説明

がん治療用およびがん診断用の組成物および方法

本発明は、TPTE遺伝子のタンパク質産物が生産されないように、またはその生産量が低下するように、TPTE遺伝子由来のmRNAを特異的にターゲットとし、そのRNAi誘導分解を引き起こすsiRNA分子に関する。本発明のsiRNA化合物および組成物は、その処置にTPTE発現の阻害が要求される疾患、特にがん病変を処置するのに役立つ。本発明は、がん疾患の転移挙動および/またはがんの再発の発生を評価しかつ/または予後判定することを可能にする方法も包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
学際的なアプローチおよび古典的治療手法の網羅的使用にもかかわらず、がんは、いまなお死亡の主原因である。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞はその起源である非悪性細胞とは生物学的にかなり異なる。これらの相違は腫瘍発生中に獲得される遺伝子変化によるものであり、その結果、がん細胞では、とりわけ、定性的または定量的に変化した分子構造の形成も起こる。この種の腫瘍関連構造は、特に、悪性形質転換の過程でその発現が誘導または強化される遺伝子産物である。
【0003】
RNA干渉(以下「RNAi」)は、ほとんどの真核生物に保存されている転写後遺伝子調節方法である。RNAiは、細胞内に存在する短い(すなわち<30ヌクレオチドの)二本鎖RNA(「dsRNA」)分子によって誘導される(Fire Aら(1998),Nature 391:806−811)。「低分子干渉RNA」または「siRNA」と呼ばれるこれらの短いdsRNA分子は、siRNAと1ヌクレオチド分解能での配列ホモロジーを共有するメッセンジャーRNA(「mRNA」)の分解を引き起こす(Elbashir SMら(2001),Genes Dev,15:188−200)。siRNAおよびターゲットmRNAは、ターゲットmRNAを切断する「RNA誘導サイレンシング複合体」、すなわち「RISC」に結合する。siRNAは多代謝回転酵素のように再利用されるらしく、1分子のsiRNAはmRNA約1000分子の切断を誘導する能力を持つ。したがって、siRNAを介したmRNAのRNAi分解は、現在利用することができる技術よりも効果的にターゲット遺伝子の発現を阻害することができる。
【0004】
Elbashir SMら(2001)は、短い3'−オーバーハングを持つ21および22ヌクレオチド長の合成siRNAが、ショウジョウバエ(Drosophila)細胞溶解物において、ターゲットmRNAのRNAiを誘導できるということを示した。培養哺乳動物細胞も合成siRNAによるRNAi分解を示し(Elbashir SMら(2001),Nature,411:494−498)、生きているマウスでも、合成siRNAによってRNAi分解が誘導されることが示されている(McCaffrey APら(2002),Nature,418:38−39;Xia Hら(2002),Nat.Biotech.20:1006−1010)。siRNA誘導RNAi分解の治療面での可能性は、siRNAを介した(siRNA−directed)HIV−1感染の阻害(Novina CDら(2002),Nat.Med.8:681−686)および神経毒性ポリグルタミン病タンパク質発現の減少(Xia Hら(2002),前掲)など、最近行われたいくつかのインビトロでの研究で実証されている。
【0005】
RNA干渉は、細胞中に二本鎖RNAを導入することまたは、ヘアピン構造型siRNA発現カセットを、U6、H1またはサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーターなどの適切なプロモーターの制御下に保持するプラスミドを細胞にトランスフェクトすることによって、効果を発揮させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がん(特にがん転移)を治療、予防および診断するための組成物および方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は本願請求項の主題によって達成される。
【0008】
本明細書に記載する研究は、がん関連DNAの低メチル化による悪性形質転換の過程で、TPTE転写が開始されることを証明する。さらにまた、本明細書に記載する研究は、TPTEががんの進行およびがん細胞の転移拡散を促進することを示す。特にTPTEは、効率のよい走化性、がんの浸潤および転移を含むがん進行の複数の局面に関与して、腫瘍細胞のホーミングおよび転移先に影響を及ぼす過程には不可欠である。本明細書に記載する発見は、TPTE発現腫瘍の予後分類および処置に関して、臨床的意味を持つ。初期(primary)腫瘍におけるTPTE発現は有意に高い転移性疾患率と関連づけられるので、TPTEは予後マーカーとすることができる。siRNAを使って、TPTEの発現をベースラインレベルの15%未満に阻害することができた。
【0009】
第1の態様において、本発明は、TPTE遺伝子のタンパク質産物が生産されないように、またはその生産量が低下するように、TPTE遺伝子由来のmRNAを特異的にターゲットとし、そのRNAi誘導分解を引き起こすsiRNA分子に関する。本発明のsiRNA化合物および組成物は、疾病、特に、がんの転移などのがん病理の処置および/または予防にTPTE発現の阻害が必要とする疾患を処置および/または予防するために役立つ。
【0010】
本発明のsiRNAは、ターゲットmRNAにターゲティングされる約17ヌクレオチドから約29ヌクレオチド長、好ましくは約19から約25ヌクレオチド長の短鎖二本鎖RNAを含む。siRNAは、標準ワトソン−クリック型塩基対相互作用によって一つにアニールした(以下「塩基対を形成した」という)センスRNA鎖および相補的アンチセンスRNA鎖を含む。
【0011】
具体的に、本発明は、センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖を含み、そのセンスおよびアンチセンスRNA鎖がRNA二重鎖を形成し、センスRNA鎖がTPTE mRNA中の約19から約25連続ヌクレオチドのターゲット配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を含むsiRNAに関する。好ましくは、本発明のsiRNAは単離される。
【0012】
1つの実施形態において、前記TPTE mRNAは、(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸配列とハイブリダイズする核酸配列、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸配列、(d)(a)、(b)または(c)の核酸配列に相補的な核酸配列、および(e)配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列、その一部または誘導体、からなる群より選択される核酸配列を含む。
【0013】
1つの実施形態において、本発明のsiRNA分子は、二つの核酸フラグメントから構築され、第1のフラグメントは該siRNA分子のセンス領域を含み、第2のフラグメントは該siRNA分子のアンチセンス領域を含む。本発明のsiRNA分子のさらにもう1つの実施形態では、RNA二重鎖を形成するセンスおよびアンチセンスRNA鎖が、一本鎖ヘアピンによって共有結合している。
【0014】
本発明のsiRNAは、好ましくは、非ヌクレオチド物質をさらに含む。本発明のsiRNAのさらにもう1つの実施形態では、センスおよびアンチセンスRNA鎖がヌクレアーゼ分解に対して安定化している。
【0015】
好ましくは、本発明のsiRNAは、好ましくは1から約6個のヌクレオチド、より好ましくは約2個のヌクレオチドを含む3'−オーバーハングを、さらに含む。
【0016】
本発明のsiRNAの1つの実施形態において、センスRNA鎖は第1の3'−オーバーハングを含み、アンチセンスRNA鎖は第2の3'−オーバーハングを含み、好ましくは、第1および第2の3'−オーバーハングは、独立して、1から約6個のヌクレオチドを含む。より好ましくは、第1の3'−オーバーハングはジヌクレオチドを含み、第2の3'−オーバーハングはジヌクレオチドを含み、好ましくはジデオキシチミジル酸またはジウリジル酸を含む。
【0017】
本発明のsiRNAの1つの実施形態では、3'−オーバーハングがヌクレアーゼ分解に対して安定化している。
【0018】
本発明のsiRNAの特定実施形態では、ターゲット配列が、配列番号15のヌクレオチド位置3から21、配列番号18のヌクレオチド位置3から21、配列番号21のヌクレオチド位置3から21、配列番号24のヌクレオチド位置3から21、配列番号27のヌクレオチド位置3から21、配列番号30のヌクレオチド位置3から21、および配列番号33のヌクレオチド位置3から21からなる群より選択される核酸配列を有する。本発明のsiRNAのさらなる特定実施形態では、センスRNA鎖が配列番号16の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号17の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号19の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号20の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号22の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号23の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号25の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号26の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号28の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号29の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号31の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号32の配列を有するか、センスRNA鎖が配列番号34の配列を有し、かつアンチセンスRNA鎖が配列番号35の配列を有する。
【0019】
さらにもう一つの態様において、本発明は、本発明のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列を含む発現ベクターに関する。好ましくは、発現ベクターは、本発明のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列に機能的に連結されたプロモーター、好ましくは誘導性プロモーターまたは調節可能プロモーターを含む。
【0020】
さらにもう一つの態様において、本発明は、本発明のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列を含む組換えウイルスベクターに関する。好ましくは、組換えウイルスベクターは、本発明のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列に機能的に連結されたプロモーター、好ましくは誘導性プロモーターまたは調節可能プロモーターを含む。特定の実施形態において、本発明の組換えウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびヘルペスウイルスベクターからなる群より選択される。
【0021】
さらにもう一つの態様において、本発明は、本発明のsiRNA、発現ベクター、および/または組換えウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。好ましくは、本発明の医薬組成物は、がんおよび/またはがん転移の処置または予防に使用することができ、そのがんとしては好ましくは肺腫瘍、乳腫瘍、前立腺腫瘍、黒色腫、大腸腫瘍、胃腫瘍、膵腫瘍、ENT腫瘍、腎細胞がんまたは子宮頸がん、大腸がんまたは乳がんである。
【0022】
本発明の医薬組成物は医薬適合性担体および/またはアジュバントを含んでもよい。
【0023】
さらにもう一つの態様において、本発明は、TPTEの発現を阻害する方法であって、TPTE mRNAが分解されるように、本発明のsiRNA、発現ベクター、組換えウイルスベクターおよび/または医薬組成物の有効量を、対象に投与することを含む方法に関する。
【0024】
さらにもう一つの態様において、本発明は、対象におけるがんを処置する方法であって、本発明のsiRNA、発現ベクター、組換えウイルスベクターおよび/または医薬組成物の有効量を対象に投与することを含む方法に関する。
【0025】
さらにもう一つの態様において、本発明は、対象におけるがん転移を阻害する方法であって、本発明のsiRNA、発現ベクター、組換えウイルスベクターおよび/または医薬組成物の有効量を対象に投与することを含む方法に関する。
【0026】
本発明の方法において、がんまたはがん転移は、好ましくは、(i)(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群より選択される核酸、および/または(ii)(i)における核酸によってコードされるタンパク質またはペプチド、の発現または異常発現を特徴とする。
【0027】
好ましくは、(i)における核酸は、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列、その一部または誘導体を含み、かつ/または(ii)におけるタンパク質またはペプチドは、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含む。
【0028】
本発明の方法において、siRNA、発現ベクター、組換えウイルスベクターおよび/または医薬組成物は、好ましくは、放射線療法、化学療法または外科手術と組み合わせて投与され、その化学療法剤は、好ましくは、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、およびタモキシフェンからなる群より選択される。
【0029】
好ましくは、投与対象はヒトである。
【0030】
好ましくは、投与されるsiRNAの有効量は約1nMから約100nMである。
【0031】
ある実施形態では、siRNAが送達剤と一緒に投与され、その送達剤は、好ましくは、リポフェクチン、リポフェクトアミン、セルフェクチン、ポリカチオン、およびリポソームからなる群より選択される。好ましくは、リポソームは、TPTEを発現させる細胞に対するリポソームをターゲティングするリガンドを含み、その場合、リガンドは、好ましくは、抗体を含む。
【0032】
本発明の方法の一実施形態では、siRNAが組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターから発現され、その組換えウイルスベクターは、好ましくは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはヘルペスウイルスベクターを含む。
【0033】
1つの実施形態では、siRNAが経腸投与経路によって投与され、その経腸投与経路は、好ましくは、経口、直腸、および鼻腔内からなる群より選択される。
【0034】
さらにもう1つの実施形態では、siRNAが非経口投与経路によって投与され、その非経口投与経路は、好ましくは、血管内投与、組織周囲投与および組織内投与、皮下注射または皮下デポジション、および皮下注入からなる群より選択される。好ましくは、血管内投与は、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入および脈管構造へのカテーテル点滴からなる群より選択され、組織周囲投与および組織内投与は、好ましくは、腫瘍周囲注射および腫瘍内注射からなる群より選択される。
【0035】
本発明は、がん疾患の転移挙動および/またはがんの再発の発生を評価および/または予後判定することを可能にする方法も包含する。好ましくは、本発明の方法では、悪性状態を良性状態と識別することが可能である。特定の実施形態では、本発明の方法により、既に投与されたがん療法または今後投与されるがん療法の成功を評価および/または予後判定することが可能になる。特に、本発明の方法は、例えば外科手術、化学療法および/または放射線療法などのがん療法後に、がんの再発の発生を評価および/または予後判定することが可能である。
【0036】
この態様において、本発明は、がんの転移挙動および/またはがんの再発の存在を、決定し、例えば診断し、監視し、例えばその退縮、進行、経過および/または発生を決定し、および/または予後判定する方法であって、患者から単離した生体試料において、(i)(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)(b)または(c)の核酸に相補的な核酸、からなる群より選択される核酸を検出し、またはその量を決定すること、および/または(ii)(i)における核酸によってコードされるタンパク質もしくはペプチド、またはその一部もしくは誘導体を検出し、またはその量を決定すること、および/または(iii)(ii)におけるタンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体に特異的な抗体を検出し、またはその量を決定すること、および/または(iv)(ii)に記載のタンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、任意にMHC分子と複合体を形成しているものに特異的なTリンパ球を検出し、またはその量を決定することを含む方法に関する。
【0037】
好ましくは、(i)における核酸は、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列、その一部または誘導体を含み、かつ/または(ii)におけるタンパク質またはペプチドは、好ましくは、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含む。
【0038】
1つの実施形態では、核酸、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、抗体またはTリンパ球の存在、および/または前記がんを持たない対象、前記がんのリスクを持たない対象、前記がんの転移を持たない対象、前記がんの転移のリスクを持たない対象、前記がんの再発を持たない対象、および/または前記がんの再発のリスクを持たない対象における量と比較して増加している核酸、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、抗体またはTリンパ球の量が、前記がんの転移挙動もしくは前記がんの転移挙動の可能性および/または前記がんの再発もしくは前記がんの再発の可能性を示す。
【0039】
さらにもう一つの好ましい実施形態では、検出または量の決定が、(i)生体試料を、前記核酸、前記タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、前記抗体または前記Tリンパ球に結合する薬剤と接触させること、および(ii)前記薬剤と前記核酸、前記タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、前記抗体または前記Tリンパ球との複合体を検出すること、またはその量を決定することを含む。
【0040】
本発明の方法の特定実施形態では、患者ががんを持つか、がんを持つ疑いもしくはがんを発生させる疑いがあるか、またはがんを発生させるリスクを持つ。本発明の方法のさらなる実施形態では、患者ががん転移を持つか、がん転移を持つ疑いもしくはがん転移を発生させる疑いがあるか、またはがん転移を発生させるリスクを持つ。本発明の方法の特定実施形態では、患者が腫瘍切除、放射線療法および/または化学療法などのがん治療を既に受けているか、またはそのような治療を受ける予定である。
【0041】
前記検出および/または量の決定を達成するための手段は本明細書に記述され、当業者にとって明らかとなっている。
【0042】
さらなる実施形態では、患者から単離された生体試料を、比較可能な正常生体試料、例えば健常個体から単離された試料と比較する。
【0043】
本発明に従ってがんの転移挙動および/またはがんの再発の存在を診断し、監視し、かつ/または予後判定する方法は、(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群より選択される核酸、および/または配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸を使用して、好ましくはその非コード領域内、より好ましくはそのプロモーター領域内での、メチル化パターンおよび/またはメチル化度を測定することを含んでもよい。
【0044】
対照、例えば前記がんを持たない対象、前記がんのリスクを持たない対象、前記がんの転移を持たない対象、前記がんの転移のリスクを持たない対象、前記がんの再発を持たない対象、および/または前記がんの再発のリスクを持たない対象と比較して、より低いメチル化度、またはメチル化されていないことは、好ましくは、前記がんの転移挙動もしくは前記がんの転移挙動の可能性および/または前記がんの再発もしくは前記がんの再発の可能性を示す。
【0045】
メチル化パターンおよび/またはメチル化度の決定は、例えばPCRに基づく方法により、制限酵素を利用して、または配列決定によって行うことができる。好ましい実施形態の一つでは、ゲノムDNAを亜硫酸水素塩含有試薬で処理してから選択的に増幅する。そのような増幅で使用されるオリゴヌクレオチドは、好ましくは、亜硫酸水素塩含有試薬で処理された核酸に結合する配列を持ち、好ましくはその核酸に完全に相補的である。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、メチル化度の異なる核酸に適合し、区別することが可能な増幅産物をもたらす。これに適した試験として以下の例を挙げることができる:(1)例えばパラフィン包埋材料を使って、患者の組織試料からのDNA抽出、(2)(例えばClark S.J.ら,Nucleic Acids Res.22(15):2990−7,1994に記述されているように)DNAを亜硫酸水素塩含有試薬で処理、(3)PCRを利用したDNA増幅、および(4)(例えば定量PCR、マイクロアレイ法などのハイブリダイゼーション技法を利用した)配列特異的増幅産物の量の解析。
【0046】
本発明に従ってがんの転移挙動および/またはがんの再発の存在を診断し、監視し、および/または予後判定する方法では、好ましくは、疾患の悪化過程の予後判定が可能であり、それにより、特に、より積極的な治療計画が可能になる。これらの予後判定方法では、まだ良性な変化、例えば過形成と、既に好ましくないと判定されるべき腫瘍前駆体との境界を定めることも可能であり、それゆえに、浸潤腫瘍が形成されてしまう前に、前もってがんの素因を予測することも可能になる。
【0047】
本発明によれば、核酸の検出または核酸量の決定は、前記核酸に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブまたはポリヌクレオチドプローブを使って行うことができ、あるいは例えばPCR増幅を用いて、前記核酸を選択的増幅することで行うこともできる。1つの実施形態では、プローブが、前記核酸の6から50個、特に10から30個、15から30個および20から30個の連続ヌクレオチド配列を含む。
【0048】
本発明によれば、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体の検出、あるいはタンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体の量の決定は、前記タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体に特異的に結合する抗体を使って行うことができる。特定の実施形態では、本発明の方法において検出されるべき、または本発明の方法においてその量を決定されるべき、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体は、MHC分子との複合体として存在する。
【0049】
本発明によれば、抗体の検出または抗体量の決定は、前記抗体に特異的に結合するタンパク質またはペプチドを使って行うことができる。
【0050】
本発明によれば、Tリンパ球の検出またはTリンパ球量の決定は、そのTリンパ球が特異性を示すタンパク質またはペプチドとMHC分子の複合体を提示する細胞、好ましくは抗原提示細胞を使って行うことができる。Tリンパ球の検出またはTリンパ球量の決定は、そのTリンパ球が特異性を示すタンパク質またはペプチドとMHC分子の複合体による特異的刺激によって引き起こされうるその増殖、サイトカイン生産、および/または細胞傷害活性を検出することによって行うこともできる。Tリンパ球の検出またはTリンパ球量の決定は、一または二以上のタンパク質またはペプチドが負荷された組換えMHC分子または二つ以上のMHC分子の複合体を利用して行うこともできる。
【0051】
本発明の方法において検出または量の決定に使用される薬剤、例えばオリゴヌクレオチドプローブまたはポリヌクレオチドプローブ、抗体、タンパク質もしくはペプチドまたは細胞は、好ましくは、検出可能な方法、特に、放射性マーカー、蛍光マーカーまたは酵素マーカーなどの検出可能マーカーによって標識される。
【0052】
本発明によれば、「結合」という用語は、好ましくは特異的結合を指す。「特異的結合」とは、抗体などの薬剤が、それが特異性を示すエピトープなどのターゲットに対して、他のターゲットへの結合よりも強く結合することを意味する。ある薬剤が、第1ターゲットに対して、第2ターゲットの解離定数(K)よりも低い解離定数で結合する場合、その薬剤は第2ターゲットよりも第1ターゲットに強く結合する。好ましくは、その薬剤が特異的に結合するターゲットの解離定数(K)は、その薬剤が特異的には結合しないターゲットの解離定数(K)よりも、10分倍、より好ましくは20倍、一層好ましくは50倍、さらに好ましくは100倍、200倍、500倍または1000倍より低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
「TPTE」という用語は「テンシン(tensin)ホモロジーを有する膜貫通ホスファターゼ」を指し、細胞が自然に発現する、またはTPTE遺伝子トランスフェクト細胞によって発現される、TPTEの任意の変異体、特にスプライス変異体、コンフォメーション、アイソフォームおよび種ホモログを包含する。好ましくは「TPTEの核酸」、「TPTEをコードする核酸」または「TPTE遺伝子」とは、(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸からなる群より選択される核酸を指す。好ましくは、「TPTE」タンパク質または単に「TPTE」は、上述の核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、好ましくは、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含む。上述したTPTEのcDNA配列はTPTE mRNAと等価であり、本発明においては同じ目的つまりTPTEの発現を阻害するためのsiRNAの作製に使用できることは、当業者に理解されるだろう。
【0054】
「TPTE」という用語は、細胞が自然に発現する、またはTPTE遺伝子トランスフェクト細胞によって発現される、ヒトTPTEの翻訳後修飾変異体、アイソフォームおよび種ホモログも包含する。
【0055】
本発明によれば、核酸は、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。核酸には、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学合成分子が含まれる。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖の線状分子または共有結合で閉環した分子として存在できる。
【0056】
本発明における「核酸」という用語は、核酸の「誘導体」も包含する。核酸の「誘導体」とは、本発明において、単一または複数、例えば少なくとも2個、少なくとも4個、または少なくとも6個、および好ましくは3個まで、4個まで、5個まで、6個まで、10個まで、15個まで、または20個までのヌクレオチド置換、欠失および/または付加が、前記核酸中に存在することを意味する。さらにまた、「誘導体」という用語には、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸基における核酸の化学的誘導体化も含まれる。「誘導体」という用語には、自然発生しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含有する核酸も含まれる。
【0057】
本発明に従って記述される核酸は、好ましくは単離されている。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、増幅されたこと、(ii)クローニングによって組換え生産されたこと、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動分画などによって精製されたこと、または(iv)例えば化学合成などによって合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換えDNA技法基づく操作に利用することができる核酸である。
【0058】
本明細書で用いる場合、用語「RNA」は、少なくとも一つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」とは、β−D−リボ−フラノース部分の2'位にヒドロキシル基を持つヌクレオチドを意味する。この用語は二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離されたRNA、例えば部分精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産RNA、ならびに一または二個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって自然発生RNAとは異なっている改変RNAを包含する。そのような改変として、例えばRNAの末端への、または内部、例えばRNAの一または二個以上のヌクレオチドに、非ヌクレオチド物質を付加することを含むことができる。本発明のRNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば自然発生しないヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなども含むことができる。これらの改変RNAは、類似体または自然発生RNAの類似体と呼ぶことができる。
【0059】
本明細書で用いる「相補性」または「相補的」という用語は、一つの核酸が、従来のワトソン−クリック型相互作用または他の非従来型相互作用によって、もう一つの核酸配列と水素結合を形成できることを意味する。本発明の核酸分子に関して、核酸分子とその相補的配列との結合自由エネルギーは、核酸の関連機能(例えばRNAi活性)が開始するのに十分である。例えば、siRNA構築物のセンス鎖とアンチセンス鎖の間の相補性度は、siRNAのアンチセンス鎖とターゲットRNA配列の間の相補性度と同じであるか、異なることができる。相補性率は、もう一つの核酸配列と水素結合を形成(例えばワトソン−クリック塩基対形成)することができる一つの核酸分子中の連続残基の百分率を示す(例えば、10ヌクレオチド中5、6、7、8、9、10ヌクレオチドであれば、50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補的である)。「完全に相補的」とは、一つの核酸配列中の連続残基のすべてが、もう一つの核酸配列中の同じ数の連続残基と水素結合できることを意味する。
【0060】
好ましくは、二つの配列が互いにハイブリダイズして安定な二重鎖を形成することができる場合、一方の核酸は他方の核酸に「相補的」であり、そのハイブリダイゼーションは、好ましくは、ポリヌクレオチド間で特異的ハイブリダイゼーションが可能な条件(ストリンジェントな条件)下で行われる。ストリンジェント条件は、たとえばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,Editors,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,Editors,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに述べられており、たとえばハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中65℃でのハイブリダイゼーションが参照できる。SSCは0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後は、DNAを転写した膜を、例えば2×SSC中、室温で洗浄し、次に0.1から0.5×SSC/0.1×SDS中、68℃までの温度で洗浄する。
【0061】
本発明によれば、相補的核酸は、好ましくは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一であるヌクレオチドを有する。
【0062】
「同一性パーセンテージ」は最良アラインメント後に得られ、このパーセンテージは純粋に統計的であって、2つの配列の間の相違はランダムにおよびそれらの長さ全体にわたって分布する。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の配列比較は、それらを最適に整列した後これらの配列を比較することによって慣例的に実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するためのセグメントによってまたは「比較のウインドウ」によって実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手動操作に加えて、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482のローカルホモロジーアルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443のローカルホモロジーアルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを使用するコンピュータプログラムによって(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)作成し得る。
【0063】
同一性パーセンテージは、比較する2つの配列の間の同一位置の数を測定し、この数を比較した位置の数で除して、これら2つの配列の間の同一性パーセンテージを得るために、得られた結果に100を乗じることによって算定される。
【0064】
本明細書において、ターゲット配列(例えばターゲットmRNA内に含まれるターゲット配列)と「実質的に同一な」核酸配列とは、ターゲット配列と同一である核酸配列または一または個以上のヌクレオチドがターゲット配列と異なっている核酸配列である。ターゲット配列と実質的に同一な核酸配列を含む本発明のsiRNAのセンス鎖は、そのようなセンス鎖を含むsiRNAが、ターゲット配列を含有するmRNAのRNAi媒介性分解を誘導することを特徴とする。例えば、本発明のsiRNAは、ターゲットmRNAのRNAi媒介性分解がそのsiRNAによって誘導される限り、1個、2個または3個以上のヌクレオチドがターゲット配列とは異なるセンス鎖を含むことができる。
【0065】
核酸は、本発明によれば、単独でまたは、相同または異種であり得る、他の核酸と組み合わせて存在し得る。好ましい実施形態では、核酸は、前記核酸に関して相同または異種であり得る発現制御配列に機能的に連結されている。「相同」という用語は、核酸が天然でも発現制御配列に機能的に連結されていることを意味し、「異種」という用語は、核酸が天然では発現制御配列に機能的に連結されていないことを意味する。
【0066】
RNAおよび/またはタンパク質またはペプチドを発現する核酸などの核酸と発現制御配列は、それらが、前記核酸の発現または転写が前記発現制御配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合されている場合、互いに「機能的に」連結されている。核酸が、その後、コード配列に機能的に連結された発現制御配列により機能的タンパク質へと翻訳されるはずである場合、前記発現制御配列の誘導は、コード配列内のフレームシフトを引き起こさずにまたは前記コード配列が所望タンパク質またはペプチドへと翻訳されることができない事態を引き起こさずに、前記核酸の転写を生じさせる。
【0067】
「発現制御配列」という用語は、本発明によれば、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、および遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節する他の制御エレメントを含む。本発明の特定実施形態では、発現制御配列は調節され得る。発現制御配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、一般に、TATAボックス、キャップ配列、CAAT配列等のような、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5'非転写および5'および3'非翻訳配列を含む。より詳細には、5'非転写発現制御配列は、機能的に連結された核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含有するプロモーター領域を含む。発現制御配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列を含み得る。
【0068】
本発明によれば、「プロモーター」または「プロモーター領域」という用語は、発現される核酸配列に対して上流(5'側)に位置し、RNAポリメラーゼのための認識および結合部位を提供することによって配列の発現を制御する核酸配列に関する。「プロモーター領域」はさらに、遺伝子の転写の調節に関わるさらなる因子のための認識および結合部位を含み得る。プロモーターは、原核または真核生物遺伝子の転写を制御し得る。さらに、プロモーターは「誘導性」であり得、誘導物質に応答して転写を開始させ得るか、または転写が誘導物質によって制御されない場合は「構成的」であり得る。誘導性プロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導物質が存在しない場合は発現されないかまたはわずかだけ発現される。誘導物質の存在下では、遺伝子のスイッチが入るかまたは転写のレベルが上昇する。これは、一般に、特異的転写因子の結合によって媒介される。
【0069】
本発明において好ましいプロモーターは、SP6、T3およびT7ポリメラーゼのプロモーター、ヒトU6 RNAプロモーター、およびCMVプロモーターなどを含む。
【0070】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNAまたはRNAおよびタンパク質/ペプチドの生産を含む。これはまた、核酸の部分的発現を包含する。さらに、発現は一過性または安定に実施され得る。
【0071】
好ましい実施形態では、核酸分子は、適切な場合はプロモーターと共に、核酸の発現を制御するベクター内に本発明に従って存在する。「ベクター」という用語は、ここではその最も一般的な意味で使用され、前記核酸が、たとえば原核および/または真核細胞に導入され、適切な場合は、ゲノム内に組み込まれることを可能にする、核酸のための全ての中間媒体を包含する。この種のベクターは、好ましくは細胞において複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含む。ここで使用する「プラスミド」という用語は、一般に染色体DNAと独立して複製することができる染色体外遺伝物質の構築物、通常は環状DNA二重鎖に関する。
【0072】
本発明によれば、「宿主細胞」という用語は、外来核酸を使って形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞を指す。「宿主細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌(E.coli))または真核細胞(例えば哺乳動物細胞、特にヒト細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を包含する。特に好ましいのは哺乳動物細胞、例えばヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、または霊長類に由来する細胞である。細胞は多数の組織タイプに由来し、初代細胞および細胞株を含むことができる。具体例としてケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚性幹細胞が挙げられる。さらなる実施形態では、宿主細胞が抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は宿主細胞中に単一コピーまたは、2個以上のコピーのとして存在することができ、1つの実施形態では、宿主細胞中で発現される。
【0073】
MHC分子がタンパク質またはペプチドを提示する本発明の場合、発現ベクターが前記MHC分子をコードする核酸配列も含むことができる。MHC分子をコードする核酸配列は、タンパク質またはペプチドをコードする核酸と同じ発現ベクター上に存在してもよいし、両核酸が異なる発現ベクター上に存在してもよい。後者の場合、二つの発現ベクターを細胞にコトランスフェクトすることができる。宿主細胞がタンパク質またはペプチドおよびMHC分子を発現しない場合は、それらをコードする両核酸を、同じ発現ベクター、または異なる発現ベクターにのせて、細胞にトランスフェクトすることができる。細胞がMHC分子を既に発現している場合は、タンパク質またはペプチドをコードする核酸配列のみを細胞にトランスフェクトすることができる。
【0074】
核酸の増幅は、核酸にハイブリダイズする一対の増幅プライマー、例えばオリゴヌクレオチドを使って行うことができる。プライマーは好ましくは当該核酸の6から50、特に10から30、15から30および20から30連続ヌクレオチドの配列を含み、プライマー二量体の形成を避けるために、オーバーラップしない。一方のプライマーは、増幅対象の核酸の一本鎖にハイブリダイズし、他方のプライマーは、その核酸の増幅を可能にするような配置で、相補鎖にハイブリダイズすることができる。
【0075】
本発明によれば、オリゴヌクレオチドは、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、修飾オリゴリボヌクレオチドまたは修飾オリゴデオキシリボヌクレオチドであることができる。
【0076】
1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドはリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたは一つのヌクレオチドの5'末端と、もう一つのヌクレオチドの3'末端とが、ホスホジエステル結合によって互いに連結したその組み合わせからなる。これらのオリゴヌクレオチドは、慣例の方法で合成するか、組換え生産することができる。
【0077】
好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドが「修飾」オリゴヌクレオチドである。ここでは、オリゴヌクレオチドを、例えばその安定性などを増加させる目的で、そのターゲットに結合するというその能力を損なわずに、極めてさまざまな方法で修飾することができる。本発明によれば、「修飾オリゴヌクレオチド」という用語は、(i)少なくとも二つのヌクレオチドが、合成ヌクレオシド間結合(すなわちホスホジエステル結合ではないヌクレオシド間結合)によって互いに連結され、かつ/または(ii)核酸中に通常は見出されない化学基がオリゴヌクレオチドに共有結合しているオリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、リン酸エステル、アルキルホスホノチオエート、ホスホロアミダイト、カルバメート、カーボネート、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステルおよびペプチドである。
【0078】
「修飾オリゴヌクレオチド」という用語は、一または二個以上の共有結合的に修飾された塩基および/または1個以上の共有結合的に修飾された糖を有するオリゴヌクレオチドも包含する。例えば「修飾オリゴヌクレオチド」には、3'位のヒドロキシル基および5'位のリン酸基以外の低分子量有機基に共有結合している糖残基を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。修飾オリゴヌクレオチドは、例えば2'−O−アルキル化リボース残基またはリボースの以外の他の糖、例えばアラビノースなどを含むことができる。。
【0079】
本明細書で用いられる「低分子干渉RNA」または「siRNA」とは、ターゲット遺伝子または分解されるmRNAを同定するために用いられ、好ましくは10ヌクレオチド長より大きい、より好ましくは15ヌクレオチド長より大きい、最も好ましくは18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30ヌクレオチド長の単離されたRNA分子を意味する。19から25ヌクレオチドの範囲がsiRNAにとって最も好ましいサイズである。
【0080】
本発明のsiRNAは、部分精製RNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、または組換え生産RNA、ならびに一または二個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって自然発生RNAとは異なる改変RNAを含むことができる。そのような改変として、例えばsiRNAの末端への、またはsiRNAの一または二個以上の内部ヌクレオチドへの、非ヌクレオチド物質の付加;siRNAをヌクレアーゼ分解に対して耐性する修飾(例えば2'−置換リボヌクレオチドの使用または糖−リン酸骨格への修飾);またはデオキシリボヌクレオチドを用いたsiRNA中の一または二個以上のヌクレオチドの置換を挙げることができる。さらにまた、siRNAは、修飾オリゴヌクレオチドに関して上述したように、その安定性を増加させるために、特に一または二個以上のホスホロチオエート結合を導入することによって修飾することもできる。
【0081】
本発明の一方または両方のsiRNA鎖は3'−オーバーハングを含むこともできる。本明細書で用いる「3'−オーバーハング」は、RNA鎖の3'末端から突き出した少なくとも一つの非対合ヌクレオチドを指す。
【0082】
したがって、ある実施形態では、本発明のsiRNAは、1から約6ヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドを含む)長、好ましくは1から約5ヌクレオチド長、より好ましくは1から約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2から約4ヌクレオチド長の3'−オーバーハングを少なくとも一つ含む。
【0083】
両方のsiRNA分子鎖が3'−オーバーハングを有する実施形態では、オーバーハングの長さは各鎖で同じであっても異なってもよい。最も好ましい実施形態では、3'−オーバーハングが両方のsiRNA鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば各本発明のsiRNA鎖は、ジデオキシチミジル酸(「TT」)またはジウリジル酸(「uu」)の3'−オーバーハングを含むことができる。
【0084】
本発明siRNAの安定性を強化するために、3'−オーバーハングを分解に対して安定化させることもできる。1つの実施形態では、アデノシンヌクレオチドまたはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含めることによって、オーバーハングは安定化する。あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば2'−デオキシチミジンを用いた3'−オーバーハング中のウリジンヌクレオチドの置換は許容され、RNAi分解の効率に影響を及ぼさない。特に、2'−デオキシチミジンにおける2'−ヒドロキシルをなくすことで、組織培養培地における3'−オーバーハングのヌクレアーゼ耐性を著しく強化させることができる。
【0085】
本発明siRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖は二つの相補的一本鎖RNA分子、または二つの相補部分が塩基対を形成し、それらが一本鎖「ヘアピン」領域によって共有結合している単一分子を含むことができる。すなわち、センス領域とアンチセンス領域を、リンカー分子を介して、共有結合でつなぐことができる。リンカー分子はポリヌクレオチドリンカーまたは非ヌクレオチドリンカーでもよい。どんな理論に束縛されることも望まないが、後者のタイプのsiRNA分子のヘアピン領域は、細胞内では「ダイサー」タンパク質(またはその等価物)によって切断されて、二つの個別の塩基対形成したRNA分子のsiRNAを形成すると考えられる。
【0086】
本明細書で用いる、「ターゲットmRNA」とは、ダウンレギュレーションのターゲットであるRNA分子、特にヒトTPTE mRNA、ヒトTPTE mRNAの突然変異型もしくは選択的スプライス型、または同族TPTE遺伝子からのmRNAを指す。本明細書にはヒトTPTE mRNAはcDNA等価物として記載されている。cDNA配列がmRNA配列と等価であり、本発明においては同じ目的すなわちTPTEの発現を阻害するためのsiRNAの作製に使用できることは、当業者には理解されるだろう。
【0087】
本明細書で用いる、ヒトTPTEと「同族(cognate)」である遺伝子またはmRNAは、ヒトTPTEと相同な他の哺乳動物種由来の遺伝子またはmRNAである。
【0088】
ヒトTPTE遺伝子から転写されたmRNAは、当技術分野で周知の技法を使って、選択的スプライス型に関して解析することができる。そのような技法として、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット法およびインサイチューハイブリダイゼーション法が挙げられる。
【0089】
「RNアーゼプロテクション」と呼ばれる技法も、選択的スプライス型TPTE mRNAを同定するために使用することができる。RNアーゼプロテクションでは、遺伝子配列を合成RNAに転写し、それを他の細胞(例えばTPTEを発現するように誘導される細胞)に由来するRNAとハイブリダイズさせることを含む。次に、ハイブリダイズさせたRNAを、RNA:RNAハイブリッドミスマッチを認識する酵素と共にインキュベートする。予想より小さいフラグメントは、選択的スプライス型mRNAの存在を示す。その推定選択的スプライス型mRNAは、当業者に周知の方法によって、クローニングし、配列決定することができる。
【0090】
RT−PCRも、選択的スプライス型TPTE mRNAを同定するために使用することができる。RT−PCRでは、TPTE発現が既知の細胞由来のmRNAを、当業者に周知の方法を使って、逆転写酵素でcDNAに変換する。次に、3'非翻訳領域に位置するフォワードプライマーと、5'非翻訳領域に位置するリバースプライマーとを使って、cDNAのコード配列全体をPCRによって増幅する。例えば増幅産物のサイズをmRNAが通常のスプライシングを受けたときの予想産物のサイズと、例えばアガロースゲル電気泳動を用いて比較することなどにより、増幅産物を選択的スプライス型に関して解析することができる。増幅産物のサイズの変化はいずれも、選択的スプライシングを示すことができる。
【0091】
突然変異型TPTE遺伝子から生産されるmRNAも、TPTE選択的スプライス型の同定に関して上述した技法を使って、容易に同定することができる。本明細書で用いる「突然変異型」TPTE遺伝子またはmRNAは、本明細書に記載するTPTE配列とは配列が異なるヒトTPTE遺伝子またはmRNAを含む。したがって、TPTE遺伝子の対立遺伝子型、およびそれらから生産されるmRNAを、本発明の趣旨から「突然変異体」とみなせる。
【0092】
ヒトTPTE mRNAは、その各選択的スプライス型、同族体または突然変異体と共通するターゲット配列を含有しうると考えられる。したがって、そのような共通ターゲティング配列を含む単一siRNAは、共通ターゲティング配列を含有するさまざまなmRNAのRNAi媒介性分解を誘導することができる。
【0093】
本明細書で用いる「減少させる」または「阻害する」とは、レベルの、例えば基準試料(例えばsiRNAで処理していない試料)と比較したときのタンパク質またはmRNAのレベルなどのレベルにおける、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の総合的減少を引き起こす能力を意味する。RNAまたはタンパク質発現のこの減少または阻害は、ターゲットにしたmRNAの切断または分解によって起こりうる。タンパク質発現または核酸発現に関するアッセイは当技術分野では知られており、例えばELISA、タンパク質発現に関するウェスタンブロット解析、およびRNAに関するノーザンブロットアッセイまたはRNアーゼプロテクションアッセイなどがある。
【0094】
pol IIIプロモーターからのRNAの発現は、転写される最初のヌクレオチドがプリンである場合に効率がよいとだけ考えられているので、siRNAは、ターゲティング部位を変化させずに、pol III発現ベクターから発現させることができる。
【0095】
本発明のsiRNAは、任意のターゲットmRNA配列中の任意の約19から25連続ヌクレオチドのひと配列(stretch)(「ターゲット配列」)にターゲティングすることができる。siRNA用のターゲット配列を選択するための技法は、例えば、Tuschl T.ら「The siRNA User Guide」(2002年10月11日改訂)に記載されており、その開示内容はすべて参照により本明細書に組み入れられている。「The siRNA User Guide」は、ワールドワイドウェブ上、米国ニューヨーク州のロックフェラー大学RNA分子生物学研究室のThomas Tuschl博士によって維持されているウェブサイトで入手することができ、ロックフェラー大学のウェブサイトにアクセスして「siRNA」というキーワードで検索することにより、見つけることができる。したがって、本発明のsiRNAのセンス鎖は、ターゲットmRNA中の約19から約25ヌクレオチドの任意の連続ひと配列と実質上同一なヌクレオチド配列を含む。
【0096】
一般に、ターゲットmRNA上のターゲット配列は、好ましくは開始コドンの50から100nt下流(すなわち3'方向)から始まる、ターゲットmRNAに一致する既知のcDNA配列から選択することができる。しかしターゲット配列は5'−またはは3'−非翻訳領域、または開始コドン近くの領域に位置することもできる。例えば、TPTE cDNA配列中の適切なターゲット配列は、以下のターゲット配列群から選択される:
(i)TCGGTACTTGATAACATTACA(配列番号15)
(ii)CAGACTTGTGTTATTCTAGCA(配列番号18)
(iii)CTGAAATATGTTCAACTGCAA(配列番号21)
(iv)CAGATTGGCAACCAAGACTAA(配列番号24)
(v)AACCCTGCCACATGTTCATAT(配列番号27)
(vi)AATGACAGTCCACAGACAAGT(配列番号30)
(vii)AAGCTGATAAGAAGGCGGGTT(配列番号33)。
【0097】
配列(i)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
gguacuugauaacauuacaTT
AGccaugaacuauuguaaugu
である。
【0098】
配列(ii)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
gacuuguguuauucuagcaTT
GTcugaacacaauaagaucgu
である。
【0099】
配列(iii)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
gaaauauguucaacugcaaTT
GAcuuuauacaaguugacguu
である。
【0100】
配列(iv)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
gauuggcaaccaagacuaaTT
GTcuaaccguugguucugauu
である。
【0101】
配列(v)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
cccugccacauguucauauTT
TTgggacgguguacaaguaua
である。
【0102】
配列(vi)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
ugacaguccacagacaaguTT
TTacugucaggugucuguuca
である。
【0103】
配列(vii)をターゲットとし、各鎖上に3'−オーバーハング(オーバーハングは太字で示す)を有する、本発明の好ましいsiRNAは、
gcugauaagaaggcggguuTT
TTcgacuauucuuccgcccaa
である。
【0104】
上記のリストでは、核酸配列中のすべてのデオキシリボヌクレオチドが大文字で表され(例えばデオキシチミジンは「T」である)、核酸配列中のリボヌクレオチドは小文字で表される(例えばウリジンは「u」である)。
【0105】
本明細書に記載するターゲット配列はヒトTPTE cDNAに関し、上述の通りこれらの配列は「T」で表されるデオキシチミジンを含有するとことが分かる。TPTE mRNAの実際のターゲット配列では、デオキシチミジンがウリジン(「u」)で置き換えられるであろうことは、当業者には理解されるだろう。同様に、本発明のsiRNA内に含まれるターゲット配列も、デオキシチミジンの代りにウリジンを含有することができる。
【0106】
本発明のsiRNAは当業者にいくつかの公知技法を使って得ることができる。例えばsiRNAは、化学合成するか、開示内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる、例えばTuschlらの米国特許出願公開第2002/0086356号に記載のショウジョウバエ(Drosophila)インビトロ系など、当技術分野で知られる方法を使って、組換え生産することができる。
【0107】
好ましくは、本発明のsiRNAは、適宜保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイトおよび通常のDNA/RNA合成装置を使って、化学合成される。siRNAは二つの別個の相補的RNA分子として合成するか、二つの相補的領域を持つ単一のRNA分子として合成することができる。
【0108】
あるいは、任意の適切なプロモーターを使って、組換え環状または線状DNAプラスミドから、siRNAを発現させることもできる。本発明のsiRNAをプラスミドから発現させるための適切なプロモーターとしては、例えばU6またはH1 RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターなどが挙げられる。
【0109】
他の適切なプロモーターの選択は当技術分野内で可能である。本発明の組換えプラスミドは、特定の組織または特定の細胞内環境でsiRNAを発現させるための誘導性プロモーターまたは調節可能プロモーターを含むこともできる。
【0110】
組換えプラスミドから発現されるsiRNAは、標準的技法によって培養細胞発現系から単離するか、細胞内で発現させることができる。本発明のsiRNAをインビボの細胞に送達するための組換えプラスミドの使用については、後に詳しく説明する。本発明のsiRNAは、二つの別々の相補的RNA分子として、または二つの相補的領域を持つ単一のRNA分子として、組換えプラスミドから発現させることができる。
【0111】
本発明のsiRNAを発現させるのに適したプラスミド、siRNAを発現させるための核酸配列をプラスミドに挿入するための方法、および組換えプラスミドを対象細胞に送達する方法は、当技術分野内で選択可能である。
【0112】
本発明のsiRNAは、インビボの細胞内で組換えウイルスベクターから発現させることもできる。組換えウイルスベクターは、本発明のsiRNAをコードする配列と、そのsiRNA配列を発現させるための任意の適切なプロモーターとを含む。本発明の組換えウイルスベクターは、特定の組織または特定の細胞内環境でsiRNAを発現させるための誘導性プロモーターまたは調節可能プロモーターを含むこともできる。本発明のsiRNAをインビボの細胞に送達するための組換えウイルスベクターの使用については、後に詳しく説明する。本発明のsiRNAは、二つの別々の相補的RNA分子として、または二つの相補的領域を持つ単一のRNA分子として、組換えウイルスベクターから発現させることができる。
【0113】
本発明によれば「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって共有結合した2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは20個以上、好ましくは8、10、20、30、40または50個、特に100個までのアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きいペプチド、好ましくは100個以上のアミノ酸残基を持つペプチドを指すが、一般的には用語「ペプチド」および「タンパク質」は同義であり、本明細書では可換的に使用される。
【0114】
本発明に従って記述されるタンパク質およびペプチドは、好ましくは、単離されている。「単離されたタンパク質」または「単離されたペプチド」という用語は、タンパク質またはペプチドが、その自然環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはペプチドは、本質的に精製された状態にあることができる。「本質的に精製された」という用語は、そのタンパク質またはペプチドが、自然界またはインビボでそれに結合している他の物質を本質的に含まないことを意味する。
【0115】
そのようなタンパク質およびペプチドは、例えば抗体の産生、および免疫学的アッセイまたは診断アッセイなどに使用することができる。本発明に従って記述されるタンパク質およびペプチドは、組織または細胞ホモジネートなどの生体試料から単離することができ、多くの原核または真核発現系で組換え発現させることもできる。
【0116】
本発明に関して、タンパク質もしくはペプチドまたはアミノ酸配列の「誘導体」には、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体が含まれる。
【0117】
アミノ酸挿入変異体にはアミノ−および/またはカルボキシ−末端融合物が含まれ、特定のアミノ酸配列における1個または2個以上のアミノ酸の挿入も含まれる。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合は、1個または2個以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の特定部位に挿入されるが、得られた産物の適当なスクリーニングによってランダムに挿入することも可能である。アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個または2個以上のアミノ酸が除去されることを特徴とする。アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも一つの残基が除去され、その代りに別の残基が挿入されることを特徴とする。好ましいのは、相同タンパク質または相同ペプチド間で保存されていないアミノ酸配列中の位置にある修飾、および/または類似する性質、例えば疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の体積などを有する別のアミノ酸によるアミノ酸の置き換え(保存的置換)である。保存的置換とは、例えば、あるアミノ酸を、以下に列挙する置換されるアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸でと交換することをいう:
1.小さい脂肪族非極性または弱極性残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負電荷残基およびそれらのアミド:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正電荷残基:His、Arg、Lys
4.大きい脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大きい芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
【0118】
三つの残基は、タンパク質構造におけるその特定の役割ゆえに、カッコ内に示されている。Glyは側鎖を有しない唯一の残基であり、これにより、鎖に柔軟性を付与する。Proは鎖を著しく制限する特異な形状を有する。Cysはジスルフィド橋を形成することができる。
【0119】
上述のアミノ酸変異体は、既知のペプチド合成技法を利用して、例えば固相合成法(Merrifield,1964)および類似の方法により、または組換えDNA操作により、容易に製造することができる。置換、挿入または欠失を有するタンパク質およびペプチドを製造するためのDNA配列の操作は、例えばSambrookら(1989)に詳述されている。
【0120】
本発明によれば、タンパク質およびペプチドの「誘導体」には、そのタンパク質またはペプチドに関連する任意の分子、例えば糖質、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどの単一または複数の置換、欠失および/または付加も含まれる。「誘導体」という用語の範囲は、アミノ酸構成要素だけでなく、糖およびリン酸基構造などの非アミノ酸構成要素も含有する前記タンパク質およびペプチドのあらゆる機能的化学等価物にも及び、また、エステル、チオエーテルおよびジスルフィド結合などの結合を含有する物質にも及ぶ。
【0121】
本発明によれば、タンパク質またはペプチドの一部またはフラグメントは、好ましくは、その由来となったタンパク質またはペプチドの機能的性質を有する。そのような機能的性質には、抗体との相互作用、および他のペプチドまたはタンパク質との相互作用が含まれる。特定の性質の一つは、MHC分子との複合体を形成し、好ましくは細胞傷害性細胞またはTヘルパー細胞を刺激することによって、適宜免疫応答を生じさせる能力である。タンパク質またはペプチドの一部またはフラグメントは、好ましくは、そのタンパク質またはペプチドの少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、および好ましくは8個まで、特に10個まで、12個まで、15個まで、20個まで、30個まで、または50個までのアミノ酸の連続配列を含む。
【0122】
タンパク質またはペプチドをコードする核酸の一部またはフラグメントとは、好ましくは、上で定義した少なくともそのタンパク質またはペプチド、および/または前記タンパク質もしくはペプチドの一部もしくはフラグメントをコードする核酸部分を指す。タンパク質またはペプチドをコードする核酸の一部またはフラグメントは、好ましくは、オープンリーディングフレームに対応する核酸部分である。
【0123】
ターゲットタンパク質に特異的に結合する特異抗体を含有する抗血清は、さまざまな標準的プロセスで製造することができる。例えば「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」(Philip Shepherd,Christopher Dean,ISBN 0−19−963722−9);「Antibodies:A Laboratory Manual」(Ed Harlow,David Lane,ISBN:0879693142)および「Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」(Edward Harlow,David Lane,Ed Harlow,ISBN 0879695447)を参照されたい。それにより、複雑な膜タンパク質を未変性な形態で認識する高親和性の特異的抗体を生成させることもできる(Azorsaら,J.Immunol.Methods 229:35−48,1999;Andersonら,J.Immunol.143:1899−1904,1989;Gardsvoll,J.Immunol.Methods 234:107−116,2000)。これは特に、治療的に使用される抗体の製造に関連するが、多くの診断用途にも関連する。この態様において、免疫化は、タンパク質全体、細胞外部分配列、および生理的に折りたたまれた形態のターゲット分子を発現させる細胞を使って行うことができる。
【0124】
モノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を使って製造される(技術の詳細については「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」(Philip Shepherd,Christopher Dean,ISBN 0−19−963722−9);「Antibodies:A Laboratory Manual」(Ed Harlow,David Lane,ISBN:0879693142);「Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」(Edward Harlow,David Lane,Ed Harlow,ISBN:0879695447)を参照されたい)。
【0125】
抗体のそのエピトープへの結合に関与するのは、抗体分子の一部分であるパラトープだけであることが知られている(Clark,W.R.(1986)「The Experimental Foundations of Modern Immunology」Wiley & Sons,Inc.,ニューヨーク;Roitt,I.(1991)「Essential Immunology」第7版,Blackwell Scientific Publications,オックスフォード参照)。例えば、pFc'領域およびFc領域は、補体カスケードのエフェクターであるが、抗原結合には関与しない。pFc'領域が酵素的に除去された抗体、またはpFc'領域を有しないように製造された抗体は、F(ab')フラグメントと呼ばれ、完全な抗体の両抗原結合部位を持っている。同様に、Fc領域が酵素的に除去された抗体、または該Fc領域を有しないように製造された抗体は、Fabフラグメントと呼ばれ、無傷抗体分子の抗原結合部位を一つ有している。さらにまた、Fabフラグメントは、共有結合された、抗体の軽鎖と、Fdと呼ばれる前記抗体の重鎖の一部とからなる。Fdフラグメントは抗体特異性の主要決定基であり(単一のFdフラグメントは、抗体の特異性を変化させずに、10個までの異なる軽鎖と会合することができる)、Fdフラグメントは、単離されても、エピトープに結合する能力を保っている。
【0126】
抗体の抗原結合部分には、抗原エピトープと直接相互作用する相補性決定領域(CDR)と、パラトープの三次構造を維持するフレームワーク領域(FR)とが配置されている。重鎖のFdフラグメントと、IgG免疫グロブリンの軽鎖は、どちらも、4個のフレームワーク領域(FR1からFR4)を含有し、それらはそれぞれ3個の相補性決定領域(CDR1からCDR3)によって隔てられている。CDR、特にCDR3領域、さらに特に重鎖のCDR3領域は、抗原特異性の大部分を担っている。
【0127】
哺乳類抗体の非CDR領域は、初期抗体のエピトープ特異性を保ったまま、同じ特異性または異なる特異性を有する抗体の類似する領域で置き換え可能であることが知られている。これにより、機能的抗体が産生されるように非ヒトCDRがヒトFRおよび/またはFc/pFc'領域に共有結合した「ヒト化」抗体の開発を可能となる。
【0128】
もう一つの例として、国際公開公報第WO 92/04381号には、マウスFR領域の少なくとも一部がヒト由来のFR領域で置き換えられているヒト化マウスRSV抗体の製造および使用が記述されている。この種の抗体は、抗原結合能を有する無傷抗体のフラグメントを含めて、しばしば「キメラ」抗体と呼ばれる。
【0129】
本発明によれば、「抗体」という用語は、さらに抗体のF(ab')、Fab、Fv、およびFdフラグメント、Fcおよび/またはFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置き換えられているキメラ抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置き換えられているキメラF(ab')フラグメント抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置き換えられているキメラFabフラグメント抗体、ならびにFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置き換えられているキメラFdフラグメント抗体を包含する。「抗体」という用語には「単鎖」抗体も含まれる。
【0130】
抗体は、特定のタンパク質またはペプチドを発現させる細胞および組織を表示するために、特異的診断物質と共役させることもできる。
【0131】
診断物質としては、(i)検出可能なシグナルを出す機能、(ii)第2のラベルと相互作用して、第1ラベルまたは第2ラベルによって出される検出可能シグナルを修飾する機能、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、(iii)電荷、疎水性、形状、または他の物理的パラメータによって、移動度、例えば電気泳動移動度に影響を及ぼす機能、または(iv)捕捉部分、例えばアフィニティ、抗体/抗原、またはイオン錯体形成を与える機能を果たす任意のラベルが挙げられる。ラベルとして適しているのは、例えば蛍光ラベル、発光ラベル、発色団ラベル、放射性同位体ラベル、同位体ラベル、好ましくは安定同位体ラベル、同重核ラベル、酵素ラベル、粒子ラベル、特に金属粒子ラベル、磁気粒子ラベル、ポリマー粒子ラベル、ビオチンなどの小さな有機分子、受容体のリガンドまたは細胞接着タンパク質もしくはレクチンなどの結合分子、結合剤の使用によって検出することができる核酸および/またはアミノ酸残基を含むラベル配列などの構造である。診断物質には、限定するわけではないが、硫酸バリウム、ヨーセタム酸、イオパノ酸、カルシウムイポデート、ジアトリゾ酸ナトリウム、ジアトリゾ酸メグルミン、メトリザミド、ナトリウムチロパノエート、ならびに放射性診断剤、例えばフッ素−18および炭素−11などの陽電子放射体、ヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131およびインジウム−111などのガンマ放射体、フッ素およびガドリニウムなどの核磁気共鳴用核種が含まれる。
【0132】
「主要組織適合遺伝子複合体」または「MHC」という用語は、すべての脊椎動物中に存在する遺伝子の複合体を指す。MHCタンパク質またはMHC分子は、正常な免疫反応において、ペプチドを結合し、T細胞受容体(TCR)による認識のためにそれらを提示することにより、リンパ球と抗原提示細胞の間のシグナリングに関与する。MHC分子は、細胞内プロセシング区画においてペプチドを結合し、T細胞による認識のためにこれらのペプチドを抗原提示細胞の表面に提示する。HLAとも呼ばれるヒトMHC領域は第6番染色体上に位置し、クラスI領域およびクラスII領域を含む。本発明のすべての態様の好ましい1つの実施形態では、MHC分子がHLA分子である。
【0133】
「患者」または「対象」という用語は、本発明によれば、ヒト、非ヒト霊長類または他の動物、特に哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはマウスおよびラットなどの齧歯類を意味する。特に好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0134】
「異常な発現」とは、本発明によれば、健常個体の状態と比較して発現が変化し、好ましくは増加することを意味する。本発明によれば、「増加した」または「増加した量」という用語は、好ましくは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増加を指す。試験試料では検出可能であるが、参照試料には存在しないか、参照試料では検出不可能である場合も、生体試料などの試験試料における物質の量は、参照試料と比較して増加している。
【0135】
本発明によれば「疾患」という用語は、特にがんを含む任意の病理学的状態を指し、この場合、本発明によれば「がん」という用語には、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、子宮内膜がん、腎がん、副腎がん、甲状腺がん、血液がん、皮膚がん、脳のがん、子宮頸がん、腸がん(intestinal cancer)、肝がん、大腸がん、胃がん、腸がん(intestine cancer)、頭頚部がん、胃腸がん、リンパ節がん、食道がん、直腸結腸がん、膵がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、子宮のがん、卵巣がんおよび肺がんならびにそれらの転移が含まれる。その例は、肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がん、腎細胞がん、子宮頸がん、または上述したがんタイプまたは腫瘍の転移である。本発明によれば「がん」という用語はがんの転移も包含する。
【0136】
「腫瘍」とは、迅速で制御されない細胞増殖によって増殖し、新しい増殖を開始する刺激が途絶えた後も増殖し続ける異常な細胞または組織群を意味する。腫瘍は、正常組織との構造的組織化および機能的協調の部分的なまたは完全な欠如を示し、通常は明確な組織塊を形成するが、それは良性である場合も、悪性である場合もある。
【0137】
好ましくは、本発明のsiRNAは、上述のがんに関連する固形腫瘍の増殖または転移を阻害するために使用される。
【0138】
「転移」とは、その最初の部位から身体の別の部分への癌細胞の拡大を意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、一次腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスへの浸潤、内皮基底膜に侵入して体腔および脈管に入り込むこと、およびその後、血液によって運搬された後、標的器官への浸潤に依存する。最後に、標的部位での新しい腫瘍の増殖は血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば一次腫瘍の除去後にも起こり、これは、腫瘍細胞または成分が残存し、転移の潜在的可能性を発現し得るからである。
【0139】
「再発」という用語は、例えば腫瘍切除、化学療法および/または放射線療法などの治療後に、患者が寛解を享受した後の、疾患の兆候および症状が再び現れることを指す。とくに、「再発」という用語は、無病期間後のがんの再発現を指す。例えば治療後に、がんを持つ患者が腫瘍の兆候も症状も示さない寛解状態になり、しばらくの間は寛解状態を保ったが、その後、再発を起して、再びがんの治療を受ける必要が生じる。
【0140】
本発明によれば、生体試料は、体液を含む組織試料および/または細胞試料であることができ、パンチ生検を含む組織生検、および血液、気管支吸引液、喀痰、尿、糞便または他の体液の採取などの通常の方法によって、取得することができる。
【0141】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は本明細書では可換的に使用され、Tヘルパー細胞、および細胞傷害性T細胞を含む細胞溶解性T細胞を包含する。
【0142】
本発明に従って記述される医薬組成物および処置方法は、本明細書に記載する疾患を予防するための免疫化またはワクチン接種に使用することもできる。
【0143】
本発明の方法では、本発明のsiRNAを対象に、裸のsiRNAとして、送達試薬と一緒に投与するか、siRNAを発現させる組換えプラスミドまたはウイルスベクターとして投与することができる。本発明では、ターゲット制御リポソームを使って核酸をインビボ投与することもできる。
【0144】
インビボで細胞にsiRNAを送達するには、発現対象のsiRNA分子のコード配列を受容する能力を持つ任意のウイルスベクター、例えばアデノウイルス(AV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(例えばレンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス)、ヘルペスウイルスなどに由来するベクターを使用することができる。ウイルスベクターの親和性は、ベクターを他のウイルス由来のエンベロープタンパク質または他の表面抗原でシュードタイピングするか、適宜、異なるウイルスキャプシドタンパク質を代用することによって修飾することができる。
【0145】
リポソームは、腫瘍組織などの特定組織へのsiRNAの送達を促進することができ、siRNAの血中半減期を増加させることもできる。本発明での使用に適したリポソームは、一般に、中性または負に荷電したリン脂質およびコレステロールなどのステロールを含む標準的な小胞形成脂質から形成される。脂質の選択は、一般的には、所望のリポソームサイズおよび血流におけるリポソームの半減期などの因子を考慮してなされる。例えばSzokaら(1980),Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467ならびに米国特許第4,235,871号、米国特許第4,501,728号、米国特許第4,837,028号および米国特許第5,019,369号に記述されているように、さまざまなリポソーム製造方法が知られており、これらの開示内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる。
【0146】
特定の実施形態では、核酸を特定の細胞に向かわせることが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために使用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)が、結合されたターゲット制御分子を有することができる。例えば、ターゲット細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体、またはターゲット細胞上にある受容体のリガンドなどの分子を、核酸担体に組み込むか、取付けることができる。好ましい抗体には、腫瘍細胞関連抗原を選択的に結合する抗体が含まれる。リポソームを介した核酸の投与が望ましい場合は、ターゲット制御および/または取り込みを可能にするために、エンドサイトーシス関連表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤に組み込むことができる。そのようなタンパク質には、特定の細胞タイプに特異的なキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、内在化されるタンパク質に対する抗体、細胞内部位に向かうタンパク質などが含まれる。
【0147】
所与のターゲット配列を含有するsiRNAが有する、ターゲットmRNAのRNAi媒介性分解を引き起こす能力は、細胞中のRNAまたはタンパク質のレベルを測定するための標準的技法を使って評価することができる。例えば、本発明のsiRNAを培養細胞に送達し、ターゲットmRNAのレベルをノーザンブロットまたはドットブロット法で測定するか、定量RT−PCRで測定することができる。あるいは、培養細胞中のTPTEタンパク質のレベルをELISAまたはウェスタンブロットによって測定することもできる。
【0148】
ターゲットmRNAのRNAi媒介性分解は、上述のmRNAまたはタンパク質を単離し定量するための標準的技法を使って、対象の細胞におけるターゲットmRNAまたはタンパク質のレベルを測定することによって、検出することができる。
【0149】
本発明の治療組成物は医薬適合性製剤の形態で投与することができる。そのような製剤は、通常、医薬適合濃度の塩、緩衝物質、保存剤、担体、アジュバントなどの補助的免疫強化物質、例えばCpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM−CSFおよび/またはRNA、ならびに適宜、他の治療活性化合物を含有しうる。
【0150】
本発明の治療活性化合物は、注射または注入による投与経路を含めて、任意の通常経路で投与することができる。投与は、例えば経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または経皮などの方法で行うことができる。
【0151】
本発明のsiRNAをTPTE発現細胞に送達するための適切な技法として、遺伝子銃、エレクトロポレーション、ナノ粒子、マイクロカプセル化などによって、または非経口投与経路および経腸投与経路によって、siRNAを対象に投与することが挙げられる。
【0152】
適切な経腸投与経路として、経口、直腸、または鼻内送達が挙げられる。
【0153】
適切な非経口投与経路として、血管内投与(例えば静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入および脈管構造へのカテーテル点滴)、組織周囲および組織内投与(例えば腫瘍周囲注射および腫瘍内注射)、皮下注入を含む皮下注射または皮下デポジション(例えば浸透圧ポンプによるもの)、例えばカテーテルまたは他の設置デバイス(例えば坐剤、または多孔性、非多孔性、もしくはゼラチン様物質を含むインプラント)などによる患部領域の部位またはその近くへの直接(例えば局所外用)適用、および吸入が挙げられる。
【0154】
本発明の組成物は有効量で投与される。「有効量」とは、単独で、またはさらなる投薬と合わせて、望ましい反応または望ましい作用を達成する量を指す。特定疾患または特定状態の処置において、望ましい反応とは、好ましくは、その疾患の経過の阻害を指す。これには、疾患の進行を遅らせること、そして特に、疾患の進行を中断または反転させることが含まれる。疾患または状態の処置における望ましい反応として、前記疾患もしくは前記状態の発生の遅延または前記疾患もしくは前記状態の発生の予防も挙げられる。本明細書で用いるsiRNAの「有効量」は、好ましくは、対象におけるターゲットmRNAのRNAi媒介性分解を引き起こすのに十分な量である。
【0155】
本発明の組成物の有効量は、処置される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個別パラメータ、処置の継続期間、併用治療が存在する場合はそのタイプ、特定投与経路および同様の因子に依存する。
【0156】
当業者は、所与の対象に投与されるべき本発明のsiRNAの有効量を、その対象のサイズおよび体重、疾患浸透度、対象の年齢、健康状態および性別、投与経路、ならびに投与が局所的であるか全身的であるかなどの因子を考慮して、容易に決定することができる。一般に、本発明のsiRNAの有効量は、TPTEの発現が阻害されるべき部位において、約1ナノモル濃度(nM)から約100nM、好ましくは約2nMから約50nM、より好ましくは約2.5nMから約10nMの細胞間濃度を含む。この量より多いまたは少ないsiRNAを投与することもできると考えられる。
【0157】
本発明のsiRNAは、病変を処置するために設計された他の治療方法と組み合わせて対象に投与することができる。例えば、本発明のsiRNAは、がんを処置するためまたは腫瘍転移を予防するために現在使用されている治療方法(例えば放射線療法、化学療法、および外科手術)と組み合わせて投与することができる。腫瘍を処置する場合、本発明のsiRNAは、好ましくは、放射線療法と組み合わせて、またはシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシンもしくはタモキシフェンなどの化学療法剤と組み合わせて対象に投与される。
【0158】
本発明の医薬組成物は、好ましくは滅菌状態にあり、望ましい反応または望ましい作用を生じさせるために有効量の治療活性物質を含有する。
【0159】
投与される本発明の組成物の用量は、投与のタイプ、患者の状態、所望する投与期間などのさまざまなパラメータに依存しうる。患者における反応が初回用量では不十分である場合は、より多くの用量、またはより局在化した別の投与経路によって効率的により多くの用量を使用することができる。
【0160】
本発明の医薬組成物は、一般に、医薬適合量かつ医薬適合組成物の形態で投与される。「医薬適合性」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない無毒性物質を指す。この種の製剤は、通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体、そして適宜、他の治療活性化合物を含有してもよい。医薬に使用する場合、塩は医薬適合性でなければならない。しかし、医薬適合性でない塩も、医薬適合性塩の製造に使用することができ、本発明に包含される。この種の薬理学的および医薬的に適合する塩として、限定するわけではないが、以下の酸から製造されるものが挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。医薬適合性塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として製造することもできる。
【0161】
本発明の医薬組成物は医薬適合性担体を含んでもよい。本発明によれば「医薬適合性担体」という用語は、ヒトへの投与に適した、一または二以上の適合性固形または液状充填剤、希釈剤または封入物質を指す。「担体」という用語は、適用が容易になるように活性成分が混合される天然または合成天然の有機または無機成分であって、ものを指す。本発明の医薬組成物の成分は、通常、望ましい医薬的効力を実質的に損なう相互作用が起こらないような成分である。
【0162】
本発明の医薬組成物は、酢酸の塩、クエン酸の塩、ホウ酸の塩およびリン酸の塩など、適切な緩衝物質を含有しうる。
【0163】
医薬組成物は、適宜、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な保存剤も含有しうる。
【0164】
医薬組成物は、通常、均一な剤形で提供され、それ自体公知の方法で製造することができる。本発明の医薬組成物は、例えばカプセル剤、錠剤、トローチ剤(lozenge)、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤またはエマルションなどの形状をとりうる。
【0165】
非経口投与に適した組成物は、通常、活性化合物の滅菌水性または非水性製剤を含み、これは受容者の血液と等張であることが好ましい。適合性担体および適合性溶剤の例は、リンゲル液および等張食塩溶液である。また、通常は滅菌された固定油が、溶液または懸濁媒として使用される。
【0166】
以下に図面および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらの図面および実施例は例示のために使用するに過ぎず、限定を意図するものではない。この説明および実施例により、当業者は、本発明に同様に包含される他の実施形態にも到達することができる。
【実施例1】
【0167】
材料および方法
組織および細胞株
この研究は、現地の倫理審査委員会(「Ethikkommission der Arztekammer des Landes Rheinland−Pfalz」)によって承認されている。組換えDNA作業は、当局の許可を得て、ラインラント・プファルツ(Rheinland−Pfalz)州政府の規則に従って行った。組織はルーチン診断ワークアップまたは治療処置中にヒト余剰物質として取得し、使用するまで−80℃で貯蔵した。別段の明示がない場合、細胞株は供給業者から入手した。脱メチル化研究の場合、細胞を20から30%密集度に分割し、2μMまたは10μM 5−アザ−2'−デオキシシチジン(5−Aza−dC)(Sigma−Aldrich)と共に72時間培養した。大腸がん細胞株HCT116WT、HCT116DNMT1−/−、HCT116DNMT3b−/−およびHCT116DKOは、Bert Vogelsteinの厚意で譲り受けた。
【0168】
RNA単離、RT−PCRおよびリアルタイムRT−PCR
RNA抽出、第1鎖cDNA合成、RT−PCRおよびリアルタイムRT−PCRは以前記述したように行った(Koslowski,M.ら,Cancer Res.62,6750−6755(2002)、Koslowski,M.ら,Cancer Res.64,5988−5993(2004))。RT−PCRには、TPTE特異的オリゴヌクレオチド(センス5'−TGG ATG TCA CTC TCA TCC TTG−3';アンチセンス5'−CCA TAG TTC CTG TTC TAT CTG−3'、63℃アニーリング)を、35サイクルPCRで使用した。リアルタイム定量発現解析は、3重に行った。TPTE特異的オリゴヌクレオチド(センス5'−GAG TCT ACA ATC TAT GCA GTG−3';アンチセンス5'−CCA TAG TTC CTG TTC TAT CTG−3'、63℃アニーリング)を使って、40サイクルPCRで行った。18sRNA(センス5'−CGA TGC TCT TAG CTG AGT GTC−3';アンチセンス5'−TAA CCA GAC AAA TCG CTC CAC−3'、65℃アニーリング)に対する標準化後に、腫瘍試料中のTPTE転写物を、正常組織と対比して、ΔΔCT算出法で定量した。
【0169】
抗血清、免疫化学およびウェスタンブロット
TPTEのN末端(aa1から51)に対して生じさせたポリクローナル抗血清pAK2091を、カスタム抗体サービス(SeqLab)から入手した。免疫組織化学はホルマリン固定パラフィンおよび包埋組織切片で抗原回復後に行った。抗原回復操作は、スライドをクエン酸緩衝液(pH6)中で15分間煮沸した後、室温で15分間冷却することからなった。ウェスタンブロット解析には、Triton−Xで溶解した細胞から抽出した総タンパク質60μgを使用した。抽出物を還元試料緩衝液(Roth)で希釈し、SDS−PAGEにかけた後、タンパク質をPVDFメンブレン(Pall)上に電気的に転写した。免疫染色には、HER2/neu(Abcam)、pAKT(Cell Signaling)、AKT(Cell Signaling)およびβ−アクチン(Abcam)に反応する抗体を使用した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish−peroxidase)複合ヤギ抗マウスおよびヤギ抗ウサギ抗体(Dako)を使用した。抗ウサギEnvision+ System(Dako)を製造者の説明書に従って使用することにより、抗TPTE pAK2091一次抗体の検出を行った。
【0170】
真核細胞におけるeGFPタグ付きTPTEの発現
二つのHindIII部位を導入するセンスプライマー5'−GAG AGA AAG CTT CCA CCA TGA ATG AAA GTC CTG ATC CGA CTG ACC T−3'およびアンチセンスプライマー5'−GAG AGA AAG CTT GAT CGG ATC CAG CTA CAA CAT CAC TGG AAG TC−3'を使ってTPTE−ORFを増幅した。増幅されたフラグメントをベクターpEGFP−C1およびpEGFP−N3(BD Biosciences)中にライゲートした。ホスファターゼドメインの活性部位に突然変異を有する変異型TPTEC338Sを、PCRによる部位特異的突然変異誘発法によって作製した。
【0171】
免疫蛍光および共局在研究
構成的にまたは異種的にプラスミドでトランスフェクションした後にTPTE発現細胞をスライド上で12から24時間増殖させ、2%パラホルムアルデヒド/0.1%サポニン/PBSで固定した。pAK2091ポリクローナルウサギ抗血清と、ウサギIgGに対する蛍光タグ付き二次抗体とを使って、TPTEに関する間接的免疫蛍光染色を行った。TPTEのF−アクチンとの共局在研究では、透過処理した固定細胞をローダミン−ファロイジン(Molecular Probes)で染色した。膜結合型PIP2およびPIP3を可視化するためのPLC−d1およびAKTのeGFPタグ付きPHドメイン用の発現プラスミドは、それぞれMario J.Rebecchi(Tall,E.G.ら,Curr.Biol.10,743−746(2000))およびJulian Downward(Watton,S.J.およびDownward,J.,Curr.Biol.9,433−436(1999))の厚意で提供を受けた。免疫蛍光顕微鏡法による解析のためにカバースリップをスライド上でSlow−Fade(Molecular Probes)にマウント(mount)した。
【0172】
eGFP融合タンパク質の免疫精製
eGFP融合タンパク質発現細胞を、氷上、1%Triton X−100およびプロテアーゼインヒビター(8μMロイペプチン、3.3μMキモスタチン、2.9μMペプスタチンA、1mM AEBSF−塩酸塩)を含有する緩衝液で、15分間溶解した。4℃で5分間の遠心分離によって溶解物を清澄化した。プレクリア(preclear)するために、溶解物をプロテインAセファロースCL−4B(Sigma−Aldrich)と共に4℃で1時間インキュベートした。プレクリアした溶解物を抗eGFP抗体(Delta Biolabs)と共に4℃で2時間インキュベートした後、プロテインAセファロースCL−4Bと共に4℃で1時間インキュベートし、2分間の遠心分離によって沈殿させた。免疫複合体をIP緩衝液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl)で洗浄し、反応緩衝液(100mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、10mM DTT)に再懸濁した。タンパク質をSDS−PAGEによって分離し、免疫ブロット法で解析した。
【0173】
インビトロホスファターゼアッセイ
110μM水溶性ホスファチジルイノシトールリン酸(Echelon)および免疫沈降タンパク質を含有する反応緩衝液で、PTENおよびTPTEのホスファターゼ活性を測定した。試料を37℃で90分間インキュベートし、基質から放出されたリン酸基の量を、マラカイトグリーンアッセイ(Echelon)を使って決定した。15分間の発色後に、Tecan Safireリーダーを使って試料の吸光度を620nmで測定した。各試料を3重に解析した。
【0174】
siRNA二重鎖
共通規則に従ってsiRNA二重鎖を設計した(Elbashir,S.M.ら,Nature 411,494−498(2001))。TPTE siRNA二重鎖は、TPTE mRNA配列(NM_013315.1)のヌクレオチド1722−1742をターゲットとし、センス5'−r(GGU ACU UGA UAA CAU UAC A)dTdT−3'およびアンチセンス5'−r(UGU AAU GUU AUC AAG UAC C)dGdA−3'から構成される。対照として、センス5'−r(UAA CUG UAU AAU CGA CUA G)dTdT−5'およびアンチセンス5'−r(CUA GUC GAU UAU ACA GUU A)dGdA−3'から構成されるスクランブルsiRNA二重鎖を使用した。TPTEサイレンシング研究のために、RNAiFectトランスフェクション試薬(Qiagen)を製造者の説明書に従って使用することにより、細胞に100nM siRNA二重鎖をトランスフェクトした。機能アッセイはすべて、siRNA二重鎖をトランスフェクトした24時間後に行った。
【0175】
細胞遊走
8.0μmポアメンブレンを有するトランスウェルチャンバ(BD Biosciences)を使って細胞遊走アッセイを行った。遊走アッセイで使用する細胞は実験開始前に無血清培地で12時間培養した。siRNA実験ではsiRNA二重鎖を上述のようにトランスフェクトしてから24時間後に細胞を無血清条件に移した。無血清培養培地400μl中の4×10個の細胞を上室に加えた。下室は、化学誘引物質としてFCS、PDGF−BB(Sigma−Aldrich)またはSDF−1a/CXCL12(R&D Systems)を添加した培養培地800μlを含有した。細胞を24時間遊走させた。メンブレンの底側に遊走した細胞を氷冷メタノール中で固定し、メンブレンを切り出し、顕微鏡スライド上に置き、蛍光顕微鏡法のためにヘキスト(Dako)でマウントした。ランダムな5視野(倍率100倍)中の細胞を各メンブレンについて計数した。すべての実験を3重に行った。
【0176】
細胞増殖
DELFIA細胞増殖キット(Perkin Elmer)を製造者の説明書に従って使用することにより、増殖を解析した。siRNA二重鎖をトランスフェクトした24時間後に、さまざまな濃度のFCSを添加した培地で1×10個の細胞を48時間培養した。アッセイをWallac Victor2マルチラベルカウンター(Perkin Elmer)で測定した。
【0177】
細胞周期解析およびアポトーシス
さまざまな濃度のウシ胎仔血清を添加した培地で細胞を培養し、48時間後に収集し、ヨウ化プロピジウムで染色してから、フローサイトメトリーによるDNA含量解析を行った。CellQuest−Software(Becton Dickinson)を使ってアポトーシス細胞およびS/G2/M期の細胞を定量した。
【0178】
カルシウム動員アッセイ
FLIPR Calcium 3 Assay Kit(Molecular Devices)を使って細胞内カルシウムの動員を解析した。透明底96穴プレートで2×10個の細胞を無血清培地中で12時間培養した。蛍光色素分子標識を製造者の説明書に従って行った後、細胞を、100ng/ml PDGF−BB(Sigma−Aldrich)または100ng/ml SDF−1a/CXCL12(R&D Systems)で3重に刺激した。オリンパスIX71倒立顕微鏡およびTILLvisIONソフトウェア(TILL Photonics)を使って、カルシウム動員を記録した。
【0179】
インビボ腫瘍増殖解析および実験的転移アッセイ
腫瘍増殖解析のために、5×10個の細胞(NIH3T3−her2、NIH3T3−her2−eGFP、NIH3T3−her2−TPTE−eGFP、およびNIH3T3−her2−TPTEC338S−eGFP)を、NOD/SCIDマウス(各群5匹)の側腹部に皮下注射した。腫瘍を定期的にはさみ尺で測定し、腫瘍体積を算出した(V=a×b×b/2)。腫瘍細胞の血管外遊出を評価するために、CFSE(Vybrant CFDA SE Cell Tracer Kit;Molecular probes)で標識した1×10個の細胞をNOD/SCIDマウス(各群3匹)の尾静脈に注射した。マウスを6時間後に犠牲(sacrificed)にし、肺のヘキスト33258標識凍結切片(20μM)を血管外遊出した腫瘍細胞について蛍光顕微鏡法で解析した(Voura,E.B.ら,Nat.Med.10,993−998(2004))。肺あたり50個のランダムな視野中の腫瘍細胞を計数した。NOD/SCIDマウス(各群4匹)の肺における腫瘍負荷の定量を、2×10個のMDA−MB−231細胞をi.v.注射した5週間後に、リアルタイムPCRによって行った。QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen)を使ってDNAを抽出した。ヒト第17番染色体のaサテライト領域の226bpフラグメント(センス5'−CAG CTG ACT AAA CAG AAG CAG−3';アンチセンス5'−GAG TTG AAT GCA GTC ATC ACA G−3')を、それぞれ1μgのDNAを使って増幅した。腫瘍負荷は、NIH3T3マウス線維芽細胞にMDA−MD−231細胞を連続希釈することによって作成した標準曲線と比較して定量した。
【0180】
統計解析
患者の転移率に関して、腫瘍におけるTPTE発現の統計解析を、SPSSソフトウェア(フィッシャーの正確確率検定)を使って行った。
【実施例2】
【0181】
TPTEはヒト腫瘍において異所性発現される
本発明者らはまず、一組の多数の正常および新生物組織標本で、TPTE mRNA発現を調べた。TPTE発現は精巣に限定され、他のすべての正常組織標本では、転写物量が高感度RT−PCRの検出限界未満である(図1a、b)。対照的に、本発明者らは、155の腫瘍試料のうち59の試料(38%)で、悪性黒色腫(50%)、乳がん(47%)および肺がん(55%)を含むさまざまながんのタイプならびに、一組の多数のがん細胞株(62%)に強いTPTE発現を検出した(表1)。
【0182】
【表1】

【0183】
発現データをタンパク質レベルで確認するために、TPTEのN末端(aa1から51)に対するポリクローナルウサギ抗体(pAK2091)を使用した。TPTEの予想サイズと一致して、ウェスタンブロット解析により、精巣組織、RT−PCRにより構成的TPTE発現に関して陽性型のいくつかの腫瘍細胞株、ならびに抗体の特異性を裏付けるTPTE−cDNAトランスフェクト細胞に、65kDaバンドが検出された(図1c、左)。RT−PCRデータと合致して、正常体組織はウェスタンブロットではTPTEに関して陰性と記録されたが、TPTE RT−PCR陽性がん組織は、かなりの量のTPTEタンパク質を含有する(図1c、右)。pAK2091を使った精巣組織での免疫組織化学は、マウスオルソログについて最近記載されたインサイチューハイブリダイゼーションデータと合致して、II型精母細胞および精娘細胞(perspermatid)で特異的免疫反応性を示した(Wu,Y.ら,J.Biol.Chem.276,21745−21753(2001))(図1d)。肺、乳房および前立腺のがんおよび悪性黒色腫から得た組織標本は、免疫組織化学において強い腫瘍細胞特異的染色を示した。対照的に、隣接するストロマ細胞および非新生物上皮細胞(図1d)ならびに患者適合正常組織は反応性を示さなかった(図示せず)。分子腫瘍マーカーとしてのTPTEが確証されたので、本発明者らは、がん細胞におけるその異所性活性化に関与する機構を調べることにした。CpGリッチプロモーターにおけるDNAメチル化は、体細胞組織における生殖細胞系特異的遺伝子のサブセットのサイレンシングに関する主要機構であると報告されている。そしてまた、ゲノムの脱メチル化は、腫瘍細胞におけるこれらの遺伝子の異常な活性化には十分であると思われる(Koslowski,M.ら,Cancer Res.64,5988−5993(2004)、De Smet,C.ら,Mol.Cell Biol.19,7327−7335(1999)、De Smet,C.ら,Mol.Cell Biol.24,4781−4790(2004))。実際、いくつかの非発現がん細胞株をDNAメチル化阻害剤5−アザ−2'−デオキシシチジンで処理すると、TPTE転写が強く誘導された(図1e)。TPTE転写のメチル化依存的調節を、野生型HCT116大腸がん細胞およびDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)遺伝子が破壊されている子孫で、さらに評価した。HCT116WT細胞、ならびにほとんど正常な、またはかわずかしか低下していない総DNAメチル化量を示すことが知られているDNMT3b−/−およびDNMT1−/−単一ノックアウト変異体(Rhee,I.ら,Nature 416,552−556(2002))は、TPTEを発現させない。対照的に、両方のメチルトランスフェラーゼを欠き著しく低下した総DNAメチル化量を示すHCT116DKO細胞は、TPTE発現の強い誘導を示した(図1e)。どちらのアッセイも、DNAのメチル化がTPTEサイレンシングにとって必要であること、および腫瘍において頻繁に観察されるゲノムの脱メチル化(Ehrlich,M.,Oncogene 21,5400−5413(2002)、Feinberg,A.P.およびVogelstein,B.,Nature 301,89−92(1983))は、その活性化にとって十分であることを、それぞれ独立して裏付けた。
【実施例3】
【0184】
TPTEは形質膜PIP3−ホスファターゼである
TPTEはホスファターゼおよび脂質結合性C2ドメインを含有する。どちらの構造的特徴も、そのホモログPTENの脂質ホスファターゼ活性にとっては不可欠でありかつ十分であることが示されている(Wu,Y.ら,J.Biol.Chem.276,21745−21753(2001)、Lee,J.O.ら,Cell 99,323−334(1999))。PIPおよびPI(3,4)Pに対して基質特異性を有する脂質ホスファターゼ活性は、インビトロで、TPTEのマウスオルソログについて既に示されているが(Wu,Y.ら,J.Biol.Chem.276,21745−21753(2001))、ヒトTPTEについては、有意な酵素活性の欠如が報告されている(Walker,S.M.ら,Biochem.J.360,277−283(2001))。後者の研究では細菌由来の組換えタンパク質が使用されたので、本発明者らは、真核細胞によって生産されたタンパク質を使ってヒトTPTEの酵素活性を再評価した。この目的を達成するために、本発明者らは、eGFPに融合したTPTEおよびPTENのホスファターゼおよびC2ドメインをHEK−293細胞で発現させ、それらのタンパク質を抗eGFP抗体結合プロテインAビーズによる免疫沈降によって精製し、それらをマラカイトグリーンアッセイに使用した。共精製されるホスファターゼによる汚染の可能性を除外するために、推定ホスファターゼ活性にとって不可欠な部位を突然変異させたTPTE変異体であるeGFPまたはTPTEC338S−eGFPトランスフェクト細胞から得た等モル量の免疫沈降物を対照とした。驚いたことに、本発明者らは、TPTEがPTENに匹敵する速度でPIPから特異的にリン酸を放出させることを見出した。TPTEC338S−eGFP対照およびeGFP対照におけるホスファターゼ活性の欠如により、このアッセイの特異性が裏付けられた(図2a)。この発見は、ヒトのがんにおけるTPTEの異常活性化と合わせて、TPTEが、腫瘍細胞において、ホスホイノシチド媒介性形質膜シグナリングイベントに関与することを示している。
【0185】
TPTE−eGFPをトランスフェクトしたTPTE陰性細胞と、TPTEを構成的に発現させるがん細胞株とを、抗TPTE抗体で標識し、免疫蛍光顕微鏡法で調べた。先に記述されたゴルジ装置および小胞体への局在(Wu,Y.ら,J.Biol.Chem.276,21745−21753(2001))に加えて、本発明者らは、TPTEの大部分を形質膜に見出した(図2b、2c)。TPTEは膜ラッフル部ならびに仮足および糸状仮足を含む膜突起の外側縁部に目立つが、そのような構造の先端部はTPTEを含まないままである(図2d)。これらの細胞をF−アクチンのマーカーであるローダミン−ファロイジンで共染色することにより、形質膜TPTEと繊維状アクチンとの共局在が示された(図2e)。TPTEと形質膜ホスホイノシチドとの空間的関係を精査するために、本発明者らは、それぞれPIP(4,5)Pまたは3'−リン酸化リン脂質に選択的に結合するPLC−d1−PH(ホスホリパーゼC−d1プレクストリンホモロジー)ドメイン(Tall,E.G.ら,Curr.Biol.10,743−746(2000))およびAKT−PHドメイン(Watton,S.J.およびDownward,J.,Curr.Biol.9,433−436(1999))を使って、プレクストリンドメイン−eGFP融合タンパク質との共局在研究を行った。注目すべきことに、TPTE cDNAとeGFPタグ付きPHドメインとを同時発現させる細胞をpAK2091で染色したところ、PLC−d1−PH−eGFPではTPTEとのほぼ完全なオーバーラップしていることが示されたが(図2f)、AKT−PH−eGFPではそうならなかった(図示せず)ことから、TPTEがPIPと共局在することが証明された(図2f)。HER−2/neu形質転換線維芽細胞において、TPTE cDNAを同時トランスフェクトすると、形質膜から細胞質へとAKT−PH−eGFPの完全な再分布が起こったが、TPTEC388S−cDNAではそのような再分布は起こらなかったことから(Schiffer,I.B.ら,Cancer Res.63,7221−7231(2003))、TPTEが形質膜PIPレベルを減少させることが証明された。これらの知見を総合すると、PTENについて先に実証されたように(Iijima,M.ら,J.Biol.Chem.279,16606−16613(2004))、TPTEは形質膜ホスホイノシチドの空間的制御に関与し、PIPを代謝してPIPに結合することが示唆される。
【実施例4】
【0186】
TPTE発現のサイレンシングにおけるsiRNAの使用
本発明者らは、腫瘍関連ホスファターゼTPTEを内在性に発現させる乳がん、前立腺がんおよび悪性黒色腫細胞株において、TPTEの低分子干渉RNA(siRNA)誘導遺伝子サイレンシングの作用を解析した。定量RT−PCRおよびウェスタンブロットにより、TPTE特異的siRNA二重鎖は、細胞PTENレベルに影響を及ぼすことなく、TPTE転写物およびタンパク質の強いノックダウンを誘導することが実証された(図3a、3b)。
【0187】
また本発明者らは、TPTEまたは触媒的に不活性なTPTEC338S変異体を安定にトランスフェクトした形質転換線維芽細胞を使って、この分子のホスファターゼ活性によって直接誘導される作用を明らかにした。まず最初に、本発明者らは、細胞PIPシグナリングの尺度としてSer473リン酸化AKT(pAKT)のレベルを定量した。siRNA媒介TPTEノックダウンは、試験したすべての腫瘍株で細胞pAKTの実質的アップレギュレーションをもたらし(図3c)、内在性TPTEはがん細胞における構成的PI3K過剰活性化を抑制(counteract)することが証明された。この知見と合致して、腫瘍細胞におけるTPTEを抑制すると、pAKTシグナリングによって制御される細胞プロセスに、かなり大きな影響を与える。TPTEサイレンシングは、腫瘍細胞の低下した増殖因子依存性と関連づけられ、それは、持続的増殖速度を持ち(図3d)かつ血清枯渇下でもアポトーシスから保護される(図3e)という自律的表現型(autonomous phenotype)をもたらす。持続的AKT活性化の生物学的帰結と合致して(図3f)、HER−2/neu形質転換NIH3T3細胞(NIH3T3−her2)は、アポトーシスに対する抵抗性を発揮し、増殖因子枯渇下でも持続的増殖を示す。これらの形質転換線維芽細胞におけるTPTEの発現は、増殖および生存自律性をリセットし、pAKTレベルの低下(図3a)、厳密に血清依存的な増殖および増殖因子除去時のG0/G1細胞周期ブロックの迅速な発生(図3h)をもたらすが、突然変異したTPTEC338Sでは、これらの変化は起こらない。注目すべきことに、TPTEを発現させるNIH3T3−her2細胞は、免疫不全マウスでは依然として腫瘍原性である。しかし、腫瘍増殖はホスファターゼ活性を欠く対照と比較して著しく減少した(図3i)。これらの発見は、TPTEが上流のがん遺伝子誘導PI3K過剰活性化のバランスをとり、腫瘍原性を打ち消すことなく腫瘍細胞の増殖および生存を外部増殖因子依存性にすることを証明している。
【実施例5】
【0188】
TPTEは腫瘍細胞走化性を促進する
TPTE特異的siRNA二重鎖は、トランスウェル遊走アッセイで試験したすべての腫瘍細胞株において、PDGFおよびSDF−1/CXCL12勾配に対する腫瘍細胞遊走を減少させたが、対照二重鎖はそうでなかったことから(図4a)、TPTEはさまざまなクラスの化学誘引物質に対する腫瘍細胞走化性に本質的な役割を持つことが示された。さらにまた、本発明者らは、細胞遊走に対するHER−2/neuの作用はTPTEによって増強されるが、触媒的に不活性なその変異体では増強されないことも観察した。このがん遺伝子による形質転換に起因するNIH3T3−her2細胞のベースライン遊走速度の増加(McCulloch,P.ら,Eur.J.Surg.Oncol.23,304−309(1997))は、TPTEを同時発現させると、さらに増強された(図4b)。このような二重陽性細胞は、化学誘引物質の最も低い勾配にさえ、効率よく遊走したことから(図4c)、PI3K過剰発現とTPTE発現の組み合わせは、ケモカイン感知と効率のよい走化遊走との両方を促進することが示された。これと一致して、TPTEの発現は著しい形態変化、すなわち丸い細胞形状から極性を持つ多型的表現型への遷移ならびに仮足および糸状仮足の誘導をもたらすが、TPTEC338Sではそのような形態変化は起こらない。構成的に発現させるがん細胞株について本発明者らが示したとおり(図2d)、TPTEはこれらの突起部に強く濃縮されることから、脂質ホスファターゼは糸状仮足伸長の生成に直接関与することが示唆される。ケモカインおよび増殖因子シグナリングの変化をさらに探究するために、本発明者らは、化学誘引物質に応答して腫瘍細胞で起こるカルシウム動員動態を決定した。細胞内カルシウム濃度の蛍光色素分子補助可視化により、siRNAが誘導するTPTEダウンレギュレーションは、がん細胞においてPDGFおよびSDF−1/CXCL12が誘導するカルシウム動員をほぼ完全に打ち消すことが証明され(図4d)、これにより、腫瘍細胞の適正な走化応答におけるTPTEの決定的な役割がさらに確証された。EGF(Price,J.T.ら,Cancer Res.59,5475−5478(1999))およびPDGF(Heldin,C.H.およびWestermark,B.,Physiol Rev.79,1283−1316(1999))のような増殖因子受容体またはCXCR4およびCCR7などのケモカイン受容体(Muller,A.ら Nature 410,50−56(2001))によって媒介される走化性は、がんの浸潤および転移を促進する。本発明者らは、インビトロで観察されたTPTEの強い遊走促進活性が、インビボでの悪性疾患の自然経過に、特に腫瘍の転移拡散に関して関連するかどうかを評価した。この目的を達成するために、本発明者らは、十分に特徴づけられたコホートの乳がん患者34人から得た試料(Ahr,A.ら,Lancet 359,131−132(2002))および24の非小細胞肺がん標本を、リアルタイムRT−PCRにより、TPTE発現に関して型別した。TPTE発現と腫瘍病期または分化度との間に有意な相関関係はなかった。しかし本発明者らは、TPTEの発現と転移性疾患との間に統計的に著しく有意な際立った相関関係を見出した(表2)。
【0189】
【表2】

【0190】
注目すべきことに、TPTE陽性初期腫瘍を持つ患者の12%は、診断時に他の臓器への転移を持っていたが、TPTE陰性腫瘍を持つ患者は全員が転移を持たなかった(P<0.02)。リンパ節転移に関する相関関係はさらに有意性が高く、TPTE陰性群における36%に対して陽性群では76%だった(P<0.003)。最後に、転移におけるTPTEの直接的役割を確証するために、本発明者らは、走化性によって媒介される腫瘍細胞の転移性播種にとって極めて重要なステップである腫瘍細胞の血管外遊出を調べた。siRNAで処理し蛍光色素分子で標識したMDA−MB−231およびMCF−7乳がん細胞を、免疫不全マウスの尾静脈に注射した。6時間後に動物を犠牲にし、肺中に血管外遊出した腫瘍細胞の数を、蛍光顕微鏡法により、全載肺切片で定量した。どちらの腫瘍細胞株でも、siRNAによるTPTEのノックダウンは、血管外遊出した細胞の数を著しく減少させた(図4e)。さらにまた、転移形成性MDA−MB−231、MCF−7、およびMelJuso細胞を接種した数週間後にマウスの肺を調べたところ、TPTE siRNAトランスフェク細胞では、対照と比較して、転移性腫瘍負荷の著しい減少が明らかになった(図4f)。これとは独立して、巨視的病巣を生じるヌードマウスにおけるMDA−MB−231を使った実験的転移アッセイでも、これらの驚くべき発見が裏付けられ、TPTEは転移性播種に決定的役割を果たすことが証明された(図4g)。
【0191】
これらの実験は全体として、TPTEががん細胞の血管外遊出および転移拡散を本質的に促進することを実証している。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1a】悪性組織およびがん細胞株におけるTPTE発現の選択的活性化a,(a)通常のRT−PCRによる、正常ヒト組織、腫瘍標本およびがん細胞株におけるTPTE mRNA発現の解析。
【図1b】悪性組織およびがん細胞株におけるTPTE発現の選択的活性化b,(b)定量リアルタイムRT−PCRによる、正常ヒト組織、腫瘍標本およびがん細胞株におけるTPTE mRNA発現の解析。
【図1c】悪性組織およびがん細胞株におけるTPTE発現の選択的活性化c,正常組織、構成的にTPTEを発現させるがん細胞株、およびがん組織からそれぞれ得られるタンパク質溶解物のウェスタンブロット解析。対照は、TPTE cDNAトランスフェクトNIH3T3細胞(+)およびモックトランスフェクト対照細胞(−)とした。
【図1d】悪性組織およびがん細胞株におけるTPTE発現の選択的活性化d,TPTEに関する精巣および悪性組織の免疫組織化学的染色。免疫化に使用した組換えタンパク質フラグメントによるブロッキング(+)を緩衝液対照(−)と比較することにより、ポリクローナル抗血清pAK2091の特異性が確認された。
【図1e】悪性組織およびがん細胞株におけるTPTE発現の選択的活性化e,リアルタイムRT−PCR解析によって示される、メチル化阻害剤5−アザ−2'−デスオキシシチジンで処理した細胞およびHCT116細胞のDNAメチルトランスフェラーゼノックアウト変異体におけるTPTE mRNA発現の誘導。
【図2a】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。a,PI(3,4,5)PまたはPI(4,5)Pを基質として用いる、組換えタンパク質によるインビトロホスファターゼアッセイ。
【図2b】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。b,ポリクローナルウサギ抗血清の特異性を立証するためのTPTE−eGFP蛍光とpAK2091染色の共局在。
【図2c】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。c,TPTEを構成的に発現させるがん細胞株の免疫蛍光解析。
【図2d】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。d,PC−3前立腺がん細胞の糸状仮足および仮足における内在性TPTEの局在;矢印,細胞突起の外側縁部におけるTPTEの蓄積;星印,突起部の先端はTPTEを含まないように見える。
【図2e】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。e,PC−3細胞における内在的に発現されたTPTEの(e)ファロイジン染色によって可視化されたF−アクチンとの共局在。
【図2f】TPTEは形質膜に局在化したホスホイノシトール3'−ホスファターゼである。f,PC−3細胞における内在的に発現されたTPTEの(f)PLC−d1−PH−eGFPによって可視化されたPIPとの共局在。
【図3a】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。a,トランスフェクションの24時間後にリアルタイムRT−PCRによって定量した、TPTE特異的siRNAによるさまざまながん細胞株における内在性TPTE転写物レベルのダウンレギュレーション。
【図3b】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。b,TPTE siRNA(+)によるさまざまながん細胞株におけるTPTEタンパク質発現のダウンレギュレーション。このダウンレギュレーションは対照としてのスクランブルsiRNA二重鎖(−)では起こらない。
【図3c】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。c,TPTE siRNA(+)による細胞ホスホAKTレベルの増加。この増加は、対照としてのスクランブルsiRNA二重鎖(−)では起こらない。
【図3d】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。d,siRNAによるTPTEのノックダウン後にさまざまな濃度の血清を添加した培地で培養した細胞株の増殖速度およびアポトーシス分率。
【図3e】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。e,siRNAによるTPTEのノックダウン後にさまざまな濃度の血清を添加した培地で培養した細胞株の増殖速度およびアポトーシス分率。
【図3f】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。f,野生型NIH3T3線維芽細胞およびHER2/neu形質転換NIH3T3細胞(NIH3T3−her2)におけるHER−2/neu発現およびAKTリン酸化のウェスタンブロット解析。
【図3g】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。g,TPTE−eGFPトランスフェクトNIH3T3−her2細胞および対照におけるAKTリン酸化。
【図3h】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。h,触媒的に活性なTPTE−eGFPの安定発現はNIH3T3−her2細胞の自律的増殖を妨げることを、フローサイトメトリーによる細胞周期解析で決定した。
【図3i】TPTEはがん細胞において増殖因子依存的な表現型を樹立する。AKTリン酸化、細胞増殖および増殖因子枯渇によって誘導されるアポトーシスに対する耐性にTPTEが及ぼす影響を、siRNAトランスフェクトTPTE陽性腫瘍細胞株(aからe)、ならびに対照として、TPTEまたは触媒的に不活性な突然変異型TPTEC338SおよびeGFPを異所的に発現させる形質転換細胞(fからi)において解析した。i,免疫低下マウスにおける安定トランスフェクトNIH3T3−her2細胞のs.c.接種後の腫瘍増殖動態。
【図4a】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。a,細胞にsiRNAオリゴをトランスフェクトした48時間後に、PDGF−BB(200ng/ml)およびSDF−1a/CXCL12(200ng/ml)を化学誘引物質として使用して、トランスウェル遊走アッセイを実施した;(MDA−MB−435細胞は、CXCL12の受容体であるCXCR4を発現しない)。
【図4b】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。b,化学誘引物質としてFCSを用いたトランスウェル遊走アッセイによりNIH−3T3−her2トランスフェクタントの走化性を解析した。
【図4c】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。c,トランスウェル遊走アッセイにより、さまざまな濃度のPDGF−BBのNIH3T3−her2トランスフェクタントの走化性感知を解析した。
【図4d】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。d,siRNAによるTPTEのノックダウンを行った24時間後のMDA−MB−231がん細胞におけるPDGF誘導カルシウム動員の蛍光色素分子補助可視化;星印,細胞の応答性を確認するために、カルシウムイオノフォア(イオノマイシン)刺激により、細胞内カルシウム貯蔵を細胞から放出させた。
【図4e】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。e,NOD/SCID(MDA−MB−231)マウスまたはヌード(MCF−7,MelJuso)マウスの尾静脈へのTPTE siRNA処理および標識転移形成細胞の注射に基づく実験的転移アッセイ。接種の数週間後にマウスの肺における腫瘍負荷をリアルタイムPCRで定量した(f)。
【図4f】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。f,NOD/SCID(MDA−MB−231)マウスまたはヌード(MCF−7,MelJuso)マウスの尾静脈へのTPTE siRNA処理および標識転移形成細胞の注射に基づく実験的転移アッセイ。接種の数週間後にマウスの肺における腫瘍負荷をリアルタイムPCRで定量した(f)。
【図4g】TPTEの発現は細胞走化性および腫瘍細胞の転移拡散を促進する。g,MDA−MB−231細胞を接種した4週間後のヌードマウスから独立実験によって得た代表的な肺およびHE染色肺組織切片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖を含み、そのセンスおよびアンチセンスRNA鎖がRNA二重鎖を形成し、およびセンスRNA鎖がTPTE mRNA中の約19から約25連続ヌクレオチドのターゲット配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を含むsiRNA。
【請求項2】
単離される、請求項1に記載のsiRNA。
【請求項3】
前記TPTE mRNAが、
(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体、
(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸配列とハイブリダイズする核酸配列、
(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸配列、
(d)(a)、(b)または(c)の核酸配列に相補的な核酸配列、および
(e)配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列、その一部または誘導体、
からなる群より選択される核酸配列を含む、請求項1または2に記載のsiRNA。
【請求項4】
前記siRNA分子が二つの核酸フラグメントから構築され、第1のフラグメントはsiRNA分子のセンス領域を含み、第2のフラグメントはsiRNA分子のアンチセンス領域を含む、請求項1から3のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項5】
RNA二重鎖を形成するセンスおよびアンチセンスRNA鎖が一本鎖ヘアピンによって共有結合している、請求項1から3のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項6】
siRNAは、非ヌクレオチド物質をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項7】
センスおよびアンチセンスRNA鎖がヌクレアーゼ分解に対して安定化している、請求項1から6のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項8】
3'−オーバーハングをさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項9】
3'−オーバーハングが1から約6個のヌクレオチドを含む、請求項8に記載のsiRNA。
【請求項10】
3'−オーバーハングが約2個のヌクレオチドを含む、請求項8に記載のsiRNA。
【請求項11】
センスRNA鎖が第1の3'−オーバーハングを含み、アンチセンスRNA鎖が第2の3'−オーバーハングを含む、請求項8に記載のsiRNA。
【請求項12】
第1および第2の3'−オーバーハングが、独立して、1から約6個のヌクレオチドを含む、請求項11に記載のsiRNA。
【請求項13】
第1の3'−オーバーハングがジヌクレオチドを含み、第2の3'−オーバーハングがジヌクレオチドを含む、請求項12に記載のsiRNA。
【請求項14】
ジヌクレオチドがジデオキシチミジル酸またはジウリジル酸である、請求項13に記載のsiRNA。
【請求項15】
3'−オーバーハングがヌクレアーゼ分解に対して安定化している、請求項8から13のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項16】
前記ターゲット配列が、配列番号15のヌクレオチド位置3から21、配列番号18のヌクレオチド位置3から21、配列番号21のヌクレオチド位置3から21、配列番号24のヌクレオチド位置3から21、配列番号27のヌクレオチド位置3から21、配列番号30のヌクレオチド位置3から21、および配列番号33のヌクレオチド位置3から21からなる群より選択される核酸配列を持つ、請求項1から15のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項17】
前記センスRNA鎖が配列番号16の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号17の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項18】
前記センスRNA鎖が配列番号19の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号20の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項19】
前記センスRNA鎖が配列番号22の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号23の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項20】
前記センスRNA鎖が配列番号25の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号26の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項21】
前記センスRNA鎖が配列番号28の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号29の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項22】
前記センスRNA鎖が配列番号31の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号32の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項23】
前記センスRNA鎖が配列番号34の配列を有し、アンチセンスRNA鎖が配列番号35の配列を有する、請求項1から16のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項24】
請求項1から23のいずれかに記載のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項25】
請求項1から23のいずれかに記載のsiRNAのセンスRNA鎖、アンチセンスRNA鎖、または両方を発現させるための核酸配列を含む組換えウイルスベクター。
【請求項26】
請求項1から23のいずれかに記載のsiRNA、請求項24に記載の発現ベクター、および/または請求項25に記載の組換えウイルスベクターを含む医薬組成物。
【請求項27】
がんおよび/またはがん転移の処置または予防に使用することができる、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
がんが肺腫瘍、乳腫瘍、前立腺腫瘍、黒色腫、大腸腫瘍、胃腫瘍、膵腫瘍、ENT腫瘍、腎細胞がんまたは子宮頸がん、大腸がんまたは乳がんである、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
TPTEの発現を阻害する方法であって、TPTE mRNAが分解されるように、請求項1から23のいずれかに記載のsiRNA、請求項24に記載の発現ベクター、請求項25に記載の組換えウイルスベクターおよび/または請求項26から28のいずれかに記載の医薬組成物の有効量を、対象に投与することを含む方法。
【請求項30】
対象におけるがんを処置しかつ/または対象におけるがん転移を阻害する方法であって、請求項1から23のいずれかに記載のsiRNA、請求項24に記載の発現ベクター、請求項25に記載の組換えウイルスベクターおよび/または請求項26から28のいずれかに記載の医薬組成物の有効量を、対象に投与することを含む方法。
【請求項31】
前記がんまたはがん転移が、
(i)(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、
(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、
(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および
(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸
からなる群より選択される核酸、および/または
(ii)(i)における核酸によってコードされるタンパク質またはペプチド、
の発現または異常発現を特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
(i)における核酸が、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列、その一部または誘導体を含み、かつ/または(ii)におけるタンパク質またはペプチドが、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
siRNA、発現ベクター、組換えウイルスベクターおよび/または医薬組成物が、放射線療法、化学療法または外科手術と組み合わせて投与される、請求項29から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
対象がヒトである、請求項29から33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
siRNAが組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターから発現される、請求項29から34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
siRNAが経腸投与経路および/または非経口投与経路によって投与される、請求項29から34のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
がんの転移挙動および/またはがんの再発の存在を診断し、監視しかつ/または予後判定するための方法であって、患者から単離した生体試料において、
(i)(a)配列番号1、2、3、4、5、6、および7からなる群より選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸、
(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリダイズする核酸、
(c)(a)または(b)の核酸に対して縮重している核酸、および
(d)(a)、(b)または(c)の核酸に相補的な核酸、
からなる群より選択される核酸を検出し、またはその量を決定すること、および/または
(ii)(i)における核酸によってコードされるタンパク質もしくはペプチド、またはその一部もしくは誘導体を検出し、またはその量を決定すること、および/または
(iii)(ii)におけるタンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体に特異的な抗体を検出し、またはその量を決定すること、および/または
(iv)(ii)におけるタンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、任意にMHC分子と複合体を形成しているものに特異的なTリンパ球を検出し、またはその量を決定すること
を含む方法。
【請求項38】
(i)における核酸が、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列、その一部または誘導体を含み、かつ/または(ii)におけるタンパク質またはペプチドが、配列番号8、9、10、11、12、13、および14からなる群より選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
核酸、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、抗体またはTリンパ球の存在、および/または前記がんを持たない対象、前記がんのリスクを持たない対象、前記がんの転移を持たない対象、前記がんの転移のリスクを持たない対象、前記がんの再発を持たない対象、および/または前記がんの再発のリスクを持たない対象における量と比較して増加している核酸、タンパク質もしくはペプチドまたはその一部もしくは誘導体、抗体またはTリンパ球の量が、前記がんの転移挙動もしくは前記がんの転移挙動の可能性および/または前記がんの再発もしくは前記がんの再発の可能性を示す、請求項37または38に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図3g】
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【図3h】
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【図3i】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図4g】
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【公表番号】特表2009−523409(P2009−523409A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543736(P2008−543736)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011785
【国際公開番号】WO2007/065690
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(504346260)ガニメド ファーマシューティカルズ アーゲー (21)
【出願人】(507221221)
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG−UNIVERSITAET MAINZ VERTRETEN DURCH DEN PRAESIDENTEN
【住所又は居所原語表記】Saarstrasse 21, 55122 Mainz, Germany
【Fターム(参考)】