説明

むだ時間同定装置

【課題】 制御対象の特性によらず、容易にかつ確実に正確にむだ時間を同定することができるようにする。
【解決手段】 モータ速度を入力し前記モータ速度が発振しているかどうかを判定した結果を示す発振検出信号を出力する発振検出器106と、前記モータ速度を入力しその入力信号に基づいて制御対象のメカパラメータを同定し出力するメカ同定器107と、前記発振検出信号を入力し前記モータ速度は発振していなければ速度制御器に設定するパラメータである制御ゲインをさらに大きい値として出力する制御ゲイン調整器108と、制御ゲインと発振検出信号とメカパラメータを入力し臨界周波数を出力する臨界周波数演算器109と、前記制御ゲインと前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記臨界周波数を入力しむだ時間同定値を算出するむだ時間同定器110と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機械のむだ時間を同定するむだ時間同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長いむだ時間要素(例えば、エンコーダの通信遅れ、制御演算遅れ)が存在する制御系においては、制御量(制御対象プロセスの物理量)が目標値に整定するまでに相当な時間がかかり、また通常のPID制御装置を用いた場合にはPID演算によって操作量を変えても、それによってプロセスから得られる制御量はプロセスの有するむだ時間が経過するまで全く変化しないので、操作量と制御量との間に位相ずれが生じてハンチング現象を起こし、そのためPIDパラメータの調整が非常に難しく、ロバスト性も低くなるというような一般的な技術課題がある。この一般的な技術課題を解決するために、むだ時間を補償する必要があった。
第1の従来技術のむだ時間同定装置は、実プロセスの制御量が目標値に追従するように制御した場合の、操作量と前記制御量に基づいてニューラルネットワークを用いて実プロセス特性を算出し、前記実プロセス特性にステップ入力を適用した場合の応答の遅れより実プロセスむだ時間を算出している(例えば、特許文献1参照)。
また、第2の従来技術のむだ時間同定装置は、ステップ応答法において、ステップ操作量である操作量を制御対象に入力した場合の前記制御量の立ち上がり時間と整定時間の中間における接線が立ち上がり前の前記制御量の値となる時間をむだ時間として算出し、リミットサイクルが発生し前記制御量が整定しない場合、リミットサイクル法をもちいてリミットサイクルの平均値と前記制御量の曲線の交点を整定時間としてステップ応答法と同様に前記むだ時間を算出している(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
図3は、第1の従来技術のむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図である。図において、301は主制御部、302はスミス法プロセスモデル部、303は実プロセス、304は第1の実プロセス特性学習手段、305は実プロセスむだ時間同定手段、306は遅延手段、307は第2の実プロセス特性学習手段である。
主制御部301は、実プロセス303の所望の動作を示す目標値から実プロセス303の実際の動作を示す制御量を減算した追従偏差から、非むだ時間実プロセス特性モデル出力を減算したむだ時間補償追従偏差を入力し、実プロセス303を駆動する操作量を出力する。スミス法プロセスモデル部302は、実プロセス特性と、非むだ時間実プロセス特性と、前記操作量を入力し、前記非むだ時間実プロセス特性モデル出力を出力する。実プロセス303は、前記操作量により駆動され前記制御量を出力する。第1の実プロセス特性学習手段304は、前記操作量と、前記制御量を入力し、ニューラルネットワークを用いて前記実プロセス特性を算出し出力する。実プロセスむだ時間同定手段305は、ステップ入力と、前記実プロセス特性とを入力し、前記実プロセス特性に前記ステップ入力を適用した場合の応答の遅れより実プロセス303のむだ時間を算出し、実プロセスむだ時間として出力する。遅延手段306は、前記操作量と、前記実プロセスむだ時間を入力し遅延操作量を出力する。第2の実プロセス特性学習手段307は、前記制御量と、前記遅延操作量を入力し、前記非むだ時間実プロセス特性を出力する。
【0004】
図4は、第2の従来技術のむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図である。図において、401はPID制御手段、402はステップ操作量出力手段、403はリミットサイクル操作量出力手段、404は制御対象、405は同定手段、406は同定結果判定手段、407は制御系切替手段、408は設定手段である。
PID制御手段401は、制御対象404の所望の動作を示す目標値から制御対象404の実際の動作を示す制御量を減算した追従偏差と、PID制御パラメータを入力し、PID制御操作量を出力する。ステップ操作量出力手段402は、ステップ操作量を出力する。リミットサイクル操作量出力手段403は、前記目標値と、前記制御量を入力し、リミットサイクル操作量を出力する。制御対象404は、PID制御時には前記PID制御操作量である操作量により駆動され前記制御量を出力し、ステップ応答法による同定時には前記ステップ操作量である操作量により駆動され前記制御量を出力し、リミットサイクル法による同定時には前記リミットサイクル操作量である操作量により駆動され前記制御量を出力する。同定手段405は、ステップ応答法による同定時には前記ステップ操作量である操作量と前記制御量を入力し、同定結果を出力する。リミットサイクル法による同定時には前記リミットサイクル操作量である操作量と前記制御量を入力し、同定結果を出力する。
【0005】
同定結果判定手段406は、前記同定結果を入力し、同定が正しく行われたかを示す判定結果を出力する。制御系切替手段407は、前記目標値と前記制御量と前記同定結果と前記判定結果と、を入力し、PID制御時、ステップ応答法による同定時、またはリミットサイクル法による同定時の切替を行う操作量切替信号を出力する。設定手段408は、前記同定結果と前記判定結果と前記操作量切替信号と、を入力し、前記PID制御パラメータを出力する。ステップ応答法において、前記ステップ操作量である前記操作量を制御対象404に入力した場合の前記制御量の立ち上がり時間と整定時間の中間における接線が立ち上がり前の前記制御量の値となる時間をむだ時間として算出する。リミットサイクルが発生し前記制御量が整定しない場合、リミットサイクル法をもちいてリミットサイクルの平均値と前記制御量の曲線の交点を整定時間としてステップ応答法と同様にむだ時間を算出する。
このように、第1の従来技術のむだ時間同定装置は、実プロセスのステップ応答に基づいてニューラルネットワークを用いてむだ時間を同定している。また、第2の従来技術のむだ時間同定装置は、制御対象のステップ応答の立ち上がりまでの時間に基づいてむだ時間を同定している。
【特許文献1】特許第2647216号(第5−8頁、第1図)
【特許文献2】特許第3312142号(第3−4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1の従来技術のむだ時間同定装置は、第1の実プロセス特性学習手段304において、ニューラルネットワークのシナプス結合係数を算出するのに時間がかかり、学習率などのパラメータ設定も経験と勘にたよらなければ実現できない問題があった。また、第2の従来技術のむだ時間同定装置は、制御対象404のステップ応答波形より直接むだ時間を算出するので、前記制御対象404の減衰係数が大きく前記ステップ応答波形がゆっくり立ち上がり、さらにリミットサイクル法が必要となる場合などに、同定精度が著しく劣化する問題があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、制御対象の特性によらず、容易にかつ確実に正確にむだ時間を同定することができるむだ時間同定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1記載の発明は、機械負荷の連結したモータである制御対象のモータ速度が速度指令に追従するように制御し、前記モータ速度に基づいて制御系のむだ時間を同定するむだ時間同定装置において、前記むだ時間同定装置は、前記モータ速度を入力し前記モータ速度が発振しているかどうかを判定した結果を示す発振検出信号を出力する発振検出器と、前記モータ速度を入力しその入力信号に基づいて前記制御対象のメカパラメータを同定し出力するメカ同定器と、前記発振検出信号を入力し前記モータ速度は発振していなければ速度制御器に設定するパラメータである制御ゲインをさらに大きい値として出力する制御ゲイン調整器と、前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記制御ゲインを入力し、前記モータ速度が発振している場合の前記制御ゲインと前記メカパラメータに基づいて臨界周波数を算出し出力する臨界周波数演算器と、前記制御ゲインと前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記臨界周波数を入力しその入力信号に基づいてむだ時間同定値を算出するむだ時間同定器と、を備えたものである。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明における前記メカパラメータは、前記制御対象の慣性モーメントと粘性摩擦であるものである。
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明における前記速度制御器はPI制御あるいはP制御のいずれか一方であるものである。
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明における前記臨界周波数演算器は、速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の粘性摩擦の2乗の差の2乗と速度制御積分時定数の2乗の積と、前記速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の慣性モーメントの2乗の積の4倍との和の平方根の、前記速度制御積分時定数と前記慣性モーメントの2乗の積の2倍による商と、前記速度比例制御ゲインの2乗と前記粘性摩擦の2乗の差の前記慣性モーメントの2乗の2倍による商との和の平方根に基づいて前記臨界周波数を算出するものである。
また、請求項5記載の発明は、請求項1または4記載の発明における前記むだ時間同定器は、πの前記臨界周波数による商と、前記臨界周波数と前記速度制御積分時定数の積の逆正接の前記臨界周波数による商と、前記粘性摩擦の前記臨界周波数と前記慣性モーメントの積による商の逆正接の前記臨界周波数による商と、の和に基づいて前記むだ時間同定値を算出するものである。
また、請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明における前記臨界周波数演算器は、速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の粘性摩擦の2乗の差の平方根の前記制御対象の慣性モーメントによる商に基づいて前記臨界周波数を算出するものである。
また、請求項7記載の発明は、請求項1または6記載の発明において、前記むだ時間同定器は、πの前記臨界周波数による商と、前記臨界周波数と前記慣性モーメントの積の前記粘性摩擦による商の逆正接の前記臨界周波数による商と、の差に基づいて前記むだ時間同定値を算出するものである。
また、請求項8記載の発明は、請求項1記載の発明における前記発振検出器は、前記速度指令と前記モータ速度にFFT(高速フーリエ変換)を適用し、前記モータ速度の含む周波数成分のうち前記速度指令の含まないものの振幅が単調増加する場合、前記モータ速度が発振したと判断し、それ以外の場合には発振していないと判断し、その判断結果である前記発振検出信号を出力するものである。
また、請求項9記載の発明は、請求項1記載の発明における前記メカ同定器は、前記モータ速度にFFTを適用して抽出した複数の周波数成分に基づいて前記制御対象の慣性モーメントと粘性摩擦である前記メカパラメータを算出するものである。
また、請求項10記載の発明は、請求項1に記載のむだ時間同定装置を備えたモータ制御装置。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、2、8、9に記載の発明によると、制御対象の特性によらず確実に正確にむだ時間を同定することができる。
また、請求項3乃至7に記載の発明によると、制御対象の特性によらず簡単に確実に正確にむだ時間を同定することができる。
また、請求項10に記載の発明によると、ハンチング現象が起こりにくくし、PIDパラメータの調整を容易にし、ロバスト性の高い動作制御を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の第1実施例におけるむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図である。図において、101は速度指令発生器、102は速度制御器、103はむだ時間要素、104は制御対象、105はむだ時間同定装置、106は発振検出器、107はメカ同定器、108は制御ゲイン調整器、109は臨界周波数演算器、110はむだ時間同定器である。
【0011】
速度指令発生器101は、モータ速度の目標値である速度指令を生成し出力する。速度制御器102は、前記速度指令と前記モータ速度と制御ゲインを入力し、前記モータ速度が前記速度指令に追従するような速度制御器出力信号を生成し出力する。前記速度制御器出力信号は、むだ時間要素103において一定時間おくれ、トルク指令となる。制御対象104は、負荷と速度検出器の連結したモータであり、前記トルク指令により駆動され、その前記モータ速度は前記速度検出器により検出され出力される。
ここで、むだ時間要素103は、例えば制御演算遅れである。
【0012】
むだ時間同定装置105は、前記モータ速度を入力し、前記制御ゲインとむだ時間同定値を出力する。むだ時間同定装置105において、発振検出器106は、前記モータ速度を入力し、前記速度指令と前記モータ速度にFFT(高速フーリエ変換)を適用し、前記モータ速度の含む周波数成分のうち前記速度指令の含まないものの振幅が単調増加する場合、前記モータ速度が発振したと判断し、それ以外の場合には発振していないと判断し、その判断結果である発振検出信号を出力する。メカ同定器107は、前記モータ速度を入力し、その入力信号にFFTを適用して、抽出した複数の周波数成分に基づいて制御対象104の慣性モーメントと粘性摩擦であるメカパラメータを同定し出力する(例えば、特開2007−020297に記載の手段を用いる)。制御ゲイン調整器108は、前記振動検出信号を入力し、前記モータ速度が発振していないと判断した場合には、速度制御器102のパラメータ(例えば、速度比例制御ゲイン)の現在の値より大きな前記制御ゲインを出力し速度制御器102に設定する。一方、前記モータ速度が発振していると判断した場合には、速度制御器102の前記パラメータの現在の値より小さな前記制御ゲインを出力し速度制御器102に設定する。臨界周波数演算器109は、前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記制御ゲインを入力し、前記モータ速度が発振していると判断した場合に、むだ時間要素103と制御対象104を合わせた系のゲイン交差周波数である臨界周波数を算出し出力する。むだ時間同定器110は、前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記制御ゲインと前記臨界周波数を入力し、その入力信号に基づいてむだ時間要素103のむだ時間を同定し、前記むだ時間同定値として出力する。
このように、むだ時間同定装置105は、前記発振検出器106、前記メカ同定器107、制御ゲイン調整器108、前記臨界周波数演算器109、むだ時間同定器110、で構成されるものである。
【0013】
以下、むだ時間同定装置105が、むだ時間同定値を算出する仕組みの詳細を説明する。図1の速度制御器102は速度PI制御であるとすると、制御対象104と速度制御器102の伝達関数は、それぞれ式(1)と式(2)のように表される。
【0014】
【数1】

【0015】
ただし、Jは制御対象104の慣性モーメント、Dは粘性摩擦、Kvjは速度制御器102の速度比例制御ゲイン、Tiは速度制御積分時定数である。速度比例制御ゲインKvjは、正規化速度比例制御ゲインKvと慣性モーメントJにより、Kvj=Kv*Jと表される。むだ時間要素103を除いた図1の開ループ伝達関数は式(3)で表される。
【0016】
【数2】

【0017】
式(3)より、前記開ループ伝達関数の振幅は式(4)と求められる。
【0018】
【数3】

【0019】
ゲイン交差周波数ωgは、前記開ループ伝達関数の振幅が1となる周波数ωであって、これについて解くことにより、式(5)と求められる。
【0020】
【数4】

【0021】
ただし、平方根項の前の+の符号は、前記ゲイン交差周波数が実数となるように選択した。前記開ループ伝達関数の位相は、式(3)より式(6)と求められる。
【0022】
【数5】

【0023】
速度比例制御ゲインKvjを増加させ、速度制御積分時定数Tiは、制御対象104が剛体系である場合に前記モータ速度がオーバーシュートしない条件からTi=4/Kvと設定すると、前記開ループ伝達関数の前記ゲイン交差周波数は単調に増加し、位相交差周波数は前記ゲイン交差周波数よりもゆるやかに減少する。速度比例制御ゲインKvjが低い値では、前記ゲイン交差周波数は前記位相交差周波数より低い値を持ち、速度比例制御ゲインKvjを増加させるにつれ両者は近づき、一致した時に前記モータ速度が発振する。したがって、前記モータ速度が発振したときの前記ゲイン交差周波数である臨界周波数は、
式(5)にその時の速度比例制御ゲインKvjと速度制御積分時定数Tiを代入して求められ、その時式(6)の位相は−π[rad]となるので、むだ時間は式(7)と求められる。
【0024】
【数6】

【0025】
ただし、ωcは前記臨界周波数である。
よって、むだ時間同定装置105におけるむだ時間同定器110は、式(7)を用いて前記むだ時間同定値を算出する。
【0026】
以下、本実施例のシミュレーションを示す。シミュレーションに用いた数値は以下のとおりである。
J=5*0.116×10^−4[kg・m]、D=0.001[N・m・s/rad]、Td*=500×10^−6[s]、Kvmin=40(2π)[rad/s]、Kvmax=1000(2π)[rad/s]、Kvj=Kv*J、Ti=4/Kv
ただし、Jは慣性モーメント、Dは粘性摩擦、Td*はむだ時間真値、KvminとKvmaxは正規化速度比例制御ゲインKvの最小値と最大値、Kvjは速度比例制御ゲイン、Tiは速度制御積分時定数である。本シミュレーションでは正規化速度比例制御ゲインKvをKvminからKvmaxまで増加させ、前記ゲイン交差周波数と前記位相交差周波数が一致して前記臨海周波数となるときの正規化速度比例制御ゲインKvにおいて式(7)を用いてむだ時間Tdを同定した。
図2は、本発明の第1実施例におけるむだ時間要素と制御対象を合わせたボード線図を示す。図2は前記正規化速度比例制御ゲインをKv=487.5(2π)[s^−1]とした場合であり、このとき前記ゲイン交差周波数と前記位相交差周波数は一致する。式(7)によって求められたむだ時間同定値Tdは、Td=500×10^−6[s]となり、むだ時間真値Td*に対する同定誤差は、式(8)より0[%]となった。
【0027】
【数7】

【0028】
このように、本発明によると、容易にかつ確実に正確に制御系のむだ時間を同定することができる。
【実施例2】
【0029】
本実施例は、速度制御器102を速度P制御とするほかは第1実施例と同じ構成の制御系を用いるので、重複する部分の説明は省略する。
以下、本実施例のむだ時間同定装置105が、むだ時間同定値を算出する仕組みの詳細を説明する。
速度制御器102の伝達関数は、式(9)で表される。
【0030】
【数8】

【0031】
ただし、Kvjは、速度比例制御ゲインである。式(1)と式(9)よりむだ時間要素103を除いた図1の開ループ伝達関数は、式(10)で表される。
【0032】
【数9】

【0033】
式(10)の振幅は、式(11)と求められる。
【0034】
【数10】

【0035】
ゲイン交差周波数ωgは、式(11)の振幅が1となる場合の周波数ωであり、式(12)と求められる。
【0036】
【数11】

【0037】
一方、式(10)の位相は式(13)と表される。
【0038】
【数12】

【0039】
周波数ωが位相交差周波数ωpの時、式(13)の位相は−π[rad]であるので、むだ時間Tdは式(14)と表される。
【0040】
【数13】

【0041】
第1実施例と同様に、速度比例制御ゲインKvjを上げるとゲイン交差周波数ωgと位相交差周波数ωpが近づき、両者が臨界周波数ωcとなった時に前記モータ速度が発振する。前記モータ速度が発振したときの速度比例制御ゲインKvjに対して式(15)が成り立つ。
【0042】
【数14】

【0043】
よって、むだ時間同定装置105におけるむだ時間同定器110は、式(15)を用いて前記むだ時間同定値を算出する。
このように、実施例1または実施例2における本発明は、発振検出信号とメカパラメータと制御ゲインを入力し、モータ速度が発振していると判断した場合にむだ時間要素103と制御対象104を合わせた系のゲイン交差周波数である臨界周波数を算出し出力する臨界周波数演算器109と、前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記制御ゲインと前記臨界周波数を入力し、その入力信号に基づいてむだ時間要素103のむだ時間を同定し前記むだ時間同定値として出力するむだ時間同定器110と、を備えるので、制御対象の特性によらず、容易にかつ確実に正確にむだ時間を同定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
制御ゲインを上げ制御系が発振したときの前記制御ゲインに基づいて、むだ時間を同定することにより、制御対象の特性によらず、容易にかつ確実に高精度にむだ時間同定が実施できるので、一般産業用機械のむだ時間同定という用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施例におけるむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図
【図2】本発明の第1実施例におけるむだ時間要素と制御対象を合わせたボード線図
【図3】第1の従来技術のむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図
【図4】第2の従来技術のむだ時間同定装置の構成を示す概略ブロック図
【符号の説明】
【0046】
101 速度指令発生器
102 速度制御器
103 むだ時間要素
104 制御対象
105 むだ時間同定装置
106 発振検出器
107 メカ同定器
108 制御ゲイン調整器
109 臨界周波数演算器
110 むだ時間同定器
301 主制御部
302 スミス法プロセスモデル部
303 実プロセス
304 第1の実プロセス特性学習手段
305 実プロセスむだ時間同定手段
306 遅延手段
307 第2の実プロセス特性学習手段
401 PID制御手段
402 ステップ操作量出力手段
403 リミットサイクル操作量出力手段
404 制御対象
405 同定手段
406 同定結果判定手段
407 制御系切替手段
408 設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械負荷の連結したモータである制御対象のモータ速度が速度指令に追従するように制御し、前記モータ速度に基づいて制御系のむだ時間を同定するむだ時間同定装置において、
前記むだ時間同定装置は、前記モータ速度を入力し前記モータ速度が発振しているかどうかを判定した結果を示す発振検出信号を出力する発振検出器と、
前記モータ速度を入力しその入力信号に基づいて前記制御対象のメカパラメータを同定し出力するメカ同定器と、
前記発振検出信号を入力し前記モータ速度は発振していなければ速度制御器に設定するパラメータである制御ゲインをさらに大きい値として出力する制御ゲイン調整器と、
前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記制御ゲインを入力し、前記モータ速度が発振している場合の前記制御ゲインと前記メカパラメータに基づいて臨界周波数を算出し出力する臨界周波数演算器と、
前記制御ゲインと前記発振検出信号と前記メカパラメータと前記臨界周波数を入力しその入力信号に基づいてむだ時間同定値を算出するむだ時間同定器と、を備えたことを特徴とするむだ時間同定装置。
【請求項2】
前記メカパラメータは、前記制御対象の慣性モーメントと粘性摩擦であることを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項3】
前記速度制御器は、PI制御あるいはP制御のいずれか一方であることを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項4】
前記臨界周波数演算器は、速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の粘性摩擦の2乗の差の2乗と速度制御積分時定数の2乗の積と、前記速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の慣性モーメントの2乗の積の4倍との和の平方根の、前記速度制御積分時定数と前記慣性モーメントの2乗の積の2倍による商と、前記速度比例制御ゲインの2乗と前記粘性摩擦の2乗の差の前記慣性モーメントの2乗の2倍による商との和の平方根に基づいて前記臨界周波数を算出することを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項5】
前記むだ時間同定器は、πの前記臨界周波数による商と、前記臨界周波数と前記速度制御積分時定数の積の逆正接の前記臨界周波数による商と、前記粘性摩擦の前記臨界周波数と前記慣性モーメントの積による商の逆正接の前記臨界周波数による商と、の和に基づいて前記むだ時間同定値を算出することを特徴とする請求項1または4記載のむだ時間同定装置。
【請求項6】
前記臨界周波数演算器は、速度比例制御ゲインの2乗と前記制御対象の粘性摩擦の2乗の差の平方根の前記制御対象の慣性モーメントによる商に基づいて前記臨界周波数を算出することを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項7】
前記むだ時間同定器は、πの前記臨界周波数による商と、前記臨界周波数と前記慣性モーメントの積の前記粘性摩擦による商の逆正接の前記臨界周波数による商と、の差に基づいて前記むだ時間同定値を算出することを特徴とする請求項1または6記載のむだ時間同定装置。
【請求項8】
前記発振検出器は、前記速度指令と前記モータ速度にFFT(高速フーリエ変換)を適用し、前記モータ速度の含む周波数成分のうち前記速度指令の含まないものの振幅が単調増加する場合、前記モータ速度が発振したと判断し、それ以外の場合には発振していないと判断し、その判断結果である前記発振検出信号を出力することを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項9】
前記メカ同定器は、前記モータ速度にFFTを適用して抽出した複数の周波数成分に基づいて前記制御対象の慣性モーメントと粘性摩擦である前記メカパラメータを算出することを特徴とする請求項1記載のむだ時間同定装置。
【請求項10】
請求項1に記載のむだ時間同定装置を備えたモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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