説明

い草苗株挿培土、及びい草苗株挿方法

【課題】 い草苗の育苗は、育苗箱に充填した株挿培土に稚苗を株挿して行う。この株挿のための培土として通常水稲育苗用の土壌を用いると、株挿時の抵抗力が大きく、稚苗の根元部に損傷を受け易く、又、株挿直後の培土面には大きな株挿跡の穴が形成されたまま残されて、株挿後の苗支持が十分でなく、苗が倒れたり、苗株挿姿勢が乱れることが多い。
【解決手段】 粘土及びシルトを10〜50%含んだ土壌を乾燥後、粉砕して粒径2mm以下の精土を主体として、篩選別された粒径3mm以下のピートモス、ココナツピート、バーク堆肥、又は、粒径2mm以下のバーミキュライトを配合して株挿培土を生成することを特徴とするい草苗株挿培土とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、い草苗を育苗箱の培土面に株挿して育苗するための株挿培土、及び、この株挿方法に関するもので、株挿抵抗を小さくし、株挿時の苗損傷を少くして的確で、安定した姿勢の株挿を行わせるものである。
【背景技術】
【0002】
培土土壌面に代えて発泡ウレタンを素材とした育苗マットを育苗箱に収容させて、この育苗マットに形成の株挿穴部にい草苗を株挿し、覆土して育苗する技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開2005ー318848号公報(第1頁、図1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
い草苗の育苗は、育苗箱に充填した株挿培土に稚苗を株挿して行う。この株挿のための培土として通常水稲育苗用の土壌を用いると、株挿時の抵抗力が大きく、稚苗の根元部に損傷を受け易く、又、株挿直後の培土面には大きな株挿跡の穴が形成されたまま残されて、株挿後の苗支持が十分でなく、苗姿勢が倒れたり、乱れることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、粘土及びシルトを10〜50%含んだ土壌を乾燥後、粉砕して粒径2mm以下の精土を主体として、篩選別された粒径3mm以下のピートモス、ココナツピート、バーク堆肥、又は、粒径2mm以下のバーミキュライトを配合して株挿培土を生成することを特徴とするい草苗株挿培土とする。このような株挿培土は、保水性や、透水性、保肥性等が強く、粘土との結合によって流動性も良好であるため、株挿する場合の苗株部が受ける抵抗力は小さく、い草苗の株挿を円滑に行わせる。株挿時の培土面はこの培土の流動性によって株挿跡穴が直ちに埋戻されて、い草苗の株挿姿勢を乱れないように支持する。又、株挿後の育苗では肥料を徐々に長期間にわたって供給して、肥効性を高めることができる。
【0005】
請求項2に記載の発明では、前記株挿培土を充填した育苗箱を灌水、又は浸漬して、水切り後に株挿しすることを特徴とするい草苗株挿方法とする。前記株挿培土を育苗箱に充填した状態で灌水、又はこの育苗箱を水槽等に浸漬すると、株挿培土は水分を含んで流動性を増すが、水切りることによって粘性や、培土締まり等を増す。この水切りの後で株挿培土にい草苗を株挿すると、培土が適度に軟いため株挿の抵抗力が小さく、株挿穴を円滑、容易に形成することができる。株挿直後は、株挿によって形成された株挿跡穴が培土の流動性によって埋戻されて、株挿された苗株元部を支持する。このときの株挿跡穴の埋戻土壌は粘性、土締まり性を有するため、株挿した苗を支持して、支持姿勢を安定させる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明は、株挿培土の適度に軟い流動性、及び粘性によって取扱が容易であり、株挿時の培土抵抗を小さくして、い草苗を根元部の受ける損傷と少くすることができ、株挿直後には株挿跡に形成される苗根周りの株挿跡穴が速やかに埋戻されて、株挿苗の姿勢を乱さないように支持し安定させることができる。又、このような株挿培土の保持性によってい草苗の養分供給も良好に維持されて、健苗を育成することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、育苗箱に充填されて灌水された株挿培土は、この灌水直後に水切されることによって、適度の流動性と粘性を帯びるようになり、この状態で株挿を行うことにより、培土による株挿の抵抗を小さくすることができると共に、株挿直後に株挿苗の根元周りの株挿跡穴には、周りの培土が速やかに埋戻されて、株挿苗の株挿姿勢を支持して安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図例に基づいて、い草苗1は、圃場に移植する前に、育苗箱2の培土3に株挿を行って育苗し、この株挿による育苗の後に、育苗箱2から取出して分離した苗株を手植、又は機械植等で圃場に植付けるものである。
【0009】
ここにおいて、この発明に係るい草苗株挿培土3は、粘土及びシルトを10〜50%含んだ土壌を乾燥後、粉砕して粒径2mm以下の精土を主体として、篩選別された粒径3mm以下のピートモス、ココナツピート、バーク堆肥、又は、粒径2mm以下のバーミキュライトを配合して株挿培土3を生成することを特徴とするものである。このような株挿培土3は、保水性や透水性、保肥性等が強く、粘土との結合によって流動性、粘性も良好であるため、株挿する場合の抵抗力は小さく、い草苗1の株挿を円滑に行わせる。株挿時の培土3面は株挿跡穴8が直ちに埋戻されて、い草苗1の株挿姿勢を乱れないように支持する。又、株挿後の育苗では肥料を徐々に長期間にわたって供給して、肥効性を高めることができる。
【0010】
又、い草苗1の株挿方法は、前記株挿培土3を充填した育苗箱2を灌水、又は浸漬して、水切り後に株挿しすることを特徴とするものである。前記株挿培土3を育苗箱2に充填した状態で灌水、又はこの育苗箱2を水槽4等に浸漬すると、株挿培土3は水分を含んで流動性を増すが、水切りすることによって粘性や、培土の締まり等を増す。この水切りの後で株挿培土3にい草苗1を株挿すると、この培土3が軟いため株挿の抵抗力が小さく、株挿穴を円滑、容易に形成することができる。株挿直後は、株挿によって形成された株挿跡穴8が培土3の流動性によって埋戻されて、株挿された苗株元部7を支持する。このときの株挿跡穴8の埋戻培土部9は粘性、土壌締まり性を有するため、株挿したい草苗1を支持し、株挿姿勢を安定させる。
【0011】
このような培土3の組成材料や、容量比等の諸元は、次の通りである。即ち、
A: 粒径2mm以下の粘土とシルトを10〜50%含む精土。
B: 粒径3mm以下のピートモス
C: 粒径3mm以下のココナツピート
D: 粒径3mm以下のバーク堆肥
E: 粒径2mm以下のバーミキュライト
培土の容量比: A=50〜95%
B〜E=5〜50%
仮比量: 0.5〜1.0
PH: 5.0〜7.0
EC(電気伝導度): 0.2〜0.8 mS/an
水分: 10〜30%
NーPーK: 80〜150ー80〜1000ー80〜200mg/L
このうち精土Aは、自然の山土から株取されたもので、粘土とシルトを10〜50%含んだ山土を乾燥させた後、粉砕して粒径2mm以下の土壌を篩選別したものである。又、この精土A生成のために加熱サイロや、造粒機等を使用して加工することも可能である。又、このようにして生成した精土Aを主体として、この精土Aに配合するためのピートモスB、ココナツピートC、バーク堆肥D、又は、バーミキュライトEは、いづれか一種、又は二種以上を配合、乃至混合して培土3を生成する。ここにピートモスBは、水ごけ、スゲ、カヤ等の堆積物から成る。ココナツピートCは、ヤシがらを粉枠したものである。バーク堆肥Dは、針葉樹、広葉樹等の樹皮や、チップ等を堆肥化したものである。又、バーミキュライトEは、ひる石を焼成したものである。このような培土構成物質材料B〜Eとしての特性は、軽量であり、水分や肥料養分を保持する保水性、保肥性や、透水性等に優れている。又、バーク堆肥では微量要素養分を保持している。これらピートモスBや、ココナツピートC、及びバーク堆肥D等の粒径は略3mm以下のものを篩選別し、バーミキュライトEの粒径は2mm以下に篩選別する。そして、これらの混合した培土の各容量比は、精土Aが50〜95%であるのに対して、他のピートモスB、ココナツピートC、バーク堆肥D、又はバーミキュライトE等の容量比を5〜50%として設定する。
【0012】
このようにして生成された培土は、保水性、透水性、保肥等に優れ、育苗し易い状態となる。又、培土の軽量化、及び粒径を細粒化し、又膨軟化して、水に浸漬することによって、適度の流動性と粘性を有して、株挿の抵抗力を小さくして、株挿を容易にすると共に、株挿後の苗株元部7の支持力を増す。この株挿抵抗力をプッシュプルゲージを用いて測定する方法で計測して、従来のセル苗用育苗培土や、水稲苗用育苗培土等と比較した。
【0013】
この株挿用培土3の株挿抵抗値は、5〜60gfで、安定した株挿苗1の支持姿勢(直立状)を維持できる。又、これに対して、従来のセル苗用培土の抵抗値は、60〜120gfでやや固く、い草の茎部が折損することがある。又、水稲用培土の抵抗値は、150gf以下で、全く株挿しできない状態であった。この結果、この培土1を用いて株挿した場合は、培土としての適度の流動性、粘性、及び土締性を有して、株挿直後の株挿跡穴8の埋戻しが速かに行われて、直立状の株挿苗姿勢を直立状に保持し安定させる。このい草苗1の株挿を行うには、図1のように、底面部に通水穴15を有した平面視矩形状の育苗箱2を用いて、この育苗箱2内に前記乾燥状態の培土3を充填する。この培土詰めした育苗箱2を灌水、乃至水5を貯留した水槽4内に所定時間浸漬して、培土3部に水5を浸透させる。このとき、培土3は膨軟性を有して土壌孔隙や、土壌空気を多量有するが、この浸漬によって水5が培土3の孔隙部に浸透して、土壌空気が抜気6される。このように水槽4に浸漬した育苗箱2を取出して、所定時間経過すると、培土3中の水が抜かれて、培土3は適宜の流動性と、粘性、土締り性を有する。この育苗箱2の培土3面にい草の稚苗1を株挿して植付ける(図2)。このい草苗1の苗株元部7を培土3中に上側から垂直状に挿込んで株挿すると、軟い培土3に株挿跡穴8が形成される。この株挿跡穴8部は、株挿直後に周囲の培土3の流れ込みによって、埋戻培土部9として埋められて、株挿苗1の苗根部7を支持して、株挿姿勢を安定させる。
【0014】
前記育苗箱2を用いて培土3を詰めて、株挿するとき、この育苗箱2の上面と略同一面にまで一杯に培土詰める。その後に灌水を行うと培土面が2〜3mm沈下する。この状態で株挿しを行う。灌水によって培土面が沈下すると、培土3は水を含んだ状態で、適度の流動性と、粘性等を有して膨軟になる。この状態で株挿すると、株挿苗1の根元部7周りに形成された培土3面に生じる株挿跡穴8は直ちに埋戻されて、埋戻培土部9によって株元部7が支持される。このとき、埋戻培土部9が十分に行われて難いときは、育苗箱2の上面には2〜3mmの深さ間隔を生じているために、培土を追加して覆土することも可能である。この覆土によって株挿跡穴8部を埋めて、株挿苗1を安定に支持することができる。又、この覆土に代えて株挿直後に灌水すると、この灌水によって株挿苗1の根元周りに培土部9が埋戻され易くなり、株挿苗1の支持力を増すことができる。
【0015】
前記育苗箱2は、図3のように横側10に対して縦側11を長く形成した長方形に構成しているが、株挿苗1の株挿数は横側10に沿う方向に偶数株を等間隔に株挿する条数設定によって、本田に移植するときに用いられる移植機の設計を容易化している。又、い草苗1は、図4のように苗根部7の左右両側に新しい芽12を有することが多いが、この新芽12を育苗箱2の縦側11に沿う条方向に向けて株挿する。新芽は育苗に伴って縦方向へ伸び広がるため、移植時に新芽部分が切断されたり、分離されるような損傷を少くすることができ、欠株を防止できる。又、図5のように、株挿苗1は育苗に伴って分けつして茎数を増し、草丈H1も、生長して長くH2になるが、株挿時の葉先部T1であった部分が、育苗後は枯葉T2となることが多い。このため、この育苗されたい草苗1を、移植直前にこの枯葉T2の部位から切断Zして、葉先側部Tを除去する。これによって移植時の苗の絡み付きや、連れ出しを防止することができる。
【0016】
又、前記培土3は、長期間放置されて水分が蒸発しても収縮が少ない性質があり、これにより複数の苗株を広い育苗箱2に株挿ししても、床部の収縮により株挿しした苗が倒れて該苗の姿勢が悪化するようなことが抑えられ、苗を良好に成育することができる。いいかえると、広い育苗箱2でマット状に苗を株挿ししてい草のマット苗を容易に得ることができ、移植機による移植作業も容易になる。従来は、株挿しした苗の姿勢を安定させるために、一株ごとに分離された育苗ポットやマット状の床材の一株分の穴等に苗を一株づつ株挿しする構成であるので、育苗ポットやマット状の床材等の取扱いが煩しくまた育苗コストも高くなり、容易に株挿し作業が行えない課題がある。又、株挿しした苗は、育苗箱2内の培土3で育苗されるので、従来の発泡樹脂等のマット状の床材で育苗するのに比較して根張りが良く、良好に成育する。
【0017】
又、い草苗1を育苗箱2で株挿育苗して、マット状に育苗されたマット苗13として移植する場合に、マット苗13の底面に横方向に伸びる根毛14が抵抗となって移植の邪魔となり易いため、このマット苗13底面の根毛群を切断して、移植機へ供給する。前記図3の育苗箱2は、底面17に通水穴15や、横方向に沿うしぼ16等を形成して、培土2に対する、給排水や通気性を良好にし、根毛14群の伸び方向を整えるようにしている。このため、い草苗1もマット苗13の形態に育苗して、これを苗移植機に直接供給すると、根毛14の絡みや、切断抵抗が強いために苗根の切断分離が行われ難く、移植が円滑に行われないことが多い。そこで、図6のように前記のようにマット苗13の底面に刃物によって予め縦方向の根切り18を行う。この根切り18によって苗の植付分離性を良好に維持させる。
【0018】
次に、主として図7に基づいて、前記育苗箱2で株挿育苗されたマット苗13を、この育苗箱2から取出す場合に、苗取板19を用いて、育苗箱2底面17から掬取ることができるが、この苗取板19に前記根切り18を行うための切刃20を設けて、マット苗13の掬取りと同時に根切り18を行うようにするものである。苗取板19は、ハンドル21を有して、育苗箱2の底面17をしぼ16方向と直行する方向の縦方向に沿って差込んで、育苗状態のマット苗13を底面17から剥離させて掬取ることができる。切刃20はホーク形態に形成されて、基部にハンドル22を有する。苗取板19の底面にはスリット状の溝23が縦方向に形成されていて、この溝23内に沿って切刃20が嵌合されている。この切刃20は溝23から苗取板19面上に突出していて、苗取作用時には掬取られるマット苗13底面の横方向に伸びる根毛14権を切断することができる。この切刃20は、苗取板19に対してハンドル22操作で抜差して、着脱可能の構成としている。
【0019】
い草苗1の株挿によってマット苗13育苗を行うとき、この株挿密度を、移植機の苗植付分離数よりも大きく設定して、苗植欠株を少なくすることができる。
移植機にマット苗13を供給して、定位置で苗分離、植付作動する植付爪に対して、マット苗13を収容した苗タンクを横方向へ往復移動させると共に、この横移動の横端においてマット苗を縦送りしながら苗の植付分離を行わせる形態にあって、例えば、マット苗13が横方向に12株(条数)で、縦方向に40株(列数)の間隔で株挿育苗されている場合は、このマット苗13を供給して移植する移植機は、前記苗タンクでのマット苗13の各間歇的縦送り毎の送り量を大きくして、縦送りを40回以下の回数で行わせる。
【0020】
又、主として図8に基づいて、い草苗1の株挿間隔を、育苗箱2の横側10に沿う横方向ピッチXに対して、縦側11に沿う縦方向ピッチYを同じか、乃至は小さく設定するものである。これによって、苗移植時の欠株を防止することができ、又、マット苗13縦方向の苗取量の調節を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】培土の育苗箱詰状態を示す一部の側断面図。
【図2】その株挿状態を示す一部の側断面図。
【図3】育苗箱の斜視図。
【図4】その株挿状態を示すい草苗部の斜視図。
【図5】そのい草苗の育成状態を示す側面図。
【図6】い草苗育苗されたマット苗を示す斜視図。
【図7】苗取板の斜視図と、その正断面図。
【図8】株挿状態を示す育苗箱の斜視図。
【符号の説明】
【0022】
1 い草苗
2 育苗箱
3 培土
4 水槽
5 水
6 抜気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土及びシルトを10〜50%含んだ土壌を乾燥後、粉砕して粒径2mm以下の精土を主体として、篩選別された粒径3mm以下のピートモス、ココナツピート、バーク堆肥、又は、粒径2mm以下のバーミキュライトを配合して株挿培土を生成することを特徴とするい草苗株挿培土。
【請求項2】
前記株挿培土を充填した育苗箱を灌水、又は浸漬して、水切り後に株挿しすることを特徴とするい草苗株挿方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−202424(P2007−202424A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22127(P2006−22127)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】