説明

ばねユニット及びスライド機構

【課題】容易にばね定数の変更に対応しうるばねユニット及びスライド機構を提供する。
【解決手段】端部11c,12cと、中央部分に位置する折曲部11a,11bと、端部11c,12cと折曲部11a,11bとの間に位置する延出部11d,12dとをそれぞれ有するL字状に形成された複数の線ばね11,12と、この線ばね11,12の端部11c,12cに配設された取り付け部材15とを有するばねユニットであって、複数の線ばね11,12を並設すると共に、延出部11b,12bに線ばね11,12の並設方向に変形させた変位部11d,12dを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はばねユニット及びスライド機構に係り、特に線ばねを用いたばねユニット及びスライド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器の一種として操作キー等が配設された固定筐体に対して液晶表示装置等が配設された移動筐体をスライド可能な構成とした携帯電話機やゲーム装置が提供されている。この種の電子機器には、固定筐体に対する移動筐体のスライド動作を可能とするためにスライド機構が内設されている。
【0003】
この電子機器に適用されるスライド機構は、内部にばねユニットが組み込まれている。このスライド機構は、操作者が固定筐体に対して移動筐体を所定位置まで移動させるまでは閉め方向に移動付勢し、また所定位置以上に移動させた後は移動筐体を開方向に付勢される構成とされている。これにより、電子機器の操作性の向上を図ることができる。
【0004】
また、ばねユニットには各種構造のばねが用いられるが、その一つとして複数の線ばねを組み込んだ構成のばねユニットが知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたばねユニットでは、複数(3本)の線ばねの端部を連結部材を用いた電子機器の筐体に連結する構成とされていた。このように、ばねユニットに線ばねを用いることにより薄型化を図ることができる。
【0005】
ところで、上記のようにスライド機構は携帯電話機やゲーム装置に搭載されて移動筐体を固定筐体に対してスライドさせる機能を奏するが、このスライドさせる際に使用者に与える感覚(以下、操作感という)は携帯電話機及びゲーム装置の使用性に大きく影響を及ぼす。このため、機器及び装置のバリエーションに応じて、ばねユニットを構成する線ばねのばね特性を変更し、これにより操作感に変更を行う(いわゆる、味付けを行う)ことが実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−133495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ばねユニットのばね特性を変更しようとした場合、従来ではばねユニットを最初から設計し直すことが行われていた。しかしながら、機器及び装置のバリエーションに応じたばねユニットの変更の場合、ばねユニットの全体的な大きさや形状が変化することは少なく、またばね特性の変化量も少ない場合がほとんどである。
【0008】
従来では、このような場合においてもばねユニットを最初から設計し直していたため、電子機器のバリエーションに対応して早期にばねユニットの変更を行うことが困難であるという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ばね定数の変更に即座に対応しうるばねユニット及びスライド機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、第1の観点からは、
線材をL字状に形成されており、前記線材の中央部分に折曲形成された折曲部と、該折曲部から延出した延出部と、該延出部の先端部に設けられた端部とを有する複数の線ばねと、
前記端部に配設された取り付け部材とを有するばねユニットであって、
前記複数の線ばねを並設すると共に、前記延出部に前記線ばねの並設方向に変形させた変位部を形成したことを特徴とするばねユニット。
により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
変位部を形成することにより線ばねのばね定数が変化する。このため、変位部の異なる各種線ばねを用意しておき、これを適宜選定することにより、所望のばね特性を有するばねユニットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるばねユニットの平面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態であるばねユニットの分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態であるスライド機構の構成及び動作を説明するための図であり、(A)は閉じ位置、(B)は中間位置、図(C)は開き位置を示す平面図である。
【図4】図4は、変位部の変位量が小である場合のばねユニットの動作を示す図であり(A)は自由位置、(B)は閉じ位置及び開き位置、(C)は中間位置を示す平面図である。
【図5】図5は、変位部の変位量が中である場合のばねユニットの動作を示す図であり(A)は自由位置、(B)は閉じ位置及び開き位置、(C)は中間位置を示す平面図である。
【図6】図6は、変位部の変位量が大である場合のばねユニットの動作を示す図であり(A)は自由位置、(B)は閉じ位置及び開き位置、(C)は中間位置を示す平面図である。
【図7】図7は、ばねユニットの動作に伴うばね力の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の一実施形態であるばねユニット10を説明するための図である。図1はばねユニット10の平面図、図2はばねユニット10の分解斜視図である。
【0015】
ばねユニット10は、複数の線ばね11,12と一対の取り付け部材15とを有した構成とされている。本実施形態に係るばねユニット10は2本の線ばね11,12を用いているが、線ばねの配設数はこれに限定されるものではなく、これが適用されるスライド機構の構成等により適宜選定されるものである。このばねユニット10は、例えば携帯電話機やゲーム装置等の電子機器に搭載されるスライド機構20(図3参照)に、アクチュエータとして適用されるものである。
【0016】
線ばね11,12は、ばね鋼等のばね材料よりなる。線ばね11,12の断面形状は、本実施形態では矩形状とした例を示している。しかしながら、線ばね11,12の断面形状はこれに限定されるものではなく、円形,樽型形状,楕円形状等の他の断面形状とすることも可能である。
【0017】
この線ばね11,12は、それぞれ折曲されて略L字状に形成されている。具体的には線ばね11,12は、略中央位置に位置する折曲部11a,12aと、この折曲部11a,12aを中心として両側に延出する延出部11b,12bと、この延出部11b,12bの先端部分に形成された端部11c,12cと、延出部11b,12bに形成された変位部11d,12dとを有した構成とされている。
【0018】
この複数の線ばね11,12は、同一面上に位置するように並設される。ここで“同一面”とは、後述する取り付け部材15の中心軸(図1において紙面に対して垂直方向、図2において矢印Zで示す一点鎖線)に直行する面であり、かつ取り付け部材15の中心位置を結ぶ線分(図1及び図2に矢印Aで示す一点鎖線)を含む面をいうものとする。換言すると、“同一面”とは直行するX軸,Y軸,Z軸を設定した場合、X−Y平面で、かつ、前記した線分Aを含む面とも定義される。
【0019】
線ばね11,12を構成する折曲部11a,12aの角度は、鋭角、直角、或いは鈍角のいずれの角度に設定することも可能である。また、各線ばね11,12毎に折曲部11a,12aの角度を異ならせる構成としてもよい。本実施形態では、線ばね11,12の折曲部11a,12aの角度を略等しく設定している。
【0020】
延出部11b,12bは、折曲部11a,12aから図中左右両側に延出するよう形成されている。この折曲部11a,12aから左右に延出する延出部11b,12bの一方には、変位部11d,12dが形成されている。なお、変位部11d,12dの詳細については、後述するものとする。
【0021】
端部11c,12cは、延出部11b,12bの先端部に形成されている。端部11c,12cは、図2に示すように、それぞれ略円形状に折り曲げ形成された構成とされている。この各端部11c,12cの直径は、端部12cに対して端部11cの方が大きく設定されている。そして、各線ばね11,12を組み合わせた状態で、図2に示すように端部11cの内部に端部12cが位置し、かつ各端部11c,12cは密着するよう構成されている。
【0022】
よって、端部11c,12cを含め、ばねユニット10の厚さ(Z1,X2方向の高さ)は、1本のばね材の厚さとなる。このため、本実施形態に係るばねユニット10によれば、端部11c,12cの薄型化を図ることができる。
【0023】
取り付け部材15は、この端部11c,12cに配設される。この取り付け部材15は、リング部材16,ピン17,及びワッシャ18とにより構成されている。
【0024】
リング部材16は樹脂成型品であり、フランジ部16aとボス部16bとが一体的に形成され、その中央に孔16cが形成された構成とされている。フランジ部16aは円盤形状を有しており、その直径は前記した端部11cの直径と同一或いはそれよりも若干大きく設定されている。
【0025】
ボス部16bは円柱形状を有しており、フランジ部16aの中央位置に立設されている。このボス部16bの高さは、前記した線ばね11,12の厚さ(Z1,Z2方向の高さ)と等しいか、それよりも若干大きく設定されている。更に、ボス部16bの外径は、前記した端部12cの内径と同一か、それよりも若干小さく設定されている。孔16cは、リング部材16の中心位置をフランジ部16a及びボス部16bをZ1,Z2方向に貫通して形成されている。この孔16cには、ピン17が嵌入される。
【0026】
ピン17は、ばねユニット10を後述するスライド機構20に取り付けるために使用されるものである。このピン17は、装着部17aと固定部17bを一体的に形成した構成とされている。
【0027】
装着部17aは、前記したリング部材16に形成された孔16cに挿入される。また、固定部17bはばねユニット10をスライド機構20に取り付ける際、スライド機構20を構成するベースプレート21又はスライドプレート22に固定される(図3参照)。
なお、ピン17の材質は特に限定されるものではなく、金属製のピンを用いても、また樹脂或いはセラミック等の材質のピンを用いてもよい。
【0028】
ワッシャ18は、樹脂成形されたリング状の部材である。このワッシャ18に形成された孔18aの直径は、リング部材16のボス部16bに嵌入する大きさに設定されている。よって、リング部材16のボス部16bを端部11c,12cに挿通し、この端部11c,12cから突出したボス部16bにワッシャ18を取り付けることにより、取り付け部材15は端部11c,12cに取り付けられる。この状態において、前記のようにピン17をリング部材16に装着することにより、各線ばね11,12と取り付け部材15とが一体的したばねユニット10が形成される。
【0029】
線ばね11,12をスライド機構20に取り付ける方法として、取り付け部材15を用いることなく、円形に折り曲げ形成された端部11c,12cにピン17を直接挿入してスライド機構20に固定することも考えられる。
【0030】
しかしながら、端部11c,12cは折り曲げ形成されるため、円形状とされた端部11c,12cの内径の大きさにバラツキが発生しやすい。このため、リング部材16を用いない構成では、ピン17と端部11c,12cとの間に摩擦やこじりが発生し、スライド機構20の円滑な動作が阻害される可能性がある。
【0031】
これに対し、本実施形態では端部11c,12cに取り付け部材15を装着し、この取り付け部材15をスライド機構20に固定する構成である。取り付け部材15を構成するリング部材16は樹脂製であり、端部11c,12cに形成された孔にボス部16bが嵌入される構成とされている。このため、端部11c,12cの内径にバラツキが存在しても、ボス部16bが変形することによりバラツキはリング部材16に吸収される。
【0032】
よって、端部11c,12cにリング部材16を設けることにより、ピン17と端部11c,12cとの間に摩擦やこじりが発生することを防止でき、スライド機構20の円滑な動作を確保することができる。
【0033】
次に、変位部11d,12dについて説明する。
【0034】
変位部11d,12dは、延出部11b,12bに形成されている。具体的には、変位部11dはばね11の図中左側の延出部11bに形成されており、延出部11bから外側に向け変形させた(突出させた)構成とされている。また変位部12dはばね12の図中左側の延出部12bに形成されており、延出部12bから外側に向け変形させた(突出させた)構成とされている。
【0035】
このように、変位部11d,12dは異なった構成とされている。しかしながら、変位部11d,12dの変形された方向(突出方向)は、前記した線ばね11,12の並設方向と同じ方向となるよう設定されている。従って、折曲部11a,12bを設けても、線ばね11,12は前記した“同一面”上に位置し、よって線ばね11,12の薄型化は保持さる。
【0036】
ところで、線ばね11,12のばね特性は、その長さを変更させることにより調整することが可能である。しかしながら、線ばね11,12を構成する折曲部11a,12a、延出部11b,12b、及び端部11c,12c(以下、これらの構成を基本構成という)は、ばねユニット10を配設するスライド機構20によりその寸法,形状が規制される。このため基本構成の寸法,形状を変更することにより線ばね11,12の長さを変更させることは困難である。
【0037】
これに対して変位部11d,12dは、延出部11b12bに形成されるものであり、基本構成に比べて変更を行う自由度が高い。そこで本実施形態に係るばねユニット10は、変位部11d,12dの形状を変更することにより、所望のばね特性を実現している。なお、変位部11d,12dの形状を変更することによるばね特性に調整については、説明の便宜上、後述するものとする。
【0038】
次に、図3を用いて、ばねユニット10を組み込んだスライド機構20について説明する。
【0039】
スライド機構20は、大略するとベースプレート21、スライドプレート22、及びばねユニット10等を有した構成とされている。また、図3(A)はベースプレート21に対してスライドプレート22がA2方向に移動した位置(閉じ位置という)にある状態を示しており、図3(B)はスライドプレート22が移動範囲の中間位置にある状態を示しており、また図3(C)はベースプレート21に対してスライドプレート22がA1方向に移動した位置(開き位置という)にある状態を示している。
【0040】
なお、以下の説明では固定筐体に対して移動筐体がスライドする構成の携帯電話機にスライド機構20を適用した例について説明するものとする。また、各図に示す例では、スライド機構20に1個のばねユニット10を組み込んだ構成例を示しているが、スライド機構20に複数のばねユニット10を設ける構成とすることも可能である。
【0041】
ベースプレート21は、携帯電話の各種キー等が配設された固定筐体に固定されるものである。スライドプレート22は、液晶表示装置等が配設される移動筐体に固定されるものである。
【0042】
ベースプレート21は、その両側にガイド部材26が設けられている。このガイド部材26は、図中矢印A1,A2方向に延在するよう形成されている。またスライドプレート22の両側長手方向に延在する側縁部25は、このガイド部材26にスライド可能に係合した構成とされている。これにより、スライドプレート22はベースプレート21に対してA1,A2方向にスライド可能な構成とされている。
【0043】
ばねユニット10は、一方の取り付け部材15がピン17がスライドプレート22に回転可能に取り付けられると共に、他方の取り付け部材15のピン17がベースプレート21に回転可能に取り付けられている。これにより、ばねユニット10の弾性力は、ベースプレート21とスライドプレート22との間に作用する。
【0044】
次に、スライド機構20の動作を説明する。なお、以下の説明では、スライド機構20のスライドプレート22が閉じ位置から開き位置まで移動する動作について説明するものとし、開き位置から閉じ位置までの動作は、閉じ位置から開き位置への動作の反対動作となるためその説明は省略する。
【0045】
図3(A)は、閉じ位置であるスライド機構20を示している。閉じ位置では、スライドプレート22はベースプレート21に対してA2方向にスライドしている。この閉じ位置では、ばねユニット10はスライドプレート22をベースプレート21に対してA2方向に移動付勢するよう弾性力を作用させている。
【0046】
上記の閉じ位置より、操作者がスライドプレート22を矢印A1方向に向け移動操作すると、各ピン17の距離は漸次近接するため、ばねユニット10を構成する一対の取り付け部材15も漸次近接する。これにより、略L字形状を有する各線ばね11,12は、折曲部11a,12aの角度が小さくなるよう弾性変形し、これにより弾性力を蓄成する。またこれに伴い、延出部11b,12bに形成された変位部11d,12dも変形を行い、弾性力を蓄成する。
【0047】
図3(B)は、中間位置までスライドプレート22がスライドした状態(中間状態という)を示している。この中間状態では、ばねユニット10に内設された線ばね11,12は最も収縮された状態(両端部11c,12cが近接した状態)となっている。
【0048】
ところで、スライドプレート22が閉じ位置からこの中間位置に至るまでの間は、スライドプレート22に固定されたピン17(図3に17aで示す)の位置は、ベースプレート21に固定されたピン17(図3に17bで示す)よりもA2方向側にあるため、ばねユニット10が発生する弾性力はベースプレート21に対してスライドプレート22をA2方向に移動させるよう作用する。よって、スライドプレート22のA1方向への移動操作を中間位置に至る前に停止すると、スライドプレート22はばねユニット10の発生する弾性力により再び閉じ位置に戻る。
【0049】
これに対し、中間位置よりも更にスライドプレート22をA1方向にスライドさせると、スライドプレート22に対するばねユニット10による弾性力の付勢方向は反転する。即ち、スライドプレート22が中間状態から開き位置に向け移動すると、ピン17aの位置はピン17bの位置よりもA1方向側に位置することになる。よって、ばねユニット10の弾性力は、ベースプレート21に対してスライドプレート22を開き位置に向け移動させるよう作用する。
【0050】
よって、中間状態よりもスライドプレート22をA1方向にスライドさせると、その後は操作を解除してもスライドプレート22はばねユニット10の発生する弾性力により自動的に開き位置(図3(C)に示す位置)までスライドする。よって、ばねユニット10は、いわゆるセミオートのスライド機構として機能する。なお、スライドプレート22を開き位置から閉じ位置に戻す動作は、上記の逆の動作になるため、その説明は省略するものとする。
【0051】
次に、図4乃至図7を参照し、変位部11d,12dの形状を変更することによりばねユニット10のばね特性を変更する具体的方法について説明する。図4乃至図6において、(A)で示す図はスライド機構20に装着されてない状態(自由位置という)のばねユニット10であり、(B)で示す図はスライド機構20に装着すると共に閉じ位置又は開き位置に位置した状態のばねユニット10であり、(C)で示す図はスライド機構に装着すると共に中間位置に位置した状態のばねユニット10である。
【0052】
図4は、変位部11d,12dの突出量が図5及び図6に示すばねユニット10M.10Lよりも小さいばねユニット10Sを示している。また、ばねユニット10Sにおいて、線ばね11の変位部11(特に、小変位部11dSという)の突出量をΔ11Sとすると共に、線ばね12の変位部12(特に、小変位部12dSという)の突出量をΔ12Sとする。
【0053】
図5は、変位部11d,12dの突出量が図4と図6に示すばねユニット10S,10Lの中間であるばねユニット10Mを示している。また、ばねユニット10Mにおいて、線ばね11の変位部11(特に、小変位部11dMという)の突出量をΔ11Mとすると共に、線ばね12の変位部12(特に、小変位部12dMという)の突出量をΔ12Mとする。
【0054】
図6は、変位部11d,12dの突出量が図4及び図5に示すばねユニット10S,10Mよりも大きいばねユニット10Lを示している。また、ばねユニット10Lにおいて、線ばね11の変位部11(特に、小変位部11dLという)の突出量をΔ11Lとすると共に、線ばね12の変位部12(特に、小変位部12dLという)の突出量をΔ12Lとする。
【0055】
よって、ばねユニット10S,10M,10Lの小変位部11dS,11dM,11dLの突出量の関係は、Δ11S<Δ11M<Δ11L、Δ12S<Δ12M<Δ12Lとなる。これにより、各ばねユニット10S,10M,10Lの全長の長さは、最も長いものがばねユニット10Lとなり、次にばねユニット10M,その次にばねユニット10Sの順で短くなる。
【0056】
但し、図4乃至図6において、各線ばね11,12の材質及び断面形状は同一とされている。また、図4乃至図6において、自由位置におけるばねユニット10S,10M,10Lの一対の端部間の距離L(各図に矢印で示す)及び折曲部11a,11bの角度は等しく設定されている。なお、図4乃至図6では、取り付け部材15の図示は省略している。各図に示すように、自由位置においては、いずれのばねユニット10S,10M,10Lも線ばね11と線ばね12とは離間した状態となっている。
【0057】
これに対し、ばねユニット10S,10M,10Lがスライド機構20に取り付けられて閉じ位置及び開き位置の状態になると、各線ばね11,12の距離は小さくなる。更にばねユニット10S,10M,10Lが中間位置に至ると、変位部11d,12dの位置を除き、折曲部11a,12a及び延出部11b,12bは近接或いは接触した状態となる。
【0058】
図7は、ばねユニット10S,10M,10Lで発生するばね力を示す図である。同図において、横軸はばねユニット10S,10M,10Lのたわみ量を示し、縦軸はばね力を示している。なお横軸では、ばねユニット10S,10M,10Lが自由位置に位置しているとき、開き位置又は閉じ位置に位置しているとき、及び中間位置にしているときの3つの位置をプロットしている。
【0059】
同図に示すように、スライド機構20に装着されていない自由位置では、いずれのばねユニット10S,10M,10Lもたわみは発生しておらず、よってばね力も0(零)となっている。
【0060】
これに対し、図3(A),(C)に示すように、スライド機構20に装着された状態(この状態は、閉じ位置又は開き位置の状態と等価)では、ばねユニット10S,10M,10Lにはたわみが発生する。しかしながら、この時に発生するたわみ量は、図3(B)に示す中間状態においてばねユニット10S,10M,10Lに発生するたわみの量に比べて小さい値となる。
【0061】
図7に示されるように、閉じ位置又は開き位置においては、各ばねユニット10S,10M,10Lが発生するばね力は、ばねユニット10Sが発生するばね力FS1が最も小さく、ばねユニット10Mが発生するばね力FM1、ばねユニット10Lが発生するばね力FL1の順で大きくなっている(FS1<FM1<FL1)。
【0062】
各ばねユニット10S,10M,10Lが中間位置の状態となると、たわみ量は更に増大する。この時、各ばねユニット10S,10M,10Lが発生するばね力の大きさの順は閉じ位置又は開き位置の時と同じ(FS2<FM2<FL2)であるが、ばね力の大きさの差は大きくなる。
【0063】
このように、ばねユニット10を構成する線ばね11,12に変位部11d,12dを形成することにより、同じたわみ量の変化でも、各ばねユニット10S,10M,10Lに発生するばね力に差が生じる。これは、変位部11d,12d(11dS,12dS,11dM,12dM,11dL,12dL)の大きさや形状を異ならせることにより、線ばね11,12の長さ(全長)が各ばねユニット10S,10M,10Lで変化することによる。
【0064】
このように、本実施形態に係るばねユニット10は、線ばね11,12に変位部11d,12dを形成し、この変位部11d,12dの形状を適宜設定することにより、所望のばね特性を有したばねユニット10を容易に作製することができる。また、一対の取り付け部材15の間の距離Lを一定にしたままで、ばね特性の変更を行うことができる。
【0065】
よって、変位部の異なる各種線ばね10を用意(作製)しておき、スライド機構20に望まれるばね特性を有するばねユニット10を選定することにより、容易にばねユニット10のばね特性を変更することが可能となる。この効果は、特に携帯電話機のように機種変更が頻繁に行われる場合に有効である。
【0066】
また、線ばね11と線ばね12は近似した形状を有しているため、従来の変位部が存在しない構成では両者を区別するのが困難で、これがばねユニットの組み立て性を低下させる原因の一つとなっていた。しかしながら、本実施形態に係るばねユニット10は、線ばね11に形成される変位部11dと、線ばね12に形成される変位部12dが異なる構成であるため、この変位部11d,12dを識別マークとして線ばね11と線ばね12を識別することが可能となる。よって、本実施形態に係るばねユニット10によれば、組み立て性の向上を図ることもできる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0068】
具体的には、上記した実施形態では、変位部11d,12dを線ばね11,12の図中左側の延出部11b,12bにのみ形成した構成を示した。しかしながら変位部11d,12dの形成位置はこれに限定されるものではなく、線ばね11,12の図中右側の延出部11b,12bに形成しても、また左右双方に形成する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10,10S,10M,10L,30 ばねユニット
11,12 線ばね
11a,12a 折曲部
11b,12b 延出部
11c,12c 端部
11d,12d 変位部
11dS,12dS 小変位部
11dM,12dM 中変位部
11dL,12dL 大変位部
15,40 取り付け部材
16 リング部材
17 ピン
18 ワッシャ
20 スライド機構
21 ベースプレート
22 スライドプレート
25 側縁部
26 ガイド部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材をL字状に形成されており、前記線材の中央部分に折曲形成された折曲部と、該折曲部から延出した延出部と、該延出部の先端部に設けられた端部とを有する複数の線ばねを有するばねユニットであって、
前記複数の線ばねを並設すると共に、前記延出部に前記線ばねの並設方向に変形させた変位部を形成したことを特徴とするばねユニット。
【請求項2】
前記変位部を複数の前記線ばねに配設すると共に、該線ばねに形成された前記変位部の形状を異なる形状としたことを特徴とする請求項1に記載のばねユニット。
【請求項3】
前記変位部を前記折曲部を挟んでその両側に位置する一対の前記延出部の一方にのみ設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のばねユニット。
【請求項4】
前記端部を円形に成形すると共に、前記端部に取り付け部材を配設し、
前記取り付け部材を、前記端部に装着されると共に孔が形成されたリング部材と、該孔に挿通されるピン部材とを有する構成としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のばねユニット。
【請求項5】
前記リング部材の材料として樹脂を用いたことを特徴とする請求項4記載のばねユニット。
【請求項6】
ベースプレートと、
該ベースプレートにスライド可能に取り付けられたスライドプレートと、
前記ベースプレートと前記スライドプレートとの間に配設され、前記スライドプレートを前記ベースプレートに対してスライド方向に付勢する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のばねユニットとを有することを特徴とするスライド機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−19460(P2013−19460A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152778(P2011−152778)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000176833)三菱製鋼株式会社 (69)
【Fターム(参考)】