説明

なたね油の製造方法、なたね油、貝類加工食品の製造方法および貝類加工食品

【課題】食用としても用いることができ、しかも、酸化による味の低下を低減することができるなたね油の製造方法、およびそれにより製造されたなたね油、並びにこのなたね油を用いた貝類加工食品、およびなたね油を用いた貝類加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去し、搾油し、静置して残渣を沈殿させ、機械濾過したのち、100℃以下120℃以下の温度で加熱して、食用濾紙により複数回濾過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、なたね油の製造方法およびなたね油、並びになたね油を用いた貝類加工食品の製造方法および貝類加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、なたね油にはエルシン酸が多く含まれており、心臓に負担がかかることから、食用として利用することは少なくなっていた。そこで、キザキノナタネなどの低エルシン酸のなたねが開発された。
【0003】
通常、なたねからなたね油を搾油する際には、搾油率を高くするために、なたねを焙煎している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−167685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、なたねを焙煎してしまうと、酸化により味が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、食用としても用いることができ、しかも、酸化による味の低下を低減することができるなたね油の製造方法、およびそれにより製造されたなたね油、並びにこのなたね油を用いた貝類加工食品、およびなたね油を用いた貝類加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のなたね油の製造方法は、キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去する天日干し工程と、天日干ししたなたねを搾油機により搾油する搾油工程と、搾油された油を1週間から2週間の間、静置して残渣を沈殿させる静置工程と、静置工程ののち、上澄み液を回収して機械濾過する第1の濾過工程と、機械濾過により得られた濾過物を100℃以上120℃以下の温度で加熱する加熱工程と、加熱された濾過物を食用濾紙により複数回濾過する第2の濾過工程とを含むものである。
【0008】
本発明のなたね油は、本発明のなたね油の製造方法により製造されたものである。
【0009】
本発明の貝類加工食品の製造方法は、貝類の身をさばいたのち、加熱して半生状態にする加熱工程と、半生状態の貝類の身を冷ましたのち、香辛料、砂糖および塩を含む調味液に浸して味付けを行う味付け工程と、調味液から貝類の身を取り出し、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する第1の冷風乾燥工程と、第1の冷風工程ののち、貝類の身をスモークするスモーク工程と、スモーク工程ののち、貝類の身と本発明のなたね油とを混ぜるオイル漬け工程とを含むものである。
【0010】
本発明の貝類加工食品は、本発明の貝類加工食品の製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のなたね油の製造方法によれば、キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去する天日干し工程と、天日干ししたなたねを搾油機により搾油する搾油工程と、搾油された油を1週間から2週間の間、静置して残渣を沈殿させる静置工程と、静置工程ののち、上澄み液を回収して機械濾過する第1の濾過工程と、機械濾過により得られた濾過物を100℃以上120℃以下の温度で加熱する加熱工程と、加熱された濾過物を食用濾紙により複数回濾過する第2の濾過工程とを含むようにしたので、本発明のなたね油を製造することができる。また、食用としても用いることができると共に、酸化による味の低下を低減することができる。
【0012】
本発明の貝類加工食品の製造方法によれば、貝類の身をさばいたのち、加熱して半生状態にする加熱工程と、半生状態の貝類の身を冷ましたのち、香辛料、砂糖および塩を含む水に浸して味付けを行う味付け工程と、味付けされた貝類の身の水分を除去し、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する第1の冷風乾燥工程と、第1の冷風工程ののち、貝類の身をスモークするスモーク工程と、スモーク工程ののち、貝類の身と請求項2記載のなたね油とを混ぜるオイル漬け工程とを含むようにしたので、やわらかく、しっとりした食感を有する美味しい本発明の貝類加工食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(なたね油およびなたね油の製造方法)
本発明の一実施の形態に係るなたね油の製造方法は、天日干し工程と、搾油工程と、静置工程と、第1の濾過工程と、加熱工程と、第2の濾過工程とを含むものである。
【0015】
天日干し工程は、キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去する工程である。これにより、水分が除去されなたねは軽くなり、搾油率を高くすることができるからである。また、焙煎しないので、酸化による風味の低下を防止することができるからである。
【0016】
搾油工程は、天日干ししたなたねを搾油機により搾油する工程である。搾油は、天日干し後、直ちに行うことが好ましい。また、搾油は、1回とすることが好ましい。味が低下してしまうからである。
【0017】
静置工程は、搾油された油を1週間から2週間の間、静置して残渣を沈殿させる工程である。静置は1週間未満では十分に残渣を沈殿させることができず、また、2週間以上静置しても効果が変わらないからである。なお、静置は常温で密封状態において行うことが好ましい。酸化により風味が低下してしまうからである。
【0018】
第1の濾過工程は、静置工程ののち、上澄み液を回収して精油機で機械濾過する工程である。精油機では、濾布あるいは濾紙などで濾過を行う。
【0019】
加熱工程は、機械濾過により得られた濾過物を100℃以上120℃以下の温度で加熱する工程である。120℃を超えると酸化しやすくなるので好ましくなく、100℃未満では殺菌の効果が低下してしまうからである。また、風味の点からは、加熱温度を100℃以上110℃以下とすればより好ましい。100℃以上120℃以下の温度での保持時間は特に必要なく、100℃以上120℃以下の温度に達した後、直ちに加熱を終了し、冷却することが好ましい。酸化してしまうからである。なお、加熱温度を100℃、110℃、または120℃と変えて加熱工程を行ったなたね油について大腸菌の検査を行ったところ、いずれについても大腸菌の存在は確認されなかった。
【0020】
第2の濾過工程は、加熱された濾過物を食用濾紙により複数回濾過する工程である。複数回濾過することにより、より精製することができ、味を良くすることができるからである。食用濾紙の目の粗さは、4μmから6μm程度が好ましい。粗いと十分に精製することができず、細かいと濾過に時間がかかり、生産性が低下してしまうからである。これにより、本発明のなたね油が得られる。
【0021】
(貝類加工食品および貝類加工食品の製造方法)
次に、本発明のなたね油を用いた貝類加工食品の製造方法について説明する。
【0022】
本発明の貝類加工食品は、貝類加熱工程と、味付け工程と、第1の冷風乾燥工程と、スモーク工程と、オイル漬け工程とを含み、更に、スモーク工程とオイル漬け工程との間に、必要に応じて、蒸し工程と、第2の冷風乾燥工程とを含むものである。
【0023】
貝類加熱工程は、貝類の身をさばいたのち、加熱して半生状態にする工程である。貝類としては、活帆立または活鮑が好ましい。半生状態というのは、表面は火が通っているが、中は火が通っておらず生の状態を言う。例えば、帆立であれば、1リットルの水に20gの海塩を溶かした塩水で茹でることにより、半生状態とすることが好ましい。また、鮑であれば、例えば、蒸すことにより半生状態とすることが好ましい。
【0024】
味付け工程は、半生状態とした貝類の身をさましたのち、香辛料、砂糖および塩を含む調味液に浸して味付けを行う工程である。調味液は、例えば、香辛料、砂糖および塩を含む調味料を水に混合したものである。香辛料としては、例えば、ローリエおよび白粒こしょうが挙げられる。砂糖としてはグラニュー糖が好ましい。水分がなく、甘味があるからである。また、塩は、海塩が好ましい。調味料の割合は、水1リットルに対して、ローリエ1枚、白粒こしょう5粒程度、砂糖15g程度、塩50g程度とすることが好ましい。貝類の身を調味液に浸す時間は、一晩程度が好ましい。鮮度を保ちながら十分に味付けをすることができるからである。
【0025】
第1の冷風乾燥工程は、調味液から貝類の身を取り出し、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する工程である。−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風とするのは、温度が高いと雑菌が繁殖してしまい、温度が低いと貝類が凍ってしまうからである。乾燥時間は、例えば、2時間から3時間程度とすることが好ましい。
【0026】
スモーク工程は、第1の冷風工程ののち、貝類の身をスモークする工程である。スモークは、例えば、楢の木のチップを用いることが好ましい。貝類の身が硬くならず、かつ、短時間でスモークすることができるからである。スモーク時間は、例えば、20分から30分程度が好ましい。
【0027】
蒸し工程は、スモークした貝類の身を62℃以上65℃以下の温度で蒸す工程である。これにより、スモークにより貝類の身の黒くなった部分を薄くしたり、あるいはスモークによる臭いを緩和することができるからである。62℃以上65℃以下とするのは、温度が低いと効果が低く、また、温度が高いと貝類の身が硬くなってしまい、特に80℃を超えるとより硬くなってしまうからである。蒸す時間は、例えば、20分間から30分間程度が好ましい。
【0028】
第2の冷風乾燥工程は、蒸し工程により貝類の身についた水分を−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する工程である。−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風とするのは、温度が高いと雑菌が繁殖してしまい、温度が低いと貝類が凍ってしまうからである。乾燥時間は、例えば、1時間程度とすることが好ましい。
【0029】
オイル漬け工程は、スモーク工程ののち、貝類の身と本発明のなたね油とを混ぜる工程である。貝類の身となたね油との混合の割合は、質量比で、80:8〜10程度が好ましい。その際、真空パック用の袋などの密封容器に貝類の身となたね油とを入れて混ぜるようにしてもよく、また、貝類の身となたね油とを混ぜた後、密封容器に入れて封入するようにしてもよい。これにより、本発明の貝類加工食品が得られる。
【0030】
このように本実施の形態のなたね油の製造方法によれば、キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去する天日干し工程と、天日干ししたなたねを搾油機により搾油する搾油工程と、搾油された油を1週間から2週間の間、静置して残渣を沈殿させる静置工程と、静置工程ののち、上澄み液を回収して機械濾過する第1の濾過工程と、機械濾過により得られた濾過物を100℃以下の温度で加熱する加熱工程と、加熱された濾過物を食用濾紙により複数回濾過する第2の濾過工程とを含むようにしたので、食用としても用いることができると共に、酸化による味の低下を低減することができたなたね油を製造することができる。
【0031】
また、本実施の形態に係る貝類加工食品の製造方法によれば、貝類の身をさばいたのち、加熱して半生状態にする加熱工程と、半生状態の貝類の身を冷ましたのち、香辛料、砂糖および塩を含む水に浸して味付けを行う味付け工程と、味付けされた貝類の身の水分を除去し、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する第1の冷風乾燥工程と、第1の冷風工程ののち、貝類の身をスモークするスモーク工程と、スモーク工程ののち、貝類の身と請求項2記載のなたね油とを混ぜるオイル漬け工程とを含むようにしたので、やわらかく、しっとりした食感を有する美味しい貝類加工食品を製造することができる。
【0032】
また、スモーク工程ののち、蒸し工程を行うようにすれば、スモークにより貝類の身の黒くなった部分を薄くしたり、あるいはスモークによる臭いを緩和することができる。
【0033】
更に、蒸し工程ののち、第2の冷風乾燥工程を行うようにすれば、蒸し工程により貝類の身についた水分を乾燥することができる。
【実施例】
【0034】
[なたね油]
(実施例1)
実施例1として、上記実施の形態において説明したなたね油の製造方法により、なたね油を製造した。また、比較例1として、天日干し工程に変えて、焙煎によりなたねの水分を除去したことを除き、他は実施例1と同様にしてなたね油を製造した。その際、焙煎は80℃から100℃で30分から1時間行い、加熱工程における加熱は、140℃以上180℃とした。実施例1と比較例1のなたね油を比較したところ、実施例1のなたね油は鮮やかな黄色であり油臭さがあまりなかったのに対して、比較例1のなたね油は少しくすんだ黄色で油臭さがあり、実施例に比べて風味が悪かった。すなわち、本実施例1によれば、酸化が防止され、風味を向上させることができることがわかった。
【0035】
[活ほたてのオイル漬け]
(実施例2)
実施例1で製造したなたね油を用いて、活帆立のオイル漬けを製造した。具体的には、上記実施の形態において説明した貝類加熱工程、味付け工程、第1の冷風乾燥工程、スモーク工程と、蒸し工程、第2の冷風乾燥工程、オイル漬け工程を順に行い、真空パックにより密封した。また、比較例2として、貝類加熱工程において、活帆立に完全に火を通したことを除き、他は実施例2と同様にして活帆立のオイル漬けを製造した。
【0036】
実施例2および比較例2の各活帆立のオイル漬けを、3名に試食してもらった。その結果、3名とも、実施例2の活帆立のオイル漬けは、やわらかく、しっとりした感じがして美味しいと答えたのに対して、比較例2の活帆立のオイル漬けは、かためで、ぱさついている感じがしたと答えた。
【0037】
(実施例3)
スモーク工程において、楢の木のチップに代えて、りんごの木を用いたことを除き、他は実施例2と同様にして活帆立のオイル漬けを製造した。実施例2と実施例3の活帆立のオイル漬けを、3名に試食してもらった。その結果、3名とも、実施例2の活帆立のオイル漬けの方が、実施例3の活帆立のオイル漬けよりも、やわらかい食感があると答えた。また、これらの活帆立のオイル漬けを観察したところ、実施例3の活帆立のオイル漬けの方が、実施例2の活帆立のオイル漬けよりも、スモークによる色づきが薄かった。よって、スモーク工程において、楢の木を用いることが好ましいことが分かった。
【0038】
(実施例4)
蒸し工程および第2の冷風乾燥工程を行わなかったことを除き、他は実施例2と同様にして活帆立のオイル漬けを製造した。実施例2と実施例4の活帆立のオイル漬けを、3名に試食してもらった。その結果、3名とも、実施例2の活帆立のオイル漬けの方が、実施例4の活帆立のオイル漬けよりも、スモーク臭さが少なくなっていて、美味しいと答えた。また、これらの活帆立のオイル漬けを観察したところ、実施例2の活帆立のオイル漬けには、スモークにより黒くなった部分が薄くなっており、見た目が美しくなったのに対し、実施例4の活帆立のオイル漬けには、スモークにより黒くなった部分が残ったものがあった。よって、蒸し工程および第2の冷風乾燥工程を行うことが好ましいことが分かった。
【0039】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、なたね油を貝類に用いる場合について説明したが、パンやクラッカーなどにつけて食したり、あるいはドレッシングなどにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
キザキノナタネのなたね油およびそれを用いた貝類加工食品に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キザキノナタネのなたねを2時間以上天日干しして水分を除去する天日干し工程と、
天日干ししたなたねを搾油機により搾油する搾油工程と、
搾油された油を1週間から2週間の間、静置して残渣を沈殿させる静置工程と、
前記静置工程ののち、上澄み液を回収して機械濾過する第1の濾過工程と、
機械濾過により得られた濾過物を100℃以上120℃以下の温度で加熱する加熱工程と、
加熱された濾過物を食用濾紙により複数回濾過する第2の濾過工程と
を含むことを特徴とするなたね油の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のなたね油の製造方法により製造されたことを特徴とするなたね油。
【請求項3】
貝類の身をさばいたのち、加熱して半生状態にする貝類加熱工程と、
半生状態の貝類の身を冷ましたのち、香辛料、砂糖および塩を含む調味液に浸して味付けを行う味付け工程と、
調味液から貝類の身を取り出し、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する第1の冷風乾燥工程と、
前記第1の冷風工程ののち、貝類の身をスモークするスモーク工程と、
前記スモーク工程ののち、貝類の身と請求項2記載のなたね油とを混ぜるオイル漬け工程と
を含むことを特徴とする貝類加工食品の製造方法。
【請求項4】
更に、前記スモーク工程ののち、62℃以上65℃以下の温度で、貝類の身を蒸す蒸し工程を含むことを特徴とする請求項3記載の貝類加工食品の製造方法。
【請求項5】
更に、前記蒸し工程ののち、−0.5℃以上−0.3℃以下の冷風により乾燥する第2の冷風乾燥工程を含むことを特徴とする請求項4記載の貝類加工食品の製造方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1に記載の貝類加工食品の製造方法により製造されたことを特徴とする貝類加工食品。

【公開番号】特開2011−41510(P2011−41510A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191498(P2009−191498)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(509235637)特定非営利活動法人菜の花トラストin横浜町 (1)
【Fターム(参考)】