説明

うねり及び反りの少ない多孔質炭素電極基材の連続製造方法

【課題】製造効率を低下させることなく、シワや凹凸(うねりや反り)の発生が効果的に抑制され、しかも巻き上がりの形態も安定する多孔質炭素電極基材の連続製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維と樹脂からなるロール状シート材であるシートロール3を巻き戻して炭化熱処理炉1,2内に連続供給し、炭化熱処理炉内に連続して導入された前記シート材をガイド部材を介することなく走行させて炭化処理を行い、炭化熱処理炉1,2内にて炭化処理されるシート状の多孔質炭素電極基材を巻取り部7にて連続して巻き取る。前記炭化熱処理炉内1,2を走行するシート状の多孔質炭素電極基材の張力を、張力制御手段により1〜25N/mに維持制御すると同時に、前記炭化熱処理炉から導出する前記シート状の多孔質炭素電極基材の幅方向に向かう偏り動作を偏り修正手段であるシート端縁位置修正装置5により自動的に修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長さ方向の反りや幅方向のうねりが少ない多孔質炭素電極基材の連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維と樹脂炭化物とが結合した多孔質炭素電極基材は、脆性が高く、弾性率が高いため、欠けや割れが生じやすく、従来の電極基材である多孔質炭素繊維シート状物の製造工程では、連続して巻き取ることができず、焼成工程はバッチ方式が主流であり、製造される多孔質炭素電極基材は肉厚も厚く、材料コストの低減はもとより、多孔質炭素電極基材の薄型化の要望に応えることができなかった。
【0003】
これらの要望に応えるべく、本件発明者等は先に紙管などの芯材に巻き取ることが可能な薄型の多孔質炭素繊維シートを連続して製造する方法を開発した。例えば、特開2006−40885号公報(特許文献1)によれば、繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維とビニロン繊維とからなる、炭素繊維目付16〜40g/m2の炭素繊維紙に樹脂を含浸したのち、焼成炉内にて炭素化し、或いは繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維とビニロン繊維とからなる、炭素繊維目付8〜20g/m2の炭素繊維紙に樹脂を含浸し、2枚貼り合わせた後、焼成炉内にて炭素化する。こうして得られる多孔質炭素繊維シートは、実質的に二次元平面内においてランダムな方向に分散した繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維同士が、不定形の樹脂炭化物で結着され、さらに前記炭素短繊維同士がフィラメント状の樹脂炭化物により架橋された、厚さが150μm以下であって、例えば3インチ以下の直径の紙管に巻き取ることが可能である。
【0004】
しかるに、このように連続して製造される薄手の多孔質炭素繊維シートは、焼成炉内においてシワや凹凸が発生し、これを固体高分子型燃料電池の電極基材として用いると、撥水処理等の後加工を均一に行うことができない。後加工が均一でない部位では、電極反応のバランスがくずれるため、電池特性に大きく影響を与えてしまう。
【0005】
そこで、従来も多孔質炭素繊維シートを連続的に製造するにあたり、炉内において前述のようなシワや凹凸の発生を抑制する方法が提案されている。その一つに、例えば特開2007−2394号公報(特許文献2)により開示された、炭素繊維シートの連続製造方法がある。この特許文献2によれば、炭素繊維と有機物、または炭素繊維前駆体繊維と有機物、または炭素繊維前駆体繊維のいずれかからなる炭素繊維シート前駆体を、400〜2700℃の熱処理炉内で、該炉内に設けられた屈曲部材に接触させて長手方向に屈曲させながら走行させるものである。被処理シートを屈曲部材に接触させて長手方向に屈曲させることで幅方向に曲がりにくくすることができ、シワや凹凸を起こしにくくすることができるとしている。更に、かかる方法により炭素繊維シートに高い張力をかけることもでき、低張力による凹凸も防止することができるため、炭素繊維シートにかかる張力を3〜100N/mという極めて広い張力範囲にて炭化処理が可能であるとしている。
【0006】
しかるに、この特許文献2により提案された炭素繊維シートの連続製造方法にあっては、400〜2700℃の高温下にある狭い熱処理炉の内部を走行する炭素繊維シートに接触して屈曲させる屈曲部材を配するため、その屈曲部材の材質が一般資材を越える耐熱性と耐磨耗性に優れた特殊な材料を選定する必要があり、更にはその屈曲部材の設置空間の確保とその設置構造の複雑化が避けられない。その上に、最もシワや凹凸が生じやすい炭素繊維シートの炭化工程にあって、炭素繊維シートは屈曲部材により屈曲しながら屈曲部材上を摺接するため、仮に摩擦が小さい場合でも、繰り返される屈曲により炭素繊維シートに欠けや割れが発生しやくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−40885号公報
【特許文献2】特開2007−2394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであって、その具体的な目的は、炭素繊維シートの炭化工程において、特にその炭素化炉内にあって他の部材との接触を避け、同時に製造効率を低下させることなく、シワや凹凸(うねりや反り)の発生が効果的に抑制され、しかも巻き上がりの形態も安定する多孔質炭素電極基材の連続製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上述の炭素繊維シートの炭化工程において、特に炭化熱処理炉内に上記特許文献2のように屈曲部材などを配設しない場合に、如何なる要因によって多孔質炭素シート(電極基材)にうねりや反りが発生するのかを、改めて探究した。その結果、炭素繊維シートを同炭化熱処理炉内の入口と出口間にガイド部材や屈曲部材などを介装させずに炭化熱処理炉内を直接走行させても、所定の条件下においては意外にもうねりや反りを発生させることがないことを知った。その条件とは、炭化熱処理炉内における炭素繊維シートの張力を通常処理時の張力よりも低い所定の張力範囲にて走行させることにより、ガイド部材などを介装しないでも前述のうねりや反りの発生を防止することが確認された。しかも、所定の張力範囲を越えるとうねりや反りが発生すると同時に、炭素繊維シートが幅方向に蛇行するようになり、また所定の張力範囲を含む低張力のときは炭素繊維シートが幅方向の一方へと偏るようにずれやすいことが判明した。
【0010】
このように一方向へと偏る動作を続けると、巻取り部において炭素繊維シートが一方向にずれを生じ、巻き取ったロール状の炭素繊維シート巻体の側端面が、一方は凸状に他方は凹状を呈するようになり、巻き取ったあとでこの凹凸形状を矯正しようとすると、その耳端に多くの欠けや割れが発生して、多孔質炭素電極基材としての機能を失い、大量のロスが発生することになる。また、このように一方向へと偏る動作が続くと、炭化熱処理炉内の走行路の空間を形成する側壁部に炭素繊維シートの幅方向端縁が接触するようになり、多大なロスの発生につながりかねない。
【0011】
ここで、本発明におけるうねり及び反りは、次の定義による。
炭化熱処理炉により炭化処理がなされた炭素繊維シートを切断して得られる、処理方向の長さ800mm、シート幅方向の長さ300mmの矩形状の多孔質炭素電極基材片において、その幅方向における凹凸形状をうねりと云い、処理方向における凹凸形状を反りと云う。
【0012】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであり、その基本構成は、炭素繊維と樹脂からなるペーパーを炭化処理するシート状の多孔質炭素電極基材の連続製造方法にあって、炭素繊維と樹脂からなるロール状シート材を巻き戻して炭化熱処理炉内に連続供給することと、炭化熱処理炉内に連続して導入された前記シート状の多孔質炭素電極基材をガイド部材を介することなく走行させて炭化処理を行うことと、炭化熱処理炉内にて炭化処理されるシート状の多孔質炭素電極基材を巻取り部にて連続して巻き取ることと、前記炭化熱処理炉内を走行するシート状の多孔質炭素電極基材の張力を、張力制御手段により1〜25N/mに維持制御することと、前記炭化熱処理炉から導出する前記シート状の多孔質炭素電極基材の幅方向に向かう偏り動作を修正する偏り修正手段により自動的に修正することとを含んでなる、うねり及び反りの少ない多孔質炭素電極基材の連続製造方法にある。
【0013】
本発明にあって、シート状の前記多孔質炭素電極基材の幅寸法を300mm、巻取り方向の長さを800mmを基準とするとき、その幅方向のうねりの高さの最大が1.5mm未満であり、その反り高さの最大が3.0mmであることが望ましい。また好ましくは、本発明におけるシート状の多孔質炭素電極基材材料の前記張力制御手段は、前記ロール状シート材の巻戻し部及び/又は巻取り部における巻戻し径及び/又は巻取り径を検出する検出部と、同検出手段による検出信号を受けて巻戻し速度及び/又は巻取り速度を制御する制御信号を出力する速度制御部とを有することを含んでいるとよい。一方、上記偏り修正手段は炭化熱処理炉のシート材導入部及び/又は導出部に配することが好ましく、この偏り修正手段を前記ロール状シート材の巻戻し部及び/又は巻取り部に配することを更に含んでいるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明にあっては、炭化熱処理炉内を走行するシート状の多孔質炭素電極基材の張力を、張力制御手段によって1〜25N/mに維持制御することにより、炭化熱処理炉内にシート材のうねりや反りの発生を防止するための手段を殊更に設けなくても、炭化熱処理炉内を走行させるだけで、多孔質炭素電極基材として無用なうねりや反りの発生を大幅に減少できる。このときの張力制御はロール状シート材の巻戻し部及び/又は巻取り部における巻戻し径及び/又は巻取り径を検出部にて検出し、その検出信号に応じて速度制御部にて制御信号を発し、ロール状シート材の巻戻し速度及び/又は巻取り速度を制御することにより、炭化熱処理炉内を走行するシート材の張力を適正に制御できる。一方、シート材の幅方向に向かう偏り動作は、例えばシート状の多孔質炭素電極基材の端縁の変移量を検出部にて検出し、その信号を偏り制御部へと送って、同偏り制御部にて巻取り部の移動量を演算して、その移動量に見合った量だけ巻取り部を巻軸に平行に偏り方向とは逆方向へと移動させる。この駆動制御は、通常の蛇行修正とは異なり、その大半が一方向の駆動制御で足りる。
【0015】
炭化処理を終えたシート状の多孔質炭素電極基材を、シート走行方向の長手方向に800mm、シート幅方向に300mm切り出したときの長手方向に生じる反り高さの最大が3.0mmであり、シート幅方向のうねり高さの最大は1.5mmとなり、極めて平坦性に優れた良質の固形燃料電池の電極基材が得られる。その結果、固形燃料電池のセルの製作にあたり、電極基材として用いるときも、シートの反りによる高分子電解質膜との剥離が確実に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のシート状の多孔質炭素電極基材の連続製造方法を実施するための炭素化処理装置の一実施形態を平面で示す概略説明図である。
【図2】同実施形態にあって炭化熱処理炉内を側方から透視して示す概略説明図である。
【図3】本発明により得られる多孔質炭素繊維シートから切り出した試験片を示す平面図である。
【図4】同試験片の長手方向に発生する反り高さの例を示す図3におけるIV-IV線の矢視図である。
【図5】同試験片の幅方向に発生するうねり高さの例を示す図3におけるV-V線の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照しながら具体的に説明する。
図1及び図2は本発明に係る多孔質炭素繊維シートの連続製造方法を実施するための装置を概略で示している。
これらの図において、多孔質炭素繊維シートは図面左から右方向へと連続走行する。
【0018】
同図中、符号1は前熱処理炉、符号2は連続焼成炉を示しており、炭化可能な熱硬化樹脂を含浸して加熱加圧処理により加圧平滑化され巻き芯に巻き取られたペーパー状の炭素繊維シートロール3から送り出される炭素繊維シートは、先ず前熱処理炉1を通って前熱処理がなされたのち、続いて連続焼成炉2に導入されて同連続焼成炉2内を走行する間に炭化が完了する。
本実施形態にあっては、上記特許文献1に記載された連続製造方法に倣って多孔質炭素繊維シートを製造している。すなわち、炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維と平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を70:30(質量比)で混合した炭素短繊維を用いた。バインダー繊維として、1.1dtex、カット長5mmのビニロン短繊維(ユニチカ株式会社製ユニチカビニロンF)と、ポリビニルアルコール(PVA)の短繊維(クラレ株式会社製VBP105−1カット長3mm)を用意した。
【0019】
先ず、炭素短繊維を湿式短網連続抄紙装置のスラリータンクで水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところにPVA短繊維及びビニロン短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ18質量部、32質量部となるように均一に分散し、これを通常の長網抄紙法を使って目付け20g/m2、長さ100mの炭素繊維紙を得た。
【0020】
次に、フェノール樹脂(大日本インキ化学株式会社製フェノライトJ−325)を40質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液が付着したローラーに炭素繊維紙を均一に片面ずつ接触させた後、連続的に熱風を吹きかけ乾燥して、32g/m2の樹脂付着炭素繊維紙を得た。この樹脂付着炭素繊維紙を長網に接していた面が外側を向くように2枚貼り合せた後、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱プレス装置(ダブルベルトプレス装置:DBP)を用いて連続的に加熱し、表面が平滑化されたシート厚み0.11mm、幅300mm、長さ100mの表面平滑化シートを得た。なお、このときシートがベルトに貼り付かないように2枚の離型紙の間に挟んで通した。
【0021】
その後、得られた表面平滑化シートを、窒素ガス雰囲気とした、500℃の連続前熱処理炉中で5分間加熱して前熱処理を行い、フェノール樹脂の硬化及び前炭素化を行った。引き続き、得られた樹脂硬化シートを窒素ガス雰囲気中、2000℃の連続焼成炉において5分間加熱し、炭素化して、長さ100mの多孔質炭素繊維電極基材シートを連続的に得て、外径3インチの円筒型紙管に巻き取った。この多孔質炭素繊維電極基材シートは薄膜化されているが、平滑で取り扱いやすく、曲げ強度及びガス透過性に優れた電極基材となる。
【0022】
本実施形態にあっては、図1及び図2に示すように、ロール状シート材であり、樹脂含浸炭素繊維シートのシートロール3から表面平滑化された上記樹脂含浸炭素繊維シートを巻戻し部4において巻き戻しながら前熱処理炉1に導入して、窒素ガス雰囲気で500℃の連続前熱処理炉中で5分間加熱して炭素化が可能な熱硬化樹脂を硬化させると同時に前炭素化を行い、前熱処理炉1を通過したシート状の多孔質炭素繊維電極基材(以下、多孔質炭素繊維電極基材シートという。)6は、引き続いて窒素ガス雰囲気中、2000℃の連続焼成炉2に導入されて熱硬化樹脂ともども完全に炭化されたのち、同連続焼成炉2からの導出路上に配されたシート端縁位置修正装置5により、連続焼成炉2から導出される多孔質炭素繊維電極基材シート6の幅方向へと偏る動作を監視して、その多孔質炭素繊維電極基材シート6の端縁位置を元に戻すよう修正しながら巻取り部7においてロール上に巻き取る。本実施形態における前記シート端縁位置修正装置5が、本発明における特徴的構成の一つである偏り修正手段を構成する。
【0023】
更に本発明にあっては、前記偏り修正手段に加えて、前熱処理炉1及び連続焼成炉2の内部にガイド部材を配置しないで、炉内を走行する多孔質炭素繊維電極基材シート6の張力を一定に維持することも特徴的構成の一部であるため、巻戻し部4及び/又は巻取り部7の巻戻し速度及び/又は巻取り速度を制御している。このときの速度制御は、巻戻し部4及び/又は巻取り部7におけるシートロール径の変化を検出して、その検出信号に基づき速度制御部から制御信号が巻戻し部4及び/又は巻取り部7の駆動部に送られ、その巻戻し速度及び/又は巻取り速度を制御する。本実施形態にあっては、巻戻し部4及び/又は巻取り部7におけるシートロール径の変化を各シートロール上のシート速度をロータリエンコーダ4a,7aなどの検出器により検出し、その検出信号を受けて速度制御部8の図示せぬ演算部において所定の演算式に基づき巻戻し速度及び/又は巻取り速度を演算し、制御信号を巻戻し部4及び/又は巻取り部7の駆動部に送り、巻戻し速度及び/又は巻取り速度を駆動制御する。
【0024】
更に本発明にあっては、前記張力を一定に保持するだけでなく、その張力の大きさを所定の範囲に制御することを特徴としている。すなわち、本発明にあって、前記張力の範囲は1〜25N/mである必要がある。1N/m以上の張力であると、炉内に炭素繊維シートのガイド部材などがなく、炉内を走行する炭素繊維シートが自重で垂れ下がり、床面などに接触してシート表面に損傷を受けることを回避できる。また25N/m以下であると、張力が強すぎて、走行中に炭素繊維シートのシート幅が所定の幅よりも狭くなることもなく、幅方向に多数のうねりが生じることもない。
シート張力が該範囲を超えて大きくなればなるほど巻取り部7の近傍で蛇行が発生し、巻き上がりシートが幅方向にずれて、シートロールの端面が一平面上に整わず、その後の包装作業や搬送時にシート端縁が欠けたり割れたりして製品ロスが目立つようになり、連続生産の利点が著しく損なわれる。
【0025】
ここで、炉内を走行する炭素繊維シートの張力が1〜25N/mにあるとき、特にその張力が小さくなるにつれて、炭素繊維シートがシート幅方向の一方へと偏った移動をする頻度が増加する。この一方向への移動が累積すると、炭素繊維シートの片方の端縁が前熱処理路1及び連続焼成炉2の幅方向側壁面に接触するようになり、その接触端縁に欠けや割れを生じさせ、製品価値を大きく損なうことになる。そこで、本発明では、上述のように焼成を終了して連続焼成炉2の導出口の近傍に公知のシート端縁位置検出器9を設けるとともに、その下流側に上記シート端縁位置修正装置5を設けている。図示例によれば、このシート端縁位置修正装置5は、駆動ロールにより駆動される無端ベルト5aと図示せぬベルト支持装置とを備え、このベルト支持装置を前記駆動ロールの軸線方向に移動させる図示せぬシート幅方向移動装置と、前記シート端縁位置検出器9からの検出信号を受けて前記シート幅方向移動装置にシートの変位とは逆方向に所定の量だけ戻す制御信号を送る偏り動作制御部5bとを備えている。
【0026】
本実施形態にあっては、前述のような炭素繊維シートの偏り移動を極力回避するため、図1及び2に示すように、前熱処理炉1と連続焼成炉2との間を走行する炭素繊維シートの幅方向両端縁に接触して自由回転する軸線を垂直にした複数の案内ロール10を互いに近接して配設している。なお、図1及び図2における符号11は前記シート端縁位置修正装置5と巻取り部7との間に配されたニップロールを、符号12及び13はニップロール11と巻取り部7との間に配されたガイドロールを示している。
【0027】
以上の構成にあって、前工程にて表面が平滑化された樹脂含浸炭素繊維シートは巻芯に巻かれたシートロール3として巻戻し部4に設置され、複数のガイドロールを介して前熱処理炉1に導入される。前熱処理炉1の内部は窒素ガス雰囲気とされ、樹脂含浸炭素繊維シートの処理温度は既述した温度に限定されず、400〜800℃の高温下におかれ、樹脂含浸炭素繊維シートが前熱処理炉1の内部を走行する間に樹脂が硬化されると同時に前炭素化がなされる。前熱処理炉1で前熱処理がなされて前炭素化された炭素繊維シートは、同炭素繊維シートの左右側縁を挟むようにして前熱処理炉1と連続焼成炉2との間に配された複数のガイドロールの間を走行して、連続焼成炉2に導入され、連続焼成炉2にて完全な炭素化がなされたのち、シート端縁位置修正装置5を通って一方向の偏りが修正され、ニップロール11、ガイドロール12,13を介して巻取り部7にて巻芯に巻き取られる。前記連続焼成炉2の内部も窒素ガス雰囲気とされ、焼成温度は1000〜3000℃に設定されている。
【0028】
図示実施形態にあっては、上記速度制御を巻戻し部4及び巻取り部7で行うようにしている。すなわち、巻戻し部4においては樹脂含浸炭素繊維シートの巻径が熱処理量が進むにつれて徐々に減少するため、同一の巻戻し速度で駆動すると、その巻戻し速度は徐々に減速することになる。一方の巻取り部7においては、多孔質炭素繊維電極基材シート6の製造量が増えるに従って、巻取り部7の巻径が徐々に増加して、巻取りの駆動速度が一定であれば、その巻取り速度は徐々に増えることなる。本発明にあっては、この巻戻し部4と巻取り部7との巻戻し速度と巻取り速度との間のバランスをとることにより、前熱処理炉1及び連続焼成炉2の内部を連続走行する炭素繊維シートの張力を1〜25N/mという通常と比較して低張力な範囲内において、既述したような一定の張力を保持するように張力制御が行われる。
【0029】
このような低張力の下では、前熱処理炉1及び連続焼成炉2の内部を連続走行する炭素繊維シートに上記特許文献2などに記載されているような格別のシート形状保持部材等を配置しなくても、走行方向の波打ちによる反りが発生せず、同時にシート幅方向における波打ちによるうねりも発生してない。しかしながら、前記低張力の範囲内において、その張力が低くなればなるほど、走行する炭素繊維シートが幅方向の一方へと偏るような動きが起きやすい。そこで、本発明にあっては、上述のシート端縁位置修正装置5をもって前述の偏り動作を修正している。
【0030】
こうして製造される多孔質炭素繊維電極基材シート6は、以降の工程にて、例えば縦横200mmに切断され、燃料電池の電極基材とされる。このとき、電極基材に上述のようなうねりや反りがあると、特許文献2に記載されているとおり、うねり高さや反り高さが高いと、燃料電池電極基材として用いる場合、後加工(含浸や塗布)を均一に行うことができず、また、シートのうねりや反りによる高分子電解質膜との剥離を発生しやすくする。こうした不具合を回避するには、うねり高さの最大を1.5mm、反り高さの最大が3.0mmとすることが肝要である。
【0031】
炉内の張力を11N/m、21N/m(実施例1、2)及び36N/m(比較例)に設定して、上述の実施形態に倣って製造された長尺の多孔質炭素繊維電極基材シート6から、図3に示すように、熱処理方向の長さが800mm、シート幅方向長さが300mmの矩形に切り出して、それぞれ1枚の試験片を作成した。これらの試験片を、図4に示すように、熱処理方向の長さに沿った、図3のIV-IV線の矢視断面における反り高さh1の各最大値を定規を使って測定した。また、同じ試験片について、シート幅方向の沿った、図3のV-V線の矢視断面におけるうねり高さh2の各最大値を同じく定規を使って測定し、その各測定値の平均を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から理解できるように、実施例1及び2におけるうねり高さh2の最大値は、それぞれ0.5mm、1.2mmであり、反り高さh1の最大値は、それぞれ0.8mm、2.4mmであって、燃料電池の製作に支障を来すことがない。一方、比較例にあっては、うねり高さh2の最大値は1.7mmであり、反り高さh1の最大値は3.5mmであって、燃料電池電極基材として用いる場合、後加工において含浸や塗布が均一にできなかった。
【0034】
以上述べたとおり、本発明による多孔質炭素繊維電極基材シートの製造方法は、所定の張力下において、炭化熱処理炉内に格別のガイド部材を配置することなく、炉外において単にシート幅方向の偏り移動を修正するだけの操作にて、樹脂含浸炭素繊維シートの炭化熱処理加工を連続して行っても、うねりや反りの発生が少なく、巻き上がりが安定した高品質の電極基材用シートが得られる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されないことは、以上の説明からも理解できるところであろう。
【符号の説明】
【0035】
1 前熱処理炉
2 連続焼成炉
3 (樹脂含浸炭素繊維シートの)シートロール
4 巻戻し部
4a ロータリエンコーダ
5 シート端縁位置修正装置
5a 無端ベルト
5b 偏り動作制御部
6 多孔質炭素繊維電極基材シート
7 巻取り部
7a ロータリエンコーダ
8 速度制御部
9 シート端縁位置検出器
10 案内ロール
11 ニップロール
12,13 ガイドロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と樹脂からなるペーパーを炭化処理するシート状の多孔質炭素電極基材の連続製造方法にあって、
炭素繊維と樹脂からなるロール状シート材を巻き戻して炭化熱処理炉内に連続供給することと、
炭化熱処理炉内に連続して導入された前記シート材をガイド部材を介することなく走行させて炭化処理を行うことと、
炭化熱処理炉内にて炭化処理されるシート状の多孔質炭素電極基材を巻取り部にて連続して巻き取ることと、
前記炭化熱処理炉内を走行する状の多孔質炭素電極基材の張力を、張力制御手段により1〜25N/mに維持制御することと、
前記炭化熱処理炉から導出する前記シート状の多孔質炭素電極基材の幅方向に向かう偏り動作を修正する偏り修正手段により自動的に修正すること、
とを含んでなる、うねり及び反りの少ない多孔質炭素電極基材の連続製造方法。
【請求項2】
シート状の前記多孔質炭素電極基材の幅寸法を300mm、巻取り方向の長さを800mmを基準として、その幅方向のうねりの高さの最大が1.5mmであり、その反り高さの最大が3.0mmである、請求項1記載の多孔質炭素電極基材の連続製造方法。
【請求項3】
シート状の多孔質炭素電極基材の前記張力制御手段が前記ロール状シート材の巻戻し部及び/又は巻取り部における巻戻し径及び/又は巻取り径を検出する検出部と、同検出手段による検出信号を受けて巻戻し速度及び/又は巻取り速度を制御する制御信号を出力する速度制御部とを有すること、を含んでなる請求項1又は2に記載の多孔質炭素電極基材の連続製造方法。
【請求項4】
前記偏り修正手段を炭化熱処理炉のシート材導入部及び/又はシート材導出部に配することを含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の連続製造方法。
【請求項5】
前記偏り修正手段を前記ロール状シート材の巻戻し部及び/又は巻取り部に配することを更に含んでなる、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−6824(P2011−6824A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153961(P2009−153961)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】