説明

すべり軸受

【課題】樹脂オーバレイ層を設けたすべり軸受において、異物が押し付けられることにより、樹脂オーバレイ層にクラックや割れが発生することを効果的に防止する。
【解決手段】すべり軸受1の内周部に、周方向に延び、且つ樹脂オーバレイ層4の摺動表面4aから軸受合金層3に至る深さの凹状部5を形成し、凹状部5内に露出する軸受合金層3の硬さを50HV以下とした。相手軸との間に異物が侵入した場合、その異物は凹状部5内に取り込まれ易く、また、凹状部5内に取り込まれた異物は軸受合金層3内に埋め込まれ、或いは軸受合金層3に凝着する。このため、異物が樹脂オーバレイ層4の摺動表面4aや凹状部5内で長い間転がり動くことがなく、樹脂オーバレイ層4にクラックを生じたり、剥がれを生じたりすることを極力防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受合金層上に、固体潤滑剤を含んだ樹脂オーバレイ層を設けたすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のすべり軸受は、一般にCu系或いはAl系の合金を軸受合金層として、この軸受合金層の表面に、Pb系合金などの軟質金属或いは固体潤滑剤を含む樹脂からなるオーバレイ層を設けて摺動特性を改善することが行われている。
【0003】
ところで、最近では環境汚染物質の使用量低減の観点から、オーバレイ層にPb系合金などの金属の使用を避ける傾向にある。このような風潮にあって、上記の樹脂からなるオーバレイ層は、固体潤滑剤を含んでいて優れた潤滑性およびなじみ性を発揮するので、耐摩耗性および非焼付性が良く、高出力エンジンのすべり軸受として良く用いられるようになってきている。なお、以下では、樹脂を主成分とするオーバレイ層を樹脂オーバレイ層と称し、Pb系合金などの金属を主成分とする金属オーバレイ層と区別することとする。
【0004】
例えば、特許文献1では、Cu系合金やAl系合金からなる軸受合金層の表面に、固体潤滑剤としてのMoS2とバインダ樹脂としてのポリアミドイミドとからなる樹脂オーバレイ層を形成し、更に、この樹脂オーバレイ層の表面(摺動表面)に、潤滑油を保持するための螺旋状の溝を形成することが開示されている。この樹脂オーバレイ層の摺動表面の溝は、樹脂オーバレイ層内に止まる深さであっても、軸受合金層にまで及ぶ深さであっても良いとされている。
【特許文献1】特開2004−211859(図5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂オーバレイ層に使用される樹脂(固体潤滑剤のバインダとして機能する)は、一般に、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などの熱硬化性樹脂が採用される。このような熱硬化性樹脂を用いた樹脂オーバレイ層は、薄く、且つ金属オーバレイ層に比べて塑性変形し難いため、異物埋収性が十分であるとはいえない。しかも、相手軸との間に異物が侵入し、その異物が樹脂オーバレイ層に押し付けられると、樹脂オーバレイ層の塑性変形性が低いため、摺動表面にクラックが入り易く、そのクラックが剥離の原因となって、焼付きに至る恐れがある。
【0006】
特許文献1に示されているように、樹脂オーバレイ層に溝を形成した場合には、異物が潤滑油と一緒に溝内に流れ込み易くなるので、異物を溝内に取り込むことができる。しかし、溝内に取り込まれた異物は、相手軸により溝内面の樹脂オーバレイ層に押し付けられたり、相手軸の回転に伴って溝内を転動したりするので、樹脂オーバレイ層にクラックや剥離が生じ易くなる。
【0007】
溝が軸受合金層まで及んでいて溝内に軸受合金層が露出していても、通常の軸受合金は硬度が50HVより硬いので、溝内に取り込まれた異物が軸受合金層に押し付けられても、当該軸受合金層の中に埋め込まれることはなく、異物が相手軸の回転に伴って溝内を転動し、樹脂オーバレイ層を傷付けてクラックや剥がれを生じさせる。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、樹脂オーバレイ層に凹状部を形成したすべり軸受において、凹状部内に取り込まれた異物が凹状部内で長い間転動することを防止して樹脂オーバレイ層にクラックや剥離などが生ずることを効果的に防止できるすべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明は、筒状又は半割形状であって、内周部に、軸受合金層と、この軸受合金層上に設けられた固体潤滑剤を含む樹脂オーバレイ層と、を備えたすべり軸受において、前記軸受合金層の硬さを50HV以下とし、内周部に、周方向に延び、前記樹脂オーバレイ層の摺動表面から少なくとも前記軸受合金層表面に至るまでの深さを有した凹状部を形成して、この凹状部内に前記軸受合金層を露出させたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、凹状部が摺動方向である円周方向に延びているので、相手軸との間に侵入した異物が凹状部内に取り込まれ易くなる。
しかも、本発明では、凹状部内に軸受合金層が露出し、その凹状部内に露出する軸受合金層は硬度が50HV以下と比較的軟らかいので、凹状部内に取り込まれた異物は軸受合金層の中に埋め込まれ、或いは軸受合金層に凝着する。このため、異物が凹状部内で転がり動くことを防止でき、樹脂オーバレイ層にクラックが発生したり、剥離を生じたりすることを極力防止することができる。
【0011】
上記凹状部の深さは、凹状部内に軸受合金層が露出する程度あれば良い。従って、凹状部の深さは樹脂オーバレイ層の厚さと同等であっても、樹脂オーバレイ層の厚さよりも深いものであっても良い。凹状部の深さを樹脂オーバレイ層の厚さと同等とする場合には、凹状部の底面に軸受合金層が露出するように、凹状部の断面形状を矩形状とすることが好ましい。
【0012】
樹脂オーバレイ層の厚さは、2〜30μm、好ましくは10〜25μmとする。
凹状部の深さは、樹脂オーバレイ層の厚さ以上で100μm以下、凹状部を多数形成する場合、そのピッチを200〜300μmとすることが好ましい。
【0013】
軸受合金層は、Cu系合金、Al系合金のいずれの軸受合金から構成しても良い。硬さが50HV以下のCu系合金、Al系合金としては、Al−Sn合金などがある。
樹脂オーバレイ層の固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン(MoS2)、グラファイト(Gr)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化タングステン(WS2)、窒化硼素(BN)などを用いることができる。
【0014】
樹脂オーバレイ層を構成する樹脂(バインダ)としては、ポリアミドイミド系樹脂(PAI)、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂(PBI)などの耐熱性樹脂を用いることができる。
【0015】
樹脂オーバレイ層には、硬質粒子や軟質金属を添加しても良い。硬質粒子としては、例えば窒化珪素(Si34)などの窒化物、酸化アルミニウム(Al23)、酸化珪素(SiO2)などの酸化物、炭化珪素(SiC)などの炭化物の粒子を用いることができる。軟質金属としては、Cu、Ag、Al、Sn、Zn、それらの合金などを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に、例えば内燃機関に使用するすべり軸受1を示す。このすべり軸受1は半円筒状(半割形状)で、2個を円筒状に組み合わせて使用する。このすべり軸受1は、裏金層2と、この裏金層2の内周面に被着された軸受合金層3と、この軸受合金層3の表面に被着された樹脂オーバレイ層4とから構成された3層構造をなしている。
【0017】
上記軸受合金層3は、Cu系或いはAl系の軸受合金からなり、硬度50HV以下のものが使用されている。樹脂オーバレイ層4は、MoS2などの固体潤滑剤を含むPAIやPBIなどの樹脂膜から構成されている。
【0018】
すべり軸受1の内周面には、周方向に延びる凹状部5が軸方向8に沿って複数本形成されている。この凹状部5は、図1に示すように、例えば断面V字状をなし、樹脂オーバレイ層4の摺動表面4aから軸受合金層3にまで及ぶ深さを有しており、凹状部5の底方部には軸受合金層3が露出している。
【0019】
このようなすべり軸受1の製造方法を図3により説明すると、まず、図3(a)に示すように、鋼板(裏金層2)上にCu系或いはAl系の軸受合金(軸受合金層3)を周知の焼結法或いは圧接法によって被着してバイメタル6を形成し、このバイメタル6を図3(b)に示すように半円筒状に曲げ加工する。次に、軸受合金層3の表面をショットブラストなどによって粗面化し、酸洗いして表面に付着した不純物を除去すると共に、軸受合金層3の表面を活性化させる。
【0020】
この後、適当な有機溶剤で稀釈したPAI、PBIなどのバインダ樹脂とMoS2などの固体潤滑剤とを混合し、この混合物を更にN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤で稀釈し、これをエアスプレーなどによって軸受合金層3の表面に塗布して樹脂膜を形成する。そして、80〜120℃、例えば100℃で30分間加熱し、樹脂膜中の有機溶剤を蒸発乾燥させる。乾燥後、プレスなどで樹脂膜の加圧を行って緻密化する。次に、150〜400℃、例えば200℃で60分間焼成する。これにより樹脂膜が硬化し、図3(c)に示す樹脂オーバレイ層4として形成される。その後、内周面を切削加工し、図3(d)のように、周方向に延び、且つ深さが樹脂オーバレイ層4の摺動表面4aから軸受合金層3にまで及ぶ凹状部5を、複数本形成する。
【0021】
以上のようにして内周面に凹状部5を形成したすべり軸受1によれば、相手軸との間に異物が侵入した場合、その異物は相手軸の回転により、或いは樹脂オーバレイ層4の表面に供給される潤滑油の流れに乗じて容易に凹状部5内に入り込む。このため、異物が樹脂オーバレイ層4の摺動表面4aに押し付けられてクラックを生じたり、そのクラック部分で剥離を生じたりするといった不具合の発生を極力防止することができる。
【0022】
そして、凹状部5内に入り込んだ異物は、相手軸などから押し付け力を受けると、凹状部5内に比較的軟質の軸受合金層3が露出していることにより、その軸受合金層3内に埋収され、或いは軸受合金層3に凝着するようになる。このため、異物が長い間凹状部5内で転動して凹状部5の内面を構成する樹脂オーバレイ層4にクラックや剥離などを生ぜしめるといった不具合の発生を極力防止する。
【0023】
このような本発明の効果を確認するために、試験片を製作し、焼付き試験を実施した。
試験片は、次の表1に示す内容の実施例品1〜5、比較例品1〜6である。
【0024】
【表1】

【0025】
試験片の製法は、次の通りである。まず、軸受合金層を構成するAl系の軸受合金板を、裏金層を構成する鋼板上に圧接法により被着してバイメタルを製作し、このバイメタルの軸受合金層上に、上述したと同様の方法により、厚さ15μmの樹脂オーバレイ層を形成して、実施例品1〜5、比較例品1〜6を得た。
【0026】
そして、比較例品1〜4については、樹脂オーバレイ層を形成したままとし、実施例品1〜5、比較例品5,6については、更に、樹脂オーバレイ層の表面から深さ30μmの断面V字状の凹状部を形成する切削加工を行った。
【0027】
以上のような実施例品1〜5、比較例品1〜6について、表2に示す条件で焼付き試験を行った。焼付き試験は、試料に加える面圧を10分毎に1MPaずつ増加させ、焼付きに至った面圧を焼付面圧として表1に記載した。なお、JIS Z8901の第2種に示す異物は、平均粒径27〜31μmのけい砂である。
【0028】
【表2】

【0029】
焼付き試験結果から理解されるように、実施例品1〜5は、比較例品1〜6に比べ、非焼付性が高い。即ち、比較例品1〜6の中でも、凹状部を形成した比較例品5,6は、凹状部のない比較例品1〜4に比べて非焼付性は向上しているが、軸受合金層の硬度が50HVを超えているため、非焼付性の向上効果はそれ程高くはない。これに対し、軸受合金層の硬さが50HV以下である実施例品1〜5では、高い非焼付性の向上効果を示し、本発明の実施によって高い非焼付性が得られることが理解される。即ち、摺動方向に延びる凹状部と露出させた50HV以下の軸受合金層とによる相乗効果によって初めて非常に優れた非焼付性を得ることができることが分る。
【0030】
なお、凹状部5は、上記の実施形態に限られない。例えば、凹状部5の断面形状としては、V字状に限らず、図4(a)のように矩形状のものであっても良く、図4(b)に示すように半円形のものであっても良く、更に、凹状部5の深さとしては、図4(c)に示すように、樹脂オーバレイ層4の厚さと同寸法とし、凹状部5の底面に軸受合金層3の表面が露出するものであっても良い。例えば、摺動方向が軸方向であるすべり軸受においては、軸方向に延びる凹状部を形成すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を示すすべり軸受の断面図
【図2】(a)はすべり軸受の斜視図、(b)は部分的な拡大側面図
【図3】すべり軸受の製造過程を示す図
【図4】凹状部の他の実施形態を示す断面図
【符号の説明】
【0032】
図面中、1はすべり軸受、2は裏金層、3は軸受合金層、4はオーバレイ層、5は凹状部を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状又は半割形状であって、内周部に、軸受合金層と、この軸受合金層上に設けられた固体潤滑剤を含む樹脂オーバレイ層と、を備えたすべり軸受において、
前記軸受合金層の硬さを50HV以下とし、
内周部に、周方向に延び、前記樹脂オーバレイ層の摺動表面から少なくとも前記軸受合金層表面に至るまでの深さを有した凹状部を形成して、この凹状部内に前記軸受合金層を露出させた、
ことを特徴とするすべり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−14454(P2008−14454A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188050(P2006−188050)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】