説明

ふっ素樹脂成形体及びその製造方法

【課題】 従来と同量の導電性添加剤でもより優れた導電性が得られ、更には、従来よりも導電性添加剤の配合量を大幅に減じても充分な導電性を確保し、導電性添加剤の脱離やアウトガスによる外部汚染を抑え、低コスト化を図る。
【解決手段】 ふっ素樹脂粉末及び導電性添加剤を含む混合粉体を成形焼成してなるふっ素樹脂成形体であって、前記ふっ素樹脂粉末が、粒子径100μm以上の大径粉体を全ふっ素樹脂粉末の5〜100質量%、残部が粒子径100μm未満の小径粉体で構成されていることを特徴とするふっ素樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふっ素樹脂粉末と導電性添加剤とを含む混合粉末を成形焼成しなるふっ素樹脂成形体に関する。また、本発明は、前記ふっ素樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのふっ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性などに優れており、半導体製造装置用のチューブや薬液槽などに使用されている。しかし、ふっ素樹脂は電気絶縁性であり、容易に帯電するので静電気を嫌う用途にはそのまま使用することが出来ない。また、帯電により雰囲気中のゴミを吸着するという問題もある。
【0003】
ふっ素樹脂の帯電を防止する方法としては、カーボンナノチューブやカーボンファイバー、カーボンブラック、グラファイトなどの導電性添加剤である炭素フィラーを添加して、導電性を付与する方法が知られている。例えば、カーボンブラックとふっ素樹脂粉末とを含む混合粉体を溶融混合して成形し、ふっ素樹脂中にカーボンブラックが均一に分散されたふっ素樹脂成形体及びその製造方法(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-82187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなふっ素樹脂成形体では、導電性添加剤の添加量が多いほど導電性も高まる。しかし、導電性添加剤の添加量が多いほど、導電性添加剤が成形体から脱離する可能性が高まり、外部を汚染しやすくなる。また、導電性添加剤はアウトガスを発生するため、添加量が多いほどアウトガスの発生量も多くなり、汚染度合いが大きくなる。半導体製造分野などではクリーン性が強く要求されているため、このような理由から導電性添加剤の添加量は低い方が望ましく、一方では必要な導電性を付与しなければならない。
【0006】
また、導電性添加剤の中でもカーボンナノチューブはアウトガスの発生が少なく、更に繊維状であるため樹脂からの脱落を起こし難いことから、半導体製造分野では有望な素材として期待されている。しかし、カーボンナノチューブは非常に高価であるため、コスト低減にはその添加量を減らすことが必須であるが、上記のように導電性の付与との兼ね合いもあり、添加量の低減には限度がある。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ふっ素樹脂と導電性添加剤とを混合した後、成形して得られるふっ素樹脂成形体において、従来と同量の導電性添加剤でもより優れた導電性が得られ、更には、従来よりも導電性添加剤の配合量を大幅に減じても充分な導電性を確保し、導電性添加剤の脱離やアウトガスによる外部汚染を抑え、低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のふっ素樹脂粉末と導電性添加剤とを混合した後、成形して得られるふっ素樹脂成形体では、粒径5〜50μmのふっ素樹脂粉末が使用されており、上記特許文献1にも、平均粒径10μm以下のふっ素樹脂粉末を使用することが記載されている。前記粒径5〜50μmのふっ素樹脂粉末を用い、導電性添加剤を添加して得られるふっ素樹脂成形体に比べて、粒径100μm以上の大径のふっ素樹脂粉末を用い、同量の導電性添加剤を添加して得られるふっ素樹脂成形体の方が、その表面電気抵抗率が低く導電性に優れることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0009】
即ち、本発明は、上記目的を達成するために下記に示すふっ素樹脂成形体及びその製造方法を提供する。
(1)ふっ素樹脂粉末及び導電性添加剤を含む混合粉体を成形焼成してなるふっ素樹脂成形体であって、
前記ふっ素樹脂粉末が、粒子径100μm以上の大径粉体を全ふっ素樹脂粉末の5〜100質量%、残部が粒子径100μm未満の小径粉体で構成されていることを特徴とするふっ素樹脂成形体。
(2)前記大径粉体が、粒子径100〜1000μmであることを特徴とする上記(1)記載のふっ素樹脂成形体。
(3)前記導電性添加剤が、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びカーボンファイバーの少なくとも1種からなる炭素フィラーであることを特徴とする上記(1)または(2)記載のふっ素樹脂成形体。
(4)前記ふっ素樹脂粉末が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシビニルエーテルを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1種からなる粉末であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体。
(5)前記炭素フィラーを0.1〜5.0質量%の割合で含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体。
(6)A)ふっ素樹脂からなる粒子径100μm以上の大径粉体が5〜100質量%で、残部がふっ素樹脂からなる粒子径100μm未満の小径粉体であるふっ素樹脂混合粉末と、導電性添加剤とを混合して混合物を得る工程と、
B)前記混合物を圧縮して予備成形体を作製する工程と、
C)前記予備成形体を焼成する工程と、
を有することを特徴とするふっ素樹脂成形体の製造方法。
(7)前記大径粉体が、粒子径100〜1000μmであることを特徴とする上記(6)記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。
(8)前記導電性添加剤が、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック及びグラファイトの少なくとも1種からなる炭素フィラーであることを特徴とする上記(6)または(7)記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。
(9)前記圧縮条件が10〜70MPaであり、かつ前記焼成温度が300〜450℃であることを特徴とする上記(6)〜(8)の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。
【0010】
本発明のふっ素樹脂成形体では、粒子径100μm以上の大径粉末を5〜100質量%含むふっ素樹脂粉末を用いることにより、大径粉末同士の接合界面に導電性添加剤が多く存在するようになり、その結果導電性添加剤同士の接触によるネットワーク(導電パス)が形成され易くなる。そのため、同じ導電性添加剤量で比較すると従来のふっ素樹脂成形体よりも優れた導電性が得られ、更には、導電性添加剤の配合量を0.1〜5.0質量%程度と従来に比べて大幅に減量しても、従来と同等以上の導電性が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少量の導電性添加剤でも十分な導電性を持つふっ素樹脂成形体を得ることが可能である。従って、低コストを図ることができ、更には導電性添加剤の成形体からの脱落も減少して外部汚染を抑えることができる。そのため、半導体製造関連・原子力関連・医療関連用の素材として特に好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0013】
本発明のふっ素樹脂成形体は、ふっ素樹脂粉末と導電性添加剤とを混合してなる混合粉体を所定形状に成形し、焼成したものであるが、ふっ素樹脂粉末として粒子径100μm以上の大径粉末を全ふっ素樹脂粉末の5〜100質量%、残部を粒子径100μm未満の小径粉末とする混合粉体を用いる。
【0014】
但し、過大な大径粉末を用いると、成形後の外観に問題が生じる可能性があるので、大径粉末の粒子径は100〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。また、この大径粉末が全ふっ素樹脂粉末中に60〜100質量%含まれる場合に導電性の付与効果が著しい。この大径粉末の含有率は、通常用いられる篩などによって分離する方法によって測定するものとする。
【0015】
ふっ素樹脂の種類には制限が無いが、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシビニルエーテルを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレン等が好適である。
【0016】
導電性添加剤は特に制限されるものではないが、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンファイバーが好ましく、導電性や取扱い性、コスト等を考慮して適宜選択する。その他にも、グラファイトを用いることができる。また、これらを混合して使用してもよい。中でも、カーボンナノチューブは導電性に優れ、成形体としたときの脱落を起こし難く、更にはアウトガスの発生が少ないことから、クリーン性が要求される用途に特に好適である。なお、カーボンナノチューブは、例えば、図1に示すTEM写真に見られるように、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
なお、これらのカーボンナノチューブの製法としては、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解することにより生成する方法を採用する。より具体的には、触媒の遷移金属もしくは遷移金属化合物と、硫黄もしくは硫黄化合物と、原料炭化水素とを雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に導入し、800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱して触媒金属を微粒子化させるとともに炭化水素を分解させることにより微細炭素繊維を合成生成させる。こうして生成した炭素繊維は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでおり、純度が低く、また結晶性も低い。そこで、800〜900℃の範囲の温度に保持された熱処理炉にて未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、かつその後に2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理することによって炭素繊維の多層構造の形成を改善するとともに繊維に含まれる触媒金属を蒸発させることが好ましい。
【0017】
ここで用いられるカーボンナノチューブは、直径1nm〜500nm、長さ5nm〜1mmの円筒状炭素繊維である。また、カーボンファイバーは、直径5μm〜20μm、長さ100μm〜100mmの円筒状炭素繊維である。また、カーボンブラックは、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどである。また、グラファイトは、粉砕された天然黒鉛などである。
【0018】
導電性添加剤の配合量は、成形体全量の0.1〜5.0質量%である。導電性添加剤の添加量が0.1質量%を下回ると導電パスが充分に形成されず、実用的な導電性が付与できない。また、5.0質量%を超えて導電性添加剤を添加しても増分に見合う導電性の向上が見られず不経済になるとともに、成形性に劣るようになる。本発明では、このように導電性添加剤の添加量が従来に比べて格段に少なく、低コストを実現でき、特に高価なカーボンナノチューブを用いたときにその効果は顕著となる。それと同時に、導電性添加剤の脱離やアウトガスも少なくなり、外部汚染を抑えることもできる。
【0019】
次に、本発明のふっ素樹脂成形体の製造方法について説明する。
【0020】
先ず、上記のふっ素樹脂からなる大径粉末と小径粉末とを所定の混合比で含有するふっ素樹脂混合粉末と、導電性添加剤とを混練機、例えば三井三池化工機社製「ヘンシェルミキサー」に投入し、十分に混合して混合物を得る。次いで、所望の金型に混合物を充填してプレスにより圧縮して予備成形体を作製する。このとき、予備成形体の圧縮条件としては10〜70MPaが好ましく、30〜50MPaがより好ましい。そして、得られた予備成形体を300〜450℃、好ましくは340℃以上で焼成することで、本発明のふっ素樹脂成形体が得られる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより制限されることはない。
【0022】
(実施例1〜8、比較例1〜7)
表1に示す如く、ふっ素樹脂粉末及び導電性添加剤とをヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製)に投入し、回転数980rpm、10分間混合して混合物を得た。次いで、混合物を円筒状の金型に充填し、圧力50MPaで5分間圧縮して予備成形体を得た。そして、予備成形体を室温から365℃まで50℃/分で昇温し、365℃で4時間保持した後、50℃/分で室温まで冷却し、試験片を得た。
【0023】
そして、各試験片の表面電気抵抗率を、1×107Ω/□未満の場合はロレスタ・AP、1×107Ω/□以上の場合にはハイレスタ−HPを使用して測定した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1〜3より、大径のふっ素樹脂粉末を用いることにより、同量の導電性添加剤で導電性が高まることが確認された。また、実施例4〜6でも同様に、大径のふっ素樹脂粉末を用いることにより高導電性になることが確認された。
【0026】
また、実施例7より、大径のふっ素樹脂粉末と小径のふっ素樹脂粉末とを混合使用しても同様に、導電性の向上が確認された。
【0027】
更に、実施例8より、導電性添加剤をカーボンナノチューブからカーボンブラックに変えても、大径のふっ素樹脂粉末を用いることにより高い導電性が得られることが確認された。
【0028】
また、実施例4の試験片を切断して、プラズマ処理によりふっ素樹脂を選択的にエッチングした後のSEM写真を図2に、同じく比較例2のSEM写真を図3に示す。図示されるように、実施例1の試験片では大径のふっ素樹脂粉末同士の界面に導電性添加剤が存在して導電パスを形成しているのに対し、比較例2の試験片ではふっ素樹脂粉末同士の界面に導電性添加剤が存在しない部分が多数あり、導電パスが分断されていることがわかる。
【0029】
更に、実施例2及び比較例5の各試験片を100℃、30分間加熱し、パージ&トラップ−ガスクロマトグラフ質量分析法によりアウトガスの発生量を測定した。結果を表2に示す。また、表2に示すように、比較例6及び比較例7の配合にて試験片を作製し、同様にアウトガスの発生量及び表面電気抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、実施例2の試験片は、アウトガスの発生量も少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】カーボンナノチューブを撮影したTEM写真である。
【図2】実施例4の試験片の断面を撮影したSEM写真である。
【図3】比較例2の試験片の断面を撮影したSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素樹脂粉末及び導電性添加剤を含む混合粉体を成形焼成してなるふっ素樹脂成形体であって、
前記ふっ素樹脂粉末が、粒子径100μm以上の大径粉体を全ふっ素樹脂粉末の5〜100質量%、残部が粒子径100μm未満の小径粉体で構成されていることを特徴とするふっ素樹脂成形体。
【請求項2】
前記大径粉体が、粒子径100〜1000μmであることを特徴とする請求項1記載のふっ素樹脂成形体。
【請求項3】
前記導電性添加剤が、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びカーボンファイバーの少なくとも1種からなる炭素フィラーであることを特徴とする請求項1または2記載のふっ素樹脂成形体。
【請求項4】
前記ふっ素樹脂粉末が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシビニルエーテルを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを共重合させて変性したポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1種からなる粉末であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体。
【請求項5】
前記炭素フィラーを0.1〜5.0質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体。
【請求項6】
A)ふっ素樹脂からなる粒子径100μm以上の大径粉体が5〜100質量%で、残部がふっ素樹脂からなる粒子径100μm未満の小径粉体であるふっ素樹脂混合粉末と、導電性添加剤とを混合して混合物を得る工程と、
B)前記混合物を圧縮して予備成形体を作製する工程と、
C)前記予備成形体を焼成する工程と、
を有することを特徴とするふっ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記大径粉体が、粒子径100〜1000μmであることを特徴とする請求項6記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性添加剤が、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック及びグラファイトの少なくとも1種からなる炭素フィラーであることを特徴とする請求項6または7記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記圧縮条件が10〜70MPaであり、かつ前記焼成温度が300〜450℃であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載のふっ素樹脂成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−83297(P2006−83297A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270006(P2004−270006)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】