しいたけ菌床榾木およびその製造方法
【課題】害虫による食害等の害が発生することのないしいたけ菌床榾木およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも底面を被覆材により密封状態で被覆されているしいたけ菌床榾木およびその製造方法。
【解決手段】少なくとも底面を被覆材により密封状態で被覆されているしいたけ菌床榾木およびその製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌床栽培(しいたけ菌床榾木の製造および菌床榾木によるしいたけ栽培)において発生する害虫を防除することを目的とし、菌床榾木の生産性やしいたけ子実体の品質・商品性を著しく低下させる害虫による弊害のないしいたけ菌床榾木およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年しいたけ栽培においても、えのきだけやぶなしめじ,まいたけ等のようにおが粉に米糠等の栄養剤を混合した培地を用いて工業的生産工程にて量産する菌床栽培が行われている。しかしながら、しいたけの場合、他の食用きのこ類の工業的生産と異なり、菌床栽培に用いる菌床榾木の製造期間が極めて長く、また栽培では他のきのこ類が1回採りであるのに対し、長期間に渡って同じ菌床榾木を用い継続的に子実体を採取することが行われている。したがって、これら長期に渡る菌床栽培では、しばしば害虫が発生し、その食害により、子実体であるしいたけの品質低下等の大きな被害を招いている。
【0003】
菌床栽培で問題となる害虫としては、ハエ類では、クロバネキノコバエ,キノコバエ,ショウジョウバエ,タマバエ,ガガンボ,ユスリカ等であり、幼虫が直接菌糸体や子実体を食害したり、害菌の伝播やダニ,線虫の媒体となる等、品質や収量性の著しい低下を招いている。ダニ類では、コナダニ,ケナガコナダニ,ヒナダニ,ホコリダニ等があり、ハエ類と同様に直接菌糸体や子実体を食害したり細菌やトリコデルマなどの害菌を伝播することが知られている。また、これら害虫は栽培施設内で年間を通して繁殖し、小バエ類は商品化したしいたけ(子実体)のパック内にしばしば混入し、店頭でのクレームを招いている。
【0004】
これら害虫の防除方法としては、過去には化学的防除方法として薬剤が使用されたが、これらは速効性があるものの、人体・環境への影響や子実体への残留性の問題があり、消費者・生産者の無農薬への志向の高まりなどから近年は使用されなくなっている。
【0005】
一方、人体や環境に影響を与えない害虫防除方法として、飛翔害虫(ハエ類の成虫)の捕殺を目的とした粘着シートや電撃殺虫器に代表される誘蛾灯を用いた殺虫方法が用いられている。しかし、これらの方法では、捕虫される害虫の種類が限定されることや、多く設置しても捕虫能力が低い上、シートの交換や殺虫器の清掃を頻繁に実施しなければ効果が持続しないため、害虫の増殖スピードに追い着けない状況となっている。
【0006】
また、上記方法はハエ類の成虫に限定されるため、直接食害するハエ類の幼虫やダニ類への対策としては、大型の幼虫は手作業によって取り除いたり、菌床榾木を一本ずつ水洗浄することが行われている。しかし、これらの方法は、ハエ類の幼虫・卵及びダニ類の除去に有効ではあるが、膨大な手間を必要とし、発茸した菌床では子実体の商品価値を損なったり、原基や芽を傷付けるため行うことができないというように、実施時期に制限がある。
【0007】
これらを解決する方法として、多価アルコールの脂肪酸エステルを含有する溶液(きのこ栽培用害虫駆除剤)にきのこの菌床榾木を浸漬または溶液を散布することにより害虫を駆除する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
上記方法は作業時間を短縮し効率的に害虫を駆除でき、溶液の成分は安全性に問題は無いものの、害虫の増殖を抑えるためには定期的な使用が必要なこと、安全であっても化学的物質を発茸した菌床榾木に散布することへの抵抗が強いこと等より、より効率的で安全な防除方法の検討が行われている。
【特許文献1】特許第3156918号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、害虫による食害等の害が発生することのないしいたけ菌床榾木およびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも底面を被覆材により密封状態で被覆されているしいたけ菌床榾木を第1の要旨とし、この第1の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊(菌糸が蔓延した状態の培地を意味する。以下同じ)をつくり、上記菌糸塊、または上記菌糸塊を培養して得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆するしいたけ菌床榾木の製造方法(第1の製法)を第2の要旨とする。
【0011】
また、本発明は、上記第2の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、上記菌糸塊を培養して菌床榾木とする方法が、上記菌糸塊を培養容器内または培養容器から取り出して追培養するものである、しいたけ菌床榾木の製造方法(第2の製法)を第3の要旨とする。この第2の製法で得られる菌床榾木は、散水を施す工程を経ていないため、つぎに説明する第3の製法で得られる菌床榾木とは異なり、表面に硬質化した木質状の層を備えていない。なお、本発明において、追培養とは、菌糸塊を熟成させ、栽培に供することが可能な菌床榾木とするために行う培養をいう。
【0012】
さらに、本発明は、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり(第1培養工程)、この菌糸塊を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより、表面に新たな菌糸層を形成して菌糸塊を被覆させ(第2培養工程)、ついで、この菌糸塊に対して散水を施しながら培養することにより上記新たに形成された菌糸層を硬質化して菌床榾木を製造する(第3培養工程)方法であって、上記第1培養工程で得られた菌糸塊、第2工程で得られた表面に新たな菌糸層が形成された菌糸塊または第3培養工程で得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆する第1の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法(第3の製法)を第4の要旨とする。この第3の製法で得られた菌床榾木は、散水を施す上記第3培養工程を経ているため、表面に硬質化した木質状の層を備えている。
【0013】
このように本発明において、菌床榾木とは、その表面に硬質化した木質状の層を備えるものと、硬質化した木質状の層を備えないものとの、双方を含むことを意味する。本発明者らは、菌床栽培において、人体や環境に悪影響を与えることなく、しかも簡便に用いることができる害虫の防除方法を得るため、害虫のライフサイクルを中心に鋭意研究を重ねた。その結果、害虫は、菌糸塊およびしいたけ菌床榾木表面の水分率の高い部位、特に底部で、卵、幼虫、蛹、成虫のライフサイクルを繰返し増殖することを見いだした。そして、上記水分率が高い部位を被覆材により密封状態に被覆すると、害虫が発生しているときには、その動きを封じて駆除することができ、また、害虫が発生していないときには、産卵を防ぐことにより、害虫の繁殖を防ぐことができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
本発明のしいたけ菌床榾木は、子実体であるしいたけを発生させるための散水や浸水等によって水分率が高くなり、表面の空気の流れが悪く乾燥しにくい部位、特に底部を被覆材にて密封状態に被覆している。そのため、内部に害虫が発生しているときには、その外出を封じて駆除することができ、また、害虫が発生していないときには、産卵を防ぎ、繁殖を防止して害虫の発生を阻止するものである。
【0015】
さらに、上記被覆材が、蝋およびワックスの少なくとも一方(以下、蝋、ワックスをまとめて「ワックス類」という)であると、菌糸塊もしくは菌床榾木表面にすでに発生している害虫は、成虫、蛹、卵のいずれの形態であるかを問わず、被覆するため融解した高温のワックス類にさらされた後、すぐにこれが固化するため死滅するという効果を奏する。
【0016】
また、上記被覆材が、プラスチックまたは金属のフィルムであると、ワックス類を用いるときに行う加熱融解操作などの手間を必要としないため、より手軽に実施することができるようになる。
【0017】
この種のワックス類およびフィルム等は長期に渡り物性が変化せず、それ自身は害虫の繁殖源とならないため、一度被覆処理を行うと菌床栽培(しいたけ菌床榾木の製造および菌床榾木によるしいたけ栽培)の全工程を通して害虫防除の効果が持続する。
【0018】
また、本発明の第1の製法によれば、培養容器から菌糸塊を取り出してすぐに、または適当な時期に、菌糸塊の底面を被覆するため、被覆時期や追培養の方法を自由に決定することができ、しいたけ菌床榾木の製造方法の幅が広がるようになる。その結果、製造工程の効率化を図ることができ、収益性を高めることが可能となる。なお、この第1の製法は、散水工程を取り入れるか否かなどにより、表面に硬質化した木質状の層を備える菌床榾木と、備えない菌床榾木のいずれの菌床榾木を製造することができる。
【0019】
本発明の第2の製法によれば、この製法により得られる菌床榾木は、培養袋等の培養容器内または取り出すなどの方法により、しいたけ菌糸の蔓延後も長期間に渡って追培養される。したがって、しいたけ菌が出す匂いと培地が分解された匂い、代謝物の匂いなど様々な匂いが強くなり、これらが混じることで、害虫を強く誘引するようになる。また、本発明の第3の製法による菌床榾木と異なり、その表面に硬質化した木質状の層を備えておらず、菌床榾木の表面が柔らかいため、害虫の被害をより受け易い状態となっている。したがって、このような菌床榾木を被覆材により被覆することによって、害虫の繁殖を効果的に防止することができ、ひいては収益性をも改善できる。また、この第2の製法によれば、より少ない培養工程数で菌床榾木を得ることができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0020】
本発明の第3の製法によれば、菌糸塊の段階、菌床榾木の段階のいずれの段階で、その底面を被覆して上記のしいたけ菌床榾木を製造することができるため、栽培工程だけでなく、製造工程において適宜に被覆する対象を選ぶことができ、菌床榾木の品質安定化、製造工程の効率化を図ることができる。その結果、栽培での害虫の繁殖を防止し、子実体品質の向上やパック詰め作業の軽減など大きく収益性を改善し、しいたけ菌床榾木の量産化、価格の低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0022】
まず、本発明のしいたけ菌床榾木を製造する工程を、第3の製法にもとづいて説明する。図1に示すように、ポリエチレン製の袋1(培養容器)内でしいたけ種菌を接種した培地を培養し菌糸塊2を作製する(第1培養工程)。図1において1aはフィルターである。このフィルターは通気および通湿のために設けた通気孔の上に取り付けることにより、雑菌の侵入を防ぐものである。つぎに、ポリエチレン製の袋1から菌糸塊2を取り出し、図2に示すように、上面開放型で側面・底面に多孔3を有するコンテナ4(ポリプロピレン製)に菌糸塊2を整列配置する。そして、これをパレット5(図3)に多段に積載し、室温の培養室(図示せず)において、培養室の湿度を飽和ないしその近傍まで高め3〜10日経過させ培養する(第2培養工程)。なお、パレット5の底面5aは、格子状に形成されているため、空気や水の流れを妨げるものではない。つぎに、培養室内の湿気を開放した後、図3に示すように、ノズル7から散水を行い、好ましくは7日間以上、より好ましくは20〜90日間培養を行う。上記散水は、24時間連続的にしてもよいし、8時間ごとの間欠散水等をしてもよい。また、培養期間を2段階に分け、期間の前半では菌糸塊が濡れた状態を保つように比較的多量の水を施与し、期間の後半では菌糸塊の重量が一定に保たれる程度に水量を減じたり、間欠散水等したりするようにしてもよい(第3培養工程)。
【0023】
以上の工程において、培養容器から取り出した菌糸塊2は、大気にさらされた状態で培養、散水されるため害虫や害菌が付着しやすい状態になっている。しかし、図3に示すように菌糸塊表面は散水により洗浄されるため、害虫・害菌の増殖はある程度抑えられる。すなわち、図3の拡大断面図である図4に示すように、散水9により、菌糸塊2の天面や側面は水が勢いよく流れるため充分に洗浄されるが、底面は水の勢いがなく流れにくいため洗浄されにくい。また、菌糸塊2の天面や側面は風が通りやすいため水気がこもらないが、底面は風に通りにくく水が蒸散しにくいため水気がこもりやすい。そのため、底面付近は、洗浄されにくい上、被膜の水分が多く柔らかい状態となり、虫害を受けやすくなっている。
【0024】
本発明の第3の製法では、このような底面およびその近傍に対して、ワックス類を付着させることで被覆を行い、害虫の発生を防ぐ。このワックス類の付着は、第1培養工程で得られた菌糸塊を、加熱により融解したワックス類液に浸して行ったり、第2培養工程で培養をすませた菌糸塊の底部を上記ワックス類液に浸して行う。また、第3培養工程で得られた菌床榾木の底部を上記ワックス類液に浸して行ってもよい。底部をワックス類の付着により密封状態に被覆した状態を図5に示す。図5において、2は上記菌糸塊または菌床榾木であり、6はワックス類の付着した被覆部位である。図5(A)は外観斜視図、図5(B)はその底面図である。また、ワックス類の付着は、底面部位だけでなく、図6に示すように側面部位に及んでいてもよい。図6(A)は外観斜視図、図6(B)はその底面図である。
【0025】
雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高める方法は、閉鎖空間(菌糸塊の呼吸に必要な換気を施したおおむね閉鎖した状態および完全に閉鎖した状態の双方を含む)において、加湿器等を用いる等の方法があげられる。なお、閉鎖空間の形成は、家屋によって形成するだけでなく、ビニール等のシートで菌糸塊を図2のように整列させたコンテナを被覆して形成するようにしてもよい。このような第2培養工程および第3培養工程を経ることにより、菌床榾木表面の褐色化が進み、硬質化した木質状の層が形成されると共に、菌床榾木内部の培地成分の分解や菌糸体への養分蓄積が効率的に進み、栽培における子実体の発生が安定し、菌床榾木あたりの収穫量も増加する。したがって、本発明の第3の製法により得たしいたけ菌床榾木は、より工業的生産に適したものとなる。
【0026】
また、本発明の第3の製法では、上記第2培養工程や第3培養工程の過程で、菌糸塊表面に新たに形成される菌糸層により、菌糸塊底部とこれに接するコンテナとが癒着し、取り外し作業に手間を要する場合がある。しかし、上記第1培養工程後に被覆材で菌糸塊底部を密封状態に被覆すれば、新たに形成される菌糸層がこの被覆材を越えて成長することは無く、したがって、菌糸塊底部とこれに接するコンテナとの癒着は起こらず、作業効率が良くなる。
【0027】
つぎに、本発明の第1の製法は、まず図1に示すようなポリエチレン製袋1内において、しいたけ種菌が接種された培地を培養して菌糸塊2をつくる。そして、その菌糸塊2をポリエチレン製袋1から取り出し、先に述べたと同様に、その底部をワックス類液に浸し図5ないし図6に示すように、底部ないし、その上の側面に到るまでワックス類液を付着させ、密封状態に被覆する。被覆する時期は、任意に決定することができ、菌糸塊2をポリエチレン製袋1から取り出した直後であっても、時間が経過した後でもよい。また、ポリエチレン製袋1から取り出した菌糸塊2は、場合により、破砕して再成形したり、高温処理したり、浸水などを行ってもよい。この場合、被覆は、破砕して再成形した例では、再成形した菌糸塊に対して行う。
【0028】
また、本発明の第2の製法は、第1の製法と同様に、図1に示すようなポリエチレン製袋1内において、しいたけ種菌が接種された培地を培養して菌糸塊2をつくる。そして、その菌糸塊2をその袋内または別の容器に移し替えて、あるいは取り出してビニールシート等を被せるなどして、培養を続ける(追培養)。この追培養を、使用するしいたけ種菌の種類や、培養方法などにより異なるが、一般的には、菌糸塊表面が凹凸状に隆起したり、褐色になる等、菌糸塊の状態に変化が見られるまで(栽培に供することが可能となるまで)行い、前記菌糸塊をしいたけ菌床榾木とする。このようにして得た菌床榾木について、先に述べたと同様に、その底部をワックス類液に浸し図5ないし図6に示すように、底部ないし、その上の側面に到るまでワックス類液を付着させ、密封状態に被覆する。被覆する時期は、任意に決定することができ、菌糸塊2を袋1から取り出した直後であっても、時間が経過した後でもよい。
【0029】
この第2の製法は、追培養に時間を要するものの、雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養したり、散水を施しながら培養する工程を必要としないので手間や設備がかからないという利点がある。しかし、栽培における子実体の発生の安定性は、本発明の第3の製造方法で得たしいたけ菌床榾木が勝る。
【0030】
以上のようにして得られたしいたけ菌床榾木は、しいたけ栽培に供される。このしいたけ栽培の水分管理の方法は、散水方式と浸水方式の2種類に大別される。散水方式は、温度変化(日較差)を与えながら散水をしいたけ菌床榾木表面の弾力を損なわない程度(0.5〜3時間/日)実施し、菌床榾木への水分供給と表面の洗浄を行い子実体を発生させる方法であり、浸水方式は、菌床榾木を比較的低温(13〜18℃)の水に半日〜2日程度浸水し、温度と水の刺激で発茸を促す方法である。浸水方式は浸水刺激により発茸を促すことを目的としているため、発茸と発茸の間の期間、すなわち菌床榾木を休養させる間は、通常、浸水ではなく散水を施すことにより水分を補給している。浸水方式は、菌床榾木の移動や浸水操作、棚への整列など手間がかかり、浸水後、子実体が集中的に発生するのに対し、散水方式は、浸水の手間を省略でき、毎日一定量の子実体が発生するので管理が容易であるという利点がある。なお、上記温度変化を与えたり、低温にする方法は、自然温度を利用したり、冷房機や暖房機を用いる方法などがある。
【0031】
水分管理を散水方式で行う状態を図7に示す。しいたけ菌床榾木を用いた施設栽培では、図示のように栽培棚10を用いて多段にしいたけ菌床榾木11を収容し、適度な温度刺激や散水等による刺激を与えて子実体12の収穫を行っている。上記のしいたけ菌床榾木の製造と同様に、しいたけ栽培においても散水8による害虫に対する洗浄効果は期待されるが、しいたけ菌床榾木の製造と同様、しいたけ菌床榾木11の底面部位には水洗浄が充分に及ばず(図7の要部拡大図である図8)、さらに菌床榾木の底面付近は天面や側面に比べて水分率が高くなる。
【0032】
先に述べたように、水分管理を浸水方式で行う場合であっても、通常、浸水操作に手間を要するため浸水方式単独で行なうことはなく、散水方式を併用したり、散水方式で発生が少なくなったら浸水操作を行うなど、季節や栽培ステージに応じて浸水および散水の両方式を使い分けている。水分管理を浸水方式で行う場合(図示せず)においては、浸水操作により害虫は洗い流され、浸水操作後しばらくの期間は虫害を受け難いが、菌床を袋から取り出してから菌床榾木を浸水するまでの期間(菌床の培養や熟成,浸水前の子実体発生期間など)や浸水と浸水の間の期間(子実体発生期間や休養期間など)では、害虫の繁殖が見られる。そして、これらの浸水を行わない期間は、通常、散水を施すことにより水分を補給している。したがって、この散水により、菌床榾木の天面や側面は水が勢いよく流れるため充分に洗浄されるが、底面は水の勢いがなく流れにくいため洗浄されにくい状態となる。また、菌床榾木の天面や側面は風が通りやすいため水気がこもらないが、底面は風通りが悪く水が蒸散しにくいため水気がこもりやすい。そのため、浸水方式を行う場合であっても、菌床を袋から取り出してから菌床榾木を浸水するまでの期間や浸水と浸水の間の期間等の菌床榾木の底面付近は、洗浄されにくい上、水分が多く柔らかい状態となり、虫害を受けやすくなっている。
【0033】
浸水方式は浸水刺激を与え集中的に子実体の発生をさせるため、「浸水→集中的な発生→休養期間(散水)→浸水」を、例えば6ヶ月の栽培期間で3〜5回の繰り返して実施する。子実体は菌床榾木の水分や養分を使用して発生するが、発生が一時期に集中すると、菌床榾木は急激に水分や養分を失い、傷みやすい状態となる。また、浸水時の移動や浸水操作により菌床榾木は破損することもある。このような浸水時の移動や浸水操作で破損したり、子実体の集中的な発生により傷みやすい状態の菌床榾木は、害虫の被害を受けやすくなる。さらに、浸水方式を用いる場合、浸水後集中的に子実体が発生することから、浸水時期をずらした菌床榾木、すなわち栽培ステージの異なる菌床榾木を同じ栽培施設内で栽培し、栽培施設内において子実体の発生時期が一時期に集中せず、平準となるように調整している。したがって、上記の被害を受けやすい状態の菌床榾木に害虫が発生し、繁殖を繰返し増殖すると、浸水操作直後の虫害を受けにくい菌床榾木にまで被害は及ぶようになる。なお、害虫の発生には、高い外気温(繁殖サイクルが早くなる)、栽培施設の近隣に廃菌床榾木や堆肥などの害虫の繁殖源がある等の要因も大きく影響する。
【0034】
以上のように、害虫の繁殖に与える要因は様々であるが、洗浄が充分でなく、水分環境が良い(ジメジメした湿り気の多い)部位、特に底面で繁殖する。ハエ類は、このような菌糸塊または菌床榾木の水分率の高い部位、特に底面に産卵し、卵,幼虫,蛹,成虫のライフサイクルをこの底面部位で繰返し増殖する。ダニ類の場合も同様に、菌糸塊および菌床榾木の底面部位で卵,幼虫,若虫,成虫のライフサイクルを繰り返す。更に、培養施設内は恒温で湿度も高く害虫の増殖には適しており、年間を通して繁殖が可能となっている。
【0035】
本発明のしいたけ菌床榾木は、このような洗浄が充分でなく、水分率が高い特に底面部位を、ワックス類等の被覆材で密封状態に被覆しているため、害虫の発生を防止することができる。ここで図9に示すように、通常、しいたけは種菌を接種した位置に相関して子実体12が発生し、接種は、通常、培地(のちの菌床榾木)の天面付近や培地に植菌孔を開けてこの穴に落としこむ形で行うため、子実体12はしいたけ菌床榾木11の天面や側面から多く発生し、底面からはほとんど発生しない。したがって、上記被覆が子実体の発生に影響することは少ない。
【0036】
なお、上記の説明において、蝋、ワックスをワックス類と称しているが、ここで蝋とは、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルであり、蝋エステルを主成分とするカルナウバ蝋、鯨蝋などがこれに属し、その物理的性質から蝋様物質と解釈されるトリグリセリドからなる木蝋などをも含むものをいう。ワックスとは、炭化水素からなるパラフィンワックスなどをいう。したがって、本発明において、ワックス類(蝋、ワックス)とは、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル,中性脂肪,パラフィンからなる群から選ばれた少なくとも一つを含むものをいう。
【0037】
つぎに、ワックス類の具体例を示す。蝋は、植物系蝋(木蝋)として、ハゼ蝋,ウルシ蝋,カルナウバ蝋,サトウキビ蝋,パーム蝋,米糠蝋などがあり、動物系蝋として、蜜蝋,鯨蝋,イボタ蝋,羊毛蝋などがあげられる。ワックスは、石油系ワックスとして、パラフィンワックス,マイクロクリスタリンワックスなどがあり、合成ワックスとして、フイッシャートロプシュワックス,ポリエチレンワックス,油脂系合成ワックス(エステル,ケトン類,アミド),水素化ワックスなどがあげられる。
【0038】
このようなワックス類は、前記の種類の単品あるいは複数混合したものでも良く、また、松脂等の植物脂や豚脂・牛脂等の動物脂を加えて物性調整や効果向上を図ったものや、害虫が嫌がるニーム、ユーカリ、ハーブ、ニンジン葉、トマト葉、マリーゴールド葉、ヨモギ葉、柑橘系の果皮、木酢液、ニンニクなどの抽出成分、スギオール,キノイド,スチルベン,ピラン,サポニン,テルペン類など、松,赤松,杉,米杉,檜,桜,ヒバ,クス,ネズコ,タイヒ,ユーカリ,コウヤマキ,イヌマキ,センダンなどの木材や樹皮からの抽出成分や、ユーカリ油,ミント油,ローズ油,セージ油,ヒバ油などの抽出物や精油成分等の忌避剤成分を混入させたものでも良い。また、これらは抽出や分離などの操作を経由せずに、乾燥や粉砕等を適宜行って直接ワックス類に混ぜて使用しても良く、異なる素材を層状に重ねることも可能である。
【0039】
ワックス類による被覆は、先に述べたように、加熱して融解させたワックス類液に、菌糸塊や菌床榾木の一部を浸漬し行うが、塗布したり、吹き付け等して行ってもよい。これにより、菌糸塊や菌床榾木の表面の菌糸体は一時的に高温にさらされ、かつワックス類が固化するため、害虫は、主としてこれで死滅する。ここでワックス等は、室温では固体で100℃より低い融点を持つ物質であり、例えばパラフィンの場合の融解温度は概ね50〜75℃の範囲にあり、これらは室温ですぐに固化するものである。したがって、極端な高温にならないように注意を払えば、被覆操作による菌糸体の成育の阻害はほとんど見られない。また、上記ワックス類による被覆の際、害虫が死滅することより、本発明の菌床榾木は、害虫の予防的な効果だけでなく、害虫が発生した後の駆除対策としても有効である。
【0040】
また、上記の説明ではワックス類による被覆は、底部を中心に行っているが、菌糸塊や菌床榾木の全部を浸漬等し密封しても差し支えない。また、菌糸塊や菌床榾木の形状は図10〜12に示すような形状にしてもよく、これらの一部を図に示す様にワックス類6で密封状態に被覆してもよい。なお、しいたけの栽培においては、ワックス類で被覆した部位から子実体が発生することがあるが、ワックス類は子実体の成長の力で容易に崩すことができるため、子実体の発生数や品質に影響することは少ない。
【0041】
さらに、本発明第1の製法により得られる菌床榾木の一部、および本発明第2の製法により得られる菌床榾木は、その表面に硬質化した木質状の層を備えていないため、場合により、散水や浸水、収穫などの際に一部が破損することがある。破損した箇所は、表面に比べ柔らかい内部がむき出しの状態となるため、虫害を受けやすくなる。その際、上記ワックス類でその破損箇所を被覆すると、害虫防除効果だけでなく、破損箇所を補強するという成形性保持効果をも得ることができる。
【0042】
なお、ワックス類で被覆する以外の方法としては、図13に示すように、菌糸塊ないし菌床榾木の底面を、プラスチックフィルムまたは金属フィルムに糊料を塗布したフィルムシート13で覆う方法があげられる。底面を含む側面をフィルムシート13で覆うようにしてもよい。プラスチックフィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリエチレンフタレートなどのプラスチック製品があげられ、また、金属フィルムの材質としては、アルミ、ステンレス、銅などがあげられる。これらは、単品・複層品・コーティングなどいずれでも良く、銅によるナメクジ防除や銀による防菌効果などの金属による効果も期待できる。
【0043】
これらのフィルムは、菌糸塊、菌床榾木に害虫が浸入することを防ぐと同時に、そのフィルム自身が汚染源にならないものであれば良く、害菌の繁殖防止やハエ類、ダニ類およびナメクジ等の害虫忌避等の目的でフィルムに上記天然物抽出物や製油成分等を練り込んだり、塗布したものでも良い。糊料も特に限定するものでは無く、市販のシールテープを所定の形状に切断して用いることもできる。
【0044】
被覆材としてフィルムシートを用いると、ワックス類を用いるときに必要な加熱による融解操作などの手間を無くすことができるため、さらに手軽に実施することができる。しかし、フィルムシートで被覆する場合、菌糸塊や菌床榾木とフィルムシートとの隙間が生じやすく、菌糸塊や菌床榾木の表面に凹凸があるとこの隙間に水が溜まり、逆にこの水が汚染源となる場合がある。したがって、フィルムシートを用いる場合には、このような隙間ができないよう注意を払うことが肝要である。この点からフィルムシートは、本発明の第3の製法による菌床榾木の製造において用いるのが望ましい。
【実施例】
【0045】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例は、発生しているハエ類の駆除(実施例1、2)と、ハエ類の繁殖防止(実施例3〜5)と、発生しているダニ類の駆除(実施例6)とに分けて説明している。
【0046】
<発生しているハエ類の駆除>
〔実施例1〕
クロバネキノコバエ、ショウジョウバエ等のハエ類が発生している栽培ハウス(75坪、21000本規模、温度10〜20℃の日較差を設け各8時間程度保持、湿度70〜100%)で栽培された栽培経過60日目の、本発明第3の製法の第1〜3培養工程を経た菌床榾木であって未だ被覆を行っていない菌床榾木(以下、実施例2、比較例1において同じ)1000本を用いて実験を行った。この菌床榾木の底面を、図5または図9に示すようにみやび株式会社から販売されているパラフィンであるPARAFFIN WAX−135(融点58℃)を熱融解したパラフィン液に浸けた後、直ちに引き上げ固化させてパラフィンによる被覆を行った。その後、再び別室(10坪、上記栽培ハウスと同じ環境条件)にて栽培を継続した。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同一ハウスで栽培された栽培経過60日目の菌床榾木1000本を使用し、市販の原木用封蝋材である、ウェブショップ振興園より購入した封蝋1kg(主成分パラフィン約70%、松脂20%、豚脂10%)を加熱融解し、その中にニーム、ユーカリ、ハーブ等を成分とする市販の害虫忌避剤であるバイオテックジャパン社製のバイオニームを香付け程度の量を加えたものに、図5または図9に示すように菌床榾木底面を漬け、すばやく引き上げてこれを固化させた後、再び実施例1とは異なる別室(10坪、条件は実施例1に同じ)にて栽培を継続した。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1と同一ハウスで栽培された栽培経過60日目の菌床榾木1000本を、そのまま無処理にて上記各実施例とは異なる別室(10坪、条件は実施例1に同じ)に移し栽培を継続した。
【0049】
実施例1、2および比較例1について、各栽培室でのハエ類の増減の状態を比較するため、各別室に移動後、30日経過時に、黄色の粘着シート(10cm×65cm)10枚を各別室内に設置し、設置から一週間経過後の捕虫数を調査した。尚、栽培を継続した各別室の温度等の栽培条件は同一であり、互いに別室のためハエ類が移動することは無い。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1、2はいずれも比較例1と比べ捕虫数が極端に少なくなっていた。これにより、菌床榾木底面付近に生息していた卵や幼虫がパラフィンや蝋剤の処理により死滅し、その後の繁殖が抑制されたことが判る。また、本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【0052】
<ハエ類の繁殖防止>
〔実施例3〕
図1に示す培養袋で温度18〜25℃の条件にて42日間培養された菌糸塊(以下、実施例4、5、比較例2において同じ)を袋より取り出し、図5に示すように菌床榾木底面をパラフィンの加熱融解液に浸け、すばやく引き上げてパラフィンを固化させて、底面を密封状態に被覆した後、湿度を飽和近傍まで高めた部屋(相対湿度90%以上、温度18〜25℃、断熱材で囲んだ工場内の一室)で1週間培養し菌糸塊表面に新たな菌糸層を形成させた。ついで、図3に示すように温度18〜25℃で、比較的連続した散水(20時間/日)を14日間、その後散水時間を短くして(8時間/日)9日間、培養を行い目的の菌床榾木を得た。試験数は12本とした。
【0053】
〔実施例4〕
実施例3と同様に、袋から取り出した菌糸塊12本を用いて、図6に示すように、加熱融解したパラフィンで底面から側面の一部にかけて密封状態になるよう被覆した。その後の培養は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0054】
〔実施例5〕
実施例3と同様に、袋から取り出した菌糸塊12本を用いて、図13に示すように、市販されているポリエチレン製粘着シートであるダイヤテックス株式会社製のパイオラン養生用粘着テープを菌糸塊底面に隙間ができないよう貼り付けた。その後の培養は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0055】
〔比較例2〕
袋から取り出した菌糸塊12本は、処理をせずに、その後の培養工程を実施した。培養条件は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0056】
このようにして得た実施例3〜5および比較例2の菌床榾木について、表面の害虫付着数を拡大鏡を使って目視により確認し、付着している害虫を成育ステージ別に分類した。なお、実施例3〜5および比較例2の菌床榾木は、同じ部屋で隣接させて培養して製造したものである。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例3〜5品はいずれも比較例2品と比べ害虫の付着が極端に少なくなり、またパラフィンで被覆されている部位には害虫の付着が全く見られなかった。したがって、培養袋から菌糸塊を取り出した直後にパラフィン等で底面を中心に被覆することにより、ハエ類の繁殖防止が図れることがわかった。また、本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【0059】
<発生しているダニ類の駆除>
〔実施例6〕
栽培ハウスでコナダニ等のダニ類が底面に発生した栽培経過90日目の、本発明第3の製法の第1〜3培養工程を経た菌床榾木であって未だ被覆を行っていない菌床榾木10本を使用し、図5または図9に示すように菌床榾木底面を、加熱融解したパラフィン液(実施例1に同じ)に浸けた後、直ちに引き上げパラフィンを固化させ被覆した。
【0060】
パラフィンが固化した後、拡大モニターを用いて菌床榾木底面で活動しているダニ類の数を調べ検討した。その結果、活動しているダニ類の比率は、パラフィン被覆前は92%に対し、被覆後は0%となった。なお、活動しているダニ類の比率は、[動いているダニの数]/[全体のダニの数]で求めた。この結果から、菌床榾木底面を加熱融解したパラフィン液に短時間浸し、ついでこれを固化させることによりダニ類は死滅し、したがって、害虫の防除に関し即効性もあることがわかる。また、ダニ類が底面に発生した本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明において培養容器と菌糸塊を示す平面図。
【図2】本発明においてコンテナに菌糸塊を収容した状態を示す説明図。
【図3】本発明においてコンテナに収容した菌糸塊に対して散水を施す状態の説明図。
【図4】従来例において培養工程での問題点を示す一部拡大説明図。
【図5】(A)は本発明において被覆する部位の例を示す説明図、(B)は(A)を底面から見た状態を示す説明図。
【図6】(A)は本発明において被覆する部位の例を示す説明図、(B)は(A)を底面から見た状態を示す説明図。
【図7】従来例において栽培棚に並べた菌床榾木に対して散水を施す状態の説明図。
【図8】従来例において栽培工程での問題点を示す一部拡大説明図。
【図9】本発明において菌床榾木の底部を加熱融解した蝋に漬け室温で固化した状態の説明図。
【図10】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図11】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図12】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図13】本発明において菌床榾木等の底部をフィルムシートで被覆した例を示す説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 培養容器
1a フィルター
2 菌糸塊
3 孔
4 コンテナ
5 パレット
5a パレット底面
6 ワックス類
7 ノズル
8 散水
9 菌糸塊又は菌床榾木の表面を流れる散水
10 栽培棚
11 菌床榾木
12 子実体
13 フィルムシート
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌床栽培(しいたけ菌床榾木の製造および菌床榾木によるしいたけ栽培)において発生する害虫を防除することを目的とし、菌床榾木の生産性やしいたけ子実体の品質・商品性を著しく低下させる害虫による弊害のないしいたけ菌床榾木およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年しいたけ栽培においても、えのきだけやぶなしめじ,まいたけ等のようにおが粉に米糠等の栄養剤を混合した培地を用いて工業的生産工程にて量産する菌床栽培が行われている。しかしながら、しいたけの場合、他の食用きのこ類の工業的生産と異なり、菌床栽培に用いる菌床榾木の製造期間が極めて長く、また栽培では他のきのこ類が1回採りであるのに対し、長期間に渡って同じ菌床榾木を用い継続的に子実体を採取することが行われている。したがって、これら長期に渡る菌床栽培では、しばしば害虫が発生し、その食害により、子実体であるしいたけの品質低下等の大きな被害を招いている。
【0003】
菌床栽培で問題となる害虫としては、ハエ類では、クロバネキノコバエ,キノコバエ,ショウジョウバエ,タマバエ,ガガンボ,ユスリカ等であり、幼虫が直接菌糸体や子実体を食害したり、害菌の伝播やダニ,線虫の媒体となる等、品質や収量性の著しい低下を招いている。ダニ類では、コナダニ,ケナガコナダニ,ヒナダニ,ホコリダニ等があり、ハエ類と同様に直接菌糸体や子実体を食害したり細菌やトリコデルマなどの害菌を伝播することが知られている。また、これら害虫は栽培施設内で年間を通して繁殖し、小バエ類は商品化したしいたけ(子実体)のパック内にしばしば混入し、店頭でのクレームを招いている。
【0004】
これら害虫の防除方法としては、過去には化学的防除方法として薬剤が使用されたが、これらは速効性があるものの、人体・環境への影響や子実体への残留性の問題があり、消費者・生産者の無農薬への志向の高まりなどから近年は使用されなくなっている。
【0005】
一方、人体や環境に影響を与えない害虫防除方法として、飛翔害虫(ハエ類の成虫)の捕殺を目的とした粘着シートや電撃殺虫器に代表される誘蛾灯を用いた殺虫方法が用いられている。しかし、これらの方法では、捕虫される害虫の種類が限定されることや、多く設置しても捕虫能力が低い上、シートの交換や殺虫器の清掃を頻繁に実施しなければ効果が持続しないため、害虫の増殖スピードに追い着けない状況となっている。
【0006】
また、上記方法はハエ類の成虫に限定されるため、直接食害するハエ類の幼虫やダニ類への対策としては、大型の幼虫は手作業によって取り除いたり、菌床榾木を一本ずつ水洗浄することが行われている。しかし、これらの方法は、ハエ類の幼虫・卵及びダニ類の除去に有効ではあるが、膨大な手間を必要とし、発茸した菌床では子実体の商品価値を損なったり、原基や芽を傷付けるため行うことができないというように、実施時期に制限がある。
【0007】
これらを解決する方法として、多価アルコールの脂肪酸エステルを含有する溶液(きのこ栽培用害虫駆除剤)にきのこの菌床榾木を浸漬または溶液を散布することにより害虫を駆除する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
上記方法は作業時間を短縮し効率的に害虫を駆除でき、溶液の成分は安全性に問題は無いものの、害虫の増殖を抑えるためには定期的な使用が必要なこと、安全であっても化学的物質を発茸した菌床榾木に散布することへの抵抗が強いこと等より、より効率的で安全な防除方法の検討が行われている。
【特許文献1】特許第3156918号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、害虫による食害等の害が発生することのないしいたけ菌床榾木およびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも底面を被覆材により密封状態で被覆されているしいたけ菌床榾木を第1の要旨とし、この第1の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊(菌糸が蔓延した状態の培地を意味する。以下同じ)をつくり、上記菌糸塊、または上記菌糸塊を培養して得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆するしいたけ菌床榾木の製造方法(第1の製法)を第2の要旨とする。
【0011】
また、本発明は、上記第2の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、上記菌糸塊を培養して菌床榾木とする方法が、上記菌糸塊を培養容器内または培養容器から取り出して追培養するものである、しいたけ菌床榾木の製造方法(第2の製法)を第3の要旨とする。この第2の製法で得られる菌床榾木は、散水を施す工程を経ていないため、つぎに説明する第3の製法で得られる菌床榾木とは異なり、表面に硬質化した木質状の層を備えていない。なお、本発明において、追培養とは、菌糸塊を熟成させ、栽培に供することが可能な菌床榾木とするために行う培養をいう。
【0012】
さらに、本発明は、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり(第1培養工程)、この菌糸塊を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより、表面に新たな菌糸層を形成して菌糸塊を被覆させ(第2培養工程)、ついで、この菌糸塊に対して散水を施しながら培養することにより上記新たに形成された菌糸層を硬質化して菌床榾木を製造する(第3培養工程)方法であって、上記第1培養工程で得られた菌糸塊、第2工程で得られた表面に新たな菌糸層が形成された菌糸塊または第3培養工程で得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆する第1の要旨のしいたけ菌床榾木の製造方法(第3の製法)を第4の要旨とする。この第3の製法で得られた菌床榾木は、散水を施す上記第3培養工程を経ているため、表面に硬質化した木質状の層を備えている。
【0013】
このように本発明において、菌床榾木とは、その表面に硬質化した木質状の層を備えるものと、硬質化した木質状の層を備えないものとの、双方を含むことを意味する。本発明者らは、菌床栽培において、人体や環境に悪影響を与えることなく、しかも簡便に用いることができる害虫の防除方法を得るため、害虫のライフサイクルを中心に鋭意研究を重ねた。その結果、害虫は、菌糸塊およびしいたけ菌床榾木表面の水分率の高い部位、特に底部で、卵、幼虫、蛹、成虫のライフサイクルを繰返し増殖することを見いだした。そして、上記水分率が高い部位を被覆材により密封状態に被覆すると、害虫が発生しているときには、その動きを封じて駆除することができ、また、害虫が発生していないときには、産卵を防ぐことにより、害虫の繁殖を防ぐことができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
本発明のしいたけ菌床榾木は、子実体であるしいたけを発生させるための散水や浸水等によって水分率が高くなり、表面の空気の流れが悪く乾燥しにくい部位、特に底部を被覆材にて密封状態に被覆している。そのため、内部に害虫が発生しているときには、その外出を封じて駆除することができ、また、害虫が発生していないときには、産卵を防ぎ、繁殖を防止して害虫の発生を阻止するものである。
【0015】
さらに、上記被覆材が、蝋およびワックスの少なくとも一方(以下、蝋、ワックスをまとめて「ワックス類」という)であると、菌糸塊もしくは菌床榾木表面にすでに発生している害虫は、成虫、蛹、卵のいずれの形態であるかを問わず、被覆するため融解した高温のワックス類にさらされた後、すぐにこれが固化するため死滅するという効果を奏する。
【0016】
また、上記被覆材が、プラスチックまたは金属のフィルムであると、ワックス類を用いるときに行う加熱融解操作などの手間を必要としないため、より手軽に実施することができるようになる。
【0017】
この種のワックス類およびフィルム等は長期に渡り物性が変化せず、それ自身は害虫の繁殖源とならないため、一度被覆処理を行うと菌床栽培(しいたけ菌床榾木の製造および菌床榾木によるしいたけ栽培)の全工程を通して害虫防除の効果が持続する。
【0018】
また、本発明の第1の製法によれば、培養容器から菌糸塊を取り出してすぐに、または適当な時期に、菌糸塊の底面を被覆するため、被覆時期や追培養の方法を自由に決定することができ、しいたけ菌床榾木の製造方法の幅が広がるようになる。その結果、製造工程の効率化を図ることができ、収益性を高めることが可能となる。なお、この第1の製法は、散水工程を取り入れるか否かなどにより、表面に硬質化した木質状の層を備える菌床榾木と、備えない菌床榾木のいずれの菌床榾木を製造することができる。
【0019】
本発明の第2の製法によれば、この製法により得られる菌床榾木は、培養袋等の培養容器内または取り出すなどの方法により、しいたけ菌糸の蔓延後も長期間に渡って追培養される。したがって、しいたけ菌が出す匂いと培地が分解された匂い、代謝物の匂いなど様々な匂いが強くなり、これらが混じることで、害虫を強く誘引するようになる。また、本発明の第3の製法による菌床榾木と異なり、その表面に硬質化した木質状の層を備えておらず、菌床榾木の表面が柔らかいため、害虫の被害をより受け易い状態となっている。したがって、このような菌床榾木を被覆材により被覆することによって、害虫の繁殖を効果的に防止することができ、ひいては収益性をも改善できる。また、この第2の製法によれば、より少ない培養工程数で菌床榾木を得ることができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0020】
本発明の第3の製法によれば、菌糸塊の段階、菌床榾木の段階のいずれの段階で、その底面を被覆して上記のしいたけ菌床榾木を製造することができるため、栽培工程だけでなく、製造工程において適宜に被覆する対象を選ぶことができ、菌床榾木の品質安定化、製造工程の効率化を図ることができる。その結果、栽培での害虫の繁殖を防止し、子実体品質の向上やパック詰め作業の軽減など大きく収益性を改善し、しいたけ菌床榾木の量産化、価格の低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0022】
まず、本発明のしいたけ菌床榾木を製造する工程を、第3の製法にもとづいて説明する。図1に示すように、ポリエチレン製の袋1(培養容器)内でしいたけ種菌を接種した培地を培養し菌糸塊2を作製する(第1培養工程)。図1において1aはフィルターである。このフィルターは通気および通湿のために設けた通気孔の上に取り付けることにより、雑菌の侵入を防ぐものである。つぎに、ポリエチレン製の袋1から菌糸塊2を取り出し、図2に示すように、上面開放型で側面・底面に多孔3を有するコンテナ4(ポリプロピレン製)に菌糸塊2を整列配置する。そして、これをパレット5(図3)に多段に積載し、室温の培養室(図示せず)において、培養室の湿度を飽和ないしその近傍まで高め3〜10日経過させ培養する(第2培養工程)。なお、パレット5の底面5aは、格子状に形成されているため、空気や水の流れを妨げるものではない。つぎに、培養室内の湿気を開放した後、図3に示すように、ノズル7から散水を行い、好ましくは7日間以上、より好ましくは20〜90日間培養を行う。上記散水は、24時間連続的にしてもよいし、8時間ごとの間欠散水等をしてもよい。また、培養期間を2段階に分け、期間の前半では菌糸塊が濡れた状態を保つように比較的多量の水を施与し、期間の後半では菌糸塊の重量が一定に保たれる程度に水量を減じたり、間欠散水等したりするようにしてもよい(第3培養工程)。
【0023】
以上の工程において、培養容器から取り出した菌糸塊2は、大気にさらされた状態で培養、散水されるため害虫や害菌が付着しやすい状態になっている。しかし、図3に示すように菌糸塊表面は散水により洗浄されるため、害虫・害菌の増殖はある程度抑えられる。すなわち、図3の拡大断面図である図4に示すように、散水9により、菌糸塊2の天面や側面は水が勢いよく流れるため充分に洗浄されるが、底面は水の勢いがなく流れにくいため洗浄されにくい。また、菌糸塊2の天面や側面は風が通りやすいため水気がこもらないが、底面は風に通りにくく水が蒸散しにくいため水気がこもりやすい。そのため、底面付近は、洗浄されにくい上、被膜の水分が多く柔らかい状態となり、虫害を受けやすくなっている。
【0024】
本発明の第3の製法では、このような底面およびその近傍に対して、ワックス類を付着させることで被覆を行い、害虫の発生を防ぐ。このワックス類の付着は、第1培養工程で得られた菌糸塊を、加熱により融解したワックス類液に浸して行ったり、第2培養工程で培養をすませた菌糸塊の底部を上記ワックス類液に浸して行う。また、第3培養工程で得られた菌床榾木の底部を上記ワックス類液に浸して行ってもよい。底部をワックス類の付着により密封状態に被覆した状態を図5に示す。図5において、2は上記菌糸塊または菌床榾木であり、6はワックス類の付着した被覆部位である。図5(A)は外観斜視図、図5(B)はその底面図である。また、ワックス類の付着は、底面部位だけでなく、図6に示すように側面部位に及んでいてもよい。図6(A)は外観斜視図、図6(B)はその底面図である。
【0025】
雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高める方法は、閉鎖空間(菌糸塊の呼吸に必要な換気を施したおおむね閉鎖した状態および完全に閉鎖した状態の双方を含む)において、加湿器等を用いる等の方法があげられる。なお、閉鎖空間の形成は、家屋によって形成するだけでなく、ビニール等のシートで菌糸塊を図2のように整列させたコンテナを被覆して形成するようにしてもよい。このような第2培養工程および第3培養工程を経ることにより、菌床榾木表面の褐色化が進み、硬質化した木質状の層が形成されると共に、菌床榾木内部の培地成分の分解や菌糸体への養分蓄積が効率的に進み、栽培における子実体の発生が安定し、菌床榾木あたりの収穫量も増加する。したがって、本発明の第3の製法により得たしいたけ菌床榾木は、より工業的生産に適したものとなる。
【0026】
また、本発明の第3の製法では、上記第2培養工程や第3培養工程の過程で、菌糸塊表面に新たに形成される菌糸層により、菌糸塊底部とこれに接するコンテナとが癒着し、取り外し作業に手間を要する場合がある。しかし、上記第1培養工程後に被覆材で菌糸塊底部を密封状態に被覆すれば、新たに形成される菌糸層がこの被覆材を越えて成長することは無く、したがって、菌糸塊底部とこれに接するコンテナとの癒着は起こらず、作業効率が良くなる。
【0027】
つぎに、本発明の第1の製法は、まず図1に示すようなポリエチレン製袋1内において、しいたけ種菌が接種された培地を培養して菌糸塊2をつくる。そして、その菌糸塊2をポリエチレン製袋1から取り出し、先に述べたと同様に、その底部をワックス類液に浸し図5ないし図6に示すように、底部ないし、その上の側面に到るまでワックス類液を付着させ、密封状態に被覆する。被覆する時期は、任意に決定することができ、菌糸塊2をポリエチレン製袋1から取り出した直後であっても、時間が経過した後でもよい。また、ポリエチレン製袋1から取り出した菌糸塊2は、場合により、破砕して再成形したり、高温処理したり、浸水などを行ってもよい。この場合、被覆は、破砕して再成形した例では、再成形した菌糸塊に対して行う。
【0028】
また、本発明の第2の製法は、第1の製法と同様に、図1に示すようなポリエチレン製袋1内において、しいたけ種菌が接種された培地を培養して菌糸塊2をつくる。そして、その菌糸塊2をその袋内または別の容器に移し替えて、あるいは取り出してビニールシート等を被せるなどして、培養を続ける(追培養)。この追培養を、使用するしいたけ種菌の種類や、培養方法などにより異なるが、一般的には、菌糸塊表面が凹凸状に隆起したり、褐色になる等、菌糸塊の状態に変化が見られるまで(栽培に供することが可能となるまで)行い、前記菌糸塊をしいたけ菌床榾木とする。このようにして得た菌床榾木について、先に述べたと同様に、その底部をワックス類液に浸し図5ないし図6に示すように、底部ないし、その上の側面に到るまでワックス類液を付着させ、密封状態に被覆する。被覆する時期は、任意に決定することができ、菌糸塊2を袋1から取り出した直後であっても、時間が経過した後でもよい。
【0029】
この第2の製法は、追培養に時間を要するものの、雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養したり、散水を施しながら培養する工程を必要としないので手間や設備がかからないという利点がある。しかし、栽培における子実体の発生の安定性は、本発明の第3の製造方法で得たしいたけ菌床榾木が勝る。
【0030】
以上のようにして得られたしいたけ菌床榾木は、しいたけ栽培に供される。このしいたけ栽培の水分管理の方法は、散水方式と浸水方式の2種類に大別される。散水方式は、温度変化(日較差)を与えながら散水をしいたけ菌床榾木表面の弾力を損なわない程度(0.5〜3時間/日)実施し、菌床榾木への水分供給と表面の洗浄を行い子実体を発生させる方法であり、浸水方式は、菌床榾木を比較的低温(13〜18℃)の水に半日〜2日程度浸水し、温度と水の刺激で発茸を促す方法である。浸水方式は浸水刺激により発茸を促すことを目的としているため、発茸と発茸の間の期間、すなわち菌床榾木を休養させる間は、通常、浸水ではなく散水を施すことにより水分を補給している。浸水方式は、菌床榾木の移動や浸水操作、棚への整列など手間がかかり、浸水後、子実体が集中的に発生するのに対し、散水方式は、浸水の手間を省略でき、毎日一定量の子実体が発生するので管理が容易であるという利点がある。なお、上記温度変化を与えたり、低温にする方法は、自然温度を利用したり、冷房機や暖房機を用いる方法などがある。
【0031】
水分管理を散水方式で行う状態を図7に示す。しいたけ菌床榾木を用いた施設栽培では、図示のように栽培棚10を用いて多段にしいたけ菌床榾木11を収容し、適度な温度刺激や散水等による刺激を与えて子実体12の収穫を行っている。上記のしいたけ菌床榾木の製造と同様に、しいたけ栽培においても散水8による害虫に対する洗浄効果は期待されるが、しいたけ菌床榾木の製造と同様、しいたけ菌床榾木11の底面部位には水洗浄が充分に及ばず(図7の要部拡大図である図8)、さらに菌床榾木の底面付近は天面や側面に比べて水分率が高くなる。
【0032】
先に述べたように、水分管理を浸水方式で行う場合であっても、通常、浸水操作に手間を要するため浸水方式単独で行なうことはなく、散水方式を併用したり、散水方式で発生が少なくなったら浸水操作を行うなど、季節や栽培ステージに応じて浸水および散水の両方式を使い分けている。水分管理を浸水方式で行う場合(図示せず)においては、浸水操作により害虫は洗い流され、浸水操作後しばらくの期間は虫害を受け難いが、菌床を袋から取り出してから菌床榾木を浸水するまでの期間(菌床の培養や熟成,浸水前の子実体発生期間など)や浸水と浸水の間の期間(子実体発生期間や休養期間など)では、害虫の繁殖が見られる。そして、これらの浸水を行わない期間は、通常、散水を施すことにより水分を補給している。したがって、この散水により、菌床榾木の天面や側面は水が勢いよく流れるため充分に洗浄されるが、底面は水の勢いがなく流れにくいため洗浄されにくい状態となる。また、菌床榾木の天面や側面は風が通りやすいため水気がこもらないが、底面は風通りが悪く水が蒸散しにくいため水気がこもりやすい。そのため、浸水方式を行う場合であっても、菌床を袋から取り出してから菌床榾木を浸水するまでの期間や浸水と浸水の間の期間等の菌床榾木の底面付近は、洗浄されにくい上、水分が多く柔らかい状態となり、虫害を受けやすくなっている。
【0033】
浸水方式は浸水刺激を与え集中的に子実体の発生をさせるため、「浸水→集中的な発生→休養期間(散水)→浸水」を、例えば6ヶ月の栽培期間で3〜5回の繰り返して実施する。子実体は菌床榾木の水分や養分を使用して発生するが、発生が一時期に集中すると、菌床榾木は急激に水分や養分を失い、傷みやすい状態となる。また、浸水時の移動や浸水操作により菌床榾木は破損することもある。このような浸水時の移動や浸水操作で破損したり、子実体の集中的な発生により傷みやすい状態の菌床榾木は、害虫の被害を受けやすくなる。さらに、浸水方式を用いる場合、浸水後集中的に子実体が発生することから、浸水時期をずらした菌床榾木、すなわち栽培ステージの異なる菌床榾木を同じ栽培施設内で栽培し、栽培施設内において子実体の発生時期が一時期に集中せず、平準となるように調整している。したがって、上記の被害を受けやすい状態の菌床榾木に害虫が発生し、繁殖を繰返し増殖すると、浸水操作直後の虫害を受けにくい菌床榾木にまで被害は及ぶようになる。なお、害虫の発生には、高い外気温(繁殖サイクルが早くなる)、栽培施設の近隣に廃菌床榾木や堆肥などの害虫の繁殖源がある等の要因も大きく影響する。
【0034】
以上のように、害虫の繁殖に与える要因は様々であるが、洗浄が充分でなく、水分環境が良い(ジメジメした湿り気の多い)部位、特に底面で繁殖する。ハエ類は、このような菌糸塊または菌床榾木の水分率の高い部位、特に底面に産卵し、卵,幼虫,蛹,成虫のライフサイクルをこの底面部位で繰返し増殖する。ダニ類の場合も同様に、菌糸塊および菌床榾木の底面部位で卵,幼虫,若虫,成虫のライフサイクルを繰り返す。更に、培養施設内は恒温で湿度も高く害虫の増殖には適しており、年間を通して繁殖が可能となっている。
【0035】
本発明のしいたけ菌床榾木は、このような洗浄が充分でなく、水分率が高い特に底面部位を、ワックス類等の被覆材で密封状態に被覆しているため、害虫の発生を防止することができる。ここで図9に示すように、通常、しいたけは種菌を接種した位置に相関して子実体12が発生し、接種は、通常、培地(のちの菌床榾木)の天面付近や培地に植菌孔を開けてこの穴に落としこむ形で行うため、子実体12はしいたけ菌床榾木11の天面や側面から多く発生し、底面からはほとんど発生しない。したがって、上記被覆が子実体の発生に影響することは少ない。
【0036】
なお、上記の説明において、蝋、ワックスをワックス類と称しているが、ここで蝋とは、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルであり、蝋エステルを主成分とするカルナウバ蝋、鯨蝋などがこれに属し、その物理的性質から蝋様物質と解釈されるトリグリセリドからなる木蝋などをも含むものをいう。ワックスとは、炭化水素からなるパラフィンワックスなどをいう。したがって、本発明において、ワックス類(蝋、ワックス)とは、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル,中性脂肪,パラフィンからなる群から選ばれた少なくとも一つを含むものをいう。
【0037】
つぎに、ワックス類の具体例を示す。蝋は、植物系蝋(木蝋)として、ハゼ蝋,ウルシ蝋,カルナウバ蝋,サトウキビ蝋,パーム蝋,米糠蝋などがあり、動物系蝋として、蜜蝋,鯨蝋,イボタ蝋,羊毛蝋などがあげられる。ワックスは、石油系ワックスとして、パラフィンワックス,マイクロクリスタリンワックスなどがあり、合成ワックスとして、フイッシャートロプシュワックス,ポリエチレンワックス,油脂系合成ワックス(エステル,ケトン類,アミド),水素化ワックスなどがあげられる。
【0038】
このようなワックス類は、前記の種類の単品あるいは複数混合したものでも良く、また、松脂等の植物脂や豚脂・牛脂等の動物脂を加えて物性調整や効果向上を図ったものや、害虫が嫌がるニーム、ユーカリ、ハーブ、ニンジン葉、トマト葉、マリーゴールド葉、ヨモギ葉、柑橘系の果皮、木酢液、ニンニクなどの抽出成分、スギオール,キノイド,スチルベン,ピラン,サポニン,テルペン類など、松,赤松,杉,米杉,檜,桜,ヒバ,クス,ネズコ,タイヒ,ユーカリ,コウヤマキ,イヌマキ,センダンなどの木材や樹皮からの抽出成分や、ユーカリ油,ミント油,ローズ油,セージ油,ヒバ油などの抽出物や精油成分等の忌避剤成分を混入させたものでも良い。また、これらは抽出や分離などの操作を経由せずに、乾燥や粉砕等を適宜行って直接ワックス類に混ぜて使用しても良く、異なる素材を層状に重ねることも可能である。
【0039】
ワックス類による被覆は、先に述べたように、加熱して融解させたワックス類液に、菌糸塊や菌床榾木の一部を浸漬し行うが、塗布したり、吹き付け等して行ってもよい。これにより、菌糸塊や菌床榾木の表面の菌糸体は一時的に高温にさらされ、かつワックス類が固化するため、害虫は、主としてこれで死滅する。ここでワックス等は、室温では固体で100℃より低い融点を持つ物質であり、例えばパラフィンの場合の融解温度は概ね50〜75℃の範囲にあり、これらは室温ですぐに固化するものである。したがって、極端な高温にならないように注意を払えば、被覆操作による菌糸体の成育の阻害はほとんど見られない。また、上記ワックス類による被覆の際、害虫が死滅することより、本発明の菌床榾木は、害虫の予防的な効果だけでなく、害虫が発生した後の駆除対策としても有効である。
【0040】
また、上記の説明ではワックス類による被覆は、底部を中心に行っているが、菌糸塊や菌床榾木の全部を浸漬等し密封しても差し支えない。また、菌糸塊や菌床榾木の形状は図10〜12に示すような形状にしてもよく、これらの一部を図に示す様にワックス類6で密封状態に被覆してもよい。なお、しいたけの栽培においては、ワックス類で被覆した部位から子実体が発生することがあるが、ワックス類は子実体の成長の力で容易に崩すことができるため、子実体の発生数や品質に影響することは少ない。
【0041】
さらに、本発明第1の製法により得られる菌床榾木の一部、および本発明第2の製法により得られる菌床榾木は、その表面に硬質化した木質状の層を備えていないため、場合により、散水や浸水、収穫などの際に一部が破損することがある。破損した箇所は、表面に比べ柔らかい内部がむき出しの状態となるため、虫害を受けやすくなる。その際、上記ワックス類でその破損箇所を被覆すると、害虫防除効果だけでなく、破損箇所を補強するという成形性保持効果をも得ることができる。
【0042】
なお、ワックス類で被覆する以外の方法としては、図13に示すように、菌糸塊ないし菌床榾木の底面を、プラスチックフィルムまたは金属フィルムに糊料を塗布したフィルムシート13で覆う方法があげられる。底面を含む側面をフィルムシート13で覆うようにしてもよい。プラスチックフィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリエチレンフタレートなどのプラスチック製品があげられ、また、金属フィルムの材質としては、アルミ、ステンレス、銅などがあげられる。これらは、単品・複層品・コーティングなどいずれでも良く、銅によるナメクジ防除や銀による防菌効果などの金属による効果も期待できる。
【0043】
これらのフィルムは、菌糸塊、菌床榾木に害虫が浸入することを防ぐと同時に、そのフィルム自身が汚染源にならないものであれば良く、害菌の繁殖防止やハエ類、ダニ類およびナメクジ等の害虫忌避等の目的でフィルムに上記天然物抽出物や製油成分等を練り込んだり、塗布したものでも良い。糊料も特に限定するものでは無く、市販のシールテープを所定の形状に切断して用いることもできる。
【0044】
被覆材としてフィルムシートを用いると、ワックス類を用いるときに必要な加熱による融解操作などの手間を無くすことができるため、さらに手軽に実施することができる。しかし、フィルムシートで被覆する場合、菌糸塊や菌床榾木とフィルムシートとの隙間が生じやすく、菌糸塊や菌床榾木の表面に凹凸があるとこの隙間に水が溜まり、逆にこの水が汚染源となる場合がある。したがって、フィルムシートを用いる場合には、このような隙間ができないよう注意を払うことが肝要である。この点からフィルムシートは、本発明の第3の製法による菌床榾木の製造において用いるのが望ましい。
【実施例】
【0045】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例は、発生しているハエ類の駆除(実施例1、2)と、ハエ類の繁殖防止(実施例3〜5)と、発生しているダニ類の駆除(実施例6)とに分けて説明している。
【0046】
<発生しているハエ類の駆除>
〔実施例1〕
クロバネキノコバエ、ショウジョウバエ等のハエ類が発生している栽培ハウス(75坪、21000本規模、温度10〜20℃の日較差を設け各8時間程度保持、湿度70〜100%)で栽培された栽培経過60日目の、本発明第3の製法の第1〜3培養工程を経た菌床榾木であって未だ被覆を行っていない菌床榾木(以下、実施例2、比較例1において同じ)1000本を用いて実験を行った。この菌床榾木の底面を、図5または図9に示すようにみやび株式会社から販売されているパラフィンであるPARAFFIN WAX−135(融点58℃)を熱融解したパラフィン液に浸けた後、直ちに引き上げ固化させてパラフィンによる被覆を行った。その後、再び別室(10坪、上記栽培ハウスと同じ環境条件)にて栽培を継続した。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同一ハウスで栽培された栽培経過60日目の菌床榾木1000本を使用し、市販の原木用封蝋材である、ウェブショップ振興園より購入した封蝋1kg(主成分パラフィン約70%、松脂20%、豚脂10%)を加熱融解し、その中にニーム、ユーカリ、ハーブ等を成分とする市販の害虫忌避剤であるバイオテックジャパン社製のバイオニームを香付け程度の量を加えたものに、図5または図9に示すように菌床榾木底面を漬け、すばやく引き上げてこれを固化させた後、再び実施例1とは異なる別室(10坪、条件は実施例1に同じ)にて栽培を継続した。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1と同一ハウスで栽培された栽培経過60日目の菌床榾木1000本を、そのまま無処理にて上記各実施例とは異なる別室(10坪、条件は実施例1に同じ)に移し栽培を継続した。
【0049】
実施例1、2および比較例1について、各栽培室でのハエ類の増減の状態を比較するため、各別室に移動後、30日経過時に、黄色の粘着シート(10cm×65cm)10枚を各別室内に設置し、設置から一週間経過後の捕虫数を調査した。尚、栽培を継続した各別室の温度等の栽培条件は同一であり、互いに別室のためハエ類が移動することは無い。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1、2はいずれも比較例1と比べ捕虫数が極端に少なくなっていた。これにより、菌床榾木底面付近に生息していた卵や幼虫がパラフィンや蝋剤の処理により死滅し、その後の繁殖が抑制されたことが判る。また、本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【0052】
<ハエ類の繁殖防止>
〔実施例3〕
図1に示す培養袋で温度18〜25℃の条件にて42日間培養された菌糸塊(以下、実施例4、5、比較例2において同じ)を袋より取り出し、図5に示すように菌床榾木底面をパラフィンの加熱融解液に浸け、すばやく引き上げてパラフィンを固化させて、底面を密封状態に被覆した後、湿度を飽和近傍まで高めた部屋(相対湿度90%以上、温度18〜25℃、断熱材で囲んだ工場内の一室)で1週間培養し菌糸塊表面に新たな菌糸層を形成させた。ついで、図3に示すように温度18〜25℃で、比較的連続した散水(20時間/日)を14日間、その後散水時間を短くして(8時間/日)9日間、培養を行い目的の菌床榾木を得た。試験数は12本とした。
【0053】
〔実施例4〕
実施例3と同様に、袋から取り出した菌糸塊12本を用いて、図6に示すように、加熱融解したパラフィンで底面から側面の一部にかけて密封状態になるよう被覆した。その後の培養は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0054】
〔実施例5〕
実施例3と同様に、袋から取り出した菌糸塊12本を用いて、図13に示すように、市販されているポリエチレン製粘着シートであるダイヤテックス株式会社製のパイオラン養生用粘着テープを菌糸塊底面に隙間ができないよう貼り付けた。その後の培養は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0055】
〔比較例2〕
袋から取り出した菌糸塊12本は、処理をせずに、その後の培養工程を実施した。培養条件は実施例3と同様に行い、目的の菌床榾木を得た。
【0056】
このようにして得た実施例3〜5および比較例2の菌床榾木について、表面の害虫付着数を拡大鏡を使って目視により確認し、付着している害虫を成育ステージ別に分類した。なお、実施例3〜5および比較例2の菌床榾木は、同じ部屋で隣接させて培養して製造したものである。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例3〜5品はいずれも比較例2品と比べ害虫の付着が極端に少なくなり、またパラフィンで被覆されている部位には害虫の付着が全く見られなかった。したがって、培養袋から菌糸塊を取り出した直後にパラフィン等で底面を中心に被覆することにより、ハエ類の繁殖防止が図れることがわかった。また、本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【0059】
<発生しているダニ類の駆除>
〔実施例6〕
栽培ハウスでコナダニ等のダニ類が底面に発生した栽培経過90日目の、本発明第3の製法の第1〜3培養工程を経た菌床榾木であって未だ被覆を行っていない菌床榾木10本を使用し、図5または図9に示すように菌床榾木底面を、加熱融解したパラフィン液(実施例1に同じ)に浸けた後、直ちに引き上げパラフィンを固化させ被覆した。
【0060】
パラフィンが固化した後、拡大モニターを用いて菌床榾木底面で活動しているダニ類の数を調べ検討した。その結果、活動しているダニ類の比率は、パラフィン被覆前は92%に対し、被覆後は0%となった。なお、活動しているダニ類の比率は、[動いているダニの数]/[全体のダニの数]で求めた。この結果から、菌床榾木底面を加熱融解したパラフィン液に短時間浸し、ついでこれを固化させることによりダニ類は死滅し、したがって、害虫の防除に関し即効性もあることがわかる。また、ダニ類が底面に発生した本発明の第2の製法により製造する菌床榾木であって、未だ被覆を行っていない菌床榾木を用いた実験においても、同等の防除効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明において培養容器と菌糸塊を示す平面図。
【図2】本発明においてコンテナに菌糸塊を収容した状態を示す説明図。
【図3】本発明においてコンテナに収容した菌糸塊に対して散水を施す状態の説明図。
【図4】従来例において培養工程での問題点を示す一部拡大説明図。
【図5】(A)は本発明において被覆する部位の例を示す説明図、(B)は(A)を底面から見た状態を示す説明図。
【図6】(A)は本発明において被覆する部位の例を示す説明図、(B)は(A)を底面から見た状態を示す説明図。
【図7】従来例において栽培棚に並べた菌床榾木に対して散水を施す状態の説明図。
【図8】従来例において栽培工程での問題点を示す一部拡大説明図。
【図9】本発明において菌床榾木の底部を加熱融解した蝋に漬け室温で固化した状態の説明図。
【図10】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図11】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図12】本発明において被覆する部位の例を示す説明図。
【図13】本発明において菌床榾木等の底部をフィルムシートで被覆した例を示す説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 培養容器
1a フィルター
2 菌糸塊
3 孔
4 コンテナ
5 パレット
5a パレット底面
6 ワックス類
7 ノズル
8 散水
9 菌糸塊又は菌床榾木の表面を流れる散水
10 栽培棚
11 菌床榾木
12 子実体
13 フィルムシート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも底面が被覆材により密封状態で被覆されていることを特徴とするしいたけ菌床榾木。
【請求項2】
被覆材が、蝋およびワックスの少なくとも一方である請求項1記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項3】
被覆材が、プラスチックまたは金属のフィルムである請求項1記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項4】
上記蝋またはワックスが、パラフィン、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルおよび中性脂肪からなる群から選ばれた少なくとも一つを含むものである請求項2記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれか一項記載のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり、上記菌糸塊、または上記菌糸塊を培養して得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆することを特徴とするしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項6】
上記菌糸塊を培養して菌床榾木とする方法が、上記菌糸塊を培養容器内または培養容器から取り出して追培養するものである請求項5記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項7】
しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり(第1培養工程)、この菌糸塊を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより、表面に新たな菌糸層を形成して菌糸塊を被覆させ(第2培養工程)、ついで、この菌糸塊に対して散水を施しながら培養することにより上記新たに形成された菌糸層を硬質化して菌床榾木を製造する(第3培養工程)方法であって、上記第1培養工程で得られた菌糸塊、第2培養工程で得られた表面に新たな菌糸層が形成された菌糸塊または第3培養工程で得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか一項に記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項1】
少なくとも底面が被覆材により密封状態で被覆されていることを特徴とするしいたけ菌床榾木。
【請求項2】
被覆材が、蝋およびワックスの少なくとも一方である請求項1記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項3】
被覆材が、プラスチックまたは金属のフィルムである請求項1記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項4】
上記蝋またはワックスが、パラフィン、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルおよび中性脂肪からなる群から選ばれた少なくとも一つを含むものである請求項2記載のしいたけ菌床榾木。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれか一項記載のしいたけ菌床榾木の製造方法であって、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり、上記菌糸塊、または上記菌糸塊を培養して得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆することを特徴とするしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項6】
上記菌糸塊を培養して菌床榾木とする方法が、上記菌糸塊を培養容器内または培養容器から取り出して追培養するものである請求項5記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項7】
しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養して菌糸塊をつくり(第1培養工程)、この菌糸塊を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより、表面に新たな菌糸層を形成して菌糸塊を被覆させ(第2培養工程)、ついで、この菌糸塊に対して散水を施しながら培養することにより上記新たに形成された菌糸層を硬質化して菌床榾木を製造する(第3培養工程)方法であって、上記第1培養工程で得られた菌糸塊、第2培養工程で得られた表面に新たな菌糸層が形成された菌糸塊または第3培養工程で得られた菌床榾木に対して、少なくともその底面を、被覆材により密封状態に被覆することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか一項に記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−159899(P2009−159899A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1631(P2008−1631)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(507395728)ジャパンアグリテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(507395728)ジャパンアグリテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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