説明

γ−アミノ酪酸高生産能を有する新規乳酸菌、ならびにそれを使用したγ−アミノ酪酸および乳酸発酵食品の製造方法

【課題】γ−アミノ酪酸(GABA)高生産能を有する乳酸菌、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)およびそれをコードする核酸を提供すること。
【解決手段】GABA高生産能を有する新規乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるGADおよびそれをコードする核酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸(以下、GABA)高生産能を有する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるグルタミン酸脱炭酸酵素(以下、GAD)およびそれをコードする核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(GABA)は、生物界に広く分布する非タンパク質アミノ酸であり、生体内では抑制性の神経伝達物質として機能していることが知られている(非特許文献1)。また、GABAは、いろいろな生理機能を有することが知られてきており、血圧降下作用(非特許文献2)を始め、動脈硬化予防、肝機能改善、腎機能向上、精神安定等の作用が報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0003】
このようなGABAの機能を利用するために、まずGABAを含有する食品素材を摂取することが考えられた。GABAは、玄米、紅麹、茶、一部の野菜や果実等の食品に含まれているが、これらはGABAを微量しか含まず(非特許文献3)、元来の生理機能を発現するのに有効な量のGABAを含有する食品ではなかった。そこで、食品中のGABA含量を増加する方法が種々検討された。現在までに提案されている上記目的に対応する方法は大きく2種類に分けられる。一方は、GABAまたはエキス化したGABAを食品に添加する方法であり、他方は、乳酸菌などの微生物を用いて当該食品を発酵させるか、もしくは当該食品においてグルタミン酸に酵素を作用させてGABAを生産する方法である。
【0004】
前者の方法において添加するGABAを生産する方法としては、γ−ハロゲン酪酸のアミノ化やピロリドンの加水分解による化学合成方法以外に、天然素材の培地で選抜または育種した高濃度にGABAを生産する乳酸菌を用いて発酵させる方法(非特許文献3、非特許文献5、特許文献1)、およびグルタミン酸またはこれを含む原料に酵素(グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD))を反応させ、高濃度にGABAを生産する方法が提案された。これらの方法では、既存の食品に後からGABAを添加するため、化学物質の添加物を加えるというイメージの悪さがあり、また食品の工業的製造工程が増えるという問題があった。さらに、GABAを発酵により製造する場合は、培養物由来の不純物としての香味原因物質が添加の際に食品に移行して食品本来の香味を損なう可能性があり、さらには微生物汚染が発生するなどの懸念が生じた。従って、食品製造における製造面および品質面での不自然さを生じることとなった。
【0005】
一方、後者の方法(特許文献2)では、乳酸菌による発酵を利用する場合、食品によっては必ずしも乳酸菌による発酵が生じるとは限らず、また発酵しても乳酸菌がGABAを生産するとは限らないなどの問題があった。また、場合によっては乳酸菌による発酵により当該食品の香味が損なわれる可能性もあり、その食品における乳酸菌による発酵の条件を満たす乳酸菌株は非常に限定されてしまうという制約があった。
【0006】
これまでにGABA生産能の高い乳酸菌として、キムチなどの漬け物から単離され育種された株についての報告がある(特許文献3)。このような乳酸菌を上記のような添加用GABAの製造またはGABA含有食品の製造に使用できる可能性があるが、いずれの場合でも、本来臭いの強いキムチなどの漬け物から得られた菌株を使用した場合、漬け物臭やダイアセチル臭のような不快な香味を食品に付加する可能性がある。
【0007】
乳酸菌の発酵により得られる代表的な食品であるヨーグルトと長寿との関連についてのいわゆるメチニコフの不老不死説以来、乳酸菌や乳酸発酵食品がヒトの健康に良い影響を与えると考えられ、疫学的研究やヒトを含めた動物実験が行われている。現在までに乳酸菌摂取による腸管菌叢の安定、血中コレステロールの低下および発癌の抑制などの効果が確認されている。また、食品製造の立場からは、乳酸菌による食中毒菌の抑制などの安全性の向上、塩慣れ効果や発酵および発酵産物による風味の向上が認められている。
【0008】
漬け物は世界各地で古来より野菜を原料として生産されている食品である。従来、日本において漬け物は発酵法により製造されており、その発酵過程に乳酸菌などの微生物が関与していたと考えられる。すなわち、従来の漬け物には乳酸発酵食品に含まれるものがあった。従って、GABAを生産する乳酸菌による発酵を利用してこのような漬け物を製造することができれば、GABAを含有する機能的発酵食品としての漬け物を得ることができる可能性がある。
【0009】
しかし、現在、伝統的な発酵法による日本の漬け物製造は、漬け物全体の0.1%程度であるといわれており、ほとんどの漬け物は、非発酵的に製造される。非発酵法のメリットとしては、食品衛生問題の低減、製造期間短縮、品質の均一化が挙げられる。京漬け物の一種である千枚漬けの製造を例に挙げれば、原料野菜であるかぶらに食塩を添加して放置する下漬けの期間が、現在の主流となっている簡易製造法は1晩であるのに対し、伝統法では1週間もの期間を要している。このような理由から、非発酵法の方が効率的な漬け物の工業生産により適しているとされている。
【0010】
一方、工業的漬け物製造において乳酸発酵が利用されない別の理由として、漬け物に適したスターターがないことで挙げられる。すなわち、植物成分を利用して生育し、食品の香味に悪影響を及ぼさない乳酸菌が得られれば、これをスターターとして原料野菜に添加して安定に漬け物を製造できる可能性がある。また、このような乳酸菌がGABAを高生産する能力を有していれば、GABAを含有する発酵食品を効率的かつ安定に得ることができる。チーズやヨーグルトとは異なり、漬け物の発酵においては、一般にスターターは使用されておらず、原料野菜や製造環境に存在する微生物が利用される。例えば、特許文献4には、キムチから分離された乳酸菌をスターターとして添加する漬け物の製造方法が記載されているが、これが漬け物製造に実用的に使用可能であるかどうかは不明である。また、この文献に記載されている乳酸菌がGABA生産能を有するかどうかも知られていない。
【0011】
【特許文献1】特開2000−210075号公報
【特許文献2】特開平3−236763号公報
【特許文献3】特開2003−70462号公報
【特許文献4】特開2001−120173号公報
【非特許文献1】上野義栄他、京都M&T総合センター情報、1999.6 研究報告
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌、49、409−415(2002)
【非特許文献3】大阪生物環境科学研究所レポート「GABA 高濃度発酵エキス」(2002)
【非特許文献4】上野義栄他、京都M&T総合センター情報、2001.6 研究報告
【非特許文献5】早川 潔他、京都M&T総合センター情報、1991.1 研究報告
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解消するものである。本発明の目的は、GABA高生産能を有する乳酸菌、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるGADおよびそれをコードする核酸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、千枚漬けから得られた新規乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)が高いGABA生産能を有することを見出した。
【0014】
上記のように、現在、漬け物の大部分は非発酵的に製造されており、千枚漬けも主に乳酸発酵によらない酢漬法で製造されている。従来のように千枚漬けを発酵法で製造した場合に発酵に関与する微生物に関する知見は少なく、発酵によって千枚漬け中にGABAが生産されるかどうかについての報告はない。それゆえ、千枚漬けの発酵過程からGABA高生産能を有する乳酸菌が得られたことは予想外であった。千枚漬けはキムチのように臭いが強くないため、千枚漬けから得られた本発明の乳酸菌は不快な香味を食品に付加しないという利点があると考えられる。また、この乳酸菌は千枚漬けから得られたため、食品製造に使用した場合の安全性に問題はないと考えられる。
【0015】
さらに、本発明者らは、当該乳酸菌を使用して優れた性質を有する乳酸発酵食品が製造できることを見出し、当該乳酸菌よりGADをコードする核酸をクローニングしてGABAの組換え生産を可能にして、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は:
[1]γ−アミノ酪酸生産能を有する乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253);
[2]乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)を培養する工程、および培養物からγ−アミノ酪酸を採取する工程を包含する、γ−アミノ酪酸の製造方法;
[3]発酵食品の原料を乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)の存在下で発酵させる工程を包含する、γ−アミノ酪酸含有乳酸発酵食品の製造方法;
[4]乳酸発酵食品が千枚漬けであり、発酵食品の原料がかぶらである、[3]の製造方法;
[5]発酵食品の原料を乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)の存在下で発酵させる工程を包含する方法により製造される、γ−アミノ酪酸含有乳酸発酵食品;
[6]乳酸発酵食品が千枚漬けであり、発酵食品の原料がかぶらである、[5]の乳酸発酵食品;
[7]配列番号7のアミノ酸配列または配列番号7のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチド;
[8]以下からなる群より選択され、かつグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸:
(1)配列番号6の塩基配列からなる核酸;
(2)配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸;
(3)配列番号6の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸;
[9][8]の核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含する、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドの製造方法;
[10][8]の核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からγ−アミノ酪酸を採取する工程を包含する、γ−アミノ酪酸の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、GABA高生産能を有する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるGADおよびそれをコードする核酸が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
γ−アミノ酪酸(GABA)は、生物界に広く分布する非タンパク質アミノ酸であり、グルタミン酸からグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の作用を受けて生合成される。GADはビタミンBリン酸エステル化合物の一種であるピリドキサールリン酸(PLP)を補酵素とすることが知られている。GABAは、抑制性神経伝達物質として機能する。また、GABAは、血圧降下作用、動脈硬化予防、肝機能改善、腎機能向上、精神安定等の生理機能を有する。その効能の発揮のために好ましい成人1日当たりの摂取量は、例えば10〜500mg、好ましくは25〜200mg、より好ましくは50〜100mgである。
【0019】
本発明は、γ−アミノ酪酸高生産能を有する乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)(以下、L13株)を提供する。本発明の乳酸菌は、GABAの製造およびGABA含有乳酸発酵食品の製造に使用できる。本明細書において乳酸菌とは、炭水化物を分解して乳酸を生成する細菌をいう。乳酸菌が属する属には特に限定はなく、例えばLactobacillus属が挙げられる。
【0020】
本発明の乳酸菌は、従来の発酵法で製造された千枚漬けからGABA高生産能を有する株として単離された。従って、同様に千枚漬けなどの乳酸発酵食品から本明細書の開示に従ってL13株と同様に高いGABA生産能を有する乳酸菌を取得することができる。このような乳酸菌も本発明の乳酸菌に含まれる。
【0021】
L13株は、生化学的な性質に基づけばLactobacillus属細菌とは異なることが示唆されるが、16S rDNAの塩基配列の相同性に基づく遺伝学的分類方法によればLactobacillus属に属する新種であると結論付けられる。L13株の16S rDNAの塩基配列と公知の細菌の16S rDNAの塩基配列との同一性は最高で98%であった。従って、L13株と98%より高い16S rDNAの塩基配列の同一性を示す細菌はL13株と同じ種に属すると考えられ、L13株と同様に高いGABA生産能を有する可能性が高い。このような細菌も本発明の乳酸菌に含まれる。
【0022】
本発明は、L13株を培養する工程、および培養物からGABAを採取する工程を包含するGABAの製造方法を提供する。培養条件は、L13株が良好に増殖する限り限定されない。培地としては、例えばGYP培地を使用することができる。培養温度は、例えば10〜35℃、好ましくは15℃〜30℃である。培養期間は、例えば1〜10日間、好ましくは2〜5日間である。
【0023】
GABAはグルタミン酸から生合成されるので、グルタミン酸またはその塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム)の存在下でL13株を培養することにより、効率的にGABAを製造することができる。本発明のL13株は培地中のグルタミン酸濃度を上昇させてもグルタミン酸からGABAへの変換率がさほど低下しないという優れた性質を有している。従って、より多くのグルタミン酸を培地に添加することによって、より多くのGABAを採取することができる。培地中のグルタミン酸濃度は、例えば1〜20%、好ましくは5〜15%である。グルタミン酸からGABAへの変換率は、例えば70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%である。
【0024】
また、培地のpHを酸性に維持することによってGABA生産能をさらに上昇させることができる。培地pHは、例えば3〜7、好ましくは4〜6、より好ましくは約5に維持される。培養中に培地pHを維持する方法は当該分野において公知である。
【0025】
なお、本発明の方法によれば、GABAの合成に関与するGADの補酵素として知られているPLPを培地に添加してもいいが、添加は必ずしも必要ではない。
【0026】
培養物からのGABAの採取は常法に従って行われる。例えば、培養物から遠心分離によって菌体を除去して得られた培養上清をそのまままたは濃縮して使用することもできるが、各種クロマトグラフィーなどの公知の精製手段に供することによってさらに純度の高いGABAを得ることができる。
【0027】
GABAおよびグルタミン酸の測定は、例えば1−ブタノール:酢酸:水=3:2:1(v/v/v)を展開液として使用した薄層クロマトグラフィー(TLC)やオルトフタルアルデヒドを用いたポストカラム法での検出により行うことができる。
【0028】
本発明は、発酵食品の原料をL13株の存在下で発酵させる工程を包含する、GABA含有乳酸発酵食品の製造方法および当該方法によって製造される乳酸発酵食品を提供する。
【0029】
本明細書において乳酸発酵とは、糖質が乳酸菌の作用を受けて主として乳酸を生成する現象をいう。乳酸発酵にはホモ発酵およびヘテロ発酵の2つの形式が存在する。ホモ発酵では1分子のグルコースから2分子の乳酸が生成される。ヘテロ発酵ではグルコースから乳酸に加えてエタノール、二酸化炭素などが生成される。乳酸の効率的な生成を意図する場合にはホモ発酵が好ましいが、食品の乳酸発酵の場合はヘテロ発酵において生じる副生成物によって食品の香味へ良好な効果がもたらされることも期待され得る。
【0030】
本明細書において乳酸発酵食品とは、その製造過程に乳酸発酵が含まれる食品をいう。また、本明細書において発酵食品の原料とは、乳酸発酵食品の製造のために乳酸発酵に供される原料をいう。すなわち、本発明の方法によれば、製造過程に乳酸菌が関与する任意の発酵食品を製造することができる。そのような乳酸発酵食品の例としては、食肉加工品(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)、魚介類加工品(鰹節、なれ鮨など)、乳加工品(チーズ、バター、ヨーグルト、乳性飲料など)、野菜・果実加工品(漬け物、酒類など)、穀類加工品(パン、酒類など)、豆類加工品(味噌、醤油、納豆、おから加工品など)、海藻(昆布など)加工品が挙げられる。漬け物としては、千枚漬け、しば漬け、たくあん、白菜漬け、きゅうり漬け、すぐき、ぬかみそ漬け、サワークラウト、キムチなどが挙げられる。発酵食品の原料としては、例えば野菜の場合、かぶら、なす、きゅうり、大根、白菜、すぐき菜、キャベツ、トマトなどが挙げられる。
【0031】
本発明の乳酸発酵食品の製造方法によれば、発酵食品の原料をL13株の存在下で発酵させる。これは、L13株をスターターとして発酵食品の原料に添加して行うことができる。すなわち、1つの実施態様において、本発明は、乳酸発酵食品の製造における乳酸菌のスターターとしての使用を提供する。発酵は、それぞれの発酵食品の従来の製造方法に準じて行う。乳酸菌の添加量、発酵温度、発酵期間などは製造しようとする乳酸発酵食品などにより変動し、当業者は産物の性質(例えば、官能評価、安定性)などを考慮してこれらの条件を適切に設定することができる。乳酸菌の添加量を多くし、発酵温度を高く設定することにより、より短期間で発酵させることができる可能性がある。しかし、雑菌汚染を防止するためにはより低い温度で発酵させることが好ましい。例えば、千枚漬けは、下漬けしたかぶらに、本漬けの段階でL13株を1×10細胞/mlの濃度で接種し、10℃で3〜5日静置して製造することができる。
【0032】
本発明の乳酸発酵食品はGABAを含有する。特に限定するものではないが、乳酸発酵食品中のGABAの含量は、例えば0.05〜1%、好ましくは0.1〜0.4%である。GABAを生成させるために、発酵過程にグルタミン酸またはその塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム)を添加してもよく、あるいは発酵食品のグルタミン酸またはその塩の含量が多い場合(例えば、なす、トマトなど)は添加しなくてもよい。
【0033】
乳酸発酵は、複数の微生物の組み合わせによって行われる場合がある。本発明の乳酸発酵食品は、本発明の乳酸菌L13株を単独で用いて実施してもよく、他の微生物(例えば、別の乳酸菌、酵母、糸状菌など)との組み合わせによって実施してもよい。
【0034】
本発明はGAD活性を有するポリペプチド、当該ポリペプチドをコードする核酸、当該核酸を含む細胞を用いたGABAの製造方法を提供する。
【0035】
例えば、本発明のGAD活性を有するポリペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列からなる。配列番号7のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであっても、GAD活性を有するのであれば本発明のポリペプチドに含まれる。公知のGADのアミノ酸配列と配列番号7のアミノ酸配列との同一性は最高で79.8%であった。従って、配列番号7のアミノ酸配列と例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、GAD活性を有するポリペプチドは本発明のポリペプチドに含まれる。このようなポリペプチドは、グルタミン酸のGABAへの変換に使用することができる。
【0036】
例えば、本発明のGAD活性を有するポリペプチドをコードする核酸は、配列番号6の塩基配列からなる。配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸であっても、GAD活性を有するポリペプチドをコードするのであれば本発明の核酸に含まれる。配列番号6の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であっても、GAD活性を有するポリペプチドをコードするのであれば本発明の核酸に含まれる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、6×SSC、5×Denhardt試薬、0.5%(w/v)SDS、1μg/mlポリ(A)、100μg/mlサケ精子DNAおよび標識プローブを含む溶液中68℃でのインキュベーションが挙げられる(J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., 6.50-6.64 (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0037】
上記のような核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からGAD活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含する方法によってGAD活性を有するポリペプチドを製造することができる。また、上記のような核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からGABAを採取する工程を包含する方法によってGABAを製造することができる。本発明の核酸を含む細胞は、本発明の核酸を、GAD活性を有するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームに天然において隣接する制御配列(プロモーターなど)とともに宿主として利用可能な細胞に導入して得ることができる。あるいは、本発明の核酸を、使用する宿主において機能する適切な制御配列(プロモーター)に作動可能に連結して、宿主細胞に導入してもよい。宿主細胞としては、組換えDNA技術の宿主として利用可能な任意の細胞が使用される。宿主細胞の例としては、大腸菌、枯草菌、乳酸菌などの細菌が挙げられる。導入に使用されるベクターとしては、プラスミドベクター、バクテリオファージベクターなど任意のベクターを使用することができる。培養は、使用する宿主に適切な条件で行われる。発現が誘導性である場合は、適切な誘導物質を培養中に添加してもよい。GABAを製造する場合は、L13株の場合と同様に、グルタミン酸またはその塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム)の存在下で上記細胞を培養してGABAを製造することができる。培養物からのGABAの採取はL13株の場合と同様に行われる。
【0038】
本発明の核酸によってコードされるポリペプチドがGAD活性を有するかどうかは、当該核酸を上記のようにして宿主中で発現させ、得られた培養物にグルタミン酸をGABAに変換する活性が存在するかどうかを調べることによって確認することができる。
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
γ−アミノ酪酸生産菌の分離
伝統的な発酵法によって製造された千枚漬けの漬け液及びかぶらの磨砕物からγ−アミノ酪酸(以下、GABA)生産菌を分離した。詳細には、かぶらスライス70kgに塩化ナトリウム5.0kgおよび食品用脱色増強剤Loving((株)今井嘉兵衛商店)300gを添加し、5℃で1週間放置して発酵させ(下漬け)、次いで、調味液、ショ糖、グルタミン酸ナトリウム、昆布、食酢からなる漬け液中で5℃で一晩放置した(本漬け)。得られた漬け液、及び、かぶらの磨砕物を試料とし、5%グルタミン酸ナトリウムを含むGYP(1%グルコース、1%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.2%酢酸ナトリウム・3水和物、20ppm硫酸マグネシウム・7水和物、1ppm硫酸マンガン・4水和物、1ppm硫酸鉄・7水和物、10ppm塩化ナトリウム、50ppm Tween80、pH 6.8)寒天培地に塗布し、30℃、5日間の培養後、単一コロニーを得た。次にそれぞれのコロニーをGYP液体培地に植菌し、30℃、2日間静置培養を行った。
【0041】
GABAの生産は、培養上清を試料とし、薄層クロマトグラフィー(以下、TLC)によって確認した。薄層としてはシリカゲル60 F254(Merck社製)を使用し、展開には1−ブタノール:酢酸:水=3:2:1(v/v/v)を用いた。また、検出にはニンヒドリンを用いた。TLCの結果の一例を図1に示す。図中、レーン1はGABAおよびグルタミン酸ナトリウム(以下、GluNa)の標準品を使用したTLCの結果を示す。レーン3ではGluNaのスポットしか観察されないのに対し、レーン2ではGABAのスポットが観察される。このことから、レーン2の試料にはGABAが含まれていることがわかる。以上の操作により、L13株を取得した。
【実施例2】
【0042】
分離株L13株の分類学的位置の検討
まず、L13株の分類学的位置について検討を加えた。分析はテクノスルガ社に依頼した。L13株の生化学的な性質を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
本菌株はグラム陽性桿菌で、芽胞を形成せず、運動性を示さなかった。カタラーゼ反応、及び、オキシダーゼ反応は共に陰性を示した。これらの性質は、Lactobacillus属細菌の一般性状と一致するが、グルコースを酸化、発酵しない点が異なった。
【0045】
次に、遺伝学的分類方法を用いて検討を加えた。すなわち、L13株のゲノムDNAを調製し、これを鋳型としてPCR法によって16S rDNAを増幅し、DNA塩基配列を決定した。PCR法に使用したプライマー8−27 fwdおよび1492 revの配列を配列番号1および2に、決定した16S rDNAの塩基配列を配列番号3に示す。
【0046】
16S rDNAのDNA塩基配列をDDBJ(DNA data bank of Japan)データベースに対して検索した結果、Lactobacillus hammesii(Valcheva,R., Korakli,M., Onno,B., Prevost,H., Ivanova,I., Ehrmann,M.A., Dousset,X., Ganzle,M.G. and Vogel,R.F., Lactobacillus hammesii sp. nov., isolated from French sourdough Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 55, 763-767 (2005))、Lactobacillus parabrevis(Vancanneyt,M., Naser,S.M., Engelbeen,K., De Wachter,M., Van der Meulen,R., Cleenwerck,I., Hoste,B., De Vuyst,L. and Swings,J. Reclassification of Lactobacillus brevis strains LMG 11494 and LMG 11984 as Lactobacillus parabrevis sp. nov Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 56, 1553-1557 (2006))の16S rDNA塩基配列と98%の同一性を示した。これらの配列データに基づいて分子系統樹を作成した結果、L13株は上記Lactobacillus hammesiiおよびLactobacillus parabrevisとは別の分枝を示した。これらの結果から、L13株はLactobacillus属に属する新しい種の細菌であることが示唆された。
【0047】
上記生化学的性質および遺伝学的性質に基づき、分離株をLactobacillus sp.L13と命名した。この株は、平成18年8月2日より、〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に、寄託番号NITE P−253のもとで寄託されている。
【実施例3】
【0048】
L13株のGABA生産
L13株のGABA生産性をLactobacillus brevis IFO12005株と比較した。L.brevis IFO12005株は、GABAを生産することが知られており、本発明者らはこの乳酸菌株をGABA生産性乳酸菌の基準株として使用している。L13株またはL.brevis IFO12005株を種々の濃度のGluNaを含むGYP培地に植菌し、30℃で培養し、GABA含量を経時的に測定した。
【0049】
グルタミン酸(Glu)およびGABAを以下のように定量した。オルトフタルアルデヒドを用いたポストカラム法によって検出した。使用したシステムは、強酸性イオン交換樹脂カラムShim−pack Amino−Naを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Prominence、島津製作所)であった。蛍光検出器を使用して検出し(Ex 348nm、Em 450nm)、標準液としてアミノ酸標準液(H型、和光純薬)を使用した。
【0050】
結果を図2に示す。L.brevis IFO12005株が、培地中の初発グルタミン酸ナトリウム濃度によらず、最大約1%のGABAを生産するのに対し(図2A)、L13株は培地中の初発GluNa濃度に応じてGABAを生産し、初発GluNa濃度15%の場合で最大5.7%のGABAを生産可能であった。
【0051】
以上2菌株のGABA変換率をまとめると、表2のようになる。L.brevis IFO 12005株は、初発のGluNa濃度が高くなるとGABA変換率は大幅に低下したが、L13株のGABA変換率は初発GluNa濃度に大きくは影響されず、約85%の変換率が得られた。
【0052】
【表2】

【0053】
なお、GABA生産性の高い乳酸菌としてLactobacillus paracaseiが報告されている(Noriko Komatsuzaki, Jun Shimaa, Shinichi Kawamoto, Hiroh Momose, Toshinori Kimura, Production of g-aminobutylic acid (GABA) by Lactobacillus paracasei isolated from traditional fermented foods, Food Microbiology 22, 497504(2005))。本菌は最大3.1%のGABA生産能を有していると報告されている(初発グルタミン酸濃度:7.4%、変換率:60.4%)。この菌株とL13株のGABA生産能を比較すると、L13株はL.paracaseiの約2倍のGABAを生産可能であることが明らかとなった。このように、L13株は、公知のGABA高生産乳酸菌に比較して非常に高いGABA生産性を示す。
【0054】
微生物がGABAを生成することの生理学的意義の一つは、培地酸性化に対する防御であると考えられる。この点に着目し、培養中の培地pHを酸性(pH 5)に維持することの、L13株によるGABA生産性に対する効果を検討した。その結果を図3に示す。図3中、AはL13株を初発グルタミン酸濃度12%(実際に使用したグルタミン酸ナトリウム・一水和物濃度をグルタミン酸濃度に換算)とした以外、上記と同様にpH無調製で培養した場合のGABAおよびGluNaの含量を経時的に測定した結果を、Bは培地pHを5に維持して培養した場合の結果を示す。図3に示すように、初発濃度12%のグルタミン酸から約6.7%のGABAを生産することに成功した。変換率は約85%であった。
【0055】
なお、この際、培地中のGluNaは5日間の培養後、完全に消失した。また、GABA生産の際、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の補酵素であるピリドキサールリン酸(PLP)を培地に添加する必要がなかったことは、GABA生産上のメリットの一つといえる。
【実施例4】
【0056】
L13株を用いた発酵法による千枚漬け製造
L13株をスターターとして用い、千枚漬けを発酵法で作製すると共に、その製品にGABAも同時に生産することを試みた。その検討は、6Lの小スケールで実施した。即ち、かぶらを0.2%酢酸溶液に漬けて洗浄したのち、実施例1と同様に塩化ナトリウムおよび食品用脱色増強剤Lovingを添加して4℃で一晩下漬けした。本漬けは、初発菌体濃度(漬け液)が1×10細胞/mlとなるように調製して、10℃で6日間静置した(2連で行なった)。コントロールとして、L13を接種しない系列も作製した。本漬け開始後、1日ごとに6日までサンプリングし、官能試験の他、グルタミン酸とGABAの定量を行なった。
【0057】
試料は以下のように調製した。千枚漬け10gに精製水40mlを加え、ホモジナイズ(エースホモジナイザー(日本精機)、10,000rpm、5分間)し、5分間煮沸後の遠心上清を希釈バッファー(クエン酸3ナトリウム緩衝液、pH 2.2)で適宜希釈した。調製した試料を用いて実施例3に記載の方法によりGABAを定量した。
【0058】
結果を図4に示す。図4に示すように、3日後に0.1%程度のGABAが生産された。更に5〜6日後では最大0.4%程度のGABAが生産された。4日以降では雑菌の増殖が観察された。
【0059】
官能試験は4名のパネリストにより実施し、臭いおよび味覚について3段階の評価(○、△、×)およびコメントを得た。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示すように、官能試験では、3日後の製品まではフルーツのようなフレッシュな香りがあり、味覚も、甘みはあるが後味の引かないすっきりとした味であるなど、独特の優れた性質を有していることが判明した。
【0062】
尚、GABAは成人1日あたり50mg摂取すると、その効能を享受できるとされている。千枚漬け1枚は約30gであり、例えば上記条件で3日後に得られる千枚漬けであれば約0.1%のGABAを含有するので一日あたり2枚程度を食すればよい計算となる。
【実施例5】
【0063】
5−1.グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)遺伝子のクローニング
既報のGAD遺伝子を参考にしてPCR用プライマーを作成し、定法に従ってPCR法によってGAD遺伝子(gadB遺伝子)を取得した。PCR法に使用したプライマーL13 GAD fwdおよびL13 GAD revの配列を配列番号4および5に、決定したgadB遺伝子の塩基配列を配列番号6に示す。Lactobacillus sp.L13株のgadB遺伝子の塩基配列には、1410 bpのオープンリーディングフレームが存在した。このオープンリーディングフレームから推察されるアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0064】
5−2.L13株由来GADと既報GADとの比較
L13株由来のgadB遺伝子から推察されたアミノ酸配列(L13gadB)を用いて、DDBJのデータベースに対してFASTAプログラム等により相同性検索を行った。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
参考文献等
* Unpublished data (our data); accession number: AB258458
1) Nomura M., Nakajima I., Fujita Y., Kobayashi M., Kimoto H., Suzuki I., Aso H.; Lactococcus lactis contains only one glutamate decarboxylase gene. Microbiology, 145:1375-1380(1999).
2) Bolotin A., Wincker P., Mauger S., Jaillon O., Malarme K., Weissenbach J., Ehrlich S.D., Sorokin A., The complete genome sequence of the lactic acid bacterium Lactococcus lactis ssp. lactis IL1403., Genome Res. 11:731-753(2001).
3) Sanders J.W., Leenhouts K., Burghoorn J., Brands J.R., Venema G., Kok J.; A chloride-inducible acid resistance mechanism in Lactococcus lactis and its regulation. Mol. Microbiol. 27:299-310(1998).
4) Nomura, M., Kobayashi, M., Ohmomo, S., and Okamoto, T., Inactivation of the Glutamate Decarboxylase Gene in Lactococcus lactis subsp. cremoris, Appl. Envir. Microbiol. 66: 2235-2237(2000).
5) Park KB, Oh SH., Cloning, sequencing and expression of a novel glutamate decarboxylase gene from a newly isolated lactic acid bacterium, Lactobacillus brevis OPK-3. Bioresour Technol. Feb 22, (2006) [Epub ahead of print] 6) Kleerebezem M, Boekhorst J, van Kranenburg R, Molenaar D, Kuipers OP, Leer R, Tarchini R, Peters SA, Sandbrink HM, Fiers MW, Stiekema W, Lankhorst RM, Bron PA, Hoffer SM, Groot MN, Kerkhoven R, de Vries M, Ursing B, de Vos WM, Siezen RJ., Complete genome sequence of Lactobacillus plantarum WCFS1., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 100(4):1990-1995 (2003).
7) Blattner FR, Plunkett G 3rd, Bloch CA, Perna NT, Burland V, Riley M, Collado-Vides J, Glasner JD, Rode CK, Mayhew GF, Gregor J, Davis NW, Kirkpatrick HA, Goeden MA, Rose DJ, Mau B, Shao Y., The complete genome sequence of Escherichia coli K-12, Science, 277(5331):1453-1474 (1997).
【0067】
表4に示すように、L13gadBの推定アミノ酸配列は、UenogadB(Lactobacillus brevis IFO12005)のものと特に相同性が高く、79.8%の同一性を示した。上記のように、本発明者らはこの乳酸菌株をGABA生産性乳酸菌の基準株として使用している。他の微生物由来のGADの中では、Lc.lactis lac(Lactococcus lactis ssp.lactis IL1403)や、Lc.lactis cre(Lactococcus lactis subsp.cremoris)のアミノ酸配列とそれぞれ52.7%、52.2%の同一性を示した。
【0068】
さらに、これらの配列について、BioEdit 7.0.1 and Clustal X 1.83と称する解析ソフトを用いて多重アライメントを作成した。結果を図5−1〜5−4に示す。この場合でも、L13gadBおよびUenogadBは、これら以外のGADタンパク質とは明らかに異なるグループを形成した。
【0069】
これらのGADと他のGADのアミノ酸配列との相違点は、以下のとおりである:
(1)L13gadBの19−21残基(−EKT−)、120−124残基(−KFGD−)、161−163残基(−DLH−)に相当する部分が、上記2者以外では欠失している(図5−1、図5−2);
(2)L13gadBのバリン178残基が、上記2者以外ではシステインである(図5−2);
(3)上記2者のシステイン残基は5個であるのに対し、これら以外は6個である(ただし、大腸菌GAD(Ecoli gadB、Ecoli gadA)のシステインは例外的に10個である)(図5−1〜図5−4)。システイン2つの間でジスルフィド結合が形成され、タンパク質の立体構造の形成に重要な役割をする。システインの個数が異なることは、これらのグループ間で立体構造が異なる可能性を示唆する。
【0070】
一方、アライメントの共通点は、活性に必須とされ、基質結合に重要と考えられるアスパラギン酸残基(D91、図5−1)や、補酵素であるピリドキサールリン酸が結合するリシン残基(K289、図5−3)等が高度に保存されている点である。
【0071】
以上の結果から、Lactobacillus sp.L13株のgadB遺伝子は、公知のGADと同様に活性なグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)をコードすることが示唆された。また、L13 GADの多重アラインメント解析より、既報のGADとは多くの相違点のあることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、GABA高生産能を有する新規乳酸菌、当該乳酸菌を使用するGABAの製造方法およびGABA含有乳酸発酵食品の製造方法、ならびに当該乳酸菌より得られるGADおよびそれをコードする核酸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】薄層クロマトグラフィーの結果の一例を示す図である。
【図2】Lactobacillus sp.L13株およびLactobacillus brevis IFO12005株のGABA生産量を示す図である。
【図3】培養中の培地pHを酸性に維持することのGABA生産性に対する効果を示す図である。
【図4】千枚漬け発酵中のGABA生産量を示す図である。
【図5−1】各種GADアミノ酸配列の多重アライメントを示す図である。
【図5−2】各種GADアミノ酸配列の多重アライメントを示す図である。
【図5−3】各種GADアミノ酸配列の多重アライメントを示す図である。
【図5−4】各種GADアミノ酸配列の多重アライメントを示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
SEQ ID NO:1: A primer 8-27 fwd for amplification of 16S rDNA
SEQ ID NO:2: A primer 1492 rev for amplification of 16S rDNA
SEQ ID NO:4: A primer L13 GAD fwd for amplification of L13 gadB gene
SEQ ID NO:5: A primer L13 GAD rev for amplification of L13 gadB gene

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸生産能を有する乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)。
【請求項2】
乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)を培養する工程、および培養物からγ−アミノ酪酸を採取する工程を包含する、γ−アミノ酪酸の製造方法。
【請求項3】
発酵食品の原料を乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)の存在下で発酵させる工程を包含する、γ−アミノ酪酸含有乳酸発酵食品の製造方法。
【請求項4】
乳酸発酵食品が千枚漬けであり、発酵食品の原料がかぶらである、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
発酵食品の原料を乳酸菌Lactobacillus sp.L13(NITE P−253)の存在下で発酵させる工程を包含する方法により製造される、γ−アミノ酪酸含有乳酸発酵食品。
【請求項6】
乳酸発酵食品が千枚漬けであり、発酵食品の原料がかぶらである、請求項5記載の乳酸発酵食品。
【請求項7】
配列番号7のアミノ酸配列または配列番号7のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項8】
以下からなる群より選択され、かつグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸:
(1)配列番号6の塩基配列からなる核酸;
(2)配列番号6の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる核酸;
(3)配列番号6の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸。
【請求項9】
請求項8記載の核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含する、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求項8記載の核酸を含む細胞を培養する工程、および培養物からγ−アミノ酪酸を採取する工程を包含する、γ−アミノ酪酸の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【公開番号】特開2008−54555(P2008−54555A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233984(P2006−233984)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(300024911)株式会社もり (2)
【Fターム(参考)】