説明

ω−アルケン−1−オールの製造方法

【課題】 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを原料として用いて、純度の高い炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高収率で簡単に円滑に製造することのできる方法の提供。
【解決手段】 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で脱水反応させて炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールから、純度の高い炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高収率で円滑に製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを特定の酸化ジルコニウム触媒に特定の条件下で接触させて脱水反応させて、純度の高い炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転化率、高選択率、高収率で製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一方の端部に水酸基を有し且つもう一方の端部に不飽和二重結合を有する、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールは、化合物の種類などに応じて、香料、医農薬中間体などの種々の用途に用いられている。例えば、9−デセン−1−オール(別称:9−デセノール)は、バラ様の香気を有し、香料として有用である。また、7−オクテン−1−オール(別称:7−オクテノール)は、医農薬中間体などとして用いられている。
【0003】
ω−アルケン−1−オールの製造方法としては、α,ω−アルカンジオールを、ステアリン酸および/またはパルミチン酸と共に加熱してω−アルケン−1−オールを製造する方法が知られている(特許文献1)。
しかし、この方法による場合は、原料であるω−アルケン−1−オールとほぼ等量のステアリン酸および/またはパルミチン酸を常に用いる必要があり、経済的ではない。
【0004】
かかる点から、α,ω−アルカンジオールを触媒に接触させて脱水して、ω−アルケン−1−オールを製造する方法が従来から提案されている。
そのような従来法としては、リチウムおよび/またはバリウムの中性ピロ燐酸塩を触媒として使用して、炭素数6〜20のα,ω−アルカンジオールを300〜500℃で脱水して炭素数6〜20のα,ω−アルケノール(ω−アルケン−1−オール)を製造する方法(特許文献2)が知られている。しかし、この従来法による場合は、α,ω−アルカンジオールの転化率を上げると、目的とするω−アルケン−1−オールの選択性が落ち、高純度のω−アルケン−1−オールを高収率で得ることが困難であり、また転化率を高くするには、α,ω−アルカンジオールの脱水反応を400℃以上の高温で行なう必要がある。
【0005】
また、他の従来法として、バリウムとナトリウムを含む特定のリン酸塩からなる触媒を用いて炭素数4〜20のα,ω−アルカンジオールを触媒に接触脱水して炭素数4〜20のα,ω−アルケノール(ω−アルケン−1−オール)を製造する方法(特許文献3)、リン酸アルミニウム/リン酸バリウム混合触媒を用いてα,ω−アルカンジオールを触媒に接触脱水してα,ω−アルケノール(ω−アルケン−1−オール)を製造する方法(特許文献4)が知られている。しかし、これらの方法による場合は、触媒の製造に多大な手間および時間を要し、またω−アルケン−1−オールへの転化率を高めるためには、α,ω−アルカンジオールの接触脱水を400℃以上の高温で行なう必要があり、しかも選択率の低下を招くものである。
【0006】
さらに、他の従来法として、炭素数1〜10のα,ω−アルカンジオールを、酸化セリウム触媒を用いて接触脱水してω−アルケン−1−オールを製造する方法(特許文献5)、酸化ジルコニウムまたは塩基性物質を作用させた酸化ジルコニウムを触媒として用いてジオールを接触脱水して不飽和アルコールを製造する方法(特許文献6および7)が知られている。しかしながら、これらの方法による場合は、副反応によって環状エーテルなどの副生物がかなりの量で生成し、ω−アルケン−1−オールを高い選択性で高収率で得ることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−100326号公報
【特許文献2】特公平1−13456号公報
【特許文献3】特公平7−17552号公報
【特許文献4】特許第3512615号公報
【特許文献5】特開2004−306011号公報
【特許文献6】特開2006−212495号公報
【特許文献7】特開2006−212496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを原料として用いて、香料やその他の用途に有用な、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、簡単な工程で、しかも比較的低い温度で、高転化率、高選択率、高純度および高収率で円滑に製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、触媒として単斜晶構造を有する酸化ジルコニウムを用いて、減圧下で当該触媒に接触させて脱水すると、1段の反応工程で、しかも比較的低い温度で、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高転化率、高選択率、高純度および高収率で円滑に製造できることを見出した。
【0010】
炭素数が8〜12のα,ω−アルカンジオールを、立方晶構造を有する酸化ジルコニウムを使用して減圧下で脱水反応させた場合には目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高純度で且つ高収率で円滑得ることができず、また炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを単斜晶酸化ジルコニウムを用いて常圧下で脱水反応させた場合にも目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高純度で且つ高収率で円滑得ることができず、さらに炭素数が8よりも小さいα,ω−アルカンジオール(例えば1,4−ブタンジオール)の場合には、単斜晶酸化ジルコニウムを使用して減圧下で脱水反応させても目的とするω−アルケン−1−オール(3−ブテン−1−オールなど)を高収率で得ることができない。これらの点からすると、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で脱水反応させることにより、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高転化率、高選択率、高純度および高収率で簡単に製造することができるという本発明の効果は、全く予想外のものであった。
【0011】
また、本発明者らは、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを単斜晶酸化ジルコニウム触媒を用いて減圧下に接触脱水して炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを製造する際に、単斜晶酸化ジルコニウム触媒を反応器に充填し、そこに気体状にした炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオール気体を供給して反応を行なうことが好ましいこと、その際に気体状にした炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを所定の量で供給して反応を行なうことが好ましいこと、また反応を触媒充填層反応器を用いて行なうことが好ましいことを見出した。
さらに、本発明者らは、単斜晶酸化ジルコニウムとしては、未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムおよび400〜1000℃の範囲内の温度で焼成した単斜晶酸化ジルコニウムのいずれもが有効に用い得ること、特に700〜900℃で焼成した単斜晶酸化ジルコニウムを用いると、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールが高転化率、高純度および高収率で円滑に得られることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で脱水反応させることを特徴とする、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの製造方法である。
【0013】
そして、本発明は、
(2) 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、気相で単斜晶酸化ジルコニウム触媒に接触させて脱水反応させる前記(1)の製造方法;
(3) 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、0.1〜15kPaの圧力下で脱水反応させる前記(1)または(2)の製造方法;
(4) 単斜晶酸化ジルコニウムを反応器に充填し、反応器に充填した単斜晶酸化ジルコニウム1gに対して、気体状の炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、0.01〜0.5g/hrの量で反応器に連続的に供給して脱水反応させる前記(1)〜(3)のいずれかの製造方法;および、
(5) 触媒充填層反応器を用いて炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応を行なう前記(1)〜(4)のいずれかの製造方法;
である。
【0014】
さらに、本発明は、
(6) 単斜晶酸化ジルコニウムが、未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムであるか、または400〜1000℃の温度で焼成した単斜晶酸化ジルコニウムである前記(1)〜(5)のいずれかの製造方法;および、
(7) 炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールが、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオールおよび1,12−ドデカンジオールから選ばれる直鎖状の炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールであり、脱水反応により生成するω−アルケン−1−オールが、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、9−デセン−1−オール、10−ウンデセン−1−オールおよび11−ドデセン−1−1−オールから選ばれる直鎖状の炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールである前記(1)〜(6)のいずれかの製造方法;
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法による場合は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールから、対応する純度の高い炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転化率および高選択率、高収率で製造することができる。
本発明の製造方法による場合は、1段の反応工程で、比較的低い温度で、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールから、対応する炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高純度および高収率で得ることができるので、設備面およびコスト面で極めて有利である。
本発明の製造方法は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応時に、助剤を併用しなくて済むため、環境にやさしい反応であり、更に助剤の分離・除去処理が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明において有効に使用し得る製造装置の一例を模式的に示した図である。
【図2】比較例2〜5で使用した製造装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明で原料化合物として用いる炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールは、炭素数8〜12のアルカン(炭素数8〜12の鎖状飽和脂肪族炭化水素)の両端に水酸基が各1個(合計で2個)結合したジオールである。
本発明で用いる炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールは、炭素数が8〜12の直鎖状のα,ω−アルカンジオール(炭素数8〜12の直鎖状の飽和脂肪族炭化水素のα,ω−ジオール)であってもよいし、または炭素数8〜12の分岐鎖状のα,ω−アルカンジオール(炭素数8〜12の分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素のα,ω−ジオール)であってもいずれでもよい。
【0018】
本発明で用いる炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの具体例としては、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオールおよび1,12−ドデカンジオールから選ばれる炭素数8〜12の直鎖状のα,ω−アルカンジオール;2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2−エチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,10−デカンジオール、2−エチル−1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,11−ウンデカンジオール、2−エチル−1,10−デカンジオールなどの炭素数8〜12の分岐鎖状のα,ω−アルカンジオールなどを挙げることができる。本発明では、上記した炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールのうちの1種類のみを単独で用いてもよいし、または2種以上を併用してもよい。
【0019】
そのうちでも、本発明では、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールとして、炭素数8〜12の前記した直鎖状のα,ω−アルカンジオールが、対応する炭素数8〜12の直鎖状のω−アルケン−1−オールを高純度および高収率で円滑に得ることができ、しかも脱水反応により得られる直鎖状のα,ω−アルカンジオールの有用性などの点から好ましく用いられる。特に、本発明では、1,10−デカンジオールがより好ましく用いられ、当該1,10−デカンジオールを本発明の方法で脱水して得られる9−デセン−1−オールはバラ様の香気を有し、香料として有用である。
【0020】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールは、場合により水分を含んでいてもよく、α,ω−アルカンジオールにおける水分含量は、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの収率、加熱エネルギーの節約などの点から、α,ω−アルカンジオールの質量に基づいて0〜50質量%であることが好ましく、0〜10質量%であることがより好ましく、0〜1質量%であることが更に好ましい。
また、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールは、場合により、反応に関与しない有機溶媒などを少量含有していてもよい。
【0021】
酸化ジルコニウム[二酸化ジルコニウム(ZrO2)]はジルコニアとも称され、結晶構造で分類すると、一般に単斜晶系、正方晶系および立方晶系の酸化ジルコニウムが知られている。
本発明では、そのような酸化ジルコニウムのうちで、特に、単斜晶の結晶構造を有する単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応を行なう。
本発明では、単斜晶酸化ジルコニウムとして、未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムを用いてもよいし、または単斜晶構造が失われないような温度で焼成処理した単斜晶酸化ジルコニウムを用いてもいずれでもよい。
未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムおよび焼成処理を施した単斜晶酸化ジルコニウムはいずれも市販されている。
単斜晶酸化ジルコニウムとして、未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムを400〜1000℃、更には600〜900℃、特に700〜900℃の温度で、1〜48時間、更には2〜36時間、特に2〜30時間焼成したものを用いると、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを脱水反応させて対応する炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを製造する際の転化率、選択率、純度および/または収率を向上させることができる。
【0022】
単斜晶酸化ジルコニウムの形状、サイズなどは特に制限されないが、1〜10mm、特に2〜5mm程度のサイズを有するペレット状(短尺柱状)、球状、立方体状、直方体状、円盤状、楕円球状、円筒状などの形状の粒状体にして用いることが、反応器に充填する際の取り扱い性、原料である炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールとの接触効率、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水効率、反応状態の安定性などの点から好ましい。
【0023】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、上記した単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて減圧下で脱水反応させて、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを製造する。
反応装置(反応器)は特に限定されず、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを単斜晶酸化ジルコニウムよりなる触媒に減圧下に接触させて脱水反応を行なうことのできる反応装置であればいずれも使用できる。
そのうちでも、反応器として、触媒充填層反応器が好ましく用いられる。触媒充填層反応器は、筒状の容器に触媒を層状に充填し、その一方の端部から原料を供給し、もう一方の端部から反応生成物を取り出すようにした反応器である。触媒充填層反応器の内径、長さなどは特に制限されず、各々の状況に適したサイズとすることができる。
触媒充填層反応器を用いて本発明を実施するに当っては、筒状の反応器に単斜晶酸化ジルコニウムを層状に充填し、当該反応器に気体状にした炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを触媒充填層反応器の一方の端部から連続的に供給して、減圧下で炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを単斜晶酸化ジルコニウムと気相状態で接触させて、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの片方の水酸基の脱水反応を行なわせ、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを含む生成物を触媒充填層反応器のもう一方の端部から連続的に取り出す方法が好ましく採用される。
【0024】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを気体状にするには、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールをその沸点以上の温度で加熱して気化させる。炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを気化させるための加熱温度は、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの沸点以上で分解点未満の温度を採用するのがよく、一般的には、反応温度と同程度の温度が適切であることから、炭素数8〜12の沸点から沸点+200℃の範囲内の温度であることが好ましく、沸点から沸点+150℃の範囲内の温度であることがより好ましい。
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの気化させる際の加熱温度が低すぎると、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを気化させて形成した気体の温度が低くなって、単斜晶酸化ジルコニウム触媒に当該気体を接触させて脱水反応させたときに反応効率が低下して、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールが高収率で得られにくくなり、しかも反応温度幅が広くなり、選択性の低下をもたらす。
一方、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを気化させる際の加熱温度が高すぎると、当該α,ω−アルカンジオールの熱分解、ω−アルケン部の内部アルケンへの異性化などが生じて、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの純度の低下、副生成物の増加などが生じ易くなる。
例えば、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールとして、1,10−デカンジオール(沸点297℃)を用いる場合は、1,10−デカンジオールを気化させるための加熱温度は、300〜500℃が好ましく、300〜450℃がより好ましく、300〜400℃がより好ましい。
【0025】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを減圧下で単斜晶酸化ジルコニウムに接触させて脱水反応させる際の反応器内の圧力は、0.1〜15kPaであることが好ましく、0.5〜3kPaであることがより好ましく、1〜3kPaであることが更に好ましい。前記した減圧受験下で炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応を行なうことにより、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転換率、高選択率、高純度および高収率で円滑に製造することができる。
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応を減圧下で行なわずに、常圧下またはそれよりも高い圧力下で行なうと、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高純度、高収率で得ることが困難になる。例えば、常圧(1気圧=101.3kPa)下で脱水反応を行なうと、減圧下で行なう場合に比べて、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの純度が4%以上低下し、収率が26%以上低下する。
一方、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを単斜晶酸化ジルコニウムに接触させて脱水反応させる際の圧力が低すぎると、脱水反応の転化率が低くなり、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを短時間で生産性よく製造することが困難になる。
【0026】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを減圧下で単斜晶酸化ジルコニウムと接触させて脱水反応させるに当っては、単斜晶酸化ジルコニウムを反応器に充填し、反応器の内部圧力を予め脱水反応を行なう際の圧力またはそれ以下の減圧状態にした後に、反応器に気化させた炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを供給して脱水反応を行なうことが好ましい。そのようにすることによって、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転化率、高選択率、高収率、高純度で円滑に製造することができる。
【0027】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを減圧下で単斜晶酸化ジルコニウムと接触させて脱水反応させる際の反応温度は、使用するα,ω−アルカンジオールの種類などによって異なり得るが、α,ω−アルカンジオールの沸点以上で450℃以下の範囲内の温度が好ましく、一般的には300〜400℃の温度がより好ましく採用される。
反応温度が低すぎると、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応速度が低下して、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高収率で生産性よく製造することが困難になり、一方反応温度が高くなり過ぎると、副生物の生成が多くなり、目的とする炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高純度および高収率で得ることが困難になる。
【0028】
炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの製造は、バッ方式で行なってもよいしまたは連続方式で行なってもよい。そのうちでも、連続方式で行なうことが好ましく、それによって、高純度の炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転化率、高選択率、高収率で、安定して生産性良く製造することができる。
連続方式で炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを製造するに当っては、反応器への炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの供給量は、α,ω−アルカンジオールの種類、反応器の種類や構造などに応じて調節し得るが、一般的には、反応器に充填した単斜晶酸化ジルコニウム1gに対して、気体状の炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、0.01〜0.5g/hrの量、特に0.015〜0.15g/hrの量で反応器に連続的に供給して脱水反応を行なうことが好ましく、それによって純度の高い炭素数8〜12のすることができる。
【0029】
脱水反応時の反応温度と炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの供給量との関係では、反応温度が低い場合には、単斜晶酸化ジルコニウム1gに対する1時間当りの炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの供給量を少なくし、一方反応温度が高い場合には、単斜晶酸化ジルコニウム1gに対する1時間当りの炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの供給量を多くして脱水反応を行なうことが好ましく、それによって高純度の炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを、高転化率、高選択率、高収率で、安定して製造することができる。
【0030】
本発明で使用する装置の種類や構造などは特に制限されず、本発明を円滑に実施できる装置であればいずれも使用できる。
限定されるものではないが、本発明を実施するための装置の一例として、図1(模式図)に示す装置を挙げることができる。
図1において、1は原料である炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを供給するためのラインであり、2はヒータ、3は気化室、4は単斜晶酸化ジルコニウムを充填した反応器、5はコンデンサー、6は反応生成物の受器、7は真空ポンプに連結したラインを示す。
【0031】
本発明の製造方法を図1に示す装置を使用して実施する場合について簡単に説明する。
気化室3、単斜晶酸化ジルコニウムを充填した反応器4および受器6は、受器6の下流側に設置した真空ポンプによって、少なくとも脱水反応の実施中には所定の減圧状態に維持されている。
ヒータ2によって気化室3を所定の温度に加熱しておき、加熱された気化室3にライン1を通して原料(炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールのうちのいずれか)を連続的に供給して所定の温度に加熱して気体状にし、気体状になった原料を単斜晶酸化ジルコニウムを充填した反応器4にその下部から所定の量で連続的に供給して、反応器4内で気相状態で単斜晶酸化ジルコニウムに接触させて脱が水反応を行なわせ、反応器4で生成した反応生成物を反応器4の上部から連続的に取り出し、コンデンサー5で冷却して液化し、液化した反応生成物を受器6に集めることによって、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールを高濃度で含有する反応生成物が連続的に製造される。なお、受器6の容量などに応じて、受器6に集めた反応生成物は、必要に応じて、連続的にまたは断続的に受器6から取り出すことができる。
受器6から取り出した反応生成物中に含まれる炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールは、減圧蒸留などの従来から知られている方法に準じて、副生成物から分離して回収することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例1〜10、比較例1および参考例1では、図1に示した製造装置を使用して実施した。その際に、反応器4として、内径27mm、全長300mmのパイレックス(登録商標)製の円筒(管塔)内に単斜晶酸化ジルコニウムまたは立方晶酸化ジルコニウムを充填した触媒充填層反応器を使用した。
また、以下の比較例2〜5では、図2に示した製造装置を使用して実施した。その際に、反応器9として、内径17mm、全長300mmのパイレックス(登録商標)製の円筒(管塔)内に単斜晶酸化ジルコニウムを充填した触媒充填層反応器を使用した。図2において、8は原料である炭素数1,10−デカンジオールの供給ライン、9は単斜晶酸化ジルコニウムを充填した反応器、10はコンデンサー、11は反応生成物の受器を示す。
また、以下の実施例、比較例および参考例において、反応生成物中の各成分の測定は、ガスクロマトグラフィー法(GLC)により以下の機器および条件を採用して行なった。
【0033】
[ガスクロマトグラフィー法で採用した機器および条件]
・機器:株式会社島津製作所製「GC−14B」
・カラム:Agilent Technologies製「DB−WAX」
(内径0.25μm、長さ30m)
・検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
・測定条件:
キャリアーガス:窒素
流速:目的化合物(ω−アルケン−1−オール)のリテンションタイムが10minになるように調整
Injection Temp.:230℃
Detector Temp.:250℃
Injection Volume :0.14μl
昇温プログラム:120〜230℃(昇温速度5℃/min)
【0034】
また、以下の実施例および比較例において、「転化率」、「選択率」、「純度」および「収率」は、下記の数式(1)〜(4)から求めた。
転化率(%)={(W0−W1)/W0}×100 (1)
選択率(%)={(Wa+Wb)/(W0−W1)}×100 (2)
純度(%)=(Wa/(Wa+Wb)}×100 (3)
収率(%)=(Wa/W0)×100 (4)
上記式中、
0=原料の質量(反応器に供給した原料の総質量)
1=原料の残質量(反応生成物中に残存していた原料の質量)
Wa=反応生成物中での目的物(相当するω−アルケン−1−オール)の質量
Wb=反応生成物中での目的物の異性体の質量
【0035】
《実施例1》
(1) 焼成処理を行なっていない単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)の162.2gを図1に示す製造装置の反応器4(管塔)内に充填し、真空ポンプ7で吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を323℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液(1,10−デカンジオールの沸点=297℃、比重=1.08g/cm3)を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、323℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0036】
《実施例2》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを450℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの159.2gを図1に示す製造装置の反応器4に充填した以外は、実施例1の(1)および(2)と同じ操作を行なって、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を受器6に捕集した。なお、反応は5時間行なった。
(2) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0037】
《実施例3》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを600℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの162.6gを図1に示す製造装置の反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を325℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、325℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0038】
《実施例4》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを700℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの165.0gを図1に示す製造装置の反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を341℃にし2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、341℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0039】
《実施例5》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを700℃で24時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの167.7gを反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて図1に示す製造装置の反応器4内の平均温度を342℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、342℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0040】
《実施例6》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを800℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの170.0gを図1に示す製造装置の反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を343℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、343℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0041】
《実施例7》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを900℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの176.8gを図1に示す製造装置の反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を354℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、354℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0042】
《実施例8》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレットを1000℃で3時間焼成し、その焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの200.0gを図1に示す反応装置の反応器4に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を362℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、362℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0043】
《比較例1》
(1) 焼成処理を行なっていない立方晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)の150.0gを図1に示す反応装置の反応器4内に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を323℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に16.2g/hrの供給量で連続的に供給して、323℃で脱水反応を行ない、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0044】
《比較例2》
(1) 実施例1で使用したのと同じ焼成処理を行っていない単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を粉砕し(粉砕後の粒径0.4〜1.0mm)、その0.6gを図2に示す製造装置の反応器9(管塔)内に充填し、キャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら、リボンヒーターを用いて反応器9内の平均温度を350℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液(20%エタノール溶液)を、反応器9に1.7ml/hrの供給量でキャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら連続的に供給して、350℃で脱水反応を行ない、目的物である、9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を受器11で捕集した。この反応は5時間行った。
(3) 受器11に捕集した、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に準じて、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表2に示す。
【0045】
《比較例3》
(1) 実施例1で使用したのと同じ焼成処理を行っていない単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を粉砕し(粉砕後の粒径0.4〜1.0mm)、その1.8gを図2に示す製造装置の反応器9(管塔)内に充填し、キャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら、リボンヒーターを用いて反応器9内の平均温度を350℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液(20%エタノール溶液)を、反応器9に1.7ml/hrの供給量でキャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら連続的に供給して、350℃で脱水反応を行ない、目的物である、9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を受器11で捕集した。この反応は5時間行った。
(3) 受器11に捕集した、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に準じて、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表2に示す。
【0046】
《比較例4》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を800℃で3時間焼成し、この焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットを粉砕し(粉砕後の粒径0.4〜1.0mm)、その0.3gを図2に示す製造装置の反応器9(管塔)内に充填し、キャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら、リボンヒーターを用いて反応器9内の平均温度を400℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液(20%エタノール溶液)を、反応器9に1.7ml/hrの供給量でキャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら連続的に供給して、400℃で脱水反応を行ない、目的物である、9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を受器11で捕集した。この反応は5時間行った。
(3) 受器11に捕集した、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に準じて、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表2に示す。
【0047】
《比較例5》
(1) 実施例1で使用したのと同じ単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を1000℃で3時間焼成し、この焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットを粉砕し(粉砕後の粒径0.4〜1.0mm)、その0.3gを図2に示す製造装置の反応器9(管塔)内に充填し、キャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら、リボンヒーターを用いて反応器9内の平均温度を375℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,10−デカンジオール液(20%エタノール溶液)を、反応器9に1.7ml/hrの供給量でキャリアーガスとして窒素を30ml/hrで流しながら連続的に供給して、375℃で脱水反応を行ない、目的物である、9−デセン−1−オールを含有する反応生成物を受器11で捕集した。この反応は5時間行った。
(3) 受器11に捕集した、目的物である9−デセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に準じて、転化率、選択率、9−デセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表2に示す。
【0048】
なお、実施例1〜8および比較例1〜5で生成した反応生成物中には、9−デセン−1−オールの異性体として、cis−8−デセン−1−オール、trans−8−デセン−1−オールが含まれていた。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
上記の表1における実施例1〜8の結果にみるように、実施例1〜8では、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で1,10−デカンジオールを脱水反応させたことにより、目的とする9−デセン−1−オールを高収率および高純度で得られた。
それに対して、上記の表1における比較例1の結果にみるように、比較例1では、減圧下で1,10−デカンジオールの脱水反応を行なったが、触媒として立方晶酸化ジルコニウムを用いたことにより、目的物である9−デセン−1−オールの純度および収率が、実施例1〜8に比べて大幅に低い。
また、上記の表2における比較例2〜5の結果にみるように、比較例2〜5では、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として使用したが、脱水反応を減圧下で行なわずに常圧(1気圧)下で行なったことにより、目的物である9−デセン−1−オールの純度が実施例1〜8に比べて低く、しかも9−デセン−1−オールの収率が実施例1〜8に比べて大幅に低い。
【0052】
《実施例9》
(1) 単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を700℃で3時間焼成し、この焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの168.3gを図1に示す製造装置の反応器4(管塔)内に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を352℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,8−オクタンジオール液[1,8−オクタンジオールの沸点=172℃[2.67kPa(20mmHg)]、比重=1.053g/cm3]を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に13.0g/hrの供給量で連続的に供給して、352℃で脱水反応を行ない、目的物である7−オクテン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した、目的物である7−オクテン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、7−オクテン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表3に示す。
なお、この実施例9では、受器6に捕集した反応生成物中に、7−オクテン−1−オールの異性体として、cis−6−オクテン−1−オール、trans−6−オクテン−1−オールが含まれていた。
【0053】
《実施例10》
(1) 単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を700℃で3時間焼成し、この焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの168.3gを図1に示す製造装置の反応器4(管塔)内に充填し、真空ポンプで吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器4内の平均温度を355℃にして2時間前処理を行なった。
(2) 原料である1,12−ドデカンジオール液[1,12−ドデカンジオールの沸点=189℃[1.60kPa(12mmHg)]、比重=0.88(100℃、液体)]を、ヒーター2によって300℃に加熱した気化室3に13.0g/hrの供給量で連続的に供給して、355℃で脱水反応を行ない、目的物である11−ドデセン−1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は、5時間行なった。
(3) 受器6に捕集した目的物である11−ドデセン−1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に従って、転化率、選択率、11−ドデセン−1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表3に示す。
なお、この実施例10では、受器6に捕集した反応生成物中に、11−ドデセン−1−オールの異性体として、cis−10−ドデセン−1−オール、trans−10−ドデセン−1−オールが含まれていた。
【0054】
【表3】

【0055】
《参考例1》
(1) 単斜晶酸化ジルコニウムのペレット(第一希元素化学工業株式会社製「DSC−HP」、粒径:外径3.1mm、高さ3mm)を700℃で3時間焼成し、この焼成単斜晶酸化ジルコニウムペレットの168gを図1に示す製造装置の反応器4(管塔)内に充填し、真空ポンプ7で吸引して装置内圧力を1.33kPaに保った後、リボンヒーターを用いて反応器内の平均温度を260℃にして2時間前処理を行った。
(2) 原料である1,4−ブタンジオール液(1,4−ブタンジオールの沸点230℃、比重=1.010g/cm3)を、ヒーター2によって200℃に加熱した気化室3に14.9g/hrの供給量で連続的に供給して、260℃で脱水反応を行い、目的物である3−ブテンー1−オールを含有する反応生成物を反応器4から連続的に取り出し、コンデンサ5で冷却して液状にして受器6で捕集した。この反応は5時間行った。
(3) 受器6に捕集した、目的物である3−ブテンー1−オールを含有する反応生成物(未反応の原料を含む反応生成物)をガスクロマトグラフィー法により分析して、上記の数式(1)〜(4)に準じて、転化率、選択率、3−ブテンー1−オールの純度および収率を求めた。その結果を下記の表4に示す。
なお、この参考例1では、受器6に捕集した反応生成物中に、3−ブテンー1−オールの異性体として、トランスー2−ブテンー1−オールおよびシスー2−ブテンー1−オールが含まれており、それ以外にはテトラヒドロフランがほとんどであった。
【0056】
【表4】

【0057】
上記の表4の結果にみるように、炭素数が8よりも小さいα,ω−アルカンジオールを用いた参考例1では、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で脱水反応した場合には、目的物である3−ブテン−1−オールの純度および収率が、実施例1〜8に比べて大幅に低い
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明による場合は、1段の反応工程で、比較的低い温度で、炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールから、対応するω−アルケン−1−オールを、高純度および高収率で製造することができるので、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの製造方法として極めて有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 原料(炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオール)を供給するためのライン
2 ヒータ
3 気化室
4 触媒を充填した反応器
5 コンデンサー
6 反応生成物の受器
7 真空ポンプに連結したライン
8 原料(α,ω−アルカンジオール)を供給するためのライン
9 触媒を充填した反応器
10 コンデンサー
11 反応生成物の受器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、単斜晶酸化ジルコニウムを触媒として用いて、減圧下で脱水反応させることを特徴とする、炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールの製造方法。
【請求項2】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、気相で単斜晶酸化ジルコニウム触媒に接触させて脱水反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、0.1〜15kPaの圧力下で脱水反応させる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
単斜晶酸化ジルコニウムを反応器に充填し、反応器に充填した単斜晶酸化ジルコニウム1gに対して、気体状の炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールを、0.01〜0.5g/hrの量で反応器に連続的に供給して脱水反応させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
触媒充填層反応器を用いて炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールの脱水反応を行なう請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
単斜晶酸化ジルコニウムが、未焼成の単斜晶酸化ジルコニウムであるか、または400〜1000℃の温度で焼成した単斜晶酸化ジルコニウムである請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールが、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオールおよび1,12−ドデカンジオールから選ばれる直鎖状の炭素数8〜12のα,ω−アルカンジオールであり、脱水反応により生成するω−アルケン−1−オールが、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、9−デセン−1−オール、10−ウンデセン−1−オールおよび11−ドデセン−1−1−オールから選ばれる直鎖状の炭素数8〜12のω−アルケン−1−オールである請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63519(P2011−63519A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213029(P2009−213029)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】