説明

めっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】素地鋼板に対する合金化溶融亜鉛めっき層の密着性を向上させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、Si:1.0〜3.0%を含有する鋼を熱間圧延した後、600〜800℃で巻取りを行い、70〜90℃で10秒以上酸洗を行なった後、片面当たり付着量3〜8g/mの鉄系プレめっきを施すことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法に関し、詳細には、自動車、家電、建材等の分野で、年々複雑化する加工に対しても良好なめっき密着性を確保し得る鋼板であって、素地鋼板中に多くのSiを含有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家電等の軽量化の目的で、強度、延性、加工性に優れた鋼板の需要が急増している。鋼板にSiを添加すると、強度を損なうことなく延性や加工性を向上できることから、このような特性を満たす鋼板としてSi含有鋼板が使用されている。また、自動車等の鋼板には耐食性も要求されることから、Si含有鋼板を溶融亜鉛めっきや合金化した溶融亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)や合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)のニーズが年々高まりつつある。
【0003】
これらのめっき鋼板は、一般に以下の方法で製造される。まず、スラブを熱延、冷延の後、必要に応じて熱処理を行なった薄鋼板(母材鋼板)を用意する。母材鋼板の表面は、前処理工程にて脱脂および/または酸洗して洗浄しても良い。次に、予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気または還元性雰囲気の焼鈍炉内で加熱して再結晶焼鈍を行う。その後、非酸化性雰囲気中または還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却し、大気に触れることなく微量のAl(約0.1〜0.2質量%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬して溶融亜鉛めっき後、合金化炉内で熱処理することによって得られる。
【0004】
しかしながら、Siは易酸化性元素であり、鋼板表面に濃化し易い。すなわち、易酸化性元素を含有する鋼板を加熱処理すると、これらの元素が選択的に酸化され、鋼板表面(鋼板とめっき層との界面側)に濃化して酸化物(Si−Mn−Oなど)を形成する。これらの酸化物は、めっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を著しく低下させるため、不めっきや合金化不良を招く。これらの易酸化性元素は、非酸化性雰囲気中または還元雰囲気中でも濃化を抑制することが困難なため、Si含有鋼板では、上記酸化物による問題の改善が求められている。
【0005】
このようなめっき剥離の問題に対し、例えば特許文献1、2に記載の方法が提案されている。このうち特許文献1には、耐パウダリング性、耐フレーキング性の改善にめっき層表層のζ相やΓ相の低減が有効であるとして、めっき層のFe濃度を7〜15%にした合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、鋼板とめっき層との界面から5μm以下の鋼板側の結晶粒界と結晶粒内にSiを含む酸化物の含有率を0.6〜10質量%とすることにより不めっき欠陥をなくして外観性を高めるとともに、成形性と溶接性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法が開示されている。
【0007】
しかし本発明者らが検討したところ、これら特許文献に開示されている技術では、上記めっき剥離の問題に対する改善効果が十分でないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262459号公報
【特許文献2】特開2006−233333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、素地鋼板に対する合金化溶融亜鉛めっき層(以下、「めっき層」ということがある)の密着性を向上させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成することのできた本発明は、Si:1.0〜3.0%(質量%の意味。以下化学成分について同じ。)を満足する素地鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、上記化学成分組成を満足する鋼を熱間圧延した後、600〜800℃で巻取りを行い、70〜90℃で10秒以上酸洗を行なった後、片面あたり付着量3〜8g/mの鉄系プレめっきを施すことに要旨を有するめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0011】
本発明の好ましい実施態様として前記鋼板は、さらに、C:0.03〜0.30%、及びMn:1.0〜3.0%を含有してもよい。
【0012】
また前記鋼板は、さらに、Ti:0.003〜1.0%、および/またはAl:0.01〜0.30%を含有することも本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、Si含有鋼を熱間圧延した後、所定条件にて巻き取り、酸洗、および鉄系プレめっき処理を施してから溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を行っているため、素地鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、めっき層と素地鋼板の界面に生成する内部酸化物の様子を模式的に示す断面図である。
【図2】図2A〜Dはそれぞれ実施例2(図2A)、8(図2B)、9(図2C)、10(図2D)の合金化溶融亜鉛めっき鋼板断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、易酸化性元素であるSiを含有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性向上手段について鋭意研究を重ねた。その結果、(A)めっき密着性に悪影響を与えるΓ相の形成には、めっき層に含まれる鉄量が大きく影響していること、(B)そして素地鋼板表面に内部酸化物(素地鋼板側に向って形成されるFe−Si含有酸化物)を適切に形成すれば、該内部酸化物のバリアー効果によって素地鋼板からのFeの拡散が抑えられて、めっき層に含まれる鉄量を制御できると共に、該内部酸化物に起因するめっき層と鋼板表面に形成される凹凸によるアンカー効果によってめっき密着性が向上することを突き止めた。そして、(C)上記(B)の効果を得るためには、素地鋼板表面に形成された内部酸化物を最適化した後に、鉄系プレめっき処理、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を順次施せばよいこと、特に(D)上記(C)のように素地鋼板表面に内部酸化物を適切に形成するには、熱延後の巻き取り温度、およびその後の酸洗条件を適切に制御すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0016】
本明細書では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を構成するめっき層と鋼板のうち、当該鋼板を特に「素地鋼板」と呼ぶ。上記「素地鋼板」は、めっき鋼板の製造過程では、熱延および冷延を行なった後であって、溶融亜鉛めっき前の鋼板に対応している。以下では、説明の便宜上、「素地鋼板」を単に「鋼板」と略記する場合がある。
【0017】
まず、本発明を完成した経緯について、上記(A)〜(D)に基づき説明する。
【0018】
(A)Γ相の生成とめっき層に含まれる鉄量の関係について
はじめに、本発明者らは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層に形成されるΓ層とめっき層中のFe含有量との関係について調べた。その結果、溶融亜鉛めっき後のめっき層中のFe量を低減しておけば、合金化処理によって生成するΓ相も抑制できるため、加工時にΓ層が起点となってクラックが生じるという従来技術の問題を解決できることが分かった。特に溶融亜鉛めっき処理に先立って鉄系プレめっきを施しておけば、めっき層中のFe量の制御が容易であることから、本発明では鉄系プレめっきを行うこととした。しかし鉄系プレめっきだけでは不十分であり、合金化処理時に素地鋼板側からFeが拡散してくると、めっき層中のFe量が増加してΓ層が生成することから、素地鋼板側から拡散してくるFeを抑制しなければならない。
【0019】
そこで本発明者らが研究を重ねた結果、(B)素地鋼板表面に内部酸化物を適切に形成すれば、(ア)該内部酸化物のバリアー効果によって素地鋼板からのFeの拡散が抑えられること、また(イ)該内部酸化物に起因するめっき層と鋼板表面に形成される凹凸によるアンカー効果によってめっき密着性が向上することを見出した。
【0020】
すなわち、本発明者らが、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造過程で、素地鋼板の表面に形成される酸化物に着目したところ、素地鋼板を加熱すると、素地鋼板内側(素地鋼板側)に向かってFeとSiを含む酸化物が生成し(以下、「内部酸化物」という)、内部酸化物がFeの拡散防止に有効であることがわかった。内部酸化物は鋼板表面に亘って層状に形成されるものではなく、図1の模式図に示すように、素地鋼板表面(詳細には、素地鋼板とめっき層との界面であって素地鋼板側)に局所的に点在する形で形成されており、しかも内部酸化物は、合金化を阻止、または抑制する要因となることから、合金処理時に素地鋼板からのめっき層へのFeの拡散を抑えるバリアー皮膜としての効果を有することを見出した(上記(ア))。
【0021】
更に、内部酸化物が形成された素地鋼板の合金化状態について調べたところ、内部酸化物が存在する箇所では、合金化が阻止、抑制されているのに対し、内部酸化物が存在しない箇所では、合金化が進行していた。その結果、合金化処理後の素地鋼板表面は、内部酸化物が存在している箇所(凹部を形成)と、内部酸化物が存在していない箇所(凸部を形成)とで凹凸が形成され、この凹凸がめっき層と素地鋼板とのアンカー効果としての機能を発揮し、めっき密着性がより一層向上することを見出した(上記(イ))。
【0022】
また本発明者らは(C)上記(B)の効果を得るための製造条件について検討した結果、素地鋼板表面に形成された内部酸化物を最適化した後に、鉄系プレめっき処理、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を順次施せばよいことを見出した。
【0023】
すなわち、上記内部酸化物が適切に形成されていない状態で鉄系プレめっきや溶融亜鉛めっきを施しても、不めっきや合金化ムラ、めっき剥離が生じる。もっとも内部酸化物は高温でなければ、生成、成長せず、またその生成、成長を制御するのは困難である。そこで本発明者らが検討を重ねた結果、まず、素地鋼板に内部酸化物を生成させ、その後、内部酸化物を最適化することが可能であること、内部酸化物を最適化した素地鋼板に鉄系プレめっき処理を施せば、素地鋼板と鉄系プレめっきの濡れ性は良好であること、その後、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を施せば、内部酸化物による上記アンカー効果によってめっき層と素地鋼板との密着性を一段と高めることができることを見出した。また上記内部酸化物のバリアー効果により、素地鋼板からのFeの拡散を防ぐことによって、めっき層に含まれるFe量を実質的に鉄系プレめっきに含まれるFe量とすることができるため、合金化処理でΓ層が生成しないようにFe量をコントロールすることができた。
【0024】
そして合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法のなかでも、特に(D)熱延後の巻き取り温度、および酸洗条件を適切に制御する必要があることを見出した。
【0025】
すなわち、熱延後の巻き取り温度を高くすることによって、内部酸化物を生成、成長させることができる。また酸洗条件を適切に制御することによって、内部酸化物を適切な状態に残存させることが可能である。
【0026】
以上、上記(A)〜(D)の知見に基づいて、導き出された本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、Si:1.0〜3.0%含有する鋼を熱間圧延した後、600〜800℃、10秒以上で巻取りを行い、その後、冷間圧延を施す。そして本発明では鋼板を70〜90℃で酸洗(インヒビター未添加)した後、片面あたり付着量3〜8g/mの鉄系プレめっきを施すことを特徴とするものである。
【0027】
以下、このような範囲を規定した理由について説明する。
【0028】
まず、本発明の製造方法で用いる鋼の成分組成について説明する。
【0029】
本発明では、Siを1.0〜3.0%含有する鋼を用いる。
【0030】
Si:1.0〜3.0%
Siは、延性や加工性を劣化させることなく強度を高めるのに有効な元素であり、このような作用を有効に発揮させると共に、Si酸化物をめっき層と素地鋼板との界面に形成するためにはSi含有量は1.0%以上であることが必要である。一方、Si含有量が3.0%を超えると合金化溶融亜鉛めっき鋼板の延性が劣化してしまう。Si含有量は好ましくは1.3%以上、より好ましくは1.6%以上であって、好ましくは2.8%以下、より好ましくは2.7%以下である。
【0031】
また本発明で使用する鋼板には、他の成分組成として、以下の元素を含有させてもよい。
【0032】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、強度と靭性を確保するために有効な元素であり、1.0%以上添加することが好ましい。従来では、Siと同様の理由でMnの多量添加は避けられていたが、本発明によれば、巻き取り温度を適切に制御しているため、素地鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層の界面にMnは濃化しない。したがってMnを1.0%以上含有しても上記問題を回避できる。Mnは、1.2%以上含有させることがより好ましく、更に好ましくは1.4%以上である。しかしMnを過剰に含有すると延性を損なうため、3.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは2.8%以下、更に好ましくは2.6%以下である。
【0033】
C:0.03〜0.30%
Cは、鋼板の強度を高めるために有効な元素であり、その効果を発揮させるために0.03%以上含有させることが好ましい。Cは、0.05%以上含有することがより好ましく、更に好ましくは0.07%以上である。しかしCを過剰に含有すると冷間加工性が低下する。したがってCは好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.28%以下、更に好ましくは0.26%以下である。
【0034】
本発明に用いられる鋼板は、基本成分としてSi、Mn、Cを含有し、残部鉄及び不可避的不純物である。不可避不純物としては、例えばPやSなどが挙げられ、以下のように制御されていることが好ましい。
【0035】
P:0.1%以下
Pを過剰に含有すると、素地鋼板の延性が劣化する。また合金化溶融亜鉛めっき層の密着性が悪化する。したがってPは好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
【0036】
S:0.005%以下
Sを過剰に含有すると、鋼中に硫化物系介在物(例えば、MnS)を多く形成し、この介在物が熱間圧延時偏析して鋼板を脆化させる原因となる。したがってSは0.005%以下が好ましく、より好ましくは0.003%以下とする。
【0037】
また、本発明の作用を損なわない範囲でTiやAl等の脱酸剤を含有してもよい。
【0038】
Ti:0.003〜1.0%
Tiは、炭化物を形成し、高強度化に有効な元素である。またCやNを固定し鋼板のr値を上昇させるのに有効に作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Tiは、0.003%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.005%以上である。しかしTiを過剰に含有させると加工性が低下する。また製造コストの上昇をもたらすため、Tiは、1.0%以下含有することが好ましく、より好ましくは0.90%以下である。
【0039】
Al:0.01〜0.30%
Alは、Tiと同様、脱酸剤として作用する元素である。またAlは焼鈍の際にオーステナイト結晶粒が粗大化するのを防止し、材質が改善する。このような作用を有効に発揮させるには、Alは、0.01%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。しかしAlを過剰に含有させても、その効果は飽和する。また結晶粒が不安定になって材質にムラが出やすくなる。したがってAlは、0.30%以下含有することが好ましく、より好ましくは0.28%以下である。
【0040】
上記化学成分組成を満足する鋼を用い、常法により熱間圧延した後、巻き取る。
【0041】
熱間圧延方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。具体的には、例えば加熱温度を約1200〜1300℃、仕上温度を約900℃以下の範囲に制御して行なうことが好ましい。
【0042】
巻き取り温度:600〜800℃
本発明法の大きな特徴の一つは、熱延後の巻き取り温度を600℃以上とする点にある。巻き取り温度が600℃未満の場合、内部酸化物が素地鋼板側に向けて十分に生成、成長しないため、素地鋼板の巻き取り後、酸洗すると内部酸化物が除去されてしまい、内部酸化物による上記バリアー効果やアンカー効果が得られない。その結果、めっき密着性が低下する。好ましい巻き取り温度は610℃以上、より好ましくは620℃以上である。
【0043】
巻き取り温度の上限は特に限定されないが、巻き取り温度を高くしても、上記内部酸化物による効果が飽和する一方で、内部酸化物を最適化するための条件が煩雑になるなど製造コストの上昇を招くことから、800℃以下とする。好ましい巻き取り温度は790℃以下、より好ましくは780℃以下である。
【0044】
上記のようにして巻き取りを行った後、鋼板に冷間圧延を施す。この際の冷間圧延条件は特に限定されず、常法に従って必要な冷延(例えば冷延率20〜60%)を行えばよい。また冷間圧延に際して、常法に従って必要な酸洗を施せばよい。この際施される酸洗としてはインヒビターを添加したスケール除去のための酸洗が例示される。
【0045】
冷間圧延後、本発明では上記酸洗とは別途、インヒビターを添加していない酸洗を施し、その後、鉄系プレめっき処理、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を施す。
【0046】
なお、冷間圧延後、連続焼鈍ライン(CAL)にて、焼鈍、下記条件での酸洗、鉄系プレめっき処理、加熱、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を施してもよい。また連続焼鈍ラインにて行う焼鈍条件は特に限定されず、常法にしたがって焼鈍すればよく、温度等については所望の条件でよい。
【0047】
酸洗温度:70〜90℃
本発明のもう一つの大きな特徴は、酸洗温度を70〜90℃で行う点にある。酸洗温度を70℃以上に高めることによって、厚く形成された内部酸化物を一部除去して最適化できるので望ましい。酸洗温度は70℃以上、好ましくは75℃以上である。一方、酸洗温度が高すぎると内部酸化物が容易に除去されてしまい、内部酸化物を最適化することが難しくなる。したがって酸洗温度は90℃以下、好ましくは85℃以下である。
【0048】
酸洗時間は、下記好ましい範囲内の内部酸化物の厚みとなるように酸洗温度などとの関係で適宜調節すればよい。例えば酸洗時間は10秒以上、好ましくは12秒以上であって、好ましくは14秒以下である。
【0049】
酸洗には、例えばHCl、H2SO4など、通常使用されている溶液を用いることができる。ただし、酸洗にはインヒビター(例えば腐食抑制剤)を添加しない。インヒビターが添加されていると、上記温度、時間で酸洗しても内部酸化物を適切に制御できず、内部酸化物による上記効果を得ることができない。
【0050】
ここで酸洗後に残存する内部酸化物の長さ(素地鋼板の厚さ方向に向って延びる厚さ)が0.5〜2.1μm程度となるように上記酸洗条件を制御することが好ましい。上記酸化物領域の大きさを測定する方法は後述する。酸化物領域の大きさが0.5μm未満であると、上記アンカー効果やバリアー皮膜としての作用が十分に発揮されないことがある。また酸化物領域の大きさが2.1μmを超えると、該酸化物領域がクラックの起点となり、めっき密着性を低下させる原因となる。したがって酸化物領域の大きさは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、更に好ましくは0.9μm以上であって、好ましくは2.1μm以下、より好ましくは1.9μm以下、更に好ましくは1.7μm以下であることが推奨される。本発明では、このような長さを満足する内部酸化物の領域が、局所的に存在していることが好ましい。
【0051】
次に、鉄系プレめっきを施す。
【0052】
片面当たりのめっき付着量:3〜8g/m
鉄系プレめっきは付着量が片面当たり3〜8g/mとなるように制御することが望ましい。鉄系プレめっきの付着量が3g/mを下回ると、めっき層中のFe量が不足するため、十分に合金化することができない。一方、鉄系プレめっきの付着量が8g/mを超えると、Γ層が形成されてしまい、十分な耐パウダリング性が得られない。プレめっきの付着量は、好ましくは3g/m以上、より好ましくは4g/m以上であって、好ましくは8g/m以下、より好ましくは7g/m以下である。
【0053】
また鉄系プレめっき層の厚さは特に限定されないが、通常、0.3〜1.1μm程度でよい。
【0054】
なお、鉄系プレめっき付着量は、プレめっきを行った鋼板表面の鋼中元素のプロファイル変化によって確認することができる。
【0055】
鉄系プレめっきとしては、例えば純Fe、Fe−B、Fe−C、Fe−P、Fe−N、Fe−Oなどが挙げられる。鉄系プレめっきは、電気めっきにより行うことができる。
【0056】
鉄系プレめっきを施した後、溶融亜鉛めっき処理、および合金化処理を順次行なう。なお、溶融亜鉛めっき処理は、焼鈍を行なってから亜鉛めっき処理を行ってもよい。
【0057】
焼鈍条件について、焼鈍温度を高くすると、鉄系プレめっき層中に素地鋼板からSiが拡散することがある。鉄系プレめっきにSiが含まれると、その後の溶融亜鉛めっき処理時のめっきムラや、合金化処理時に合金化ムラが生じることがある。したがって焼鈍温度は、好ましくは800℃以下、より好ましくは780℃以下、更に好ましくは760℃以下、より更に好ましくは740℃以下である。一方、焼鈍温度を低くしすぎると、不めっきが発生することがあるため、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上、より更に好ましくは350℃以上である。
【0058】
亜鉛めっき処理における溶融亜鉛めっき浴としてAlを0.05〜0.2質量%含有する溶融亜鉛めっき浴を用いて、溶融亜鉛めっき浴の温度を、440〜480℃程度に制御すればよい。また溶融亜鉛めっき層の付着量は、所望の付着量とすればよく、例えば40〜70g/m程度に制御すればよい。
【0059】
次いで、合金化処理を施す。合金化処理の条件は特に限定されず、公知の条件を採用できる。例えば合金化温度は、450〜600℃程度に制御すればよい。合金化温度が450℃未満では、合金化速度が極めて遅く、生産性が劣化することがある。他方、600℃を超えると合金化が進みすぎて、めっき層と素地鋼板の界面にΓ相が形成され、耐パウダリング性が劣化する。
【0060】
また合金化処理時間についても特に限定されず、所望の合金化処理が完了する時間を作用すればよく、例えば5〜60秒程度でよい。合金化処理には少なくとも5秒程度は必要であり、また60秒を超えると、合金化が過度に進行するからである。
【0061】
このようにして得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき密着性が良好に改善されている。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
まず、表1に示す化学成分を含有する鋼(残部は鉄および不可避不純物)を溶製し、スラブを製造した。なお、表には、不可避不純物のうちPおよびSの量も記載している。
【0064】
得られたスラブを用い、表2に示すように熱間圧延、スケール除去のための酸洗(インヒビター添加)、冷間圧延を行った後、連続焼鈍ライン(CAL)にて、焼鈍、酸洗(インヒビター未添加)、鉄系プレめっき処理を行い、加熱後、溶融亜鉛めっき処理、および合金化処理を順次行なって表3の供試鋼板を得た(サイズ:180mm×100mm×厚さ1.5mm)。なお、表3中、No.11、12については、表2に示すように連続焼鈍を行なっておらず、熱間圧延、冷間圧延後、溶融めっきラインにて、鉄系プレめっき処理後、加熱処理してから溶融亜鉛めっき処理、合金化処理を順次行って供試鋼板を得た。各処理条件の詳細を下記(1)〜(4)に示す。
【0065】
(1)熱間圧延条件
加熱温度:1000〜1300℃
仕上げ温度:表2記載の温度
(2)冷間圧延前の酸洗条件
インヒビター添加した酸洗
(3)鉄系プレめっき処理:
1.電解脱脂:3%オルソ珪酸ナトリウム 60℃ 20A×20秒
2.水洗:水道水中で流水水洗を5秒
3.酸洗:5%HSO 常温で5秒
4.水洗:水道水中で流水水洗を5秒
5.Feめっき:4L中
・めっき液:400g/LのFeSO・7HOを1600g、
5g/LのHSOを20g
・pH:1.8〜2.0
・温度:60℃
・攪拌:あり
・Feめっきは表1に示す付着量となるように制御した。
6.電流密度:70A/dm
7.水洗:水道水中で流水水洗を5秒
8.乾燥:ブロア→40℃乾燥機で60分
(4)溶融亜鉛めっき処理および合金化処理:
1.雰囲気:5容量%H−N
2.焼鈍温度:400℃
3.焼鈍時間:300秒
4.めっき処理
・めっき浴組成:Zn−0.13%Al
・めっき浴温度:460℃
5.めっき付着量(片面):50〜60g/m(ガスワイピングを実施することによって制御)
6.合金化:500℃で30〜60秒(赤外線加熱炉)
【0066】
各供試鋼板の特性を下記評価基準に基づいて評価した。
【0067】
[内部酸化物の厚さ]
めっき鋼板断面を走査型電子顕微鏡(ZEISS製SUPRA35)を用いて酸化物を確認した後、走査型電子顕微鏡(キーエンス製VE−8800)を用いて、倍率10000倍、視野12.5μm×9.38μmとして、該視野内にある内部酸化物を観察した。具体的にはめっき鋼板断面についてSEMで反射電子像を観察し、その際、素地鋼板とめっき層の界面で確認できる暗い部分(濃淡の濃い部分)について、SEMで定量分析して、Si含有率が素地鋼板よりも1.0%以上高いものを内部酸化物とし、その長さ(めっき層界面から素地鋼板厚み方向)を測定した。実施例No.2、8〜10の断面写真を図2A〜Dに示す。
【0068】
[めっき層中のΓ層]
めっき層中のΓ層は、供試鋼板をエポキシに埋め込み後、エッチングした供試鋼板の断面をSEM(倍率:3000倍、視野:41.7μm×31.2μm)で観察し、めっき面積に対するΓ相の面積割合を測定し、以下の基準で評価した。
評価基準
めっき面積に対するΓ層の面積の割合が5%未満:なし
めっき面積に対するΓ層の面積の割合が5%以上:あり
【0069】
[めっき層中のFe量]
めっき層中のFe量を、めっき層を塩酸で溶解させて、ICP(誘導結合高周波プラズマ発光分光分析)により定量し、Fe量が6.5%以上の場合を合格とし、Fe量が6.5%未満の場合を不合格とした。また合金化評価については、Fe量が6.5%以上の場合を合金化されていると評価し(○)、Fe量が6.5%未満の場合を合金化不良と評価した(×)。
【0070】
[耐パウダリング性]
素地鋼板とめっき層との密着性を耐パウダリング性で評価した。詳細には、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、以下の条件でビード付きU曲げビード成形し、得られた成形品の側壁外側にテープ剥離試験を行い、以下の基準で評価した。
(i)成形条件
プレスの種類:80tクランクプレス (メーカー:アイダエンジニアリング株式会社、製品名:80tfハイフレックスプレス、型番:NC1−80(2))
供試GAの大きさ:幅40mm×長さ250mm
金型:ビードr:5mm(半丸ビード)、パンチ肩半径:5mm、ダイ肩半径:5mm、成形高さ:65mm、しわ押さえ荷重:2t
(ii)評価基準
めっき剥離無し:○
めっき剥離有り:×
【0071】
表3から次のように考察できる。
【0072】
No.1〜10、13、14は本発明で規定する成分組成を満足する鋼を用い、巻き取り温度、酸洗温度、酸洗時間、鉄系プレめっき付着量を変化させた例である。
【0073】
これらのうち、No.1〜6は、本発明で規定する要件で製造した例であり、耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。
【0074】
No.7〜10は、めっき密着性に悪影響を及ぼすΓ層の生成は抑制されているが、めっき層中の鉄量や内部酸化物の長さが不適切であるため、所望の鋼板が得られなかった例である。
【0075】
詳細には、No.7は、鉄系プレめっき付着量が少なすぎる例であり、めっき層中のFe量が少なかった。その結果、合金化処理をしても、合金化できなかった。
【0076】
No.8〜10は、酸洗温度が低く、且つ、酸洗時間が短すぎる例であり、内部酸化物が厚くなり過ぎていた。その結果、めっき剥離が生じて耐パウダリング性が低下した。
【0077】
No.13は、鉄系プレめっき付着量が多すぎる例であり、めっき層中にΓ層が形成されていた。その結果、めっき剥離が生じて耐パウダリング性が低下した。
【0078】
No.14は、酸洗温度が低いと共に、酸洗時間が短すぎ、また鉄系プレめっき付着量が多すぎる例である。その結果、内部酸化物も厚くなり過ぎており、まためっき層中にΓ層が形成されていた。その結果、めっき剥離が生じて耐パウダリング性が低下した。
【0079】
No.11、12は、熱延後の巻き取り温度が低く、且つ熱延後の焼鈍を省略して酸洗を行なわなかった例である。巻き取り温度が低いために所望の内部酸化物が形成されていないと思料される。
【0080】
このうち、No.11では鉄系プレめっき量を適切にコントロールしたため、Γ層は形成されなかったが、めっき剥離が生じて耐パウダリング性が低下した。
【0081】
No.12は鉄系プレめっき付着量が多すぎる例であり、めっき層中にΓ層が形成されていた。その結果、めっき剥離が生じて耐パウダリング性が低下した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:1.0〜3.0%(質量%の意味。以下化学成分について同じ。)を満足する素地鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
上記化学成分組成を満足する鋼を熱間圧延した後、600〜800℃で巻取りを行い、70〜90℃で10秒以上酸洗を行なった後、片面あたり付着量3〜8g/mの鉄系プレめっきを施すことを特徴とするめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、さらに、C:0.03〜0.30%、及びMn:1.0〜3.0%を含有する請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板は、さらに、Ti:0.003〜1.0%、および/またはAl:0.01〜0.30%を含有する請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−214102(P2011−214102A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84481(P2010−84481)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】