説明

すべり軸受

【課題】高面圧下で優れた耐疲労性及びなじみ性を有するすべり軸受を提供する。
【解決手段】裏金層2、Al基中間層3及びAl基軸受合金層4を備えたすべり軸受1において、Al基軸受合金層4に、Alと他の2種類以上の元素とから成る1種類以上の金属間化合物であって粒径が0.5μm未満の金属間化合物を8個/μm以上含ませ、金属間化合物を形成する元素X1,X2,・・・,Xn(nは自然数)の存在比の関係がX1≧X2≧・・・≧Xnであるとき、元素X1及び元素X2の存在比率X1/X2を、1以上10以下にし、Al基軸受合金層4の硬さをビッカース硬さで50以上80以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏金層、Al基中間層、Al基軸受合金層を備えたすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
Al基軸受合金を内張りしたすべり軸受は、一般に、Al基軸受合金層と裏金層とを、Al基中間層を介して接着してバイメタルを構成し、このバイメタルを機械加工して製造される。
このようなすべり軸受は、初期なじみ性が比較的良好であり、高面圧で優れた耐疲労性及び耐摩耗性を有し、自動車や一般産業機械の高出力エンジンの軸受に用いられている。
ところが近年、更なるエンジンの高性能化によって、より高面圧に耐え得るような耐疲労性に優れたすべり軸受が要望されてきている。
【0003】
耐疲労性を向上させたすべり軸受としては、例えば特許文献1に開示されたものがある。このすべり軸受は、Al基軸受合金層としてAl−Sn−Si系軸受合金層が用いられ、このAl基軸受合金層に、更にCr,Zrを添加した構成である。この特許文献1には、Al基軸受合金層にCr,Zrを添加することにより、Al基軸受合金層のAlの結晶粒界にAl−Crの2元系金属間化合物が析出し、Al結晶粒内の亜粒界にAl−Zrの2元系金属間化合物が析出し、これらの金属間化合物が、すべり軸受の耐疲労性の向上に作用していると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近ではエンジンの軽量化が計られ、コンロッド等のすべり軸受が組付けられるハウジングの薄肉化が計られている。このハウジングの薄肉化に伴い、ハウジングの剛性は低下し、ハウジング自身が変形し易くなっている。そのため、すべり軸受が支えるクランクシャフト等の相手軸の動荷重等によって、ハウジング自身が変形し、これに伴い、すべり軸受自体も変形し易い状況になって、すべり軸受に繰り返しの曲げ応力が作用し、疲労が生じ易い状態になっている。このような繰り返し曲げ応力が作用する環境下で使用する軸受には、曲げ疲労強度の高いことが必要である。しかしながら、特許文献1のAl基軸受合金層は、強度と伸びが得られるが、曲げ応力を繰り返し受けると塑性変形し易く、早期に疲労するという問題がある。
【0006】
又、ハウジングが変形することにより、すべり軸受自身も変形し、すべり軸受が相手軸に局部的に当たってしまうことがある。すべり軸受のなじみ性が良好でない場合、焼付が生じてしまう問題もある。
【0007】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は高面圧下で優れた耐疲労性及びなじみ性を有するすべり軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1のAl基軸受合金層は、マトリクスの結晶粒界にAl−Crの金属間化合物、結晶粒内の亜粒界にAl−Zrの金属間化合物が析出している。結晶粒内の亜粒界に金属間化合物が析出すると、マトリクスが強化され、耐疲労性は向上する。しかし、本発明者の鋭意実験により、Al基軸受合金層に繰り返し曲げ応力を作用させた場合、Al−Cr,Al−Zrの金属間化合物がマトリクスから離脱し、金属間化合物の存在による塑性変形の阻止を図れず、疲労に至ることがわかった。
【0009】
本発明者は、Al−Cr,Al−Zrの金属間化合物がマトリクスから離脱する原因が、これらの金属間化合物とマトリクスとの結合が弱いからであり、結合が強固であるならば、金属間化合物が離脱することはなく、曲げ疲労強度が向上するであろうと推測した。そして、本発明者は、この推測を基に、Al基軸受合金層に2種類以上の元素を添加してAlとそれら2種類以上の元素との多元系金属間化合物を形成するようにすると、その多元系金属間化合物がマトリクスと強固に結合し、離脱し難いことを究明した。この場合、マトリクスと強固に結合して塑性変形を阻止する機能は、粒径が小さく、且つ、ある密度以上で分布している必要があることも併せて究明した。
更に、本発明者は、Alと2種類以上の金属元素との多元系金属間化合物を含むAl基軸受合金層の硬さを調整することにより、高い耐疲労性を有しながらなじみ性が良好になることも究明した。
【0010】
本発明の請求項1のすべり軸受は、裏金層、Al基中間層及びAl基軸受合金層を備え、Al基軸受合金層に、Alと他の2種類以上の元素とから成る1種類以上の金属間化合物であって粒径が0.5μm未満の金属間化合物を8個/μm以上含み、金属間化合物を形成する元素X1,X2,・・・,Xn(nは自然数)の存在比の関係がX1≧X2≧・・・≧Xnであって、元素X1及び元素X2の存在比率X1/X2が1以上10以下であり、Al基軸受合金層の硬さがビッカース硬さで50以上80以下であることを特徴としている。
【0011】
元素X1,X2,・・・,Xnには、Alは含まれない。尚、本発明における存在比とは、各金属間化合物中における各元素X1,X2,・・・,Xnの質量比である。又、金属間化合物を例えば2種類生成する場合は、第1の金属間化合物を形成する元素X1(1),X2(1),・・・,Xn(1)の存在比の関係がX1(1)≧X2(1)≧・・・≧Xn(1)であって、元素X1(1)及び元素X2(1)の存在比率X1(1)/X2(1)が1以上10以下であり、第2の金属間化合物を形成する元素X1(2),X2(2),・・・,Xn(2)の存在比の関係がX1(2)≧X2(2)≧・・・≧Xn(2)であって、元素X1(2)及び元素X2(2)の存在比率X1(2)/X2(2)が1以上10以下である。即ち、金属間化合物をm(mは自然数)種類生成する場合は、第mの金属間化合物を形成する元素X1(m),X2(m),・・・,Xn(m)の存在比の関係がX1(m)≧X2(m)≧・・・≧Xn(m)であって、元素X1(m)及び元素X2(m)の存在比率X1(m)/X2(m)が1以上10以下である。元素の選択により、例えば元素X1(1)とX1(m)とを同じ元素とすることも異なる元素とすることもできる。しかし、例えば元素X1(1)とXn(1)とは異なる元素である。以下、(m)等を便宜上省略する場合がある。
【0012】
本発明のすべり軸受の基本形態を、図1に示す。図1のすべり軸受1は、例えば鋼から成る裏金層2と、裏金層2上にAl基中間層3を介して接着されて設けられたAl基軸受合金層4との3層構造である。
【0013】
本発明では、Al基軸受合金層に2種類以上の元素を添加して、これらの元素でAlと多元系金属間化合物を構成させるほか、Alのマトリクス中に固溶させる。上記多元系金属間化合物の2種類以上のAl以外の構成元素をマトリクス中にも存在させているため、多元系金属間化合物はマトリクスとの結合強度を高めることができる。このため、すべり軸受に繰り返し曲げ応力が作用しても、多元系金属間化合物はマトリクスから離脱し難く、Al基軸受合金層は塑性変形を生じ難く、すべり軸受の曲げ疲労強度は向上する。
【0014】
Alと結合して金属間化合物を構成する元素は、例えばMn,Cr,Ni,V,Zr,Ti,Mo,Fe,Co,W,Siの金属元素である。例えば、この金属元素の中でMn,Vを選択した場合、これらの元素はAl−Mn−Vの多元系金属間化合物、即ち3元系金属間化合物を生成するほか、Mn及びVがマトリクス中に固溶することができる。又、Cr,Si,Feを選択した場合、これらの元素はAl−Cr(X1(1))−Si(X2(1))−Fe(X3(1))の多元系金属間化合物、即ち4元系金属間化合物を生成するほか、Cr,Si及びFeがマトリクス中に固溶することができる。Al−Cr(X1(2))−Si(X2(2))やAl−Cr(X1(3))−Fe(X2(3))やAl−Si(X1(4))−Fe(X2(4))の3元系金属間化合物を生成することもできる。Cr,Si,Feの質量比が同じ場合、Cr,Si,FeのどれをX1(1),X2(1),X3(1)にしても良い。Ni,Zr,Ti,Moを選択した場合等も同様である。
【0015】
そして、金属間化合物を形成する元素の存在比の関係がX1≧X2≧・・・≧Xnであるときの元素X1及び元素X2の存在比率X1/X2を1以上10以下に制御することよって、多元系金属間化合物とマトリクスの強固な結合強度を確実に実現させることができる。好ましくは、存在比率X1/X2は8以下である。多元系金属間化合物がマトリクスの塑性変形を阻止する機能は、多元系金属間化合物が0.5μm未満の微細なもので、その分布密度が1μm当たり8個以上の場合に、効果的に発揮される。又、この範囲内の多元系金属間化合物であれば、マトリクスの伸びを損なわずに強靭化できる。分布密度は、1μm当たり15〜70個が好ましい。
【0016】
更に、Al基軸受合金層の成分、例えば多元系金属間化合物の成分の割合を変更することにより、Al基軸受合金層の硬さを変えることができる。そして、Al基軸受合金層の硬さを、ビッカース硬さで50以上にすることにより、Al基軸受合金層が高出力エンジンに適用された場合における高荷重の作用下でも疲労を生じ難くすることができる。又、Al基軸受合金層の硬さを、ビッカース硬さで80以下にすることにより、良好ななじみ性を得ることができる。耐疲労性及びなじみ性の面からAl基軸受合金層の硬さは、ビッカース硬さで60〜70が好ましい。
よって、上述の構成からなるすべり軸受なので、高面圧下で優れた耐疲労性及びなじみ性を同時に実現させることができる。
【0017】
本発明のすべり軸受は、鋳造工程、圧延工程、圧接工程、熱処理(焼鈍)工程、機械加工工程を経て製造される。即ち、鋳造工程では、Al基軸受合金(Al基軸受合金層)を溶融して板状に鋳造する。鋳造された板状のAl基軸受合金は、圧延工程で圧延し、圧接工程で鋼板(裏金層)に薄いAl基合金板(Al基中間層)を介して圧接して軸受形成用板材にする。その後、軸受形成用板材を焼鈍し、最後に、軸受形成用板材を機械加工して半円筒状又は円筒状の軸受に形成する。この製造工程において、鋳造後のAl基軸受合金の圧延から軸受形成用板材の焼鈍のプロセスを経て粒径が0.5μm未満の微細な金属間化合物を析出させることができる。
尚、この明細書でいう粒径とは、電子顕微鏡で解析して得られた金属間化合物の結晶1個当たりの最大長さのことである。
【0018】
本発明の請求項2のすべり軸受は、Al基中間層の硬さがAl基軸受合金層の硬さに対して70%以上90%以下であることを特徴としている。
【0019】
上述の特徴を有しながらAl基中間層の硬さを、Al基軸受合金層の硬さに対して70%以上にすることにより、Al基軸受合金層を介して受ける高荷重にもより安定して耐えることができ、又、すべり軸受の幅方向の端部からはみ出ることも無くなり、すべり軸受全体の耐疲労性を向上させることができる。又、Al基中間層の硬さを、Al基軸受合金層の硬さに対して90%以下にすることにより、Al基中間層を、Al基軸受合金層に加わる荷重が変化した時のクッションとして機能させることができ、Al基軸受合金層のなじみ性をより良好にすることができる。
【0020】
本発明の請求項3のすべり軸受は、Al基中間層及びAl基軸受合金層にFeを含み、Al基中間層に含まれるFeの成分量が、0.5質量%以上1.5質量%以下であり、且つ、Al基軸受合金層に含まれるFeの成分量の2倍を超えていることを特徴としている。
【0021】
Al基中間層及びAl基軸受合金層にFeを適切量含ませることにより、Al基中間層及びAl基軸受合金層の耐熱性が向上する。従って、すべり軸受の実使用時の高温環境下においても強度を維持することができる。又、Al基中間層及びAl基軸受合金層にFeを適切量含ませると、Al基中間層及びAl基軸受合金層は加工硬化し難くなる。そのため、Al基軸受合金層のなじみ性が向上し、Al基中間層及びAl基軸受合金層への金属疲労の蓄積を抑制させることができる。
【0022】
Al基中間層に含まれるFeの成分量を0.5質量%以上にすることにより、耐熱性及び耐疲労性をより向上させることができる。Al基中間層に含まれるFeの成分量を1.5質量%以下にすることにより、Al基中間層の硬さをビッカース硬さで75以下にし易くなり、なじみ性はより良好になる。
ここで、Al基軸受合金層の表面において相手材とAl基軸受合金層との摺動で発生する摺動熱は、Al基軸受合金層の表面から裏金層方向へ伝熱する。そのため、Al基中間層の硬さがAl基軸受合金層の硬さに対して70%以上90%以下にしたすべり軸受においては、摺動熱でAl基中間層が高温状態になると、特にAl基中間層の強度が不足することがある。そのため、本発明では、Al基中間層に含まれるFeの成分量をAl基軸受合金層に含まれるFeの成分量の2倍を超えるようにしている。これにより、Al基中間層は高温でも軟化し難くなり、Al基中間層の強度を維持することができる。
【0023】
本発明の請求項4のすべり軸受は、Al基軸受合金層に、粒径が0.5μmを超えているSi粒子を含むことを特徴としている。
【0024】
Al基軸受合金層に、粒径が0.5μmを超えているSi粒子を含ませることにより、Si粒子が相手軸に対してラッピング作用を発揮することを期待できる。これにより、すべり軸受の非焼付性が良好になる。又、Siは、金属間化合物を形成することもできるが、一般に、マトリクスに固溶し、或いは、硬いSi粒子として晶出する。従って、Al基軸受合金層にSiを含ませることにより、Al基軸受合金層の強度は高くなる。これにより、すべり軸受の耐疲労性は向上する。
【0025】
本発明の請求項5のすべり軸受は、Al基軸受合金層が、3〜20質量%のSnと、1.5〜8質量%のSiと、Cu,Zn,Mgの内から少なくとも1種類以上を選択して成る金属元素であって、その総量が0.1〜7質量%である金属元素と、Alとの金属間化合物を形成する元素X1,X2,・・・,Xn(nは自然数)と、残りが不可避的に含まれる不純物を含むAlとから成り、元素X1はMn,Cr,Ni,V,Zr,Siの内から選択して成り、Mn,Cr,Ni,V,Zrの内から選択する場合はその総量が0.01〜2質量%であり、元素X2はV,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,W,Mn,Siの内の元素X1と異なる元素から選択して成り、V,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,W,Mnの内から選択する場合はその総量が0.01〜2質量%であることを特徴としている。上記量は、Al基軸受合金層における質量%である。
【0026】
Al基軸受合金層にSnを3質量%以上含ませることにより、すべり軸受としてのなじみ性、非焼付性、異物埋収性等を良好にすることができ、Snの含有量を20質量%以下にすることにより、耐疲労性を良好にすることができる。
Al基軸受合金層にSiを1.5質量%以上含ませることにより、上記のSiの性能を十分に発揮することができ、Siの含有量を8質量%以下にすることにより、耐疲労性を良好にすることができる。上記のSi粒子としての効果をより効率的に発揮させるには、2質量%超えが好ましい。
【0027】
Cu,Zn,Mgの元素は、マトリクスに固溶する。これにより、マトリクス強度を高めることができる。又、Cu,Zn,Mgの内から少なくとも1種類以上を選択して成る元素の総量を0.1質量%にすることにより、上記作用を十分に発揮させることができ、総量を7質量%以下にすることにより、なじみ性を良好にすることができる。
【0028】
元素X1がMn,Cr,Ni,V,Zr,Siの内から選択して成り、元素X2がV,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,W,Mn,Siの内の元素X1と異なる元素から選択して成る場合、元素X1及び元素X2は、Alと結合して、3元系(又はそれ以上の多元系)の金属間化合物を1種類以上生成する。Mn,Cr,Ni,V,Zrの内から選択する場合の元素X1及びV,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,W,Mnの内から選択する場合の元素X2のそれぞれの総量を0.01質量%以上にすることにより、上述した金属間化合物の生成を多くすることができ、2質量%以下にすることにより、耐疲労性を良好にすることができる。焼鈍温度や焼鈍時間等を調整して、Siが元素X1等として金属間化合物を形成する量と固溶する量とSi粒子として晶出する量とを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】すべり軸受の断面図
【図2】なじみ性試験に用いられる試験機への半割軸受の取付け状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の効果を確認するために、表1に示す組成のAl基軸受合金層とAl合金中間層を用いて本発明のすべり軸受(実施例品1〜3)、参考例品4及び従来構成のすべり軸受(比較例品1〜4)の試料片を製作し、耐疲労性試験(曲げ疲労試験)及びなじみ性試験を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例品1〜3、参考例品4の製造方法は次の通りである。まず、例えば、量産性に優れたベルト鋳造装置によって表1に示す成分から成るAl基軸受合金の板材を製造した。その後、この鋳造されたAl基軸受合金に、表1に示す成分から成るAl基中間層を構成する薄い板材を圧接して複層アルミニウム合金板を製造し、この複層アルミニウム合金板を、裏金層を構成する鋼板に圧接して軸受形成用板材(いわゆるバイメタル)を製造した。そして、軸受形成用板材に350度を超え450度以下の温度にて1〜10時間加熱する焼鈍をそれぞれの組成に合わせて行った。
【0033】
上記軸受形成用板材の焼鈍により、Al基軸受合金層のマトリクス中に金属間化合物が析出する。そして、析出した金属間化合物の大きさを電子顕微鏡による組織写真から解析したところ、粒径が0.5μm未満の大きさのものが、1μm当たり、表1に示す個数存在していた。
【0034】
一方、比較例品1〜4の製造方法は、上記実施例品1〜3、参考例品4の製造方法と相違し、軸受形成用板材の焼鈍温度を従来から行われているような300度以上350度以下で行うものである。
このようにして得られたAl基軸受合金層での金属間化合物の存在は、表1に示すように少個数であった。
このような実施例品1〜3、参考例品4、比較例品1〜4に対して行った耐疲労性試験(曲げ疲労試験)及びなじみ性試験は次のようなものである。
【0035】
(1)耐疲労性試験(曲げ疲労試験)
焼鈍を行った後の軸受形成用板材を機械加工して試験片(実施例品1〜3、参考例品4、比較例品1〜4)を製作し、耐疲労性を見るための曲げ疲労試験を実施した。この試験片は、総厚1.5mm、裏金層の厚さ1.2mmであり、Al基軸受合金層の厚さとAl基中間層との合計の厚さは0.3mmである。試験条件は、Al基軸受合金層の表面の歪みが一定となるようにして、往復曲げをAl基軸受合金層の表面にクラックが発生するまで繰り返した。この耐疲労性試験(曲げ疲労試験)における試料片のAl基軸受合金層の表面にクラックが発生するまでの往復曲げの繰り返し回数の結果を表1に示す。
【0036】
(2)なじみ性試験
なじみ性を確認するために、焼鈍を行った後の軸受形成用板材を機械加工してすべり軸受を製造して得た実施例品1〜3、参考例品4及び比較例品1〜4に対してなじみ性試験を行った。なじみ性試験は、半割軸受状にした2個の試料片となるすべり軸受を、図2に示すように、径方向にΔL、本試験では30μmずらして合わせ、回転荷重試験機に取付け、この状態で、表2に示す試験条件でなじみ性試験を行った。本試験は、回転荷重試験機によって、軸の遠心力により軸受内周面に回転荷重を付加することによって行う。
【0037】
このように、すべり軸受をずらして組付けることにより、軸の荷重をすべり軸受の周方向の端部辺りに加えることによって、すべり軸受のなじみ性を確認することができる。この試験では、なじみ性が良好であれば、局部当たりによる影響を良好に回避することができ、長期にわたって焼付や疲労による損傷を防ぐとされている。尚、荷重は、評価荷重である30MPaまで徐々に上げていき、評価荷重になった状態からすべり軸受に損傷が発生するまでの時間を測定した。
【0038】
【表2】

【0039】
表1において、「種類X1/X2」は、金属間化合物がAlを含む多元素から成る場合、その金属間化合物におけるこの多元素のうちAl以外の存在比が大きい2種類の元素(元素X1及び元素X2)を示している。複数種類の金属間化合物が存在する場合は、複数の「種類X1/X2」が記載されている。
「比率X1/X2」は、存在比率X1/X2を示すものであり、元素X1及び元素X2を金属間化合物中における質量比で表した場合において元素X1を元素X2で除した値である。
「硬さ比」は、Al基軸受合金層の硬さ及びAl基中間層の硬さをビッカース硬さで求め、Al基中間層のビッカース硬さHV(b)を、Al基軸受合金層のビッカース硬さHV(a)で除し、その値を百分率で表したものである。
【0040】
次に、上記試験の結果について解析する。
耐疲労性試験の結果を考察するに、実施例品1〜3、参考例品4は、比較例品1〜4に比べて、長期にわたって優れた曲げ疲労強度を有することにより耐疲労性に優れていることが理解できる。
【0041】
実施例品1〜3と、参考例品4、比較例品1〜4との比較から、存在比率X1/X2が1以上10以下であって粒径が0.5μm未満の金属間化合物の数が1μm当たり8個以上存在すると、これらの金属間化合物がマトリクス中の転位の移動を抑制し、曲げ疲労強度を向上させることができ、かつ、Al基軸受合金層の硬さをビッカース硬さで50以上にした結果、極めて優れた耐疲労性を持たせることができたと考えられる。
実施例品1〜3と、参考例品4との比較から、実施例品1〜3は、Al基中間層に含まれるFeの成分量がAl基軸受合金層に含まれるFeの成分量の2倍を超えているので、往復の曲げが繰り返し加えられることによりAl基中間層に熱が生じても、Al基中間層は軟化し難く、極めて良好な耐疲労性が得られたと考えられる。
【0042】
なじみ性試験の結果を考察するに、実施例品1〜3は、Al基軸受合金層の硬さがビッカース硬さで80以下であるため、相手材と試料片との局部当たりを良好に回避でき、良好ななじみ性を得ることができたと考えられる。上述の構成からなる実施例品1〜3は、高い耐疲労性を有しながら良好ななじみ性を得ていた。
実施例品1,2と、実施例品3との比較から、実施例品1,2は、Al基中間層の硬さをAl基軸受合金層の硬さに対して90%以下にしたので、極めて良好ななじみ性を得ることができたと考えられる。
本発明は、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0043】
図面中、1はすべり軸受、2は裏金層、3はAl基中間層、4はAl基軸受合金層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金層、Al基中間層及びAl基軸受合金層を備えたすべり軸受において、
前記Al基軸受合金層に、Alと他の2種類以上の元素とから成る1種類以上の金属間化合物であって粒径が0.5μm未満の金属間化合物を、20個/μm以上含み、
前記金属間化合物を形成する前記元素X1,X2,・・・,Xn(nは自然数)の存在比の関係がX1≧X2≧・・・≧Xnであって、前記元素X1及び前記元素X2の存在比率X1/X2は、1以上10以下であり、
前記Al基軸受合金層の硬さは、ビッカース硬さで50以上80以下であり、
前記Al基中間層及び前記Al基軸受合金層は、Feを含み、
前記Al基中間層に含まれるFeの成分量は、0.5質量%以上1.5質量%以下であり、且つ、前記Al基軸受合金層に含まれるFeの成分量の2倍を超えていることを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記Al基中間層の硬さは、前記Al基軸受合金層の硬さに対して70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記Al基軸受合金層は、粒径が0.5μmを超えているSi粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記Al基軸受合金層は、
3〜20質量%のSnと、
1.5〜8質量%のSiと、
Cu,Zn,Mgの内から少なくとも1種類以上を選択して成る金属元素であって、その総量が0.1〜7質量%である金属元素と、
Alとの金属間化合物を形成する元素X1,X2,・・・,Xn(nは自然数)と、
残りが不可避的に含まれる不純物を含むAlとから成り、
前記元素X1は、Mn,Cr,Ni,V,Zr,Siの内から選択して成り、Mn,Cr,Ni,V,Zrの内から選択する場合はその総量が0.01〜2質量%であり、
前記元素X2は、V,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,W,Siの内の前記元素X1と異なる元素から選択して成り、V,Ti,Zr,Mo,Fe,Co,Wの内から選択する場合はその総量が0.01〜2質量%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−11356(P2013−11356A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198422(P2012−198422)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2009−176413(P2009−176413)の分割
【原出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】