説明

すべり支承構造体用の保護カバー

【課題】ベースプレートのすべり面を、塵埃の付着や作業者の不注意等に起因する損傷、及び雨水の浸食等から保護するとともに、すべり面の結露を効果的に蒸散させることができ、さらに点検が容易であり、且つ、施工前に取り付けることによって施工作業中もすべり面を保護しておくことが可能な、すべり支承構造体への保護カバーを提供する。
【解決手段】本発明のすべり支承構造体用の保護カバーは、厚さ方向に貫通する複数個の通気窓を有するポリマー製の本体部を有し、前記通気窓のそれぞれにフィルタを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり支承構造体用の保護カバー、詳細には、すべり面を有するベースプレートと、該ベースプレートの前記すべり面上に配置されて、該すべり面上を摺動可能な弾性積層体及び、該弾性積層体の上部に取付けられて、上面側への建造物の設置を許容するフランジプレートを有する支承材とを具えるすべり支承構造体の、前記ベースプレートのすべり面を覆うための保護カバー、なかでも、ベースプレートのすべり面を、塵埃の付着や作業者の不注意等に起因する損傷、及び雨水の浸食等から保護するとともに、すべり面の結露を効果的に蒸散させることができ、さらに点検が容易であり、且つ、施工前に取り付けることによって施工作業中もすべり面を保護しておくことが可能な、すべり支承構造体への保護カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビルや、住宅、橋梁或いは塔等の建造物と、建造物の基礎との間に設置されるすべり支承構造体は、すべり面を有するベースプレートと、すべり面上に配置される弾性積層体を有する支承材とを具えており、例えば、地震等の外部振動入力によって基礎側が振動する際に、支承材がすべり面上を水平方向に摺動することにより、基礎側の振動入力の、建造物への伝達を防ぐ免震機能を発揮するものである。
【0003】
ところで、ベースプレートのすべり面には、通常、弾性積層体との接触面の摩擦を減少させて摺動を滑らかにすることを所期して、PTFE(テフロン(登録商標))でコーティングする等の摩擦低減処理が施されている。尚、弾性積層体側の接触面に上記のような摩擦低減処理を施すこともある。
【0004】
しかしながら、この摩擦低減処理は塵埃、傷及び結露や雨水等による侵食に弱く、建造物の施工中において、このすべり面上に塵埃が堆積してしまったり、或いは、施工作業員の不注意等によって足跡や傷が付いて、PTFEコーティングが剥離してしまったりした場合、すべり面の摩擦係数が変化し、外部振動入力時にすべり支承構造体の所望の免震性能を得られなくなるおそれがある。
【0005】
これに対し、従来、ベースプレートのすべり面上に、不織布等の空気を含んだ柔軟な材料からなる防塵カバーを敷くことによって、すべり面上への塵埃の堆積等を防止する手法があり、これによれば、防塵カバーが軽量であるため、建造物の竣工後のすべり面の点検が容易である。
【0006】
しかし、すべり面上に単にこのような防塵カバーを敷くのみでは、不織布が柔軟すぎるために、例えば、建造物の施工中に、施工作業員が誤って足を踏み入れてしまったり、工具を落としてしまったりした場合に、荷重や衝撃が十分に分散されずに、すべり面が損傷されてしまうというおそれがある。
【0007】
一方、すべり面上にカバーとしてベニヤ板等を敷いた場合、板が硬すぎることによって、荷重や衝撃が直接すべり面に伝わってしまい、上記と同様にすべり面が損傷されてしまうおそれがある。
【0008】
また、特許文献1では、「基礎上に設置されたすべり板と、構造物に固定されたすべり支承本体と、前記すべり支承本体の底面に固着されて前記すべり板上を摺動する滑り材とからなるすべり支承における、前記すべり板の全面を覆う防塵カバーであって、可撓性を備えた2枚のゴム又はプラスチック製シートの各一端縁を、互いに重ね合わせの状態で分離自在に接合すると共に、前記各一端縁の中央部分に、前記すべり支承本体に嵌入しうる大きさの、1つの開口を形成する半形の開口をそれぞれ設け、前記各半形の開口の周縁に沿って、それぞれ前記すべり支承本体の外周に巻装され、かつ着脱自在に係止される締付け部を設けたことを特徴とするすべり支承用防塵カバー。」が記載されており、これによれば、「シートの各一端縁を、互いに重ね合わせの状態で分離自在に接合すると共に、各一端縁の中央部分に、すべり支承本体の外周に着脱自在に係止される締付け部を設けたから、すべり支承の点検等の際には容易に脱着できる。また、シートが軽量でありかつ可撓性を備えているため、すべり支承の免震特性を損なうことなくすべり支承の移動に伴ってスムーズに応動し復元する効果を発揮しうる。」とする。
【0009】
しかし、上記のすべり支承用防塵カバーでは、可撓性を備えたゴムまたはプラスチック製のシートによってすべり面を覆ってしまうので、シートとすべり面との間の通気性が悪く、そのため、すべり面上に結露が生じてしまった場合、この結露が長期間蒸散することなくすべり面を侵食してしまうおそれがある。
【0010】
さらに、特許文献2では、「下部躯体と上部躯体との間に配設され、前記下部躯体側に設けられた平滑板と、前記上部躯体側に設けられた弾性支承部のすべり材とが相互にそれぞれの摺動面を接触して配設されるすべり免震装置を覆う保護カバーであって、該保護カバーは、前記平滑板と前記すべり材とを覆う下部開口部を有する断面視箱型形状の成形体であり、前記断面視箱型形状の内部天井面に前記平滑板との接触を防ぐための柱状体が設けられていることを特徴とする免震装置用保護カバー。」が記載されており、これによれば、「断面視箱型形状の内部天井面に上記平滑板との接触を防ぐための柱状体が設けられているので、平滑板のすべり面と保護カバー内面と接触せず、また、保護カバーが変形しないので保護カバーに裂け目ができない。その結果、長期間安定して免震機能を維持できる。」とする。
【0011】
しかしながら、上記の保護カバーは、カバーそれ自体がそもそも大掛かりであるため、運搬や設置に手間が掛かってしまうという問題があり、また、建造物の竣工後の点検も困難である。
【0012】
さらに、すべり支承構造体の施工時及び運搬時等においては、支承材のフランジ部の複数個所を、金属製のステー部材等によってベースプレートのすべり面以外の面に連結させることによって、支承材をすべり面上の所望の位置に固定し、ずれを防止することが一般的であるが、特許文献1に記載の保護カバーでは、このような剛ステー部材の取付けや取外しを妨げてしまうという問題もあるため、上記の保護カバーを施工より前に取り付けて、施工中のすべり面を保護しておくことは、実質上不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−49898号公報
【特許文献2】特開2007−39942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、上記課題に鑑み、ベースプレートのすべり面を、塵埃の付着や作業者の不注意等に起因する損傷、及び雨水の浸食等から保護するとともに、すべり面の結露を効果的に蒸散させることができ、さらに点検が容易であり、且つ、施工前に取り付けることによって施工作業中もすべり面を保護しておくことが可能な、すべり支承構造体への保護カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明のすべり支承構造体用の保護カバーは、すべり面を有するベースプレートと、該ベースプレートの前記すべり面上に配置されて、該すべり面上を摺動可能な弾性積層体及び、該弾性積層体の上部に取付けられて、上面側への建造物の設置を許容するフランジプレートを有する支承材とを具えるすべり支承構造体の、前記ベースプレートのすべり面を覆うための保護カバーであって、
厚さ方向に貫通する複数個の通気窓を有するポリマー製の本体部を有し、前記通気窓のそれぞれにフィルタを設けたことを特徴とする。
【0016】
上記において、すべり面を「覆う」とは、少なくとも一部のすべり面の上方に保護カバーが位置していることを言うものとし、必ずしも、すべり面の全面に渡って被さっている必要はない。
【0017】
また、本発明において、「フィルタ」とは、空気や水蒸気等の気体の通過を許容する一方で、塵埃等の微粒子の通過を防止し、またはこれらの通過量を減少させる材質によって構成されたものを言うものとする。
【0018】
請求項1に記載したところにおいて、好ましくは、各通気窓を同一の形状及び大きさとし、前記本体部の全面に渡って均一に配する。
【0019】
請求項1または2に記載したところにおいて、好ましくは、各通気窓の面積を、100〜2500mmの範囲内とする。
【0020】
請求項1〜3のいずれかに記載したところにおいて、好ましくは、前記フィルタを不織布によって構成する。
【0021】
請求項1〜4のいずれかに記載したところにおいて、好ましくは、前記保護カバーの上面に、剥離可能な養生シートを全面に渡って添付する。
【0022】
請求項1〜5のいずれかに記載したところにおいて、好ましくは、前記保護カバーの厚さを、10〜50mmの範囲内とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のすべり支承構造体用の保護カバーは、硬質で弾性力のあるポリマーによって本体部を構成されているため、例えば、建造物の施工中に、施工作業員が誤って足を踏み入れてしまったり、工具を落としてしまったりした場合であっても、保護カバーの本体部がこれらの荷重及び衝撃を十分に分散するため、すべり面が損傷されるおそれが無い。
【0024】
また、この保護カバーでは、ポリマー製の本体部に複数個の通気窓を設け、この通気窓のそれぞれにフィルタを設けているため、該フィルタが、塵埃の通過を防止するとともに、すべり面と保護カバーとの間の通気性を確保するため、これによって、例えば、すべり面上に結露が生じたり、雨水が付着したりした場合に、これらを効果的に蒸散させることができ、結露や雨水等がすべり面を浸食することによる摩擦係数の増加を防止し、装置の免震性能の低下のおそれを取り除くことができる。
【0025】
さらに、この保護カバーは、先述の特許文献1及び2等の従来技術に比べて、部品点数等が少なく、シンプルでかさばらない構造であり、また、重量を小さくすることも可能であるため、運搬、取付け及び点検作業を著しく容易化することができる。
【0026】
また、本発明のすべり支承構造体用の保護カバーにおいて、各通気窓を同一の形状及び大きさとし、本体部の全面に渡って均一に配した場合、上記した保護カバーの衝撃吸収効果と蒸散効果とを保護カバーの全面に渡ってムラ無く均一に得ることができる。
【0027】
さらに、このような保護カバーにおいて、各通気窓の面積を、100〜2500mmの範囲内とすることによって、保護カバー自体の製造を煩雑化することなく、十分な衝撃吸収効果を発揮させることができる。
【0028】
尚、各通気窓の面積が小さすぎる場合、それだけ数多くの通気窓を設ける必要があるため、保護カバー自体の製造工程が煩雑化してしまうというおそれがあり、一方、各通気窓の面積が大きすぎる場合、例えば、施工作業員がこの保護カバーの上を歩いたり、誤って工具等を落下させてしまったりした場合に、工具等が通気窓の間を通り抜けてしまい、衝撃が十分に吸収されない場合がある。
【0029】
加えて、各通気窓に設けるフィルタを、通気性及び防塵性に優れた不織布によって構成すれば、上記の蒸散効果及び防塵効果を一層効果的に得ることができる。また、不織布は、一般に軽量であるために、保護カバーの重量増加のおそれが少ない。
【0030】
さらにまた、保護カバーの上面に、剥離可能な養生シートを全面に渡って添付することにより、例えば、施工中に施工作業員が誤って足を踏み入れた際の汚れ等からフィルタを保護し、目詰まり等の不具合を防止することができる。尚、建造物の竣工後は、この養生シートを本体部から剥離させることにより、所望の防塵性及び蒸散性を確保することができる。
【0031】
加えてまた、本発明のすべり支承構造体用の保護カバーの厚さを、10〜50mmの範囲内とすることにより、保護カバーの重量を過度に増加させることなく、荷重や衝撃等に対する強度を十分に確保することができる。
【0032】
尚、上記保護カバーの厚さが大き過ぎる場合、これに伴って重量が大きくなり過ぎてしまい、運搬、施工及び点検等が容易でなくなってしまうおそれがあり、一方、この厚さが小さすぎる場合、本体部の強度が小さくなるため、荷重や衝撃等に対する十分な強度が得られなくなってしまうというおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のすべり支承構造体用の保護カバーを、すべり支承構造体に取り付けた態様にて示す、断面斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示す本発明のすべり支承構造体用の保護カバーの上面を拡大して示す平面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
図1に示すところにおいて、本発明のすべり支承構造体用の保護カバー1は、すべり面2aを有するベースプレート2と、ベースプレート2のすべり面2a上に配置されて、すべり面2a上を摺動可能な弾性積層体3及び、該弾性積層体3の上部に取り付けられて、上面側への建造物の設置を許容するフランジプレート4を有する支承材9とを具えるすべり支承構造体の、ベースプレート2のすべり面2a上に配されている。
【0035】
図2(a)は、図1にAで示す、保護カバー1の上面の一部分を拡大して示す図である。ここで、本発明のすべり支承構造体用の保護カバー1においては、図2(a)及び(b)に示すところのように、厚さhの方向に貫通する複数個の通気窓6を有するポリマー製の本体部5を有し、通気窓6のそれぞれに、フィルタ7が設けられていることが肝要である。
【0036】
上記の保護カバー1において、本体部5を形成するのに適したポリマーとしては、例えば、樹脂、硬質ゴム等を挙げることができる。
【0037】
また、フィルタの材質としては、不織布、布、綿、化学繊維等を挙げることができる。
【0038】
尚、図1に示したところでは、保護カバー1は、接合面10で接合された同一面積の2つの半面1a及び1bに分割されており、すべり面2aを全面に渡って覆っている。
【0039】
また、この図1において、すべり支承構造体のベースプレート2はすべり面2aの外側域にあって、建造物の基礎側への連結に供する設置部2bを有し、さらに、建造物の基礎側と連結させるためのボルト等の固定手段を通すためのボルト穴2cを、各設置部2bに複数個有する。
【0040】
さらに、図1では、弾性積層体3は、弾性体及び剛性体を交互に積層してなる積層部3aと、ベースプレート2のすべり面2aに接触する面に摩擦低減処理を施された接触部3bとによって構成される。
【0041】
また図示例で、支承材9のフランジ部4は、建造物とフランジ部4とをボルト等の固定手段7aによって固定させるための、ボルト孔4bを、該フランジ部4の全周に渡って複数個有する。
【0042】
図2(a)に示すところでは、本体部5に設けられた通気窓は、いずれも、4隅を面取りされた一辺の長さがWの略正方形の形状であり、本体部5の全面に渡って均一に存在する。
【0043】
通気窓5の大きさ及び数量としては、例えば、図2(a)に模式的に示した作業員の足跡Fの大きさに対して、本体部5がこの足跡等による荷重を十分に分散できる程度に、適度に小さく且つ数多く設けることが好ましく、図示例の場合では、Wは、概ね1.0〜5.0cm程度とすることが好ましい。
即ち、通気窓5の面積としては、100〜2500mmの範囲内が好ましい。
【0044】
図2(b)に示すように、各通気窓5には、不織布からなるフィルタ7が充填されており、このフィルタ7によって通気性を確保しながら、すべり面2aへの塵埃の堆積を防止することができる。
【0045】
さらに、保護カバー1の上面には、薄い養生シート8が全面に渡って添付されており、この養生シート8は、施工時において、外部の汚れからフィルム7を保護する。
【0046】
尚、図示例において保護カバー1は、厚さhが1cm程度と薄く、軽量であるため、点検の際は、この保護カバー1を人力によって容易にめくることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 保護カバー
1a 保護カバー(半面)
1b 保護カバー(半面)
2 ベースプレート
2a すべり面
2b 設置部
2c ボルト孔
3 弾性積層体
3a 積層部
3b 接触部
4 フランジプレート
4a ボルト孔
5 本体部
6 通気窓
7 フィルタ
8 養生フィルム
9 支承材
10 接合面
F 足跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すべり面を有するベースプレートと、該ベースプレートの前記すべり面上に配置されて、該すべり面上を摺動可能な弾性積層体及び、該弾性積層体の上部に取付けられて、上面側への建造物の設置を許容するフランジプレートを有する支承材とを具えるすべり支承構造体の、前記ベースプレートのすべり面を覆うための保護カバーであって、
厚さ方向に貫通する複数個の通気窓を有するポリマー製の本体部を有し、前記通気窓のそれぞれにフィルタを設けたことを特徴とする、すべり支承構造体用の保護カバー。
【請求項2】
各通気窓が同一の形状及び大きさを有し、前記本体部の全面に渡って均一に存在する、請求項1に記載のすべり支承構造体用の保護カバー。
【請求項3】
各通気窓の面積が、100〜2500mmの範囲内である、請求項1または2に記載のすべり支承構造体用の保護カバー。
【請求項4】
前記フィルタが、不織布からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のすべり支承構造体用の保護カバー。
【請求項5】
上面に、剥離可能な養生シートを全面に渡って添付された請求項1〜4のいずれかに記載のすべり支承構造体用の保護カバー。
【請求項6】
厚さが、10〜50mmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載のすべり支承構造体用の保護カバー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−231459(P2011−231459A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99885(P2010−99885)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】