説明

せん断成形加工機

【課題】内部帰還型スクリューの採用により高せん断下で混練押出しをして共連続構造等の微視的分散構造を有する高分子ブレンド材を製造するせん断断成形加工機を提供する。
【解決手段】スクリューによって高分子ブレンド試料を溶融状態で混練する際のスクリュー回転数を50rpm〜3000rpmの範囲で任意に設定可能であり、前記スクリューを内部帰還型スクリューの採用により、スクリュー回転数に反比例して減少する混練時間を任意に設定可能にし、複数の高分子成分を含む前記試料の内の一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造を有する高分子ブレンド材を製造するせん断断成形加工機を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2〜5gの高分子材料を溶融状態で内部帰還型スクリューにより高速回転を行い、せん断成形加工を行うためのせん断成形加工機に関するものである。
【0002】
詳しくは、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造、あるいは両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造(共連続構造)等を有する高分子ブレンドフィルムの製造が可能となるせん断成形加工機を提供するものである。従来、静置場では相互には溶け合わない(非相溶)系のブレンドでも、本発明によるせん断成形加工機を用いれば、相容化剤等の余分な添加物を加えることなく、上記構造を実現することが可能となる。さらに詳しくは、例えば、強誘電性材料、コネクターや電子回路基板等の電子・電気用部品、耐熱性構造材料、制振材料、音響材料等の分野で利用される材料として使用できる耐熱性、機械的特性、寸法安定性等に優れたブレンド押出し物を微量試料により試験的に製造するためのせん断成形加工機である。
【0003】
また、本発明は、容易に1000rpm以上のスクリュー回転が可能な内部帰還型スクリュー搭載のせん断成形加工機を用いて非相溶性高分子ブレンドを溶融混練することにより、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルレベルに制御した微視的分散構造を有するナノ分散高分子ブレンド押出し物(フィルムやシート状含む)を製造するものである。
【0004】
従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶性)ブレンド系でも、本発明による手法を用いれば、相容化剤等の余分な添加物を加えることなく、内部帰還型スクリュー搭載のせん断成形加工機を用いて1000rpm以上のスクリュー回転、数分の溶融混練を行うことにより上記構造すなわち数十ナノメーターサイズの分散相を有する高分子ブレンド押出し物を容易に実現することが可能である。さらに詳しくは、例えば、強誘電性材料、圧電性材料、焦電性材料等の電子・電気用部品、耐熱性構造材料、遮音材料、音響材料等の分野で利用される材料として使用できる耐熱性、機械的特性、接着性、運動性等に優れた高分子ブレンド押出し物を製造するものである。
【背景技術】
【0005】
従来、非相溶系高分子ブレンド系における分散相のサイズについては、定常剪断流動場中におかれた分散相の最小分散粒子径(D)がニ成分間の界面張力(Γ)、剪断速度(S)、粘度(η)間のバランスによって規定されることがTaylorによって示され、(1)式のように定式化されることが報告されている(非特許文献1(G.I.Taylor, Proc.R.Soc.London, A138,41(1932)、非特許文献2(G.I.Taylor, Proc.R.Soc.London, A146,501(1934) ))。
【0006】
【数1】

【0007】
ここに、ηrはニ成分間系の粘度の比、ηmはマトリクス相の粘度である。その後、Wuにより数多くの非相溶系高分子ブレンドに適用され、Dの実測値を再現するため(1)式の改良がなされたが、基本的に関与する物理量は不変である(非特許文献3(S.Wu,Polym.Eng.Sci., 27,335(1987).))。
【0008】
例えば、リアクティブプロセシング技術は、界面で共重合体が生成することにより界面張力を低下させるので、(1)式により、分散相の粒子径が小さくなることが理解できる。このような定式化により、非相溶系高分子ブレンド系における分散相サイズの理論的限界もMacosko等(U.Sundararaj and C.W.Macosko, Macromolecules, 28,2647,(1995).)(非特許文献4)により、図1のように示されたが、ここでは定常剪断速度(S)が、通常の混練押出機で発生し得る範囲(S=10〜80sec-1)に限定されている。即ち、(1)式を再考すると、Dの理論限界は、剪断速度と粘度とのバランスにもよるが、より高い剪断速度域の利用が分散相サイズの減少に寄与することが容易に推察される。事実、静置場では、非相溶な高分子ブレンド系が高剪断場下では相溶することが最近、報告されている。例えば、ポリ(p−フェニレンスルフィド)とナイロン46系で、剪断流動場下(S=189sec-1)においてナイロンリッチ側の領域でのみ相溶化することが報告された(非特許文献5(J-B An, T.Suzuki, T.Ougizawa, T.Inoue, K.Mitamura, and K.Kawanishi, J.Macromol.Sci.,-Physics, B41,407(2002).))。
【0009】
従って、従来は所望のブレンド物の性能をある程度発現させるために、ブレンド成分の一方もしくは両方と親和性もしくは接着性のある相容化剤を用いてブレンド化を行っていたが、本質的に分子レベルで相互に溶解していないために、それらの性能や機能を極限まで高めることはできなかった。また、30年前に発見されたリアクティブプロセシング技術(非特許文献6(F.Ide and A.Hasegawa, J.Appl.Polym.Sci., 18,963(1974).))は上述したように界面張力を低下させて、分散相サイズを小さくすることが予想されるが、ニ成分間に反応性基が存在しないと実現しないという欠点が存在する。従って、相容化剤等の余分な添加物を使用せずに、非相溶系高分子ブレンド系を相溶化させるには、高剪断領域でのブレンドの混合技術、即ち高剪断成形加工が必要である。実際には、スクリュー構造等にも依存するため、成形加工機におけるスクリュー回転数と剪断速度との対応は一義的には決まらないが、通常の成形加工機におけるスクリュー回転数は100〜300rpmであり、対応する剪断速度が高々100sec-1前後と見積もられることから、まずスクリュー回転数を大幅に高速化(500rpm以上)することが剪断速度の飛躍的な増大に結びつくものと考えられる。
【0010】
従来、通常の混練押出し機(スクリュー回転数300rpm程度)を用いて非相溶性高分子ブレンド系の単純機械的混合を行った場合、一方の高分子成分の分散相サイズにおける理論的・実験的限界はMacosko等により、350ナノメーター(nm)であると非特許文献4に報告されている。従って、所望の高分子ブレンド物の性能や機能を相乗効果として発現させるために、従来、ブレンド成分の一方もしくは両方と親和性もしくは接着性のある相容化剤を用いて混練を行っていたが、本質的に分子レベルで相互に溶解していないために、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズが数ミクロン〜サブミクロンメーターレベルとなる高分子ブレンド押出し物しか得られず、それらの性能や機能を極限まで高めることはできなかった。また、30年前に発見されたリアクティブプロセシング技術(非特許文献6)はブレンド成分間に存在する官能基間で反応を起こすことにより界面張力を低下させて、分散相サイズを小さくする手法であり、高分子ブレンド系の分散相サイズをサブミクロンメーター〜数十ナノメーターレベルにまで低減化することに成功しているが、ニ成分間に反応性基が存在しないと実現しないため技術的に大きな障害となっている。
【0011】
従って、非相溶性高分子ブレンド系の性能、機能の相乗効果の発現を目指してブレンド化を図る場合は、分子レベルに近いサイズで分散相を制御する必要があり、従来技術の延長では容易にナノ分散高分子ブレンド物を作製することが困難であった。また、相容化剤等添加物の混入やリアクティブプロセシング法により生じた反応生成物等は、連続的かつ純粋な微細構造を必要とする光学材料や電子・電気材料においては構造上の“欠陥もしくは異物”となってしまうので、実用上大きな障害となってしまう欠点があった。
【0012】
このような背景の元に、発明者は1000rpm以上のスクリュー回転が可能(最高出力3000rpm)な内部帰還型スクリュー搭載の微量型高剪断成形加工機を発明し製作した。本発明は当該微量型高剪断成形加工機を用いることにより初めて実現することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】G.I.Taylor, Proc.R.Soc.London, A138,41(1932)
【非特許文献2】G.I.Taylor, Proc.R.Soc.London, A146,501(1934)
【非特許文献3】S.Wu,Polym.Eng.Sci., 27,335(1987)
【非特許文献4】U.Sundararaj and C.W.Macosko, Macromolecules, 28,2647,(1995)
【非特許文献5】J-B An, T.Suzuki, T.Ougizawa, T.Inoue, K.Mitamura, and K.Kawanishi, J.Macromol.Sci.,-Physics, B41,407(2002)
【非特許文献6】F.Ide and A.Hasegawa, J.Appl.Polym.Sci., 18,963(1974)
【非特許文献7】H.Shimizu, K.Komori, and T.Inoue, Transactions of the Materials Research Society of Japan, 29, 263(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶)系のブレンドに対して、相容化剤等の余分な添加物を加えることなく、高剪断領域でブレンドを溶融混練することにより、相互に分子レベルで溶解した(相溶)構造、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造、あるいは両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造(共連続構造)等を有する高分子ブレンドフィルムを製造するための装置を提供することである。
【0015】
発明者の1人は、静置場では相互に溶け合わない(非相溶)系のブレンドが高剪断流動場下では相溶する領域が存在することを見出し、その基礎的データを報告している(非特許文献7(H.Shimizu, K.Komori, and T.Inoue, Transactions of the Materials Research Society of Japan, 29, 263(2004).))。そこで、発明者等は、この高剪断領域での基礎的知見を成形加工条件として活かすには、高剪断流動場を発生し得る、即ち、スクリューの高速回転が可能な成形加工機を製造する必要があることに気づいた。
【0016】
まず、スクリューの高速回転を安定に動作し得る成形加工機が必要であるが、それと同時に混練時間も重要な要因であり、通常のスクリュー形状では、高速回転で動作した場合、瞬時にブレンドを押出してしまうことになり、混練時間を著しく短縮してしまうことに等しい。
【0017】
本発明は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の事柄を見出した。まず、スクリュー1を内部帰還型に設計し、後段から投入された試料をスクリュー1により前段にフィードしながら十分混練すると共に、最先端部20に到達した試料をスクリュー1中心部に開けられた小さな空洞部を通して、再び後段に戻すことにより、試料は循環して、繰り返し混練過程を繰り返すことができるようになった。この構造により、混練時間を任意に変化させることができるようになった。また、混練の度合いは、この最先端部20とスクリュー前段21との距離(ギャップ22)、ならびにスクリュー1空洞部の内径23によって調節することが可能である。即ち、ギャップ22を狭め、スクリュー内径23を細くすることにより、混練度を高めることができる。このようにして、試料を高剪断下で循環させることにより混練時間を短縮することなく、混練度を任意に制御することも可能となり、前記の課題を解決することができる。
【0018】
この操作を施すことにより、相互に分子レベルで溶解した(相溶)構造、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造、あるいは両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造(共連続構造)等を有する高分子ブレンドフィルムが得られる。さらに、ギャップ22を狭くすればするほど、スクリュー内径23を小さくすればするほど混練の度合いが高くなるが、試料の粘度等によりギャップ22とスクリュー内径23を最適化する必要がある。
【0019】
また、本発明は、非相溶性高分子ブレンド系に対して、相容化剤等の余分な添加物を一切加えることなく、1000rpm以上のスクリュー回転が可能な内部帰還型スクリュー搭載のせん断成形加工機で溶融混練することにより、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメーターサイズに制御した微視的分散構造を有する高分子ブレンド押出し物(フィルムやシート状含む)およびその押出し物の製造することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、高分子材料を投入する材料投入部を備えるシリンダーと、このシリンダーに取り付けられた混練部ヒーターと、前記シリンダー内に配設され、空洞部が設けられ、回転して高せん断流動場を発生するための内部帰還型スクリューと、前記シリンダーの最先端部と前記内部帰還型スクリューの先端部との間に設けられたギャップと、前記シリンダーの最先端部側に配設された押出し先端部に設けられた開閉バルブと、前記高分子材料を混練して得られた高分子ブレンド材を前記開閉バルブを解放して取り出す排出口と、を備え、前記高分子材料は、開閉バルブを閉じた状態で前記内部帰還型スクリューの後段から所定量投入され、前記内部帰還型スクリューの回転によって前段にフィードされながら溶融状態で混練されると共に、前記シリンダーの最先端部に到達して、この最先端部と前記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填され、このギャップに充填された前記高分子材料は、前記内部帰還型スクリューの空洞部を通して再び前記後段に戻されることが前記シリンダー内で繰り返されることで、循環して繰り返し混練された後、前記開閉バルブが開いた状態で、前記混練された前記高分子ブレンド材として前記排出口から排出されることを特徴とするせん断成形加工機である。
【0021】
さらに、上記記高分子材料は、シリンダーの最先端部と内部帰還型スクリューの先端部とのギャップ、および/または内部帰還型スクリューの空洞部の径が調節されることで、その繰り返し混練されるためのせん断流動場の強さもしくは混練の度合いが制御されることが好ましい。また、高分子材料が繰り返し混練されるときに発生するせん断加熱による温度上昇を、シリンダーを冷却することにより設定温度に保持する冷却手段を備えるせん断成形加工機であることが好ましい。
【0022】
また、上記内部帰還型スクリューは、50rpm〜3000rpmの範囲の回転数に調整可能としている。
【0023】
また、高分子ブレンド材は、一方の高分子成分がマトリックスであり、他方の高分子成分が数十ナノメートルサイズの分散相である。
【0024】
また本発明は、上記のせん断成形加工機を用い、高分子材料を溶融状態で混練し、せん断成形加工により高分子ブレンド材を製造する高分子ブレンド材の製造方法であって、前記高分子材料を、前記シリンダー内の前記内部帰還型スクリューの後段へ投入する工程と、前記内部帰還型スクリューを回転してせん断流動場を発生させ、投入した前記高分子材料を、前記内部帰還型スクリューによって前段にフィードしながら混練すると共に上記シリンダーの最先端部に到達させて、この最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填し、このギャップに充填した前記高分子材料を前記内部帰還型スクリューの空洞部を通して、再び上記後段に戻すことを上記シリンダー内で繰り返し、前記高分子材料を循環させて繰り返し混練する工程と、前記繰り返し混練する工程により得られた高分子ブレンド材を、前記開閉バルブを開いた状態で、前記シリンダーから排出する工程とから、せん断成形加工により高分子ブレンド材を製造することができる。
【0025】
なお、従来の成形加工機(スクリュー回転数300rpm程度)を用いて非相溶性高分子ブレンドを溶融混練しただけではブレンド押出し物の内部構造は相分離した構造、すなわち一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズが数十ミクロンメーターレベルになってしまい、ブレンドによる相乗効果は損なわれてしまい、所望の性能・機能を発揮させることはできなかった。また、相容化剤等の余分な添加物を加えてしまうと、サブミクロンレベルの分散相サイズは実現できても、不純物が混入しているため連続的かつ純粋な微細構造を必要とする光学材料や電子・電気材料には実用上大きな障害となる方法であった。
【0026】
本発明により、相容化剤等の余分な添加物を加えることなく、1000rpm以上のスクリュー回転が可能な内部帰還型スクリュー搭載の微量型高剪断成形加工機を用いて非相溶性高分子ブレンドを溶融混練することにより、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルレベルに制御した微視的分散構造を有するナノ分散高分子ブレンド押出し物の製造が可能になった。特に、ナノメーターレベルでの微細構造を形成させるには微量型高せん断成形加工機においてブレンド試料に賦与されるせん断流動場を高める必要がある。それには、内部帰還型スクリューの回転数をさらに上げる、一定回転数下での混練時間を長くする、などの方法が有効である。また、本発明によれば、1000rpm以上のスクリュー回転が可能な内部帰還型スクリュー搭載の微量型高せん断成形加工機を用いて非相溶性高分子ブレンド系を溶融混練することにより、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメーターサイズに制御した高分子ブレンド押出し物およびその製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明のせん断成形加工機を用いることにより、非相溶性ブレンド系の材料でも、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造、あるいは両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造(共連続構造)等を有する高分子ブレンドフィルムの製造が可能となる。このような構造を有する材料においてはブレンド成分の一方が数十ナノメートルレベルで他方に微視的に混合していることから、従来の分散相サイズが大きい(数ミクロンメーター以上)海・島構造になっている材料に比べ、ブレンドを構成する高分子本来の性質が相乗的に発揮され得るので、極めて高性能、高機能な付加価値の高い材料を創出することが可能となる。また、本発明のせん断成形加工機は、一回に2〜5gの試料量で成形加工を行うことが可能であり、上記微視的分散構造を得るまでに試料を大量に浪費させることなく、成形加工条件を最適化することができる。
【0028】
また、本発明により、非相溶性ブレンド系の材料でも、一方の高分子成分をマトリクスとした場合、他方の高分子成分の分散相サイズを数十ナノメートルサイズに制御した微視的分散構造、あるいは両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造(共連続構造)等を有する高分子ブレンド押出し物(フィルムやシート状含む)の製造が可能となる。このような構造を有する材料においてはブレンド成分の一方が数十ナノメートルレベルで他方に微視的に混合していることから、従来、相分離して分散相サイズが大きい(数ミクロンメーター以上)海・島構造になっている材料に比べ、ブレンドを構成する高分子本来の性質が相乗的に発揮され得るので、極めて高性能、高機能な付加価値の高い材料を創出することが可能となる。また、本発明のせん断成形加工機を用いれば、溶融混練を行うだけの簡便なものとなり、相容化剤等の余分な添加物を一切加える必要が無いため、連続的かつ純粋な微細構造を必要とする光学材料や電子・電気材料には最適な方法を提供することができる。
【0029】
実施例1あるいは2では工業用高分子を材料として行ったが、製剤用として難溶性薬物の固体分散体あるいは一般に分散体の研究用途として果たす役割は極めて大きいものと言える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】非相溶性ブレンドにおける分散相の最小分散粒子径(D)の理論的限界の説明図である。
【図2】混練部の各部名称を示す説明図である。
【図3】混練部の原理図である。
【図4】ギャップの調整図である。
【図5】微量型高剪断成形加工機の全体説明図である。
【図6】PVDF/PA11=80/20ブレンド系のSEM写真である。
【図7】PVDF/PA11=80/20ブレンド系のTEM写真である。
【図8】ポリスチレン(PS)の重量平均分子量(Mw)とスクリュー回転速度との関係を示すグラフである。
【図9】ポリスチレン(PS)の重量平均分子量(Mw)と混練時間との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2−1のPVDF/PA11=90/10ブレンド試料において、PVDFマトリクス中にナノレベルのPA11ドメインが入りこんでいる構造を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した図である。
【図11】実施例2−1のPVDF/PA11=80/20ブレンド試料における応力−ひずみ曲線の測定グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のせん断成形加工機は、図2から図5に示される設計図に従って組み立てられた装置から構成される。すなわち、高分子材料を投入する材料投入部としての試料投入部12を備えるシリンダー2と、このシリンダー2に取り付けられる混練部ヒーター13と、シリンダー2内に配設され、空洞部が設けられて、回転してせん断流動場を発生するための内部帰還型スクリュー1と、開閉バルブ6を開いた状態で、上記高分子材料を混練して得られた高分子ブレンド材を取り出す排出口としてのフィルム排出口10とを少なくとも備えている。好ましくは、最先端部20とスクリュー前段21との距離(ギャップ22)を2ミリ、ならびにスクリュー空洞部内径23を2.5φに設定するのが望ましい。なお、ギャップ22を2ミリ以上、ならびにスクリュー空洞部内径23を2.5φ以上に設定すると、混練の効果が小さくなってしまう結果となり、期待する結果を得ることができない。
【0032】
ポリ弗化ビニリデンとナイロン11の混合物を混合させるには、混合物を粒状物の状態で混合させるドライブレンドによる方法を用いることができる。ドライブレンドは試料を真空中100℃で12時間乾燥後に行った。また、ホモポリマーの分子量が高剪断成形後に、どの程度低下するかの検証を行うため、分子量分布の狭いポリスチレンを用いて、スクリュー回転速度ならびに混練時間依存性を検討した。ポリスチレンの予備乾燥は90℃ で12時間行った。
【0033】
前記のように、ドライブレンドしたのち、205〜215℃で所定の回転数で所定時間溶融混練し、T−ダイ9から押出し、冷却水槽24を通すことによる冷却過程を経てポリ弗化ビニリデンとナイロン11ブレンド押出し物が得られる。得られる押出し物の大きさは、シート状押出し物で厚さ0.5ミリ、幅30ミリである。ポリスチレンも同様に215〜225℃で所定の回転数で所定時間溶融混練し、T−ダイ9から押出し、冷却水槽24を通すことによる冷却過程を経てポリスチレンのシート状押出し物を得た。
【0034】
上記溶融混練機を用いる場合、最先端部20とスクリュー前段21とのギャップ22ならびに内部帰還型スクリュー内径23を調節することにより剪断もしくは混練の度合いを変えることができる。通常、ギャップ22は0ミリから5ミリの間の任意の値を0.5ミリ間隔で設定可能であり、スクリュー内径23も同様に1φから5φの間の任意の値を0.5φ間隔で設定可能であるが、ギャップ22ならびに内部帰還型スクリュー内径23を、それぞれ2ミリ、2.5φに設定することにより最適な結果を得ることができた。
【0035】
本発明の場合には前記の特定の温度下に最先端部20とスクリュー前段21とのギャップ22ならびに内部帰還型スクリュー内径23を最適数値にして高剪断混合を行ったところに特徴がある。このように、特定の条件を組み合わせて初めて良好な結果が得られる。仮に温度設定あるいは上記ギャップ等の設定条件の一方でも、前記条件をはずれる場合には満足する結果を得ることができない。
【実施例1】
【0036】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
本明細書で述べている微視的分散構造、重量平均分子量(Mw)は以下のように測定されたものである。
(微視的分散構造)
1)走査型電子顕微鏡(SEM)観察:構造観察に際し、四酸化オスミウム(OsO4)と、四酸化ルテニウム(RuO4)でブレンド試料を二重染色した後、ダイヤモンドナイフで切削し、イオンエッチング処理、白金コーティングした後、測定に供した。測定装置としては、日立製作所製電界放射走査型電子顕微鏡S800を用いて、加速電圧10KVにて倍率1000倍及び5000倍にて構造観察を行った。
2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察:構造観察に際し、四酸化オスミウム(OsO4)と、四酸化ルテニウム(RuO4)でブレンド試料を二重染色した後、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)により、超薄切片(120nm)を作製し、コロジオン張り付けメッシュ上に展開した。測定装置としては、日本電子製JEM1230を用いて、加速電圧120kVにて行った。
(重量平均分子量:Mw)
測定は、JASCO GULLIVERシステムを用いて、Shodex K-804Lカラムにより紫外検出器(254nm)にて行った。移動相はクロロホルムを用いて、流速1mリットル/分、35℃で測定した。
【0037】
<実施例1−1>
原料のポリフッ化ビニリデン(PVDF)はScientific Polymer Products社製、また、ナイロンとして、Aldrich社製のナイロン11(PA11)を用いた。両者を真空下100℃で12時間乾燥した後、室温でPVDF80重量%と、PA11を20重量%の割合でドライブレンドした。さらに、このドライブレンド物の約3gを本発明のせん断成形加工機である微量型高剪断成形加工機に投入し、ギャップ22ならびに内部帰還型スクリュー内径23を、それぞれ2ミリ、2.5φに設定し、205〜215℃に加熱溶融して混練(スクリュー回転速度:2000rpm、混練時間:1分)し、T−ダイ9から押出し、冷却水槽24を通すことにより冷却固化したところ、表面状態の良好な押出し物を得ることができた。
【0038】
<実施例1−2>
本装置を用いた高剪断成形加工により、ホモポリマーの分子量がどの程度低下するかの検証を行うため、分子量分布の狭いポリスチレン(重量平均分子量Mw:106000、分子量分布Mw/Mn=1.06)を用いて、215〜225℃に加熱溶融してスクリュー回転速度ならびに混練時間依存性を検討した。スクリュー回転速度として、500rpmから3000rpm、混練時間として0.5分から8分まで変化させた。
【0039】
<実施例1−3>
実施例1−1において作製したPVDF/PA11=80/20ブレンド試料の走査型電子顕微鏡による測定結果を図6に示す。図に示されるように、PVDFリッチな系では、PVDFとPA11とは微視的な共連続構造(両方の高分子成分が微視的に相互に連続的に繋がった構造)を形成していることが分かった。図中、黒い部分がPA11ドメインであり、白っぽく見える部分はPVDFドメイン中にナノレベルのPA11ドメインが入りこんでいるものである。
【0040】
<実施例1−4>
実施例1−1において作製したPVDF/PA11=80/20ブレンド試料の倍率をさらに上げ、PVDFドメイン中にナノレベルのPA11ドメインが入りこんでいる構造を透過電子顕微鏡で観察したのが図7である。図7右の写真において、白い部分がPVDFドメインであり、その中に分散している黒い部分(小さな丸)がPA11ドメインである。ここでは、100nmレベルのものと、さらに小さな10〜数10nmレベルのPA11ドメインが存在することが分かった。
【0041】
<実施例1−5>
実施例1−2において作製したポリスチレン(PS)押出し物の重量平均分子量(Mw)とスクリュー回転速度との関係を図8に示す。この図において、混練時間は1分間とした。図に示されるように、スクリュー回転数が上昇するに従い、分子量も徐々に低下するが、その低下率はほぼ85%程度であることが分かった。
【0042】
<実施例1−6>
実施例1−2において作製したポリスチレン(PS)押出し物の重量平均分子量(Mw)と混練時間との関係を図9に示す。図において、スクリュー回転速度として500rpmと1000rpmの2通りを選んだ。図からも分かるように、混練時間が増すにつれて、分子量も徐々に低下するが、その低下率はほぼ85%程度であることが分かった。
【実施例2】
【0043】
本発明で用いるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)の混合物を混練させるには、混合物を粒状物の状態で混合させるドライブレンドによる方法を用いることができる。ドライブレンドは試料を真空中100℃で12時間乾燥後に行った。
【0044】
PVDFとPA11とは、非相溶性であり、それらのブレンド物を得るには、通常、両者を融点近傍の200〜240℃で二軸の溶融混練機等を用いて混合するが、それらの押出し物の内部構造は一方の成分をマトリクスとした場合、他方の成分の分散相サイズが数ミクロン〜数十ミクロンメーターレベルにまで粗大化した、いわゆる相分離した構造となってしまう。
【0045】
本発明者らの研究によれば、PVDFとPA11からなるブレンドを、通常の二軸スクリュー型混練機の代わりに内部帰還型スクリュー搭載の微量型高せん断成形加工機を用いて両者を融点近傍の200〜240℃で溶融混練することにより、十〜数十ナノメーターのPA11分散相がPVDFマトリクス相に均一かつ密に分散している、ナノ分散構造を有するブレンド押出し物が得られることを見出した。
【0046】
上記内部帰還型スクリュー搭載の微量型高せん断成形加工機を用いる場合、成形加工条件としては上記の特定温度の設定だけでなく、当該成形加工機におけるスクリュー回転数と混練時間の設定が重要である。本発明では、スクリュー回転数として500〜3000rpm、混練時間として0.5分〜60分の間で設定可能であるが、回転数ならびに混練時間として、それぞれ1000〜2000rpm、1〜4分に設定することにより最適な結果を得ることができた。
【0047】
本発明の場合には前記の特定の温度下にスクリュー回転数と混練時間を最適数値にして高せん断成形を行ったところに特徴がある。このように、特定の条件を組み合わせて初めて良好な結果が得られる。仮に温度設定あるいは上記スクリュー回転数等の設定条件の一方でも、前記条件をはずれる場合には満足する結果を得ることができない。
【0048】
上記内部帰還型スクリュー搭載の微量型高せん断成形加工機を用いる場合、ブレンド物が充填されているシリンダー最先端部とスクリュー先端部とのギャップ、あるいは内部帰還型スクリューの内径を調節することによりせん断流動場の強さもしくは混練の度合いを変えることができる。通常、ギャップは1ミリから5ミリの間で任意の値を0.5ミリ間隔で設定可能であり、スクリュー内径も同様に1φから5φの間で任意の値を0.5φ間隔で設定可能であるが、ギャップならびに内部帰還型スクリュー内径を、それぞれ2ミリ、2.5φに設定することにより最適な結果を得ることができた。
【0049】
本発明の場合には前記の特定の温度下に最先端部とスクリュー先端部とのギャップならびに内部帰還型スクリュー内径を最適数値にして高せん断成形を行ったところに特徴がある。このように、特定の条件を組み合わせて初めて良好な結果が得られる。仮に温度設定あるいは上記ギャップ等の設定条件の一方でも、前記条件をはずれる場合には満足する結果を得ることができない。
【0050】
次に、本発明による混練についてさらに詳細に説明する。
ここで、本明細書で述べている微視的分散構造、応力-ひずみ曲線は以下のように測定されたものである。
(微視的分散構造)
透過型電子顕微鏡(TEM)観察:構造観察に際し、四酸化オスミウム(OsO4)と、四酸化ルテニウム(RuO4)でブレンド試料を二重染色した後、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)により、超薄切片(120nm)を作製し、コロジオン張り付けメッシュ上に展開した。測定装置としては、日本電子製JEM1230を用いて、加速電圧120kVにて行った。
(応力−ひずみ曲線)
応力−ひずみ曲線の測定は、オリエンテック(株)社製Tensilon UMT-300を用いてダンベル型試料により行った。本測定は、速度5mm/min.、温度20℃、相対湿度50%で行った。
【0051】
<実施例2−1>
原料のポリフッ化ビニリデン(PVDF)は呉羽化学工業(株)社製KF850、また、ポリアミド11(PA11)として、Atfina社製のRilsan BMN-Oを用いた。両者を真空下100℃で12時間乾燥した後、室温でPVDF90〜20重量%とPA11の10〜80重量%の割合でドライブレンドした。さらに、このドライブレンド物の2〜5gを本発明のせん断成形加工機である微量型高せん断成形加工機に投入し、ギャップならびに内部帰還型スクリュー内径を、それぞれ2ミリ、2.5φに設定し、200〜240℃に加熱溶融して混練(スクリュー回転数:1000rpm、混練時間:1分)し、T−ダイから押出し、冷却水槽を通すことにより冷却固化したところ、表面状態の良好な押出し物を得ることができた。
【0052】
<実施例2−2>
実施例2−1において作製したPVDF/PA11=90/10ブレンド試料において、PVDFマトリクス中にナノレベルのPA11ドメインが入りこんでいる構造を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したのが図10である。図10の写真において、白い部分がPVDFマトリクス相であり、その中に分散している黒く染色された部分(小さな丸)がPA11ドメインである。ここでは、十〜数十ナノメーターレベルのPA11ドメインが均一かつ密にPVDFマトリクス相に存在することが分かった。このようなナノ分散構造はPVDF/PA11=90/10〜20/80ブレンドという広範なブレンド組成において観察することができた。
【0053】
<実施例2−3>
実施例2−1において作製したPVDF/PA11=80/20ブレンド試料において応力−ひずみ曲線を測定したのが図11である。図11において曲線bは通常の成形加工機により作製したブレンド押出し物による結果である。本発明により作製した押出し物による結果(曲線c)はbの5〜6倍の伸びを示すだけでなく、ほぼ純粋なPA11に匹敵する特性を示すことが分かった。
【0054】
なお、本発明は、下記のとおりの特徴があるものとなる。
(1)シリンダー内で、空洞部を備える内部帰還型スクリューを回転させ、高分子材料を溶融状態で混練するせん断成形加工方法であって、上記高分子材料を、上記シリンダー内の上記内部帰還型スクリューの後段へ投入する工程と、上記内部帰還型スクリューを回転してせん断流動場を発生させ、投入した上記高分子材料を、上記内部帰還型スクリューによって前段にフィードしながら混練すると共に上記シリンダーの最先端部に到達させ、この最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填し、このギャップに充填した上記高分子材料を上記内部帰還型スクリューの空洞部を通して、再び上記後段に戻すことを上記シリンダー内で繰り返すことで、上記高分子材料を循環させて繰り返し混練する工程と、上記繰り返し混練する工程により得られた高分子ブレンド材を上記シリンダーから排出する工程とを備えることに特徴があるものとなる。
(2)上記繰り返し混練する工程において、せん断流動場の強さもしくは混練の度合いは、上記シリンダーの最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップ、および/または内部帰還型スクリューの空洞部の径を調節して得られることを特徴とし、また、上記繰り返し混練する工程で発生するせん断加熱による温度上昇を、冷却により設定温度に保持する工程を備えることに特徴があるものとなる。
(3)上記内部帰還型スクリューは、50rpm〜3000rpmの範囲の回転数に調整可能としたことに特徴があるものとなる。
(4)シリンダー内で、空洞部を備える内部帰還型スクリューを回転させ、高分子材料を溶融状態で混練し、せん断成形加工により高分子ブレンド材を製造する高分子ブレンド材の製造方法であって、上記高分子材料を、上記シリンダー内の上記内部帰還型スクリューの後段へ投入する工程と、上記内部帰還型スクリューを回転してせん断流動場を発生させ、投入した上記高分子材料を、上記内部帰還型スクリューによって前段にフィードしながら混練すると共に上記シリンダーの最先端部に到達させて、この最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填し、このギャップに充填した上記高分子材料を上記内部帰還型スクリューの空洞部を通して、再び上記後段に戻すことを上記シリンダー内で繰り返すことで、上記高分子材料を循環させて繰り返し混練する工程と、上記繰り返し混練する工程により得られた高分子ブレンド材を上記シリンダーから排出する工程とを備えることに特徴があるものとなる。
(5)上記繰り返し混練する工程で発生するせん断加熱による温度上昇を、冷却により設定温度に保持する工程を備えることに特徴があるものとなる。
(6)上記高分子ブレンド材は、一方の高分子成分をマトリックスとし、他方の高分子成分を分散相とすることに特徴があるものとなる。
(7)上記高分子ブレンド材は、高分子成分が相互に連続的に繋がる共連続構造を備えることに特徴があるものとなる。
(8)本発明のせん断成形加工機は、高分子材料を投入する材料投入部を備えるシリンダーとこのシリンダーに取り付けられる混練部ヒーターと、上記シリンダー内に配設され、空洞部が設けられた回転してせん断流動場を発生するための内部帰還型スクリューと、上記高分子材料を混練して得られた高分子ブレンド材を取り出す排出口と、を備え、上記高分子材料は、上記内部帰還型スクリューの後段から投入され、上記内部帰還型スクリューの回転によって前段にフィードされながら溶融状態で混練されると共に、上記シリンダーの最先端部に到達して、この最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填され、このギャップに充填された上記高分子材料が上記内部帰還型スクリューの空洞部を通して再び上記後段に戻されることが上記シリンダー内で繰り返されることで、上記高分子材料は循環して繰り返し混練されることに特徴があるものとなる。
(9)さらに、上記高分子材料が繰り返し混練されるためのせん断流動場の強さもしくは混練の度合いは、上記シリンダーの最先端部と上記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップ、および/または内部帰還型スクリューの空洞部の径が調節されて得られることに特徴があるものとなる。
(10)また、上記高分子材料が繰り返し混練されるときに発生するせん断加熱による温度上昇を、冷却により設定温度に保持する冷却装置を備えることに特徴があるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上記では、サンプル量は実施例で2g〜5gとしたが、スケールアップにより、サンプル量を増大させる事が出来る。また、高温用シールを取り付ける事により500℃までの高温での混練を行なう事が可能である。そして図中には記していないが混練中の剪断加熱による温度上昇をシリンダーを冷却する事に設定温度を保つ構造を付加しても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 高分子材料を混練する為のスクリュー
2 スクリューとの組み合わせより混練部を作る為のシリンダー
3 このシリンダーを動かす事によりギャップの調整が設定できるギャップ調整シリンダ
4 シリンダー内部より混練された高分子材料が外に漏れない為の漏れ防止用シール
5 主に混練部よりTダイへ流し込む為の押出し先端部
6 混練時、混練部より流れるのを防ぐ為の物と同時にT混練された高分子材料をTダイに流し込む際に開く為の開閉バルブ
7 混練部の温度を測る為の熱電対
8 高分子材料を混練する為の混練部
9 混練された高分子材料をフィルム状にする為のフィルム作成用Tダイ
10 混練された高分子材料をフィルムにした状態で排出されるフィルム排出口
11 Tダイ部の温度を測る為の熱電対
12 高分子材料を入れる試料投入部
13 混練部を加熱する為の混練部ヒーター
14 押出し先端部を加熱する為の押出し先端部ヒーター
15 試料投入部を加熱する為の試料投入部ヒーター
16 Tダイ前部を加熱する為のTダイ前部ヒーター
17 Tダイ後部を加熱する為のTダイ後部ヒーター
18 回転時スクリューを安定させる為のベアリング
19 モーターよりスクリューに伝動させる為のシャフト
20 ギャップ調整時に読取の必要な場所である最先端部
21 ギャップ調整時に読取の必要な場所であるスクリュー前段
22 ギャップの調整範囲
23 スクリュー内径の調整範囲
24 Tダイより排出されたフィルム状のサンプルを急冷させる為に水を入れる冷却水槽
25 混練時にスクリューを回転させる為のモーター
26 シリンダーを固定させる為のシリンダーロック
27 シリンダーロックとシリンダー後部に熱を逃がす為の冷却板
28 モーターの運転停止、加熱の制御など作業に必要なスイッチが配属されている制御BOX

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を投入する材料投入部を備えるシリンダーと、
このシリンダーに取り付けられた混練部ヒーターと、
前記シリンダー内に配設され、空洞部が設けられ、回転して高せん断流動場を発生するための内部帰還型スクリューと、
前記シリンダーの最先端部と前記内部帰還型スクリューの先端部との間に設けられたギャップと、
前記シリンダーの最先端部側に配設された押出し先端部に設けられた開閉バルブと、
前記高分子材料を混練して得られた高分子ブレンド材を前記開閉バルブを解放して取り出す排出口と、
を備え、
前記高分子材料は、開閉バルブを閉じた状態で前記内部帰還型スクリューの後段から所定量投入され、前記内部帰還型スクリューの回転によって前段にフィードされながら溶融状態で混練されると共に、前記シリンダーの最先端部に到達して、この最先端部と前記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップに充填され、
このギャップに充填された前記高分子材料は、前記内部帰還型スクリューの空洞部を通して再び前記後段に戻されることが前記シリンダー内で繰り返されることで、循環して繰り返し混練された後、前記開閉バルブが開いた状態で、前記混練された前記高分子ブレンド材として前記排出口から排出される、
ことを特徴とするせん断成形加工機。
【請求項2】
前記高分子材料は、前記シリンダーの最先端部と前記内部帰還型スクリューの先端部とのギャップ、および/または内部帰還型スクリューの空洞部の径が調節されることで、その繰り返し混練されるためのせん断流動場の強さもしくは混練の度合いが制御される、
ことを特徴とする請求項1に記載のせん断成形加工機。
【請求項3】
前記高分子材料が繰り返し混練されるときに発生するせん断加熱による温度上昇を、前記シリンダーを冷却することにより設定温度に保持する冷却手段を備える、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のせん断成形加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−73450(P2011−73450A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260116(P2010−260116)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【分割の表示】特願2005−53251(P2005−53251)の分割
【原出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号〔2004〕」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(596041847)株式会社井元製作所 (7)
【Fターム(参考)】