説明

ひずみ・変形の計測監視装置

【目的】光損失の小さい1550nm付近の帯域光を使用するBOTDRといわゆるCバンド帯域の波長分割多重化方式FBGとを組み合わせて測定することによって、最大10kmに及ぶ範囲のひずみ測定を高精度に行うことができる、ひずみ・変形の計測監視装置を提供する。
【構成】FBG光測定器とBOTDR光測定器と、両測定器の使用を切り替える光スイッチと、光スイッチを介して両測定器に接続された光ファイバと複数個のFBGセンサとにより構成された測定部とを備え、複数個のFBGセンサに略1550nm付近の波長光を検出するFBGセンサを使用してなり、光スイッチによりFBG光測定器とBOTDR光測定器とを切り替え、両測定器による測定が時間をずらして同一の前記測定部で行える、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建設構造物や土構造物の施工および維持管理のためのひずみ・変形の計測監視を行うひずみ・変形の計測監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設構造物や土構造物の施工および維持管理のためのひずみ・変形の計測監視を行うひずみ・変形の計測監視装置としては、主に以下の二つの装置が知られている。
その第1は、BOCDA(ブリルアン散乱光相関領域解析法)による光ファイバ分布型センシングシステムであり、光波コヒーレンス関数の合成法により7cmの空間分解能で、30(×10−6)未満のひずみを1000mまでの測定範囲で測定することができる装置となっている。
【0003】
また、従来技術の第2としては、FBGとBOTDRを組合せた光ファイバセンシング装置で、帯域1550nmのBOTDRと帯域1300nmのFBG計測器により、広域の静的ひずみと局所的な動的ひずみを測定する装置が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】保立和夫、痛みの分かる材料・構造のための光ファイバ神経網技術、計測と制御、第46巻第8号、pp.591-598、2007.8.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-272213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の装置は、第1の装置については、測定範囲が最大1000mであり、道路や鉄道など広域に分布する社会基盤施設のひずみを測定することが困難であるとの課題があった。また、第2の装置についても、光損失が1dB/kmと大きい帯域1300nm(帯域1550nmの場合は0.2dB/kmの光損失)を利用するため、いわゆるFBGセンサの測定範囲が2,3kmと狭くなり、広域に分布する測定鯛対象物のひずみを測定することが困難であるとの課題があった。
【0007】
かくして、本発明は、前記従来の課題を解決するために創案されたものであり、光損失の小さい1550nm付近の帯域光を使用するBOTDRといわゆるCバンド帯域(1520nm〜1570nm帯域)の波長分割多重化(以下WDMと記す)方式FBGとを組み合わせて測定することによって、あるいは、光損失の小さい1550nm付近の帯域光を使用するBOTDRと低反射率の時間分割多重化(以下TDMと記す)方式のFBGとを組合せて測定することによって、最大10kmに及ぶ範囲のひずみ測定を高精度に行うことができる、いわゆる光ファイバ計測システムを使用したひずみ・変形の計測監視装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
FBG光測定器とBOTDR光測定器と、両測定器の使用を切り替える光スイッチと、前記光スイッチを介して両測定器に接続された略10kmまでの長さの光ファイバと前記光ファイバ中に少なくとも2.5m以上間隔をあけて設けられた複数個のFBGセンサとにより構成された測定部と、
を備え、
前記FBG光測定器とBOTDR光測定器の光源には略1550nm付近の波長光を使用すると共に、前記複数個のFBGセンサに略1550nm付近の波長光を検出するFBGセンサを使用してなり、
前記光スイッチによりFBG光測定器とBOTDR光測定器とを切り替え、両測定器による測定が時間をずらして同一の前記測定部で行える、
ことを特徴とし、
または、
TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器と、両測定器の使用を切り替える光スイッチと、前記光スイッチを介して両測定器に接続された略10kmまでの長さの光ファイバと前記光ファイバ中に少なくとも2.5m以上間隔をあけて設けられた複数個のFBGセンサとにより構成された測定部と、
を備え、
前記TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器の光源には略1550nm付近の波長光を使用すると共に、前記複数個のFBGセンサに略1550nm付近の波長光を検出するFBGセンサを使用してなり、
前記光スイッチによりTDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器とを切り替え、両測定器による測定が時間をずらして同一の前記測定部で行える、
ことを特徴とし、
または、
前記TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器は、一つの光源を兼用してなる、
ことを特徴とし、
または、
前記両測定器には、チャンネル切り替え器を介して複数の前記測定部が接続され、測定すべき測定部を切り替えて複数測定部の測定が可能とされた、
ことを特徴とし、
または、
前記測定部は被測定物内に埋設されてなる、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
かくして、本発明によれば、
光損失の小さい1550nm付近の帯域光を使用するBOTDRといわゆるCバンド帯域(1520nm〜1570nm帯域)のWDM方式FBGとを組み合わせて測定することによって、あるいは、光損失の小さい1550nm付近の帯域光を使用するBOTDRと低反射率のTDM方式のFBGとを組合せて測定することによって、最大略10kmに及ぶ範囲のひずみ・変形の測定を高精度に行うことができるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるひずみ・変形の計測監視装置の構成を説明する概略説明図である。
【図2】本発明の他の実施例によるひずみ・変形の計測監視装置の構成を説明する概略説明図(その1)である。
【図3】本発明の他の実施例によるひずみ・変形の計測監視装置の構成を説明する概略説明図(その2)である。
【図4】本発明によるTDM方式FBG光測定とBOTDR光測定の特徴を表示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を図に示す実施例に従って説明する。
【実施例】
【0012】
まず、図1に本発明によるいわゆる光ファイバ計測システムを使用したひずみ・変形の計測監視装置の概略説明図を示す。
図1から理解されるように、本装置は、TDM方式FBG光測定器1とBOTDR光測定器2と、両測定器1、2の使用を切り替える光スイッチ3と、前記光スイッチ3を介して両測定器1、2に接続された略10kmまでの長さの光ファイバ5と前記光ファイバ5中に少なくとも2.5m以上間隔をあけて設けられた複数個のFBGセンサ6・・・とにより構成された測定部4とを備えて構成されている。
【0013】
また、両測定器1、2には制御用のPC7が接続されており、後述する各種の制御、すなわち両測定器1、2の測定切り替えや測定間隔の設定、変更あるいは測定データの保存等を行うものとされている。なお、この制御用PC7は一台ではなく複数台接続して使用してもかまわないものである。
ここで、測定部4を構成する1本の光ファイバ5には複数個のFBGセンサ6・・・が任意の間隔をあけて配置されている。この間隔は少なくとも2.5m以上あけておく必要がある。
【0014】
次に、TDM方式FBG光測定器1及びBOTDR光測定器2の光源8(図1において、光源8は両測定器内に内蔵されている)には略1550nm付近の波長光が使用される。そして、前記複数個のFBGセンサ6・・・についても略1550nm付近の波長光を最も良く検出するFBGセンサを使用するものとしている。
【0015】
略1550nm付近帯域の波長光は、いわゆるBOTDR光測定において光損失が最も小さいものであり、またTDM方式のFBG測定でも光損失が小さい帯域であることから長距離の測定が可能である上に、両者の測定精度が最も良好となるからである。
【0016】
すなわち、1本の光ファイバ5中にいわゆる低反射率のFBGセンサ6・・・につき所定間隔をおいて多点に配置することによって、BOTDR測定では+/-100(×10−6)の測定精度で光ファイバ全域のひずみ分布が測定出来るのである。
また、TDM方式FBG測定では、+/-5(×10−6)の測定精度で最大100箇所までの点もしくは区間ひずみを測定できるのである。
なお、前記TDM方式FBG測定に換えて、いわゆるCバンド帯域(1520nm〜1570nm帯域)のWDM方式FBG測定であっても構わないものである。
【0017】
次に、図2に本発明の他の実施例を示す。図2の実施例では略1550nm付近帯域の波長光を発する光源8を両測定器1、2が兼用した装置であり、これによりコストの軽減が図られるものとなる。
さらに図3に他の実施例を示すが、この実施例では、両測定器1、2にチャンネル切り替え器9を接続し、該チャンネル切り替え器9に複数個の測定部4・・・を接続させたものである。
【0018】
前記のチャンネル切り替え器9により測定すべき測定部4を選択すれば、複数方向での歪み・変形の計測監視が行えるものとなる。
【0019】
次に、本装置による測定方法につき説明する。
本発明の装置により構成された測定部4を例えばトンネルや橋梁の軸方向へ取り付ける。当該取り付けの方法については何ら限定されず、トンネルや橋梁の軸方向へ向けて添設状態にして取り付けてもかまわないし、内部へ埋設してもかまわないものである。光ファイバ5やFBGセンサ6は腐 食するものではなく、長期間コンクリート内に埋設された状態でも破損することはない。
【0020】
測定部4の配置が完了すると、該測定部4が取り付けられた被測定物における歪み・変形の計測、監視が行われる。
すなわち、制御PC7により、光スイッチ3を操作し、例えば先にBODTR光測定器1を起動し、BODTR光測定を行う。かかる測定時間は約3分乃至5分間行われる。
【0021】
次いで、その後、光スイッチ3を切り替え、TDM方式FBG光測定器2を起動して、TDM方式FBG光測定を行う。該測定時間は数秒で行える。
【0022】
これにより図4に示すような測定が出来るものとなる。
すなわち、BODTR光測定では、測定部4の全長にわたって、例えば1mごとにどこの1m区間内で歪み・変形が生じているか否かが測定でき、TDM方式FBG光測定では、いずれかのFBGセンサ6の局所的な狭い領域で歪み・変形が生じているかが測定できるのである。しかもその測定精度はBODTR光測定で+/-100(×10−6)の測定精度であり、TDM方式FBG光測定では、+/-5(×10−6)の良好な測定精度が得られる。
【0023】
従って、図4に示すような両測定器1、2の長所をあわせれば、1本の光ファイバにより+/-100(×10−6)の測定精度のひずみ分布と+/-5(×10−6)の高い測定精度で局所的なひずみ値が多数の測点で得られるのである。
よって、例えば、トンネルや橋梁などの軸方向に沿ったひずみ分布を、最も良い条件では、測定精度+/-5(×10−6)相当の(BOTDRの1/20の高精度)高精度で測定できる光ファイバセンシング技術が実現できる可能性があるのである。
【0024】
従って、交通施設やライフラインなどの広域に分布する社会基盤施設で発生しているひずみや変形を広域に、しかも精度良く測定できるセンシング技術を提供することが可能となり、上記の社会的インフラ、社会基盤施設などの健全性を正確に遠隔監視することもできるのである。
【符号の説明】
【0025】
1 TDM方式FBG光測定器
2 BOTDR光測定器
3 光スイッチ
4 測定部
5 光ファイバ
6 FBGセンサ
7 PC
8 光源
9 チャンネル切り替え器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FBG光測定器とBOTDR光測定器と、両測定器の使用を切り替える光スイッチと、前記光スイッチを介して両測定器に接続された略10kmまでの長さの光ファイバと前記光ファイバ中に少なくとも2.5m以上間隔をあけて設けられた複数個のFBGセンサとにより構成された測定部と、
を備え、
前記FBG光測定器とBOTDR光測定器の光源には略1550nm付近の波長光を使用すると共に、前記複数個のFBGセンサに略1550nm付近の波長光を検出するFBGセンサを使用してなり、
前記光スイッチによりFBG光測定器とBOTDR光測定器とを切り替え、両測定器による測定が時間をずらして同一の前記測定部で行える、
ことを特徴とするひずみ・変形の計測監視装置。
【請求項2】
TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器と、両測定器の使用を切り替える光スイッチと、前記光スイッチを介して両測定器に接続された略10kmまでの長さの光ファイバと前記光ファイバ中に少なくとも2.5m以上間隔をあけて設けられた複数個のFBGセンサとにより構成された測定部と、
を備え、
前記TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器の光源には略1550nm付近の波長光を使用すると共に、前記複数個のFBGセンサに略1550nm付近の波長光を検出するFBGセンサを使用してなり、
前記光スイッチによりTDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器とを切り替え、両測定器による測定が時間をずらして同一の前記測定部で行える、
ことを特徴とするひずみ・変形の計測監視装置。
【請求項3】
前記TDM方式FBG光測定器とBOTDR光測定器は、一つの光源を兼用してなる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のひずみ・変形の計測監視装置。
【請求項4】
前記両測定器には、チャンネル切り替え器を介して複数の前記測定部が接続され、測定すべき測定部を切り替えて複数測定部の測定が可能とされた、
ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のひずみ・変形の計測監視装置。
【請求項5】
前記測定部は被測定物内に埋設されてなる、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載のひずみ・変形の計測監視装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−43379(P2011−43379A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190932(P2009−190932)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】