説明

し尿処理システム

【課題】 臭気の発生が少なく、維持管理の容易なし尿処理システムを提供する。
【解決手段】し尿を固形分と液体分に分離したのちに、し尿の固形分を固相発酵し、液体分を好気処理するために、ろ材30が充填され撹拌機11を内蔵したろ過機31と該ろ過機の下段の液相処理槽12とで構成した。固形分は該ろ過機に充填した該ろ材を媒体として固相発酵される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿処理をトイレの設置現場で自己完結させるし尿処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、コンポスト化装置や液相処理装置、あるいは、燃焼装置を利用して、し尿をトイレの設置現場で処理する自己完結型のし尿処理システムを構成していた。
【0003】
イベント会場や工事現場、あるいは、山小屋といった下水道のインフラのない場所では、トイレからのし尿をバキュームカー等により排出するか、その場で処理するかのいずれかの方法を選択する必要がある。このような場所からし尿を排出する場合、設置場所の特性上、一般家庭からのし尿の排出と位置付けられないため、産業廃棄物に区分される。そのため、排出、運搬、処分の各処理工程でそれぞれの産業廃棄物登録業者が適正処理することが必要となるものの、実際にはこれらのトイレが設置されるエリアでは産業廃棄物処分業者を手配できないケースが多々あり、そのためにトイレを設置できない、あるいは、地面に埋めるなどの不衛生的な方法により処理されるという問題点を有していた。
【0004】
これらの問題点を解決するためにトイレに溜めたし尿をトイレ近傍で衛生的に処分する方法が考案されている。
例えば、小型の単独処理浄化槽を後段に設置してし尿の処理を行い、処理水を蒸発散させたり、高度処理してトイレ洗浄水として再使用したり、河川に放流したりする方法が考案されている。(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、自己完結型のトイレが設置される場合、仮設的な用途に使用されることが多いため、容量の大きな単独処理浄化槽を埋設するのは現実的に無理であることに加え、処理性能が安定するまで約3ヶ月かかるため適正水質の放流水が得られないこと、水利権上放流先が確保されないケースがあることといった処理システムに起因する問題点に加えて、処理槽のメンテナンス技術者が確保しにくいといった管理条理問題点もあるため、実際の使用例はほぼゼロの状況であった。
【0005】
このような背景から、小さな容積で短時間にし尿を処理する新しい方法が考案されている。例えばし尿を電気ヒータやバーナーによって乾燥したり焼却したりする方法が考案されている。(例えば、特許文献1参照)。さらには、し尿をおがくずなどの媒体と混合して空気を送り込むことで固相発酵させる方法が発明されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
これらの方法によれば、処理システムが小型で設置性がよいことに加え、使用開始後比較的短い時間で処理が安定する、河川などへの放流が不要である、設置やメンテナンスに特殊や技能が不要であるなどの利点がある。
【0007】
しかしながらし尿の焼却や乾燥による方法では、処理用熱源の費用が必要であり、しかも、処理中あるいはメンテナンス作業時に処理物から臭気が放散されるという問題点を有していた。
【0008】
これらの問題点を解決するために触媒分解や二段燃焼といった脱臭技術も考案されている。これらの方法により、処理物から発生する臭気は感知レベル以下まで低減させることが可能であるものの、臭気処理の為の費用が発生するという課題を有していた。一方、固相発酵では、媒体の水分率が40〜60%の範囲では良好な特性を示し、臭気が少なく状態でし尿中の有機成分を効率的に生物分解することが可能である。しかしながら、媒体の水分率が大きすぎる場合は媒体中に含まれる水分が有機物分解に必要な空気が供給されなくなる為、嫌気発酵状態となり、著しい臭気を発生するようになる。固相発酵装置では、し尿の全量を媒体に投入して処理を行う為、設定人数よりも使用水量が多い、あるいは、設定よりも大便よりも小便使用者が多いという条件下で発生しやすい状況にあった。逆に、水分率が前述の値よりも小さい場合は微生物反応に必要な水分が供給されない為、微生物反応速度が低下するため、固相発酵が進まず、媒体容量が増大する問題点に加え、分解されないし尿からし尿そのものの臭気が発生するといった問題点を有していた。臭気発生の少ない固相発酵を行うには、温度条件や撹拌条件の最適化以上に、水分と有機物の負荷を適正化する必要があるが、固相発酵装置ではし尿全量を媒体に混合するため水分と有機物を独立制御できないため,臭気発生を防止できないという課題を有していた。
【0009】
し尿の固相発酵時に発生する臭気を防止する観点で固相発酵装置に水分測定器を付設し、該水分測定器の信号により撹拌機と加湿器の制御を行う処理装置が考案されている。(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば固相発酵装置の水分率を制御できる為、良好な発酵条件を維持できるものの、処理想定人数を超えるし尿が投入された場合に水分蒸発が追いつかず、結果として悪臭を発生させる問題点を有していた。
【0010】
【特許文献1】特開平07−204124号公報
【特許文献2】特開平07−184805号公報
【特許文献3】特開2003−174982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、し尿をろ過機31を用いて全ろ過法により固形分と液体分に分離したのちに、固形分はろ過機31に充填したろ材30を媒体とする固相発酵により、また、液体分はろ過機31下部に設置した液相処理槽12により分解することで、水分負荷が少なく負荷変動に強い条件で固相発酵を行うことで従来のし尿の固相発酵の問題点を解決できるし尿処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、簡易水洗トイレの後段にろ材30を充填したろ過機31と液相処理槽12を組み合わせることで、し尿中の固形分と液体分を分離し、成分分解しにくい有機物をろ過機31内に補足するとともに、生分解性の高い液体分を液相処理することで、し尿中の固形分と液体分をそれぞれの分解性に適した処理をすることで臭気の発生しにくい条件で安定運転することを可能とした。
【0013】
上記目的を達成するために請求項2記載の発明によれば、前記ろ過機31に固体発酵機能を設けたため、ろ過機31内に補足したし尿をろ過機31から取り出すことなく処理できることを可能とした。また、し尿中に含まれるトイレットペーパーをろ材30として再利用することを可能とした。
【0014】
上記目的を達成するために請求項3記載の発明によれば、前記ろ過機31の上部に臭突管25を設置したので、固相発酵時に発生した蒸気や臭気をトイレブース1に逆流させずに外部に放散させるようにした。また、前記ろ過機31の下部に網目状のスクリーン24を設けたのでろ材30とし尿中の排水の分離が良好に行えるようにした。また、ろ過機31の内部にろ材30を撹拌させるための撹拌機11を設置して、ろ材30を撹拌することでろ材30中の水分の放散を促進するとともに、内部の有機物負荷が均一になるようにした。以上により、臭気の発生の少ない自己完結型の処理システムを構成することを可能とした。
【0015】
上記目的を達成するために請求項4記載の発明によれば、ろ材30として粒径1〜10mmの生分解性の低い有機物を利用することで、スクリーン24でのろ材30と排水の分離を容易にするとともに、処理終了時に回収した処理物をコンポスト化や焼却などによる処理が可能になるようにした。
【0016】
上記目的を達成するために請求項5記載の発明によれば、前記ろ過機31に充填するろ材30の容量を処理対象人員1日1人あたり10〜50リットルに設定することで、固相発酵時の有機物負荷が過小および過大とならず、長期的に臭気発生の少ない安定した運転が実現できるようにした。
【0017】
上記目的を達成するために請求項6記載の発明によれば、臭突管25に臭気放散防止のための臭突ファン23を設けたので、ろ過機31および液相処理槽12の内部を負圧にして処理装置から発生する臭気をトイレブース1に逆流させずに処理することを可能とした。
【0018】
上記目的を達成するために請求項7記載の発明によれば、処理の過程で容量が増加するろ材30を回収するためのろ材オーバーフロー口13を設けたことで、ろ過槽31のろ材重量が増加することによる消費動力の増大や撹拌機11のトルク増大によるろ過機31の破損を防止することを可能とした。
【0019】
上記目的を達成するために請求項8記載の発明によれば、前記液相処理槽12には、ブロワ20からの空気を吹き込む為の散気管17を組み込んだことで、液相処理槽12内を好気性に保つことで臭気の発生を防止するとともに、排水の酸化による液相処理槽12の腐食を防止することを可能とした。
【0020】
上記目的を達成するために請求項9記載の発明によれば、前記液相処理槽12に、接触材16を組み込むことで、液体分のBOD負荷変動に対応できる処理性能が確保できることを可能とした。
【0021】
上記目的を達成するために請求項10記載の発明によれば、前記液相処理槽12の処理槽容量を処理対象人員1日1人あたり10〜50リットルに設定することで、液相発酵時の有機物負荷が過小および過大とならず、長期的に臭気発生の少ない安定した運転が実現できるようにした。
【0022】
上記目的を達成するために請求項11記載の発明によれば、処理の過程で容量が増加する処理水を回収するための排水オーバーフロー口15を設けたことで、処理水がスクリーンから逆流してろ材が嫌気発酵して臭気が発生することを防止することを可能とした。
【0023】
上記目的を達成するために請求項12記載の発明によれば、循環ポンプ19により処理水をろ過機31またはロータンク2に返送することで、ろ材31への水分補給および水の循環利用を可能とした。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、し尿をろ過機31で固形分と液体分に分離し、ろ材30に補足した固形分をそのまま固相発酵することができる為、新たな固相発酵槽を設けることなく、水分率の適正な状態で固相発酵させることが可能であり、結果として、少ない装置構成で臭気発生の少ない固相発酵を実現することができる。また、し尿中に分散しているトイレットペーパーをそのままろ材および固相発酵の媒体材として使用することができる。一方、ろ過機により分離された液体分を好気処理により分解させるので、臭気の少ない方法で生物分解が可能となる。さらに、液相処理槽から発生する臭気を伴う蒸気は、上段のろ過機内を通過中に吸着されて消臭化されるとともに、ろ材に水分を補充することができる。以上より、臭気の発生が少なく、処理能力が安定したし尿処理システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のし尿処理システムの断面図を示す断面図である。図2は同し尿処理システムの制御フローである。
【0026】
図1は本実施形態のし尿処理システムの概略図である。
処理システムは可搬式であるため、設置場所に搬入し、組み立てを行う。この組み立て内容はトイレブース1の数や設置場所の制約等で異なるが、例えば、処理システムの上部にトイレブース1に設置するなどの方法により行う。
設置終了後、ろ過機31にろ材30を投入する。ろ材30としては、粒径1〜10mmの難分解性有機物が望ましく、例えば、もみがらを使用する。ろ材30の投入量は、1日あたりの処理対象人員に10〜50リットルを乗じた容量とする。
液相処理槽12に水道と電源27を接続する。水道は、上水道でも、井水でもよく、場合によっては貯水タンクでもよい。水道接続後、排水処理槽にはボールタップ14で決められる上限まで自動的に給水が行われる。
電源投入後、制御の自動診断を行った後に、臭気ファン23、ブロワ20、撹拌機11の運転を開始し、ブロワ20の送風経路がろ過機31のヘッドスペース経路となっているときはばっ気経路送風切り替えて待機モードとする。
待機モード中にトイレ使用者は用便後に図2に示す処理開始ボタン7の中の小処理ボタンまたは大処理ボタンを押す。その後は処理システムが自動制御を行い、し尿の処理を行う。
【0027】
図2を用いて処理開始ボタン7操作後のし尿処理の制御フローを説明する。
使用者退出のドアの開閉信号を検知後、ライト5および換気扇6をOFFとする(S116−S117)。エア系三方弁28を操作してブロワ20からの通風をろ過機31のヘッドスペースから液相処理槽12のばっ気経路に切り替えて、好気性処理を開始する(S118−S119)。液相処理槽12では、BOD濃度の高い排水を処理する必要があるため、常ばっ気を基本とする。このばっ気は用便後排水のBODが処理される所定時間、たとえば5日間が経過した後に停止する(S120−121)。液相処理槽12でのばっ気開始後速やかに撹拌機11を稼動してろ過機31内のろ材30の撹拌を開始する(S122)。撹拌機11の運転はろ材30の乾燥が主目的であるため常時回転させる必要はなく、たとえば30分に1回20秒間回転させる。このばっ気は用便後ろ材30が適正水分量まで乾燥するまでの所定時間あるいは液相処理槽12からの蒸気が発生する期間運転を継続した後に停止する(S123−124)。この期間は、たとえば液相処理槽12の運転継続時間である5日間が選定される。
【実施例1】
【0028】
本発明のし尿処理装置を工事現場に設置した場合の特性を測定した。
処理対象人員は10人のタイプで、ろ過機31内のろ材30の容量は300リットル、液相処理槽の容量は70リットルである。
なお、比較のために同様の能力を有する固相発酵処理型トイレを設置した。
試験期間は3ヶ月間とし、最初の1ヶ月間は1日に10人分ずつ、次の1ヶ月間は20人分ずつ、最後の1ヶ月間は30人分ずつ処理した。試験期間は、固相発酵の状態を確認する為、ろ材30もしくは媒体の水分率を蒸発法により、また固相発酵槽もしくはろ過機31ヘッドスペース、アンモニアを代表物質と見なして処理槽部分の臭気濃度を測定した。なお、各分析はし尿投入の影響を無くすため、使用後2時間経過後に行った。
固相発酵処理型トイレでは、最初の1ヶ月間のアンモニア濃度は20ppm以下で特別な悪臭は感じられなかった。この期間の媒体の水分率は45〜53%の範囲であった。2ヶ月目に入り、処理人員が20人を越えた時点でアンモニア濃度は170ppmを超え、周囲に悪臭を放つようになった。悪臭はトイレ内だけではなく設置箇所の周囲の広範囲に及んだ。この期間における媒体の水分率は65〜83%の範囲で、常にぬれているような外観を有していた。処理人員が30人を超えて運転開始2日目にはアンモニア濃度は500ppmを超え、そのまま設置を継続することができなかった。回収した装置を分解したところ撹拌軸の軸受およびグランドシール部のケースが破壊し、その部分から臭気の著しい液体が染み出していた。
一方、ろ過機31と液相処理槽12を組み合わせた本発明のし尿処理装置では、3ヶ月間にわたり、運転を継続することが出来た。期間中のアンモニア濃度は10ppm以下で、異常な臭気として認識されなかった。また、ろ材30の水分率は3ヶ月の試験期間中35〜60%の範囲で、常に乾燥した顆粒状を呈していた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】し尿処理システムの断面図
【図2】し尿処理システムの制御フロー
【符号の説明】
【0030】
1・・・トイレブース、2・・・ロータンク、3・・・便器、4・・・フラッパー弁、5・・・ライト、6・・・換気扇、7・・・処理開始ボタン、8・・・ドア開閉検出器、9・・・ろ材投入口、10・・・撹拌羽根、11・・・撹拌機、12・・・液相処理槽、13・・・ろ材オーバーフロー口、14・・・ボールタップ、15・・・排水オーバーフロー口、16・・・接触材、17・・・散気管、18・・・排水取出口、19・・・循環ポンプ、20・・・ブロワ、21・・・断熱材、22・・・脱臭触媒、23・・・臭突ファン、24・・・スクリーン、25・・・臭突、26・・・制御盤、27・・・電源、28・・・エア系三方弁、29・・・ろ材取出口、30・・・ろ材、31・・・ろ過機、32・・・液系三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
簡易水洗トイレの後段にろ材を充填したろ過機と液相処理槽を組み合わせたことを特徴とするし尿処理システム。
【請求項2】
前記ろ過機に固体発酵機能を設けたことを特徴とする請求項1に記載のし尿処理システム。
【請求項3】
前記ろ過機の上部に臭突管を下部に網目スクリーンおよびろ材を撹拌させるための撹拌機を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のし尿処理システム。
【請求項4】
前記ろ過機に充填するろ材として粒径1〜10mmの生分解性の低い有機物を利用することを特徴とする請求項1〜請求項3何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項5】
前記ろ過機に充填するろ材の容量を処理対象人員1日1人あたり10〜50リットルにしたことを特徴とする請求項1〜請求項4何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項6】
前記ろ過機に付設する臭突管には臭気放散防止のためのファンを有することを特徴とする請求項1〜請求項5何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項7】
前記ろ過機のろ材容量が経時的に増量増加した場合にろ材を回収するためのオーバーフロー口を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項6何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項8】
前記液相処理槽に、ばっ気機構を組み込んだことを特徴とする請求項1〜請求項7何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項9】
前記液相処理槽に、接触材を組み込んだことを特徴とする請求項1〜請求項8何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項10】
前記液相処理槽の処理槽容量を処理対象人員1日1人あたり1〜20リットルにしたことを特徴とする請求項1〜請求項9何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項11】
前記液相処理槽の処理槽容量が経時的に増量増加した場合に処理液を回収するためのオーバーフロー口を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項10何れか一項に記載のし尿処理システム。
【請求項12】
前記液相処理槽の処理槽水をろ過機に返送またはロータンクに返送することを特徴とする請求項1〜請求項10何れか一項に記載のし尿処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−314938(P2006−314938A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140971(P2005−140971)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(594028037)株式会社ミカサ (1)
【Fターム(参考)】