はんだ接合部の寿命評価方法
【目的】良好な引張試験サンプルを作製できない速い冷却速度で冷却されたはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に推定できるようにすることによって、評価精度が高いはんだ接合部の寿命評価方法を提供する。
【構成】均一な組織形態を得られる冷却条件および時効条件の組み合わせで作製した複数の引張試験サンプルから得られる硬さおよび機械的特性の温度依存性データを用いて、所定複数温度における硬さと機械的特性との相関関係を取得し、評価対象のはんだ接合部から実測した硬さをこの相関関係に当てはめて機械的特性を読み出し、その機械的特性をシミュレーション計算に適用して、はんだ接合部の寿命を評価する。また、硬さと組織形態との相関関係をも取得し、組織形態から硬さを介して機械的特性を読み出す。
【構成】均一な組織形態を得られる冷却条件および時効条件の組み合わせで作製した複数の引張試験サンプルから得られる硬さおよび機械的特性の温度依存性データを用いて、所定複数温度における硬さと機械的特性との相関関係を取得し、評価対象のはんだ接合部から実測した硬さをこの相関関係に当てはめて機械的特性を読み出し、その機械的特性をシミュレーション計算に適用して、はんだ接合部の寿命を評価する。また、硬さと組織形態との相関関係をも取得し、組織形態から硬さを介して機械的特性を読み出す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品を実装された回路基板等のはんだ接合部の信頼性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化に伴って回路基板やモジュール等において、高密度実装化が進み、はんだ接合部の微小化も進んでいる。これに伴い、微小はんだ接合部の機械的強度や信頼性の評価法を確立することが求められている。
電子部品を実装された回路基板等のはんだ接合部には、それぞれの材料の熱膨張係数の差と温度変化に伴う応力がかかるので、この応力が繰り返されると、はんだ接合部のはんだに亀裂が発生し、電気的導通不良に至ることがある。はんだ接合部のこのような熱疲労に対する信頼性は、はんだ接合部の亀裂発生寿命によって評価され、亀裂発生寿命は、はんだ接合部のはんだに亀裂が発生するまでに繰り返される冷熱サイクルの数で表される。
【0003】
亀裂発生寿命の測定は、実際の電子機器を冷熱サイクルにかけることで実行される。しかし、この方法は、その実行に非常に長い時間を必要とし、所定サイクル後の良否判定なので寿命分布の信頼性が低く、ばらつきまでを把握するためには多数の製品を必要とする。
このため、解析モデルを用いたシミュレーションで亀裂発生寿命を予測しようとする方法が採用されている。この方法の一つとして、有限要素法に基づく解析によって、冷熱サイクルにおいてはんだ接合部に発生する非弾性ひずみ(塑性ひずみ)の振幅を計算し、はんだ接合部の亀裂発生寿命を予測する方法がある。この評価法は特許文献1に開示されている。この方法の場合には、解析モデルへの入力パラメータとして代表値が用いられているので、得られる解析結果は代表値に関するものとなり、一定の値となる。これに対して、入力パラメータのばらつきに対してモンテカルロ・シミュレーションを実施して解析する評価法もあり、このような評価法としては特許文献2に開示されている方法が挙げられる。
【0004】
上記のシミュレーションに用いられる入力パラメータの内の重要なものとして、各構成材料の線膨張係数および機械的特性と、はんだ接合部のはんだの機械的特性(引張強さや破断延性など)が上げられる。はんだの機械的特性は、従来技術では、空冷にて凝固させた大型バルク材から作製される引張試験用サンプルによって測定される。図7は引張試験用サンプルを作製するためのはんだインゴットを鋳込むための鋳込み治具の形状を示す正面図であり、図8は引張試験用サンプルの形状を示す平面図である。これらはJIS規格(JIS Z 3198-2)に準拠するものである。引張試験用サンプルは、溶融はんだを図7の鋳込み治具に融点より100℃高い鋳湯温度で鋳込み大氣下で空冷して凝固させたインゴットを、機械加工で図8の形状に加工して作製される。微小なはんだ接合部を考慮して、細線状のサンプルを作製し、そのサンプルで機械的特性を測定することもある。
【特許文献1】特開2001−298107号公報
【特許文献2】特開2005−26250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような条件で作製されるはんだの引張試験用サンプルは、均一な組織形態を得るために大氣下の空冷で作製されているので、組織形態を構成する各成分相(初晶相や共晶相など)が大きく成長した組織形態を有するものとなっている。しかしながら、はんだ接合部のはんだは、均一な組織形態を得ることができる冷却条件より早い冷却速度で冷却されることが多いので、同じ組成を有するはんだであっても、はんだ接合部のはんだの機械的特性は引張試験用サンプルの機械的特性からずれた特性となっている場合の方が多い。このため、引張試験用サンプルで得られた機械的特性に基づくシミュレーションには、前記特性のずれに伴う不正確さが含まれるので、その寿命評価はその分だけ不正確になっている。
【0006】
この問題点を避けるために、より早い冷却速度の引張試験用サンプルを作製しようとして治具を冷却する場合には、結露の発生などによりインゴット中にボイド等の欠陥が発生し、均一な組織形態も得られなくて、良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である。
この発明の課題は、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である速い冷却条件で冷却されたはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に推定でき、その結果として、高い精度が得られるはんだ接合部の寿命評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、はんだ接合部のはんだの冷却条件と良好な引張試験用サンプルが得られるはんだの冷却条件とが合致しないことに起因するものである。したがって、はんだ接合部から得られる情報からシミュレーションに必要な機械的特性を正確に且つ容易に推定することができれば、この課題を解決することができる。この観点に立って、この発明の発明者は、良好な引張試験用サンプルとこれを所定温度で時効処理したものとを用いて硬さや引張強さ等の機械的特性を測定して、はんだの組織形態の同一成分相内で測定した硬さと硬さ以外の機械的特性との間に明瞭な相関関係があることを見出し、その結果として、微小面積で測定可能な硬さを評価対象のはんだ接合部から実測すれば、前記の相関関係を用いて評価対象のはんだ接合部の硬さ以外の機械的特性を推定できることを見出し、この発明に至った。また、硬さと同様に微小面積でデータを取得できる組織形態からも機械的特性を推定することができることを見出した。この場合には、まず、組織形態と硬さの相関関係を取得しておき、評価対象のはんだ接合部から組織形態を把握し、硬さを介して機械的特性を推定すればよい。
【0008】
前者が請求項1の発明に相当し、後者が請求項2および請求項3の発明に相当する。
請求項1の発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、前記機械的特性を取得する方法として、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部のはんだの前記成分相内での硬さを測定する硬さ測定工程と、硬さ測定工程で得られた硬さの測定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している。
【0009】
硬さの測定は、はんだ接合部のような小さな面積の領域でも実行可能である。この発明においては、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルから得られた硬さと機械的特性との相関関係に基づいて、実測で得られたはんだ接合部のはんだの硬さからはんだ接合部のはんだの機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0010】
請求項2の発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、前記機械的特性を取得する方法として、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等と想定される複数の冷却条件のそれぞれで硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、硬さ・組織形態取得サンプル毎に前記成分相内での硬さを測定し且つ組織形態のデータを取得し、測定結果および取得データに基づいて硬さと組織形態との相関関係を求める硬さ・組織形態間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握する組織形態把握工程と、組織形態把握工程で得られたはんだの組織形態を硬さ・組織形態間相関関係取得工程による相関関係に当てはめて、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを求める硬さ推定工程と、硬さ推定工程で得られた硬さの推定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している。
【0011】
組織形態の把握は、硬さの測定と同様に、はんだ接合部のような小さな面積の領域でも実行可能である。この発明においては、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で作成されたサンプルを用いて、その硬さと組織形態との相関関係を取得しておき、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握し、これからその部分の硬さを推定し、シミュレーションに必要な機械的特性を求める。したがって、この発明によっても、請求項1の発明と同様に、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いる。
はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いることによって、組織形態を客観的に且つ定量的に把握できるので、はんだ接合部の機械的特性をより正確に推定することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件とする。
はんだは非常に塑性変形しやすい材料であって、その硬さを測定する場合には、塑性変形を伴う。図6は、その一例を示す実測データであって、微小硬さ計による硬さの測定における荷重保持時間と算出硬さとの関係を示す線図である。荷重保持時間が長くなるのにしたがって、算出硬さが低減している。これは、荷重保持時間が長くなるほど塑性変形が進んで、硬さ計の圧子の押し込み深さが深くなることによる。参考までに数式で示すと、押し込み応力すなわち硬さσは、押し込み荷重Pと押し込み深さhとで、
σ=kP/h2
として計算される。ここで、kは圧子の形状や温度で決まる定数である。
【0014】
上記の説明から明らかなように、実測されるはんだの硬さは荷重のかけ方によって変化するので、この発明におけるはんだの硬さの相対的な測定精度を確保するためには、荷重のかけ方を一定条件とすることが必要不可欠となる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明においては、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件で作製した引張試験用サンプルを用いて、組織形態における所定の成分相内での硬さと機械的特性との相関関係を求め、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを測定し、前記の相関関係からシミュレーションに必要な機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部のはんだの機械的特性を推定することができる。したがって、この発明によれば、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である早い冷却条件で冷却されたはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に推定でき、その結果として、高い精度が得られるはんだ接合部の寿命評価方法を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明においては、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で作製した硬さ・組織形態取得サンプルを用いて、硬さと組織形態との相関関係を求め、請求項1の発明と同様にして、シミュレーションに必要な機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0017】
請求項3の発明においては、組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いるので、組織形態を客観的に且つ定量的に把握することができ、はんだ接合部の機械的特性をより正確に推定することができる。
請求項4の発明においては、硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件としており、これによって、硬さ測定時のはんだの塑性変形に伴う測定値のばらつきを抑制することができ、機械的特性の推定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の最良の実施形態について実施例を用いて説明する。
なお、この発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法に関するものであるが、この発明の特徴は、はんだ接合部のはんだの機械的特性の推定方法にあるので、以下の実施例においては、この部分に限って説明する。
【実施例1】
【0019】
この実施例は請求項1の発明に相当するものであり、図1は実施例1を説明するための工程図である。
この実施例における機械的特性の推定方法は、大きく分けて以下の3つの工程で構成されている。
第1の工程は、図1には引張試験用サンプルによる硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と示した工程であって、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件で引張試験用サンプルを作成し、この引張試験用サンプルを幾つかの温度で時効処理することによって機械的特性の異なる引張試験用サンプルとし、これらの引張試験用サンプルを用いて複数の異なる温度で硬さおよび機械的特性を測定し、この測定結果に基づいて、硬さの温度依存性(図1では温度依存特性)およびシミュレーションに必要な温度での硬さと機械的特性との相関関係を求める工程である。この工程で重要なことは、硬さの測定において、その測定位置をはんだの組織形態の同一成分相内に統一することである。
【0020】
この工程で得られた相関図の一例を図3に示す。図3は、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの硬さと引張強さの相関関係を示す相関図であり、図には27℃での相関と125℃での相関とが示されている。図4および図5は、この相関関係を得るための時効温度と引張強さまたは硬さの関係を示す線図である。硬さは微小硬度計によってはんだのβ-Sn相(初晶領域)内で測定し、圧子にかける荷重は2gfとし、荷重保持時間は600秒とした。なお、図4および図5における時効時間は1,000時間である。図4および図5から明らかなように、時効温度が高くなるほど引張強さおよび硬さは共に低減し、その結果として、図3に示すような相関関係が得られている。図3には硬さと引張強さの相関関係が示されているが、他の機械的特性についても同様にして硬さとの相関関係を得ることができる。
【0021】
硬さおよび引張り強さの温度依存性のデータは、図として示していないが、図4および図5におけるパラメータと横軸を置き換えることで得られる。すなわち、横軸に温度をとり、時効温度をパラメータにすればよい。図4および図5においては、パラメータの温度は27℃と125℃の2点しか示されていないが、更に増やすことで正確な温度依存性を得ることができる。
【0022】
第2の工程は、評価対象のはんだ接合部ではんだの硬さを実測する工程であり、微小硬度計を用いて硬度を測定する。参考までに示すと、硬度測定に必要な大きさは、測定時の荷重や測定部の硬さによるが、加重が2gfの場合には、5〜10μm程度である。
第3の工程は、第1の工程で得られている硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係を用いて、硬さの実測値からシミュレーションに必要な温度での機械的特性を推定する工程である。
【0023】
この実施例では、微小な面積で容易に計測可能な硬さと、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件で作成された良好な引張試験用サンプルで予め取得しておいた硬さと機械的特性との相関関係と、を用いて機械的特性を推定するので、シミュレーションに必要な評価対象のはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に取得することができる。
【実施例2】
【0024】
この実施例は請求項2の発明に相当するものであり、図2は実施例2を説明するための工程図である。
実施例1では、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを実測し、この実測硬さから必要な機械的特性を推定しているが、実施例2では、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握し、把握した組織形態から組織形態と硬さとの相関関係によってはんだの硬さを求め、求めた硬さから、実施例1と同様にして、シミュレーションに必要な機械的特性を推定する。
【0025】
この実施例における機械的特性の推定方法は、大きく分けて5つの工程で構成されている。
第1の工程は、実施例1の第1の工程と同じ工程であって、良好な引張試験用サンプルによって、複数の異なる温度で硬さおよび機械的特性を測定し、この測定結果に基づいて、硬さの温度依存性およびシミュレーションに必要な温度での硬さと機械的特性との相関関係を求める工程である。
【0026】
第2の工程は、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、この硬さ・組織形態取得サンプルで硬さおよび組織形態のデータを取得し、硬さと組織形態の相関関係を求める工程である。組織形態データとしては、組織形態そのものの標準見本を用いることもできるが、はんだ組織内の所定の成分相の平均粒径または面積比率を用いることもできる。組織形態そのものは、全てのサンプルにおいて異なるので、標準見本を用いる前者の場合には、主観的な判断が入ることを避けることができない。これに対して、後者の場合には、組織形態の状態が定量的な数値として把握されるので、主観的な判断が入ることはなく、自動化にも適している。
【0027】
図9は、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの大気中空冷サンプルの組織形態の一例を示す顕微鏡写真である。共晶領域(β-Sn―Ag3Sn相)2と成長した初晶領域(β-Sn相)1を識別することができる。この場合には、β-Sn相1の平均粒径は把握しにくいので、β-Sn相1の面積比率を用いる方がよい。
第3の工程は、評価対象のはんだ接合部ではんだの組織形態を実際に把握する工程であり、第4の工程は、第3の工程で得られた評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態から硬さを推定する工程であり、第5の工程は、第1の工程で得られている硬さの温度依存性および硬さと機械的特性の相関を用いて、硬さの推定値から機械的特性を推定する工程である。
【0028】
この実施例では、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を実際に把握することによって硬さを推定し、その硬さ推定値から機械的特性を推定するので、シミュレーションに必要な評価対象のはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に取得することができる。この実施例の場合には、組織形態を実際に観察・把握する工程があるので、はんだ接合部のはんだの冷却状態が位置によってどのように変化しているか、を把握することができ、これをシミュレーションに適用することによって、より精度の高いシミュレーションを可能とすることができる。
【0029】
以上の2つの実施例では、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの場合を説明してきたが、Sn-Zn系の鉛フリーはんだの場合にも組織形態のZn相を使って同様な機械的特性の推定をできることが確認されており、更に他の組成のはんだにもこのような機械的特性の推定方法は適用可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の実施例1を説明するための工程図
【図2】この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の実施例2を説明するための工程図
【図3】引張試験用サンプルのβ-Sn相内での硬さと引張試験用サンプルの引張強さの相関関係を示す相関図
【図4】図3の相関図をつくるための引張試験用サンプルの時効温度に対する引張強さのデータを示す実測図
【図5】図3の相関図をつくるための引張試験用サンプルの時効温度に対するβ-Sn相内での硬さのデータを示す実測図
【図6】硬さの測定における荷重保持時間と算出硬さとの関係を示す線図
【図7】引張試験用サンプル作製用鋳込み治具の形状を示す正面図
【図8】引張試験用サンプルの形状を示す平面図
【図9】引張試験用サンプルの組織形態の一例を示す顕微鏡写真(倍率は50倍)
【符号の説明】
【0031】
1 初晶領域(β-Sn相)
2 共晶領域(β-Sn―Ag3Sn相)
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品を実装された回路基板等のはんだ接合部の信頼性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化に伴って回路基板やモジュール等において、高密度実装化が進み、はんだ接合部の微小化も進んでいる。これに伴い、微小はんだ接合部の機械的強度や信頼性の評価法を確立することが求められている。
電子部品を実装された回路基板等のはんだ接合部には、それぞれの材料の熱膨張係数の差と温度変化に伴う応力がかかるので、この応力が繰り返されると、はんだ接合部のはんだに亀裂が発生し、電気的導通不良に至ることがある。はんだ接合部のこのような熱疲労に対する信頼性は、はんだ接合部の亀裂発生寿命によって評価され、亀裂発生寿命は、はんだ接合部のはんだに亀裂が発生するまでに繰り返される冷熱サイクルの数で表される。
【0003】
亀裂発生寿命の測定は、実際の電子機器を冷熱サイクルにかけることで実行される。しかし、この方法は、その実行に非常に長い時間を必要とし、所定サイクル後の良否判定なので寿命分布の信頼性が低く、ばらつきまでを把握するためには多数の製品を必要とする。
このため、解析モデルを用いたシミュレーションで亀裂発生寿命を予測しようとする方法が採用されている。この方法の一つとして、有限要素法に基づく解析によって、冷熱サイクルにおいてはんだ接合部に発生する非弾性ひずみ(塑性ひずみ)の振幅を計算し、はんだ接合部の亀裂発生寿命を予測する方法がある。この評価法は特許文献1に開示されている。この方法の場合には、解析モデルへの入力パラメータとして代表値が用いられているので、得られる解析結果は代表値に関するものとなり、一定の値となる。これに対して、入力パラメータのばらつきに対してモンテカルロ・シミュレーションを実施して解析する評価法もあり、このような評価法としては特許文献2に開示されている方法が挙げられる。
【0004】
上記のシミュレーションに用いられる入力パラメータの内の重要なものとして、各構成材料の線膨張係数および機械的特性と、はんだ接合部のはんだの機械的特性(引張強さや破断延性など)が上げられる。はんだの機械的特性は、従来技術では、空冷にて凝固させた大型バルク材から作製される引張試験用サンプルによって測定される。図7は引張試験用サンプルを作製するためのはんだインゴットを鋳込むための鋳込み治具の形状を示す正面図であり、図8は引張試験用サンプルの形状を示す平面図である。これらはJIS規格(JIS Z 3198-2)に準拠するものである。引張試験用サンプルは、溶融はんだを図7の鋳込み治具に融点より100℃高い鋳湯温度で鋳込み大氣下で空冷して凝固させたインゴットを、機械加工で図8の形状に加工して作製される。微小なはんだ接合部を考慮して、細線状のサンプルを作製し、そのサンプルで機械的特性を測定することもある。
【特許文献1】特開2001−298107号公報
【特許文献2】特開2005−26250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような条件で作製されるはんだの引張試験用サンプルは、均一な組織形態を得るために大氣下の空冷で作製されているので、組織形態を構成する各成分相(初晶相や共晶相など)が大きく成長した組織形態を有するものとなっている。しかしながら、はんだ接合部のはんだは、均一な組織形態を得ることができる冷却条件より早い冷却速度で冷却されることが多いので、同じ組成を有するはんだであっても、はんだ接合部のはんだの機械的特性は引張試験用サンプルの機械的特性からずれた特性となっている場合の方が多い。このため、引張試験用サンプルで得られた機械的特性に基づくシミュレーションには、前記特性のずれに伴う不正確さが含まれるので、その寿命評価はその分だけ不正確になっている。
【0006】
この問題点を避けるために、より早い冷却速度の引張試験用サンプルを作製しようとして治具を冷却する場合には、結露の発生などによりインゴット中にボイド等の欠陥が発生し、均一な組織形態も得られなくて、良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である。
この発明の課題は、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である速い冷却条件で冷却されたはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に推定でき、その結果として、高い精度が得られるはんだ接合部の寿命評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、はんだ接合部のはんだの冷却条件と良好な引張試験用サンプルが得られるはんだの冷却条件とが合致しないことに起因するものである。したがって、はんだ接合部から得られる情報からシミュレーションに必要な機械的特性を正確に且つ容易に推定することができれば、この課題を解決することができる。この観点に立って、この発明の発明者は、良好な引張試験用サンプルとこれを所定温度で時効処理したものとを用いて硬さや引張強さ等の機械的特性を測定して、はんだの組織形態の同一成分相内で測定した硬さと硬さ以外の機械的特性との間に明瞭な相関関係があることを見出し、その結果として、微小面積で測定可能な硬さを評価対象のはんだ接合部から実測すれば、前記の相関関係を用いて評価対象のはんだ接合部の硬さ以外の機械的特性を推定できることを見出し、この発明に至った。また、硬さと同様に微小面積でデータを取得できる組織形態からも機械的特性を推定することができることを見出した。この場合には、まず、組織形態と硬さの相関関係を取得しておき、評価対象のはんだ接合部から組織形態を把握し、硬さを介して機械的特性を推定すればよい。
【0008】
前者が請求項1の発明に相当し、後者が請求項2および請求項3の発明に相当する。
請求項1の発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、前記機械的特性を取得する方法として、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部のはんだの前記成分相内での硬さを測定する硬さ測定工程と、硬さ測定工程で得られた硬さの測定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している。
【0009】
硬さの測定は、はんだ接合部のような小さな面積の領域でも実行可能である。この発明においては、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルから得られた硬さと機械的特性との相関関係に基づいて、実測で得られたはんだ接合部のはんだの硬さからはんだ接合部のはんだの機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0010】
請求項2の発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、前記機械的特性を取得する方法として、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等と想定される複数の冷却条件のそれぞれで硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、硬さ・組織形態取得サンプル毎に前記成分相内での硬さを測定し且つ組織形態のデータを取得し、測定結果および取得データに基づいて硬さと組織形態との相関関係を求める硬さ・組織形態間相関関係取得工程と、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握する組織形態把握工程と、組織形態把握工程で得られたはんだの組織形態を硬さ・組織形態間相関関係取得工程による相関関係に当てはめて、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを求める硬さ推定工程と、硬さ推定工程で得られた硬さの推定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している。
【0011】
組織形態の把握は、硬さの測定と同様に、はんだ接合部のような小さな面積の領域でも実行可能である。この発明においては、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で作成されたサンプルを用いて、その硬さと組織形態との相関関係を取得しておき、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握し、これからその部分の硬さを推定し、シミュレーションに必要な機械的特性を求める。したがって、この発明によっても、請求項1の発明と同様に、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いる。
はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いることによって、組織形態を客観的に且つ定量的に把握できるので、はんだ接合部の機械的特性をより正確に推定することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件とする。
はんだは非常に塑性変形しやすい材料であって、その硬さを測定する場合には、塑性変形を伴う。図6は、その一例を示す実測データであって、微小硬さ計による硬さの測定における荷重保持時間と算出硬さとの関係を示す線図である。荷重保持時間が長くなるのにしたがって、算出硬さが低減している。これは、荷重保持時間が長くなるほど塑性変形が進んで、硬さ計の圧子の押し込み深さが深くなることによる。参考までに数式で示すと、押し込み応力すなわち硬さσは、押し込み荷重Pと押し込み深さhとで、
σ=kP/h2
として計算される。ここで、kは圧子の形状や温度で決まる定数である。
【0014】
上記の説明から明らかなように、実測されるはんだの硬さは荷重のかけ方によって変化するので、この発明におけるはんだの硬さの相対的な測定精度を確保するためには、荷重のかけ方を一定条件とすることが必要不可欠となる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明においては、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件で作製した引張試験用サンプルを用いて、組織形態における所定の成分相内での硬さと機械的特性との相関関係を求め、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを測定し、前記の相関関係からシミュレーションに必要な機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部のはんだの機械的特性を推定することができる。したがって、この発明によれば、均一な組織形態を有する良好な引張試験用サンプルを作製することが困難である早い冷却条件で冷却されたはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に推定でき、その結果として、高い精度が得られるはんだ接合部の寿命評価方法を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明においては、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で作製した硬さ・組織形態取得サンプルを用いて、硬さと組織形態との相関関係を求め、請求項1の発明と同様にして、シミュレーションに必要な機械的特性を求めるので、均一な組織形態を得ることができないような冷却速度の速いはんだ接合部の機械的特性を推定することができる。
【0017】
請求項3の発明においては、組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いるので、組織形態を客観的に且つ定量的に把握することができ、はんだ接合部の機械的特性をより正確に推定することができる。
請求項4の発明においては、硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件としており、これによって、硬さ測定時のはんだの塑性変形に伴う測定値のばらつきを抑制することができ、機械的特性の推定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の最良の実施形態について実施例を用いて説明する。
なお、この発明は、電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法に関するものであるが、この発明の特徴は、はんだ接合部のはんだの機械的特性の推定方法にあるので、以下の実施例においては、この部分に限って説明する。
【実施例1】
【0019】
この実施例は請求項1の発明に相当するものであり、図1は実施例1を説明するための工程図である。
この実施例における機械的特性の推定方法は、大きく分けて以下の3つの工程で構成されている。
第1の工程は、図1には引張試験用サンプルによる硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と示した工程であって、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件で引張試験用サンプルを作成し、この引張試験用サンプルを幾つかの温度で時効処理することによって機械的特性の異なる引張試験用サンプルとし、これらの引張試験用サンプルを用いて複数の異なる温度で硬さおよび機械的特性を測定し、この測定結果に基づいて、硬さの温度依存性(図1では温度依存特性)およびシミュレーションに必要な温度での硬さと機械的特性との相関関係を求める工程である。この工程で重要なことは、硬さの測定において、その測定位置をはんだの組織形態の同一成分相内に統一することである。
【0020】
この工程で得られた相関図の一例を図3に示す。図3は、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの硬さと引張強さの相関関係を示す相関図であり、図には27℃での相関と125℃での相関とが示されている。図4および図5は、この相関関係を得るための時効温度と引張強さまたは硬さの関係を示す線図である。硬さは微小硬度計によってはんだのβ-Sn相(初晶領域)内で測定し、圧子にかける荷重は2gfとし、荷重保持時間は600秒とした。なお、図4および図5における時効時間は1,000時間である。図4および図5から明らかなように、時効温度が高くなるほど引張強さおよび硬さは共に低減し、その結果として、図3に示すような相関関係が得られている。図3には硬さと引張強さの相関関係が示されているが、他の機械的特性についても同様にして硬さとの相関関係を得ることができる。
【0021】
硬さおよび引張り強さの温度依存性のデータは、図として示していないが、図4および図5におけるパラメータと横軸を置き換えることで得られる。すなわち、横軸に温度をとり、時効温度をパラメータにすればよい。図4および図5においては、パラメータの温度は27℃と125℃の2点しか示されていないが、更に増やすことで正確な温度依存性を得ることができる。
【0022】
第2の工程は、評価対象のはんだ接合部ではんだの硬さを実測する工程であり、微小硬度計を用いて硬度を測定する。参考までに示すと、硬度測定に必要な大きさは、測定時の荷重や測定部の硬さによるが、加重が2gfの場合には、5〜10μm程度である。
第3の工程は、第1の工程で得られている硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係を用いて、硬さの実測値からシミュレーションに必要な温度での機械的特性を推定する工程である。
【0023】
この実施例では、微小な面積で容易に計測可能な硬さと、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件で作成された良好な引張試験用サンプルで予め取得しておいた硬さと機械的特性との相関関係と、を用いて機械的特性を推定するので、シミュレーションに必要な評価対象のはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に取得することができる。
【実施例2】
【0024】
この実施例は請求項2の発明に相当するものであり、図2は実施例2を説明するための工程図である。
実施例1では、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを実測し、この実測硬さから必要な機械的特性を推定しているが、実施例2では、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握し、把握した組織形態から組織形態と硬さとの相関関係によってはんだの硬さを求め、求めた硬さから、実施例1と同様にして、シミュレーションに必要な機械的特性を推定する。
【0025】
この実施例における機械的特性の推定方法は、大きく分けて5つの工程で構成されている。
第1の工程は、実施例1の第1の工程と同じ工程であって、良好な引張試験用サンプルによって、複数の異なる温度で硬さおよび機械的特性を測定し、この測定結果に基づいて、硬さの温度依存性およびシミュレーションに必要な温度での硬さと機械的特性との相関関係を求める工程である。
【0026】
第2の工程は、評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等の冷却条件で硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、この硬さ・組織形態取得サンプルで硬さおよび組織形態のデータを取得し、硬さと組織形態の相関関係を求める工程である。組織形態データとしては、組織形態そのものの標準見本を用いることもできるが、はんだ組織内の所定の成分相の平均粒径または面積比率を用いることもできる。組織形態そのものは、全てのサンプルにおいて異なるので、標準見本を用いる前者の場合には、主観的な判断が入ることを避けることができない。これに対して、後者の場合には、組織形態の状態が定量的な数値として把握されるので、主観的な判断が入ることはなく、自動化にも適している。
【0027】
図9は、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの大気中空冷サンプルの組織形態の一例を示す顕微鏡写真である。共晶領域(β-Sn―Ag3Sn相)2と成長した初晶領域(β-Sn相)1を識別することができる。この場合には、β-Sn相1の平均粒径は把握しにくいので、β-Sn相1の面積比率を用いる方がよい。
第3の工程は、評価対象のはんだ接合部ではんだの組織形態を実際に把握する工程であり、第4の工程は、第3の工程で得られた評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態から硬さを推定する工程であり、第5の工程は、第1の工程で得られている硬さの温度依存性および硬さと機械的特性の相関を用いて、硬さの推定値から機械的特性を推定する工程である。
【0028】
この実施例では、評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を実際に把握することによって硬さを推定し、その硬さ推定値から機械的特性を推定するので、シミュレーションに必要な評価対象のはんだ接合部のはんだの機械的特性を正確に且つ容易に取得することができる。この実施例の場合には、組織形態を実際に観察・把握する工程があるので、はんだ接合部のはんだの冷却状態が位置によってどのように変化しているか、を把握することができ、これをシミュレーションに適用することによって、より精度の高いシミュレーションを可能とすることができる。
【0029】
以上の2つの実施例では、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだの場合を説明してきたが、Sn-Zn系の鉛フリーはんだの場合にも組織形態のZn相を使って同様な機械的特性の推定をできることが確認されており、更に他の組成のはんだにもこのような機械的特性の推定方法は適用可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の実施例1を説明するための工程図
【図2】この発明によるはんだ接合部の寿命評価方法の実施例2を説明するための工程図
【図3】引張試験用サンプルのβ-Sn相内での硬さと引張試験用サンプルの引張強さの相関関係を示す相関図
【図4】図3の相関図をつくるための引張試験用サンプルの時効温度に対する引張強さのデータを示す実測図
【図5】図3の相関図をつくるための引張試験用サンプルの時効温度に対するβ-Sn相内での硬さのデータを示す実測図
【図6】硬さの測定における荷重保持時間と算出硬さとの関係を示す線図
【図7】引張試験用サンプル作製用鋳込み治具の形状を示す正面図
【図8】引張試験用サンプルの形状を示す平面図
【図9】引張試験用サンプルの組織形態の一例を示す顕微鏡写真(倍率は50倍)
【符号の説明】
【0031】
1 初晶領域(β-Sn相)
2 共晶領域(β-Sn―Ag3Sn相)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、
前記機械的特性を取得する方法として、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部のはんだの前記成分相内での硬さを測定する硬さ測定工程と、
硬さ測定工程で得られた硬さの測定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している
ことを特徴とするはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項2】
電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、
前記機械的特性を取得する方法として、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等と想定される複数の冷却条件のそれぞれで硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、硬さ・組織形態取得サンプル毎に前記成分相内での硬さを測定し且つ組織形態のデータを取得し、測定結果および取得データに基づいて硬さと組織形態との相関関係を求める硬さ・組織形態間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握する組織形態把握工程と、
組織形態把握工程で得られたはんだの組織形態を硬さ・組織形態間相関関係取得工程による相関関係に当てはめて、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを求める硬さ推定工程と、
硬さ推定工程で得られた硬さの推定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している
ことを特徴とするはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項3】
前記組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載のはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項4】
前記硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項1】
電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、
前記機械的特性を取得する方法として、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部のはんだの前記成分相内での硬さを測定する硬さ測定工程と、
硬さ測定工程で得られた硬さの測定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している
ことを特徴とするはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項2】
電子機器のはんだ接合部のはんだの機械的特性をシミュレーションに適用することによって、はんだ接合部の熱疲労寿命を推定するはんだ接合部の寿命評価方法であって、
前記機械的特性を取得する方法として、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、均一な組織形態を得ることができる冷却条件および時効条件の組み合わせ条件の幾つかで引張試験用サンプルを作製し、引張試験用サンプル毎の前記機械的特性および引張試験用サンプル毎の組織形態における所定の成分相内での硬さを複数の異なる温度で測定して、硬さの温度依存性および機械的特性の温度依存性を求め、両温度依存性からシミュレーションに必要な所定温度における硬さと機械的特性との相関関係を求める硬さ・機械的特性間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部に使用されるはんだと同じ組成のはんだを用いて、はんだ接合部の冷却条件と同等と想定される複数の冷却条件のそれぞれで硬さ・組織形態取得サンプルを作製し、硬さ・組織形態取得サンプル毎に前記成分相内での硬さを測定し且つ組織形態のデータを取得し、測定結果および取得データに基づいて硬さと組織形態との相関関係を求める硬さ・組織形態間相関関係取得工程と、
評価対象のはんだ接合部のはんだの組織形態を把握する組織形態把握工程と、
組織形態把握工程で得られたはんだの組織形態を硬さ・組織形態間相関関係取得工程による相関関係に当てはめて、評価対象のはんだ接合部のはんだの硬さを求める硬さ推定工程と、
硬さ推定工程で得られた硬さの推定値を前記の硬さの温度依存性および硬さと機械的特性との相関関係に当てはめて、シミュレーションに必要な機械的特性を求める機械的特性推定工程と、を有している
ことを特徴とするはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項3】
前記組織形態の状態を表す数量として、はんだ組織内のいずれかの成分相の平均粒径または面積比率を用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載のはんだ接合部の寿命評価方法。
【請求項4】
前記硬さの測定において荷重のかけ方を一定条件とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ接合部の寿命評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2007−248439(P2007−248439A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94460(P2006−94460)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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