説明

しいたけ菌床榾木の製造方法

【課題】培養容器にて培養した菌糸塊を破砕し、再度、成形した成形菌床からしいたけ菌床榾木を製造するに際し、上記破砕した菌糸塊を、新たな容器等に移す等の手間を不要とし、成形した成形菌床の大きさ等左右されず、適度な芽数で良形の子実体を天面と側面から多くを発生させる工業的量産化が可能なしいたけ菌床榾木の製造方法を提供する。
【解決手段】しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養し、菌糸塊を作製する第1工程と、前記菌糸塊を破砕し、圧力を利用し所定の形状に成形して成形菌床を作製する第2工程と、前記成形菌床を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより前記成形菌床の表面に新たな菌糸層を形成して成形菌床を被覆させる第3工程と、新たな菌糸層を形成して被覆された成形菌床を、散水を施しながら培養することにより前記新たに形成された菌糸層を硬質化し前記成形菌床を榾木化する第4工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良品質のしいたけを多量に発生させることができ、しかもそれ自体品質のばらつきの少ないしいたけ菌床榾木を工業的に製造するしいたけ菌床榾木の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
しいたけの栽培は大別すると、原木栽培と菌床栽培がある。原木栽培は、クヌギ、ナラ等の原木を1m程度に裁断し栽培する方法である。菌床栽培は、瓶や袋等の小型培養容器に培地基材(おが粉等)に培地添加物(米糠等)を混合した培地を充填した後、殺菌し、ついでしいたけ種菌を接種して菌床または菌床榾木を製造し、これを栽培する方法である。近年は、しいたけ原木の減少によりその供給が困難であり、また、長期間の栽培期間を要することなどから、原木栽培にかわって、菌床栽培が多く行われるようになっている。
【0003】
この菌床栽培は、菌床や菌床榾木を製造し、温度や浸水、散水等の刺激を与え、子実体であるしいたけを発生させるものである。菌床を製造する方法としては、培養容器内でしいたけ菌糸が蔓延した後も菌糸塊表面が凹凸状に隆起したり、褐色化や子実体原基状のものを確認するまで培養容器内で追培養し、その後培養容器から取り出して菌床とする方法があげられる。菌床榾木を製造する方法としては、本発明者らがしいたけ人工榾木の製法として発表した、培養容器内で培養された後、培養容器から取り出された菌糸塊を、閉鎖空間内において、その閉鎖空間内の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で養生することにより、表面に新たな菌糸層を形成して内部を被覆させ、ついで、この菌糸塊に対して散水を施しながら養生することにより上記新たに形成された菌糸層を硬質化し、上記菌糸塊を菌床榾木とする方法があげられる(例えば、特許文献1参照)。なお、菌床榾木とは表面に硬質化した木質状の層を備えているものをいい、通常、これを備えていない菌床とは異なるものを意味する。
【0004】
しかしながら、上記いずれの方法においても、基本的に、瓶や袋等の小型培養容器を用いて栽培する方法であり、培地を充填する、しいたけ種菌を接種する等、人手に頼る栽培方法であり、大規模な生産には適していない。また市場の低価格化により採算性は厳しい状況にあり、したがって、より効率的な菌床栽培法が種々提案されている。
【0005】
効率面から考えると、大型容器で、菌床や菌床榾木の培養から栽培まで一括で行うことができるのが望ましい。しかし、菌床や菌床榾木の製造に大型容器を用いると、菌糸が蔓延するのに時間がかかる、均一に蔓延しにくい、熱がこもり易い等の弊害がある。特にしいたけ自身の呼吸や分解による発熱で容器内部が高温となり、30℃を超えるとしいたけ菌糸の生育が遅れ、更に温度が上がると障害が残ったり部分的に死滅し、適温に戻しても回復しない場合がある。生育に悪影響を与え、ひいては菌床当たりの収量が低下、収率が悪くなる、品質が一定にならない等の弊害が大きいため実現はできていない。したがって、かかる弊害をなくし、より効率的な培養・栽培方法を得るため種々の工夫がなされている。
【0006】
一例をあげると、大規模なキノコの栽培が可能で、しかも生産性を向上させる方法として、無菌培養して菌糸を蔓延させた培地をほぐし、平面状に盛り込み後、非無菌培養する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、年間を通して充分に採算ベースに合うように生産することが可能で、安定した良質のきのこ類を計画的に生産することが出来る方法として、種菌を接種した培地を培養処理した培養基を壊砕して、所定形状のブロックに成形して育成する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかし、これらの方法では、前記特許文献3の第1図や第7図に示されるように、ブロックに成形した培養基から子実体が多数発生し、子実体の小粒化や重なり合いによる商品力の低下が起こるため、多大な手間と時間を要して、子実体の芽の段階で間引きをする等の作業が欠かせなくなるという問題が生じていた。
【0008】
培養基から発芽、生育させるしいたけの子実体の間引き作業の問題を解決する方法としては、容器内の培養基を掻き出してまとめて大きな塊にし、その周囲やその内部に隙間をあけぬよう大容量の栽培容器内に収容するとともに、培養基の大きな塊の一部周囲表面部分に、しいたけの子実体が互いに重なり合わないだけの間隔をあけて透設した複数の小孔を通して、しいたけの子実体を外部に向けて発芽、成育させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、この方法は子実体の発生個所を小孔に限定することにより制御しようとするものであり、子実体が小孔から発生するか否かは、偶然性に頼らざるを得ないため、安定した収量を確保するには至っていない。
【0010】
さらに、これらの問題を解決する手法として、初回の発生で最大収量が得られ、菌床きのこ栽培の稼働率の向上に寄与できるとともに、工業製品のように一定規格のきのこを生産でき、しかも規格外品のロスの低減が可能なきのこの栽培方法として、種菌を接種し菌糸が蔓延した菌糸塊を、細分化した後、細片状の小型菌床に成形し、当該小型菌床に1個の子実体を形成させて育成培養する、具体的には、上面の表面積が30〜70cm2、厚さが1.5〜3.5cm、質量が100g以下にし、菌床重量を少なく、菌床の厚さを可能な限り薄くする方法が提案されている(例えば、特許文献5および特許文献6参照)。
【0011】
しかしながら、このような種菌を接種し菌糸が蔓延した菌糸塊を、細分化した後、細片状の小型菌床に成形する方法では、いくら成形した菌床を小さくしても、1つの菌床から1個の子実体を安定して発生させることは難しく、逆に菌床を小さくすることによって、子実体の発生が安定しなかったり、遅れる場合が見られる。さらに、子実体の発生が菌床全面から起こり、菌床の底部からの発生したものは、子実体の寸法、形が悪くなる。したがって、これを回避する目的で、小型菌床の底面や側面(四周)を、子実体の形成を阻害する材料で被覆することが記載されているが、これらは手間のかかるものである。
【0012】
また、特許文献5、6においても、菌糸が蔓延した培地(菌糸塊)を崩して新たに成形した菌床を、再度、箱や容器に収容して菌床の底部からの発茸を抑制する、有孔カバーや小孔を透設した蓋体を設置して発茸を抑制することなどが記載されているが、これらも多くの手間を必要とし、さらに再度容器やカバーをすることなどの省力化に反する矛盾を含んでいるため、実用化できないのが実情である。
【特許文献1】特開平6−217639号公報
【特許文献2】特開平2−163005号公報
【特許文献3】特開平4−173021号公報
【特許文献4】特開平1−160431号公報
【特許文献5】特開2005−261377号公報
【特許文献6】特開2006−262742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、培養容器で培養し、培地に菌糸が蔓延した状態の菌床(以下「菌糸塊」とする)を破砕して、再びブロック等の形状に成形した菌床(以下「成形菌床」とする)を用いて培養・栽培する場合、従来の技術では、成形菌床から多数の子実体が発生したり、子実体の発生が成形菌床の全面で見られたりしており、これを制御することが困難であった。このため、子実体の小粒化や重なり合いによる商品力の低下という問題が発生していた。よって、上記特許文献3にあるように、子実体の間引きをおこなったり、上記特許文献4〜6にあるように、菌糸塊を破砕した後、破砕品をまた新たな箱や容器に入れたり、特殊な有孔カバーや蓋体を用いて子実体の発生数を制御しなければならず、したがって、人手に頼らず、上記容器等や特殊な有孔カバー等を消費しない、大規模な生産に適する栽培方法の確立が望まれていた。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、しいたけ菌床栽培において、培養容器にて培養した菌糸塊を破砕し、再度、成形した成形菌床からしいたけ菌床榾木を製造するに際し、上記破砕した菌糸塊を、新たな箱や容器等に移すなどの手間を不要とし、成形した菌床の大きさや形状に左右されること無く、適度な芽数で良形の子実体が発生し、しかも、その子実体を天面と側面から多くを発生させることができ、かつ、収率も高い、工業的量産化が可能なしいたけ菌床榾木を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明のしいたけ菌床榾木の製造方法は、しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養し、菌糸塊を作製する第1工程と、前記菌糸塊を破砕し、圧力を利用し所定の形状に成形して成形菌床を作成する第2工程と、前記成形菌床を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより前記成形菌床の表面に新たな菌糸層を形成して成形菌床を被覆させる第3工程と、新たな菌糸層を形成して被覆された成形菌床を、散水を施しながら培養することにより前記新たに形成された菌糸層を硬質化し前記成形菌床を榾木化する第4工程とを、備えるという構成をとる。
【0016】
本発明者らは、しいたけ菌床栽培において、人手に頼らない大規模な生産に適する栽培方法を得るため、培養した菌糸塊を破砕して再度成形した成形菌床を培養・栽培する方法を中心に鋭意研究を重ねた。その結果、培養容器から取り出された菌糸塊を破砕し、任意の形状に再度成形した成形菌床を、雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養し、成形菌床内部の菌糸体による結着と表面に新たな菌糸層を形成して成形菌床を被覆させ、ついで、この成形菌床を散水を施しながら培養することにより、上記新たに形成した菌糸層を硬質化し、成形菌床を榾木化すると所期の目的を達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、上記の構成により、栽培方法や日数、設備などの栽培スタイルに合わせてしいたけ菌床榾木の形状を自在に変えることができ、さらに、しいたけの子実体の発生部位が特定され、適度な芽数に調整するとともに、収率も高い、しいたけ菌床榾木を製造することができる。したがって、このしいたけ菌床榾木を用いることにより、所望の、人手に頼らない大規模な生産に適するしいたけ栽培を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のしいたけ菌床榾木は、培養容器から取り出された菌糸塊を破砕し、任意の形状に再度成形した成形菌床を用いるため、成形する菌床の大きさや形状が、上記培養容器の大きさや形状に限定されることが全くなくなる。また、培養容器内の培地についても、そのままの状態でその後の培養や栽培を行うことが無いため、菌糸の生育や空気の流通を促進したり発熱を効率的に分散することに特化することができ、畝状に幾つか盛り上げる、長い溝を複数設ける、粒径の異なる培地を層状に置く、空間を作るなど、様々な工夫ができより菌糸塊製造工程の自由度を高めることができる。そして、その再度成形した成形菌床を、雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養し、成形菌床内部の菌糸体による結着と表面の新たな菌糸層を形成して成形菌床を被覆させることにより、手で持っても形が崩れることがなく、取扱いが良好なものとすることができる。ついで、この成形菌床を散水を施しながら培養することにより、上記新たに形成した菌糸層が硬質化するため、このしいたけ菌床榾木から発生する子実体は大型で良形のものが多く、しかも適度な芽数に調整される。したがって、間引き等の作業も不要となるだけでなく、子実体が多数発生することによる品質の低下もなくなるため、より厚肉・良形の子実体を安定的に発生させることができる。また、子実体の発生部位を特定することもできるので、破砕した菌糸塊を箱等に詰めたり、有孔カバー等で覆う等の作業を行う必要がなくなり、これらの箱等やカバー等が不要となる。
【0019】
また、上記成形を行う際に、破砕した菌糸塊に、加工澱粉、カラギーナン等の菌糸の生育を促進し、培養の過程で菌糸により分解される増粘剤を加えることにより、成形菌床の成形時の成形保持性が増加すると共に、上記条件下で培養する際、菌糸の成育が促進される。なお、加工澱粉とは、馬鈴薯澱粉,とうもろこし澱粉,タピオカ澱粉,小麦澱粉等を、アルファ化や誘導体化(エーテル化,エステル化,架橋,グラフト化など)、分解(焙焼,酵素変性,酸処理など)、乾燥、造粒、多孔質化等の処理を行い、分散性や溶解性,膨潤性,耐熱性,耐酸性,粘性,安定性,耐機械性等を調整したものである。
【0020】
さらに、菌糸塊を培養する第1工程において大型培養容器を用いると、使用する培養容器の数、さらにしいたけ種菌を培養容器に接種する手間を共に少なくすることができるため、一層、工業的量産化が可能となる。ここで大型培養容器とは、菌糸塊を作製するに際し通常用いられる培養容器(容量1〜3kgのきのこ培養袋等)より大きな培養容器をいい、その形のまま後の工程へ移行することがないので、特に形状が限定されるものではなく、円柱形、立方形などの他、自由な形とすることができる。また、その形態も箱状、袋状等、作業性や経済性等の観点から自由に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明のしいたけ菌床榾木は、例えば、しいたけ培養瓶等の培養容器に、培地基材であるおが粉等と培地添加物である米糠等の栄養剤を混合した培地を入れ、殺菌後、しいたけ種菌を接種し培養容器内で培養して菌糸塊を作製し(第1工程)、作製した菌糸塊を、培養容器より取り出し破砕し、任意の形状に成形して成形菌床とし(第2工程)、この成形菌床を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養し(第3工程)、ついで、散水を施しながら培養する(第4工程)ことにより得ることができる。
【0023】
上記菌糸塊は、例えば図1に示すきのこ培養瓶1やきのこ培養袋2の培養容器に、おが粉と米糠等の栄養剤を混合した培地を入れ、殺菌後、しいたけ種菌を接種して培養し、菌糸を培地に蔓延させ作製する菌糸塊3(黒色部分)であり(第1工程)、つぎの第2工程において、培養容器より取り出し破砕するものである。本発明では、この第1工程で用いる培養容器は、培養容器内の菌糸塊をそのままの形で後の培養や栽培に移すことが無いため、図2に示すような箱状の大型培養容器4を用いて、作業性やリサイクル性を図ったものでも良い。図2において、3は菌糸塊、4’は密閉蓋である。すなわち、大型培養容器を用いることにより、同じ容量の菌糸塊を作製する際の培養容器の数を少なくすることができ、さらに、培養容器にしいたけ種菌の接種を行う手間も少なくすることができる。
【0024】
また、培養容器内の菌糸塊をそのままの形で後の培養や栽培に移すことがないため、培地は図3のように溝を設け畝状とし、凹凸を設けた形状としてもよく、この場合、種菌は図3aに示す部位に接種する。すると、従来の穴状の植菌孔と異なり、溝状の凹部に種菌が確実に落ちるため、畝の上部の種菌と併せて、菌糸は培地全体に満遍なく蔓延し、しかも、図3のbに示す培地に設けた凹部により通気性が良くなり、熱が発散されるため、菌糸の蔓延に時間がかかる、培地に熱がこもるという従来の大型培養容器を用いて培養する際の問題点を解消することができる。したがって、培養容器内の培地の形状を上記に記載のように変化させる等することにより、培養容器を大型化する際の弊害を除くことができるため、殺菌することが可能である限り培養容器を大きくすることが可能となる。実際には、運搬や汚染等のリスクも考慮して、培養容器の大きさを決定する。
【0025】
培地の殺菌方法は、特に限定されるものではないが通常の殺菌釜を用いる方法のほか、連続殺菌方法やバルク殺菌方法が好適に用いられる。また、しいたけ種菌の接種方法は、特に限定されるものではないが通常の固形種菌を用いる方法のほか、液体植菌や混合植菌が好適に用いられる。
【0026】
上記菌糸塊を破砕し、任意の形状に成形する方法は、例えば図4の模式図に示すように、図4(A)に示すきのこ培養袋2から菌糸塊3を取り出し、破砕機等により破砕して同図(B)に示す破砕品5とするものがあげられる。この破砕品5は、同図(C)に示すように、成形型6’内に充填され、成形機6の押型6”の、図示の矢印の押圧により成形され、ついで同図(D)に示すように、押型6”の下降により成形型6’から下方に押出され(このとき成形型6’の底面を形成する基板が外されている)、成形菌床7となる(第2工程)。
【0027】
なお、上記破砕品5は、成形したときに成形菌床7の内部が均一となるよう、ふるい等により細分化を行うことが好ましい。また、成形の形は任意とすることができ、上記成形型6’等の形状を変えることにより、例えば、図5(A)〜(D)に示されるようなあらゆる形状が可能であり、栽培方法や日数、設備などの栽培スタイルに合わせて自由な形状とすることができる。
【0028】
このようにして、圧縮成形された上記成形菌床7は極めて軟らかく、搬送の途中で崩れやすいものである。しかし、崩れ難くなるまでに圧縮しすぎると、場合により、つぎの第3工程において成形菌床内部が菌糸体により結着した時に、成形菌床全体が硬く緻密になり過ぎるため、成形菌床内外の空気の流れ等がスムーズでなくなり、逆に培養不調を生じることが起こる。そこで、成形直後の崩れを防止するには、圧縮の程度を上げるより、上記破砕品5に加工澱粉、カラギーナン等の増粘剤を添加することにより、崩れを防止し作業性を向上させることが望ましい。
【0029】
上記増粘剤は、成形時の形成保持性の増加だけでなく、菌糸の生育を促進し、次の第3、4工程を短期間に移行できるものが好ましく、特に、第3工程では新たな菌糸層の形成を促進させ、第4工程の過程では菌糸により分解され、成形菌床内部の通気性を阻害することなく、また害菌の繁殖源とならないことが重要である。さらに、分散性を高めるための加熱やオートクレーブ殺菌等による高温を経過しても粘性が低下しないことが望ましい。
【0030】
従って、上記増粘剤として、しいたけ菌糸が成育しても培養の過程で分解できない、寒天、キサンタンガム等は使用しにくく、逆にpHや酵素により、すぐに液化するゼラチン等も使用しにくい。また、菌糸の成育を抑制する、アルギン酸、グアーガム等は望ましくない。上記増粘剤は単独または複数を混合しても良く、加工澱粉、カラギーナン以外でも上記条件を満たすものであれば、使用は可能である。
【0031】
つぎに、この成形菌床7を、例えば図6に示す上面開放型で、側面・底面が格子状に形成された、いわゆる多孔8を有するコンテナ9に、図6のように整列させ、このコンテナを家屋内に多段に積載し、雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養し、成形菌床内部の菌糸体による結着と、成形菌床表面に新たな菌糸層を形成させ被覆させる(第3工程)。
【0032】
上記第3工程は、成形菌床を雰囲気の湿度を飽和(相対湿度100%)または飽和近傍(相対湿度90%以上)まで高めた状態で、通常3〜10日間培養することにより、手で持っても形が崩れることがなく、取り扱いが良好となり、つぎの第4工程での散水より形が崩れることがないものとなる。雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高める方法は、閉鎖空間(成形菌床の呼吸に必要な換気を施したおおむね閉鎖した状態と、完全に閉鎖した状態との双方を含む)において、加湿器等を用いる等の方法があげられる。なお、閉鎖空間の形成は、家屋によって形成するだけでなく、ビニール等のシートで成形菌床を図6のように整列させたコンテナを被覆して形成するようにしてもよい。
【0033】
上記第3工程の温度条件は15〜28℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃の範囲である。すなわち、温度が15℃未満になると菌糸層の形成に時間を要するようになり、28℃を超えると菌糸の活性が低下するからである。
【0034】
上記第3工程の期間は、先に述べたように、3〜10日間の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは6〜8日間の範囲である。すなわち、期間が3日未満だと菌糸層の形成が不充分であるため、つぎの第4工程の散水で菌床内部に水が浸透し易くなり成形菌床が部分的に腐る恐れがあり、10日を超えるとカビ等の付着があるからである。
【0035】
ついで、上記第3工程を経た上記成形菌床7を、図7に示すように、ノズル10から散水11を施しながら培養することにより、上記新たに形成された菌糸層を硬質化させ、成形菌床7の榾木化を行う(第4工程)。
【0036】
上記第4工程は、ノズル等により7日間以上散水し、第3工程で新たに成形菌床表面に形成された菌糸層を褐色化して硬質化を行い、榾木化するものである。これにより、成形菌床の表面が硬質木質化し、物理的耐性をもつ菌床榾木となる。また、散水を行うことにより、成形菌床表面の菌糸層を硬質化させながら成形菌床内部を熟成させるもので、子実体の原基を形成する成形菌床表面の菌糸層を充実させ、成形菌床内部の培地を分解して菌体内に充分な養分蓄積を行う。
【0037】
この第4工程の散水により、子実体の形成が阻害され、具体的には散水により子実体原基の発生を抑え、また原基が出来ても生育しない状態となり、しいたけ菌体内への養分蓄積が進む。一方、成形菌床の表層部では、褐色化を生じながら表面が硬質化し、その直下の表層部分の菌糸層が充実する。したがって、栽培に移行した際に、子実体の発生が適度な芽数に調整され、しかも大振りな子実体が継続して発生する。
【0038】
しいたけの子実体は、菌床表面から10mm程度までのごく表層部で原基が形成されるため、散水により菌床の表面に木質樹皮化された菌糸層を有する菌床榾木は、水分を菌床内に保持し、外部の雑菌に強い抵抗力を有し、しいたけ原基を効率的に連続して形成させることができる。また、幼子実体から成熟子実体にいたる際の養分は、内部の蓄積された栄養分を充分に転流させるため、大振りで正常な子実体を形成することができる。したがって、この表層を形成しない従来の菌床では、原基の形成と生育が不安定となり、未熟な状態が混在するため、多数の子実体が集中的に発生したり、大きさも様々で形状も安定しない状態となる。
【0039】
また、上記第4工程では、7日間以上の散水で上記成形菌床7の表面が褐色化、榾木化し、散水培養の日数を経過するに従って、栽培での子実体の発生部位の方向性が明確となる。14日間以上で子実体の発生位置がより明確となり、21日間以上培養すると底面からの発生がほとんど見られなくなる。したがって、散水は7日間以上、より好ましくは14日間以上、さらに好ましくは21日間以上であるが、90日を超えるほど長期になると、菌糸体による菌床榾木内部の分解が必要以上に進むため、栽培での菌床榾木の寿命が短くなり(栽培可能期間が短くなり)、菌床榾木当たりの子実体の収量性が低下する。また、培養期間の長期化は非効率であるだけでなく、上記理由により菌床榾木そのものの重量や品質のバラツキを助長し、培養中に子実体が発生するなど工業生産的に好ましくない。
【0040】
栽培での子実体の発生部位の方向性が明確となるのは、上記第4工程の経過と共に、上記成形菌床7の菌糸層の上下の配置が明確となることや、散水がまんべんなくかかり、より子実体の発生条件を備えた天面・側面の菌糸層と、散水のかかりが悪く湿っぽい状態の底面の菌糸層とに分かれることにより、栽培での子実体の発生部位が前者に特定されるようになるからと考えられる。
【0041】
上記第4工程の散水は連続的に実施しても良いし、間欠的に実施しても良く、散水工程を2段階に分け、前半では上記成形菌床7が常時濡れた状態を保つように比較的多量の水を散水し、後半ではこの上記成形菌床7の重量を維持しつつ散水量を減少させたり、散水時間を短くしても良い。また散水の効果としては、前述の成形菌床表面の硬質化、子実体の発生部位の特定や発生数の抑制、成形菌床内部の熟成の他に、成形菌床表面に付着した害菌・害虫を洗い流すことや、成形菌床の菌糸層硬質化に伴って害菌抵抗性が一層高まることもあげられる。
【0042】
上記第4工程の温度条件は15〜28℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃の範囲である。すなわち、15℃未満になると成形菌床の熟成が充分に進まず栽培での子実体の発生が遅れることがあり、28℃を超えると菌糸の活性が低下すると共に室内環境での害菌増殖が見られる場合があるからである。
【0043】
なお、しいたけ種菌を接種した場合の種菌接種位置と、子実体の発生位置の関係を以下に示す。
【0044】
図8は、きのこ培養袋等の培養容器内におが粉や米糠等からなる培地が充填され、これにしいたけ種菌を接種した場合の種菌接種位置と子実体の発生位置の関係を説明した図である。
【0045】
菌糸塊を崩さずにその後の培養・栽培工程を行った場合、種菌の接種位置と子実体の発生位置には相関性がある。例えば図8(A)に示すように、培地の天面のみに種菌12を接種すると、栽培工程では菌床榾木天面からの子実体13の発生が多くなる。同様に図8(B)のように、培地の中心に植菌孔14を開け、種菌12を天面及び植菌孔内部に接種した場合、菌床榾木天面及び側面からの子実体の発生が多くなり、植菌孔の深さに比例する傾向が見られる。これは、しいたけの原木栽培においても、オガ種菌や種駒を打った位置から子実体が発生することと相関している。
【0046】
図9および図10は、菌糸塊を破砕し成形した成形菌床を、従来方法に従い培養し栽培に移した菌床(図9)と、本発明の方法により製造し栽培に移した菌床榾木(図10)とを説明した図である。
【0047】
図9は、菌糸塊を破砕し成形した成形菌床を、従来方法に従いそのまま培養して栽培に移した菌床であり、この場合、子実体の発生は、図8(A)、(B)に示される規則性に従わず、子実体は場所を問わず多数発生する。そして、子実体の小粒化や重なりが目立つだけでなく、菌床全面から発生する。図10は、本発明により製造した菌床榾木であり、本発明の第3工程、第4工程を経過させることにより、子実体の発生部位が菌床榾木の天面及び側面に特定される。さらに芽数が適当に制限されており、良形で商品価値が高い子実体が適量発生する優れた菌床榾木であることがわかる。
【実施例】
【0048】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例は、大型培養容器を用いて菌糸塊を作製した例(実施例1〜4)と、通常の培養容器を用いて菌糸塊を作製した例(実施例5〜7)とに分けて説明している。
【0049】
〔大型培養容器を用いて菌糸塊を作製した実施例〕
〔実施例1〕
<菌糸塊の作製(第1工程)>
まず、つぎのようにして菌糸塊を作製した。すなわち、おが粉、米糠、ふすまを8:1:1の割合で混合し、これに水を加えて含水率60〜65%の培地をつくり、この培地を図2に示す箱状の大型培養容器4に12kg充填した。これを121℃で90分間高圧蒸気法により殺菌後、しいたけ種菌を接種し、暗所にて温度18〜25℃の条件で42日間培養し、培地に菌糸が蔓延し菌糸塊となったことを確認した。
【0050】
<破砕および成形(第2工程)>
つぎに、この菌糸塊を培養容器から取り出し、手作業により破砕し、網目直径12mmのふるいにかけ細分化した。この細分化した破砕品を、内寸の直径15cm×高さ10cmの円柱形の市販プラスチック製容器に充填して圧縮成形した後、容器から取り出して、成形菌床とした。
【0051】
<湿度が飽和近傍以上での培養(第3工程)>
つぎに、上記成形菌床を、図6に示すように、上面開放型で側面・底面に多孔を有するコンテナ9に6個整列させた。このコンテナ9を多段に積載し、温度18〜25℃、湿度90%以上になるよう加湿器を用いて保湿された家屋内で7日間培養を行った。
【0052】
<散水培養(第4工程)>
つぎに、上記第3工程を経た上記成形菌床を、温度18〜25℃の家屋内で、図7に示す上部に設けたノズル10から散水11を行いながら42日間培養した。初期の14日間(前期)は、成形菌床表面から水が流れ落ちる量の散水を、比較的連続した時間(20時間/日)行った。これに続く28日間(後期)は、成形菌床の重量を一定に保つ程度の量の散水を、初期に比べて短い時間(8時間/日)行うことにより、目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0053】
〔実施例2〕
上記第4工程において、培養日数を24日(前期14日間、後期10日間)とした他は、実施例1と同様にして目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0054】
〔実施例3〕
上記第2工程において、加工澱粉(日澱化学社製、デリカM9)を加熱溶解して5%水溶液としたものを、菌糸塊を細分化した破砕品100重量部に対し10重量部を添加した他は、実施例1と同様にして目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0055】
〔実施例4〕
上記第2工程において、菌糸塊を細分化した破砕品を、12cm×16cm×9cmの直方体の市販プラスチック製容器に充填して圧縮成形した後、容器から取り出して、成形菌床とした。そのほかは実施例1と同様にして目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0056】
〔比較例1〕
実施例1と同様に上記第1工程を行い、上記第2工程において、破砕品を内寸の直径15cm×高さ10cmの円柱形の市販プラスチック製容器に充填して圧縮成形した後、容器から取り出さずに、通気性を有するシートで容器上部を覆い、上記第3工程および第4工程は行わずに、温度18〜25℃、湿度60〜80%の家屋内で49日間培養し、目的のしいたけ菌床を得た。
【0057】
〔比較例2〕
実施例1と同様に上記第1工程を行い、上記第2工程において、破砕品を内寸の直径15cm×高さ10cmの円柱形の市販プラスチック製容器に充填し圧縮成形した後、容器から取り出し成形菌床とした。この成形菌床を、保湿のためプラスチックシートで被覆し、上記第3工程および第4工程は行わずに、温度18〜25℃、湿度60〜80%の家屋内で49日間培養し、目的のしいたけ菌床を得た。
【0058】
このようにして得た実施例1〜4のしいたけ菌床榾木および比較例1、2のしいたけ菌床を、室温10〜20℃の変温環境、散水はしいたけ菌床榾木および菌床の表面の弾力を損なわない程度(時間0.5〜2時間/日)に行い、5ヶ月間栽培を行った。しいたけ菌床榾木および菌床は2本の細いパイプからなる栽培棚に置き、全面から子実体が発生できるようにしている。このような栽培棚を多段に設けた同一のハウス内に目的のしいたけ菌床榾木および菌床を置き、栽培での子実体発生の評価を行った。
【0059】
〔子実体の発生部位〕
各しいたけ菌床榾木および菌床から発生した子実体の発生部位(天面、側面、底面)と個数を測定し、発生部位の個数比率(%)を算出し比較を行った。
【0060】
〔子実体の大きさ〕
各しいたけ菌床榾木および菌床から発生した子実体を、7部開きの開傘時に収穫し、その大きさを測定した。大きさは、直径6cmを超えるものをLサイズ、直径4〜6cmのものをMサイズ、直径4cm未満のものをSサイズとし、各サイズを表記した。
【0061】
〔収量〕〔菌床榾木または菌床100g当たりの収量〕
各しいたけ菌床榾木または菌床から発生した子実体の合計重量を測定し、その重量(g)を収量として表記し、菌床榾木または菌床100g当たりの収量を算出し表記した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、各実施品(実施例1〜4)は、第3工程と第4工程を経過させることにより、子実体の発生位置が特定され、菌床榾木の底面からの子実体発生がほとんど見られなくなることがわかる。また、各実施例品の子実体の大きさはL〜M寸が中心であるのに対し、比較例品(比較例1、2)はS〜M寸が中心であり、多数の芽数により子実体の小粒化が促進され、子実体の発生が同じ位置で三つ子、四つ子、多数芽など複数が株立ちし極端に商品価値が低下していた。さらに、収量および100g当たりの収量をみると、実施例品(実施例1〜4)の方が比較例品(比較例1、2)よりも多いという結果であった。この結果より、成形菌床を第3工程および第4工程を経過させると、収率が高くなることがわかる。
【0064】
〔通常培養容器を用いて菌糸塊を作製した実施例〕
〔実施例5〕
<菌糸塊の作製(第1工程)>
まず、つぎのようにして菌糸塊を作製した。すなわち、おが粉、米糠、ふすまを8:1:1の割合で混合し、これに水を加えて含水率60〜65%の培地をつくり、この培地を図1(B)に示すポリプロピレン製のきのこ培養袋2に1kg充填した。これを121℃で90分間高圧蒸気法により殺菌後、しいたけ種菌を接種し、暗所にて温度18〜25℃の条件で42日間培養し、培地に菌糸が蔓延し菌糸塊となったことを確認した。
【0065】
<破砕および成形(第2工程)>
つぎに、この菌糸塊を培養容器から取り出し、手作業により破砕し、網目直径12mmのふるいにかけ細分化した。この細分化した破砕品200gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径9.8cm×高さ4cmの円柱状に圧縮成形し、その後、容器から取り出して、成形菌床とした。
【0066】
<湿度が飽和近傍以上での培養(第3工程)>
つぎに、上記成形菌床を、図6に示すように、上面開放型で側面・底面に多孔を有するコンテナ9に整列させた。このコンテナ9を多段に積載し、温度18〜25℃、湿度90%以上の加湿器を用いて保湿された家屋内で7日間培養を行った。
【0067】
<散水培養(第4工程)>
つぎに、上記第3工程を経た上記成形菌床を、温度18〜25℃の家屋内で、図7に示す上部に設けたノズル10から散水11を行いながら36日間培養した。初期の14日間(前期)は、成形菌床表面から水が流れ落ちる量の散水を、比較的連続した時間(20時間/日)行った。これに続く21日間(後期)は、成形菌床の重量を一定に保つ程度の量の散水を、初期に比べて短い時間(8時間/日)行うことにより、目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0068】
〔実施例6〕
上記第2工程において、破砕品440gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径11.3cm×高さ6cmの円柱状に圧縮成形したほかは、実施例5と同様にして、目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0069】
〔実施例7〕
上記第2工程において、破砕品805gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径14.2cm×高さ7cmの円柱状に圧縮成形したほかは、実施例5と同様にして、目的のしいたけ菌床榾木を得た。
【0070】
〔比較例3〕
実施例5と同様に上記第1工程を行い、上記第2工程において、細分化した破砕品220gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径9.8cm×高さ4cmの円柱状に圧縮成形し、容器から取り出さずに、通気性を有するシートで容器上部を覆い、上記第3工程および第4工程は行わずに、温度18〜25℃、湿度60〜80%の家屋内で42日間培養し、目的のしいたけ菌床を得た。
【0071】
〔比較例4〕
実施例5と同様に上記第1工程を行い、上記第2工程において、細分化した破砕品440gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径11.3cm×高さ6cmの円柱状に圧縮成形し、容器から取り出さずに、通気性を有するシートで容器上部を覆い、上記第3工程および第4工程は行わずに、温度18〜25℃、湿度60〜80%の家屋内で42日間培養し、目的のしいたけ菌床を得た。
【0072】
〔比較例5〕
実施例5と同様に上記第1工程を行い、上記第2工程において、細分化した破砕品805gを、市販のプラスチック製の容器を用いて、直径14.2cm×高さ7cmの円柱状に圧縮成形し、容器から取り出さずに、通気性を有するシートで容器上部を覆い、上記第3工程および第4工程は行わずに、温度18〜25℃、湿度60〜80%の家屋内で42日間培養し、目的のしいたけ菌床を得た。
【0073】
このようにして得た実施例5〜7のしいたけ菌床榾木および比較例3〜5のしいたけ菌床を、子実体を発生させるべく、散水を表面の弾力を損なわない程度(時間0.5〜2時間/日)に行い、室温10〜20℃の変温環境下で、120日間栽培を行った。しいたけ菌床榾木および菌床は2本の細いパイプからなる栽培棚に置き、全面から子実体が発生できるようにしている。このような栽培棚を多段に設けた同一のハウス内に目的のしいたけ菌床榾木および菌床を置き、栽培での子実体発生の評価を行った。
【0074】
〔子実体の発生部位〕
各しいたけ菌床榾木または菌床から発生した子実体の発生部位(天面、側面、底面)と個数を測定し、比較を行った。
【0075】
〔子実体の大きさ〕
各しいたけ菌床榾木および菌床から発生した子実体を、7部開きの開傘時に収穫し、その大きさを測定した。大きさは、直径6cmを超えるものをLサイズ、直径4〜6cmのものをMサイズ、直径4cm未満のものをSサイズとし、各サイズを表記した。
【0076】
〔収量〕〔菌床榾木または菌床100g当たりの収量〕
各しいたけ菌床榾木または菌床から発生した子実体の合計重量を測定し、その重量(g)を収量として表記し、また、菌床榾木または菌床100g当たりの収量を算出し表記した。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から、各実施例品(実施例5〜7)は、大きさを変化させても、第3工程と第4工程を経過させることにより、子実体の発生位置が特定され、菌床榾木の底面からの発生が無いことがわかる。また、いずれの大きさにおいても、子実体の大きさは、比較例品(比較例3〜5)に対し、Lサイズが多くSサイズが少なかった。すなわち、比較例品(比較例3〜5)から発生した子実体は、全体の収量が少ない上、小粒化していた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(A)、(B)は本発明の培養容器と菌糸塊を示す斜視図。
【図2】本発明において大型培養容器により菌糸塊を製造する状態を示す断面図。
【図3】本発明において大型培養容器内の培地の形状の例を示す断面図。
【図4】(A)〜(D)は本発明において菌糸塊を破砕し成形する例を示す説明図。
【図5】(A)〜(D)は本発明において成形された成形菌床の形状の例を示す説明図。
【図6】本発明において成形菌床をコンテナに収容した状態を示す説明図。
【図7】本発明において多段に積み重ねたコンテナに散水を施す例を示す説明図。
【図8】(A)、(B)は従来例において種菌接種位置と子実体の発生位置の関係を示す説明図。
【図9】従来例において菌糸塊を破砕成形した成形菌床からの子実体の発生状態を示す説明図。
【図10】本発明において菌糸塊を破砕成形し、第3工程および第4工程を経過させた成形菌床榾木からの子実体の発生状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0080】
1 きのこ培養瓶
2 きのこ培養袋
3 菌糸塊
4 大型培養容器
4’ 容器密閉蓋
5 破砕品
6 成形機
6’ 成形型
6’’ 押型
7 成形菌床
8 孔
9 コンテナ
10 ノズル
11 散水
12 種菌
13 子実体
14 植菌孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
しいたけ種菌を接種した培地を培養容器で培養し、菌糸塊を作製する第1工程と、前記菌糸塊を破砕し、圧力を利用し所定の形状に成形して成形菌床を作製する第2工程と、前記成形菌床を雰囲気の湿度を飽和または飽和近傍まで高めた状態で培養することにより前記成形菌床の表面に新たな菌糸層を形成して成形菌床を被覆させる第3工程と、新たな菌糸層を形成して被覆された成形菌床を、散水を施しながら培養することにより前記新たに形成された菌糸層を硬質化し前記成形菌床を榾木化する第4工程とを、備えたことを特徴とするしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項2】
上記第1工程において、培養容器として大型の培養容器を用いる請求項1記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。
【請求項3】
上記第2工程において、菌糸の生育を促進し培養の過程で菌糸により分解される増粘剤を上記破砕された菌糸塊に添加し、この増粘剤が添加された上記破砕された菌糸塊を、圧力を利用し所定の形状に成形して成形菌床を作製する請求項1または2に記載のしいたけ菌床榾木の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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