは無いが、環状デキストリンの、重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉分解物に対する質量比が5未満であるのが、コスト面から好ましい。
【0032】
本発明のGABA含有組成物は、常法により、細粒状、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤に成形してもよい。また、それらの加工を施す際必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の担体を、本発明を損なわない限り用いてもよい。賦形剤としてはマンニット、ソルビット、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、プルラン、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等を、結合剤としては結晶セルロース、マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、水、エタノール等を、崩壊剤としてはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース等を、滑沢剤としてはステアリン酸およびその金属塩、タルク、ホウ酸、脂肪酸ナトリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、無水ケイ酸等を例示できる。
【0033】
また、本発明は、その効果を損なわない限り、さらに味質の改善のために、糖類、糖アルコール類、塩類、油脂類、アミノ酸類、有機酸類、果汁、野菜汁、香料、香辛料、アルコール類、グリセリン等を添加することができる。また、pH調整のために、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等を添加することができる。
【0034】
次に本発明の第三の医薬品、飲食品又は飼料について説明する。
【0035】
本発明の医薬品、飲食品又は飼料は、上述の本発明の第一のGABA含有組成物を含有することを特徴とするものである。飲食品中又は飼料中における本発明のGABA含有組成物の含有量は、特に限定されず本発明のGABA含有組成物それ自身を飲食品又は飼料とすることも可能であるが、概ねGABAとして1日当たりの摂取量が10〜1,000mgになるように配合することが好ましい。この範囲より少ない場合は効果が望めない可能性があり、この範囲より多い場合はもはや効果の増大は見込めず、さらに日常摂取が困難な可能性がある。
【0036】
本発明のGABA含有組成物を既存の飲食品或いは調味食品に含ませる場合は、ベースとなる飲食品或いは調味食品としては特に限定されないが、例えば、うどんやパスタ等の加工麺、ハム・ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ・ちくわ等の水産加工食品、バター・粉乳・醗酵乳等の乳加工品、ゼリー・アイスクリーム等のデザート類、パン類、菓子類、調味料類等の加工食品、および、清涼飲料水、アルコール類、果汁飲料、野菜汁飲料、乳飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、アルコール類等の飲料が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、アミノ酸の定量分析は、以下の方法により行った。すなわち、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により以下の条件で測定し、蛍光検出器を用いて検出した。
HPLC:島津製作所(株)製LC−10A
カラム:Shim−pack Amino−Li(100mmL.×6.0mmI.D.)
移動相:アミノ酸移動相キットLi形 グラディエント溶出
流速:0.6ml/分
カラム温度:39℃
反応液:オルト−フタルアルデヒド(ポストカラム)
反応液速度:0.3ml/分
反応温度:39℃
検出波長:励起波長350nm、蛍光波長450nm
【0038】
実施例1〜4、比較例1〜6
GABA産生能を有する乳酸菌Lactobacillus brevis UAS−4(FERM P−20710)をGYP培地100mlに接種し、24時間30℃、静置で前培養を行った。前培養液全量を3質量%のグルタミン酸ナトリウムを含有するGYP培地10Lに添加し30℃、静置で本培養を開始した。16時間後10質量%のグルタミン酸を添加し培養を継続した。培養開始48時間後に85℃30分間殺菌処理した後、珪藻土を添加して濾紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、清澄な濾液を得た。この濾液の固形分濃度は113.9g/L、GABA濃度は84.1g/Lであった。
【0039】
この濾液各1Lに、γ−シクロデキストリン(塩水港精糖株式会社製)〔実施例1〕、還元澱粉糖化物1(サンエイ糖化株式会社、製品名ダイヤトールN)〔比較例1〕、還元澱粉糖化物2(サンエイ糖化株式会社、製品名ダイヤトールL)〔実施例2〕、還元澱粉糖化物3(松谷化学工業株式会社製、製品名H−PDX)〔実施例3〕、還元澱粉糖化物4(松谷化学工業株式会社製、製品名BDH−1)〔実施例4〕、マルトデキストリン(DE10)〔比較例2〕、マンニトール〔比較例3〕、エリスリトール〔比較例4〕、マルチトール〔比較例5〕(以上日研化成株式会社製)、パラチニット(三井製糖株式会社製)〔比較例6〕を対固形分の150%の量を溶解し凍結乾燥を行った。なお、還元澱粉糖化物の糖組成(質量%)は表1の通りである。
【0040】
【表1】

【0041】
凍結乾燥後、得られた固形物をミキサーで粉砕し、この時点での粉末の状態を目視にて観察した。その結果を表2に示した。
【0042】
また、粉末状態を維持していたものを40℃1晩真空乾燥した後ラミネートフィルムで包装し、60℃の恒温槽にて加熱負荷をかけた。48時間後、5質量%の着色度(Abs420nm)を測定し、加熱負荷試験前との差を求め、この着色上昇度を表2にあわせて示した。
【0043】
【表2】

【0044】
これらの結果より明らかな通り、本発明の実施例となる、環状シクロデキストリン又は重合度3以上の糖を70質量%以上含有する還元澱粉糖化物を用いて粉末化したものでは、乾燥性が良好で、かつ、着色を抑えることが可能であった。特にγ−シクロデキストリン、還元澱粉糖化物3(糖組成が重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉糖化物)、還元澱粉糖化物4(糖組成が重合度4以上の糖を85%以上含有する還元澱粉糖化物)が優れていることが分かる。
【0045】
実施例5、比較例7
実施例1と同じ方法で得たGABA含有発酵濾液10Lに還元澱粉糖化物4(実施例5)又はマルトデキストリン(比較例7)を対固形分の150%溶解し、アトマイザー式スプレードライヤーで回転数8,000rpm、ストローク47、排風温度85℃の条件下で噴霧乾燥を行った。その結果、実施例5、比較例7ともに粉末2.8kgが得られ、どちらもサラサラした粉末であった。5質量%の着色度(Abs420nm)を測定したところ、実施例5は0.2348であるのに対し比較例7は0.5291であり、本発明においては、噴霧乾燥においては得られた直後の粉末の着色度も抑えられることが分かった。
【0046】
試験例1
実施例5、比較例7で得られた粉末各100gをラミネートフィルムで二重包装し、40℃、湿度75%の条件で保存した。3ヵ月後、各粉末中のGABA含量を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表4より明らかな通り、GABAの保存安定性の面からもマルトデキストリンより還元澱粉分解物が優れていることが分かる。
【0049】
実施例6
ウーロン茶200mlに実施例5で得られた粉末100mgを溶解させ、GABA含有するウーロン茶を得た。粉末は速やかに溶解し、味質、臭いにほとんど変化は無かった。
【0050】
実施例7
実施例5にて得られた粉末を0.1質量%になるよう中力粉と混合し、うどんの麺を作製した。この麺を調理したうどんを食したところ、通常の麺と味質、匂い、食感に変化は無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸と、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を含有することを特徴とするγ−アミノ酪酸含有組成物。
【請求項2】
組成物が、乾燥及び粉末化されている請求項1記載のγ−アミノ酪酸含有組成物。
【請求項3】
γ−アミノ酪酸の含有量が1〜90質量%である請求項1又は2記載のγ−アミノ酪酸含有組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を有効成分とすることを特徴とする医薬品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品又は飼料。
【請求項6】
γ−アミノ酪酸を含有する醗酵液又は酵素反応液に、環状デキストリン及び/又は重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を加え、溶解させた後、乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−150350(P2008−150350A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342879(P2006−342879)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】