説明

π電子系共役化合物及びその製造方法、並びにこれを用いて得られるπ電子系共役重合体

【課題】所望の発色状態から消色状態へ変化するエレクトロクロミック材料として好適な新規重合体、及びその原料である新規化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(2)で示される構成単位を有するπ電子系共役重合体である。


[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基等であり、nは2以上の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なπ電子系共役化合物及びその製造方法、並びにこれを用いて得られる新規なπ電子系共役重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェンに代表されるπ電子系共役高分子材料は、ポリマー発光ダイオード(薄膜ディスプレイ)、固体照明(solid state lighting)、有機光電池、メモリデバイス、有機電界効果トランジスタ、電気二重層コンデンサ、エレクトロルミネセンス素子、印刷エレクトロニクス、導体、レーザー、センサー、電子ペーパー等のオプトエレクトロニクス用途に用いられることが知られている。
【0003】
上記オプトエレクトロニクス用途の中でも特に、明るく色純度に優れ、かつ省消費電力でフルカラー表示が容易な反射型ディスプレイへの要望が高まってきている。例えば、従来においては、CRT、LCD、PDP、ELD等の発光型素子は明るくて見やすいという特徴を有しており、多くの技術提案がなされてきた。しかしながら、上記各種発光型素子は、発光を直視しなければならないため、長時間閲覧すると視覚的な疲労を引き起こすという問題があった。さらに、携帯電話等のモバイル機器は、屋外で使用される場合が多く、太陽光下では、発光が相殺されて視認性が悪化するという問題もあった。また、LCDは、発光型素子の中でも特に需要が拡大しており、大型や小型の、様々なディスプレイ用途に用いられている。しかしながら、LCDは視野角が狭いという問題を有しており、見やすさの観点からは他の発光型素子に比較すると改善すべき課題を有していた。
【0004】
一方、オフィスにおけるコンピュータの普及により、文書の保存や伝達用に使用される紙の量は減少してきているが、デジタル情報を閲覧する際、紙に印刷して読む傾向は依然として根強い。したがって、一時的に使用するだけで破棄される紙の量は、逆に近年増加する傾向にある。また、書籍・雑誌・新聞などに日々消費される紙の量は、資源・環境の面から脅威であり、これらは媒体が変わらない限り減少する見込みはないとされている。しかしながら、人間の情報認識方法や思考方法を考慮するとCRT(cathode ray tube:ブラウン管)や透過型液晶に代表されるような「ディスプレイ」に対する「紙」の優位性も無視することはできないと考えられる。
【0005】
そこで近年では紙に変わる電子媒体として、紙の長所とデジタル情報をそのまま扱えるディスプレイの長所を融合した電子ペーパーの実現が期待されている。電子ペーパーに期待される必要な特性としては、反射型の表示素子であること、高白反射率・高コントラスト比を有すること、高精細な表示が出来ること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。
【0006】
電子ペーパーの表示方式としては、反射型液晶方式、電気泳動方式、2色ボール方式、エレクトロクロミック方式などがある。反射型液晶方式には、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶方式等がある。この反射型液晶方式は、従来の発光型液晶と比較して、バックライトを使用しないために省消費電力であるという利点を有している。しかし、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題を有している。
【0007】
電気泳動方式は、白色顔料や黒色トナーなどが、電界の作用によって電極上に移動する電気泳動という現象を利用したものである。2色ボール表示方式は、半分が白色、半分が黒色などの2色に塗り分けられた球体からなり、電界の作用による回転を利用したものである。どちらの方式も省消費電力で、視野角依存性がないという利点を有している。しかし、これらの方式では、粒状体が入り込めるだけの隙間が必要であり、最密に充填できないことから高コントラストを得ることは難しいとされている。また、フルカラー化を行う場合には、カラーフィルターを利用する並置混合法を適用するため、反射率が低下し、必然的に画面が暗くなるという問題を有している。
【0008】
エレクトロクロミック方式は、電界印加によって可逆的な酸化還元反応が起こり、それに伴った発色/消色が起こることを利用したものである。また、従来においては、自動車の調光ミラーや、時計等にエレクトロクロミック(以下、ECと略記することがある。)素子が用いられている。このEC素子による表示は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、受光型で視認性に優れ、構造が簡易でかつ大型化も容易で、更には、材料の選択によって多様な色調の発色が可能であるという利点を有している。
【0009】
また、EC素子でフルカラー表示を行うためには、減法混色に用いられるシアン(以下、Cと略記することがある)、マゼンタ(以下、Mと略記することがある)、イエロー(以下、Yと略記することがある)の発色が可能な色素を適用し、C、M、Y発色層を並列配置、または積層配置した構成とすることが知られている。これにより、フルカラー発色が可能な表示装置が得られる。例えば、黒色は、C、M、Yを混色することにより表示できる。そして、白色は、各色素を消色状態として透明にし、背景色を白色にすることにより表示できる。このようにEC素子はカラーフィルターを使用しない、電気的に発色/消色を繰り返す反射型の表示素子であるため、その他の表示方式に対して、目に与える負担の点やコントラストの点などで有利と言える。
【0010】
また、発色層の材料としてπ電子系共役高分子と呼ばれる材料の研究が進んでいる。この中にはエレクトロクロミック特性を示すものが知られている。前述のC、M、Yの発色/消色によってフルカラー発色の可能なEC素子を得るためには、π電子系共役高分子のエレクトロクロミックがそれぞれC、M、Yの発色状態から無色状態に変化するものでなくてはならないとされている。しかしながら、一般的なπ電子系共役高分子のエレクトロクロミックは発色状態間の色変化を示すものが殆どであり、前述の発色状態から無色状態に色変化する材料は極めて限定されていた。
【0011】
発色状態から無色状態に色変化する材料として代表的なものに、ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)が知られていたが、この材料はCに近い濃紺色から薄い青色の色変化をするπ電子系共役高分子であり、MやYから無色状態に色変化する材料は知られていなかった。
【0012】
特許文献1には、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン等のモノマー化合物を製造する方法について記載されており、特許文献2には、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン等を構成単位として有する重合体や、1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−2(3H)−オン等とフェニレン等とを構成単位として有する共重合体について記載されている。また、非特許文献1には、1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン重合体の化学構造式が示されており、分子軌道計算により透明導電性ポリマーとして使用可能であることが示唆されている。しかしながら、1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン等の化合物2分子の間が芳香族化合物等により連結されたモノマー化合物については知られておらず、更にこれを用いて得られる重合体並びにこの重合体のエレクトロクロミック特性についても知られていなかった。
【0013】
【特許文献1】特開2008−7771号公報
【特許文献2】特開2008−31430号公報
【非特許文献1】Geoffrey R. Hutchison et al., Electronic Structure and Band Gaps inCationic Heterocyclic Oligomers. Multidimensional Analysis of the Interplay ofHeteroatoms, Substituents, Molecular Length, and Charge on Redox andTransparency Characteristics, J. Phys. Chem. B 2005, Vol.109, No.8, p.3126-3138
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、所望の発色状態から消色状態へ変化するエレクトロクロミック材料として好適な新規重合体、及びその原料である新規化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、下記一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物を提供することによって解決される。
【化1】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。]
【0016】
また、上記課題は、下記一般式(2)で示される構成単位を有するπ電子系共役重合体を提供することによっても解決される。
【化2】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基であり、nは2以上の整数である。]
【0017】
このとき、一般式(2)で示されるπ電子系共役重合体からなるエレクトロクロミック材料が好適な実施態様である。また、下記一般式(3):
【化3】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義である。]
で示される化合物をハロゲン化して下記一般式(4):
【化4】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物を得て、次いでリチオ化して酸を加えることにより下記一般式(5):
【化5】

[式中、X、Y、Z及びQは、前記と同義である。]
で示される化合物を得てから、下記一般式(6):
【化6】

[式中、Wは、前記と同義であり、Qは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物とクロスカップリング反応させることを特徴とするπ電子系共役化合物の製造方法が好適な実施態様である。
【0018】
また、下記一般式(7):
【化7】

[式中、Xは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物と下記一般式(8):
【化8】

[式中、Yは、前記と同義である。]
で示される化合物とを反応させて、下記一般式(3):
【化9】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義である。]
で示される化合物を得る工程を有するπ電子系共役化合物の製造方法が好適な実施態様である。
【0019】
また、下記一般式(3):
【化10】

[式中、X及びYは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基である。]
で示される化合物を塩基とともに、MgCl、MgBr、MgI、ZnCl、ZnBr、ZnI、Sn(RCl(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、Sn(RBr、Sn(RI、ボロン酸及びボロン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種と反応させることにより、下記一般式(9):
【化11】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義であり、Qは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を得てから、下記一般式(10):
【化12】

[式中、Wは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物とクロスカップリング反応させることを特徴とするπ電子系共役化合物の製造方法も好適な実施態様である。
【0020】
また、上記課題は、下記一般式(11):
【化13】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物と下記一般式(12):
【化14】

[式中、Rは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物とを反応させて、下記一般式(13):
【化15】

[式中、X及びRは、前記と同義である。]
で示される化合物を得て、次いで還元反応させることにより下記一般式(14):
【化16】

[式中、X及びRは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を得る工程を有することを特徴とする下記一般式(15):
【化17】

[式中、X、Z及びRは、前記と同義であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。]
で示されるπ電子系共役化合物の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、新規化合物及びこれを用いて得られる新規重合体を提供することができる。こうして得られた新規重合体は、脱ドーピング時に発色状態であったものからドーピング時に可視域に吸収極大を持たない消色状態へ変化する特性を有する。したがって、所望の発色状態から消色状態へ変化するエレクトロクロミック材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明によれば、一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物、及びこれを用いて得られる一般式(2)で示される構成単位を有するπ電子系共役重合体を提供することができる。これらの化合物はいずれも新規化合物である。以下詳細について述べる。
【0023】
【化18】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。]
【0024】
【化19】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基であり、nは2以上の整数である。]
【0025】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。
【0026】
ここで、Xにおける−NR−中のRは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基であり、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)及び一般式(2)において、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、好適には炭素数2〜6のアルキレン基である。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、イソヘキシレン基、2−エチルヘキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基、n−ノニレン基、n−デシレン基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)及び一般式(2)において、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基としては、その構造中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホニル結合、ウレタン結合、チオエーテル結合等の炭素−炭素結合以外の結合が含まれていてもよく、また、二重結合、三重結合、脂環式炭化水素、複素環、芳香族炭化水素、複素芳香環等が含まれていてもよい。更に、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基としては、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアシル基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有してもよいアルキルシリル基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい複素芳香環基等が挙げられる。
【0029】
上記アルキル基としては、上述のRの説明のところで例示された炭素数1〜10のアルキル基を同様に用いることができる。
【0030】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0031】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0032】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0033】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0034】
アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、ドデカノイル基、ピバロイル基等が挙げられる。
【0035】
アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0036】
アルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0037】
アルコキシカルボニル基とは、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0038】
複素芳香環基としては、例えば、チエニル基、フリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基等が挙げられる。
【0039】
また、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基であり、アリーレン基としては、例えば、フェニレン、2,3−ジアルキルフェニレン、2,5−ジアルキルフェニレン、2,3,5,6‐テトラアルキルフェニレン、2,3−アルコキシフェニレン、2,5-アルコキシフェニレン、2,3,5,6‐テトラアルコキシフェニレン、2−(N,N,−ジアルキルアミノ)フェニレン、2,5−ジ(N,N,−ジアルキルアミノ)フェニレン、2,3−ジ(N,N,−ジアルキルアミノ)フェニレン、p−フェニレンオキシド、p−フェニレンスルフィド、p−フェニレンアミノ、p−フェニレンビニレン、フルオレニレン、ナフチレン、アントリレン、テトラセニレン、ペンタセニレン、ヘキサセニレン、ヘプタセニレン、ナフチレンビニレン、ペリナフチレン、アミノピレニレン、フェナントレニレン等が挙げられ、これらから選択される1種が好適に用いられる。
【0040】
また、2価の複素芳香環基としては、例えば、N−アルキルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラジン、キノリン、プリン等のピリジン誘導体;3‐アルキルフラン等のフラン誘導体;N−アルキルピロール、エチレン−3,4−ジオキシピロール、プロピレン−3,4−ジオキシピロール等のピロール誘導体;チオフェンビニレン、アルキルチオフェン、エチレン−3,4−ジオキシチオフェン、プロピレン−3,4−ジオキシチオフェン、チエノチオフェン、チエノフラン、チエノピラジン、イソチアナフテン等のチオフェン誘導体;オキサジアゾール、チアジル、セレノフェン、テルロフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソキサゾール、イソチアゾール、ベンゾトリアゾール、ピラン、ベンゾチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール等の複素環誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種が好適に用いられる。
【0041】
本発明において、一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物は、下記化学反応式(I)で示される反応1〜3のように、一般式(3)で示される化合物から好ましく合成される。
【0042】
【化20】

[式中、X、Y、Z及びWは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子であり、Qは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0043】
上記一般式(4)及び一般式(5)で示される化合物中のQは、ハロゲン原子であり、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。また、一般式(6)で示される化合物中のQは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種であるが、ほぼ中性の反応条件下で進行すること、官能基許容性が高いことなどの観点から−Sn(Rが好ましく用いられる。ここで、Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基であり、アルキル基としては、上述のRの説明のところで例示されたアルキル基を同様に用いることができ、また、アルコキシ基としては、上述のZの説明のところで例示されたアルコキシ基のうち、炭素数1〜10のアルコキシ基を同様に用いることができる。
【0044】
上記化学反応式(I)における反応1及び2は、一般式(3)で示される化合物におけるXのα位の2箇所に、ハロゲン原子を導入することにより一般式(4)で示される化合物を得てから、次いでリチオ化して酸を加えることによりXのα位の1箇所にハロゲン原子が導入された一般式(5)で示される化合物を得る反応である。一般式(3)で示される化合物におけるZの少なくとも一方が水素原子の場合に、塩基を用いてXのα位の水素を引き抜いてハロゲン原子を導入させる反応を行うと、先行してZの水素原子が引き抜かれる副反応が生じるおそれがある。よって、ハロゲン原子を導入する方法としては、N−ブロモスクシンイミド等を用いてラジカル的に反応させる方法が好適に採用される。また、ハロゲン原子を導入する際に、N−ブロモスクシンイミド等のラジカル反応試薬の添加量を必要量となるように調製したとしても、Xのα位の2箇所同時にハロゲン原子が導入されたものと、ハロゲン原子が全く導入されていないものの2種類の生成物が得られることとなり、分離精製工程を別途設ける必要があり工程が煩雑となるおそれがある。したがって、一般式(4)で示される化合物を得る反応1を経由してから、その後ハロゲン原子のリチオ化、プロトンにより反応を停止する反応2を採用することにより、一般式(5)で示される化合物を収率良く得ることができるため好ましい。
【0045】
上記反応1及び2は、溶媒の存在下で行われることが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、キシレン、エチルトルエンなどの芳香族炭化水素;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、エーテルを用いることが好ましく、具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを使用することが好ましい。溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。かかる溶媒の使用量は、一般式(3)で示される化合物1mmolに対して、1〜100mlであることが好ましく、2〜20mlであることがより好ましい。
【0046】
また、上記反応2では、一般式(4)で示される化合物をリチオ化して酸を加えることにより一般式(5)で示される化合物を得る反応である。リチオ化する際には、有機リチウム化合物が好ましく用いられる。有機リチウム化合物の具体例としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物;フェニルリチウムなどのアリールリチウム化合物;ビニルリチウムなどのアルケニルリチウム化合物;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミドなどのリチウムアミド化合物などが使用される。これらの中でもアルキルリチウム化合物を用いることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量については特に限定されず、一般式(4)で示される化合物1molに対して0.5〜5molであることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量が5molを超える場合、副反応や生成物の分解を促進するおそれがあり、4mol以下であることがより好ましい。また、有機リチウム化合物の使用量は、1mol以上であることがより好ましい。
【0047】
上記リチオ化する際の反応温度については特に限定されず、−100〜25℃の範囲であることが好ましい。反応温度が−100℃未満の場合、反応速度が極めて遅くなるおそれがあり、−90℃以上であることがより好ましい。一方、反応温度が25℃を超える場合、生成物の分解を促進するおそれがあり、20℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1分〜10時間であることが好ましく、5分〜5時間であることがより好ましい。また、上記反応2において用いられる酸としては特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸などの酸に加えて、水、メタノール、エタノールなどのプロトン性極性溶媒等が好適に用いられる。
【0048】
続いて、上記反応3で示されるように、一般式(5)で示される化合物と一般式(6)で示される化合物とをクロスカップリング反応させることにより、一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物を得ることができる。クロスカップリング反応としては、例えば、Suzuki反応、Yamamoto反応、Heck反応、Stille反応、Sonogashira−Hagihara反応、Kumada−Corriu反応、Riecke反応、McCullogh反応等が好適に採用される。
【0049】
また、本発明において、一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物は、一般式(3)で示される化合物から下記化学反応式(II)で示される反応4及び5を経由することによっても合成できる。
【0050】
【化21】

[式中、X、Y、W、Q及びQは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基である。]
【0051】
上記反応4は、一般式(3)で示される化合物を塩基とともに、MgCl、MgBr、MgI、ZnCl、ZnBr、ZnI、Sn(RCl(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、Sn(RBr、Sn(RI、ボロン酸及びボロン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種と反応させることにより、一般式(9)で示される化合物を得る反応である。上記反応4で用いられる塩基としては特に限定されず、有機リチウム化合物が好適に用いられる。有機リチウム化合物としては、上述の反応2の説明のところで例示されたものを同様に用いることができる。
【0052】
ここで、上記反応4において、Zの少なくとも一方が水素原子である場合には、塩基を用いてXのα位の水素を引き抜いて置換基Qを導入させる反応の際に、先行してZの水素原子が引き抜かれる副反応が生じてしまうおそれがある。したがって、反応4においては、一般式(3)で示される化合物中のZが、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基であることが好ましい。置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基としては、上述の一般式(1)及び一般式(2)の説明のところで例示されたものを用いることができる。
【0053】
上記化学反応式(II)において、反応4で置換基Qが導入された後に、Zを水素原子に置換する反応を行ってもよい。このことにより、得られる一般式(1)で示される化合物の水素結合能を高めることができるため好ましい。
【0054】
こうして上記反応4により得られた一般式(7)で示される化合物は、一般式(10)で示される化合物とクロスカップリング反応させることにより、一般式(1)で示される化合物を得ることができる。クロスカップリング反応としては、反応3の説明のところで例示された反応を採用することができる。また、上述のようにして得られる一般式(1)で示される本発明のπ電子系共役化合物の具体例としては、例えば、以下のような化学構造式で示される化合物が好適に示される。
【0055】
【化22】

【0056】
ここで、本発明で用いられる一般式(3)で示される化合物は、下記一般式(7)で示される化合物を出発化合物とし、これと下記一般式(8)で示される化合物とを反応させることにより合成することができる。
【0057】
【化23】

[式中、Xは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
【0058】
【化24】

[式中、Yは、前記と同義である。]
【0059】
【化25】

[式中、X及びYは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0060】
以下、一般式(7)で示される化合物中のXが−S−、QがBrのときの式(7a)で示される3,4−ジブロモチオフェンを出発化合物とし、一般式(8)で示される化合物中のYがエチレン基のときの式(8a)で示されるエタン−1,2−ジアミンを用いて、一般式(3)で示される化合物中のXが−S−、Yがエチレン基、Zが水素原子のときの式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得る方法について、下記化学反応式(III)を参照しながら説明する。
【0061】
【化26】

【0062】
上記化学反応式(III)で示されるように、まず、式(7a)で示される3,4−ジブロモチオフェンに対して塩化銅(I)等を加え加熱還流して反応を進行させることにより、式(7b)で示される3,4−ジクロロチオフェンを得て、次いで、式(8a)で示されるエタン−1,2−ジアミンと反応させることにより、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得る方法が好適に採用される。このとき、式(8a)で示されるエタン−1,2−ジアミンのエチレン鎖を他のアルキレン鎖に置換した化合物を用いて反応させると、式(3a)で示される化合物中の1,2,3,4−テトラヒドロピラジン環の1位と4位との間のアルキレン鎖が異なった化合物を得ることができるため好ましい。更に、得られた化合物における1,2,3,4−テトラヒドロピラジン環のN位の水素原子を適宜他の置換基に置き換える反応を行ってもよい。このようして、例えば、以下のような化学構造式で示される化合物を好適に得ることができる。
【0063】
【化27】

【0064】
また、本発明で用いられる一般式(3)で示される化合物は、下記一般式(16)で示される化合物を出発化合物として合成することもできる。
【0065】
【化28】

[式中、Xは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
【0066】
また、本発明で用いられる一般式(3)で示される化合物中のYが、1位と2位にそれぞれ置換基Rを有するエチレン基であるときの下記一般式(14)で示される化合物は、下記一般式(11)で示される化合物を中間体化合物とし、これと下記一般式(12)で示される化合物とを反応させて下記一般式(13)で示される化合物を得て、次いで還元反応させることにより合成することができる。
【0067】
【化29】

[式中、Xは、前記と同義である。]
【0068】
【化30】

[式中、Rは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0069】
【化31】

[式中、X及びRは、前記と同義である。]
【0070】
【化32】

[式中、X及びRは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0071】
以下、一般式(16)で示される化合物中のXが−S−、QがBrのときの式(16a)で示される2,5−ジブロモチオフェンを出発化合物とし、一般式(11)で示される化合物中のXが−S−のときの式(11a)で示される化合物を中間体化合物として、一般式(12)で示される化合物中のRが水素原子である式(12a)で示されるグリオキサールを用いて、一般式(13)で示される化合物中のXが−S−、Rが水素原子である式(13a)で示される化合物を得て、次いで還元反応により一般式(14)で示される化合物中のXが−S−、Zが水素原子のときの式(14a)(=式(3a))で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得る方法について、下記化学反応式(IV)を参照しながら説明する。
【0072】
【化33】

【0073】
上記化学反応式(IV)で示されるように、まず、混酸(発煙硝酸と発煙硫酸)に式(16a)で示される2,5−ジブロモチオフェンに濃硫酸を加えた溶液を添加することにより、3位及び4位がニトロ化された2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンを得て、次いで、塩酸及びスズ(Sn)を用いて塩酸塩である3,4−ジアミノチオフェンジヒドロクロリドを得る反応が好適に採用される。更に得られた塩酸塩に対して炭酸ナトリウム等の塩基を用いることにより、式(11a)で示される3,4−ジアミノチオフェンを中間体化合物として得て、次いで、式(12a)で示されるグリオキサールに代表されるジカルボニル誘導体と反応させることにより、式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンを得ることができ、更に水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた還元反応により、式(14a)及び式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得ることができる。
【0074】
ここで、用いられるジカルボニル誘導体である一般式(12)で示される化合物の具体例としては特に限定されず、例えば、グリオキサール、ジアセチル(ジメチルグリオキサール)、2,3−ペンタンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,3−ヘプタンジオン、5−メチル−2,3−ヘキサンジオンなどが好適に用いられ、中でもグリオキサールがより好適に用いられる。
【0075】
また、一般式(13)で示される化合物を還元反応させる方法としては特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBHCN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C)、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム(LiBH(sec−C)、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム(KBH(sec−C)、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム(LAH:LiAlH)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジボラン(B)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL−H)、水素化トリブチルスズ、ウィルキンソン触媒などの還元剤を用いて還元反応させることが好ましく、また、メールワイン・ポンドルフ・バーレー還元、カニッツァロ反応などの還元反応も好ましく利用できる。中でも、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を還元剤として用いた還元反応がより好ましく用いられる。
【0076】
本発明では、上述のようにして得られた一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物から、下記化学反応式(V)で示される反応6のように、一般式(2)で示されるπ電子系共役重合体が得られる。
【0077】
【化34】

[式中、X、Y、Z及びWは、前記と同義であり、nは2以上の整数である。]
【0078】
上記反応6は、一般式(1)で示されるモノマー化合物であるπ電子系共役化合物から重合反応により一般式(2)で示されるπ電子系共役重合体を得る反応である。上記反応6の重合反応としては特に限定されず、電気化学的に重合(以下、「電解重合」と略記することがある)する反応や、(塩化第二鉄(FeCl)等に代表される遷移金属塩からなる酸化剤を用いてモノマー化合物から脱水素することにより重合体を得る化学酸化重合反応)等が挙げられる。電解重合反応により重合させる場合、重合原料となるモノマー化合物を溶解させた電解液を作製し、この電解液を介して電極間に電圧印加することによって陽極酸化された重合物を陽極上に得る方法が好適に採用される。このように、電気化学的に重合させることによりエレクトロクロミック表示素子用の膜が形成され、高い生産性でエレクトロクロミック表示素子を作製することが可能となる。また、モノマー化合物を溶解させてから電解重合反応させる方法を採用することにより、加工性に優れる利点も有する。
【0079】
また、上記反応6により得られる一般式(2)で示される本発明のπ電子系共役重合体は、一般式(3)で示される化合物2分子の間がWにより連結された構成単位を有し、このWを適宜変更することによって所望の発色状態に調整することができる。したがって、発色状態から無色状態へと色変化するπ電子系共役重合体を提供することが可能となり、エレクトロクロミック表示素子として好適に用いることができる。
【0080】
上記電解重合反応における電解液に用いる溶媒としてはニトロメタン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、水等が例示される。電解液に用いる支持電解質としてリチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属類のイオンや四級アンモニウムイオンといったカチオンと、過塩素酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リンイオン、ハロゲン原子イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化アンチモンイオン、硫酸イオン、硫酸水素イオンといったアニオンの組み合わせからなる支持塩が添加されることが好ましい。また電解液としては、例えば、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類等のアンモニウム系イオン、ホスホニウム系イオン、無機系イオン、ハロゲン系イオンなどの陽イオンと、フッ化物イオン、トリフラート等のフッ素系イオンなどの陰イオンとを組み合わせたイオン液体を用いることもできる。電極材料としては白金、金、ニッケル、ITO、銀、炭素、導電性ダイヤモンド等を用いることができる。
【0081】
ここで、π電子系共役重合体のエレクトロクロミックとは、電界印加によって電子を放出/受容してキノイド構造と呼ばれる構造に変化することにより、電子の共役長が変わって光の吸収波長が変化することにより観察される。このキノイド構造に変化することをドーピングと定義する。キノイド構造は電荷を帯びた種であるため、電荷の中性を保つために電解質が電離したイオン種がキノイド構造状態のπ電子系共役重合体近傍に通常存在することになる。このイオン種をドーパントと定義する。一般に、ドーピングによってπ電子系共役重合体の吸収波長は長波長側にシフトすることが知られているが、本発明のπ電子系共役重合体を用いることにより、脱ドーピング時に発色状態であったものからドーピングによって可視域に吸収極大を持たない消色状態へ変化するエレクトロクロミック表示素子用の膜を形成することが可能となる。本発明のπ電子系共役重合体の近傍にドーパントが存在する場合にはバンドギャップの低い導電性ポリマーとして用いることもできる。また、導電性の高いイオン性ポリマーとして用いることもできる。
【0082】
用いられるドーパントとしては特に限定されず、PF、SbF、AsF等の5B族元素のハロゲン化アニオン、BF等の3B族元素のハロゲン化アニオン、I(I)、Br、Cl等のハロゲンアニオン、ClO等のハロゲン酸アニオン、AlCl、FeCl、SnCl等の金属ハロゲン化物アニオン、NOで示される硝酸アニオン、SO2−示される硫酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、CHSO、CFSO等の有機スルホン酸アニオン、CFCOO、CCOO等のカルボン酸アニオン、及び上記のアニオン種を主鎖または側鎖に有する変性ポリマー等が挙げられる。これらのアニオンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、アニオンの添加方法については特に限定されず、例えば、重合後に所望のアニオンを適宜添加してもよいし、電解重合により重合させる場合には、電解質由来のアニオンをそのまま用いることができる。また、化学酸化重合により重合させる場合には、用いられる酸化剤由来のアニオンをそのまま用いることができる。
【0083】
上記一般式(2)で示される本発明の新規なπ電子系共役重合体は、脱ドーピング時に発色状態であったものからドーピング時に可視域に吸収極大を持たない消色状態へ変化する特性を有する。したがって、所望の発色状態から消色状態へ変化するエレクトロクロミック材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0085】
[実施例1]
[式(14a)及び式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンの合成]
(合成例1)
発煙硝酸11mlと発煙硫酸20mlを用いて混酸を調整した。これに、濃硫酸13mlを加えた溶液に、式(16a)で示される2,5−ジブロモチオフェン(31mmol)を徐々に滴下していき、水浴で温度を20〜30℃に保ちながら3時間攪拌した後、90gの氷にフラスコ内の液を移して、反応を停止させた。固体をフィルタリングして、メタノールで再結晶して2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンを得た。収率は66%であった。得られた2,5−ジブロモ−3,4−ジニトロチオフェンに対して、濃塩酸を6.05ml/mmolの割合で添加し、氷浴で温度を0℃に保ちながら7.1当量のスズを徐々に添加し、2時間攪拌した後、固体をフィルタリングして、ジエチルエーテルで洗浄して、3,4−ジアミノチオフェンジヒドロ−クロリドを得た。収率は90%であった。得られた3,4−ジアミノチオフェンジヒドロ−クロリドを4ml/mmolの水に溶解させ、4規定炭酸ナトリウム水溶液を2ml/mmolで徐々に滴下し、2時間攪拌した後、酢酸エチルを用いて生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートし、式(11a)で示される3,4−ジアミノチオフェンを得た。収率は60%であった。得られた式(11a)で示される3,4−ジアミノチオフェンに対して、5%炭酸ナトリウム水溶液を5.43ml/mmolの割合で添加し、10分攪拌した。その後、式(12a)で示されるグリオキサールを40重量%含む水溶液を式(11a)で示される3,4−ジアミノチオフェンに対してグリオキサール2.0当量の割合で添加し、室温で2時間攪拌し反応進行させた。この反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。得られた式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンを、10ml/mmolのエタノールに溶解させ、式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンに対して水素化ホウ素ナトリウムを2.5当量添加し、室温で終夜攪拌し反応進行させた。この反応液から塩化メチレンを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(14a)及び式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。化学反応式を以下に示す。
【0086】
【化35】

【0087】
(合成例2)
式(7a)で示される3,4−ジブロモチオフェンを0.75ml/mmolの十分乾燥させたジメチルホルムアミドに溶解させ、式(7a)で示される3,4−ジブロモチオフェンに対して3当量の塩化銅(I)を加え、165℃で18時間加熱還流し、反応進行させた。この反応液をろ過し、固形分を取り除いた後、純水と塩化メチレンを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、式(7b)で示される3,4−ジクロロチオフェンを得た。収率は32%であった。得られた式(7b)で示される3,4−ジクロロチオフェンを2ml/mmolの十分乾燥させたジメチルホルムアミドに溶解させ、式(7a)で示される3,4−ジブロモチオフェンに対して15当量の式(8a)で示されるエタン−1,2−ジアミン、及び0.5当量の炭酸ナトリウムを添加し、165℃で24時間加熱還流して反応を進行させた。この反応液から、純水と塩化メチレンを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせた後、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。化学反応式を以下に示す。
【0088】
【化36】

【0089】
[式(5a)で示される5−ブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンの合成]
(合成例3)
式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを10ml/mmolのテトロヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。ここに、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して5ml/mmolのテトロヒドロフランで溶解させた2.1当量のN−ブロモスクシンイミドを徐々に滴下していき、30分間反応させた後、飽和塩化ナトリウム水溶液を過剰量加えて反応を停止させた。この反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(4a)で示される5,7−ジブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。収率は90%であった。得られた式(4a)で示される5,7−ジブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを10ml/mmolの乾燥テトラヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。アルゴンガス雰囲気下、1.6規定のn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液を式(4a)で示される5,7−ジブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して3.1当量徐々に滴下し、15分間反応させた後、1規定塩酸を5当量加えて反応を停止させた。反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(5a)で示される5−ブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。収率は60%であった。化学反応式を以下に示す。
【0090】
【化37】

【0091】
[式(1a)で示される化合物の合成]
(合成例4)
1,4−ジブロモベンゼンを2ml/mmolの乾燥テトラヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。アルゴンガス雰囲気下、1.6規定のn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液を1,4−ジブロモベンゼンに対して1.1当量徐々に滴下し、30分間反応させた後、塩化トリブチルスズを1.0当量加えて1時間反応させた。さらに、1.6規定のn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液を1,4−ジブロモベンゼンに対して1.1当量徐々に滴下し、30分間反応させた後、塩化トリブチルスズを1.0当量加えて1時間反応させた後に、飽和塩化ナトリウム水溶液を過剰量加え、反応を停止させた。飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて3回洗浄し、反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、式(6a)で示される1,4−ジトリブチルスズベンゼンを得た。得られた式(6a)で示される1,4−ジトリブチルスズベンゼンに対して、2.0当量の式(5a)で示される5−ブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン、5ml/mmolの乾燥トルエン、0.2当量のトランス−ジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウムを加え、アルゴンガス雰囲気下、130℃で40時間還流させ反応進行させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液を過剰量加えて反応を停止させた。得られた反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(1a)で示される化合物を得た。化学反応式を以下に示す。
【0092】
【化38】

【0093】
[実施例2]
[式(3b)で示される1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンの合成]
(合成例5)
式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して、3ml/mmolのテトラヒドロフラン中、2.2当量の水素化ナトリウムを氷浴中で0℃に保ちながら、アルゴンガス雰囲気下、1時間反応させた後、2.1当量のヨウ化メチルを加え室温で更に12時間反応させた。イオン交換水:塩化アンモニウム=3:1の混合水溶液を過剰量添加して反応を停止させた。得られた反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(3b)で示される1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。化学反応式を以下に示す。
【0094】
【化39】

【0095】
[式(9a)で示される5−トリブチルスズ−1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンの合成]
(合成例6)
得られた式(3b)で示される1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを、2ml/mmolの乾燥テトラヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。アルゴンガス雰囲気下、1.6規定のn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液を式(3b)で示される1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して1.1当量徐々に滴下し、30分間反応させた後、塩化トリブチルスズを1.0当量加えて1時間反応させた後に、飽和塩化ナトリウム水溶液を過剰量加え、反応を停止させた。飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて3回洗浄し、反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、式(9a)で示される5−トリブチルスズ−1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得た。化学反応式を以下に示す。
【0096】
【化40】

【0097】
[式(1b)で示される化合物、及び式(2b)で示される重合体の合成]
(合成例7)
3,6−ジブロモ−9H−カルバゾールに対して、2.0当量の式(9a)で示される5−トリブチルスズ−1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン、5ml/mmolの乾燥トルエン、0.2当量のトランス−ジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウムを加え、アルゴンガス雰囲気下、130℃で40時間還流させ反応進行させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液を過剰量加えて反応を停止させた。得られた反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経て、式(1b)で示される化合物を得た。
【0098】
得られた式(1b)で示される化合物を0.1Mアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(NHPF)水溶液に0.1M以下の濃度で溶解させ、銀/塩化銀参照電極に対して0〜1.5Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電位を印加し、電気化学的に重合させることにより、式(2b)で示される重合体の膜が生成された。得られた膜のエレクトロクロミック特性をUV−Visスペクトル(紫外可視吸収スペクトル)で評価したところ、発色時(脱ドーピング時)に400nm付近に吸収極大を持つY色であり、消色時(ドーピング時)に可視域に吸収極大を持たないことが確認された。化学反応式を以下に示す。
【0099】
【化41】

【0100】
[参考例]
[1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン重合体の合成]
(合成例8)
得られた式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを1.0Mアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(NHPF)水溶液に0.1M以下の濃度で溶解させ、0〜1.5Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電位を印加し、電気化学的に重合させた。得られた膜のエレクトロクロミック特性をUV−Visスペクトルで評価したところ、発色時(脱ドーピング時)に500nm付近に吸収極大を持つM色であり、消色時(ドーピング時)に可視域に吸収極大を持たないことが確認された。化学反応式を以下に示す。
【0101】
【化42】

【0102】
[1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジン重合体の合成]
(合成例9)
得られた式(3b)で示される1,4−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを0.1Mテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TBAPF)/アセトニトリル溶液に0.01M以下の濃度で溶解させ、0〜1.5Vの範囲で100mV/secの挿引速度で電位を印加し、電気化学的に重合させた。得られた膜のエレクトロクロミック特性をUV−Visスペクトルで評価したところ、発色時(脱ドーピング時)に340nm付近に吸収極大を持ち、消色時(ドーピング時)に可視域全体として濃灰色になることが確認された。化学反応式を以下に示す。
【0103】
【化43】

【0104】
[比較例]
(合成例10)
1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを10ml/mmolのテトロヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。ここに、1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して5ml/mmolのテトロヒドロフランで溶解させた1.1当量のN−ブロモスクシンイミドを徐々に滴下していき、30分間反応させた後、飽和塩化ナトリウム水溶液を過剰量加えて反応を停止させた。この反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせ、酢酸エチル/ヘキサン溶媒を用いたカラム分離による精製工程を経たが、生成物は5,7−ジブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンと、未反応の1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンの混合物であった。このことから、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンをハロゲン化した後に、リチオ化して酸を加える反応1及び反応2を行うことにより式(5a)で示される5−ブロモ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンが得られることが分かる。
【0105】
(合成例11)
式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを2ml/mmolの乾燥テトラヒドロフランに溶解させ、ドライアイス冷却メタノールバス中で−78℃に保った。アルゴンガス雰囲気下、1.6規定のn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液を式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンに対して1.1当量徐々に滴下し、30分間反応させた後、塩化トリブチルスズを1.0当量加えて1時間反応させた後に、飽和塩化ナトリウム水溶液を過剰量加え、反応を停止させた。飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて3回洗浄し、反応液からジエチルエーテルを用いて、生成物を有機層に分液抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレートさせて、生成物を得た。生成物は、目的の5−トリブチルスズ−1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンではなく、開環し、縮環状態が崩れた化合物が多く含まれていた。このことから、Zが水素原子ではない一般式(3)で示される化合物を塩基とともに反応させる反応4を行うことで、一般式(9)で示される化合物が得られることが分かる。
【0106】
(合成例12)
合成例1において、式(11a)で示される3,4−ジアミノチオフェンと反応させたジカルボニル誘導体である式(12a)で示されるグリオキサールの代わりに、ホルムアルデヒドを用いて同様の操作を行ったところ、式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンを得ることはできなかった。このことにより、式(12a)で示されるグリオキサールを用いた反応により式(13a)で示されるチエノ[3,4−b]ピラジンを得てから、次いで、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた還元反応を行うことによって、式(14a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンが得られることが分かる。
【0107】
(合成例13)
合成例2において、式(7b)で示される3,4−ジクロロチオフェンの代わりに、チオフェンを用いて同様の操作を行ったところ、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンを得ることはできなかった。このことにより、3位及び4位に塩素原子が導入された式(7b)で示される3,4−ジクロロチオフェンを用いて式(8a)で示されるエタン−1,2−ジアミンと反応させることによって、式(3a)で示される1,2,3,4−テトラヒドロチエノ[3,4−b]ピラジンが得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるπ電子系共役化合物。
【化1】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。]
【請求項2】
下記一般式(2)で示される構成単位を有するπ電子系共役重合体。
【化2】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Yは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基であり、nは2以上の整数である。]
【請求項3】
請求項2記載のπ電子系共役重合体からなるエレクトロクロミック材料。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化3】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義である。]
で示される化合物をハロゲン化して下記一般式(4):
【化4】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物を得て、次いでリチオ化して酸を加えることにより下記一般式(5):
【化5】

[式中、X、Y、Z及びQは、前記と同義である。]
で示される化合物を得てから、下記一般式(6):
【化6】

[式中、Wは、前記と同義であり、Qは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物とクロスカップリング反応させることを特徴とする請求項1記載のπ電子系共役化合物の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(7):
【化7】

[式中、Xは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物と下記一般式(8):
【化8】

[式中、Yは、前記と同義である。]
で示される化合物とを反応させて、下記一般式(3):
【化9】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義である。]
で示される化合物を得る工程を有する請求項4記載のπ電子系共役化合物の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(3):
【化10】

[式中、X及びYは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基である。]
で示される化合物を塩基とともに、MgCl、MgBr、MgI、ZnCl、ZnBr、ZnI、Sn(RCl(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、Sn(RBr、Sn(RI、ボロン酸及びボロン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種と反応させることにより、下記一般式(9):
【化11】

[式中、X、Y及びZは、前記と同義であり、Qは、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、−Sn(R(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基)、ボロン酸基及びボロン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を得てから、下記一般式(10):
【化12】

[式中、Wは、前記と同義であり、Qは、ハロゲン原子である。]
で示される化合物とクロスカップリング反応させることを特徴とする請求項1記載のπ電子系共役化合物の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(11):
【化13】

[式中、Xは、−O−、−S−、−NH−及び−NR−(Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基)からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物と下記一般式(12):
【化14】

[式中、Rは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物とを反応させて、下記一般式(13):
【化15】

[式中、X及びRは、前記と同義である。]
で示される化合物を得て、次いで還元反応させることにより下記一般式(14):
【化16】

[式中、X及びRは、前記と同義であり、Zは、それぞれ独立して水素原子及び置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示される化合物を得る工程を有することを特徴とする下記一般式(15):
【化17】

[式中、X、Z及びRは、前記と同義であり、Wは、エチニレン基、置換基を有してもよいエテニレン基、置換基を有してもよいアリーレン基又は置換基を有してもよい2価の複素芳香環基である。]
で示されるπ電子系共役化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−95485(P2010−95485A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268943(P2008−268943)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】