説明

すべり支承免震装置

【課題】より簡単な構成によって施工誤差あるいは地震や強風によるレール関係の変形に基づく偏荷重に対応し得るすべり支承免震装置を提供し、もって装置の簡素化、コストの削減、耐久性の向上などを図る。
【解決手段】少なくとも上部構造物4又は下部構造物2に対して移動が制限された状態に設置された保持部材6と、該保持部材6に上下方向に貫通して形成した筒状保持孔12内に挿入される筒状部を有する摺動部材7とを備え、その筒状保持孔12から突出した摺動部材7の上面又は下面の少なくともいずれか一方を上部構造物4側又は下部構造物2側に設置された支承面に対して摺接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり支承免震装置に関する。より詳しくは、すべり支承の採用により支承機能と減衰機能とを併せ持たせたすべり支承免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のすべり支承免震装置に関して、十字状に交差するように上下に設置した2本のレールの交差部に、それらのレールの側面に係合する摺動部材を配設することにより支承機能を持たせるとともに、それらのレールと摺動部材との摺動摩擦によって減衰機能を併せ持たせたものが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この従来技術の場合には、簡単な構成によって支承機能と減衰機能とを併せ持たせることができるものの、上下のレール間の施工誤差あるいは地震や強風によるレール関係の変形に基づく偏荷重に対する対応手段は特に講じられていなかった。このため、例えば上下のレール間の水平方向の平行度に関する施工誤差が生じたり、あるいは地震や強風によりレール関係に変形が生じると、レールと摺動部材との摺接部分に偏荷重が生じて、その摺接部分の破損や変形を起す原因になる可能性が高く、免震装置としての機能に支障を来す虞があった。
【特許文献1】特開平11−190390号公報
【0003】
また、十字状に交差した上下のレールに形成された案内溝を貫通した状態に配設され、それらの案内溝の交点に沿って誘導されるように構成された移動部材の上下部に膨出部を一体形成し、それらの膨出部に対して積層ゴムを介在させて貼設した樹脂板を前記各レールに形成した支承面に摺接させるように構成したものが知られている(引用文献2参照)。この従来技術の場合には、積層ゴムの介在により、荷重を支持する支承機能と同時に、その積層ゴムの変形吸収作用によって、施工誤差や、地震ないし強風による変形を吸収することにより偏荷重に対応することも可能である。しかしながら、移動部材の上下部に一体形成した膨出部に対して積層ゴムや樹脂板を貼設する必要があるため、装置の複雑化やコストアップの要因にもなった。さらに、接着剤等による貼設作業は、厄介な作業を伴うだけでなく、長い年月の間には積層ゴムや樹脂板がはがれて、滑り支承免震装置としての機能に支承を来す虞もあった。
【特許文献2】特許第3663563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的問題に鑑み、より簡単な構成によって施工誤差あるいは地震や強風によるレール関係の変形に基づく偏荷重に対応し得るすべり支承免震装置を提供し、もって装置の簡素化、コストの削減、耐久性の向上などを図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、少なくとも上部構造物又は下部構造物に対して移動が制限された状態に設置された保持部材と、該保持部材を上下方向に貫通して形成した筒状保持孔内に挿入される筒状部を有する摺動部材とを備え、その筒状保持孔から突出した前記摺動部材の上面又は下面の少なくともいずれか一方を上部構造物側又は下部構造物側に設置された支承面に対して摺接するという技術手段を採用した。ここで、上部構造物又は下部構造物に対して移動が制限された状態とは、上部構造物又は下部構造物に対する保持部材の自由な相対移動が制限された状態であればよく、保持部材が上部構造物又は下部構造物に対して固定された形態や、レール等によって一定方向に移動が制限された形態が含まれる。さらに、前記保持部材に形成された筒状保持孔と摺動部材の筒状部との間に間隙を設けるようにしてもよい(請求項2)。また、上部構造物及び下部構造物に互いに十字状に交差するように設置したレールの対向する面に前記支承面を形成するとともに、前記保持部材の移動をそれらのレールの軸線方向のみに制限するように構成してもよい(請求項3)。因みに、この場合の保持部材の動作位置は、双方のレールの軸線方向の条件を満たす交点に拘束されることになる。なお、ここでレールとは、保持部材の移動を所定の軸線方向のみに制限し得る構造のものであればよく、その断面形状は問うところでない。前記保持部材をレールに対して移動可能に掛止させ、それらの保持部材とレール間に作用する上下方向の引張力に対抗し得るように構成することも可能である(請求項4)。さらに、前記レールを重合させた幅の異なる2枚の平板から構成してレールの両側部に段部を形成し、それらの段部に対して前記保持部材を移動可能に掛止させるように構成することも可能である(請求項5)。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)保持部材に筒状の保持孔を形成して、その筒状保持孔に摺動部材の筒状部を挿入するように構成したので、筒状保持孔の高さの選定により摺動部材の変形可能な厚さを的確かつ簡便に大きく設定でき、変形性能を改善できるとともに、筒状保持孔と摺動部材の筒状部との接触面も大きくとれ、保持部材と摺動部材との間に作用する剪断作用が緩和されることから、簡単な構成によって、施工誤差あるいは地震や強風によるレール関係の変形に基づく偏荷重に的確に対応することが可能である。
(2)したがって、装置の簡素化、コストの削減、耐久性の向上などを図ることができる。
(3)筒状保持孔と摺動部材の筒状部との間の間隙により摺動部材の変形可能な量を増大することができる。
(4)十字状に交差するレールへの適用も可能であり、その際に保持部材をレールに対して移動可能に掛止するように構成すれば、上下方向の引張力にも簡便に対抗することができる。
(5)さらに、レールを幅の異なる2枚の平板を重合して構成し、レールの両側部に段部を形成するようにすれば、それらの段部を用いて保持部材を簡便に掛止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、S造、RC造、SRC造、あるいは木造などの各種の建築物のほか、美術品等の展示台やプラント施設の機器などの免震装置として広く適用することができる。また、前記保持部材を上部構造物又は下部構造物に対して固定し、その保持部材の筒状保持孔に挿入された摺動部材を他方の上部構造物又は下部構造物に設置した例えば皿状の支承面に摺接するように構成してもよいし、前記保持部材を上部構造物と下部構造物に例えば十字状に交差するように設置したレールにより誘導し、それらレールの交点の軌跡に沿って移動するように構成するとともに、その保持部材の筒状保持孔に挿入された摺動部材の上下面を上部構造物と下部構造物に設置された支承面に摺接するように構成する形態も可能である。前記摺動部材は、プラスチックや硬質ゴムなどの変形可能な摺動性を有する同質材料からなる一体成型物や、その一体成型物に摺動性の良好なコーティングを施したものでもよいし、さらに鋼材等からなる板部を含んだ積層体から構成することも可能である。要は、施工誤差や地震あるいは強風による水平方向の外力が作用した場合に、支承面上を摺動することにより下部構造物と上部構造物との間における前記外力の伝達を軽減する免震支承機能と共に減衰機能を奏するものであればよい。また、前記保持部材に形成する筒状保持孔と摺動部材の筒状部は、ほぼ相似形のものであれば、その具体的な断面形状は、円形でも矩形でも他の多角形状のものや楕円形状のものでもよい。
【実施例】
【0008】
図1及び図2は本発明の実施例に係るすべり支承免震装置を示したもので、図1は平面図、図2は片側断面図である。図示のように、本実施例に係るすべり支承免震装置1は、下部構造物2側に設置される下部レール3と上部構造物4側に設置される上部レール5とからなる十字状に配設された2本のレール3,5と、それらのレール3,5に沿って移動可能に配設された保持部材6と、その保持部材6に形成された筒状保持孔内に挿入される摺動部材7を主要素として構成されている。因みに、その免震装置1の設置位置は、地盤側の基礎部と躯体下部との間に設置するのが一般的な形態であるが、躯体の中間部に設置する場合にも適用が可能である。下部レール3は、本実施例では幅の異なる2枚の鋼製の平板3a,3bを重合することによって構成され、その幅方向の両側部には下向きの掛止用段部が形成されている。同様に、上部レール5は、幅の異なる2枚の鋼製の平板5a,5bを重合することによって構成され、図示のように幅方向の両側部には上向きの掛止用段部5c、5dが形成されている。さらに、本実施例では、互いに内側に対向した下部レール3の平板3aの上面と、上部レール5の平板5aの下面にすべり板8,9が付設され、それらのすべり板8,9の表面を支承面として前記保持部材6に形成された筒状保持孔内に挿入された摺動部材7の上下面が摺接されるように構成している。そして、図においては、下部レール3は、長手方向の両端部近傍において適宜数の固定用ボルト10により下部構造物2側に直接固定され、また上部レール5は、その長手方向の両端部近傍において適宜数の固定用ボルト11により上部構造物4側に直接固定された場合を示したが、例えば下部構造物2や上部構造物4側に設置したベースプレートなどを介して下部レール3等を固定してもよく、その固定手段についても特に限定されない。
【0009】
図3は本実施例に係るすべり支承免震装置1の要部を拡大して示した要部拡大図である。また、図4は保持部材6及び該保持部材6に組込まれた摺動部材7を示した平面図であり、図5はその片側断面図である。図4に示したように、本実施例では、前記保持部材6に矩形状の筒状保持孔12を形成した場合を示したもので、その筒状保持孔12内には矩形状の摺動部材7が挿入されている。摺動部材7は、変形可能なプラスチックや硬質ゴム等からなる緩衝部13を中心に、平板部14,15と、それらの平板部14,15の表面に形成した凹部に部分的に嵌合した、プラスチックやフッ素樹脂等の摺動性のよい材料又はコーティングを施した摺接部16,17とを積層して一体化した状態に構成されている。そして、前記保持部材6の筒状保持孔12から突出した上下の摺接部16,17を介して下部レール3の平板3aの上面と上部レール5の平板5aの下面に付設された支承面としての前記すべり板8,9に摺接することにより、支承機能と減衰機能を奏するように構成されている。なお、前記筒状保持孔12の内面と摺動部材7の外面との間に適宜の間隙を設けて、緩衝部13の筒状保持孔12内での横方向の変形を許容するようにすれば、摺動部材7の変形の自由度を増やすことができる。また、本実施例では、摺動部材7として、緩衝部13を中心に、平板部14,15と摺接部16,17とを積層して一体化したものを採用した場合を説明したが、変形可能な同質の材料から一体成型したものでもよい。さらに、本実施例では、摺動部材7が同一断面の筒状部のみから構成された場合を例示したが、保持部材6の筒状保持孔12から突出した部分の寸法を大きく形成することも可能である。
【0010】
前記保持部材6の上下面には、さらに図4や図5に示したように、それぞれ4個ずつの案内ローラ18,19が設置されており、図1〜図3に示したようにそれらの4個ずつの案内ローラ18,19によって下部レール3や上部レール5の両側面を挟むことにより、保持部材6が下部レール3及び上部レール5に沿って移動するように構成されている。また、図3に示したように、保持部材6の上下面には、幅の異なる2枚の平板3a,3b又は5a,5bの重合によって下部レール3と上部レール5の両側部に形成された前記掛止用段部5c、5dに掛止する掛止部材20〜22が設置されており、それらの掛止部材20〜22によって保持部材6が下部レール3や上部レール5から外れないように構成されている。因みに、この場合には、前述のように上下方向の外力が作用した場合にも対応することができる。なお、図3や図5に示したように、保持部材6の筒状保持孔12の内側上縁部には段部が形成され、その段部に配設した押え板23によって摺動部材7を構成する平板部15の外側上縁部に形成した段部を押えることにより、摺動部材7が保持手段6の筒状保持孔12から抜出さないように構成している。この押え板23の固定は、図示では固定用ボルト24によって前記掛止部材20,21と共に同時に締付け固定されるように構成した場合を示したが、特段これに限定されるわけでなく、例えば固定用ボルト24により掛止部材20,21のみを締付け固定することにより押え板23が固定される形態も可能である。なお、この摺動部材7に対する押え板23の構成は、摺動部材7の下部側にも同様に採用されている。
【0011】
しかして、前記支承免震装置1に対して、地震や強風などの外力が作用した場合には、保持部材6が下部レール3及び上部レール5の軸線方向に移動方向を制限されながら、それらの下部レール3と上部レール5との交点の軌跡に沿って移動することになる。そして、その保持部材6の移動に際しては、該保持部材6に形成された筒状保持孔12内に挿入された摺動部材7が、上下の摺接部16,17を介して下部レール3の上面と上部レール5の下面に付設された支承面としての前記すべり板8,9に摺接することにより、支承機能と減衰機能を奏することになる。本発明によれば、上述のように、摺動部材7を保持部材6に形成された筒状保持孔12内に挿入するという技術手段を採用したことから、筒状保持孔12の高さや摺動部材7との間隙を選定することにより、摺動部材7の変形能力を的確かつ簡便に大きく設定することができ、角度変化に対する許容量を大きくとれるので、施工誤差あるいは地震や強風によるレール関係の変形が生じても、その摺動部材7の変形によって的確に対応することが可能であり、従来の偏荷重による支障を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係るすべり支承免震装置を示した平面図である。
【図2】同すべり支承免震装置を示した片側断面図である。
【図3】同すべり支承免震装置の要部を拡大して示した要部拡大図である。
【図4】同すべり支承免震装置の保持部材及び摺動部材を示した平面図である。
【図5】同すべり支承免震装置の保持部材及び摺動部材を示した片側断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1…すべり支承免震装置、2…下部構造物、3…下部レール、3a,3b…平板、4…上部構造物、5…上部レール、5a,5b…平板、6…保持部材、7…摺動部材、8,9…すべり板、10,11…固定用ボルト、12…筒状保持孔、13…緩衝部、14,15…平板部、16,17…摺接部、18,19…案内ローラ、20〜22…掛止部材、23…押え板、24…固定用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上部構造物又は下部構造物に対して移動が制限された状態に設置された保持部材と、該保持部材を上下方向に貫通して形成した筒状保持孔内に挿入される筒状部を有する摺動部材とを備え、その筒状保持孔から突出した前記摺動部材の上面又は下面の少なくともいずれか一方を上部構造物側又は下部構造物側に設置された支承面に対して摺接するように構成したことを特徴とするすべり支承免震装置。
【請求項2】
前記保持部材に形成された筒状保持孔と摺動部材の筒状部との間に間隙を設けたことを特徴とする請求項1に記載のすべり支承免震装置。
【請求項3】
上部構造物及び下部構造物に互いに十字状に交差するように設置したレールの対向する面に前記支承面を形成するとともに、前記保持部材の移動をそれらのレールの軸線方向のみに制限するように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のすべり支承免震装置。
【請求項4】
前記保持部材をレールに対して移動可能に掛止させ、それらの保持部材とレール間に作用する上下方向の引張力に対抗し得るように構成したことを特徴とする請求項3に記載のすべり支承免震装置。
【請求項5】
前記レールを重合させた幅の異なる2枚の平板から構成してレールの両側部に段部を形成し、それらの段部に対して前記保持部材を移動可能に掛止させるように構成したことを特徴とする請求項4に記載のすべり支承免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−95932(P2008−95932A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282052(P2006−282052)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】